本発明は、ステアリング操作部材の操作力を車輪を転舵させる転舵装置に伝達するための装置に関し、詳しくは、入力軸と出力軸との回転比を変更可能な操舵力伝達装置に関する。
車両に装備されているステアリングシステムは、ステアリングホイール等の操作部材の操作によって車輪を転舵させるシステムであり、操作部材の操作力を操舵力として転舵装置に伝達するための操舵力伝達装置を有している。その伝達装置は、一般に、操作部材の操作に応じたステアリングシャフトの回転を、転舵装置の入力軸の回転として伝達するような構造のものとされており、そのような伝達装置において、ステアリングシャフトの回転量に対する転舵装置の入力軸の回転量の比を変更可能とされたもの、すなわち、伝達比可変機能を有する伝達装置も検討されており、既に実際の車両にも搭載されている。具体的には、例えば、下記特許文献および非特許文献に記載されているような伝達装置である。なお、非特許文献1に記載されている伝達装置は、特許文献1に記載された伝達装置を実際の車両において具現化したものである。
特開2000−211541号公報
特開2001−48032号公報
特開2003−160057号公報
ランドクルーザ100 新型車解説書 トヨタ自動車(株) 2002年8月発行
上記特許文献等に記載された伝達装置は、いずれも、伝達比を変更するための動力源として、モータを備えるものとされており、そのモータがハウジング内に収容されている。ところが、それらの伝達装置は、ハウジングがステアリングシャフトの回転に伴って回転するような構造のものとされているため、モータへの給電のためのケーブルの処理に何らかの工夫を凝らす必要がある。そのため、それらの伝達装置では、例えば、特許文献1,特許文献3,非特許文献1に記載されているように、給電ケーブルをスパイラルケーブルとすることで、給電ケーブルがハウジングの回転によって異常に引張られたり、弛んだりするのを防止している。ところが、このスパイラルケーブルに関する機構は、複雑なものであり、上記伝達装置は、自身の構造が煩雑なものとならざるを得ないという問題を抱えていた。かかる実情に鑑み、本発明は、構造が単純化された操舵力伝達装置を得ることを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明の操舵力伝達装置は、ステアリング操作部材の操作に応じた回転が入力される入力軸と、転舵装置に回転を出力する出力軸と、それら両軸の回転比を変更可能にそれら両軸間の回転伝達を行う可変伝達機構を備えた伝達装置であって、それらの構成要素が配設されるハウジングが車体に対して回転不能に設けられるとともに、可変伝達機構における動力源であるモータのモータ軸と、入力軸と、出力軸とが同軸的に配置されていることを特徴とする。
発明の作用および効果
上記本発明の操舵力伝達装置によれば、ハウジングが回転しないため、モータへの給電のためのケーブルの処理に対して、特別な配慮をする必要がなく、その点において単純な構造の伝達装置が実現する。また、モータ軸,入力軸,出力軸の3つの軸が同軸的であるため、すっきりとした構造の伝達装置が実現する。なお、上記操舵力伝達装置の作用および効果については、以下の〔発明の態様〕の項において、より詳しく説明する。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。本願発明を含む概念である。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項と(2)項とを合わせたものが請求項1に相当し、請求項1に(3)項の限定を加えたものが請求項2に、請求項1または2に(5)項の限定を加えたものが請求項3に、請求項3に(6)項の限定を加えたものが請求項4に、請求項1〜4のいずれかに(9)項の限定を加えたものが請求項5に、請求項1〜5のいずれかに(13)項および(14)項の限定を加えたものが請求項6に、請求項1〜5のいずれかに(12)項および(15)項の限定を加えたものが請求項7に、それぞれ相当する。
(1)車体に対して回転不能に設けられるハウジングと、
そのハウジングに回転可能に保持され、ステアリング操作部材の操作に応じた回転が入力される入力軸と、
前記ハウジングに回転可能に保持され、車輪を転舵させる転舵装置に回転を出力する出力軸と、
前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達する機構であって、前記ハウジングに固定されたモータを有し、そのモータの回転速度を変更することによって前記入力軸と前記出力軸との回転比を変更可能な可変伝達機構と
を備えた操舵力伝達装置。
本項記載の態様の操舵力伝達装置は、平たく言えば、例えば、入力軸と出力軸とを、それらの間に可変伝達機構を介在させて、回転伝達を行う態様の装置である。本項の態様における可変伝達機構は、動力源としてのモータを備えるものとされており、そのモータは、ハウジングに固定されている。そして、ハウジングが車体に対して回転不能に設けられるようにして、当該装置が車両に配設されるため、車体側からモータへ給電するためのケーブル(リード線等)の処理が簡便なものとなる。すなわち、本項に記載の態様によれば、構造が単純化された操舵力伝達装置が実現するのである。また、先に説明したように、スパイラルケーブルの機構を要しないため、コンパクトな操舵力伝達装置が実現する。また、スパイラルケーブル機構を要しないことから、給電ケーブルの太さを太くすることができ、大きな出力のモータを採用することが可能となる。なお、操舵力伝達装置が、給電ケーブル以外の電線であって制御のための電線である制御ケーブルを備える場合には、本項に記載の態様によって、その制御ケーブルの処理をも簡便化することができる。
本項に記載の態様において、ハウジングが、「車体に対して回転不能に設けられる」とは、例えば、ハウジングが自転しないこと等を意味する。例えば、そのハウジングを車体の一部に固定することによって、回転不能とすることが可能である。ラックアンドピニオン機構を有して転舵ロッドを車幅方向に移動させる構造の転舵装置が車体に装備されている場合、その転舵装置詳しくは転舵装置のハウジングに固定することによっても、ハウジングを回転不能とすることができ、また、ステアリングシャフトとそれを回転可能に保持するステアリングチューブとを含んで構成されるステアリングコラムを有する場合、そのコラムに固定することによっても、ハウジングを回転不能とすることができる。なお、「ハウジングに固定されたモータ」とは、必ずしもモータのケーシングがハウジングに固定されていることを要しない。例えば、当該伝達装置のハウジングがモータのケーシングを兼ねるような場合、つまり、ステータがハウジングに直接固定されているような場合も、モータがハウジングに固定されているものとして扱うこととする。
例えば、ステアリングシステムが、上記ステアリングコラムを主体とする操作装置を含んで構成されている場合、「入力軸」は、ステアリングシャフトに連結されることで、ステアリング操作部材(ステアリングホイール等である。以下、単に「操作部材」略することがある。)の操作に応じた回転が入力されるものとなる。その場合、ステアリングシャフトと入力軸を直結させることが可能であり、極端には、ステアリングシャフトの一部分が入力軸を兼ねるような構造とすることも可能である。また、直結するのではなく、ユニバーサルジョイント等のフレキシブルジョイント等を介在させ、あるいは、ギヤ機構等介在させて連結させることも可能である。ステアリングシステムが、インターミディエットシャフト等の補助的な回転軸を含んで構成される場合、それら補助的な回転軸を、入力軸とステアリングシャフトとの間に介在させることも可能である。
また、例えば、転舵装置が、上述のような構造のものであって、自身に入力軸(以下、「転舵入力軸」と呼ぶ場合がある。例えば、ピニオン軸等である。)を備える場合、「出力軸」は、上記入力軸の場合と同様、その転舵入力軸に連結されることで、転舵装置に回転を出力するものとなる。その場合、転舵入力軸と出力軸とを直結させることが可能であり、極端には、転舵入力軸の一部分が出力軸を兼ねるような構造とすることも可能である。また、入力軸の場合と同様、直結するのではなく、フレキシブルジョイント等を介在させ、あるいは、ギヤ機構等介在させて連結させることも可能である。同様に、ステアリングシステムが、インターミディエットシャフト等の補助的な回転軸を含んで構成される場合、その補助的な回転軸を、出力軸と転舵入力軸との間に介在させることも可能である。
本項に記載の態様において、「可変伝達機構」は、その構成が特に限定されるものではなく、例えば、後に説明するような、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構,プラネタリギヤ機構等を採用することが可能である。「回転比」とは、例えば、入力軸の回転量(回転角を含む概念である)と出力軸の回転量との比を意味する。回転速度の比と考えることもできる。なお、特に断りのない限り、本明細書において、「回転比」は、入力軸の回転量に対する出力軸の回転量の比として扱うものとする。
回転比の制御は、例えば、車両に制御装置を設け、その制御装置によって行うことが可能である。詳しくは、モータの回転速度(厳密には、モータ軸の回転速度)を制御することで回転比を変更するような制御を行うことができる。回転比を変化させる制御の目的は、特に限定されるものではない。実際的には、例えば、車両の速度が速い場合は、車両の走行安定性等に鑑み、操作部材の操作量に対する車輪の転舵量を小さくすべく、回転比を小さくするといった制御や、逆に、車両の速度が遅い場合は、車両の操縦容易性等に鑑み、操作部材の操作量に対する車輪の転舵量を大きくすべく、回転比を大きくするといった制御を行うことが可能である。
