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JP4304350B2 - ポリヌクレオチドの合成方法 - Google Patents

ポリヌクレオチドの合成方法 Download PDF

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JP4304350B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリヌクレオチドの増幅方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリヌクレオチドの単離において、ポリヌクレオチドの増幅方法は重要なステップの一つである。ポリヌクレオチドの増幅方法として最も一般的な手法は、PCR法(Polymerase Chain Reaction)である。PCR法によるDNAの合成反応は、プライマーから3'方向への相補鎖合成反応の繰り返しで構成されている。PCR法においては、新たに合成されたDNAが、変性の後に鋳型として利用されるため、反応生成物は指数的に増加する。PCR法に用いられるプライマーは、目的とする塩基配列の5'側の領域に相補的な塩基配列を有する。したがって、少なくともプライマーがアニールする部分の塩基配列は、予めわかっていなければならない。言いかえれば、塩基配列が不明なDNAをPCR法によって選択的に増幅することはできない。
【0003】
しかし、塩基配列が不明なDNAについても、選択的な増幅は必要である。たとえば、部分的な塩基配列に基づく遺伝子の全長の取得が、しばしば試みられる。具体的には、mRNAの5'側の領域は、cDNAとして合成されにくい。そのため、しばしば5'側の塩基配列が不完全なcDNAがクローニングされる。5'側の塩基配列を欠失した不完全なcDNAの全長塩基配列を明らかにするためには、未知の塩基配列からなる5'側の塩基配列を含むDNAを選択的に増幅する必要がある。
【0004】
また、特定の機能を有する遺伝子の取得方法であるディファレンシャルディスプレー法においては、結果として遺伝子の断片塩基配列が得られる。得られた塩基配列が既知の遺伝子に一致しない場合には、その遺伝子の全長塩基配列を明らかにしなければならない。このとき、断片塩基配列に基づく遺伝子の全長の取得が試みられる。
【0005】
遺伝子を構成する塩基配列の一部のみが明らかな場合に、この部分的な塩基配列に基づいて、遺伝子の全長を取得する方法が知られている。その代表的な方法がRACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法である。RACE法は、末端の塩基配列が未知の遺伝子を鋳型として、PCRを利用して未知の塩基配列を含む領域を増幅する方法である。PCRのためのプライマーは、塩基配列が明らかな部分を利用してデザインされる。得られたPCR産物の塩基配列を決定すれば、未知の塩基配列は明らかになる。RACE法には、プライマーがアニールするための領域を付加する方法などが異なるいくつかのバリエーションが知られている。
【0006】
たとえば、SMART(Switching Mechanism At 5' end of RNA Transcript)法としてClonetech社が商業的に供給しているRACE法のためのキットは、次のような原理に基づいて、塩基配列が未知の領域を含むcDNAの合成を実現している(Nucleic Acids Res.27/6,1558-1560, 1999)。SMART法は、cDNAの第1鎖(first strand)の合成に用いる逆転写酵素の特殊な酵素活性を利用している。SMART法では、MMLVRT(Moloney murine leukemia virus reverse transcriptase)と呼ばれる逆転写酵素の変異体が用いられる。
【0007】
この逆転写酵素は、相補鎖合成が鋳型となるRNAの5'末端に達した後に、合成したcDNAの3'末端に同じ塩基を連続して付加する。付加される塩基は、多くの場合cである。したがってcの連鎖(c stretch)に相補的な塩基配列であるgが連続した塩基配列を3'末端に有するオリゴヌクレオチドは、MMLVRTが合成したcDNAの3'末端にアニールするプライマーとなる。
【0008】
SMART法は、cDNA第2鎖(second strand)合成用のプライマーとして、3'末端にgの連鎖を備え、5'末端側にはSMART sequenceと呼ばれる特殊な塩基配列を付加したオリゴヌクレオチド「SMART oligo」を使用する。「SMART oligo」の3'末端に配置されたgの連鎖がcDNAのcの連鎖にアニールすると、逆転写酵素は「SMART oligo」の5'側のSMART sequence部分についても相補鎖を合成する。こうして、cDNAの末端には、「SMART oligo」の塩基配列が完全な2本鎖として付加される。
【0009】
一方、「SMART oligo」そのものは、cDNA第1鎖を鋳型とする相補鎖合成のプライマーとして機能する結果、cDNAの第2鎖も合成されて、2本鎖のcDNAを得ることができる。このcDNAは、「SMART oligo」の5'側に配置されたSMART sequenceと、cDNAの合成に用いた遺伝子特異プライマーを利用したPCRによって増幅することができる。「SMART oligo」として、2つのプライマーを設定できる長さを有するオリゴヌクレオチドを用いた場合には、nested PCRを応用することも可能である。
【0010】
RACE法には、SMART法以外にもいくつかのバリエーションが存在する。たとえばClontech社が商業的に供給しているRACE法用キットであるMarathon-ready cDNAは、SMART法とは異なる原理によって末端への既知塩基配列の付加を実現している。Marathon-ready cDNAは、「Marathon adaptor」と呼ばれる2本鎖オリゴヌクレオチドを利用する。「Marathon adaptor」は、3'末端をブロックされたプライマーとならない短いオリゴヌクレオチドと、このオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列を3'末端に有する長いオリゴヌクレオチドで構成されている。
【0011】
「Marathon adaptor」における短いオリゴヌクレオチドの5'側は平滑末端である。「Marathon adaptor」の平滑末端をcDNAの末端にライゲーションすることによって、未知の塩基配列に塩基配列がわかっているDNAが付加される。ライゲーション産物を鋳型として、次のようなプライマーセットを用いてPCRを行えば、未知の塩基配列を含むDNAを増幅することができる。
−塩基配列が既知の領域にアニールする遺伝子特異プライマー
−「Marathon adaptor」を構成する長いオリゴヌクレオチドの5'側塩基配列(短いオリゴヌクレオチドには重ならない領域)に相補的な塩基配列を有するプライマー
【0012】
SMART法やMarathon-ready cDNAの原理においては、cDNAの両端に同じ塩基配列が付加されてしまう場合がある。これらの方法においては、抑制PCR(suppression PCR; Diatchenko L, et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 1996 Jun, 11;93(12):6025-30)を利用することによって、両端に同じ塩基配列が付加されたcDNAの合成を抑制している。
【0013】
抑制PCRとは、両端に同じ塩基配列を付加されたcDNAが、PCR法においては合成されにくくなる現象を利用している。同じ塩基配列を付加されたcDNAは、各鎖の5'末端と3'末端が互いに相補的な塩基配列で構成されている(inverted repeat)。その結果、1本鎖に変性されて鋳型となるステップにおいて、両端の相補的な塩基配列が互いにハイブリダイズして、フライパン状の構造を取る。同一鎖内のハイブリダイズは、プライマーとのハイブリダイズよりも優先的に起きるため、けっきょく、このような構造を有する鋳型は、PCRのための鋳型とはなり得ないことになる。これが、抑制PCRの原理である。
【0014】
その他にも、RACE法のバリエーションは知られている。たとえば、末端部分に未知の塩基配列を有するDNAであっても、両端を連結して環化すれば、塩基配列がわかっている部分を利用してPCRのためのプライマーをデザインすることができる。この方法は、mRNAの5'末端に対する特異性が無い。そのため、特に5'側が未知の遺伝子の全長を取得しようとする場合には、不向きである。
