JP3420331B2 - 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼および軸受部材 - Google Patents
熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼および軸受部材Info
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Description
受といった転がり軸受の要素部材として用いられる軸受
鋼および軸受部材に関し、とくに苛酷な使用環境におけ
る繰り返し応力負荷によって転動接触面下に発生するミ
クロ組織変化(劣化)に対する遅延特性が、潤滑油の清
浄性に関係なく、それが劣悪な状態であってもなお優れ
た特性を示すと共に、熱処理時に起こる脱炭層の生成を
抑制する効果に優れた軸受鋼および軸受部材について提
案する。
ころがり軸受としては、従来、高炭素クロム軸受鋼(JI
S:SUJ 2)が最も多く使用されてきた。一般に軸受鋼と
いうのは、転動疲労寿命の長いことが重要であるが、こ
の転動疲労寿命に与える要因としては、鋼中の硬質な非
金属介在物の影響が大きいと考えられていた。そのた
め、最近の研究の主流は、鋼中酸素量の低減を通じて非
金属介在物の量,その大きさを制御することによって軸
受寿命を向上させる方策がとられてきた。
を目指して開発されたものとしては、特開平1−306542
号公報や特開平3−126839号公報などの提案があり、こ
れらは、鋼中の酸化物系非金属介在物の組成,形状ある
いは分布状態をコントロールする技術である。しかしな
がら、非金属介在物の少ない軸受鋼を製造するには、高
価な溶製設備の設置あるいは従来設備の大幅な改良が必
要であり、経済的な負担が大きいという問題があった。
きく影響される。一般に、潤滑油中には、研磨時の研磨
粉やバリ、あるいは回転時に発生した摩耗粉等(以下、
これらを「ゴミ」という)が混入しており、このゴミの
混入は軸受部材の転がり寿命の低下を招くことが指摘さ
れていた。従来、ゴミ入り環境下での軸受寿命の改善に
対しては、主に潤滑油の清浄性を向上させる手法が採ら
れているが、特開平5−78782号公報や同5−78814号公
報などの開示によると、軸受部材の表面層を浸炭窒化処
理することにより、その表面層の炭化物面積率,表面炭
素濃度,表面残留オーステナイト量をコントロールし
て、該表層部における特性を改善することにより、ゴミ
による圧痕形状をコントロールし、もって、応力集中の
軽減を導いて長寿命化を図ることを提案している。しか
しながら、この従来技術は、鋼組織を本質的に改善する
訳ではなく、いわゆる浸炭窒化・硬化熱処理によって、
軸受部材の表面層のみを外的に改質する方法であるか
ら、後述するような、表層部の下辺で観察されるミクロ
組織変化部の改善につながらないばかりでなく、さらに
処理コストが高いといった問題が残っていた。
性改善を図るためのもう1つの動きは、加工性、特に熱
処理時の脱炭層の生成を抑制する技術に関する研究であ
る。一般に、上記JIS-SUJ2に規定された軸受鋼は、0.9
5〜1.10mass%のCを含むことから、非常に硬質であ
り、それ故に、球状化焼なましを行って加工性を向上さ
せた後に成形加工し、その後焼入れ,焼もどし処理を施
すことによって、転がり軸受に必要な強度と靱性を得て
いた。ところが、このような特性改善のための熱処理が
何回も重なると、素材表面には、Cと雰囲気ガスとの反
応によって、脱炭層と呼ばれる“低C濃度領域”が発生
することが知られている。この脱炭層は、転がり軸受の
硬さ低下のみならず転動疲労寿命劣化の原因となること
から、切削または研削加工により除去するのが普通であ
った。そのために材料歩留り、さらには生産性の低下を
余儀なくされていたのである。これに対して従来、上記
脱炭層の生成を防止する手段として、熱処理時における
炉内の雰囲気ガス中のカーボンポテンシャルをコントロ
ールする方法や、特開平2−54717号公報に開示されて
いる,球状化焼なましの初期段階に浸炭処理を施す方法
などが提案されている。しかし、上記の各方法はいずれ
も、熱処理あるいはその前処理時の雰囲気清浄によるも
のであることから、熱処理コストが嵩むのみならず、材
料の組成や熱処理時間等に応じた適切なガス組成の設定
といった煩雑な操作を必要とするところに問題を残して
いた。
行った最近の研究成果によれば、転動寿命を決めている
要因としては、従来から一般に論じられてきた現象;す
なわち、特開平5−78782号,同5−78814号各公報など
で問題にしている熱処理時に生じる軸受部材表面におけ
る“脱炭層”(低C濃度領域)や、特開平1−306542
号,同3−126839号各公報で問題にしている“非金属介
在物”の存在以外の要因もあるということが判った。と
いうのは、従来技術の下で主として軸受部材表面層を熱
処理することによって、単に脱炭層や非金属介在物を減
少させても、軸受の転動疲労寿命、特に、高負荷あるい
は高温といった過酷な条件下での軸受寿命の向上には大
きな効果が得られないことを多く経験したからである。
このことから、発明者らは軸受寿命を律する他の要因の
存在を確信したのである。
を考慮した上での軸受寿命,とくに転がり軸受の剥離の
発生原因について鋭意研究を続けた。その結果、軸受使
用環境の激化に伴って、軸受の内・外輪と転動体との回
転接触時に発生する繰り返し剪断応力により、図1(a)
に示すような、転動接触面(表層部)の下部に、帯状の
白色生成物と棒状の析出物からなるミクロ組織変化層が
発生し、これが転動回数を増すにつれて次第に成長し、
終にはこのミクロ組織変化部から、図1(b)に示すよう
な疲労剥離が生じて軸受部材表層部を欠損して軸受寿命
がつきることがわかった。さらに、軸受使用環境の苛酷
化すなわち,高面圧化(小型化),使用温度の上昇は、
これらミクロ組織変化が発生するまでの転動回数を短縮
し、著しい軸受寿命の低下につながるということも突き
止めた。
は、従来技術のような、軸受部材の表面層の部分におけ
る脱炭層や非金属介在物の制御だけでは不十分であり、
例えば、浸炭・窒化や球状化焼鈍などの各種の熱処理に
よって、表面層の脱炭層や非金属介在物量を単に低減さ
せるだけでは、上述した転動接触面(表層部)下で発生
するミクロ組織変化が発生するまでの時間を遅延させる
ことはできない。その結果として、軸受寿命の今まで以
上の向上は図り得ないということを知見したのである。
下での転動疲労寿命特性を向上させるのに有効な手段を
