JP3882679B2 - めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用鋼板等の使途に有用なめっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、車両衝突時に乗員を保護する観点から、自動車車体の安全性向上も要求されている。このようなことから、自動車車体の軽量化と強化の双方を図るための検討が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
【0003】
鋼板を素材とする自動車部品の多くがプレス加工によって成形されるため、自動車部品用鋼板には優れたプレス成形性が要求される。プレス成形性を向上させるためには、鋼板の機械的特性として、高いランクフォード値(r値)と高い延性(El)および低い降伏応力(YS)が必要である。しかし、−般に、鋼板を高強度化すると、r値および延性が低下し、プレス成形性が劣化するとともに、降伏応力が上昇して形状凍結性が劣化する傾向がある。
【0004】
一方、自動車部品は、適用部位によっては高い耐食性も要求されることから、従来より、自動車部品用鋼板として耐食性の優れた種々の表面処理鋼板が用いられている。かかる表面処理鋼板のうち、特に再結晶焼鈍およびめっきを同一ラインで行う連続溶融亜鉛めっき設備において製造される溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた耐食性を有するとともに安価な製造が可能であり、また、溶融亜鉛めっき後にさらに加熱処理を施すことによって合金化溶融亜鉛めっき鋼板も製造可能となり、耐食性に加え、溶接性やプレス成形性に優れていることから広く用いられている。
【0005】
したがって、自動車車体の軽量化および強化をより一層推進するためには、連続溶融亜鉛めっきラインによって、耐食性とプレス成形性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板を開発することが望まれる。
【0006】
プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織からなる複合組織鋼板が挙げられ、特に連続焼鈍後ガスジェット冷却で製造される複合組織鋼板は、降伏応力(YS)が低く、さらに高い延性(El)と優れた焼付け硬化性とを兼ね備えている。しかしながら、連続溶融亜鉛めっきラインは、焼鈍設備とめっき設備を連続化して設置するのが一般的である。この連続化されためっき工程の存在により、焼鈍後の冷却はめっき温度で中断され、工程を通じた平均冷却速度も必然的に小さくなる。
【0007】
したがって、連続溶融亜鉛めっきラインで製造される鋼板では、冷却速度の大きい冷却条件下で生成するマルテンサイト相を溶融めっき後の鋼板中に生成させることは難しい。このため、フェライトとマルテンサイトの複合組織を有する高張力溶融亜鉛めっき鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインで製造することは、一般には困難である。
また、上記複合組織鋼板は、ランクフォード値(r値)が低く、深絞り成形性に劣るという欠点があった。
【0008】
こうした不利な条件のもとで、組織強化型溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造する方法としては、CrやMoといった焼入性を高める合金元素を多量に添加した鋼を用い、低温変態相の生成を容易化する方法が一般的である。しかし、前記した合金元素を多量に添加することは製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0009】
さらに、一般に、高張力鋼には、Si、Mn、P、Crなどの合金元素が添加されている。これらの元素を多量に含有する鋼板を、溶融亜鉛めっき設備で焼鈍とめっきを行うとき、鋼板表面の加熱によってこれらの元素、特にSiが選択的に酸化され、鋼板表面に拡散するため、これらの酸化物が濃化して鋼板表面で被膜を形成する。これらの酸化物は還元焼鈍でも還元されず、溶融亜鉛との濡れ性を著しく阻害し、めっき密着性を悪くする。それにより、鋼板に溶融亜鉛が付着しない、いわゆる不めっきがしばしば起こり、良好なめっき外観を呈しない。
【0010】
また、特公昭62−40405号公報等にて開示されているように、連続溶融亜鉛めっきラインでの焼鈍後やめっき後の冷却における冷却速度を規定することにより、組織強化型溶融亜鉛めっき高張力鋼板を製造する方法も提案されている。しかし、かかる方法は、連続溶融亜鉛めっきラインの設備上の制約から困難を伴う場合があり、この方法によって得られる鋼板の延性(El)についてもさらなる改善が望まれていた。
【0011】
さらに、複合組織鋼板のランクフォード値(r値)を改善する試みがなされている。例えば特公昭55−10650号公報では、冷間圧延後、再結晶温度〜Ac3変態点の温度で箱焼鈍を行い、その後、複合組織とするため700〜800℃に加熱した後、焼入れ焼戻しを伴う連続焼鈍を行う技術が開示されている。しかしながら、この方法では、連続焼鈍時に焼入れ焼戻しを行うため降伏応力YSが高く、低い降伏比YRが得られない。なお、ここで降伏比YRは引張強さTSに対する降伏応力YSの比であり、YR=YS/TSである。この高降伏応力の鋼板はプレス成形に適さず、かつプレス部品の形状凍結性が悪いという欠点がある。
【0012】
この高降伏応力YSを改善するための方法としては、特開昭55−100934号公報に開示されている。この方法は、高いランクフォード値(r値)を得るためにまず箱焼鈍を行うが、箱焼鈍時の温度をフェライト(α)−オーステナイト(γ)の2相域とし、均熱時にα相からγ相にMnを濃化させる。このMn濃化相は連続焼鈍時に優先的にγ相となり、ガスジェット程度の冷却速度でも混合組織が得られ、さらに降伏応力YSも低い。しかし、この方法では、Mn濃化のためα−γの2相域という比較的高温で長時間の箱焼鈍が必要であり、そのため鋼板間の密着の多発、テンパーカラーの発生および炉体インナーカバーの寿命低下など製造工程上、多くの問題がある。従来、このように高いランクフォード値(r値)と低い降伏応力YSを兼ね備えた高張力鋼板を工業的に安定して製造することは困難であった。