cDNAの第1鎖の3'末端に、塩基配列がわかっているオリゴヌクレオチドを連結する方法も公知である。この方法は、第1鎖を合成後に精製する工程を要する。
したがって、SMART法やMarathon-ready cDNAは、mRNAの5'末端に対する特異性が期待できる有利な方法であると言うことができる。特にSMART法は、利用する酵素が少ない上、反応工程も他の方法に比べるとシンプルである。
【0015】
しかし、mRNAの5'末端に対する特性が期待できるとはいえ、転写量が低い遺伝子については、依然として、その全長を取得することは困難であることは事実である。したがって、わずかなmRNAをもとに、その全長を取得することができる新たなRACE法が提供されれば有用である。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを合成するための新たな原理の提供を課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
RACE法においては、最終的にはPCRのようなプライマー依存性の相補鎖合成反応を利用して、目的とする遺伝子が合成される。一般に、プライマー依存性の相補鎖合成反応は、合成すべきポリヌクレオチドの塩基配列に基づいてプライマーの塩基配列をデザインしなければならない。一方で、RACE法の目的は、塩基配列が未知の領域を合成することにある。したがって、プライマーがアニールすべき塩基配列としてどのような塩基配列を選択し、またその塩基配列をどのようにして導入するのかが、RACE法のパフォーマンスを決定する大きな要因となる。しかし既知のRACE法においては、どのような塩基配列を導入すれば、望ましい結果を得ることができるのかは、十分に検討されていない。また塩基配列の導入方法についても、なお改善の余地があると言える。
【0018】
これに対して本発明者らは、5'側に未知の塩基配列を含む鋳型ポリヌクレオチドの相補鎖合成において、合成された相補鎖における3'末端に特定の塩基配列を付加することによって、RACE法のパフォーマンスの向上が期待できることを見出した。更に、この目的のために好適な反応条件を明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の方法に関する。
〔1〕次の工程を含む、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドの合成方法。
a)前記ポリヌクレオチドの、任意の領域にアニールするオリゴヌクレオチドをプライマーとして相補鎖を合成する工程
b)工程a)で合成された相補鎖の3'末端に工程a)のオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を付加する工程、および
c)工程b)で得られた相補鎖を鋳型とし、工程a)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを合成する工程、
〔2〕工程b)が、次の要素を相補鎖合成反応が可能な条件下でインキュベートする工程からなる〔1〕に記載の方法。
(1)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
(2)工程a)で合成したポリヌクレオチド、および
(3)ヌクレオチド基質
〔3〕5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドが、cDNAの第2鎖である〔1〕に記載の方法。
〔4〕cDNAが5'末端に前記オリゴヌクレオチドと実質的に同じ塩基配列を含むポリヌクレオチドを付加したmRNAを鋳型として合成されたcDNAである〔3〕に記載の方法。
〔5〕5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを、次の要素を相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートすることによって合成する工程を含む〔3〕に記載の方法。
(i)cDNAの第1鎖
(ii)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
(iii)5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素、および
(iv)ヌクレオチド基質
〔6〕(i)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素を用いる〔5〕に記載の方法。
〔7〕(i)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として、逆転写酵素活性を有する酵素を用いる〔5〕に記載の方法。
〔8〕インキュベートに先だって、cDNAの第1鎖の3'にパリンドローム構造を有するオリゴヌクレオチドを付加する工程を含む、〔5〕に記載の方法。
〔9〕5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドが、cDNAの第1鎖である〔1〕に記載の方法。
〔10〕ポリヌクレオチドがcDNAであり、このcDNAが5'に任意の塩基配列を付加したオリゴdTプライマーによって合成されたcDNAである〔9〕に記載の方法。
〔11〕〔3〕または〔9〕に記載の方法に基づいて合成された5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドをクローン化する工程を含む、末端塩基配列が未知のポリヌクレオチドの単離方法。
〔12〕cDNAの第1鎖、および/または第2鎖の3'末端にパリンドローム構造を有するcDNAからなるcDNAライブラリー。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は、次の工程を含む、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドの合成方法を提供する。
a)前記ポリヌクレオチドの、任意の領域にアニールするオリゴヌクレオチドをプライマーとして相補鎖を合成する工程
b)工程a)で合成された相補鎖の3'末端に工程a)のオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を付加する工程、および
c)工程b)で得られた相補鎖を鋳型とし、工程a)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを合成する工程、
【0020】
本発明において、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドとは、相補鎖合成の鋳型とすることが可能なあらゆるポリヌクレオチドが含まれる。具体的には、DNA、RNA、あるいはそれらのハイブリッドポリヌクレオチド、そして各種のヌクレオチド誘導体を含むポリヌクレオチドを示すことができる。ポリヌクレオチドは、天然由来のみならず、人工的に製造されたポリヌクレオチドであってもよい。あるいは、天然由来のポリヌクレオチドに人為的な変異を導入したポリヌクレオチドを利用することもできる。
本発明において、特に重要なポリヌクレオチドはmRNAおよび/またはcDNAである。ここでいうcDNAは、第1鎖並びに第2鎖のいずれをも含む。mRNA、ならびにmRNAを鋳型として合成されるcDNAの5'末端を含む領域は、しばしば塩基配列の決定が必要となる重要なポリヌクレオチドである。
【0021】
本発明において、5'末端を含む領域の塩基配列が未知とは、前記工程a)における相補鎖合成の鋳型となるポリヌクレオチドの5'末端を含む領域の塩基配列が未知であることを言う。したがって、もしも当該ポリヌクレオチドが、他のポリヌクレオチドXを鋳型として生成された場合には、ポリヌクレオチドXの3'側の塩基配列が未知である。
さてポリヌクレオチドXがmRNAの場合、通常その3'末端はポリ(A)である。本発明においてmRNAの3'末端を含む領域が未知であるとは、3'末端のポリ(A)tailを除く領域の塩基配列が未知である場合を言う。更に、mRNAの3'末端を含む領域を鋳型として合成されたcDNAにおいては、その5'末端に配置されたtの連鎖(t stretch)の有無に関わらず、5'末端を含む領域のtの連鎖を除いた塩基配列が未知である場合、当該ポリヌクレオチドの5'末端の塩基配列は未知であると言う。
