以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
(実施の形態1)
図1に、本発明の半導体レーザ素子の好ましい一例の模式的な断面図を示す。ここで、本発明の半導体レーザ素子100においては、n型GaAsからなる半導体基板101の(100)面上に、n型GaAsからなる下地層102(層厚:0.5μm)、n型AlxGa1-xAsからなるバッファ層103(層厚:0.5μm)、n型Al0.452Ga0.548Asからなる下クラッド層104(層厚:1.88μm)、n型Al0.4Ga0.6Asからなる下ガイド層105(層厚:0.095μm)、多重量子井戸構造を有する活性層106、p型Al0.4Ga0.6Asからなる上ガイド層107(層厚:0.09μm)、p型Al0.5Ga0.5Asからなる第1上クラッド層108(層厚:0.15μm)およびp型GaAsからなるエッチングストップ層109(層厚:4.0nm)がこの順序で積層されている。
ここで、活性層106は、Al0.25Ga0.75Asからなる下部中間層(層厚:3.0nm)上に、Al0.15Ga0.85As障壁層(半導体基板101側から層厚21.5nm、7.9nm、21.5nmの3層)とIn0.072Ga0.928Asからなる圧縮歪量子井戸層(歪0.7%、層厚:4.6nmの2層)とが交互に積層され、さらにその上にAl0.25Ga0.75Asからなる上部中間層(層厚:3.0nm)が積層されて構成されている。
また、エッチングストップ層109上には、ストライプ形状のリッジ部113を構成するp型Al0.5Ga0.5Asからなる第2上クラッド層110(層厚:1.18μm)、p型Al0.5Ga0.5Asからなる第3上クラッド層111(層厚:0.1μm)およびp型GaAsからなるキャップ層112(層厚:0.67μm)が形成されている。
また、リッジ部113の両側のエッチングストップ層109上には、n型Al0.7Ga0.3Asからなる第1電流阻止層121(層厚:0.6μm)、n型GaAsからなる第2電流阻止層122(層厚:0.3μm)およびp型GaAsからなる第3電流阻止層123(層厚:1.05μm)が順次積層されている。
また、リッジ部113上および第3電流阻止層123上を覆って、p型GaAsからなるカバー層131(層厚:3μm)およびp型GaAsからなるコンタクト層132(層厚:0.5μm)が順次積層されている。
また、コンタクト層132上には、Ti膜/Pt膜/Au膜の多層金属薄膜からなるp側電極141が形成されている。また、半導体基板101の裏面上に、AuGe膜/Ni膜/Au膜の多層金属薄膜からなるn側電極142が形成されている。
なお、半導体レーザ素子100において、n型AlxGa1-xAsからなるバッファ層103におけるAlの組成を示すxは、バッファ層103と下地層102との界面からバッファ層103と下クラッド層104との界面に向かって連続的に大きくなっている。半導体レーザ素子100において、上記のxは、バッファ層103と下地層102との界面では0.01となっており、バッファ層103と下クラッド層104との界面ではxは0.452となっている。したがって、バッファ層103と下クラッド層104との界面におけるAlの組成比は下クラッド層104のAlの組成比と同一になっている。
次に、図2〜図6を参照して、図1に示す半導体レーザ素子100の製造方法の好ましい一例について説明する。
まず、図2の模式的断面図に示すように、半導体基板101の(100)面上に、下地層102(Siドーピング濃度:7.2×1017cm-3)、バッファ層103(Siドーピング濃度:7.2×1017cm-3から5.4×1017cm-3に順次減少させる)、下クラッド層104(Siドーピング濃度:5.4×1017cm-3)、下ガイド層105(Siドーピング濃度:5.4×1017cm-3)、活性層106、上ガイド層107(Znドーピング濃度:4×1017cm-3、最上部0.04μmのみ8×1017cm-3)、第1上クラッド層108(Znドーピング濃度:8×1017cm-3)、エッチングストップ層109(Znドーピング濃度:1×1018cm-3)、第2上クラッド層110(Znドーピング濃度:2.4×1018cm-3)、第3上クラッド層111(Znドーピング濃度:2.81×1019cm-3)およびキャップ層112(Znドーピング濃度:1×1020cm-3)をこの順序で従来から公知のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などにより成長させる。
ここで、ドーピング濃度を高くすることにより、層中のキャリア濃度を高くすることができる。したがって、第3上クラッド層111のうちキャップ層112に最も近接している領域のキャリア濃度およびキャップ層112のうち第3上クラッド層111に最も近接している領域のキャリア濃度はそれぞれ、たとえば、上クラッド層のうち第3上クラッド層111とは異なる領域となる第2上クラッド層110のキャリア濃度よりも高くなっている。
バッファ層103の成長においては、バッファ層103の成長開始時点ではAlの組成比xを0.01とし、成長にしたがって連続的にAlの組成比を増加させ、バッファ層103の成長終了時ではAlの組成比xが0.452となるように、材料ガスの流量を変化させていくようにする。ここで、Alの組成比xは、バッファ層103の成長にしたがってほぼ直線状に増加させる。なお、本実施の形態においては、バッファ層103のAlの組成比xを直線状に増加させたが、本発明においては、指数関数状に増加させてもよく、後述するように階段状に増加させてもよい。
また、Alの組成比xの増加にしたがってバッファ層103のエネルギバンドギャップも増加する。したがって、バッファ層103のエネルギバンドギャップの大きさは、半導体基板101のうちバッファ層に最も近接している領域のエネルギバンドギャップの大きさと下クラッド層104のうちバッファ層103に最も近接している領域のエネルギバンドギャップの大きさとの間の大きさとなる。
