以下、添付図面を参照して本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。以下に説明する実施形態では、記録ヘッドからインク滴を吐出して記録を行うインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。本実施形態では、記録媒体の幅方向の全域に亘って延在する記録ヘッドが搭載されたフルラインタイプのインクジェット記録装置が用いられている。
図1に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の斜視図を示す。また図2に、インクジェット記録装置の断面図を示す。図示されるように、インクジェット記録装置1は、記録部4に配置された記録ヘッド2(図示例では複数)を備えている。記録ヘッド2には、インクを吐出するための吐出口が複数形成されている。記録ヘッド2から支持面に支持された記録媒体3上にインクを吐出させて、記録媒体3上に画像を形成する。
インクジェット記録装置1は、記録媒体の搬送経路の最上流に、記録媒体3がロール状態でセットされて収められた給紙部18を有している。また、インクジェット記録装置1には、記録媒体3を所定速度で搬送するための搬送機構が設けられている。給紙部18から給紙された記録媒体3が、搬送経路に沿って搬送されながら、記録部4で記録ヘッド2から記録媒体3へインクが吐出されて記録が行われる。また、インクジェット記録装置1は、記録部4よりも下流側の位置に、ロール紙である記録媒体3を所定の長さに切断するカッター部15を備えている。また、インクジェット記録装置1は、カッター部15よりも下流側の位置に、記録の行われた記録媒体3を乾燥させるための乾燥部16を備えている。インクジェット記録装置1における記録媒体3の搬送される方向に沿って最も下流側の位置には、排紙部17が配置されている。
記録部4の上流側には蒸気供給ユニット(蒸気供給手段)5が配置されている。蒸気供給ユニット5の内部には、供給ダクト9が配置されている。供給ダクト9は、蒸気供給ユニット5における吸気口から供給口10まで、取り入れた空気を蒸気として記録ヘッド2における吐出口の周囲に供給するように、記録ヘッド2付近まで延びている。供給ダクト9における供給口10は記録ヘッド2と記録媒体3の間に設けられた隙間に向けられている。また、供給ダクト9の内部には、供給フィルタ24、供給ファン8及び蒸気発生部7が設けられている。吸気口から取り入れられた空気は、供給フィルタ24で、空気内に混入されているゴミ等が除去される。また、蒸気発生部7で、取り入れられた空気に水が送り込まれると共に空気が加熱され、そこで蒸気が生成される。また、供給口10と記録ヘッド2のノズル面近傍には湿度を計測するための湿度センサー(不図示)が配置されている。ここで生成された蒸気が、後述するように、記録ヘッドに形成された吐出口の周囲に供給される。
また、記録部4の下流側には、蒸気回収ユニット6が配置されている。蒸気回収ユニット6の内部には、蒸気を排出するための排気ダクト12が配置されている。排気ダクト12の吸引口11は、記録ヘッド2と記録媒体3との間を通過する蒸気を回収するために、それらの間の隙間を向いて配置されている。排気ダクト12内には、吸引ファン13及び吸引フィルタ14が配置されている。吸引ファン13の駆動により、蒸気供給ユニット5によって供給されている蒸気が吸引口11から吸引されて、排気ダクト12内部に回収される。排気ダクト12内部に取り入れられた蒸気は、排気ダクト12を通過し、その後、排気フィルタ14で、記録動作中に発生して蒸気に混ざったインクミストが回収される。インクミストが回収された蒸気は、蒸気回収ユニット6の排気口から排出される。
記録部4で、記録ヘッド2による記録動作が行われると、記録された記録媒体3は、カッター部15に搬送される。ロール紙である記録媒体3がカッター部15で所定長さにカットされると、記録媒体3は乾燥部16に搬送され、乾燥部16で記録媒体3に温風が吹き付けられ、記録媒体3上に着弾したインク滴の乾燥が行われる。乾燥部16における記録媒体3の搬送経路の下部には、温風を生成するためのヒーター21が配置されている。乾燥部16における乾燥処理が行われると、記録媒体3を乾燥部16の出口19から排出させ、記録媒体3が排紙部17に排紙される。排紙部17では、記録媒体3が順次排紙され、それぞれの記録媒体が積み重ねられて積載される。
