JP5801727B2 - ペルオキソ錯体 - Google Patents
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Description
これまで、 ヘテロ原子を中心としμ−η1:η2−O2部位を有する[PO4{WO(O2)2}4]3−等のペルオキソタングステートが種々の酸化反応に活性を示すことが明らかとなっている。また、[PPh4][WO(O2)2(C9H6ON)2]等の有機配位子を有する錯体も酸化反応に高い活性を示すことが近年明らかとなったが、これには酸や塩基の添加が必要である。一方で、ヘテロ原子や有機配位子を有しない[{WO(O2)2}2(μ−η1:η1−O2)]2−や[W4O6(O2)6(OH)2(H2O)2]2−といったペルオキソタングステートの酸化活性はほとんどなく、ヘテロ原子や有機配位子を有さず酸化反応に高い活性を示すペルオキソタングステート触媒はまだ知られていない。
また特許文献1においては、Si、P、As、S等の元素を有するタングステンペルオキソ化合物における課題を解決するものであるが、セレン元素(Se)又はテルル元素(Te)が含まれることから、これらの元素を有しない分子構造とするための工夫の余地があった。
これら単核及び複核ペルオキソ錯体は、ヘテロ原子や有機配位子、特殊な元素を有さずに酸化反応に高い活性を示す新規なペルオキソ錯体として有用であり、これらによって上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
本明細書においては、上記本発明の第1の態様を単に「単核ペルオキソ錯体」ともいう。
本明細書においては、上記本発明の第2の態様を単に「複核ペルオキソ錯体」ともいう。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
また上記複核ペルオキソ錯体の好ましい形態は、複数の中心原子のそれぞれに2つのペルオキソ基がそれぞれ二座配位子として配位した構造を有し、該中心原子のそれぞれに2つの酸素原子及び1つのμ−O(中心原子どうしを結合する酸素原子)が配位した構造となる形態である。この複核ペルオキソ錯体において、中心原子のそれぞれに配位する2つの酸素原子のうちの1つは、隣接する中心原子に配位しているペルオキソ基が有する2つの酸素原子のうちの1つである。
なお、本発明において、ある原子が中心原子に配位しているという場合、配位結合を形成していることが好ましいが、共有結合、イオン結合、分子間力による結合等であってもよく、ある原子が中心原子と何らかの化学的結合力によって結びつき、中心原子に配位していると認められればよい。
[XO(O2)2(H2O)Y]− (1)
[XO(O2)2Y]2− (2)
[{XO(O2)2}4(μ−O)2]4− (3)
〔{XO(O2)2}4(μ−O)2〕8− (4)
上記一般式中、Xは、中心原子を表す。複核ペルオキソ錯体の場合、複数あるXは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは、ハロゲン原子を表す。
A[XO(O2)2(H2O)Y] (1’)
An[XO(O2)2Y] (2’)
An[{XO(O2)2}4(μ−O)2] (3’)
An〔{XO(O2)2}4(μ−O)2〕 (4’)
上記一般式中、X、Yは、上記と同様である。Aは、カチオンを表す。nは、1〜8の数を表す。Aが複数ある場合、Aは同一であってもよく、異なっていてもよい。
なお、上記族番号は、旧族番号で表すと、第5A族(VA)、第6A族(VIA)となる。
上記第5族及び第6族に属する遷移金属元素としては、例えば、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられ、その他にも、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)等が挙げられる。
また、上記各一般式において、一般式(1)、(3)、(1’)、(3’)は、Xが第6族から選択される遷移金属元素(モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)等)の場合であり、一般式(2)、(4)、(2’)、(4’)は、Xが第5族から選択される遷移金属元素(バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等)の場合である。
本発明においては、いずれの元素を選択しても、同族元素は同様の化学特性をもつことから、その効果に差異はあるが同様の触媒作用を発揮するといえる。族番号が違うものであっても、族番号が隣接すること、また、すべて遷移金属元素としての特性を有することから、後述する実施例において触媒としての作用が証明された実施形態以外の形態であっても、その効果に差異はあるが同様の触媒作用を発揮するといえる。
