図1は、本発明が適用された車両用の自動変速機10の構成を説明する骨子図である。また、図2は、自動変速機10の複数のギヤ段(変速段)を成立させる際の係合装置(係合要素)の作動の組み合わせを説明する作動図表(係合作動表)である。この自動変速機10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケースと表す)30内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心C上に備え、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン26によって回転駆動されるトルクコンバータ28のタービン軸である。出力軸24は出力回転部材に相当するものであり、例えば差動歯車装置(終減速機)70や一対の車軸72等を順次介して左右の駆動輪74を回転駆動する(図3参照)。なお、この自動変速機10は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備え、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1によって3つの回転要素が構成されている。キャリヤCA1は入力軸22に連結されて回転駆動され、サンギヤS1は回転不能にケース30に一体的に固定されている。リングギヤR1は中間出力部材として機能し、入力軸22に対して減速回転させられて、回転を第2変速部20へ伝達する。本実施例では、入力軸22の回転をそのままの速度で第2変速部20へ伝達する経路が、予め定められた一定の変速比(=1.0)で回転を伝達する第1中間出力経路PA1であり、第1中間出力経路PA1には、入力軸22から第1遊星歯車装置12を経ることなく第2変速部20へ回転を伝達する直結経路PA1aと、入力軸22から第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1を経て第2変速部20へ回転を伝達する間接経路PA1bとがある。また、入力軸22からキャリヤCA1、そのキャリヤCA1に配設されたピニオンギヤP1、およびリングギヤR1を経て第2変速部20へ伝達する経路が、第1中間出力経路PA1よりも大きい変速比(>1.0)で入力軸22の回転を変速(減速)して伝達する第2中間出力経路PA2である。
第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2およびP3、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持するキャリヤCA3、ピニオンギヤP2およびP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2および第3遊星歯車装置のキャリヤCA3が互いに一体的に連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに一体的に連結されて第3回転要素RM3が構成され、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第4回転要素RM4が構成されている。この第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置16のピニオンギヤP2が第3遊星歯車装置18の第2ピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース30に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリヤCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されている。第2回転要素RM2(キャリヤCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース30に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されている。第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されている。なお、第2回転要素RM2とケース30との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2に戻り、この係合作動表は、自動変速機10の各ギヤ段を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。このように、自動変速機10においては、3組の遊星歯車装置12、16、18を備え、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合することにより変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が異なる複数のギヤ段例えば前進8段の多段変速が達成される。また、特に、第2ブレーキB2と並列に一方向クラッチF1が設けられていることから、第1ギヤ段(1st)を成立させる際に、第2ブレーキB2はエンジンブレーキ時には係合させられる一方、駆動時には解放させられる。
また、各ギヤ段毎に異なる変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。また、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBと表す)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置(以下、係合装置という)であり、油圧制御回路76(図3参照)内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン26の出力制御や自動変速機10の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用やリニアソレノイドバルブSL1〜SL6を制御する変速制御用等に分けて構成される。
図3において、車両に設けられたセンサやスイッチなどから、例えばクランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン26の回転速度NEに対応するクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ32、トルクコンバータ28のタービン回転速度NTすなわち自動変速機10の入力軸22の回転速度NINを検出するタービン回転速度センサ34、車速Vに対応する出力軸24の回転速度NOUTを検出する出力軸回転速度センサ36、エンジン26の吸入空気量QAIRを検出する吸入空気量センサ38、手動変速操作装置としてのシフトレバー40のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するシフトポジションセンサ42、アクセルペダル44の操作量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ46、吸気配管48に設けられた電子スロットル弁50の開き角すなわちスロットル弁開度θTHを検出するスロットルポジションセンサ52、常用ブレーキであるフットブレーキ54の操作の有無を表すブレーキ操作信号BONを検出するブレーキスイッチ56、油圧制御回路76内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ58、車両の加速度(減速度)Gを検出するための加速度センサ60等から、クランク角度(位置)ACR(°)およびエンジン回転速度NE、タービン回転速度NT(=入力軸回転速度NIN)、車速V、出力軸回転速度NOUT、吸入空気量QAIR、レバーポジションPSH、アクセル開度Acc、スロットル弁開度θTH、ブレーキ操作信号BON、AT油温TOIL、加速度(減速度)Gなどを表す信号が電子制御装置100に供給される。
