以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、ブラシ付きの直流モータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
一方、ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15、及び舵角検出手段としてのステアリングセンサ(操舵角センサ)16が接続されている。そして、ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V及び操舵角θsを検出する。
本実施形態のトルクセンサ14は、そのセンサ素子(14a、14b)に磁気検出素子(ホールIC)を用いた磁気式のトルクセンサである。本実施形態では、コラムシャフト3aの途中、詳しくは、上記EPSアクチュエータ10を構成する減速機構13よりもステアリング2側にトーションバー17が設けられている。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、このトーションバー17の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成されている。
尚、このようなトルクセンサは、例えば、上記特許文献1に記載のように、トーションバー17の捩れに基づき磁束変化が生ずるセンサコア(図示略)の外周に、二つの磁気検出素子(本実施形態ではホールIC)を上記各センサ素子14a、14bとして配置することにより形成することが可能である。
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3のトルク入力によりトーションバー17が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化する。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっている。
また、本実施形態のステアリングセンサ16は、トルクセンサ14よりもステアリング2側において、コラムシャフト3aに固定された回転子18と、該回転子18の回転に伴う磁束変化を検出するセンサ素子(ホールIC)19とを備えた磁気式の回転角センサである。ステアリングセンサ16は、磁束変化に伴い変動するセンサ素子19の出力電圧を、センサ信号θsとしてECU11に出力する。
本実施形態では、トルク検出手段としてのECU11は、このトルクセンサ14、詳しくはその出力要素としての各センサ素子14a、14bが出力する各センサ信号Sa,Sbに基づいて操舵トルクτを検出する。そして、ECU11は、その操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、その駆動源であるモータ12に駆動電力を供給することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路22とを備えている。
詳述すると、本実施形態のマイコン21は、EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24と、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbに基づいて操舵トルクτを検出する操舵トルク検出部25と、を備えている。電流指令値演算部23は、操舵トルク検出部25が検出する操舵トルクτ及び上記車速センサ15が検出する車速Vを用いて、目標アシスト力の基礎成分としてIas*を演算する。操舵トルク検出部25は、トルクセンサ14から出力される二系統のセンサ信号Sa,Sbを用いた補正処理(温度特性等)を行うことで、高精度に、操舵トルクτの検出を行う。
図2に示すように、電流指令値演算部23は、操舵トルクτ及び車速Vが入力し基本アシスト制御量Ias*を生成するアシスト制御部26を備える。アシスト制御部26は、その操舵トルクτ(の絶対値)が大きいほど、又は、その車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力が操舵系に付与されるように、より大きな値(絶対値)を有する基本アシスト制御量Ias*を演算する。尚、本実施形態では、この基礎成分としての基本アシスト制御量Ias*の演算は、車速感応型の三次元マップを用いて行われる。
このように、電流指令値演算部23は、アシスト制御部26が演算する基本アシスト制御量Ias*を、そのパワーアシスト制御における目標アシスト力の基礎成分として、モータ制御信号出力部24に供給する電流指令値I*を演算する。また、モータ制御信号出力部24には、この電流指令値演算部23により演算された電流指令値I*と共に、電流センサ(電流検出器)27により検出されるモータ12の実電流値Iが入力される。そして、本実施形態のモータ制御信号出力部24は、その電流指令値I*に実電流値Iを追従させるべく、電流フィードバック制御の実行により、モータ制御信号を生成する。
本実施形態のECU11では、このようにして生成されたモータ制御信号をマイコン21が駆動回路22に出力する。駆動回路22は、モータ制御信号に基づく駆動電力をモータ12に供給することにより、EPSアクチュエータ10の作動を制御する。これにより、ECU11は、そのパワーアシスト制御を実行する。
(トルクセンサ異常時のアシスト継続制御)
次に、本実施形態のEPSにおけるトルクセンサ異常時のアシスト継続制御について説明する。
図2に示すように、電流指令値演算部23は、基本アシスト制御量Ias*及び操舵角θsから車両の操舵状態を示すFLG信号(本実施形態では、0、1、2のいずれか)を生成するアシスト制御量判定部28と、アシスト制御部28から入力されるFLG信号に基づき瞬発的なモータトルクの基礎成分としての試験トルク制御量Itt*を出力する試験トルク制御部31と、アシスト電流切替部29と、車両が直進状態に移行してからの経過時間Thを計測するタイマ34と、を備える。
試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*を出力する毎に、試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクが印加される旨を示す印加信号Simを異常検出部30に出力する。また、試験トルク制御部31は、アシスト制御量判定部28から入力されるFLG信号に基づいて、アシスト電流切替部29にアシスト電流切替信号Sichを出力すると共に、瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*を加算器33に出力する。尚、試験トルク制御部31が出力する試験トルク制御量Itt*は、当該試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクの印加時、その慣性によりステアリング2がほとんど動かない程度に、一回当たりの出力時間(本実施形態では、1ms)が設定されている。