上記中心原子の最も好ましい形態は、タングステンである。この場合、単核ペルオキソ錯体の場合、1つの中心原子がタングステンである形態となるが、複核ペルオキソ錯体の場合、複数ある中心原子のすべてがタングステンである形態である。これらタングステンを中心原子とする形態は、酸化触媒としての活性をより高くすることができる。
また、ハロゲン原子原料としては、例えば、フッ化水素、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、好ましくは塩酸である。
上記四級有機基含有アンモニウムカチオンにおける4個の有機基は、全て同じでも各々異なっていてもよく、全て同じアルキル基であることが好ましい。当該有機基としては、好ましくは炭素数1〜12であり、より好ましくは炭素数1〜10であり、更に好ましくは直鎖状の炭素数1〜8である。すなわち、四級有機基含有アンモニウムカチオンとしては、炭素数4〜48のものが好ましく、より好ましくは炭素数4〜40のものである。
上記四級有機基含有アンモニウムカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、トリオクチルメチルアンモニウムカチオン、トリラウリルメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリブチルアンモニウムカチオン、セチルピリジニウムカチオン等が挙げられる。これらの中でも、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラ−n−プロピルアンモニウムカチオン、テトラ−n−ブチルアンモニウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリブチルアンモニウムカチオンが好ましい。より好ましくは、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラ−n−ブチルアンモニウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオンである。
なお、有機配位子を用いない単核ジペルオキソタングステートの報告例はこれまでに無い。したがって、単核ジペルオキソタングステートであって、有機配位子を有しないとだけで特定される化合物も、新規化合物であるといえる。
またカチオンを有する場合の好ましい形態としては、単核ペルオキソ錯体としては、(TPA)[WO(O2)2(H2O)Cl](TPA=[(n−C3H7)4N]+)、(TBA)[WO(O2)2(H2O)Cl](TBA=[(n−C4H9)4N]+)、(THA)[WO(O2)2(H2O)Cl](THA=[(n−C6H13)4N]+)、(CP)[WO(O2)2(H2O)Cl](CP=セチルピリジニウム)等を、複核ペルオキソ錯体としては、(TPA)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]、(TBA)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]、(THA)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]、(CP)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]等を挙げることができる。
また中心原子をタングステンとした形態の立体構造(アニオン構造)は、それぞれ図3、図4のようになる。これらは、後述する実施例において合成されたペルオキソ錯体である。
本発明の単核ペルオキソ錯体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記中心原子を有する原料、ハロゲン原子原料及びカチオン原料を用いて、単核ペルオキソ錯体を製造することができる。単離することなく系中で調製することも可能である。
上記ハロゲン原子原料の使用量は、製造・収率・精製・経済の点から、上記中心原子を有する原料100質量部に対して、好ましくは0.001〜100000質量部であり、より好ましくは0.01〜50000質量部である。
上記カチオン原料の使用量は、製造・収率・精製・経済の点から、上記中心原子を有する原料100質量部に対して、好ましくは0.001〜100000質量部であり、より好ましくは0.01〜50000質量部である。
