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JPH10182485A - Il−8結合阻害物質を有効成分として含有する脳卒中及び脳浮腫の予防または治療剤 - Google Patents

Il−8結合阻害物質を有効成分として含有する脳卒中及び脳浮腫の予防または治療剤

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Publication number
JPH10182485A
JPH10182485A JP10621597A JP10621597A JPH10182485A JP H10182485 A JPH10182485 A JP H10182485A JP 10621597 A JP10621597 A JP 10621597A JP 10621597 A JP10621597 A JP 10621597A JP H10182485 A JPH10182485 A JP H10182485A
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JP
Japan
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antibody
cerebral
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preventive
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JP10621597A
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Sumihiro Yamashita
純宏 山下
Kiyonobu Ikeda
清延 池田
Tetsuya Matsumoto
哲哉 松本
Tsunaharu Matsushima
綱治 松島
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Chugai Pharmaceutical Co Ltd
Original Assignee
Chugai Pharmaceutical Co Ltd
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 新規な脳卒中、脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌
流障害、または脳血管透過性亢進の予防または治療剤の
提供。 【解決手段】 抗IL-8抗体などのIL-8結合阻害物質を有
効成分として含有する脳卒中、脳梗塞、脳浮腫、脳虚血
再灌流障害、または脳血管透過性亢進の予防または治療
剤。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はインターロイキン-8
(IL-8)結合阻害物質を有効成分として含有する脳卒中
の予防または治療剤に関する。また、本発明はIL-8結合
阻害物質を有効成分として含有する脳浮腫の予防または
治療剤に関する。また、本発明はIL-8結合阻害物質を有
効成分として含有する脳虚血再灌流障害の予防または治
療剤に関する。さらに、本発明はIL-8結合阻害物質を有
効成分として含有する脳血管透過性亢進の予防または治
療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】IL-8は、C-X-C ケモカインサブファミリ
ーに属する蛋白質であり、以前は単球由来好中球遊走因
子(monocyte-derived neutrophil chemotactic facto
r)、好中球活性化蛋白−1(neutrophil attractant/a
ctivation protein-1)、好中球活性化因子(neutrophi
l activating factor)等と呼称されていた。IL-8は、
好中球を活性化させ好中球に遊走能を獲得させる因子で
あり、IL-1βやTNF-α等の炎症性サイトカイン(Koch,
A. E. et al., J. Investig. Med. (1995) 43, 28-38;
Larsen, C. G. et al., Immunology (1989) 68, 31-36
)やPMA ,LPS 等のマイトゲン(Yoshimura, T. et a
l., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1987) 84, 9233-
9237)、さらにはカドミウム等の重金属(Horiguchi,
H. et al., Lymphokine Cytokine Res. (1993) 12, 421
-428 )によって様々な細胞から産生される。また、低
酸素状態に置かれたヒト臍帯静脈内皮細胞がIL-8を発現
することも知られている(Karakurum, M. et al., J. C
lin. Invest. (1994) 93, 1564-1570 )。
【0003】IL-8がその生物活性を発現するには、IL-8
がIL-8レセプターに結合して、IL-8レセプターを発現し
ている細胞を刺激する必要がある。IL-8が結合して細胞
内にシグナルを伝達するIL-8レセプターは既にクローニ
ングされ、そのアミノ酸配列も明らかにされている。ヒ
トIL-8レセプターには、IL-8レセプターA (αあるいは
2)と呼称されるレセプターと、IL-8レセプターB (β
あるいは1)と呼称されるレセプターが存在する(Murp
hy, P. M. and Tiffany, H. L., Science (1991) 253,
1280-1283 ;Holmes, W. E. et al., Science (1991) 2
53, 1278-1280)。両者は共に細胞膜を7回貫通する構
造をしていることが想定されており、両者共に細胞質内
ドメインでGTP 結合蛋白に会合し(Horuk, R., Trends
Pharmacol. Sci. (1994) 15, 159-165)、細胞内にIL-8
のシグナルを伝達している。従って、IL-8とIL-8レセプ
ターとの結合を阻害することにより、IL-8の生物活性を
阻害することが可能になる。
【0004】これまでに知られているIL-8結合阻害物質
には以下の物質がある。抗IL-8抗体としてはWS-4抗体
(Ko, Y. et al., J. Immunol. Methods (1992) 149, 2
27-235),14E4, 46E5(Sticherling, M. et al., J. I
mmunol. (1989) 143, 1628-1634)、あるいはヒト抗体
(国際特許出願公開番号WO 96/33735 )が知られてお
り、その他に、多糖体(国際特許公開番号WO 94/18989
)、化学合成物(Sola, F. et al., Invasion Metasta
sis (1995) 15, 222-231 )、ペプチド断片(Hayashi,
S. et al., J. Immunol. (1995) 154, 814-824 )など
が知られている。
【0005】IL-8の虚血再灌流障害における関与として
は、以下のことが知られている。肺虚血再灌流障害の動
物実験モデルにおいては、2時間の肺虚血後、再灌流時
に抗IL-8抗体を投与することにより、肺組織傷害が抑制
されたことが既に報告されている(Sekido, N. et al.,
Nature (1993) 365, 654-657 )。一方、心筋虚血再灌
流障害モデルにおいては、再灌流後の心筋組織でのIL-8
発現については報告されているものの(Ivey, C. L. et
al., J. Clin. Invest . (1995) 95, 2720-2728;Kuki
elka, G. L. et al., J. Clin. Invest. (1995) 95, 89
-103)、IL-8を中和することによる効果については不明
である。
【0006】むしろ、再灌流によって増加するIL-8自身
を再灌流前に投与することにより、心筋梗塞巣の形成が
抑制されたことが報告されている(Lefer, A.M. et a
l., Br. J. Pharmacol. (1991) 103, 1153-1159 )。し
かしながら、脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流障害ならび
に脳血管透過性亢進において、IL-8が関与しているか否
か不明であった。
【0007】脳卒中は発生機序から閉塞性脳血管障害と
出血性脳血管障害に分類され、閉塞性脳血管障害には脳
梗塞、出血性脳血管障害にはくも膜下出血および脳内出
血が含まれる。脳梗塞は、何らかの原因により脳動脈や
頚部動脈に閉塞又は灌流圧低下が生じ、脳組織に虚血性
壊死を生じた状態をいい、さらに脳血栓症、脳塞栓症と
血行力学的梗塞に大別される。
【0008】主として脳動脈の硬化性病変を基盤に、血
液粘度の上昇や灌流圧低下などが加わって動脈閉塞が生
じ、脳組織の虚血性壊死となった状態を脳血栓症、心内
血栓や稀に剥離した動脈壁血栓により脳動脈に塞栓を生
じたものを脳塞栓症、また頭部あるいは頭蓋内脳動脈の
狭窄または閉塞のために、それより末梢部の脳組織への
血流が減少して梗塞が発生する場合は血行力学的梗塞と
呼んでいる(曲直部寿夫、尾前照雄 監修、「脳血管障
害」、ライフサイエンス出版、54-55 、1992;井村裕夫
ら編集 最新内科学大系66巻「脳血管障害」、中山書
店、28、1996)。
【0009】脳梗塞、脳内出血あるいはくも膜下出血に
より虚血に陥った脳組織では、虚血性脳浮腫の形成が観
察される。脳梗塞の場合、脳浮腫は発症数時間後に出現
し、発症後1週間前後までこの状態が続く。その後、脳
浮腫は次第に減少し、梗塞巣の範囲にもよるが、発症後
1カ月から3カ月の間に梗塞巣病変として固定する。脳
内出血においては、破綻した動脈の末梢側の血流障害、
血腫の圧迫による循環障害や組織壊死により、通常発症
後6時間頃より血腫周辺部に脳浮腫が認められるように
なる(井村裕夫ら編集 最新内科学大系66巻「脳血管障
害」、中山書店、289 、1996)。
【0010】くも膜下出血の場合、出血後3日〜3週間
に遅発性攣縮が認められ、攣縮に伴い、脳灌流圧が低下
し遅発性脳虚血を起こす。治療に不応のものは脳梗塞と
なり、程度が強いと虚血性脳浮腫をきたす(井村裕夫ら
編集 最新内科学大系66巻「脳血管障害」、中山書店、
163 、1996)。脳浮腫は脳の容量増大を引き起こす。脳
は固い頭蓋に被われているため、脳浮腫がある程度を超
えると、急激な組織圧および頭蓋内圧の上昇を引き起こ
し、結果的に脳障害を増悪し、その後の梗塞巣病変の範
囲を決定してしまう(稲村憲治、赫彰郎、日本臨床51巻
「CT, MRI 時代の脳卒中学 上巻」、日本臨床、231-23
9, 1993 )。脳の一部が梗塞に陥ると、その領域が担っ
ていた機能、例えば、認知、知覚、感覚、記憶等が失わ
れることになる。
【0011】また、頭部外傷、特に脳挫傷、急性硬膜下
血腫、急性頭蓋内血腫の際、しばしば脳浮腫が生じる。
脳浮腫は拡大性頭蓋内病変として作用し、その結果局所
神経症状を現し、また頭蓋内腫脹や圧上昇により脳組織
のテントヘルニア、大孔ヘルニアを形成し、致命的にな
る(メルクマニュアル日本語版第1版、メディカルブッ
クサービス、1405-1406 、1994)。
