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JP2006304826A - 血液浄化器 - Google Patents

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JP2006304826A
JP2006304826A JP2005127510A JP2005127510A JP2006304826A JP 2006304826 A JP2006304826 A JP 2006304826A JP 2005127510 A JP2005127510 A JP 2005127510A JP 2005127510 A JP2005127510 A JP 2005127510A JP 2006304826 A JP2006304826 A JP 2006304826A
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Koyo Mabuchi
公洋 馬淵
Hideyuki Yokota
英之 横田
Noriko Kadota
典子 門田
Katsuro Kuze
勝朗 久世
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Toyobo Co Ltd
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Toyobo Co Ltd
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Abstract

【課題】ドライタイプの血液浄化器であって、ラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射による滅菌処理を行っても、選択透過性中空糸膜の劣化が抑制され、抗血栓性に優れ、かつ選択透過性に優れ分離特性のバランスが良く、かつ血液接触使用時の性能保持性安定性の高い血液浄化器を提供する。
【解決手段】ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドン(PVP)からなり、厚みが0.1〜1.2μmのスキン層を有し、外表面最表層のPVP含有量が25〜50質量%で、かつ(外表面最表層のPVP含有量)/(内表面最表層のPVP含有量)≧1.1である選択透過性分離膜を用いて作製されてなる血液浄化器に、牛血液を流したとき、15分後のアルブミンの篩い係数[A]が0.01以上0.1以下で、かつ2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が0.005以上0.04未満であり、該選択透過性中空糸膜中のカルボキシル基含有量が100〜800nmol/gである血液浄化器。
【選択図】なし

Description

本発明は、体外循環による血中老廃物の除去を目的とした血液浄化器に関する。
腎不全治療などにおける血液浄化療法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などの血液浄化器が広く使用されている。特に中空糸型の膜を分離材として用いた血液浄化器は体外循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらに血液浄化器生産時の生産性などの利点から透析器分野での重要度が高い。
上記した膜素材の中で透析技術の進歩に最も合致したものとして透水性能が高いポリスルホン系樹脂が注目されている。しかし、ポリスルホン単体で半透膜を作った場合は、ポリスルホン系樹脂が疎水性であるために血液との親和性に乏しく、エアーロック現象を起こしてしまうため、そのまま血液処理用などに用いることはできない。
上記した課題の解決方法として、ポリスルホン系樹脂に親水性ポリマーを配合し製膜することにより、膜に親水性を付与する方法が提案されている。例えば、ポリエチレングリコール等の多価アルコールを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
特開昭61−232860号公報 特開昭58−114702号公報
また、ポリビニルピロリドンを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献3,4参照)。
特公平5−54373号公報 特公平6−75667号公報
特に、後者のポリビニルピロリドンを用いた方法が安全性や経済性の点より注目されており、該方法により上記した課題は解決される。しかしながら、ポリビニルピロリドンを配合することによる親水性化技術に於いては、透析時にポリビニルピロリドンが溶出し浄化された血液に混入するという課題が発生する。該ポリビニルピロリドンの溶出が多くなると人体に取り異物であるポリビニルピロリドンの長期透析時の体内蓄積が増え副作用や合併症等を引き起こす可能性がある。そこで、ポリビニルピロリドンの溶出量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められている。該透析型人工腎臓装置製造承認基準においては、ポリビニルピロリドン等の溶出量はUV吸光度で定量されている。該透析型人工腎臓装置製造承認基準で溶出量制御の効果を判定した技術が開示されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
特許第3314861号公報 特開平6−165926号公報 特開2000−350926号公報
上記方法により上記の課題は解決される。しかしながら、ポリビニルピロリドンを配合することによる親水性化技術に於いては、血液と接触する膜内面(内表面と称する)および反対面の膜外面(外表面と称する)に存在するポリビニルピロリドンの含有量により選択透過性中空糸膜の膜性能が大きく影響し、その最適化が重要となる。例えば、膜内面のポリビニルピロリドン含有量を高めることにより血液適合性を確保できるが、該表面含有量が高くなりすぎると該ポリビニルピロリドンの血液への溶出量が増加し、この溶出するポリビニルピロリドンの蓄積により長期透析時の副作用や合併症が起こるので好ましくない。
一方、反対面の外表面に存在するポリビニルピロリドンの含有量が高すぎると、透析液に含まれる親水性の高いエンドトキシン(内毒系)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に外表面に存在するポリビニルピロリドンが介在し中空糸膜同士がくっつき(固着)し、血液浄化器組み立て性が悪化する等の新たな課題が引き起こされる。逆に、外表面に存在するポリビニルピロリドン量を低くすることは、エンドトキシンの血液側への浸入を抑える点では好ましいことであるが、外表面の親水性が低くなるため、血液浄化器組み立て後に組み立てのために乾燥した中空糸膜を湿潤状態に戻す際に、湿潤のために用いる生理食塩水との馴染みが低くなるので、該湿潤操作の折の空気の追い出し性であるプライミング性が低下するという課題の発生に繋がるので好ましくない。
上記した課題解決の方策として、選択透過性中空糸膜の内表面の緻密層に存在するポリビニルピロリドンの含有量を特定範囲とし、かつ内表面の上記緻密層に存在するポリビニルピロリドンの含有量が外表面に存在するポリビニルピロリドンの含有量の少なくとも1.1倍以上にする方法が開示されている(特許文献5参照)。すなわち、上記技術は内表面の緻密層表面に存在するポリビニルピロリドンの含有量を高め血液適合性を改善し、逆に外表面に存在するポリビニルピロリドンの含有量を低くし、膜を乾燥させた時に発生する中空糸膜同士の固着の発生を抑える思想の技術である。本技術により固着発生の課題に加え、上記した課題の一つである透析液に含まれるエンドトキシン(内毒系)が血液側へ浸入する課題も改善されるが、外表面に存在するポリビニルピロリドンの含有量が低く過ぎるために前記したもう一つの課題であるプライミング性が低下すると言う課題の発生に繋がるという問題が残されておりその改善が必要である。
また、赤外線吸収法で定量された表面近傍のポリビニルピロリドンの選択透過性中空糸膜の内表面、外表面および膜中間部におけるポリビニルピロリドンの含有量が特定化することにより、前記した課題の一つである透析液に含まれるエンドトキシン(内毒系)が血液側へ浸入する課題を改善する方法が開示されている(例えば、特許文献8参照)。該技術により上記課題の一つは改善されるが、例えば、前記技術と同様に、プライミング性が低下すると言う課題が解決されないし、また、該技術で得られた選択透過性中空糸膜は膜外表面の開孔率が25%以上と高くなるので膜強度が低くなり血液リーク等の課題に繋がるという問題を有している。
特開2001−38170号公報
さらに、選択透過性中空糸膜の内表面のポリビニルピロリドンの表面含有量を特定化することにより、血液適合性とポリビニルピロリドンの血液への溶出量を改善する方法が開示されている(例えば、特許文献9〜11参照)。
特開平6−296686号公報 特開平11−309355号公報 特開2000−157852号公報
上記技術は、いずれもが中空糸膜の反対面の外表面のポリビニルピロリドンの含有量に関しては全く言及されておらず、前記した外表面のポリビニルピロリドンの含有量による課題の全てを改善できてはいない。
上記した課題の内、エンドトキシン(内毒系)が血液側へ浸入する課題に関しては、エンドトキシンが、その分子中に疎水性部分を有しており、疎水性材料へ吸着しやすいという特性を利用した方法が開示されている(例えば、特許文献12参照)。すなわち、中空糸膜の外表面における疎水性高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を5〜25%にすることにより達成できる。確かに、該方法はエンドトキシンの血液側への浸入を抑える方法としては好ましい方法ではあるが、この特性を付与するには、膜の外表面に存在するポリビニルピロリドンを洗浄で除去する必要があり、この洗浄に多大の処理時間を要し、経済的に不利である。例えば、上記した特許の実施例では、60℃の温水によるシャワー洗浄および110℃の熱水での洗浄をそれぞれ1時間づつ掛けて行われている。
特開2000−254222号公報
また、外表面に存在するポリビニルピロリドン量を低くすることは、エンドトキシンの血液側への浸入を抑える点では好ましいことであるが、外表面の親水性が低くなるため、血液浄化器組み立て後に組み立てのために乾燥した中空糸膜を湿潤状態に戻す際に、湿潤のために用いる生理食塩水との馴染みが低くなるので、該湿潤操作の折の空気の追い出し性であるプライミング性が低下すると言う課題の発生に繋がるので好ましくない。この点を改良する方法として、例えばグリセリン等の親水性化合物を配合する方法が開示されている(例えば、特許文献13、14参照)。しかし、該方法は親水性化合物が透析時の異物として働き、かつ該親水性化合物は光劣化等の劣化を受けやすいため、血液浄化器の保存安定性等に悪影響をおよぼす等の課題に繋がる。また、血液浄化器組み立てにおいて中空糸膜を血液浄化器に固定する時の接着剤の接着阻害を引き起こすという課題もある。
特開2001−190934号公報 特許第3193262号公報
一方、膜の外表面の開孔率や孔面積を特定値化した膜が開示されている(例えば、特許文献15参照)。
特開2000−140589号公報
また内表面のポリビニルピロリドン含有量は、選択透過性中空糸膜の分離の選択性に関しても大きな影響を与える。すなわち、慢性腎不全患者の血液処理法に関しては有効蛋白質であるアルブミンの漏れは最小限に抑えつつ、その他の低分子蛋白を積極的に除去する必要がある。例えば、アルブミンの透過率が0.5〜0.0001%であるポリスルホン系選択分離膜に関する技術が開示されている(特許文献16参照)。確かに、該特許文献の技術はアルブミンの透過率が極めて低いレベルに抑えられている点では優れた技術であるが、該技術で得られた選択透過性中空糸膜は、例えばα1−マイクログロブリンの除去率が低いという課題がある。近年、長期透析患者の増加に伴う透析合併症が注目されており尿素、尿酸、クレアチニンなどの低分子量物質だけでなく、分子量5000ダルトン前後の中分子量領域から分子量一万ダルトン以上の低分子量蛋白まで除去対象が広がっている。血中に存在するα1−マイクログロブリンに代表される分子量3万程度の尿毒症物質を効率よく除去できることが求められているが、特許文献16の技術は蛋白質分離の選択性が劣るので、この要求には答えることが出来ない。一方、卵白アルブミンの篩い係数が0.2以上のポリスルホン系選択分離膜に関する技術が開示されている(特許文献17参照)。該特許文献で得られた選択透過性中空糸膜は尿毒症物質を効率よく除去できる点では有効である。また、有用蛋白質の除去率との選択透過性がよいことが記述されているが、該効果に関しての詳細については言及されていない。さらに、血液浄化器としての実用性において重要な特性である、血液透析の実施における経時による該特性の変化、すなわち経時安定性に関しては全く言及されていない。従って、アルブミンとα1−マイクログロブリンの両者の除去バランスおよびこれらの特性の経時安定性が改善された選択透過性中空糸膜の開発が強く嘱望されている。
特開平11−309356号公報 特開平7−289863号公報
一方、血液浄化器においては、該血液浄化器に充填されている選択透過性中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋や滅菌処理を目的として放射線照射処理がなされることがある。しかしながら、放射線照射を行った場合、架橋反応や滅菌作用以外に親水性高分子の一部に変性が引き起こされることがある。すなわち、処理雰囲気中の水や酸素と反応して、酸化状態にある不安定な官能基や部分構造が生成したり、加水分解によって新たな官能基が生成したりする。膜全体における親水性高分子の含有量はたとえ少なくても、その殆どは、相分離によってポリスルホン凝集粒子表面に濃縮されて存在するため、血液に対するこれらの影響は無視できるものではない。その結果、これらの変性部分の物理化学的変化により、膜の抗血栓性が低下することがあった。また、照射後の長期保管中にも変性が続いて、実使用時までに抗血栓性が低下するおそれもあった。
上記課題を解決する方法として、放射線照射された膜において、膜中のカルボキシル基含有量と過酸化物含有量とを一定の範囲に制御すると、抗血栓性に優れ、しかも、長期保管しても抗血栓状態を保持できる技術が開示されている(特許文献18参照)。
特開2000−135421号公報
しかしならが、上記特許文献において開示されている血液浄化器は、水充填の状態で放射線照射された、いわゆるウエットタイプの血液浄化器に適用される方法である。該ウエットタイプの血液浄化器は、水充填のため重量は当然大きくなり、輸送や取り扱いが不便であるとか、寒冷地では厳寒期に血液浄化器に充填された水が凍結し中空糸膜の破裂や損傷を与える等の問題を有する。さらに、多量の滅菌水の準備など高コスト化の要因を有している。しかも、中空糸膜をわざわざバクテリアが繁殖しやすい湿潤状態にするため、包装後、滅菌するまでの僅かな時間の間にもバクテリアが繁殖することが考えられる。その結果、このようにして製造された血液浄化器は、完全な滅菌状態を得るまでに高コスト化あるいは安全性の問題に繋がるので好ましくない。該技術は、ラジカル捕捉剤の存在下で放射線照射されおり、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が必要であるという課題を有する。そこで、乾燥状態の選択透過性中空糸膜が装填された、いわゆるドライタイプの血液浄化器で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射しても前記課題が回避できる方法の確立が強く嘱望されている。
また、血液浄化器は人工腎臓用透析器として使用する場合は、使用前に完全な滅菌処理を施す必要がある。該滅菌処理には、ホルマリン、エチレンオキサイドガス、高圧蒸気滅菌あるいはγ線等の放射線あるいは電子線照射滅菌法等が用いられており、それぞれ特有の効果を発揮している。このうち、放射線や電子線照射による滅菌法は被処理物を包装状態のまま処理できるとともに、滅菌効果が優れていることもあり、好ましい滅菌方法として採用されている。
しかしながら、血液浄化器に使用されている中空糸膜や該中空糸膜の固定に使用されている接着剤等は、放射線照射により劣化することが知られており、劣化を防止しつつ滅菌する方法が提案されている。例えば、中空糸膜を飽和含水率以上の湿潤状態とすることにより、γ線照射により中空糸膜の劣化を抑える方法が開示されている。(例えば、特許文献19参照)。しかしながら、該方法は上記特許文献18と同様の課題を有する。
特公昭55−23620号公報
上記の湿潤状態を回避し、かつ放射線照射による劣化を抑制する方法として、中空糸膜にグリセリン、ポリエチレングリコール等の滅菌保護剤を含有させ、乾燥状態でγ線照射する方法が開示されている(例えば、特許文献20参照)。しかしながら、該方法は中空糸膜に保護剤を含有しているために、中空糸膜の含水率を低く抑えることが難しく、また保護剤のγ線照射による劣化の問題や保護剤を使用直前に洗浄、除去するために手間が掛かる等の問題があった。
特開平8−168524号公報
上記の課題を解決する方法として、半透膜を収容した透析器において、半透膜の自重に対して100%以上の水を抱液させ、該透析器内を不活性ガス雰囲気とした後、γ線照射を行う透析器の製造方法が開示されている(特許文献21参照)。しかしながら、該放射線を照射する前の中空糸膜の具備すべき特性や放射線照射による中空糸膜のプライミング性に対する影響に関しては言及されていない。
特開2001−170167号公報
また、上記の課題を解決する方法として、中空糸膜の含水率が5%以下、かつ中空糸膜周辺付近の相対湿度が40%以下の状態で放射線を照射して滅菌する方法が開示されている。(例えば、特許文献13参照)。該方法は上記した課題は解決されており、かつ透析型人工腎臓装置製造承認基準の透析膜の溶出物試験に従って測定された波長220〜350nmにおける紫外線吸光度は基準値の0.1以下を満足している。しかしながら、該特許文献22においては滅菌処理時の中空糸膜の周りの酸素濃度の影響や滅菌処理後の溶出物の溶出量変化等については何ら言及をされていない。
特開2000−288085号公報
また、γ線照射により滅菌を行う方法において、中空糸膜の含水率が10wt%以下の状態でγ線照射を行うことで膜素材の不溶化成分が10wt%以下であることを達成する方法が開示されている。(例えば、特許文献23参照)。該特許文献には、40%エタノール水溶液で抽出される膜の被処理液接触側面積1m2あたりの親水性高分子の量が2.0mg/m2以下が達成できることが開示されている。しかし、該特許文献においても、γ線照射を実施する場合の中空糸膜の周りの酸素濃度の影響や滅菌処理後の溶出物の溶出量変化あるいは滅菌処理によるプライミング性に及ぼす影響等については何ら言及をされていない。
特開2001−205057号公報
また、酸素による医療用具の基材の劣化を回避する方法として酸素不透過性の材料よりなる包装材料で医療用具を脱酸素剤と共に密封し放射線照射をする方法が知られており、血液浄化器についても開示されている。(例えば、特許文献24〜26参照)。
特開昭62−74364号公報 特開昭62−204754号公報 WO98/58842号公報
上記した脱酸素剤を用いた放射線照射における劣化としては、特許文献24では臭気の発生が、特許文献25では基材の強度や透析性能の低下が、特許文献26では基材の強度低下やアルデヒド類の発生が記述されているが、前記した抽出分量の増大に関しては言及されていない。また、放射線照射時の包装袋内の酸素濃度に関しては記述されているが、中空糸膜中の水分の重要性に関しては何ら言及されていない。
さらに、上記の脱酸素剤を用いた系で放射線滅菌する方法に用いられる包装袋の素材としては、ガス、特に酸素の不透過性の重要性は記述されているが、湿度の透過性に関しては言及されていない。
また、内部に膜保護剤がウエット状または半ウエット状で充填されてなる液体処理器を不活性ガス雰囲気下で放射線滅菌する方法が開示されている(例えば、特許文献27参照)。本特許文献において、不活性ガス雰囲気を作り出す達成手段として脱酸素剤を用いる方法が開示されている。また、膜保護剤として水が列挙されている。一方、半ウエット状態における含水率の下限量に関しては言及されていないが、発明が解決しようとする課題において、「グリセリン、生理食塩水あるいは水が滲み出てきて液体処理器の外壁および包装袋内部に付着し、液体処理器の操作時に手に付着する問題があった」と記述されており、飽和含水率以上であることが示唆されている。従って、特許文献19と同様の課題を有した技術であると見なせる。
特開平8−280795号公報
滅菌効果の長期維持を図る目的で、ドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を真空包装してγ線を照射して滅菌する方法が開示されている(特許文献28参照)。しかしながら、γ線照射や保存における中空糸膜の劣化については全く配慮がなされていない。また、中空糸膜の含水率に関しても何ら言及がされていない。
特開2001−149471号公報
また、乾燥された中空糸膜にγ線を照射することにより、湿潤状態での照射に比べて中空糸膜中の過酸化物量が増大することが開示されているが、乾燥状態でのγ線照射における過酸化物の生成を抑制する方法に関しては、全く言及されていない(特許文献29参照)。
特開2000−135421号公報
さらに、上述のごとく血液浄化治療に用いられる選択透過性中空糸膜の製造において、ポリビニルピロリドンの溶出を抑制したり、滅菌のためにγ線等の放射線を照射する方法において、該照射時の中空糸膜の含水率や照射雰囲気条件に関しては開示されているものもあるが、該放射線を照射する前の中空糸膜の具備すべき特性や放射線照射による中空糸膜のプライミング性に対する影響に関しては言及されていない。
また、各種工業用の水処理等に用いられる液体分離膜モジュールを空気透過性が抑制された特定組成のフィルムで包装された液体分離膜モジュールの包装体および保存方法が開示されている(特許文献30参照)。該方法は包装体内に特定溶存酸素濃度の脱酸素水が充填された湿式状態での包装体および保存方法に関するものである。
特開2004−195380号公報
本発明は、上記従来の技術における問題点のない、すなわち、ドライタイプの血液浄化器において、ラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射による滅菌処理を行っても、該放射線照射による選択透過性中空糸膜の劣化が抑制され、抗血栓性に優れ、かつ分離特性のバランスが良く、かつ血液接触使用時の性能保持性安定性の高い血液浄化器を提供することにある。
