本発明者は、バインダを使用しなくても、炭素供給成分の発塵や偏析を防止し得る新規な粉末冶金用混合粉末を提供するため、特に、カーボンブラックに着目して鋭意検討してきた。その結果、炭素供給成分として、従来のように黒鉛粉末のみを使用するのではなく、(a)後に詳述する第1の粉末冶金用混合粉末のように、黒鉛粉末とカーボンブラックを所定比率で含有する混合物を用いれば、所期の目的が達成されること、また、(b)後に詳述する第2の粉末冶金用混合粉末のように、フタル酸ジブチル(dibutylphthalate、DBP)吸収量および窒素吸着比表面積が所定の範囲に制御されたカーボンブラックを、炭素供給成分中最も多い比率で含有するように用いる(上記要件を満足するカーボンブラックのみを含み、黒鉛粉末を含まなくてもよい)と所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
本明細書では、説明の便宜上、炭素供給成分として、黒鉛粉末およびカーボンブラックを、黒鉛粉末:カーボンブラック=25〜85質量部:75〜15質量部の範囲内で含有する混合物を用いた粉末冶金用混合粉末の発明を、「本発明の第1の粉末冶金用混合粉末」または「第1の混合粉末」または「第1の発明」と呼び、一方、炭素供給成分として、フタル酸ジブチル吸収量が60mL/100g以下で、且つ、窒素吸着比表面積が50m2/g以下であるカーボンブラックを、炭素供給成分中最も多い比率で含有する粉末冶金用混合粉末の発明を、「本発明の第2の粉末冶金用混合粉末」または「第2の混合粉末」または「第2の発明」と呼ぶ。
以下に詳述するように、本発明の第1の粉末冶金用混合粉末は、黒鉛粉末とカーボンブラックとの混合粉末であって、且つ、混合比率が限定された混合粉末の使用を前提としており、カーボンブラックの品種(特性)は特に問わないものである。
これに対し、本発明の第2の粉末冶金用混合粉末は、所定の特性を備えたカーボンブラックを用い、当該カーボンブラックを炭素供給成分中最も多い比率で使用することを前提としている。上記の前提条件を満足する限り、炭素供給成分は、例えば、(ア)当該カーボンブラックと黒鉛粉末との混合粉末であっても良いし、(イ)当該カーボンブラックのみ(黒鉛粉末なし)であっても良い。あるいは、上記(ア)および(イ)のそれぞれにおいて、当該カーボンブラック以外のカーボンブラック(すなわち、フタル酸ジブチル吸収量:60mL/100g以下で、且つ、窒素吸着比表面積:50m2/g以下の要件を満足しないカーボンブラック)を含んでいてもよい。
本発明では、混合粉末の指標(合格基準)を、(ア)遊離カーボン量が30質量%以下(好ましくは10質量%以下)であり、且つ、(イ)成形圧力が490MPaで圧粉体にしたときの密度が6.70g/cm3以上(好ましくは6.80g/cm3以上)を満足するものと定めた。本発明において、第1および第2の粉末冶金用混合粉末の好ましい合格基準は若干相違しており、第1の混合粉末における好ましい合格基準は、(ア)遊離カーボン量:30質量%以下、且つ、(イ)成形圧力が490MPaで圧粉体にしたときの密度:6.80g/cm3以上とし、一方、第2の混合粉末における好ましい合格基準は、(ア)遊離カーボン量:10質量%以下、(イ)成形圧力が490MPaで圧粉体にしたときの密度:6.70g/cm3以上を合格基準とした。第1の粉末冶金用混合粉末では、特に、高密度の圧粉体を製造可能な混合粉末を提供するという観点から、上記のように圧粉体の密度を高く設定しており、一方、第2の粉末冶金用混合粉末では、特に、炭素供給成分の発塵や偏析を一層著しく低減し得る混合粉末を提供するという観点から、遊離カーボン量の上限を厳しく設定している。
以下、第1の発明および第2の発明に用いられる炭素供給成分について、それぞれ、詳細に説明する。
(本発明の第1の粉末冶金用混合粉末)
本発明の第1の発明に到達した経緯は、以下のとおりである。
本発明者は、バインダ不要の粉末冶金用混合粉末であって、特に好ましくは、高密度の圧粉体を製造可能な混合粉末を提供するため、特に、炭素供給成分に着目して検討を行なってきた。
本発明者は、まず、カーボンブラックのみを用いて実験を行なった。その結果、黒鉛粉末の代わりにカーボンブラックを使用すると、概して、混合粉末の遊離カーボン量(Closs)は少なくなり、炭素供給成分の発塵や偏析を低減できることが分かった。ところが、カーボンブラックの品種(フタル酸ジブチル吸収量、比表面積、粒子径)によっては、鉄基粉末への均一な混合が困難であり、黒鉛粉末を用いた場合に比べて発塵や偏析の程度が上昇すること、更には、圧粉成形によっても充分な強度を有する圧粉体が得られないことが、本発明者の実験によって判明した。
実用性の観点を重視すれば、適用できるカーボンブラックの品種が制限されることは適切でない。
そこで、本発明者は、カーボンブラックの品種にかかわらず、カーボンブラックを炭素供給成分として利用する新規技術を提供するという観点から、更に検討を重ねてきた。その結果、炭素供給成分として、カーボンブラックのみを用いるのではなく、カーボンブラックと黒鉛粉末を所定比率で含有する混合物を用いることによって、カーボンブラックの品種にかかわらず、混合粉末に要求される特性(炭素供給成分の発塵や偏析を防止できる)を満足するものを提供できることがわかった。更に、上記の混合物を含有する粉末冶金用混合粉末は、圧粉体に加圧成形したときの特性(圧粉体の密度およびラトラ値)も良好であり、最終製品である焼結体としたときの特性(密度、圧環強度、硬さ)も優れていることを見出し、本発明に到達した。
本発明のように黒鉛粉末とカーボンブラックとを所定比率で併用することにより、所望の特性をすべて兼ね備えた粉末冶金用混合粉末が得られるメカニズムは、詳細には不明であるが、以下のように推察される。カーボンブラックを黒鉛粉末と混合すると、カーボンブラック粒子同士の凝着・固着を防止できるため、カーボンブラックの品種にかかわらず、鉄基粉末への均一な混合が可能となり、発塵や偏析の程度を低減できることが考えられる。また、カーボンブラックを黒鉛粉末と混合すると、黒鉛粉末粒子を覆うようにしてカーボンブラック粒子が存在し、このような被覆形態を有するカーボンブラックが鉄基粉末に付着するため、鉄基粉末への付着性に乏しい黒鉛粉末の使用が可能になることが考えられる。
まず、本発明に用いられるカーボンブラックについて説明する。
一般に、カーボンブラックは、ほぼ95質量%以上の無定形炭素質からなり、比表面積が最大で1000m2/g前後にもおよぶ微粒粉体である。カーボンブラックは、個々の粒子同士が融着し、三次元的に広がった連鎖状または房状の凝集体(ストラクチャーと呼ばれる。)として存在している。