ただし、工程b)において、所定の塩基配列を付加すべき3'末端とは、tの連鎖を鋳型として生成した相補鎖の3'末端であってよい。つまり、未知かどうかの判断においてはポリ(A)が考慮されない。他方、3'末端へ塩基配列を付加する場合には、もしも3'末端にaの連鎖が存在する場合には、aの連鎖の3'末端に塩基配列を付加することができる。
【0022】
本発明において、工程a)前記ポリヌクレオチドの、任意の領域にアニールするオリゴヌクレオチドをプライマーとして相補鎖を合成する工程は、プライマー依存性の相補鎖合成反応を触媒する任意の酵素によって実施することができる。このような酵素として、たとえばTaq ポリメラーゼを示すことができる。
【0023】
一方、工程a)においてプライマーとするオリゴヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチドの任意の領域にアニールして相補鎖合成をプライムし、前記ポリヌクレオチドの5'末端に至る領域に対する相補鎖の合成を可能とするものであれば、その塩基配列や長さは制限されない。一般に、ある程度の特異性を維持して相補鎖合成反応を開始するには、少なくとも15塩基以上、通常20〜40塩基、たとえば20〜30塩基からなるオリゴヌクレオチドがプライマーとして利用される。このようなオリゴヌクレオチドの調製方法は公知である。
【0024】
次にオリゴヌクレオチドを構成する塩基配列は、前記ポリヌクレオチドの任意の領域に相補的な塩基配列で構成される。本発明において相補的とは、ワトソン−クリックのルールにしたがってベースペア(相補鎖結合)を形成することができる塩基配列を言う。なお本発明のオリゴヌクレオチドの塩基配列は、完全に相補的でなくてもよい。すなわち、特異性を維持できるストリンジェンシーのもとで、相補鎖合成を開始することができるオリゴヌクレオチドは、その塩基配列が完全に相補的でなくても本発明のオリゴヌクレオチドに含まれる。たとえばプライマーの3'末端の塩基は、鋳型に対して相補的であることが重要な条件である。しかし、プライマーの中間部分や5'末端は、必ずしも完全に相補的である必要はない。
【0025】
本発明においては、前記ポリヌクレオチドの5'末端を含む領域は塩基配列が未知である。しかしその他の領域については塩基配列が明らかな部分もある。したがって本発明のオリゴヌクレオチドは、この、塩基配列が明らかな部分に対して相補的な塩基配列を含むようにデザインすることができる。前記ポリヌクレオチドがcDNAであれば、遺伝子を構成する塩基配列中、塩基配列が明らかな部分にアニールし、塩基配列が未知の領域に向かう相補鎖合成反応をプライムできるようにデザインする。
【0026】
本発明は、工程a)に続いて工程b)工程a)で合成された相補鎖の3'末端に工程a)のオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を付加する工程を含む。工程b)は、任意の方法によって実施することができる。本発明における工程b)として、たとえば次の方法を示すことができる。すなわち、次の要素を相補鎖合成反応が可能な条件下でインキュベートすることによって、工程b)を実施することができる。
(1)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
(2)工程a)で合成したポリヌクレオチド、および
(3)ヌクレオチド基質
【0027】
前記(1)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素を用いれば、単一の酵素によって前記要素(1)と(2)を兼ねることができるので望ましい。このような酵素として、Taq DNA polymerase(ベーリンガーマンハイム製)ExTaq DNA polymerase、TAKARA Taq(いずれも宝酒造製)、AmpliTaq(アプライドバイオシステムズ製)、Tfl、Tth(いずれもプロメガ製)などを示すことができる。
【0028】
あるいは、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いる場合は、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する他の酵素を付加的に加えることができる。たとえばλexo(λphage)は2本鎖特異的5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を持っている。上記工程には、鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素が基質として用いることができるヌクレオチド基質が添加される。具体的には、一般にPCR法や、cDNAの合成において利用されているヌクレオチド基質を用いることができる。通常、atcあるいはgの天然のデオキシヌクレオチドが用いられる。その他、必要に応じて蛍光分子、放射性同位元素、あるいはビオチン等によって修飾されたヌクレオチド誘導体を用いることもできる。
【0029】
これらの要素を(3)工程a)で合成したポリヌクレオチドとともに、相補鎖合成反応が可能な条件下でインキュベートすることにより、工程a)で合成したポリヌクレオチドの3'末端に、前記オリゴヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列を付加することができる。上記要素のインキュベートによって、DNAの3'末端に目的とする塩基配列を付加する反応は、これまでに報告されていない。本発明者らは、前記のような特定の条件で、ポリヌクレオチドの末端に目的とする塩基配列を付加することができ、更に付加された塩基配列を利用して、末端の塩基配列が未知のポリヌクレオチドの合成が可能となることを見出し本発明を完成した。
【0030】
要素(1)-(3)のインキュベーションによる前記ポリヌクレオチドの3'末端への塩基配列の付加は、次のようなメカニズム(図4)によって説明することができる。(3)工程a)で合成したポリヌクレオチドは、鋳型となったポリヌクレオチドと2本鎖を形成している。線状の2本鎖DNAは、特に低濃度においては環状となり、両末端が接近する(Heffron et al.,In vitro mutagenesis of circular DNA molecule by using synthetic restriction site. Proc. Natl. Acad. Sci.USA. 75:6012-6016,1978)。溶液中のDNAは、環状の形態を取ることによって物理的に安定化すると考えられている。
【0031】
DNAが十分に安定な温度にあれば、2本鎖は安定化される。しかし、たとえば耐熱性のDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応を行う条件下では、かなりの高温条件下におかれることになる。たとえばEx-Taq(宝酒造製)による相補鎖合成反応は、70℃前後の高温が利用される。このような高温の条件下では、2本鎖DNAの末端部分は2本鎖構造を安定に維持できない。その結果、3'末端が本来ベースペアリングすべき鎖(strand)以外の鎖に接近し、更にその鎖を鋳型として相補鎖合成を開始してしまう反応が起こり得る。本発明においては、この現象を、DNAポリメラーゼの鋳型の乗り換え(template switching)と呼ぶ。
【0032】
このとき、もっとも鎖の乗換えが起こりやすいのが、環状構造を取ることによって接近している、線状DNAの両末端である。より具体的には、3'末端が同じ鎖の5'末端に接近し、その塩基配列に相補的な塩基配列を合成してしまう。その結果、3'末端には、自身の5'末端に相補的な塩基配列が付加される。自身の5'末端とは、もともとプライマーである前記オリゴヌクレオチドの塩基配列であるから、結果として3'末端には、前記オリゴヌクレオチドの相補配列が付加される。
【0033】
本発明において、ポリヌクレオチドの3'末端に目的とする塩基配列を付加するメカニズムは、ここで説明したメカニズムに限定されない。いずれにせよ、ここに述べた条件でインキュベートすることにより、工程b)は達成される。このことは、実施例の結果からも裏付けられている。
【0034】