上記アクセルペダル44は、運転者の要求する車両駆動力に応じて踏み込み操作されるもので、出力操作部材に相当し、その操作量であるアクセル開度Accは加速要求量に相当する。
上記タービン回転速度NT(=入力軸回転速度NIN)、車速V、出力軸回転速度NOUTなどはエンジン回転速度NEに1対1に対応する関連値(相当値)であって、エンジン回転速度NEを含むこれらエンジン回転速度関連値は、エンジン26から駆動輪74までの動力伝達経路における回転部材の回転速度である。また、このエンジン回転速度関連値としてその他に、例えば車軸72の回転速度、図示しないプロペラシャフトの回転速度、差動歯車装置70の出力軸の回転速度などが用いられる。以下、本実施例では、特に区別しない限りエンジン回転速度と表したものはエンジン回転速度関連値をも表すものとする。
また、電子制御装置100からは、エンジン26の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁50の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ62への駆動信号や燃料噴射装置64から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号やイグナイタ66によるエンジン26の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力されている。また、自動変速機10の変速制御の為の変速制御指令信号SP、例えば自動変速機10の変速段を切り換えるために油圧制御回路76内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁などを制御するためのバルブ指令信号やライン油圧PLを制御するためのリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号などが出力されている。
図4は、クラッチCおよびブレーキBの各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6等に関する回路図であって、油圧制御回路76の要部を示す回路図である。
図4において、クラッチC1、C2、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)78、80、86、88には、油圧供給装置90から出力されたDレンジ圧(前進レンジ圧、前進油圧)PDがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL5、SL6により調圧されて供給され、クラッチC3およびC4の各油圧アクチュエータ82、84には、油圧供給装置90から出力されたライン油圧PL1がそれぞれリニアソレノイドバルブSL3、SL4により調圧されて供給されるようになっている。なお、ブレーキB2の油圧アクチュエータ88には、リニアソレノイドバルブSL6の出力油圧およびリバース圧(後進レンジ圧、後進油圧)PRのうち何れか供給された油圧がシャトル弁99を介して供給される。
油圧供給装置90は、エンジン26によって回転駆動される機械式のオイルポンプ68(図1参照)から発生する油圧を元圧としてライン油圧PL1(第1ライン油圧PL1)を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)92、第1調圧弁92によるライン油圧PL1の調圧のために第1調圧弁92から排出される油圧を元圧としてライン油圧PL2(第2ライン油圧PL2、セカンダリ圧PL2)を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)94、アクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHで表されるエンジン負荷等に応じたライン油圧PL1、PL2に調圧されるために第1調圧弁92および第2調圧弁94へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLT、ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ96、およびケーブルやリンクなどを介して機械的に連結されるシフトレバー40の操作に伴い機械的に作動させられて油路が切り換えられることにより入力されたライン油圧PL1をシフトレバー40が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときにはDレンジ圧PDとして出力し或いは「R」ポジションへ操作されたときにはリバース圧PRとして出力するマニュアルバルブ98等を備えており、ライン油圧PL1、PL2、モジュレータ油圧PM、Dレンジ圧PD、およびリバース圧PRを供給する。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置100により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ78〜88の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の係合圧が制御される。そして、自動変速機10は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速機10の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチ・ツウ・クラッチ変速が実行される。例えば、図2の係合作動表に示すように5速→4速のダウンシフトでは、クラッチC2が解放されると共にクラッチC4が係合され、変速ショックを抑制するようにクラッチC2の解放過渡油圧とクラッチC4の係合過渡油圧とが適切に制御される。このように、自動変速機10の係合装置(クラッチC、ブレーキB)がリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により各々制御されるので、係合装置の作動の応答性が向上される。或いはまた、その係合装置の係合/解放作動の為の油圧回路が簡素化される。
シフトレバー40は例えば運転席の近傍に配設され、図5に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機10内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸24の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは自動変速機10の出力軸24の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機10内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機10の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)であり、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち変速可能な高速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
