JP3644039B2 - 無方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は優れた磁気特性、特に高い磁束密度を有し、しかも表面性状にも優れた無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【従来の技術】
モーター、変圧器等の鉄芯材料として用いられる無方向性電磁鋼板は、電気機器の高効率化、小型化を図る上で鉄損が低く且つ磁束密度が高いことが望ましい。なかでも、所謂低〜中級グレードの無方向性電磁鋼板は、比較的容量の小さい電気機器に使用されるケースが多く、損失に占める励磁電流の割合が高いため、機器の小型化の観点からは勿論のこと高効率化の観点からも磁束密度が高いことが重要となる。
【0002】
一般に、無方向性電磁鋼板の磁束密度を上昇させようとする場合、冷間圧延前組織の適正化、具体的には結晶粒の粗大化が重要であり、従来でもこれに関する技術が種々開示されている。例えば、特開昭57−35628号、特開昭58−204126号等には、熱延板に熱延板焼鈍を施すことで結晶粒を粗大化させる技術が開示され、また、特開昭54−68717号、特開昭56−98420号等にはSbあるいはSn等の特殊元素を添加した上で熱延板焼鈍を施し、結晶粒を粗大化させる技術が開示され、さらに、特開昭63−186823号、特開平1−139721号、特開平1−306523号、特開平1−309921号等には、熱延板を1〜5%ないし12〜20%の圧下率で軽圧下圧延した後焼鈍し、歪粒成長による二次再結晶を利用して結晶粒を粗大化させる技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの技術では製品の表面性状についての検討を欠いており、以下に述べるように、磁束密度を十分に高めようとすると不可避的に表面性状が劣化して製品の商品価値が損なわれ、また逆に、表面性状の劣化を防止しようとすると十分に高い磁束密度が得られず、結局、磁束密度と表面性状の両方を同時に満足できないという欠点があった。
【0004】
すなわち、上述した従来技術のうち熱延板焼鈍だけで結晶粒の粗大化を図ろうとする技術は、二次再結晶の駆動力として粒界エネルギーを利用しようとするものであるが、駆動力が粒界エネルギーだけであるため駆動力自体が小さく、このため低温焼鈍では結晶粒の粗大化が不十分で磁束密度の向上代が小さく、磁束密度を向上させようとするとかなりの高温焼鈍が必要となる。さらに、上記のように駆動力自体が小さいことから、仮りに高温焼鈍を行ったとしても二次再結晶のための臨界エネルギーを超えた結晶粒は少数しか得られず、この少数の結晶粒が周りの結晶粒を蚕食して二次再結晶が進行する結果、極端に粗大化した組織しか得られない。このため磁束密度は十分に向上するものの、製品に熱延板の著しい粗大粒に起因した顕著な粗大粒を生じ、表面性状が著しく劣化する。また、Sb,Sn等の特殊元素を添加した上で熱延板焼鈍を行う技術においても、上記のような粗大粒の発生は抑制できず、同様の問題を生じる。
【0005】
これらの技術に対し、熱延板を軽圧下圧延後焼鈍する技術は、二次再結晶の駆動力として粒界エネルギーに加え、これより圧倒的に大きな軽圧下圧延による歪を利用するものであり、比較的低温の焼鈍であっても主として歪粒成長を機構として二次再結晶が進行し、結晶粒の粗大化が達成される。しかし、上記従来技術のように単に軽圧下圧延の圧下率を規定するだけでは、依然として磁束密度と表面性状の両方を満足させることは困難である。すなわち、詳細は後述するが、従来技術の大半がそうであるように軽圧下圧延の圧下率が概ね5%以上と比較的高い場合には、駆動力としての歪は十分に付与されるが、同時に二次再結晶のための臨界エネルギーを超えた結晶粒の数も多くなり、このため組織は一応粗大化はするもののその程度は十分でなく、磁束密度の向上代も必ずしも十分ではない。一方、軽圧下圧延の圧下率が概ね2%以下と低い場合には、二次再結晶のための臨界エネルギーを超える結晶粒の数が少なく、先に述べた熱延板焼鈍だけを実施する場合と同様に組織が粗大化し過ぎ、このため磁束密度は十分に向上するものの表面性状が劣化する。さらに、低温焼鈍を実施した場合、板厚中央部に一部二次再結晶の完了しない部分を生じることもあり、この場合には磁束密度の向上代が小さくなる。また、軽圧下圧延の圧下率が概ね2〜5%の範囲では、磁束密度の向上代と表面性状の改善の程度が共に中途半端となり、いずれの場合も高磁束密度化と良好な表面性状の確保を同時に達成することは困難である。
【0006】
以上のように従来技術では、良好な表面性状を確保しつつ磁束密度を十分に向上させることができないという問題があった。
本発明はこのような従来の問題に鑑みなされたもので、表面性状を損なうことなく、無方向性電磁鋼板の磁気特性、特に磁束密度を著しく向上させることができる無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することをその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために、冷間圧延前組織、すなわち熱延板組織を磁束密度が十分に向上する程度に粗大化し、且つ製品の表面粗大粒を抑制し得る方法について検討を重ねた。すなわち、本発明者らはまず、製品の表面粗大粒は主として熱延板表層部の結晶粒が過度に粗大化することが原因であり、これが適切な粒径に抑えられれば、板厚中央部の結晶粒が粗大であっても製品の表面粗大粒の発生を抑制できるものと考えた。さらに、板厚中央部の結晶粒が十分に粗大であれば、表層部の結晶粒が粗大化しなくても磁束密度は十分に向上するものと考え、熱延板の板厚中央部の結晶粒を十分粗大化しつつ、表層部を適切な粒径に制御し得る方法について検討を行った。その結果、熱延板の巻取温度を鋼中のSi,Al量に応じて制御し、粗大化に際しての前組織を適正化した上で、軽圧下圧延により適正量の歪を2回に分けて、しかも圧延方向を逆にして付与し、その後適正な条件で熱延板焼鈍を行うことにより、上述したような熱延板組織が得られることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴とする構成は以下の通りである。
(1) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後700〜900℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0009】
(2) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後600〜850℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
(3) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後650〜800℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施し、次いで、1.0〜12.0%の調圧率で調質圧延を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】
【作用】
以下、本発明の詳細をその限定理由とともに説明する。
まず、本発明において最も重要な要件である熱延板の軽圧下圧延条件について説明する。
図1は、本発明鋼種である表1に記載の鋼Aを対象として、熱延板の軽圧下圧延を2スタンドの圧延機を用いて1回の圧延で行った場合と、1スタンドの圧延機を用いて1回目の圧延を行った後、圧延方向を逆転して2回目の圧延を行った場合について、製品の磁束密度と板面粒径を熱延板軽圧下圧延の圧下率(2回圧延の場合は合計圧下率)で整理して示したものである。ここで、製品の板面粒径とは、所謂光学顕微鏡で観察されるミクロ組織の粒径ではなく、表面性状として問題となる製品の板面粗大粒の大きさを目視評価した際の粒径を指している。また、軽圧下圧延以外の製造条件は、以下に示すような本発明範囲内のものとした。また、2回圧延の場合には、合計圧下率が1.0〜6.0%のものについては、1回目と2回目の圧延の各圧下率は0.5〜3.0%の範囲であった。
【0012】
図2は、図1と同様の試験を表1に記載の本発明鋼種である鋼Fについて行った結果を示している。ここで、軽圧下圧延以外の製造条件については図1に関する試験と同様にそれぞれ本発明範囲内としたが、条件そのものは以下に示すように図1の場合とは異なる値とした。また、2回圧延の場合には、合計圧下率が1.0〜6.0%のものについては、1回目と2回目の圧延の各圧下率は0.5〜3.0%の範囲であった。
【0013】