カーボンブラックの特性は、主に、粒子形態(粒径、比表面積など)、粒子の凝集形態、および粒子表面の物理化学的性状に基づいて評価される。本発明では、これらの特性について限定するものではなく、本発明の作用を損なわない範囲で、適切な範囲のものを選択することができる。
ただし、混合粉末に要求される上記特性を一層改善するため、カーボンブラックは、以下の要件を満足していることが好ましい。
まず、粒子の凝集形態を表すフタル酸ジブチル(dibutylphthalate、DBP)吸収量は、おおむね、120mL/100g以下であることが好ましい。
ここで、「DBP吸収量」は、カーボンブラックの空隙を満たすのに必要なDBPの量(裏返せば、カーボンブラックが液体であるDBPを吸収する吸油量)である。DBP吸収量は、ストラクチャーと密接な関係があることが知られている。例えば、小粒径(数nm〜20nm程度)の一次粒子が高次に連鎖凝集した、すなわち、ストラクチャーが高度に発達したカーボンブラックでは、粒子間に存在する空隙の容積が大きいため、DBP吸収量は大きくなる。一方、一次粒子の粒径が大きく、且つ、それらの粒子が独立した構造を有している、すなわち、ストラクチャーが発達していないカーボンブラックでは、空隙容積が小さいため、DBP吸収量は小さくなる。
DBP吸収量が大きいカーボンブラックは、ストラクチャーが高度に発達した凝集構造を有しているため、圧粉体の密度はあまり上昇せず、ラトラ値に代表される機械的強度も低下すると推察される。
カーボンブラックのDBP吸収量は少ない程良く、例えば、60mL/100g以下であることがより好ましく、50mL/100g以下であることが更に好ましく、40mL/100g以下であることが更に一層好ましい。なお、その下限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、20mL/100g以上であることが好ましい。
カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6217-4の「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部:DBP吸収量の求め方」に基づいて測定する。
また、比表面積の代表的な指標である窒素吸着比表面積は、おおむね、150m2/g以下であることが好ましい。
ここで、「窒素吸着比表面積」は、カーボンブラック表面の細孔部分を含む全比表面積に対応する量である。
窒素吸着比表面積が大きくなると、圧粉体の密度はあまり上昇せず、ラトラ値が大きくなる。そのため、焼結体に要求される特性が充分得られない恐れがある。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は小さい程良く、例えば、50m2/g以下であることがより好ましく、40m2/g以下であることが更に好ましく、30m2/g以下であることが更に一層好ましい。なお、その下限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、5m2/g以上であることが好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217-2に記載された方法に基づいて測定する。
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、40nm以上であることが好ましい。前述した窒素吸着比表面積に加え、一次粒子の平均粒径を更に制御してカーボンブラックの粒子形態を厳密に調整することにより、圧粉体の特性が一層改善され、機械的特性に一層優れた焼結体が得られる。一次粒子の平均粒径が40nm未満の場合、カーボンブラックは、混合工程において、高度に凝集した複雑なストラクチャーを形成し易くなり、圧粉体の密度などが低下してしまう。一次粒子の平均粒径は大きいほどよく、例えば、70nm以上であることが好ましい。なお、その上限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、1000nm以下であることが好ましい。
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、電子顕微鏡で数万倍の写真を数視野撮影し、投影された各粒子の円近似直径を、1試料当たり約2千個〜1万個計測する。計測は、粒子径自動解析装置(Zeiss Model TGA10)などを用いて行なうことができる。
カーボンブラックの炭素純度は、特に限定されない。ただし、炭素(C)以外の原子は、焼結体の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、カーボンブラックの炭素純度は、出来るだけ高いことが好ましい。具体的には、カーボンブラック中のCの比率は、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。C以外の元素として、例えば、水素(H)や灰分(金属元素、無機元素)などが挙げられる。灰分としては、例えば、Mg、Ca、Si、Fe、Al、V、K、Naなどの塩類やこれらの酸化物などが挙げられ、このうち、水素(H)は0.5質量%以下であることが好ましい。また、灰分は、合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
このような要件を満足するカーボンブラックの作製方法は、特に限定されず、通常用いられる方法を適宜選択することができる。具体的には、例えば、オイルファーネス法、サーマル法(熱分解法)などが挙げられる。このうち、後者のサーマル法は、一次粒子の平均粒径が大きく、一次粒子が独立した構造に制御しやすいという特徴を有しており、本発明で規定するカーボンブラックの作製方法として推奨される。
上記要件を満足するカーボンブラックは、例えば、市販品を用いることもできる。
以上、第1の粉末冶金用混合粉末を特徴付けるカーボンブラックについて説明した。
次に、本発明の第1の粉末冶金用混合粉末に用いられる黒鉛粉末について説明する。
黒鉛粉末は、粉末冶金用混合粉末に通常用いられるものであれば特に限定されない。
ただし、黒鉛粉末の平均粒径は、おおむね、40μm以下であることが好ましい。平均粒径が40μmを超えると、焼結工程で鉄基粉末との反応が不充分になる恐れがあるからである。なお、その下限は特に限定されない。通常用いられる黒鉛粉末の平均粒径は、おおむね、5〜20μm程度であるが、本発明では、このような黒鉛粉末を用いることもできる。