(2)前記入力軸,前記出力軸,前記モータの駆動軸であるモータ軸が、互いに同軸的に配設された(1)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、上記3つの軸が同軸的に配置されることにより、例えば、モータ自体を入力軸と出力軸とを結ぶ線上に配置でき、すっきりとした構造の操舵力伝達装置が実現する。すなわち、その意味において構造が単純化された操舵力伝達装置が実現する。また、3つの軸が同軸的であるため、入力軸および出力軸とを結ぶ線に交差する方向にモータがはみ出すことを避けることが可能であり、その点において、コンパクトな操舵力伝達装置が実現される。つまり、本項に態様の伝達装置は、配設されるスペースに関する制約を受けることが少なく、当該伝達装置を配設する場所についての自由度が向上する。なお、「モータ軸」は、駆動軸,出力軸,モータ主軸といった種々の名称で呼ばれるものであり、モータが備えるロータと一体化あるいは直結されたものでもよく、減速機構等を介してロータと連結されるものであってもよい。
(3)前記モータ軸が中空とされ、前記入力軸と前記出力軸との少なくとも一方がそのモータ軸に挿通するように配置された(2)項に記載の操舵力伝達装置。
上記3つの軸を、単に一直線上に並ぶように配置するのでは、入力軸と操作部材側と連結しかつ出力軸と転舵装置側と連結し、その上で入力軸と出力軸と可変伝達機構を介して連結させることは困難である。上記3つの軸の同軸化を容易にする一態様が、本項に記載の態様である。端的に言うところの、入力軸と出力軸との少なくとも一方が、モータを貫通して設けられた態様が、本項に記載の態様に含まれる。本項に記載の態様によれば、装置軸線方向(同軸的な上記3つの軸線に沿った方向)におけるモータを挟んだ一方の側において操作部材側と入力軸とが連結され、かつ、他方の側において転舵装置側と出力軸とが連結されるような構造の伝達装置を、容易に実現させることができる。
(4)前記入力軸と前記出力軸との一方が中空とされ、前記入力軸と前記出力軸との他方が前記一方に挿通するように配置された(2)項または(3)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、上記3つの軸の同軸化を容易にするためのもう1つ態様である。本項に記載の態様によれば、装置軸線方向におけるモータから見た一方の側において、操作部材側と入力軸とが連結されかつ転舵装置側と出力軸とが連結されるような構造の伝達装置を、容易に実現させることが可能である。なお、先の項の態様をあわせて、3つの軸が三重に配置されるような態様とすることもできる。
(5)前記可変伝達機構が、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構である(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構(「ストレイン・ウェーブ・ギヤリング変速機構」,「波動歯車減速機構」と呼ばれることもある。また、いわゆるハーモニックドライブ機構と呼ばれることもある。)は、コンパクトな変速機構であることから、本項に記載の態様によれば、コンパクトな操舵力伝達装置が実現する。
(6)前記ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構が、(a)前記入力軸と前記出力軸との一方にそれと相対回転不能に設けられた第1リングギヤと、(b)前記入力軸と前記出力軸との他方にそれと相対回転不能に設けられ、前記第1リングギヤと歯数の異なる第2リングギヤと、(c)前記第1リングギヤと前記第2リングギヤとの両者に噛合するフレキシブルギヤと、(d)概ね楕円状のカムとして構成され、前記フレキシブルギヤが自身の外周部に装着されるとともに前記モータ軸と相対回転不能に連結された波動発生器とを含んで構成された(5)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、可変伝達機構としてのストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構が具体的な形態に限定された態様である。具体的な構成については、後の〔実施例〕の項において説明する。なお、第1リングギヤ,第2リングギヤは、それぞれ第1サーキュラスプライン,第2サーキュラスプラインと呼ぶこともでき、また、フレキシブルギヤは、フレクスプラインと呼ぶこともできる。
(7)前記可変伝達装置が、プラネタリギヤ機構である(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
プラネタリギヤ機構は、各種機器,装置等において広く採用されており、実用的な変速機構であることから、本項に記載の態様によれば、実用的な操舵力伝達装置が実現する。
(8)前記入力軸と前記出力軸とが同軸的に配設され、
前記プラネタリギヤ機構が、(A)前記入力軸にそれと相対回転不能に設けられた第1サンギヤと、(B)前記出力軸にそれと相対回転不能かつ前記第1サンギヤと同軸的に設けられた第2サンギヤと、(C)前記第1サンギヤと前記第2サンギヤとの両者に噛合し、前記モータの回転によって前記第1サンギヤと前記第2サンギヤとの周りを周回させられるプラネタリギヤとを含んで構成された(7)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、可変伝達機構としてのプラネタリギヤ機構が具体的な形態に限定された態様である。具体的な構成については、後の〔実施例〕の項において説明する。
(9)前記モータ軸の回転を禁止するモータ軸回転ロック機構を備えた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
制御システムの異常,モータの失陥等によって可変伝達機構がフェール状態に陥った場合において、モータ軸が自由な回転を許容されるときに、操作部材から転舵装置に操舵力が伝達されない事態が起こり得る。本項に記載の態様によれば、そのような事態に容易に対処することができる。つまり、フェール状態に陥った場合でも、操舵力の伝達が担保可能な操舵力伝達装置とすることができるのである。本項におけるモータ軸回転ロック機構は、ストッパ機構と呼ぶこともでき、例えば、モータ軸とハウジングとの一方に係止部(ストッパ)を設け、他方にその係止部によって係止される被係止部を設け、それらが互いに係合する状態と係合しない状態とが選択的に実現されるような構造とすればよい。
(10)前記入力軸と前記出力軸との少なくとも一方が、それの前記ハウジング内における一部分にトーションバーを含んで構成され、当該操舵力伝達装置が、そのトーションバーの捻り量を検出するための捻り量検出器を備えた(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、検出されたトーションバーの捻り量に基づいて、操作部材に加えられた操作力、言い換えれば、その操作力によって生じる操舵トルクを推定することが可能である。転舵装置において操舵力を助勢する機構を有するようなステアリングシステム(いわゆるパワーステアリングシステム)である場合、検出された捻り量を利用して、その助勢力を決定するような制御を行うことが可能である。また、本項に記載の態様のように、トーションバーまでも当該伝達装置内に組み込むことができれば、パワーステアリングシステムのより一層のコンパクト化が実現される。なお、トーションバーが入力軸と出力軸との間に存在するような態様は、いずれかの軸がトーションバーを含んで構成されたものとみなすことができるため、その態様も、本項に記載の態様に含まれるものとする。
「捻り量検出器」には、例えば、トーションバーに付設されたストレンゲージ等のように、直接的に捻り量を測定するようなデバイスを採用することが可能である。また、トーションバーの両端の各々あるいは両端の各々が接続されている入力軸あるいは出力軸のいずれかの箇所の各々の回転位置(回転角度位置)を測定するデバイス、例えば、光学的エンコーダ,レゾルバ,電磁ピックアップ等を採用することもできる。その場合は、両端の回転位置の差分を検出することで、捻り量を間接的に検出することが可能である。つまり、捻り量検出器は、1つのデバイスのみによって構成されるものに限定されず、2以上のデバイスによって構成されるものであってもよいのである。
(11)当該操舵力伝達装置が、前記入力軸の回転角度と前記出力軸の回転角度との差分と比との少なくとも一方を検出するための軸回転角度差等検出器を備えた(1)項ないし(10)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、実際の入力軸と出力軸との回転比を検出することが可能であり、操舵伝達装置を精度よく制御することができる。つまり、本項に記載の態様は、入力軸と出力軸のと回転比を検出するための回転比検出器を備えた態様の一態様である。「軸回転角度差検出器」は、1つのデバイスのみによって構成されるものに限られない。例えば、上述した捻り量検出器と同様に、光学的エンコーダ,レゾルバ,電磁ピックアップ等のデバイスであって、入力軸の回転位置を測定するデバイスおよび出力軸の回転位置を測定するデバイスの2つのデバイスを含んで構成されるようなものであってもよいのである。