また、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド2に対してインクを供給するインクタンク部20を備えている。インクタンク部20から図示しないチューブ等を介して記録ヘッド2にインクを供給する。さらに、インクジェット記録装置1には、装置内の駆動部(不図示)や記録ヘッド2、あるいは乾燥部16で温風を生成するためのヒーター21などといった部位に電気エネルギーを供給するための電源ユニット22が設けられている。
図3に、記録部4と、記録部4に隣接して配置された蒸気供給ユニット5及び蒸気回収ユニット6についての構成を示した斜視図を示す。記録部4は、筐体枠107により略閉空間に構成されている。記録ヘッド2は、ホルダ106に取り付けられている。ホルダ106が移動することで、ホルダ106に保持された記録ヘッド2が移動する。ホルダ106は、記録動作を行う位置以外に、予備吐出を行うための所定の位置、吐出口形成面をワイピングするための所定の位置、非記録時にノズル面の乾燥を抑制するためにキャッピングを行う所定の位置等に記録ヘッド2を移動させることができる。ホルダ106が鉛直方向に沿って移動することにより、記録ヘッド2が、鉛直方向に沿って移動することができる。記録ヘッド2は、記録媒体の記録面から離間する方向(鉛直方向)に移動する。また、記録ヘッド2が鉛直方向に移動することで、記録ヘッド2と記録媒体との間の距離を変更することができる。
記録ヘッド2の記録可能な部分の幅方向への長さと、搬送紙の最大幅の長さとの違いにより、記録ヘッド2には使用頻度の高い吐出口と使用頻度の少ない吐出口とが生じる。この吐出の頻度の差によるそれぞれの吐出口の間の吐出回数の偏りを平均化するために、ホルダ106は記録ヘッド2を記録媒体の幅方向に移動させることができる。すなわち、記録ヘッド2は、記録媒体の搬送方向に対して交差する方向(記録媒体の幅方向X)に移動することができる。ホルダ106は、取り付け部108によって、ベルト104に固定されている。従って、パルスモータ103を駆動させることにより、ベルト104に取り付けられたプーリー105を駆動させ、ホルダ106を移動させている。記録時には、記録ヘッド2に形成されている複数の吐出口によるインク滴の吐出回数が平均化されるように、記録ヘッド2の位置が制御される。その際には、図示しない外部情報端末から記録媒体のサイズと、累積された記録ヘッド2のノズル吐出回数の情報を含むデータから、パルスモータ103の駆動が制御される。パルスモータ103が制御されることによって、ホルダ106が、それぞれの吐出口からの吐出回数が平均化されるように適した位置に移動し、そこで固定される。
図4に、記録が行われる際の位置に記録ヘッド2が配置されているときのインクジェット記録措置1の断面図を示す。また、図5に、クリーニング動作を行っているときのインクジェット記録装置1の断面図を示す。インクジェット記録装置1は、記録可能な複数のインク色にそれぞれ対応した複数の記録ヘッド2を備え、本実施形態ではCMYKの4色に対応した4つの記録ヘッド2を有している。なお、インクジェット記録装置1によって記録可能な色数は、これに限定されない。各色のインクは、インクタンク部20からそれぞれインク流路を介して記録ヘッド2に供給される。
キャップユニット6は、複数の記録ヘッド2に対応して複数のキャップ9を有する。本実施形態では、4つの記録ヘッド2に対応して、4つのキャップ9を有している。キャップユニット6は、4つのクリーニング機構9が一体となったユニットを有し、ユニットの状態でスライド移動可能な構成となっている。それぞれのキャップ9は、インクジェット記録装置1が使用されないときに吐出口を密閉し、吐出口周辺のインクの増粘を少なく抑えることができる。
図4に示すように、記録の行われている際には、キャップユニット6は、記録部4よりも記録媒体の搬送方向の下流側に位置している。また、図5に示すように、インクジェット記録装置1における吐出口のキャッピング時の状態には、キャップユニット6は、記録部4の記録ヘッド2の直下に位置している。図4及び図5には、キャップユニット6の移動可能な範囲が示されている。
