以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1に、本発明によるモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例1を示す。本例のモータ巻線ターン間部分放電計測装置は、サージ電圧発生装置1、サージ電圧波形調整回路4、サージ電圧計測器8、9、10、部分放電電流検出器3、解析表示装置7、及び、制御記録装置30を有し、供試モータ2の巻線ターン間部分放電を計測する。尚、巻線ターン間部分放電とは、例えば、供試モータ2の1つの巻線の口出し22とその巻線の任意ターン26の間における部分放電のことである。
サージ電圧発生装置1は、交流‐直流変換器11、直流平滑・過電流検出素子20、21、直流充電用コンデンサ12、13、及び、後段のサージ電圧波形調整回路4に上アーム16の正電圧と下アーム18の負電圧を供給するためのスイッチ14、15を有する。交流‐直流変換器11は、通電時間が変えられるサイリスタなどの半導体素子で構成した三相あるいは単相交流全波回路もしくは半波整流回路で構成されており、半導体素子のゲート信号のON,OFF時間を変えることにより、出力直流電圧の大きさを変化させることができる。直流平滑・過電流検出素子20、21は、リアクトルおよび抵抗で構成されており直流電圧に重畳したリップルや高周波ノイズを平滑化するとともに、電源側から負荷側に流れる電流を計測し、絶縁破壊、地絡などの負荷異常を検知する。整流した直流はコンデンサ12、13で蓄えられる。コンデンサ12、13の接続点17は接地し、交流‐直流変換器11で生成した直流電圧をEとした場合、それぞれのコンデンサにはE/2の電圧が分担され、上アーム16と下アーム18の対地電圧はそれぞれE/2、‐E/2となる。制御記録装置30からの制御信号は、高耐圧ドライバ回路19によって直接もしくは電気‐光、光‐電気信号に変換され、スイッチ14、15のON、OFFを制御する。スイッチ14、15にはIGBT、MOS−FET素子などの高速スイッチを使用できる。スイッチ14と15は、スイッチ14がONの間はスイッチ15がOFFとなり、スイッチ14がOFFの間はスイッチ15がONとなるプッシュプル型回路として制御され、サージ電圧発生装置1の出力27は、図の右上に示した‐E/2とE/2を変化する対地サージ電圧となる。なお、実施例1ではサージ電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間は0.1μsである。また、E/2の電圧部分のパルス幅は1μs〜2msまで変化させることができる。パルスの繰り返し周波数は50Hz〜20kHzまで変化させることができ、対象とするインバータのキャリア周波数で試験することができる。一方、サージ電圧発生装置1のもう一方の出力28は、‐E/2の一定電圧を出力する。
図13はサージ電圧波形調整回路4の例を示す。サージ電圧波形調整回路4は、例えば、LCRフィルタ、RCフィルタ、長尺ケーブル等で構成されており、サージ電圧発生装置1の出力27で発せられた電圧波形をモータ巻線ターン間の部分放電試験に必要な波形にすることができる。すなわち、サージ電圧波形調整回路4をLCRフィルタで構成した場合、サージ電圧発生装置1の出力波形131は、LCRフィルタの(√LC)の値およびダンピング抵抗Rの値が大きい場合には、電圧立ち上がり時間が緩やかな132の波形となり、(√LC)の値およびダンピング抵抗Rが小さい場合には高速LC共振振動波形となる。なお、後者の場合、簡易的にインバータ駆動モータのモータ端サージ電圧振動波形を模擬することができる。
一方、サージ電圧波形調整回路4をRCフィルタで構成した場合には、サージ電圧発生装置1の出力波形131は、コンデンサと抵抗の時定数で決まる充電特性に従った電圧立ち上がり特性134となる。
サージ電圧波形調整回路4を長尺ケーブルで構成した場合には、サージ電圧調整回路4の寸法が大きくなるが、実フィールドのインバータ駆動モータのモータ端サージ電圧振動波形を模擬することができる。長尺ケーブルには、実フィールドで使用されるシールド無しケーブルや、鉄管や平編線でシールドされたケーブル等を使用することができる。サージ電圧発生装置1の出力波形131は、シールドが無い場合135とシールドを有する場合136では異なるが、共に、共振波形となる。なお、サージ電圧波形調整回路4には、以上の波形調整回路をスルーするための分路も含まれており、サージ電圧発生装置1の出力波形をストレートに出力することもできる。
図1に戻る。サージ電圧波形調整回路4の出力5は、部分放電電流検出器3を介して、供試モータ2の3相巻線の内、2つの巻線の口出し22、23に接続される。また、部分放電電流検出器3において、それぞれの高圧接続線は、互いに逆方向に貫通している。それにより、サージ電圧の立ち上がりと立ち下がりの急峻電圧時間変化に伴いモータ巻線22、23の浮遊容量に同時に流れる充電電流をキャンセルし、かつ、被試験相の巻線の高圧印加側で発生する部分放電電流を高感度に検出することができる。一方、供試モータ2の3相巻線の内、他相の巻線の口出し24はサージ電圧発生装置1の負極性一定電圧出力端子28が接続される。なお、モータコア25を接地することで、サージ電圧発生装置1の出力電圧が、被試験相22、23の巻線−コア間に印加される。モータの各絶縁部に加わる電圧は、サージ電圧計測器8、9、10を接続することで計測でき、例えばサージ電圧波形調整回路4の出力5と、モータ被試験相の巻線の任意ターン26とサージ電圧発生装置1の一定電圧出力端子28の対地電圧を計測することができる。
解析表示装置7には、サージ電圧計測器8、9、10と部分放電電流検出器3の出力が接続される。解析表示装置7内部では、サージ電圧計測器8、9、10の出力電圧を演算することで、モータの巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間絶縁部に加わる電圧を表示、記録する。具体的には、実施例1では巻線ターン間電圧は、サージ電圧計測器8と9の出力の差電圧をアナログもしくはデジタル演算することで求められる。また、実施例1ではモータコア25を接地しているので、巻線‐コア間電圧はサージ電圧計測器8の対地電圧と一致する。巻線22、23の相と巻線24の相の異相間電圧は、サージ電圧計測器8と10の出力の差電圧をアナログもしくはデジタル演算することで求められる。部分放電電流検出器3の出力は、解析表示装置7のアナログもしくはデジタルハイパスフィルタもしくはバンドパスフィルタに接続され、サージ電圧の立ち上がりと立ち下がりの急峻電圧時間変化に伴いモータ巻線22、23の浮遊容量に流れる充電電流を除去し、部分放電電流のみを表示し、記録することができる。ハイパスフィルタもしくはバンドパスフィルタのカットオフ周波数は、サージ電圧の立ち上がり、立ち下がり時間0.1μsの逆数の10MHz以上が必要であり、30MHz〜70MHz程度が望ましい。なお、前述のように、実施例1では、部分放電電流検出器3にモータ巻線22、23の接続リードを逆方向に貫通させることで、サージ電圧の立ち上がりと立ち下がりの急峻電圧時間変化に伴うモータ巻線22、23の浮遊容量に同時に流れる充電電流をキャンセルする。また、キャンセルできなかった充電電流はフィルタで除去するため、高感度で部分放電計測できる。しかしながら、例えば、三相巻線の製作途中に特定の一相を試験したい場合には、被試験相が1つしかない。ところが、このような場合にも、解析表示装置7内のフィルタのカットオフ周波数をさらに10〜30MHz程度高くすれば、特定の一相の部分放電を部分放電電流検出器3で計測することもできる。
