〔第一実施形態〕
本発明にEGRシステムの診断装置において、EGR質量流量センサをディーゼルエンジンに適用した一つの実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るEGR質量流量センサを適用したディーゼルエンジンの全体構成図である。
図1に示されるように、ディーゼルエンジン1(以下、エンジン1と云う)が吸入する空気は、エアクリーナ(図示省略)より取り込まれ、エアフローメータ2によって質量流量を測定され、ターボチャージャ3のコンプレッサ3Aによって過給される。過給された空気はインタークーラ4によって冷却され、スロットル弁5によって流量を計量され、この過給された空気は、インテークマニホールド6によって各気筒毎に分配され、エンジン1の吸気ポート7より燃焼室8内に吸入される。
エンジン1には燃焼室8内に燃料を噴射する燃料噴射弁9が取り付けられている。燃料噴射弁9は、吸入空気量に応じた燃料を燃焼室8内に噴射する。燃焼室8に噴射された燃料は、燃焼室8内の吸入空気との混合気を生成し、燃焼室8内で燃焼する。
エンジン1が燃焼室8より排出する既燃焼ガス、つまり排気ガスは、排気ポート10より排気管11へ排出され、ターボチャージャ3のタービン3Bを駆動し、de−NOx触媒、SCR触媒等による排気浄化触媒12、DPF(ディーゼル・パテキュレート・フィルタ)13、排気消音器14を経て大気中に放出される。
一方、排気管と吸気管とを連通するEGR流路が設けられており、ターボチャージャ3のタービン3Bより排気ポート10側の排気管11の途中には、EGR取入口15が形成されている。排気管11を流れる排気ガスの一部は、EGR取入口15よりEGR管16を通ってEGRクーラ19、EGRガス流量制御弁(EGR弁)17へ流れ、EGR弁17によって流量を定量的に制御され、EGR質量流量センサ(流量測定装置)18、EGR管20を経てインテークマニホールド6に形成されたEGR取出口21に至り、EGR取出口21よりインテークマニホールド6内に還流する。ここで、流量測定装置18は、EGR流路に取り付けられて、EGRガスの流量を測定することができる。
なお、図1には示していないが、エンジン1には、エンジン回転数やクランク角度位置を測定するクランク角センサ23、気筒判別を行うためのカム角センサ24、及びエンジン1の冷却水温度を測定する水温センサ25が取り付けられている(図2参照)。
図2は、本実施形態に係る図1に示すエンジン1のEGRシステムの診断装置を含む制御装置の概略構成図である。エンジン1の制御装置は、電子制御式のものであり、エンジン1のイグニッションスイッチ22よりオン・オフ信号を入力するデジタル入力回路31と、クランク角センサ23、カム角センサ24よりセンサ信号(パルス信号)を入力するパルス信号入力回路32と、吸気温センサを含むエアフローメータ2、水温センサ25、又はEGR質量流量センサ18よりセンサ信号(アナログ信号)を入力するアナログ信号入力回路33と、CPU34、ROM35、及びRAM36を含むマイクロコンピュータユニット37と、EGR弁17、EGRクーラバイパス弁26、又はターボチャージャ3のウェストゲートバルブ27へ指令信号を出力するデジタル出力回路38と、燃料噴射弁9へ駆動パルスを出力するタイマ設定出力回路39と、ABS71、GPS72、又はGST73との通信を行う通信回路40と、を有する。
マイクロコンピュータユニット37は、各入力回路31、32、33に入力したセンサ信号に基づいてエンジン1の運転状態を判断し、運転状態に応じた燃料噴射量を演算して出力回路38,39にデータを転送する。その他、マイクロコンピュータユニット37は、エンジン1の運転状態に応じたEGR流量制御、EGRクーラ制御、ターボチャージャ3の過給制御のための演算処理を行う。
図3は、図2に示すマイクロコンピュータユニット37による燃料噴射−EGR流量を制御するためのブロック図の実施形態の一例を示している。当該制御装置37は、クランク角センサ23が出力するクランク角信号よりエンジン回転数を演算するエンジン回転数演算部51を含む。
基本燃料噴射量演算部52は、エアフローメータ2が出力する吸入空気量の信号とエンジン回転数演算部51で演算されて出力されたエンジン回転数の信号と、を入力し、1回の燃焼行程毎の基本燃料噴射量(Tp)を演算する。そして、燃料噴射制御において、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、基本燃料噴射量に対する出力補正項(KMR)をマップ検索あるいは算出することが行われ、この出力補正項で補正された基本燃料噴射量の燃料を、燃料噴射弁9が噴射することになる。
または、別の態様としては、アクセルペダルセンサ信号と回転数に基づいて、必要とする目標エンジントルクを演算して、必要とする目標エンジントルクに相当する燃料噴射量を算出し、この算出された燃料噴射量の燃料を、燃料噴射弁9が噴射してもよい。
一方、目標EGR率演算部54は、エンジン回転数演算部51で演算されたエンジン回転数と、基本燃料噴射量演算部52で演算された基本燃料噴射量Tpに基づいて、目標EGR率ηをマップ検索あるいは演算によって設定する。さらに、目標EGR流量演算部54は、目標EGR率演算部54で演算された目標EGR率ηと、吸入空気量とから、EGR管16、20等によるEGR流路(EGR通路)を流れるEGR流量の目標値を演算し、目標EGR流量EGRTGTを算出する。
EGR弁開度制御部55は、EGR質量流量センサ18によって測定されガス流量補正手段である出力特性補正部56によって補正されたEGR流量測定値と目標EGR流量EGRTGTとを比較し、制御偏差がゼロになるように、EGR弁17の弁開度(バルブ通路面積)をフィードバック制御する。なお、エンジン回転数と基本燃料噴射量に基づいて、予め設定した制御弁開度情報をマップ化しておいて、制御弁開度情報をEGR弁17のコントローラに送ってもよい。
また、上述した目標EGR流量演算部54の目標EGR流量EGRTGTは、以下のように求めることができる。エアフローメータ2によって測定される吸入空気量をQnew、EGR流量をQegrとすると、燃焼室8に入る吸入空気量Qinと燃焼後の排気ガス流量Qexとの関係は、次式(1)及び(2)により表される。