この「S」ポジションにおいては、シフトレバー40の操作毎に変速範囲をアップ側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「+」ポジション、シフトレバー40の操作毎に変速範囲をダウン側にシフトさせるためのレバーポジションPSHとしての「−」ポジションが備えられている。例えば、「S」ポジションにおいては、「8」レンジ〜「L」レンジの何れかがシフトレバー40の「+」ポジション或いは「−」ポジションへの操作に応じて変更される。また、「S」ポジションにおける「L」レンジは第1ギヤ段「1st」にて第2ブレーキB2を係合させて一層エンジンブレーキ効果が得られるためのエンジンブレーキレンジでもある。
上記「D」ポジションは自動変速機10の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するシフトポジションでもあり、「S」ポジションは自動変速機10の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共にシフトレバー40の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するシフトポジションでもある。
図6は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、エンジン出力制御手段102は、例えばスロットルアクチュエータ62により電子スロットル弁50を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置64を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ66を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、電子スロットル弁50の開閉制御は、図7に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルク推定値TE0との予め実験的に求めて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEおよびアクセル開度Accに基づいて求められる目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットルアクチュエータ62によりスロットル弁開度θTHを制御する。
変速制御手段104は、例えば図8に示すような車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、自動変速機10の変速を実行すべきか否かを判断し、例えば自動変速機10の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速機10の自動変速制御を実行する。このとき、変速制御手段104は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速機10の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる変速制御指令信号SP(変速出力指令、油圧指令)を油圧制御回路76へ出力する。
その指令SPに従って、自動変速機10の変速が実行されるように油圧制御回路76内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL6が駆動させられて、その変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータが作動させられる。
図8の変速線図において、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。また、この図8の変速線図における変速線は、実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。なお、図8の変速線図は自動変速機10で変速が実行される第1変速段乃至第8変速段のうちで第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている。
例えば、変速制御手段104は、実際の車速Vが2速→3速アップシフトを実行すべき2速→3速アップシフト線を横切ったと判断した場合には、すなわち変速点車速V2−3を越えたと判断した場合には、ブレーキB1を解放させると共にクラッチC3を係合させる指令を油圧制御回路76に出力する、すなわち非励磁によってブレーキB1の係合油圧を排油(ドレン)させる指令をリニアソレノイドバルブSL5に出力すると共に、励磁によってクラッチC3の係合油圧を供給させる指令をリニアソレノイドバルブSL3に出力する。
このように、変速制御手段104は、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、リニアソレノイドバルブSL1〜SL6にそれぞれ対応するクラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の係合、解放状態を切り換えて第1ギヤ段「1st」〜第8ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させる。
また、変速制御手段104は、シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されて前記手動変速モードが選択されているときにエンジン回転速度NEが所定の許容回転速度を超えないように、シフトレバー40の操作により変更された変速レンジを所定のアップシフト規則に従って高速側の変速レンジへ変更する、言い換えれば手動操作により設定された変速比を所定のアップシフト規則に従って小さくする手動変速時自動アップシフトを行う。
上記所定の許容回転速度は、エンジン26の耐久性等を考慮してエンジン26に許容される最大許容回転速度を超えないエンジン回転速度領域で常用され得る為の予め実験的に定められた所定エンジン許容回転速度NE’である。この所定エンジン許容回転速度NE’は、前記エンジン出力制御手段102によりエンジン26への燃料供給が停止されてすなわちフューエルカットされてエンジン26を保護するための予め定められたフューエルカット作動回転速度でもある。
また、上記所定のアップシフト規則は、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’超えないように、変速可能な最高速側ギヤ段を高速側へ変更してエンジン回転速度NEを低下させるものであり、最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇した場合に、手動操作により設定された変速レンジを1レンジ以上高速側へ変更するように予め定められている。この所定アップシフト回転速度NEUP’は、所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度であって、アップシフトの際の変速応答遅れ等によるエンジン回転速度NEの吹き上がり量を考慮して所定エンジン許容回転速度NE’よりも所定値低い値に予め実験等により求められて設定されている手動変速時自動アップシフト判定値である。