提案することにある。本発明の他の目的は、軸受鋼の成
分組成そのものおよび鋼中の残留オーステナイト量を工
夫することによって、表層部だけでなく鋼全体としての
特性,とくに高負荷・高温環境下での軸受使用中に生成
が予想される表層部下に見られるミクロ組織変化を遅延
させ、ひいては軸受寿命の著しい向上を図ることにあ
る。本発明の他の目的は、鋼の成分組成、とくにMo含有
量の調整と鋼中残留オーステナイト量を制御することに
より、ゴミ入り環境下においても、そのゴミによる圧痕
の周辺にその応力集中によって上記ミクロ組織変化が発
生するのを抑制することに加え、更に表面層の転動疲労
寿命、素材自体の特性の改善を図り、もって軸受寿命の
一層の向上を目指すことにある。本発明のさらに他の目
的は、熱処理時の脱炭層厚みの成長を抑えることによ
り、熱処理生産性(脱炭層の加工除去の手間を省くこ
と)の向上を図ることにある。
した知見に基づき軸受寿命として新たに“ミクロ組織変
化遅延特性”というものに着目した。そして、この特性
の向上を通じてこの面における軸受寿命の向上を図るこ
とにした。そのためには、当然新たな合金設計(成分組
成)ならびに鋼組織の特定が必要であり、このことの実
現なくして軸受のより一層の寿命向上は図れないという
認識に立って、さらに種々の実験と検討とを行った。そ
の結果、意外にも、適正量のMoおよびSbを複合添加する
こと及び、鋼中の残留オーステナイト量(以下、単に
「残留γ量」と略記する)を制御すれば、繰り返し応力
負荷による転動接触面下に生成する上述したミクロ組織
変化を著しく遅延できることを見い出し、本発明軸受部
材とその製造方法を開発した。
受部材は、以下に列挙するような要旨構成を有するもの
である。 (1) C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass%,Sb:
0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる、熱処理生産性
ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延
特性に優れた軸受鋼。
mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以
下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05
〜2.0mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mas
s%,Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,
B:0.0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%
のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含
み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、熱処理生
産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の
遅延特性に優れた軸受鋼。
O)に対しさらに、選択的に添加される任意添加成分(S
i,Mn,Cr,Ni,Cu,Al,B,N)については、上記(2)
の組成の範囲内において、次のような組合わせで添加す
ることが推奨される。 0.05〜0.5mass%Si−(Mn,Cr,Ni,Cu,Al,Bおよ
びNのいずれか1種以上) 0.05〜2.0mass%Mn−(Cr,Ni,Cu,Al,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.5mass%Cr−(Ni,Cu,Al,BおよびNのい
ずれか1種以上) 0.05〜1.0mass%Ni−(Cu,Al,BおよびNのいずれ
か1種以上) 0.05〜1.0mass%Cu−(Al,BおよびNのいずれか1
種以上) 0.005〜0.07mass%Al−(BおよびNのいずれか1種
以上) 0.0005〜0.01mass%B−(N)
mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以
下を含有し、さらに、Si:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.5
超〜8.0mass%,Ni:1.0超〜3.0mass%,N:0.012超〜
0.050mass%,V:0.05〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0mas
s%,W:0.05〜1.0mass%,Zr:0.02〜0.5mass%,T
a:0.02〜0.5mass%,Hf:0.02〜0.5mass%及びCo:0.0
5〜1.5mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2
種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からな
る、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミク
ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼。
O)に対しさらに、選択的に多量添加される任意添加成
分(Si,Cr,Ni,N)とその他の少量添加される任意添加
成分(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCo)については、上
記(4)に記載の組成範囲内において、次のような組合わ
せで添加することが推奨される。 0.5超〜2.5mass%Si−(Cr,NiおよびNのうちのいず
れか1種以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoの
うちのいずれか1種以上) 2.5超〜8.0mass%Cr−(NiまたはNのいずれか1種以
上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoのうちのいず
れか1種以上) 1.0超〜3.0mass%Ni−(N)−(V,Nb,W,Zr,T
a,HfおよびCoのうちのいずれか1種以上) 0.012超〜0.050mass%N−(V,Nb,W,Zr,Ta,Hf
およびCoのうちのいずれか1種以上)
mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以
下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05
〜2.0mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mas
s%,Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,
B:0.0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%
のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、通
常環境下での転動疲労を改善する成分として含み、さら
にまた、上記改善成分のいずれか1種以上のものが選択
された場合はその元素を除く下記の成分、すなわち、S
i:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜8.0mass%,Ni:1.0
超〜3.0mass%,N:0.012超〜0.050mass%,V:0.05
〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0mass%,W:0.05〜1.0mas
s%,Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:0.02〜0.5mass%,H
f:0.02〜0.5mass%及びCo:0.05〜1.5mass%のうちか
ら選ばれるいずれか1種または2種以上を、苛酷な環境
下での転動疲労寿命を改善する成分として含み、残部が
Feおよび不可避的不純物からなる、熱処理生産性ならび
に繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に
優れた軸受鋼。
における転動疲労寿命改善成分については、次のような
組合わせが推奨される。 0.05〜0.5mass%Si−(Mn,Cr,Ni,Cu,Al,Bおよ
びNのいずれか1種以上) 0.05〜2.0mass%Mn−(Cr,Ni,Cu,Al,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.5mass%Cr−(Ni,Cu,Al,BおよびNのい
ずれか1種以上) 0.05〜1.0mass%Ni−(Cu,Al,BおよびNのいずれ
か1種以上) 0.05〜1.0mass%Cu−(Al,BおよびNのいずれか1
種以上) 0.005〜0.07mass%Al−(BおよびNのいずれか1種
以上) 0.0005〜0.01mass%B−(N) また、上記の苛酷な使用環境における転動疲労寿命改善
成分についての組合わせは下記のものが推奨される。 ´0.5超〜2.5mass%Si−(Cr,NiおよびNのうちのい
ずれか1種以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCo
のうちのいずれか1種以上) ´2.5超〜8.0mass%Cr−(NiまたはNのいずれか1種
以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoのうちのい
ずれか1種以上) ´1.0超〜3.0mass%Ni−(N)−(V,Nb,W,Zr,T
a,HfおよびCoのうちのいずれか1種以上) ´0.012超〜0.050mass%N−(V,Nb,W,Zr,Ta,H
fおよびCoのうちのいずれか1種以上)
mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以
下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10〜35
%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理生産
性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅
延特性に優れた軸受部材。
mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以
下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05
〜2.0mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mas
s%,Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,
B:0.0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%
のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含
み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ鋼中
の残留オーステナイト量が体積比にして10〜35%である
鋼組織を有することを特徴とする、熱処理生産性ならび
に繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に
優れた軸受部材。
O)に対しさらに、選択的に添加される任意添加成分(S
i,Mn,Cr,Ni,Cu,Al,B,N)については、上記(9)
の組成の範囲内において、次のような組合わせで添加す
ることが推奨される。 0.05〜0.5mass%Si−(Mn,Cr,Ni,Cu,Al,Bおよ
びNのいずれか1種以上) 0.05〜2.0mass%Mn−(Cr,Ni,Cu,Al,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.5mass%Cr−(Ni,Cu,Al,BおよびNのい
ずれか1種以上) 0.05〜1.0mass%Ni−(Cu,Al,BおよびNのいずれ
か1種以上) 0.05〜1.0mass%Cu−(Al,BおよびNのいずれか1
種以上) 0.005〜0.07mass%Al−(BおよびNのいずれか1種
以上) 0.0005〜0.01mass%B−(N)
0mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%
以下を含有し、さらに、Si:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.