【0013】
加えて、特公平1-35900号公報では、0.012質量%C-0.32質量%Si-0.53質量%Mn-0.03質量%P−0.051質量%Tiの組成の鋼を冷間圧延後、α-γの2相域である870℃に加熱後、100℃/sの平均冷却速度にて冷却することにより、r=1.61、YS=224MPa、TS=482MPaの非常に高いランクフォード値(r値)と低降伏応力を有する複合組織型冷延鋼板が製造可能となる技術が開示されている。しかしながら、100℃/sという高い冷却速度を、通常の連続溶融亜鉛めっきラインで実現することは困難であるため水焼入れ設備が必要となる他、水焼入れした冷延鋼板は、表面処理性の問題も顕在化するため、製造設備上および材質上の問題がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、鋼組成として特にCとVおよびNbの含有量、および製造条件として特に加熱時の露点および雰囲気と均熱温度を制御することにより、鋼中にSi、Mn、Pなどの合金元素を多量に含有する高張力鋼板において、酸化被膜の密着性を良好にし、これら元素の表面濃化を抑制することにより、強度伸びバランスに優れ、且つ高いランクフォード値を有するめっき外観が良好な複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板を安定して製造できる技術を提案することを目的とする。なお、本発明でいう「溶融亜鉛めっき冷延鋼板」とは、溶融亜鉛めっき後に加熱合金化処理を施さない、いわゆる非合金化溶融亜鉛めっき冷延鋼板および溶融亜鉛めっき後に加熱合金化処理を施す、いわゆる合金化溶融亜鉛めっき冷延鋼板の双方を意味する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、冷延鋼板表面に溶融めっき層を具える溶融亜鉛めっき冷延鋼板のミクロ組織および再結晶集合組織におよぼす合金元素の影響について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を低炭素域とし、適正範囲のV、Nb量を含有することにより、冷間圧延後に施される再結晶焼鈍の前には、固溶Cを極力低減させて{111}再結晶集合組織を発達させることにより、高いランクフォード値(r値)が得られること、また、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を施した後、還元雰囲気中で780〜950℃の温度域で連続焼鈍し、焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までを平均冷却速度5℃/s以上で冷却し、溶融亜鉛めっきを施すことで、めっき外観が良好で、ランクフォード値の高い複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板が製造可能であることを見出した。
【0016】
ここで、本発明鋼である複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板とは、主相であるフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板である。
【0017】
まず、本発明者らが行った基礎的な実験結果について説明する。
質量%で、C:0.02%、Si:0.5%、Mn:2.0%、P:0.01%、S:0.004%、Al:0.03%、N:0.002%を基本組成とし、これにV:0.01〜0.15質量%の範囲およびNb:0.001〜0.16質量%の範囲で添加することによって、異なるVおよびNb含有量を有する種々の鋼素材について、1250℃に加熱−均熱後、仕上圧延終了温度が900℃となるように3パス圧延を行って板厚4.0mmとした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻取り処理として650℃×3hの保温相当処理を施した。引き続き、圧下率70%の冷間圧延を施して板厚1.2mmとした。ついで、これらの冷延板を、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を−20℃から55℃の範囲の所定の温度で制御した加熱帯にて加熱後、20vol%H2−80vol%N2の還元雰囲気中で850℃の均熱温度にて連続焼鈍してから、450〜500℃の温度域まで15℃/sの冷却速度で冷却し、Alを0.13mass%含有する溶融亜鉛めっき浴に浸漬してめっきした後、450〜550℃の温度範囲の合金化処理(めっき層中のFe含有率:約10質量%)を施し、その後、15℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。なお、一部の試料については、加熱帯で形成されるFe酸化量を測定するため、加熱後急冷し、Fe酸化量を測定した。また、露点の調整にはコークス炉ガスまたは水素水蒸気とN2混合ガスを用いた。
【0018】
得られた溶融亜鉛めっき鋼板について、引張試験を実施し引張特性を調査した。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いて行った。引張強さTSおよび延性Elは、圧延方向に対して垂直方向に引張試験を行ったときの値である。r値は、圧延方向(rL)、圧延方向に45度方向(rD)および圧延方向に垂直(90度)方向(rc)の平均r値{=(rL +rc +2×rD)/4}として求めた。また、その時のめっき表面外観も調査した。めっき表面外観は、点状の不めっきの発生の有無にて良好か否かで判定した。
【0019】
図1は、VとNbの含有量がCの含有量との関係でr値と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図であり、横軸はVおよびNbの含有量とC含有量の原子比((V/51+Nb/93)/(C/12))であり、縦軸はr値と強度伸びバランス(TS×El)を上下に分けて示す。
【0020】