上記要件を満足する黒鉛粉末は、例えば、市販品を用いることもできる。
本発明の第1の混合粉末では、上記のカーボンブラックと上記の黒鉛粉末の両方を炭素供給成分として用いている。
カーボンブラックと黒鉛粉末との混合比率は、後記する実施例に示すように、カーボンブラックの品種にかかわらず、カーボンブラックおよび黒鉛粉末の合計100質量部に対し、カーボンブラックを15質量部以上75質量部以下の範囲内とすることが好ましい。カーボンブラックの比率が15質量部未満の場合、遊離カーボン量(C-loss)が大きくなり、炭素供給成分の発塵や偏析が上昇してしまう。一方、カーボンブラックの比率が75質量部を超えると、カーボンブラックの品種による影響が大きくなり、選択したカーボンブラックよっては、加圧成形の際、脆くて形状を保持することが困難なものが発生することがある。また、所望とする圧粉体の密度に達しない場合もある。カーボンブラックの比率は、20質量部以上60質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上50質量部以下であることが更に好ましい。
なお、カーボンブラックと黒鉛粉末の混合比率は、後記する実施例1で詳述するように、厳密には、使用するカーボンブラックの品種によって相違するが、本発明の第1発明における「カーボンブラックの品種にかかわらず本発明の合格基準を満足する粉末冶金用混合粉末を提供する」という目的を達成するためには、少なくとも、カーボンブラックの混合比率を、上記のように15〜75質量部の範囲内に制御することが必要であり、この混合比率を満足する限り、カーボンブラックの品種にかかわらず、優れた特性を備えた粉末冶金用混合粉末を提供できることが明らかになった。本発明では、上記の実験事実に基づき、カーボンブラックの混合比率を上記範囲に定めた次第である。
具体的には、カーボンブラックの混合比率は、後記する実施例に示すように、カーボンブラックのDBP吸収量および窒素吸着比表面積の範囲に応じて、適宜適切に変更することが好ましい。これにより、所望とする混合粉末(遊離カーボン量30質量%以下、圧粉体の密度6.70g/cm3以上)が得られる。
詳細には、例えば、表1のカーボンブラックa(DBP吸収量38mL/100g、窒素吸着比表面積8m2/g)に代表されるように、DBP吸収量が約10〜120mL/100gの範囲内で、窒素吸着比表面積が約5〜15m2/gの範囲内のカーボンブラック(以下、便宜的にカーボンブラックA群と呼ぶ。)を用いるときは、カーボンブラックの混合比率が、少なくとも10質量部以上100質量部以下であれば、所望とする混合粉末を得ることができ、10質量部以上90質量部以下であれば、より高密度の圧粉体を得ることができる。カーボンブラックの混合比率は、20質量部以上80質量部以下とすることがより好ましく、20質量部以上60質量部以下とすることが更に好ましい。
また、表1のカーボンブラックb(DBP吸収量113mL/100g、窒素吸着比表面積130m2/g)に代表されるように、DBP吸収量が約30〜120mL/100gの範囲内で、窒素吸着比表面積が約15〜150m2/gの範囲内のカーボンブラック(以下、便宜的にカーボンブラックB群と呼ぶ。)を用いるときは、少なくとも、カーボンブラックの混合比率を15質量部以上75質量部以下に制御すれば、所望とする混合粉末を得ることができる。カーボンブラックの混合比率は、15質量部以上50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以上50質量部以下とすることがより好ましい。
また、表1のカーボンブラックc(DBP吸収量22mL/100g、窒素吸着比表面積80m2/g)に代表されるように、DBP吸収量が約10〜150mL/100gの範囲内で、窒素吸着比表面積が約5〜150m2/gの範囲内のカーボンブラックを用いるとき(以下、便宜的にカーボンブラックC群と呼ぶ。)は、カーボンブラックの混合比率が、少なくとも15質量部以上100質量部以下であれば、所望とする混合粉末を得ることができ、15質量部以上75質量部以下であれば、より高密度の圧粉体を得ることができる。カーボンブラックの混合比率は、20質量部以上60質量部以下とすることが好ましく、20質量部以上40質量部以下とすることがより好ましい。
以上、第1の発明に用いられる炭素供給成分について説明した。
(本発明の第2の粉末冶金用混合粉末)
本発明の第2の発明に到達した経緯は、以下のとおりである。
本発明者は、バインダ不要の粉末冶金用混合粉末であって、炭素供給成分の発塵や偏析を防止し得る新規な粉末冶金用混合粉末を提供するため、検討した。
その結果、カーボンブラックを使用すると、概して、混合粉末の遊離カーボン量(C−loss)は少なくなり、炭素供給成分の発塵や偏析を低減できることが分かった。ところが、カーボンブラックを含む混合粉末を加圧成形すると、脆くて形状を保持することが困難なものも発生することが判明した。これは、圧粉体の密度が小さく、ラトラ値(欠け易さ)が大きいためであり、このような混合粉末は、粉末冶金用に用いることはできない。
そこで、本発明者は、混合粉末に要求される特性(炭素供給成分の発塵や偏析を防止できる)を備えていることは勿論のこと、圧粉体に加圧成形したときの特性(圧粉体の密度およびラトラ値)も良好であり、更には、最終製品である焼結体としたときの特性(密度、圧環強度、硬さ)も優れている、そのような混合粉末を提供するために必要なカーボンブラックの特性を明らかにするため、更に検討を重ねてきた。その結果、DBP吸収量および窒素吸着比表面積が所定範囲に制御されたカーボンブラックを使用すれば、混合粉末の遊離カーボン量が少なく、且つ圧粉体に加圧成形したときの特性(圧粉体の密度およびラトラ値)も良好となることが判明した。焼結時のカーボンブラックの鉄基粉末への浸炭挙動は、黒鉛粉末と同等であり、カーボンブラックも炭素供給源となる。
上記のカーボンブラックを用いることにより、所望の特性をすべて兼ね備えた粉末冶金用混合粉末が得られるメカニズムは、詳細には不明であるが、DBP吸収量および窒素吸着比表面積が適切に制御されたカーボンブラックは、ベースとなる鉄基粉末への親和性が高く、鉄基粉末への付着に必要な静電気力または分子間力を有していると共に、圧粉成形において、鉄基粉末同士の圧密を阻害することなく、結果的に、高密度且つ高強度の圧粉体を生成し得る凝集構造を有しているためと推察される。
まず、本発明を特徴付けるカーボンブラックについて説明する。