上記カチオン原料の使用量は、製造・収率・精製・経済の点から、上記中心原子を有する原料100質量部に対して、好ましくは0.001〜100000質量部であり、より好ましくは0.01〜50000質量部である。
タングステン酸と塩酸を過酸化水素水溶液に加え、撹拌する。次に、得られた溶液を濾別して不溶物を除き、テトラ−n−プロピルアンモニウムクロライドを加えて撹拌する。生成した沈殿物を濾別し、水とジエチルエーテルで洗浄する。得られた白色沈殿物を乾燥後、アセトニトリルに溶解させ、そのアセトニトリル溶液へエーテルを蒸気拡散させて、上記化合物(I)を得る。
アセトニトリルと過酸化水素水溶液を混合し、撹拌する。この溶液中で、上記のようにして得られた化合物(I)と硝酸銀を反応させる。エーテルを混合後、エーテルを蒸気拡散させ、無色四角板状結晶の化合物(II)を得る。
上記溶媒の使用量としては、製造・収率・精製・経済・安全の点から、上記中心原子を有する原料100質量部に対して、好ましくは0.0001〜1000000質量部であり、より好ましくは0.001〜500000質量部である。
反応時間としては、収率・経済・安全の点から、好ましくは0.1〜72時間であり、より好ましくは0.5〜60時間である。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の炭素数1〜6の第一、二、三級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ニトロメタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。有機溶媒としては、一種又は二種以上用いることができる。
種々の酸化触媒の中でも、本発明のペルオキソ錯体は、上述したようにアルケンのエポキシ化反応触媒として用いられることが好ましい。エポキシ化反応は、工業有機化学における基本的な反応の一つであり、該エポキシ化反応によって得られるエポキシ化合物は、種々の工業化学用途において有用な化合物である。
タングステン酸(H2WO4、1.7mmol)と12M塩酸(20mmol)を15%過酸化水素水(42mmol)に加え、この過酸化水素溶液に、テトラ−n−プロピルアンモニウムクロライド(TPA・Cl、30mmol)を加えて粗生成物を得た。そのアセトニトリル溶液へ0℃でエーテルを蒸気拡散させることで、化合物(I)を合成した。
化合物(I)と過酸化水素を含むアセトニトリル溶液へエーテルを加え、更にエーテル蒸気を拡散させることにより、X線構造解析に適した無色四角板状結晶を得た。化合物(I)のアニオン構造を図3に示した。アニオンは7配位のpentagonal bipyramidal構造を有しており、2つのペルオキソ配位子とCl配位子がエクアトリアル位に位置している。アキシアル位に位置するO1、O6のBVS値はそれぞれ0.28、1.90であり、それぞれアコ、オキソと推定した。
元素分析から、化合物(I)にはClが存在し、TPA:W:Cl=1:1:1であった。ペルオキソ配位子に帰属されるバンドが、IRスペクトル(851、837、643、554cm−1)及びラマンスペクトル(860、648、563cm−1)に確認できた(図5及び図6の(a))。アコ配位子のν(O−H)に由来するIR吸収バンドが3636cm−1に確認された。ν(W−Cl)に帰属されるバンドがIRスペクトル、ラマンスペクトルでそれぞれ336cm−1、319cm−1に確認された。これらの結果は結晶構造と一致した。
化合物(I)によるトリフェニルホスフィンの量論酸化反応では、2当量のトリフェニルホスフィンオキシドが生成し、化合物(I)に2当量のペルオキソが存在することと一致した。
化合物(I)の183W−NMRスペクトルでは−407.3ppm(Δν1/2=4.4Hz)に単一シグナルが確認できた(図10の(a))。また、ポジティブイオンCSI−MSスペクトルでは、[(TPA)2WO(O2)2Cl]+が確認でき、溶存状態で安定であった(図11)。
化合物(I)の結晶データを表1に示す。その他、分析結果を以下に示す。UV/Vis(CH3CN) λmax(ε)269.0nm(1270(mol of W)−1dm3cm−1); IR(KCl):3636、1174,1039,975,875,851,837,755,643,554,336,323cm−1; ラマン:v=1146,1133,1046,985,944,930,881,860,783,762,648,621,563,378,319cm−1; MS(+)(CSI,CH3CN):m/z:672 [(TPA)2WO(O2)2Cl]; 元素分析 calcd(%)for C12H30Cl1N1O6W1((TPA)[WO(O2)2(H2O)Cl]): C28.62,H6.00,N2.78,Cl7.04,W36.50; found:C28.54,H6.10,N2.79,Cl7.17,W36.74。
