以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
図1は、本発明を適用した一実施形態における電動圧縮機の外形を示す正面図である。図2は、図1中A−A線断面図であり、図3は、電動圧縮機の内部構造を示す断面図である。
図1に示す電動圧縮機100は、例えば、自動車のエンジンルーム内に配置されている。電動圧縮機100は、凝縮器、減圧器、および蒸発器とともに、車両空調装置用の冷凍サイクル装置を構成している。電動圧縮機100はハウジング1を備えている。
ハウジング1は、伝熱性の高いアルミニウム材もしくはアルミニウム合金材等の金属からなるもので、略円筒状に形成されている。ハウジング1には、冷媒吸入口1aおよび冷媒吐出口1bが設けられている。
冷媒吸入口1aは、ハウジング1において軸線方向一方側に配置されている。冷媒吸入口1aには、蒸発器の冷媒出口からの冷媒が流入する。冷媒吐出口1bはハウジング1において軸線方向他方側に配置されている。冷媒吐出口1bは、凝縮器の冷媒入口に向けて冷媒を吐出する。
ハウジング1の上側には脚部2が設けられている。ハウジング1の下側には脚部3、4が設けられている。脚部2、3、4には、それぞれ、ボルト5を貫通させる貫通孔が設けられている。各ボルト5は、脚部2、3、4の貫通孔に貫通した状態で、ハウジング1をエンジンの側壁に固定する。
電動圧縮機100は、図2および図3に示すように、モータ部10(モータに相当)、インバータ回路20(駆動回路部に相当)、圧縮機構30、およびインバータカバー40(カバー部材に相当)等から構成されている。
モータ部10は、三相同期モータであって、回転軸12、ロータ13、ステータコア14、およびステータコイル15から構成されている。
回転軸12は、ハウジング1内に配置されている。回転軸12はその軸線方向がハウジング1の軸線方向に一致している。回転軸12は、軸受け12a、12bにより回転自在に支持されている。回転軸12は、ロータ13から受ける回転駆動力を圧縮機構30に伝える。軸受け12a、12bは、ハウジング1により支持されている。
ロータ13は、例えば永久磁石が埋め込まれたもので、筒状に形成されているものであって、回転軸12に対して固定されている。ロータ13は、ステータコア14から発生される回転磁界に基づいて、回転軸12とともに回転する。
ステータコア14は、ハウジング1内においてロータ13(回転軸12)に対して径方向外周側に配置されている。ステータコア14は、その軸線方向が回転軸12の軸線方向に一致する筒状に形成されている。ステータコア14は、ロータ13との間に隙間を形成している。隙間は、回転軸12の軸線方向に並行に冷媒を流す冷媒流路17を構成している。
ステータコア14は、磁性体からなるもので、ハウジング1の内周面から支持されている。ステータコイル15は、ステータコア14に対して回巻されている。ステータコイル15は後述するように回転磁界を発生する。
圧縮機構30は、モータ部10に対して軸線方向他方側に配置されている。圧縮機構30は、固定スクロールと可動スクロールとから構成されるスクロール型コンプレッサであって、モータ部10の回転軸12からの回転駆動力によって可動スクロールを旋回させて冷媒を吸入、圧縮、吐出する。
インバータ回路20は、ハウジング1の取付面1cに装着されている。取付面1cは、ハウジング1の外周部(すなわち、回転軸12の径方向外周側)に形成されている。本実施形態では、取付面1cは、ハウジング1の外周部の上側に位置する。
インバータ回路20は、半導体素子等からなり、モータ部10を駆動する三相電圧を発生する駆動回路を構成している。インバータカバー40は、インバータ回路20を覆うように形成されている。インバータカバー40は、ハウジング1に複数のネジ42(図4参照)により締結されている。
ステータコア14の外周壁には、図2に示すように、凹部14a、14b、14c、14dが設けられている。凹部14aは、回転軸12の径方向中心側に凹んで、かつステータコア14に対して軸線方向に並行に延びるように形成されている。同様に、凹部14b、14c、14dは、回転軸12の径方向中心側に凹んで、かつステータコア14に対して軸線方向に並行に延びるように形成されている。
凹部14a、14b、14c、14dは、回転軸12を中心とする円周方向に同一間隔でずれるように配置されている。凹部14aは、インバータ回路20側に配置されている。凹部14aは、ハウジング1の内周面との間に第1の冷媒流路60を構成する。凹部14b、14c、14dは、それぞれ、ハウジング1の内周面との間に第2の冷媒流路61、62、63を構成する。