アシスト電流切替部29は、試験トルク制御部31から出力されるアシスト電流切替信号Sichに基づき接点Pを接点Q又は接点Rのいずれかに切り替えることで、基本アシスト制御量Ias*を切り替える。即ち、アシスト電流切替信号Sichが「1」の場合、アシスト電流切替部29は、接点P,Qを接続し、アシスト制御部26から入力された基本アシスト制御量Ias*をそのまま出力する。また、アシスト電流切替信号Sichが「0」の場合、アシスト電流切替部29は、接点P,Rを接続し、アシスト制御部26から入力された基本アシスト制御量Ias*に代えて「0値」を基本アシスト制御量Ias*として出力する。
また、図2に示すように、マイコン21には、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30が設けられている。ECU11(マイコン21)は、異常検出部30の異常検出に基づいてトルクセンサ14の異常を判定する。そして、制御手段及び異常検出手段としてのECU11は、異常検出部30によって検出されるトルクセンサ14の異常発生モードに応じて、そのパワーアシスト制御を実行する。
詳述すると、図3のフローチャートに示すように、マイコン21は、その異常検出部30において各センサ信号Sa,Sbの異常を検出すると(ステップ101:YES)、その異常検出の結果に基づいて、各センサ信号Sa,Sbの出力要素である各センサ素子14a,14bの故障判定(検出)を実行する(ステップ102)。そして、各センサ素子14a,14bの両方がともに故障したと判定される場合(ステップ103:YES)には、速やかにパワーアシスト制御を停止してフェールセーフを図るべく、そのアシスト力を漸次低減する制御を実行する(アシスト停止制御、ステップ104)。また、試験トルク制御部31は、異常検出部30から入力される異常検出信号Strに基づき、試験トルク制御量Itt*の出力を停止する。
尚、本実施形態では、上記ステップ101における各センサ信号Sa,Sbについての異常検出は、各センサ信号Sa,Sbの値が正常時に取り得る値を逸脱するものであるか否かの判定、並びに、その各値及び単位時間の変化量等の比較判定に基づいて行われる(例えば、上記特許文献2参照)。また、上記ステップ101において、正常な各センサ信号Sa,Sbが検出された場合(ステップ101:NO)、マイコン21は、通常のパワーアシスト制御を実行する(ステップ105)。
また、本実施形態のマイコン21は、上記ステップ103において、各センサ信号Sa,Sbに対応する各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障したと判定される場合(ステップ103:NO)には、その残るセンサ素子が出力するセンサ信号(残存センサ信号)に基づいて操舵トルクτを検出する。そして、その残存センサ信号を用いたパワーアシスト制御を継続する構成となっている(アシスト継続制御、ステップ106)。
図2に示すように、異常検出部30が実行する各センサ信号Sa,Sbの異常検出、及びその対応する各センサ素子14a,14bの故障検出の結果は、異常検出信号Strとして電流指令値演算部23及び操舵トルク検出部25に入力される。そして、電流指令値演算部23は、各センサ信号Sa,Sbに対応する各センサ素子14a,14bの両方がともに故障した旨を示す異常検出信号Strが入力された場合には、その電流指令値I*の出力を停止する。
また、異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合、操舵トルク検出部25は、故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号を用いることにより、その操舵トルクτを検出する。本実施形態のEPS1は、残存センサ信号から検出される操舵トルクτを用いて、電流指令値I*の演算及び出力を続行し、アシスト継続制御を行う。尚、この場合、上記のような二つのセンサ信号Sa,Sbを用いた補完処理は実行されない。
ここで、各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障した場合、残存センサ信号については、当然ながら上記のような他のセンサ信号との比較に基づく異常判定(検出)を行うことができない。そこで、本実施形態のECU11は、アシスト継続制御において、EPS本来の機能であるアシスト力の付与に関連して、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加し、残存センサ信号の異常を検出する。具体的には、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加されると、瞬発的なモータトルクに起因する捩れが操舵系を構成するトーションバー16生じる。本実施形態のECU11は、この瞬発的なモータトルクに起因する捩れが、残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常検出を行う。
即ち、本実施形態のEPS1は、その残存センサ信号の変化を監視することにより、当該残存センサ信号が明らかに異常な値を示す以前の段階で、早期に、その異常を検出することが可能となっている。例えば、図16に示すように、本実施形態のEPS1は、瞬発的なモータトルクを印加するための制御成分として試験トルク制御量Itt*を時点t(l)から所定時間tr(本実施形態では、1ms)出力し、操舵系に瞬発的なモータトルクを印加する。操舵系に瞬発的なモータトルクが印加されると、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(本実施形態では、10ms)後に、瞬発的なモータトルクに起因する捩れがトーションバーに生じる。EPS1は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける操舵トルクτの変化量Δτを測定し、この変化量Δτが所定値(本実施形態では、0.5Nm)以下であることを条件として、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常であると判定する。
本実施形態において、操舵系に対する瞬発的なモータトルクの印加は、車両の操舵状態に応じて大きさ且つその印加方向が変化する。以下に、具体的な車両の操舵状態を仮想し、瞬発的なモータトルクの印加方法を説明する。
図5〜図7は、車両のある操舵状態を仮想した場合における基本アシスト制御量及び操舵角の出力図である。図5〜図7の左縦軸は、基本アシスト制御量Ias*を表し、右縦軸は、操舵角θsを表し、横軸は時間軸を表す。ここで図5〜図7の左縦軸には、+側試験トルク制御量である第1所定電流値Ia1及び−側試験トルク制御量である第2所定電流値−Ia1が設定されている。第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値−Ia1は、瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値であり、車両の系や環境に応じて適宜設定される。また、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値−Ia1は、トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付くと共に、瞬発的なモータトルクの慣性によってステアリング2がほとんど動かない程度の大きさ(本実施形態では、60A)に設定されている。
