以下、本発明の実施の形態に係る車両用シート構造について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1においては、車室フロア2上に前後に3列の乗員用シート3,4,5が配置されていると共に、1列目及び2列目のシートの側方に車体の昇降用開口部6,7が設けられている。最後列の3列目のシート5は2列目のシート4側方の昇降用開口部7よりも後方に配置されている。
2列目のシート4(以下、中間シート4という)は、スライド機構20を介してフロア2に車両前後方向にスライド可能に支持されている。
スライド機構20は、図2に示すように、フロア2に設けられた車両前後方向に延びる溝2a内に固定されたロワーレール21と、該ロワーレール21に対して車両前後方向にスライド可能とされたアッパーレール22とを有している。
中間シート4は、シートクッション11と、シートバック12とを有し、該シート4のベースをなすベースフレーム13が、前記アッパーレール21の前部及び後部の上面に前側ブラケット14及び後側ブラケット15を介して固定されている。
シートバック12のシートバックフレーム16の下端部は、前記ベースフレーム13の後部の上方延出部13aに車幅方向に延びる支軸17により連結されることにより、該支軸17を中心として回動可能に支持されている。シートバック12は、前倒方向に図示しない前倒付勢手段により付勢されている。
シートクッション11(シートクッションフレーム18)の前端部が、リンク部材19を介して前側ブラケット14に連結されている。また、側方視略V字状の連結部材29の前端(下端)側が、シートクッションフレーム18の後端部に複数のピン等により結合され、後端(上端)側が前記シートバックフレーム16の下部に前記支軸17の上方で連結ピン40により連結されている。これにより、シートバック12を前倒させると、連結ピン40の位置が、前記支軸17を中心として回動する、つまり車両前方に移動しながら下方に移動する。また、このとき、この移動が、連結部材29を介して、シートクッションフレーム18に伝達されることにより、リンク部材19が前側ブラケット14側の支点を中心として回動し、その結果、シートクッション11が、図2に示す上方位置から図3(シートバックの前倒状態を示す)に示す下方位置に移動するようになっている。
図4に示すように、前記ベースフレーム13とシートバックフレーム16とは、車幅方向に離間して配置されている。前記支軸17における前記ベースフレーム13とシートバックフレーム16との間には、シートバック12を起立状態に保持するナックル30が設けられている。ここで、このナックル30は、支軸17の一部を構成するものであり、シートバック12を、図2の状態から後方にリクライニングさせた状態で回動ロック可能とするものである。なお、本実施の形態においては、図2の状態から後傾方向に例えば20度程度の範囲内でロック可能とされており、本発明における起立状態とはこの範囲内でロックされた状態も含むものである。
該ナックル30は、図4、図5に示すように、シートバックフレーム16に固定されたリング部材31と、該リング部材31の内側に配置された一対のロック部材32,32と、該ロック部材32,32を駆動するカム部材33と、該カム部材33を回動軸心(支軸17の軸心)を中心として回転させるナックルレバー34とを有している。
図5に示すように、リング部材31の内周面31bには、回動軸心を挟んで対向するように一対の内歯31a,31aが形成されている。回動軸心を中心とする内歯31a,31aの歯先面までの径は、内歯が形成されていない内周面31bの径よりも大きくされている。
一対のロック部材32,32は、前記回動軸心をはさんで相対する位置に設けられ、前記リング部材31に対向する面には、リング部材31の内歯31a,31aに係合可能なロック歯32a,32aが形成されている。両ロック部材32,32は、リング部材31の径方向に移動可能にベースフレーム13に支持されると共に、回動軸心側に図示しないバネ等の付勢手段により付勢されている。