ここで、凹部14aにおいてインバータ回路20側には(凹部14aの内面には)、断熱膜80が設けられている。図2には模式的に所定の厚みを有する断熱膜80が示されているが、実際には、断熱膜80としては、薄膜状に形成されているものが用いられる。
断熱膜80は、凹部14aの底部140および側部141a、141bを覆うように形成されている。すなわち、断熱膜80は、軸線方向から視て略断面コ字状に形成されている。断熱膜80は、冷媒とステータコア14との間の熱伝達を妨げる。
断熱膜80は、冷媒や潤滑油(圧縮機油)に対する耐性が強く、かつ高温度高圧に耐え得る材料が用いられ、例えば、ビスマス(金属系)、セラミックス(無機高分子)、ポリイミド(有機無機高分子)などを用いることができる。断熱膜80としては、特に、耐熱性に優れたポリイミドを用いることが好ましい。
上述した構成の電動圧縮機100の作動について簡単に説明する。まず、インバータ回路20が電源投入されて、モータ部10のステータコイル15に対して三相の駆動電流を流す。これに伴って、ステータコア14から回転磁界が発生するため、ロータ13に対して回転力が発生する。すると、ロータ13が回転軸12とともに回転する。したがって、圧縮機構30は、回転軸12からの回転駆動力によって旋回して冷媒を吸入する。
このとき、蒸発器側からの吸入冷媒は、ハウジング1の冷媒吸入口1a側内に流入する。すると、この吸入冷媒は、冷媒流路17、60、61、62、63を通過して圧縮機構30側に流れる。吸入冷媒は、圧縮機構30で圧縮され、冷媒吐出口1bから凝縮器側に吐出される。
一方、インバータ回路20は、その作動に伴って熱を発生する。この熱がハウジング1の肉部1n(図2、図3参照)を通して冷媒流路60内の冷媒に伝わる。
このとき、ステータコイル15は、三相の駆動電流の通電に伴って熱を発生するものの、断熱膜80により冷媒流路60内の冷媒とステータコア14との間の熱伝達を妨げる。したがって、冷媒流路60内の冷媒によりインバータ回路20を冷却することになる。
また、ステータコイル15から発生した熱は、ステータコア14を通して冷媒流路17、61〜63内の冷媒に伝わる。これにより、ステータコア14、およびステータコイル15を冷媒流路17、61〜63内の冷媒により冷却することができる。
次に、図4〜図6に基づいて、モータを駆動する駆動回路部の構成について説明する。図4は、駆動回路部であるインバータ回路20の配設部位の概略構成を示す断面図であり、図5は、インバータ回路20の上面図(図4図示上方から見た図)であり、図6は、インバータ回路20の要部を拡大した断面図である。なお、図5および図6では、第2基板22の表面に実装した回路素子等の図示を省略している。
図4に示すように、インバータカバー40は、インバータ回路20を覆うようにハウジング1にネジ42により取り付けられており、インバータ回路20は、インバータカバー40に複数のネジ223により取り付けられている。換言すれば、インバータ回路20は、ハウジング1の取付面1cを底面部とし、インバータカバー40が側面部および天井面部となるケーシング内に収容されている。インバータカバー40とハウジング1との間にはシール部材41が配設されており、インバータ回路20の収容空間と外部空間とを遮断している。
インバータ回路20は、第1基板21と第2基板22とを有し、第1基板21と第2基板22とは、電極222と電極212aとからなる電気的接続部20a(図6参照)で接続されている。第1基板21は、パワー素子214等を内蔵している素子内蔵回路基板である。
一方、第2基板22は、絶縁基材内に素子を内蔵していない非素子内蔵回路基板であり、例えばガラスエポキシ基板等の所謂汎用プリント基板からなり、絶縁基材の表面に各種回路素子等が実装されている。また、第2基板22には、外部との接続端子を有するコネクタ221や電源フィルタ等の大型部品が実装されている。
第1基板21と第2基板22とは積層配置されており、第1基板21が第2基板22よりもハウジング1側に配設されている。そして、第2基板22がネジ223でインバータカバー40に固定され、インバータ回路20はハウジング1に対して位置決め固定されている。第2基板22のうち、ネジ223でインバータカバー40に固定された部位が、第2基板22をインバータカバー40を介してハウジング1に対して位置決め固定する固定部223aである。