Qnew+Qegr = Qin= Qex …(1)
Qegr = Qex×η …(2)
よって、定常状態では、Qex=Qnew/(1−η)となり、EGR流量Qegrは、次式(3)により表される。
Qegr = Qnew×η/(1−η) …(3)
定常運転での目標EGR流量EGRTGT(制御値)と、EGR質量流量センサ18の出力信号に基づいて演算されたEGRガスの実質量流量Qrealと、を比較し、両者が一致するように、EGR弁17の弁開度をフィードバック制御することによって、EGR流量を制御することができる。
ところで、従来は、吸気管圧力センサと吸気温度センサの各センサ信号に基づいて、EGR流量を演算していた。すなわち、ターボの加給前の新規空気量をQair、新規空気の温度をTairとし、EGR流量をQegr、EGR流の温度をTegrとすると気体の状態方程式に基づいて、以下の式(4)の如く表すことができる。
Qair×Tair+Qegr×Tegr=Qim×Tim∝Pim …(4)
ここで、Qimは燃焼室に吸い込まれる空気質量、Timはインマニ内温度(インテークマニホールド内温度)、Pimはインマニ圧力(インテークマニホールドの圧力)である。
この関係から、インマニ圧力Pimとインマニ内温度Timをセンサまたは推定値で求めておき、Qimはエンジンの回転数に応じた値とすることで、
Qair×Tair+Qegr×Tegr=Q(Tim,Pim) …(5)
の関係があり、
Qegrについて整理すると、
Qegr={Q(Tim,Pim)−Qair×Tair}/Tegr …(6)
となるので、インマニ内温度、インマニ圧力、新規空気の質量と温度、EGR流温度を求めてEGR流量の推定値Qegrを算出していた。EGR流温度(新規空気の温度)はEGRクーラの温度で代用していた。
このように、複数のセンサ信号に基づいてEGR流量の推定値Qegrを算出するためそれぞれのセンサ計測誤差が累積して、測定される流量の誤差が大きくなる。さらに、センサの応答性が遅く、特にEGR温度センサの応答が遅いために、エンジンの加速時や減速時等の過渡状態では、流量の推定値を用いてEGR弁制御ができなかった。
一方、エンジン内の燃焼温度と空燃比を制御することにより、NOx発生と煤発生を抑制するPCI燃焼を実現する必要があり、エンジン制御装置は1爆発毎に空燃比を制御している。この場合、EGR流量を1爆発毎に正確に検出することで空燃比を制御できる。
特に、加速時や減速時等の過渡運転状態では、EGR流量の推定値では実際のEGR量と異なるため、排気ガスレベルの悪化が生じていた。すなわち、過渡運転状態において、この運転状態に応じてEGR弁の開度が変化しても、流入するEGRガスは過渡運転を開始する前の状態のガスであるため、空燃比の推定値が異なってしまう。また、インテークマニホールド内へのEGRガス拡散に時間がかかるため、このガス拡散の遅れに伴い、インテークマニホールド内の温度が一様になり難い。これにより、ガスの温度むらが生じてしまい、EGR率の推定値と実際のEGR率の値とが異なることがあった。
一方、本実施形態では、制御目標値である目標EGR流量EGRTGTは、燃焼の平均値であり、ガスの脈動を考慮していない。このため、実測値に基づいてEGR弁の制御を行うと、このガスの脈動に応じて制御目標値がハンチングしやすくなり、周波数応答を落とさざるを得ないことがある。このようなことから、EGR質量流量センサ出力信号の平均値と目標EGR流量である目標値とを比較して、EGR弁の弁開度を制御している。
しかし、従来の推定値Qegrを演算するには、さらに以下の問題がある。まず、各燃焼室が吸気行程にあるとき吸気管圧力は減少し(真空に近づく)、吸気弁が閉じて圧縮行程になると吸気管圧力は上昇する(ターボの加給圧に近づく)。さらに、排気行程にある時に排気ガスが排気管に流れ出て排気管圧力が上昇し、排気弁が閉じて次の吸気行程が始まると排気管圧力は減少する。
排気管圧力と吸気管圧力の差に応じて、EGR流が流れるのでEGR流には圧力の変動分(脈動分)が含まれる。特にEGR流量が比較的少ないときは、EGR流量の平均値はほぼゼロでも、脈動成分は平均の数倍に達する。
また、EGR弁の開度がほぼゼロに近い時は、EGR流はEGR弁の狭い隙間から流れだして、インテークマニホールド内に拡散する。このためにEGR弁を通過した後EGR流はインテークマニホールド内に断熱膨張するのでEGRガス温度が低下するので、EGRクーラの温度よりもEGRガス温度が低下しており、インマニ内のEGRガス温度TegrはEGRクーラ温度で代用できない。
このように、上述した従来の推定値Qegrでは限界があり、センサ(EGR質量流量センサ)により、EGR流量を直接測定する必要がある。そして、EGR質量流量センサをEGR弁の下流に置くことで、EGRガス量測定の時間遅れの改善と、EGR率推定のために従来必要としていた温度センサと圧力センサの誤差の影響をなくすことができる。
図4は、図1に示すEGR質量流量センサの構成図であり、EGR質量流量センサ(流量測定装置)18は、熱線式の流量検出手段であり、図4に示されているように、EGRガスが流れるセンサ通路(EGR流路)61内に、流量測定用エレメントである発熱抵抗体62aと、発熱抵抗体62aの上流部あるいは下流部に配置されたガス温度測定エレメントである測温抵抗体62bの少なくとも2つの抵抗体が露出しており、コネクタ63より流量に相当する電気信号をECU(マイクロコンピュータユニット37)へ出力する。
なお、EGR質量流量センサ18にマイクロコンピュータ(マイコン)を装着してEGR質量流量センサ18をインテリジェンス化し、EGR質量流量センサ内部のマイコンのA/D入力回路でA/D変換してマイコン内部でEGR質量流量センサ出力をリニアライズするデータ変換処理を行い、マイコンの通信出力、例えばシリアルポート出力やパラレルポート出力、CAN等でデータを出力することも可能である。