5超〜8.0mass%,Ni:1.0超〜3.0mass%,N:0.012超
〜0.050mass%,V:0.05〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0m
ass%,W:0.05〜1.0mass%,Zr:0.02〜0.5mass%,T
a:0.02〜0.5mass%,Hf:0.02〜0.5mass%及びCo:0.0
5〜1.5mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2
種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からな
り、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10
〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理
生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化
の遅延特性に優れた軸受部材。
O)に対しさらに、選択的に多量添加される任意添加成
分(Si,Cr,Ni,N)とその他の少量添加される任意添
加成分(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCo)については、
上記(11)に記載の組成範囲内において、次のような組合
わせで添加することが推奨される。 0.5超〜2.5mass%Si−(Cr,NiおよびNのうちのいず
れか1種以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoの
うちのいずれか1種以上) 2.5超〜8.0mass%Cr−(NiまたはNのいずれか1種以
上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoのうちのいず
れか1種以上) 1.0超〜3.0mass%Ni−(N)−(V,Nb,W,Zr,T
a,HfおよびCoのうちのいずれか1種以上) 0.012超〜0.050mass%N−(V,Nb,W,Zr,Ta,Hf
およびCoのうちのいずれか1種以上)
0mass%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%
以下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.0
5〜2.0mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0ma
ss%,Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,
B:0.0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%
のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を、通
常環境下での転動疲労を改善する成分として含み、さら
にまた、上記改善成分のいずれか1種以上のものが選択
された場合はその元素を除く下記の成分、すなわち、S
i:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜8.0mass%,Ni:1.0
超〜3.0mass%,N:0.012超〜0.050mass%,V:0.05
〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0mass%,W:0.05〜1.0mas
s%,Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:0.02〜0.5mass%,H
f:0.02〜0.5mass%及びCo:0.05〜1.5mass%のうちか
ら選ばれるいずれか1種または2種以上を、苛酷な環境
下での転動疲労寿命を改善する成分として含み、残部が
Feおよび不可避的不純物からなり、かつ鋼中の残留オー
ステナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組織を有
することを特徴とする、熱処理生産性ならびに繰り返し
応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受
部材。
境における転動疲労寿命改善成分については、次のよう
な組合わせが推奨される。 0.05〜0.5mass%Si−(Mn,Cr,Ni,Cu,Al,Bおよ
びNのいずれか1種以上) 0.05〜2.0mass%Mn−(Cr,Ni,Cu,Al,BおよびN
のいずれか1種以上) 0.05〜2.5mass%Cr−(Ni,Cu,Al,BおよびNのい
ずれか1種以上) 0.05〜1.0mass%Ni−(Cu,Al,BおよびNのいずれ
か1種以上) 0.05〜1.0mass%Cu−(Al,BおよびNのいずれか1
種以上) 0.005〜0.07mass%Al−(BおよびNのいずれか1種
以上) 0.0005〜0.01mass%B−(N) また、上記の苛酷な使用環境における転動疲労寿命改善
成分についての組合わせは下記のものが推奨される。 ´0.5超〜2.5mass%Si−(Cr,NiおよびNのうちのい
ずれか1種以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCo
のうちのいずれか1種以上) ´2.5超〜8.0mass%Cr−(NiまたはNのいずれか1種
以上)−(V,Nb,W,Zr,Ta,HfおよびCoのうちのい
ずれか1種以上) ´1.0超〜3.0mass%Ni−(N)−(V,Nb,W,Zr,T
a,HfおよびCoのうちのいずれか1種以上) ´0.012超〜0.050mass%N−(V,Nb,W,Zr,Ta,H
fおよびCoのうちのいずれか1種以上)
を有する鋼を、溶製後常法に従う処理によって棒鋼に圧