図6に示すように、第1基板21には、両面のうち一方の面(図示上面、反ハウジング側の面)である第1面21aの外周縁部に、導体パターン212の一部をなし例えばランドとして形成された電極212aが設けられている。この電極212aが第2基板22の図示下面(ハウジング側の面)に例えばランドとして形成された電極222に電気的に接続されて、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aを形成している。
電気的接続部20aの周縁部における第1基板21と前記第2基板22との間には(すなわち、第1基板21と前記第2基板22との間の電気的接続部20aを除く部分には)接着剤であるアンダフィル20bが介設されており、第1基板21と前記第2基板22とを接着して、電気的接続部20aの周囲を補強している。
そして、第1基板21の両面のうち他方の面(図示下面、ハウジング側の面)である第2面21bが、ハウジング1の外面のうち内部を吸入冷媒が流通する部位に形成された取付面1cに密着している。
具体的には、第1基板21の第2面21bとハウジング1の取付面1cとの間には、全域に亘って絶縁放熱シート24(絶縁シート部材に相当)が介設され、絶縁放熱シート24を介して第1基板21とハウジング1とが密着している。絶縁放熱シート24は、例えばセラミックスフィラーを充填したシリコーン材等からなる。
図5にも示すように、第2基板22には、第1基板21が積層配置された領域(基板積層方向から見たときに第2基板22の外周より内側で第1基板21が配設された領域)のうち、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aを除く領域(具体的には、電気的接続部20aよりも内側の領域)に、例えば矩形状の開口22aが形成されている。本例では、第2基板22の開口22aに沿った縁部のハウジング側の面が第1基板21との電気的接続部20aとなっている。
したがって、第1基板21の第1面21aは、電気的接続部20aよりも内側の領域が第2基板22の開口22a内に露出しており、第1面21aの開口内露出領域には、第1基板22に回路を構成するスナバ部品等の回路素子215aが実装されている。
図4および図5に示すように、第2基板22の図示上面には、溝部217a、217bが形成されている。溝部217aは、電気的接続部20a(具体的には、第1基板21の外周よりやや外方部)を取り囲むように、略矩形環状に延びており、溝部217bは、第2基板22の複数の固定部223aをそれぞれ取り囲むように、略円弧状に延設されている。第2基板22に溝部217a、217bが形成された部位は、他の部位よりも基板厚さが薄くなっており、固定部223aと電気的接続部20aとの間に、他の部位よりも撓み易い可撓部を形成している。
溝部217a、217bは、第2基板22を成形する際に形成してもよいし、第2基板22成形後に切削加工等の除去加工により形成するものであってもよい。
第2基板22の図示上面側(反ハウジング側)には、例えばゴム製のパッキン43が配設されている。パッキン43は、第2基板22の開口22a縁部と第2基板21の外周縁部とが重なった領域、すなわち、電気的接続部20aの形成領域に対応して、環状に形成されている。
インバータカバー40の天井面には、下方に向かって突出する環状の突出部40aが形成されている。突出部40aはパッキン43の形状に対応して環状形成されており、パッキン43は、突出部40aと第2基板22との間で図示上下方向に圧縮されている。これにより、パッキン43は、第2基板22の下面側に電気的接続部20aが形成された領域をハウジング方向に押圧している。パッキン43は、第2基板22の反ハウジング側に配設されて、第2基板22をハウジング1に向かって押圧する弾性部材に相当する。
パッキン43による押圧部位は、第2基板22のうち、下面側に電気的接続部20aが形成された領域であることが好ましいが、電気的接続部20aに加わる負荷が不具合を発生しない程度であれば、電気的接続部20aを外れた領域であってもかまわない。
ここで、第1基板21の構成について説明する。図6に示すように、第1基板21は、熱可塑性樹脂からなる絶縁基材211と、絶縁基材211の内部に配置されたパワー素子214と、絶縁基材211の内部に配置された他の回路素子215や表面に配置された他の回路素子215a(例えば、抵抗等の受動素子)等の電子部品と、絶縁基材211の内部や表面に形成され、パワー素子214や他の回路素子215、215aと電気的に接続する配線部としての導体パターン212および層間接続ビア213とを備えている。