図1から、鋼中のVおよびNbの含有量をCの含有量との原子比にして0.5〜2.0の範囲に制限することにより、高いr値と高い強度伸びバランスが得られ、高r値を有する複合組織型溶融亜鉛めっき冷延鋼板が製造可能となることが明らかになった。
【0021】
本発明の溶融亜鉛めっき冷延鋼板では、再結晶焼鈍前には固溶CおよびNが少ないため、{111}再結晶集合組織が強く発達し、高いランクフォード値が得られる。一方、780〜950℃にて焼鈍することにより、VおよびNb系炭化物が溶解し、固溶Cがオーステナイト相に多量に濃化することにより、その後の冷却過程においてオーステナイト相がマルテンサイト相に変態し、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織となり、降伏比YRが低く、延性に優れた特性が得られることを明らかにした。
【0022】
図2に、Fe酸化量に及ぼす加熱帯の露点の影響を示す。加熱帯の露点を20℃以上とすることにより、鋼板表層に形成されるFe酸化量が600mg/m2以上になり、めっき表面外観が良好になることが明らかになった。すなわち、加熱時の露点が20℃未満では、加熱時に形成される鋼板表層のFe酸化量が600mg/m2未満となり、鋼板のFe酸化物が少なく、Si、Mn、P等の合金元素の表面の濃化を防止することができず、めっき表面外観を劣化させることが明らかになった。なお、ここでFe酸化量とは、酸化処理前後の鋼板について鋼中の酸素量を蛍光X線にて測定し、測定量を鋼板表面積で除した値である。また、鋼板表層に形成されるFe酸化物とは、主としてFe2O3、Fe3O4などである。
【0023】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討して完成されたものであり、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を施した後、還元雰囲気中で780〜950℃の温度域で連続焼鈍し、焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までを平均冷却速度5℃/s以上で冷却し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。
【0024】
(2)質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、Nb:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を施した後、還元雰囲気中で780〜950℃の温度域で連続焼鈍し、焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までを平均冷却速度5℃/s以上で冷却し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。
【0025】
(3)鋼スラブは、上記組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。
【0026】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法に用いた鋼スラブの組成を限定した理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
【0027】
C:0.01〜0.05%
Cは、鋼板の強度を増加し、さらに主相であるフェライト相と、第2相を構成するマルテンサイト相との複合組織の形成を促進する元素であり、本発明では複合組織形成の観点から0.01%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超える含有は、{111}再結晶集合組織の発達を阻害し、深絞り成形性を低下させる。このため、本発明では、C含有量は0.01〜0.05%に限定した。
【0028】
Si:0.1〜1.0%
Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化、すなわち強度伸びバランスを向上させることができる有用な強化元素であり、この効果を得るためには、Si含有量は0.1%以上とする必要がある。しかしながら、Si含有量が1.0%を超えると、深絞り性の劣化を招くとともに、表面性状、とくにめっき表面外観が著しく悪化する。このため、Si含有量は0.1〜1.0%に限定した。
【0029】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらに主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、焼鈍後の冷却速度に応じ含有するのが好ましい。臨界冷却速度未満での緩慢な冷却速度ではマルテンサイト相は生成されず、代わりにベイナイト相あるいはパーライト相が生成されるが、第2相にマルテンサイト相が存在しない場合、強度伸びバランスが低下する傾向にある。したがって、マルテンサイト相の生成を容易にするため、すなわち臨界冷却速度を低くするためには、Mnの添加が有効となる。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このような効果は、Mnを1.0%以上含有させることで顕著となる。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、深絞り性および溶接性が劣化する。このため、本発明ではMn含有量は1.0〜3.0%の範囲に限定した。
【0030】
P:0.10%以下
Pは鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて適宜含有させることができるが、P含有量が0.10%を超えると、強度伸びバランスが低下するとともに深絞り性が劣化する。このため、P含有量は0.10%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、P含有量は0.08%以下とするのが好ましい。なお、上記効果を得るため、Pは0.005%以上含有することが好ましい。