(12)前記ハウジングが、転舵装置のハウジングと一体化された(1)項ないし(11)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、当該伝達装置と転舵装置とが一体的に構成された態様の一態様であり、当該伝達装置が転舵装置に固定された態様の一態様と考えることができる。操舵力伝達装置を転舵装置に設ければ、車室内のスペースを広くできるというメリットがあり、本項に記載の態様によれば、そのメリットを享受できることになる。
(13)前記ハウジングが、転舵装置のハウジングに分離可能に固定される(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、当該伝達装置が転舵装置に固定されて設けられた態様の一態様である。本項に記載の態様によれば、ステアリングシステムを車両に組み付ける作業の容易化、あるいは、ステアリングシステムの整備等の作業の容易化が図れることになる。本項に記載の操舵力伝達装置は、両ハウジングがボルト等の締結材によって締結されるように構成されて、組付作業,分離作業を容易に行い得るようにすることが望ましい。
(14)前記出力軸が操舵装置の入力軸と分離可能に嵌合するものとされた(13)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、上述したステアリングシステムの車両への組立作業、整備作業等が、さらに容易に行えることになる。出力軸と操舵装置の入力軸との嵌合は、例えば、一方が他方に挿入されて嵌合させるようにすることが望ましく、また、セレーション嵌合等により、2つの軸が相対回転不能でありかつ容易に連結・分離可能とされることが望ましい。
(15)前記出力軸の少なくとも一部分が転舵装置の入力軸を兼ねる(1)項ないし(13)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様は、出力軸と転舵装置の入力軸とを一体化した態様、換言すれば、両者が一部品化された態様である。例えば、ラックアンドピニオン機構を有する転舵装置におけるピニオン軸が当該伝達装置の出力軸とされたような態様が、本項に記載の態様の具体的一態様に相当する。本項に記載の態様によれば、ステアリングシステムの構成部品を減少させることができる。本項に記載の態様は、当該伝達装置が転舵装置に固定されて設けられる態様、さらには、両者が一体化された態様において、特に有効な態様となる。
(16)前記入力軸と前記出力軸とが、それぞれ、ギヤ機構を介して操作部材側の回転軸と転舵装置側の回転軸とに連結される(1)項ないし(13)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、入力軸あるいは出力軸と上記回転軸との連結における自由度、例えば、それら連結される両軸の位置関係(軸線間距離、軸線のなす角度等を含む概念である)に対する自由度を高くすることができる。また、それらの連結箇所に、減速・増速機能を持たせることも可能である。本項にいう「操作部材側の回転軸」は、入力軸に連結される回転軸の総称であり、例えば、ステアリングシャフトもその1つである。ステアリングシャフトと入力軸との間にインターミディエットシャフトが介在する場合には、そのシャフトが上記回転軸とされてもよく、また、他の補助的な軸を介してステアリングシャフトあるいはインターミディエットシャフトに連結される場合は、その補助的な軸が上記回転軸に相当するものとなる。同様に、本項にいう「転舵装置側の回転軸」は、出力軸に連結される回転軸の総称であり、例えば、転舵装置の入力軸もその1つである。操作部材側の回転軸の場合と同様、インターミディエットシャフト等の補助的な軸も、上記転舵装置側の回転軸となり得る。
(17)前記ギヤ機構がかさ歯車を含んで構成された(16)項に記載の操舵力伝達装置。
本項に記載の態様によれば、入力軸あるいは出力軸と上記回転軸との軸線が互いに交差するような状態で、当該伝達装置を配設することが可能である。具体的に言えば、例えば入力軸と出力軸とが同軸的に配置されている場合、それらの軸線と上記操作部材側および転舵装置側の回転軸の軸線とが交差するように、当該伝達装置をステアリングシステム内に設けることが可能である。
(21)ステアリングシャフトと、そのステアリングシャフトを回転可能に保持するシャフトハウジングと、前記ステアリングシャフトの一端部に連結されたステアリング操作部材とを備え、そのステアリング操作部材の操作に応じて前記ステアリングシャフトが回転するようにされた操作装置と、
(i)ハウジングと、(ii)そのハウジングに軸方向に移動可能に保持されるとともに両端部の各々が左右の車輪の各々に連結され、中間部にラックが形成された転舵ロッドと、(iii)前記ハウジングに回転可能に保持され、前記ラックと噛合するピニオンが形成された入力軸とを備え、その入力軸が回転させられることにより左右の車輪を転舵する転舵装置と、
自身の入力軸と前記ステアリングシャフトのステアリング操作部材が連結されていない側の一端部とが連結され、かつ、自身の出力軸と前記転舵装置の入力軸とが連結された状態で、前記操作装置と前記転舵装置との間に介在させられた(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の操舵力伝達装置と
を含んで構成されたステアリングシステム。
本項は、前述した種々の態様の操舵力伝達装置のいずれかを、構成要素として含むステアリングシステムに関するものである。いずれかの前記操舵力伝達装置が配設されたステアリングシステムは、その配設された操舵力伝達装置に応じて、その装置に関する項において説明したところの利点等を享受することが可能である。なお、当該ステアリングシステムは、インタミディエットシャフト等、本項に記載されていない構成要素を含むものであってもよい。また、「転舵装置」は、モータを動力源として有して操作部材側から伝達された操舵力を助勢する助勢機構を備えたものであってもよい。すなわち、本項に記載のステアリングシステムは、いわゆるパワーステアリングシステムとされたものであってもよいのである。
以下、本発明のいくつかの実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<第1実施例>
図1に、第1実施例の操舵力伝達装置が配備されたステアリングシステムを模式的に示す。当該ステアリングシステムは、パワーステアリングシステムであり、大きくは、操作装置10と、転舵装置12と、操舵力伝達装置14と、制御装置としての電子制御ユニット16(以下、「ECU16」略す場合がある)とに区分することができ、それらを構成要素として含んで構成されている。
操作装置10は、ステアリング操作部材としてのステアリングホイール20と、ステアリングコラム22(以下、単に「コラム」22と略する場合がある)とを含んで構成されている。コラム22は、一端部にステアリングホイール20が接続されたステアリングシャフト24と、ステアリングシャフト24を回転可能に保持するシャフトハウジングとしてのステアリングチューブ26(以下、単に「チューブ26」と略す場合がある)とを含んで構成されている。チューブ26がインストゥルメンツパネルのリインフォースメントに固定されることで、コラム22が車体に固定して設けられている。
転舵装置12は、車体(詳しくは、シャーシ)に固定されたハウジング30と、ハウジング30に軸方向(車両の左右方向)に移動可能に設けられた転舵ロッド32を主体として構成されている。転舵装置12は、操作装置10側からの操舵力が入力される入力軸としてのピニオン軸34を有している。転舵ロッド32には、ピニオン軸34に形成されたピニオン36と噛合するラック38が形成され、ピニオン軸34と転舵ロッド32とは、ラックアンドピニオン機構によって連結されている(図2参照)。そのような構造により、ピニオン軸34の回転によって転舵ロッド32が軸方向に移動するようにされている。また、転舵ロッド32の両端部の各々は、ボールジョイント40を介して左右のタイロッド42の各々の一体部に連結され、タイロッド42の各々の他端部は、ボールジョイント44を介して、左右の転舵車輪46の各々を保持するステアリングナックル48の各々が有するナックルアーム部50に連結されている。さらに、転舵装置12は、操舵力を助勢する助勢機構52を備えており、転舵ロッド32の軸方向の移動が助勢される構造とされている。図示は省略するが、転舵ロッド32にはボールねじ(雄ねじ)が形成されており、転舵装置12は、ハウジング30内に、ベアリングボールを有してそのボールねじに螺合するボールナットと、そのボールナットを回転させる電動モータを備えており、そのモータの駆動力によって、転舵ロッド32の移動が助勢される構造とされているのである。
操舵力伝達装置14は、ステアリングホイール20の回転に応じて回転するステアリングシャフト24の回転を、転舵装置12のピニオン軸34に伝達する機能を果たす装置である。言い換えれば、ステアリングホイール20に加えられた操作力を、操舵力として、転舵装置20に伝達する装置である。操舵力伝達装置14は、自身のハウジング60が、転舵装置12のハウジング30に締結されることで、転舵装置12に固定して設けられる。操舵力伝達装置14は入力軸62を備えており、入力軸62のハウジング60から延び出す一端部が、ユニバーサルジョイント64を介してを介してインタミディエットシャフト66の一端部に連結される。インタミディエットシャフト66の他端部は、ユニバーサルジョイント68を介して、ステアリングシャフト24のステアリングホイール20とは反対側の端部に連結されている。操舵力伝達装置14の構造、可変伝達機能等については、後に詳しく説明する。