換言すれば、第1基板21は、熱可塑性樹脂からなる絶縁基材211の表面および内部に導体パターン212が多層に配置され、異なる層の導体パターン212の一部が層間接続部である層間接続ビア213(例えば、導電性ペーストなどを採用することができる)によって電気的に層間接続されるとともに、絶縁基材211中に導体パターン212及び層間接続部213と電気的に接続されたパワー素子214等の電子部品が配置された多層基板である。
また、第1基板21は、絶縁基材211内に埋め込まれた伝熱部材である例えば銅製で薄板状の放熱用チップ216を備えている。放熱用チップ216は、絶縁基材211内においてパワー素子214よりもハウジング1の取付面1c側(図6図示下方側)となる部位に埋設されている。放熱用チップ216は、図示下面が絶縁基材211から露出しており、放熱用チップ216の下面と絶縁基材211の下面とは同一平面内にある。
第1基板21の絶縁基材211は、例えば、熱可塑性の樹脂フィルム(基材フィルム)を複数枚積層して、相互に接着(溶着)して構成されている。なお、樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルイミドの混合材、或いは液晶ポリマーなどを採用することができる。
第1基板21は、表面に配線部の一部として例えば金属箔からなる導体パターン212が形成されると共に、この導体パターン212を底部とするビアホール内に導電体(例えば、導電性ペースト)が埋め込まれた配線部の一部としての層間接続ビア213を有する熱可塑性の樹脂フィルム(基材フィルム)や、パワー素子214等の内蔵電子部品や放熱用チップ216等の内蔵部品の体格に応じた貫通孔を有する熱可塑性の樹脂フィルム(基材フィルム)などを複数層積層して、相互に接着(溶着)して構成されている。
なお、導体パターン212は、比較的大電流が流れる所謂パワー系(例えばモータ電流系統)では非パワー系(例えば信号伝達系統)よりも導体厚さを厚くすることが好ましい。パワー系の導体パターン212を非パワー系の導体パターン212と同一層に配置する場合には、パワー系の導体パターン212として例えば銅製の金属プレート部材を用いることができ、パワー系の導体パターン212を非パワー系の導体パターン212と異なる層に配置する場合には、パワー系の導体パターン212を非パワー系の導体パターン212よりも厚い金属箔もしくは金属プレート部材により形成することができる。
この第1基板21は、以下のようにして製造することができる。上述のような複数枚の熱可塑性の樹脂フィルムを、内部にパワー素子214や回路素子215等を配置しつつ積層する。そして、この積層体を加熱しながら、積層方向における両側から加圧する。例えば、250〜350℃の雰囲気温度下で1〜10MPaの圧力で10〜20分間加圧する。このようにして、一括で熱圧着接合して第1基板21を製造することができる。
なお、第1基板21の絶縁基材211として、熱可塑性の樹脂フィルムを複数枚用いる例を説明したが、絶縁基材211は、少なくとも熱可塑性樹脂を含むものであればよく、例えば、熱可塑性樹脂を含む基材フィルムと、熱硬化性樹脂を含む基材フィルムとを相互に(例えば、交互に、あるいは、熱硬化性樹脂を含む基材フィルムが連続して積層されないように)積層してなるものを採用するようにしてもよい。この例では、熱可塑性樹脂を含む基材フィルムが接着剤層として機能する。
また、熱可塑性樹脂は、絶縁基材211に内蔵するパワー素子214等の内蔵素子の周囲に配設することが好ましい。内蔵素子に接する部分の少なくとも一部に熱可塑性樹脂を配置することが好ましく、内蔵素子を取り囲む全域(全面)に亘って熱可塑性樹脂を配置することがさらに好ましい。内蔵素子に接する部分に熱可塑性樹脂を配置すると、積層した複数枚の樹脂フィルムを加熱プレスして絶縁基材211を形成する際に、絶縁基材211中にパワー素子214等の内蔵素子を封止する(内蔵素子の外面の電気接続部を除く全域を絶縁基材に密着させる)ことが容易である。
図6から明らかなように、第1基板21には、図示左方側端部近傍に、絶縁基材211を厚さ方向(図示上下方向)に貫通する貫通孔211aが形成されている。
放熱用チップ216は、絶縁基材211の厚さ方向(図示上下方向)におけるパワー素子214の投影領域の一部もしくは全域を含むように配設され、図示左方側に大きく延設されている。そして、放熱用チップ216は、絶縁基材211の貫通孔211aが形成された部分を含む領域にまで延設されている。放熱用チップ216には、絶縁基材211の貫通孔211aに対応して、同軸上に貫通孔216aが形成されている。