先に従来技術の説明でも触れたが、図1及び図2からも明らかなように熱延板軽圧下圧延を単に1回の圧延で行う限りは、高磁束密度化と優れた表面性状の確保を両立させることはできない。すなわち、軽圧下圧延の圧下率が概ね5%以上では、引き続き行われる熱延板焼鈍時の二次再結晶に対する駆動力が十分に与えられる結果、二次再結晶を起こすための臨界のエネルギーを超えた結晶粒の数が過多となる。このため熱延板焼鈍後の組織の粗大化の程度が十分でなく、粗大粒による表面性状の劣化はないものの磁束密度が十分に改善されない。一方、軽圧下圧延の圧下率が概ね1〜2%の範囲では、二次再結晶に対する駆動力が小さいため、二次再結晶を起こすための臨界のエネルギーを超えた結晶粒の数が少ない。このため熱延板焼鈍後の組織が十分に粗大化して高い磁束密度は得られる反面、製品の板面粒径が4〜5mm以上となり、表面粗大粒による表面性状の劣化が著しい。さらに、軽圧下圧延の圧下率が概ね1%以下になると上記駆動力が過少となるため、熱延板焼鈍後の板厚表層部は十分粗大な二次再結晶粒で占められるものの、これが板厚方向の全部を覆うまでには成長できず、板厚中央部に一部二次再結晶の完了できない細粒部が残存してしまう。このため製品の表面粗大粒により表面性状が劣化し、また、磁束密度の向上代も小さい。また、軽圧下圧延の圧下率が概ね2〜5%の場合には、圧下率が増加するにつれて製品の板面粒径は細粒化していくが、同時に磁束密度も低下してしまい、この場合も高い磁束密度と優れた表面性状を同時に満足することはできない。
【0014】
これに対し、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行った場合には、その合計圧下率を適正範囲に制御することにより高い磁束密度と優れた表面性状が共に確保されることが判る。具体的には、成分組成が異なる鋼Aおよび鋼Fともに、2回の圧延の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することで、磁束密度については鋼Aでは1.81T以上の値が、また、鋼Fでは1.78T以上の値が得られ、しかも板面粒径はともに3mm以下と表面性状上問題のない値にまで低下しており、高位の磁束密度と優れた表面性状が確保されている。さらに、合計圧下率が2.0〜5.0%の範囲にあっては、熱延板軽圧下圧延を1回の圧延で行った同一板面粒径のものと磁束密度を比較すると、磁束密度は概ね0.02T以上高くなっており、このことからも熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、その際の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することの有効性が理解できる。以上の理由から本発明では、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つこの2回の圧延の合計圧下率を2.0〜5.0%と規定する。なお、ここでいう1回の圧延とは、1スタンド若しくは2スタンド以上で行われる圧延(すなわち、1パス若しくは2パス以上の圧延)を含んでいる。
【0015】
なお、上述した試験における熱延板軽圧下圧延は、これを1回の圧延で行う場合には2スタンドの圧延機を使用し、また、圧延方向を逆にした2回の圧延で行う場合には1スタンドの圧延機を使用したものであり、ともに圧延パス数は2である。したがって、両者の本質的な相違は各パスを同一圧延方向で行うか、逆方向で行うかという点に尽きる。したがって、本発明においては熱延板軽圧下圧延を2回に分けて行うこと自体には特別な意義はなく、圧延方向を1回目の圧延と2回目の圧延で逆転させることに本質的な意義がある。
【0016】
以上のように熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、その合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することで高位の磁束密度と優れた表面性状が得られることになるが、これは続く熱延板焼鈍時に組織が適正化されることによるものである。すなわち、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆転することなく1回の圧延で行った場合には、前述したように圧下率が2.0〜5.0%の範囲では熱延板焼鈍後の粒径は磁束密度と板面粒径の両者にとって中途半端なものにしかならない。これに対し、軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つこの際の合計圧下率を2.0〜5.0%とした上で熱延板焼鈍を実施すると、板表層部が細粒で且つ板厚中央部が十分に粗大化した結晶粒組織を得ることができる。ここで、熱延板焼鈍後の組織が板表層部で細粒となることは、製品の板面粒径を小さくし、表面粗大粒の発生を抑制できることを意味する。また、板厚中央部が十分に粗大な組織となるため、高位の磁束密度が達成される。
【0017】
このように、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つその際の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御した場合には、圧延方向を逆転せず同一圧延方向で1回の圧延を行った場合とは異なった組織形成を生じることになるが、これは次のような理由によるものと考えられる。
【0018】
すなわち、まず1回目の圧延で歪エネルギーが熱延板の結晶粒に付与されるが、この際、圧下率が小さいために歪エネルギーは主として表層部の結晶粒に集中する。加えて、表層における各結晶粒の結晶方位の違い、すなわち結晶回転による塑性変形の難易に応じて歪エネルギーの蓄積量が各結晶粒で異なるため、歪エネルギーを歪粒成長のための臨界駆動力を超えて蓄積した結晶粒とそうでない結晶粒の分布を生じる。続いて2回目の圧延が行われるが、仮にこの圧延を1回目と同一圧延方向に行った場合、結晶方位の関係で1回目の圧延では結晶回転を起こしにくく、このために歪エネルギーの蓄積が少なかった結晶粒は、1回目と同一圧延方向でなされる2回目の圧延でも同様に結晶回転を起こしにくいために歪エネルギーの蓄積量はあまり増加しない。このため2回目の圧延において、歪粒成長を生じるための臨界駆動力を超える歪エネルギーを新たに得ることができる結晶粒の数は少ない。この場合、表層の結晶粒のうち1回目の圧延で十分に結晶回転を起し塑性変形したものは、加工硬化により2回目の圧延では新たな塑性変形を生じにくいことから、2回目の圧延による歪エネルギーの多くは板厚中央部側の結晶粒に付与されることになる。かくして、2回目の圧延を1回目の圧延と同一方向で行った場合には、歪粒成長のための臨界駆動力を超えて歪エネルギーを蓄積した結晶粒、すなわち二次再結晶に際しての核の分布は、板厚表層部と中央部とで大きな差を生ずることはない。
【0019】
これに対して、2回目の圧延を1回目の圧延と逆方向に行う場合には、結晶方位の関係で1回目の圧延では結晶回転を起しにくかった結晶粒は、逆方向で行われる2回目の圧延では結晶回転を起し易くなり、容易に塑性変形して歪粒成長の臨界駆動力を超えた歪エネルギーを得ることができる。このため表層部に形成される二次再結晶の核の数は、2回目の圧延を1回目と同一方向に行う場合に較べて顕著に増大する。同時に、2回目の圧延で付与される歪エネルギーの大半が表層部の結晶粒の塑性変形に消費されるため、板厚中央部側の結晶粒の多くは歪粒成長の臨界駆動力を超えるような歪エネルギーを得ることはできず、二次再結晶の核が多数導入されることはない。かくして、2回目の圧延を1回目の圧延とは逆方向に行った場合には、二次再結晶の核は表層部に多く、板厚中央部には少ない分布をとる。続いてこれに熱延板焼鈍を実施すると、二次再結晶の核の分布に応じて表層部は細粒組織となり、板厚中央部は十分な粗大粒組織となる。加えて、このような結晶粒径の違いに起因して表層部の細粒組織が板厚中央部の粗大粒組織を蚕食することがないため、この組織形成は比較的安定して進行するものと考えられる。
【0020】
このように熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行うことにより、高位の磁束密度と優れた表面性状の確保を可能とする組織形成を達成することができるが、その際、2回の圧延の合計圧下率の適正化もまた重要である。すなわち、合計圧下率が2.0%未満では、付与される歪エネルギーが小さ過ぎるため、板厚中央部は勿論のこと板厚表層部に導入される二次再結晶の核の数が少なく、この結果、熱延板焼鈍後の表層部が十分な細粒組織とならず、製品の板面粒径が増大し表面性状が損なわれる。一方、合計圧下率が5.0%を超えると、付与される歪エネルギーが大き過ぎるため、板厚表層部は勿論のこと板厚中央部に導入される二次再結晶の核の数が多く、この結果、熱延板焼鈍後の板厚中央部が十分な粗大粒組織とならず、高位の磁束密度が得られない。
【0021】
次に、熱延板軽圧下圧延を2回の圧延に分けて行う際の各圧延における適正圧下率について説明する。
図3および図4は、表1に記載の本発明鋼種である鋼Aと鋼Fについて、熱延板軽圧下圧延を1スタンドの圧延機を用いて圧延方向を逆にした2回の圧延で行った場合の製品の磁束密度と板面粒径を、1回目および2回目の圧延の各圧下率との関係で整理して示したものである。ここで、熱延板軽圧下圧延以外の製造条件は、鋼Aについては前記した図1の試験条件と、また、鋼Fについては図2の試験条件とそれぞれ同一とした。
【0022】