【0031】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ性の劣化をもたらす元素であるため、できるだけ低減するのが好ましく、0.02%以下に低減すると、さほど悪影響を及ぼさなくなることから、本発明ではS含有量は0.02%を上限とした。なお、より優れた伸びフランジ成形性が要求される場合には、S含有量は0.01%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。
【0032】
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるが、0.005%未満では添加の効果がなく、一方、0.1%を超えて含有してもより一層の脱酸効果は得られず、逆に深絞り性が劣化する.このため、Al含有量は0.005〜0.1%に限定した。なお、本発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。その際、CaやREM等を溶鋼に添加しても、本発明鋼板の特徴はなんら阻害されず、CaやREM等を含む鋼板も本発明範囲に含まれるのは勿論である。
【0033】
N:0.02%以下
Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる元素であるが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それにより鋼板の深絞り性が顕著に劣化する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よりプレス成形性の向上が要求される場合には、Nは低減させることが好ましく、0.01%以下とするのが好適であり、より好ましくはNを極力低減させて0.004%以下とする。
【0034】
V:0.01〜0.2% 、Nb:0.005〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすこと
VおよびNbは、本発明において最も重要な元素であり、再結晶前には固溶CをVおよびNb系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いランクフォード値を得ることができる。さらに、焼鈍時にはVおよびNb系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、フェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、VおよびNbの含有量がそれぞれ0.01%以上および0.005%以上でかつ、C、V、Nbの含有量(質量%)が0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)の関係を満足することが必要である。一方、VおよびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超えるか、あるいは、C、V、Nbの含有量(質量%)が(V/51+Nb/93)>2×C/12であると、焼鈍時におけるVおよびNb系炭化物の溶解が起こりにくくなるため、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られない。したがって、本発明では、V:0.01〜0.2% 、Nb:0.005〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を満たすことに限定した。
【0035】
また、本発明では、上記した組成に加えて、質量%で、Ti:0.001〜0.3%を含有することが好ましく、この場合には、上記C、V、Nbの含有量(質量%)の関係式である0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12に代えて、上記C、V、Nb、Tiの含有量(質量%)の関係式、すなわち0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係式を満たすことが必要である。
Tiは炭化物形成元素であり、再結晶前には固溶CをV、NbおよびTi系炭化物として析出固定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて高いランクフォード値を得る。さらに、焼鈍時には、V、NbおよびTi系炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変態させることにより、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板を得る。このような効果を奏するには、Ti含有量が0.001%以上でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)の関係を満足することが必要である。一方、Ti含有量が0.3%を超えるか、あるいは、(V/51+Nb/93+Ti/48)>2×C/12であると、焼鈍時に炭化物の溶解が起こりにくくなるため、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られない。したがって、Tiを含有する場合には、Ti:0.001〜0.3%であって0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる関係を満たすことに限定した。
【0036】
また、本発明では、上記した組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5%を含有することが好ましい。
Mo:0.01〜0.5%
MoはMnと同様に、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、フェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、必要に応じて含有できる。その効果は、0.01%以上のMoの含有により発揮される。しかしながら、Mo含有量が0.5%を超えると、深絞り性が低下するため、Mo含有量は0.01〜0.5%に限定した。
【0037】