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、主としてポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンよりなる選択透過性中空糸膜のスキン層厚みが0.1〜1.2μmで、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が25〜50質量%で、かつ(外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)/(内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)≧1.1である選択透過性中空糸膜を用いて作製されてなる血液浄化器に、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dl、クエン酸ナトリウムを添加した37℃の牛血液を200ml/分、濾過流量20ml/分で流したとき、15分後のアルブミンの篩い係数[A]が0.01以上0.1以下で、かつ2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が0.005以上0.04未満であり、該選択透過性中空糸膜中のカルボキシル基含有量が100〜800nmol/gである血液浄化器である。
この場合において、2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が15分後のアルブミンの篩い係数[A]より小さいことが好ましい。
また、この場合において、15分後のアルブミンの篩い係数[A]と2時間後のアルブミンの篩い係数[B]の関係が下記式を満足することが好ましい。
[B]/[A]=0.1〜0.4
また、この場合において、選択透過性中空糸膜中の過酸化物含有量が200nmol/g以下であることが好ましい。
また、この場合において、選択透過性中空糸膜の膜厚が25〜50μmであることが好ましい。
また、この場合において、選択透過性中空糸膜における外表面の開孔率が20〜35%であることが好ましい。
また、この場合において、選択透過性中空糸膜の含水率が600質量%以下であることが好ましい。
また、この場合において、放射線照射前の選択透過性中空糸膜束を血液浄化器に充填する長さ単位で長手方向に10個に分割し、各々を透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施したとき、すべての抽出液における過酸化水素濃度が5ppm以下であることが好ましい。
本発明の血液浄化器は、選択透過性に優れており、かつドライタイプであるので、軽い、凍結しない、雑菌が繁殖しにくい等の利点がある。また、本発明の血液浄化器に装填されているポリスルホン系選択透過性中空糸膜はラジカル捕捉剤が含まれていないので、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が不要であるという利点がある。さらに、本発明においては、ドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で、放射線照射しても放射線照射による選択透過性中空糸膜の劣化が抑制されるという従来技術では達成しえない効果が発現されるので、該劣化反応により生ずるカルボキシル基および過酸化物の生成が少なく、本発明の血液浄化器は、抗血栓性に優れているという利点を有する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の血液浄化器に用いられる選択透過性中空糸膜(以下、単に中空糸膜と称することがある。)は、ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系樹脂で構成されているところに特徴を有する。本発明におけるポリスルホン系樹脂とは、スルホン結合を有する樹脂の総称であり特に限定されないが、例を挙げると
Figure 2006304826
Figure 2006304826
で示される繰り返し単位をもつポリスルホン樹脂やポリエーテルスルホン樹脂がポリスルホン系樹脂として広く市販されており、入手も容易なため好ましい。
本発明に用いられるポリビニルピロリドンは、N−ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の高分子化合物であり、例えばBASF社より「コリドン」、ISP社より「プラスドン」、第一工業製薬社より「ピッツコール」の商品名で市販されており、それぞれ各種の分子量の製品がある。一般には、親水性の付与効率では低分子量のものが、一方、溶出量を低くする観点では高分子量のものを用いるのが好適であるが、最終製品の中空糸膜の要求特性に合わせて適宜選択される。単一の分子量のものを用いても良いし、分子量の異なる製品を2種以上混合して用いても良い。また、市販の製品を精製し、例えば分子量分布をシャープにしたものを用いても良い。ポリビニルピロリドンの分子量としては質量平均分子量10,000〜1,500,000のものを用いることができる。具体的には、例えばBASF社より市販されている分子量9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明の選択透過性中空糸膜は、ポリビニルピロリドンとして過酸化水素含有量が300ppm以下のものを用いて製造することが好ましい。250ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下がよりさらに好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の該過酸化水素含有量を300ppm以下にすることは、選択透過性中空糸膜中の過酸化水素溶出量を5ppm以下に安定させる第一の要素であり、選択透過性中空糸膜の品質安定化が達成できるので好ましい。
上記した原料として用いるポリビニルピロリドン中に含有される過酸化水素は、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の過程で発生すると推定される。従って、過酸化水素含有量を300ppm以下にするには、ポリビニルピロリドンの製造工程でポリビニルピロリドンの酸化劣化を抑える方策をとることが有効である。また、ポリビニルピロリドンの搬送や保存時の劣化を抑える手段を取る事も有効であり推奨される。例えば、アルミ箔ラミネート袋を用いて、遮光し、かつ窒素ガス等の不活性ガスで封入するとか、脱酸素剤を併せて封入し保存することが好ましい実施態様である。また、該包装体を開封し小分けする場合の計量や仕込みは不活性ガス置換をして行い、かつその保存についても上記の対策を取るのが好ましい。また、中空糸膜の製造工程においても、原料供給系での供給タンク等を不活性ガス置換する等の手段をとることも好ましい実施態様として推奨される。また、再結晶法や抽出法で過酸化水素量を低下させる方法をとることも排除されない。また、該ポリビニルピロリドンを溶媒に溶解する場合は70℃以下の温度で溶解するのが好ましい。
該溶解を不活性ガス置換した状態で行うのも好ましい実施態様である。
このように、本発明においては、上記のポリビニルピロリドンを使用することが好ましいが、例えば、ポリグリコール等の他の親水性高分子を、本発明の目的の範囲内で併用しても構わない。
本発明の選択透過性中空糸膜の製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば特開2000−300663号公報に知られるような中空糸膜タイプのものを製造する方法が好ましい。例えば、該特許文献に開示されているポリエーテルスルホン(4800P、住友化学社製)16質量部とポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製)5質量部、ジメチルアセトアミド74質量部、水5質量部を混合溶解し、脱泡したものを製膜溶液として、50%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液として使用し、これを2重管オリフィスの外側、内側より同時に吐出し、50cmの空走部を経て、75℃、水の凝固浴中に導き中空糸膜を形成し、水洗後まきとり、10000本束ねたところで筒状ポリプロピレン製フィルムに装填して27cmの長さにカットし、ウェットの中空糸膜を製造し、得られたウェットの中空糸膜を60℃のエアを中空糸膜束の長手方向に、一方向から20時間通風することによる乾燥が例示できる。
上記のごとく、本発明の選択透過性中空糸膜は、その構成成分である上記のポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンとを溶媒に溶解した製膜溶液を用いた乾湿式製膜法で製造できる。そのような溶媒としては両成分を溶解することのできるジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系やジメチルスルホキサイド等のスルホキサイド系の極性溶媒が用いられる。また、10質量%以下であれば水やアルコール等のポリスルホン系高分子に対する非溶媒を併用しても良い。このことによりポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの相分離の制御ができる。
本発明の血液浄化器は、上記組成よりなる選択透過性中空糸膜を装填して作製した血液浄化器に、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dl、クエン酸ナトリウムを添加した37℃の牛血液を200ml/分、濾過流量20ml/分で流したとき、15分後のアルブミンの篩い係数[A]が0.01以上0.1以下で、かつ2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が0.005以上0.04未満であることが好ましい(要件1)。15分後のアルブミンの篩い係数は0.01以上0.09以下がより好ましく、0.01以上0.08以下がさらに好ましい。一方、2時間後のアルブミンの篩い係数[B]は0.005以上0.035以下がより好ましく、0.005以上0.03以下がさらに好ましい。15分後および2時間後のアルブミンの篩い係数がそれぞれ大きすぎる場合、有用蛋白質であるアルブミンの透過率が高くなり、患者に対する負担が大きくなる可能性がある。一方、15分後および2時間後のアルブミンの篩い係数がそれぞれ小さすぎる場合は、アルブミンの透過率が低い点では好ましいが、α1マイクログロブリン等の尿毒症物質を効率よく除去できない可能性がある。
アルブミンは生体にとって有用なタンパク質であり、臨床においては血液透析治療1回(除水量3L)あたりのアルブミン漏出量は3g以下が適当と考えられている。アルブミン漏出量が多すぎると、食事摂取量の少ない患者では低アルブミン血症などの障害を引き起こす可能性がある。したがって、血液透析1回あたりのアルブミン漏出量は2.5g以下がより好ましく、2.0g以下がさらに好ましく、1.5g以下がよりさらに好ましい。逆に、生体内にはアルブミンに結合する毒素の存在も知られており、アルブミン漏出量が少なすぎても、種々の障害を引き起こすことがある。したがって、透析治療1回あたりのアルブミン漏出量は0.05g以上が好ましく、0.1g以上がより好ましく、0.15g以上がさらに好ましい。
また、本発明においては、2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が15分後のアルブミンの篩い係数[A]より小さいことがより好ましい(要件2)。該要件を満たすことにより本発明の効果が顕著に発現できる。さらに、15分後のアルブミンの篩い係数[A]と2時間後のアルブミンの篩い係数[B]の関係が、[B]/[A]=0.1〜0.4を満足することが好ましい(要件3)。[B]/[A]=0.15〜0.38がより好ましい。[B]/[A]が大きすぎる場合は、有用タンパク質であるアルブミンの透過率が高くなり、患者に対する負担が大きくなることがある。一方、[B]/[A]が小さすぎる場合は、α1マイクログロブリン等の尿毒症物質を効率よく除去できない可能性がある。
本発明においては、α1マイクログロブリン(分子量33,000)のクリアランスが10ml/min(1.0m2)以上であることが好ましい(要件4)。α1マイクログロブリンのクリアランスが小さすぎると、分子量30,000程度の物質の除去量が少ないため、透析合併症の予防効果や痒み・痛みといった臨床症状の改善効果を得られないことがある。したがって、α1マイクログロブリンのクリアランスは12ml/min(1.0m2)以上がより好ましく、15ml/min(1.0m2)以上がさらに好ましく、17ml/min(1.0m2)以上がよりさらに好ましく、20ml/min(1.0m2)以上が特に好ましい。また、α1マイクログロブリンの除去性を高める意味でクリアランスは大きい方が好ましいが、クリアランスを大きくしすぎると有用タンパクであるアルブミンの漏出量を抑えることが難しくなるので、α1マイクログロブリンのクリアランスは100ml/min(1.0m2)以下が好ましく、80ml/min(1.0m2)以下がより好ましく、60ml/min(1.0m2)以下がさらに好ましい。
本発明において血液ろ過開始直後のろ液中タンパク濃度の測定を15分後としているのは以下の理由による。本発明において発明の目的から明らかなように血液ろ過直後の膜の細孔径がある値以上を取ることが必要であり、そのため血液ろ過開始後出来るだけ早い時間のろ液中タンパク濃度を正確に測定することが望ましい。しかしながら、膜は血液と接触する前に予め生理食塩水でプライミング処理を施してあり膜中および血液浄化器中のろ液側は生理食塩水で満たされている。このため血液を流しろ過を始めても最初に得られるろ液は生理食塩水で希釈された状態になっており、正確なろ液中タンパク濃度を得ることは困難である。ろ液流量が15ml/min程度の場合、生理食塩水による希釈の影響を無視できる最短時間はろ過開始後15分である。
本発明において120 分後のろ液中タンパク濃度は0.005以上0.04未満が好ましい。120 分後のろ液中タンパク濃度が0.005以上であれば分子量3 万程度の分子量物質の除去が治療時間全域にわたって効率的に行われる。0.005未満の場合には治療開始初期の物質除去性能は高いが治療時間全域にわたって除去効果が持続できない可能性がある。また、120 分後のろ液中タンパク濃度が大きすぎると治療時間全域にわたってタンパク質の漏出が多くなり低タンパク血症を引き起こしやすくなる。
痒みやいらいら感の原因物質は分子量3 万程度と推定されているが、まだ特定されていない。また、分子量は同じでも分子の形が異なると膜で濾過した時の除去特性は一概に定義できない。われわれの検討では15分後のろ液中タンパク濃度が0.01以上のとき、α1マイクログロブリン(分子量33,000)のクリアランスが10ml/min(1.0m2)以上となることが認められている。われわれは実験室的に臨床効果を客観的に判断できる基準として、α1マイクログロブリン(分子量33,000)のクリアランスを導入し、このクリアランスが10ml/min(1.0m2)以上のときに痒みやいらいら感を解消できると考えた。
慢性腎不全患者の血液処理において、有用なタンパク質であるアルブミンの漏れを最小限に抑えることが重要であるが、これを抑えると、一方でα1マイクログロブリンなどの除去率が非常に低下してくる。その適正なバランスを持たせるために、選択透過性中空糸膜の性能について検討すると、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンからなる選択透過性中空糸膜を装填して作製した血液浄化器に、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dl、クエン酸ナトリウムを添加した37℃の牛血液を200ml/min、ろ過流量20ml/minで流したとき、15分後のアルブミンの篩い係数[A]が0.01以上0.1以下で、かつ2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が0.005以上0.04未満の範囲に収まるような特徴を有する選択透過性中空糸膜とすることが最適な条件であることを見出した。このような最適な条件を備えた分離膜を製造するためには、各種の材料、その仕様、製造プロセス、乾燥条件などを制御することが重要であるが、この分離膜の構造的な特徴と、アルブミン篩い係数の関係を解析するのも一つの手法である。
本発明の分離膜の有する特性の最も典型的な特徴の一つである中空糸膜の内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量[C]と外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量[D]の関係における[D]/[C]と、15分後のアルブミン篩い係数[A]と2時間後のアルブミン篩い係数[B]との関係を表わしたものが図2である。これによると、本発明の請求項1で特定している[D]/[C]が1.1倍以上になると、アルブミン篩い係数[A]に関しては、実施例1〜3においては、所定の0.01以上0.1以下と、0.005以上0.04未満の範囲に適正に収まり、アルブミンとα1マイクログロブリンとのバランスの取れた、安定した選択透過性中空糸膜が得られる。もちろん、ポリビニルピロリドンの分子量、膜中の含有量が、そのアルブミン篩い係数に影響するものと考えられるが、本件実施例において検証した範囲では、[D]/[C]が1.1超であることが、アルブミン篩い係数が所定の範囲に収まるという点で、大きな影響を与える要因の一つであることが容易に理解できる。
同様に、アルブミン篩い係数の比である[B]/[A]とポリビニルピロリドン含有比である[D]/[C]の関係を調べると(図3参照)、本件実施例1〜3においては、[D]/[C]が1.1超の場合に、[B]/[A]が、0.1〜0.4の範囲に適性に収まるが、比較例1および2においては、分布が大きく外れる。
本発明において、選択透過性中空糸膜に上記した蛋白質分離の選択性バランスを付与する方法は限定されないが、本発明における選択透過性中空糸膜は、内表面にスキン層を有し、外表面に向かって孔径が拡大する所謂非対称構造を有することが好ましい。さらに、スキン層の厚みは0.1〜1.2μmであることが好ましい(要件6)。実質の分離活性層であるスキン層の厚みは薄い方が、溶質の移動抵抗が小さくなるため好ましく、1.1μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。しかし、スキン層の厚みが薄すぎると、潜在的な細孔構造の欠陥が顕在化しやすくなり、有用タンパクであるアルブミンの漏出を抑えることができなくなるとか、耐圧性を確保するのが難しくなるなどの問題が発生することがある。したがって、スキン層厚みは0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.4μm以上がさらに好ましい。
また、前記の製造方法において、製膜溶液がポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドンおよび溶剤からなり、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率が10〜18質量%であり、内部液がアミド系溶剤を30〜60質量%含む水溶液であり、該内部液の液温を製膜溶液の液温より30〜60℃低くし、かつその液温が0〜40℃で吐出することも好ましい実施態様である。ポリビニルピロリドン比率としては12.0〜17.5質量%がより好ましく、13.0〜17.5質量%がさらに好ましい。内部液のアミド系溶剤量は32〜58質量%がより好ましく、34〜56質量%がさらに好ましく、35〜54質量%がよりさらに好ましい。内部液の液温を製膜溶液の液温の差は30〜60℃がより好ましく、30〜55℃がさらに好ましく、35〜50℃がよりさらに好ましい。内部液の液温は0〜35℃がより好ましく、5〜30℃がさらに好ましく、10〜30℃がよりさらに好ましい。これらの条件を選ぶことにより選択透過性中空糸膜のスキン層厚み、内表面のポリビニルピロリドン含有量、平均孔径や孔径分布等の内表面特性が最適化され蛋白質の選択性が向上し、本発明の選択透過性中空糸膜が具備すべき必要特性が達成できる。
また、内部液の温度を前記範囲に設定することにより、内部液をノズルより吐出した際、溶け込んでいた溶存気体が気泡となって発生するのを抑制できる。すなわち、内部液中の溶存気体の気泡化を抑制することにより、ノズル直下での糸切れや、ノブの発生を抑えるという副次効果も有する。
内部液の液温と製膜溶液の液温に温度差を付ける方法も限定されないが、チューブインオリフィス型ノズルとして内部液タンクからノズルまでの配管およびノズルブロック内に熱交換器が設けられ製膜溶液の温度とは別個に液温調整ができる内部液熱媒循環型ブロックを用いるのが好ましい実施態様である。
また、前記の蛋白質の選択性のバランスを付与する達成手段として、ポリビニルピロリドンが実質的に非架橋であることが挙げられる(要件8)。本発明においては選択透過性中空糸膜中に存在するポリビニルピロリドンの血液通過による膨潤効果により、上記の蛋白質の選択性のバランスを付与することをその達成手段の一つの要素としている。すなわち、治療開始時は蛋白質の透過性を高くしておき、透析の進行による血液の通過にともなって選択透過性中空糸膜中のポリビニルピロリドンの膨潤が進行することによりアルブミンの透過性を低減させることにより蛋白質分離の選択性を向上させるという効果を利用している。ポリビニルピロリドンが架橋されるとポリビニルピロリドンの分子運動性や血液による膨潤性が低下するので該作用機能が低下し蛋白質分離の選択性が低下することがある。
本発明において、不溶分の含有率は、選択透過性中空糸膜中に存在する全ポリビニルピロリドンに対して30質量%以下が好ましい。25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がよりさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましく、5質量%未満が最も好ましい。該不溶分の含有率はポリビニルピロリドンの架橋度の尺度であり、不溶分の含有率が30質量%を超えた場合は、選択透過性中空糸膜中に存在するポリビニルピロリドンの架橋が進行しているということであり、上記の作用機能が低下し蛋白質の選択性の低下や、選択透過性中空糸膜の血液適合性低下に繋がることがある。ただし、本願発明の選択透過性中空糸膜は、乾燥後の含水率を1〜10質量%に保つのが好ましいため、照射滅菌時にわずかに存在する水分の影響によりある程度の架橋反応が起こる。また、極わずかに架橋(不溶化)させることにより、血液通液時の残血等に悪影響を及ぼさず、かつ溶出物量を減ずるという副次的な効果を発現することができる。したがって、不溶分の含有率は0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.5質量%以上がよりさらに好ましい。