延し、次いで焼ならしと焼なましを施した後、880〜980
℃(望ましくは900〜950℃)からの焼入れを施すことによ
って製造することができる。
本発明の軸受鋼および軸受部材を開発した経緯につき、
発明者らが行った実験結果に基づいて説明する。まず、
この実験に当たっては、 SUJ 2 (C:1.02mass%,Si:0.25mass%,Mn:0.45
mass%,Cr:1.35mass%,N:0.0040mass%,O:0.00
12mass%)と、MoとSbを添加した2種の材料 (C:1.00mass%,Si:0.21mass%,Mn:0.43mass
%,Cr:1.33mass%,Mo:1.14mass%,Sb:0.0061mass
%,N:0.0035mass%,O:0.0008mass%) (C:0.98mass%,Si:0.20mass%,Mn:0.41mass
%,Cr:1.31mass%,Mo:1.81mass%,Sb:0.0094mass
%,N:0.0033mass%,O:0.0009mass%)の化学組成
を有する鋼を溶製してから鋳造し、1240℃で30h の拡散
焼鈍を施した後に65mmφの棒鋼に圧延して供試材とし
た。ついで、この供試材を焼ならし、球状化焼なまし、
さらには焼入れ−焼もどしの順で熱処理を行い、その
後、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmの円筒状の試
験片とした。
動疲労寿命試験機を用い、ヘルツ最大接触応力:600kgf
/mm2,繰返し応力数:46500cpm,潤滑:#68タービン飛
沫油使用環境下の負荷条件で、焼入れ温度を調整して、
鋼中の残留γ量を変化させることにより転動疲労寿命試
験を行った。その試験結果は、ワイブル分布に従うもの
として確率紙上にプロットし、主として表面層における
非金属介在物の抑制と材料強度の上昇による,従来から
検討されていた通常の転動疲労寿命を示す数値であるB
10値(10%累積破損確率)と、高温・高負荷転動時の繰り
返し応力負荷による,苛酷な使用環境下で見られる、い
わゆる表層部下におけるミクロ組織変化の発生を遅延さ
せることによる転動疲労寿命を示す数値と見られるB50
値(50%累積破損確率)とを求めた。また、脱炭層の試験
については、上記の円筒状試験片を10mmの位置で高さ方
向に垂直に切断後、ナイタールにて腐食し、ミクロ組織
変化による円周上の全脱炭層深さ(厚み)最大値(以後、
「最大脱炭層」という)で評価した。
については、残留γ量が6〜7%と少ない場合、前記B
10値についての改善はそれほど大きいものではないが、
B50値については著しく高い数値を示し、軸受平均寿命
は SUJ 2 材に比べ、Mo:1.14mass%では約18倍もの改
善を示していた。とくに、このMoを1.81mass%と、もっ
と多量に添加した高Mo添加材の場合には、B50値は約26
倍にも達し、高負荷転動中に生成するミクロ組織変化の
遅延特性に対して顕著な効果を示し、破損(寿命)を大き
く遅延させることができることが判った。ところが、同
じ成分組成でも、残留γ量が17〜18%と多くなると、B
50値の改善程度が一層顕著なものになることに加え、更
にB10値も SUJ 2 材に比べると、Mo:1.14mass%の場
合で約9倍、Mo:1.81mass%の場合で約12倍も改善され
ることが判った。さらに、熱処理後の最大脱炭層につい
ては、SUJ 2の0.10mmに対してSb:0.0040mass%含有す
るものでは0.02mm、Sb:約0.0082mass%含有するもので
は、実に0.01mmの厚さとなり、適量のSbの添加は、熱処
理脱炭層の抑制に極めて著効を示すことが窺える。
って、表層部における非金属介在物に起因する軸受寿命
と、表層部下における繰返し応力負荷でのミクロ組織変
化の様子、ならびに残留γ量が軸受の転動疲労寿命に及
ぼす影響を示す模式図である。この図に明らかなよう
に、従来からごく一般的に議論されてきた、軸受部材表
面層の非金属介在物の量とその形態,C濃度,炭化物面
積率などの指標としての,累積破損確率10%のB10値で
示される軸受寿命(以下、これを「B10寿命」という)
によれば、単にMoを多量に添加するだけではその効果は
期待した程には得られないが、残留γ量を多くした場合
には、かなり改善されることがわかる。一方、部材表層
部下の帯域に見られるミクロ組織変化特性を示す指標と
しての,累積破損確率50%のB50値で示される軸受寿命
(以下、これを「B50寿命」という)についてみると、M
o添加の効果は極めて顕著であり、この傾向は残留γ量
の影響よりも大きく、少なくとも苛酷な環境下で発生す
るミクロ組織変化の生成度合いを示す軸受寿命を意識す
る限り、高Moと高残留γ量へのコントロールは極めて有
効であることがわかる。これは、上記表1の結果ともよ
く符合している。
の両方を改善するには、適正量のMoを含有する鋼につい
て、焼ならしおよび球状化焼なましの処理を経てからさ
らに適正な焼入れ処理および必要に応じて焼もどし処理
をも施すことにより、鋼中の残留γ量を所定の範囲に制
御することが有効である。このような処理によって特性
が改善される理由については必ずしも明確に解明した訳
ではないが、発明者らは、この残留γが繰返し応力負荷
によるミクロ組織変化の遅延と応力作用領域に存在する
硬質な非金属介在物の切り欠き作用を緩和し、このこと
によってB10寿命およびB50寿命の両方を向上させるも
のと考えている。
〜35%が適正量と考えている。それは、この残留γの量
が少ないと転動疲労寿命、とりわけB10寿命向上の効果
が得られないからであり、それ故に10%以上は必要であ
る。一方、35%を超える残留γ量では軸受強度の不足な
らびに寸法の安定性に欠けるから、残留γ量は、10〜35
%の範囲に、好ましくは15〜30%の範囲に、そしてより
好ましくは15〜25%の範囲内に制御する。