カム部材33は、一対のロック部材32,32により挟まれた状態で配設されており、前記回動軸心を中心として回動自在に設けられている。カム部材33には、回動軸心を挟んで相対する一対の係合面33a,33aと、同じく前記軸心を挟んで相対する一対の解除面33b,33bとが、周方向に隣り合って形成されている。一対の解除面33b,33bは、係合面33a,33aよりも前記回動軸心からの距離が短くされている。
ナックルレバー34は、枢支ピン17と同一軸心上に設けれて該ピン17に対して相対回転可能な連結ピン17aを介して、カム部材33に結合されている。該ナックルレバー34は、バネ等の付勢手段35により図5において時計回り方向に付勢されている。なお、付勢手段35の付勢力は、ロック部材32,32を回動軸心側に付勢する付勢力よりも大きくされている。ナックルレバー34の先端には、後述する操作部材60に至るケーブル部材71とシートバック12の前倒操作用の操作紐91が連結されている。
このようなナックル30によれば、ナックルレバー34が図5に示す角度位置にあるときは、カム部材33の一対の係合面33a,33aが両ロック部材32,32の内側の面32bに当接し、両ロック部材32,32は、前記付勢手段による付勢に抗して外側へ移動して内歯31a,31aと係合したロック状態になる。つまり、シートバック12は、前記前倒付勢手段の付勢に抗して回動しないようにロックされた状態となる。
一方、ケーブル部材71または前倒用操作紐91が上方に引かれて、ナックルレバー34が矢印ア方向に回動して図6に示す角度位置(ナックルレバー34が反時計回りに最も回動した位置であり、図6に示す状態よりも反時計回りに回動しないように図示しない規制手段により規制されている。)にあるときは、図6に示すようにカム部材33の両解除面33b,33bが両ロック部材32,32の内側の面32b,32bに当接し、両ロック部材32,32は、前記付勢手段によって内側へ移動し、リング部材31の内歯31a,31aとの係合が解除された状態となる。ここで、このときの回動中心からロック部材32,32のロック歯32a,32aまでの径xは、回動中心からリング部材31における内周面31bまでの径yよりも小さくなるように構成されている。したがって、シートバック12は回動自在になり、リクライニング状態や前倒状態とすることが可能となる。
そして、この状態で、シートバック12を前傾させて、リング部材31を例えば図7に示す状態まで反時計回りに回動させた後、ケーブル部材71を引くのをやめると、ナックルレバー34が付勢手段35により時計回りに付勢されていることによりカム部材33が図6に示す状態から矢印イで示すように時計回りに回動し、ロック部材32のロック歯32a,32aがリング部材31の内周面31bに当接し、リング部材31の内歯31a,31aとは係合しなくなる。なお、このとき、ロック歯32a,32aと内周面31bとは当接してはいるが摺動可能であり、したがって、シートバック12を回動軸心まわりに回動させることが可能である。
次に、スライド機構20について図8〜図12を用いて詳しく説明する。
まず、図9に示すように、このスライド機構20のロワーレール21は、略U字状の断面形状を有し、底壁部21aと、底壁部21aの両縁より上方に立ち上がる外側壁部21b,21bと、外側壁部21b,21bの上縁より内側に向かって略水平に延びる上壁部21c,21cと、上壁部21c,21cの内縁より垂下された内側壁部21d,21dとにより構成されている。また、車両外方側の内側壁部21d,21dには図8にも示すように多数の矩形状ロック孔21e…21eが所定の間隔で穿設されている。
一方、アッパーレール22は、略逆U字状の断面形状を有し、上壁部22aと、上壁部22aの両縁より垂下された内側壁部22b,22bと、内側壁部22b,22bの外縁より上方に立ち上がる外側壁部22d,22dと、外側壁部22の上縁より外側に向かって略水平に延びる突出壁部22e,22eとにより構成されている。
また、ロワーレール21の底壁部21a上には、ボール29a…29aを転動自在に保持するリテーナ29が取り付けられている。リテーナ29は、略逆U字状の断面形状を有し、その両側部の各々には所定の間隔で切欠部が形成されており、この切欠部に、ロワーレール21の底壁部21aの両縁部とアッパーレール22の外側壁部22d,22dの下部と当接し、アッパーレール22のロワーレール21に対する摺動を円滑に行うためのボール29a…29aが収容されている。