なお、本発明では、上記した成分以外の残部は実質的にFeおよび不可避的不純物の組成とするが、B、Ca、REM等を通常の鋼組成の範囲内であれば含有させてもなんら問題はない。
【0038】
Bは、鋼の焼入性を向上する作用を有する元素であり、必要に応じ含有できる。しかし、B含有量が0.003%を超えると、効果が飽和するため、Bは0.003%以下が好ましい。なお、より望ましい範囲は0.0001〜0.002%である。CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する。このような効果は、CaおよびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が合計で、0.01%を超えると飽和する。このため、CaおよびREMのうちの1種または2種の含有量は、合計で0.01%以下とするのが好ましい。なお、より好ましい範囲は0.001〜0.005%である。
【0039】
また、その他の不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
【0040】
次に、本発明において、製造条件を限定した理由について説明する。
本発明の溶融亜鉛めっき冷延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、該熱延板を酸洗する酸洗工程と、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に再結晶焼鈍および溶融亜鉛めっきを行い溶融亜鉛めっき冷延鋼板とする連続溶融亜鉛めっき工程とを順次施すことにより製造される。また必要に応じて、連続溶融亜鉛めっき工程の前に、該鋼板に焼鈍および酸洗を行う工程を施す。
【0041】
使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後、再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する方法や、わずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延する方法などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0042】
上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程を施す。熱延工程は所望の板厚の熱延板が製造できる条件であればよく、通常の圧延条件を用いても特に問題はない。なお、参考のため、好適な熱延条件を以下に示しておく。
【0043】
スラブ加熱温度:900℃以上
スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより、{111}再結晶集合組織を発達させ、深絞り性を改善するため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が900℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大する。このため、スラブ加熱温度は900℃以上にすることが好ましい。また、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることがより好適である。なお、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方法であることは言うまでもない。
【0044】
仕上圧延終了温度:700℃以上
仕上圧延終了温度(FDT)は、冷間圧延および再結晶焼鈍後に優れた深絞り性が得られる均一な熱延母板組織を得るため、700℃以上にすることが好ましい。すなわち、仕上圧延終了温度が700℃未満では、熱延母板組織が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高くなり、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するからである。
【0045】
巻取温度:800℃以下
巻取温度は、800℃以下とするのが好ましい。すなわち、巻取温度が800℃を超えると、スケールが増加しスケールロスにより歩留りが低下する傾向があるからである。なお、巻取温度は200℃未満となると、鋼板形状が顕著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が増大するため、巻取温度の下限を200℃とすることがより好適である。
【0046】
このように、本発明の熱延工程では、鋼スラブを900℃以上に加熱した後、仕上圧延終了温度:700℃以上とする熱間圧延を施し、800℃以下好ましくは200℃以上の巻取温度で巻き取り熱延板とするのが好ましい。
なお、本発明における熱間圧延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低滅するため、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。加えて、潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化や材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲とすることが好ましい。
【0047】
また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0048】
ついで、熱延板を酸洗後、冷間圧延を施し冷延板とする。酸洗は通常の条件にて行えばよい。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は40%以上とすることが好ましい。圧下率が40%未満では、{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り性を得ることが困難となるからである。
【0049】
