本発明のVリブドベルトは、ベルト背面を形成する伸張層と、この伸張層の一方の面に形成され、かつその側面でプーリと接して摩擦係合する圧縮ゴム層と、前記伸張層と前記圧縮ゴム層との間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えたVリブドベルトであって、前記圧縮ゴム層のプーリと接する摩擦伝動面が、前記圧縮ゴム層と異なる色を有し、かつ繊維を含む表面層で被覆されている。本発明のVリブドベルトでは、心線と伸張層又は圧縮ゴム層との接着性を向上させるために、必要に応じて圧縮ゴム層と伸張層との間に接着層を設けてもよい。接着層を設ける形態としては、心線を埋設する形態であってもよく、圧縮ゴム層と接着層又は接着層と伸張層との間に心線を埋設する形態であってもよい。
本発明のVリブドベルトの一例について、図1を用いて説明する。図1は、Vリブドベルトの一例を示す概略断面図であり、ベルト幅方向に切断した概略断面図である。この例では、Vリブドベルトは、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、複数のリブ部3を有する圧縮ゴム層2、接着層6、心線1、ゴム組成物で形成された伸張層5を積層して構成されており、圧縮ゴム層2には短繊維4がリブ部の形状に沿った流動状態(リブ部の表面近傍においては、短繊維4はリブ部3の外形に沿って配向した状態)となるように配向している。詳しくは、前記圧縮ゴム層2は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向に沿って複数列で延びるリブ部3(図1では、リブ数は3)を有しており、このリブ部3の長手方向に対して直交する方向における断面形状は、ベルト外周側(リブ部を有さず、プーリと摩擦係合しない側)から内周側に向かって幅が小さくなる(先端に向かって先細る)逆台形状(断面V字形状)である。また、前記心線1は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されており、その一部が伸張層5に接するとともに、残部が接着層6に接している。さらに、圧縮ゴム層2のプーリと接する摩擦伝動面は、前記表面層で被覆されている(図示せず)。
[表面層]
前記表面層は、繊維を含み、圧縮ゴム層を補強する役割を有しており、圧縮ゴム層のプーリと接する摩擦伝動面を被覆していればよいが、生産性などの点から、通常、圧縮ゴム層の表面全体を被覆している。さらに、前記表面層は、基部と、ベルト長手方向の一部の長さ領域に形成され、かつ前記基部の平均厚みよりも小さい平均厚みを有するインジケータ部とを含む。すなわち、本発明のVリブドベルトでは、表面層において基部よりもインジケータ部の厚みが薄いため、ベルトの使用によって表面層の摩耗が進行すると、インジケータ部では基部よりも早く圧縮ゴム層がベルト表面に露出する。さらに、本発明のVリブドベルトでは、前述のように、表面層は圧縮ゴム層と異なる色を有しているため、インジケータ部の摩耗によって部分的に露出した圧縮ゴム層は、圧縮ゴム層が露出していない基部と色の違いにより目視で判別することが可能であり、ベルト交換時期を容易に知ることができる。特許文献4や5のように全周が同一の構成である場合は、色の変化に気付きにくいが、本発明のようにベルト長手方向の一部分のみ構成を変えることで、その隣の部分との色の違いがはっきりと認識できる。また、特許文献3では、接着ゴム層とリブとの間にホワイトカーボンによって白色に調整した背面部位を形成しているが、ベルト内周面から入り組んだリブ底を観察するのは困難である。その理由は、エンジンなどに組み付けられたベルトは、その内周面に顔を近付けて観察できるほどのスペースが無いためである。一方、本発明では、図2及び3に示すように、ベルト側面を観察することにより交換時期を判定することができる。すなわち、図2に示すように、本発明のVリブドベルトの使用前の外観は、インジケータ部(表面層の薄肉部)10aにおいて、圧縮ゴム層が見えないか、うっすらと透けて見える程度であるが、図3に示すように、交換時期まで使用した後の外観では、インジケータ部(リブ部の側面であり、プーリとの接触部である摩擦伝動面)10bにおける表面層が摩耗して消失し、その部分だけ圧縮ゴム層が表面に露出して異なる色を呈するため、目視で簡単に交換時期を判定できる。そのため、本発明では、入り組んだリブ底を観察する必要はなく、エンジン内などスペースに余裕の無い場所に組み付けられた場合であっても、機械から取り外すことなくVリブドベルトの交換時期を容易に判定できる。
表面層と圧縮ゴム層との色の違いは、目視で違いが認識できる限り特に限定されないが、色相、明度及び彩度などの異なる色の組み合わせを適宜選択でき、無彩色及び/又は有彩色の組み合わせ、例えば、黒色と白色との組み合わせなどの無彩色同士の組み合わせ;黒色と淡褐色との組み合わせ、黒色と青色との組み合わせ、黒色と黄色との組み合わせ、白色と紫色との組み合わせ、白色と青色との組み合わせなどの無彩色と有彩色との組み合わせ;紫色と黄色との組み合わせなどの有彩色同士の組み合わせなどが挙げられる。すなわち、明度又は彩度の差は無彩色及び/又は有彩色で調整してもよく、無彩色同士の組み合わせ又は無彩色と有彩色との組み合わせが好ましく、特に、無彩色同士の組み合わせが好ましい。異なる色の組み合わせのうち、識別性に優れる点から、明度の高い明色及び明度の低い暗色、又は彩度の高い濃色及び彩度の低い淡色とを組み合わせるのが好ましい。なかでも、明色と暗色との組み合わせであれば、圧縮ゴム層と表面層(基部)との対比(コントラスト)が明確となり、交換時期の判定が容易となる。
明色の明度としては、例えば5以上(例えば6〜10)、好ましくは7〜10、さらに好ましくは8〜10(特に9〜10)程度であってもよい。明色は、例えば、白色、白を基調とした色(白黄色、淡褐色など)などが挙げられる。暗色の明度としては、例えば5未満(例えば0〜4.5)、好ましくは0〜4、さらに好ましくは0〜3(特に0〜2)程度であってもよい。暗色は、例えば、黒色、黒を基調とした色(群青など)などが挙げられる。明色と暗色との明度差は1以上(例えば1〜9程度)あってもよく、好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上(特に7以上)であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、明度はマンセル表色系における明度を示し、慣用の方法、例えば、色彩計などにより測定できる。
本発明のVリブドベルトでは、圧縮ゴム層は、通常、カーボンブラックを含むため、黒色である場合が多い。一方、表面層は繊維を含むため、染色されていない繊維を使用することにより、容易に白色などの明色に調整できる。そのため、本発明では、表面層は、圧縮ゴム層よりも大きい明度を有するのが好ましく、黒色などの暗色(特に黒色)に調整された圧縮ゴム層と、白色などの明色(特に白色)に調整された表面層との組み合わせが好ましい。
インジケータ部は、ベルト長手方向の一部の長さ領域に形成すればよく、等間隔で複数の箇所(例えば2〜3箇所、好ましくは2箇所)に形成してもよいが、インジケータ部による圧縮ゴム層の露出領域を少なくし、異音の発生などを抑制する点から、1箇所に形成するのが好ましい。
インジケータ部のベルト長さ方向の長さ(複数のインジケータ部が形成されている場合、各インジケータ部の長さ)は3〜30mmであればよく、好ましくは4〜25mm、さらに好ましくは5〜20mm(特に7〜15mm)程度であってもよい。インジケータ部が3mmよりも短いと、目視により色の変化を判別するのが困難となる。逆に30mmを超えると、インジケータ部の摩耗が進行した場合に、圧縮ゴム層の露出する部分が多くなって摩擦係数の変化が大きくなって、異音などの不具合が発生する虞がある。
ベルト長さ方向において、基部とインジケータ部との長さ比は、基部/インジケータ部=85/15〜99.9/0.1、好ましくは90/10〜99.8/0.2、さらに好ましくは95/5〜99.7/0.3(特に96/4〜99.6/0.4)程度である。
インジケータ部の平均厚みは、基部の平均厚みよりも小さければよいが、基部(表面層)の摩耗によるベルトの交換時期と一致させ易い点から、基部の平均厚みに対して10〜90%程度の範囲から選択でき、例えば20〜80%、好ましくは30〜70%(例えば33〜67%)、さらに好ましくは40〜60%(特に45〜55%)程度である。インジケータ部の平均厚みが薄くなり過ぎると、適切な交換時期よりも早い段階でインジケータ部から圧縮ゴム層が露出する虞がある。一方、厚過ぎると、ベルト全体の表面層の摩耗が進行してしまうため、インジケータ部から圧縮ゴムが露出する前に伝達効率の低下などの不具合が起こる可能性が高まる。