制御記録装置30は、サージ電圧発生装置1と解析表示装置7を制御し、データを記録する。具体的には、サージ電圧発生装置1の電圧波高値は、整流回路11のゲート信号制御線31を介しゲートパルス信号を出力して制御し、サージ電圧の発生は、スイッチ14、15を制御するドライバ回路19に制御線32を介し入力信号を加えて制御する。一方、部分放電の有無は、解析表示装置7にノイズレベル以上のWindowトリガを掛け、Window設定電圧を超える部分放電が発生し、Windowトリガが発生した場合に部分放電が発生したと認識する。制御記録装置30は、トリガの発生信号を受けて、放電電流の大きさと、放電が発生した際に観測していたモータ巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧のいずれかの電圧を取り込む。同時に巻線‐コア間電圧の急峻電圧変化量をモータ巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV…Corona Starting Voltage)として表示し、記録する。なお、具体的な試験では、0Vもしくは実績上、部分放電が発生しない電圧レベルからサージ電圧発生装置1の整流回路11の直流電圧を昇圧し、スイッチ14、15にON/OFF信号を入力することでパルス電圧を出力する。同時に、部分放電の有無を解析表示装置7のトリガの有無で監視し、部分放電が発生した時点の直流電圧出力指示値とモータ巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧を記録する。さらに、部分放電発生時の巻線‐コア間電圧の急峻電圧変化量をモータ巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)として表示、記録する。記録したモータ巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)が、インバータ駆動時にモータ端の巻線―コア間に加わる急峻電圧変化量に安全率αを掛けた目標電圧に比し低い場合には警告を出す。
図2に、実施例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用において、モータ被試験相の口出し側にサージ電圧を印加した際の口出し部分の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流の計測波形を示す。上述のように、巻線ターン間電圧はサージ電圧計測器8と9の出力の差によって得られ、巻線‐コア間電圧はサージ電圧計測器8の出力によって得られ、異相間電圧はサージ電圧計測器8と10の出力の差によって得られ、部分放電電流は部分放電電流検出器3の出力によって得られる。
サージ電圧発生装置1の出力電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間は0.1μsとし、電圧がE/2一定の部分のパルス幅は10μsにした。サージ電圧の繰り返し周波数は50Hzとした。サージ電圧波形調整回路4では入力をストレートで出力させた。なお、巻線‐コア間電圧の場合、電圧波形線201は、図1のモータ被試験相の電圧印加部分22で計測した電圧波形を示し、電圧波形202は、巻線ターンの一部26で計測した電圧波形を示す。本発明の試験装置で各絶縁部に加わる電圧波形を測定した結果、巻線ターン間には、サージ電圧が被試験相の電圧印加部分22(電圧波形201)から巻線ターンの一部26(電圧波形202)に伝播時間τだけ遅延して伝播することにより分担電圧が発生していることが明らかになった。また、巻線‐ターン間の分担電圧のピークは、巻線‐コア間の急峻電圧変化量ΔV=E(=E/2‐(‐E/2))に対しk=0.8倍であり、巻線‐コア間の急峻電圧変化量ΔVがほぼ巻線ターン間に印加されていた。
これらのことは、従来のように、コアを浮動電位にした状態でモータ巻線の巻始めと巻き終わりに電圧を印加し、モータ巻線に直列にサージ電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電計測する巻線ターン間部分放電試験方法では、巻線ターン間に十分に電圧を印加することができない、もしくはコアと周囲の浮遊容量次第でモータ巻線ターン間の分担電圧が毎回異なり、正確に巻線ターン間の部分放電を計測できないことを示唆する。さらに言い換えれば、従来のモータ巻線ターン間部分放電試験では、異相間電圧を試験電源側で制御し、巻線ターン間に電圧を印加、部分放電を計測するが、実際には巻線−コア間の急峻電圧変化量に比例して巻線ターン間の分担電圧が決定される。したがって、本発明のように、巻線−コア間の急峻電圧変化量を制御し、巻線ターン間に電圧を印加して部分放電計測をしなければ、モータ巻線ターン間の正確な部分放電計測はできないことが判る。一方、巻線‐コア間の電圧は、波高値がE/2と‐E/2の矩形波であり、ピーク間電圧はEであった。また、異相間電圧は正極性矩形波電圧であり、ピーク間電圧はEであった。これらの巻線ターン間、巻線―コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流波形205を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置ではモータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、モータから部分放電が発生した際に各絶縁部に印加されていた電圧を示す。また、各絶縁部を模擬した要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)も示す。
図3は、絶縁部を模擬した要素モデルを示す。巻線ターンは、モータ巻線に使用したエナメル電線301と302の2本を撚り合わせた対撚り試料にて模擬した。巻線‐コア間は、モータ巻線に使用したエナメル電線311を、巻線‐コア間の絶縁に使用したポリエステルフィルム312の上に載せ、上から厚さ10mmの応力集中緩和および絶縁スペーサ用のシリコーンゴムマット314を載せ、これをさらに厚さ5mmのSUS平板313ではさんでボルト締めした試料で模擬した。また、異相間は、モータコイルエンドの異相間絶縁に使用したポリエステルフィルム322をモータ巻線に使用したエナメル電線321で挟み、さらにこれを応力集中緩和および絶縁スペーサ用シリコーンゴム324とSUS平板323で挟みボルト締めした試料で模擬した。部分放電計測では、正弦波とパルス電圧を出力できる電源にて試料331にインバータ波形を模擬した両極性パルス電圧をブロッキング抵抗及びコイル332を介して印加し、高周波CT335を用いて結合コンデンサ334と試料331の閉回路を流れる部分放電電流を計測し、部分放電が発生した際の試料印加電圧を部分放電開始電圧(CSV)として記録した。
図29の結果を比較すると、実施例1では、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、本発明の試験装置では巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
なお、実施例1では、サージ電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間を0.1μsとした。しかしながら、サージ電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間が必ずしも0.1μsでなくとも、巻線ターン間に電圧を分担させることができる可能性もある。そこで、サージ電圧の立ち上がり時間を変化させたときの巻線ターン間分担電圧を測定した。結果を図9に示す。
図9では、横軸をサージ電圧の立ち上がり時間、縦軸を対地間サージ電圧変化量に対する巻線ターン間分担電圧として示す。モータ巻線‐コア間のサージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)mが1μs以上では電圧分担率kはほぼ一定であるが、1μsに比し短くなると電圧分担率kは大きくなり、モータ端で観測されたサージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)m=0.1μsでは約80%であった。このことから、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置のサージ電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間は1μs以下、望ましくは望ましくは600Vあるいは1200V級IGBTで観測され、かつ、巻線ターン間の電圧分担が概ね飽和する0.1μs以下とすることが望ましいと考えられる。
一方、実施例1では、サージ電圧の立ち上がりと立ち下がりの間の時間、すなわちパルス幅twは10μsとした。しかしながら、サージ電圧の一定電圧を出力している間、電源は負荷側に電流を流れつづけなければならないためパルス幅twが長いとサージ電圧発生装置1の電源容量を大きくしなければならなくなる。そこで、パルス幅twを変化させたときの巻線ターン間分担電圧を測定した。