【0012】さらに、頭部外傷、脳内出血、くも膜下出
血、脳腫瘍などの治療目的で、開頭して外科的手術を施
す場合がある。その際、新たな出血を避けるため、治療
対象範囲を支配領域とする血管を動脈クリップ等で一時
的に閉塞し、脳血流を部分的に遮断する場合がある。そ
の場合、目的の手術終了後に血行を再開するが、その際
に、虚血再灌流障害が生じる場合がある。また、脳梗塞
に対する外科的治療方法の一つに、浅側頭動脈- 中大脳
動脈等の血管吻合手術が挙げられるが、その際にも一時
的な血流遮断下に血管吻合が行われ、手術終了後に血行
を再開するが、その際に、虚血再灌流障害が生じる場合
がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】この様に、患者の生命
予後およびクォリティーオブライフ(QOL )を左右す
る、脳卒中や脳浮腫の予防または治療は、臨床上極めて
重要な課題である。現在のところ、脳梗塞に対する治療
方法として抗血小板薬や脳循環代謝改善薬などが投与さ
れている。抗血小板薬の中には脳血栓急性期の治療に有
効な薬剤が存在するが、類似の症状を示す脳出血患者及
び脳塞栓患者では出血性脳梗塞を助長することから禁忌
であり、使用に当たって慎重な病型診断が必要とされる
(篠原幸人、「medicina」、医学書院、32巻、
11号、2217-2219 、1995)。
【0014】脳循環改善薬は、脳梗塞発作後1カ月以降
の慢性期に投与される薬剤であり、急性期での使用は好
ましくないと考えられている(亀山正邦 編集、「脳卒
中治療マニュアル」医学書院、172-173 、1991)。ま
た、最近では発症後超急性期にいまだ不可逆的な細胞死
に陥っていない領域の血流を再開させる目的で、血栓溶
解療法、バイパス術、血栓内膜剥離術、塞栓摘出術など
の再灌流療法が行われている。しかし、心筋梗塞とは異
なり、脳梗塞では脳組織が不可逆的損傷を受けた後の血
行再開は、出血性梗塞や脳浮腫の増加など、組織障害が
増幅される虚血再灌流障害を発生させ新たな問題点とし
て提起されている(岡田靖、「神経研究の進歩」医学書
院、40巻 4号、655-665 、1996;高橋明、「medi
cina」、医学書院、32巻、11号、2261-2263 、199
5)。
【0015】このように現在、脳梗塞急性期に使用され
る薬剤は、出血性梗塞や虚血再灌流障害といった副作用
を有していたり、対象となる病態や治療効果が期待でき
る時間帯が限定されるなど、満足できるものではない。
一方、脳浮腫に対する治療法は、過呼吸や脳脊髄液ドレ
ナージと併行して高張液やステロイド剤あるいは他の投
与に頼っているが、これらの効果はほとんどの場合一過
性であり、最終的な治療効果にそれほど大きな期待は持
てない(亀山正邦 編集、「脳卒中治療マニュアル」医
学書院、34-36 、1991)。
【0016】従って、脳梗塞や脳浮腫、あるいは再灌流
療法時の脳虚血再灌流障害、手術時の一過性の脳血流遮
断後の再灌流に伴う脳虚血再灌流障害に対する予防また
は治療法として、従来の病因論とは異なる全く新しい機
序の薬剤を開発することが望まれる。本発明の目的は、
かかる疾患のための新しい予防または治療剤を提供する
ことである。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる予
防または治療剤を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、IL
-8結合阻害物質により、所期の目的が達成されることを
見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明
は、IL-8結合阻害物質を有効成分として含有する脳卒中
の予防または治療剤を提供する。本発明はまた、IL-8結
合阻害物質を有効成分として含有する脳梗塞の予防また
は治療剤を提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質
を有効成分として含有する脳血栓症の予防または治療剤
を提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成
分として含有する脳塞栓症の予防または治療剤を提供す
る。
【0018】本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成
分として含有する血行力学的梗塞の予防または治療剤を
提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成分
として含有する出血性脳血管障害の予防または治療剤を
提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成分
として含有する脳内出血の予防または治療剤を提供す
る。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成分として
含有するくも膜下出血の予防または治療剤を提供する。
本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成分として含有
する脳浮腫の予防または治療剤を提供する。本発明はま
た、IL-8結合阻害物質を有効成分として含有する虚血性
脳浮腫の予防または治療剤を提供する。
【0019】本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成
分として含有する頭部外傷に伴う脳浮腫の予防または治
療剤を提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有
効成分として含有する脳虚血再灌流障害の予防または治
療剤を提供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有
効成分として含有する手術時の一過性の脳血流遮断後の
再灌流に伴う脳虚血再灌流障害の予防または治療剤を提
供する。本発明はまた、IL-8結合阻害物質を有効成分と
して含有する血栓溶解療法に伴う脳虚血再灌流障害の予
防または治療剤を提供する。本発明はまた、IL-8結合阻
害物質を有効成分として含有する脳血管透過性亢進の予
防または治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8抗体
を有効成分として含有する脳卒中の予防または治療剤を
提供する。
【0020】本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分とし
て含有する脳梗塞の予防または治療剤を提供する。本発
明はまた、抗IL-8抗体を有効成分として含有する脳血栓
症の予防または治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL
-8抗体を有効成分として含有する脳塞栓症の予防または
治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成
分として含有する血行力学的梗塞の予防または治療剤を
提供する。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分として
含有する出血性脳血管障害の予防または治療剤を提供す
る。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分として含有す
る脳内出血の予防または治療剤を提供する。
【0021】本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分とし
て含有するくも膜下出血の予防または治療剤を提供す
る。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分として含有す
る脳浮腫の予防または治療剤を提供する。本発明はま
た、抗IL-8抗体を有効成分として含有する虚血性脳浮腫
の予防または治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8
抗体を有効成分として含有する頭部外傷に伴う脳浮腫の
予防または治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8抗
体を有効成分として含有する脳虚血再灌流障害の予防ま
たは治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8抗体を有
効成分として含有する手術時の一過性の脳血流遮断後の
再灌流に伴う脳虚血再灌流障害の予防または治療剤を提
供する。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効成分として含
有する血栓溶解療法に伴う脳虚血再灌流障害の予防また
は治療剤を提供する。本発明はまた、抗IL-8抗体を有効
成分として含有する脳血管透過性亢進の予防または治療
剤を提供する。
【0022】本発明はまた、IL-8に対するモノクローナ
ル抗体を有効成分として含有する脳梗塞、脳浮腫、脳虚
血再灌流障害、脳血管透過性亢進の予防または治療剤を
提供する。本発明はまた、哺乳類のIL-8に対する抗体を
有効成分として含有する脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流
障害、脳血管透過性亢進の予防または治療剤を提供す
る。本発明はまた、ヒトIL-8に対する抗体を有効成分と
して含有する脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流障害、脳血
管透過性亢進の予防または治療剤を提供する。本発明は
また、IL-8に対するWS-4抗体を有効成分として含有する
脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流障害、脳血管透過性亢進
の予防または治療剤を提供する。本発明はまた、IL-8に
対するヒト型化またはキメラ化された抗体を有効成分と
して含有する脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流障害、脳血
管透過性亢進の予防または治療剤を提供する。本発明は
さらに、IL-8に対するヒト型化WS-4抗体を有効成分とし
て含有する脳梗塞、脳浮腫、脳虚血再灌流障害、脳血管
透過性亢進の予防または治療剤を提供する。
【0023】
【発明の実施の形態】
1. IL-8結合阻害物質 本発明で使用されるIL-8結合阻害物質は、脳卒中、脳浮
腫、脳虚血再灌流障害または脳血管透過性亢進の治療効
果あるいは予防効果を有するものであれば、その由来、
種類および形状を問わない。本発明で使用されるIL-8結
合阻害物質はIL-8レセプターへのIL-8の結合を阻害する
物質である。具体的には、IL-8と結合することにより、
IL-8レセプターへのIL-8の結合を阻害してIL-8のシグナ
ル伝達を遮断し、IL-8の生物学的活性を阻害する物質で
ある。
【0024】ヒトIL-8は、N 末端において異なるプロセ
シングを受けるが、本発明で使用されるIL-8結合阻害物
質の標的としては、IL-8の生物活性を有する限りそのア
ミノ酸残基数を問わない。一方、ヒトIL-8レセプターに
は、IL-8レセプターA (αあるいは2)と呼称されるレ
セプターと、IL-8レセプターB (βあるいは1)と呼称
されるレセプターが存在するが、本発明で使用されるIL