基部の平均厚みは、50〜500μm程度の範囲から選択できるが、耐久性を維持したまま、適切なベルト交換時期を調整し易い点から、例えば100〜300μm、好ましくは110〜250μm、さらに好ましくは120〜200μm(特に130〜180μm)程度である。基部の平均厚みが薄すぎると、ベルトの耐久性が低下する虞があり、厚すぎると、表面層が摩耗する前にゴムや心線の劣化が進む虞があり、ベルトの交換時期を適切に判断することが困難となる虞がある。
(耐熱繊維)
表面層に含まれる繊維は、耐熱繊維が好ましい。耐熱繊維としては、加硫後も繊維形状を維持し、ベルトに諸機能を付与するために、加硫温度(例えば150〜200℃、特に170℃程度)を超える軟化点又は融点を有していればよく、各種の合成繊維、無機繊維を利用できる。耐熱繊維の軟化点又は融点(又は分解点)は、加硫温度をTとすると、例えば、T+10℃以上であってもよく、例えば、(T+10)〜(T+400)℃、好ましくは(T+20)〜(T+370)℃、さらに好ましくは(T+20)〜(T+350)℃程度である。耐熱繊維は、加硫温度よりも高い軟化点又は融点を有するため、加硫後も繊維状の形態を維持しており、摩擦伝動面に所望の性能(耐熱繊維の特性を反映)を付与できる。
耐熱繊維としては、例えば、Vリブドベルトで慣用的に利用される耐熱繊維、代表的には、天然繊維(セルロース系繊維、羊毛、絹など);合成繊維[脂肪族ポリアミド繊維(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46繊維など)、ポリエステル繊維(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など)、フッ素繊維(ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ポリアクリル繊維(ポリアクリロニトリル繊維など)、ポリビニルアルコール繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、芳香族ポリアミド繊維(p−アラミド、m−アラミド繊維など)など];無機繊維(カーボン繊維、ガラス繊維など)などが挙げられる。
これらの耐熱繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。表面層は、二種以上の耐熱繊維を組み合わせる場合、異種の耐熱繊維を均質に混合した単一の層構造であってもよく、異なる耐熱繊維を積層した複数の積層構造であってもよい。これらのうち、生産性などの点から、繊維樹脂混合層は、単一の層が好ましく、同種の耐熱繊維で形成された単一の層が特に好ましい。
これらの耐熱繊維のうち、表面層が摩耗しても被水時の耐発音性を向上できる点から、水との親和性(吸水性)の高い親水性耐熱繊維が好ましく、セルロース系繊維が特に好ましい。
セルロース系繊維には、セルロース繊維(植物、動物又はバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維が含まれる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)などが挙げられる。
これらのセルロース系繊維のうち、耐摩耗性に優れるとともに、特別な染色を施すことなく、暗色の圧縮ゴム層とのコントラストを容易に付与できる点から、セルロース繊維が好ましく、パルプが特に好ましい。セルロース系繊維(特に、パルプなどのセルロース繊維)の割合は、表面層中(後述する樹脂成分なども含む表面層全体に対して)30質量%以上(例えば40質量%以上)、なかでも、50質量%以上であるのが好ましく、例えば50〜100質量%、好ましくは55〜90質量%、さらに好ましくは60〜85質量%(特に65〜80質量%)程度である。
耐熱繊維の繊維形態は、特に限定されず、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸(スパン糸)のいずれの形態であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
耐熱繊維は、短繊維、長繊維のいずれでもよいが、少なくとも短繊維を含むのが好ましい。短繊維の平均長さは、例えば1〜500mm、好ましくは2〜300mm、さらに好ましくは3〜200mm(特に5〜100mm)程度である。短繊維の繊維長が短すぎると、摩擦伝動面の補強効果が低下する虞があり、長すぎると、圧縮ゴム層との界面に繊維を存在させるのが困難となる虞がある。
さらに、耐熱繊維の圧縮ゴム層への埋設深さを調整するために、短繊維と長繊維とを組み合わせてもよい。長繊維を配合する場合、ベルト製造時の不織布の巻き付けが容易となり、伸びが小さい繊維であっても適正なリブ形状を形成できる点から、長繊維はベルト長手方向に沿って配設するのが好ましい。長繊維の割合は、耐熱繊維中70質量%以下であってもよく、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下(例えば1〜10質量%程度)であってもよい。長繊維の割合が多すぎると、圧縮ゴム層との界面に繊維を存在させるのが困難となる虞がある。
耐熱繊維の平均繊維径は、例えば5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜35μm程度である。
表面層における耐熱繊維の形態(繊維集合体の形態)は、繊維の長さに応じて適宜選択でき、織布構造や編布構造であってもよいが、短繊維を含む場合、通常、不織布構造(不織繊維構造)を有している。
耐熱繊維には圧縮ゴム層との接着性を向上させる目的で、原料段階で接着処理を施してもよい。このような接着処理としては、耐熱繊維をエポキシ又はイソシアネート化合物を有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトンなど)に溶解させた樹脂系処理液に浸漬処理したり、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)などの処理液に浸漬処理してもよい。また、耐熱繊維と圧縮ゴム層を形成する部材との接着性及び/又は摩擦伝動面の性能付与を目的として、例えば、ゴム組成物を前記有機溶媒に溶かしてゴム糊とし、このゴム糊に原料耐熱繊維(不織布など)を浸漬処理して耐熱繊維にゴム組成物を含浸、付着させてもよい。これらの処理は単独又は組み合わせて行うことができ、処理回数や処理順序は特に限定されず適宜変更して行うことができる。
表面層は、前記耐熱繊維を含んでいればよく、前記耐熱繊維を含む単層(例えば、パルプなどの耐熱繊維のみで形成された不織布など)であってもよく、異なる種類の複数の層を積層した積層体であってもよい。これらのうち、長期間に亘って耐発音性(特に、被水時の耐発音性)及び耐摩耗性を向上できる点から、摩擦伝動面に積層され、かつ樹脂成分と前記耐熱繊維とを含む繊維樹脂混合層と、この繊維樹脂混合層に積層され、かつ前記親水性耐熱繊維を含み、かつ樹脂成分を含まない繊維層との積層体が好ましい。
(繊維樹脂混合層)
繊維樹脂混合層には、前記耐熱繊維と樹脂成分とが混在しており、繊維樹脂混合層を圧縮ゴム層と繊維層との間に介在させることにより、摩擦伝動面を補強できる。さらに、繊維樹脂混合層における耐熱繊維のうち、少なくとも一部の繊維は、前記繊維樹脂混合層から前記圧縮ゴム層内部の表面近傍(繊維樹脂混合層との界面近傍)に亘って埋設されている。そのため、このような2層を跨いで埋設された耐熱繊維を含むことにより、圧縮ゴム層への埋設部分がアンカー効果の役割を果たして繊維樹脂混合層と圧縮ゴム層表層との界面を強固に結合でき、繊維樹脂混合層の圧縮ゴム層からの剥がれ(剥離)を防止できる。また、繊維層及び繊維樹脂混合層の摩耗が進行して圧縮ゴム層の表面が露出しても、圧縮ゴム層に埋設した耐熱繊維が摩耗によりその内部から露出するとともに、圧縮ゴム層の界面近傍で層状に存在して圧縮ゴム層を補強する役割を担うため、ベルトを長時間走行させても圧縮ゴム層(摩擦伝動面)の耐摩耗性を維持できる。耐熱繊維が、圧縮ゴム層に埋設する態様としては、特開2014−111981号公報での圧縮ゴム層表面近傍における耐熱繊維(耐熱性繊維)の埋設態様と同様である。
圧縮ゴム層内部の界面近傍に、少なくとも一部が埋設されている耐熱繊維のうち、少なくとも一部の耐熱繊維は、樹脂成分を付着した状態で圧縮ゴム層内部の界面近傍に埋設されていてもよい。本発明の摩擦伝動フィルムは、後述する製造方法で得られるため、リブ形成時において、耐熱繊維が圧縮ゴム層内部の界面近傍に埋設する際に、樹脂成分が耐熱繊維の表面に付着する。圧縮ゴム層に埋設した耐熱繊維の表面に樹脂成分が付着することにより、この樹脂成分を介して、耐熱繊維と圧縮ゴム層を形成する部材(例えば、ゴム組成物)と強固に結合できる。すなわち、両者の密着性(接着性)を向上できるため、耐熱繊維の脱落(抜け)を抑制できるとともに、繊維樹脂混合層が圧縮ゴム層の表面から剥離するのを確実に防止できる。さらに、耐熱繊維が圧縮ゴム層に強固に固定されるため、繊維樹脂混合層が摩耗の進行により摩滅したとしても、圧縮ゴム層内部の界面近傍から耐熱繊維の脱落が抑制されることにより、圧縮ゴム層表層(摩擦伝動面)の耐摩耗性、耐発音性を長期に亘って維持できる。