図6に、インクジェット記録装置1における記録部4の構成についての平面図を示す。図6に示すように、インクジェット記録装置1の記録部4における中央部付近に記録ヘッド2が取り付けられている。記録ヘッド2によって記録が行われる記録媒体3は、インクジェット記録装置1の略中央部に設けられた搬送経路を通過して搬送される。本実施形態では、記録ヘッド2の長さは12インチである。なお、記録媒体の幅については特に限定されず、この記録ヘッド幅に記録画像を収めて記録を行うことが可能であれば、どのような幅の記録媒体が用いられても良い。
図7は、記録ヘッド2と、記録媒体を示す平面図である。図7には、記録ヘッド2を上面から見たときの、ベースプレート31に配列されたそれぞれのチップ32が示されている。それぞれのチップ32には複数の吐出口が形成されており、この吐出口からインクが吐出される。
また、図示されていないが、記録媒体を支持する支持面における記録ヘッド2に対応した位置には、記録媒体の幅方向に沿って記録媒体よりも長く形成されたインク受けが形成されている。インク受けは、後述する予備吐出が行われる際に、吐出されたインクを受け、一旦内部にインクを収容することが可能である。
次に、図8を参照してインク流路の構成について説明する。交換可能なインクカートリッジとしてのインクタンク部20は、大気と連通する大気連通口112を備えている。インクタンク部20には、インク供給ポンプ113を介してインク流路114の一端が接続されている。インク流路114の他端はサブタンク115に接続されている。インク供給ポンプ113を駆動させることで、インクタンク部20からサブタンク115へインクを供給することができる。
サブタンク115は、大気と連通する大気連通口116を備えている。サブタンク115には、インク流路117及びインク流路121が接続されている。インク流路117は、逆止弁118、第1のインク循環ポンプ119を介してインク流路120に接続されている。逆止弁118は、インク流路117においてサブタンク115側から記録ヘッド2の第1のインク流入出口151側に向かう方向へのみインクを流すことができる。インク流路120は、記録ヘッド2の第1のインク流入出口151に接続されている。第1のインク循環ポンプ119は、インク流路117及びインク流路120の中で最も高い位置に配置されている。
インク流路121は、逆止弁122、第2のインク循環ポンプ123を介してインク流路124に接続されている。逆止弁122はサブタンク115側から記録ヘッド2の第2のインク流入出口152側に向かう方向へのみインクを流すことができる。インク流路124は、記録ヘッド2の第2のインク流入出口152に接続されている。第2のインク循環ポンプ123は、インク流路121及びインク流路124の中で最も高い位置に配置されている。
サブタンク115の底部からはインク流路126が延びており、インク流路126には、開閉弁125が設けられている。インク流路126は、さらに第1のインク循環ポンプ119と記録ヘッド2の間でインク流路120に接続されている。さらにサブタンク115には、一端がバッファタンク127の底部に接続されたインク流路128が接続されている。
インク流路117の第1のインク循環ポンプ119と逆止弁118の間で、インク流路117が、インク循環ポンプ119に向かうインク流路と、バッファタンク127に接続されるインク流路129とに分岐している。インク流路129における第1のインク循環ポンプ119に近接した位置には、第1のインク循環ポンプ119側からバッファタンク127側に向かう方向へのみインクを通すことができる逆止弁130が設けられている。インク流路121における第2のインク循環ポンプ123と逆止弁122の間では、インク流路121が、インク循環ポンプ123に向かうインク流路と、バッファタンク127に接続されるインク流路131とに分岐している。また、インク流路131における第2のインク循環ポンプ123に近接した位置には、第2のインク循環ポンプ123側からバッファタンク127側へ向かう方向にのみインクを通すことができる逆止弁132が設けられている。
バッファタンク127は、内部の空間と大気とが連通するように、大気連通口133を備えている。バッファタンク127は、インク流路128、129、131の中で最も高い位置に配置されている。また、バッファタンク127は、サブタンク115よりも高い位置に配置されている。よってバッファタンク127に還流してきたインクは、底部に接続されたインク流路128を通ってサブタンク115に自重で流れて行く構成となっている。