-8結合阻害物質によってIL-8の結合が阻害されるレセプ
ターとしては、IL-8の生物活性を誘導する限りそのタイ
プを問わない。本発明で使用されるIL-8結合阻害物質と
しては、抗IL-8抗体が最も好ましく、後述する方法によ
り予防または治療効果を確認すればよい。
【0025】2. 抗IL-8抗体 本発明で使用される抗IL-8抗体は、脳卒中、脳浮腫、脳
虚血再灌流障害、または脳血管透過性亢進の予防または
治療効果を有するものであれば、その由来、種類(モノ
クローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。
本発明で使用される抗IL-8抗体は、公知の手段を用いて
ポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得るこ
とができる。本発明で使用される抗IL-8抗体として、特
に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。
【0026】哺乳動物由来のモノクローナル抗体として
は、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工
学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転
換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-8と
結合することにより、好中球等に発現されているIL-8レ
セプターへの結合を阻害してIL-8のシグナル伝達を遮断
し、IL-8の生物学的活性を阻害する抗体である。
【0027】このような抗体としては、WS-4抗体(Ko,
Y. et al., J. Immunol. Methods (1992) 149, 227-23
5)やDM/C7 抗体(Mulligan, M. S. et al., J. Immuno
l. (1993) 150, 5585-5595 )、Pep-1 抗体およびPep-3
抗体(国際特許出願公開番号WO 92/04372 )または6G
4.2.5 抗体およびA5.12.14抗体(国際特許出願公開番号
WO 95/23865 ;Boylan, A.M. et al., J. Clin. Inves
t. (1992) 89, 1257-1267)等が挙げられる。これらの
うちで、特に好ましい抗体としてWS-4抗体が挙げられ
る。なお、WS-4抗体産生ハイブリドーマ細胞株は、Mous
e hybridoma WS-4として、工業技術院生命工学工業技術
研究所(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)に、平成8
年4 月17日に、FERM BP-5507としてブダペスト条約に基
づき国際寄託されている。
【0028】抗体取得の感作抗原として使用されるIL-8
は、ヒトIL-8についてはMatsushima, K. et al., J. Ex
p. Med. (1988) 167, 1883-1893 に、モルモットIL-8に
ついては Yoshimura, T.and Johnson, D. G., J. Immu
nol . (1993) 151, 6225-6236 に、ブタIL-8については
Goodman, R. B. et al., Biochemistry (1992) 31,104
83-10490 に、ウサギIL-8についてはHarada, A. et a
l., Int. Immunol. (1993) 5, 681-690に、イヌIL-8に
ついてはIshikawa, J. et al., Gene (1993) 131, 305-
306 に、ヒツジIL-8についてはSeow, H.F. et al., Imm
unol. Cell Biol.(1994) 72, 398-405 に、サルIL-8に
ついてはVillinger, F. et al., J. Immunol. (1995) 1
55, 3946-3954 に開示されたそれぞれのIL-8遺伝子/ア
ミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0029】ヒトIL-8は、種々の細胞で産生され、N 末
端において異なるプロセシングを受けることが報告され
ている(Leonard, E. J. et al., Am. J. Respir. Cel
l. Mol. Biol. (1990) 2, 479-486)。これまでに、7
9、77、72、71、70および69のアミノ酸残基数を有するI
L-8が知られているが、本発明で使用される抗IL-8抗体
取得のための抗原として使用され得る限りそのアミノ酸
残基数を問わない。IL-8の遺伝子配列を公知の発現ベク
ター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、
その宿主細胞中または、培養上清中から目的のIL-8タン
パク質を公知の方法で精製し、この精製IL-8タンパク質
を感作抗原として用いればよい。
【0030】3. 抗体産生ハイブリドーマ モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本
的には公知技術を使用し、以下のようにして作製でき
る。すなわち、IL-8を感作抗原として使用して、これを
通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞
を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、
通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体
産生細胞をスクリーニングすることによって作製でき
る。感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定
されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との
適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげ
っ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等
が使用される。
【0031】感作抗原を動物に免疫するには、公知の方
法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、
感作抗原を哺乳動物の腹腔内または、皮下に注射するこ
とにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS (Phos
phate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希
釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例
えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化
後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。
また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することがで
きる。このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが
上昇するのを常法により確認した後に、哺乳動物から免
疫細胞が取り出され、細胞融合に付されるが、好ましい
免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0032】前記免疫細胞と融合される他方の親細胞と
しての哺乳動物のミエローマ細胞としては、既に公知の
種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(Kearney,
J.F. et al., J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550
),P3x63Ag8U.1 (Yelton, D.E. et al., Current To
pics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-
7),NS-1(Kohler, G. and Milstein, C., Eur. J. Im
munol. (1976) 6, 511-519 ),MPC-11(Margulies, D.
H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 ),SP2/0(Shul
man, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270),FO
(de St. Groth, S.F. and Scheidegger, D., J. Immun
ol. Methods (1980) 35, 1-21),S194(Trowbridge,
I. S., J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323 ),R210
(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )
等が好適に使用される。
【0033】前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合
は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方
法(Galfre, G. and Milstein, C. ,Methods Enzymol.
(1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。より
具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の
存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤
としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG )、セ
ンダイウィルス(HVJ )等が使用され、更に所望により
融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助
剤を添加使用することもできる。免疫細胞とミエローマ
細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して
免疫細胞を1-10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に
用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株
の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM 培養液、その他、
この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能
であり、さらに、牛胎児血清(FCS )等の血清補液を併
用することもできる。
【0034】細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細
胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃
程度に加温したPEG 溶液、例えば、平均分子量1000-600
0 程度のPEG 溶液を通常、30-60%(w/v )の濃度で添加
し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブ
リドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次
添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことに
よりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等
を除去できる。当該ハイブリドーマは、通常の選択培養
液、例えば、HAT 培養液(ヒポキサンチン、アミノプテ
リンおよびチミジンを含む培養液)で培養することによ
り選択される。当該HAT 培養液での培養は、目的とする
ハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するの
に十分な時間、通常数日〜数週間継続する。
【0035】ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的
とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング
および単一クローニングが行われる。また、ヒト以外の
動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、
ヒトリンパ球をin vitroでIL-8に感作し、感作リンパ球
をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例え
ばU266と融合させ、IL-8への結合活性を有する所望のヒ
ト抗体を得ることもできる(特公平1-59878 参照)。さ
らに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランス
ジェニック動物に抗原となるIL-8を免疫して抗IL-8抗体
産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞を用いてIL
-8に対するヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公
開番号WO 92/03918 ,WO 93/12227 ,WO94/02602 ,WO
94/25585 ,WO 96/33735 およびWO 96/34096 参照)。
【0036】このようにして作製されるモノクローナル
抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継
代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期
保存することが可能である。当該ハイブリドーマからモ
ノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマ
を通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得
る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある
哺乳動物に移植して増殖させ、その腹水として得る方法
などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得る
のに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産
に適している。
【0037】4. 組換え型抗体 モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドー
マからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、
これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生さ
せた組換え型抗体を本発明に用いることができる(例え
ば、Borrebaeck, C.A.K. and Larrick, J.W., THERAPEU
TIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Publishedin the United
Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0038】具体的には、抗IL-8抗体を産生するハイブ
リドーマから、抗IL-8抗体の可変領域(V領域)をコー
ドするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例
えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al.,
Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chom
czynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987)
162, 156-159)等により全RNA を調製し、mRNA Purific
ation Kit (Pharmacia )等を使用して全RNA からmRNA
を精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit
(Pharmacia )を用いることによりmRNAを直接調製する
こともできる。
【0039】得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体
V 領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse
Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit (生
化学工業)等を用いて行うことができる。また、cDNAの
合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit
(Clontech)およびポリメラーゼ連鎖反応(polymerase
chain reaction ;PCR )を用いた5'-RACE 法(Frohma
n, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (19
88) 85, 8998-9002 ;Belyavsky, A. et al.,Nucleic A
cids Res. (1989) 17, 2919-2932 )を使用することが
できる。
【0040】得られたPCR 産物から目的とするDNA 断片
を精製し、ベクターDNA と連結する。さらに、これより
組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニー
を選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とす
るDNA の塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌ
クレオチドチェインターミネーション法により確認す
る。目的とする抗IL-8抗体のV 領域をコードするDNA が
得られれば、これを所望の抗体定常領域(C 領域)をコ
ードするDNA と連結し、これを発現ベクターへ組み込
む。または、抗体のV 領域をコードするDNA を、抗体C
領域のDNA を既に含む発現ベクターに組み込んでもよ
い。
【0041】本発明で使用される抗IL-8抗体を製造する
には、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサ
ー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベク
ターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細
胞を形質転換し、抗体を発現させる。抗体遺伝子の発現
は、抗体の重鎖(H 鎖)または軽鎖(L 鎖)をコードす
るDNA を別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同
時形質転換させてもよいし、あるいはH 鎖およびL 鎖を
コードするDNA を単一の発現ベクターに組み込んで、宿
主細胞を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号
WO 94/11523 参照)。
【0042】5. 改変抗体 本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること
等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、
例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト型化(Humanize
d )抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方
法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、前記
のようにして得た、ヒト抗体以外の抗体V 領域をコード
するDNA をヒト抗体C 領域をコードするDNA と連結し、
これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させ
ることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 12502
3 、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。この既知
の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ること
ができる。
【0043】なお、キメラWS-4抗体のL 鎖またはH 鎖を
含むプラスミドを有する大腸菌は、各々Escherichia co
li DH5α(HEF-chWS4L-gκ)およびEscherichia coli J
M109(HEF-chWS4H-gγ1 )として、工業技術院生命工学
工業技術研究所(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)
に、平成6 年7 月12日に、各々FERM BP-4739およびFERM
BP-4740としてブダペスト条約に基づき国際寄託されて
いる。ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体と
も称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相
補性決定領域(complementarity determining region;
CDR )をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであ
り、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧
州特許出願公開番号EP 125023 、国際特許出願公開番号
WO 96/02576 参照)。
【0044】具体的には、マウス抗体のCDR とヒト抗体
のフレームワーク領域(frameworkregion;FR)を連結
するように設計したDNA 配列を、末端部で互いにオーバ
ーラップする部分を有する数本のオリゴヌクレオチドに
分割して合成し、PCR 法により一本に統合したDNA に合
成する。得られたDNA をヒト抗体C 領域をコードするDN
A と連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを
宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許
出願公開番号EP 239400 、国際特許出願公開番号WO 96/
02576 参照)。CDR を介して連結されるヒト抗体のFR
は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するも
のが選択される。必要に応じ、ヒト型化抗体のCDR が適
切な抗原結合部位を形成するように抗体のV 領域のFRの
アミノ酸を置換してもよい(Sato, K. et al., Cancer
Res. (1993) 53, 851-856 )。
【0045】キメラ抗体ならびにヒト型化抗体には、目
的によってヒト抗体C 領域が使用され、例えば、 Cγ1
, Cγ2 , Cγ3 , Cγ4 を使用することができる。
また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、
ヒト抗体C 領域を修飾してもよい。例えば、抗体のサブ
クラスをIgG4に選択する場合、IgG4のヒンジ領域の一部
のアミノ酸配列CPSCP をIgG1のヒンジ領域のアミノ酸配
列CPPCP に変換する事により、IgG4の構造的不安定性を
解消できる(Angal, S. et al., Mol. Immunol.(1993)
30, 105-108)。
【0046】キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体
のV 領域とヒト抗体由来のC 領域からなり、ヒト型化抗
体はヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDR とヒト抗体由来
のFRおよびC 領域からなり、ヒト以外の哺乳動物由来の
アミノ酸配列が最小限度に減少しているため、ヒト体内
における抗原性が低下し、本発明の予防または治療剤の
有効成分として有用である。本発明に使用できるヒト型
化抗体の好ましい具体例としては、ヒト型化WS-4抗体が
挙げられる(国際特許出願公開番号WO 96/02576 参
照)。ヒト型化WS-4抗体は、マウス由来のWS-4抗体のCD
R を、L 鎖についてはヒト抗体REI のFRと、H 鎖につい
てはヒト抗体VDH26 のFR1-3 およびヒト抗体4B4 のFR4
と連結し、抗原結合活性を有するようにFRのアミノ酸残
基を一部置換したものである。
【0047】なお、ヒト型化WS-4抗体のL 鎖またはH 鎖
を含むプラスミドを有する大腸菌は、各々Escherichia
coli DH5α(HEF-RVLa-gκ)およびEscherichia coli J
M109(HEF-RVHg-gγ1 )として、工業技術院生命工学工
業技術研究所(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)に、
平成6 年7 月12日に、各々FERM BP-4738およびFERM BP-
4741としてブダペスト条約に基づき国際寄託されてい
る。
【0048】6. 抗体修飾物 本発明で使用される抗体は、IL-8に結合し、IL-8の活性
を阻害するかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよ
い。例えば、抗体の断片としては、Fab 、F(ab')2 、Fv
またはH 鎖とL 鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシ
ングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、
抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体
断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコード
する遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した
後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. e
t al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976;Better,
M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 17
8, 476-496 ;Pluckthun, A.and Skerra, A., Methods
Enzymol. (1989) 178, 497-515;Lamoyi, E., Methods
Enzymol. (1986) 121, 652-663;Rousseaux, J. et a
l., Methods Enzymol.(1986) 121, 663-669 ;Bird,
R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol.(1991)
9, 132-137 参照)。
【0049】scFvは、抗体のH 鎖V 領域とL 鎖V 領域を
連結することにより得られる。このscFvにおいて、H 鎖
V 領域とL 鎖V 領域はリンカー、好ましくは、ペプチド
リンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.,
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-588
3)。scFvにおけるH 鎖V 領域およびL 鎖V 領域は、上
記抗体として記載されたもののいずれの由来であっても
よい。V 領域を連結するペプチドリンカーとしては、例
えばアミノ酸12-19 残基からなる任意の一本鎖ペプチド
が用いられる。
【0050】scFvをコードするDNA は、前記抗体のH 鎖
または、H 鎖V 領域をコードするDNA 、およびL 鎖また
は、L 鎖V 領域をコードするDNA を鋳型とし、それらの
配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA 部分
を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR 法に
より増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコ
ードするDNA およびその両端を各々H 鎖、L 鎖と連結さ
れるように規定するプライマー対を組み合せて増幅する
ことにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNA
が作製されれば、それらを含有する発現ベクター、およ
び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従
って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従
って、scFvを得ることができる。
【0051】これら抗体の断片は、前記と同様にしてそ
の遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させること
ができる。本願特許請求の範囲でいう「抗体」にはこれ
らの抗体の断片も包含される。抗体の修飾物として、PE
G 等の各種分子と結合した抗IL-8抗体を使用することも
できる。本願特許請求の範囲でいう「抗体」にはこれら
の抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得
るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによっ
て得ることができる。これらの方法はこの分野において
既に確立されている。
【0052】7. 抗IL-8抗体の発現および産生 前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により
発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、
常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝
子、その3'側下流にポリA シグナルを機能的に結合させ
たDNA を含む発現ベクターにて発現させることができ
る。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒト
サイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー
(human cytomegalovirus immediate early promoter/e
nhancer )を挙げることができる。
【0053】また、その他に本発明で使用される抗体発
現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レ
トロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、
シミアンウィルス40(SV 40 )等のウィルスプロモータ
ー/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1
α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エ
ンハンサーを用いればよい。例えば、SV 40 プロモータ
ー/エンハンサーを使用する場合、Mulligan, R. C. ら
の方法(Nature (1979) 277, 108-114)、また、HEF1α
プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushim
a, S, らの方法(Nucleic Acids Res. (1990) 18, 532
2)に従えば容易に実施することができる。
【0054】大腸菌の場合、常用される有用なプロモー
ター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体
遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。
例えばプロモーターとしては、laczプロモーター、araB
プロモーターを挙げることができる。laczプロモーター
を使用する場合、Ward, E. S. らの方法(Nature (198
9) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)
に、また、araBプロモーターを使用する場合、Better,
M.らの方法(Science (1988) 240, 1041-1043 )に従え