ロワーレール21の外側壁部21bはアッパーレール22の外側壁部22dの外側に位置し、ロワーレール21の上壁部21cはアッパーレール22の突出壁部22eの上方に位置し、ロワーレール21の内側壁部21dはアッパーレール22の内側壁部22bと外側壁部22dとの間に位置している。
アッパーレール22の上壁部22aの長手方向における略中央部には、ロック部材24が嵌入する矩形状のロック部材嵌入孔22fが穿設されており、図10にも示すように、車両外方側の内側壁部22b及び外側壁部22dには、上部壁22aのロック部材嵌入孔22fに対応する部位に、複数の矩形状ロック孔22g…22g,22h…22hが穿設されている。
また、内側壁部22bの上方では、略車両前後方向に延びる円柱状の支持軸23がアッパーレール22の図示しない固定部に固定されており、この支持軸23にはロック部材24が揺動自在に取り付けられるとともに、ロック部材24はその外周面に取り付けられた板ばね25により図において左回り方向に常時付勢されている。
ロック部材24は、曲線状断面を有し、その一端(下端)には、図9、図10に示すように、ロワーレール21のロック孔21e…21e及びアッパーレール22のロック孔22g…22g,22h…22hに嵌入してアッパーレール22をロワーレール21にロックするための櫛歯状の複数のロック爪24a…24aが内側に突出してテーパ状に形成されている。また、ロック部材24の他端(上端)には、後述する操作部材と係合するための係合部24bが内側に突出して形成されている。係合部24bの内方寄りには、支持軸23に取り付けるための円弧状の摺動部24cが形成されており、摺動部24cの内径は、支持軸23の外径に略等しく設定されている。また、摺動部24cの一部及びその近傍には板ばね25の一端(上端)が遊挿される矩形孔24dが穿設されている。
板ばね25もロック部材24と同様、曲線状に形成されており、その一端及び他端にはアッパーレール22の内側壁部22b及びロック部材24のロック爪24aの基端部とそれぞれ当接する当接部25a,25bが形成されている。また、ロック部材24と同様、板ばね25の一部は円弧状に形成されており、この円弧状部がロック部材24の円弧状摺動部24cを覆うように板ばね25はロック部材24に取り付けられている。
図8に示すように、アッパーレール22の上壁部22aの上面には、ブラケット26が取り付けられ、該ブラケット26に、U字状に折曲されたパイプ状の操作部材27が矢印ウで示すように揺動可能に支持されている。該操作部材27は、図示しない付勢手段により前端部(図における左側の端部)が下方に付勢されている。操作部材27の後端部には押圧部材28が取り付けられている。この押圧部材28は、ロック部材24の係合部24bの上方に位置しており、乗員による操作部材27の前端部の揺動操作により上下に移動し、係合部24bと係合可能とされている。
このスライド機構20によれば、操作部材27の前端部が上方に持ち上げられていないときには、ロック部材24が板ばね25により付勢されて、そのロック爪24a…24aがロワーレール21のロック孔21e…21e及びアッパーレール22のロック孔22g…22g,22h…22hに嵌入した状態で保持される。したがって、アッパーレール22はロワーレール21に確実にロックされ、アッパーレール22に取り付けられた中間シート4は所定の位置に保持される。
一方、中間シート4をスライドさせる場合、操作部材27の前端部を持ち上げると、図11に示すように、押圧部材28によりロック部材24の係合部24bが板ばね25の付勢力に抗して押下され、ロック部材24は支持軸23を回転(揺動)中心として矢印エで示すように反ロック方向(反時計回り方向)に回転する。したがって、ロック部材24のロック爪24aは、ロワーレール21のロック孔21e…21e及びアッパーレール22のロック孔22h…22hから離脱するので、アッパーレール22のロワーレール21に対するロックが解除される。