次に、リッジ部を形成すべき領域(リッジ形成領域114a)上に、レジストマスク115(マスク幅6.0μm)をフォトリソグラフィ工程により形成する。このレジストマスク115は、形成すべきリッジ部が延びる方向に対応して<011>方向にストライプ状に形成される。なお、リッジ形成領域114a以外の領域をリッジ形成外領域114bとする。
次いで、このレジストマスク115をマスクとして、図3の模式的断面図に示すように、レジストマスク115の両側に相当する第2上クラッド層110、第3上クラッド層111およびキャップ層112をエッチングにより除去して、レジストマスク115の直下にストライプ形状のリッジ部113を形成する。
このエッチングは、まず、硫酸と過酸化水素水との混合水溶液を用いて、第2上クラッド層110の途中までを除去する。続いて、エッチングストップ層109の表面が露出するまで第2上クラッド層110を除去する。ここで、リッジ部113の最下部の幅は約3.0μmとする。エッチング終了後に、レジストマスク115を除去する。最後に、水洗を行ない、窒素ガスをブローすることなどによって乾燥させる。
次いで、図4の模式的断面図に示すように、第1電流阻止層121(Siドーピング濃度:2×1018cm-3)、第2電流阻止層122(Siドーピング濃度:2×1018cm-3)および第3電流阻止層123(Znドーピング濃度:1.8×1018cm-3)をこの順序でMOCVD法などにより成長させる。そして、リッジ形成外領域114b上にレジストマスク125をフォトリソグラフィ工程により形成する。
続いて、図5の模式的断面図に示すように、リッジ部113の上部の第1電流阻止層121、第2電流阻止層122および第3電流阻止層123をエッチングにより除去して、キャップ層112の表面を露出させる。その後、レジストマスク125を除去する。
次いで、図6の模式的断面図に示すように、カバー層131(Znドーピング濃度:3×1018cm-3)およびコンタクト層132(Znドーピング濃度:1×1020cm-3)を順次MOCVD法にて成長させる。
そして、コンタクト層132上に蒸着法などにより、Ti膜、Pt膜およびAu膜の順に金属薄膜を積層して、p側電極141を形成する。
その後、半導体基板101を裏面側から所望の厚み(ここでは、約100μm)にまでラッピング法により研削する。そして、半導体基板101を裏面側から蒸着法などによりAuGe膜(Au88%とGe12%との合金)、Ni膜およびAu膜の順に金属薄膜を積層して、n側電極142を形成する。
その後、窒素雰囲気中で390℃で1分間加熱し、電極のアロイ処理を行なう。そして、半導体基板101をリッジ部113のストライプ形状が延びる方向と垂直に、所望の共振器長(ここでは、500μm)に劈開によって分割し、劈開面に端面コーティングを行なうことで、半導体レーザ素子100が作製される。
このようにして作製された半導体レーザ素子100のp側電極141とn側電極142の間に電流を流すと、リッジ部113に集中的に電流が流れ、電流狭窄が行なわれる。よって、リッジ部113の下方の活性層106の領域からたとえば波長850nm以上900nm以下のレーザ光が劈開面から出射する。ここで、出射するレーザ光の波長が850nm以上900nm以下である場合には、半導体レーザ素子100は、IrDA規格に準ずる赤外線通信用の光源として好適に用いることができる。
本発明の半導体レーザ素子は、以下の検討に基づいて、p側およびn側の双方の構造にそれぞれ対策を施したことに特徴がある。
まず、p側について説明する。p側にリッジ部を有する半導体レーザ素子については、リッジ部のヘテロ界面部分に起因する動作電圧の上昇に関して従来から検討なされてきた。たとえば、特許文献3には、AlGaInP系材料で構成された半導体レーザ素子のリッジ部にp−GaInP層を設けた例が示されており、ヘテロ界面部分に起因する動作電圧の上昇が改善されることが記載されている。また、特許文献4には、リッジ部の頂上部にキャリア濃度の高い層を導入することによって、ヘテロ界面部分における動作電圧の上昇を抑制できることが記載されている。
ここで、図1に示す半導体レーザ素子100のリッジ部113について考える。リッジ部113の頂部にはGaAsからなるキャップ層112が設けられている。半導体レーザ素子100においては、上クラッド層がAlGaAsから構成されているため、もしキャップ層112を形成しない場合には、カバー層131を成長しようとする表面にAlGaAsが現れる。そして、AlGaAsはAlを含んでいるため酸化しやすいことから、酸化したリッジ部113の頂部上にカバー層131を成長することになる。しかしながら、リッジ部113の頂部とカバー層131との界面部分は駆動電流が集中して流れる箇所であることから、酸化したリッジ部113の頂部により動作電圧が上昇してしまう。そこで、上クラッド層の上にGaAsからなるキャップ層112を設けることによって動作電圧の上昇を回避することができる傾向にある。
しかしながら、GaAsについては、850nm以上900nm以下が光吸収の有無の境界の波長となっている。したがって、半導体レーザ素子100が850nm以上900nm以下の波長のレーザ光を出射する場合には、レーザ光の波長が動作時の環境温度の変化などによって変動し、キャップ層112におけるレーザ光の吸収量が大きく変化する。したがって、動作環境により半導体レーザ素子の特性が不安定となることがある。
また、特許文献3に記載の方法のように、上クラッド層とキャップ層との間にこれらの中間のバンドギャップを有する中間層を設けて動作電圧の上昇を抑える手法を用いた場合には、中間層の屈折率は上クラッド層の屈折率よりも大きいため、キャップ層に光を引き込みやすくなる傾向にある。
したがって、上クラッド層とキャップ層との間にこれらの中間のバンドギャップを有する中間層を設ける場合には、動作環境により半導体レーザ素子の特性が不安定となることがあることから、上クラッド層とキャップ層との間の界面部分の構造によって動作電圧の上昇を回避する手法としては、上クラッド層とキャップ層との間の界面部分のキャリア濃度を高くする手法が有効であると考えられる。