アセトニトリル(5mL)に30%過酸化水素水(0.5mL)を加え、この過酸化水素水溶液の混合液中で、上記実施例1で得られた化合物(I)(1.0mmol)と硝酸銀(1.0mmol)を反応させた。当該反応液に、エーテルを混合後、更にエーテルを蒸気拡散させることにより、X線構造解析に適した無色四角板状結晶の化合物(II)を得た。
化合物(II)のアニオン(図4)は2つの[{WO(O2)2}2(μ−O)]2−ユニットから構成されている。二核ペルオキソタングステート[{WO(O2)2}2(μ−O)]2−及び[{WO(O2)2}2(μ−O2)]2−ではユニット内でペルオキソがタングステンを架橋している。それとは異なり、化合物(II)では、ペルオキソがユニット間でタングステンを架橋している。結晶構造中にTPAは3つ確認でき、元素分析もTPA:W=3:4であったことから、分子式は(TPA)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]と推定した。O21、O22のBVS値はそれぞれ1.77、1.55となったことから、O21とO22の間にH+が存在し、水素結合していると考えられた。また、化合物(II)のアニオン構造(O21とO22の間にH+が存在する構造[{WO(O2)2}4(μ−O)2H]3−(A)とO21とO22の間にH+が存在しない構造[{WO(O2)2}4(μ−O)2]4−(B))の量子計算を行ったところ、Aの計算構造は実験値とよく一致し、結合長の誤差は0.072Å以内であったが、Bの場合の結合長の誤差は0.121Å以内であった。W1−O21−W3、W2−O22−W4の結合角の誤差は、Aの場合は1.90°以内であったが、Bの場合の誤差は16.48°以内であった。これらの結果は、O21とO22の間に水素が存在していることを支持した。(表4〜6)
ペルオキソ配位子に帰属されるバンドが、IRスペクトル(844、573、511cm−1)及びラマンスペクトル(859、580、526cm−1)に確認された(図5と図6の(b))。化合物(II)によりトリフェニルホスフィンを量論酸化すると、トリフェニルホスフィンオキシドが8当量生成した。これは分子内に8当量のペルオキソが存在することと一致した。また、化合物(II)の183W−NMRでは1本のシグナルが−565.6ppm(Δν1/2=1.6Hz)に現れ、溶存状態でタングステン4核構造が保持されていることが示唆された。
化合物(II)の結晶データを表1に示す。その他、分析結果を以下に示す。UV/Vis(CH3CN)λmax(ε)269.0nm(1270(mol of W)−1dm3cm−1); IR(KCl):1038,981,967,844,755,707,670,642,585,573,511,377cm−1; ラマン:v=1136,1105,1036,973,859,580,526,309cm−1; 元素分析 calcd(%)for C36H85N3O22W4((TPA)3H[{WO(O2)2}4(μ−O)2]): C26.25,H5.20,N2.55,W44.64; found:C26.01,H5.31,N2.53,Cl7.17,W44.45。
本化合物はまた、下記の工程で合成することも可能である。
H2WO4(4mmol)を30%過酸化水素水(4mL)に加え、90分間室温で攪拌した。1MのTPAOH溶液(4mL)を加えて攪拌し、得られた固体を濾過した。濾液を2mL程度にまで、減圧下室温で濃縮し、この溶液をジエチルエーテル/イソプロパノール=80/20(mL/mL)に一滴ずつ加えて、得られた固体を濾過してジエチルエーテルで洗浄した。この固体(50mg)をアセトニトリル(0.8mL)に溶かし、293Kで更にエーテル蒸気を拡散させることにより(TPA)2[{WO(O2)2}2(μ−O)]を得た。(TPA)2[{WO(O2)2}2(μ−O)](58μmol)と70%硝酸(100μmol)を、アセトニトリル(0.5mL)に30%過酸化水素水(0.05mL)を溶かした溶液に溶かした。ジエチルエーテル(0.5mL)を加え、277Kで更にエーテル蒸気を拡散させることにより無色四角板状結晶の化合物(II)を得た。
以下のようにして化合物(I)及び化合物(II)の触媒活性を調べた。過酸化水素を酸化剤として化合物(I)を用いてシクロオクテンをエポキシ化したところ、反応はかなりゆっくり進行した。化合物(II)を触媒とした場合にはシクロオクテンは効率的に酸化され、30分で対応するエポキシドが収率98%で得られた(図7)。過酸化水素を酸化剤としたシクロオクテンのエポキシ化反応を行った。量論条件(基質:過酸化水素=1:1)で化合物(II)を用いてシクロオクテンを酸化しても、高収率で対応するエポキシドが得られた(収率86%、反応時間4時間)。