図11に、モータ巻線−コア間に印加する電圧V(p-c)のパルス幅twを変化させたときのモータ巻線ターン間分担電圧V(t-t)を示す。なお、パルス幅twは、モータ巻線で絶縁劣化が懸念される巻線ターン間をサージ電圧が伝播する時間τを基準に3条件について測定した。図11(a)は、tw>>τ、図11(b)はtw=τ、図11(c)は tw<<τの場合である。この結果、図11(a)、図11(b)に示すように、巻線−コア間の印加電圧V(p-c)のパルス幅twが巻線ターン間のサージ伝播時間τ以上の場合には、巻線ターン間の分担電圧V(t-t)のピーク間電圧は2k・E一定である。しかしながら、図11(c)に示すように、パルス幅twが巻線ターン間のサージ伝播時間τ未満の場合、巻線ターン間の分担電圧V(t-t)のピーク間電圧波2k・Eに比し小さくなっている。このことから、モータ巻線ターン間の部分放電試験では、モータ巻線−コア間に印加する電圧のV(p-c)のパルス幅twは、モータ巻線で絶縁劣化が懸念される巻線ターン間のサージ電圧伝播時間τ以上必要であることが明らかになった。
図30に、各種容量のモータで1コイルのサージ伝播時間τを測定した結果を示す。この結果、サージ電圧伝播時間τは容量毎に異なり概ね1μs〜2μsであった。したがって、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置では、少なくともモータ巻線−コア間に印加するサージ電圧のV(p-c)のパルス幅twは1μs以上、望ましくは1桁以上長い10μs以上必要と考えられる。
図12に、22kW、400Vrms級モータでモータ巻線−コア間にパルスtw幅1.5μの負極性パルス電圧を印加したときのモータ巻線ターン間分担電圧を示す。図30に示すように、22kWのモータでは、サージ伝播時間τが0.8〜1.0μsであるため、巻線−コア間に印加するサージ電圧のパルス幅twを1.5μsにした。モータ巻線−コア間の電圧121は、被試験相の巻き始め124と巻き終わり125の2点で測定した。パルス幅126は約1.5μsである。モータ巻線ターン間の分担電圧122は、被試験相の巻き始め124と巻き終わり125の巻線−コア間電圧の差電圧を計算し求めた。なお、部分放電電流123も同時に測定したところ、部分放電電流パルス129が観測された。
巻線ターン間分担電圧122では、始めに、巻線−コア間印加電圧121の負極性電圧変化部分の伝播遅れともに負極性の電圧ピークが現れ、その後、印加電圧121の正極性電圧変化部分の伝播遅れに伴い正極性の電圧ピークが現れている。しかしながら、22kWモータでは、図11と異なりサージ電圧の立ち下がり部付近ではサージ電圧124と125の間の伝播時間は短く、ピーク付近ではサージ電圧の伝播時間が長くなっている。また、特にピーク付近のサージ伝播時間を外装した結果、ピーク間電圧の中間電位で計測したサージ伝播時間τ=0.8μsに比し約10倍になっている。
前者の原因には、供試モータでは巻線ターン間の容量性結合が大きく、サージ電圧の急峻な電圧成分は容量性伝播することが、また、後者の原因には、巻線のLCフィルタ作用や鉄損、銅損などの高周波損失が大きくサージ電圧が巻線を伝播する際、高周波成分が減衰することが考えられる。すなわち、必ずしも、全てのモータで図11のような結果が得られるとは限らないことを示している。この結果、巻線ターン間分担電圧122では、負極性の電圧変化が0Vに収束しない間に、正極性の電圧変化が生じるため、巻線−コア間の印加電圧124から類推されるピーク間電圧に比し、ピーク間電圧128が電圧オフセット127分だけ小さくなっている。電圧オフセット127は、負極性電圧が0Vに戻らない内に正極性電圧変化が生じたことに起因する。したがって、このことからも、各種モータの巻線ターン間部分放電計測をする場合には、少なくともモータ巻線−コア間に印加するサージ電圧のパルス幅twには、被試験モータの巻線ターン間のサージ伝播時間τ以上、望ましくは10倍以上必要であると考えられる。
実施例1では、サージ電圧の繰り返し周波数を50Hzとした。一方、サージ電圧のトリガを外部トリガとしサージ電圧の繰り返し周波数を変化させて部分放電計測した結果を、図28に示す。縦軸は図29の巻線ターン間の要素モデル部分放電開始電圧2、080Vp-pを100%として記載した。サージ電圧のトリガ周波数を50Hz未満とした場合、繰り返し周波数を低くするとともに部分放電開始電圧は高くなり、測定誤差が大きくなった。また、マニュアルトリガで単発サージ電圧を印加した場合には、逆に部分放電開始電圧が低下する現象も発生した。これらの原因を検討した結果、前者の原因には、部分放電開始電圧の統計遅れや形成遅れが考えられた。また、後者の原因には、巻線−コア間や異相間の絶縁部表面に初期帯電電荷があったことが考えられた。したがって、本発明のモータ巻線ターン間の部分放電計測では、サージ電圧の繰り返し周波数を高くする必要があると考えられ、特に部分放電開始電圧の測定誤差を要素モデルの±10%未満に抑制する為には、実施例1のように繰り返し周波数を50Hz以上とすることが望ましいと考えられる。そこで、さらに繰り返し周波数を高くした場合についても検討した。この結果、20kHzまでは、図2のパルス性の部分放電電流205が観測された。しかしながら、20kHzに比し高周波とした場合、図2のパルス性の部分放電電流205は観測されなくなった。この原因には、過度にサージ電圧の繰り返し周波数を高周波にすると、放電形態がパルスからグローに移行してしまうことが考えられ、放電計測ができなくなることが考えられた。以上のことから、本発明のモータ巻線ターン間の部分放電計測では、サージ電圧の繰り返し周波数は50Hz〜20kHzとすることが望ましいと考えられる。
図4に、本発明で得られたモータ巻線ターン間部分放電計測装置および知見を用いて考案したインバータ駆動に適したモータの絶縁設計方法を示す。始めにステップS401にて、インバータ駆動モータの絶縁特性の検討、絶縁設計仕様の決定を行った。定格電圧Urms、直流電圧DCV、レベル数N、サージ電圧変化量ΔV i、サージ電圧立ち上がり時間tri、キャリア周波数f cなどのインバータ仕様と、インバータ‐モータ間を長さL kのケーブルで結びインバータ駆動した際のモータ端の異相間、巻線−コア間のピーク電圧Vp(p-p)m、Vp(p-c)m、巻線−コア間のサージ電圧変化量ΔV(p-c)m、サージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)mなどのサージ電圧波形定数と、サージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)mに対するモータ巻線ターン間の電圧分布k=V(t-t)/ΔV(p-c)mを測定あるいはシミュレーションで求める。具体的には、400Vrms級2レベルインバータで駆動するモータをインバータ駆動仕様とする場合には、インバータの直流電圧はダイオード整流回路の場合には約570Vとなり、レベル数は2、サージ電圧変化量ΔV iは約570Vとなる。サージ電圧立ち上がり時間triはインバータ出力端の実測値から0.08μsであった。キャリア周波数f cは500Hz〜16kHzの範囲内で顧客要求仕様に併せて選択されるが、顧客要求に合わせて5kHzとした。モータ端の異相間、巻線‐コア間のピーク電圧Vp(p-p)m、Vp(p-c)mは実際にインバータとモータをL k=50mのシールドケーブルで接続し、モータ端の電圧を測定し求めた。この結果、巻線‐コア間、異相間に印加される両極性電圧のピーク電圧はそれぞれVp(p-c)m=860Vp、Vp(p-p)m=1,140Vp、巻線−コア間のサージ電圧変化量はΔV(p-c)m=1,140V、サージ電圧立ち上がり時間はtr(p-c)m=0.1μsであった。したがって、インバータ駆動モータに適したモータでは、少なくとも、巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)は、それぞれ860Vp,1,140Vp,1,140Vに比し高い必要がある。一方、サージ電圧の立ち上がり時間tr(p-c)mに対するモータ内巻線ターン間電圧分布kでは、対象の容量、電圧階級のモータでは図9の特性が得られた。すなわち、モータ巻線‐コア間のサージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)mが1μs以上では電圧分担率kはほぼ一定であるが、1μsに比し短くなると電圧分担率kは大きくなり、モータ端で観測されたサージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)m=0.1μsでは約80%であった。この結果、インバータ駆動時には対象モータの巻線ターン間にk・ΔV(p-c)m=910Vpのピーク電圧の両極性電圧が分担される。