図5は、EGR質量流量センサ18の電気制御回路図を示している。EGR質量流量センサ18は、電源101に接続され、ガス流量に応じたセンサ信号Voutを出力する。EGR質量流量センサ18は、発熱抵抗体62a、測温抵抗体62bを組み合わせたセンサである。
ガス流がないときのガス温度(Tw)を基準として、ガス流があるときに低下する発熱抵抗体62aの電圧をVとし、そのときのガス温度をTgとすると、
流量Q ∝ (μ^0.26)
×(λ^−1.26)
×(Cp^−0.74)
×V^4/((Tw−Tg)^2) …(7)
ここでμ=EGRガスの粘性係数
λ=熱伝導率
Cp=比熱
で表され、特に、EGRガスの粘性係数μ、熱伝導率λ、比熱Cpが温度に依存する。このため、粘性係数μ、熱伝導率λ、比熱Cpの項をまとめて、ガス温度に対する物性補正項KSSP(Tg)としてまとめると
流量Q ∝ KSSP(Tg)×V^4/((Tw−Tg)^2) …(8)
と簡略化でき、ガス温度に対する物性補正項KSSPとなる。
発熱抵抗体62aはホイーストンブリッジ回路の一部に入っており、常時、600℃相当の抵抗値となるように、流れる電流値がフィードバック制御されている。EGR流があると発熱抵抗体62aからEGRガスに熱が奪われるため発熱抵抗体62aの発熱量を増やすように、電源101から電流が増加する。発熱抵抗体62aに流れる電流を所定の抵抗に流れる電圧としてA/D変換器によりガス流量に相当するMAINADを取り込む。
一方、同時に、測温抵抗体(温度測定装置)62bは、ガス温度に応じて抵抗値が変化する。測温抵抗体62bに微小の定電流を流した場合に、EGRガスのガス温度に相当する電圧が生じる。このように、測温抵抗体62bをEGRガス温度センサとして、測温抵抗体62bが検知する電圧としてA/D変換器により、EGRガスのガス温度に相当する電圧値CWADを取り込む。なお、600℃は、通常のディーゼルエンジンの排気ガス温度以下であり、かつ、EGRガスに含まれる煤がEGR質量流量センサに付着しても短時間に煤が燃焼する温度として設定されている。また、本実施形態では、EGRガス温度センサを流量測定装置の内部に設けたが、その装置近傍に別途設けてもよい。
このように取り込まれた流量及びガス温度に相当する電圧値に基づいて、以下に示すようにして実EGR流量を演算する。図6は、EGR質量流量センサからEGR流量の演算を説明するためのブロック図である。
ブロック601で、マイクロコンピュータが、V−Qテーブルを用いて、ガス流量に相当する電圧値MAINADをテーブル変換して、あらかじめ設定した所定のガス温度での流量値EGRQAを算出する。次に、ブロック602で、V−Tテーブルを用いて、ガス温度に相当する電圧値CWADをテーブル変換してガス温度Tgを算出する。このようにして、流量値EGRQAとガス温度Tgが算出され、これらを入力として、最終的なEGRガスの実質量流量Qrealが計算される。より具体的には、ブロック603で、ΔTh補正テーブルを用いて、600℃とガス温度Tgとの差分ΔThに応じた補正量を演算し、ブロック604で、温度補正テーブルを用いて、ガス温度Tgに応じた補正項を演算し、これらの補正項をそれぞれ流量値EGRQAに乗算して、EGRガスの実質量流量Qrealを求める。
エンジン運転状態が定常であれば、このようにして得られた実EGR流量(EGR質量流量)と、目標とする目標EGR流量EGRTGTと、を比較して、差分に応じてEGR弁開度を制御することで、EGR流量制御が可能である。
回転数やエンジン負荷、水温、排気空燃比が所定の範囲内にあり、かつ、所定の時間内のそれぞれの変化量が所定範囲内であれば、エンジン運転状態を一定と見なすことができ、エンジン運転状態が一定のときに目標とするEGR流量EGRTGTと実EGR流量Qegrが一致しないときは、EGR弁開度制御の故障が診断される。または、EGR弁開度が所定の範囲外である場合もEGR弁開度制御の故障が診断される。
しかし、従来の場合には、定常状態での流量を制御する場合、基準となる流量が複数のセンサ信号に基づく推定値であるため、EGR質量流量センサ信号を真の値とするか、または、別のセンサ値を真の値とするか、判別が困難になる。また、各センサの経年変化によるセンサ信号出力のドリフト(オフセット)が生じる課題がある。
そこで、本実施形態のEGRシステムの診断装置は、EGR弁の開度変化(第1の開度から第2の開度に達したとき)または運転状態の変化に伴うEGRガス温度の変化のタイミングなどの温度プロフィールと、EGRガス流量の変化のタイミングなどの流量プロフィールを測定し(プロフィール測定手段)、以下に示すEGRシステムを構成するEGR質量流量センサばかりでなく、その他EGRシステムを構成する構成品(部位)を特定し、その構成品の故障劣化等の状態を含む状態の診断を行う(診断手段)。これにより、他のセンサの影響を受けにくいメリットがある。
たとえば、エンジンが低水温で始動した場合は、燃焼温度を高めるためEGR弁を閉じている。このとき、EGR質量流量センサの出力値(計測したEGRガス流量)が、所定値を超えていれば、EGR弁が全閉していないこととなるため、これをもって、EGR弁の故障状態を診断することができる。
その後、水温が上昇して暖機完了状態となったときに、EGR弁を所定の開度に開いたとき、EGRガスが流れEGR質量流量センサの出力値(計測したEGRガス流量)の上昇が所定の時間(運転状態に応じて予め定めた時間)以上要するであれば、バルブの固着またはバルブの通路面積が不足しているため、これをもって、EGR弁の故障状態を診断することができる。
同時に、ガス温度Tgの変化をとらえると、図7に示すように、各ケースいずれも、バルブが閉じているときの温度は、吸入空気の温度Tairとなっている。次に、バルブが開いた直後に、EGRクーラおよびEGR管内に溜まっていたEGRガスの温度を示す。その後、排気ガスがEGRクーラで冷却された温度にまで上昇する。
EGR弁が閉じ状態から開状態の温度に達するまでの時間は、EGRクーラ内のEGRが通過する容積とEGR管の容積の和を、EGR弁の開度(バルブ開度)に応じたEGRガス流速で割った時間に相当する時間となる。エンジンが新品の初期状態のタイミングチャート(基準となる温度プロフィール)は、図7のケースAとなる。