カーボンブラックの特性は、主に、粒子形態(粒径、比表面積など)、粒子の凝集形態、および粒子表面の物理化学的性状に基づいて評価される。本発明では、上記のうち、特に、比表面積(具体的には、窒素吸着比表面積)および粒子の凝集形態(具体的には、DBP吸収量)が、粉末冶金用混合粉末に要求される上記特性の向上に大きく影響するという観点から、これらを制御している。
本発明では、カーボンブラックのDBP吸収量を60mL/100g以下と定めた。後記する実施例に示すように、DBP吸収量が60mL/100gを超えるものは、圧粉体の密度が小さく、ラトラ値が大きくなるため、焼結体に要求される特性が充分得られない。このように、DBP吸収量が大きいカーボンブラックは、ストラクチャーが高度に発達した凝集構造を有しているため、圧粉体の密度はあまり上昇せず、ラトラ値に代表される機械的強度も低下すると推察される。
カーボンブラックのDBP吸収量は少ない程良く、例えば、50mL/100g以下であることが好ましく、40mL/100g以下であることがより好ましい。なお、その下限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、20mL/100g以上であることが好ましい。
カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6217−4の「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部:DBP吸収量の求め方」に基づいて測定する。
本発明では、更に、カーボンブラックの窒素吸着比表面積を50m2/g以下と定めた。後記する実施例に示すように、窒素吸着比表面積が50m2/gを超えるものは、圧粉体の密度が小さく、ラトラ値が大きくなるため、焼結体に要求される特性が充分得られない。本発明では、前述したDBP吸収量の制御に加えて窒素吸着比表面積も制御することが必要であり、いずれか一方のみが上記範囲を満足していても、所望の圧粉体は得られない(後記する実施例を参照)。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は小さい程良く、例えば、40m2/g以下であることが好ましく、30m2/g以下であることがより好ましい。なお、その下限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、5m2/g以上であることが好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217−2に記載された方法に基づいて測定する。
本発明に用いられるカーボンブラックは、少なくとも、上記の特性を満足していることが必要である。混合粉末に要求される上記特性を一層改善するため、カーボンブラックは、以下の要件を更に満足していることが好ましい。
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、40nm以上であることが好ましい。前述した窒素吸着比表面積に加え、一次粒子の平均粒径を更に制御してカーボンブラックの粒子形態を厳密に調整することにより、圧粉体の特性が一層改善され、機械的特性に一層優れた焼結体が得られる。一次粒子の平均粒径が40nm未満の場合、カーボンブラックは、混合工程において、高度に凝集した複雑なストラクチャーを形成し易くなり、圧粉体の密度などが低下してしまう。一次粒子の平均粒径は大きいほどよく、例えば、70nm以上であることが好ましい。なお、その上限は、圧粉体の密度や機械的強度の改善といった観点からは特に限定されないが、カーボンブラックが形成し得るストラクチャーなどを考慮すると、1000nm以下であることが好ましい。
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、電子顕微鏡で数万倍の写真を数視野撮影し、投影された各粒子の円近似直径を、1試料当たり約2千個〜1万個計測する。計測は、粒子径自動解析装置(Zeiss Model TGA10)などを用いて行なうことができる。
カーボンブラックの炭素純度は、特に限定されない。ただし、炭素(C)以外の原子は、焼結体の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、カーボンブラックの炭素純度は、出来るだけ高いことが好ましい。具体的には、カーボンブラック中のCの比率は、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。C以外の元素として、例えば、水素(H)や灰分(金属元素、無機元素)などが挙げられる。灰分としては、例えば、Mg、Ca、Si、Fe、Al、V、K、Naなどの塩類やこれらの酸化物などが挙げられ、このうち、水素(H)は0.5質量%以下であることが好ましい。また、灰分は、合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
このような要件を満足するカーボンブラックの作製方法は、特に限定されず、通常用いられる方法を適宜選択することができる。具体的には、例えば、オイルファーネス法、サーマル法(熱分解法)などが挙げられる。このうち、後者のサーマル法は、一次粒子の平均粒径が大きく、一次粒子が独立した構造に制御しやすいという特徴を有しており、本発明で規定するカーボンブラックの作製方法として推奨される。
上記要件を満足するカーボンブラックは、例えば、市販品を用いることもできる。
カーボンブラックは、ベースとなる鉄基粉末100質量部に対し、4.0質量部以下の比率で含有することが好ましい。前述したように、カーボンブラックは、圧粉体の密度や強度を上昇させる作用を有しているが、カーボンブラックの含有量が4.0質量部を超えると、上記作用がかえって低下する恐れがある。なお、カーボンブラックの含有量の下限は、0.1質量部とすることが好ましく、これにより、カーボンブラックによる上記作用が有効に発揮される。カーボンブラックの含有量は、0.2質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましい。
以上、第2の発明に用いられるカーボンブラックについて説明した。
前述したように、本発明の第2の混合粉末は、上記要件を満足するカーボンブラックのみからなっていても良いし、当該カーボンブラック以外のカーボンブラックを更に含んでいても良い。更に、黒鉛粉末を含んでいてもよい。いずれにしても、炭素供給成分中に含まれる当該カーボンブラックの含有量が最も多く含まれているものはすべて、第2の混合粉末の範囲内に包含される。