また、検討した種々の溶媒の中ではアセトニトリルが最良であった。
化合物(II)を触媒として用い、以下のようにして、過酸化水素による酸化反応の基質適用性を調べた(表3)。反応は室温で効率的に進行し、環状及び内部アルケンが、対応するエポキシドへ高収率・高選択的に酸化された(表3、エントリー1−8)。分子内に2つのC=C結合をもつジシクロペンタジエンも効率的に酸化され、対応するジエポキシドが高収率・高選択的に得られた。化合物(II)は過剰量のエーテルの添加により回収が可能であった。回収した化合物(II)は大きな活性の低下なく再利用が可能であった。(化合物(II)(20μmol)、シクロオクテン(4mmol)、30%過酸化水素(4mmol)、アセトニトリル(24mL)、6時間の条件で、生成物:収率92%、再利用(1回目):収率88%であった。)
スルフィドも対応するスルホキシドへ選択的に酸化された(エントリー10、11)。2級アミンを2当量の過酸化水素を用いて酸化すると対応するニトロンが高収率・高選択的に得られた(エントリー12)。アニリンを2当量の過酸化水素を用いて酸化すると対応するニトロソベンゼンが高収率・高選択的に得られた(エントリー13)。過剰酸化生成物であるニトロベンゼンはほとんど生成しなかった。トリエチルシランも効率的に対応するシラノールへ酸化された(エントリー14)。
20mmolのシクロオクテンも化合物(II)により効率的に酸化され、対応するエポキシドを収率86%で与えた。このときのTON(ターンオーバー数)は1720に達した。この値は、[(n−C6H13)4N]2[{WO(O2)2}2(μ−O)](600)、Na2WO4/NH2CH2PO3H2/[CH3(n−C8H17)3N]HSO4(490)、PW12O40/C3N2H3(CH2)3SiO3/SiO2(648)等の触媒システムの値よりもかなり大きい。Na2WO4/H2WO4/CH3(n−C8H17)3NCl/ClCH2COOH(1800)及び[WO(O2)(CPHA)2]/NaHCO3(7200;CPHA=N−cinnamyl−N−phenylhydroxamate)の値には及ばないが、これらは有毒な酸や多量の塩基の添加が必要である。
上記実施例2で得られた触媒系の反応速度を調べた。反応速度は化合物(II)、シクロオクテンの濃度に一次に依存し、過酸化水素の濃度には依存しなかった(図7)。これらの結果から、化合物(II)が活性種であり、化合物(II)と基質との反応が律速であることが明らかとなった。
化合物(II)によるシクロオクテンのエポキシ化反応は効率的に進行し、初期TOF(ターンオーバー頻度)は314(時間)−1に達した。この値は[ZO4{WO(O2)2}4]n−(Z=P、As)、[RR’ZO4{WO(O2)2}2]n−(Z=P,Se,As等)、[{WO(O2)2}2(μ−O)]触媒の中で最大である(図8)。これらの触媒の活性は183W−NMRの化学シフトと相関があることが明らかとなっている。化合物(II)についても同様の傾向が確認された(図9)。量子計算で電子密度を比較した。O4のNOBチャージは化合物(II)が最も大きい。これは化合物(II)が強い求電子性を持っていることを示した。
図7:(a)化合物(II)、(b)シクロオクテン、(c)過酸化水素の濃度に対する反応速度の依存を示す。(a)の反応条件:化合物(II)(0.23−1.44mM)、シクロオクテン(0.14M)、過酸化水素(0.14M)、水(0.56M)、アセトニトリル(7mL)、305K、スロープ=1.02(R2=0.99)。(b)の反応条件:化合物(II)(0.36mM)、シクロオクテン(0.04−0.43M)、過酸化水素(0.14M)、水(0.56M)、アセトニトリル(7mL)、305K、スロープ=1.11(R2=0.99)。(c)の反応条件:化合物(II)(0.36mM)、シクロオクテン(0.14M)、過酸化水素(0.04−0.43M)、水(0.56M)、アセトニトリル(7mL)、305K。
図10:(a)化合物(I)(0.57M、CH3CN中、298K)及び(b)化合物(II)(0.061M、CD3CN中、253K)の183W−NMRスペクトルを示す。
図11:化合物(I)のポジティブイオンCSI−MSスペクトル(CH3CN;m/z=500−1500)を示す。化合物(I)(上部)及び[(TPA)2WO(O2)Cl]+の計算されたパターン(下部)のポジティブイオンCSI−MSスペクトル(m/z=660−690)。