しかしながら、エンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上となって前記変速制御手段104により一律に手動変速時自動アップシフトが実行されると、例えばトーイング時に登坂路を走行しているような場合には手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下して必要な駆動力が得られない可能性がある。
そこで、変速制御手段104は、エンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上となっても手動変速時自動アップシフトが不適である場合にはその手動変速時自動アップシフトを実行しない。
具体的には、手動変速モード判定手段106は、シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されて手動変速モードが実行中であるか否かをレバーポジションPSHに基づいて判定する。
自動アップシフト判定手段108は、前記手動変速モード判定手段106により手動変速モードが実行中であると判定された場合には、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇したか否かを判定する。
自動アップシフト適否判定手段110は、前記自動アップシフト判定手段108によりエンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇したと判定された場合には、実際の車両状態に基づいて前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが適切であるか否かを判定する。
例えば、自動アップシフト適否判定手段110は、手動変速時自動アップシフト後に発生される推定駆動力FUPおよび手動変速時自動アップシフト後に必要とされる所定駆動力FUP’を算出する駆動力算出手段112を備え、その駆動力算出手段112により算出された推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’以下である場合に手動変速時自動アップシフトが禁止されるように、その手動変速時自動アップシフトが不適であると判定する。
上記所定駆動力FUP’は、手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の低下により車速Vが低下してしまうことが防止されるように、実際の車両状態に基づいて求められた現在の車速Vを維持するために必要な駆動力すなわち車速維持駆動力である。
ここで、駆動力算出手段112による推定駆動力FUPおよび所定駆動力FUP’の算出について以下に説明する。なお、ここでの駆動力とは、駆動輪36における車両駆動力(以下駆動力という)F[N]やその駆動力Fに1対1に対応する駆動力関連値(相当値)であって、駆動力Fはもちろんのことその他に、例えば加速度G[G、m/s2]、駆動軸トルクとしての車軸72上のトルク(以下車軸トルクという)TD[Nm]、車両の出力(以下出力或いはパワーという)P[PS、kW、HP]、エンジン26の出力トルクとしてのクランク軸上のトルク(以下エンジントルクという)TE[Nm]、トルクコンバータ28の出力トルクとしてのトルクコンバータ28のタービン軸上のトルク(以下タービントルクという)TT[Nm]すなわち自動変速機10の入力トルクとしての入力軸22上のトルク(以下入力軸トルクという)TIN[Nm]、自動変速機10の出力トルクとしての出力軸24上のトルク(以下出力軸トルクという)TOUT[Nm]、プロペラシャフト上のトルクTP[Nm]などが用いられる。
前記駆動力算出手段112は、実際の車両状態としての現在の車速V(出力軸回転速度NOUT)および現在から1速上のギヤ段すなわち手動変速時自動アップシフト後のギヤ段における変速比γUPに基づいて手動変速時自動アップシフト後のエンジン回転速度NEUP(=NOUT×γUP:便宜上トルクコンバータ28の回転速度比は1とする)を算出する。次いで、図7に示すようなエンジントルクマップからそのエンジン回転速度NEUPおよび実際のスロットル弁開度θTHに基づいて手動変速時自動アップシフト後の推定エンジントルクTEUPを求める。そして、駆動力算出手段112はその推定エンジントルクTEUP、変速比γUP、差動歯車装置70等の減速比i、および駆動輪74のタイヤ有効半径rWに基づいて推定駆動力FUP(=TEUP×γUP×i/rW)を算出する。
また、駆動力算出手段112は、平坦路走行における走行抵抗fresを算出する。この走行抵抗fresは、ころがり抵抗Rr(=μr×W;μrはころがり抵抗係数、Wは車両重量)と空気抵抗Ra(=μa×A×V2;μaは空気抵抗係数、Aは前面投影面積、Vは車速)との和であり fres=Rr+Ra で表され、例えば走行抵抗fresと車速Vとの予め実験的に求められて記憶された関係(マップ)から実際の車速Vに基づいて走行抵抗fresを算出する。
また、駆動力算出手段112は、図7に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NEおよびスロットル弁開度θTHに基づいて現在走行中の推定エンジントルクTE0を求め、その推定エンジントルクTE0、自動変速機10の実際のギヤ段における変速比γ、差動歯車装置70等の減速比i、および駆動輪74のタイヤ有効半径rWに基づいて現在の発生駆動力Freal(=TE0×γ×i/rW)を算出する。
また、駆動力算出手段112は、発生駆動力Freal、走行抵抗fres、車両重量W、および等価慣性質量Wrに基づいて、平坦路走行において発生駆動力Frealにより発生させられるべき車両加速度Gである基準車両加速度Gb(=(Freal−fres)/(W+Wr))を算出する。この等価慣性質量Wrは、エンジン26や動力伝達系等の慣性モーメントを駆動軸の有効半径上の重量に置き換えた回転部分慣性重量であり、予め求められて記憶されている値である。
また、駆動力算出手段112は、基準車両加速度Gbと実際の車両加速度Gsとの加速度差G’(=Gb−Gs)を算出し、加速度差G’をパラメータとして予め実験的に求められて記憶された車速Vとみかけの路面勾配θAとの関係(マップ)からその算出された加速度差G’および実際の車速Vに基づいてみかけの路面勾配θAを求める。この加速度差G’は、基準車両加速度Gbに対する実際の車両加速度Gsを比較することから車両が実際に走行している路面勾配θの大きさを表しており、この差が大きい程路面勾配θが大きいことになる。また、このみかけの路面勾配θAには、実際に走行している路面勾配θに車両重量W以外の重量例えば牽引するトレーラの重量が等価的に置き換えられた勾配分が加えられている。
そして、駆動力算出手段112は、車両重量W、みかけの路面勾配θA、および走行抵抗fresに基づいて、所定駆動力FUP’(=K×(f(W、θA)+fres):Kは予め実験的に求められた所定係数、f(W、θA)は予め実験的に求めて記憶されたマップまたは関数)を算出する。