ハウジング1の取付面1cが形成されている部分には、図6では図示を省略したモータ部10のステータコイル15から延びハウジング1を貫通する貫通端子16が突出しており、貫通端子16のハウジング1外方に突出した部分は、絶縁基材211の貫通孔211a内に配設されている。貫通端子16は、ハウジング1を貫通する部分において、ハウジング1との間が例えばガラス材により気密に封止された所謂ハーメチック端子である。
貫通端子16は、例えば圧接により第1基板21の放熱用チップ216に電気的に接続している。貫通孔216aの内径を(必要であれば貫通孔211aの内径も)貫通端子16の外径よりも若干小さくし、貫通端子16を貫通孔216a内に圧入することにより上記電気的接続構成を形成することができる。放熱用チップ216は、導体パターン212と接すること等により、パワー素子214と電気的に接続されており、放熱用チップ216の貫通端子16との接続部分(放熱用チップ216の貫通孔216a部分)が、第1基板21からモータ部10へ供給電力を出力する出力部となっている。
なお、貫通端子16は、放熱用チップ216のみと電気的に接続されていてもよいが、放熱用チップ216と同一電位にある導体パターン212等とも接続されていてもかまわない。
また、貫通端子16に径内方向に弾性変形可能な端子構造を採用して、貫通端子16と第1基板21の出力部との圧接による電気的接続を行ってもよいし、貫通端子16の外径を貫通孔216a、211aの内径よりも若干小さくして、貫通端子16の周囲に径内方向に弾性変形可能な導電性介在部材を配置して、貫通端子16と第1基板21の出力部との導電性介在部材を介した圧接により電気的接続を行ってもよい。
ここで、インバータ回路20の製造方法およびインバータ回路20のハウジング1への装着方法について簡単に説明する。
前述したように、内部にパワー素子214や回路素子215を内蔵した第1基板21を製造したら、まず、第2基板22の表面に回路素子および第1基板21をマウントする。第1基板21も回路素子の1つとして扱い、例えば同一のマウンタ等を利用し第2基板22の表面に配置する。この際に、第1基板21の第1面21aにも回路素子215aをマウントする。
次に、第2基板22表面にマウントした回路素子および第1基板21をリフロー半田付けにより実装し、これと同時に、第1基板21の第1面21aにマウントした回路素子215aもリフロー半田付けにより実装する。
このようにインバータ回路20を製造したら、インバータ回路20をインバータカバー40に装着する。例えば、インバータカバー40の天井面が下方となる姿勢とし、突出部40aの先端部にパッキン43を装着して、さらに上方からインバータ回路20を装着し、ネジ223によりインバータ回路20の第2基板22の固定部223aをインバータカバー40に固定する。
このとき、インバータ回路20はパッキン43に押されて極僅かに上方に突出するように撓み、パッキン43は突出部40aと第2基板22の間で若干圧縮される。具体的には、第2基板22の溝部217a、217bを設けた可撓部が撓むことで、インバータ回路20はパッキン43に押されて極僅かに上方に突出しており、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aには、殆どストレスが加わらない(応力集中が発生しない)ようになっている。
このようにインバータ回路20をインバータカバー40に装着したら、インバータ回路20とインバータカバー40との組立体をハウジング1に装着する。具体的には、インバータカバー40をネジ42でハウジング1に固定する。これに伴い、インバータ回路20の第1基板21の第2面21bが、ハウジング1の取付面1cに密着する。
インバータ回路20とインバータカバー40との組立体をハウジング1に装着する前には、インバータ回路20はハウジング方向に僅かに撓んで突出しているが、ネジ留めを進めインバータ回路20およびインバータカバー40の組立体がハウジング1に近づいていき、第1基板21の第2面21bがハウジング1の取付面1cに接した以降は、インバータ回路20の突出量が減少してパッキン43の圧縮量が増加し、第1基板21の第2面21bとハウジング1の取付面1cとの密着状態が確実なものとなる。このとき、貫通端子16と第1基板21の出力部との電気的接続も行われる。
このようにして、インバータ回路20のハウジング1への装着が完了したときには、各構成部品の寸法ばらつき(主に基板厚さ方向の寸法ばらつき)により、インバータ回路20に撓みが残っている場合がある。この場合も、第2基板22の溝部217a、217bを設けた可撓部が撓むことで、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aには、ストレスが加わらないようになっている。