第1のインク循環ポンプ119、第2のインク循環ポンプ123は、本実施形態ではチューブポンプが使用され、ポンプの回転方向を変えることでインクの流れ方向を変えることができる構成となっている。また、チューブポンプは、停止時に、接続されているインク流路を閉塞できる構成となっている。ポンプの構成としては、チューブポンプに限る必要は無い。インクの流れ方向を変えることができ、かつインクの流れを停止させることができる機構を有しているのであれば、他のどんな構成のポンプであっても構わない。インク供給ポンプ113は、少なくとも一方方向にインクを流すことができればよい。
図9に、インクジェット記録装置1に用いられる制御系のブロック図を示す。インクジェット記録装置1における制御を司る制御部(CPU:Central Processing Unit)62は、受信バッファ61を介してホストコンピュータ60に接続されている。また、CPU62は、メモリ部63に接続されている。記録が行われる際には、記録すべき文字や画像のデータが、ホストコンピュータ60からインクジェット記録装置1の受信バッファ61へ入力され、CPU62に送信される。また、正しくデータが転送されているかなどを確認するデータや、インクジェット記録装置1の動作状態を知らせるデータが、インクジェット記録装置1におけるCPU62から受信バッファ61を介してホストコンピュータ60へ出力される。
受信バッファ61に送られた各種のデータは、CPU62の管理のもとでメモリ部63に転送され、メモリ部63内部のRAM(ランダムアクセスメモリ)に一時的に記憶される。
パルスモータドライバ64は、CPU62からの指令によりパルスモータ103を駆動させ、ホルダ106を移動させることで記録ヘッド2を移動させる。また、CPU62からの指令に基づいて、キャップ、ワイパ等の機構部(メカ部)65を駆動させる。搬送モータドライバ66は、CPU62からの指令により、記録媒体3を搬送する搬送モータ66を制御する。また、インク循環モータドライバ70は、CPU62からの指令により、インク供給ポンプ113、第1のインク循環ポンプ119、第2のインク循環ポンプ123等を駆動させるインク供給用モータ71を制御する。このように、インク供給用モータ71には、循環ポンプや開閉弁を駆動させるインク循環モータが含まれる。また、CPU62からの指令に応じて、加湿モータドライバ68が、加湿モータ69を駆動させる。加湿モータ69を駆動させることで、供給ファン8及び蒸気発生部7を駆動させ、蒸気供給ユニット5で蒸気を生成し、記録ヘッド2と記録媒体との間の領域にその蒸気を送り込む。
また、CPU62からの指令に応じて、記録ヘッド2がインクの吐出を行う。本実施形態では、記録ヘッド2の内部には、インク液滴を吐出するための発熱素子と、それを制御するための電気回路と、駆動素子とが集積されたシリコン基板であるヒーターボード(素子基板)が配されている。このヒーターボード上には、記録ヘッド1の温度を検出する記録ヘッド温度検出センサが配されている。この検出センサには、ダイオードの出力電圧の温度特性を利用するもの、または電気的な抵抗体の抵抗値の温度特性を用いたものなどを用いることができる。記録ヘッド2からのインクの吐出は、CPU62からの駆動制御信号によって記録素子としての発熱素子が駆動されることによって行われる。発熱素子が通電されて、その発熱素子から熱エネルギーを発生させることにより、記録ヘッド2におけるインク流路内のインクが加熱されて膜沸騰により発泡し、そのときの発泡エネルギーによって吐出口からインク滴が吐出される。また、本実施形態では、CPUからの指令に応じて、記録ヘッド2から記録に関与しないインク滴が吐出される予備吐出が行われる。なお、本実施形態の記録ヘッド2は発熱素子により膜沸騰を発生させて発泡させインク滴を吐出する方式としたが、本発明はこれに限定されない。圧電素子を変形させ、これによって記録ヘッド内部の液体を吐出する形式の記録ヘッドが記録装置に適用されても良く、また、他の形式の記録ヘッドが本発明の記録装置に適用されても良い。
次に、本実施形態のインクジェット記録装置における一連の記録動作について説明する。図10に、本実施形態のインクジェット記録装置による記録動作が行われる際のフローチャートを示す。本実施形態では、記録が行われる前の段階で、予備吐出が行われる。