次に、n側について説明する。従来においては、半導体レーザ素子の動作電圧の上昇を抑制する対策として、n側についてはほとんど注目されてこなかった。これは、n側のキャリアである電子は有効質量がホールに比べて小さいことから、n側におけるバンドギャップエネルギの不連続が半導体レーザ素子の動作電圧の上昇にあまり影響しないと考えられていたのではないかと推測される。
しかしながら、本発明者は、IrDA規格に準ずるような光伝送モジュールに搭載される半導体レーザ素子について、広い温度範囲および様々な通信速度において低消費電力で安定して動作するという特有の課題を解決するためには、p側の構造だけではなく、n側の構造についても対策を施す必要があることを見いだした。
すなわち、n側についても、動作電圧の上昇を抑制する手法としては、半導体基板と下クラッド層との間にこれらの中間のバンドギャップエネルギを有する中間層を導入する手法および半導体基板と下クラッド層との界面部分のキャリア濃度を高くする手法のいずれの手法も有効であると考えられる。しかしながら、n側において、半導体基板と下クラッド層との界面部分のキャリア濃度を高くする手法を用いた場合には、下クラッド層上に成長するすべての層に悪影響を及ぼすことになる。
このような結晶性の悪い層からなる半導体レーザ素子においては、その作製時や作製後の加熱時おいてドーパントが拡散しやすい。上述したようにp側においては、上クラッド層とキャップ層との間の界面部分のキャリア濃度を高くするためにp型ドーパントを高濃度にドーピングさせていることから、p型ドーパントが活性層106に拡散して半導体レーザ素子の発光特性および長期信頼性に多大な悪影響をあたえる可能性がある。半導体基板と下クラッド層との間にこれらの中間のバンドギャップエネルギを有するバッファ層103を導入することが有効であると考えられる。
以上の検討に基づき、本発明者は、上クラッド層のうちキャップ層に最も近接している領域のキャリア濃度およびキャップ層のうち上クラッド層に最も近接している領域のキャリア濃度をそれぞれ上クラッド層の他の少なくとも一部の領域のキャリア濃度よりも高くするとともに、n側のバッファ層のエネルギバンドギャップの大きさを半導体基板のうちバッファ層に最も近接している領域のエネルギバンドギャップの大きさと下クラッド層のうちバッファ層に最も近接している領域のエネルギバンドギャップの大きさとの間にすることによって、これらの相乗効果により、上記の課題を解決することができることを見いだし、本発明を想到するに至った。
次に、上記の半導体レーザ素子100の特性を比較例を示しながら説明する。ここで、比較例としては、2つの半導体レーザ素子を用意した。まず、1つ目は、上記の半導体レーザ素子100の構成の中でバッファ層103をGaAsからなる単一の層(層厚:0.5μm、Siドーピング濃度:7.2×1017cm-3)とし、かつ、第3上クラッド層111のZnドーピング濃度を第2上クラッド層110と同一(Znドーピング濃度:2.4×1018cm-3)とし、キャップ層112のZnドーピング濃度を2×1018cm-3とした比較素子1である。また、2つ目は、半導体レーザ素子100の構成の中でバッファ層103をGaAsからなる単一の層(層厚:0.5μm、Znドーピング濃度:7.2×1017cm-3)としたこと以外は半導体レーザ素子100の構成と同一にした比較素子2である。
図7に、上記の半導体レーザ素子100、比較素子1および比較素子2について、−25℃〜25℃の環境温度で100mAの駆動電流をパルス状に流したときの動作電圧の変化を示す。図7において、縦軸は100mAの駆動電流を流すために必要な動作電圧(V)を示し、横軸は動作時の環境温度(℃)を示している。なお、パルス条件は変調周波数2MHz、duty50%である。
図7に示すように、比較素子1および比較素子2については環境温度を下げていくと動作電圧が上昇していくのに対し、半導体レーザ素子100では動作電圧の変化がほとんど無いことがわかる。
すなわち、環境温度が室温付近(25℃)の場合における動作電圧のみに着目すると、上記の3つの素子は2V程度の動作電圧となっている。しかし、環境温度を低温にしていくと、比較素子1および比較素子2においてはともに動作電圧が上昇してしまう。一方、半導体レーザ素子100においては環境温度が−25℃になるまではほぼ一定の動作電圧で動作する。
図8に、上記の半導体レーザ素子100、比較素子1および比較素子2について、−25℃の環境温度で100mAの駆動電流を流す際の変調周波数と動作電圧との関係を示す。ここで、図8には、SIR、MIR、FIR、VFIRおよびUFIRの各仕様がどの変調周波数に該当するかも記載している。また、図8において、縦軸は−25℃の環境温度で100mAの駆動電流を流すために必要な動作電圧(V)を示し、横軸はそれぞれの素子に流れる駆動電流の変調周波数(MHz)を示している。また、図8において、横軸がDCの場合に対応する縦軸の動作電圧の値は、DC駆動時のそれぞれの素子の動作電圧に該当する。
図8に示すように、環境温度が−25℃の条件下では変調周波数を大きくしていくと、比較素子1および比較素子2と半導体レーザ素子100との間で動作電圧に大きな差が出てくることがわかる。すなわち、半導体レーザ素子100では変調周波数のほぼ全域で動作電圧が2V程度で一定であるのに対し、比較素子1ではDC駆動での2.18Vから0.1MHzまでで2.5V程度まで上昇し、それ以上高い変調周波数域では2.45V程度で一定となり、比較素子2では比較素子1よりも全体的に動作電圧が0.1V程度低いが比較素子1と同様の挙動を示している。
これは、比較素子1および比較素子2を光伝送モジュールに搭載した場合はSIR仕様での動作とUFIR仕様での動作では半導体レーザ素子の動作電圧が大きく変化してしまうことを示している。このように、本発明は、環境温度が低温の場合における動作電圧および高い変調周波数域での動作電圧をそれぞれ安定化させるという課題に着目した上で初めて得ることができる。