また、EGR弁のバルブ開度が比較的狭いときは、EGR弁がオリフィスとなって、EGRガスが断熱膨張する。このため、ガス温度TgはEGRクーラを通過した温度よりもさらに低下することもある。
特に、冷却水温度よりもさらに温度低下が見られる場合は、EGR弁の表面にススが付着してEGR弁の通過面積が減ることにより断熱膨張し、この効果が顕著と診断される。すなわち、この場合には、図7のケースBに示す温度プロフィールに相当し、この温度プロフィールを測定することにより、EGR弁が性能劣化であると診断される。
さらに、EGRクーラの内面に煤が付着すると、EGRクーラ管内の容積が減る。これにより、EGRクーラの冷却水とEGRガスとの熱交換が減ることになる。こうした、EGRクーラの冷却能力の劣化により、EGRガスの冷却効率が低下するため、ケースAの初期品のときよりも、EGR弁が開いた後のEGRガス温度の上昇が早く始まる。この場合には、図7のケースCに示す温度プロフィールに相当し、この温度プロフィールを測定することにより、EGRクーラが汚損などによりクーラ容量が低下している可能性があると診断される。
また、EGR質量流量センサの温度センサ(測温抵抗体)に煤が付着すると、EGRガスとの接触が悪くなるため、温度の上昇開始はタイミング変わらないが、その後の単位時間あたりの温度上昇が遅くなる(EGRガス温度の時間変化量(温度勾配)が小さくなる)。この場合には、図7のケースDに示す温度プロフィールに相当し、この温度プロフィールを測定することにより、温度上昇の度合いが遅い場合は、EGR質量流量センサが汚損であると診断される。
このとき、発熱抵抗体の出力信号は、EGRガス流量に対応した値であるが、正常時よりもΔTh(Tw−Tg)が大きくなるので、
ΔTh補正=1/(Tw−Tg)^2 …(9)
が小さくなって、EGRガスの実質量流量Qrealは、正常時よりも小さい値となる。
従来、インテークマニホールド内の温度と圧力によって推定した値と比較して、EGR質量流量が小さい場合も、EGR質量流量センサの汚損が診断される。
EGRクーラには、EGRガスの冷却を一時的に止めるクーラバイパス弁がついている。エンジン冷却水が比較的低い場合は、エンジンの暖機を促進するために、EGRクーラをバイパスしてEGRガスの冷却をせずに、直接的にインテークマニホールドに還流する。この場合、EGRクーラのバイパスバルブがクーラ側に開いた状態で固着すると、このバイパスバルブの固着によってEGRクーラ内を通過する分、ガスが冷却されてしまい、この結果EGRガス温度の上昇開始が遅くなる。よって、比較的低水温でエンジン始動しEGR弁を開いた時から温度上昇を開始するタイミングが遅い場合には、図7のケースEに示す温度プロフィールに相当し、この温度プロフィールを測定することにより、EGRクーラのバイパスバルブが固着していると診断される。
または、次のようなEGRクーラ内に結露が発生した場合にも同様の温度プロフィールを得ることができる。具体的には、冷却水温がEGRクーラ内に露点温度よりも低い場合、EGRクーラ内に結露水が付着する。EGRクーラ内の結露水が蒸発して水蒸気になるまでは、冷却水の温度が上昇しても、EGRクーラ表面の温度がほぼ一定に保たれるため、EGRガスの冷却期間が長くなる。このような場合にも、図7のケースEに示す温度プロフィールに相当し、この温度プロフィールを測定することにより、EGRクーラ内に結露が発生していると診断される。
図8に診断の汚損診断ルーチン(1)のフローチャートを示す。EGRセンサ診断プログラム(1)は、所定の時間間隔、または所定のクランク角度毎の割り込みによって、呼び出されるサブルーチンである。
診断条件が成立している場合に以下の動作を行う(S800)。診断条件として、エンジン回転数が所定の範囲内にあること、かつ、燃料噴射量またはエンジン負荷が所定の範囲内にあることの条件、空燃比が所定の範囲内にあることの条件、及び、DPFの焼ききり等を行っていない状態であり、かつ、前記空燃比が所定の範囲内にとどまっている状態が継続していることの条件等が成立していることが、必要な条件である。
次に、S801で、温度センサ(測温抵抗体)の電圧値(A/D値)CWADに基づいて、テーブル変換によりEGRガス温度Tegrを算出する。S802で、EGRの弁開度が閉じている状態が成立すれば、S803に進み、初期温度TstartにTegrを代入し、同時に、診断用カウンタCcountとDcountをクリアする(S804,S805)。
EGR弁開度が開いている状態では、S811に進み、下式に示すように、EGRガス温度Tegrと初期温度Tstartとの差分Tdiffを算出し、S812で診断用のカウンタCcountをインクリメントする。
Tdiff=Tegr−Tstart …(10)
Ccount=Ccount(n−1)+1 …(11)
さらに、S813に進み、EGRガス温度の上昇度合いの推定値(EGR到達温度上昇しきい値)Tendを、回転数、燃料噴射量、EGR弁開度、過給圧等のパラメータに応じて、あらかじめ適合したマップ値を用いて算出する。
同様に、EGRクーラの容量分だけEGRガス温度が上昇するディレイ時間(EGRクーラ遅延推定値)Tdelayと、EGRクーラ内の温度推定値(EGRクーラ温度推定値)Tcoolとを、回転数、燃料噴射量、EGR弁開度、過給圧、水温等のパラメータに応じて、あらかじめ適合したマップ値から算出する。
S816において、前記第1の開度から前記第2の開度まで動作する動作開始時の温度上昇Tdiff(この場合は初期ガス温度)と、温度推定値Tcoolとを比較して、温度上昇Tdiff(初期ガス温度)がEGRクーラの推定温度(温度推定値)Tcoolよりも低い場合は、S817に進む。S817では、さらに、EGRガス温度Tegrと水温に応じたしきい値と比較して、EGRガス温度Tegrがしきい値よりも低い場合は、図7のケースBに相当し、EGR弁を通過する際の断熱膨張による温度低下が発生していると診断できる。
すなわち、このステップでは、前記第1の開度から前記第2の開度まで動作する動作開始時の初期EGRガス温度を測定し、前記初期EGRガス温度に基づいて、EGR弁が性能劣化であると診断を行うことができる。