上述の構成によれば、インバータ回路20は、絶縁基材211中にパワー素子214を内蔵した素子内蔵基板である第1基板21と、非素子内蔵基板である第2基板22とが積層配置されて、第2基板22がハウジング1に対して位置決め固定されている。第1基板21は、第2基板22よりもハウジング側に配設され、第1面21aに電極212aが設けられて、この電極212aが第2基板22の電極222と電気的に接続されて電気的接続部20aを形成するとともに、第2面21bがハウジング1の外面のうち内部を吸入冷媒が流通する部位に形成された取付面1cに密接している。
したがって、インバータ回路20を製造する際には、第2基板22の表面に回路素子を実装するときに、回路素子と同様に第2基板22に対して第1基板21を実装し、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aを形成することができる。また、絶縁基材211の内部にパワー素子214を内蔵した第1基板21をハウジング1の取付面1cに密接させ、ハウジング1内部を流通する吸入冷媒で冷却することができる。このようにして、パワー素子214の冷却性を確保しつつインバータ回路20を製造する際の電気的接合作業を簡素化することができる。
また、第2基板22には、第1基板21が積層配置された領域のうち電気的接続部20aを除く領域に開口22aが形成されており、この開口22a内において第1基板21の第1面21aに回路素子215aが実装されている。このように、パワー素子214や回路素子215、215aを所謂3次元配置することで、第1基板21の実装密度を向上して配線長さを比較的短くすることが可能である。これに伴い、内蔵されたパワー素子214および第1面21aに実装された回路素子215aを含む閉ループ回路を形成したときの配線インダクタンスを低減でき、パワー素子214のスイッチング動作時に発生するサージ電圧を低減してノイズの発生を抑制することができるとともに、損失を低減することができる。
また、インバータカバー40と第2基板22との間に、圧縮されつつ介設された弾性部材であるパッキン43を備えており、このパッキン43が、第2基板22をハウジング1に向かって押圧している。したがって、パッキン43が第2基板22を介して第1基板21をハウジング1に向かって押圧し、第1基板21の第2面21bをハウジング1の取付面1cに確実に密着させることができる。
また、パッキン43は、第2基板22の上面うち下面側に電気的接続部20aが形成された領域を押圧している。したがって、パッキン43が第2基板22を介して第1基板21をハウジング1に向かって押圧し、第1基板21の第2面21bをハウジング1の取付面1cに密着させても、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aに応力集中が発生することを防止することができる。
また、第1基板21と第2基板22との間には電気的接続部20aを除く部分に接着剤であるアンダフィル20bが介装されて、第1基板21と第2基板22とを接着している。したがって、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aの周囲をアンダフィル20bで補強して、第1基板21と第2基板22との電気的接続部20aに応力集中が発生することを確実に防止することができる。
また、駆動回路部であるインバータ回路20は、モータ部10へ供給する供給電力を制御するパワー素子214を絶縁基材211中に内蔵した第1基板21を備えており、第1基板21は、ハウジング1の取付面1cに取り付けられ、ハウジング1内を流通する吸入冷媒で冷却されるようになっている。したがって、パワー素子214の本体部を回路基板とは異なる層に配設してハウジングに押し付け冷却する必要がない。このようにして、パワー素子214の冷却性を確保しつつインバータ回路20の体格を小型化することができる。
また、パワー素子の本体部を回路基板とは異なる層に配設してハウジングに押し付けパワー素子を冷却する場合には、回路基板の熱をハウジングに伝え難いが、本実施形態の構成によれば、第1基板21からハウジング1に放熱することが可能であり、放熱性を向上することができる。
また、パワー素子の本体部を回路基板とは異なる層に配設してハウジングに押し付けパワー素子を冷却する場合には、一般的に貫通端子と回路基板との電気的接続部にインナーコネクタが用いられる。