圧縮ゴム層に埋設した耐熱繊維の埋設深さ(圧縮ゴム層の界面近傍で耐熱繊維が埋設されて層状に形成された繊維ゴム混合層の厚み)は、耐熱繊維が圧縮ゴム層内部の界面近傍から脱落するのを抑制でき、圧縮ゴム層の表層に対する繊維樹脂混合層の剥離を確実に防止できる点から、例えば5〜150μm、好ましくは10〜120μm(例えば30〜100μm)、さらに好ましくは50〜90μm(特に70〜80μm)程度である。耐熱繊維の埋設深さが浅すぎると、耐熱繊維が脱落し易くなり、繊維樹脂混合層の圧縮ゴム層表層からの剥がれを十分に防止することができず、一方、繊維の埋設深さが深すぎると、耐熱繊維が埋設する厚みが大きくなるため、ベルトがプーリより逆曲げを受けてリブが伸張されたとき、リブ表面に亀裂が発生し易くなり、ベルトの寿命が短くなる虞がある。なお、本発明のVリブドベルトでは、前記繊維ゴム混合層は、圧縮ゴム層の界面近傍において略均一な厚みで埋設されている。
繊維樹脂混合層の平均厚みは、例えば10〜300μm、好ましくは30〜250μm、さらに好ましくは50〜200μm(特に70〜150μm)程度である。繊維樹脂混合層が薄すぎると、耐亀裂性や耐摩耗性が低下する虞があり、厚すぎると、繊維樹脂混合層の柔軟性が低下する虞がある。
なお、本明細書では、繊維の埋設深さ及び繊維樹脂混合層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)写真に基づいて測定でき、任意の5箇所以上の平均値として求める。詳細は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
樹脂成分としては、加硫温度で溶融して前記繊維に対してバインダー的な役割を発現し、繊維樹脂混合層を形成するとともに、圧縮ゴム層に埋設する繊維の表面にも付着して繊維樹脂混合層と圧縮ゴム層との密着性を向上できればよく、通常、加硫温度で溶融又は軟化可能な熱可塑性樹脂が使用されるが、加硫温度で溶融又は軟化可能な熱硬化性樹脂であってもよい。
樹脂成分は、融点(又は軟化点)が加硫温度(例えば150〜200℃、特に170℃程度)近傍以下であれば、特に限定されないが、加硫時に適度な粘度を保持し、適度な厚みの繊維層を形成し易い点から、融点は、加硫温度をTとすると、例えば(T−50)℃〜(T+10)℃、好ましくは(T−30)℃〜(T+5)℃、さらに好ましくは(T−10)℃〜T℃程度である。融点が、加硫温度の近傍にあると、加硫時に樹脂成分が適度な粘度を有して融解し、加硫後は親水性耐熱繊維の一部含有する形態で凝固できる。具体的な融点は、例えば150〜180℃、好ましくは160〜175℃、さらに好ましくは165〜170℃程度である。融点が高すぎると、均質な繊維樹脂混合層を形成するのが困難となる虞があり、逆に低すぎると、加硫時に粘度が低下し過ぎて、繊維層の表面まで含浸して、適度な厚みの繊維層を形成するのが困難となる虞がある。
樹脂成分は、前記融点を有していれば、特に材質は限定されないが、取り扱い性や汎用性などの点から、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂が好ましく、加硫時に適度な粘度を保持し、適度な厚みの繊維層を形成し易い点から、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、プロピレンと共重合可能なモノマーとの共重合体(プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−(メタ)アクリル酸共重合体などの二元共重合体;プロピレン−エチレン−ブテン−1などの三元共重合体)などが含まれる。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレンなどのプロピレンの単独重合体などが好ましい。
これらのうち、加硫温度で容易に融解し、かつ適度な耐熱性にも優れる点などから、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
なお、樹脂成分の形状は、前記繊維同士の間隙を充填し、繊維の表面に付着されていればよく、特に限定されないが、後述するように、繊維状の原料樹脂を用いた場合には、加硫温度以下の融点(又は軟化点)を有する熱可塑性樹脂であっても、繊維形状が一部残存する場合がある。本発明では、原料として加硫温度以下の繊維状の樹脂を用いて、部分的に繊維形状が残存している成分は、耐熱繊維ではなく、樹脂成分に分類する。
樹脂成分にも、耐熱繊維と同様の接着処理(又は表面処理)を施してもよい。
繊維樹脂混合層において、樹脂成分と耐熱繊維との割合(質量比)は、例えば、樹脂成分/耐熱繊維=99/1〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば95/5〜5/95、好ましくは85/15〜15/85、さらに好ましくは75/25〜25/75(特に70/30〜30/70)程度である。このような割合で樹脂成分と耐熱繊維とを組み合わせることにより、圧縮ゴム層表面を繊維樹脂混合層で被覆するとともに、耐熱繊維の少なくとも一部を繊維樹脂混合層から圧縮ゴム層表面の近傍内部に亘って埋設できる。
繊維樹脂混合層は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、界面活性剤、充填剤[例えば、カーボンブラック、シリカなどの補強剤(又は補強性充填剤);炭酸カルシウムなどの増量剤(非補強性充填剤又は不活性充填剤)など]、金属酸化物、可塑剤、加工剤又は加工助剤、着色剤、カップリング剤、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらのうち、ブリードアウトして繊維層における水との濡れ性が向上することにより、親水性耐熱繊維による水の掃きだし及びリブ表面の吸水性(親水性)を向上できる点から、HLB(親水−疎水バランス)5〜15(特に7〜15)程度の界面活性剤を含んでいてもよい。添加剤の割合は、繊維樹脂混合層全体に対して、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%(特に1.5〜10質量%)程度である。
(繊維層)
繊維層は、圧縮ゴム層の最表面を被覆しており、前記親水性耐熱繊維を含み、かつ樹脂成分を含まないため、柔軟であり、かつ吸水性に優れるため、被水時の耐発音性を向上できる。被水時の耐発音性が顕著に向上する理由は、最表面に位置する繊維層の存在によって、ベルトとプーリ間に侵入した水を素早く吸収できるため、ベルトとプーリ間における水膜の発生を抑制することにより、通常走行時(DRY)の摩擦係数と注水走行時(WET)の摩擦係数との差が小さくなるためであると推定できる。
繊維層の形態(繊維集合体の構造)は、繊維の長さに応じて適宜選択でき、織布構造や編布構造であってもよいが、短繊維を含む場合、通常、不織布構造(不織繊維構造)を有している。
繊維層は、前記繊維樹脂混合層と絡合して一体化しているのが好ましく、特に、予め一体化された不織繊維構造を有する不織布の一部に樹脂成分を含浸させた残部(未含浸部分)であるのが特に好ましい。
繊維層は、樹脂成分を含んでいないため、柔軟性及び空隙性に優れているが、このような特性を損なわない範囲であれば、繊維樹脂混合層に例示の慣用の添加剤を含んでいてもよい。慣用の添加剤の割合も繊維樹脂混合層と同様である。
繊維層の平均厚みは、例えば10〜300μm、好ましくは30〜250μm、さらに好ましくは50〜200μm(特に70〜150μm)程度である。繊維層の平均厚みは、繊維樹脂混合層の平均厚みに対して、例えば0.1〜5倍、好ましくは0.5〜3倍、さらに好ましくは1〜2倍程度である。繊維層が薄すぎると、吸水性や耐摩耗性が低下する虞があり、厚すぎると、ベルト製造時に形状不良が発生する虞がある。
繊維層の空隙率は、例えば50〜98%、好ましくは60〜97%、さらに好ましくは75〜95%(特に80〜90%)程度である。
繊維樹脂混合層及び繊維層の両層に含まれる樹脂成分(繊維樹脂混合層に含まれる樹脂成分)と繊維成分(繊維樹脂混合層に含まれる耐熱繊維及び繊維層に含まれる親水性耐熱繊維との合計)との質量比は、樹脂成分/繊維成分=70/30〜10/90(例えば、60/40〜15/85)、好ましくは50/50〜20/80、さらに好ましくは40/60〜25/75(特に35/65〜25/75)程度である。樹脂成分の割合が少なすぎると、耐熱繊維の固着が不十分となり、耐熱繊維が早期に飛散する虞がある。逆に多すぎると、吸水性が低下して、耐発音性が低下する虞がある。