また、右縦軸には、+側中立位置近傍の第1所定操舵角θsl、+側最大操舵角近傍の第2所定操舵角θsh、+側最大操舵角である第3所定操舵角θsmax、−側中立位置近傍の第4所定操舵角−θsl、−側最大操舵角近傍の第5所定操舵角−θsh、及び−側最大操舵角である第6所定操舵角−θsmaxが設定されている。第1所定操舵角θslおよび第4所定操舵角−θslは、車両が直進走行か否かを判断する基準値である。また第3所定操舵角θsmaxは、ステアリング2の右エンド角であり、第6所定操舵角−θsmaxは、ステアリング2の左エンド角である。第2所定操舵角θshおよび第5所定操舵角−θshは、第3所定操舵角θsmaxおよび第6所定操舵角−θsmaxのそれぞれの近傍に設定される基準値である。
また、図5〜図7の横軸は、車両の操舵状態に応じて複数のゾーン(本実施形態では、ゾーンA〜Fの6種類)に分割される。ゾーンAは、ハンドルを右に操舵した場合の切込み状態、ゾーンBは、ハンドルを右に操舵した場合の切戻し状態、ゾーンCは、ハンドルを中立に戻した直進走行状態、ゾーンDは、ハンドルを左に操舵した場合の切込み状態、ゾーンEは、ハンドルが左エンド一杯まで切込まれた、いわゆるエンド当て状態、そしてゾーンFは、ハンドルを左に操舵した場合の切戻し状態、にそれぞれ対応している。
図5の操舵状態1は、4つのゾーン(ゾーンA、B、D、F)に分割される。操舵状態1では、全操舵領域において、操舵角θsが、第2所定操舵角θsh以下、且つ、第5所定操舵角−θsh以上である。また、全操舵領域において、基本アシスト制御量Ias*が第1所定電流値Ia1以下、且つ、第2所定電流値−Ia1以上である。
図6の操舵状態2は、5つのゾーン(ゾーンA、B、D、E,F)に分割される。操舵状態2では、操舵角θsがゾーンA、Bの操舵領域で、一時、第2所定操舵角θsh以上の数値であり、ゾーンD〜Fの操舵領域で、一時、第5所定操舵角−θsh以下の数値である。特に、ゾーンAにおいて操舵角θsが第2所定操舵角θsh以上の領域、および、ゾーンDにおいて操舵角θsが第5所定操舵角−θsh以下の領域については、印加される瞬発的なモータトルクの向きが反転する反転領域となる。さらに、操舵状態2では、ゾーンEの操舵領域で操舵角θsが第6所定操舵角−θsmaxまで達している。また、基本アシスト制御量Ias*は、ゾーンEの操舵領域で第2所定電流値−Ia1よりも小さい数値になっている。即ち、操舵状態2は、操舵状態1に比べ操舵角θsが大きく、エンド当て状態を有することを特徴とする。
図7の操舵状態3は、4つのゾーン(ゾーンA、B、C,D)に分割される。操舵状態3は、ゾーンCの操舵領域で操舵角θsが、第1所定操舵角θsl以下、且つ、第4所定操舵角−θsl以上である。また、基本アシスト制御量Ias*が全操舵領域で、第1所定電流値Ia1以下、且つ、第2所定電流値−Ia1以上である。即ち、操舵状態3は、直進走行状態を有することを特徴とする。
次に、図5〜図7の車両操舵状態からアシスト制御量判定部28が、車両の操舵状態を判定しFLG信号を生成する処理手順を、図8、図9、図10のフローチャートに従って説明する。
図8のフローチャートに示すように、アシスト制御量判定部28は、まず操舵角θsが第3所定操舵角θsmax以下か否かを判定する(ステップ801)。操舵角θsが第3所定操舵角θsmax以下の場合(ステップ801:YES)、アシスト制御量判定部28は、操舵角θsが第1所定操舵角θsl以上か否かを判定する(ステップ802)。操舵角θsが第1所定操舵角θsl以上の場合(ステップ802:YES)、アシスト制御量判定部28は、操舵角θsが第2所定操舵角θsh以下か否かを判定する(ステップ803)。
操舵角θsが第2所定操舵角θsh以下の場合(ステップ803:YES)、アシスト制御量判定部28は、今回値である基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1以下か否かを判定する(ステップ804)。ここで、括弧内のnは、今回値が第n番目のサンプリング値であることを示す。基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1以下の場合(ステップ804:YES)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量の前回値Ias*(n-1)を記憶部(メモリ)から読み出す(ステップ805)。そして、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)を前回値Ias*(n-1)と比較し、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以上か否かを判定する(ステップ806)。
基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以上の場合(ステップ806:YES)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力の大きさが正領域において増加傾向(本実施形態では、右切込み状態)にあることから、車両が、ゾーンAの操舵状態であると判定し、FLG(状態量を示すフラグ:メモリ)に1を書き込み(ステップ807)、この処理を終える。
また、ステップ806において、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)未満の場合(ステップ806:NO)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力が正領域において減少傾向(本実施形態では、右切戻し状態)にあることから、車両が、ゾーンBの操舵状態であると判定して、FLGに2を書き込み(ステップ808)、この処理を終える。
ステップ804において、基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1より大きい場合(ステップ804:NO)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量Ias*が既に上限値に達していると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ809)、この処理を終える。