図3および図4によれば、1回目および2回目の圧延の合計圧下率を本発明範囲内である2.0〜5.0%とした場合でも、1回目および2回目の圧延の各圧下率がそれぞれ0.5〜3.0%の範囲にないと、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に確保できないことが判る。これは、1回の圧延の圧下率が0.5%未満では、付与される歪エネルギーが小さ過ぎるため、表層の結晶粒の何れもが歪粒成長のための臨界駆動力を超えた歪エネルギーを蓄積できず、二次再結晶のための核が形成されないからである。一方、1回の圧延の圧下率が3.0%を超えると、付与される歪エネルギーが大き過ぎるために板厚中央部に蓄積される歪エネルギーが増加し、板厚中央部の結晶粒のうち歪粒成長のための臨界駆動力を超えたもの、すなわち二次再結晶の核の数が急増する結果、熱延板焼鈍後の板厚中央部が十分に粗大化しないからである。このため本発明では、熱延板軽圧下圧延での圧延1回当りの圧下率を0.5〜3.0%と規定する。
【0023】
次に、熱間圧延時の巻取温度の適正範囲について述べるが、この要件も熱延板焼鈍後の組織を適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状を得るために重要である。
図5は、表1に記載の本発明鋼種である鋼Aおよび鋼Fを対象に、熱間圧延時の巻取温度を種々変化させて製品の磁束密度と板面粒径に対する巻取温度の影響を調べ、その結果を整理して示したものである。なお、巻取温度以外の製造条件については、以下に示すように本発明範囲内のものとした。
【0024】
【0025】
図5の結果から、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に得るためには、巻取温度に上限および下限があり、巻取温度をこの上限および下限間の範囲に制御する必要があることが判る。すなわち、巻取温度が下限温度を下回ると、板面粒径については鋼Aでは約1mm、鋼Fでは1mm以下と表面性状の問題は生じないものの、磁束密度が低下している。一方、巻取温度が上限温度を超えると、磁束密度については鋼Aでは1.82T以上、鋼Fでは1.78T以上と問題はないものの、板面粒径が4mm以上となり、表面性状が劣化している。これは熱延板焼鈍後の組織形成の点から言うと、巻取温度が下限を下回った場合には板厚中央部の組織が十分粗大にならないため磁束密度が低下し、逆に、巻取温度が上限を超えると板厚表層部の組織が十分細粒にならないため最終製品の板面粒径が増大し、表面性状が劣化したものと言える。
【0026】
ここで、巻取温度が適正範囲にない場合に熱延板焼鈍後の組織形成に不備を生ずる理由については必ずしも明らかではないが、巻取温度が下限を下回った場合には、鋼Aおよび鋼Fともに軽圧下圧延前の熱延板の板厚中央部に再結晶の完了していない領域が認められ、これがその原因の一つとして考えられる。すなわち、この領域は再結晶が完了していないため、熱延板軽圧下圧延によって歪が付加されても、続く熱延板焼鈍時に歪粒成長を起すことはなく、所謂核生成−成長による一次再結晶−粒成長過程によって結晶粒の粗大化を生じるため、歪粒成長によって得られる程の粒径には達していないことが考えられる。また、巻取温度が上限を超えた場合について考察すると、熱延板軽圧下圧延の際には二次再結晶の核は主として結晶粒界に形成するものと考えられるが、その場合、巻取温度が上限温度を超えることによって熱間圧延後の板厚表層部の結晶粒が適正粒径を超えて成長すると、粒界面積の減少による二次再結晶の核生成場所の減少が顕著となり、その結果、熱延板焼鈍時に板厚表層部が表面性状に問題を生じない程度まで細粒化しないことが考えられる。
【0027】
このように熱間圧延時の巻取温度に関しても、熱延板焼鈍後の組織を適正化して高位の磁束密度と優れた表面性状を得ようとすると、これを適正範囲に制御することが必要となるが、この適正範囲の上限および下限については、図5の結果から明らかなように鋼成分若しくはプロセス条件の影響が考えられる。そこで、これを確認するために鋼成分とプロセス条件を本発明範囲内で種々変化させ、上記図5の試験と同様の整理を試みた。その結果、いずれの場合にも巻取温度には上限および下限が存在し、これを外れると上述したように熱延板の組織に起因して熱延板焼鈍時の組織形成に不備を生じ、高位の磁束密度と優れた表面性状が同時に得られないこと、また、巻取温度の上下限温度がプロセス条件に拘りなく鋼成分のうちSiとAlの量に依存して変化することが明らかとなった。
【0028】
さらに、この巻取温度の上下限に対するSi量とAl量の影響を定式化したところ、下限温度については、
(CT)L=37(Si+Al)+570
但し (CT)L:巻取温度の下限(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係が得られ、一方、上限温度については、
(CT)U=41(Si+Al)+686
但し (CT)U:巻取温度の上限(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係が得らた。このため、本発明では熱間圧延時の巻取温度を、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係を満足するよう制御することをその要件とする。
【0029】
熱延板は軽圧下圧延後に熱延板焼鈍に供されるが、この熱延板焼鈍条件も熱延板焼鈍時の組織形成を適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状を得る上で重要である。本発明では熱延板焼鈍を所謂バッチ焼鈍、連続焼鈍のいずれで行ってもよいが、バッチ焼鈍の場合は750〜880℃の温度範囲で30分〜10時間の焼鈍を行う必要があり、また、連続焼鈍の場合は890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の焼鈍を行う必要がある。焼鈍温度が上記の各下限温度を下回ると、歪粒成長による二次再結晶が完了せず、特に板厚中央部の組織の粗大化が不十分となって磁束密度が劣化する。一方、焼鈍温度が上記各上限温度を上回るとγ/α変態を生じ、集合組織が劣化して磁束密度の低下をきたす。焼鈍時間についても、上記の各下限を下回ると二次再結晶が完了しないため磁束密度が低下する。また、焼鈍時間の上限については、本発明では熱延板焼鈍時の組織の粗大化は歪粒成長による二次再結晶によって生起されるものであるため、上記の各上限を超えた長時間の焼鈍を行っても、これによる粗大化の程度は小さく、却ってエネルギーコストを上昇させる結果となり好しくない。加えて、上記の各上限を超える長時間の焼鈍を行うと内部酸化層や窒化層が生成されるようになり、磁気特性が劣化する。
【0030】
以上述べたように、本発明では熱間圧延時の巻取温度を鋼成分のSi,Al量に応じて適正化した上で、所定の圧下率の下で軽圧下圧延を2回に分けて逆方向に実施し、しかる後所定条件の熱延板焼鈍を行うことにより、熱延板焼鈍後の組織が適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状が得られることになるが、これら以外の条件、すなわち、鋼成分や仕上焼鈍条件等のプロセス因子の適正化も勿論重要である。そこで、以下これらについて説明する。
先ず、鋼成分についてその限定理由を説明する。
【0031】
C: 磁気特性を劣化させ、また磁気時効の原因となる元素であり、これを回避するためには0.0050wt%以下とする必要がある。
Si: 固有抵抗の上昇を通じて鉄損を改善する元素であるが、この効果を十分に得るためには0.1wt%以上の添加が必要である。一方、1.5wt%を超えたSiの添加は磁束密度を大幅に低下させるため、上限は1.5wt%とする。
Mn: 熱間延性改善の点から0.2wt%以上の添加が必要であるが、1.0wt%を超えると効果が飽和するだけでなく磁束密度の低下が大きくなるため、上限は1.0wt%とする。
【0032】
P: 硬度上昇を通じて打抜き性を改善する元素であり、必要に応じて0.20wt%までは添加してよいが、添加量が0.20wt%を超えるとその効果が飽和するだけでなく、磁束密度の低下が著しくなるため、その添加量は0.20wt%以下にする必要がある。
S: MnSを形成することで磁気特性を劣化させる元素であり、これを回避するためにはS量の上限を0.010wt%とする必要がある。
【0033】
Al: Alを微量に含有する場合には、微細なAlNが形成され磁気特性を阻害する。そこで、この微細なAlNの形成を避けるためには、Al量を0.004wt%以下とする必要がある。一方、Alを0.100wt%以上含む場合には、形成されるAl量が十分粗大であるため磁気特性の劣化はなく、むしろ固有抵抗の増大を通じて鉄損低減に寄与する。しかし、添加量が0.500wt%を超えると磁束密度を大幅に低下させるようになるため、Alを積極的に添加する場合には、その上限を0.500wt%とする。したがって、Alは0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%とする。
N: 磁気特性を劣化させる元素であり、これを回避するために上限を0.0050wt%とする。