ECU16は、コンピュータを主体とする制御ユニットであり、主に、2つの制御を行う。その1つは、上述した転舵装置12の助勢機構52に関する制御である。後に詳しく説明するが、操舵力伝達装置14は、トーションバーと、そのトーションバーの捻り量を検出するための捻り量検出器とを含んでおり、ECU16は、検出されたその捻り量に基づいて、ステアリングホイール20に加えられた操作力(詳しくは操作トルク)を推定し、その推定した操作力に応じた助勢力を発揮するように助勢機構52(詳しくは、電動モータに与えられるエネルギ)を制御するのである。
もう1つの制御は、操舵力伝達装置14が有する可変伝達機構に関する制御である。後に詳しく説明するが、操舵力伝達装置14は、ステアリングシャフト24の回転に対する転舵装置12のピニオン軸34の回転の比を変更することができるような機能、つまり可変伝達機能を有しており、その回転比の制御を行うのである。具体的に言えば、各車輪に設けられた車輪速センサ70(図では、一方の転舵車輪46に対して設けられたもののみが示されている)によって検出された車輪速に基づいて車両の走行速度を推定し、その推定された速度に応じた回転比となるように、可変伝達機構を制御するのである。より具体的に言えば、車両の走行速度が設定された閾速度以上である場合に、その走行速度が高くなるにつれて回転比が小さくなるように制御され、逆に、車両の走行速度が設定された閾値以下の場合は、その走行速度が低くなるにつれて回転比が大きくなるようにされるのである。この制御により、車両が速く走行している場合において、ステアリングホイール20の操作角(操作量)に対する転舵車輪46の転舵角(転舵量)が小さくされることで、車両の走行安定性を向上させることができ、逆に、車両が遅く走行している場合において、テアリングホイール20の操作角に対する転舵車輪46の転舵角が大きくされることで、ステアリング操作の容易性を向上させることが可能となる。
図2に、操舵力伝達装置14の断面図を示す。操舵力伝達装置14は、ハウジング60と、ハウジング60に対して回転可能に設けられた入力軸62と、ハウジング60に対して回転可能に設けられた出力軸80と、入力軸62の回転を回転比が変更可能な状態で出力軸80に伝達する可変伝達機構82とを含んで構成されている。ハウジング60は、3つのサブハウジング(上部ハウジング84,下部ハウジング86,ロック機構部ハウジング88)が組立てられて構成されている。下部ハウジング86にはフランジ部90が設けられ、フランジ部90には、一円周上の4等配の位置に締結穴92が穿設されている。フランジ部90は、そのフランジ面が転舵装置12のハウジング30に設けられた台座部94の台座面に接する状態で、台座部94に取付られる。台座部94には、締結穴92に相応する位置に4つの雌ねじ穴96が設けられており、締結穴92と雌ねじ穴96との位置を合わせた状態で、締結材としてのボルト98により、フランジ部90と台座部94とが締結される。このようにして、操舵力伝達装置14のハウジング60が転舵装置12のハウジング30に固定されることで、操舵力伝達装置14は転舵装置12に固定され、ハウジング60は、車体に対して相対回転不能に設けられた状態とされるのである。
入力軸62は、上部軸110,下部軸112,トーションバー114の3つが一体化されたものとして構成されている。上部軸110は、ハウジング60の上部から延出しており、その延出する部分の外周にはセレーションが形成されている。このセレーションが形成された部分において、ユニバーサルジョイント64が接続され、操作装置10からの回転が入力される。上部軸110は、段付の中空とされており、大径部とされた下部に下部軸112を挿通させている。上部軸110の大径部の内周面と下部軸112の外周面との間には、軸受116が介在させられており、上部軸110と下部軸112とは相対回転可能とされている。下部軸112は、下部がフランジ部118とされ、また、上端部から軸方向に延びる有底穴が形成されている。その有底穴の底部に、トーションバー114の一端部がセレーション嵌合されている。トーションバー114のもう一方の端部は、上部軸110の上端部にセレーション嵌合されている。このような構成により、入力軸62は、トーションバー114の捻りを許容し、その分だけ自身も捻られるものとされているのである。
出力軸80は、それの下部が軸部120とされ、それの上部に、軸部120と一体的に形成されて軸部120より大きな径を有する円環部122が設けられている。入力軸62を構成する下部軸112のフランジ部118は、出力軸80の円環部122と軸部120とを繋く鍔部に沿って位置しており、そのフランジ部118が円環部122に内包される状態とされている。軸部120は、中空とされており、上部に、入力軸62を構成する下部軸112の下端部を嵌入させている。下部軸112の下端部の外周面と軸部120の中空穴の内周面との間には、ブシュ124が介在させられており、下部軸112と軸部120とが相対回転可能とされている。入力軸62を構成する上部軸110は、その外周において軸受126を介して上部ハウジング84に回転可能に保持され、また、出力軸80の軸部120が、その外周において軸受128を介して下部ハウジング86に回転可能に保持されている。上述のような構造とされていることで、入力軸62および出力軸80は、同軸的に配置されるとともに互いに相対回転可能とされ、両者がそれぞれ、ハウジング60に対して回転可能とされているのである。
転舵装置12の入力軸であるピニオン軸34は、ピニオン36の下部においてブシュ130を介し、また、ピニオン36の上方において軸受132を介して、ハウジング30に回転可能に設けられている。ピニオン軸34の上部には、セレーション外歯134が形成され、一方、上記出力軸80の軸部120の下部には、セレーション内歯136が形成されており、操舵力伝達装置14が転舵装置12に取付られた状態においては、出力軸80とピニオン軸34とはセレーション嵌合するようにされている。このような構造とされることで、出力軸80の回転がピニオン軸34に伝達されるのである。なお、出力軸80およびピニオン軸34の軸線方向と、前記締結のためのボルト98の軸線方向が平行であるため、操舵力伝達装置14を転舵装置12に組み付ける際、そのボルト98を締め込むだけで、出力軸80とピニオン軸34とが嵌合されるため、その組付作業は容易である。
ここで転舵装置12について説明すれば、転舵ロッド32は、ハウジング30に軸方向に移動可能に保持され、転舵ロッド32に形成されたラック38が、ピニオン軸34のピニオン36と噛合するようにされている。また、転舵ロッド32のラック38の背中側には、転舵ロッド32をバックアップするための機構が設けられている。詳しく言えば、ハウジング30に設けられた穴に転舵ロッド32を背後から支持する支持部材140が配設され、穴の端部にキャップ142が螺合されており、支持部材140とキャップ142の間には圧縮コイルスプリング144が設けられることで、ラック38とピニオン36との適切な噛合を担保すべく、転舵ロッド32がバックアップされているのである。
可変伝達機構82は、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構である。このストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構の動力源として、操舵力伝達装置14には、モータ150が設けられている。モータ150の出力軸であるモータ軸152は、中空とされており、入力軸62、詳しくは下部軸112を自身に挿通させた状態で配設されている。モータ軸152の内周面と下部軸112の外周面との間には、軸受154,156が介在させられており、モータ軸152は、下部軸112に相対回転可能に保持されることで、ハウジング60に対して回転可能とされている。モータ軸152の外周部には、周方向に複数の永久磁石158が固定されて配設されており、それらは、モータ150のロータを構成している。永久磁石158に対向するように、複数の極体160(コアにコイルが巻回されたもの)が、ハウジング60の内面に固定されて配設され、それらの極体160の各々がステータ極とされることで、それらはステータを構成している。このような構造とされることで、モータ150は、いわゆるブラシレスモータとされているのである。なお、モータ軸152の回転位置(回転角度,回転位相と呼ぶこともできる)、つまり、ロータの回転角度位置は、モータ軸152の上端部に付設された付設リング162とハウジング60の内面との間に設けられたレゾルバ164によって検出されるようになっており、図示を省略するモータ制御回路によって、ロータの回転角度位置に応じて極体160への通電を切替えるように制御される。また、モータ150の回転速度の制御等も、このレゾルバ164の検出信号を利用して行われる。
ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構である可変伝達機構82は、第1リングギヤとしてのステータギヤ180と、第2リングギヤとしてのドリブンギヤ182と、それらに噛合するフレキシブルギヤ184と、フレキシブルギヤ184を支持して波動を発生させる波動発生器186とを含んで構成されている。