その後、中間シート4の前後方向に荷重を加えると、アッパーレール22はロワーレール21上を前後方向に摺動するので、所望の位置で操作部材27から手を離すと、操作部材27の後端部が上昇する。その結果、板ばね25の付勢力によりロック部材24がロック方向に回転して、仮想線で示すようにロック爪24aがロワーレール21のロック孔21e及びアッパーレール22のロック孔22g,22hに再び嵌入し、アッパーレール22はロワーレール21に対してロックされ、シート4はその位置に保持される。
ここで、本実施の形態に係る車両1においては、図1に示すように中間シート4後方の後部シート5への乗降の際、一操作で、中間シート4を前方にスライド可能とすると共に、シートバック12を前倒可能とし、乗員昇降可能状態を形成させるウォークイン機構が設けられている。
該ウォークイン機構は、図1、図2に示すようにシートバック12の車体側壁の乗員用開口部7に近い側端部12aに設けられた操作部60と、該操作部60と前記スライド機構20及びナックル30とを接続するケーブル部材71,72(図14参照)とを有している。
操作部60は、図12、図13に示すように、シートバック12の車幅方向外方側の側端部12aから背面部12bにわたって設けられた凹部に取り付けられたベゼル62と、該ベゼル62に揺動可能に支持された操作レバー61とを有している。
該操作レバー61は、シートバック12の側端部12aに略平行な面でなる側壁部61aと、該側壁部61aの上端及び下端からそれぞれ車幅方向内方に延びる平面視略扇型の椀部61b,61bとを有し、シートバック12の側端部12bの長手方向に延びる揺動軸63を中心として所定角度φ揺動可能に設けられている。側壁部61aの後部には、前記揺動軸63にほぼ平行に伸び、車両内方に膨出する膨出部61dが形成されている。該膨出部61dは、取手としての部分であり(なお、側壁部61aにおける膨出部61dよりも前方の部分を把持することももちろん可能である)、側壁部61aをつかむ際に指の関節を若干曲げて楽につかめるように形成され、前側へ揺動されていないときは、揺動軸63の後方に位置し(以下、適宜「後方位置」という)、前側に所定角度φ揺動されたときは、前記揺動軸63の側方に位置する(以下、適宜「前方位置」という)ようになっている。そして、これにより、レバー61を前側へ揺動させるときには、側壁部61aに図のように指を後方から当てて前側に押すだけで、容易に前側に揺動させることができ、前方位置においても指を引っ掛けた状態を維持することができるようになっている。したがって、レバー61を把持して中間シート4を前方にスライドさせるような場合、後方位置から前方位置に揺動させたときの把持状態をほぼ維持したままでスライド操作を行うことができると共に、レバー61を大きな力で把持することなく良好な把持状態を維持することができる。
ベゼル62は、シートバック12の側端部12aに略平行な側壁部62aと、該側壁部62aの前端から車幅方向外方に向かって延びる前壁部62bと、これら両壁部62a,62bの上端及び下端に設けられた略水平な上壁部62c(図中符号なし)及び下壁部62dとを有している。側壁部62aの後部における車幅方向内側の面には、シートバックフレーム16の後端部16cと係合する係合部62eが設けられている。また、前壁部62bは、シートバックフレーム16の車幅方向外方に向かって延びる縦面部16dに当接している。側壁部62aの上部及び下部、ならびにシートバックフレーム16には、前記操作レバー61の椀部61b,61bとは反対方向に延びる内方延長部61cが挿通される孔部62f,16eが設けられている。内方延長部61eの先端には、ケーブル部材71,72の一端が結合されている。
ケーブル部材71の他端は、図14に示すように、前記ナックル30まで延びてナックルレバー34の先端に結合されている。他方のケーブル部材72は、前記スライド機構20にまで延びてロック部材24の係合部24bに結合されている(図8、図9参照)。また、他方のケーブル部材72の途中には可動ピン81が取り付けられている。
この可動ピン81は、前記図4及び図15に示すように、ベースフレーム13の上方延伸部13aに設けられた長孔13bに挿通されると共に、脱落防止のための大径部81a,81bを有している。