ここで、第2の発明に用いられ得る黒鉛粉末については、前述した第1の発明と同じであるので、詳細な説明は省略する。
(本発明の第1および第2の粉末冶金用混合粉末)
以下、これらの粉末冶金用混合粉末に共通する内容(任意の選択成分である物性改善剤、潤滑剤など)をまとめて説明する。
本発明の第1および第2の粉末冶金用混合粉末は、上記の炭素供給成分と鉄基粉末とを含有している。
本発明に用いられる鉄基粉末には、純鉄粉および鉄合金粉の両方が含まれる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
このうち純鉄粉は、鉄粉を97質量%以上含み、残部:不可避不純物(例えば、酸素、ケイ素、炭素、マンガンなど)からなる実質的に純鉄成分とみなせる鉄粉である。
また、鉄合金粉は、鉄以外の成分として、焼結体の特性改善を目的として、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、硫黄、マンガンなどの合金成分を含むものである。鉄合金粉には、拡散型鉄粉(基鉄粉に合金元素を拡散接合して製造したもの、partially alloyed powder)およびプレアロイ型鉄粉(溶解工程で合金元素を添加して製造したもの、prealloyed powder)に大別されるが、本発明では、これらを単独で、または両者を組合わせたものを好適に用いることができる。
本発明の混合粉末は、前述した炭素供給成分と鉄基粉末とから構成されていてもよいが、焼結体の特性などを改善する目的で、更に物性改善成分を添加しても良い。
物性改善成分としては、例えば、金属粉末、無機粉末が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
このうち金属粉末としては、例えば、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、スズ、バナジウム、マンガン、フェロリンなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。特に、鉄基粉末として純鉄粉を用いる場合、上記の金属粉末を添加することが好ましい。これらの金属粉末は、鉄と合金となったフェロアロイ、または鉄以外の2種類以上からなる合金粉末であっても良い。
無機粉末としては、例えば、硫化マンガン、二酸化マンガンなどの硫化物、窒化ホウ素などの窒化物、ホウ酸、酸化マグネシウム、酸化カリウム、酸化ケイ素などの酸化物、りん、硫黄などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記の物性改善成分の含有量は、特に限定されず、本発明の作用を阻害しない限度で、最終製品に求められる諸特性に応じて任意に定めることができるが、おおむね、鉄基粉末100質量部に対する比率を、合計で、0.01質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。
例えば、鉄基粉末として純鉄粉を用いた場合、下記粉末の好ましい含有量は、それぞれ、以下のとおりである。銅:0.1〜10質量部、ニッケル:0.1〜10質量部、クロム:0.1〜8質量部、モリブデン:0.1〜5質量部、リン:0.01〜3質量部、硫黄:0.01〜2質量部。
本発明の第1および第2の混合粉末は、本発明の作用に悪影響を与えない範囲で、さらに潤滑剤を含有してもよい。潤滑剤は、圧粉体の加圧成形時に、圧粉体と金型との摩擦係数を低減し、型かじりや金型損傷の発生などを抑える作用を有している。
本発明で用いられる潤滑剤は、粉末冶金用混合粉末に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどが挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記の潤滑剤は、鉄基粉末100質量部に対し、0.01〜1.5質量部の範囲内で含有することが好ましい。潤滑剤の含有量が0.01質量部未満では、潤滑剤の添加による作用が充分発揮されない。一方、潤滑剤の含有量が1.5質量部を超えると、圧粉体の圧縮性などが低下する恐れがある。潤滑剤のより好ましい含有量は、0.1〜1.2質量部であり、更に好ましい含有量は、0.2〜1.0質量部である。
本発明では、粉末冶金用混合粉末に通常添加されるバインダを省略することができる。前述したように、本発明の第1および第2の混合粉末では、それぞれ、所定の炭素供給成分を使用しているため、バインダを使用しなくても、炭素供給成分の飛散や偏析を充分防止できるからである(後記する実施例を参照)。ただし、本発明の作用(特に、混合粉末の流動性)を損なわない範囲で、従来汎用されているバインダを使用しても良い。バインダは、炭素供給成分の偏析防止という観点から添加するのではなく、Ni粉やCu粉などのように自己付着性がない粉末の偏析を抑制するために添加する。あるいは、前述した特許文献1〜3に記載されたバインダを使用することもできる。
次に、上記の成分を用いて混合粉末、圧粉体、および焼結体を作製する方法を説明する。
本発明の混合粉末は、第1および第2の発明に用いられる前述した炭素供給成分と、鉄基粉末とを混合することによって得られる。必要に応じて、前述した物性改善成分を添加しても良く、更に、潤滑剤やバインダを添加しても良い。
鉄基粉末との混合時におけるカーボンブラックおよび黒鉛粉末の形態は、特に限定されない。
例えば、カーボンブラックは、粉末形態のままで鉄基粉末と混合しても良いし、カーボンブラックを有機溶剤などの分散溶媒に分散させた分散液の状態で鉄基粉末と混合しても良い。後者の場合、混合後に、分散媒を加熱などの方法で除去することが好ましい。
混合方法は特に限定されず、羽根付き混合機、V形混合機、二重円錐形混合機(Wコーン)など、通常、使用されている混合機を用いて混合すれば良い。混合条件は、例えば、羽根付き混合機を用いる場合、羽根の回転速度(羽根の周速度)を約2〜10m/sの範囲内に制御し、約0.5〜20分間撹拌することが好ましい。また、V形混合機や二重円錐形混合機を用いる場合、おおむね、2〜50rpmで1〜60分間混合することが好ましい。
次に、上記の混合粉末を用い、粉末圧縮成形機を用いた通常の加圧成形方法によって圧粉体を得る。具体的な成形条件は、混合粉末を構成する成分の種類や添加量、圧粉体の形状、成形温度(おおむね、室温〜150℃)、成形圧力などによっても相違するが、圧粉体の密度が約6.0〜7.5g/cm3の範囲内になるように成形することが好ましい。