一方、S816において、温度上昇Tdiff(初期ガス温度)がEGRクーラの推定温度よりも高くなる場合には、S818に進む。そして、S818において、EGRクーラの容量分だけEGRガス温度が上昇するディレイ時間Tdelayに、Ccountが達しているかどうかを判断し、達していないと判断した場合は、図7のケースCに相当し、EGRガス温度の早期上昇からクーラ容量が低下している可能性があると診断される。
S818において、CcountがTdelay以上経過し、あらかじめ設定した所定の最大時間に達したと判断した場合は、図7のケースEであると判断し、EGRクーラ内の結露やEGR弁の固着が診断される。
すなわち、これら一連のステップで、温度プロフィールとして、前記第1の開度から前記第2の開度まで到達したときにおけるEGRガス温度の温度変化量を測定すると共に、温度変化量が内燃機関の運転状態に応じて設定された所定の温度変化量に達するまでの遅れ時間を測定し、前記診断手段は、前記遅れ時間に基づいて、クーラの容量が低下しているか、EGRクーラ内の結露やEGR弁の固着を診断することができる。
一方、最大時間以下であれば、S820に進み、Dcountをインクリメントする。
Dcount=Dcount(n−1)+1 …(12)
同時に、S821に進んで温度上昇度合いdTを算出し、式(13)に示す演算を行うべく、S821に進む。
dT=(Tdiff−オフセット)/Dcount …(13)
S822に進み、温度上昇度合い(温度勾配)dTと所定の推定値Tendとを比較して、温度上昇度合いTendがdTよりも大きい場合は、図7のケースDに相当し、EGRガス温度センサの煤付着等による感度低下であると診断する。
すなわち、このステップでは、温度プロフィールとして、前記第1の開度から前記第2の開度まで到達したときにおける前記EGRガス温度の時間変化量(温度勾配)を測定し、時間変化量に基づいて、EGR温度センサの煤付着等による感度低下の診断を行うことができる。
一方、S822において、温度上昇度合いdTが所定の推定値Tendと比較して、温度上昇度合いTendがdTよりも小さい場合は、正常の範囲と診断される(S822→ケースA)。
このようにして、EGR弁を閉じ状態から開いたときの(流量時間変化量における)EGRガス温度の時間に対する上昇度合い(温度時間変化量)を所定の値と比較してずれが大きい場合は、EGRシステムの故障であると診断する。
ところで、EGR質量流量センサ18に流れるガスは、図9に示されているように、EGR通路内に設けたバイパス通路70に流れるガスである。バイパス通路70は、渦巻状の通路を形成しており、流れ上流側の入口71より入ったガスの流れを回転(旋回)させ、側面に開口した出口72よりガスが抜ける通路構造になっている。バイパス通路70より上流側には、メッシュ部材73とハニカム部材74とが順次設けられている。これにより、EGRガスの流れが整流化され、偏流が改善される。
エンジン回転数や負荷が一定の定常運転で、所定のEGR率ηとなるようにEGR弁を制御している時、EGR弁の開度が運転状態に応じた所定の開度の範囲内であれば弁制御は正常と判断できる。また、開度が所定の範囲外であるとき、通常の弁開度よりも大きく開いていればEGR通路内の詰まりによる流量不足が想定される。通常の弁開度よりも小さい場合は、EGR弁の開度が開きすぎている可能性があり全閉位置がずれている可能性がある。
または、インマニ内温度とインマニ圧力に基づいて、演算した目標とするEGR流量演算値EGRTGTとEGR質量流量センサ出力に基づくEGRガスの実質量流量Qrealとを比較して、所定の範囲内にあれば、EGR質量流量センサは正常と判断できる。所定の範囲外であるとき、目標とするEGR流量演算値EGRTGTがEGRガスの実質量流量Qrealよりも大きい場合は、EGR質量流量センサのエレメントの経時変化や煤の付着等で流量検出が低下している可能性がある。
目標とするEGR流量演算値EGRTGTがEGRガスの実質量流量Qrealよりも小さい場合は、EGR質量流量センサの発熱抵抗体と温度測定エレメントの温度差が正常時よりも大きいことになり、温度測定エレメントにのみ煤が付着している可能性がある。
また、EGR流がEGR弁から流れ出てEGR管に拡散するための空間が確保できていないため、管内のEGRガス分布は一様にならず、EGR質量流量センサにEGR流が当たらない場合はEGR流を検出できない場合があり、測定精度に誤差を生じる。
また、EGR流量はインテークマニホールド内の負圧にも依存する。このため、インテークマニホールド内の負圧を発生させるスロットル弁5の開度とエンジン回転数との適合値から補正量を算出して、EGR流量センサ部でのEGR流量平均値に対して補正することも可能である。インテークマニホールド内の負圧またはスロットル開度はスロットル開度センサを用いる。
図10は、EGR質量流量センサによる逆流検出と脈動の周波数成分を示す説明図である。図10に示されているように、低流量域では、ガス流れがゼロであっても逆流が存在し、流れの方向を区別できない双方向流検出センサでは、基準周波数の整数倍の成分が発生する。特に、逆流があると、双方向流検出センサ出力信号は折り返し波形となるので、基本周波数に対して高次の周波数が現われる。高次の周波数が現われているときは、逆流があることを示唆している。
よって、低流量域において、エンジン回転数を基本周波数として高次の周波数成分が現れているとき、EGR質量流量センサの応答性は十分あると判断できる。高次の周波数成分が現れない場合は、EGR質量流量センサの応答性劣化の可能性がある。
さらに、低流量域では平均流量に対して脈動幅が比較的大きい。さらに、EGR流量センサ18は脈動による順流と逆流を区別できないため、脈動率に対して補正率Qerrorにばらつきが大きい。こうした領域では、脈動に伴う最小値が脈動の節点となるで、最小値をEGRガスの実質量流量Qrealとする。
また、排気ガスがEGRクーラを通過してEGR弁達するまでの時間はEGRガス流の流速に依存する。このため、回転数とバルブ開度に応じたEGR所定のクランク角度では、インテークマニホールドの圧力と排気の圧力がバランスして、脈動幅の中心値(平均値)が流れる瞬間がある。