表1:化合物(I)と(II)の結晶データ
表2:化合物(I)と(II)における各結合長さ(オングストローム)と角度(°)
表3:化合物(II)を触媒とし、過酸化水素を用いた、様々なアルケンとアミンの酸化
表4:化合物(II)における計算構造と結晶構造の結合長さ(オングストローム)
表5:計算構造のデカルト座標、[{WO(O2)2}4(μ−O)2H]3−
表6:計算構造のデカルト座標、[{WO(O2)2}4(μ−O)2]4−
反応条件:化合物(II)(2.5μmol)、基質(1mmol)、30%過酸化水素(1mmol)、アセトニトリル(6mL)、大気中
[b]:化合物(II)(10μmol)、30%過酸化水素(1.5mmol)
[c]:化合物(II)(5μmol)、30%過酸化水素(1.5mmol)
[d]:化合物(II)(10μmol)
[e]:化合物(II)(20μmol)、30%過酸化水素(1.5mmol)
[f]:化合物(II)(10μmol)、基質(0.5mmol)、30%過酸化水素(1.5mmol)
[g]:化合物(II)(5μmol)、30%過酸化水素(2mmol)
[h]:化合物(II)(20μmol)、基質(5mmol)
[i]:化合物(II)(5μmol)
[j]:化合物(II)(0.6μmol)
なお、上記実施例においては、中心原子がタングステンの形態において実証されているが、第5族及び第6族に属する遷移金属元素から選ばれる場合であれば、これら同族又は近似・隣接した族に属する元素であれば、同様の触媒作用を発揮しうる。すなわち、第5族及び第6族に属する遷移金属元素を中心原子とするペルオキソ錯体とすることにより、該錯体がアルケンのエポキシ化反応に高い触媒活性を示すことになる作用機序は、本発明のペルオキソ錯体を用いた場合にはすべて同様である。
したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
Claims (8)
- 中心原子にペルオキソ基が配位してなるペルオキソ錯体であって、
該中心原子は、周期律表の第5族及び第6族から選択される少なくとも1種の遷移金属元素であり、
該ペルオキソ錯体は、1個の中心原子からなる単核ペルオキソ錯体であり、複数のペルオキソ基が二座配位子として中心原子に配位した構造を有し、更に、ハロゲン原子が中心原子に配位した構造を有する
ことを特徴とするペルオキソ錯体。 - 中心原子にペルオキソ基が配位してなるペルオキソ錯体であって、
該中心原子は、周期律表の第5族及び第6族から選択される少なくとも1種の遷移金属元素であり、
該ペルオキソ錯体は、複数の中心原子からなる複核ペルオキソ錯体であり、複数のペルオキソ基が二座配位子として中心原子に配位した構造を有し、かつ、ペルオキソ基の酸素原子の一つが他の中心原子に配位し、更に、酸素原子のみによって中心原子どうしが結合した構造を有する
ことを特徴とするペルオキソ錯体。 - 前記中心原子は、タングステン及び/又はモリブデンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のペルオキソ錯体。
- 前記中心原子は、タングステンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペルオキソ錯体。
- 前記ペルオキソ錯体は、酸化触媒として用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のペルオキソ錯体。
- 前記ペルオキソ錯体は、アルケンのエポキシ化反応触媒として用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のペルオキソ錯体。
- 2つのペルオキソ基が二座配位子として中心原子に配位した構造を有し、更に、2つの酸素原子及び1つのハロゲン原子が中心原子に配位した構造を有することを特徴とする請求項1に記載のペルオキソ錯体。
- 下記一般式(1)、一般式(2)、一般式(1’)、又は、一般式(2’):
[XO(O 2 ) 2 (H 2 O)Y] − (1)
[XO(O 2 ) 2 Y] 2− (2)
A[XO(O 2 ) 2 (H 2 O)Y] (1’)
A 2 [XO(O 2 ) 2 Y] (2’)
(上記一般式中、Xは、中心原子を表す。Yは、ハロゲン原子を表す。Aは、カチオンを表す。Aが複数ある場合、Aは同一であってもよく、異なっていてもよい。)で表されることを特徴とする請求項1に記載のペルオキソ錯体。
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