本発明に係る半導体レーザ素子100は、環境温度が−25℃〜85℃の広い温度範囲で、DC駆動から100MHz程度の高い変調周波数域までの広範囲にわたって、動作電圧を2V以下、動作電圧の変化を0.1V未満に抑えることができる。したがって、本発明に係る半導体レーザ素子100は、広い温度範囲および様々な通信速度において低消費電力で安定して動作することができる。
図9(a)に、上記の比較素子1および比較素子2の下地層、バッファ層および下クラッド層のエネルギバンドギャップの模式図を示す。また、図9(b)に、上記の半導体レーザ素子100の下地層、バッファ層および下クラッド層のエネルギバンドギャップの模式図を示す。なお、図9(a)および図9(b)において、Ecは伝導帯の下端を示し、Evは価電子帯の上端を示している。また、上記の半導体レーザ素子100、比較素子1および比較素子2においては、半導体基板と下地層の材質は同じであることから、半導体基板のエネルギバンドギャップと下地層のエネルギバンドギャップとは同じ大きさとなる。
図9(a)に示すように、比較素子1および比較素子2においては、バッファ層と下クラッド層の間にスパイクが発生している。これは、下地層側から伝導帯に供給される電子にとってバリアとなっている。室温レベルでの動作や、低い周波数での動作の場合は、キャリアが電子で有効質量が小さいこともあり、キャリアの通過に要する動作電圧は小さい。しかし、環境温度が低下するとともに、電子がこのスパイクをトンネルする確率や、オーバーフローする確率が低下してしまい、動作電圧が上昇してしまう。
一方、半導体レーザ素子100については、図9(b)に示すように、大きなスパイクが形成されない。従って電子の注入がほとんど障害なく行なうことができ、低温の環境温度においても低く安定した動作電圧を得ることができる。
よって、これにより図7に示すように動作電圧の温度依存性に差が現れると考えられる。なお、25℃以上の環境温度は図7には示していないが、半導体レーザ素子100、比較素子1および比較素子2のいずれの素子においても1.85V付近に収束していく。
また、図8に示すように、素子の動作電圧が変調周波数に依存することについては素子内部の温度で説明できる。すなわち、低い変調周波数で動作させる場合は1つ1つのパルス状に流れる駆動電流の注入時間が長くなり、たとえ低温の環境温度で動作させていても素子内部の温度が上昇するため、比較素子1および比較素子2であってもスパイクによる影響が小さくなる。一方、高い変調周波数で動作させると駆動電流の注入時間が短くなって素子内部の温度があまり上昇しなくなり、比較素子1および比較素子2においては電子がスパイクを通過するのに必要な動作電圧が上昇してしまう。
なお、図8において0.1MHzより高い変調周波数では動作電圧が一定になっている。これは、dutyが50%であるためにパルス同士の間隔も短くなり、1つのパルス状の駆動電流の注入で発生した熱が放熱されないうちに次のパルス状の駆動電流が流れるようになって、素子内部の温度が安定してしまうためと考えられる。
上記の半導体レーザ素子100のバッファ層103においては、エネルギバンドギャップを連続的に変化させているが、本発明においては段階的に変化させてもよい。たとえば、バッファ層103を半導体基板101側からAl0.11Ga0.89As(層厚:0.17μm、Znドーピング濃度:6.8×1017cm-3)からなる第1バッファ層、Al0.22Ga0.78As(層厚:0.17μm、Znドーピング濃度:6.3×1017cm-3)からなる第2バッファ層およびAl0.33Ga0.67As(層厚:0.17μm、Znドーピング濃度:5.9×1017cm-3)からなる第3バッファ層の3層構造に置き換えてバッファ層のAlの組成比を階段状に増加させ、エネルギバンドギャップを階段状に増加させた場合でも、動作電圧特性は図7および図8のデータとほとんど同じ値が得られる。
このように、バッファ層を3層構造とした場合には、各バッファ層間、バッファ層と下地層102との間およびバッファ層と下クラッド層104との間に複数のヘテロバリアができ、それぞれにスパイクが発生することになる。しかし、互いの層間のAl組成比の差が小さいため、それぞれのスパイクは−25℃程度の環境下では影響が無いほどに小さくなり、動作電圧を低減することができると考えられる。
ただし、バッファ層のエネルギバンドギャップは、たとえば直線状または指数関数状などのように半導体基板側から下クラッド層側にかけて連続的に増加させることによってスパイクの発生を低減することができるため、動作電圧をより低減することができる傾向にある。
また、バッファ層と下クラッド層とが接している場合には、バッファ層のうち下クラッド層と接している領域のエネルギバンドギャップの大きさが下クラッド層のうちバッファ層と接している領域のエネルギバンドギャップの大きさと同じであることが好ましい。この場合には、バッファ層と下クラッド層との間においてスパイクの発生を低減することができるため、動作電圧をより低減することができる傾向にある。また、本発明において、「バッファ層のうち下クラッド層と接している領域のエネルギバンドギャップの大きさが下クラッド層のうちバッファ層と接している領域のエネルギバンドギャップの大きさと同じ」とは、これらの領域のエネルギバンドギャップの差の絶対値が0.03eV以下であることを意味する。
また、上クラッド層のうちキャップ層に最も近接している領域のキャリア濃度およびキャップ層のうち上クラッド層に最も近接している領域のキャリア濃度がそれぞれ1×1019cm-3以上であることが好ましく、2×1019cm-3以上であることがより好ましい。上記のキャリア濃度が1×1019cm-3以上である場合には、上クラッド層とキャップ層との間における動作電圧の上昇をより抑えることができる傾向にある。特に、上記のキャリア濃度が2×1019cm-3以上である場合には、上クラッド層とキャップ層との間における動作電圧の上昇をさらに確実に抑えることができる傾向にある。