上記の不溶分の含有量は、簡易的には選択透過性中空糸膜をジメチルホルムアミドに浸漬し溶解させて得られる溶液の不溶分の有無により判断ができる。すなわち、選択透過性中空糸膜10gを100mlのジメチルホルムアミドに溶解して目視で観察して不溶分が見えないものを非架橋と判定する。
本発明においては、選択透過性中空糸膜の膜厚が25〜50μmであることが好ましい(要件7)。膜厚が薄すぎると、耐圧性が低下することがある。また、選択透過性中空糸膜の腰が弱くなり血液浄化器の組み立て性が低下するという課題にも繋がることがある。したがって、膜厚は26μm以上がより好ましく、27μm以上がさらに好ましい。一方、膜厚が厚すぎると、α1マイクログロブリンのクリアランの低下やポリビニルピロリドンの溶出量増大につながる。また、膜厚の増大に伴い血液浄化器を大きくする必要があるなど、例えば、中空糸膜の場合、血液浄化器がコンパクトであるというメリットを損なうおそれがある。したがって、膜厚は45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、35μm以下がよりさらに好ましい。
本発明においては、選択透過性中空糸膜の内表面の最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量が20〜40質量%であることが好ましい(要件9)。20質量%未満では、中空糸膜内表面の親水性が低く血液適合性が悪化し中空糸膜表面で血液の凝固が発生しやすくなり、凝固した血栓による中空糸膜の閉塞が発生し中空糸膜の分離性能が低下したり、血液透析に使用した後の残血が増えたりすることがある。中空糸膜内表面の最表層のポリビニルピロリドンの含有量は、21質量%以上がより好ましく、22質量%以上がさらに好ましく、23質量%以上がよりさらに好ましい。一方、40質量%を超えた場合は、血液に溶出するポリビニルピロリドン量が増大し、該溶出したポリビニルピロリドンによる長期透析による副作用や合併症が起こる可能性がある。中空糸膜内表面の最表層のポリビニルピロリドンの含有量は38質量%以下がより好ましく、36質量%以下がさら好ましい。
また、血液適合性は血漿タンパクの吸着量によっても影響を受ける。すなわち、親水性の蛋白質である血漿タンパクが、選択透過性中空糸膜の内表面(血液接触側表面)に吸着されることにより、表面の親水性が増し血液適合性が向上する。本発明においては、臨床症状(痒み・痛み)改善効果および選択透過性中空糸膜の血液適合性の指標として、血漿タンパク中のα1マイクログロブリン(分子量33,000)の吸着量が2.0〜20mg/m2であることが好ましい(要件5)。また、α1マイクログロブリンは、血液(血漿)中で免疫グロブリン(分子量10万以上)と結合しやすい性質を有する。免疫グロブリンに結合したα1マイクログロブリンは選択透過性中空糸膜の細孔よりも大きくなるため、篩い効果だけでは十分に除去しきれない問題がある。そのため、臨床症状の改善効果を高める目的で、選択透過性中空糸膜への吸着という効果により除去量を高めるのが本発明の別の態様である。α1マイクログロブリンの吸着量が少なすぎると、血液適合性の低下や臨床症状改善効果が不足することがある。したがって、該吸着量は2.5mg/m2以上がより好ましく、3.0mg/m2で以上がさらに好ましく、3.5mg/m2がよりさらに好ましい。逆に、該吸着量が多すぎると、有効細孔径の減少につながり、ひいては中分子量物質〜低分子量タンパクの除去性が低下する可能性がある。したがって、該吸着量は19mg/m2以下がより好ましく、18mg/m2以下がさらに好ましく、17mg/m2がよりさらに好ましい。
α1マイクログロブリンの吸着量を上記範囲にするためには、前述の内表面の最表層ポリビニルピロリドンの含有量の最適化が大きく寄与している。その他、内表面の表層の形態によっても影響を受ける。これらの特性を付与する方法は限定されないが、例えば、前述および後述の製造条件を組み合わせることにより達成することができる。特に、内部液の液温の影響を大きく受ける。従って、前述の内部液の液温を製膜溶液の液温より30〜60℃低くし、かつその液温が0〜40℃である条件で吐出することが重要である。このことにより、内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が最適化される。さらに、上記条件において製膜時のドラフト比を高めることで、内表面の表層に中空糸膜の長手方向に連続した筋状のミクロの凹凸が形成される。このミクロの凹凸により、内表面の表面積が増大し吸着量が最適化される。加えて、α1マイクログロブリンの吸着量は中空糸膜の内表面のポリビニルピロリドンの配向度の影響を受ける。配向度が高い方が吸着量が増大する。従って、図1に示すように、製膜時のチューブインオリフィスノズル内の製膜溶液の剪断応力を1×104〜1×108-1の範囲にすることが好ましい実施態様である。剪断応力が小さすぎる場合には、中空糸膜内表面のポリビニルピロリドンの配向度が小さくなるためα1マイクログロブリンの吸着量が減少する可能性がある。したがって、ノズル内での剪断応力は5×104-1以上がより好ましく、1×105-1以上が更に好ましく、5×105-1以上がより更に好ましい。また、剪断応力が大きすぎる場合には、中空糸膜内表面のポリビニルピロリドンの結晶化が進行し、溶質の透過性が低下する可能性がある。したがって、剪断応力は5×107-1以下がより好ましく、1×107-1以下がさらに好ましく、5×106-1以下がよりさらに好ましい。また、同様に製膜原液が剪断応力を受ける時間を規定することも重要な要件である。剪断応力時間は1×10-5〜0.1secが好ましい。より好ましくは5×10-4〜5×10-2sec、さらに好ましくは1×10-4〜1×10-2secである。これらの要件を達成するための具体的なノズル形状としては、製膜原液吐出孔の最大外径が100〜700μm、ランド長が0.1〜5mmであることが好ましい。最大外径は150〜600μmがより好ましく、180〜550μmがさらに好ましく、200〜500μmがよりさらに好ましい。このようなノズルを用いることにより、ノズル内で剪断を受けた製膜原液が、ノズルより吐出後、適度に配向し、かつ血液接触表面にミクロな凹凸を形成することが可能となる。
また、該α1マイクログロブリンの吸着量は、中空糸膜の内表面の荷電状態の影響も受ける。本発明においては、中空糸膜の製造に用いる水はRO水を用いることが効果的である。例えば、中空糸膜の洗浄工程において、RO水を使用することで、膜に付着している帯電性物質を効率よく除去することができる。また、RO水にはイオン性物質は含有されていないので、イオンが膜に吸着することもない。使用するRO水は比抵抗が0.3〜2MΩcmのものが好ましく、さらには0.4〜1.9MΩcmのものが好ましい。
前記α1マイクログロブリンの吸着量は、血液適合性の向上のみでなくα1マイクログロブリンの除去に対しても寄与しており、透析合併症の予防効果や痒み・痛みといった臨床症状の改善効果にも好結果を及ぼすものと思われる。
本発明においては、選択透過性中空糸膜の内表面の表面近傍層におけるポリビニルピロリドンの含有量が5〜20質量%であることが好ましい(要件10)。7〜18質量%がより好ましい。上記のごとく選択透過性中空糸膜における内表面の最表層のポリビニルピロリドンの含有量は、血液適合性の点より高い方が好ましいが、該含有量が増加すると血液へのポリビニルピロリドンの溶出量が増大するという二律背反の現象となる。本発明においては、選択透過性中空糸膜の最表層のポリビニルピロリドンの含有量を血液適合性が発現できる最低のレベルに設定した。ただし、該最表層の含有量では、初期の血液適合性は満足できるが長期透析をすると該最表層に存在するポリビニルピロリドンが少しずつであるが血液に溶出していき、透析の経過とともに段々と血液適合性が低下していくという課題が発生する。本発明は、該課題を表面近傍層に存在するポリビニルピロリドンの最表層への移動により補給することで解決するという技術思想により完成したものである。中空糸膜内表面近傍層のポリビニルピロリドンの含有量が少なすぎると、最表層へのポリビニルピロリドンの供給が行われないため、溶質除去性能や血液適合性の経時安定性が低下する可能性がある。したがって、中空糸膜内表面近傍層のポリビニルピロリドンの含有量は、6質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。一方、中空糸膜内表面近傍層のポリビニルピロリドンの含有量が多すぎると、血液に溶出するポリビニルピロリドンの量が増大し長期透析による副作用や合併症が起こる可能性がある。したがって、中空糸膜内表面近傍層のポリビニルピロリドンの含有量は、19質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。
本発明においては、選択透過性中空糸膜における外表面の最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量が25〜50質量%であり、かつ(外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)/(内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)≧1.1であることが好ましい(要件11)。外表面の最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量が少なすぎると、中空糸膜の支持層部分への血中タンパクの吸着量が増えるため血液適合性や透過性能の低下が起こる可能性がある。また、乾燥膜の場合、プライミング性が低下することがある。したがって、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量は27質量%以上がより好ましく、29質量%以上がさらに好ましく、31質量%以上がよりさらに好ましい。逆に、外表面のポリビニルピロリドンの含有量が多すぎると、透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に外表面に存在するポリビニルピロリドンが介在し、中空糸膜同士が固着し、血液浄化器組み立て性が悪化する等の課題を引き起こす可能性がある。外表面最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量は43質量%以下がより好ましく、41質量%以下がさらに好ましく、39質量%以下がよりさらに好ましい。
また、ポリビニルピロリドンの含有量は、製膜後の中空糸膜の収縮率に影響を与える。すなわち、ポリビニルピロリドンの含有量が高くなるに従い、中空糸膜の収縮率は大きくなる。例えば、内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量よりも高い場合、内表面側と外表面側の収縮率の違いにより、内表面側に皺が発生したり、中空糸膜が破断することがある。内表面側に皺が入ると、例えば、血液透析に使用した場合、血液を流したときに血中タンパク質等が膜面に堆積しやすくなるため、経時的に透過性能が低下するなどの問題に繋がる可能性がある。このような理由から、外表面側のポリビニルピロリドンの含有量を高くするのが好ましい。さらに、本発明の中空糸膜は、内表面に緻密層を有し、外表面に向かって次第に孔径が拡大する構造を有している。すなわち、内表面側に比較して外表面側の方が空隙率が高いため、より外表面側の収縮率が大きくなる特性を有している。そのあたりの影響も加味すると、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量は、内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量の1.1倍以上であることが好ましい。より好ましくは、1.2倍以上、さらに好ましくは1.3倍以上である。
前記理由により、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量は高い方が好ましいが、2.0倍を超えるとポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの含有量が高くなりすぎ、強度不足や中空糸膜同士の固着、血液透析使用時のエンドトキシンの逆流入、ポリビニルピロリドン溶出などの問題を引き起こす可能性がある。より好ましくは1.9倍以下、さらに好ましくは1.8倍以下、よりさらに好ましくは1.7倍以下である。
内表面最表層と内表面近傍層に関して、詳細にその二層の違いをみると、親水性高分子の含有量差による二層構造であり、選択透過性中空糸膜は一般に、内表面のスキン層(緻密層)から外表面に向かうに従い、孔径が拡大する傾向にあるから、最表層部分と表面近傍部分で密度差のある二層構造となることもある。この各層の厚み及びその境界線は、選択透過性中空糸膜の製造条件により任意に変わるものであり、また、その層の構造は性能にも多少なりとも影響する。そうすると、溶媒交換による中空糸膜の製造工程から推測しても、最表層と表面近傍層がほとんど同時に、しかも両層が隣接して製造されている事情からすれば、一応二層が形成されることは認識できても、境界は鮮明に線引きできるようなものではなく、二層に跨る親水性高分子の含有量の分布曲線をみるなら、連続線で繋がるような場合が多く、ポリビニルピロリドンにおいて親水性高分子の含有量の分布曲線に断層ができるために、材料挙動の違う不連続な2つの層ができると仮定することは技術的に無理があろう。ポリビニルピロリドンの含有量を最表層で20〜40質量%、表面近傍層のそれを5〜20質量%ということが最適範囲として一応規定しているが、ポリビニルピロリドンが表面近傍層から最表層へと拡散移動するという機構からすれば、例えば、最表層が40質量%で表面近傍層が5質量%というような設計では機能上十分に作用しないこともありうる。要するに、二層に存在する単純なポリビニルピロリドンの含有量の較差に着目して設計することも重要である。その適正な較差値としては、すなわち、表面近傍層ポリビニルピロリドン含有量に対する最表層ポリビニルピロリドン含有量の比を1.1倍以上であるということは、具体的には、ニ層のポリビニルピロリドンの含有量の差が、1〜35質量%程度、最適には5〜25質量%程度の違いがあれば、ポリビニルピロリドンの表面近傍層から最表層への拡散移動が円滑に行なわれることを意味する。例えば、最表層を32質量%とすると、表面近傍層は、7〜27質量%程度の範囲にあることになり、これは1.1〜10倍という程度の要件を満たすことになる。
なお、上記ポリビニルピロリドンの選択透過性中空糸膜最表層の含有量は、後述のごとくESCA法で測定し算出したものであり、選択透過性中空糸膜の最表層部分(表層からの深さ数Å〜数十Å)の含有量の絶対値を求めたものである。通常は、ESCA法では、表面より深さが10nm(100Å)程度までのポリビニルピロリドン含有量を測定可能である。また、表面近傍層のポリビニルピロリドンの含有量は、表面赤外分光法(ATR法)によって測定したもので、ATR法(表面近傍層)では、表面より深さ1000〜1500nm(1〜1.5μm)程度までのポリビニルピロリドン含有量を測定可能である。
内表面および外表面のポリビニルピロリドンの含有量は、ポリビニルピロリドンの分子量にも関係することがある。例えば、分子量120万程度という高い分子量のポリビニルピロリドンを使用した場合より、分子量45万程度の低い分子量のポリビニルピロリドンを使用すると、凝固において、ポリビニルピロリドンの溶解性や溶出量が大きいことや、拡散移動が大きいという理由などにおいて、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率1〜20質量%に対して、最表層20〜40質量%および表面近傍層5〜20質量%というように、相対的に高いポリビニルピロリドンの含有量のものが製造できるという傾向にある。
本発明における上記要件5、9、10および11を達成する方法としては、例えば、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの構成割合を前記した範囲にすることや、選択透過性中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。具体的には、選択透過性中空糸膜内表面側に形成される緻密層において最表層部分と表面近傍部分で密度差のある2層構造とするのが好ましい。すなわち、詳細な理由はわからないが、製膜溶液中のポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンの構成割合および内部液濃度と温度を後述するような範囲にすることにより、中空糸膜内表面の最表層部分と表面近傍部分の凝固速度および/または相分離速度に差が生じ、かつポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンの溶媒/水への溶解性の違いが上記要件の特性を発現するのではないかと考える。また、要件9に対しては乾燥条件の適正化が重要なポイントである。すなわち、湿潤状態の中空糸膜を乾燥する際、水に溶解しているポリビニルピロリドンは水の移動に伴い、中空膜内部より表面側に移動する。ここで、後述するような乾燥条件を用いることにより、水の移動にある程度の速度を持たせ、かつ中空糸膜全体で移動速度を均一にすることができ、中空糸膜内部のポリビニルピロリドンは斑なく速やかに両表面側に移動する。膜面からの水の蒸発は中空糸膜内表面側よりも外表面側からの方がより多くなるので、したがって外表面側に移動するポリビニルピロリドンの量が多くなり本願発明の選択透過性中空糸膜の特徴である要件9を達成できるものと推測する。また、要件9を達成することに対しては、中空糸膜の洗浄方法や条件も重要であり最適化が望ましい。
本発明においては、選択透過性中空糸膜における外表面の開孔率が25〜35%であることが好ましい(要件12)。27〜33%がより好ましい。開孔率が25%未満では、選択透過性中空糸膜間の固着が起こりやすくなる可能性がある。開孔率が大きすぎると、選択透過性中空糸膜の空隙率が大きくなるため、所期のバースト圧を得ることが難しくなり、有用タンパクであるアルブミン等の漏出を抑えきれない可能性がある。
開孔率を上記範囲にする方法は限定されないが、例えば特許文献6に記載の方法に準じて実施する方法が挙げられる。ただし、該方法で実施した場合は、膜強度が低くなり血液リーク等の課題に繋がるという可能性を有している。従って、選択透過性中空糸膜のバースト圧が0.5MPa以上という本発明における好ましい実施態様(要件13)がクリアできないので、この課題解決のための方策の導入が必要になる。なお、選択透過性中空糸膜のバースト圧とは、選択透過性中空糸膜の耐圧性能の指標で、中空糸膜内側を気体で加圧し、加圧圧力を徐々に上げていき、中空糸膜が内部圧に耐えきれずに破裂(バースト)したときの圧力である。バースト圧は高いほど使用時の中空糸膜の切断やピンホールの発生が少なくなるので0.5MPa以上が好ましく、0.55MPa以上がさらに好ましく、0.6MPa以上がよりさらに好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では潜在的な欠陥を有している可能性がある。また、バースト圧は高いほど好ましいが、バースト圧を高めることに主眼を置き、膜厚を上げすぎたり、空隙率を下げすぎると所望の膜性能を得ることができなくなることがある。したがって、血液透析膜として仕上げる場合には、バースト圧は2.0MPa未満が好ましい。より好ましくは、1.7MPa未満、さらに好ましくは1.5MPa未満、よりさらに好ましくは1.3MPa未満、特に好ましくは1.0MPa未満である。
上記特性は、従来公知の膜強度等のマクロな特性により支配される血液リーク特性では長期透析における中空糸膜の安全性を十分に証明することができないという知見に基づいて見出したものである。すなわち、血液浄化器に用いられる選択透過性中空糸膜の物理的性質について検討した結果、通常、血液浄化に用いる中空糸膜は、製品となる最終段階で、中空糸膜や血液浄化器の欠陥を確認するため、中空糸膜内部あるいは外部をエアによって加圧するリークテストを行う。加圧エアによってリークが検出されたときには、血液浄化器は不良品として廃棄あるいは欠陥を修復する作業がなされる。このリークテストのエア圧力は血液浄化器の保証耐圧(通常500mmHg(0.067MPa))の数倍であることが多い。しかしながら、特に高い透水性を持つ中空糸膜の場合、通常の加圧リークテストで検出できない中空糸膜の微小な傷、つぶれ、裂け目などが、リークテスト後の製造工程(主に滅菌や梱包)、輸送工程、あるいは臨床現場での取り扱い(開梱や、プライミングなど)時に、中空糸膜の切断やピンホールの発生につながり、ひいては治療時に血液がリークする等のトラブルの元になっていることを本発明者らは見出した。上記事象に関して鋭意検討したところ、臨床使用時の中空糸膜の切断やピンホールの発生につながる潜在的な糸の欠陥は、通常の加圧エアリークテストにおける圧力では検出することができず、より高い圧力が必要であり、また中空糸膜の偏肉糸の混入を抑えることが、上記した潜在的な欠陥の発生抑制に対して有効であることを見出し、本発明に至った。
本発明は、従来公知の膜強度等のマクロな特性では中空糸膜の安全性を十分に保証することができないという知見に基づいて見出したものである。すなわち、本発明の中空糸膜においては、α1マイクログロブリンに代表される分子量3万程度の物質の透過性を向上させるために、膜厚およびスキン層を非常に薄くしている。そうすると、中空糸膜が潜在的に擁する欠陥(ピンホール、傷など)が特に臨床使用時に顕在化する可能性がある。本発明では、安全性を確保するために、マクロな特性に加え、上記したような潜在的な欠陥を無くすことが極めて重要である。