その他の元素: 磁気特性を付加的に改善する目的で、Sb,Sn,B,Cu,Se,Ge,Co,Zr,Ca,REM等の1種または2種以上を適量添加することが可能である。
【0034】
次に、仕上焼鈍等のプロセス条件について説明する。
熱間圧延: 加熱温度が1250℃を超えると、スケール発生による歩留り低下が著しくなることに加えて、内部酸化や粒界酸化の増加を通じて磁気特性が大幅に低下するため、加熱温度の上限は1250℃とする。一方、加熱温度が1050℃を下回ると、圧延温度が全般に低下するために圧延負荷の増大を招く。このため加熱温度の下限は1050℃とする。仕上温度については、これが880℃を超えるとα域の圧下量が過少となって、熱延板段階で好しい集合組織の発達が不十分となり、磁気特性の劣化を招く。このため仕上温度の上限は880℃とする。また、仕上温度が750℃を下回ると圧延負荷の増大が著しいため、仕上温度の下限は750℃とする。
【0035】
酸洗: 酸洗条件自体は常法でよいが、熱延板軽圧下圧延での歪がスケール層に消費されるのを防ぐ意味から、酸洗は熱延板軽圧下圧延前に行うのが好しい。
冷間圧延: 冷間圧延は常法でよく、その回数についても1回の冷間圧延であっても、また中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延であってもよい。
【0036】
仕上焼鈍: 仕上焼鈍後、需要家で歪取焼鈍を実施されない所謂フルプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度は700〜900℃の範囲とする。これは焼鈍温度が700℃を下回ると製品の結晶粒径が小さ過ぎ、鉄損が増大するためであり、一方、900℃を超えると(111)集合組織の発達が顕著となって磁束密度が劣化するためである。焼鈍時間に関しては、30秒未満の焼鈍時間では粒成長が不十分で製品の結晶粒径が小さくなり過ぎ、鉄損が増大するため、焼鈍時間の下限は30秒とする。一方、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化は小さく、却ってエネルギーコストを増大させるだけであるため、焼鈍時間の上限は5分とする。
【0037】
次に、仕上焼鈍後、調質圧延されることなく需要家で剪断、打抜き等の加工を受け、しかる後に歪取焼鈍されるセミプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度を600〜850℃の範囲とする。この場合、所定の磁気特性を得るための最終的な組織形成は需要家での歪取焼鈍時に行われるため、この意味での仕上焼鈍温度の適正化は必要ではないが、仕上焼鈍温度が600℃を下回ると硬質となり過ぎ、剪断刃や打抜き型の摩耗を増大させてしまう。一方、仕上焼鈍温度が850℃を超えると軟質となり、剪断、打抜き時のダレの増大、バリの増大を引き起こすため好ましくない。また、焼鈍時間の下限については、硬度が必要以上に高くなるのを避ける意味から30秒とする。一方、上限については5分とするが、これはフルプロセス材と同様、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化が小さく、却ってエネルギーコストを増大させることになるからである。
【0038】
さらに、仕上焼鈍後に調質圧延され、需要家で剪断、打抜き等の加工を施された後、歪取焼鈍されるセミプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度を650〜800℃の範囲とする。前記調質圧延の目的は、歪取焼鈍時の粒成長を調圧歪による二次再結晶によって引き起こすことで鉄損を改善することにあり、この目的を達成するためには、調質圧延前の結晶粒径の適正化が重要となる。仕上焼鈍温度を650〜800℃の範囲に制御することは、この結晶粒径の適正化のために必要である。すなわち、仕上焼鈍温度が650℃未満では再結晶が完了しないため、調質圧延を実施しても歪取焼鈍時に完全な二次再結晶組織が得られない。また、仕上焼鈍温度が800℃を超えると結晶粒径が過大となる結果、調質圧延を実施すると歪取焼鈍後の二次再結晶組織が粗大となり過ぎ、鉄損は改善されるものの磁束密度が劣化してしまう。焼鈍時間についても、仕上焼鈍後の組織を完全再結晶させる意味から下限を30秒とする。また、上限については5分とするが、これは先に述べた二つの場合と同様、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化が小さく、却ってエネルギーコストを増大させることになるからである。
【0039】
調質圧延: 仕上焼鈍後に調質圧延を施す場合、この調質圧延は前述したように歪取焼鈍時に二次再結晶を起させるために行われるものであり、その調圧率は1.0〜12.0%の範囲とする必要がある。調圧率が1.0%未満では二次再結晶の核が生成されず、一方、12.0%超では歪取焼鈍時に二次再結晶ではなく一次再結晶−粒成長が生じ、所定の粒径を得ることができなくなる。
なお、本発明では以上述べたように鋼成分、各プロセス条件の適正化を行っているが、とりわけ熱延板軽圧下圧延と熱延板焼鈍の組み合わせによる冷間圧延前組織の粗大化は、製品の集合組織を改善することを意味しており、したがって、磁束密度が向上するのは勿論のこと鉄損特性もまた改善されることは言うまでもない。
【0040】
【実施例】
表1に記載の鋼A〜鋼Iを用い、これらを2.0mmの厚さまで熱間圧延した後、酸洗し、さらに熱延板軽圧下圧延、熱延板焼鈍を施した。引き続き1回の冷間圧延の後、これを仕上焼鈍して板厚0.5mmの製品を得た。また、一部のものについては、仕上焼鈍後さらに調質圧延を実施し、板厚0.5mmの製品とした。このようにして得られた製品の表面粗大粒の程度を評価するために、板面をナイタール腐食にて軽エッチングした後、板面粒径を目視(実際には5倍に拡大)にて測定した。さらに、製品から25cmエプスタインサンプルを剪断し、剪断まま或いは一部は歪取焼鈍(750℃×2時間)を付与した後、磁気特性(L,C平均値)を測定した。その際の各製造条件の詳細と調質圧延および歪取焼鈍の有無を表2〜表4に、また、製品の磁気特性と板面粒径の測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0041】
表5から明らかなように、本発明法によれば高位の磁束密度を持ち、しかも板面粒径の小さな、すなわち表面性状に優れた製品を得ることができる。また、鉄損値も十分に低く良好である。一方、鋼成分或いは製造条件が本発明範囲から逸脱した比較法にあっては、磁束密度が本発明例に較べ概ね0.02T程度低いか若しくは板面粒径が4mm以上となっており、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に得ることができない。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【発明の効果】
以上述べた本発明によれば、従来にはない高位の磁束密度と優れた表面性状を兼ね備えた無方向性電磁鋼板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明鋼種である実施例の鋼Aについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の方法とその圧下率の影響を示したグラフ
【図2】本発明鋼種である実施例の鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の方法とその圧下率の影響を示したグラフ
【図3】本発明鋼種である実施例の鋼Aについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の1回目の圧延の圧下率と2回目の圧延の圧下率の影響を示したグラフ
【図4】本発明鋼種である実施例の鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の1回目の圧延の圧下率と2回目の圧延の圧下率の影響を示したグラフ
【図5】本発明鋼種である実施例の鋼Aと鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延巻取温度の影響を示したグラフ
【産業上の利用分野】
この発明は優れた磁気特性、特に高い磁束密度を有し、しかも表面性状にも優れた無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【従来の技術】
モーター、変圧器等の鉄芯材料として用いられる無方向性電磁鋼板は、電気機器の高効率化、小型化を図る上で鉄損が低く且つ磁束密度が高いことが望ましい。なかでも、所謂低〜中級グレードの無方向性電磁鋼板は、比較的容量の小さい電気機器に使用されるケースが多く、損失に占める励磁電流の割合が高いため、機器の小型化の観点からは勿論のこと高効率化の観点からも磁束密度が高いことが重要となる。
【0002】