図3に、軸方向からみた可変伝達機構82の模式図を示す。この図をも参照しつつ、可変伝達機構82の構成および機能を説明すれば、以下のようである。ステータギヤ180は、内歯が形成されたリングギヤであり、入力軸62に、詳しくは、下部軸112のフランジ部118の外周部に固定されて設けられ、入力軸と62と相対回転不能とされている。ドリブンギヤ182は、内歯が形成されたリングギヤであり、出力軸80の円環部122の内周部の上方端部に固定されて設けられ、出力軸80と相対回転不能とされている。さらに言えば、ステータギヤ180とドリブンギヤ182とは、同軸的に設けられており、入力側のギヤであるステータギヤ180が出力側の方向である下方に位置し、出力側のギヤであるドリブンギヤ182が入力側の方向である上方に位置することで、あたかも互いの位置を入れ替えるようにして軸方向に並んで配置されている。ステータギヤ180の歯数とドリブンギヤ182の歯数とは、互いに異なり、ステータギヤ180が102歯とされているのに対し、ドリブンギヤ182が100歯とされている。フレキシブルギヤ184は、外歯が形成されたリングギヤであり、比較的薄いものとされることで、可撓性を有するものとされている。フレキシブルギヤ184の歯数は、ドリブンギヤと同じ100歯とされている。
波動発生器186は、概して楕円状のカムとして機能するものであり、概して楕円盤状をなす支持盤188と、支持盤188の外周に嵌められたベアリング190とを含んで構成されている。支持盤188は、自身の中心に軸穴が設けられており、その軸穴にモータ軸152を嵌入させた状態で、モータ軸152に相対回転不能に接続されている。ベアリング190は、自身のインナレース192に支持盤188の外周を嵌入させた状態で、支持盤188に装着されている。ベアリング190のアウタレース194も比較的薄いものとされることで、可撓性を有するものとされている。フレキシブルギヤ184は、ベアリング190の外周に、ベアリング190のアウタレース194と相対回転不能な状態で装着されている。フレキシブルギヤ184は、波動発生器186によって楕円状に変形させられており、楕円の長軸部分における2箇所で、ステータギヤ180,ドリブンギヤ182と噛合し、短軸部分においてはそれらと完全に離れた状態とされている。
モータ軸152の回転を禁止した状態で、ステータギヤ180を回転させた場合、フレキシブルギヤ184は、ベアリング190のアウタレース194と共に、弾性変形を伴って噛合位置を移動させつつ楕円に沿って周回する。それにより、フレキシブルギヤ184と噛合するドリブンギヤ182も、ステータギヤ180と同方向に回転する。詳しく言えば、ステータギヤ180とドリブンギヤ182とのギヤ比(ギヤ比100/102、1に近い値である)に応じた回転比で回転する。
ここでモータ軸152を回転させて波動発生器186を回転させる場合を考える。まず、説明を単純化するために、ステータギヤ180を固定させて考えれば、波動発生器186を回転させた場合、フレキシブルギヤ184は弾性変形し、噛合位置を移動させつつ回転する。ステータギヤ180とドリブンギヤ182との歯数が異なるため、ステータギヤ180とドリブンギヤ182との間には、その歯数の差分に応じた量の回転位相差が生じることになる。具体的には、波動発生器186の1回転あたり2歯分の回転位相差が生じる。より詳しく言えば、図3において、波動発生器186を時計回りに1回転させれば、ドリブンギヤ182は、ステータギヤ180に対して、2歯分反時計回りに回転することになる。実際は、ステータギヤ180は、入力軸62の回転に伴って回転するため、ステータギヤ180と波動発生器186との相対回転量により、ステータギヤ180に対するドリブンギヤ182の回転比が決まる。つまり、ステータギヤ180の回転方向と波動発生器186との回転方向が同じであれば、ドリブンギヤ182は、上記ギヤ比以下に減速され、つまり、ギヤ比に応じた回転比より小さな値の回転比でもって回転させられることになる。逆に、ステータギヤ180の回転方向と波動発生器186との回転方向が反対であれば、ドリブンギヤ182は、上記ギヤ比以上に増速され、つまり、ギヤ比に応じた回転比より大きな値の回転比でもって回転させられることになる。なお、増速,減速の程度は、波動発生器186の回転速度に依存するため、モータ150の回転速度を変更することによって、回転比を任意に変更することが可能である。このようにして、可変伝達機構82は、入力軸62の回転を、回転比を変更可能に出力軸80に伝達するのである。
次に、モータ150の機能が失陥した場合を考える。断線等が原因する場合は、モータ軸152の比較的自由な回転が許容されることになる。その場合、上記可変伝達機構82においては、波動発生器186の自由な回転が許容されるため、ステータギヤ180とドリブンギヤ182との間の適切な回転伝達が行われなくなる。このことに考慮し、操舵力伝達装置14は、モータ軸152の回転を禁止するモータ軸回転ロック機構200(以下、単に「ロック機構200」と略す場合がある)を備えている。ロック機構200は、ソレノイド機構を備えるものであり、ロック機構部ハウジング88の内面に固定して設けられた電磁石202と、モータ軸152の軸線に直交する方向に移動可能に設けられたプランジャ204と、プランジャ204をモータ軸152に接近させる方向に付勢する圧縮コイルスプリング206とを含んで構成されている。モータ軸152の外周には、プランジャ204の先端部と係合する係止歯208が全周にわたって形成されている。モータ150が正常である場合は、電磁石202は励磁され、プランジャ204は、電磁石202に引き寄せられることで、プランジャ204と係止歯208との係合が解除されて、モータ軸152の回転は許容される。モータ150の機能が失陥した場合は、電磁石202は消磁され、プランジャ204がスプリング206の付勢力によって係止歯208と係合することで、モータ軸152の回転が禁止されることになる。モータ軸152の回転が禁止されれば、先に説明したように、ステータギヤ180とドリブンギヤ182との間の前記ギヤ比に応じた回転伝達が行われるようになる。このロック機構200により、モータ150の失陥時において、入力軸62と出力軸80との間の適切な回転伝達が担保されているのである。
さらに、操舵力伝達装置14は、先に説明したレゾルバ164とは別に、2つのレゾルバ210,212を備えている。レゾルバ210は、入力軸62を構成する上部軸110と、ハウジング60の内面との間に設けられており、上部軸110の回転角度位置を検出するためのデバイスとされている。また、レゾルバ212は、入力軸62を構成する下部軸112の外周部に固定して設けられた付設リング214と、ハウジング60の内面との間に設けられており、下部軸112の回転角度位置を検出するためのデバイスとされている。2つのレゾルバ210,212の検出信号から、上部軸110と下部軸112との相対回転変位を検出することが可能である。この相対回転変位は、トーションバー114の捻り量に相応するものであるため、レゾルバ210,212は、捻り量検出器として機能するものとなっている。先に説明したように、トーションバーの捻り量によりステアリングホイール20に加えられた操作力が推定され、助勢機構52が発揮する助勢力が決定される。なお、ステアリングホイール20の操作方向も、レゾルバ210,212の検出信号により推定することが可能であり、その推定結果に基づいて、前記可変伝達機構82が備えるモータ150の回転方向、すなわち、波動発生器186の回転方向が決定される。
以上、本実施例の操舵力伝達装置14の構成,機能等について説明した。ところで、操舵力伝達装置14は、可変伝達機構82の動力源としてのモータ150を備えるものとされているが、ハウジング60が車体に対して回転不能とされていることから、その給電ケーブルの処理において、前述したようなスパイラルケーブル機構等の複雑な機構を必要としない。つまり、本操舵力伝達装置14では、給電ケーブルの処理の簡便化が図られているのである。また、レゾルバ164,210,212からのリードケーブル,電磁石202への給電ケーブル等、当該操舵力伝達装置14を制御機能のための制御ケーブルの処理についても、同様に簡便なものとすることが可能である。さらに、操舵力伝達装置14は、入力軸62,出力軸80,モータ軸152の3つの軸が同軸的に配置されており、可変伝達機構82にストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構を採用していることと相俟って、構造が単純化されたコンパクトなものとなっている。さらにまた、操舵力伝達装置14のハウジング60が、転舵装置12のハウジング30に分離可能に固定されるとともに、出力軸80が、転舵装置12のピニオン軸34と分離可能に嵌合されているため、操舵力伝達装置14と転舵装置12との分離・組立を容易に行うことができ、ステアリングシステムの車両への組込,ステアリングシステムの整備等における作業が、容易に行えるようになっている。
図4に、上記操舵力伝達装置14の変形例としての操舵力伝達装置を示す。この操舵力伝達装置230は、操舵力伝達装置14と比べて判るように、転舵装置12との一体化がより進められている。殆どの部分が、操舵力伝達装置14と同様の構成であるため、同じ構成要素については、同じ符号を付して説明を省略し、構成の異なる部分についてのみ、説明を行う。