負荷によるミクロ組織変化遅延特性の改善を図るという
観点から、以下に説明するような成分組成の範囲を決定
した。
用する元素であり、焼入れ焼もどし後の強度確保とそれ
による転動疲労寿命を向上させるために含有させる。そ
の含有量が0.5mass%未満ではこうした効果が得られな
い。一方、1.5mass%超では被削性,鍛造性が低下する
ので、0.5〜1.5mass%の範囲に限定した。好ましくは、
0.65〜1.10mass%の範囲がよい。
であり、とりわけ過酷な繰り返し応力負荷の下での、上
述したミクロ組織変化の遅延を促して、この面での転動
疲労寿命(B50寿命)を向上させる。その効果を得るため
には、1.0mass%超が必要であるが、その量が2.0mass%
を超えると、切削性,鍛造性を低下させ、コストアップ
の因ともなるため、このB50寿命向上のためには、1.0
超〜2.0mass%の範囲内で添加することが必要である
が、好ましくは1.0超〜1.8mass%、より好ましくは1.0
超〜1.5mass%がよい。
っている元素である。とくに、このSbは、熱処理時にお
いて、鋼材表層部のCと雰囲気ガスとの反応を抑制して
脱炭層の発生を阻止することによって、熱処理生産性向
上に寄与する。しかも、Alとの複合添加により、該脱炭
層の抑制にあわせてミクロ組織変化の遅延に対しても効
果を示すことから、積極的に添加する。このような2つ
の作用は、このSb含有量が0.005mass%以上で顕著なも
のとなるが、0.015mass%を超えて添加してもその効果
は飽和することに加え、却って熱間加工性および靱性の
劣化を招くようになる。従って、Sbは0.005〜0.015mass
%の範囲で含有させることとした。好ましくは、0.005
〜0.010mass%の範囲で含有させる。
成分の制御によって繰り返し応力負荷によるミクロ組織
変化の遅延が得られたとしても、B10寿命,B50寿命の
低下を招くことがあるから、可能な限り低いことが望ま
しい。しかし、0.0020mass%以下の含有量であれば許容
できる。好ましくは0.0012mass%以下である。
固溶して焼もどし軟化抵抗の増大により焼入れ,焼もど
し後の強度を高めてB10値にあらわれる転動疲労寿命
(B10寿命)を向上させる元素として有効である。こうし
た目的の下に添加されるSiの含有量は、0.05〜0.5mass
%、好ましくは0.15〜0.50mass%がよい。さらに、この
Siは、0.5mass%超を添加すると、高温,高負荷,繰り
返し応力負荷の下でのミクロ組織変化の遅延をもたらし
て、B50値としてあらわれる転動疲労寿命(B50寿命)を
向上させる効果がある。しかし、その含有量が2.5mass
%を超えると、効果が飽和する一方で加工性や靱性を低
下させるので、ミクロ組織変化遅延特性のより一層の向
上のためには、0.5超〜2.5mass%を添加することが有効
である。より好ましくは0.5超〜2.0mass%がよい。
に有効な元素である。また、鋼の焼入れ性を向上させる
ことにより基地マルテンサイトの靱性,硬度を向上さ
せ、部材表層部における一般的な転動疲労寿命(B10寿
命)の向上に有効に寄与する。こうした目的のために
は、0.05〜2.0mass%の添加があれば十分であり、好ま
しくは0.25〜2.0mass%である。
強度の向上ならびに耐摩耗性を向上させ、ひいては一般
的な意味での転動疲労寿命を向上させる成分である。こ
うした効果を得るためには、0.05〜2.5mass%の添加で
十分である。好ましい添加量は0.15〜2.5mass%であ
る。さらに、このCrは、繰返し応力負荷によるミクロ組
織変化を遅延せしめて、この面での転動疲労寿命(B50
寿命)を向上させるためには、2.5mass%を超える多量添
加を行う必要がある。そして、このB50寿命を向上する
ために添加するCr添加の量は、8.0mass%を超えると飽
和するのみならず、却って焼入れ時の固溶C量の低下を
招いて強度が低下する。従って、この目的のために添加
するときは、2.5超〜8.0mass%としなければならない。
好ましくは2.5超〜5.0mass%の範囲がよい。
高め靱性を向上させるとともに、B10寿命を向上させる
ので、この目的のためには0.05〜1.0mass%の範囲内で
添加することとし、好ましくは0.15〜1.0mass%添加す
る。さらに、このNiは、上述したように、1.0mass%を
超えて添加した場合には、転動時のミクロ組織変化を遅
らせ、これによりB50寿命を向上させる。しかし、この
場合でも3mass%を超えて添加すると、多量(>35%)
の残留γを析出して強度の低下ならびに寸法安性を害す
ることになる他、コストアップになるため、この作用効
果を期待する場合には、1.0超〜3.0mass%の範囲内で添
加することが必要であり、好ましくは1.0超〜2.5mass%
がよい。
め、B10寿命を向上させるために添加する。この目的の
ために添加するときは、0.05〜1.0mass%の範囲で十分
であり、好ましくは0.15〜1.0mass%がよい。
鋼中Nと結合して結晶粒を微細化して鋼の靱性向上に寄
与する。また、焼入れ焼もどし後の強度を高めることに
よる転動疲労寿命の向上にも有効に作用する。このよう
な作用のためにAlは、0.005〜0.07mass%添加すること
が有効である。好ましくは0.010〜0.07mass%がよい。
高め、B10寿命を向上させるので、0.0005mass%以上を
添加する。しかしながら、0.01mass%を超えて添加する
と加工性を劣化させるので、0.0005〜0.01mass%の範囲
に限定する。好ましくは0.0015〜0.0050mass%がよい。
0mass% Nは、炭窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化し、
基地に固溶して焼入れ焼もどし後の強度を高め、そして
B10寿命を向上させる。この目的のためには0.0005〜0.