一般に、無方向性電磁鋼板の磁束密度を上昇させようとする場合、冷間圧延前組織の適正化、具体的には結晶粒の粗大化が重要であり、従来でもこれに関する技術が種々開示されている。例えば、特開昭57−35628号、特開昭58−204126号等には、熱延板に熱延板焼鈍を施すことで結晶粒を粗大化させる技術が開示され、また、特開昭54−68717号、特開昭56−98420号等にはSbあるいはSn等の特殊元素を添加した上で熱延板焼鈍を施し、結晶粒を粗大化させる技術が開示され、さらに、特開昭63−186823号、特開平1−139721号、特開平1−306523号、特開平1−309921号等には、熱延板を1〜5%ないし12〜20%の圧下率で軽圧下圧延した後焼鈍し、歪粒成長による二次再結晶を利用して結晶粒を粗大化させる技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの技術では製品の表面性状についての検討を欠いており、以下に述べるように、磁束密度を十分に高めようとすると不可避的に表面性状が劣化して製品の商品価値が損なわれ、また逆に、表面性状の劣化を防止しようとすると十分に高い磁束密度が得られず、結局、磁束密度と表面性状の両方を同時に満足できないという欠点があった。
【0004】
すなわち、上述した従来技術のうち熱延板焼鈍だけで結晶粒の粗大化を図ろうとする技術は、二次再結晶の駆動力として粒界エネルギーを利用しようとするものであるが、駆動力が粒界エネルギーだけであるため駆動力自体が小さく、このため低温焼鈍では結晶粒の粗大化が不十分で磁束密度の向上代が小さく、磁束密度を向上させようとするとかなりの高温焼鈍が必要となる。さらに、上記のように駆動力自体が小さいことから、仮りに高温焼鈍を行ったとしても二次再結晶のための臨界エネルギーを超えた結晶粒は少数しか得られず、この少数の結晶粒が周りの結晶粒を蚕食して二次再結晶が進行する結果、極端に粗大化した組織しか得られない。このため磁束密度は十分に向上するものの、製品に熱延板の著しい粗大粒に起因した顕著な粗大粒を生じ、表面性状が著しく劣化する。また、Sb,Sn等の特殊元素を添加した上で熱延板焼鈍を行う技術においても、上記のような粗大粒の発生は抑制できず、同様の問題を生じる。
【0005】
これらの技術に対し、熱延板を軽圧下圧延後焼鈍する技術は、二次再結晶の駆動力として粒界エネルギーに加え、これより圧倒的に大きな軽圧下圧延による歪を利用するものであり、比較的低温の焼鈍であっても主として歪粒成長を機構として二次再結晶が進行し、結晶粒の粗大化が達成される。しかし、上記従来技術のように単に軽圧下圧延の圧下率を規定するだけでは、依然として磁束密度と表面性状の両方を満足させることは困難である。すなわち、詳細は後述するが、従来技術の大半がそうであるように軽圧下圧延の圧下率が概ね5%以上と比較的高い場合には、駆動力としての歪は十分に付与されるが、同時に二次再結晶のための臨界エネルギーを超えた結晶粒の数も多くなり、このため組織は一応粗大化はするもののその程度は十分でなく、磁束密度の向上代も必ずしも十分ではない。一方、軽圧下圧延の圧下率が概ね2%以下と低い場合には、二次再結晶のための臨界エネルギーを超える結晶粒の数が少なく、先に述べた熱延板焼鈍だけを実施する場合と同様に組織が粗大化し過ぎ、このため磁束密度は十分に向上するものの表面性状が劣化する。さらに、低温焼鈍を実施した場合、板厚中央部に一部二次再結晶の完了しない部分を生じることもあり、この場合には磁束密度の向上代が小さくなる。また、軽圧下圧延の圧下率が概ね2〜5%の範囲では、磁束密度の向上代と表面性状の改善の程度が共に中途半端となり、いずれの場合も高磁束密度化と良好な表面性状の確保を同時に達成することは困難である。
【0006】
以上のように従来技術では、良好な表面性状を確保しつつ磁束密度を十分に向上させることができないという問題があった。
本発明はこのような従来の問題に鑑みなされたもので、表面性状を損なうことなく、無方向性電磁鋼板の磁気特性、特に磁束密度を著しく向上させることができる無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することをその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために、冷間圧延前組織、すなわち熱延板組織を磁束密度が十分に向上する程度に粗大化し、且つ製品の表面粗大粒を抑制し得る方法について検討を重ねた。すなわち、本発明者らはまず、製品の表面粗大粒は主として熱延板表層部の結晶粒が過度に粗大化することが原因であり、これが適切な粒径に抑えられれば、板厚中央部の結晶粒が粗大であっても製品の表面粗大粒の発生を抑制できるものと考えた。さらに、板厚中央部の結晶粒が十分に粗大であれば、表層部の結晶粒が粗大化しなくても磁束密度は十分に向上するものと考え、熱延板の板厚中央部の結晶粒を十分粗大化しつつ、表層部を適切な粒径に制御し得る方法について検討を行った。その結果、熱延板の巻取温度を鋼中のSi,Al量に応じて制御し、粗大化に際しての前組織を適正化した上で、軽圧下圧延により適正量の歪を2回に分けて、しかも圧延方向を逆にして付与し、その後適正な条件で熱延板焼鈍を行うことにより、上述したような熱延板組織が得られることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴とする構成は以下の通りである。
(1) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後700〜900℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0009】
(2) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後600〜850℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
(3) C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後650〜800℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施し、次いで、1.0〜12.0%の調圧率で調質圧延を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】
【作用】
以下、本発明の詳細をその限定理由とともに説明する。
まず、本発明において最も重要な要件である熱延板の軽圧下圧延条件について説明する。
図1は、本発明鋼種である表1に記載の鋼Aを対象として、熱延板の軽圧下圧延を2スタンドの圧延機を用いて1回の圧延で行った場合と、1スタンドの圧延機を用いて1回目の圧延を行った後、圧延方向を逆転して2回目の圧延を行った場合について、製品の磁束密度と板面粒径を熱延板軽圧下圧延の圧下率(2回圧延の場合は合計圧下率)で整理して示したものである。ここで、製品の板面粒径とは、所謂光学顕微鏡で観察されるミクロ組織の粒径ではなく、表面性状として問題となる製品の板面粗大粒の大きさを目視評価した際の粒径を指している。また、軽圧下圧延以外の製造条件は、以下に示すような本発明範囲内のものとした。また、2回圧延の場合には、合計圧下率が1.0〜6.0%のものについては、1回目と2回目の圧延の各圧下率は0.5〜3.0%の範囲であった。
【0012】
図2は、図1と同様の試験を表1に記載の本発明鋼種である鋼Fについて行った結果を示している。ここで、軽圧下圧延以外の製造条件については図1に関する試験と同様にそれぞれ本発明範囲内としたが、条件そのものは以下に示すように図1の場合とは異なる値とした。また、2回圧延の場合には、合計圧下率が1.0〜6.0%のものについては、1回目と2回目の圧延の各圧下率は0.5〜3.0%の範囲であった。
【0013】
先に従来技術の説明でも触れたが、図1及び図2からも明らかなように熱延板軽圧下圧延を単に1回の圧延で行う限りは、高磁束密度化と優れた表面性状の確保を両立させることはできない。すなわち、軽圧下圧延の圧下率が概ね5%以上では、引き続き行われる熱延板焼鈍時の二次再結晶に対する駆動力が十分に与えられる結果、二次再結晶を起こすための臨界のエネルギーを超えた結晶粒の数が過多となる。このため熱延板焼鈍後の組織の粗大化の程度が十分でなく、粗大粒による表面性状の劣化はないものの磁束密度が十分に改善されない。一方、軽圧下圧延の圧下率が概ね1〜2%の範囲では、二次再結晶に対する駆動力が小さいため、二次再結晶を起こすための臨界のエネルギーを超えた結晶粒の数が少ない。このため熱延板焼鈍後の組織が十分に粗大化して高い磁束密度は得られる反面、製品の板面粒径が4〜5mm以上となり、表面粗大粒による表面性状の劣化が著しい。さらに、軽圧下圧延の圧下率が概ね1%以下になると上記駆動力が過少となるため、熱延板焼鈍後の板厚表層部は十分粗大な二次再結晶粒で占められるものの、これが板厚方向の全部を覆うまでには成長できず、板厚中央部に一部二次再結晶の完了できない細粒部が残存してしまう。このため製品の表面粗大粒により表面性状が劣化し、また、磁束密度の向上代も小さい。また、軽圧下圧延の圧下率が概ね2〜5%の場合には、圧下率が増加するにつれて製品の板面粒径は細粒化していくが、同時に磁束密度も低下してしまい、この場合も高い磁束密度と優れた表面性状を同時に満足することはできない。