次に、ステップS402にて、得られた異相間、巻線‐コア間、巻線ターン間電圧に対して部分放電を発生させないために必要な比誘電率、厚みを有する絶縁材料やワニス候補を数種類選定し、ステップS403にて、巻線ターン間、異相間、巻線‐コア間の絶縁モデル試料を製作した。絶縁モデル試料の概観は図3に示す。具体的にはモータ巻線ターン間試料では、モータ巻線に使用するエナメル電線の皮膜厚、線径が異なる試料を用意し、同じ仕様の電線301と302を撚り合わせた対撚り試料を作成した。
ステップS404にて、作製した試料にはパルス電圧を課電し部分放電開始電圧(CSV)を測定した。その結果、エナメル電線対撚り試料の部分放電開始電圧(CSV)は750Vp〜1200Vpであった。ここでは、モータ巻線ターン間の分担電圧910Vpに対し、インバータ電源の電圧変動分10%を安全率として加味し、部分放電開始電圧(CSV)が1000Vpを満足するエナメル電線を採用した。次に、モータ巻線‐コア間試料では、各種厚さのポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート、マイカ、ガラスクロスなどのフィルム311を用意し、この上にモータ巻線に使用したエナメル電線311を載せ、上から厚さ10mmの応力集中緩和およびスペーサ用のシリコーンゴムマット314を載せ、これをさらに厚さ5mmのSUS平板ではさんでボルト締めした試料を作製した。作製した試料にはパルス電圧を課電し部分放電開始電圧(CSV)を測定した結果、各種フィルムの部分放電開始電圧(CSV)は1200〜1800Vpであった。モータ巻線‐コア間の分担電圧の実測値は860Vpであるため、いずれのフィルムでも余裕があるが、モータ巻線‐コア間電圧ではインバータの入力側三相交流電源の不平衡で電圧変動が発生し正弦波電圧が重畳する恐れがあるため、異相間と同じレベルの分担電圧が発生する可能性を加味し、異相間電圧1140Vpの安全率10%増しの1250Vpを満足するフィルムを採用した。モータ異相間試料では、巻線‐コア間と同じく各種厚さのポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート、マイカ、ガラスクロスなどのフィルム322を用意し、これをエナメル電線321で挟み、さらに応力集中緩和およびスペーサ用シリコーンゴム324とSUS平板323で挟みボルト締めした試料で模擬した。作製した試料にはパルス電圧を課電し部分放電開始電圧(CSV)を測定した結果、各種フィルムの部分放電開始電圧(CSV)は1300〜1800Vpであった。ここでは、モータ異相間の分担電圧1140Vpに対しインバータ電源の電圧変動分10%を安全率として加味し、部分放電開始電圧(CSV)が1140Vpの10%増しの1250Vpを満足するフィルムを採用した。ステップS405にて、決定した絶縁仕様でモータ試料を製作した。
ステップS406にて、製作したモータの巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。
図5は、Y結線のモータの測定方法の例を示す。すなわち、巻線‐コア間部分放電開始電圧(CSV)測定では、モータ55のUVWXYZを一括し、これを試験電源51にブロッキングコイル及び抵抗52を介して接続した。また、モータコア25は接地し、巻線‐コア間にパルス電圧を印加し、部分放電開始電圧(CSV)を測定した。部分放電は高周波CT54で測定した。高周波CT54は、部分放電電流閉回路を作るための結合コンデンサ53とモータコア25の接地端子にクランプし部分放電電流および部分放電が発生した際の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。
ステップS407にて、異相間部分放電開始電圧(CSV)測定を行った。モータ55の中性点を切った状態でU相とV相を試験電源51にブロッキングコイル及び抵抗52を介して接続した。また、他方のW相は接地し、U‐X/W‐Z巻線の異相間とV‐Y/W‐Z巻線の異相間にパルス電圧を印加した。部分放電は高周波CT54で測定した。高周波CT54は、結合コンデンサ53と被試験相の高圧リードと接地端子にクランプし部分放電電流および部分放電が発生した際の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。同様の回路でV,W相を試験電源51にブロッキングコイル及び抵抗52を介して接続し、V‐Y/U‐X巻線の異相間にパルス電圧を印加し、異相間の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。
ステップS408にて、巻線ターン間部分放電開始電圧(CSV)測定を行った。U‐X、V‐Y,W‐Z巻線をY型に接続した巻線に対し、前述の巻線ターン間部分放電計測を実施した。具体的には、図5に示すようにU相とV相をモータ巻線ターン間試験電源56のパルス出力端子にブロッキングコイル及び抵抗52を介して接続した。また、他方のW相は巻線ターン間試験電源56の一定電圧出力端子に接続した。モータコア25は接地し、サージ電圧発生装置の電圧が被試験相U,V相の巻線−コア間に加わるようにした。なお、モータ巻線ターン間試験電源56のサージ電圧発生装置およびサージ電圧波形調整回路の出力のサージ電圧立ち上がり時間trと立ち下がり時間tfは、インバータ駆動時のモータ端巻線‐コア間サージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)m=0.1μsとした。また、パルス幅twは10μsとし、繰り返し周波数はインバータのキャリア周波数の5kHzとした。部分放電は高周波CT54で測定した。高周波CT54は、結合コンデンサ53と被試験相のパルス電圧印加リード線と一定電圧印加リード線にクランプし部分放電電流および部分放電が発生した際の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。
ステップS409にて、絶縁仕様を決定する。以上の結果、モータ巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)は、モータワニス処理の有無に関わらず、それぞれ1300Vp、1340Vp,1310Vであった。インバータ駆動モータの分担電圧は、それぞれ860Vp,1140Vp,1140Vであるが、電圧変動や電源不平衡に対する安全率を考慮とすると、前述のように部分放電開始電圧(CSV)はモータ巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間についてそれぞれ目標1250Vp、1250Vp,1250Vを満足する必要がある。したがって、製作したモータの部分放電開始電圧(CSV)は、いずれも目標電圧をクリアしている。このことから、以上のモータ絶縁設計方法を採用することで、インバータ駆動に適したモータの絶縁設計および仕様の決定ができると考えられる。
なお、以上の絶縁設計では、インバータ駆動モータの巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の絶縁仕様を決定する方法を示した。しかしながら、商用周波駆動時にもモータの巻線‐コア間、異相間には比較的高い電圧が印加される。このため、従来からこれらの絶縁部に関しては絶縁設計、検討データが多くあり、前述の検討をしなくとも既存の設計資料を使用して設計できる場合もある。このような場合、インバータ駆動モータの絶縁設計では巻線ターン間の絶縁設計のみができれば良い。また、以上の方法では、モデル試料の絶縁特性をベースにモータ試料を製作した。しかしながら、以下に説明するように、はじめからモータ試料を作製した方が、製造時の機械劣化を加味した絶縁特性の検討ができ、効率が良い場合もある。