本発明において、前記ポリヌクレオチドとして、cDNAを用いる場合、cDNAは第2鎖あるいは第1鎖のいずれをも、利用することができる。cDNAの第1鎖は、mRNAを鋳型として合成されたDNAである。また第2鎖は、cDNAの第1鎖を鋳型として合成されたDNAを言う。第2鎖をテンプレートにする場合はmRNAの5'方向へとDNA合成が進行するので5'RACEを実現できる。逆に第1鎖をテンプレートにする場合はmRNAの3'側へとDNA合成が進行するので、3'RACEを行うことができる。第2鎖をテンプレートにするためには、第2鎖に相補的な塩基配列を有するプライマーをデザインする。また第1鎖がテンプレートであれば、プライマーの塩基配列は第1鎖に相補的な塩基配列とする。cDNA第2鎖の5'側(すなわちmRNAの5'側)は、翻訳開始コドンを含む。したがって、第2鎖の5'側の領域は、cDNAの塩基配列に基づいて翻訳アミノ酸配列を推定する上で重要である。そのためこの領域の塩基配列を決定することは、遺伝子の単離や機能解析において、しばしば重要な課題となる。
【0035】
cDNAの第2鎖を本発明における前記ポリヌクレオチドとして用いる場合、第2鎖は次の要素(i)-(iv)を相補鎖合成が可能な条件でインキュベートすることによって合成することができる。
(i)cDNAの第1鎖
(ii)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
(iii)5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素、および
(iv)ヌクレオチド基質
【0036】
本発明において、(i)cDNAの第1鎖は、mRNAの任意の領域に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、逆転写酵素活性を有する酵素により合成することができる。第1鎖を合成するためのプライマーは、前記工程a)で用いるオリゴヌクレオチドと同じ塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであるのが望ましい。一般的なcDNAの合成方法においては、第1鎖を合成した後に鋳型となったmRNAは分解される。mRNAは、アルカリ変性やRNAseHなどの酵素作用によって容易に分解できる。mRNAが分解されると、cDNAの第1鎖は1本鎖となる。本発明において、第1鎖の合成のための逆転写酵素として、第2鎖の合成や工程b)に用いる鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素を用いることもできる。Tfl、あるいはTthのように、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼが公知である。これらのDNAポリメラーゼは、市販されている(プロメガ)。このような酵素を用いることにより、反応系を構成する酵素の数を減らすことができる。
【0037】
cDNAの第2鎖は、こうして合成された第1鎖を鋳型として合成されたDNAである。鋳型依存性の相補鎖合成反応は、通常はプライマーの3'末端からの相補鎖合成反応が利用される。プライマーの塩基配列特異的なアニールにより、合成すべき塩基配列を特異的に合成することができる。しかしプライマーは、相補鎖合成のための必須の条件ではない。たとえば上記要素(i)-(iv)を相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートするとき、cDNAの第1鎖を鋳型とする相補鎖合成反応が達成される。ここで言う相補鎖合成が可能な条件とは、上記要素(ii)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素がその活性を維持できる条件を言う。用いる酵素に応じた酵素活性の維持に必要な条件は、当業者が適宜設定することができる。
【0038】
上記要素(i)-(iv)のインキュベートによるcDNA第2鎖の合成メカニズムは、例えば次のように説明することができる。まず、cDNAの第1鎖の3'末端が、自身に接近して、自身を鋳型とする相補鎖合成反応を開始する。第1鎖の3'末端には、必ずしも自己相補的な塩基配列を有しているとは限らない。しかし、数塩基であっても自身を鋳型とする相補鎖合成反応が起きれば、3'末端は自己相補的な塩基配列を獲得する。その結果、自身へのベースペアリングがより安定化され、やがて3'末端は完全なステムループ構造を取る。ステムループ構造が実現できれば、自身を鋳型とする相補鎖合成反応が進行してcDNAの第2鎖の合成は完成する。
【0039】
3'末端の自身への接近によって、自身を鋳型とする相補鎖合成反応を開始する現象はたとえばテトラヒメナにおいても観察されている。あるいは第1鎖の3'末端からの自身を鋳型とする相補鎖合成反応は、cDNAの合成においても利用されている(Maniatis T. "Enzymic in vitro synthesis of globin genes" Cell 7:279-288, 1976)。
したがって、上記要素(i)-(iv)のインキュベートによって、自身を鋳型とする相補鎖合成反応開始することは可能である。実際にこの条件によってcDNAの第2鎖を合成する反応を実施例に記載した。
【0040】
さて、このようなメカニズムに基づけば、第2鎖の完成によって、第1鎖と第2鎖が同一の鎖上に連続したcDNAが合成されることになる。このようなcDNAは、両者がアニールした2本鎖部分と、ステムループを構成するヒンジ部分とを有する。ここで上記要素(iii)5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素は、cDNAの2本鎖部分を構成している第1鎖を5'末端から消化する。cDNAの消化は2本鎖のDNAに作用するので、けっきょく第1鎖はヒンジ部分に至るその全長を消化されることになる。こうして、最終的に、1本鎖の第2鎖を生成する。生成した第2鎖は、5'末端を含む塩基配列が未知であり、かつその3'末端に第1鎖の合成に用いたプライマーに相補的な塩基配列を有するから、上記工程a)におけるポリヌクレオチドとして利用することができる。
【0041】
本発明における工程b)工程a)で合成された相補鎖の3'末端に工程a)のオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を付加する工程として、次のような方法を示すこともできる。すなわち、5'末端に前記オリゴヌクレオチドと実質的に同じ塩基配列を含むポリヌクレオチドを付加したmRNAを鋳型としてcDNA第1鎖を合成するのである。こうして合成された第1鎖3'末端には、前記オリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列が配置される。つまりこのcDNA第1鎖は、工程b)の目的とするポリヌクレオチドに他ならない。
【0042】
mRNAの5'末端に任意のオリゴヌクレオチドを連結する方法は公知である。たとえば、全長cDNAの合成方法であるオリゴキャップ法は、オリゴキャップリンカーと呼ばれるオリゴヌクレオチドを、mRNAの5'末端に特異的に結合するための方法である(Murayama, K. and Sugano, S. (1994) Oligo-capping: a simple method to replace the cap structure of eucaryotic mRNAs with oligoribonucleotides. Gene 138, 171−174.)。オリゴキャップ法は、真核細胞生物のmRNAの5'末端にあるキャッピング構造をターゲットにリンカーを結合する。したがって、5'末端のキャッピング構造を持たない不完全なmRNAに由来するcDNAの混入を防ぐことができる。
【0043】
オリゴキャップ法を本発明に応用するには、オリゴキャップリンカーの塩基配列を、前記オリゴヌクレオチドと実質的に同じ塩基配列とすればよい。通常、オリゴキャップ法では、全長cDNAが特異的に増幅されるように、オリゴキャップリンカーの塩基配列は、遺伝子中に見出しにくい塩基配列の利用が有利である。遺伝子中に見出される塩基配列を用いた場合は、全長cDNAではなく遺伝子の断片が増幅される可能性を否定できないためである。一方本発明においては、3''末端には前記オリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を導入するため、リンカーの塩基配列はむしろ遺伝子中に見出される塩基配列となる。本発明においては、リンカーの塩基配列が異なるほかは、オリゴキャップ法と同様の操作により、mRNAの5'末端へオリゴヌクレオチドが付加される。
【0044】