(圧縮ゴム層)
圧縮ゴム層は、例えば、ゴム成分と加硫剤又は架橋剤とを含むゴム組成物やポリウレタン樹脂組成物などが利用される。
ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。
ポリウレタン組成物としては、例えば、ウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物(二液硬化型ポリウレタン)などが例示できる。
これらのうち、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物(特に有機過酸化物加硫型ゴム組成物)で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋するのが好ましく、特に、樹脂成分としてオレフィン系樹脂を使用する場合に接着性に優れることに加えて、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。
ゴム組成物は、通常、加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)、加硫促進剤、共架橋剤(架橋助剤、加硫助剤又は共加硫剤)を含んでいる。加硫剤又は架橋剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、固形分換算で、例えば1〜10質量部(特に2〜5質量部)程度である。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5〜15質量部(特に2〜5質量部)程度である。架橋助剤の割合は、固形分換算で、ゴム100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部(特に0.1〜5質量部)程度である。
ゴム組成物は短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、前記耐熱繊維と同様の繊維を使用できる。これらの短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などが汎用される。
短繊維の平均繊維長は、例えば1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは3〜10mm程度であってもよい。短繊維の平均繊維径は、例えば5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜30μm程度である。短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜50質量部(特に10〜35質量部)程度である。
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫遅延剤、充填剤[例えば、カーボンブラック、シリカなどの補強剤(又は補強性充填剤);炭酸カルシウムなどの増量剤(非補強性充填剤又は不活性充填剤)など]、金属酸化物、軟化剤、加工剤又は加工助剤、老化防止剤、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤、安定剤、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
圧縮ゴム層の平均厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、Vリブドベルトの場合、例えば2〜25mm、好ましくは2.2〜16mm、さらに好ましくは2.5〜12mm程度である。
(心線)
心線を構成する繊維としては、例えば、前記耐熱繊維と同様の繊維が例示できる。これらのうち、高モジュラスの点から、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ベルトスリップ率を低下できる点から、ポリエステル繊維、アラミド繊維が特に好ましい。心線(例えばポリエステル繊維)はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸で構成される心線の繊度は、例えば2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。心線は、ゴム成分との接着性を改善するため、慣用の接着処理、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)による接着処理を施してもよい。
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に配設してもよい。
(接着層)
接着層にも前記圧縮ゴム層と同様のゴム組成物などが使用できる。接着層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。接着層のゴム組成物は、さらに接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。
接着層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、Vリブドベルトの場合、例えば0.4〜3.0mm、好ましくは0.6〜2.2mm、さらに好ましくは0.8〜1.4mm程度である。
(伸張層)
伸張層は、前記圧縮ゴム層と同様のゴム組成物で形成してもよく、帆布などの布帛(補強布)で形成してもよい。
補強布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布や編布などが好ましい。補強布を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、前記RFL液で処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション又は積層(コーティング)してゴム付帆布を形成してもよい。
これらのうち、ゴム組成物で形成された伸張層が好ましい。伸張層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
ゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着により発生する異音を抑制するために、さらに圧縮ゴム層と同様の短繊維が含まれていてもよいが、短繊維の平均繊維長は、例えば0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.3〜1mm程度であってもよい。短繊維は、ゴム組成物中でランダムに配向させてもよい。さらに、短繊維は一部が屈曲した短繊維であってもよい。
さらに、背面駆動時の異音を抑制するために、伸張層の表面(ベルトの背表面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターン、エンボスパターンなどが挙げられる。これらのパターンのうち、織布パターン、エンボスパターンが好ましい。さらに、前記表面層で伸張層の背面の少なくとも一部を被覆してもよい。
伸長層の厚みは、例えば0.4〜2mm、好ましくは0.5〜1.5mm、さらに好ましくは0.7〜1.2mm程度である。
[Vリブドベルトの製造方法]
本発明のVリブドベルトは、円筒状ドラムに、伸張層を形成するためのシート(伸張層用シート)と、心線と、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシート(圧縮ゴム層用シート)と、表面層を形成するためのシート状構造体(表面層用構造体)とを順次巻き付ける巻付工程、巻き付けられた積層シートを金型に押し付けて、前記未加硫ゴムシートを加硫成形する加硫成形工程を経て製造される。
詳しくは、巻付工程では、まず、外周面に可撓性ジャケットを装着した内型に未加硫の伸張層用シートを巻き付け、この上に心線を螺旋状にスピニングし、更に未加硫の圧縮ゴム層用シートと、表面層用構造体とを順次巻き付けて成形体を作製する。
(インジケータ部を有する表面層の製造方法)
この工程において、インジケータ部を有する表面層を形成する方法は、インジケータ部に相当する領域の巻き付け数が少なくなるように、インジケータ部を形成する方法であってもよい。この方法には、単一の表面層用構造体を巻き付ける方法と、複数の表面層用構造体を巻き付ける方法とが含まれる。