ステップ803において、操舵角θsが第2所定操舵角θshより大きい場合(ステップ803:NO)、アシスト制御量判定部28は、今回値である基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1以下か否かを判定する(ステップ810)。基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1以下の場合(ステップ810:YES)、アシスト制御量判定部28は、車両が図6に示すゾーンAの反転領域又はゾーンBの操舵領域にあると判定して、FLGに2を書き込み(ステップ811)、この処理を終える。
また、ステップ810において、基本アシスト制御量Ias*(n)が第1所定電流値Ia1より大きい場合(ステップ810:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両が図6に示すゾーンEと同様にエンド当て若しくはその近傍の状態であると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ812)、この処理を終える。
ステップ802において、操舵角θsが第1所定操舵角θsl未満の場合(ステップ802:NO)、フローは、図9に移行する。
図9のフローチャートにおいて、アシスト制御量判定部28は、操舵角θsが第4所定操舵角−θsl以下か否かを判定する(ステップ813)。操舵角θsが第4所定操舵角−θsl以下の場合(ステップ813:YES)、アシスト制御量判定部28は、操舵角θsが第5所定操舵角−θsh以上か否かを判定する(ステップ814)。操舵角θsが第5所定操舵角−θsh以上の場合(ステップ814:YES)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1以上か否かを判定する(ステップ815)。
基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1以上の場合(ステップ815:YES)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量の前回値Ias*(n-1)を記憶部(メモリ)から読み出す(ステップ816)。そして、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以下か否かを判定する(ステップ817)。
基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以下の場合(ステップ817:YES)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力の大きさが負領域において増加傾向(本実施形態では、左切込み状態)にあることから、車両が、ゾーンDの操舵状態であると判定し、FLGに2を書き込み(ステップ818)、この処理を終える。
また、ステップ817において、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以上の場合(ステップ817:NO)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力の大きさが負領域において減少傾向(本実施形態では、左切戻し状態)にあることから、車両が、ゾーンFの操舵状態であると判定して、FLGに1を書き込み(ステップ819)、この処理を終える。
ステップ815において、基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1未満の場合(ステップ815:NO)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量Ias*が既に下限値に達していると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ820)、この処理を終える。
ステップ814において、操舵角θsが第5所定操舵角−θsh未満の場合(ステップ814:NO)、アシスト制御量判定部28は、操舵角θsが第6所定操舵角−θsmax以上か否かを判定する(ステップ821)。操舵角θsが第6所定操舵角−θsmax以上の場合(ステップ821:YES)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1以上か否かを判定する(ステップ822)。
基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1以上の場合(ステップ822:YES)、アシスト制御量判定部28は、車両が図6に示すゾーンDの反転領域又はゾーンFの操舵領域にあると判定して、FLGに1を書き込み(ステップ823)、この処理を終える。
また、ステップ822において、基本アシスト制御量Ias*(n)が第2所定電流値−Ia1未満の場合(ステップ822:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両が図6に示すゾーンEのエンド当て若しくはその近傍の状態であると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ824)、この処理を終える。
さらに、ステップ821において、操舵角θsが第6所定操舵角−θsmax未満の場合(ステップ821:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両がエンド当て若しくはその近傍の状態であると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ825)、この処理を終える。
ステップ813において、操舵角θsが第4所定操舵角−θslより大きい場合(ステップ813:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両が直進状態にあると判定し、図10にフローを移行する。ここで、電流指令値演算部23には、図2に示すように、タイマ34が設けられており、アシスト制御量判定部28は、車両が直進状態に移行した場合、タイマ34にリセット信号Skを出力し、車両が直進状態に移行してからの経過時間Thを計測する。
図10のフローチャートにおいて、アシスト制御量判定部28は、経過時間Thが直進状態判定所定時間th(本実施形態では、1s)以下か否かを判定する(ステップ826)。直進状態判定時間Thが直進状態判定所定時間th以下の場合(ステップ826:YES)、アシスト制御量判定部28は、基本アシスト制御量の前回値Ias*(n-1)を記憶部(メモリ)から読み出し(ステップ827)、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以上か否かを判定する(ステップ828)。