最後に、上記の圧粉体を用い、通常の焼結方法によって焼結体を得る。具体的な焼結条件は、圧粉体を構成する成分の種類や添加量、最終製品の種類などによっても相違するが、例えば、N2、N2−H2、炭化水素などの雰囲気下、1000〜1300℃の温度で5〜60分間焼結を行なうことが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
後記する実施例1〜実施例4のうち、実施例1〜実施例2は、本発明の第1の粉末冶金用混合粉末に関する実施例であり、実施例3〜実施例4は、本発明の第2の粉末冶金用混合粉末に関する実施例である。
実施例1(混合粉末および圧粉体の特性の検討)
本実施例では、炭素供給成分として、種々のカーボンブラックおよび黒鉛粉末を用いたときの混合粉末および圧粉体の特性を検討した。
具体的には、表1に示すa〜cのカーボンブラック(市販品)および表2に記載のX〜Zの黒鉛粉末(市販品)を用い、以下のようにして粉末冶金用混合粉末および圧粉体を得た(実験1〜25)。表1および2には、市販品のカタログに記載された数値を転記している。
各実験で得られた混合粉末および圧粉体の特性を以下の方法で測定し、評価した。
(混合粉末の特性)
1.見掛密度の測定
JIS Z2504(金属粉の見掛密度試験法)に基づき、混合粉末の見掛密度(g/cm3)を測定した。
2.流動性の測定
JIS Z2502(金属粉の流動度試験法)に基づき、2.63mmφのオリフィスを混合粉末(50g)が流れ出るまでの時間(sec/50g)を測定した。
3.遊離カーボン量(発塵率、C-loss)
図1に示すように、ニューミリポアフィルター1(網目12μm)を取付けた漏斗状ガラス管2(内径:16mm、高さ:106mm)に混合粉末P(25g)を入れ、ガラス管2の下方からN2ガスを0.8リットル/分の速度で20分間流し、次式より遊離カーボン量(%)を求めた。本実施例では、遊離カーボン量が30%以下のものを合格とした。
遊離カーボン量(%)
=[1-(N2ガス流通後のカーボン量(%))/(N2ガス流通前のカーボン量(%))]×100
ここで、カーボン量(%)とは、混合粉末中のカーボンの質量%を意味する。
(圧粉体の特性)
1.密度の測定
圧粉体の密度を測定するため、粉体粉末冶金協会(Japan Society of Powder and Powder Metallurgy、JSPM)標準1-64(金属粉の圧縮性試験方法)に基づいて直径11.3mm、高さ10mmの円柱状の圧粉体を作製した。成形圧力は、490MPaとした。得られた圧粉体の質量を測定し、体積で除した値(g/cm3)を圧粉体の密度とした。本実施例では、圧粉体の密度が6.70g/cm3以上のものを合格とした。
2.ラトラ値の測定
日本粉末冶金工業規格(Japan Powder Metallurgy Association standard、JPMA)011-1192(金属圧粉体のラトラ値測定方法)に基づき、圧粉体のラトラ値(%)を測定した。
(実験1)
まず、鉄基粉末として、市販の純鉄粉(神戸製鋼所製「アトメル300M」)を用意し、この純鉄粉に対し、市販のアトマイズ銅粉(平均粒径48μm)を2.0%、炭素供給成分を0.80%[詳細には、表1に記載のカーボンブラックaを0.004%、表2に記載の黒鉛粉末Xを0.796%(カーボンブラック:黒鉛粉末=0.5質量部:99.5質量部)]、潤滑剤としてエチレンビスステアリルアミドを0.75%の比率で添加した後、V型混合機を用いて30rpmの回転速度で30分間混合し、混合粉末を得た。ここでは、バインダは使用していない。
次に、上記の混合粉末を粉末圧縮成形機に入れ、490MPaの圧力下で圧縮成形し、外径11.3mm、高さ10mmの円柱状の圧粉体を得た。
(実験2〜8)
実験1において、カーボンブラックaと黒鉛粉末Xとの混合比率を、それぞれ、表3に記載のように変化させたこと以外は、実験1と同様にして、実験2〜8の混合粉末および圧粉体をそれぞれ作製した。
(実験9)
実験1において、黒鉛粉末Xを用いずに、表1のカーボンブラックaを0.80%用いたこと以外は、実験1と同様にして、実験9の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験10〜14)
実験1において、カーボンブラックaの代わりに表1のカーボンブラックbを用い、表3に記載のようにカーボンブラックbと黒鉛粉末Xとの混合比率を変化させたこと以外は、実験1と同様にして、実験10〜14の混合粉末および圧粉体をそれぞれ作製した。
(実験15)
実験1において、黒鉛粉末Xを用いずに、表1のカーボンブラックbを0.80%用いたこと以外は、実験1と同様にして、実験15の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験16〜19)
実験1において、カーボンブラックaの代わりに表1のカーボンブラックcを用い、表3に記載のようにカーボンブラックcと黒鉛粉末Xとの混合比率を変化させたこと以外は、実験1と同様にして、実験16〜19の混合粉末および圧粉体をそれぞれ作製した。
(実験20)
実験1において、黒鉛粉末Xを用いずに、表1のカーボンブラックcを0.80%用いたこと以外は、実験1と同様にして、実験20の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験21)
実験1において、カーボンブラックを用いずに、表2の黒鉛粉末Xを0.80%用いたこと以外は、実験1と同様にして、実験21の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験22)
実験6において、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末Yを用いたこと以外は、実験6と同様にして、実験22の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験23)
実験21において、黒鉛粉末Xの代わりに表2の黒鉛粉末Yを0.80%用いたこと以外は、実験21と同様にして、実験23の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験24)
実験6において、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末Zを用いたこと以外は、実験6と同様にして、実験24の混合粉末および圧粉体を作製した。