なお、半導体レーザ素子110は、リッジ部113の両側に半導体からなる電流狭窄層を有する構成となっているが、リッジ部113内に電流を狭窄する構成であればこれに限定されない。例えば、リッジ部113の両側に絶縁体を形成した構成または、何も形成せず空間となっている構成の半導体レーザ素子でも同様の効果が得られる。
(実施の形態2)
図10に本発明の光伝送モジュールの好ましい一例の模式的な斜視図を示し、図11に図10に示す光伝送モジュールを側面から見たときの模式的な構成を示す。
光伝送モジュール200は、回路基板201上に、データ送信のための発光部210と、データ受信のための受光部220と、を備えており、電源電圧の入力およびデータ信号の入出力などのための(1)〜(7)の端子からなる端子部240を回路基板201に備えている。ここで、発光部210は、上記の半導体レーザ素子100と半導体レーザ素子100から出射したレーザ光を整形するための送信用光学子としての送信用レンズ212とを含んでおり、受光部220は、フォトダイオード素子221と外部からの受信光を集光するための受信用光学子としての受信用レンズ222とを含んでいる。また、回路基板201上の半導体レーザ素子100とフォトダイオード素子221との間には光伝送モジュール200を動作させるための集積回路素子230が設置されている。
図11に示すように、半導体レーザ素子100は回路基板201上のn側実装面251上に実装されており、フォトダイオード素子221は回路基板201上のn側実装面(図示せず)上に実装されている。また、半導体レーザ素子100はボンディングワイヤ216により、フォトダイオード素子221はボンディングワイヤ226により、それぞれ、回路基板201上の配線に接続されている。
また、図10および図11に示すように、半導体レーザ素子100の上面にはシリコーン樹脂214がモールドされており、回路基板201の上面には、シリコーン樹脂214、フォトダイオード素子221および集積回路素子230を覆うようにして波長850nm以上900nm以下の光に対して透明なエポキシ樹脂202がモールドされている。なお、モールドされたエポキシ樹脂202自体がその形状によって送信用レンズ212および受信用レンズ222を一体的にそれぞれ形成している。
図12に、図10および図11に示す光伝送モジュールのモールド樹脂が形成されていない状態の模式的な斜視図を示す。また、図13に、図10および図11に示す光伝送モジュールの回路基板201の模式的な斜視図を示す。なお、回路基板201はその上面および下面の両面に金属の配線がなされているため、図13には回路基板201の上面および下面の両方を示している。
図12に示すように、半導体レーザ素子100、フォトダイオード素子221および集積回路素子230はそれぞれn側を下にして実装される。なお、図13に示すように、回路基板201の上面には、半導体レーザ素子100を実装するためのn側実装面251、フォトダイオード素子221を実装するためのn側実装面252および集積回路素子230を実装するためのn側実装面253がそれぞれ配線として形成されている。
また、図12に示すように半導体レーザ素子100を実装するためのn側実装面251は中央に凹部213(深さ約300μm)が形成されており、半導体レーザ素子100はその底に銀ペーストで実装されている。
ここで、アースに接続されるグラウンド端子(1)は図13に示すように回路基板201の下面の配線260a、ビアホール270aおよびn側実装面253を介して集積回路素子230のn側面に接続されている。
また、受信データに相当する電気信号を出力するためのデータ出力端子(2)は、回路基板201の下面の配線260bおよびビアホール270bを介して回路基板201の上面の配線256に接続されており、配線256は図12に示すようにボンディングワイヤ273によって集積回路素子230に接続されている。
また、端子(3)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260cおよびビアホール270cを介して回路基板201の上面の配線257に接続されており、配線257は図12に示すようにボンディングワイヤ274によって集積回路素子230に接続されている。
また、電源電圧を入力するための電源端子(4)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260dおよびビアホール270daを介して回路基板201の上面の配線255に接続されており、配線255は図12に示すようにボンディングワイヤ280によって集積回路素子230に接続されている。
また、電源端子(4)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260dおよびビアホール270dbを介して回路基板201の上面の配線254に接続されており、配線254は図12に示すようにボンディングワイヤ216によって半導体レーザ素子100のp側電極に接続されている。そして、半導体レーザ素子100はn側実装面251に実装されており、n側実装面251はボンディングワイヤ279によって集積回路素子230に接続されている。
また、端子(5)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260eおよびビアホール270eを介して回路基板201の上面の配線259に接続されており、配線259は図12に示すようにボンディングワイヤ278によって集積回路素子230に接続されている。
また、送信データに相当する電気信号を入力するためのデータ入力端子(6)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260fおよびビアホール270fを介して回路基板201の上面の配線258に接続されており、配線258は図12に示すようにボンディングワイヤ276によって集積回路素子230に接続されている。