自動アップシフト禁止手段114は、前記自動アップシフト適否判定手段110により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが不適であると判定された場合には、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止されるように、手動変速時自動アップシフトの実行を禁止する指令を変速制御手段104に出力する。
ところで、エンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇したときに手動変速時自動アップシフトの実行が禁止されると、エンジン26のオーバーレブが発生したり或いはフューエルカット作動に伴って違和感が生じる可能性がある。そこで、エンジン26のオーバーレブを抑制したり或いはフューエルカット作動が回避されるように、エンジン回転速度NEの増加を抑制する。
例えば、前記エンジン出力制御手段102は、エンジン回転速度NEを所定の回転速度近傍に維持する動力源回転制御手段116を備え、前記自動アップシフト禁止手段114により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合に、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にエンジン回転速度NEが可及的に高くされて適切な駆動力が確保されるように、その動力源回転制御手段116にエンジン回転速度NEを所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持させる。
上記動力源回転制御手段116は、例えば電子スロットル弁50の開閉制御や燃料噴射量制御や点火時期制御などによりエンジン回転速度NEを所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持する。ここでの所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度は、例えば前記所定アップシフト回転速度NEUP’であったり、その所定アップシフト回転速度NEUP’と所定エンジン許容回転速度NE’との間の回転速度に設定される。
より具体的には、動力源回転制御手段116は、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保するように、加速要求量に基づいてエンジン回転速度NEを所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持する。例えば、この所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度は、アクセル開度Accが大きくなる程より所定エンジン許容回転速度NE’近くに設定される。
図9は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち手動変速時自動アップシフトが実行される際にその手動変速時自動アップシフトの適否を適切に判断するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
図9において、前記手動変速モード判定手段106に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA1において、レバーポジションPSHに基づいてシフトレバー40が「S」ポジションへ操作されて手動変速モードが実行中であるか否かが判定される。
上記SA1の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記自動アップシフト判定手段108に対応するSA2において、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇したか否かが判定される。
上記SA2の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記自動アップシフト適否判定手段110に対応するSA3において、手動変速時自動アップシフト後のギヤ段において発生される推定駆動力FUPが現在の車速Vを維持するために必要な駆動力である所定駆動力FUP’以下であるか否かが判定される。
上記SA3にて推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’を超えており手動変速時自動アップシフトが適切であると判定されてそのSA3の判断が否定される場合は前記変速制御手段104に対応するSA4において、シフトレバー40の操作により変更された変速レンジを所定のアップシフト規則に従って高速側の変速レンジへ変更する手動変速時自動アップシフトが実行される。
前記SA3にて推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’以下となり手動変速時自動アップシフトが不適であると判定されてそのSA3の判断が肯定される場合は前記自動アップシフト禁止手段114に対応する図示しないステップにおいて、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止されるように、手動変速時自動アップシフトの実行を禁止する指令が変速制御手段104に出力される。加えて、前記エンジン出力制御手段102に対応する図示しないステップにおいて、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にエンジン回転速度NEが可及的に高くされて適切な駆動力が確保されるように、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持される。例えば、この所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度は、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保するように、アクセル開度Accが大きくなる程より所定エンジン許容回転速度NE’近くに設定される。
上述のように、本実施例によれば、自動アップシフト適否判定手段110により手動変速時自動アップシフトが不適であると判定された場合には、自動アップシフト禁止手段114によりその手動変速時自動アップシフトが禁止されるので、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止される。
また、本実施例によれば、自動アップシフト適否判定手段110により手動変速時自動アップシフト後のギヤ段において発生される推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’以下である場合に手動変速時自動アップシフトが不適であると判定されるので、推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’を超えないときには手動変速時自動アップシフトが禁止されてその手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の低下が防止される。
また、本実施例によれば、所定駆動力FUP’は、現在の車速Vを維持するために必要な駆動力であるので、手動変速時自動アップシフト後のギヤ段において車速Vを維持するために必要な駆動力を実現できないときには手動変速時自動アップシフトが禁止されて、その手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の低下により運転者の意図に反して車速が低下してしまうことが防止される。