基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)以上の場合(ステップ828:YES)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力の大きさがゾーンCにおいて増加傾向にあると判定し、FLGに1を書き込み(ステップ829)、この処理を終える。また、ステップ828において、基本アシスト制御量の今回値Ias*(n)が前回値Ias*(n-1)未満の場合(ステップ828:NO)、アシスト制御量判定部28は、アシスト力の大きさがゾーンCにおいて減少傾向にあると判定し、FLGに2を書き込み(ステップ830)、この処理を終える。
ステップ826において、経過時間Thが直進状態判定所定時間thより大きい場合(ステップ826:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両が、ゾーンCの直進走行状態に移行して所定時間経過したと判定し、FLGに0を書き込み(ステップ831)、この処理を終える。更に、ステップ801において、操舵角θsが第3所定操舵角θsmaxより大きい場合(ステップ801:NO)、アシスト制御量判定部28は、車両がエンド当て若しくはその近傍の状態であると判定して、FLGに0を書き込み(ステップ830)、この処理を終える。
次に、試験トルク制御部31の機能を説明する。図12〜14に示すように、試験トルク制御部31は、アシスト制御量判定部28から受取ったFLG信号に基づいて、時間軸上の時点t1〜t13のタイミングで試験トルク制御量Itt*(瞬発的なモータトルクの印加)を出力する。尚、試験トルク制御量Itt*が出力される各時点t1、t2、t3・・・の各間隔は、試験トルク制御量Itt*が出力される試験トルク制御量出力時間trよりも長くなるように設定される。
以下、試験トルク制御部31で実行される、試験トルク制御量算出方法について、図11のフローチャートを使用して、詳細に説明する。まず、試験トルク制御部31は、アシスト制御量判定部28から入力されたFLGが0か否か、を判定する(ステップ901)。FLGが0の場合(ステップ901:YES)、試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*(m)(メモリ)に0を書き込み(ステップ906)、この処理を終わる。ここで、括弧内のmは、今回値が第m番目のサンプリング値であることを示す。尚、基本アシスト制御量Ias*のサンプリング番号をn、試験トルク制御量Itt*のサンプリング番号をmとしたのは、本実施形態において、基本アシスト制御量Ias*と試験トルク制御量Itt*のサンプリング周期とが異なっているからである。
本実施形態において、試験トルク制御量Itt*(m)に0が書き込まれるケース、即ち、FLGが0のケースとしては、以下の3つのケースが想定される。
第1のケースは、基本アシスト制御量Ias*が、第1所定電流値Ia1(上限値)、又は第2所定電流値−Ia1(下限値)に達しており、基本アシスト制御量Ias*に対して試験トルク制御量Itt*を印加しても、トルク変化が小さくてトルクセンサの異常を検出し難いケースである(図8のステップ804:NO,図9のステップ815:NO)。そのため、本実施形態の試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*が上限値より大きいか又は下限値より小さい場合、瞬発的なモータトルクの印加を停止する。
第2のケースは、図6のゾーンE、いわゆるエンド当てのケースである。このケースでは、ステアリングがメカニカルエンドに当たっているので、基本アシスト制御量Ias*に対して試験トルク制御量Itt*を印加してもトルク変化は生じない。そのため、試験トルク制御部31は、瞬発的なモータトルクの印加を停止する。
第3のケースは、車両が図7のゾーンC、いわゆる直進走行状態に移行して所定時間Thが経過したケースである。直進走行状態は、操舵角θsが、第1所定操舵角θslと第4所定操舵角−θslとの間の極めて狭い範囲内にある状態であり、基本アシスト制御量Ias*もほとんど0に近い値である。そのため、試験トルク制御部31は、このケースにおいても瞬発的なモータトルクの印加を停止する構成とした。これによって、EPS1は、通電量を減らしモータ及びECU11の発熱を抑えることができる。
図11のフローチャートのステップ901において、FLGが0でない場合(ステップ901:NO)、試験トルク制御部31は、FLGが1か否か、を判定する(ステップ902)。FLGが1の場合(ステップ902:YES)、試験トルク制御部31は、Ias*(n)に0を書き込むとともに、Itt*(m)に第2所定電流値−Ia1を書き込み(ステップ905)、この処理を終わる。
FLGが1ということは、基本アシスト制御量Ias*が正値で漸増している状態(車両が右切込み状態:ゾーンA)、基本アシスト制御量Ias*が負値で漸増している状態(車両が左切戻し状態:ゾーンF)、基本アシスト制御量Ias*が負値で漸減しており操舵角θsが第5所定操舵角−θshよりも小さい状態(ゾーンDの反転領域)、又は車両が直進走行状態(ゾーンC)に移行して、基本アシスト制御量Ias*が正値で漸増している状態又は基本アシスト制御量Ias*が負値で漸増している状態であり、且つ所定時間thが経過していない状態である。FLGが1の場合には、試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*が第2所定電流値−Ia1となる設定を行う。
FLGが1でない場合(ステップ902:NO)、試験トルク制御部31は、FLGが2か否かを判定する(ステップ903)。FLGが2の場合(ステップ903:YES)、試験トルク制御部31は、Ias*(n)に0を書き込むとともに、Itt*(m)に第1所定電流値Ia1を書き込み(ステップ904)、この処理を終わる。
FLGが2ということは、基本アシスト制御量Ias*が正値で漸減している状態(車両が右切戻し状態:ゾーンB)、基本アシスト制御量Ias*が負値で漸減している状態(車両が左切込み状態:ゾーンD)、基本アシスト制御量Ias*が正値で漸増しており操舵角θsが第2所定操舵角θshよりも大きい状態(ゾーンAの反転領域)、又は車両が直進走行状態(ゾーンC)に移行して、基本アシスト制御量Ias*が正値で漸減している状態又は基本アシスト制御量Ias*が負値で漸減している状態であり、且つ所定時間thが経過していない状態である。FLGが2の場合には、試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*が第1所定電流値Ia1となる設定を行う。なお、ステップ903でFLGが2でない場合(ステップ903:NO)、試験トルク制御部31は、何もしないでこの処理を終わる。
図12〜図14のそれぞれは、図5〜図7のそれぞれの操舵状態にある車両に対して、図11で示したアルゴリズムを適用し、基本アシスト制御量Ias*に試験トルク制御量Itt*を重畳させた電流指令値I*、及び操舵角θsの波形である。なお、本実施形態のEPS1は、図12〜図14に示すように、瞬発的なモータトルクの印加によって操舵角θsがほとんど影響を受けないように試験トルク制御量Itt*の大きさが設定されている。