よって、EGR質量流量センサの信号出力を所定のクランク角度毎にサンプリングし回転数とバルブ開度に応じたクランク角度位置での値をEGR質量流量とすると、EGRガスの脈動を避けて、測定が可能である。
EGR質量流量センサ出力と目標EGR流量とを比較して、比較結果が一致するようにEGR弁17を制御するEGR弁開度制御にフィードバックループを用意してEGR弁17を制御すれば、EGRクーラ19やEGR弁17の表面に煤が付着することによるEGR流路抵抗の増加に伴う流量低下の補正を行うことができる。
図11(a)及び(b)にEGR質量流量センサが汚損した場合の出力例を示す。高圧タイプのEGRガス還流の場合、排気ガスには煤が多く含まれている。煤は炭素成分だけではなく、未燃焼の燃料成分や不完全燃焼した炭化水素成分も含まれている。こうした煤はEGRガス中にも含まれて、EGR質量流量センサ18のセンサエレメントやその周囲にも付着する。
煤がセンサエレメントに付着すると、EGRガスがセンサエレメントに触れることが少なくなるので、図11(a)に示されているように、EGR流量が実際に流れている量よりも少ない値が出力される。
一方、煤がガス温度測定エレメントに付着すると、ガス温度測定エレメントが断熱された形になるので、EGRガス温度の影響を受けにくくなる。このため、特にEGR流量が大流量の場合、ガス温度測定エレメントとセンサエレメントの温度差が大きくなり、図11(b)に示されているように、センサ出力は実際に流れている量よりも小さな値が出力される。耐久時間経過とともに、ずれが大きくなる。
また、煤がエレメントにまだらに付着すると、エレメントの温度分布が不均一となって、煤が付着した部分が特に温度上昇することになり、エレメントの耐久性が劣化するおそれがある。このように、図11(a),(b)に示すように、EGRガス流量制御弁の弁開度の変化に応じて変化するEGRガス流量の流量プロフィールを測定することにより、流量プロフィールに基づいて、流量を測定するセンサエレメント、ガス温度測定エレメントの煤の付着状態を診断することができる。
図12は、EGR質量流量センサ18の汚損による出力低下を診断する診断プログラムのフローチャートである。本実施形態では、回転数と、吸入空気量と回転数から求めた1回毎の燃焼あたりの吸入空気量に基づいて求めた目標EGR流量と、EGR質量流量センサ出力とを比較して、その差が無くなるようにEGR弁を制御するフィードバックループを構成している。まず、S12で、フィードバック制御量がハンチングしているかを判定する。ハンチングしていると判定した場合には、S13で、フィードバック制御量の静定時間と、閾値となる所定時間とを比較して、静定時間が所定の時間よりも長い時には、S14に進み、EGR流量センサ18が汚損によって応答性が低下していると判定する。
すなわち、このステップでは、例えば、第1の開度から前記第2の開度まで到達したときにおけるEGRガス流量の流量変化量を測定すると共に、流量変化量が内燃機関の運転状態に応じて設定された所定の流量変化量に達するまでの遅れ時間を測定し、遅れ時間に基づいて、EGR流量センサ18が汚損によって応答性が低下することの診断を行うものである。
S12及びS13で、これらの条件が満たされない場合には、S15に進む。ここでは、EGR弁17の開度が0すなわち全閉であるかを判定する。全閉である場合には、EGR質量流量センサの出力値が、閾値以上であるかを判定する。閾値以上である場合には、S17に進み、EGR質量流量センサの0点ずれと判定する。このように、運転状態が変化して、例えば加速する場合に、EGR弁17を閉じても、EGR質量流量センサ出力が所定値以上の値を出している場合には、EGR質量流量センサ18が汚損によって出力のゼロ点がずれていると判定することができる。
さらに、S15及びS16で、これらの条件が満たさない場合には、S18に進む。ここでまず、EGR弁制御量が一定である、すなわち定常運転状態であるかを判定する。一定であると判断した場合には、EGR質量流量センサ18の出力値が、目標EGR流量に達しているかを判定する。達していないと判断した場合には、S20に進み、EGR弁の開度が所定値以上に開いている時間が、所定時間以上であるかを判定する。所定値以上である場合には、S21に進み、EGRセンサの汚損劣化と判定する。このようにして、加速後から定常運転状態に移って、EGR弁17を開いてEGRガスを流すときに、EGR質量流量センサ18の出力が目標EGR流量に達しないか、達するまでの時間が長くかかり、かつ、EGR弁開度が所定値以上に開いている時間が、所定時間以上の場合には、EGR質量流量センサの汚損によってセンサ出力値が実際に流れている値よりも低い値を出力している汚損劣化判定を行うことができる。
要約すると、EGR流路を流れるガス流量の計測値、つまり、(1)EGR質量流量センサ18の出力信号を用いてEGR流路を流れるガス流量をフィードバック制御している場合にフィードバック制御量がハンチングして制御量の静定時間が所定時間よりも長い場合、(2)EGR弁の制御停止(閉弁)時にEGR質量流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力している場合、(3)EGR弁の制御開始(開弁)後にEGR質量流量センサ18が所定値以上の流量を示す出力信号を出力していないか、所定値以上の流量を示す出力信号を出力までの時間が所定時間より長い場合には、EGR質量流量センサ18が汚損されていると診断する。
また、一定の運転状態でも、EGR弁17の弁開度が所定範囲を超えているときには、EGR質量流量センサ18の出力信号が実際に流れている流量と異なる値を出力している可能性がある。上記の判定しきい値は、エンジンの動作時間の積算値、または車両の走行距離の積算値に応じて変更を加えることができる。
図13は、汚損による出力低下を推定するタイミングチャートである。所定の時間間隔毎に吸入空気量と回転数を入力して目標EGR流量を算出する。そして、運転状態が所定の範囲内にあるときに定常運転状態と判断し、診断許可フラグを立てる。