これは、以下のような理由による。貫通端子のハーメチックシール部にガラス材を用いると、貫通端子の構成材料として、線膨張係数がガラス材の線膨張係数と近似した材料を用いる必要がある。また、回路基板は空間絶縁を確保するためにハウジングとの空間距離を確保して例えばアルミニウム材からなる固定部材を介してハウジングに固定される。しかし、この固定部材は貫通端子よりも線膨張係数が大きく、貫通端子と回路基板との電気的接続部は上記空間距離のためにハーメチックシール部から大きく離れている。これにより、温度変化の大きい環境下で貫通端子と回路基板との電気的接続部において大きな応力が発生することを抑制するためにフローティング構造を有するコネクタが用いられる。
ところが、本実施形態の構成によれば、図4に示すように、第1基板21を絶縁放熱シート24を介してハウジング1の取付面1cに当接できるので、貫通端子16のハーメチックシール部と第1基板21との空間距離を低減することができる。これにより、温度変化の大きい環境下で貫通端子16と第1基板21との電気的接続部において大きな応力が発生することを抑制できるので、インナーコネクタを廃止することができる。
また、第1基板21は、パワー素子214よりも取付面1c側となる部位において絶縁基材211中に放熱用チップ216を有している。したがって、パワー素子214が発する熱を放熱用チップ216を介してハウジング1に伝達し易く、パワー素子214の冷却性を向上することができる。
また、放熱用チップ216はパワー素子214と電気的に接続されており、放熱用チップ216と貫通端子16とが直接接続している。したがって、比較的大電流であるモータ部10への供給電流の導通経路をコンパクトにすることができ(幅広の導体パターン等を用いる必要がなく)、第1基板21の体格を一層小型化することができる。なお、本実施形態では、放熱用チップ216に接する導体パターン212は、パワー系であっても非パワー系と同一厚さの金属箔を用いることができる。
また、第1基板21の下面に露出した放熱用チップ216をパワー系の導通経路としているが、第1基板21とハウジング1の取付面1cとの間には絶縁放熱シート24が介装されているので、放熱用チップ216とハウジング1との間の短絡を防止することができる。
また、インバータ回路20は、素子内蔵回路基板である第1基板21と非素子内蔵回路基板である第1基板22とを電気的に接続して構成している。したがって、インバータ回路20を構成する基板の一部を比較的安価な非素子内蔵回路基板として、インバータ回路20を比較的安価に構成することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
上記実施形態では、第2基板22の開口22aは、第2基板22のほぼ中央部に形成されていたが、これに限定されるものではない。開口22aは、第2基板22の中央部から偏在するものであってもよいし、例えば、図7に示すように、第2基板22の辺部から内方に向かって切欠いた(凹部を形成した)切欠き構造の(凹部状の)開口22aであってもかまわない。
また、上記実施形態では、第2基板22の上面(反ハウジング側の面)に溝部217a、217bを形成して、他の部位よりも撓み易い可撓部としていたが、可撓部の構成はこれに限定されるものではない。例えば、溝部217a、217bのいずれかのみとしてもかまわない。また、図8に示すように、第2基板22の下面(ハウジング側の面)に溝部217a、217bを形成して可撓部としてもよい。また、図9に示すように、溝部ではなく、間隔をあけて配列した貫通孔217c、217dにより可撓部を構成してもよい。また、これらを組み合わせたものであってもよい。可撓部は第2基板22の固定部223aと電気的接続部20aとの間に設けるものであればよいが、電気的接続部20aを取り囲むように環状に設けることがより好ましい。
また、上記実施形態では、第2基板22の反ハウジング側に配設した弾性部材であるパッキン43で、第2基板22を直接ハウジング方向に押圧していたが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、パッキン43と第2基板22との間に、例えば樹脂製もしくは金属製のプレート部材44を介在させてもかまわない。プレート部材44を図示上方側から見たときに電気的接続部20aの全域を覆うように設ければ、パッキン43による押圧力が電気的接続部20aに均等に加わり、応力集中が発生することを確実に防止することができる。また、プレート部材44を第1基板21と第2基板22とが重なった領域の全て覆うように設ければ一層好ましい。