本発明において、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドは、cDNAの第1鎖を用いることもできる。cDNAの第1鎖は通常、オリゴdTプライマーを用いて合成される。次に、遺伝子中の塩基配列が明らかな領域に対するオリゴヌクレオチドを用いて第1鎖を鋳型として第2鎖を合成する。その結果、第2鎖の3'末端は、aの連続した塩基配列で構成されることになる。同じ塩基の連続は、前記要素(1)-(3)のインキュベートによる工程b)には不向きである。第2鎖の5'末端を構成する前記オリゴヌクレオチドの塩基配列は、通常tの連鎖のような単調な塩基配列とはならない。そのため、先に説明した前記要素(1)-(3)のインキュベートによる工程b)が起こりにくくなる。このような不都合は、第2鎖の3'末端の塩基配列に適当な塩基配列を付加することによって避けることができる。
【0045】
たとえばオリゴdTプライマーの5'末端に適当な塩基配列を付加しておくことによって、第2鎖の3'末端に任意の塩基配列を与えることができる。たとえば、6〜8塩基の制限酵素の認識配列をオリゴdTプライマーの5'末端に付加することができる。このようなオリゴdTプライマーは、その3'末端への適当な塩基配列の付加を可能とするとともに、クローニング用ベクターへのcDNAのライゲーションにおいても有用である。あるいは、オリゴdTプライマーの5'末端に、前記オリゴヌクレオチドと実質的に同じ塩基配列を付加することによって、前記工程b)を実施することもできる。
【0046】
本発明において、上記要素(i)-(iv)のインキュベートに先だって、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドの5'末端および/または3'末端にパリンドローム構造を有するオリゴヌクレオチドを付加することができる。パリンドローム構造とは、末端においてヘアピンループを構成しうる自己相補配列を含む塩基配列を言う。自己相補配列を構成する塩基の数は、制限されない。より具体的には2−20塩基、たとえば2−4塩基の自己相補配列を示すことができる。具体的には、5'-aagctt-3'は、本発明のパリンドローム構造として利用することができる。
【0047】
このような付加的な塩基配列は、たとえば前記オリゴヌクレオチドの5'末端への自己相補配列の付加によって実現することもできる。このとき、自己相補配列の付加とプライマーの5'末端への制限酵素サイトの付加を兼ねることもできる。たとえば先に例示した塩基配列5'-aagctt-3'も、制限酵素認識配列の一つである。パリンドローム構造は、前記ポリヌクレオチドの3'末端に付加することもできる。たとえば、前記ポリヌクレオチドの合成にあたり、鋳型となるポリヌクレオチドの5'末端に付加すべき塩基配列の相補配列を付加しておけばよいのである。たとえば、先に述べたオリゴキャップ法のように、mRNAの5'末端に人為的な塩基配列を付加する反応は公知である。この反応を利用すれば、パリンドローム構造に必要な自己相補配列をmRNAの5'末端に付加することができる。そして目的とする塩基配列を導入されたmRNAを鋳型として合成されたcDNAは、その3'末端にパリンドローム構造を有する。
【0048】
第2鎖であれ、第1鎖であれ、いずれにせよ上記のような反応によって、塩基配列が未知である領域の3'末端に、前記オリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列が付加されたポリヌクレオチドとすることができる。
このようにして得られた末端にパリンドローム構造を付加されたポリヌクレオチドの集合体は、本発明によるポリヌクレオチドの合成方法のためのcDNAライブラリーとして有用である。このcDNAライブラリーを用いることにより、単一の遺伝子特異的プライマーを使って5'RACEおよび3'RACEのいずれをも実施することができる。つまり、cDNAの第2鎖にアニールするプライマーによって5'RACEが、第1鎖にアニールするプライマーによって3'RACEが可能となる。パリンドローム構造を末端に配置されたcDNAからなるcDNAライブラリーが構築されれば、同じライブラリーを用いて、本発明に基づいて、様々な遺伝子の未知塩基配列を容易に取得することができる。本発明のポリヌクレオチドの合成方法において、3'末端へのパリンドローム構造の付加は必須ではない。しかし遺伝子特異プライマーの伸長産物の、自己を鋳型とする相補鎖合成(セルフプライム)を促進するためには、パリンドローム配列の付加は有効である。
【0049】
本発明のcDNAライブラリーを用いれば、ゲノムプロジェクトによって同定された未知の遺伝子の塩基配列をもとにしてcDNAを単離することができる。一旦cDNAがクローニングされれば、cDNAに基づいてタンパク質の解析も可能となる。また本発明のcDNAライブラリーは、既知の遺伝子の、発現量の少ないスプライシングバリアントの単離に利用することができる。本発明に基づいて、いろいろな組織由来のcDNAライブラリーを合成しておけば、遺伝子やスプライシングバリアントの単離において利用価値は高い。
【0050】
末端にパリンドローム構造を付加されたポリヌクレオチドは、工程c)において前記オリゴヌクレオチドをプライマーとするポリヌクレオチドの合成方法によって増幅することができる。増幅すべき塩基配列の末端領域に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、目的とする塩基配列を有するポリヌクレオチドを合成する方法は公知である。
【0051】
本発明において、工程c)は、たとえばPCR法によって実施することができる。具体的には、まず工程b)で得たポリヌクレオチドを変性して1本鎖とする。PCR法においては、鋳型ポリヌクレオチドは、一般に加熱によって変性される。変性されたポリヌクレオチドは、プライマーとなるオリゴヌクレオチドとともに、このプライマーからの相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートされる。当業者は、プライマーの塩基配列や反応液の組成に応じて、相補鎖合成が可能な条件を設定することができる。変性と相補鎖合成反応とを繰り返すことにより、PCR法に基づいて目的とするポリヌクレオチドを連続的に生成することができる。
【0052】
相補鎖合成を触媒するDNAポリメラーゼには、ポリヌクレオチドの変性温度においても活性を失わない耐熱性の酵素を利用するのが有利である。先に用いた(1)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素、あるいは(ii)鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として用いたDNAポリメラーゼが耐熱性を有していれば、そのまま工程c)に利用することもできる。
工程c)において合成されたポリヌクレオチドは、エタノール沈殿などの公知の方法によって分離することができる。あるいは、電気泳動などの手法を用いて、目的とするサイズのポリヌクレオチドを分取することもできる。
【0053】
既知のRACE法のうち、Marathon-ready cDNAという商品名で実用化されているRACE法においては、抑制PCR(suppression PCR)と呼ばれる方法が応用されていることは既に述べた。一方、本発明に基づくRACE法においては、cDNAの両端に相互に相補的な塩基配列が配置されることになる。つまり本発明に基づくRACEにおいて最終的に鋳型となるcDNAは、逆位反復配列(inverted repeat)を有する。cDNAのこのような構造は、Marathon-ready cDNAにおいては抑制PCRの原理によって合成が抑制されるべき構造であると言える。ところが実際には、本発明に基づくRACE法は可能であり、目的とするcDNAの合成が効率的に行われることは実施例に示したとおりである。
【0054】
本発明において、cDNAが逆位反復配列(inverted repeat)を有するのにもかかわらず、目的とするcDNAの合成が可能な理由として、たとえば次のようなメカニズムが考えられる。
既に述べたように、抑制PCRにおいて、逆位反復配列(inverted repeat)が鋳型として利用されにくい理由は、同一鎖上の相補配列のハイブリダイズが、プライマーのアニールと競合するためである。ところが、遺伝子に由来する塩基配列が十分に長い場合には、同一鎖内のハイブリダイズが起きにくくなる場合が考えられる。その結果、プライマーのアニールを十分に阻害できない、つまり抑制PCRが作用しない状況が生じる。RACEにおいては、遺伝子部分の塩基配列が長いものが、取得すべきcDNAである可能性が高い。したがって、逆位反復配列を有するcDNAを鋳型とすることによって、より長い塩基配列を選択的に合成するメカニズムが実現できたことになる。