上記中空糸膜は、中空糸膜中のカルボキシル基含有量が100〜800nmol/gであることが好ましい。カルボキシル基含有量が抗血栓性、とりわけ血小板の活性化に関与すること、および過酸化物含有量が長期保管中の抗血栓性の保持に重要であり、これらの含有量は放射線照射を受けることで増大することが特許文献18において開示されている。従って、上記特性は、放射線照射を受けた後の中空糸膜が具備することが好ましい。上記特許文献においては、中空糸膜中のカルボキシル基は主にポリビニルピロリドン(PVP)のピロリドン環の加水分解によって生成するものと考えられているが、本発明者等は、さらにピロリドン環の酸化劣化反応によっても生成すると推察している。カルボキシル基の血小板活性化に対する詳細な作用機序は不明ではあるが、該含有量が多すぎると膜に対する血小板の付着量は増加する。血小板は生体異物を認識するとその表面に付着して血栓形成に至るため、照射によるカルボキシル基増加は抗血栓性に対して悪い方向といえる。反対にカルボキシル基含有量が低すぎる場合は、膜の被放射線量が十分でないことを意味し、PVPの溶出量の増加や滅菌効率の低下につながるため、医療用途としては望ましくない。したがって、カルボキシル基含有量は100nmol/g以上、800nmol/g未満の範囲に抑える必要がある。なお、臨床使用時に血液凝固を防ぐ目的で抗凝固剤が投与されることが一般的であるが、この使用量を少しでも減少させることが望ましいことから、100〜600nmol/gがより好ましく、100〜400nmol/gがさらに好ましい。
また、中空糸膜中の過酸化物含有量が200nmol/g以下であることが好ましい。膜中の過酸化物もカルボキシル基同様、照射によってPVPの主鎖に生成し、その化学的不安定性ゆえに長期保管中に分解を起こすものと考えられる。また、製造原料の段階で既にPVPには過酸化物が含まれており、そのまま膜中に取り込まれてくる場合もある。この状態で照射されると、照射によって生成したラジカルが引き金となって分解が起こり、その結果、過酸化物を起点とした分子切断によって低分子化したPVPが膜から脱離し、使用時に膜表面上のPVPが減少して抗血栓性が低下する。分解による影響を事実上なくすには、過酸化物含有量は150nmol/g以下がより好ましく、100nmol/g以下がさらに好ましい。
これらの特性を満たすために従来は、ウエットタイプの血液浄化器に適用される方法で、かつラジカル捕捉剤の存在下で放射線照射を受けることにより上記特性の付与が達成されていたが、前記した課題を有しておりその改善が望まれていた。本発明は、該課題を解決したドライタイプの血液浄化器で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射しても前記課題が回避できる方法を提供することを目的としている。
従って、本発明においては、選択透過性中空糸膜束中の含水率が600質量%以下であり、放射線照射時、血液浄化器内にラジカル捕捉剤を含まないことが好ましい。
含水率が600質量%を超える場合は、血液浄化器の重量が増大するため取り扱い性が低下し、かつ運搬コストが増大するとか、バクテリアが発生し易い、寒冷地で凍結する等の課題が発生することがある。また、ポリビニルピロリドンが架橋しすぎるために血液浄化に用いた際に血液の凝固反応が活性化される可能性がある。一方、含水率が低過ぎると詳細な理由はわからないが、放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化が促進され、過酸化水素、カルボキシル基および過酸化物等の生成の増大や透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の増大、長期保存安定性や血液適合性およびその安定性の低下等を引き起こすことがある。従って、0.8〜300質量%がより好ましく、1.5〜200質量%がさらに好ましい。
本発明の目的であるドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射による中空糸膜材料の劣化を抑制することは難しく、従来は、やむを得ずウェット法で、かつラジカル捕捉剤の存在下で実施されていた。本発明者等は、該課題解決について鋭意検討し、上記劣化反応は、ポリスルホン系選択透過性中空糸膜のポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された酸素ガスにより促進され、かつ、ポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された水により抑制されるという推定機構に基づきポリビニルピロリドンの劣化反応を抑制する方法を見出して本発明を完成した。上記劣化反応が酸素の影響を受けることは広く知られている現象であるが、該劣化反応がポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された微量水分で抑制されることは本発明者等が初めて見つけた現象である。以下に好ましい実施態様について述べる。
本発明者等は、前記した特性を有した選択透過性中空糸膜を用いてドライ状態で放射線照射する際、該中空糸膜の含水率を5質量%以上とし、該水を脱気した水を用いることにより、ラジカル捕捉剤の非存在下でもポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制できることを見出した。
すなわち、脱気水を用いて含水率が5〜600質量%に調整されたポリビニルピロリドンを含有する選択透過性中空糸膜束が充填された血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてを密栓した状態で外気および水蒸気を遮断する包装袋で密封して放射線を照射することが好ましい。
本発明においては、選択透過性中空糸膜中およびその周りに存在する脱気水は脱酸素水であることが好ましい。また、不活性ガス飽和水であることがより好ましい。
上記脱酸素水および不活性ガス飽和水とは、溶存酸素量が0.5ppm以下の水である。溶存酸素量が0.2ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下がさらに好ましい。ここで、水中の溶存酸素は、例えば、HORIBA製作所社製溶存酸素計OM−51−L1を用いて測定することができる。
通常、水の中には1m3あたり20l程度の空気が溶け込んでおり、通常の水道水には8mg/l水の酸素ガスが溶け込んでいる。該脱酸素水は、上記溶存酸素量を満たせばその調製方法は限定されない。一般に知られている脱気法で調製されたものが適用できる。例えば、加熱脱気法、真空脱気法、窒素ガスバブリング法、膜脱気法、還元剤添加法および還元法等が挙げられる。膜脱気法は溶存酸素量をppbレベルに低減することも可能であるので特に好ましい。該膜脱気法は非多孔質膜法および多孔質膜法のいずれで調製してもよい。
上記脱酸素水は、逆浸透処理(RO処理)されたものを用いるのが好ましい。
上記の脱酸素水にしたのみでは、周囲の空気中に含まれる酸素が再度溶解してしまい、再溶解した酸素がポリビニルピロリドンを酸化劣化させることがある。窒素等の不活性ガス飽和水を使用することによってこの問題の解決が可能となる。すなわち、不活性ガスを飽和状態で含有することにより、周囲に酸素が含まれる環境で放射線照射を行っても、酸素ガスの水への溶解が抑制され、水に含まれる酸素濃度が低い状態が保たれることになる。
該不活性ガス飽和水の調製方法は特に限定されず、窒素などの不活性ガスをバブリングする方法が好適に用いられ得る。水の溶存酸素を除去する方法として不活性ガスのバブリング法が知られているように、不活性ガスの導入によって溶存酸素は結果的に除去されるが、積極的に酸素を除去した上で不活性ガスを溶存させることも好ましい。具体的には、加熱脱気法、真空脱気法、膜脱気法、還元剤添加法などによってあらかじめ酸素を除去した水に不活性ガスをバブリングすることで酸素の除去、不活性ガスの溶解が効率的に行われる。ここで、不活性ガス飽和水の溶存酸素量は、0.5ppm以下であることが好ましく、0.2ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下がさらに好ましい。なお、ここで使用される水はRO処理されたものを用いるのが好ましい。
上記脱気水の使用により、非脱気水を使用した場合より放射線照射による中空糸膜の劣化、特にポリビニルピロリドンの劣化反応がより効果的に抑制され、前述のような過酸化水素、カルボキシル基および過酸化物等の生成の増大や透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の増大、抗血栓性、長期保存安定性およびプライミング処理時の性能発現性の低下等を引き起こす好ましくない劣化反応の抑制効果が増長される。
上記方法において、放射線照射時のポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制される機構は以下のごとく推察している。中空糸膜中のポリビニルピロリドンは中空糸膜に均一に分散せずに局在化して存在しており、かつ中空糸膜内部および表面に存在する水は親水性の高いポリビニルピロリドンの周りに選択的に吸着されるものと推察される。このポリビニルピロリドンの周りに水が存在することにより、放射線照射により活性化された酸素のポリビニルピロリドンに対する攻撃がブロックされ、劣化反応が抑制されているものと推察している。従って、脱気水化によりその効果がより効果的に発現されると推察される。その上に、本発明においては、酸素と同様に放射線により活性化されて劣化反応を引き起こす過酸化水素量が抑制された中空糸膜が用いられているので、該劣化反応も抑制されるという2重の効奏により本発明の効果が発現されるものと推察している。
本発明においては、上記の脱気水による放射線照射による劣化反応の抑制効果をより効果的に発現させるには、滅菌前の上記血液浄化器内の酸素濃度が3.6容量%以下であることが好ましい。3.0容量%以下がより好ましく、2.5容量%以下がさらに好ましい。酸素濃度が3.6容量%を超えた場合は、前記した要件を満たしても、血液浄化器内の空間に存在する酸素ガスが中空糸膜表面に存在する脱気水に溶解し、放射線や電子線を照射した時に中空糸膜、特にポリビニルピロリドンの劣化が引き起こされることがある。上記酸素濃度にすることで本発明の効果の発現性がより安定化される。
上記血液浄化器内の酸素濃度を調整する方法は限定されないが、血液浄化器内に不活性ガスを充填して行うのが好ましい。前述のごとく前記した方法で乾燥された中空糸膜束を用いて血液浄化器を組立て、該血液浄化器に脱酸素水を注入、充填し、血液浄化器中に存在していた空気を追い出すと共に、中空糸膜中の水分および中空糸膜周りを脱酸素水で満たした後に、不活性ガスを血液浄化器内に注入、充填することにより脱酸素水化と酸素濃度低下を同時に行う方法が好ましい。不活性ガスとしては経済性の点より窒素ガスを使用するのが好ましい。
上記方法において、血液浄化器内の含水率および酸素濃度を調整した後に血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてに密栓するのが好ましい。該方法により血液浄化器に充填されている中空糸膜からの水分の揮散が抑制されると共に、血液浄化器内への雑菌の浸入が阻止できる。また、中空糸膜からの水分の揮散が抑制されるので、乾燥による中空糸膜の収縮や膜特性の低下が抑制される。そのために、血液浄化器を長期保存した場合の欠陥の発生や膜特性の低下等が抑制されるという効果が発現する。例えば、中空糸膜の収縮が起こると中空糸膜の接着剤による血液浄化器への固定部分の中空糸膜と接着剤界面の剥離が起こり、該部分での液漏れ発生に繋がる。また、中空糸膜にクリンプを付与して透析液の偏流を抑制する方式の場合は、該中空糸膜の乾燥によりクリンプの緩和が起こり透析液の偏流の増大が起こることがある。
不活性ガス飽和水を用いた場合は、中空糸膜膜周辺からの酸素ガスの中空糸膜表面への移行に対するバリアー効果が大きいので、血液浄化器の出入り口の密栓のみで、中空糸膜周辺の酸素濃度の低下を行わなくても放射線照射による劣化反応の抑制効果が発現できる。
含水率が5質量%未満の場合には、ポリビニルピロリドンの周りに選択的に吸着される水分量が少なくなるので、該吸着水によるポリビニルピロリドンの劣化抑制効果が低下し、上記方法のみでは放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化を抑制することが困難となる。本発明者らは、該課題の解決に関して鋭意検討し、中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度および湿度を最適化することにより、放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化が抑制できることを見出した。該方法における第1の要件は、滅菌処理時に選択透過性中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度に関する要件である。該酸素濃度が3.6容量%以下の状態で放射線照射することが好ましい。中空糸膜の含水率が5質量%未満の場合は、ポリビニルピロリドンに吸着される水の量が少なくなるので、前記した含水率が5質量%以上の場合より酸素とポリビニルピロリドンの接触機会が増える。従って、中空糸膜の含水率が低い場合には、中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度は1容量%以下がより好ましく、0.1容量%以下がさらに好ましい。3.6容量%を越えた場合は、ポリビニルピロリドンの劣化による過酸化水素生成が増大することがある。該酸素濃度が0.001%よりも小さいと実質的な滅菌効果が阻害されるので、極微量の酸素濃度は必要である。
中空糸膜の含水率が5質量%未満の場合における第2の要件は、中空糸膜中のポリビニルピロリドンに吸着される水に関する要件である。中空糸膜中の含水率や、包装袋内の湿度を最適化するのが好ましい。含水率は0.8質量%以上が好ましい。1質量%以上がより好ましい。また、包装袋内の湿度は、25℃における相対湿度を40%RH超にするのが好ましい。包装袋内空間の相対湿度は、50〜90%RH(25℃)がより好ましく、60〜80%RH(25℃)がさらに好ましい。含水率が0.8質量%未満の場合は、上記湿度範囲にしてもポリビニルピロリドンの劣化を抑制することが困難となる。
中空糸膜中の含水率が0.8〜5質量%の場合は、包装袋内空間の相対湿度が40%RH(25℃)以下になると放射線照射をした場合に、極微量に存在する酸素ガスによりポリビニルピロリドンの劣化が起こり、過酸化水素が発生し前述のような好ましくない劣化反応の発生に繋がる。逆に、相対湿度が90%RH(25℃)を超えた場合は、包装袋内で結露が生じ、血液浄化器の品位が低下することがある。
本発明でいう相対湿度とは、25℃における水蒸気分圧(p)と25℃における飽和水蒸気圧(P)を用いて相対湿度(%RH)=p/P×100の式で表される。測定は温湿度測定器(おんどとりRH型、T&D社製)のセンサーを包装袋内に挿入シールして行った。
中空糸膜中の含水率が0.8〜5質量%の場合に、包装袋内空間の相対湿度を40%RH(25℃)超にすることにより、ポリビニルピロリドンの劣化が抑制される機構は、以下のごとく推察している。
包装袋内空間の相対湿度を40%RH(25℃)超にすることにより、中空糸膜中の含水率が低いことにより不足していたポリビニルピロリドンの周りに吸着される水分量が増加し、該吸着水により、放射線照射により活性化された酸素のポリビニルピロリドンに対する攻撃がブロックされ、劣化反応が抑制されているものと推察している。
一方、ポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜は調湿機能、すなわち、吸放湿特性を有することが知られている(例えば、特開2004−97918号公報参照)。そのため、包装袋内の相対湿度が低い場合は、中空糸膜表面に存在するポリビニルピロリドンに吸着されている水分が包装袋内空間に放出され、特に、上記劣化を受ける極表面に存在するポリビニルピロリドンの吸着水分量が低い状態になり、放射線照射時、酸化劣化されるものと推察される。従って、湿度アップにより、酸化劣化の抑制効果が発現するものと推察される。
中空糸膜中の含水率が0.8〜5質量%の場合において、放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化を抑制する方法としては、例えば、含水率が0.8〜5質量%である中空糸膜束を充填した血液浄化器を脱酸素剤と共に酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下で、水蒸気透過度が50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下である包装袋で密封し、包装袋内雰囲気の25℃における相対湿度が40%RH超の状態で放射線照射する方法が挙げられる。
脱酸素剤は、包装袋内の酸素を吸収し実質的な脱酸素状態を形成するために用いるものである。従って、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸および/またはその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤があげられ、適宜選択できる。また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種または2種以上を加えても良い。また、脱臭、消臭剤、その他の機能性フィラーを加えることも何ら制限を受けない。また、脱酸素剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良く、また、各種の酸素吸収剤組成物を熱可塑性樹脂に分散させたシート状またはフイルム状脱酸素剤であっても良い。
上記の脱酸素剤により酸素濃度を低下させる方法において用いられる包装袋は、脱酸素剤で脱酸素される空間を形成すると共に、該脱酸素された状態を長期に渡り維持する機能が必要である。従って、酸素ガスの透過度の低い材料で構成されることが必要である。酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下が好ましい。8cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がより好ましく、6cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がさらに好ましく、4cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。
酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、外部より包装袋を通じて酸素ガスが通過し、包装袋内の酸素濃度が増大し実質的な脱酸素状態を維持することができなくなるので好ましくない。
また、前述のごとく、本発明においては、血液浄化器に充填されている中空糸膜は特定の含水率を保持する必要がある。従って、本発明における包装袋は水蒸気透過度の低い材料で構成することが好ましい。50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下が好ましい。40g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がより好ましく、30g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がさらに好ましく、20g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、包装袋を通じて水蒸気が通過するために、中空糸膜の乾燥が進行し上記前記の好ましい含水率が維持できなくなるので好ましくない。
上記の包装袋の素材や構成は、上記特性を有すれば限定なく任意である。アルミ箔、アルミ蒸着フイルム、シリカおよび/またはアルミナ等の無機酸化物蒸着フイルム、塩化ビニリデン系ポリマー複合フイルム等の酸素ガスと水蒸気の両方の不透過性素材を構成材とするのが好ましい実施態様である。また、該包装袋における密封方法も何ら制限はなく任意であり、ヒートシール法、インパルスシール法、溶断シール法、フレームシール法、超音波シール法、高周波シール法等が挙げられ、該シール性を有するフイルム素材と前記した不透過性素材とを複合した構成の複合素材が好適である。特に、酸素ガスおよび水蒸気をほぼ実質的に遮断できるアルミ箔を構成層とした外層がポリエステルフイルム、中間層がアルミ箔、内層がポリエチレンフイルムよりなる不透過性とヒートシール性との両方の機能を有したラミネートシートを適用するのが好適である。
また、包装袋内の空間の相対湿度を40%RH(25℃)超にする方法は限定されない。例えば、(1)血液浄化器を包装袋で密封する折に湿度を制御した気体を包装袋内に注入あるいは、調湿した環境で密封する、(2)選択透過性中空糸膜の含水率により調整する、(3)水分を放出する脱酸素剤を使用する、(4)脱酸素剤と共に調湿剤を同時に密封する等の方法が挙げられる。
調湿剤は、吸放湿機能により包装袋内空間の相対湿度を上記範囲にする特性を有していれば制限されない。調湿剤としては、B型シリカゲルが広く使用されているが限定はされない。例えば、B型シリカゲルと類似の調湿剤としては、シリカゲルの細孔分布をシャープにしたり、あるいはさらにアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物よりなる調湿剤補助剤を複合することにより吸、放湿特性を改善した改良型のB型シリカゲル、メソポーラスシリカアルミナゲル、メソポーラス中空繊維状アルミニウムシリケート、ゼオライト等の多孔質無機粒子が挙げられる。また、アクリル酸ナトリウム架橋ポリマーやポリエチレングリコール鎖、ポリビニルピロリドン鎖等を共重合、ブレンドあるいはアロイ化した等の吸水性高分子よりなる粒子、該吸水性高分子を無機マイクロカプセルと複合した複合粒子等であってもよい。該調湿剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良い。粉状、粒状のものは、透湿性の包装材で包装して用いるのが好ましい。また、フィルム、シート、紙、不織布、織布等と複合した複合体として用いてもよい。この場合、複合基材は親水性材料よりなることが好ましい。また、調湿剤粒子を親水性のバインダーと複合し、ポリエステルやポリオレフィン等の汎用素材よりなる基材と複合してもよい。吸水性高分子よりなる調湿剤の場合は、該高分子を直接フィルムやシートとして用いてもよい。また、繊維として、紙、不織布、織布等の形状にして用いてもよい。また、発泡剤を用いて発泡シートやホームの形状として用いてもよい。例えば、塩化アンモニウム等の無機塩調湿剤を吸水性シート(紙、不織布、織布)に含浸した調湿シート、水および界面活性剤等をポリアクリル酸ナトリウムをメタ珪酸アルミン酸マグネシュウム等の無機架橋剤で架橋した網目構造吸水性高分子で固定化したシート状含水ゲル等が好適に使用できる。
調湿剤は、事前に25℃における相対湿度80〜90%RHの環境でシーズニングしてから使用するのが好ましい。