図6を参照して、モータ巻線ターン間の絶縁仕様を決定する他の方法を説明する。本例では、モータ試料を作製してから、モータ巻線ターン間の絶縁仕様を決定する。ステップS601にて、インバータ駆動用モータ絶縁候補仕様で製作したモータ試料数種類を製作する。次に、ステップS602〜S608では、先ず、図1のサージ電圧発生装置1およびサージ電圧波形調整回路4の出力電圧の立ち上がり時間trと立ち下がり時間tfを同一に設定する。製作したモータを駆動する際のモータ端巻線‐コア間のサージ電圧立ち上がり時間tr(p-c)mが既知の場合には、それを、立ち上がり時間trとする。異相間のサージ電圧立ち上がり時間tr(p-p)mが既知の場合には、それを、立ち上がり時間trとする。これらの値ば既知でない場合には、600Vや1200V級IGBTインバータで観測された約0.1μsを、立ち上がり時間trとする。
ステップS609にて、巻線ターン間の部分放電試験、部分放電開始電圧(CSV)を測定する。ステップS602〜S608では、モータ端急峻電圧変化量ΔVを設定する。例えば、インバータ駆動時のモータ端における巻線‐コア間間急峻電圧ΔV(p-c)mが得られた場合には、それを、モータ端急峻電圧変化量ΔVとする。異相間急峻電圧ΔV(p-p)mが得られた場合には、それを、モータ端急峻電圧変化量ΔVとする。インバータ端のサージ電圧立ち上がり時間tri、インバータ端の急峻電圧変化量ΔVi、及び、インバータ‐モータ間のケーブル長Lkが得られている場合には、次に式に従って、モータ端急峻電圧変化量ΔVを設定する。
ΔV=2ΔVi (γ≦2)
ΔV=4ΔVi/γ(2<γ≦4 )
ΔV=ΔVi (γ>4 )
(γ=tri・c/(Lk・√εr))
これらの式の変数が未知である場合には、インバータ端の急峻電圧ΔViの2倍を、モータ端急峻電圧変化量ΔVとし、又は、インバータ定格電圧Urmsから類推した急峻電圧変化量2√2Urmsをモータ端急峻電圧変化量ΔVとする。
ステップS619にて、測定した部分放電開始電圧(CSV)をモータ端急峻電圧変化量ΔVに安全率αを掛け合わせ電圧αΔVと比較する。部分放電開始電圧(CSV)が電圧αΔVより大きい場合には、ステップS620にて、インバータ対応絶縁仕様を決め、部分放電開始電圧(CSV)が電圧αΔVより大きくない場合には、ステップS621にて、絶縁仕様の見直し、ワニス処理や巻線ターン間絶縁の厚みを厚くするなどの絶縁強化をし、ステップS601に戻る。こうして、簡易的にインバータ駆動対応モータの絶縁システム設計をすることができる。
図7に、インバータ駆動対応絶縁仕様を検討、設計したモータを、実際に製作、検査し、個々の製品がインバータ駆動対応絶縁システムとして製作できているかどうか確認し、出荷する方法を示す。また、図10に、具体的に製作した低圧モータの固定子絶縁構造の概略例を示す。ステップS701にて、モータ固定子コア用の電磁鋼板、ボビン、巻線用のエナメルやガラス、フィルム絶縁電線、巻線−コア間や異相間の絶縁フィルム、スペーサ、チューブ、テープ、バインド線、ワニスなどの材料を選定し、用意する。ステップS702にて、コイル巻線と固定子コアを製作する。具体的には、図10のコイル巻線103や固定子コア100を製作する。ステップS703にて、製作したコイル巻線は、予め巻線‐コア間を絶縁するスロット絶縁を挿入された固定子コイルスロットに取り付け、ステップS704にて、固定子コアから外部に突き出した巻線同士が接触するコイルエンド部では異相間に絶縁用スペーサを挿入する。具体的には、図10のコイル巻線をスロット絶縁104が予め挿入されたスロット101に巻線104を取り付け、コイルエンド部102では、相が異なる巻線間に異相間絶縁フィルム105を挿入した。ステップS705にて、図10には図示していないが、固定子コアに挿入した複数のコイル巻線を、巻線の余長か、亘り線で直列あるいは並列に接続し、1相分のモータ巻線を組線する。亘り線には絶縁チューブなどの絶縁体を被覆するか、絶縁テープを巻きつける。コイルエンド部では、モータ巻線が運転中に振動しないように図示しない耐熱性のバインド線で縛り、固定する。
ステップS706にて、製作したモータは、ワニス処理前に始めに巻線のUVWXYZを一括し、巻線‐コア間にパルス電圧を印加し、部分放電開始電圧(CSV)を測定する。ステップS707にて、モータの中性点を切った状態で、U‐X/V‐Y/W‐Z巻線の異相間にパルス電圧を印加し、部分放電開始電圧(CSV)を測定する。ステップS708にて、最後にU‐X、V‐Y,W‐Z巻線をY型に接続した巻線に対し、本発明の巻線ターン間部分放電計測を実施する。具体的には、前述のインバータ駆動モータの絶縁検討と同じく、図5の回路にて試験した。なお、巻線−コア間、異相間、巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)にはワニス処理に伴う部分放電開始電圧(CSV)増加率β=1を掛け合わせた。この結果、5個の試作モータのいずれでも、インバータ駆動モータ絶縁システムの目標電圧を満足していた。すなわち、400Vrms級インバータ駆動モータを想定したが、いずれのモータでもモータ巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の目標値1250Vp、1250Vp,1250Vを満足していた。
以上の方法で製作したモータ固定子には、ステップS709にて、滴下、塗布、吹き付け、あるいは固定子巻線全体を浸漬することでワニス処理を実施する。具体的には、実施例1では、真空乾燥容器にモータを設置し、炉内を真空にした後、エポキシ樹脂中を真空注入しワニス処理をした。ワニス処理したモータ巻線は真空炉から取り出し、所定の乾燥、硬化スケジュールで硬化せしめた後、炉から取り出した。
ステップS710、S711、及び、S712にて、ワニス処理後のモータは前述のワニス処理前のモータ巻線と同様に部分放電計測し、各絶縁部の部分放電開始電圧(CSV)を測定した。測定した部分放電開始電圧(CSV)と目標電圧を比較した結果、モータ巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の目標値1250Vp、1250Vp,1250Vを満足していた。ステップS713にて、製作した固定子はフレームに焼き嵌め、固定した後、回転子を組み合わせ、所定の電気、機械、熱、回転試験を実施した後、製品を出荷した。
なお、測定した部分放電開始電圧(CSV)と目標電圧を比較した場合に、前者が後者に比し低い場合にはインバータ駆動モータとしては不合格とし、出荷を見合わせることとした。また、不合格品は再度ワニス処理をするなどの追加絶縁処理を施し再度部分放電開始電圧(CSV)測定し、再度、特性を満足しないものに関しては製造不良品として廃棄することとした。以上のように、本発明のモータ絶縁製造、検査方法を採用することで、インバータ駆動に適したモータの絶縁設計および仕様の決定ができると考えられる。
以上の絶縁製造、検査方法では、インバータ駆動モータの巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の全ての絶縁製造、検査方法を示した。しかしながら、商用周波駆動時にもモータの巻線‐コア間、異相間には比較的高い電圧が印加される。このため、従来からこれらの絶縁部に関しては絶縁設計、検討データが多くあり、前述の検査をしなくとも、既存の実績から十分な寿命を有すると考えることができる場合もある。このような場合、以下の図8の例のように、インバータ駆動モータの製作、検査では巻線ターン間の絶縁検査のみができれば良い。
図8を参照して、モータ巻線ターン間を検査する方法の他の例を説明する。本例では、を、先のモータの巻線‐コア間、異相間、巻線ターン間の絶縁製造、検査方法を基に考案し、フローチャートにしたものを図8に示す。ステップS801にて、インバータ駆動用モータ絶縁候補仕様で製作したモータを製作する。ステップS802〜S819は、図6のステップS602〜S619と同様である。ステップS619にて、部分放電開始電圧(CSV)をモータ端急峻電圧変化量ΔVに安全率αを掛け合わせ値αΔVと比較する。部分放電開始電圧(CSV)が値αΔVより大きい場合には、ステップS820にて、製品を出荷する。部分放電開始電圧(CSV)が値αΔVより大きくない場合には、ステップS821にて、製品を、インバータ駆動モータとしては特性不良、不合格とし、出荷を見合わせる。ステップS822にて、不合格品は再度ワニス処理をするなどの再絶縁処理を施し、ステップS801に戻る。それ以外は、ステップS823にて、製造不良品として廃棄する。