【0055】
また、鋳型となるcDNAとプライマーの比も重要な要素である。つまり、プライマーをcDNAに対して大過剰で用いることにより、同一DNA分子(intra DNA molecule)上の相補鎖のハイブリダイズよりも、プライマーとのアニールの機会を大きくすることができる。具体的には、予測される鋳型の量に対してモル比で、約5倍〜20倍、好ましくは10倍以上のプライマーを用いるのが有利である。たとえば、長さ1kb の2本鎖cDNA1μg(約9.12x1011 molecules)に対して10pmol (約78ng:約5.9x1012 molecules)から20pmolの24merプライマーを用いることができる。
【0056】
本発明によるポリヌクレオチドの合成方法は、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドのクローン化に有用である。すなわち本発明は、本発明の記載の方法に基づいて合成された5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドをクローン化する工程を含む、末端塩基配列が未知のポリヌクレオチドの単離方法に関する。
合成されたポリヌクレオチドをクローン化する方法は、公知である。一般的には、適当なクローニングベクターに合成されたポリヌクレオチドを組み込んで、クローン化することができる。ポリヌクレオチドの合成に用いられるプライマーにクローニング用の制限酵素認識配列を付加しておくと、合成されたポリヌクレオチドを容易にクローニングベクターへ挿入することができる。あるいは、合成されたポリヌクレオチドを平滑末端のままクローニングベクターにライゲーションすることもできる。
【0057】
クローニングされたポリヌクレオチドは、その塩基配列を決定することができる。挿入されたポリヌクレオチドの塩基配列は、ベクターの塩基配列等に相補的な塩基配列を有するプライマーを利用して決定される。以上の工程により、たとえば第2鎖の5'末端を含む領域の塩基配列が未知である場合には5'RACEが、また第1鎖の5'末端を含む領域の塩基配列が未知である場合には3'RACEが可能となる。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドの合成方法の用途は、RACEに限定されない。たとえば本発明の方法に基づいて、テロメラーゼ活性を測定することができる。テロメラーゼは、特定の塩基配列を有するDNAを基質として、その3'末端にテロメアリピートと呼ばれる特定の塩基配列の繰り返しからなる塩基配列を付加する。テロメアリピートは、種ごとに決まった塩基配列で構成されている。たとえばヒトのテロメアリピートは(TTAGGG) nである。付加されたテロメアリピートの長さに基づいてテロメラーゼの活性を評価することができる。本発明に基づいてテロメラーゼの活性を測定するには、基質DNAにテロメラーゼを作用させた後、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼを作用させる。先に述べたメカニズムに基づいて、基質DNAの3'末端は自身にアニールして相補鎖が合成され、更に鋳型となった基質DNAの伸長産物自身は、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって消化される。
【0059】
ここで合成された相補鎖は基質DNAに相補的な塩基配列を有するので、基質DNAと同じ塩基配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして相補鎖合成が可能である(工程a))。反応液中に残った基質DNAをそのままプライマーとして用いることもできる。相補鎖合成が5'末端に達すると2本鎖DNAの環状化と鋳型乗り換え(template switching action)によって、3'末端に基質DNAに相補的な塩基配列が付加される(工程b))。最終的に、基質DNAと同じ塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを用いて、テロメラーゼの作用によって伸長した基質DNAの3'末端側の未知塩基配列を増幅することができる。
【0060】
なおテロメラーゼの作用によって付加される塩基配列がテロメアリピートであることは明らかである。しかしその長さや末端のテロメアリピートが繰り返し単位のどこまでを有しているかは不明である。したがって、テロメラーゼの作用によって伸長した基質DNAを鋳型として合成されたDNAは、本発明における5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドに含まれる。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドの合成方法に必要な要素を組み合わせて、未知の塩基配列を含むポリヌクレオチドの合成用キットとすることができる。本発明に基づくキットは、たとえば次の要素で構成することができる。
−5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ
−前記DNAポリメラーゼの活性を維持することができる緩衝液、および
−相補鎖合成のためのヌクレオチド基質
【0062】
本発明における各要素の具体的な構成は、既に述べたとおりである。本発明のキットには、上記要素の他に、更に付加的な要素を追加することができる。たとえば、cDNA第1鎖を合成するための逆転写酵素や3'RACEを実施するためのオリゴdTプライマーを組み合わせることができる。あるいは、目的とするポリヌクレオチドの塩基配列が明らかな領域に対してデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーを予め添付することもできる
【0063】
また、mRNAの5'末端にリンカーを導入する場合には、リンカーとするオリゴヌクレオチドやRNAリガーゼを組み合せることができる。更に、mRNAの5'末端へのリンカーの結合にオリゴキャップ法を応用する場合には、オリゴキャップ法に必要な各種の酵素が組み合せられる。たとえば、アルカリフォスファターゼ(BAP)やタバコ酸性ピロフォスファターゼ(TAP)を組み合せることができる。
【0064】
本発明のキットには、実験材料や操作が適切であったかどうかを判定するためにコントロールを組み合せることができる。本発明におけるコントロールには、たとえば、どのようなcDNAライブラリーであっても、一定の大きさのcDNAの合成が期待できるプライマーを用いることができる。このようなcDNAを与えるプライマーとして、たとえばβアクチン遺伝子の合成を可能とするプライマーを示すことができる。
以下に実施例に基づいて更に具体的に本発明を説明する。
【0065】
【実施例】
比較例.公知のRACE法と本発明のRACE法
公知のRACE法として、Marathon cDNA amplification kit(クロンテク社製)を利用し、遺伝子の5'側の未知塩基配列の単離を試みた。遺伝子にはマウスMsh4を選択した。Msh4は、MutSミスマッチ修復遺伝子ファミリーの一員であり、S.cerevisiae、C.elegans、マウス及びヒトで同定されている(Ross-Macdonald and Roeder, Cell 79: 1069-80 (1994); Zalevsky et al., Genetics 153: 1271-83 (1999); Kneitz et al., Genes Dev. 14: 1085-97 (2000); Paquis-Flucklinger et al., Genomics 44: 188-94 (1997))Msh4の塩基配列は既に公知だが、今回はそのスプライシングバリアントの取得を目的とした。マウス(8週齢)の睾丸からmRNAを抽出し、常法にしたがってcDNAを合成した。次にcDNAの両端にアダプターをライゲーションした。以上の工程は、クロンテク社のマニュアルにしたがった。得られたアダプター付加cDNAを鋳型として、マウスMsh4のスプライシングバリアントγ(Msh4-γ)およびβアクチンに特異的なプライマーを用いてPCRを行った。反応シーケンスと反応液の組成を次に示す。
[94℃/30秒→60℃/1分→68℃/3分]×35サイクル