上記の脱酸素剤により酸素濃度を低下させる方法で実施する場合は、血液浄化器を包装袋で密封した後に中空糸膜周辺の雰囲気の酸素濃度や湿度を調整する必要があるので、血液浄化器の開口部は開口状態にする必要がある。
前述の脱気水を用いる方法を脱気水法、脱酸素剤を用いる方法を脱酸素剤法と称する。
本発明においては、脱気水法に脱酸素剤法の要件を適用しても構わない。例えば、脱気水法で実施する場合に、密栓された血液浄化器を、包装袋で密封して放射線を照射してもよい。該包装袋で密封することにより、血液浄化器外面の汚染や雑菌の付着等が阻止される。該方法においては、単に密封するのみでもよいが、さらに、該包装袋に密封する折に脱酸素剤を同時に封入して包装袋内の雰囲気を低酸素濃度にしてもよい。該方法の実施により、滅菌後に混入する雑菌の成長を抑制することができる。
本発明においては、脱酸素剤法においては、包装袋を密封してから、また、脱気水法で実施する場合は密栓をしてから少なくとも48時間経過させてから放射線を照射するのが好ましい。72時間以上がより好ましい。ただし、密封あるいは密栓後放射線照射までの時間が長すぎると、雑菌が増殖することがあるので、密封あるいは密栓後10日以内に該照射を行うのが好ましい。より好ましくは7日以内、さらに好ましくは5日以内である。密栓をしてから放射線を照射するまでの経過時の温度は限定はなく、例えば、室温で行えばよい。48時間未満の状態で該照射処理を行うとプライミング時の透水性能の発現性が低下することがある。
照射処理をするまでの経過時間によりプライミング時の透水性能の発現性が変化する理由は不明であるが、脱酸素剤法においては、中空糸膜表面に吸着されている極微量の酸素が脱酸素剤による脱酸素効果により脱離されることにより、また、脱気水法の場合は、中空糸膜表面に吸着されている極微量の酸素の周りに局在している脱気水法に移行することで、放射線照射により引き起こされる膜表面と水との親和性を阻害する劣化反応が抑制されるために引き起こされているものと推察している。
本発明で用いる放射線としては、α線、β線、γ線、中性子線、X線、電子線、紫外線、イオンビームが用いられるが、滅菌効率および取り扱い易さ等から、γ線又は電子線が好適に用いられる。放射線の照射線量は殺菌および架橋が可能な線量であれば特に限定はないが、一般には10〜30kGyが好適である。
本発明において用いられる選択透過性中空糸膜は、血液浄化器に充填する長さ単位で中空糸膜を長手方向に10分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出量が全ての部位で5ppm以下であることが好ましい実施態様である。
従来、中空糸膜からの溶出物量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められている。該透析型人工腎臓装置製造承認基準においては、該膜からの溶出物量はUV吸光度で定量されている。本発明者等は該膜からの溶出挙動について、詳細な検討をした結果、主としてポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンからなる中空糸膜において、上記の透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験法で抽出された抽出液中には、従来公知のUV吸光度では測定できない過酸化水素が含まれていることを見出した。該過酸化水素が存在すると、例えば、前記した方法で放射線照射をしても該過酸化水素が開始剤となり、放射線照射によりポリビニルピロリドンの劣化反応が誘引され、カルボキシル基や過酸化物の生成が起こり、該含有量を本発明の範囲を満たすことが困難となる。
本発明においては、中空糸膜からの過酸化水素の溶出量が5ppm以下であることが好ましい。4ppm以下がより好ましく、3ppm以下がさらに好ましい。該過酸化水素の溶出量が5ppmを超えた場合は、前述した放射線照射による劣化反応を抑制する手段をとったとしても、該過酸化水素により放射線照射による劣化反応が促進され、中空糸膜中のカルボキシル基や過酸化物含有量を本発明の範囲にすることが困難となる。
本発明における過酸化水素の溶出量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液について定量されたものである。すなわち、該中空糸膜から任意に中空糸膜を取り出し、乾燥状態で1.0gをはかりとる。これに100mlのRO水を加え、70℃で1時間抽出を行う。
該過酸化水素溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、例えば、前述したごとく原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素量を300ppm以下にすることが有効な方法であるが、該過酸化水素は上記した中空糸膜の製造過程でも生成するので、該中空糸膜の製造条件を厳密に制御する必要がある。特に、該中空糸膜を製造する際の乾燥工程での生成の寄与が大きいので、乾燥条件の最適化が重要である。特に、この乾燥条件の最適化は、中空糸膜の長手方向の溶出量の変動を小さくすることに関して有効な手段となる。
また、過酸化水素の発生を抑制する他の方法として、製膜溶液を溶解する際、短時間に溶解することも重要な要件である。そのためには、通常、溶解温度を高くすることおよび/または撹拌速度を上げればよい。しかしながら、そうすると温度および撹拌線速度、剪断力の影響によりポリビニルピロリドンの劣化・分解が進行してしまう。事実、発明者らの検討によれば、製膜溶液中のポリビニルピロリドンの分子量は溶解温度の上昇に従い、分子量のピークトップが分解方向に移動(低分子側にシフト)したり、または低分子側に分解物と思われるショルダーが現れる現象が認められた。以上より原料の溶解速度を向上させる目的で温度を上昇させることは、ポリビニルピロリドンの劣化分解を促進し、ひいては中空糸膜中にポリビニルピロリドンの分解物をブレンドしてしまうことから、例えば、得られた中空糸膜を血液浄化に使用する場合、血液中に分解物が溶出するなど、製品の品質安全上、優れたものとはならなかった。そこで、ポリビニルピロリドンの分解を抑制する目的で低温で原料を混合することを試みた。低温溶解とはいっても氷点下となるような極端な条件にするとランニングコストもかかるため、通常5℃以上70℃以下が好ましい。60℃以下がより好ましい。しかし、単純に溶解温度を下げると溶解時間の長時間化によるポリビニルピロリドン劣化分解、操業性の低下や設備の大型化を招くことになり工業的に実施する上では問題がある。
低温で時間をかけずに溶解するための溶解条件について検討を行った結果、溶解に先立ち紡糸溶液を構成する成分を混練した後に溶解させることが好ましいことを見出し本発明に到達した。該混練はポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドンおよび溶媒等の構成成分を一括して混練しても良いし、ポリビニルピロリドンとポリスルホン系高分子とを別個に混練しても良い。前述のごとくポリビニルピロリドンは酸素との接触により劣化が促進され過酸化水素の発生につながるので、該混練時においても不活性ガスで置換した雰囲気で行う等、酸素との接触を抑制する配慮が必要であり別ラインで行うのが好ましい。混練はポリビニルピロリドンと溶媒のみとしてポリスルホン系高分子は予備混練をせずに直接溶解槽に供給する方法も本発明の範疇に含まれる。
該混練は溶解槽と別に混練ラインを設けて実施し混練したものを溶解槽に供給してもよいし、混練機能を有する溶解槽で混練と溶解の両方を実施しても良い。前者の別個の装置で実施する場合の、混練装置の種類や形式は問わない。回分式、連続式のいずれであっても構わない。スタチックミキサー等のスタチックな方法であっても良いし、ニーダーや攪拌式混練機等のダイナミックな方法であっても良い。混練の効率より後者が好ましい。後者の場合の混練方法も限定なく、ピンタイプ、スクリュータイプ、攪拌器タイプ等いずれの形式でもよい。スクリュータイプが好ましい。スクリューの形状や回転数も混練効率と発熱とのバランスより適宜選択すれば良い。一方、混練機能を有する溶解槽を用いる場合の溶解槽の形式も限定されないが、例えば、2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機が推奨される。例えば、井上製作所社製のプラネタリュームミキサーやトリミックス等が本方式に該当する。
混練時のポリビニルピロリドンやポリスルホン系高分子等の樹脂成分と溶媒との比率も限定されない。樹脂/溶媒の質量比で0.1〜3が好ましい。0.5〜2がより好ましい。
前述のごとくポリビニルピロリドンの劣化を抑制し、かつ効率的な溶解を行うことが本発明の技術ポイントである。従って、少なくともポリビニルピロリドンが存在する系は窒素雰囲気下、70℃以下の低温で混練および溶解することが好ましい実施態様である。ポリビニルピロリドンとポリスルホン系高分子を別ラインで混練する場合にポリスルホン系高分子の混練ラインに本要件を適用してもよい。混練や溶解の効率と発熱とは二律背反現象である。該二律背反をできるだけ回避した装置や条件の選択が本発明の重要な要素となる。そういう意味で混練機構における冷却方法が重要であり配慮が必要である。
引き続き前記方法で混練されたものの溶解を行う。該溶解方法も限定されないが、例えば、攪拌式の溶解装置による溶解方法が適用できる。低温・短時間(3時間以内)で溶解するためには、フルード数(Fr=n2d/g)が0.7以上1.3以下、攪拌レイノルズ数(Re=nd2ρ/μ)が50以上250以下であることが好ましい。ここでnは翼の回転数(rps)、ρは密度(Kg/m3)、μは粘度(Pa・s)、gは重力加速度(=9.8m/s2)、dは撹拌翼径(m)である。フルード数が大きすぎると、慣性力が強くなるためタンク内で飛散した原料が壁や天井に付着し、所期の製膜溶液組成が得られないことがある。したがって、フルード数は1.25以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましく、1.15以下がよりさらに好ましい。また、フルード数が小さすぎると、慣性力が弱まるために原料の分散性が低下し、特にポリビニルピロリドンがダマ状になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要することがある。したがって、フルード数は0.75以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
本願発明における製膜溶液は所謂低粘性流体であるため、撹拌レイノルズ数が大きすぎると、撹拌時、製膜溶液中への気泡のかみこみによる脱泡時間の長時間化や脱泡不足が起こるなどの問題が生ずることがある。そのため、撹拌レイノルズ数はより好ましくは240以下、さらに好ましくは230以下、よりさらに好ましくは220以下である。また、撹拌レイノルズ数が小さすぎると、撹拌力が小さくなるため溶解の不均一化が起こりやすくなることがある。したがって、撹拌レイノルズ数は、35以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、55以上がよりさらに好ましく、60以上が特に好ましい。さらに、このような紡糸溶液で中空糸膜を製膜すると気泡による曳糸性の低下による操業性の低下や品質面でも中空糸膜への気泡の噛み込みによりその部位が欠陥となり、膜の気密性やバースト圧の低下などを引き起こして問題となることがわかった。紡糸溶液の脱泡は効果的な対処策だが、紡糸溶液の粘度コントロールや溶剤の蒸発による紡糸溶液の組成変化を伴うこともありうるので、脱泡を行う場合には慎重な対応が必要となる。
さらに、ポリビニルピロリドンは空気中の酸素の影響により酸化分解を起こす傾向にあることから、紡糸溶液の溶解は不活性気体封入下で行うのが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴンなどが上げられるが、窒素を用いるのが好ましい。このとき、溶解タンク内の残存酸素濃度は3%以下であることが好ましい。窒素封入圧力を高めてやれば溶解時間短縮が望めるが、高圧にするには設備費用が嵩む点と、作業安全性の面から大気圧以上2kgf/cm2以下が好ましい。
その他、本願発明に用いるような低粘性製膜溶液の溶解に用いられる撹拌翼形状としては、ディスクタービン型、パドル型、湾曲羽根ファンタービン型、矢羽根タービン型などの放射流型翼、プロペラ型、傾斜パドル型、ファウドラー型などの軸流型翼が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
以上のような低温溶解方法を用いることにより、親水性高分子の劣化分解が抑制された安全性の高い中空糸膜を得ることが可能となる。さらに付言すれば、製膜には原料溶解後の滞留時間が24時間以内の紡糸溶液を使用することが好ましい。なぜなら製膜溶液が保温されている間に熱エネルギーを蓄積し、原料劣化を起こす傾向が認められたためである。
該過酸化水素溶出量およびその変動抑制に対しては、さらに、中空糸膜を絶乾しないことが好ましい。絶乾してしまうと、ポリビニルピロリドンの劣化が増大し、過酸化水素の生成が大幅に増大するので好ましくない。また、使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、ポリビニルピロリドンが吸水しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなる可能性がある。乾燥後の中空糸膜の含水率は0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。一方、本発明においては前記のようにポリビニルピロリドンが実質的に非架橋であることが好ましい。例えば、血液浄化器用として使用する場合は、γ線照射による滅菌処理が実施されるが、該γ線照射によりポリビニルピロリドンが架橋される。本発明においては該γ線照射によるポリビニルピロリドンの架橋をできるだけ少なくするのが好ましい実施態様である。該ポリビニルピロリドンの架橋反応は中空糸膜の含水率の影響を受ける。含水率が10質量%を超えると架橋反応が顕著になる。従って、含水率は10質量%以下が好ましい。7質量%未満がより好ましく、4質量%未満がさらに好ましい。
乾燥工程に関しては従来技術では、例えば特開2000−300663号公報に開示されているように60℃のエアを中空糸膜束の長手方向に、一方向から20時間程度通風することにより中空糸膜束を乾燥させていた。しかし、この方法では過酸化水素溶出の中空糸膜束の長手方向での変動が大きく好ましい範囲を超える部分が多発し、本発明を満足することができなかった。この理由についてはよくわからないが、エアを一定方向から通風して中空糸膜束の乾燥を行うと、中空糸膜束のエア入口部より出口部に向かって順次乾燥が進行するため、エア入口部では速く乾燥が終了し、エア出口部で遅れて乾燥が終了する。すなわち、エア入口部では中空糸膜束が過乾燥になることによって、中空糸膜束素材の分解劣下が進行し、結果として入口部は該中空糸膜束の構成材料、特に、ポリビニルピロリドンの酸化劣化が増大することにより引き起こされたのではないかと推測する。そこで本発明者ら、中空糸膜束の部分的な過乾燥を防ぎ、均等に乾燥させることを目的とし、乾燥時のエアの向きを定時毎(例えば、1時間毎や30分毎)に180度反転しながら中空糸膜束の乾燥処理を行った。また、他の目的として、乾燥時の熱による酸化反応速度を抑制するために、乾燥器内温度および乾燥エアの温度を従来の60℃から40℃に低下させることによって本発明の中空糸膜束を得ることができた。上記のごとく、酸化劣化が過酸化水素溶出量の変動要因になっていると推定されることより、乾燥時の雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスに置換して実施する方法も有効である。
乾燥器内の風量および風速は、中空糸膜束の量、総含水量に応じて通風乾燥器を調整すればよいが、通常は風量が0.01〜5L/sec(中空糸膜束1本)程度で足りる。通風媒体としては不活性ガスを用いるのが好ましいが、通常の空気を使用する場合には、除湿したものを使用するのが好ましい。乾燥温度は20〜80℃であればよいが、温度を高くすると、中空糸膜束の損傷を大きくし、乾燥が部分的にアンバランスになりがちであるから、常温から最高60℃程度までにするのが好ましい。例えば、含水率200〜1000質量%の状態では、60〜80℃と比較的高い温度で乾燥可能であるが、乾燥が進行し、例えば含水率が1〜50質量%程度に低下した場合、比較的温度の低い常温〜最高60℃程度の範囲において乾燥するのが好ましい。乾燥は、中空糸膜の中心部分および外周部分は勿論のこと、それを束ねた中空糸膜束の中心部分および外周部分の含水率に較差がないのが理想的である。実際には中空糸膜や中空糸膜束の中心部および外周部の含水率に若干の差がある。そして、中空糸膜束の中心部、中間部および外周部などの含水率の較差が小さいということは、品質のよい製品を造るための好ましい実施態様であるから、それを製造する乾燥方法に技術的な配慮をする必要がある。通風媒体として、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを使用する場合には、実質的に無酸素状態での乾燥であるため親水性高分子の劣化分解が起こりにくく、乾燥温度を高めることが可能である。
風量および乾燥温度は、中空糸膜束に含まれる含水率により決まる。含水率が高い場合に風量を例えば0.1〜5L/sec(中空糸膜束1本)という比較的高く設定し、温度も50〜80℃と比較的高く設定する。乾燥が進行し、中空糸膜束の水分含有量が低くなったら、風量を、例えば0.1L/sec(中空糸膜束1本)以下に徐々に下げるという風量を調整し、一方で、温度もそれに連動させ徐々に常温に近づける乾燥方法を採用することが乾燥の工夫の一つである。中空糸膜束の中心部、中間部および外周部などの含水率の較差が小さいということは、各部の乾燥を同時に均一に進行させることでもある。このため、中空糸膜束を通風乾燥するときに送風向きを交互に逆転させるということは、通風乾燥における中空糸膜束に対する送風の向きを180度変えた方向から交互に送風することである。勿論、その送風方向の反転は内容物である中空糸膜束それ自体を通風方向に対して180度交互に反転させるというように装置を工夫する場合もある。又、乾燥のための中空糸膜束を固定し、送風装置に工夫して通風方向を交互に180度程度変えた方向から送風する方法もあるが、送風手段に関しては特に限定する必要はない。特に循環型送風乾燥機の場合には、内容物の中空糸膜束それ自体を交互に180度反転させるような装置が設計上は勿論のこと、運転上も合理的に機能する。この一見ありふれたような反転を含む本発明の乾燥方法は、特に中空糸膜束という特殊な材料において、一束の部分固着を防ぐという品質管理において、汎用の材料の乾燥には見られない予期しえぬ成果をあげることができたというものである。
乾燥における通風の交互反転時間は、乾燥するための中空糸膜束の水分総量および風速、風量、乾燥温度、空気の除湿程度などの要因により変わる性格のものであるが、均一乾燥を求めるなら、送風方向をこまめに反転させることが好ましい。工業的に実用上設定される風向反転時間は乾燥開始後の含水率にも影響するが、例えば60〜80℃程度の高温で、例えば65℃で1〜4時間、25〜60℃において、例えば30℃程度において1〜20時間乾燥するという、総乾燥時間が24時間という時間を設定した場合に、30〜60分程度の間隔で機械的に風向を反転させることができる。水分総量が多い初期の乾燥段階において、例えば60〜80℃程度の高温において、0.1〜5L/sec(中空糸膜束1本)程度の比較的風量が多い条件で乾燥する場合には、最初に風の直接当たる部分の乾燥が比較的早いから、10〜120分程度の間隔で風向の反転を、1〜5時間程度繰り返す。特に、最初の段階は10〜40分間隔で風向を反転させることが好ましい。中空糸膜束の中心部および外周部の含水率の較差が小さくなるに従い、乾燥温度も徐々に30℃程度の常温に近づけ、反転時間も30〜90分程度の間隔で風向の反転を繰り返すことができる。その際の風量および温度の切り換えは、中空糸膜束の含水率を考慮して任意に決めることができる。より定量的に示せば、中空糸膜束の中心部および外周部の水分含有量を算定の根拠にした、含水率が50〜100質量%程度以下になったら、乾燥の状況を観察しながら乾燥時間と反転時間を適宜変更することができる。
乾燥は、固定した時間間隔で機械的に風向反転時間を設定して行うことができる。一方で、乾燥の進行の程度を観察しながら風向反転時間、総乾燥時間を決めるという状況判断や経験則に頼るような要素もある。
また、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥するのも有効な手段の一つである。
該乾燥方法の乾燥条件としては、20kPa以下の減圧下で出力0.1〜100kWのマイクロ波を照射することが好ましい実施態様である。また、該マイクロ波の周波数は1,000〜5,000MHzであり、乾燥処理中の中空糸膜束の最高到達温度が90℃以下であることが好ましい実施態様である。減圧という手段を併設すれば、それだけで水分の乾燥が促進されるので、マイクロ波の照射出力を低く抑え、照射時間も短縮できる利点もあるが、温度の上昇も比較的低くすることができるので、全体的には中空糸膜束の性能低下に与える影響が少ない。さらに、減圧という手段を伴う乾燥は、乾燥温度を比較的下げることができるという利点があり、特にポリビニルピロリドンの劣化分解を著しく抑えることができるという有意な点がある。適正な乾燥温度は20〜80℃で十分足りるということになる。より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃、よりさらに好ましくは30〜45℃である。
減圧を伴うということは、中空糸膜束の中心部および外周部に均等に減圧が作用することになり、水分の蒸発が均一に促進されることになり、中空糸膜の乾燥が均一になされるために、乾燥の不均一に起因する中空糸膜束の障害を是正することになる。それに、マイクロ波による加熱も、中空糸膜束の中心および外周全体にほぼ等しく作用することになるから、均一な加熱において、相乗的に機能することになり、中空糸膜束の乾燥において、特有の意義があることになる。減圧度についてはマイクロ波の出力、中空糸膜束の有する総水分含量および中空糸膜束の本数により適宜設定すれば良いが、乾燥中の中空糸膜束の温度上昇を防ぐため、減圧度は20kPa以下、より好ましくは15kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下で行う。20kPa以上では水分蒸発効率が低下するばかりでなく、中空糸膜束を構成するポリマーの温度が上昇し劣化してしまう可能性がある。また、減圧度は高い方が温度上昇抑制と乾燥効率を高める意味で好ましいが、装置の密閉度を維持するためにかかるコストが高くなるので0.1kPa以上が好ましい。より好ましくは0.25kPa以上、さらに好ましくは0.4kPa以上である。