ばよい。
【0055】抗体分泌のためのシグナル配列としては、
大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル
配列(Lei, S. P. et al., J. Bacteriol. (1987) 169,
4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生さ
れた抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して
(refold)使用する(例えば、国際特許出願公開番号WO
96/30394 参照)。複製起源としては、SV 40 、ポリオ
ーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィル
ス(BPV )等の由来のものを用いることができ、さら
に、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベク
ターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランス
フェラーゼ(APH )遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺
伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトラン
スフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素
(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0056】本発明で使用される抗体の製造のために、
任意の産生系を使用することができ、抗体製造のための
産生系は、in vitroおよびin vivo の産生系がある。in
vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や
原核細胞を使用する産生系が挙げられる。真核細胞を使
用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いる産
生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例
えば、CHO 、COS 、ミエローマ、BHK (baby hamster k
idney )、HeLa、Vero、(2)両生類細胞、例えば、ア
フリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、
例えば、sf9 、sf21、Tn5が知られている。
【0057】植物細胞としては、例えば、ニコティアナ
(Nicotiana )属、詳しくは、ニコティアナ タバカム
(Nicotiana tabacum )由来の細胞が知られており、こ
れをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、(1)
酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces )属、
詳しくは、サッカロミセス セレビジエ(Saccharomyce
s cerevisiae)、あるいは(2)糸状菌、例えば、アス
ペルギルス(Aspergillus )属、詳しくは、アスペルギ
ルス ニガー(Aspergillus niger )が知られている。
【0058】原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用い
る産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(Escheric
hia coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、
目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転
換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得
られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、哺乳
類細胞用の培養液として、DMEM,MEM ,RPMI1640,IMDM
等を使用することができ、FCS 等の血清補液を併用する
こともできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物
の腹腔等へ移植することにより、in vivo にて抗体を産
生してもよい。更なるin vivo の産生系としては、動物
を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられ
る。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産
生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツ
ジ、マウス、ウシを用いることができる(Glaser, V.,
SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993 )。ま
た、昆虫としては、カイコを用いることができる。
【0059】植物を使用する場合、例えばタバコを用い
ることができる。これらの動物または植物に抗体遺伝子
を導入し、動物または植物の体内で抗体を産生させ、回
収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような
乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の
途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子
が挿入された融合遺伝子を含むDNA 断片をヤギの胚へ注
入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギ
から生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が
産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニッ
クヤギから産生される所望抗体を含む乳汁量を増加させ
るために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使
用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology
(1994) 12, 699-702 )。
【0060】また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺
伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、
このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et
al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコ
を用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクタ
ー、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバ
クテリウム チューメファシエンス(Agrobacterium tu
mefaciens ) のようなバクテリアに導入する。このバ
クテリアをタバコ、例えばニコティアナ タバカム(Ni
cotiana tabacum )に感染させ、本タバコの葉より所望
の抗体を得る(Ma, J. K. et al., Eur. J. Immunol.
(1994) 24, 131-138 )。
【0061】上述のようにin vitroまたはin vivo の産
生系にて抗体を産生する場合、H 鎖またはL 鎖をコード
するDNA を別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時
形質転換させてもよいし、あるいはH 鎖およびL 鎖をコ
ードするDNA を単一の発現ベクターに組み込んで、宿主
を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94/
11523 参照)。
【0062】8. 抗体の分離、精製 前記のように発現、産生された抗体は、細胞内外、宿主
から分離し均一にまで精製することができる。本発明で
使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマト
グラフィーにより行うことができる。アフィニティーク
ロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プ
ロテインA カラム、プロテインG カラムが挙げられる。
具体的には、プロテインA カラムを用いたカラムとし
て、HyperD ,POROS ,Sepharose F.F.(Pharmacia )
等が挙げられる。
【0063】その他、通常のタンパク質で使用されてい
る分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるも
のではない。例えば、上記アフィニティークロマトグラ
フィー以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、
限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、
抗体を分離、精製することができる(Antibodies:ALab
oratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spr
ing Harbor Laboratory, 1988)。アフィニティークロ
マトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例
えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグ
ラフィー、ゲル濾過等が挙げられる(Strategies for P
rotein Purification and Characterization: A Labora
tory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., C
old Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。
【0064】9. 抗体の濃度測定 8で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定または酵素
結合免疫吸着検定法(enzyme-linked immunosorbent as
say ;ELISA )等により行うことができる。すなわち、
吸光度の測定による場合には、得られた抗体をPBS で適
当に希釈した後、280 nmの吸光度を測定し、種およびサ
ブクラスにより吸光係数は異なるが、ヒト抗体の場合1
mg/ml を1.4 ODとして算出する。また、ELISA による場
合は以下のように測定することができる。すなわち、0.