S11で、オペレーターからの記録命令を受けて記録動作を開始する。このとき、パルスモータドライバ64によってパルスモータ103を駆動させ、記録ヘッド2をキャップに当接したキャップポジションから記録の行われる記録ポジションへと移動させる。このとき、キャップ及びワイパ等の機構部65も駆動される。
S12で、加湿モータドライバ68によって加湿モータ69が制御されて、記録ヘッド2と記録媒体との間の領域に向けて、蒸気供給ユニット5によって生成された蒸気が送り込まれる。これにより、記録ヘッド2に形成された吐出口の周囲における湿度が高められ、吐出口の周囲の加湿が開始される。記録ヘッド2と記録媒体との間の湿度が高められるので、比較的長期間に亘って使用されないままの状態が続いた吐出口があったとしても、吐出口の周囲のインクの増粘を少なく抑えることができる。
しかしながら、記録ヘッド2と記録媒体との間の領域に蒸気が送り込まれても、そこでの湿度の分布が記録ヘッド2の長手方向の全体に亘って均一にならない可能性がある。記録ヘッド2と記録媒体との間に蒸気が送り込まれると、そこを通過する記録媒体が蒸気に含まれる水分を吸着する。このときの水分を多く含んだ記録媒体が記録ヘッド2に対応した位置に搬送されることで、記録媒体に含まれた水分が記録ヘッド2の周囲に供給される。このため、記録ヘッド2の周辺では、記録媒体の通過する領域に対応した位置で湿度が上昇するが、記録媒体の通過しない領域に対応した位置では湿度は上昇しない場合がある。記録媒体が通過し、湿度が上昇する位置では、記録ヘッド2に形成された吐出口に十分に水分が供給されて、吐出口周辺のインクでの増粘が少なく抑えられる。これに対して、記録媒体の通過しない領域では、記録ヘッド2の周辺における湿度が上昇しないので、吐出口の周辺に供給される水分が不足し、吐出口周辺のインクで増粘が進む可能性がある。
このため、本実施形態では、記録媒体を支持する支持面に、インクを収容することが可能なインク受け(インク溜り形成手段)が形成されている。そして、記録媒体が通過しない部分の周辺のインク受けに予備吐出を行うことで、インク受けにインク溜りを形成する。インク溜りの内部に一旦収容されたインクは、そこで蒸発する。インクに含まれた水分は吐出口に供給され、インク溜りにおけるインクの吐出された部分の周辺の吐出口で、その吐出口の周囲の湿度が上昇する。
本実施形態では、記録が行われる前に、S13で、インク受けに対して記録に関与しないインク滴を吐出する予備吐出が行われる。このとき、記録ヘッド2は、記録媒体の端部に最も近接した位置に対応する吐出口を含む領域の1024個の吐出口からインク受けに対してインク滴を吐出して予備吐出を行う。
図11に、記録ヘッド2において予備吐出の行われる吐出口の形成された領域と、記録媒体の通過する領域との間の関係について説明するための説明図を示す。実際には記録ヘッド2の真下の位置にインク受けが形成されているので、インク受けは図面には表されないが、図11では、説明のためにインク受けを記録ヘッド2から記録媒体の搬送方向にずらした状態で図示する。図11に示すように、記録媒体を支持する支持面に、記録ヘッド2の延びる方向に沿ってインク受け(インク溜り形成手段)33が形成されている。インク受け33は、記録媒体を支持する支持面36に形成された溝であっても良い。また、記録媒体の支持面36に凹部が形成され、その凹部の内部にインクを吸収する吸収体が配置されて形成されても良い。
予備吐出によって吐出されたインク滴は、インク受け33の内部に溜まり、インク溜り34が形成される。このインク溜り34から水分の蒸発が起こって、インク受け33における予備吐出で吐出されたインクによるインク溜り34の周辺の領域での湿度が高くなる。すなわち、予備吐出によってインク受け33の内部に溜められたインク溜り34から、インク溜り34の周辺の吐出口に対し、水分が供給されることになる。これにより、インク溜り34の形成された部分の周辺の吐出口で、インクの増粘を少なく抑えることができる。つまり、記録ヘッド2に形成された吐出口のうち、記録媒体の通過する領域よりも外側に形成された吐出口についても、吐出口周辺のインクの増粘を少なく抑えることができる。従って、水分を多く含んだ記録媒体が通過せずに、水分の不足する可能性のある領域に形成された吐出口に水分を供給することができるので、記録ヘッド2の全体に亘って吐出口周辺の湿度の分布をより均一にすることができる。記録媒体の通過する領域よりも外側に形成された吐出口でインクが増粘することを抑えることができるので、その吐出口でインクの吐出量に変化が生じることを抑えることができる。また、インクの増粘によって、インクの着弾精度が低下することを抑えることができる。また、記録素子が駆動されても吐出口からインク滴が吐出されない不吐出が生じることを抑えることができる。