また、本実施例によれば、シフトレバー40は、ギヤ段の変化範囲を制限する複数種類のレンジを手動操作により切り換えて自動変速機10の変速比を変更するので、手動変速モードの際には手動操作により自動変速機10の変速比が適切に変更される。
また、本実施例によれば、自動アップシフト禁止手段114により手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合には、エンジン出力制御手段102(動力源回転制御手段116)によりエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持されるので、アップシフトが実行されなくともエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にエンジン回転速度NEが可及的に高くされて適切な駆動力が確保される。
また、本実施例によれば、動力源回転制御手段116により加速要求量に基づいてエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持されるので、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、手動変速時自動アップシフトが実行される際に推定駆動力FUPおよび所定駆動力FUP’に基づいてその手動変速時自動アップシフトの適否を適切に判断した。一方で、コーナー走行中に運転者の意思と無関係に手動変速時自動アップシフトが行われて駆動力が低下(変化)すると言い換えれば車両加速度が低下(変化)すると、直線走行中に比べて違和感が顕著に生じる可能性がある。そこで、本実施例では、変速制御手段104は、エンジン回転速度NEが所定アップシフト回転速度NEUP’以上となってもコーナー走行中或いはコーナー走行直前である場合にはその手動変速時自動アップシフトを実行しない。
具体的には、図10は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図6に相当する図である。
前記図6の実施例では、自動アップシフト適否判定手段110は、推定駆動力FUPおよび所定駆動力FUP’を算出する駆動力算出手段112を備え、推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’以下であるか否かに基づいて手動変速時自動アップシフトが不適であるか否かを判定した。この図10においては、それに替えて、自動アップシフト適否判定手段110は、現在走行中の道路情報および車両前方の道路情報の少なくとも一方を検出する道路情報検出手段118を備え、その道路情報検出手段118によりコーナーが検出された場合に手動変速時自動アップシフトが禁止されるように、手動変速時自動アップシフトが不適であると判定する。
そして、自動アップシフト禁止手段114は、前記自動アップシフト適否判定手段110により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが不適であると判定された場合には、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止されるように、より具体的には手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の変化によりコーナー走行中に直線走行中に比べて顕著に生じる違和感が防止されるように、手動変速時自動アップシフトの実行を禁止する指令を変速制御手段104に出力する。
前記道路情報検出手段118は、例えば良く知られたナビゲーションシステムから現在走行中の道路情報や車両前方の道路情報を検出したり、車両加速度Gやステアリングホイールの舵角や各車輪の回転速度差等により旋回走行中を判断して現在走行中の道路情報を検出したり、前方障害物検出センサ等により車両前方の道路情報を検出することにより、コーナーを検出する。
また、前記図6の実施例では、前記エンジン出力制御手段102は、エンジン回転速度NEを所定の回転速度近傍に維持する動力源回転制御手段116を備え、前記自動アップシフト禁止手段114により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合に、その動力源回転制御手段116にエンジン回転速度NEを所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持させた。この図10においては、それに替えて、前記エンジン出力制御手段102は、エンジン26の自律回転を抑制する自律回転抑制制御手段120すなわちエンジン26への燃料供給を抑制する燃料供給抑制制御手段を備え、前記自動アップシフト禁止手段114により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合に、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にアップシフトやフューエルカット作動に比較して駆動力の変化が抑制されて違和感の発生が抑制されるように、自律回転抑制制御手段120にエンジン26への燃料供給を抑制させる。
このように、上記自律回転抑制制御手段120は、エンジン26への燃料供給を完全に遮断するフューエルカット作動に比較してエンジントルクTEの変化が小さくなるようにエンジン26への燃料供給を抑制するものである。
より具体的には、自律回転抑制制御手段120は、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保するように、加速要求量に基づいてエンジン26の自律回転を抑制する、すなわちにエンジン26への燃料供給量を抑制する。例えば、このエンジン26への燃料供給量の抑制は、アクセル開度Accが大きくなる程より小さくされる。
また、前記図6の実施例では、手動変速時自動アップシフト判定値として所定アップシフト回転速度NEUP’を用い、前記自動アップシフト判定手段108は現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEがその所定アップシフト回転速度NEUP’以上に上昇したか否かを判定した。この図10においては、それに替えて、手動変速時自動アップシフト判定値としてエンジン回転速度関連値である車速Vに対応する所定アップシフト車速VUP’を用い、前記自動アップシフト判定手段108は、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中に車速Vがその所定アップシフト車速VUP’以上に上昇したか否かを判定する。この所定アップシフト車速VUP’は、所定アップシフト回転速度NEUP’と同様に、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中にエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’超えないように前記所定のアップシフト規則に従って手動変速時自動アップシフトが行われるための予め実験等により求められて設定されている判定値である。
図11は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち手動変速時自動アップシフトが実行される際にその手動変速時自動アップシフトの適否を適切に判断するための制御作動を説明するフローチャートであって、前記図9に相当する図である。