また、半導体レーザ素子100を駆動するための端子(7)は、図13に示すように、回路基板201の下面の配線260hおよびビアホール270hを介して回路基板201の上面のn側実装面251に接続されており、n側実装面251は図12に示すようにボンディングワイヤ279によって集積回路素子230に接続されている。
また、フォトダイオード素子221のn側電極は、n側実装面252およびボンディングワイヤ274によって集積回路素子230に接続されている。また、フォトダイオード素子221のp側電極は、ボンディングワイヤ226、回路基板201の上面の配線250およびボンディングワイヤ277を介して集積回路素子230に接続されている。
この光伝送モジュール200において、グラウンド端子(1)と電源端子(4)との間に電圧を印加した状態で、データ入力端子(6)より送信データに相当する電気信号を入力すると、集積回路素子230により、半導体レーザ素子100からレーザ光が出射し、光信号によるデータを外部に送信する。また、受光部220のフォトダイオード素子221に外部から光信号による受信データが入力されると、集積回路素子230により、データ出力端子(2)から受信データに相当する電気信号が出力される。
図14に、図10および図11に示す光伝送モジュールの模式的な電気回路図を示す。集積回路素子230の内部には、主として、半導体レーザ素子駆動回路231、フォトダイオード素子駆動回路232およびその他の制御回路233が組み込まれている。
ここで、データ出力端子(2)はフォトダイオード素子駆動回路232に接続されている。また、制御回路233に接続されている端子(3)および端子(5)は、たとえば光伝送モジュールの送受信動作停止など特定の命令信号を入力するためなどに設けられている。
半導体レーザ素子駆動回路231には、半導体レーザ素子100に流れる駆動電流量を直接制御する能動素子の一例としてトランジスタ281が設けられている。本実施の形態では能動素子としてnチャンネル型MOSトランジスタが設けられている。このトランジスタ281の3つの端子S、DおよびGはそれぞれソース、ドレインおよびゲートを示している。
半導体レーザ素子100は電気的には電源端子(4)とトランジスタ281のドレインDとの間に接続されている。そして、トランジスタ281のソースSは、半導体レーザ素子駆動回路231の内部の抵抗282を介してグラウンド端子(1)に接続されている。よって、光伝送モジュール200に印加される電源電圧は、半導体レーザ素子100、トランジスタ281および抵抗282の3つに直列にかかることになる。
また、データ入力端子(6)は半導体レーザ素子駆動回路231に接続されている。また、データ入力端子(6)は半導体レーザ素子駆動回路231の内部にある主回路部283に接続されており、主回路部283はトランジスタ281のゲートGに接続されている。データ入力端子(6)から入力された送信データを基にして主回路部283によりゲートGに印加される電圧が制御され、ソースSとドレインD間の電流をON/OFFすることによって半導体レーザ素子100への電流の注入の有無が制御される。
このような構成の光伝送モジュールにおいて、電源端子(4)とグラウンド端子(1)との間に電圧を印加すると集積回路素子230が駆動する。そして、集積回路素子230が駆動した状態でデータ入力端子(6)に送信データに相当するパルス状の電気信号を入力すると、半導体レーザ素子駆動回路231の制御により半導体レーザ素子100に所定の駆動電流がその電気信号に応じたパターンで流れ、所定の光出力でレーザ光が出射する。
一方、フォトダイオード素子221に受信データに相当する光が入射すると、フォトダイオード素子221からフォトダイオード素子駆動回路232に電流が流れ、それに応じた受信データに相当する電気信号がデータ出力端子(2)から出力される。
なお、半導体レーザ素子100を駆動させるための端子(7)は、端子(7)と電源端子(4)との間に電流を流すことによって、半導体レーザ素子100のみを別駆動で発光させることができる。
なお、トランジスタ281は、ゲートGに電圧が印加されない場合は、ソースS−ドレインD間には電流は流れない。そして、ゲートGに電圧が印加されると、図16に示すような特性を示す。図16において、横軸はソースS−ドレインD間電圧VDSを示し、縦軸はソースS−ドレインD間電流IDSを示している。図16に示す曲線のうち、破線付近を境に、VDSに対するIDSの依存性の大きい領域が一般に遷移領域と呼ばれ、その依存性の小さい領域が飽和領域と呼ばれており、本実施の形態においては、トランジスタ281は飽和領域を用いて動作させている。
図14に示すように、トランジスタ281のドレインD側には半導体レーザ素子100および電源端子(4)が電気的に直列に接続されており、ソースS側には抵抗282およびグラウンド端子(1)が電気的に直列に接続されている。したがって、電源端子(4)とグラウンド端子(1)との間に印加された電圧から、半導体レーザ素子100の動作電圧および抵抗282にかかる電圧(配線抵抗も含む)を差し引いた電圧がVDSとなるが、本実施の形態の光伝送モジュール200はこのVDSが図16における飽和領域となるように設計されている。
よって、電源端子(4)とグラウンド端子(1)との間に電圧を印加した状態でゲートGに電圧が印加されると、トランジスタ281のソースS−ドレインD間に所定の電圧VDSがかかり、これにより図16のIDSで表される大きさの電流がソースS−ドレインD間に流れることになる。そして、これと同じ大きさの電流が半導体レーザ素子100にも流れ、半導体レーザ素子100はそれに応じた光出力でレーザ光を出射することになる。