このように、記録媒体の支持面には、記録ヘッド2に形成された吐出口のうち、一部の吐出口の周囲へ、内部に溜められたインクが蒸発することによって水分を供給するためにインクを収容することが可能なインク受け33が設けられている。このときの周囲へ水分の供給される一部の吐出口は、他の吐出口と比べて、比較的周囲の湿度が低いと予測される吐出口である。本実施形態では、周囲の湿度が低いと予測される吐出口は、記録媒体の通過する領域よりも外側に形成されている吐出口のことである。すなわち、本実施形態では、一部の吐出口は、蒸気供給ユニット5によって供給された蒸気に含まれる水分を吸着した記録媒体が通過する領域よりも外側の領域に対応する位置に形成された吐出口である。一部の吐出口では、水分を多く含んだ記録媒体の通過する領域の外側に形成されていることにより、記録媒体の通過する領域の内部に形成されている吐出口に比べて周囲の湿度が低い。そのため、記録媒体の通過する領域の内部に形成された吐出口に比べ、インクの増粘が促進される可能性が高い。
記録の行われる前の段階での予備吐出では、記録媒体の端部に最も近接した位置に対応する吐出口を含む領域の1024個の吐出口によってインクが吐出されて予備吐出が行われている。記録の行われる前の段階では、記録ヘッド2に対応した位置には、記録媒体がまだ到達していない。そのため、このときの予備吐出では、記録媒体の端部よりも内側に位置する吐出口からインクが吐出されても良い。すなわち、記録媒体の端部に最も近接した位置に対応する吐出口を含む領域の1024個の吐出口には、記録媒体の端部よりも内側に位置する吐出口が含まれていても良い。
記録の行われる前の予備吐出が行われると、S14で、記録媒体3を搬送する搬送モータ66が駆動され、記録媒体3の搬送が行われると共に、記録ヘッド2が駆動制御されて画像の記録が行われる。
記録が行われている際に一定の時間が経過すると、S15で、記録の合間に予備吐出を行う記録中予備吐出が行われる。このときの予備吐出では、記録媒体の端部よりも外側の領域のインク受け33に向けてインク吐出が行われる。
図12に、記録の行われている間に行われる予備吐出について、記録ヘッド2において予備吐出を行う吐出口の形成された領域と、記録媒体の通過する領域との間の関係について示した説明図を示す。記録の行われている間は、記録媒体を支持する支持面において、記録ヘッド2に対応した位置に記録媒体が配置されている。そのため、予備吐出を行う際には、記録媒体よりも外側にインクを吐出する必要がある。記録の行われている間に行われる予備吐出では、記録媒体の外側の端部よりもさらに外側の吐出口のみが用いられて予備吐出が行われる。ここでは、記録媒体の外側端部よりも外側に位置する512個の吐出口のみが用いられて予備吐出が行われている。このように、本実施形態では、記録中に行われる予備吐出において、記録前に行われる予備吐出でインクが吐出される領域よりも外側の領域に向けてインクが吐出される。予備吐出によって吐出されたインクは、吐出を行った吐出口に対応した領域に位置するインク受け33に収容される。これによっても予備吐出されたインクはインク受け33に溜まり、インク溜り35が形成され、そこで形成されたインク溜り35からの水分を吐出口周辺に供給することができる。
本実施形態では、インク溜り35の形成される領域よりも外側の領域には、記録ヘッド2と記録媒体との間で浮遊するインクミストの吸引を行うための吸引口が設けられている。記録中には、インク滴の吐出に伴って、インクの主滴と共にインクミストが発生する。記録中に行われる予備吐出では、予備吐出が行われると同時に、記録ヘッド2と記録媒体との間で浮遊するインクミストの回収が行われる。吸引口に連通した空間の室内には、インクミストを効率的に吸引するために、ファン等の負圧形成手段が取り付けられても良い。
記録中に行われる予備吐出としては、記録媒体の外側に行われる予備吐出とは別に、ロール紙である記録媒体3上に記録する記録画像と記録画像の間に行われる画像間予備吐出が行われる。