単一の表面層用構造体を巻き付ける方法は、表面層を形成するためのシート状構造体(表面層用構造体)を2重又は3重に巻き付け、表面層用構造体の巻き終わり位置を、巻き始め位置よりも3〜30mm手前とすることにより、表面層の厚みが基部よりも薄いインジケータ部を形成する方法であってもよい。このような巻き付け方法の一例を図4に示すが、図4では、表面層用構造体を2重に巻き付け、巻き始め位置と巻き終わり位置とを3〜30mmずらすことにより、表面層用構造体が1重(単層)の部分(表面層用構造体が薄い部分)を設けて、インジケータ部を形成している。
この方法では、摩擦伝動面の補強の目的で設けられる汎用の表面層用構造体を用いることにより、製造に掛かる工数を増加させることがないため、生産性を向上できる。また、巻き始めと巻き終わりの位置をずらすという簡単な調整により、容易にインジケータ部を形成できる。表面層用構造体を巻き付ける回数が1重の場合はインジケータ部において初めから圧縮ゴムが露出するため、インジケータ部を形成できない。一方、4重以上の場合は、インジケータ部と基部との厚みの差が小さくなるため、インジケータ部から圧縮ゴムが露出する前に伝達効率の低下などの不具合が起こる可能性が高まり、交換時期を適切に判断できない虞がある。
複数の表面層用構造体を巻き付ける方法は、2枚以上(例えば2〜5枚程度)の表面層用構造体を重ねて巻き付ける方法であればよいが、生産性などの点から、2〜3枚の表面層用構造体を巻き付ける方法が好ましい。
2枚の表面層用構造体を巻き付ける方法は、内面側では、表面層を形成するための第1のシート状構造体を、端部同士が接触するように突き合わせで巻き付け、その上に、表面層を形成するための第2のシート状構造体を、端部の間隔が3〜30mmとなるように巻き付けることにより、表面層の厚みが基部よりも薄いインジケータ部を形成する方法であってもよい。このような巻き付け方法の一例を図5に示すが、図5では、内側の第1のシート状構造体を突き合わせてジョイント部10cを形成し、隙間やオーバーラップ部分が発生しないように巻き付けた後、第2のシート状構造体を3〜30mmの隙間を空けて巻き付けることにより、インジケータ部を形成している。なお、図5では、ジョイント部は、第2のシート状構造体の隙間に形成しているが、この位置に限定されず、任意の位置に形成できる。
3枚の表面層用構造体を巻き付ける方法は、例えば、内面側では、表面層を形成するための第1のシート状構造体を、端部同士が接触するように突き合わせで巻き付け、その上に、表面層を形成するための第2のシート状構造体を、端部同士が接触するように突き合わせで巻き付け、さらにその上に、表面層を形成するための第3のシート状構造体を、端部の間隔が3〜30mmとなるように巻き付けることにより、表面層の厚みが基部よりも薄いインジケータ部を形成する方法であってもよい。このような巻き付け方法の一例を図6に示すが、図6では、内側の第1のシート状構造体を突き合わせてジョイント部10dを形成し、隙間やオーバーラップ部分が発生しないように巻き付けた後、さらにその上に、第2のシート状構造体を、第1のシート状構造体と同様に、ジョイント部が同じ位置となるように巻き付けた後、第3のシート状構造体を3〜30mmの隙間を空けて巻き付けることにより、インジケータ部を形成している。なお、図6では、図5とは異なり、ジョイント部10dは、第3のシート状構造体の隙間に形成されておらず、視認できない。すなわち、この例では、内側の2層は突き合わせとし、最外層のみ間隔を空けることにより、インジケータ部の厚みを基部の厚みに対して67%に調整している。
また、3枚の表面層用構造体を巻き付ける方法は、内面側では、表面層を形成するための第1のシート状構造体を、端部同士が接触するように突き合わせで巻き付け、その上に、表面層を形成するための第2のシート状構造体を、端部の間隔が3〜30mmとなるように巻き付け、さらにその上に、表面層を形成するための第3のシート状構造体を、端部の間隔が3〜30mmとなるように巻き付けることにより、表面層の厚みが基部よりも薄いインジケータ部を形成する方法であってもよい。このような巻き付け方法の一例を図7に示すが、図7では、内側の第1のシート状構造体を突き合わせてジョイント部10eを形成し、隙間やオーバーラップ部分が発生しないように巻き付けた後、その上に、第2のシート状構造体を、3〜30mmの隙間を空けて巻き付けた後、さらにその上に第3のシート状構造体を、第2のシート状構造体と同様に、隙間が同じ位置となるように巻き付けることにより、インジケータ部を形成している。なお、この態様では、第2のシート状構造体の隙間と、第3のシート状構造体の隙間とは一致させる必要がある。すなわち、この例では、内側の1層のみを突き合わせとし、2層目と3層目は、同じ位置で間隔を空けることにより、インジケータ部の厚みを基部の厚みに対して33%に調整している。
この方法では、摩擦伝動面の補強の目的で設けられる汎用の表面層用構造体を用いることにより、製造に掛かる工数を増加させることがないため、生産性を向上できる。また、内面側となる第1のシート状構造体が突き合わせでジョイントされているため、基部の厚みを容易に均一化できる。さらに、第2のシート状構造体を隙間を空けて巻き付けることにより、容易にインジケータ部を形成できる。
表面層用構造体の目付量は、2重又は3重に巻きつけた表面層用構造体の厚みを、交換時期を適切に判定できる範囲に保持できる点から、例えば45〜200g/m2、好ましくは50〜150g/m2、さらに好ましくは80〜120g/m2(特に90〜110g/m2)程度である。目付量が小さすぎると、3重に巻き付けた場合でも、表面層用構造体の厚みが不足し、ベルトの耐久性が低下する虞がある。一方、目付量が大きすぎると、2重に巻き付けた場合でも、表面層用構造体の厚みが過剰となり、表面層用構造体が摩耗する前にゴムや芯体の劣化が進んで、ベルトの交換時期を適切に判断することが困難となる虞がある。
(積層体で形成された表面層の製造方法)
表面層が前記繊維樹脂混合層と前記繊維層との積層体である場合、表面層は、以下の方法で製造してもよい。なお、インジケータ部の形成方法は、前述の方法と同一である。
積層体で形成された表面層を製造する方法において、繊維樹脂混合層及び繊維層用構造体は、繊維樹脂混合層と繊維層とを、それぞれ独立して形成するための別個のシート状構造体(例えば、樹脂成分を形成するための繊維状樹脂成分と耐熱繊維とを混繊した不織布と、親水性耐熱繊維からなる不織布との組み合わせなど)であってもよいが、樹脂成分を形成するためのシート状構造体と親水性耐熱繊維を形成するためのシート状構造体とを含む複数のシート状構造体が好ましい。樹脂成分を形成するためのシート状構造体(樹脂成分用構造体)と親水性耐熱繊維を形成するためのシート状構造体(親水性耐熱繊維用構造体)とを組み合わせると、次工程の加硫成形工程における加熱及び加圧によって、樹脂成分は溶融して親水性耐熱繊維間に含浸するため、親水性耐熱繊維の未含浸部分で繊維層を形成することにより、簡便な製造方法で、繊維層と繊維樹脂混合層とを強固に一体化できる。
前記複数のシート状構造体は、繊維樹脂混合層を形成するための樹脂成分用構造体と、繊維樹脂混合層及び繊維層を形成するための親水性耐熱繊維用構造体とを含んでいればよいが、繊維樹脂混合層を形成するための耐熱繊維を形成するためのシート状構造体(耐熱繊維用構造体)をさらに含んでいてもよい。
樹脂成分用構造体の形態は、加硫成形工程において、親水性耐熱繊維間(及び耐熱繊維間)に侵入して繊維樹脂混合層を形成できればよく、シート状であればよく、例えば、シート、フィルム、織布、編布、不織布などであってもよいが、織布、編布、不織布などの繊維構造体が好ましく、不織布が特に好ましい。不織布などの繊維構造体は、親水性耐熱繊維(及び耐熱繊維)に対して繊維同士が絡み合うためか、圧縮ゴム層との密着性を向上できる。繊維構造体である場合、平均繊維径は、例えば5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜35μm程度である。短繊維の場合、平均長さは、例えば1〜500mm、好ましくは3〜300mm、さらに好ましくは5〜100mm程度である。構成繊維の繊維形態は、特に限定されず、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸(スパン糸)のいずれの形態であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
親水性耐熱繊維用構造体及び耐熱繊維用構造体の形態は、織布、編布であってもよいが、柔軟性や吸水性に優れ、繊維樹脂混合層では、圧縮ゴム層との界面で埋設して圧縮ゴム層と強固に一体化できる点から、不織布が好ましい。