また、シートバックフレーム16の下端部におけるベースフレーム13側の面には、該面から突出してストッパ82が固着されている。ストッパ82の回動軸心からの距離と、可動ピン81が長孔13b内で上方位置に移動したときにおける可動ピン81から回動軸心までの距離とはほぼ等しくされている。また、ストッパ82は、前記可動ピン81が長孔13bの上部に位置している状態で図15に示すようにシートバック12が鉛直方向に対して支軸17まわりに所定角度θ前傾したときに、図16、図17に示すように可動ピン81と当接する位置に設けられており、これにより、それ以上のシートバック12の前倒を阻止可能になっている。
ケーブル部材71は、シートバック12の内部でシートバックフレーム16に支持されてナックル30にまで導かれている。そして、操作レバー61が後方位置(図13に実線で示す状態)にあり、ナックル30のリング部材31の内歯31a,31aとロック部材32のロック歯32a,32aとが係合してシートバック12が起立状態にロックされた状態のときに、図14に示すように、弛みが生じない長さとされている。
ケーブル部材72は、シートバック4の内部で前記可動ピン81にまで導かれると共に、該可動ピン81からさらに下方に延びて、シートバック4の下端から外部空間に出て、前記図8、図9にあわせて示すようにフロア2の溝2a内にまで延び、スライド機構20のロック部材24の側方下方で上方に立ち上がって係合部24bに結合されている。
その場合に、ケーブル部材72のうち、シートバック4の下端から外部空間に出た後の部分、すなわち、フロア2の溝2a内にまで延び、前記スライド機構20のロック部材24の側方下方で上方に立ち上がって係合部24bに結合されるまでの部分の一部は、前記図8、図9に示すように、前記ベースフレーム13に固定されたブラケット73,73に支持された管部材74に挿通されている。つまり、ケーブル部材72は、中間シート4側に支持されており、該シート4が車両前後方向にスライドすると該シート4と一体で移動する。なお、管部材74の内径はケーブル部材72の外径よりも十分大きくされ、両者間に摺動抵抗がほとんど生じないようにされている。一方、ケーブル部材72のうち、操作レバー61から可動ピン81までの部分の一部は、当該ケーブル部材72との間で後述の摺動抵抗力を生じる被覆部材75により被覆されている。この被覆部材75は、シートバックフレーム16に固定されている。
ここで、被覆部材75とケーブル部材72との摺動抵抗力は、前記スライド機構20の板バネ25の付勢力よりも大きくされている。したがって、図18に示すように、操作レバー61が前側へ揺動され、ケーブル部材72が引かれると、後述する図19に示すように、操作レバー61が後方へ揺動されても、ケーブル部材72は被覆部材75に対して摺動できず、その結果、該ケーブル部材72における操作レバー61と被覆部材72bとの間の部分が弛むこととなる。つまり、操作レバー61の揺動操作がスライド機構20にまで伝達されなくなる。したがって、図14に示すようにスライドロック機構20がロック状態のときに、操作レバー61が前側に揺動されてスライドロック機構20のロック部材24が図18、図19に示すようにロック解除方向に回転し、ロック状態が一旦解除されると、図20に示すように操作レバー61を後方へ揺動させても、該ケーブル部材72における操作レバー61と被覆部材75との間の部分が弛むだけで、スライドロックが解除された状態が継続することとなる。
このスライドロックの解除状態を強制的に解除してロック状態とするための強制ロック部材83が、前記図8、図9に示すように、ロック部材24の係合部24bの下方でロワーレール21の外側壁部21b外面に設けられている。このロック部材83は、ロワーレール21の外側壁部21bに固着された取付面部83aと、該取付面部83aの上端から車幅方向外方に略水平に延びる第1水平面部83bと、該第1水平面部83bの後端から後方上方に延びる傾斜面部83cと、該傾斜面部83cの後端から後方に略水平に延びる第2水平面部83dとを有している。そして、第1水平面部83bの高さは、ロック部材24が反ロック方向に回転した状態、すなわち非ロック状態のときに、係合部24bが下方位置にあるときの該係合部24bの高さよりも低い高さとされている。また、第2水平面部83dの高さは、傾斜面部83cとロック部材24の係合部24bとが係合していない状態では、ロック部材24がロック状態(ロック部材24が図8、図9に示すロック位置にある状態)のときの係合部24bの高さよりも若干高くされている。