【0014】
これに対し、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行った場合には、その合計圧下率を適正範囲に制御することにより高い磁束密度と優れた表面性状が共に確保されることが判る。具体的には、成分組成が異なる鋼Aおよび鋼Fともに、2回の圧延の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することで、磁束密度については鋼Aでは1.81T以上の値が、また、鋼Fでは1.78T以上の値が得られ、しかも板面粒径はともに3mm以下と表面性状上問題のない値にまで低下しており、高位の磁束密度と優れた表面性状が確保されている。さらに、合計圧下率が2.0〜5.0%の範囲にあっては、熱延板軽圧下圧延を1回の圧延で行った同一板面粒径のものと磁束密度を比較すると、磁束密度は概ね0.02T以上高くなっており、このことからも熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、その際の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することの有効性が理解できる。以上の理由から本発明では、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つこの2回の圧延の合計圧下率を2.0〜5.0%と規定する。なお、ここでいう1回の圧延とは、1スタンド若しくは2スタンド以上で行われる圧延(すなわち、1パス若しくは2パス以上の圧延)を含んでいる。
【0015】
なお、上述した試験における熱延板軽圧下圧延は、これを1回の圧延で行う場合には2スタンドの圧延機を使用し、また、圧延方向を逆にした2回の圧延で行う場合には1スタンドの圧延機を使用したものであり、ともに圧延パス数は2である。したがって、両者の本質的な相違は各パスを同一圧延方向で行うか、逆方向で行うかという点に尽きる。したがって、本発明においては熱延板軽圧下圧延を2回に分けて行うこと自体には特別な意義はなく、圧延方向を1回目の圧延と2回目の圧延で逆転させることに本質的な意義がある。
【0016】
以上のように熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、その合計圧下率を2.0〜5.0%に制御することで高位の磁束密度と優れた表面性状が得られることになるが、これは続く熱延板焼鈍時に組織が適正化されることによるものである。すなわち、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆転することなく1回の圧延で行った場合には、前述したように圧下率が2.0〜5.0%の範囲では熱延板焼鈍後の粒径は磁束密度と板面粒径の両者にとって中途半端なものにしかならない。これに対し、軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つこの際の合計圧下率を2.0〜5.0%とした上で熱延板焼鈍を実施すると、板表層部が細粒で且つ板厚中央部が十分に粗大化した結晶粒組織を得ることができる。ここで、熱延板焼鈍後の組織が板表層部で細粒となることは、製品の板面粒径を小さくし、表面粗大粒の発生を抑制できることを意味する。また、板厚中央部が十分に粗大な組織となるため、高位の磁束密度が達成される。
【0017】
このように、熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行い、且つその際の合計圧下率を2.0〜5.0%に制御した場合には、圧延方向を逆転せず同一圧延方向で1回の圧延を行った場合とは異なった組織形成を生じることになるが、これは次のような理由によるものと考えられる。
【0018】
すなわち、まず1回目の圧延で歪エネルギーが熱延板の結晶粒に付与されるが、この際、圧下率が小さいために歪エネルギーは主として表層部の結晶粒に集中する。加えて、表層における各結晶粒の結晶方位の違い、すなわち結晶回転による塑性変形の難易に応じて歪エネルギーの蓄積量が各結晶粒で異なるため、歪エネルギーを歪粒成長のための臨界駆動力を超えて蓄積した結晶粒とそうでない結晶粒の分布を生じる。続いて2回目の圧延が行われるが、仮にこの圧延を1回目と同一圧延方向に行った場合、結晶方位の関係で1回目の圧延では結晶回転を起こしにくく、このために歪エネルギーの蓄積が少なかった結晶粒は、1回目と同一圧延方向でなされる2回目の圧延でも同様に結晶回転を起こしにくいために歪エネルギーの蓄積量はあまり増加しない。このため2回目の圧延において、歪粒成長を生じるための臨界駆動力を超える歪エネルギーを新たに得ることができる結晶粒の数は少ない。この場合、表層の結晶粒のうち1回目の圧延で十分に結晶回転を起し塑性変形したものは、加工硬化により2回目の圧延では新たな塑性変形を生じにくいことから、2回目の圧延による歪エネルギーの多くは板厚中央部側の結晶粒に付与されることになる。かくして、2回目の圧延を1回目の圧延と同一方向で行った場合には、歪粒成長のための臨界駆動力を超えて歪エネルギーを蓄積した結晶粒、すなわち二次再結晶に際しての核の分布は、板厚表層部と中央部とで大きな差を生ずることはない。
【0019】
これに対して、2回目の圧延を1回目の圧延と逆方向に行う場合には、結晶方位の関係で1回目の圧延では結晶回転を起しにくかった結晶粒は、逆方向で行われる2回目の圧延では結晶回転を起し易くなり、容易に塑性変形して歪粒成長の臨界駆動力を超えた歪エネルギーを得ることができる。このため表層部に形成される二次再結晶の核の数は、2回目の圧延を1回目と同一方向に行う場合に較べて顕著に増大する。同時に、2回目の圧延で付与される歪エネルギーの大半が表層部の結晶粒の塑性変形に消費されるため、板厚中央部側の結晶粒の多くは歪粒成長の臨界駆動力を超えるような歪エネルギーを得ることはできず、二次再結晶の核が多数導入されることはない。かくして、2回目の圧延を1回目の圧延とは逆方向に行った場合には、二次再結晶の核は表層部に多く、板厚中央部には少ない分布をとる。続いてこれに熱延板焼鈍を実施すると、二次再結晶の核の分布に応じて表層部は細粒組織となり、板厚中央部は十分な粗大粒組織となる。加えて、このような結晶粒径の違いに起因して表層部の細粒組織が板厚中央部の粗大粒組織を蚕食することがないため、この組織形成は比較的安定して進行するものと考えられる。
【0020】
このように熱延板軽圧下圧延を圧延方向を逆にした2回の圧延で行うことにより、高位の磁束密度と優れた表面性状の確保を可能とする組織形成を達成することができるが、その際、2回の圧延の合計圧下率の適正化もまた重要である。すなわち、合計圧下率が2.0%未満では、付与される歪エネルギーが小さ過ぎるため、板厚中央部は勿論のこと板厚表層部に導入される二次再結晶の核の数が少なく、この結果、熱延板焼鈍後の表層部が十分な細粒組織とならず、製品の板面粒径が増大し表面性状が損なわれる。一方、合計圧下率が5.0%を超えると、付与される歪エネルギーが大き過ぎるため、板厚表層部は勿論のこと板厚中央部に導入される二次再結晶の核の数が多く、この結果、熱延板焼鈍後の板厚中央部が十分な粗大粒組織とならず、高位の磁束密度が得られない。
【0021】
次に、熱延板軽圧下圧延を2回の圧延に分けて行う際の各圧延における適正圧下率について説明する。
図3および図4は、表1に記載の本発明鋼種である鋼Aと鋼Fについて、熱延板軽圧下圧延を1スタンドの圧延機を用いて圧延方向を逆にした2回の圧延で行った場合の製品の磁束密度と板面粒径を、1回目および2回目の圧延の各圧下率との関係で整理して示したものである。ここで、熱延板軽圧下圧延以外の製造条件は、鋼Aについては前記した図1の試験条件と、また、鋼Fについては図2の試験条件とそれぞれ同一とした。
【0022】
図3および図4によれば、1回目および2回目の圧延の合計圧下率を本発明範囲内である2.0〜5.0%とした場合でも、1回目および2回目の圧延の各圧下率がそれぞれ0.5〜3.0%の範囲にないと、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に確保できないことが判る。これは、1回の圧延の圧下率が0.5%未満では、付与される歪エネルギーが小さ過ぎるため、表層の結晶粒の何れもが歪粒成長のための臨界駆動力を超えた歪エネルギーを蓄積できず、二次再結晶のための核が形成されないからである。一方、1回の圧延の圧下率が3.0%を超えると、付与される歪エネルギーが大き過ぎるために板厚中央部に蓄積される歪エネルギーが増加し、板厚中央部の結晶粒のうち歪粒成長のための臨界駆動力を超えたもの、すなわち二次再結晶の核の数が急増する結果、熱延板焼鈍後の板厚中央部が十分に粗大化しないからである。このため本発明では、熱延板軽圧下圧延での圧延1回当りの圧下率を0.5〜3.0%と規定する。
【0023】
次に、熱間圧延時の巻取温度の適正範囲について述べるが、この要件も熱延板焼鈍後の組織を適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状を得るために重要である。