また、上記実施形態では、第2基板22がネジ223でインバータカバー40に固定され、インバータ回路20はインバータカバー40を介してハウジング1に対して位置決め固定されていたが、これに限定されるものではない。例えば、第2基板22のインバータカバー40への固定には、ネジ以外の係着手段(固定手段)を採用してもかまわない。また、第2基板22を直接ネジもしくはネジ以外の係着手段(固定手段)でハウジング1に固定して、インバータ回路20をハウジング1に対して位置決め固定するものであってもよい。
例えば、図11に示すように、第2基板22をネジ223でハウジング1に固定するものであってもよい。この場合には、第2基板22の反ハウジング側に配設した弾性部材でで第2基板22をハウジング方向に押圧してもよいが、図11に示すように、ネジ224で第2基板22の反ハウジング側に配設した樹脂製もしくは金属製のプレート部材225をハウジング1に対してネジ止めして、第2基板22をハウジング方向に押圧するものであってもよい。
このプレート部材225は、環状に形成して図示上方側から見たときに電気的接続部20aの全域を覆うように設ければ、押圧力が電気的接続部20aにほぼ均等に加わり、応力集中が発生することを確実に防止することができる。また、プレート部材224を第1基板21と第2基板22とが重なった領域の全て覆うように設ければ一層好ましい。図11のように構成すれば、ハウジング1に対して、インバータ回路20、プレート部材225、インバータカバー40を順次一方向組み付けでき、製造性の観点から極めて好ましい。
また、図12に示すように、ネジ224を、第1基板21と第2基板22とが重なった領域に配設して、第2基板22の反ハウジング側に配設したプレート部材225をハウジング1に対してネジ止めして押圧するものであってもよい。これによれば、プレート部材225を比較的小さくすることが可能である。また、例えば、図11や図12に示した構成において、プレート部材225と第2基板22との間にゴム製のガスケット等の弾性部材を介装するものであってもよい。
また、上記実施形態では、貫通端子16は、インバータ回路20の第1基板21に電気的に接続していたが、これに限定されるものではなく、例えば、図13に示すように、第2基板22に電気的に接続するものであってもよい。
また、上記実施形態では、第2基板22に開口22aを設けていたが、これに限定されるものではなく、例えば、図14に示すように、開口を有しない第2基板22を採用してもかまわない。
また、上記実施形態では、第2基板22に溝部217a、217bからなる可撓部を形成するとともに、第2基板22をハウジング方向へ押圧する弾性部材であるパッキン43を配設していたが、電気的接続部20aに不具合を発生するようなストレス与えずに第1基板21をハウジング1に押し付けることができれば、可撓部および弾性部材のいずれかもしくは両者を廃止することも可能である。
また、上記実施形態では、モータ部10から延びる貫通端子16は、第1基板21の貫通孔211a内に配設されて、出力部である放熱用チップ216の貫通孔216aに接続していたが、これに限定するものではない。例えば、第1基板21からモータ部10へ供給電力を出力する出力部は、放熱用チップ216に設けず、導体パターン212等の配線部に設けてもかまわない。
また、上記実施形態では、放熱用チップ216は、パワー素子214と電気的に接続していたが、これに限定するものではない。例えば、導体パターン212と放熱用チップ216との間に絶縁放熱シート24を介在させてもよい。
また、上記実施形態では、駆動回路部であるインバータ回路20を、第1基板21および第2基板22の2枚の基板で構成していたが、これに限定されるものではない。インバータ回路20は、第1基板21および第2基板22を含む3枚以上の基板で構成してもよい。
また、上記実施形態では、駆動回路部であるインバータ回路20は、モータ部10の軸線方向(モータ部10と圧縮機構30とが並んだ方向)にほぼ平行なハウジング1の側面部に取り付けられていたが(所謂キャメルバックタイプの電動圧縮機であったが)、これに限定されるものではなく、ハウジング1の外面のうち内部を吸入冷媒が流通する部位に形成された取付面に取り付けられるものであればよい。例えば、モータ部10の軸線方向における反圧縮機構側の面(図1図示右方側の面)に取り付けられるものであってもよい(所謂インラインタイプの電動圧縮機であってもよい)。