2μL 10x reaction buffer
1μL 2.5mM 4dNTPs
1μL 睾丸cDNA(アダプター付加済み)
0.2μL Ex-Taq DNA ポリメラーゼ
0.4μL 各遺伝子特異プライマー(10μM)
0.4μL アダプタープライマー(10μM)
15μL 蒸留水(total 20μL)
実験に用いたプライマーの塩基配列は次のとおりである。#18と#20がマウスMsh4の塩基配列に基づいてデザインされた遺伝子特異プライマー(GSP)である。
#18:5'-GGCATAGTTCCAGGAAATGGGTAG-3'(配列番号:1)
#20:5'-GGTATTGTTGGCGACAGGTTTCTC-3'(配列番号:2)
β-actin 1: 5'-GTGACGAGGCCCAGAGCAAGAG-3'(配列番号:3)
β-actin 2: 5'-AGGGGCCGGACTCATCGTACTC-3'(配列番号:4)
反応後の反応液の一部を取り、アガロースゲルで電気泳動した。エチジウムブロマイド染色により、アガロースゲル中のDNAを検出した。Msh4の結果を図2に、βアクチンの結果を図3に示した。
【0066】
Marathon cDNA amplification kitでは、図1に示すようにアダプタープライマーがアダプターの5'オーバーハングした1本鎖部分と同じ配列を持つようにデザインされている。アダプターを構成するオリゴヌクレオチドの3'末端はNH2基でブロッキングされているので、これを起点とする相補鎖合成は抑止されている。したがって、原理上は、遺伝子特異プライマー(gene specific primer;GSP)からの相補鎖合成が起きない限り、アダプタープライマーからの相補鎖合成は起きない。
【0067】
しかし実際には、非特異的な産物が合成されてスメアなバックグランドが出現した(図2、図2、レーン1)。非特異的な反応の産物と思われるこれらのスメアなバンドは、アダプタープライマーの塩基配列やその他の現象が原因によって生成されたと考えられた。クロンテク社のマニュアルには、次のような非特異反応が生じる可能性が指摘されている。たとえばcDNAに連結したアダプターのオーバーハング部分に相補鎖が合成されてしまい、遺伝子特異プライマーからの相補鎖合成無しでもcDNAが増幅される場合があることが記載されている。
【0068】
そこで、上記のような非特異反応に起因する産物の合成を抑制するために、アダプタープライマーの量を制限してPCRを試みた。すなわちcDNAとの連結に用いるアダプタープライマーの量を、1/10〜1/1000、およびアダプタープライマー無しの条件で、PCRを実施した。その結果、1/10ではバックグランドが見られた(図2および図3のレーン2)。1/100〜1/1000に制限した場合には非特異的な産物の合成はほとんど見られなくなった((図2および図3のレーン3−4)。更にアダプタープライマーを加えない場合にも、増幅産物が観察された(図3のレーン5)。すなわち遺伝子特異プライマーのみによるPCRにおいても、増幅産物が検出された。
【0069】
合成されたPCR産物の塩基配列を解析した結果、1つを除いていずれも目的とするDNAが合成されていることが確認された。これらの結果に基づいて、アダプタープライマーを使わず、遺伝子特異プライマーのみで増幅することが可能な未知の構造を有するcDNAが合成されていることが示された。
【0070】
たとえば図4に示すメカニズムによって、アダプタープライマーを用いないDNAの合成が可能となると考えられた。
サイクル1:
通常のPCRと同じように、遺伝子特異プライマー(gene specific primer)から2本鎖DNAが合成される。
サイクル2:
ある頻度で1本鎖の3'末端付近がヘアピン構造を形成し、この部分をプライマーとして自身を鋳型として2本鎖DNAが合成される。ヘアピン構造をプライマーとするDNAの複製は、テトラヒメナのrDNAの合成においても観察されている現象である。合成された2本鎖DNAのほとんどは、Taq DNAポリメラーゼの2本鎖DNA特異的な5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって1本鎖に分解される。このとき、もしも5'-3'エキソヌクレアーゼ活性の作用を受けない場合には、サイクル3−no exo attackedで示した構造のDNAを生成する。ただし、このような構造を有するDNAが合成される可能性は低いと考えられる。
【0071】
サイクル3:
サイクル2で生成した1本鎖DNAを鋳型にして2本鎖DNAが合成される。DNA合成は68℃という高温で行われるので、先に合成された2本鎖の末端は一部が2本鎖構造を維持できなくなっている。その結果、鋳型の5'末端まで合成を終えたTaq DNAポリメラーゼは、自身が合成した新しい相補鎖を鋳型として更に合成を続け、プライマーの塩基配列に相補的なDNAをも合成する。このような反応を、鋳型乗り換え(template switching action)と呼ぶことは既に述べた。プライマーの塩基配列に相補的な塩基配列は、新たに合成された相補鎖の3'末端に位置する。
サイクル4:
以降のサイクルでは、通常のPCRと同様にDNAが増幅される。ただし、DNAの3'末端には常にプライマーの相補配列が位置するので、PCRに必要なプライマーは1種類である。
【0072】
実施例
図4に示したように、アダプターを用いず未知の塩基配列の増幅が可能であることを確認するために、次の実験を行った。すなわち、上記比較例と同じcDNA、またはE12.5マウス胎児脳由来のcDNAライブラリーを対象として、遺伝子特異プライマーのみを用いて5'RACEを行った。cDNAへのアダプターのライゲーションの工程を省き、PCRにおいてアダプタープライマーを加えない他は、上記比較例と同じ条件でDNAを合成した。実験に用いた遺伝子特異プライマーの塩基配列を以下に示す。
#6 :5'-GTGGACTTTCCGCTCATATTTGGT-3'(配列番号:5)
#18:5'-GGCATAGTTCCAGGAAATGGGTAG-3'(配列番号:1)
#20:5'-GGTATTGTTGGCGACAGGTTTCTC-3'(配列番号:2)
#21: 5'-GGGATGCCATCCTTGTTTGATTGC-3'(配列番号:6)
#26: 5'-AAGAGACTGTCAGGCATGGTAGTG-3'(配列番号:7)
#27: 5'-TAATCCCAGCACTCAGGAGGCAGA-3'(配列番号:8)
β-actin 1: 5'-GTGACGAGGCCCAGAGCAAGAG-3'(配列番号:3)
β-actin 2: 5'-AGGGGCCGGACTCATCGTACTC-3'(配列番号:4)
上記プライマーのうち、#6、#20、#21はMsh4-γの塩基配列に基づいてデザインされたプライマーである。各プライマーがアニールする領域は、それぞれMsh4-γのcDNAの3'側から、#6、#20、#21の順に並んでいる。一方#26と#27は、Msh4のスプライシングバリアントε(Msh4-ε)の塩基配列に基づいてデザインされたプライマーである。各プライマーがアニールする領域は、それぞれMsh4-εのcDNAの3'側から#26、および#27の順に並んでいる。したがって、これらのプライマーを組み合せることによってnested PCRを行うことができる。
【0073】
遺伝子特異プライマーとして#26、#27、または#18を用いた結果の一部を図5に示す。図5は、各プライマーについて3連、または6連で反応させた結果を示している。鋳型には、マウス胎児脳由来のcDNAライブラリーを用いた。1種類のプライマーによって、目的とする増幅産物が増幅されていることが確認された。
【0074】
更に増幅されたDNAの塩基配列の末端部分の塩基配列を決定し、その3'末端にプライマーに相補的な塩基配列が付加されていることを確認した。決定された末端部分の構造を図6および図7に示した。図中、四角で囲んだ塩基配列はプライマー由来の塩基配列、アンダーラインを付けた部分がプライマー以外の相補的な塩基配列を示す。アンダーラインを付けた部分の塩基配列が相補的であることは、template switchingによって相補的な配列(inverted repeat)が合成されたことを裏付けている。
【0075】