乾燥時間短縮を考慮すると、マイクロ波の出力は高い方が好ましいが、例えばポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では過乾燥や過加熱によるポリビニルピロリドンの劣化・分解が起こったり、使用時の濡れ性低下が起こるなどの問題があるため、出力はあまり上げないのが好ましい。また0.1kW未満の出力でも中空糸膜束を乾燥することは可能であるが、乾燥時間が伸びることによる処理量低下の問題が起こる可能性がある。減圧度とマイクロ波出力の組合せの最適値は、中空糸膜束の保有水分量および中空糸膜束の処理本数により異なるものであって、試行錯誤のうえ適宜設定値を求めるのが好ましい。
例えば、本発明の乾燥条件を実施する一応の目安として、中空糸膜束1本当たり50gの水分を有する中空糸膜束を20本乾燥した場合、総水分含量は50g×20本=1,000gとなり、この時のマイクロ波の出力は1.5kW、減圧度は5kPaが適当である。
より好ましいマイクロ波出力は0.1〜80kW、さらに好ましいマイクロ波出力は0.1〜60kWである。マイクロ波の出力は、例えば、中空糸膜束の総数と総含水量により決まるが、いきなり高出力のマイクロ波を照射すると、短時間で乾燥が終了するが、中空糸膜が部分的に変性することがあり、縮れのような変形を起こすことがある。マイクロ波を使用して乾燥するという場合に、例えば、中空糸膜に保水剤のようなものを用いた場合に、高出力やマイクロ波を用いて過激に乾燥することは保水剤の飛散による消失の原因にもなる。それに特に減圧の条件を伴うと、中空糸膜への影響を考えれば、従来においては減圧下でマイクロ波を照射することは意図していなかった。本発明の減圧下でマイクロ波を照射するということは、水性液体の蒸発が比較的温度が低い状態において活発になるため、高出力マイクロ波および高温によるポリビニルピロリドンの劣化や中空糸膜の変形等の中空糸膜の損傷を防ぐという二重の効果を奏することになる。
本発明は、減圧下におけるマイクロ波により乾燥をするという、マイクロ波の出力を一定にした一段乾燥を可能としているが、別の実施態様として、乾燥の進行に応じて、マイクロ波の出力を順次段階的に下げる、いわゆる多段乾燥を好ましい態様として包含している。そこで、多段乾燥の意義を説明すると次のようになる。減圧下で、しかも30〜90℃程度の比較的低い温度で、マイクロ波で乾燥する場合に、中空糸膜束の乾燥の進み具合に合わせて、マイクロ波の出力を順次下げていくという多段乾燥方法が優れている。乾燥する中空糸膜の総量、工業的に許容できる適正な乾燥時間などを考慮して、減圧の程度、温度、マイクロ波の出力および照射時間を決めればよい。多段乾燥は、例えば、2〜6段という任意に何段も可能であるが、生産性を考慮して工業的に適正と許容できるのは、2〜3段乾燥にするのが適当である。中空糸膜束に含まれる水分の総量にもよるが、比較的多い場合に、多段乾燥は、例えば、90℃以下の温度における、5〜20kPa程度の減圧下で、一段目は30〜100kWの範囲で、二段目は10〜30kWの範囲で、三段目は0.1〜10kWというように、マイクロ波照射時間を加味して決めることができる。マイクロ波の出力を、例えば、高い部分で90kW、低い部分で0.1kWのように、出力の較差が大きい場合には、その出力を下げる段数を例えば4〜8段と多くすればよい。本発明の場合に、減圧というマイクロ波照射に技術的な配慮をしているから、比較的マイクロ波の出力を下げた状態でもできるという有利な点がある。例えば、一段目は10〜20kWのマイクロ波により10〜100分程度、二段目は3〜10kW程度で5〜80分程度、三段目は0.1〜3kW程度で1〜60分程度という段階で乾燥する。各段のマイクロ波の出力および照射時間は、中空糸膜に含まれる水分の総量の減り具合に連動して下げていくことが好ましい。この乾燥方法は、中空糸膜束に非常に温和な乾燥方法であり、前掲の特許文献8〜10の先行技術においては期待できないことから、本発明の作用効果を有意にしている。
別の態様を説明すると、中空糸膜束の含水率が400質量%以下の場合には、12kW以下の低出力マイクロ波による照射が優れている場合がある。例えば、中空糸膜束総量の水分量が1〜7kg程度の場合には、80℃以下、好ましくは60℃以下の温度における、3〜10kPa程度の減圧下において、12kW以下の出力の、例えば1〜5kW程度のマイクロ波で10〜240分、0.5〜1kW未満のマイクロ波で1〜240分程度、より好ましくは3〜240分程度、0.1〜0.5kW未満のマイクロ波で1〜240分程度照射するという、乾燥の程度に応じてマイク口波の照射出力および照射時間を調整すれば乾燥が均一に行われる。減圧度は各段において、一応0.1〜20kPaという条件を設定しているが、中空糸膜の水分含量の比較的多い一段目を例えば0.1〜5kPaと減圧を高め、マイクロ波の出力を10〜30kWと高める、ニ段目、三段目を5〜20kPaの減圧下で0.1〜5kWによる一段よりやや高い圧力下でマイクロ波を照射するという、いわゆる各段の減圧度を状況に応じて適正に調整して変えることなどは、中空糸膜束の水分総量および含水率の低下の推移を考慮して任意に設定することが可能である。各段において、減圧度を変える操作は、本発明の減圧下でマイクロ波を照射するという意義をさらに大きくする。勿論、マイクロ波照射装置内におけるマイクロ波の均一な照射および排気には常時配慮する必要がある。
中空糸膜束の乾燥を、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することと、通風向きを交互に逆転する乾燥方法を併用することも乾燥において工程が煩雑にはなるが、有効な乾燥方法である。マイクロ波照射方法および通風交互逆転方法も、一長一短があり、高度の品質が求められる場合に、これらを併用することができる。最初の段階で、通風交互逆転方法を採用して、平均含水量が20〜60質量%程度に進行したら、次の段階で減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することができる。この場合に、マイクロ波を照射して乾燥してから、次に通風向きを交互に逆転する通風乾燥方法を併用することもできる。これらは、乾燥により製造される中空糸膜の品質、特に中空糸膜における長さ方向において部分固着がないポリスルホン系選択透過性中空糸膜束の品質を考慮して決めることができる。これらの乾燥方法を同時に行うこともできるが、装置の煩雑さ、複雑さ、価格の高騰などの不利な点があるため実用的ではない。しかし、遠赤外線等の有効な加熱方法を併用することは本発明の乾燥方法の範囲からは排除しない。
乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は、不可逆性のサーモラベルを中空糸膜束を保護するフィルム側面に貼り付けて乾燥を行い、乾燥後に取り出し表示を確認することで測定することができる。この時、乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は90℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下に抑える。さらに好ましくは70℃以下である。最高到達温度が90℃を超えると、膜構造が変化しやすくなり性能低下や酸化劣化を起こしてしまう場合がある。特にポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では、熱によるポリビニルピロリドンの分解等が起こりやすいので温度上昇をできるだけ防ぐ必要がある。減圧度とマイクロ波出力の最適化と断続的に照射することで温度上昇を防ぐことができる。また、乾燥温度は低い方が好ましいが、減圧度の維持コスト、乾燥時間短縮の面より30℃以上が好ましい。
マイクロ波の照射周波数は、中空糸膜束への照射斑の抑制や、細孔内の水を細孔より押出す効果などを考慮すると1,000〜5,000MHzが好ましい。より好ましくは1,500〜4,000MHz、さらに好ましくは2,000〜3,000MHzである。
該マイクロ波照射による乾燥は中空糸膜束を均一に加熱し乾燥することが重要である。上記したマイクロ波乾燥においては、マイクロ波の発生時に付随発生する反射波による不均一加熱が発生するので、該反射波による不均一加熱を低減する手段を取る事が重要である。該方策は限定されず任意であるが、例えば、特開2000−340356号公報において開示されているオーブン中に反射板を設けて反射波を反射させ加熱の均一化を行う方法が好ましい実施態様の一つである。
中空糸膜束の含水率が10〜20質量%まで低下した後は、遠赤外線照射により中空糸膜束を乾燥するのが好ましい。マイクロ波を照射したり、加熱(通風)乾燥を行う方が被乾燥物を速く乾燥するという意味では好ましいが、ポリビニルピロリドンを含む分離膜の場合、ポリビニルピロリドンが乾燥の進行、すなわち中空糸膜の含水率の低下に伴い、熱による劣化分解を受けやすくなる問題がある。したがって、乾燥の最終段階(低水分含量)においては、より低いエネルギーでマイルドに乾燥するのが好ましい実施態様である。また、遠赤外線は、電磁波の一種であり、マイクロ波と同様に被乾燥物の内部まで浸透するため、低エネルギーでも被乾燥物を均一に斑なく乾燥できるという特徴を有するため好ましい。
遠赤外線の照射波長は1〜30μmであることが好ましい。水や有機物は波長3〜12μmの遠赤外線の吸収率が高いため、遠赤外線の波長が短すぎても長すぎても、被乾燥物の温度が上がり難くなるため、乾燥時間が延びるなど乾燥にかかるコストが増大することがある。したがって、照射する遠赤外線の波長は1.5〜26μmがより好ましく、2〜22μmがさらに好ましく、2.5〜18μmがよりさらに好ましい。
遠赤外線を照射するための放射媒体としては、表面に酸化金属の被膜を有するステンレス媒体を使用するのが好ましい実施態様である。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼粉体にAl23、Fe23、TiO2、CaO、MgO、K2O、Na2O等の酸化金属をコーティングした遠赤外線放射体を用いるのが、安価で効率的に遠赤外線を取り出すことができるため、より好ましい実施態様である。
一方、マイクロ波乾燥終了後に行う遠赤外線照射による乾燥の場合は、マイクロ波乾燥の場合と異なり、減圧下で照射しても放電現象は発生しないので、マイクロ波乾燥の場合より減圧度を高めて行うことができる。乾燥効率の点より5kPa以下が好ましく、4kPa以下がより好ましく、3kPa以下がさらに好ましく、2kPa以下がよりさらに好ましい。遠赤外線照射の照射エネルギーは、オーブンの中心部に設けた熱電対で検出される温度で80℃以下になるように制御するのが好ましい。70℃以下で制御するのがより好ましい。この遠赤外線照射による輻射線は、水に吸収されエネルギーに変換される割合が高く、熱効率に優れたものであり、かつ乾燥の推移に従った温度制御も適性にできるという、安全性を備えた利点を有する。この遠赤外線照射による乾燥方法、中空糸膜束の色彩、表面粗さ、屈曲、亀裂、平滑および柔軟な感触などを含む表面効果を保つために乾燥仕上げという点で有意義である。
本発明における好ましい乾燥方法の具体的な態様は、中空糸膜束に(1)マイクロ波照射と遠赤外線照射を同時にする乾燥工程、(2)マイクロ波照射をする乾燥工程、および(3)遠赤外線照射をする乾燥工程という複数の乾燥工程の態様を包含する。本発明の適正な乾燥方法は、まず(A)中空糸膜束に(1)マイクロ波照射と遠赤外線照射を同時にする乾燥工程を採用し、中空糸膜束の含水率が一定値に下がった状態で、(3)遠赤外線照射をする乾燥工程を採用する乾燥方法が一般的である。別の乾燥方法の態様は、(B)中空糸膜束に、(2)マイクロ波照射をする乾燥工程を採用し、中空糸膜束の含水率が一定値に下がった状態で、(3)遠赤外線照射をする乾燥工程を採用する乾燥方法である。勿論この各乾燥工程には適正な温度制御、および減圧下で行う場合の圧力制御、および通風排気を必要な場合にそれを採用することは必須の要件である。
理論的には、(1)乾燥工程と(2)乾燥工程を併用すること、(3)乾燥工程と(1)乾燥工程を併用すること、(2)乾燥工程に(3)乾燥工程を併用することなど、本件発明の乾燥方法を実施する乾燥装置の現場の操作上のことであり、実施可能ではあるが、(A)、(B)の乾燥方法に比べて、その実用上の成果は十分に吟味していない。
このように、遠赤外線照射はマイクロ波照射終了後に照射を開始してもよいし、マイクロ波照射時にも照射し、マイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施してもよい。マイクロ波と遠赤外線照射を同時に行うことにより、マイクロ波照射により励起され中空糸膜表面に移動してきた水の蒸発が遠赤外線照射により加速されるため乾燥効率向上に繋がる。また、この表面水分の効率的な蒸発により、表面水分により誘導されるポリビニルピロリドンの中空糸膜表面の濃度変動が抑制され、部分固着発生抑制に繋げられるので好ましい。上述のごとくマイクロ波乾燥についても減圧下で実施するのが好ましいので、減圧下でマイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施して、前記の含水率になった時点でマイクロ波照射を中止し、減圧状態を維持したまま遠赤外線照射を続行し、さらなる乾燥を続ける方法が好ましい。この折に、マイクロ波の照射終了後に系の減圧度を下げて、コンディショニングを行った後に、再度減圧度を上げて遠赤外線照射を開始してもよい。従って、本発明においては、加熱オーブン内に遠赤外線ヒーターが取り付けられており、かつ加熱オーブン内を減圧(真空)にできる排気系が取り付けられたマイクロ波乾燥機を用いて乾燥することが好ましい実施態様である。
マイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥による、減圧下、および温度という条件を加えて乾燥する場合に、一般には、例えば減圧高温下で高出力のマイクロ波を短時間に加えると、含水率の低下が促進されるが、水分の偏在、ポリビニルピロリドンの偏在が、マイクロ波の加熱にも関係するので、突沸のような現象を誘発し、これが中空糸膜束の材質や多孔構造を傷めることになり、バースト圧に対処できる構造を保証することが出来なくなるおそれがある。本発明は、マイクロ波と遠赤外線の出力を適性に調整して、温度、圧力の環境も調整することにより、特にマイクロ波による中空糸膜束の内、外の全体的な乾燥を促進する一方で、遠赤外線による、特に中空糸膜束の表面を含む全体の乾燥を促進することになり、このマイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥は相乗的な乾燥効果を上げることになる。
本発明においては、乾燥終了後に乾燥系内を常圧に戻す折に窒素ガス等の不活性ガスを用いることが好ましい実施態様である。乾燥終了直後は、中空糸膜束の温度が高いため、乾燥庫内を常圧に戻す際、空気等の酸素を含む気体を送入すると、ポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜の場合、ポリビニルピロリドンが酸素と熱の影響により酸化劣化を受けることがある。したがって、乾燥終了後に乾燥庫内を常圧に戻す際に、不活性ガスを送入することにより中空糸膜束中のポリビニルピロリドンの酸化劣化が抑制される。
中空糸膜束の乾燥は、マイクロ波、遠赤外線を使用して、時間的に無制限に乾燥に供することが品質に良い影響を与えることにはならない。中空糸膜束を構成するポリスルホン系樹脂の、又はポリビニルピロリドン材料の熱劣化や、酸素、水、蒸気などの環境劣化の影響も考えられるからである。したがって、工業的な生産ということからすれば、乾燥時間にも自ずと許容される適正な時間を考慮する必要がある。本発明者等は、マイクロ波、遠赤外線という比較的過酷な乾燥条件に供する中空糸膜の品質を保護するという観点から、さらに工業的生産性という観点から考えれば、乾燥開始から終了するまでの乾燥時間は3時間以内が好ましい。より好ましくは2.5時間以内、さらに好ましくは2時間以内である。
さらに、中空糸膜は絶乾しないのが好ましい。絶乾してしまうと、ポリビニルピロリドンの劣化が増大し、過酸化水素の生成が大幅に増大することがある。また、使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、ポリビニルピロリドンが吸水しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなる可能性がある。乾燥後の中空糸膜の含水率は1質量%以上飽和含水率未満が好ましい。1.5質量%以上がより好ましい。中空糸膜の含水率が高すぎると、保存時菌が増殖しやすくなったり、中空糸膜の自重により糸潰れが発生したり、血液浄化器組み立て時に接着剤の接着障害が発生する可能性があるため、中空糸膜の含水率は10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。なお、本発明でいう含水率とは、中空糸膜束の質量(g)を測定し、その後減圧下(−750mmHg以下)で真空乾燥を12時間実施し、乾燥後の質量(g)を測定する。乾燥前後の差を減量(g)として乾燥後質量(g)を基準にして%で求める。以下の式で含水率は決定する。
(減量/乾燥後質量)×100=含水率(質量%)
以上、本発明を構成する主要件および該要件を達成するために必要な重要ポイントについて記述したが、本願発明の中空糸膜を得るための紡糸、後処理について具体例を挙げてより詳細に説明する。
製膜溶液にはポリマーと溶媒、必要に応じて非溶媒の各成分を用いる。中空内液には製膜溶液に用いたのと同じ溶媒と水からなる混合液を用いるのが好ましいが、目的とする膜性能・膜特性を得るために適宜非溶媒を添加してもよい。ポリスルホン系高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンは勿論のこと、二種のポリマーを混合して使うこともできる。溶媒としては、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを共に溶解する溶媒を用いるのが好ましい。具体的には、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミドなどを使用することができる。ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。本発明において非溶媒とは、溶媒とはある程度任意の割合で混合できるがポリスルホン系高分子を溶解する能力のないものをいう。本発明では、水、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどが好ましい。作業安全性、入手のしやすさ、コストの面より、水、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールがより好ましい。
製膜溶液を室温〜130℃に加温されたチューブインオリフィス型の二重管ノズルより吐出し、所謂乾湿式紡糸法により膜を形成させる。ノズルから製膜溶液と該製膜溶液を凝固させるための中空内液とを同時に空中に押し出し、外気と遮断された空中を通過後ノズル直下に設けた凝固浴槽に導き、ミクロ相分離により膜を形成させる。得られた中空糸膜は、引き続き水洗槽を通すことで過剰の溶媒・非溶媒・ポリビニルピロリドンを膜から除去する。一定本数を綛に巻きとり、中空糸膜束を保護するフィルムに挿入した後、一定長さに切断する。更に遠心分離により内液を除去した後、再度洗浄を行い過剰のポリビニルピロリドン、劣化分解物の除去および膜中の含有量の制御を行う。得られた中空糸膜は、低温で乾燥をおこなう。
ノズルの製膜溶液吐出孔幅は100μm以下であることが好ましい。より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。該吐出孔幅は小さい方が膜厚を薄くできるため好ましいが、小さすぎるとノズル詰まりを起こしやすくなるとか、洗浄しにくくなるといった問題が発生することがあるため、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。また、前述のごとく該製膜溶液流路の吐出外径(D)とランド長(L)との比であるL/D値は2〜6が好ましい。該対応で中空糸膜内表面のポリビニルピロリドンの配向が好ましい範囲となる。
本発明においては、上記したポリビニルピロリドンの溶出量と内毒素であるエンドトキシンの血液側への浸入を阻止したり、中空糸膜を乾燥する折の中空糸膜同士の固着を防止する等の特性をバランスするために中空糸膜の外表面におけるポリビニルピロリドンの含有量を特定範囲にすることが求められる。該要求に答える方法として、例えば、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの構成割合を前記した範囲にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。また、製膜された中空糸膜を洗浄することも有効な方法である。製膜条件としては、延伸条件、凝固浴の温度、凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比等の最適化が、また、洗浄方法としては、温水洗浄、アルコール洗浄および遠心洗浄等が有効である。
水洗浴を通過した中空糸膜は、湿潤状態のまま綛に巻き取り、3,000〜20,000本の束にする。ついで、得られた中空糸膜を洗浄し、過剰の溶媒、ポリビニルピロリドンを除去する。中空糸膜の洗浄方法として、本発明では、70〜130℃の熱水、または室温〜50℃、10〜40vol%のエタノールまたはイソプロパノール水溶液に中空糸膜を浸漬して処理するのが好ましい。
(1)熱水洗浄の場合は、中空糸膜を過剰のRO水に浸漬し70〜90℃で15〜60分処理した後、中空糸膜を取り出し遠心脱水を行う。この操作をRO水を更新しながら3、4回繰り返して洗浄処理を行う。
(2)加圧容器内の過剰のRO水に浸漬した中空糸膜を121℃で2時間程度処理する方法をとることもできる。
(3)エタノールまたはイソプロパノール水溶液を使用する場合も、(1)と同様の操作を繰り返すのが好ましい。
(4)遠心洗浄器に中空糸膜を放射状に配列し、回転中心から40℃〜90℃の洗浄水をシャワー状に吹きつけながら30分〜5時間遠心洗浄することも好ましい洗浄方法である。