(実験25)
実験21において、黒鉛粉末Xの代わりに表2の黒鉛粉末Zを0.80%用いたこと以外は、実験21と同様にして、実験25の混合粉末および圧粉体を作製した。
これらの結果を表3にまとめて示す。参考のため、表3に総合評価の欄を設け、本発明の合格基準(遊離カーボン量30%以下、成形圧力が490MPaで圧粉体に成形したときの密度6.70g/cm3以上)を満たす混合粉末に○を、いずれか一方でも合格基準を満たさないものに×を付した。
表3より、以下のように考察することができる。
(カーボンブラックaについて)
まず、炭素供給成分として、カーボンブラックa(DBP吸収量38mL/100g、窒素吸着比表面積8m2/g)および黒鉛粉末Xを用い、これらの混合比率を変化させたときの結果(実験1〜9、21)について考察する。
炭素供給成分として黒鉛粉末Xのみを用いたときは、実験21に示すように、高密度の圧粉体は得られるが、混合粉末の遊離カーボン量が多くなった。また、カーボンブラックaの比率が小さい実験1は、混合粉末の遊離カーボン量が多くなった。
これに対し、実験2〜9のようにカーボンブラックaと黒鉛粉末Xとの混合比率が特定の範囲内に制御されたもの(カーボンブラックの比率:10〜100質量部)は、遊離カーボン量、圧粉体の密度とも良好な範囲を満足している。
上記は、カーボンブラックaに黒鉛粉末Xを用いたときの結果であるが、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末Yを用いたとき(実験22および23を参照)、あるいは、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末Zを用いたとき(実験24および25を参照)も、上記と同様の結果が得られた。なお、表3には、カーボンブラックaの比率を60質量部としたときの結果(実験22、実験24)のみ示しているが、カーボンブラックaの比率を前述した実験1〜8のように種々変化させたときも、上記と同様の実験結果が得られることを実験により確認している(表3には示さず)。
また、上記の一連の結果は、カーボンブラックaのみならず、カーボンブラックA群に属するカーボンブラックを用いたときであっても、同様の傾向が得られることを実験により確認している(表3には示さず)。
(カーボンブラックbについて)
次に、炭素供給成分として、カーボンブラックb(DBP吸収量113mL/100g、窒素吸着比表面積130m2/g)および黒鉛粉末Xを用い、これらの混合比率を変化させたときの結果(実験10〜15、21)について考察する。
炭素供給成分として黒鉛粉末Xのみを用いたときは、実験21に示すように、高密度の圧粉体は得られるが、混合粉末の遊離カーボン量が多くなり、一方、カーボンブラックbのみを用いたときは、実験15に示すように、混合粉末の遊離カーボン量は少ないが、圧粉体の密度が低下した。
これに対し、カーボンブラックbと黒鉛粉末Xとの混合比率が所定の範囲内に制御された(カーボンブラックの比率:15〜75質量部)実験11〜13では、表3に示すように、所望とする混合粉末が得られた。なお、実験10は、カーボンブラックbの比率が小さい例であり、遊離カーボン量が多くなった。また、実験14は、カーボンブラックbの比率が多い例であり、圧粉体の密度が低下した。
上記は、カーボンブラックbに黒鉛粉末Xを用いたときの結果であるが、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末YまたはZを用いたときも、上記と同様の結果が得られたことを実験により確認している(表3には示さず)。
また、上記の一連の結果は、カーボンブラックbのみならず、カーボンブラックB群に属するカーボンブラックを用いたときであっても、同様の傾向が得られることを実験により確認している(表3には示さず)。
(カーボンブラックcについて)
次に、炭素供給成分として、カーボンブラックc(DBP吸収量22mL/100g、窒素吸着比表面積80m2/g)および黒鉛粉末Xを用い、これらの混合比率を変化させたときの結果(実験16〜21)について考察する。
炭素供給成分として黒鉛粉末Xのみを用いたときは、実験21に示すように、高密度の圧粉体は得られるが、混合粉末の遊離カーボン量が多くなった。
これに対し、実験17〜20のようにカーボンブラックaと黒鉛粉末Xとの混合比率が特定の範囲内に制御されたもの(カーボンブラックの比率:20〜100質量部)は、遊離カーボン量、圧粉体の密度とも本発明の合格基準を満足しており、良好な特性が得られた。特に、カーボンブラックの比率が20〜60質量部を満足する実験17〜18では、表3に示すように、より高密度の圧粉体が得られた。なお、実験16は、カーボンブラックcの比率が10質量部と少ない例であり、遊離カーボン量が多くなった。
上記は、カーボンブラックcに黒鉛粉末Xを用いたときの結果であるが、黒鉛粉末Xの代わりに黒鉛粉末YまたはZを用いたときも、上記と同様の結果が得られたことを実験により確認している(表3には示さず)。
また、上記の一連の結果は、カーボンブラックcのみならず、カーボンブラックC群に属するカーボンブラックを用いたときであっても、同様の傾向が得られることを実験により確認している(表3には示さず)。
以上の実験結果より、本発明の合格基準を満足するものを、カーボンブラックA群〜C群のそれぞれについて整理すると以下のとおりである。
(ア)カーボンブラックA群に属するカーボンブラックを用いるときは、カーボンブラックの混合比率を10質量部以上100質量部以下とし(すなわち、カーボンブラックのみを使用してもよい)、より高密度の圧粉体を得るためには、10質量部以上90質量部以下とする。
(イ)カーボンブラックB群に属するカーボンブラックを用いるときは、カーボンブラックの混合比率を15質量部以上75質量部以下とする。
(ウ)カーボンブラックC群に属するカーボンブラックを用いたときは、カーボンブラックの混合比率を15質量部以上100質量部以下とし(すなわち、カーボンブラックのみを使用してもよい)、より高密度の圧粉体を得るためには、15質量部以上75質量部以下とする。
従って、本発明の第1発明における「カーボンブラックの品種にかかわらず本発明の合格基準を満足する粉末冶金用混合粉末を提供する」という目的を達成するためには、少なくとも、カーボンブラックの混合比率を15〜75質量部の範囲内に制御することが必要であり、この混合比率を満足する限り、カーボンブラックの品種にかかわらず、優れた特性を備えた粉末冶金用混合粉末を提供できることが明らかになった。本発明では、上記の実験事実に基づき、カーボンブラックの混合比率を上記範囲に定めた次第である。