1M重炭酸緩衝液(pH9.6 )で1μg/mlに希釈したヤギ抗
ヒトIgG 抗体100 μl を96穴プレート(Nunc)に加え、
4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。
【0065】ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で
使用される抗体または抗体を含むサンプル、あるいは濃
度標準品として既知の濃度のヒトIgG100μl を添加し、
室温にて1時間インキュベーションする。洗浄後、5000
倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG 抗
体100 μl を加え、室温にて1時間インキュベートす
る。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、
MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad )を用いて40
5nm での吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を濃度標準
ヒトIgG の吸光度より算出する。
【0066】10. 活性の確認 本発明で使用されるIL-8結合阻害物質の活性は、下記ま
たは公知の通常知られている方法を用いて確認すること
ができる。例えば、本発明で使用される抗IL-8抗体の抗
原結合活性(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Ha
rlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laborator
y,1988)、リガンドレセプター結合阻害活性(Harada,
A. et al., Int. Immunol.(1993) 5, 681-690)の測定
には公知の手段を使用することができる。
【0067】本発明で使用される抗IL-8抗体の抗原結合
活性を測定する方法として、ELISA、EIA (酵素免疫測
定法)、RIA (放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を
用いることができる。例えば、ELISA を用いる場合、IL
-8に対するポリクローナル抗体を固相化した96穴プレー
トにIL-8を添加し、次いで目的の抗IL-8抗体を含む試
料、例えば、抗IL-8抗体産生細胞の培養上清や精製抗体
を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識し
た目的の抗IL-8抗体を認識する二次抗体を添加し、プレ
ートをインキュベーション、洗浄した後、p-ニトロフェ
ニル燐酸などの酵素基質を加えて吸光度を測定すること
で抗原結合活性を評価することができる。
【0068】本発明で使用される抗IL-8抗体のリガンド
レセプター結合阻害活性を測定する方法としては、通常
のCell ELISA、あるいは、リガンドレセプター結合アッ
セイを用いることができる。例えば、Cell ELISA法の場
合、IL-8レセプターを発現する血液細胞あるいは癌細
胞、例えば、好中球を96穴プレートで培養して接着さ
せ、パラホルムアルデヒドなどで固定化する。あるい
は、IL-8レセプターを発現する細胞の膜分画を調製して
固相化した96穴プレートを作製する。これに、目的の抗
IL-8抗体を含む試料、例えば、抗IL-8抗体産生細胞の培
養上清や精製抗体と、放射性同位元素、例えば、125I等
で標識したIL-8を添加し、プレートをインキュベーショ
ン、洗浄した後、放射活性を測定することでIL-8レセプ
ターに結合したIL-8量を測定でき、抗IL-8抗体のリガン
ドレセプター結合阻害活性を評価することができる。
【0069】また、細胞上のIL-8レセプターに対するIL
-8の結合阻害アッセイには、IL-8レセプターを発現する
血液細胞あるいは癌細胞、例えば好中球を遠心分離等の
手段で分離した後、細胞懸濁液として調製する。放射性
同位元素、例えば、125I等で標識したIL-8溶液、あるい
は非標識のIL-8と標識IL-8の混合溶液と、濃度調製した
抗IL-8抗体を含む溶液を細胞懸濁液に添加する。一定時
間の後、細胞を分離し、細胞上に結合した標識IL-8の放
射活性を測定すればよい。また、本発明で使用される抗
IL-8抗体の好中球遊走(ケモタキシス;chemotaxis)に
対する阻害能を測定する方法としては、市販されている
ケモタキシスチャンバーを用いた公知の通常知られてい
る方法、例えば、Grob, P.M. らの方法(J. Biol. Che
m. (1990) 265,8311-8316 )を用いることができる。
【0070】具体的には、抗IL-8抗体を培養液、例え
ば、RPMI 1640 、DMEM、MEM 、IMDM等で希釈した後、濃
度調製したIL-8を加え、これをフィルターで上下に仕切
られたチャンバー下層に分注する。次いで、調製した細
胞懸濁液、例えば好中球懸濁液をチャンバー上層に添加
し、一定時間放置する。遊走する細胞はチャンバーに装
着されたフィルター下面に付着するので、その細胞の数
を染色液あるいは蛍光抗体等を用いた方法で測定すれば
よい。また、顕微鏡下での肉眼による判定や計測器を用
いた自動測定も可能である。
【0071】11. 投与方法および製剤 本発明の抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質を有効成分と
して含有する予防または治療剤は、経口あるいは非経口
的に全身あるいは局部的に投与することができる。例え
ば、抗IL-8抗体等の蛋白性のIL-8結合阻害物質は、点滴
等の静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、
髄腔内注射等により全身あるいは局部的に投与すること
ができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法
を選択することができる。
【0072】抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質は、病気
に既に悩まされる患者に、病気およびその合併症の症状
を治癒するか、あるいは少なくとも部分的に阻止するた
めに十分な量で投与される。例えば、有効投与量は、一
回につき体重1kg あたり0.01mgから1000mgの範囲で選ば
れる。あるいは、患者あたり5-2000mg/body の投与量を
選ぶことができる。しかしながら、本発明の抗IL-8抗体
等のIL-8結合阻害物質を含有する予防または治療剤はこ
れらの投与量に制限されるものではない。また、投与時
期としては、脳卒中、脳浮腫または脳虚血再灌流障害が
生じてから投与してもよいし、あるいは、一時的に脳血
流が遮断された後の再灌流時や血栓溶解剤などの再灌流
療法で再灌流が予測される時、あるいは血管透過性亢進
が予想される時に投与してもよい。
【0073】本発明の抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質
を有効成分として含有する予防または治療剤は、常法に
したがって製剤化することができ(Remington's Pharma
ceutical Science, latest edition, Mark Publishing
Company, Easton, 米国)、医薬的に許容される担体や
添加物を共に含むものであってもよい。このような担体
および医薬添加物の例として、水、医薬的に許容される
有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビ
ニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキ
シメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリ
ウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カ
ルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチル
セルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラ
ビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、
ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワ
セリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリ
ン酸、ヒト血清アルブミン(HSA )、マンニトール、ソ
ルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される
界面活性剤等が挙げられる。