ここで、図13の波形の特徴は、時点t3、t10、t11にある。t3では、図11で示したアルゴリズムに従って、試験トルク制御量Itt*が第1所定電流値Ia1となっている。
図12に示すように、車両が右切り込み状態(ゾーンA)であって操舵角θsが第2所定操舵角θsh以下の場合、試験トルク制御量Itt*は、第2所定電流値−Ia1に設定される。しかし、図13の時点t3に示すように、ゾーンAにおいて操舵角θsが第2所定操舵角θshよりも大きい場合、試験トルク制御量Itt*は、第1所定電流値Ia1に設定される。
操舵角θsが第2所定操舵角θshよりも大きく3所定操舵角θsmax近傍にある場合、トルクセンサ14が検出する操舵トルクτは、トルクセンサ14のセンサ素子が検出可能な臨界値近傍に達している。このような状況で、試験トルク制御量Itt*が第2所定電流値−Ia1に設定されると、アシスト力は正方向から負方向へと急減し、トーションバー17が大きく捩じられるので、トルクセンサが検出する操舵トルクτは増加する。しかし、本実施形態のように、ホールICをセンサ素子として用いた場合、センサ素子の臨界値近傍で操舵トルクτを増加させたとしても、トルク変化量が小さくなったり、操舵トルクτがセンサ素子の検出範囲を超えてしまうおそれがあるため、異常を検出し難い。
それに対して、本実施形態のEPS1は、試験トルク制御量Itt*を第1所定電流値Ia1に設定し、アシスト力を増加させることで、トーションバー17の捩れを小さくする。その結果、トルクセンサが検出する操舵トルクτは、センサ素子の検出可能な範囲内で変化し、トルク変化量も小さくならない。そのため、EPS1は、センサ素子の異常を確実に検出し、誤検出を防止することが可能である。尚、操舵角θsが第5所定操舵角−θshよりも小さい場合にも同様のことが言える。
更に、図13の時点t10、t11では、車両のステアリング2がメカニカルエンド当て状態(ゾーンE)にある。この場合、上記したように、試験トルク制御量Itt*を印加しても操舵トルクは変化しないため、試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*の印加を停止する。これによって、ECU11への通電量を抑制し、モータ及びECU11の発熱を抑えることが可能である。
また、図14の波形の特徴は、時点t6〜t11の区間にある。時点t6〜t11の区間は、ハンドルの中立付近で操舵するいわゆる直進走行状態(ゾーンC)である。図14からわかるように、車両がゾーンCの操舵状態に移行して、経過時間Thが直進状態判定所定時間thに満たない区間では、図11のアルゴリズムに従い試験トルク制御量Itt*を出力する。一方、経過時間Thが直進状態判定所定時間thを経過した区間(t9〜t11)では、試験トルク制御量Itt*の出力を停止する。これによって、ECU11への通電量を抑制し、モータ及びECU11の発熱を抑えることが可能である。
次に、図15及び図16を用いてトルクセンサ14の異常判定方法について具体的に説明する。
図15は、図5の操舵状態にある車両に対して、図11で示したアルゴリズムを適用した場合における電流指令値I*及び操舵トルクτを示すグラフである。また、図16は、図15の一部を拡大したグラフである。図15および図16において、左縦軸は、基本アシスト制御量Ias*に試験トルク制御量Itt*を重畳させた電流指令値I*を表す。また、右縦軸は、トルクセンサ14が検出する操舵トルクτを表し、横軸は時間軸を表す。
図15および図16には、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加された場合に、トルクセンサによって検出される操舵トルクτが変動する様子が示されている。図16における車両の操舵状態は、ハンドルを右に操舵した場合の切込み状態(例えば、図5のゾーンA)を表しており、基本アシスト制御量Ias*が増加している時点t(l)で、試験トルク制御量Itt*が所定時間tr(本実施形態では、例えば1ms)出力されている。
これにより操舵系には、瞬発的なモータトルクが印加され、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(本実施形態では、例えば10ms)後に、トーションバーには瞬発的なモータトルクに起因する捩れが生じる。異常検出部30は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(本実施形態では、例えば0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定する。
また、図2に示すように、本実施形態の試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*を出力する毎に、試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクが印加される旨を示す印加信号Simを異常検出部30に対して出力する。本実施形態の異常検出部30は、この印加信号Simに基づいて、そのアシスト継続制御時における残存センサ信号の異常検出を実行する。
即ち、図4のフローチャートに示すように、異常検出部30は、アシスト継続制御時(ステップ201:YES)において、上記印加信号Simの入力があった場合(ステップ202:YES)には、当該印加信号Simに示される瞬発的なモータトルクの印加が、その入力される残存センサ信号に反映されるか否かを判定する(ステップ203)。尚、図16に示すように、本実施形態では、上記残存センサ信号に瞬発的なモータトルクの印加が反映されるか否かの判定は、当該瞬発的なモータトルクの印加に対応した適当なタイミング(所定時間trr内)で同残存センサ信号が変化するか否か、及びその変化の方向及び大きさが適当な値であるか否かに基づき行われる。
そして、異常検出部30は、その残存センサ信号に瞬発的なモータトルクの印加が反映される場合(ステップ203:YES)には、当該残存センサ信号は正常であると判定し(ステップ204)、反映されない場合(ステップ203:NO)には、当該残存センサ信号は異常であると判定する(ステップ205)。
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン21には、タイマ32が設けられており、上記異常検出部30は、上記のように該残存センサ信号の異常を検出した場合(図4参照、ステップ205)、このタイマ32を利用して最初の異常検出からの経過時間Tdを計測する。そして、本実施形態の異常検出部30は、その経過時間Tdが故障検出所定時間tdを越える前に、所定回数(N0)の異常検出があった場合には、その残存センサ信号に対応するセンサ素子が故障したものと判定する。