引き続き、上記冷延鋼板に連続溶融亜鉛めっきラインにて再結晶焼鈍および溶融亜鉛めっきを施し、溶融亜鉛めっき鋼板とする。ここで、まず、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を行った後、還元雰囲気中で780〜950℃で再結晶焼鈍を行い、これによって、鋼板表層に形成したFe酸化層を十分に還元する必要がある。焼鈍温度が780℃未満では、ほぼフェライト単相組織となり、TS×Elバランスが劣化するからであり、一方、950℃を超える高温では、結晶粒が粗大化するとともに{111}再結晶集合組織が発達せずに深絞り性が著しく劣化すると同時に、TS×Elバランスも劣化する。加熱時の露点が20℃未満では、加熱時に鋼板表層に形成されるFe酸化量が600mg/m2未満となり、鋼板のFe酸化物が少なく、Si、Mn、P等の合金元素の表面の濃化を防止することができず、めっき表面外観を劣化させるためである。なお、加熱帯の露点は20℃以上が必要であり、好ましくは40℃以上である。なお、露点が高すぎると鋼板表層に形成されるFe酸化量が多くなりすぎ、還元時にFe酸化物量が十分に還元されなくなる。したがって、露点は100℃以下が好ましい。
次いで、還元雰囲気中で上記温度範囲で再結晶焼鈍を行い、鋼板表層に形成されたFe酸化物を十分に還元することにより、鋼板表面の最表層に還元Fe層を形成して不めっきを防止する。
なお、均熱時の還元雰囲気の好適な条件は、雰囲気ガスとして、5vol%〜30vol%程度の水素ガスを含有する窒素ガスを用いることが好ましい。
【0050】
上記焼鈍後は、溶融亜鉛めっき処理温度である380〜530℃の温度域に急冷するのが好ましい。急冷停止温度が380℃未満では不めっきが発生しやすくなり、一方、530℃を超えるとめっき表面にむらが発生しやすくなるため好ましくないからである。なお、冷却速度は、主相であるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織とするため、前記焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までの平均冷却速度を5℃/s以上で急冷する。上記急冷後は引き続いて溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする。この時、めっき浴のAl濃度は0.12〜0.145mass%の範囲にするのが好ましい。めっき浴中のAl含有量が0.12 mass%未満では合金化が進み過ぎてめっき密着性(耐パウダリング性)が劣化する傾向があるからであり、一方、0.145 mass%を超えると不めっきが発生しやすくなるからである。
【0051】
また、溶融亜鉛めっき処理後にめっき層の合金化処理を施してもよい。なお、合金化処理を行う場合には、めっき層中のFe含有率が9〜12%となるように実施するのが好ましい。
【0052】
合金化処理は、溶融亜鉛めっき処理後、450〜550℃の温度域まで再加熱し溶融亜鉛めっき層の合金化を行うのが好ましい。合金化処理後は、5℃/s以上の平均冷却速度で300℃まで冷却するのが好ましい。550℃を超える高温での合金化は、マルテンサイト相の形成が難しく、鋼板の延性が低下するおそれがあり、一方、合金化温度が450℃未満では、合金化の進行が遅く生産性が低下する傾向があるからである。
【0053】
また、合金化処理後の冷却速度が極端に小さい場合にはマルテンサイト相の形成が困難になる。このため、合金化処理後から300℃までの温度範囲における平均冷却速度を5℃/s以上にするのが好ましい。
【0054】
なお、めっき処理後あるいは合金化処理後の鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整のための調質圧延を加えてもよい。また、樹脂あるいは油脂コーティング、各種塗装あるいは電気めっき等の処理を施しても何ら不都合はない。
上述したように適正化を図った鋼スラブの組成および製造条件を具備する本発明の製造方法によって製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、引張強さTSが440MPa以上の深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板である。
【0055】
次に、本発明鋼板の組織について説明する。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、組織が、主相であるフェライト相と、組織全体に対する面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織を有する。
【0056】
低い降伏応力(YS)と高い延性(El)を有し、優れた深絞り性を有する溶融亜鉛めっき冷延鋼板とするために、本発明では鋼板の組織を、主相であるフェライト相と、組織全体に対する面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複合組織とする必要がある。主相であるフェライト相は、組織全体に対する面積率で80%以上とするのが好ましい。フェライト相が、面積率で80%未満では、高い延性を確保することが困難となり、プレス成形性が低下する傾向があるからである。また、さらに良好な延性が要求される場合には、フェライト相の面積率は85%以上とするのが好ましい。特に、複合組織の利点を利用するため、主相であるフェライト相は99%以下とするのが好ましい。なお、本発明のフェライト相は、転位密度の低いポリゴナルフェライトのみからなっていても、あるいはα→γ変態を経た転位密度の高いベイニチックフェライトのみからなっていてもよく、さらに、これらの混合相からなっていてもよい。
【0057】
また、第2相として、本発明では、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で1%以上含有する必要がある。マルテンサイト相が面積率で1%未満では、低い降伏比(YR)と高い延性(El)を同時に満足させることが難しい。なお、第2相は、面積率で1%以上のマルテンサイト相単独としても、あるいは面積率で1%以上のマルテンサイト相と、副相としてそれ以外のパーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれかとの混合としてもよく、特に限定されない。
【0058】