前記洗浄方法は2つ以上組み合わせて行ってもよい。いずれの方法においても、処理温度が低すぎる場合には、洗浄回数を増やす等が必要になりコストアップに繋がることがある。また、処理温度が高すぎるとポリビニルピロリドンの分解が加速し、逆に洗浄効率が低下することがある。上記洗浄を行うことにより、外表面ポリビニルピロリドンの含有量の適正化を行い、固着抑制や溶出物の量を減ずることが可能となる。
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1、アルブミンの篩い係数
(1%牛血漿アルブミン溶液の調製)
A液;純水3Lに対してNa2HPO4・12H2O53.72gとNaCl26.30gを溶解する。
B液;純水3Lに対してKH2PO420.42gとNaCl26.30gを溶解する。
A液にB液を添加し、pH=7.5±0.1にあわせる。このリン酸緩衝液3Lに牛血漿アルブミン(和光純薬社製)30gを溶解させる。溶解後、再度1N-NaOHを用いてpH=7.5±0.1に調整する。
(通液)
血液浄化器の透析液側流路に純水を500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで5分間通液した。ついで血液浄化器の透析液側流路に先のリン酸緩衝液500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで5分間通液した。その後血液側から透析液側にろ過をかけながら3分間通液した。
(測定)
回路を血液側に接続し、透析液側のプライミング液(リン酸緩衝液)を廃棄する。血液浄化器を37℃の恒温槽中に置き、透析液側を封止し、血液側の流量を200mL/minで1分間通液し、血液側に残っていたプライミング液を除去する。ついで透析液入り口部に回路を接続し、血液側200mL/min、透析液入り口部につないだ濾過回路の流量を30mL/minに設定し、血液側透過液、濾液ともに試験液に戻す循環系で試験を実施する。循環開始から15分後の試験液、血液側透過液、濾液をそれぞれ採取した。この採取したサンプルを純水で10倍希釈し(濾液は希釈なしが好ましい)280nmの波長で分光器により吸光度を測定した。アルブミンの篩係数はそれぞれの吸光度より下式を用いて算出した。
SCalb=2×Cf/(Cb+Co)
ここでCfは濾液の吸光度、Cbは試験液の吸光度、Coは血液側透過液の吸光度を表し、希釈した場合にはそれぞれの希釈倍率を乗じるものとする。
2、α1マイクログロブリンのクリアランス
ヒトα1マイクログロブリン(カタログ#133007 コスモ・バイオ社)を牛血液(クエン酸ナトリウム添加、ヘマトクリット30%、総蛋白質濃度6〜7g/dlに調整)に溶解し、100mL/Lの濃度になるように調製する。この牛血液を37℃に加温し、内径基準で1.0m2の血液浄化器の血液側(中空糸内部)へ小型ポンプで10ml/minで送り、透析液側は37℃に加温した透析液を同様に25ml/minで血液側と向流方向に流す。また、血液側出口流量を10ml/minに維持する。流量設定をした後、30分後に血液側入口、出口、透析液側出口からサンプリングをおこなった。イライザ(ELISA)法によりα1MGの濃度を測定して、次式によりクリアランスCLを算出した。
CL=(Cbi−Cbout)/Cbi×Qb
ここで、CL:クリアランス(ml/min)
Cbi:血液側入口濃度
Cbout:血液側出口濃度
Qb:血液流量(ml/min)
3、α1マイクログロブリン吸着量測定
(100mg/Lα1MG溶液の調製)
A液;純水3LにNa2HPO4・12H2O53.72gとNaCl26.30gを溶解する。
B液;純水3LにKH2PO420.42gとNaCl26.30gを溶解する。
A液にB液を添加し、pH=7.5±0.1にあわせる。このリン酸緩衝液3Lに牛血漿アルブミン(和光純薬社製)300mgを溶解させる。溶解後、再度1N-NaOHを用いてpH=7.5±0.1に調製する。
(通液)
血液浄化器の透析液側流路に純水500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで5分間通液した。ついで血液浄化器の透析液側流路に先のリン酸緩衝液500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで5分間通液した。その後血液側から透析液側にろ過をかけながら3分間通液した。
(測定)
測定液回路を血液側に接続し、透析液側のプライミング液(リン酸緩衝液)を廃棄する。血液浄化器を37℃の恒温槽中に置き、透析液側を封止し、血液側の流量を200mL/minで1分間通液し、血液側に残っていたプライミング液を除去する。ついで透析液入り口部に回路を接続し、血液側の流量を200mL/min、透析液入り口部につないだ濾過回路の流量を30mL/minに設定し、血液側透過液、濾液ともに試験液に戻す循環系で試験を実施する。循環開始時と15分後の試験液をそれぞれ採取した。この採取したサンプルをイライザ法により濃度を決定し、吸着量を求めた。
α1MGの吸着量(mg)=Cb0×試験液量−Cb15×試験液量
ここでCb0、Cb15はそれぞれ循環開始時および15分後の試験液の濃度を表し、希釈した場合にはそれぞれの希釈倍率を乗じるものとする。
4、透水性
血液浄化器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子により流れを止め全ろ過とする。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃高温槽で保温した血液浄化器へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量をメスシリンダーで測定する。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは血液浄化器入り口側圧力、Poは血液浄化器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性(mL/hr/mmHg)を算出する。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水性は膜面積と透析器の透水性から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水性(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は血液浄化器の透水性(mL/hr/mmHg)、Aは透析器の膜面積(m2)である。
5、膜面積の計算
血液浄化器の膜面積は中空糸膜の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは血液浄化器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは血液浄化器内の中空糸膜の有効長(m)である。
6、血液リークテスト
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を、血液浄化器に200mL/minで送液し、20mL/minの割合で血液を濾過する。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。60分間後に血液浄化器のろ液を採取し、赤血球のリークに起因する赤色を目視で観察する。この血液リーク試験を各実施例、比較例ともに30本の血液浄化器を用い、血液リークした血液浄化器数を調べる。
7、中空糸膜内外表面の最表層におけるポリビニルピロリドン(PVP)の含有量
X線光電子分光法(ESCA法)で求めた。
中空糸膜1本を試料台にはりつけてESCAでの測定を行った。測定条件は次に示す通りである。
測定装置:アルバック・ファイ ESCA5800
励起X線:MgKα線
X線出力:14kV,25mA
光電子脱出角度:45°
分析径:400μmφ
パスエネルギー:29.35eV
分解能:0.125eV/step
真空度:約10-7Pa以下
窒素の測定値(N)と硫黄の測定値(S)から、次式により表面でのPVP含有量を算出した。
<PVP添加PES(ポリエーテルスルホン)膜の場合>
PVP含有量(Hpvp)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×232)
<PVP添加PSf(ポリスルホン)膜の場合>
PVP含有量(Hpvp)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×442)
8、中空糸膜全体でのPVP含有量の測定方法
サンプルを、真空乾燥器を用いて、80℃で48時間乾燥させ、その10mgをCHNコーダー(ヤナコ分析工業社製、MT−6型)で分析し、窒素含有量からPVPの含有量を下記式で計算し求めた。
PVPの含有量(質量%)=窒素含有量(質量%)×111/14
9、中空糸膜の内表面の表面近傍層でのPVPの含有量
測定はフーリエ変換赤外分光光度計(SPECTRA TECH社製IRμs/SIRM)を用い、ATR(Attenuated Total Reflection)法により測定した。上記7と同様の方法で準備した測定サンプルを使用し、内部反射エレメントとしてダイヤモンド45°を使用し赤外吸収スペクトルを測定した。赤外吸収スペクトルにおいて1675cm-1付近のPVPのC=Oに由来するピークの吸収強度Apと1580cm-1付近のポリスルホン系高分子に由来するピークの吸収強度Asの比Ap/Asを求めた。ATR法においては吸収強度が測定波数に依存しているため、補正値としてポリスルホン系高分子のピーク位置υsおよびPVPのピーク位置υp(波数)の比υp/υsを実測値にかけた。次の式で血液接触面の近傍層におけるPVPの含有量を算出した。
表面近傍層でのPVPの含有量(質量%)=Cav×Ap/As×υp/υs
ただし、Cavは前記8で求めたPVPの含有量(質量%)である。
10、中空糸膜外表面の開孔率
中空糸膜外表面を10,000倍の電子顕微鏡で観察し写真(SEM写真)を撮影する。その画像を画像解析処理ソフトで処理して中空糸膜外表面の開孔率を求めた。画像解析処理ソフトは、例えばImage Pro Plus (Media Cybernetics,Inc.)を使用して測定する。取り込んだ画像を孔部と閉塞部が識別されるように強調・フィルタ操作を実施する。その後、孔部をカウントした。その際、孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には、下層のポリマー鎖を無視してカウントした。測定範囲の面積(A)、および測定範囲内の孔の面積の累計(B)を求めて開孔率(%)=B/A×100で求めた。これを10視野実施してその平均を求めた。初期操作としてスケール設定を実施するものとし、また、カウント時には測定範囲境界上の孔は除外しないものとする。
11、中空糸膜の膜厚測定
倍率200倍の投影機で中空糸膜の断面を投影し、各視野内で最大、最小、中程度の大きさの中空糸膜の内径(A)および外径(B)を測定し、各中空糸膜の膜厚を次式で求め、
膜厚=(B−A)/2
1視野5個の中空糸膜の膜厚の平均を算出した。
12、スキン層厚みの測定
本発明における中空糸膜のスキン層の厚みは、以下のようにして求めた。
中空糸膜断面を3000倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行い、明らかに孔が観察されない部分をスキン層と定義し、その厚みを測定した。
13、中空糸膜中のカルボキシル基含有量の測定
乾燥中空糸膜束を約1cmの長さに切断し、0.75g秤量した。この膜を9−アンスリルジアゾメタン(フナコシ社製)を0.01質量%含むメタノール溶液25ccに浸漬して室温で1時間静置後、膜を濾別してメタノールへの浸漬、濾別を繰り返して残留試薬を洗浄除去した。次に、1規定苛性ソーダ含有メタノール25ccに膜を浸漬し、室温で2時間加水分解した。この上清液の蛍光強度を励起波長365nm、放射波長412nmで測定し、アントラセンメタノールを標準として膜中のカルボキシル基含有量を算出した。
14、中空糸膜中の過酸化物含有量の測定
乾燥中空糸膜束を約5cmの長さに切断し、0.3g秤量した。この膜をガラス試験管に充填し、発色試液4ccを加えて遮光下、37℃で8時間反応させた。発色試液は市販の過酸化物測定キット(デタミナーLPO:共和メディックス社製)に付属している発色剤を専用溶解液で溶解したものを利用した。反応終了後、膜を濾別して濾液の吸光度を波長675nmで測定し、クメンハイドロパーオキサイトを標準として膜中の過酸化物含有量を算出した。
15、中空糸膜への血小板付着試験(LDH活性)
中空糸膜50本から長さ15cmの小型血液浄化器を作成し、該血液浄化器にヘパリン添加ヒト新鮮血を線速1.0cm/secにて15分間通過させた。生理食塩水で血液浄化器を洗浄後に中空糸膜を細断し、0.5%ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル(商品名トリトンX100)を含む生理食塩水0.5cc中で超音波処理して、膜表面に付着した血小板から遊離された乳酸脱水素酵素(以下、LDHという)の活性を測定した。LDH活性は市販の比色法キット(LDHモノテストキット:ベーリンガー・マンハイム・山之内社製)を用いて測定し、膜面積あたりのLDH活性を算出した。なお、血小板付着の激しい陽性対照としてPVPを全く含有しない膜を用い、試験品と同時に比較した。陽性対照のLDH活性は15.0〜15.5U/m2であった。
16、包装袋内および水中の酸素濃度の測定
包装袋内の酸素濃度の測定測定はガスクロマトグラフィーにて行った。カラムとしてモレキュラーシーヴ(GLサイエンス製 モレキュラーシーヴ 13X−S メッシュ60/80)を充填したものを使用し、キャリアガスはアルゴンガスを、検出器は熱伝導方式を用い、カラム温度60℃で分析した。包装袋内ガスはシリンジのニードルを直接未開封の包装袋に突き刺して採取した。
水中の酸素濃度は、HORIBA製作所社製溶存酸素計OM−51−L1を用いて測定を行った。
17、エンドトキシン透過性
エンドトキシン濃度200EU/Lの透析液を血液浄化器の透析液入り口より流速500ml/minで送液し、中空糸膜の外側から内側へエンドトキシンを含有する透析液を濾過速度15ml/minで2時間濾過を行い、中空糸膜の外側から中空糸膜の内側へ濾過された透析液を貯留し、該貯留液のエンドトキシン濃度を測定した。エンドトキシン濃度はリムルスESIIテストワコー(和光純薬工業社製)を用い、取り説の方法(ゲル化転倒法)に従って分析を行った。
18、PVP不溶物量の測定
本発明におけるポリビニルピロリドンの架橋による不溶化は、架橋後の膜におけるジメチルホルムアミドに対する溶解性で判定される。すなわち、架橋後の膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液の濁りを肉眼観察し、濁りのある場合を架橋あり、僅かな濁りがみられる場合を微架橋とし、濁りの無い場合を架橋なしと判定した。
19、過酸化水素溶出量
透析型人工腎臓装置製造基準に定められた方法で抽出液を得、該抽出液中の過酸化水素を比色法で定量した。該定量は、血液浄化器に充填する長さ単位で中空糸膜を長手方向に10個に等分し、各々の部位について行った。
各々の部位より乾燥中空糸膜1gをはかりとり、純水100mlを加え、70℃で1時間抽出した。得られた抽出液2.6mlに塩化アンモニウム緩衝液(pH8.6)0.2mlとモル比で当量混合したTiCl4の塩化水素溶液と4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノールのNa塩水溶液との混合液を0.4mMに調製した発色試薬0.2mlを加え、50℃で5分間加温後、室温に冷却し508nmの吸光度を測定した。標品を用いて同様に測定して求めた検量線にて、過酸化水素溶出量を定量した。
20、ポリビニルピロリドン(PVP)溶出量
上記方法で抽出した抽出液2.5mlに、0.2molクエン酸水溶液1.25ml、0.006規定のヨウ素水溶液0.5mlを加えよく混合し、室温で10分間放置した後に470nmでの吸光度を測定した。定量は標品のポリビニルピロリドンを用いて上記方法に従い求めた検量線にて行った。
21、アルブミン漏出量
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を用いた。牛血漿で希釈し、ヘマトクリットを30%に調製した。該血液を血液浄化器に200mL/minで送液し、20mL/minの割合で血液をろ過した。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。溶血を防止する目的で血液浄化器は予め生理食塩水で十分に置換しておく。循環開始後5分後に所定のろ過流量を得ていることを確認し、開始15分後から15分おきにろ液を約1ccずつサンプリングした。また、開始後15分、60分、120分時に血液浄化器入り口側と出口側の血液をサンプリングし、遠心分離により血漿を得て、これを試験液とした。採取したサンプルをA/G B−テストワコー(和光純薬工業社製)を用いてブロムクレゾールグリーン(BCG法)により、ろ液及び血液・血漿中のアルブミン濃度を算出する。その濃度を基にアルブミンの篩係数を次式により求めた。
SCalb=2*Cf/(Ci+Co)
ここでCfはろ液中のアルブミン濃度、Ciは血液浄化器入り口での血液・血漿中のアルブミン濃度、Coは血液浄化器出口での血液・血漿中のアルブミン濃度をそれぞれ示す。この式に15分及び120分時のデータを代入することにより、15分及び120分でのアルブミンの篩係数を得ることができる。
また、3L除水換算のアルブミンリーク量は次のように求めることができる。30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分時にサンプリングし、同様にA/G B−テストワコーのBCG法により、ろ液中のアルブミン濃度を算出する。これらのデータを用い、縦軸にアルブミンリーク(TAL[mg/dL])、横軸にln(時間[min])(lnT)をとり、表計算ソフト(ex.マイクロソフト社製EXCEL−XP)を用いて一次近似によりフィッティングカーブを描き、その関係式TAL=a×lnT+bにおける定数aおよびbを求める(相関係数は0.95以上が好ましく、0.97以上がさらに好ましく、0.99以上がより好ましい)。この式TAL=a×lnT+bを用いてT=0からT=240で積分し、これを240[min]で除することにより、平均のアルブミンリーク濃度[mg/dL]を算出する。求めた平均のアルブミンリーク濃度に30dLを乗ずることにより、本願での3L除水換算でのアルブミンリーク量を得ることができる。
22、プライミング時の性能発現性
血液浄化器の血液側入口ポートより生理食塩水を流し、10分後および24時間後の透水率を上記評価法により評価し、24時間後の透水率に対する10分後の透水率の割合を求め、以下の基準で判定した。なお、10分後の透水率を測定した後、24時間までは血液浄化器内に水を充填した状態で、室温で保持した。
90%以上:○
90%未満:×
23、中空糸膜の含水率
本発明における選択透過性中空糸膜の含水率は、以下の式により計算した。
含水率(質量%)=100×(Ww−Wd)/Wd
ここで、Wwは選択透過性中空糸膜質量(g)、Wdは、120℃の乾熱オーブンで2時間乾燥後(絶乾後)の選択透過性中空糸膜質量(g)である。また、Wwは1〜2gの範囲内とすることで、2時間後に絶乾状態(これ以上質量変化がない状態)にすることができる。
(実施例1)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)5200P)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)3質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)27質量%を2軸のスクリュータイプの混練機で混練した。得られた混練物をDMAc47.5質量%および水4.5質量%を仕込んだ攪拌式の溶解タンクに投入し、3時間攪拌して溶解した。混練および溶解は溶液温度が30℃を超えないように冷却しながら実施した。ついで真空ポンプを用いて溶解タンク内を−500mmHgまで減圧した後、溶媒等が蒸発して製膜溶液組成が変化しないように、直ぐに溶解タンクを密閉し15分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。なお、ポリビニルピロリドンの過酸化水素含有量は100ppmであった。原料供給系の供給タンクや前記の溶解タンク内は窒素ガスで置換した。また、溶解時のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.1および120であった。得られた製膜溶液を15μm、10μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから吐出量2.3cc/minで吐出し、同時に内部液として予め−700mmHgで30分間脱気処理した25℃の46質量%DMAc水溶液を吐出し、紡糸管により外気と遮断された700mmの乾式部(エアギャップ部)を通過後、70℃の20質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。このときのノズル内の圧力損失は2.9×108Pa・sであり、製膜溶液流路での剪断応力は1.5×106-1、流路通過時間は1.3×10-3secと計算された。ドラフト比は1.3であった。
該中空糸膜約10,000本の束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、27cmの長さに切断し(以下バンドルと称する)、121℃の水中で30分間×3回洗浄し、過剰のポリビニルピロリドンと溶媒、膜中に含まれるエンドトキシン(フラグメント)を除去した。
得られた湿潤中空糸膜束を遠赤外線ヒーターおよびオーブンを減圧にするための排気系を有したマイクロ波乾燥機に導入し、以下の条件で乾燥した。7kPaの減圧下、1.5kWの出力で30分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波照射を停止すると同時に減圧度1.5kPaに上げ3分間維持した。つづいて減圧度を7kPaに戻し、かつマイクロ波を照射し0.5kWの出力で10分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波を切断し減圧度を上げ0.7kPaを3分間維持した。さらに減圧度を7kPaに戻し、0.2kWの出力で8分間マイクロ波の照射を行い中空糸膜束を加熱した。マイクロ波切断後、減圧度を0.5kPaに上げ遠赤外線のみ照射し10分間維持することにより中空糸膜束の乾燥を終了した。なお、乾燥中は全期間に渡り乾燥オーブンの中心部に設けた熱電対で検出される温度で50℃になるように遠赤外線ヒーターの出力調整をした。