ここで、画像間予備吐出を行うためには、一旦予備吐出が行われると、次の画像の記録が終了するまで予備吐出を行うことができない。従って、連続する記録画像の間に予備吐出を行うには、一定以上の時間間隔が必要となる。そのため、前回の画像間予備吐出からかなりの時間が経ってしまって予備吐出を行う必要があるにもかかわらず、画像の記録を終了していないために画像間予備吐出を行えない場合がある。これによって一部の吐出口でインク吐出の行われない状態が長く続いた場合、インクの吐出量が変化してしまう可能性がある。また、インクの着弾精度が低下したり、記録素子が駆動されたにもかかわらずインクの吐出が行われない不吐出が生じたりする可能性がある。
そのようなときには、記録画像上にインクを吐出して予備吐出を行う紙面予備吐出の行われる場合がある。紙面予備吐出は、記録画像上にインクを吐出するため、一般的に、予備吐出に用いられるインク色は視認性の低いインク色(例えばY)に限られる。
ホストコンピュータ60から送信された記録データについて、全ての記録画像の記録を終えると、S16で、CPUからの指令によって記録動作を終了させる。また、S17で、CPU60からの指令によって、加湿モータドライバ68は、加湿モータ69を制御して、記録ヘッド2と記録媒体との間の領域への加湿空気の送り込みを停止させる。S18で、キャリッジモータドライバ64は、ラインヘッドキャリッジ、キャップおよびワイパ等の機構部(メカ部)65を駆動して、記録の終了した記録ヘッド2を記録ポジションから移動させる。記録ヘッド2がキャップポジションまで移動すると共に、記録ヘッド2がキャッピングされるようにキャップユニット6を記録ヘッド2に対応した位置まで移動させる。このように、記録ヘッド2及びキャップユニット6が移動し、キャップユニット6による記録ヘッド2のキャッピングが行われて、インクジェット記録装置1における本体動作が終了する。
このように、本実施形態によれば、記録媒体の外側端部よりも外側の領域に対してインク受け33に向けてインクを吐出し、インク受け33の内部にインクを収容する。従って、インク受け33に収容されたインクが蒸発することによって、インクに含まれた水分を、インク受け33内部のインク溜りの周囲の吐出口に供給することができる。これにより、記録媒体の通過する領域の外側に形成されている吐出口に対しても、その周辺に水分を供給することができる。水分が供給されることで、その吐出口周辺の湿度が上昇する。従って、記録ヘッド2内部における、その吐出口周辺に貯留されているインクが乾燥し、増粘することを少なく抑えることができる。インクの増粘を少なく抑えることができるので、そこでインクの吐出量が変化したり、インクの着弾精度が低下したりすることを抑えることができる。また、記録素子が駆動したにもかかわらず、その吐出口からインク滴が吐出されない場合が生じることを抑えることできる。結果的に、記録ヘッドの全体に亘って、インクの吐出をより良好に行うことができ、記録画像の品質を高く維持することができる。
なお、本発明は、先の記録から次の記録で記録媒体の幅が大きくなった場合にも有効である。
また、本実施形態では、インク受け33は、予備吐出の際に吐出されたインクを収容するように形成されている。従って、記録ヘッド2に形成された吐出口のうち比較的湿度の低い吐出口へ水分を供給するためにインク受け33内にインクを吐出する工程を、記録を行う前、あるいは記録中に行われる予備吐出の工程と兼ねることができる。従って、比較的湿度の低い吐出口へ水分を供給するためにインク受け33内にインクを吐出する工程のために、特別に時間を設定する必要がない。そのため、インク受け33内にインクを吐出するためにかかる時間を短縮化させることができ、結果的に記録のスループットを向上させることができる。
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、「記録」とは、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。「インク」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体も表すものとする。
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。