図5は、表1に記載の本発明鋼種である鋼Aおよび鋼Fを対象に、熱間圧延時の巻取温度を種々変化させて製品の磁束密度と板面粒径に対する巻取温度の影響を調べ、その結果を整理して示したものである。なお、巻取温度以外の製造条件については、以下に示すように本発明範囲内のものとした。
【0024】
【0025】
図5の結果から、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に得るためには、巻取温度に上限および下限があり、巻取温度をこの上限および下限間の範囲に制御する必要があることが判る。すなわち、巻取温度が下限温度を下回ると、板面粒径については鋼Aでは約1mm、鋼Fでは1mm以下と表面性状の問題は生じないものの、磁束密度が低下している。一方、巻取温度が上限温度を超えると、磁束密度については鋼Aでは1.82T以上、鋼Fでは1.78T以上と問題はないものの、板面粒径が4mm以上となり、表面性状が劣化している。これは熱延板焼鈍後の組織形成の点から言うと、巻取温度が下限を下回った場合には板厚中央部の組織が十分粗大にならないため磁束密度が低下し、逆に、巻取温度が上限を超えると板厚表層部の組織が十分細粒にならないため最終製品の板面粒径が増大し、表面性状が劣化したものと言える。
【0026】
ここで、巻取温度が適正範囲にない場合に熱延板焼鈍後の組織形成に不備を生ずる理由については必ずしも明らかではないが、巻取温度が下限を下回った場合には、鋼Aおよび鋼Fともに軽圧下圧延前の熱延板の板厚中央部に再結晶の完了していない領域が認められ、これがその原因の一つとして考えられる。すなわち、この領域は再結晶が完了していないため、熱延板軽圧下圧延によって歪が付加されても、続く熱延板焼鈍時に歪粒成長を起すことはなく、所謂核生成−成長による一次再結晶−粒成長過程によって結晶粒の粗大化を生じるため、歪粒成長によって得られる程の粒径には達していないことが考えられる。また、巻取温度が上限を超えた場合について考察すると、熱延板軽圧下圧延の際には二次再結晶の核は主として結晶粒界に形成するものと考えられるが、その場合、巻取温度が上限温度を超えることによって熱間圧延後の板厚表層部の結晶粒が適正粒径を超えて成長すると、粒界面積の減少による二次再結晶の核生成場所の減少が顕著となり、その結果、熱延板焼鈍時に板厚表層部が表面性状に問題を生じない程度まで細粒化しないことが考えられる。
【0027】
このように熱間圧延時の巻取温度に関しても、熱延板焼鈍後の組織を適正化して高位の磁束密度と優れた表面性状を得ようとすると、これを適正範囲に制御することが必要となるが、この適正範囲の上限および下限については、図5の結果から明らかなように鋼成分若しくはプロセス条件の影響が考えられる。そこで、これを確認するために鋼成分とプロセス条件を本発明範囲内で種々変化させ、上記図5の試験と同様の整理を試みた。その結果、いずれの場合にも巻取温度には上限および下限が存在し、これを外れると上述したように熱延板の組織に起因して熱延板焼鈍時の組織形成に不備を生じ、高位の磁束密度と優れた表面性状が同時に得られないこと、また、巻取温度の上下限温度がプロセス条件に拘りなく鋼成分のうちSiとAlの量に依存して変化することが明らかとなった。
【0028】
さらに、この巻取温度の上下限に対するSi量とAl量の影響を定式化したところ、下限温度については、
(CT)L=37(Si+Al)+570
但し (CT)L:巻取温度の下限(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係が得られ、一方、上限温度については、
(CT)U=41(Si+Al)+686
但し (CT)U:巻取温度の上限(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係が得らた。このため、本発明では熱間圧延時の巻取温度を、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
という関係を満足するよう制御することをその要件とする。
【0029】
熱延板は軽圧下圧延後に熱延板焼鈍に供されるが、この熱延板焼鈍条件も熱延板焼鈍時の組織形成を適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状を得る上で重要である。本発明では熱延板焼鈍を所謂バッチ焼鈍、連続焼鈍のいずれで行ってもよいが、バッチ焼鈍の場合は750〜880℃の温度範囲で30分〜10時間の焼鈍を行う必要があり、また、連続焼鈍の場合は890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の焼鈍を行う必要がある。焼鈍温度が上記の各下限温度を下回ると、歪粒成長による二次再結晶が完了せず、特に板厚中央部の組織の粗大化が不十分となって磁束密度が劣化する。一方、焼鈍温度が上記各上限温度を上回るとγ/α変態を生じ、集合組織が劣化して磁束密度の低下をきたす。焼鈍時間についても、上記の各下限を下回ると二次再結晶が完了しないため磁束密度が低下する。また、焼鈍時間の上限については、本発明では熱延板焼鈍時の組織の粗大化は歪粒成長による二次再結晶によって生起されるものであるため、上記の各上限を超えた長時間の焼鈍を行っても、これによる粗大化の程度は小さく、却ってエネルギーコストを上昇させる結果となり好しくない。加えて、上記の各上限を超える長時間の焼鈍を行うと内部酸化層や窒化層が生成されるようになり、磁気特性が劣化する。
【0030】
以上述べたように、本発明では熱間圧延時の巻取温度を鋼成分のSi,Al量に応じて適正化した上で、所定の圧下率の下で軽圧下圧延を2回に分けて逆方向に実施し、しかる後所定条件の熱延板焼鈍を行うことにより、熱延板焼鈍後の組織が適正化し、高位の磁束密度と優れた表面性状が得られることになるが、これら以外の条件、すなわち、鋼成分や仕上焼鈍条件等のプロセス因子の適正化も勿論重要である。そこで、以下これらについて説明する。
先ず、鋼成分についてその限定理由を説明する。
【0031】
C: 磁気特性を劣化させ、また磁気時効の原因となる元素であり、これを回避するためには0.0050wt%以下とする必要がある。
Si: 固有抵抗の上昇を通じて鉄損を改善する元素であるが、この効果を十分に得るためには0.1wt%以上の添加が必要である。一方、1.5wt%を超えたSiの添加は磁束密度を大幅に低下させるため、上限は1.5wt%とする。
Mn: 熱間延性改善の点から0.2wt%以上の添加が必要であるが、1.0wt%を超えると効果が飽和するだけでなく磁束密度の低下が大きくなるため、上限は1.0wt%とする。
【0032】
P: 硬度上昇を通じて打抜き性を改善する元素であり、必要に応じて0.20wt%までは添加してよいが、添加量が0.20wt%を超えるとその効果が飽和するだけでなく、磁束密度の低下が著しくなるため、その添加量は0.20wt%以下にする必要がある。
S: MnSを形成することで磁気特性を劣化させる元素であり、これを回避するためにはS量の上限を0.010wt%とする必要がある。
【0033】
Al: Alを微量に含有する場合には、微細なAlNが形成され磁気特性を阻害する。そこで、この微細なAlNの形成を避けるためには、Al量を0.004wt%以下とする必要がある。一方、Alを0.100wt%以上含む場合には、形成されるAl量が十分粗大であるため磁気特性の劣化はなく、むしろ固有抵抗の増大を通じて鉄損低減に寄与する。しかし、添加量が0.500wt%を超えると磁束密度を大幅に低下させるようになるため、Alを積極的に添加する場合には、その上限を0.500wt%とする。したがって、Alは0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%とする。
N: 磁気特性を劣化させる元素であり、これを回避するために上限を0.0050wt%とする。
その他の元素: 磁気特性を付加的に改善する目的で、Sb,Sn,B,Cu,Se,Ge,Co,Zr,Ca,REM等の1種または2種以上を適量添加することが可能である。
【0034】
次に、仕上焼鈍等のプロセス条件について説明する。
熱間圧延: 加熱温度が1250℃を超えると、スケール発生による歩留り低下が著しくなることに加えて、内部酸化や粒界酸化の増加を通じて磁気特性が大幅に低下するため、加熱温度の上限は1250℃とする。一方、加熱温度が1050℃を下回ると、圧延温度が全般に低下するために圧延負荷の増大を招く。このため加熱温度の下限は1050℃とする。仕上温度については、これが880℃を超えるとα域の圧下量が過少となって、熱延板段階で好しい集合組織の発達が不十分となり、磁気特性の劣化を招く。このため仕上温度の上限は880℃とする。また、仕上温度が750℃を下回ると圧延負荷の増大が著しいため、仕上温度の下限は750℃とする。
【0035】
酸洗: 酸洗条件自体は常法でよいが、熱延板軽圧下圧延での歪がスケール層に消費されるのを防ぐ意味から、酸洗は熱延板軽圧下圧延前に行うのが好しい。