操舵力伝達装置230のハウジング60は、転舵装置12のハウジング30と一体化されており、容易には分離できないようにされている。また、出力軸は、転舵装置12のピニオン軸と一体的に形成され、転舵装置12の入力軸を兼ねるものとされている。端的に言えば、両軸が一部品化されたピニオン軸232を有するものとされているのである。ピニオン軸232は、ブシュ130および軸受128によって、ハウジング30,60に回転可能に保持さている。ピニオン軸232の上部には有底穴が設けられており、その有底穴において、ブシュ124を介して、入力軸62を構成する下部軸112が保持され、両軸は相対回転可能とされている。ピニオン軸232は、操舵力伝達装置14における出力軸80と同様、円環部122が設けられ、その円環部122において、可変伝達機構82と結合されている。操舵力伝達装置230が発揮する上記各種の機能等も、上記操舵力伝達装置14と同様であるため、その説明は省略する。
<第2実施例>
図5に第2実施例の操舵力伝達装置の断面図を示す。本操舵力伝達装置250は、第1実施例の操舵力伝達装置14と同様、転舵装置12に固定されて設けられる。本操舵力伝達装置250を含むステアリングシステムは、図1に示すものと同様であるため、それについての説明は省略する。また、本操舵力伝達装置250は、操舵力伝達装置14と同様、あるいは類似の構成要素を含んで構成されているため、それらについては、同じ符号を用いるものとし、それらについての説明は、簡略に行う。
操舵力伝達装置250は、第1実施例のものと同様、ハウジング252と、入力軸254と、出力軸256と、可変伝達機構82とを含んで構成されている。ハウジング252は、3つのサブハウジング(上部ハウジング260,下部ハウジング262,ロック機構部ハウジング264)から構成されている。上部ハウジング260と下部ハウジング262とは、締結材としてのボルト266によって締結されており、それらは容易に分離可能とされている。下部ハウジング262は、転舵装置12のハウジング30と、容易には分離できない程度に一体化されている。見方を変えれば、下部ハウジング262は、転舵装置12のハウジング30の一部と考えることもできる。つまり、本操舵力転舵装置250は、ハウジング252が、転舵装置12のハウジング30と一体化された態様のものであるといえる。上記構造により、操舵力伝達装置250は転舵装置12に固定され、ハウジング252は、車体に対して相対回転不能に設けられた状態とされるのである。
入力軸254は、下端部から軸方向における上方に延びる有底穴270が形成された段付の軸部272と、軸部272と一体的に軸部272の下端部に形成されたフランジ部274とを有する形状のものである。入力軸254は、ハウジング60の上部から延出しており、その延出する部分の外周にはセレーションが形成されている。このセレーションが形成された部分において、ユニバーサルジョイント64が接続され、操作装置10からの回転が入力される。
出力軸256は、上方に位置する主体な軸としての主軸280と、下方に位置する転舵装置12の入力軸を兼ねるピニオン軸282と、主軸280とピニオン軸282とを繋ぐトーションバー284とが一体化されたものとして構成されている。主軸280は、中空とされており、軸方向の中間部には、軸直方向に拡がる鍔部286と、鍔部286の外周において軸方向に延びる円環部288とが、一体的に形成されている。ピニオン軸282は、その上部に、上端部から軸方向に延びる有底穴が形成され、軸方向における中間部に、ピニオン36が形成されたものとなっている。主軸280の下端部は、ピニオン軸282の有底穴にブシュ290を介して挿入されており、主軸280とピニオン軸282とは相対回転可能とされている。主軸280の内部に、トーションバー284が配置されている。トーションバー284は、その上端部が、主軸280の上端部にピン292によって固定されており、トーションバー284と主軸280とは相対回転不能とされている。また、トーションバー284は、ピニオン軸282の有底穴の底部にセレーション嵌合されており、トーションバー284とピニオン軸282とは相対回転不能とされている。このような構造により、出力軸256は、トーションバー284の捻りを許容し、その分だけ自身も捻られるようにされているのである。
入力軸254の有底穴270には、出力軸256を構成する主軸280の上部が挿通させられ、有底穴270の内周面と主軸280の上部の外周面との間には軸受300が介在させられていることで、入力軸254と主軸280とは相対回転可能とされている。入力軸254は、上部ハウジング260の内面に、軸受302を介して回転可能に保持されている。また、出力軸256を構成するピニオン軸282は、中間部が下部ハウジング262と転舵装置のハウジング30との両者に軸受304を介して保持されるとともに、下端部がブシュ306を介してハウジング30に保持されることで、下部ハウジング262およびハウジング30に回転可能に保持されている。上述のような構造とされていることで、入力軸254と出力軸256は、同軸的に配置されるとともに互いに相対回転可能とされ、両者がそれぞれ、ハウジング252に対して回転可能とされているのである。ピニオン軸282を含む転舵装置12の構成については、第1実施例のものと同様であるため、説明を省略する。
可変伝達機構82は、第1実施例のものと同様のストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構であり、操舵力伝達装置250には、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構の動力源として、モータ150が設けられている。モータ150の出力軸であるモータ軸152は、中空とされており、入力軸254および出力軸256を自身に挿通させた状態で配設されている。詳しく言えば、モータ軸152は、軸受320およびブシュ322を介して、入力軸254に回転可能に保持されていることで、ハウジング252に対して回転可能とされている。第1実施例のものと同様に、モータ軸152の外周部にはロータを構成する永久磁石158が、ハウジング252の内面にはステータを構成する極体160が、それぞれ配設され、モータ150は、いわゆるブラシレスモータとされている。第1実施例のものと同様、モータ軸152の回転位置は、レゾルバ164によって検出され、極体160への通電の切替制御、モータ150の回転速度の制御等に利用される。
可変伝達機構82は、第1実施例のものと同様、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構であり、ステータギヤ180と、ドリブンギヤ182と、フレキシブルギヤ184と、波動発生器186とを含んで構成されている。ちなみに、ステータギヤ180は、入力軸254のフランジ部274の外周部に固定され、ドリブンギヤ182は、出力軸256を構成する主軸280の円環部288に固定されている。可変伝達機構82の構成、動作、機能等は、第1実施例のものと同様であるため、ここでの説明は省略する。また、操舵力伝達装置250も、モータ軸回転ロック機構200を備えている。ロック機構200の構成も、第1実施例のものと同様であるため、説明を省略する。
操舵力伝達装置250は、先に説明したレゾルバ164とは別に、3つのレゾルバ330,332,334を備えている。レゾルバ330は、入力軸254とハウジング252の内面との間に設けられおり、入力軸254の回転角度位置を検出するためのデバイスとされている。また、レゾルバ332は、出力軸256を構成する主軸280の下部とハウジング252の内面との間に、レゾルバ334は、出力軸256を構成するピニオン軸282とハウジング252の内面との間に設けられ、それぞれ、主軸280、ピニオン軸282の回転角度位置を検出するためのデバイスとされている。レゾルバ332とレゾルバ334の検出信号から、トーションバー284の捻り量を検出することができ、それらは、捻り量検出器として機能するものとなっている。また、レゾルバ330とレゾルバ332の検出信号、あるいは、レゾルバ330とレゾルバ334の検出信号から、入力軸254の回転角度と出力軸256の回転角度との差分,比を検出することができ、それらは、軸回転角度差等検出器として機能するものとなっている。それらによる検出の結果は、第1実施例の場合と同様、助勢力,波動発生器186の回転方向の決定に利用されるとともに、入力軸254と出力軸256の回転比の制御に利用される。
本実施例の操舵力伝達装置250は、第1実施例のものと同様、給電ケーブル等の処理を簡便なものとすることが可能である。モータ軸152,入力軸254,出力軸256を互いに同軸的に配置するだけでなく、モータ軸152の内部に入力軸254を、さらにその内部に出力軸256の一部を挿通させる状態となっている。言い換えれば、3つの軸であるモータ軸152,入力軸254,出力軸256が、三重に配置されるように構成されており、操舵力伝達装置250は、トーションバー284を備えているにも拘わらず、当該装置の軸方向の長さが短く、コンパクトな操舵力伝達装置となっている。
<第3実施例>