理想的なトランジスタにおいては、図16の飽和領域ではVDSの大きさにかかわらずIDSが一定であり、それにより半導体レーザ素子を同じ光出力でレーザ光を出射させることができる。しかし、実際に製造されるトランジスタは飽和領域でもIDSはVDSに対して依存性を有している。したがって、VDSが変動するとIDSが変動し、半導体レーザ素子100から出射されるレーザ光の光出力も変動することになる。VDSの変動を抑制するためには、トランジスタと直列に接続されている半導体レーザ素子100の動作電圧の変動を抑制する必要がある。そこで、本実施の形態の光伝送モジュール200においては、動作電圧の変動の小さい半導体レーザ素子100を用いることによってVDSの変動を抑制できる構成となっている。
また、光伝送モジュール200が使用される環境温度は−25〜85℃程度の範囲が想定され、光伝送モジュール200に搭載される半導体レーザ素子100はSIRからUFIRまでで2.5kHz〜100MHzの間の周波数で変調動作させることが想定される。この条件において、実施の形態1における半導体レーザ素子100の動作電圧は、環境温度が85℃および周波数が2.5kHzの条件で最小の1.82Vとなり、環境温度が−25℃および周波数が100MHzの条件で最大の1.92Vとなる。よって、半導体レーザ素子100の動作電圧の最大値と最小値との差は0.1Vである。
一方、上記の条件において、比較素子1の動作電圧は、環境温度が85℃および周波数が2.5kHzの条件で最小の1.95Vとなり、環境温度が−25℃および周波数が100MHzの条件で2.45Vとなる。よって、比較素子1の動作電圧の最大値と最小値との差は0.5Vである。
したがって、光伝送モジュール200に実施の形態1の半導体レーザ素子100を用いた場合には、比較素子1を用いた場合と比べて、動作電圧のばらつきが小さくなることから、トランジスタ281のVDSの変動を抑制でき、光伝送モジュール200を構成する電気回路に流れる電流のばらつきを低減することができる。これにより、光伝送モジュール200に搭載された半導体レーザ素子100に流れる電流量のばらつきを低減することができるため、半導体レーザ素子100から出射するレーザ光の光出力のばらつきを低減することができる。
ここで、光伝送モジュールにおいて発光部の光源の光出力が低い場合には相手方の光伝送モジュールの受光部への入射光量が落ちるため、通信可能な距離が低下したり、高速での通信が行えなくなったりするという問題が発生する。一方、光源の光出力が高い場合には、半導体レーザ素子特有の発光端面部での劣化を引き起こすという問題が発生する。
したがって、上記の実施の形態1の半導体レーザ素子100を搭載した光伝送モジュール200においては、半導体レーザ素子100の光出力のばらつきを低減することができることから、上記の問題の発生が大きく低減できると考えられる。
なお、上記においては、トランジスタ281としてnチャンネル型MOSトランジスタが用いられているが、pチャンネル型MOSトランジスタを用いることも可能である。pチャンネル型MOSトランジスタのVDS−IDS特性は、nチャンネル型以上にVDSに対するIDSの変化が大きいため、本実施の形態のように、半導体レーザ素子100を搭載することによる効果がより大きくなる。
図15に、図10および図11に示す光伝送モジュール200の発光部210の模式的な構成を示す。ここで、n側実装面251の凹部213は、半導体レーザ素子100から出射したレーザ光を散乱する光散乱部としてのシリコーン樹脂214によって埋められている。ここで、シリコーン樹脂214中には、半導体レーザ素子100からのレーザ光を散乱するためのフィラー(たとえば、平均粒径1μm程度のポリスチレン粒子など)が混入されている。
シリコーン樹脂214は、液状のシリコーン樹脂を凹部213に適量滴下した後に約80℃で約5分間加熱して硬化させることにより形成される。そして、シリコーン樹脂214上をエポキシ樹脂202で被覆し、送信用レンズ212を形成している。
このような構成の発光部210において半導体レーザ素子100を駆動させた場合には、図15に示すように、半導体レーザ素子100の端面からレーザ光が水平方向に出射する。そして、レーザ光は、シリコーン樹脂214に入射して、シリコーン樹脂214内のフィラーにより散乱されながら進む。そして、凹部213の側面のn側実装面251で反射して上方に向かう。その後、レーザ光は、シリコーン樹脂214の上面部で透明なエポキシ樹脂202に入射し、さらに送信用レンズ212で整形されて外部に放出される。
本発明に係る光伝送モジュール200は、上記の実施の形態1の半導体レーザ素子100が搭載されているために、−25℃〜85℃程度の広い温度範囲およびたとえばUFIRとSIRのような大きく異なる通信速度でも安定してデータ送信をすることができる。
(実施の形態3)
図17に、本発明の発光モジュールの好ましい一例の模式的な構成を示す。この発光モジュール300は、上記の実施の形態2の光伝送モジュール200から受光部220を省いて構成されており、データ送信専用のモジュールとなっている。
発光モジュール300は、データ送信のための発光部210を有しており、発光部210は実施の形態1の半導体レーザ素子100および半導体レーザ素子100から出射されたレーザ光を整形する送信用光学子としての送信用レンズ212を含んでいる。また、半導体レーザ素子100の横側には、発光モジュール300を動作させるための集積回路素子230が設置されている。
また、光伝送モジュール200と同様に、半導体レーザ素子100が搭載される部分には深さ約300μmの凹部213が設けられている。この凹部213の表面にはn側実装面251が設けられている。この凹部213の底の実装面251上に半導体レーザ素子100のn側電極を銀ペーストで固定している。半導体レーザ素子100のp側電極に相当する上面部は、回路基板201上の配線254とボンディングワイヤ216によって電気的に接続されている。凹部213は光散乱部としてのシリコーン樹脂214で埋められている。シリコーン樹脂214中には、光を散乱するためのフィラー(たとえば、平均粒径1μm程度のポリスチレン粒子など)が分散して混入されている。