例えば、エンジン回転数が所定の上下限内、且つ吸入空気量が所定の上下限内、且つ車速が所定の上下限内、且つアクセルペダル要求値が所定の上下限内、且つエンジン回転数、吸入空気量、車速、アクセルペダル等の値の時間的変化割合が所定値以下である時が所定時間以上継続しているときを定常運転状態とする。
定常運転状態時には、常時、EGR質量流量センサ18の出力値を取り込み、目標EGR流量と比較する。ここで、診断許可フラグが立っているとき、以下の診断を行う。EGR質量流量センサ18の出力値と目標EGR流量との差の絶対値がしきい値以上の場合、診断用カウンタをインクリメントし、OKカウンタをリセットする。そして、診断用カウンタがしきい値を上回ったとき、EGR質量流量センサの汚損の可能性を示すフラグを立てる。
EGR質量流量センサ18の出力値と目標EGR流量との差の絶対値がしきい値を下回ったとき、診断用カウンタをリセットする。同時にOKカウンタをインクリメントする。OKカウンタが所定値以上になったとき、EGR質量流量センサ18の汚損の可能性を示すフラグをリセットする。
汚損診断は、EGR質量流量センサ18の出力値が目標EGR流量と常時かけ離れた値にとなった場合には、煤がへばりついている状態であると診断できるが、EGR質量流量センサ18の出力に脈動が重畳している場合には、OKとも汚損状態とも判断できないことになる。
この場合、EGR質量流量センサ18の出力値と目標EGR流量との差の絶対値が、所定のしきい値より大きい期間が、所定の時間以内にどれだけあるかをカウントし、所定の割合以上にはずれている場合、汚損または脈動が大きい可能性があることを示すフラグを立てる。しきい値である所定の割合は、EGR質量流量とEGR弁17の開度の関数、または、予め設定したマップ値とする。
また、EGR弁17の開度を変化させてEGR質量流量センサ18の出力をモニタしてEGR弁開度とセンサ出力との関係、例えば比率が所定の範囲内かどうかを判断してもよい。
図14にセンサ汚損による補正量の算出結果をエンジン制御へ反映する例を示す。上記に示したEGR質量流量センサ汚損の診断結果、または脈動の診断結果等に基づき、EGR質量流量センサ18の出力に汚損や脈動を示す可能性がある場合(ステップS31)、EGR質量流量センサ18の出力値に基づいて所定の補正量、または予め設定した別のフェールセーフ値を算出してEGR質量流量センサ18の出力値に置き換えて使用する(ステップS32〜ステップS36)。
センサ汚損または脈動の可能性が無い場合、または、可能性が低いと推定される運転領域においては、EGR質量流量センサ18の出力値そのものを使う(ステップS37、ステップS36)。
または、所定の運転状態における吸入空気量と回転数において、EGR弁17を所定の開度として、予め設定したまたは測定した標準状態でのEGR流量と、EGR流量センサ18の出力値とを比較して、標準状態のEGR流量とEGR質量流量センサ18の出力値との比率または差分を求めて、補正量として学習することで、他の運転領域へ学習値をEGR質量流量センサ18の出力値に反映することで、補正が可能である。
例えば、比率を補正する場合には、EGR質量流量センサ18の出力値に補正値を乗算する。または、差分を補正する場合はEGR質量流量センサ18の出力値に補正値を加算する。この場合、加算した結果が負となる場合は、補正後の値をゼロとする。
また、排気ブレーキを使ってエンジン出力をゼロとしている場合、EGR弁17を全開とすることで、排気ガスが全てエンジンの吸入側に戻るようにして、EGR質量流量センサ18の出力値を校正することが可能である。この場合、排気ブレーキを使ってかつ燃料噴射量をゼロとしている間は、エンジンの排気量×回転数に比例した値がEGR管を流れるので、還流率ηを1.0として目標EGR流量を計算することが可能である。このときのEGR質量流量センサ18の出力値と目標EGR流量との比率または差分を補正量とすることが可能である。
電動過給器を使用している場合には、排気ブレーキをかけた状態のままで、エンジン停止中に電動過給器を回すと、EGRガスは還流率η=1.0のままガスが流れるので、エンジン停止中にも補正量を算出可能である。
図15は、EGR質量流量センサ18の汚損回復について説明する。
煤は、EGR質量流量センサ18だけでなく、EGRクーラ19やEGR弁17、EGR通路内部にも付着し、新品時に比べて通路断面積を狭くする。この場合、標準の運転状態でのEGR流量が低下するので、EGR質量流量センサ18の出力値が低下することになる。よって、煤を除去してセンサ出力値が回復することが期待される。
例えば、EGR質量流量センサ18の出力値に対する補正値が所定の範囲外であれば(ステップS41)、EGR流量が大きい運転領域で、排気ガス温度をDPFの煤を焼く温度まで上昇させる(ステップS42)。これにより、DPF内の煤だけでなくEGR通路内部の煤も焼くことができる(ステップS43)。また、煤に帯電させて電気的に煤を集塵することも可能である。
EGR質量流量センサ18の上流側に煤フィルタを設けて、超音波で煤をフィルタにぶつけることで煤がEGR質量流量センサ18に付着することを防止できる。または、EGR通路内に超音波センサを設けて、超音波センサからEGR管の内面に向かって発する超音波の反射波を測定することで、反射率を測ることで堆積した煤の量を測定することが可能である。堆積した煤の量が所定のしきい値を超えていれば、EGR通路内の煤を焼くような運転状態に移行するか、または、EGR管の交換を運転者に知らせるようにフラグを立てて、運転席のエンジン警告灯に表示する。または、所定の走行距離毎に定期的なEGR管の交換を義務づける。
EGR通路内部の表面に煤を分解しやすい触媒を塗布することで、比較的、低い温度で煤を分解するようにしてもよい。また、EGR通路内部の表面にコーティング剤を塗布して、煤の付着を防止するようにしてもよい。
EGR質量流量センサ18に用いる測定エレメントに煤が付着しないように、ガス温度よりも高温にしている。600℃以上に設定することで煤の付着が無いことを確認した。エンジン始動時からEGR質量流量センサ18に通電すると、測定エレメントが600℃に達するまでは、EGR質量流量センサ出力信号は異なる値を出力する可能性がある。