図14に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例2を示す。実施例1では、図1の実施例1では、供試モータ2の非被試験相24をサージ電圧発生装置の負極性一定電圧出力端子28に接続した。これに対し、実施例2では、非被試験相24をサージ電圧発生装置1の正極性一定電圧出力端子141に接続している。サージ電圧出力端子142には、図14の右下に示したE/2と‐E/2の間を変化する対地サージ電圧が出力される。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。
図19に、実施例2のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。巻線−コア間のサージ電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間は0.1μsとし、電圧が−E/2一定の部分のパルス幅は10μsにした。なお、図の巻線‐コア間電圧では、被試験相の電圧印加部分で計測した電圧波形201と、巻線ターンの一部で計測した電圧波形202を示す。実施例2でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例2のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例2のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例2でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例2のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図15に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例3を示す。図1の実施例1では、直流コンデンサ12と13の中間17を接地した。これに対し、実施例3では下アーム18および一定電圧出力端子152を接地している。この結果、サージ電圧出力端子151には、図15の右上に示した0とEの間を変化する対地サージ電圧が出力される。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。なお、実施例3では、下アーム18を接地したことと、サージ電圧発生装置の整流回路152にはダイオードブリッジを使用しことから、入力側には絶縁トランスおよびスライドトランス151を接続した。
図19に、実施例3のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例3でも、巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例3のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例3のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例3でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例3のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図16に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例4を示す。図15の実施例3では、下アーム18および一定電圧出力端子152を接地した。これに対し、実施例4では、上アーム16を接地し、この結果、サージ電圧出力端子161には、図16の右上に示した−Eと0の間を変化する対地サージ電圧が出力される。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。
図19に、実施例4のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例4でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例4のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例4のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例4でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例4のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図17に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例5を示す。実施例5では、図15の実施例3と同様に下アーム18および一定電圧出力端子152を接地している。このため、サージ電圧出力端子5には、実施例3と同様に0とEの間を変化する対地サージ電圧が発生する。しかしながら、実施例5では、アースに対しモータコア25にE/2の電圧のオフセット電圧を加えている。この結果、被試験相のモータ巻線−コア間には、図の右上に示すように、−E/2とE/2の間を変化するサージ電圧が印加される。
図21に、実施例5のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例5でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例5のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例5のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例5でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例5のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図18に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例6を示す。実施例1〜5では、コンデンサに直流を蓄電し、これをスイッチングすることでサージ電圧を出力した。しかしながら、実施例6では、直流を、整流回路152および直流平滑・過電流検出素子187とコンデンサ188で作成し、抵抗186を介して同軸ケーブル182の芯線に充電する。サージ電圧は、同軸ケーブルの終端184に接続したIGBT、MOS−FET、球ギャップ、サイラトロン、水銀リレーなどのスイッチ183をONすることで負荷抵抗185に発生させ、これをサージ電圧出力端子189からサージ電圧波形調整回路4を介して供試モータ2に印加する。この結果、図の右上に示すように、負荷抵抗185には0とEの間を変化する対地サージ電圧が発生する。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。
なお、実施例6の回路では、同軸ケーブル182の負荷抵抗185には、同軸ケーブル182のサージインピーダンスと同じ値の抵抗を使用し、インピーダンスマッチングを取る必要がある。一方、同軸ケーブルの反負荷抵抗側には、同軸ケーブル182のサージインピーダンスに比し大きい値の抵抗186を接続する必要がある。なお、出力サージ電圧のパルス幅は、スイッチ183がONした際のサージ電圧が同軸ケーブル182を往復する時間で決定されるため、同軸ケーブル182の長さを調節することでサージ電圧のパルス幅を変化させることができる。また、同軸ケーブル182はLCネットワーク回路で代用することもできる。