具体的には、図17のフローチャートに示すように、異常検出部30は、残存センサ信号の異常を検出すると(ステップ301:YES)、既に、その残存センサ信号に対応するセンサ素子についての故障判定中であるか否かを判定する(ステップ302)。そして、未だ故障判定が行なわれていない場合(ステップ302:NO)、つまり、上記ステップ301における異常検出が故障判定の開始点となる最初の異常検出である場合には、故障判定フラグをセットする(ステップ303)。
即ち、ステップ302における故障判定中であるか否かの判定は、ステップ303に示された故障判定フラグがセットされているか否かに基づいて行なわれる。異常検出部30は、故障判定フラグをセットした後、上記タイマ32にリセット信号Sreを出力し(ステップ304)、故障検出経過時間Tdの計測を開始することにより、その異常が検出された残存センサ信号に対応するセンサ素子についての故障判定処理を実行する。
このように、ステップ303及びステップ304の実行により故障判定処理を開始し、又は上記ステップ302において既に故障判定中であると判定された場合(ステップ302:YES)、異常検出部30は、続いて、その異常検出回数Nをカウントするカウンタをインクリメントする(N=N+1、ステップ305)。そして、その異常検出回数Nが所定回数N0以上であると判定した場合(N≧N0、ステップ306:YES)には、その残存センサ信号に対応するセンサ素子が故障したものと判定する(ステップ307)。
一方、上記ステップ306において、その異常検出回数Nが所定回数N0に満たないと判定した場合(N<N0、ステップ306:NO)、異常検出部30は、続いて、上記タイマ32から故障検出経過時間Tdを取得する(ステップ308)。そして、故障検出経過時間Tdが故障検出所定時間td以上であるか否かを判定し(ステップ309)、故障検出所定時間td以上であると判定した場合(Td≧td、ステップ309:YES)には、その故障検出所定時間tdの超過(タイムオーバー)をもって、その残存センサ信号に対応するセンサ素子は正常であると判定する(ステップ310)。
その後、異常検出部30は、上記故障判定フラグをリセットし(ステップ311)、カウンタをリセットすることにより(N=0、ステップ312)、一連の故障判定処理を終了する。尚、上記ステップ309において、故障検出経過時間Tdが故障検出所定時間tdに満たないと判定した場合(Td<td、ステップ309:NO)には、上記ステップ310〜ステップ312の処理は実行されない。
更に、本実施形態の試験トルク制御部31は、図19に示すように、アシスト継続制御時において、残存センサ信号の異常が検出された時点(同図中、時点t21)以降は、異常検出前の出力周期f1よりも異常検出後の出力周期f2が短くなるように試験トルク制御量Itt*の出力周期を短縮化する(f1>f2)。これにより、残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障判定が実行されている間は、瞬発的なモータトルクを印加する周期が短くなるように構成されている。
また、残存センサ信号の異常が検出され、試験トルク制御量Itt*の出力周期が短縮化された後、再び残存センサ信号が正常に復帰することがある(同図中、時点t22以降)。本実施形態の試験トルク制御部31は、この場合、試験トルク制御量Itt*の出力周期を再びf2からf1に戻す構成となっている。
即ち、迅速且つ高精度に故障判定を行う観点からは、瞬発的なモータトルクの印加周期は、短い方が好ましい。しかしながら、こうした印加周期の短縮化は、その操舵フィーリングを悪化させる方向に作用する。この点を踏まえ、本実施形態のEPS1は、残存センサ信号の故障判定の実行中のみ、瞬発的なモータトルクの印加周期を短くし、残存センサ信号が正常値に戻った場合には、瞬発的なモータトルクの印加周期を直ちに元の周期とする。これにより、本実施形態のEPS1は、アシスト継続制御の実行時における良好な操舵フィーリングを確保しつつ、その残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障判定を迅速且つ高精度に行うことが可能である。
さらに詳述すると、図18のフローチャートに示すように、試験トルク制御部31は、アシスト継続制御時(ステップ401:YES)、上記異常検出部30によるセンサ素子の故障判定が実行されているか否かを判定する(ステップ402)。尚、本実施形態の試験トルク制御部31は、異常検出部30が出力する異常検出信号Strに基づいて、異常検出部30が実行する故障判定の結果を取得する構成となっている。そして、故障判定の実行中ではないと判定した場合(ステップ402:NO)には、その基本周期(図19参照、出力周期f1)での上記試験トルク制御量Itt*の出力を実行する(ステップ403)。
一方、上記ステップ402において、故障判定の実行中であると判定した場合(ステップ402:YES)、試験トルク制御部31は、先ず、残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障が確定したか否かを判定する(ステップ404)。そして、残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障が確定していない場合(ステップ404:NO)、試験トルク制御部31は、残存センサ信号に対応するセンサ素子の正常が確定しているか否かを判定する(ステップ405)。その結果、残存センサ素子に対応するセンサ素子の正常が確定していない場合、即ち、センサ素子の異常が継続している場合(ステップ405:NO)、試験トルク制御部31は、上記基本周期(f1)よりも短い短周期(図19参照、出力周期f2)での上記試験トルク制御量Itt*の出力を実行する(ステップ406)。
逆に、上記ステップ405において、残存センサ信号に対応するセンサ素子の正常が確定した場合、即ち、センサ素子が正常に復帰した場合(ステップ405:YES)には、上記ステップ403において、その基本周期(f1)での上記試験トルク制御量Itt*の出力を実行する構成となっている。尚、アシスト継続制御が実行されていない場合(ステップ401:NO)、及びセンサ素子の故障が確定した場合(ステップ404:YES)には、上記試験トルク制御量Itt*は、出力されない。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)ECU11は、トルクセンサ14を構成する各センサ素子14a,14bの何れか一方の故障が検出された場合、その故障が検出されていない方のセンサ素子が出力するセンサ信号(残存センサ信号)を用いて操舵トルクτを検出することにより、そのパワーアシスト制御を継続する(アシスト継続制御)。また、ECU11は、アシスト継続制御の実行時には、そのアシスト力の変化方向とは逆向きに、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加すべくEPSアクチュエータ10の作動を制御する。そして、この瞬発的なモータトルクの印加が、そのアシスト継続制御の基礎となる残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常を検出する。