図11において、SB1はレバーポジションPSHに基づいてシフトレバー40が「S」ポジションへ操作されてシーケンシャルモードすなわち手動変速モードが選択されていることを示している。つまり、前記図9のSA1の判断が肯定された場合を示している。
次いで、前記自動アップシフト判定手段108に対応するSB2において、現在の変速レンジにおける最高速側ギヤ段にて走行中に車速Vがその所定アップシフト車速VUP’以上に上昇したか否かが判定される。
上記SB2の判断が否定される場合はこのSB2が繰り返し実行されるが、肯定される場合は前記自動アップシフト適否判定手段110に対応するSB3において、例えば良く知られたナビゲーションシステムからの現在走行中の道路情報や車両前方の道路情報に基づいてコーナーが検出されたか否かが判定される。
上記SB3にてコーナーが検出されず手動変速時自動アップシフトが適切であると判定されてそのSB3の判断が否定される場合は前記変速制御手段104に対応するSB4において、シフトレバー40の操作により変更された変速レンジを所定のアップシフト規則に従って高速側の変速レンジへ変更する手動変速時自動アップシフトが実行される。
前記SB3にてコーナーが検出されることにより手動変速時自動アップシフトが不適であると判定されてそのSB3の判断が肯定される場合は前記自動アップシフト禁止手段114および前記エンジン出力制御手段102に対応するSB5において、手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の変化によりコーナー走行中に直線走行中に比べて顕著に生じる違和感が防止されるように、手動変速時自動アップシフトの実行を禁止する指令が変速制御手段104に出力される。加えて、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にアップシフトやフューエルカット作動に比較して駆動力の変化が抑制されて違和感の発生が抑制されるように、エンジン26への燃料供給が抑制される。例えば、このエンジン26への燃料供給量の抑制は、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保するように、アクセル開度Accが大きくなる程より小さくされる。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様に、自動アップシフト適否判定手段110により手動変速時自動アップシフトが不適であると判定された場合には、自動アップシフト禁止手段114によりその手動変速時自動アップシフトが禁止されるので、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止される。
また、本実施例によれば、道路情報検出手段118によりコーナーが検出された場合に自動アップシフト適否判定手段110により手動変速時自動アップシフトが不適であると判定されてコーナー走行中には手動変速時自動アップシフトが禁止されるので、その手動変速時自動アップシフトに伴う駆動力の変化により直線走行中に比べて顕著に生じる違和感が防止される。
また、本実施例によれば、自動アップシフト禁止手段114により手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合には、エンジン出力制御手段102(自律回転抑制制御手段120)によりエンジン26への燃料供給が抑制されるので、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが抑制されると共にアップシフトやフューエルカット作動に比較して駆動力の変化が抑制されて違和感の発生が抑制される。
また、本実施例によれば、動力源回転制御手段116により加速要求量に基づいてエンジン26の自律回転が抑制されるすなわちにエンジン26への燃料供給量が抑制されるので、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保することができる。
図12は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、図6に相当する図である。
前記図6の実施例では、前記エンジン出力制御手段102は、エンジン回転速度NEを所定の回転速度近傍に維持する動力源回転制御手段116を備え、前記自動アップシフト禁止手段114により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合に、その動力源回転制御手段116にエンジン回転速度NEを所定エンジン許容回転速度NE’近傍の回転速度に維持させた。この図12においては、それに替えて、前記変速制御手段104は、手動変速時自動アップシフト時において所定のアップシフト規則に従って2レンジ以上高速側へ変更される変速レンジ変化に比較して小さい変速レンジ変化となる新たな変速レンジを設定して禁止時アップシフトを行う禁止時変速制御手段122を備え、前記自動アップシフト禁止手段114により前記変速制御手段104による手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合に、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが防止されると共に変速比変化が大きな手動変速時自動アップシフトに比較してアップシフトに伴う駆動力の低下が抑制されて適切な駆動力が確保されるように、その禁止時変速制御手段122に禁止時アップシフトを実行させる。但し、所定のアップシフト規則が変速レンジを1レンジ高速側へ変更するような手動変速時自動アップシフトである場合には、この禁止時変速制御手段122による禁止時アップシフトは実行されない。
このように、上記禁止時変速制御手段122は、手動変速時自動アップシフト時の変速比変化幅に比較して小さい変速比変化幅となる新たな変速レンジを設定してアップシフトを実行するものである。
より具体的には、禁止時変速制御手段122は、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保するように、加速要求量に基づいて新たな変速レンジを設定してアップシフトを行う。例えば、この新たな変速レンジは、アクセル開度Accが大きくなる程より低速側の変速レンジに設定される。
本実施例では、図9のフローチャートにおいて前記SA3の判断が肯定される場合は前記自動アップシフト禁止手段114に対応する図示しないステップにおいて、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止されるように、手動変速時自動アップシフトの実行を禁止する指令が変速制御手段104に出力される。加えて、前記変速制御手段104に対応する図示しないステップにおいて、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが防止されると共に手動変速時自動アップシフトに比較してアップシフトに伴う駆動力の低下が抑制されて適切な駆動力が確保されるように、所定のアップシフト規則に比較して小さい変速レンジ変化となる新たな変速レンジが設定されて禁止時アップシフトが行われる。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例と同様に、自動アップシフト適否判定手段110により手動変速時自動アップシフト後のギヤ段において発生される推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’以下と判定されて手動変速時自動アップシフトが不適であると判定された場合には、推定駆動力FUPが所定駆動力FUP’を超えないときには自動アップシフト禁止手段114によりその手動変速時自動アップシフトが禁止されるので、手動変速時自動アップシフトにより運転者の意図に反して駆動力が低下することが防止される。