前記複数のシート状構造体は、単一の樹脂成分用構造体と単一の親水性耐熱繊維用構造体との組み合わせであってもよいが、複数のシート状構造体同士の組み合わせ、例えば、2枚の樹脂成分用構造体と、2枚の耐熱繊維用構造体(2枚の親水性耐熱繊維用構造体、又は親水性耐熱繊維用構造体と耐熱繊維用構造体との合計2枚)との組み合わせであってもよい。耐摩耗性及び耐発音性を向上させるために、繊維層及び繊維樹脂混合層の合計厚みを大きくする場合、目付量を大きくすると、加硫中のゴムの流れが阻害されるためか、形状不良が発生し易くなる。これに対して、複数のシート状構造体同士を組み合わせると、目付量の比較的小さいシート状構造体を複数重ねて巻き付けることにより、加硫中のゴムが円滑に流れるためか、形状不良の発生を抑制し、前記合計厚みを大きくできる。
複数のシート状構造体同士の組み合わせとしては、軟化点又は融点が加硫温度以下の熱可塑性樹脂を含む不織布(1)と、耐熱繊維を含む不織布(2)と、軟化点又は融点が加硫温度以下の熱可塑性樹脂を含む不織布(3)と、親水性耐熱繊維を含む不織布(4)との組み合わせが好ましい。この組み合わせでは、不織布(1)及び(3)が樹脂成分用構造体であり、不織布(2)が耐熱繊維用構造体であり、不織布(4)が親水性耐熱繊維用構造体である。不織布(1)〜(4)を、この順序で圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの上に巻き付けて、次工程の加硫成形工程で加硫することにより、不織布(2)の全領域及び不織布(4)の一部の領域に、溶融した不織布(1)及び(3)の樹脂成分が含浸して繊維樹脂混合層を形成するとともに、不織布(4)の未含浸領域が繊維層を形成する。
不織布(1)〜(4)は、それぞれ独立した不織布を巻き付けてもよいが、予め積層して一体化された不織布(1)と不織布(2)との積層体を巻き付けた後、予め積層されて一体化された不織布(3)と不織布(4)との積層体を巻き付けるのが好ましい。予め積層された積層体を用いることにより、巻付工程において、樹脂成分を形成するための不織布と耐熱繊維を形成するための不織布とをそれぞれ別個に巻き付ける必要がなく、一回の巻き付けで済み、作業性及び生産性に優れる上に、別個の巻き付けによる界面への影響(隙間の発生など)も抑制でき、繊維樹脂混合層の均一性を向上できるためか、ベルトの耐発音性及び耐摩耗性も向上できる。なお、樹脂成分を形成するための不織布と耐熱繊維を形成するための不織布との割合は、少なくとも一方の厚みを変更する方法(例えば、巻き付け回数を増やす方法、厚みの異なる不織布を組み合わせる方法など)で容易に調整できる。
本発明では、樹脂成分用構造体を圧縮ゴム層側に配設し、耐熱繊維用構造体又は親水性耐熱繊維用構造体をプーリ側に配設することで、加硫時に軟化又は融解した樹脂を確実に圧縮ゴム層表面に被覆できる。さらに、親水性耐熱繊維用構造体をプーリ側の最表面に配置することで、摩擦伝動面に耐熱繊維の特性(例えば、吸水性、耐摩耗性)を確実に反映できる繊維層を形成できる。また、このような積層形態とすることで、耐熱繊維の多くが圧縮ゴム層内部の界面近傍に埋設されるのを防止できる。すなわち、樹脂成分が耐熱繊維の圧縮ゴム層内部の界面近傍への侵入程度(埋設深さ)を制御するバリアの役割を果たす。
さらに、前記組み合わせのうち、被水時の耐発音性を向上できる点から、不織布(2)の耐熱繊維も親水性耐熱繊維である組み合わせが好ましく、軟化点又は融点が加硫温度以下の熱可塑性樹脂を含む第1の不織布と親水性耐熱繊維を含む第2の不織布との積層不織布同士の組み合わせ(すなわち、同一の積層不織布の組み合わせ)が特に好ましい。同一の積層不織布を用いると、2層構造の積層不織布を第1の不織布を内側(圧縮ゴム層側)にして、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの上に2重に巻き付けることにより、不織布(1)〜(4)のような4層構造の積層体を容易に製造できる。
軟化点又は融点が加硫温度以下の熱可塑性樹脂を含む第1の不織布と親水性耐熱繊維を含む第2の不織布との積層不織布を用いて、繊維層及び繊維樹脂混合層を製造するための模式図を図8に示す。圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの上に、軟化点又は融点が加硫温度以下の熱可塑性樹脂を含む第1の不織布と、親水性耐熱繊維を含む第2の不織布との積層不織布を、前記第1の不織布を内側(圧縮ゴム層側)にして2重に巻き付けると、未加硫ゴムシートの上に、第1の不織布と第2の不織布とが交互に積層される。その結果、加硫前には、図8(a)に示されるように、未加硫ゴムシート13の上に、内側から順に、第1の不織布11a、第2の不織布12a、第1の不織布11b及び第2の不織布12bからなる4層構造の積層体が形成される。この積層体を加硫すると、図8(b)に示されるように、加硫中の加熱及び加圧により、第1の不織布11a及び11bは溶融して第2の不織布12a及び12bに含浸し、圧縮ゴム層16の上で、親水性耐熱繊維及び樹脂成分からなる繊維樹脂混合層14を形成する。詳しくは、第2の不織布12aには、第1の不織布11a及び11bの両方の層から樹脂成分が含浸し、第2の不織布12bには、第1の不織布11bのみから樹脂成分が含浸する。そのため、第2の不織布12aの全領域と、第2不織布12bの一部の領域(下部の領域)とが合わさって繊維樹脂混合層14を形成し、第2の不織布12bのうち、樹脂成分が含浸しない一部の領域(上部の領域)が、樹脂成分を含まない親水性耐熱繊維のみからなる繊維層15を形成する。
繊維樹脂混合層及び繊維層用構造体(特に、前記第1の不織布と第2の不織布との積層不織布)の目付量は、例えば30〜180g/m2、好ましくは50〜150g/m2、さらに好ましくは80〜120g/m2(特に90〜110g/m2)程度である。目付量が小さすぎると、ゴムがベルト表面まで透過してしまい摩擦係数のDRY/WETの差が大きくなり、耐発音性が低下したり、走行により表面層が摩耗して耐発音性が低下する虞がある。一方、目付量が大きすぎると、加硫時のゴムの流れが阻害され、形状不良となる虞がある。なお、各シート状構造体の目付量の比率は、前述の樹脂成分と繊維成分との質量比に応じて調整される。
(加硫成形工程)
加硫成形工程では、巻き付けられた積層シートを金型に押し付けて少なくとも圧縮ゴム層の未加硫ゴムシートを加硫成形できればよいが、Vリブドベルトでは、内周面に複数のリブ型を刻設した外型に成形体を巻き付けた内型を同心的に設置する。このとき、外型の内周面と成形体の外周面との間には所定の間隙が設けられている。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張(例えば1〜6%程度)させて成形体(例えば、繊維樹脂混合層及び繊維層、圧縮ゴム層の未加硫ゴムシート)をリブ型に圧入し、加硫を行う。最後に、内型を外型より抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型より脱型した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。
本発明では、前記加硫成形工程において、加硫温度未満の温度で予備加熱した後、加硫するのが好ましい。すなわち、可撓性ジャケットを膨張させた後の加硫パターンとしては、低温(例えば60〜120℃、好ましくは65〜110℃、さらに好ましくは70〜100℃程度)の状態で所定の時間(例えば2〜20分、好ましくは3〜15分程度)を維持する第一ステップ(予備加熱処理)と、その後、加硫温度(例えば150〜200℃、好ましくは160〜180℃程度)まで温度を上昇させ、この状態で所定の時間(例えば10〜40分、好ましくは15〜30分)を維持する第二ステップとで構成するのが好ましい。ここで、低温として60〜120℃の温度範囲に設定したのは、圧縮ゴム層(特に表層)を形成する未加硫ゴムシート及び樹脂成分用構造体の流動性を小さく(又は少なく)して、耐熱繊維の大部分が圧縮ゴム層内部の界面近傍に取り込まれるのを防止するためである。
このように第一ステップ(低温)と第二ステップ(高温)の二つの温度ステップを設けることで、表面層を積層体で形成する場合は、リブ表面を繊維層及び繊維樹脂混合層で被覆するとともに、繊維樹脂混合層に含まれる耐熱繊維の一部を圧縮ゴム層内部の界面近傍に埋設できる。
なお、前記製造方法は一例であり、この製造方法に限定されるものではなく、材質やその特性に応じて様々に変更できる。例えば、加硫パターンは少なくとも第一ステップと第二ステップとを備えておればよく、第一ステップと第二ステップとの間に他の温度ステップを設けてもよい。
製造方法以外では、部材やその厚みなどを適宜組み合わせて行ってもよく、表面層を積層体で形成する場合、樹脂成分用構造体を構成する熱可塑性樹脂や圧縮ゴム層の未加硫ゴムシートを構成するゴム組成物として流動性の低い材料を用いてもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、各物性における測定方法又は評価方法、実施例に用いた原料を以下に示す。