この実験によって、Msh4の各スプライシングバリアントについて、以下のようなサイズのcDNAの増幅が確認された。本発明によって、未知の塩基配列を含む領域を単一のプライマーによって十分な長さにわたって増幅することができることが示された。なお実験にはバリアントγとεのプライマーしか用いていない。この実験で合成されたバリアントは、いずれもバリアントγまたはεと同じエキソンを含んでいる。そのため、バリアントγとεのためのプライマーによって、各種のバリアントが合成された。たとえばバリアントαβθおよびιは、いずれも#20、#21のプライマーがアニールする塩基配列を含んでいる。
α:約2kb
β:約2kbおよび約1.5kb
δ:約1kb
ε:約2kb
θ:約1.5kb
ι:約1.5kb
【0076】
図2および図3のゲルの写真から明らかなように、targetが存在していてPCRの条件が至適であれば、本発明の方法によって非常にきれいな一本のバンドとしてcDNAが増幅される。本発明によるポリヌクレオチドの合成方法は、非常にユニークな方法でしかも信頼性も高い。本発明の方法が高い信頼性を有することは、全てのMsh4バリアントについてゲノムDNAのsequenceと比較したところ、末端の塩基配列に特に異常は認められなかった、という事実によって裏付けられている。本発明の方法によれば、αδεのようにcDNAライブラリーに極めて僅かしか含まれていないunusualな構造を持つものも単離することが可能である。本発明の方法を利用して、ゲノムプロジェクトの情報をもとにして、unusual cDNA libraryなるものの構築ができるかもしれない。
【0077】
【発明の効果】
本発明によって、5'末端を含む領域の塩基配列が未知なポリヌクレオチドの合成方法が提供された。本発明の方法を、cDNAの第2鎖に適用した場合には、5'RACEを実現できる。本発明に基づく5'RACEは、既知の方法では取得できなかった、より5'側に長いcDNAの取得を可能とした。また本発明の方法は、cDNAの第1鎖に適用した場合に3'RACEを可能とする。本発明においては、同様の原理を、5'RACEと3'RACEのいずれにも応用することができる。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドの合成方法によれば、逆転写酵素、1つのプライマー、そして特定のDNAポリメラーゼの利用によって、簡単な操作で5'末端を含む領域の塩基配列が未知なポリヌクレオチドの合成方法を可能とする。つまり本発明によって、安価で簡便な手法によって目的とするポリヌクレオチドの合成が可能となった。一方、既知の方法は、特殊なプライマーの利用を必須とし、更に複数の酵素を組み合せた複雑な反応に基づいて実施されていた。
【0079】
本発明の方法は、目的とするポリヌクレオチドを効率的に合成することができる。効率的とは、次のような特徴を期待できることを言う。
−未知の塩基配列部分がより長い状態で取得できること
−非特異反応が抑制されること
ここで言う非特異反応は、目的とするポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドを合成する反応を言う。具体的には、プライマーダイマーや、複数のcDNA断片が連結された構造を有するポリヌクレオチドなどを生成する反応が非特異反応に含まれる。
この特徴により、本発明に基づく5'RACEや3'RACEは、目的とするcDNAの確実な取得を可能とする。
【0080】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に用いたMarathon cDNA amplification kitの反応原理を示す図である。図中、1はアダプタープライマーのアニール位置、2はnested PCRのためのアダプタープライマーがアニールする位置を示した。ds cDNAは2本鎖cDNAを示し、またNNT30は、cDNAの合成に用いられたプライマーを示す。
【図2】マウスMsh4遺伝子に5'RACE法を応用して得られたPCR産物の電気泳動結果を示す写真である。1stは5'側のプライマーを用いた場合の結果を、2ndaryは3'側のプライマーを用いた場合の結果を示す。
【図3】マウスβアクチン遺伝子に5'RACE法を応用して得られたPCR産物の電気泳動結果を示す写真である。
【図4】アダプタープライマーを用いないDNA合成のメカニズムを示す図。
【図5】アダプタープライマーを用いないPCR産物の電気泳動結果を示す写真である。
【図6】本発明によって増幅されたDNAの末端部分の塩基配列を決定した結果を示す図である。図中、プライマーの塩基配列を四角で囲んで示した。また末端部分に付加されたプライマーに由来しに相補的な塩基配列にアンダーラインを付けた。各塩基配列はスプライシングバリアントごとに記載され、上が5'末端の、下が3'末端の塩基配列を示す。各塩基配列の左側にスプライシングバリアントの名前と、増幅産物の長さを示した。
【図7】本発明によって増幅されたDNAの末端部分の塩基配列を決定した結果を示す図である(図6の続き)。

Claims (11)

  1. 次の工程を含む、5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドの合成方法であって、
    a) 前記ポリヌクレオチドの、塩基配列が既知の領域から任意に選ばれる何れか1つの領域にアニールするオリゴヌクレオチドをプライマーとして相補鎖を合成する工程
    b) 工程a)で合成された相補鎖の3'末端に工程a)のオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるヌクレオチドを付加する工程、および
    c) 工程b)で得られた相補鎖を鋳型とし、工程a)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを合成する工程、
    工程b)が、次の要素を相補鎖合成反応が可能な条件下でインキュベートする工程からなる方法。
    (1) 鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
    (2) 工程a)で合成した相補鎖及びその鋳型からなる2本鎖ポリヌクレオチド、および
    (3) ヌクレオチド基質
  2. 5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドが、cDNAの第2鎖である請求項1に記載の方法。
  3. cDNAが5'末端に前記オリゴヌクレオチドと同じ塩基配列を含むポリヌクレオチドを付加したmRNAを鋳型として合成されたcDNAである請求項2に記載の方法。
  4. 5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドを、次の要素を相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートすることによって合成する工程を含む請求項2に記載の方法。
    (i) cDNAの第1鎖
    (ii) 鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素
    (iii) 5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素、および
    (iv) ヌクレオチド基質
  5. 鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を有する酵素を用いる請求項4に記載の方法。
  6. 鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素として、逆転写酵素活性を有する酵素を用いる請求項4に記載の方法。
  7. インキュベートに先だって、cDNAの第1鎖の3'末端にパリンドローム構造を有するオリゴヌクレオチドを付加する工程を含む、請求項4に記載の方法。
  8. 5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドが、cDNAの第1鎖である請求項1に記載の方法。
  9. ポリヌクレオチドがcDNAであり、このcDNAが5'末端に任意の塩基配列からなるヌクレオチドを付加したオリゴdTプライマーによって合成されたcDNAである請求項8に記載の方法。
  10. 請求項2または請求項8に記載の方法に基づいて合成された5'末端を含む領域の塩基配列が未知のポリヌクレオチドをクローン化する工程を含む、末端塩基配列が未知のポリヌクレオチドの単離方法。
  11. 工程b)において鋳型乗り換えが起こる、請求項1に記載の方法。
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