冷間圧延: 冷間圧延は常法でよく、その回数についても1回の冷間圧延であっても、また中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延であってもよい。
【0036】
仕上焼鈍: 仕上焼鈍後、需要家で歪取焼鈍を実施されない所謂フルプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度は700〜900℃の範囲とする。これは焼鈍温度が700℃を下回ると製品の結晶粒径が小さ過ぎ、鉄損が増大するためであり、一方、900℃を超えると(111)集合組織の発達が顕著となって磁束密度が劣化するためである。焼鈍時間に関しては、30秒未満の焼鈍時間では粒成長が不十分で製品の結晶粒径が小さくなり過ぎ、鉄損が増大するため、焼鈍時間の下限は30秒とする。一方、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化は小さく、却ってエネルギーコストを増大させるだけであるため、焼鈍時間の上限は5分とする。
【0037】
次に、仕上焼鈍後、調質圧延されることなく需要家で剪断、打抜き等の加工を受け、しかる後に歪取焼鈍されるセミプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度を600〜850℃の範囲とする。この場合、所定の磁気特性を得るための最終的な組織形成は需要家での歪取焼鈍時に行われるため、この意味での仕上焼鈍温度の適正化は必要ではないが、仕上焼鈍温度が600℃を下回ると硬質となり過ぎ、剪断刃や打抜き型の摩耗を増大させてしまう。一方、仕上焼鈍温度が850℃を超えると軟質となり、剪断、打抜き時のダレの増大、バリの増大を引き起こすため好ましくない。また、焼鈍時間の下限については、硬度が必要以上に高くなるのを避ける意味から30秒とする。一方、上限については5分とするが、これはフルプロセス材と同様、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化が小さく、却ってエネルギーコストを増大させることになるからである。
【0038】
さらに、仕上焼鈍後に調質圧延され、需要家で剪断、打抜き等の加工を施された後、歪取焼鈍されるセミプロセス材の製造にあっては、仕上焼鈍温度を650〜800℃の範囲とする。前記調質圧延の目的は、歪取焼鈍時の粒成長を調圧歪による二次再結晶によって引き起こすことで鉄損を改善することにあり、この目的を達成するためには、調質圧延前の結晶粒径の適正化が重要となる。仕上焼鈍温度を650〜800℃の範囲に制御することは、この結晶粒径の適正化のために必要である。すなわち、仕上焼鈍温度が650℃未満では再結晶が完了しないため、調質圧延を実施しても歪取焼鈍時に完全な二次再結晶組織が得られない。また、仕上焼鈍温度が800℃を超えると結晶粒径が過大となる結果、調質圧延を実施すると歪取焼鈍後の二次再結晶組織が粗大となり過ぎ、鉄損は改善されるものの磁束密度が劣化してしまう。焼鈍時間についても、仕上焼鈍後の組織を完全再結晶させる意味から下限を30秒とする。また、上限については5分とするが、これは先に述べた二つの場合と同様、5分を超えて焼鈍を行っても組織変化が小さく、却ってエネルギーコストを増大させることになるからである。
【0039】
調質圧延: 仕上焼鈍後に調質圧延を施す場合、この調質圧延は前述したように歪取焼鈍時に二次再結晶を起させるために行われるものであり、その調圧率は1.0〜12.0%の範囲とする必要がある。調圧率が1.0%未満では二次再結晶の核が生成されず、一方、12.0%超では歪取焼鈍時に二次再結晶ではなく一次再結晶−粒成長が生じ、所定の粒径を得ることができなくなる。
なお、本発明では以上述べたように鋼成分、各プロセス条件の適正化を行っているが、とりわけ熱延板軽圧下圧延と熱延板焼鈍の組み合わせによる冷間圧延前組織の粗大化は、製品の集合組織を改善することを意味しており、したがって、磁束密度が向上するのは勿論のこと鉄損特性もまた改善されることは言うまでもない。
【0040】
【実施例】
表1に記載の鋼A〜鋼Iを用い、これらを2.0mmの厚さまで熱間圧延した後、酸洗し、さらに熱延板軽圧下圧延、熱延板焼鈍を施した。引き続き1回の冷間圧延の後、これを仕上焼鈍して板厚0.5mmの製品を得た。また、一部のものについては、仕上焼鈍後さらに調質圧延を実施し、板厚0.5mmの製品とした。このようにして得られた製品の表面粗大粒の程度を評価するために、板面をナイタール腐食にて軽エッチングした後、板面粒径を目視(実際には5倍に拡大)にて測定した。さらに、製品から25cmエプスタインサンプルを剪断し、剪断まま或いは一部は歪取焼鈍(750℃×2時間)を付与した後、磁気特性(L,C平均値)を測定した。その際の各製造条件の詳細と調質圧延および歪取焼鈍の有無を表2〜表4に、また、製品の磁気特性と板面粒径の測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0041】
表5から明らかなように、本発明法によれば高位の磁束密度を持ち、しかも板面粒径の小さな、すなわち表面性状に優れた製品を得ることができる。また、鉄損値も十分に低く良好である。一方、鋼成分或いは製造条件が本発明範囲から逸脱した比較法にあっては、磁束密度が本発明例に較べ概ね0.02T程度低いか若しくは板面粒径が4mm以上となっており、高位の磁束密度と優れた表面性状を同時に得ることができない。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【発明の効果】
以上述べた本発明によれば、従来にはない高位の磁束密度と優れた表面性状を兼ね備えた無方向性電磁鋼板を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明鋼種である実施例の鋼Aについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の方法とその圧下率の影響を示したグラフ
【図2】本発明鋼種である実施例の鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の方法とその圧下率の影響を示したグラフ
【図3】本発明鋼種である実施例の鋼Aについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の1回目の圧延の圧下率と2回目の圧延の圧下率の影響を示したグラフ
【図4】本発明鋼種である実施例の鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延板軽圧下圧延の1回目の圧延の圧下率と2回目の圧延の圧下率の影響を示したグラフ
【図5】本発明鋼種である実施例の鋼Aと鋼Fについて、製品の磁束密度と板面粒径に対する熱延巻取温度の影響を示したグラフ
Claims (3)
- C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後700〜900℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。 - C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後600〜850℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。 - C:0.0050wt%以下、Si:0.1〜1.5wt%、Mn:0.2〜1.0wt%、P:0.20wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.004wt%以下若しくは0.100〜0.500wt%、N:0.0050wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1050〜1250℃に加熱した後、750〜880℃の仕上温度で熱間圧延し、下式を満足する巻取温度で巻取った後、
37(Si+Al)+570≦CT≦41(Si+Al)+686
但し CT:巻取温度(℃)
Si:Si含有量(wt%)
Al:Al含有量(wt%)
該熱延板を酸洗し、0.5〜3.0%の圧下率で1回目の軽圧下圧延を行い、引続き前記1回目の軽圧下圧延と圧延方向を逆にして0.5〜3.0%の圧下率で2回目の軽圧下圧延を行い、この際、前記2回の軽圧下圧延の圧下率の合計を2.0〜5.0%とし、次いで750℃〜880℃の温度範囲で30分〜10時間若しくは890℃〜Ac1の温度範囲で30秒〜5分の熱延板焼鈍を施し、次いで1回若しくは中間焼鈍を挾む2回以上の冷間圧延を行い、しかる後650〜800℃の温度範囲で30秒〜5分の仕上焼鈍を施し、次いで、1.0〜12.0%の調圧率で調質圧延を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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JPH06279858A (ja) | 1994-10-04 |
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