また、本実施例によれば、自動アップシフト禁止手段114により手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合には、変速制御手段104(禁止時変速制御手段122)により所定のアップシフト規則に従って2レンジ以上高速側へ変更される変速レンジ変化に比較して小さい変速レンジ変化となる新たな変速レンジが設定されて禁止時アップシフトが行われるので、エンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’を超えることが防止されると共に手動変速時自動アップシフトに比較してアップシフトに伴う駆動力の低下が抑制されて適切な駆動力が確保される。
また、本実施例によれば、禁止時変速制御手段122により加速要求量に基づいて新たな変速レンジが設定されてアップシフトが行われるので、運転者の要求を適切に反映した駆動力を確保することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、所定アップシフト回転速度NEUP’や所定アップシフト車速VUP’は、エンジン26の耐久性等を考慮してエンジン回転速度NEが所定エンジン許容回転速度NE’超えないように所定のアップシフト規則に従って手動変速時自動アップシフトが行われるための手動変速時自動アップシフト判定値であったが、自動変速機10がベルト式無段変速機(CVT)である場合には、そのエンジン26の耐久性等を考慮することに替えて或いは加えて、所定アップシフト回転速度NEUP’や所定アップシフト車速VUP’は、そのCVTのベルトの耐久性等を考慮して無段変速機の入力軸回転速度NINが所定入力軸回転速度NIN’超えないように所定のアップシフト規則に従って手動変速時自動アップシフトが行われるための手動変速時自動アップシフト判定値であっても良い。このように、所定エンジン許容回転速度NE’や所定アップシフト回転速度NEUP’は、所定入力軸回転速度NIN’や所定アップシフト車速VUP’と同様に、エンジン回転速度関連値であるエンジン26から駆動輪74までの動力伝達経路における何れかの回転部材の回転速度に対応する各々予め定められた所定の許容回転速度や手動変速時自動アップシフト判定値に置き換えられる。このような場合であっても本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、手動変速操作装置としてシフトレバー40が運転席の近傍に手動操作可能に配設されていたが、複数種類のシフトポジション例えば「P」、「R」、「N」、「D」、および「S」が選択可能に操作されるように備えられる範囲で、実施例以外に種々のものが好適に用いられる。
例えば、ステアリングホイール近傍に配設される操作装置、押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションを切り換えられる操作装置等であってもよい。
また、シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されることにより、手動変速モードが選択されたときには、ギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジが切り換え可能に構成されたが、自動変速機10が無段変速機(CVT)である場合には、連続的に変化する変速比の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち変速可能な高速側の変速比が異なる複数種類の変速レンジが切り換え可能に構成される。このようにしても、手動変速モードの際には手動操作により自動変速機10の変速比が適切に変更される。
シフトレバー40が「S」ポジションへ操作されることにより、手動変速モードが選択されたときには、複数種類の変速レンジに替えてギヤ段(変速段)が切り換え可能に構成されてもよい。すなわち、各変速レンジの最高速側ギヤ段が各ギヤ段として設定されシフトレバー40の操作毎に切り換え可能に構成されてもよい。例えば、シフトレバー40が「S」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、例えば第1速ギヤ段乃至第8速ギヤ段の何れかがシフトレバー40の操作に応じて切換えられる。また、自動変速機10が無段変速機(CVT)である場合には、有段変速機におけるギヤ段に対応するように予め記憶された一定の変速比すなわち複数の固定された変速比がシフトレバー40の操作毎に切り換え可能に構成される。このようにしても、手動変速モードの際には手動操作により自動変速機10の変速比が適切に変更される。
また、前述の実施例では、所定のアップシフト規則は1レンジ以上高速側へ変更するものであり、禁止時変速制御手段122は、所定のアップシフト規則に従って2レンジ以上高速側へ変更される変速レンジ変化に比較して小さい変速レンジ変化となる新たな変速レンジを設定して禁止時アップシフトを行うものであったが、手動変速モードにおいて変速レンジに替えてギヤ段が切り換えられる場合には、上記所定のアップシフト規則は1ギヤ段以上高速側へ変更するものであり、禁止時変速制御手段122は、所定のアップシフト規則に従って2ギヤ段以上高速側へ変更される変速比変化に比較して小さい変速比変化となる新たなギヤ段を設定して禁止時アップシフトを行う。また、禁止時変速制御手段122は、加速要求量に基づいて新たなギヤ段を設定して禁止時アップシフトを行う。このようにしても、前述の実施例と同様の効果が得られる。
特に、自動変速機10が無段変速機(CVT)である場合には、所定のアップシフト規則は所定変速比以上高速側へ変更するものであり、禁止時変速制御手段122は、所定のアップシフト規則に従って第1の所定変速比以上高速側へ変更される変速比変化に比較して小さい変速比変化となる新たな第2の所定変速比を設定して禁止時アップシフトを行う。また、禁止時変速制御手段122は、加速要求量に基づいて新たな第2の所定変速比を設定して禁止時アップシフトを行う。このようにしても、前述の実施例と同様の効果が得られる。さらに、段階的に変化するギヤ段における変速比と異なり、連続的に変速比が変化させられることから運転者の要求を一層適切に反映した駆動力を確保することができる。
また、前述の実施例では、手動変速時自動アップシフトが禁止されている場合にアップシフトに伴う駆動力の低下が抑制されて適切な駆動力が確保されるように、エンジン出力制御手段102が動力源回転制御手段116を備えることに替えて、変速制御手段104が禁止時変速制御手段122を備えるように構成されたが、動力源回転制御手段116と禁止時変速制御手段122とのいずれをも備えるように構成されても良い。このようにすれば、運転者の要求を一層適切に反映した駆動力を確保することができる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。