図6に、第3実施例の操舵力伝達装置の断面図を示す。本操舵力伝達装置350は、操作装置を構成するステアリングコラムと転舵装置との間に配備される(図1参照)。例えば、ハウジング352が、車室とエンジン室との区画壁であるダッシュパネルあるいはそれのリインフォースメントに固定されることによって、車体に固体されて設けられる。つまり、ハウジング352が車体に対して回転不能とされるのである。操舵力伝達装置350は、一端部にかさ歯車が設けられた2つのかさ歯車軸(入力側かさ歯車軸354,出力側かさ歯車軸356)を有しており、それぞれは、図示を省略する他端部が、ユニバーサルジョイント,インタミディエットシャフト等を介してステアリングコラム,転舵装置に、詳しくは、コラムを構成するステアリングシャフト,転舵装置の入力軸にそれぞれ連結される。つまり、入力側かさ歯車軸354,出力側かさ歯車軸356は、補助的な軸であり、それぞれ、操作部材側の回転軸,転舵装置側の回転軸として機能している。なお、操舵力伝達装置350は、トーションバーを備えていないが、本操舵力伝達装置350を用いてパワーステアリングシステムを構築する場合であってトーションバーを必要とする場合には、例えば、転舵装置等の他の部分ににトーションバーを備えるように構成すればよい。
操舵力伝達装置350は、ハウジング352と、ハウジングに対して回転可能に設けられた入力軸360と、ハウジング352に対して回転可能に設けられた出力軸362と、入力軸360の回転を回転比が変更可能な状態で出力軸362に伝達する可変伝達機構364と、入力側かさ歯車軸354の回転を入力軸360に伝達するとともに出力軸362の回転を出力側かさ歯車軸356に伝達する入出力ギヤ機構366とを含んで構成されている。ハウジング352は、3つのサブハウジング(可変機構部ハウジング370,ギヤ機構部ハウジング372,上部カバー374)を主体として、それらが組立てられて構成されている。
入力軸360は、互いに一体的に形成された3つの部分に区分される形状、つまり、中空の軸部380と、軸部380の上端部に設けられた鍔部382と、鍔部382の外周に設けられた円環部384とを有する形状のものとされている。出力軸362は、主体となる軸としての主軸386と、主軸386の上端部において主軸386とスプライン嵌合されるフランジ388とを含んで構成されている。フランジ388は、入力軸360の円環部384に内包される状態で、軸受390,392を介して、入力軸360に回転可能に保持され、入力軸360は、軸部380の上部において、軸受394を介してギヤ機構部ハウジング372に回転可能に保持されている。また、出力軸362を構成する主軸386は、入力軸360を挿通する状態に配置されるとともに、下端部において、軸受396を介して、ギヤ機構部ハウジング372に回転可能に保持されている。このような構成とされることで、入力軸360と出力軸362とは、同軸的に配置されて互いに相対回転可能とされ、それぞれが、ハウジング352に対して回転可能に設けられているのである。
入出力ギヤ機構366は、かさ歯車機構であり、主体的な構成要素として、上述した入力側かさ歯車軸354,出力側かさ歯車軸356と、入力軸360の軸部380にスプライン嵌合された入力軸かさ歯車410と、出力軸362を構成する主軸386に一体的に形成された出力軸かさ歯車412とを含んで構成されている。入力側かさ歯車軸354,出力側かさ歯車軸356は、それぞれの軸部414,416が、軸受418を介して、ギヤ機構部ハウジング372に回転可能に保持されている。入力側かさ歯車軸354の一端部に形成されたかさ歯車420が、入力軸かさ歯車410と噛合し、出力側かさ歯車軸356の一端部に形成されたかさ歯車422が、出力軸かさ歯車軸412と噛合するようにされている。なお、入力軸かさ歯車410は、圧縮コイルスプリング424により、下方に付勢され、出力軸362を構成する主軸386は、スプリング環426(スプリングワッシャに類似の構造をなしている)により上方に付勢されていることで、かさ歯車機構における適正な噛合が担保されている。
本操舵力伝達装置350では、入力側かさ歯車軸354に形成されたかさ歯車420と入力軸かさ歯車410とのギヤ比と、出力側かさ歯車軸356に形成されたかさ歯車422と出力軸かさ歯車412とのギヤ比とは、同じ値とされている。このギヤ比を互いに異なる値とすることにより、固定的ではあるが、操作装置側から入力される回転と転舵装置側へ出力される回転との比を変更することが可能である。また、かさ歯車機構を採用する操舵力伝達装置では、かさ歯の角度を変更することにより、入力側かさ歯車軸354の軸線,出力側かさ歯車軸356の軸線と当該装置の軸線(入力軸360,出力軸362の軸線)とのなす角度を、任意に変更できるため、当該装置が配備される位置についての自由度が高いものとなる。
可変伝達機構364は、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構である。このストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構の動力源として、操舵力伝達装置350には、モータ440(ブラシレスモータである)が設けられている。モータ440は、ケーシング442を有し、ケーシング442が可変機構部ハウジング370に固定されることで、モータ440がハウジング352に対して固定的に設けられる。モータ440のロータ444は、概して円筒状をなし、それの上部が、軸受446を介してケーシング442の上部を構成する支持板448部に、下部が、軸受450を介してケーシング442の下部に、それぞれ回転可能に保持されている。ロータ444の外周部には、複数の永久磁石452が固定されて配設されており、それら永久磁石452に対向するように、ステータを構成する複数の極体454が、ケーシング442の内面に固定されて配設されている。モータ軸456は、ロータ444に相対回転不能な状態で嵌入されており、入力軸360,出力軸362と同軸的に位置している。なお、ロータ444の回転角度位置は、図示を省略する検出器によって検出され、モータ440は、図示を省略するモータ制御回路によって、ロータ444の回転角度位置に応じて極体454への通電を切替えるように制御される。
ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構である可変伝達機構364は、先の実施例のものと同様、第1リングギヤとしてのステータギヤ470と、第2リングギヤとしてのドリブンギヤ472と、それらに噛合するフレキシブルギヤ474と、フレキシブルギヤ474を支持して波動を発生させる波動発生器476とを含んで構成されている。ステータギヤ470とドリブンギヤ472との位置関係は、先の実施例のものと逆になっており、ステータギヤ470が入力軸360の円環部384の端部に、ドリブンギヤ472が、出力軸362を構成するフランジ388の外周部に、それぞれ固定して設けられている。波動発生器476は、モータ軸456に相対回転不能に接続されている。上記各構成要素の構造、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構の動作等は、先の実施例のものと同様であるため、ここでの説明は省略する。本可変伝達機構364の機能も、先の実施例のものと同様であり、モータ440の回転速度を変更することにより、入力軸360と出力軸362との間の回転比、つまり、操作装置から入力される回転に対する転舵装置に出力される回転の比を、任意に変更することができる。
なお、本操舵力伝達機構350も、モータ軸回転ロック機構480(以下、単に「ロック機構480」と略す場合がある)を備えている。図では、簡略化して示しているが、ロック機構480は、上部カバー374内部に配設されている。簡単に説明すれば、ロック機構480は、後端部に永久磁石を備えるプランジャ482と、概してドーナツ状の電磁石484とを含んで構成され、プランジャ484は、電磁石484に挿通するように配置されている。電磁石484が励磁状態とされる場合には、斥力によってプランジャ484は後退させられ、消磁状態とされる場合には、永久磁石の引力によりプランジャ484が前進するようにされている。ロータ444の上端部には、全周にわたって係止歯486が形成されており、プランジャ484は、前進した状態において、係止歯486と係合して、ロータ444の回転、つまり、波動発生器476の回転が禁止される。このロック機構480が作動することによる入力軸360と出力軸362との間の回転伝達については、先の実施例の場合と同様であるため、説明を省略する。
本操舵力伝達装置350では、入力軸360に出力軸362を挿通させることにより、可変伝達機構364において、入力軸360,出力軸362,モータ軸456の3つの軸を同軸的に配置することが実現されている。このことにより、本操舵力伝達装置350は、構造が単純化されている。また、上記同軸化に加え、ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構を採用することにより、コンパクトな伝達装置となっている。さらに、先の実施例のものと同様、ハウジング352が車体に対して回転不能とされていることで、給電ケーブル等の処理の簡便化が図られている。
<第4実施例>
図7に、第4実施例の操舵力伝達装置の断面図を示す。本操舵力伝達装置510は、第3実施例のものと同様に、操作装置を構成するステアリングコラムと転舵装置との間に配備される。例えば、ハウジング512が、車室とエンジン室との区画壁であるダッシュパネルに固定されることによって、車体に固体されて設けられる。それにより、ハウジング512が車体に対して回転不能とされるのである。操舵力伝達装置510は、第3実施例のものと同様に、2つのかさ歯車軸(入力側かさ歯車軸514,出力側かさ歯車軸516)を有している、操作装置側,転舵装置側とそれらの軸との連結、それらの軸の機能等は、第3実施例のものと同様である。また、パワーステアリングシステムにおけるトーションバーに関する構成についても、第3実施例の場合と同様である。