これに対し、傾斜面部83cは、ロック部材24の係合部24bが下方位置(図21参照)にある状態で、中間シート4がロワーレール21の後方5つの長孔状ロック孔21e′…21e′の前端部付近まで後方にスライドしてきたときに、当該傾斜面部83cの略中間高さ位置に当接することとなる位置に設けられている。また、該傾斜面部83cの後端位置及び後端高さは、ロック部材24がさらに後方に移動して、ロック爪24a…24aがロック孔21e′…21e′に嵌入し始めた後、該孔21e′…21e′の後端に当接するまでに、ロック部材24をさらに回動させて、ロック爪24a…24aをロック孔22h…22hにまで嵌入させること、つまり中間シート4をスライドロックさせることが可能なだけ係合部24bを押し上げ可能なように設定されている。ここで、この後端に当接したときの中間シート4の車両前後方向位置が該シート4の後方基準位置である。
なお、強制ロック部材83は、板バネを構成可能な弾性材を用いて形成されており、操作部材27の操作によりロック状態を解除するに際して、ロック部材24の係合部24bが押圧部材28により上方から押圧されたときに、該係合部24bが反ロック方向に回転しようとするのが阻害されないように構成されている。くわしくは、強制ロック部材83の上方への付勢力は、操作部材27を操作する際、過度に大きな操作力を必要としない程度の大きさとされ、かつ、強制ロック部材83の上方への付勢力は、ケーブル部材72と被覆部材75との摺動抵抗力よりも大きくされている。
次に、以上のように構成された本シートの動作及び作用について説明する。
まず、前記図14について説明すると、該図14は、前述のように、操作レバー61が操作されず、中間シート4が、後方基準位置でシートバック12が起立状態でロックされ、かつ中間シート4のスライドがロックされている状態を示したもので、この状態においては、ナックル30はロック状態で、スライド機構20のロック部材24がレール21,22のロック孔21e,22g,22hに嵌入している。
次に、後部シート5に乗り込むために、図18に示すように操作レバー61を前方位置(図13における仮想線の状態)まで揺動させると、ケーブル部材71,72が矢印キで示す方向に引かれて、図6に示すように、ナックル30のナックルレバー34が回動、すなわちカム部材33が回動して、リング部材31の内歯31a,31aとロック部材32,32のロック歯32a,32aとの係合が解除される。そして、操作レバー61が前方位置へ揺動された状態においては、回動軸心からロック部材32,32のロック歯32a,32aの先端までの径xは、回動軸心からリング部材31の内周面31bまでの径yよりも小さくなっているため、シートバック4は前倒付勢手段の付勢力により自然に前倒方向に回動する。また、図18に示すように、可動ピン81が長孔13b内で上方へ引き上げられるので、所定角度前倒したときに、前記図16、図17に示すように可動ピン81とストッパ82とが当接し、シートバック12のそれ以上の前倒が阻止される。また、図19にも示すように、スライド機構20のロック部材24,24の係合部24bが、ケーブル72が下方に引かれることにより反ロック方向(図19において反時計回り方向)に回動して、ロック部材24のロック爪24a…24aとレール21,22のロック孔21e…21e,22h…22hとの嵌合が解除され、スライド機構20のロックが解除される。
そして、操作レバー61を前方位置へ揺動させた状態のまま、前側への力を加えて中間シート4を前方へスライドさせる。なお、ナックル30による回動ロックが解除されると、前倒付勢手段の付勢力によりシートバック12が自然に前傾するので、その勢いを利用して中間シート4を前方へスライドさせることができ、スライドさせるために乗員が前方へ加えるべき力が大きく軽減されることとなる。