また、回路基板201の上面には、n側実装面251および配線254以外にも、光伝送モジュール200と同様に、集積回路素子を実装するためのn側実装面や他の配線が形成されている。また、回路基板201の下面には、電源電圧を入力するための電源端子、送信データに相当する電気信号を入力するためのデータ入力端子およびグラウンド端子など複数の端子に繋がる金属の配線が形成されている。さらに、回路基板201の上面の配線と下面の配線とはビアホールで電気的に接続されている。
回路基板201の上面には半導体レーザ素子100および集積回路素子230を覆うようにして850nm以上900nm以下の波長の光に対して透明なエポキシ樹脂202がモールドされている。そして、モールドされたエポキシ樹脂202自体がその形状により、送信用レンズ212の役割を兼ねており、半導体レーザ素子100の上方に送信用レンズ212が配置されるように一体的に形成される。
集積回路素子230は、送信データに相当する電気信号を基に半導体レーザ素子100で送信データに相当するレーザ光を出射するための半導体レーザ素子駆動回路を有し、半導体レーザ素子駆動回路中には半導体レーザ素子100への電流の注入の有無を制御するためのトランジスタが設けられている。
以上のように、発光モジュール300においては、発光部210および半導体レーザ素子駆動回路231などデータ送信に関わる部分は実施の形態2の光伝送モジュール200と同様に構成されており、トランジスタ281と半導体レーザ素子100がグラウンド端子と電源端子の間で電気的に直列に接続されている。
したがって、発光モジュール300は、光伝送モジュール200と同様に、−25℃〜85℃程度の広い温度範囲およびたとえばUFIRとSIRのような大きく異なる通信速度でも低消費電力で安定してデータ送信をすることができる。
(実施の形態4)
図18に、本発明の電子機器の利用形態の好ましい一例の模式図を示す。本発明の電子機器の一例である携帯型電子機器としての携帯電話401には、その表面部に実施の形態2の光伝送モジュール200が搭載されている。また、本発明の電子機器の一例である屋外設置型電子機器としての基地局402にも実施の形態2の光伝送モジュール200が搭載されている。
このように携帯電話401および基地局402の双方がそれぞれ実施の形態2の光伝送モジュール200を備えることによって、携帯電話401の光伝送モジュール200と基地局402の光伝送モジュール200との間で光信号を送受信する光伝送システムを構築することができる。
携帯電話401の光伝送モジュール200の発光部210の半導体レーザ素子100から発せられた送信データに相当する光信号は、基地局402の光伝送モジュール200の受光部220のフォトダイオード素子221によって受信される。また、基地局402の光伝送モジュール200の半導体レーザ素子100から発せられた光信号は、携帯電話401の光伝送モジュール200のフォトダイオード素子221によって受信される。このようにして、赤外線光によるデータ通信を実現することができる。
上述したように、携帯電話401および基地局402にそれぞれ搭載されている実施の形態2の光伝送モジュール200は、−25℃程度の環境温度でも安定して動作するため、これを搭載した携帯電話401や基地局402はこのような低い環境温度でも大容量のデータを安定して通信することが可能となる。
携帯電話401および基地局402にそれぞれ搭載されている実施の形態2の光伝送モジュール200は、実施の形態1の半導体レーザ素子100を搭載しているため、光伝送モジュール200の消費電力を従来よりも大幅に低く抑えることができる。
また、携帯電話401のような携帯型電子機器に実施の形態2の光伝送モジュール200を搭載した際には、バッテリー駆動時間を従来よりも長くでき、より快適に携帯型電子機器を使用することができるようになる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
100,600 半導体レーザ素子、101 半導体基板、102 下地層、103 バッファ層、104 下クラッド層、105 下ガイド層、106 活性層、107 上ガイド層、108 第1上クラッド層、109 エッチングストップ層、110 第2上クラッド層、111 第3上クラッド層、112 キャップ層、113,610 リッジ部、114a リッジ形成領域、114b リッジ形成外領域、115 レジストマスク、121 第1電流阻止層、122 第2電流阻止層、123 第3電流阻止層、125 レジストマスク、131 カバー層、132 コンタクト層、141,621 p側電極、142,622 n側電極、200,500 光伝送モジュール、201,501 回路基板、202,502 エポキシ樹脂、210,510 発光部、212,512 送信用レンズ、213 凹部、214 シリコーン樹脂、216,226,273,274,275,276,277,278,279,280,516,526 ボンディングワイヤ、220,520 受光部、221,521 フォトダイオード素子、222,522 受信用レンズ、230,530 集積回路素子、231 半導体レーザ素子駆動回路、232 フォトダイオード素子駆動回路、233 制御回路、240,540 端子部、250,254,255,256,257,258,259,260a,260b,260c,260d,260e,260f,260h 配線、251,252,253 n側実装面、270a,270b,270c,270da,270db,270e,270f,270h ビアホール、281 トランジスタ、282 抵抗、283 主回路部、300 発光モジュール、401 携帯電話、402 基地局、511 発光ダイオード素子、601 n型GaAs基板、602 n型GaAs下地層、603 n型AlGaAs下クラッド層、604 活性層、605 p型AlGaAs上クラッド層、606 p型GaAsキャップ層、607 電流阻止層、608 p型GaAsコンタクト層。