操舵力伝達装置510は、第3実施例のものと同様、ハウジング512と、ハウジングに対して回転可能に設けられた入力軸520と、ハウジング512に対して回転可能に設けられた出力軸522と、入力軸520の回転を回転比が変更可能な状態で出力軸522に伝達する可変伝達機構524と、入力側かさ歯車軸514の回転を入力軸520に伝達するとともに出力軸522の回転を出力側かさ歯車軸516に伝達する入出力ギヤ機構526とを含んで構成されている。本操舵力伝達装置510のハウジング512は、図では明確にしていないが、複数のサブハウジング組立てられて、一体的なものとして構成されている。
入力軸520は、円筒形状に形成されており、下端部に、入力軸かさ歯車528が、同軸かつ一体的に形成されている。出力軸522はロッド状をなし、下端部付近に、出力軸かさ歯車530が同軸的かつ一体的に形成されている。出力軸522が入力軸520に挿入されることで、両者は、同軸的に配置されている。出力軸522の外周部と入力軸520の内周部との間には、2つの軸受532が介在させられ、両者は、相対回転可能とされている。操作力伝達装置510は、可変伝達機構524の構成要素としての上部基軸534(詳しくは、後述する)を有している。この上部基軸534の下部には、有底穴536が設けられており、出力軸522は、上端部が、有底穴536に挿入する状態で軸受538を介して上部基軸534に回転可能に保持され、下端部が、軸受538を介してハウジング512に回転可能に保持されている。上部基軸534は、自身の軸部540が、軸受542を介してハウジング512に回転可能に保持されている。このような保持構造により、入力軸360および出力軸362は、それぞれが、ハウジング512に対して回転可能に設けられているのである。
入出力ギヤ機構526は、第3実施例のものと同様、かさ歯車機構であり、主体的な構成要素として、上記入力側歯車軸514,出力側かさ歯車軸516と、上記入力軸520に形成された入力軸かさ歯車528,出力軸522に形成された出力軸かさ歯車530とを含んで構成されている。入力側かさ歯車軸514,出力側かさ歯車軸516は、それぞれの軸部550,552が、軸受554を介して、ハウジング512に回転可能に保持されている。入力側かさ歯車軸354の一端部に形成されたかさ歯車556が、入力軸かさ歯車528と噛合し、出力側かさ歯車軸516の一端部に形成されたかさ歯車558が、出力軸かさ歯車530と噛合するようにされている。なお、本入出力ギヤ機構526も、第3実施例のものと同様、それぞれの噛合におけるギヤ比が同じ値とされている。かさ歯車の角度を変更することにより、入力側かさ歯車軸514の軸線,出力側かさ歯車軸516の軸線と当該装置の軸線(入力軸520,出力軸522の軸線)とのなす角度を、任意に変更できることについても、第3実施例の場合と同様である。
本操舵力伝達装置510においては、可変伝達機構524が、プラネタリギヤ機構とされている。可変伝達機構524は、主たる構成要素として、入力軸520に設けられた第1サンギヤ570と、出力軸522に設けられた第2サンギヤ572と、それら第1サンギヤ570と第2サンギヤ572との両者に噛合するプラネタリギヤ574とを含んで構成されている。第1サンギヤ570は、入力軸520の上端部に相対回転不能に嵌め込まれ、第2サンギヤ572は、出力軸522の上端部付近に相対回転不能にはめ込まれている。第1サンギヤ570と第2サンギヤ572とは、互いに同じ外径かつ同じ歯数のものとされ、それらは、同軸的に離間して配置されている。なお、第1サンギヤ570と第2サンギヤ572との間には、2つのスラスト軸受576が配設されるとともに、2つのスラスト軸受574の間には、それらを軸方向に離間させる向きに付勢するスプリング環578が配設されており、その付勢力の作用によって、入力軸520が下方に、出力軸522が上方に付勢されることで、上記入出力ギヤ機構526におけるかさ歯車の適正な噛合が担保されている。
可変伝達機構524は、前述した上部基軸534と、それに対向する下部基軸580とを備えている。下部基軸580は、互いに一体的に形成されたフランジ部582とボス部584とを有する形状のものとされている。下部基軸580は、ボス部584に、入力軸520,出力軸522を挿通させた状態で、ボス部584の外周において、軸受586を介してハウジング512に回転可能に保持されている。上部基軸534のフランジ部588と、下部基軸580のフランジ部582との間に、第1サンギヤ570および第2サンギヤ570が位置するようにされている。また、両フランジ部582,588を繋ぐように、入力軸520,出力軸522を挟んで、ギヤ軸590および連結部材592とが配設されいる。ギヤ軸590および連結部材592は、それぞれ、両端の各々が両フランジ部582,588の各々に固定されており、そのことによって、上部基軸534と下部基軸580とは、一体的に回転するものとされている。
プラネタリギヤ574は、軸受594を介して上記ギヤ軸590に回転可能に保持されている。プラネタリギヤ574は、軸方向において互いに離間する2つのギヤ部596,598を有している。2つのギヤ部596,598は、同径かつ同歯数とされており、下方のギヤ部596が第1サンギヤ570と、上方のギヤ部598が第2サンギヤ572と、それぞれ噛合するようにされている。上部基軸384の軸部540の外周部には、駆動ギヤ600が固定的にはめ込まれており、駆動ギヤ600は、ハウジング512に付設されたモータ602のモータ軸604に設けられたウォーム606と噛合させられている。モータ602を回転させることにより、上部基軸534および下部基軸580が回転し、それによって、プラネタリギヤ574は、第1サンギヤ570および第2サンギヤ572の周りを周回、つまり公転させられる。
可変伝達機構524は、以上のような構成により、原則として、入力軸520の回転は同方向の出力軸522の回転として伝達される。モータ602の回転が禁止される状態では、プラネタリギヤ574は公転せず、入力軸520の回転は、同じ回転速度で出力軸522に伝達される。モータ602を回転させ、入力軸520の回転方向と同方向にプラネタリギヤ574を周回させれば、入力軸520の回転は減速して出力軸522に伝達され、逆に、入力軸520の回転方向と反対方向にプラネタリギヤ574を周回させれば、入力軸520の回転は増速して出力軸522に伝達される。また、減速および増速の程度は、プラネタリギヤ574の周回速度、すなわち、モータ602の回転速度に依存する。詳しく言えば、プラネタリギヤ574の周回速度と入力軸520の回転速度との差が大きいほど、減速,増速の効果は大きくなる。本可変伝達機構524は、このようにして、入力軸520に対する出力軸522の回転比が変更されるのである。
以上、操舵力伝達装置510の構成,機能等について説明したが、本操舵力伝達装置510は、先の実施例のものと同様、ハウジング512が車体に対して回転不能とされていることで、給電ケーブル等の処理の簡便化が図られている。なお、モータ602の回転速度の制御等、本操舵力伝達装置510の制御は、先の実施例と同様の方法によって行うことが可能である。また、先の実施例と同様、モータ軸回転ロック機構を備えさせることも可能である。
第1実施例の操舵力伝達装置が配備されたステアリングシステム示す模式図である。
第1実施例の操舵力伝達装置を示す断面図である。
軸方向から見たストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構(可変伝達機構)の模式図である。
第1実施例の変形例としての操舵力伝達装置を示す断面図である。
第2実施例の操舵力伝達装置を示す断面図である。
第3実施例の操舵力伝達装置を示す断面図である。
第4実施例の操舵力伝達装置を示す断面図である。
符号の説明
10:操作装置 12:転舵装置 14:操舵力伝達装置 16:電子制御ユニット(ECU) 20:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 24:ステアリングシャフト 30:ハウジング 32:転舵ロッド 46:転舵車輪 34:ピニオン軸(転舵装置の入力軸) 60:ハウジング 62:入力軸 80:出力軸 82:可変伝達機構(ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構) 114:トーションバー 150:モータ 152:モータ軸 180:ステータギヤ(第1リングギヤ) 182:ドリブンギヤ(第2リングギヤ) 184:フレキシブルギヤ 186:波動発生器 200:モータ軸回転ロック機構 230:操舵力伝達装置 232:ピニオン軸(出力軸) 250:操舵力伝達装置 252:ハウジング 254:入力軸 256:出力軸 284:トーションバー 350:操舵力伝達装置 352:ハウジング 360:入力軸 362:出力軸 364:可変伝達機構(ストレイン・ウェーブ・ギヤリング機構) 366:入出力ギヤ機構 440:モータ 456:モータ軸 470:ステータギヤ(第1リングギヤ) 472:ドリブンギヤ(第2リングギヤ) 474:フレキシブルギヤ 476:波動発生器 480:モータ軸回転ロック機構 510:操舵力伝達装置 512:ハウジング 520:入力軸 522:出力軸 524:可変伝達機構 526:入出力ギヤ機構 570:第1サンギヤ 572:第2サンギヤ 574:プラネタリギヤ 602:モータ