そして、後部シート5に乗り込んだ後、中間シート4を後方基準位置まで後方へスライドさせるために、操作レバー61をつかんで後方へ引く。したがって、操作レバー61は後方位置へ揺動することとなるが、このとき、ナックル30においては、図7に示すように、ロック部材32,32のロック歯32a,32aがリング部材31の内周面31b,31bに当接しているため、ナックルレバー34は図20に実線で示す中間位置までしか戻らない。したがって、ケーブル部材71には弛みが生じる。また、前述のように、ケーブル部材72と被覆部材75との摺動抵抗力は、前記スライド機構20の板バネ25の付勢力よりも大きくされているから、スライド機構に20によるロックが解除された状態で、操作レバー61が後方位置に戻された場合でも、ケーブル部材72における操作レバー61と被覆部材75との間の部分に弛みが生じるだけで、ロック部材24がロック方向に回動することがなく、ロック解除された状態が継続する。また、可動ピン81は長孔13bの上部で維持され、シートバック12が所定角度θ前傾した状態で保持される。
そして、中間シート4を後方へスライドさせて、後方基準位置近傍まで移動させると、図21に示すように、ロック部材24の係合部24bが強制ロック部材83の傾斜面部83cに当接する。そして、引き続き、中間シート4を後方へスライドさせると、ロック部材24の係合部24bが、強制ロック部材83の傾斜面部83cにより押し上げられることによりロック方向に回動し始め、ロック部材24のロック爪24a…24aがロワーレール21のロック孔21e′…21e′に嵌入し始める。その場合に、後方基準位置近傍におけるロワーレール21のロック孔21e′は前述のように長孔とされているので、ロック爪24a…24aが嵌入し始めた後も中間シート4を後方へスライドさせることができる。したがって、ロック部材24の係合部24bを傾斜面部83c上面に沿ってさらに上方移動させることができ、この結果、ロック部材24の係合部24bをさらにロック方向に回動させて、ロック爪24aをアッパーレール22のロック孔22hにまで嵌入させ、完全にスライドロックすることができる。また、このとき、ケーブル部材72がスライド機構20側に引かれることにより、図22に示すように、ケーブル部材72における操作レバー61と被覆部材75との間の部分の弛みがとれることとなる。
そして、次に、シートバック12を後方に回動させると、ナックル30のリング部材31がシートバックフレーム16(シートバック12)とともに回転する。そして、起立状態(リクライニング量が最も少ない状態)まで回動したときにリング部材31の内歯31a,31aとロック部材32,32のロック歯32a,32aとが係合し、起立状態にロックされることとなる。また、このとき、ナックルレバー34がロック方向に回動することにより、ケーブル部材71の弛みがとれ、図14に示す状態に戻ることとなる。
一方、図23に示すように、操作レバー61ではなく、前記操作紐91の一端に取り付けられた前倒操作部材90を引くと、ナックルレバー34が反ロック方向に回動して、前述のようにロックが解除される。なお、このとき、操作レバー61等その他の部材の回動等を引き起こすことはない。
以上のように、本実施の形態によれば、シートバック12が起立状態でロックされ、かつシートバック12及びシートクッション11が後方基準位置(特許請求の範囲の所定の後方位置)でロックされた状態のときに操作レバー61を中間シート4を移動させたい方向である前側へ揺動させるだけで、ケーブル部材71,72により、ナックル30による回動ロックの解除と、スライド機構20によるスライドロックの解除とが行われる。そして、引き続いて前側に力を加えることによりシートの前方へのスライド、及びシートバックの前傾が可能となる。また、シートバック12を前倒方向に付勢する前倒付勢手段が設けられているので、回動ロックが解除されるとシートバック12が自然に前傾すると共に、その勢いを利用して中間シート4を前方へスライドさせることができる。