012mass%の範囲内で添加するが、好ましくは0.0020〜
0.012mass%がよい。また、このNは、一方において0.0
12mass%を超えて添加した場合には、上述したように、
繰り返し応力によるミクロ組織変化を遅らせることによ
りB50寿命を向上させることができる。ただし、この量
が0.050mass%を超えると、加工性,靱性が低下するた
め、この目的のためには0.012超〜0.050mass%を添加す
るが、好ましくは0.012超〜0.035mass%がよい。
荷によるミクロ組織変化を遅延させることによる転動疲
労寿命(B50寿命)を改善すると共に、強度の上昇を通じ
て部材表層部における転動疲労寿命(B10寿命)を改善す
るための主要成分(C,Mo,Sb,OおよびSi,Cr,Mn,
Ni,Cu,Al,B,N)の限定理由についてそれぞれ説明
したが、本発明ではさらに、V,Nb,W,Zr,Ta,Hfお
よびCoのうちから選ばれるいずれか1種または2種以上
を添加することにより、苛酷な使用環境(ゴミ入り,高
負荷,高温)での転動疲労寿命,即ちB50寿命を改善さ
せるようにしてもよい。
上限値、下限値限定の理由につき、表2にまとめて示
す。
に、S,Se,Te,REM,Pb,Bi,Ca,Ti,Mg,P,Sn,A
s等を添加しても、上述した本発明の目的である繰り返
し応力負荷によるミクロ組織変化による遅延特性を阻害
することはなく、容易に被削性を改善することができる
ので、必要に応じて添加してもよい。
命を低下させることから可能な限り低いことが望まし
く、0.025mass%以下、好ましくは0.015mass%以下に抑
える。また、Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性
を向上させる元素である。しかし、多量に含有させると
転動疲労寿命を低下させることから、0.025mass%以
下、好ましくは0.015mass%以下に抑えるのがよい。
造し、得られた鋼材につき1200℃で30h の拡散焼鈍を施
した後に65mmφの棒鋼に圧延した。次いで、焼ならし−
球状化焼なましの後、鋼材No.1,No.2は820℃で、他
は900℃〜950℃で焼入れ、180℃で焼もどしを行った。
さらに、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmならびに
60mmφ×5mmの円筒状試験片を作製した。このときの該
試験片の面粗度はいずれもRa:0.1mmとした。そして、
上記各試験片について、クリーン環境下におけるB10寿
命,4B50寿命についての測定試験を行った。このクリ
ーン環境下のB10寿命,B50寿命の試験は、図3に示す
ようなラジアルタイプの転動疲労寿命試験機を用いて、
ヘルツ最大接触応力:600kgf/mm2,繰り返し応力数約46
500cpmおよび潤滑油:#68タービン飛沫油を使うという
条件で行ったものである。なお、試験の結果は、ワイブ
ル分布に従うものとして確率紙上にまとめ、鋼材No.1
(従来鋼である SUJ 2)の平均寿命(累積破損確率:10%
および50%における、剥離発生までの総負荷回数)を1
として、その他の鋼種のものを対比して評価した。
境の苛酷な条件下での転動寿命(B10寿命,B50寿命)
は、円盤状試験片を作製してスラスト型転動疲労試験機
を用い、ヘルツ最大接触応力:536kgf/mm2,繰り返し応
力数:1800cpmの条件で、#68タービン油中に硬さ:Hv8
50程度、平均粒子径:約100μmの鉄粉を約150ppm混入し
て行った。試験機には、図3に示すような改良を行い、
鋼球と試験片の接触部に常時鉄粉が供給されるようにし
た。
て確率紙上にプロットし、B10寿命(累積破損確率:10
%での剥離発生までの総負荷回数)ならびにB50寿命(同
50%)を求め、鋼材No.1をそれぞれ1として比較評価し
たものである。また、残留オーステナイト量は、ラッピ
ング仕上げ後の試験片をX線解析装置を使って測定した
ものである。上記の評価結果を、表3、表4、表5にま
とめて示した。
り、鋼中C量が本発明範囲外である鋼No.5、鋼中Mo量
が本発明範囲外である鋼No.6、鋼中O量が本発明範囲
外である鋼No.4および、鋼中残留オーステナイト量が
本発明範囲外である鋼No.2の場合、Moを含まない従来
鋼(鋼No.1)と同程度か、B10寿命,B50寿命のいずれ
か少なくとも一方が低く、軸受寿命の改善には効果がな
いことが判る。また、No.3は、Sbが本発明外範囲のも
のであるが、B10寿命,B50寿命は、従来鋼(No.1)に
比べると良好であるが、最大脱炭層の深さが0.09mmと大
きく、従来鋼(No.1)に比べても改善されていないため
に、この脱炭層除去のための処理が必要となった。これ
に対し、本発明の軸受鋼を用い、残留γ量を所定範囲内
に調整した軸受部材である鋼材No.7〜45は、クリーン
環境下での通常試験では、B10寿命が従来鋼(鋼材No.
1)に比較すると平均約3〜25倍も改善され、また、B
50寿命も4〜61倍も優れた結果を出している。さらに、
この傾向は、ゴミ入り環境下の試験でも、B10寿命にし
て従来の約2〜11倍、B50寿命にして約4〜18倍も優れ
た結果を示しており、クリーン環境下と同様に改善され
ていることが判る。さらに、最大脱炭層の深さも大きく
て約0.02mm程度と小さく、熱処理生産性にも優れている
ことが判る。すなわち、軸受部材としては、多量のMoお
よびSbを複合添加したものがゴミ入り環境下における転
がり寿命,とりわけB50寿命で示されるミクロ組織変化
を著しく遅延し、一方残留γ量を10〜35%にコントロー
ルすることによりB10寿命の著しい向上をもたらし、そ
して脱炭層の深さをも減じることから、軸受の全体的な
転動疲労寿命の向上に極めて有効で生産性の向上にも寄
与するものであることが窺える。
Mo:1.0超〜2.0mass%およびSb:0.005〜0.015mass%を
複合添加した軸受鋼を焼き入れして鋼中の残留γ量を10
〜35%の組織とすることにより、クリーン環境のみなら
ずゴミ入り環境下において高負荷,高温使用という苛酷
な条件であっても、軸受部材の表層部下における繰り返
し応力負荷に伴うミクロ組織変化の遅延をもたらし、こ
のことによってB10,B50転動疲労寿命の向上(高Mo含
有効果)を達成すると共に、さらには熱処理時の加工負
荷を軽減(Sb添加効果)して生産性を高めることができ
る。従って、従来技術の下では不可欠とされていた、部
材表層部のより一層の鋼中酸素量の低減あるいは鋼中に
存在する酸化物系非金属介在物の組成,形状,ならびに
その分布状態をコントロールするために必要となる製鋼
設備の改良あるいは建設が、本発明では不必要である。
また、本発明にかかる軸受部材の開発によって、転がり
軸受の小型化ならびに軸受使用温度のより以上の上昇が
期待できる。
表層部下の帯域において発生するミクロ組織変化のよう
すを示す金属組織の顕微鏡写真。
織変化に起因する軸受寿命とに及ぼすMoおよびSb含有量
と残留γ量との影響を示す説明図。
略線図。
Claims (8)
- 【請求項1】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、熱処
理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変
化の遅延特性に優れた軸受鋼。 - 【請求項2】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05〜2.0
mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mass%,
Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,B:0.