[視認性]
直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径61mmのテンションプーリ(Ten.)を順に配置した図9にレイアウトを示す試験機を用いて、耐久走行試験を行った。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を4900rpm、アイドラープーリへのベルトの巻き付け角度を120°、テンションプーリへのベルトの巻き付け角度を90°、従動プーリ負荷を11.4kWとし、一定荷重(890N/6rib)を付与してベルトを雰囲気温度120℃で150時間走行させた。走行後のVリブドベルトについて、照度300lx(ルクス)の作業環境にて、図10に示すように、耐久走行試験と同じレイアウトにベルトを取り付けたまま、ベルト側面までの距離を変えながらインジケータ部をベルトの側面から目視で観察し、表1に示す評価点で採点を行なった。
[摩擦係数]
摩擦係数測定試験は、直径121.6mmの駆動プーリ(Dr.)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径61.0mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.3)、直径77.0mmのアイドラープーリ(IDL.4)、直径121.6mmの従動プーリ(Dn.)を順に配置した図11にレイアウトを示す試験機を用いて行った。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、通常走行時(DRY)においては室温条件下で、駆動プーリの回転数を400rpm、従動プーリへのベルト巻き付け角度を20°とし、一定荷重(180N/6rib)を付与してベルトを走行させ、従動プーリのトルクを0〜最大20Nmまで上げていき、従動プーリに対するベルトの滑り速度が最大(100%スリップ)となったときの従動プーリのトルク値より、以下の式を用いて摩擦係数μを求めた。
μ=ln(T1/T2)/α
ここで、T1は張り側張力、T2は緩み側張力、αは従動プーリへのベルト巻き付け角度であり、それぞれ以下の式で求めることができる。
T1=T2+Dn.トルク(kgf・m)/(121.6/2000)
T2=180(N/6rib)
α=π/9(rad)(式中、radはラジアンを意味する)。
注水走行時(WET)は、図12にレイアウトを示すように、駆動プーリの回転数を800rpm、従動プーリへのベルト巻き付け角度を45°(α=π/4)、従動プーリの入口付近に1分間で300mlの水を注水し続ける以外は通常走行時と同じであり、摩擦係数μも上記式を用いて同様に求めた。
[発音限界角度]
ミスアライメント発音評価試験(発音限界角度)は、直径90mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径80mmのテンションプーリ(Ten.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.3)を順に配置した図13にレイアウトを示す試験機を用いて行い、アイドラープーリ(IDL.1)とミスアライメントプーリの軸離(スパン長)を135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、室温条件下で、駆動プーリの回転数が1000rpm、ベルト張力が300N/6ribとなるように張力を付与し、駆動プーリの出口付近においてVリブドベルトの摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメント(ミスアライメントプーリを各プーリに対し手前側にずらす)でベルトを走行させた時の発音(ミスアライメントプーリの入口付近)が発生するときの角度(発音限界角度)を求めた。また、通常走行時(注水しない以外は注水走行時と同じレイアウト、走行条件)においても同様に発音限界角度を求めた。発音限界角度の数値が大きいほど耐発音性に優れていることを示し、被水時及び通常走行時の発音限界角度が2.0°以上であれば、耐発音性は良好と判断した。
[摩耗率]
摩耗試験は、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径85mmのアイドラープーリ(IDL.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径60mmのテンションプーリ(Ten.)を順に配置した図14にレイアウトを示す試験機を用いて行った。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を4900rpm、アイドラープーリ及びテンションプーリへのベルト巻き付け角度を90°、従動プーリ負荷を10.4kWとし、一定荷重(890N/6rib)を付与してベルトを雰囲気温度120℃で24時間走行させた。摩耗率は、摩耗量(=走行前のベルト質量−走行後のベルト質量)を走行前のベルト質量で除して求めた。摩耗率の数値が低いほど耐摩耗性に優れており、この数値が1.4%以下であれば、耐摩耗性は良好と判断した。
[実車被水時異音評価]
試験車両は、排気量1.5リットルの4気筒エンジンを搭載した市販の車両であり、計測開始前のエンジン油温は40℃以下とした。まず、Vリブドベルトを所定の張力でエンジンに取り付け、次に、Vリブドベルトの摩擦伝動面に2cc注水し、最後に、エンジン始動を5回行い、下記の評価点で評価を行い、始動5回のうち最低の評価点をそのベルトの評価点とした。
(評価点)
5…発音なし、許容可
4…発音微小、許容可(ボンネットを閉じると車両横でも異音が聞こえない)
3…発音小、許容可(窓開放状態でも運転席で異音が聞こえない)
2…発音中、許容不可(窓開放状態で、運転席で異音が聞こえる)
1…発音大、許容不可(うるさい)。
[耐久走行試験]
視認性と同一の方法で耐久走行試験を行ったVリブドベルトについて、摩擦係数及び発音限界角度を測定し、実車被水時異音評価を行った。
[150時間走行後表面層残り]
150時間耐久走行試験前後でベルト幅方向と平行方向にベルトを切断し、この切断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製「JSM5900LV」)を用いて観察した。走行前の表面層(繊維樹脂混合層+親水性耐熱繊維層)の厚みと、走行後の表面層の厚みとを測定し、150時間走行後に残った表面層の割合(%)を、走行後の表面層の厚み/走行前の表面層の厚みとして算出した。
[埋設深さ]
Vリブドベルトをベルト幅方向と平行方向に切断し、この切断面(特に、リブ側部)を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製「JSM5900LV」)を用いて、拡大観察(倍率は50倍)して、圧縮ゴム層内部における繊維樹脂混合層との界面近傍に埋設した耐熱性繊維の埋設深さを、以下のようにして測定した。
1)リブ側面は略直線であるため、繊維樹脂混合層と圧縮ゴム層の表層(耐熱繊維埋設層)との境界に沿って直線Aを引く。
2)リブ溝側、リブ先端側、それらの間における任意の5点(耐熱繊維埋設層と、その内側の埋設していない層との境界)から直線Aに向かって垂線Bを引き、垂線Bの長さを求める。
3)2)で求めた5点の垂線Bの長さを平均して、耐熱繊維の埋設深さとする。
[実施例及び比較例で使用される不織布(表面層用構造体)]
小津産業(株)製「ノアストロング」、繊維長10mmのパルプの不織紙とポリプロピレン(PP)長繊維(融点170℃)の不織布との積層体、目付量80g/m2又は100g/m2。
[圧縮ゴム層、伸張層、心線の原料]
EPDMポリマー:デュポン・ダウエラストマージャパン(株)製「IP3640」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW−90」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
ナイロン短繊維:ナイロン66、繊維長約0.5mm
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製「パーカドックス14RP」
心線:1,000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した撚りコード。
実施例1〜7及び比較例1〜2
(圧縮ゴム層及び伸張層の形成)