この際の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃であった。乾燥前の中空糸膜束の含水率は330質量%、1段目終了後の中空糸膜束の含水率は34質量%、2段目終了後の中空糸膜束の含水率は11質量%、3段目終了後の中空糸膜束の含水率は3.0質量%であった。得られた中空糸膜の内径は199μm、膜厚は28μmであった。スキン層厚みは0.9μmであった。
得られた中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、過酸化水素を定量した。過酸化水素は全部位において低レベルで安定しており、最大値で2ppmであった。
得られた中空糸膜束を充填率60容量%で血液浄化器ハウジングに装填し、端部をウレタン樹脂で接着し、樹脂を切り出して中空糸膜端部を開口させて血液浄化器を組み立てた。得られた血液浄化器のリークテストを行った結果、中空糸膜同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器を汎用タイプの脱酸素剤(王子タック株式会社製 タモツ(登録商標))2個および細孔容積1.05cc/g、表面積320m2/g、粒径8メッシュのシリカゲルに塩化カルシウムを10質量%担持した改良シリカゲルBを紙パックに封入した調湿剤とともに外層がポリエステルフイルム、中間層がアルミ箔、内層がポリエチレンフイルムよりなる酸素透過率および水蒸気透過率がそれぞれ1cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下および5g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下のアルミラミネートシートよりなる包装袋にて熱シール法でシールし密封した。調湿剤は、事前に相対湿度85%RHの環境で24時間シーズニングしたものを用いた。包装体を室温で72時間保存した後に、25kGyのγ線を照射し滅菌を行った。滅菌処理品と同時に密封した包装体の包装袋内の酸素濃度を測定した。0.1容量%以下で実質的な無酸素状態になっていた。また、相対湿度は75%RHであった。
滅菌処理された血液浄化器より中空糸膜束を取り出し、中空糸膜中のカルボキシル基および過酸化物含有量を測定した。また、滅菌処理直後および包装袋内に密封した状態で2週間保管後のLDH活性を評価した。上記評価は同時に作製した複数の血液浄化器を用いて評価した。
中空糸膜中のカルボキシル基および過酸化物含有量は適性でありLDH活性は低く抗血栓性は良好であった。また、アルブミンの篩い係数、α1マイクログロブリンのクリアランス、α1マイクログロブリン吸着量を評価した。これらの選択透過性は良好であった。
血液浄化器より中空糸膜を取り出し、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。また、クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/min/m2で血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。中空糸膜外側から中空糸膜内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。
また、血液浄化器の選択透過性中空糸膜からのポリビニルピロリドン溶出量は低く、プライミング時の透水性発現性も良好であり血液浄化器として実用性の高いものであった。
これらの評価結果を表1に示す。
Figure 2006304826
Figure 2006304826
(比較例1)
実施例1の方法において、製膜溶液組成をポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製スミカエクセル(登録商標)5200P)18.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)0.5質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)77.0質量%、RO水4.5質量%に、内液の温度を50℃に、また凝固液をRO水に変更する以外は、実施例1と同様にして比較例1の中空糸膜および血液浄化器を得た。製膜溶液中のポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率は2.8質量%、ノズル吐出時の製膜溶液温度と内部液の温度差は20℃であった。特性値を表2に示す。
本比較例で得られた中空糸膜は、中空糸膜の内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が低すぎ、かつスキン層厚みが厚いため、蛋白質の選択透過性が劣っていた。また内表面のポリビニルピロリドンの含有量が低すぎるために残血性が劣っていた。さらに、中空糸膜の内表面および外表面のポリビニルピロリドンの含有量が低いためプライミング性が良くなかった。従って、本比較例で得られた血液浄化器は実用性の低いものであった。
(比較例2)
実施例1の方法において、製膜溶液組成をポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製スミカエクセル(登録商標)5200P)18.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)10.0質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)67.5質量%、RO水4.5質量%に、内部液の濃度を65質量%、液温を45℃に変更する以外は、実施例1と同様にして比較例2の血液浄化器を得た。製膜溶液中のポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率は55.5質量%であった。特性値を表2に示す。
本比較例で得られた血液浄化器は、充填されている中空糸膜の内表面のポリビニルピロリドンの含有量が高く、細孔径が大きいので蛋白質の選択透過性に劣るものであった。また、ポリビニルピロリドンの溶出量が高かった。なお、蛋白質の選択性の低いことに関しては、内表面のポリビニルピロリドンの含有量が高いこと以外にも、内表面の平均孔径や孔径分布等の蛋白質の透過性に影響を及ぼす他の要因も実施例1の血液浄化器に充填されている中空糸膜とは異なっており、このことも影響を及ぼしているものと推察している。また、中空糸膜の外表面のポリビニルピロリドンの含有量が高いので中空糸膜同士の固着が発生した。また、エンドトキシンの透過が見られた。
また、本比較例で得られた血液浄化器は、エアリークテストの結果、血液浄化器接着部より気泡が発生するものがみられた。中空糸膜同士の固着に起因する接着不良を起こしたものと思われる。従って、本比較例で得られた血液浄化器は実用性の低いものであった。
(比較例3)
実施例1において、調湿剤の併用を止め、血液浄化器と脱酸素剤を包装袋に密封してγ線照射をして滅菌処理するように変更する以外は、実施例1と同様にして血液浄化器を得た。包装袋内の相対湿度は35%RHであった。得られた血液浄化器の特性を表2に示す。本比較例3で得られた血液浄化器は、γ線照射を受けた後の中空糸膜中のカルボキシル基および過酸化物含有量が高く、LDH活性が大きく抗血栓性が劣っていた。γ線照射時の中空糸膜束周辺の雰囲気の湿度が低いためにγ線照射により中空糸膜束中のポリビニルピロリドンの劣化が起こることにより引き起こされたものと考えられる。
(比較例4)
実施例1において、包装袋内への脱酸素剤なしで滅菌処理をするように変更する以外は、実施例1と同様にして血液浄化器を得た。得られた血液浄化器の特性を表2に示す。本比較例4で得られた血液浄化器は比較例3で得られた血液浄化器と同様に低品質であった。本比較例においては、脱酸素剤が封入されていないため、γ線照射時の中空糸膜束周辺の雰囲気の酸素濃度が高く酸化を抑制する状態になっていないのでγ線照射により中空糸膜束中のポリビニルピロリドンの劣化が起こることにより引き起こされたものと考えられる。
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製スミカエクセル(登録商標)4800P)18.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)2.5質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)74.5質量%、RO水5.0質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、製膜溶液中のポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率は13.8質量%であった。原料ポリビニルピロリドンの過酸化水素含有量は100ppmであった。得られた製膜溶液を15μm、10μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから製膜原液吐出量2.1cc/minで吐出し、同時に内部液として予め脱気処理した30℃の50質量%DMAc水溶液を吐出し、紡糸管により外気と遮断された750mmのエアギャップ部を通過後、65℃の25質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。ドラフト比は1.3であった。ノズル内での製膜溶液の圧力損失は2.15×108Pa・sであり、剪断応力は1.1×106-1、流路通過時間は1.2×10-3secであった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。
該中空糸膜約10,000本の束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄した。
得られた湿潤選択透過性中空糸膜束を実施例1と同様の方法で乾燥した。乾燥後の含水率は1.7質量%であった。得られた中空糸膜の内径は202μm、膜厚は29μmであった。スキン層厚みは0.8μmであった。
得られた乾燥選択透過性中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、過酸化水素溶出量を定量した。該過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定しており、最大値で2ppmであった。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様にして血液浄化器を組み立て、滅菌処理を行った。得られた血液浄化器は、実施例1で得られた血液浄化器と同様に高品質で実用性の高いものであった。これらの評価結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−3500)18.5質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)3.0質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)74.5質量%、RO水4.0質量%よりなる製膜溶液を得た。なお、製膜溶液中のポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率は16.2質量%、原料ポリビニルピロリドン中の過酸化水素含有量は150ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を15μm、10μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、50℃に加温したチューブインオリフィスノズルから吐出量2.4cc/minで吐出し、同時に内部液として予め−700mmHgで30分間脱気処理した15℃の35質量%DMAc水溶液を吐出し、紡糸管により外気と遮断された650mmのエアギャップ部を通過後、60℃の15質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、ノズル内での製膜溶液の圧力損失は2.3×108Pa・s、剪断応力は1.2×106-1、流路通過時間は1.5×10-3secであった。ドラフト比は1.3であった。
該中空糸膜約10,000本の束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄し、洗浄処理後の中空糸膜束をRO水で軽く濯いでイソプロパノールを水に置換した後、遠心脱液器で600rpm×5min間脱液した。得られた湿潤中空糸膜束を実施例1と同様の方法で乾燥した。乾燥終了後の含水率は2.0質量%であった。得られた中空糸膜の内径は199μm、膜厚は30μmであった。スキン層厚みは0.7μmであった。得られた中空糸膜の特性値を表1に示す。
得られた中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり、過酸化水素溶出量を定量した。該過酸化水素溶出量は最大値で2ppm以下であった。
上記方法で調製した中空糸膜を用いて実施例1と同様にして血液浄化器を組立て、滅菌処理を行った。得られた血液浄化器は、実施例1で得られた血液浄化器と同様に高品質で実用性の高いものであった。これらの評価結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1の方法において、脱酸素剤を水分放出型である三菱ガス化学社製エージレスZ−200PT(登録商標)に切換え、かつ調湿剤の使用を取り止め、包装袋を密封後滅菌までの保存時間を50時間に変更して滅菌処理を行うように変更する以外は、実施例1と同様の方法で血液浄化器を得た。得られた血液浄化器は、実施例1で得られた血液浄化器と同様に高品質で実用性の高いものであった。これらの評価結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例1と同様の方法で得た乾燥選択透過性中空糸膜束を用いて、血液浄化器を組み立てた。該血液浄化器にRO水を中空糸膜脱気血液浄化器を通すことにより得た溶存酸素濃度が0.05ppmの脱酸素水で、血液側を200ml/分で5分間充填した後、血液側を止めて、0.1MPaの圧力で、60℃の窒素ガスで充填水を追い出し、さらに該通気を続けることにより中空糸膜中の含水率を10質量%に調整した。上記操作は窒素雰囲気下で行った。血液浄化器内の酸素濃度は0.5容量%であった。該環境下で該乾燥された血液浄化器の血液および透析液の出入り口全てをエチレン−プロピレン系合成ゴムよりなるキャップで密栓し、外層が厚み25μmの2軸延伸ポリアミドフィルムと内層が厚み50μmの未延伸ポリエチレンフィルムの積層体よりなる包装袋に密封した。
密栓してから室温で120時間保存した後に、25kGyのγ線を照射し、滅菌処理を行った。得られた血液浄化器は、ポリビニルピロリドンが若干架橋されるために、実施例1で得られた血液浄化器よりは、選択透過性がやや低下するが、高品質で実用性の高いものであった。これらの評価結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例1と同様の方法で得た乾燥選択透過性中空糸膜束を用いて、血液浄化器を組み立てた。該血液浄化器にRO水を中空糸膜脱気血液浄化器に通すことで溶存酸素濃度0.05ppmとした脱酸素水に窒素をバブリングし、窒素飽和水を調製した。この窒素飽和水を血液浄化器の血液側に200ml/分で5分間充填した後、血液側を止めて、0.1Paの圧力で、60℃の空気で充填水を追い出し、さらに該通気を続けることにより中空糸膜中の含水率を10質量%に調整した。該条件により乾燥された血液浄化器の血液および透析液の出入口すべてをエチレンープロピレン系合成ゴムよりなるキャップで密栓し、外層が厚み25μmの2軸延伸ポリアミドフィルムと内層が厚み50μmの未延伸ポリエチレンフィルムの積層体よりなる包装袋に密封した。密栓してから50時間後にγ線に変え加速電圧が5000KVである電子線照射機を用いて電子線を照射し滅菌処理を行った。得られた血液浄化器は、ポリビニルピロリドンが若干架橋されるために、実施例1で得られた血液浄化器よりは、選択透過性がやや低下するが、高品質で実用性の高いものであった。これらの評価結果を表1に示す。
(実施例7および8)
実施例1の方法において、それぞれ密栓後、室温で24時間および40時間放置後にγ線照射して滅菌処理するように変更する以外は、実施例1と同様にして血液浄化器を得た。これらの特性を表1に示す。選択透過性や血液適合性は、実施例1で得られた血液浄化器と同様に高品質であった。しかし、密封をしてからγ線処理までの時間が短いために、実施例1で得られた血液浄化器に対して、プライミング時の透水性能の発現性がやや劣っており、プライミング時の透水性能の発現性対してγ線照射までの経過時間が影響することが示された。
(比較例9)
実施例1において、過酸化水素含有量が500ppmのポリビニルピロリドンを原料とし、混練および溶解温度を85℃とし、原料供給系や溶解槽の窒素ガス置換を取り止め、中空糸膜束の洗浄回数を1回とし、かつ該湿潤状態の選択透過性中空糸膜束の乾燥を常圧下でマイクロ波を照射し含水率が0.5質量%になるまで乾燥するように変更する以外は、実施例1と同様の方法により乾燥中空糸膜束を得た。得られた乾燥中空糸膜束中の過酸化水素含有量の最大値および平均値はそれぞれ10および5.6ppmであった。該乾燥中空糸膜を用いて実施例1と同様の方法で血液浄化膜を組立てた。該血液浄化膜にRO水を充填し、ウエット状態でγ線を照射した。得られた血液浄化膜は、γ線照射により中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋が起こるために選択透過性が劣っていた。また、本比較例で用いた中空糸膜は過酸化水素含有量が高いために、ウエット状態でγ線照射をしたにも拘わらずγ線照射によりポリビニルピロリドンの劣化が起こり、カルボキシル基や過酸化物の生成が多く血液適合性が劣っていた。該γ線照射によるポリビニルピロリドンの劣化反応は、中空糸膜中に含まれる過酸化水素により誘発されたと推察される。
本発明の血液浄化器は、選択透過性に優れており、かつドライタイプであるので、軽い、凍結しない、雑菌が繁殖しにくい等の利点がある。また、本発明の血液浄化器に装填されているポリスルホン系選択透過性中空糸膜はラジカル捕捉剤が含まれていないので、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が不要であるという利点がある。さらに、本発明においては、ドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で、放射線照射しても放射線照射による選択透過性中空糸膜の劣化が抑制されるという従来技術では達成しえない効果が発現されるので、該劣化反応により生ずるカルボキシル基および過酸化物の生成が少なく、本発明の血液浄化器は、抗血栓性に優れているという利点を有する。従って、産業界に寄与することが大である。
本発明で用いるチューブインオリフィスノズルの模式図を示す。 中空糸膜の内外表面のPVP含有量比とアルブミン篩い係数の関係を示す模式図である。 中空糸膜内外表面のPVP含有量比とアルブミン篩い係数の経時変化との関係を示す模式図である。
符号の説明
1:内液吐出孔
2:製膜原液吐出孔
L:ランド長
D:ノズル外径

Claims (8)

  1. 主としてポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンからなり、厚さ0.1〜1.2μmのスキン層を有し、外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量が25〜50質量%で、かつ(外表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)/(内表面最表層のポリビニルピロリドンの含有量)≧1.1である選択透過性中空糸膜を用いて作製されてなる血液浄化器に、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dl、クエン酸ナトリウムを添加した37℃の牛血液を200ml/分、濾過流量20ml/分で流したとき、15分後のアルブミンの篩い係数[A]が0.01以上0.1以下で、かつ2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が0.005以上0.04未満であり、該選択透過性中空糸膜中のカルボキシル基含有量が100〜800nmol/gであることを特徴とする血液浄化器。
  2. 2時間後のアルブミンの篩い係数[B]が15分後のアルブミンの篩い係数[A]より小さいことを特徴とする請求項1に記載の血液浄化器。
  3. 15分後のアルブミンの篩い係数[A]と2時間後のアルブミンの篩い係数[B]の関係が下記式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の血液浄化器。
    [B]/[A]=0.1〜0.4
  4. 選択透過性中空糸膜中の過酸化物含有量が200nmol/g以下である請求項1〜3いずれか記載の血液浄化器。
  5. 選択透過性中空糸膜の膜厚が25〜50μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の血液浄化器。
  6. 選択透過性中空糸膜における外表面の開孔率が20〜35%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の血液浄化器。
  7. 選択透過性中空糸膜の含水率が600質量%以下あることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の血液浄化器。
  8. 放射線照射前の選択透過性中空糸膜束を血液浄化器に充填する長さ単位で長手方向に10個に分割し、各々を透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施したとき、すべての抽出液における過酸化水素濃度が5ppm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の血液浄化器。
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