0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%のうち
から選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、残部
がFeおよび不可避的不純物からなる、熱処理生産性なら
びに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性
に優れた軸受鋼。 - 【請求項3】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜
8.0mass%,Ni:1.0超〜3.0mass%,N:0.012超〜0.05
0mass%,V:0.05〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0mass
%,W:0.05〜1.0mass%,Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:
0.02〜0.5mass%,Hf:0.02〜0.5mass%及びCo:0.05〜
1.5mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2種
以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、
熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組
織変化の遅延特性に優れた軸受鋼。 - 【請求項4】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05〜2.0
mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mass%,
Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,B:0.
0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%のうち
から選ばれるいずれか1種または2種以上を、通常環境
下での転動疲労を改善する成分として含み、さらにま
た、上記改善成分のいずれか1種以上のものが選択され
た場合はその元素を除く下記の成分、すなわち、Si:0.
5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜8.0mass%,Ni:1.0超〜
3.0mass%,N:0.012超〜0.050mass%,V:0.05〜1.0
mass%,Nb:0.05〜1.0mass%,W:0.05〜1.0mass%,
Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:0.02〜0.5mass%,Hf:0.02
〜0.5mass%及びCo:0.05〜1.5mass%のうちから選ばれ
るいずれか1種または2種以上を、苛酷な環境下での転
動疲労寿命を改善する成分として含み、残部がFeおよび
不可避的不純物からなる、熱処理生産性ならびに繰り返
し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸
受鋼。 - 【請求項5】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組
成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積比に
して10〜35%である鋼組織を有することを特徴とする、
熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組
織変化の遅延特性に優れた軸受部材。 - 【請求項6】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05〜2.0
mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mass%,
Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,B:0.
0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%のうち
から選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、残部
がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、か
つ鋼中の残留オーステナイト量が体積比にして10〜35%
である鋼組織を有することを特徴とする、熱処理生産性
ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延
特性に優れた軸受部材。 - 【請求項7】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜
8.0mass%,Ni:1.0超〜3.0mass%,N:0.012超〜0.05
0mass%,V:0.05〜1.0mass%,Nb:0.05〜1.0mass
%,W:0.05〜1.0mass%,Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:
0.02〜0.5mass%,Hf:0.02〜0.5mass%及びCo:0.05〜
1.5mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2種
以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成
分組成を有し、かつ鋼中の残留オーステナイト量が体積
比にして10〜35%である鋼組織を有することを特徴とす
る、熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミク
ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受部材。 - 【請求項8】C:0.5〜1.5mass%,Mo:1.0超〜2.0mass
%,Sb:0.005〜0.015mass%,O:0.0020mass%以下を
含有し、さらに、Si:0.05〜0.5mass%,Mn:0.05〜2.0
mass%,Cr:0.05〜2.5mass%,Ni:0.05〜1.0mass%,
Cu:0.05〜1.0mass%,Al:0.005〜0.07mass%,B:0.
0005〜0.01mass%及びN:0.0005〜0.012mass%のうち
から選ばれるいずれか1種または2種以上を、通常環境
下での転動疲労を改善する成分として含み、さらにま
た、上記改善成分のいずれか1種以上のものが選択され
た場合はその元素を除く下記の成分、すなわち、Si:0.
5超〜2.5mass%,Cr:2.5超〜8.0mass%,Ni:1.0超〜
3.0mass%,N:0.012超〜0.050mass%,V:0.05〜1.0
mass%,Nb:0.05〜1.0mass%,W:0.05〜1.0mass%,
Zr:0.02〜0.5mass%,Ta:0.02〜0.5mass%,Hf:0.02
〜0.5mass%及びCo:0.05〜1.5mass%のうちから選ばれ
るいずれか1種または2種以上を、苛酷な環境下での転
動疲労寿命を改善する成分として含み、残部がFeおよび
不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ鋼中の残
留オーステナイト量が体積比にして10〜35%である鋼組
織を有することを特徴とする、熱処理生産性ならびに繰
り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れ
た軸受部材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP13679394A JP3420331B2 (ja) | 1994-06-20 | 1994-06-20 | 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼および軸受部材 |
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JP13679394A JP3420331B2 (ja) | 1994-06-20 | 1994-06-20 | 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼および軸受部材 |
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JPH083683A JPH083683A (ja) | 1996-01-09 |
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JP13679394A Expired - Fee Related JP3420331B2 (ja) | 1994-06-20 | 1994-06-20 | 熱処理生産性ならびに繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼および軸受部材 |
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