表2に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、圧縮ゴム層又は伸張層を形成するためのゴムシートを、それぞれ、2.5mm又は0.8mmの厚みで作製した。
(ベルトの製造)
外周面に可撓性ジャケットを装着した内型に未加硫の伸張層用シートを巻き付け、この上に心線を螺旋状にスピニング(ピッチ1.15mm、テンション5kgf)し、更に未加硫の圧縮ゴム層用シートと、表面層用構造体(不織布)を順次巻き付けてベルトを作製した。なお、実施例1〜4及び実施例7並びに比較例1〜2では、表3に示す不織布を、パルプが積層された面が外側(プーリと接触する面)となるように、未加硫圧縮ゴム層用シートの上に2重に巻き付け、表3に示すインジケータ部長さとなるように2周目の巻き終わり位置を巻き初め位置よりも少し手前とした(すなわち、図4に示すように、インジケータ部以外の基部は、不織布が2重になっており、インジケータ部は、不織布が1重となっている)。また、実施例5では、不織布は、パルプが積層された面が外側となるように、未加硫圧縮ゴム層用シートの上に3重に巻き付け、インジケータ部長さが10mmとなるように3周目の巻き終わり位置を巻き初め位置よりも少し手前とした(すなわち、図4に示す形態よりも1周分多く不織布を巻き付けた形態であり、インジケータ部以外の基部は、不織布が3重になっており、インジケータ部は、不織布が2重となっている)。実施例6では、3枚の不織布を用いて、パルプが積層された面が外側となるように巻き付けた。詳しくは、1枚目の不織布(第1のシート状構造体)を未加硫圧縮ゴム層用シートの上に、端部同士が接触して突き合わせとなるように巻き付け、その上に2枚目及び3枚目の不織布(第2及び第3のシート状構造体)を順次にインジケータ部長さが10mmとなるように揃えて巻き付けた(すなわち、図7に示すように、インジケータ部以外の基部は、不織布が3重になっており、インジケータ部は、不織布が1重(1枚目の不織布のみ)となっている)。加硫は、可撓性ジャケットの膨張圧を1.0MPaとし、温度80℃、時間10分で維持(第一ステップ)した後、温度を170℃まで上昇させ、その温度を20分維持(第二ステップ)して行った。加硫完了後は室温付近まで冷却し、外型から内型を抜き取った後、加硫ベルトスリーブを外型より脱型した。作製したVリブドベルトは、ベルト長さが1100mm、リブ形状がK型の6リブであった。得られたVリブドベルトについて、視認性を評価した結果を表3に示す。
表3の視認性の結果から明らかなように、実施例1〜2及び実施例5〜7では、耐久走行試験後のベルト側面100cmの位置からでもインジケータ部において黒色ゴムが露出していることが明確に判別できた。
実施例3では、耐久走行試験後のベルト側面100cmの位置からではインジケータ部の黒色ゴムの露出を明確に判別することはできなかったが、耐久走行試験後のベルト側面70cmの位置からはインジケータ部において黒色ゴムが露出していることが明確に判別できた。
実施例4では、耐久走行試験後のベルト側面100cm及び70cmの位置からではインジケータ部の黒色ゴムの露出を明確に判別することはできなかったが、耐久走行試験後のベルト側面30cmの位置からはインジケータ部において黒色ゴムが露出していることが明確に判別できた。
比較例1及び比較例2では、耐久走行試験後のベルト側面100cm、70cm及び30cmの位置からではインジケータ部の黒色ゴムの露出を明確に判別することはできず、耐久後のベルト側面10cmの位置まで近づくと、インジケータ部において黒色ゴムが露出していることが判別できた。
これらの結果を考察すると、比較例1のように、不織布と圧縮ゴム層の色相が同じ場合には、圧縮ゴム層の露出を見分けるのが困難であることが分かった。また、比較例2のように、不織布と圧縮ゴム層の色相が違っていたとしても、インジケータ部の長さが3mmよりも短い場合も圧縮ゴム層の露出を見分けるのが困難であることが分かった。これらの結果より、本発明の構成要素として、インジケータ部の繊維部材の厚みが基部よりも薄くなっていることに加えて、繊維部材の色が圧縮ゴム層の色と異なっていること、およびインジケータ部の長さが3mm以上必要であることが分かった。圧縮ゴム層には補強のためにカーボンブラックが添加されるのが通常であり、黒と異なる色相を有する表面層(例えば、白、淡褐色、青、黄など)を用いるのがよいと考えられる。ただし、黒色の表面層の適用を除外するものではなく、例えば、圧縮ゴム層を白色のシリカで補強した場合は、黒色の表面層を適用して視認性を上げることも可能である。
実施例4はインジケータ部の長さを3mmとした例である。この場合はベルト側面から30cmの位置まで近づくことでインジケータ部のゴムの露出を判別可能であったが、インジケータ部の長さを10mmとした実施例1よりは視認性が劣った。比較例2、実施例4、実施例1の比較から、インジケータ部の長さは3mm以上が必要であり、視認性を高めるためにはより長くした方がよいことが分かった。
実施例3は不織布の色相を淡褐色とした例である。この場合はベルト側面から70cmの位置まで近づくことでインジケータ部のゴムの露出を判別可能であったが、白色の不織布を用いた実施例1よりは視認性が劣った。繊維部材と圧縮ゴム層の色は、色相(明度)が大きく異なるようにすることで視認性を上げることができるといえる。
実施例1及び実施例2は白色の不織布を用いて、インジケータ部の長さを10mmとした例であるが、ベルト側面から100cmの位置からでもゴムの露出を判別可能であり、最も視認性が高かった。表面層と圧縮ゴム層の色相(明度)を大きく異なるものとし、インジケータ部の長さを長くすることで視認性を上げることができるといえる。
実施例5及び実施例6は、基部に対するインジケータ部の平均厚みを67%及び33%にそれぞれ調整した例であるが、ベルト側面100cmの位置からでもインジケータ部において黒色ゴムが露出していることが明確に判別でき、実施例1及び実施例2と同様に視認性が高かった。
実施例7は、パルプの割合が少ない不織布を用いた例であるが、この例においても、ベルト側面100cmの位置からインジケータ部において黒色ゴムが露出していることが明確に判別でき、実施例1及び実施例2と同様に視認性が高かった。
比較例3
特許文献3(特開2004−92761号公報)のVリブドベルトについて視認性を評価した。すなわち、特許文献3の図3のように接着ゴム層と圧縮ゴム層の間に色相の異なる異色ゴム層(厚み0.4mm)を設け、さらに異色ゴム層の一部を圧縮ゴム層側へ張り出させたVリブドベルトの視認性の評価結果を表4に示す。
視認性の評価点は1であり、ベルト側面10cmまで近づいてもリブ底における異色ゴムの露出は確認できなかった。ベルトを試験機から取り外し、ベルト内周側からリブ底を確認した場合には異色ゴムの露出が確認できた。機械に取り付けたまま、ベルト側面を観察することにより交換時期を判定できる本発明と比べて、利便性が大きく劣る結果であった。
比較例4
未加硫圧縮ゴム層用シートの上に、不織布を突き合わせで(端部同士の隙間を空けずに)1重に巻き付ける以外は実施例1と同様にしてVリブドベルトを製造した。得られたVリブドベルトは、インジケータ部を有していないため、耐久走行試験後は、黒色ゴムが摩擦伝動面全体に露出しており、交換時期の判別はできなかった。
次に、実施例1及び比較例4で得られたVリブドベルトの各種特性を評価した結果を表5に示す。
表5の結果から明らかなように、実施例1及び比較例4ともに新品時(耐久走行前)はミスアライメント発音評価試験においてリブズレまで発音せずに、実車被水異音評価においても評価点5と良好な結果を示した。しかし、耐久走行試験後の耐発音性は実施例1と比較例4で差がみられた。
実施例1では耐久走行試験後もDRYとWET時の摩擦係数の差が0.2と比較的小さな差を保っていたのに対して、比較例4ではその差が0.8と大きくなっていた。さらに、ミスアライメント発音評価試験においては、実施例1が発音限界角度2°以上である3という良好なレベルであったのに対して、比較例4ではWET時の発音限界角度が1°と実車で発生し得るミスアライメント量での発音がみられた。そして、耐久走行試験後の実車被水異音評価においては、実施例1では許容されるレベルの評価点である3を超える4を示しており良好な結果であったが、比較例4では評価点2となり、許容されないレベルであった。
実施例1で得られたVリブドベルトのリブ断面の走査型電子顕微鏡写真を図15に示す。図15から明らかなように、実施例1のベルトのリブ断面では、圧縮ゴム層との表面近傍内部には、繊維樹脂混合層の耐熱繊維が埋設され、その上に、繊維樹脂混合層と繊維層とが形成されていた。なお、圧縮ゴム層に対する耐熱繊維の埋設深さは75μmであった。一方、比較例4で得られたVリブドベルトのリブ断面では、樹脂成分と耐熱繊維とが一体化した繊維樹脂混合層のみ形成され、繊維層は形成されていなかった。