図21に、実施例6のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例6でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例6のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例6のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例6でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例6のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図20に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例7を示す。実施例7では、直流を整流回路152および直流平滑・過電流検出素子2007とコンデンサ2008で作成し、抵抗2006を介して同軸ケーブル2002のシースに充電する。サージ電圧は、同軸ケーブルのシースに接続したスイッチ2003をONすることで負荷抵抗2005に発生させ、これをサージ電圧出力端子2009からサージ電圧波形調整回路4を介して供試モータ2に印加する。この結果、図の右上に示すように、負荷抵抗2005には0と−Eの間を変化する対地サージ電圧が発生する。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。
なお、実施例7の回路では、同軸ケーブル2002の負荷抵抗2005には、同軸ケーブル2002のサージインピーダンスと同じ値の抵抗を使用し、インピーダンスマッチングを取る必要がある。一方、同軸ケーブルの終端側2004は、開放とするか、同軸ケーブル2002のサージインピーダンスに比し大きい値の抵抗を接続する必要がある。なお、出力サージ電圧のパルス幅は、スイッチ2003がONした際のサージ電圧が同軸ケーブル2002を往復する時間で決定されるため、同軸ケーブル2002の長さを調節することでサージ電圧のパルス幅を変化させることができる。また、同軸ケーブル2002はLCネットワーク回路で代用することもできる。
図21に、実施例7のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例7でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例7のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例7のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例7でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例7のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図22に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例8を示す。実施例8では、図18の実施例6と比較して、負荷抵抗185に並列にスイッチ221を接続した点が異なり、それ以外は実施例6と同様である。
図18の実施例6、及び、図20の実施例7では、スイッチ183、2003をONにし、同軸ケーブル182、2002に蓄電した電荷を、負荷抵抗185、2005に流すことでサージ電圧を発生させた。また、パルス幅は同軸ケーブル182、2002の長さで決定された。また、サージ電圧の最初の電圧変化、すなわち、実施例6では電圧立ち上がり時間、実施例7では電圧立ち下がり時間は、スイッチ183、2003のターンON時間で決定されていた。しかしながら、サージ電圧の次の電圧変化、すなわち、実施例6では電圧立ち下がり時間、実施例7では電圧立ち上がり時間は、スイッチ183、2003がONして発生したサージが同軸ケーブル中を伝播し、戻ってきた際のサージ電圧波形で左右される。すなわち、高周波伝送損失が大きい同軸ケーブルやLC回路を使用した場合、伝播中にサージが緩和され、結果的にモータに印加するサージ電圧の次の電圧変化、すなわち、実施例6では電圧立ち下がり時間、実施例7では電圧立ち上がり時間が緩やかになる可能性がある。
そこで、実施例8では、図22に示したサージ電圧の立ち下がり部分では、スイッチ221をONし、立ち下がり時間を立ち上がり時間と一致させることができる。以上の結果、図の右上に示すように、負荷抵抗185には0とEの間を変化する対地電圧が発生する。モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。
図25に、実施例8のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例8でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例8のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。
図29に、実施例8のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例8でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例8のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図23に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例9を示す。実施例9のモータ巻線ターン間部分放電計測装置のサージ電圧発生回路1は、実施例1のサージ電圧発生回路1と同じである。このため、サージ電圧出力端子232には、図23の右上に示した−E/2とE/2の間を変化する対地サージ電圧が出力される。また、モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。しかしながら、実施例1では供試モータ2の非被試験相24をサージ電圧発生装置1の一定電圧出力端子28に接続したのに対し、実施例9では供試モータ2の非被試験相24は浮動電位としている。
図25に、実施例9のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例9でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例9のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。なお、実施例9では、口出しのリードを介した容量性結合で非被試験相にサージ電圧の一部が伝播したため、異相間電圧のピーク電圧は2Eに比し小さくなった。
図31に、実施例9のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例9でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例9のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図24に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例10を示す。実施例10のモータ巻線ターン間部分放電計測装置のサージ電圧発生回路1は、実施例1のサージ電圧発生回路1と同じである。このため、サージ電圧出力端子232には、図24の右上に示した−E/2とE/2の間を変化する対地サージ電圧が出力される。また、モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。しかしながら、実施例1では供試モータ2の非被試験相24をサージ電圧発生装置1の一定電圧出力端子28に接続したのに対し、実施例10では供試モータ2の非被試験相24は抵抗接地している。
図25に、実施例10のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例10でも、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻で部分放電が発生しており、その他の時刻では部分放電が発生していなかった。このことから、実施例10のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できると示唆される。なお、実施例10でも、口出しのリードを介した容量性結合で非被試験相にサージ電圧の一部が伝播したため、異相間電圧のピーク電圧は2Eに比し小さくなった。