そこで、所定の温度に達するまでの時間を測定開始のディレイとする。たとえば、センサエレメントの温度とガス温度との温度差が所定の温度となるまでの加熱期間は、センサエレメントの初期温度に依存する。
そこで、図16に示すように、EGRガス温度センサが出力する温度Tgがエンジン1の運転状態に対応した温度に達するまでは、EGR質量流量センサ18による流量測定を禁止するガス温度対応あるいは経過時間対応のディレイを設ける(ステップS51〜ステップS54)。ディレイ値(しきい値)は、始動時ガス温度センサ値に応じて適正値に設定される(ステップS53)。エンジン始動後、ガス温度Tgがしきい値以上あるいは経過時間がしきい値以上になれば、EGR質量流量センサ18による流量測定を許可する(ステップS54、ステップS55)。
なお、エンジン始動時からの経過時間に応じて、EGR質量流量センサ18の出力に対する補正量をテーブル値として用意しておき、始動時からEGR質量流量センサ18の出力を使用したEGR制御も可能である。
[第2実施形態]
第2実施形態では図17に示すように、EGR質量流量センサのバイパス通路の向きを逆にしたセンサを追加して、2つのセンサ信号を用いて、EGRガス流の診断を行う。
この場合、ガス温度センサは共通でもいいので、ガス流が排気側からインテークマニホールド側への順流(排気管から前記吸気管に沿った流れ)を検知するセンサA、インテークマニホールド側から排気側への逆流(吸気管から排気管に沿った流れ)を検知するセンサB、共通のガス温度センサを組み合わせた形になる。バイパス通路は渦巻き状の通路となっており、渦巻きの奥にセンサが取り付けられている。
バイパス通路の入り口から入ったEGRガスは渦巻き状の通路に入り、通路抵抗が圧力損失となって流れ出て行く。出口はガス流の流れ方向と異なる方向となっているので、出口から逆にガス流が入ることは困難な形状となっている。
EGR質量流量センサの発熱抵抗体をバイパス通路内に設置し、1方向のみのガス流を検知する。バイパス通路の入り口を互いに逆向きに設置した2つの発熱抵抗体とバイパス通路の外側に置いた温度センサからの信号出力を、それぞれ、A/D変換して、EGR流量を測定する。
図18に、逆流が発生している状態での、2つのEGR質量流量センサ信号出力を示す。順流のみを検知するEGR質量流量センサ信号出力は、逆流の間はほぼゼロとなる。逆流のみを検知する質量流量センサ信号出力は順流の間はほぼゼロとなる。よって、順流の信号と逆流の信号を組み合わせることによって、EGRガス流の波形を再現できる。
このとき、順流の信号と逆流のEGRガス流量のピーク値の時間差を測定して、エンジン回転数に応じた時間差とならない場合は、EGR配管の漏れなどの可能性がある。時間差だけでなく、例えば、所定時間毎の流量変化量(微分値)を用いて、吸気管から前記排気管に沿って流れを診断してもよい。
排気通路にNOxセンサを設けて、排気ガスに含まれるNOx濃度CNOxを測定し、同時にエアフローメータによる新気吸入空気量Qairを乗算することにより、ハイプレッシャEGRでの排気ガス処理用触媒を通過するガス量を演算できる。
排気ガスには燃料質量に相当する二酸化炭素CO2と水蒸気H2Oが含まれるため、排気ガス質量は吸入空気量Qairよりも重い。このずれを空燃比センサ出力信号A/Fで補正することも可能である。しかし、空燃比が高いリーン領域では、A/Fの測定誤差が大きく、排気ガス質量の誤差が大きい。
EGR質量流量センサを排気管にも取り付けて、排気ガス質量流量を測定すれば、空燃比センサに依存せずに排気ガス質量流量を測定できるので、排気ガス質量Qegrを求めることができる。
また、図19に示した、ロープレッシャEGRでは新気吸入空気量QairとEGRガスの実質量流量Qrealの和が燃焼室に流入するので、排気ガス処理用触媒を通過するガス量は、
Qegr=Qair+Qreal+燃料
となる。
こうして求められる排気ガス質量流量にNOx濃度CNOxを乗じることで、より、正確なNOx質量を測定できる。NOx質量に相当する排気処理を行うことで、排気ガス処理に必要なリッチスパイクや尿素噴射量を正確に演算できる。
加速時や減速時はEGRガスの還流遅れがある分だけ、EGR率がずれる。これにより、加速時のNOx排出や煤の排出が多くなる。EGR率を所定の範囲内に納めるため、加速時の初期に一時的にスロットルを閉じて、同時にEGR弁を大きく開いて、EGRガス量を確保してから、スロットルを開いている。
減速時には、EGR弁を閉じると同時にスロットルを開いてEGR率の変動を抑制している。
従来は、EGR弁とスロットルを同時に変化させる度合いは、アクセルペダルと回転数に応じた適合値で行っている。今回、EGR質量流量センサを用いることで、EGRガスの還流が可能になったことを確認してから、スロットルとEGR弁を目標の開度に設定することで、過渡運転時でも正確なEGR率を確保できる。
また、EGR弁のリフト量を変えるモータ軸の回転をナットに伝えて、ネジを切った軸で弁のリフトに変換している。ネジとナットには若干の隙間が必要であり、モータが停止してナットが止まっていても、ネジ軸がガタつくことがある。
特に、EGR弁開度がほぼ全閉に近い場合、このガタによるバルブリフト量のずれに伴ってEGR弁開度の変化が強調される。図19に示すように、EGR質量流量の変化が観測された。
インテークマニホールド内の圧力と温度でEGR流量を推定する従来方式では、バルブリフト量のずれに伴うEGR流量を検出するには精度が足りなかったが、EGR質量流量センサは、直接EGR質量流量を測定するので、リフト量がほぼ全閉に近い場合でも、EGR流量の変化を的確にとらえることができる。よって、EGR率を1爆発毎に制御でき、エンジン出力の安定性を向上できる。
診断結果を用いて、EGR流路を流れる排気ガスの実流量を正確に測定できることにより、ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンのEGR率を従来よりも正確に制御でき、排気ガスレベル低減を図る効果が高くなる。