実施例2(焼結体の特性の検討)
本実施例では、前述した実施例1において、炭素供給成分として、カーボンブラックおよび黒鉛粉末の混合物を用いたときの焼結体の特性を、黒鉛粉末と対比して検討した。ここでは、焼結体の密度は6.80g/cm3とした。
具体的には、前述した実施例1の実験4〜9(カーボンブラックaを使用)、実験12,14(カーボンブラックbを使用)、実験17、19〜20(カーボンブラックcを使用)と、実験21、23、25(カーボンブラックを添加せず黒鉛粉末のみを使用)の従来例について、各混合粉末を粉末圧縮成形機に入れ、400〜600MPaの圧力下で圧縮成形し、外径30mm、内径10mm、高さ10mmのリング状の圧粉体を得た。
上記の圧粉体を、N2−10vol%H2−ガス雰囲気下、プッシャ式焼結炉を用いて1120℃で20分間焼結し、焼結体(密度6.80g/cm3)を得た。
このようにして得られた焼結体の圧環強度および硬さを以下のようにして測定し、評価した。
(焼結体の特性)
1.圧環強度の測定
JIS Z2507に記載の圧環試験を実施し、圧環強度(N/mm2)を測定した。
2.硬さの測定
JIS Z 2245のロックウェル硬さ試験-試験方法に基づき、ロックウェル硬さ(HRB)を測定した。
これらの結果を表4にまとめて示す。
表4より、以下のように考察することができる。
表4より、焼結密度が6.80g/cm3のときの特性を比較すると、いずれのカーボンブラックa〜cを用いたときでも、カーボンブラックと黒鉛粉末とを混合して用いると、カーボンブラックの混合比率にかかわらず、黒鉛粉末のみを用いたときと同程度の機械的特性(圧環強度および硬さ)が得られることが分かった。また、焼結体のミクロ組織を観察した結果、全てのサンプルにパーライト組織が観察された。これは、カーボンブラックが黒鉛と同様に鉄基粉末に浸炭していることを示している。
なお、表4には、表3に示す実験例のうち、一部のものについての結果を示しているが、表3に示す他の実験においても、上記と同様の実験結果が得られることを、実験により確認している(表4には示さず)。
また、上記の一連の結果は、カーボンブラックa、b、cのみならず、カーボンブラックA群、B群、C群に属するカーボンブラックを用いたときであっても、同様の傾向が得られることを実験により確認している(表4には示さず)。
以下の実施例3〜実施例4は、本発明の第2の粉末冶金用混合粉末を用いた実験結果である。
実施例3(混合粉末および圧粉体の特性の検討)
本実施例では、種々のカーボンブラックを用いたときの混合粉末および圧粉体の特性を検討した。
具体的には、表5に示すd〜pのカーボンブラック(市販品)を用い、以下のようにして粉末冶金用混合粉末および圧粉体を得た(実験26〜37)。上記のカーボンブラックのうち、d〜iは本発明の要件を満足する例であり、j〜pは本発明の要件を満足しない例である。表5には、市販品のカタログに記載された数値を転記している。また、比較のため、カーボンブラックの代わりに黒鉛粉末を用い、粉末冶金用混合粉末および圧粉体を得た(実験38)。
各実験で得られた混合粉末および圧粉体の特性は、前述した実施例1に記載の方法で測定し、評価した。
(実験26)
まず、鉄基粉末として、市販の純鉄粉(神戸製鋼所製「アトメル300M」)を用意し、この純鉄粉に対し、市販のアトマイズ銅粉(平均粒径48μm)を2.0%、炭素供給成分として、表4に記載のカーボンブラックaを0.80%、潤滑剤としてエチレンビスステアリルアミドを0.75%の比率で添加した後、羽根付ミキサーを用いて2分間高速撹拌し(羽根の回転速度5m/s)、混合粉末を得た。ここでは、バインダは使用していない。
次に、上記の混合粉末を粉末圧縮成形機に入れ、490MPaの圧力下で圧縮成形し、外径11.3mm、高さ10mmの円柱状の圧粉体を得た。
(実験27〜37)
実験26において、炭素供給成分として、表5に記載のカーボンブラックd〜pを用いたこと以外は、実験26と同様にして、実験27〜37の混合粉末および圧粉体をそれぞれ作製した。
(実験38)
実験26において、炭素供給成分として、カーボンブラックの代わりに市販の黒鉛粉末(平均粒径5μm)を用いたこと以外は、実験26と同様にして混合粉末および圧粉体を作製した。
これらの結果を表6にまとめて示す。表6には、参考のため、使用した炭素供給成分の種類および特性も併記している。
表6より、以下のように考察することができる。
実験26〜31は、それぞれ、本発明の要件を満足するカーボンブラックd〜iを用いた本発明例であり、混合粉末の各特性に優れているだけでなく、圧粉体の特性にも優れている。
これに対し、実験32〜37は、本発明の要件を満足しないカーボンブラックを用いた比較例であり、混合粉末の遊離カーボン量、圧粉体の密度およびラトラ値が本発明で規定する基準値に到達しなかった。
なお、実験36および37では、混合粉末の遊離カーボン量が増加し、流動度が低下しているが、これは、DBP吸収量および窒素吸着比表面積が極端に大きいカーボンブラックo、pを用いたため、混合工程で鉄基粉末と混ざる(鉄基粉末に付着する)前に、当該カーボンブラックが大きなストラクチャーを形成してしまうためと考えられる。
実験38は、炭素供給成分として黒鉛粉末のみを用いた従来例であり、混合粉末の遊離カーボン量が多くなった。
実施例4(焼結体の特性の検討)
本実施例では、本発明の要件を満足するカーボンブラックを用いたときの焼結体の特性を、黒鉛粉末と対比して検討した。ここでは、焼結体の密度は6.80g/cm3とした。
具体的には、前述した実験26〜31(表5のカーボンブラックd〜iを使用)、および実験38(黒鉛粉末を使用)の混合粉末を粉末圧縮成形機に入れ、400〜600MPaの圧力下で圧縮成形し、外径30mm、内径10mm、高さ10mmのリング状の圧粉体を得た。
上記の圧粉体を、N2−10vol%H2−ガス雰囲気下、プッシャ式焼結炉を用いて1120℃で20分間焼結し、焼結体(密度6.80g/cm3)を得た。
このようにして得られた焼結体の圧環強度および硬さを、前述した実施例と同様にして測定し、評価した。
これらの結果を表7にまとめて示す。
表7より、焼結密度が6.80g/cm3のときの特性を比較すると、いずれのカーボンブラックを用いたときも、黒鉛粉末を用いたときと同程度の機械的特性(圧環強度および硬さ)を有していることが分かる。従って、カーボンブラックは、黒鉛粉末に代わる炭素供給成分として極めて有用であることが確認された。