図31に、実施例10のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例10でも、巻線ターン間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。一方、巻線‐コア間、異相間の分担電圧は、要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の1/2程度であり部分放電は発生しないと考えられる。このことから、実施例10のモータ巻線ターン間部分放電計測装置でも、巻線ターン間に効率良く電圧を印加し、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できることが明らかになった。
図26に、本発明のモータ巻線ターン間部分放電計測装置の実施例11を示す。実施例11のモータ巻線ターン間部分放電計測は、後述の比較例1と同じく従来のインパルス巻線試験装置を用いている。しかしながら、実施例11では、従来の試験方法と異なり、被試験モータのコアを接地している。具体的には、実施例11のモータ巻線ターン間部分放電計測装置のサージ電圧発生回路は、絶縁トランス、スライダック281で電圧を調整し、直流を整流回路282および直流平滑・過電流検出素子262、263とコンデンサ264、265で作成し、抵抗266および277からコンデンサ270および271を、負荷抵抗272を介して充電する。また、スイッチ268と269を交互にONすることで、負荷抵抗272およびインパルス電圧出力端子275には、図の右上に示すように、両極性のインパルス電圧波形が対地サージ電圧として現れる。また、モータコア25を接地しているため、対地サージ電圧は被試験相の巻線−コア間に直接印加される。なお、スイッチには例えば球ギャップやサイラトロン、サイリスタ、GTO、IGBT,MOS−FET、水銀リレーなどが使用できる。
図2に、実施例11のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。実施例11では、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻だけでなく、インパルス電圧の緩やかな減衰部でも部分放電206、207が発生している。また、実施例1〜10と同じ大きさの電圧を巻線ターン間に分担させるためには、巻線−コア間および異相間に2倍の大きさの電圧を印加しなければならない。このことから、実施例11のモータ巻線ターン間部分放電計測装置では、モータ巻線ターン間の部分放電以外に巻線−コア間や異相間でも部分放電が発生し、巻線ターン間の部分放電を正確に計測できないことが示唆される。なお、巻線‐コア間電圧の場合、電圧波形線203は、モータ被試験相の口出し側にサージ電圧を印加した際の口出し部分の巻線‐コア間電圧、電圧波形線204は、巻線ターンの一部で計測した巻線‐コア間電圧を示す。
図30に、実施例11のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。実施例11では、巻線ターン間の分担電圧は要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。しかしながら、巻線−コア間の分担電圧も要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線−コア間でも部分放電が発生したと考えられる。このことから、実施例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置では、巻線ターン間だけでなく巻線−コア間でも部分放電が発生するため、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できないと考えられる。ただし、実施例11では、異相間では分担電圧は要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し低く、後述の従来の方法で試験した比較例1と異なり、異相間では部分放電は発生していない。このことから、供試モータに比し巻線−コア間の絶縁厚みが厚いモータでは、巻線ターン間の部分放電を計測できる可能性が考えられる。
図27に、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を示す。比較例1では、従来のインパルス電源とモータ巻線ターン間部分放電計測法に準じて、モータ巻線ターン間の部分放電計測をした。比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置のサージ電圧発生回路は、実施例11と同じである。このため、負荷抵抗272およびインパルス電圧出力端子275には、図の右上に示すように、両極性のインパルス電圧波形が対地サージ電圧として現れる。ただし、比較例1では、公知例と同様に、従来のインパルス電圧モータ巻線ターン間部分放電計測法に従い、モータコア25を接地していない。このため、モータコア25は浮動電位となり、モータ巻線と周囲の浮遊容量によって、測定毎にモータコア25の電位および、巻線‐コア間の電圧は変化すると考えられる。
図2に、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置を使用し、部分放電を発生させた際の巻線ターン間、巻線‐コア間、異相間電圧、部分放電電流計測波形を示す。比較例1では、巻線ターン間、巻線−コア間、異相間に電圧が加わった際の部分放電電流を観察したところ、巻線ターン間に電圧が印加されている時刻だけでなく、インパルス電圧の緩やかな減衰部でも部分放電が発生している。また、比較例1では実施例11の部分放電の他に、さらに大きな部分放電208も観測された。さらに、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測では、実施例1〜10と同じ大きさの電圧を巻線ターン間に分担させるためには、巻線−コア間に2倍、異相間に3倍の大きさの電圧を印加しなければならなかった。このことから、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置では、モータ巻線ターン間の部分放電以外に巻線−コア間や異相間でも部分放電が発生し、巻線ターン間の部分放電を正確に計測できないことが示唆される。
図30に、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置で試験した際に、各絶縁部に印加されていた電圧を示す。比較例1では、巻線ターン間の分担電圧は要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線ターン間で部分放電が発生したと考えられる。しかしながら、巻線−コア間および異相間の分担電圧も要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)に比し高く、モータ巻線−コア間および異相間でも部分放電が発生したと考えられる。このことから、比較例1のモータ巻線ターン間部分放電計測装置では、巻線ターン間だけでなく巻線−コア間や異相間でも部分放電が発生するため、巻線ターン間の部分放電を正確に測定できないと考えられる。とりわけ、従来のモータ巻線ターン間部分放電計測法の比較例1では、異相間に加わる電圧が要素モデルで測定した部分放電開始電圧(CSV)の約1.5倍も高い。このことは、従来の比較例1の方法で試験した場合、例えばモータ巻線ターン間の部分放電開始電圧(CSV)を測定しようと電圧を0Vから昇圧していく場合にも、巻線ターン間よりも先に異相間で部分放電が発生してしまうことを示している。したがって、このことからも、従来のインパルス電圧を用いたモータ巻線ターン間部分放電計測方法では、モータ巻線ターン間の部分放電を正確に計測できないと考えられる。
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に理解されよう。