本発明の方法によって製造した上記した組織を有する溶融亜鉛めっき冷延鋼板は、低降伏応力で高延性を有する深絞り性に優れた鋼板である。
【0059】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを1150℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度:900℃、巻取温度:650℃とする熱間圧延を施す熱延工程により、板厚4.0mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗、冷間圧延を施す冷延工程により、板厚1.2mmの冷延鋼帯(冷延板)とした。ついで、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続溶融亜鉛めっきラインで、表2に示す露点の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理後、均熱帯にてH2濃度が20vol%で残部窒素ガスからなる雰囲気ガスを用いて還元雰囲気とした中で焼鈍および還元処理後、15℃/sの冷却速度で冷却し、Alを0.13mass%含有した480℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬してめっきした後、520℃で合金化処理(めっき層中のFe含有率:約10%)を施した後、15℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。ここで露点はコークス炉ガスまたは水素水蒸気とN2の混合ガスを用いて制御した。さらに、得られた鋼帯(溶融亜鉛めっき鋼板)に、さらに伸び率:0.8%の調質圧延を施した。なお、表2中の鋼板No.1〜11のうち、No.2および5は、加熱帯が還元雰囲気であるオールラジアントタイプの連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて行い、No.1、3、4および6〜11は、加熱帯が酸化雰囲気である無酸化炉(NOF)タイプの連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて行った。
【0060】
得られた鋼帯から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトの組織分率および第2相の種類と組織分率を求めた。また、得られた鋼帯から、前述の基礎的な実験結果を得た時と同様にJIS5号引張試験片を採取して、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)、強度伸びバランス(TS×El)、降伏比(YR)を求めた。また、r値は、鋼帯から採取したJIS5号引張試験片を用いてJIS Z 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑性ひずみ比)を求め、これをr値とした。さらに、めっき表面外観は、目視により点状の不めっきの発生の有無によって評価した。これらの結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示す結果から、本発明例は、いずれも、めっき表面外観が良好で、かつ低い降伏応力YSと高い伸びElと低い降伏比YRを有し、さらに高いランクフォード値を示して深絞り成形性に優れた鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる条件で製造した比較例では、めっき表面外観が悪いか、降伏応力YSが高く降伏比が高くなっているか、伸びElが低いか、あるいはランクフォード値(r値)が低下した鋼板となっている。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、めっき表面外観が良好で、かつ優れた深絞り成形性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板を自動車部品に適用した場合、プレス成形が容易で、自動車車体の軽量化に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 VとNbの含有量とCとの関係を表す比(V/51+Nb/93)/(C/12)がランクフォード値(r値)と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図である。
【図2】 Fe酸化量に及ぼす加熱帯の露点の影響を示した図である。
Claims (3)
- 質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を施した後、還元雰囲気中で780〜950℃の温度域で連続焼鈍し、焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までを平均冷却速度5℃/s以上で冷却し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。 - 質量%で
C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、Nb:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12
なる関係を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続溶融亜鉛めっきラインにて、露点を20℃以上の酸化雰囲気に制御した加熱帯にて酸化処理を施した後、還元雰囲気中で780〜950℃の温度域で連続焼鈍し、焼鈍温度から溶融亜鉛めっき処理温度までを平均冷却速度5℃/s以上で冷却し、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。 - 鋼スラブは、上記組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の、めっき外観の良好な深絞り性に優れた複合組織型高張力溶融亜鉛めっき冷延鋼板の製造方法。
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