その場合に、本実施の形態においては、前記操作レバー61の取手61aを、背景技術のものとは異なり、シートバック12の側端部12aの長手方向に延びる揺動軸63(揺動軸心)を中心として該揺動軸63の後方の位置から側方の位置まで前側に所定角度φ揺動可能に構成しているので、中間シート4を前方へスライドさせるに際して前側へ加えた力が操作レバー61の取手61aで効果的に受け止められるようになり、その結果、レバーをすっぽ抜けないように大きな握力で把持しなくても、取手61aの後面を前方に押すだけでよくなり、操作性が向上することとなる。
また、操作レバー61の取手61aは、揺動軸63の延設方向に延びる形状とされているので、レバー61を揺動させても取手61aの長手方向が変化することがなく、その結果、レバー61を前側へ揺動させる力を安定して加えやすくなる。
また、前記操作レバー61の前側への揺動操作によりロックが解除され、シートクッション11及びシートバック12が前方にスライドされた場合に、これら11,12が後方基準位置に戻されるまでの間、ケーブル部材72と被覆部材75との摺動抵抗力(保持手段)により、操作レバー61の後側への揺動にかかわらずロックが解除された状態が保持されることとなる。したがって、操作レバー61をつかんで中間シート4を後方へスライドさせようとしたときに、該操作レバー61が後側へ揺動しても、スライドロック状態となるのが回避される。また、中間シート4を後方へスライドさせている間、操作レバー61を操作しやすい揺動角度に設定することも可能となり、中間シート4を後方へスライドさせるときの操作性が向上することとなる。
しかも、操作レバー61を把持してシートバック12を後方へスライドさせると、自然と操作レバー61が後側へ揺動した状態となるから、中間シート4が後方基準位置に戻ったときに突然操作レバー61が後方に揺動するようなことが回避される。すなわち、操作者に違和感を生じさせるようなことがない。
なお、本実施の形態においては、操作レバー61を前方へ揺動させると、スライドロック及び回動ロックの解除が同時に行われるようにしたが、本発明は、操作レバーの揺動によりいずれか一方が先に動作し、他方が後に動作するというような時間的ずれを伴って行われる場合に対しても適用可能である。
また、本実施の形態においては、後方基準位置近傍のロック孔21eは長孔21e′としたが、アッパーレール22の外側壁部22dのロック孔22hを設けなくてもよい場合(例えば、アッパーレール22及びロワーレール21の剛性が十分高く内側壁部22bのロック孔22gだけでよいような場合)は、ロック部材24の嵌入量(回動量)が少なくてすむので、長孔の前後方向長を小さくすることができる。
また、本実施の形態においては、操作レバー61の取手(61a)は、板状の取手としたが、図24に示すように、シートバック12の側端部12aの長手方向に延びる円筒状の取手61a′としてもよく、これによれば、取手61a′を握り込んで持つことが可能となるので、取手61a′に対する保持性がよくなり、操作性が一層良好となる。なお、この場合、ベゼル62′の前壁部62b′は、レバー61′を前側に揺動させたときに、握り込んだ状態の親指があたらないように前記例と比べて前方に位置させている。
また、上記2例においてはいずれも操作レバーの取手は揺動軸の延設方向に延びるものとしたが、本発明においては取手は揺動軸心を中心として該軸心の後方から前側に所定角度揺動可能であればよく、例えば、図25に示すように、シートバック12″の側端部12a″の長手方向に延びる揺動軸心63″を中心として該軸心63″の後方から前側に所定角度(例えば約90°)揺動可能な棒状の取手を有する揺動レバー61″の場合を含むものであり、この場合においても、シートを前方へスライドさせるに際して前側へ加えた力がレバーで効果的に受け止められるようになり、その結果、例えばレバー61″の後面を前方に押すだけでレバー61″に力が伝達されることとなり、その結果、該レバー61″を大きな握力で把持しなくてもすっぽ抜ける虞がなくなり、操作性が向上することとなる。
また、前記実施の形態においては、シートが前後に3列設けられている車両について説明したが、例えば2列であっても2列目のシートの側方に乗降用開口部が設けられていない車両等に対して適用可能である。