上記構成によれば、その瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせることで、その残存センサ信号が変化するタイミング及び変化方向を当然に予想し得る状況を作り出すことができる。そして、このような状況下において、その残存センサ信号の変化を監視することにより、当該残存センサ信号が明らかに異常な値を示す以前の段階で、早期に、その異常を検出することができる。その結果、残存センサ信号を用いたアシスト制御の実行時においても、より安定的に、そのアシスト付与を継続することができるようになる。
(2)ECU11は、周期的にその操舵系に対する瞬発的なモータトルクの印加を実行する。そして、ECU11は、故障検出所定時間(td)内に、所定回数(N0)、残存センサ信号についての異常検出があった場合には、その残存センサ信号に対応するセンサ素子が故障したと判定する。上記構成によれば、より正確にセンサ素子の故障を判定することができる。その結果、誤判定の発生を抑えて、より安定的に、そのアシスト力付与を継続することができるようになる。
(3)ECU11は、残存センサ信号に対応するセンサ素子について故障判定を実行する間は、瞬発的なモータトルクを印加する周期を短くする。即ち、迅速且つ高精度に故障判定を行う観点からは、上記瞬発的なモータトルクの印加周期は、より短い方が好ましい。しかしながら、こうした印加周期の短縮化は、その操舵フィーリングを悪化させる方向に作用する。この点、上記構成によれば、アシスト継続制御の実行時における良好な操舵フィーリングを確保しつつ、迅速且つ高精度に、その残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障判定を行うことができる。その結果、より安定的に、そのアシスト力付与を継続することができるようになる。
(4)ECU11は、ハンドルの中立付近で操舵するいわゆる直進走行状態に移行して、経過時間Thが直進状態判定所定時間thに満たない区間では、図11のアルゴリズムに従い試験トルク制御量Itt*を出力する。一方、経過時間Thが直進状態判定所定時間thを経過した区間では、試験トルク制御量Itt*の出力を停止する。これによって、ECU11への通電量を抑制し、モータ及びECU11の発熱を抑えることが可能である。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を、二系統のセンサ信号Sa,Sbを出力するトルクセンサ14の異常検出に具体化した。しかし、これに限らず、発明は、3以上のセンサ信号を出力するトルクセンサの異常検出に適用してもよい。即ち、センサ信号の出力要素を3以上備えるものにおいて、故障の検出されていない前記出力要素が残り一つになった後、その残る出力要素が出力するセンサ信号を用いて前記アシスト力の付与を継続する場合に適用してもよい。
・また、本発明は、一のセンサ信号を用いて操舵トルクを検出するEPSのトルクセンサについての異常検出に適用してもよい。即ち、瞬発的なモータトルクの印加及びそのセンサ信号への反映に基づく異常検出は、必ずしも、トルクセンサの異常が検出された後の暫定制御時(アシスト継続制御時)に限るものではなく、通常制御時にも実行してもよい。これにより、より高い信頼性を確保することができる。
・上記実施形態では、特に言及しなかったが、センサ信号を出力要素としてのセンサ素子を構成する磁気検出素子については、どのようなものであってもよい。また、磁気式のトルクセンサ以外の異常検出に適用してもよい。
・上記実施形態では、ステアリングセンサ16の中立位置近傍に所定の操舵角範囲を設定し、車両が直進走行状態か否かを判断したが、本発明は、このような構成に限定されるわけではない。ステアリングセンサ16に代えて、電流センサ27を用い、電流センサ検出範囲に中立位置近傍の所定の電流値範囲を設定することで車両が直進操行状態にあるか否かを判断してもよい。
・上記実施形態では、アシスト制御量判定部28で生成されるFLGが0のケースでは瞬発的なモータトルクの印加を停止することとしたが、本発明はこのような構成に限定されるわけではない。例えば、アシスト制御量判定部28で生成されるFLGが0の場合には、瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値を、第1所定電流値Ia1又は第2所定電流値−Ia1より小さな電流値(例えば、1/3程度の大きさ)に変更し、瞬発的なモータトルクを印加するようにしてもよい。こうすることによって、運転者に絶えずトルクセンサの故障診断を行っていることを認識させることができる。
・上記実施形態では、操舵系に対する瞬発的なモータトルクの印加を、周期的に行うこととした。しかし、これに限らず、ランダムに瞬発的なモータトルクを印加し、その残存センサ信号への反映の有無に基づいて当該残存センサ信号の異常を検出する構成であってもよい。
・上記実施形態では、故障検出所定時間(td)内に、所定回数(N0)以上の異常検出があった場合に、その残存センサ信号に対応する出力要素としてのセンサ素子の故障を確定することとした。しかし、これに限らず、所定時間T0の超過でタイムオーバーとしなくてもよく、また、一回の異常検出で、その対応するセンサ素子の故障を確定する構成であってもよい。尚、上記実施形態のように、複数回の異常検出により故障を確定し、及びその故障判定に制限時間を設定する構成の方が、より好ましい結果が得られることは言うまでもない。
・上記実施形態では、残存センサ信号に対応するセンサ素子について故障判定を実行する間は、瞬発的なモータトルクを印加する周期を短くすることとした。しかし、これに限らず、残存センサ信号の異常検出回数Nに応じて、その印加周期を変更する構成としてもよい。このような構成とすることで、アシスト継続制御の実行時における良好な操舵フィーリングを確保しつつ、より迅速且つ高精度に、その残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障判定を行うことができる。
尚、この場合、その故障判定によりセンサ素子が正常であることが確定した後、当該印加周期を基本周期(図19参照、出力周期f1)に回復させるか、或いは短縮化したままとするかについては、その重きを置く観点、即ち、良好な操舵フィーリングの確保を重視するか、或いは早期の故障検出を重視するかによって、任意に選択すればよい。
・上記各実施形態では、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12には、ブラシ付き直流モータを用いることとした。しかし、これに限らず、ブラシレスモータや誘導モータを用いるものに具体化してもよい。特に、上記のように操舵速度に応じて瞬発的なモータトルクの印加周期を変更する場合には、その操舵速度の検出にブラシレスモータの回転角センサを利用するとよい。
・上記各実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。