【0074】実際の添加物は、本発明の予防または治療
剤の剤形に応じて上記の中から適宜あるいは組み合わせ
て選ばれるが、もちろんこれらに限定するものではな
い。例えば、抗IL-8抗体を注射用剤として使用する場
合、精製された抗IL-8抗体を溶剤、例えば、生理食塩
水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、それに、吸着防
止剤、例えば、Tween 80、Tween 20、ゼラチン、ヒト血
清アルブミン等を加えたものを使用することができる。
または、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したも
のであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、
例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖
類を使用することができる。
【0075】12. 予防または治療効果の確認 脳梗塞、脳浮腫あるいは脳虚血再灌流障害に対する予防
または治療効果の確認には、局所脳虚血モデルあるいは
全脳虚血モデルが用いられる(佐野圭司 監修、「脳卒
中実験ハンドブック」、アイピーシー、43-51 、199
0)。再灌流障害に対する効果を検討する場合にはそれ
ぞれのモデルにおいて、一定時間の脳血流の遮断後に血
行再開を行う一過性閉塞を行えばよい。一方、再灌流が
必要ない場合は脳血流を遮断したまま維持する永久閉塞
を行えばよい。
【0076】用いられる動物としては、サル、イヌ、ネ
コ、ウサギ、ラット、マウス、スナネズミ等が一般的で
あるが、抗IL-8抗体等の本発明のIL-8結合阻害物質の予
防または治療効果の確認の目的には、IL-8の発現が確認
されている動物であれば種を問わない。例えば、ウサ
ギ、モルモット、ブタ、イヌ、ヒツジ、サルなどが挙げ
られる。
【0077】局所脳虚血モデルの作成法は、脳流入血管
を外部より圧迫閉塞する方法と、塞栓を注入する方法に
大別される。具体的には、中大脳動脈、前大脳動脈、後
交通脳動脈、内頚動脈、外頚動脈、椎骨動脈などの脳に
血流を送っている頭蓋内の動脈あるいは頚動脈の一本あ
るいは全脳虚血にならない範囲内で複数本を、外科的に
標的動脈を焼灼する焼灼法、動脈クリップで標的動脈を
閉塞する方法、糸で標的動脈を結紮する方法、あるいは
光感受性色素を静脈内投与して標的動脈にレーザー光を
照射して血栓を作製する方法などが挙げられる。あるい
は血液凝固因子、凝血塊、空気を投与して閉塞する。
【0078】全脳虚血モデルの作成法は、内頚動脈、外
頚動脈、椎骨動脈などの動脈を比較的心臓に近い部位で
左右同時に閉塞すればよい。動脈の閉塞方法としては、
標的動脈を焼灼する焼灼法、動脈クリップで標的動脈を
クリップする方法、塞栓子を標的動脈内に留置する栓子
法などが挙げられる。これらの中から任意な方法を選択
し、虚血前、虚血直後、一定時間の虚血後、あるいは再
灌流直前、再灌流直後、一定時間の再灌流後のいずれか
任意のタイミングで抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質を
投与し、一定時間の虚血後あるいは一定時間の再灌流後
に脳循環、脳代謝、神経機能等を測定し、さらに、動物
を犠牲死させた後に神経病理、梗塞巣、浮腫、血管透過
性亢進などについて評価する。
【0079】脳循環の測定方法としては、例えば、水素
クリアランス法、熱電対法、レーザードップラー法など
が挙げられる(佐野圭司 監修、「脳卒中実験ハンドブ
ック」、アイピーシー、193-240 、1990)。梗塞巣の定
量方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。脳を
摘出した後、一定の厚さでスライスする。スライスした
脳組織を、2, 3, 5-トリフェニルテトラゾリウムクロラ
イド(TTC )あるいはニッスル染色などで障害を受けた
領域を染色によって見分け定量化するか、薄片を作製し
てヘマトキシリン・エオジン染色によって病理組織学的
に見分け定量化すればよい(佐野圭司 監修、「脳卒中
実験ハンドブック」、アイピーシー、587-623 、199
0)。
【0080】浮腫の定量方法としては、例えば以下の方
法が挙げられる。脳を摘出した後、一定量の組織を密度
勾配によって比重を測定する方法、脳組織の湿潤重量と
乾燥重量の比で水分含量を測定する方法、あるいは核磁
気共鳴法で観察する方法などが挙げられる(佐野圭司
監修、「脳卒中実験ハンドブック」、アイピーシー、63
0-635 、1990)。血管透過性亢進の定量方法としては、
例えば以下の方法が挙げられる。実験に用いた動物を犠
牲死させる30分前に、一定濃度のエバンスブルー溶液を
静脈内投与し、脳を摘出した後、一定の厚さでスライス
する。スライスした脳組織のエバンスブルーによって青
色に染色された領域を定量化する(佐野圭司 監修、
「脳卒中実験ハンドブック」、アイピーシー、693-705
、1990)。なお、血管透過性の亢進は脳浮腫を誘導す
るので、血管透過性亢進を指標に脳浮腫を測定する事も
可能である。
【0081】くも膜下出血モデルとしては、IL-8の発現
が確認されている動物のくも膜下腔に血液あるいは血管
攣縮を誘導する物質を注入する方法、あるいは開頭後に
設置する方法、または、機械的に脳血管を針で刺した
り、あるいは切断するなどの方法により出血させる方法
がある(佐野圭司 監修、「脳卒中実験ハンドブッ
ク」、アイピーシー、124-125 、1990)。脳出血モデル
としては、脳内血液注入モデル、あるいは脳内マイクロ
バルーン膨張モデルなどがある(佐野圭司 監修、「脳
卒中実験ハンドブック」、アイピーシー、134-138 、19
90)。
【0082】
【実施例】以下、参考例および実施例により本発明を具
体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。参考例1. ヒトIL-8に対するモノクローナル抗体産生ハ
イブリドーマの作製 ヒトIL-8を常法によりBALB/cマウスに免疫し、免疫が成
立したマウスより脾細胞を採取した。ポリエチレングリ
コールを使用する常法によりこの脾細胞をマウス骨髄腫
細胞P3X63Ag8.653と融合させ、ヒトIL-8に対するマウス
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製し
た。ヒトIL-8に対する結合活性を指標としてスクリーニ
ングを行った結果、ハイブリドーマ細胞株WS-4を得た。
また、ハイブリドーマWS-4が産生する抗体は、ヒトIL-8
の好中球への結合を阻害し中和活性を有していた。(K
o, Y. et al., J. Immunol. Methods (1992) 149, 227
-235 )。
【0083】ハイブリドーマWS-4が産生する抗体のH 鎖
およびL 鎖のアイソタイプを、マウスモノクローナル抗
体アイソタイピングキットを用いて調べた。その結果、
ハイブリドーマWS-4が産生する抗体は、マウスκ型L 鎖
およびマウスγ1型H 鎖を有することが明らかになっ
た。なお、ハイブリドーマ細胞株WS-4は、Mouse hybrid
oma WS-4として、工業技術院生命工学工業技術研究所
(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)に、平成8 年4月1
7日に、FERM BP-5507としてブダペスト条約に基づき国
際寄託された。
【0084】参考例2. ヒトIL-8に対するヒト型化抗体
の作製 ヒト型化WS-4抗体を国際特許出願公開番号WO 96-02576
に記載の方法により作製した。参考例1で作製されたハ
イブリドーマWS-4から、常法により全RNA を調製し、こ
れより一本鎖cDNAを合成した。PCR 法により、マウスWS
-4抗体のH 鎖ならびにL 鎖のV 領域をコードするDNA を
増幅した。PCR 法に使用したプライマーは、Jones, S.
T. and Bendig, M. M., Bio/Technology (1991) 9, 88-
89に記載されているプライマーを用いた。PCR 法で増幅
したDNA 断片を精製し、マウスWS-4抗体L 鎖V 領域をコ
ードする遺伝子を含むDNA 断片およびマウスWS-4抗体H
鎖V 領域をコードする遺伝子を含むDNA 断片を単離し
た。これらのDNA 断片を各々プラスミドpUC 系クローニ
ングベクターに連結し、大腸菌コンピテント細胞に導入
して大腸菌形質転換体を得た。
【0085】この形質転換体を常法により培養し、得ら
れた菌体から上記DNA 断片を含むプラスミドを精製し
た。プラスミド中のV 領域をコードするDNA の塩基配列
を常法に従って決定し、そのアミノ酸配列から各々のV
領域のCDR を特定した。キメラWS-4抗体を発現するベク
ターを作製するため、マウスWS-4抗体のL 鎖およびH 鎖
のV 領域をコードするcDNAを、予めヒトC 領域をコード
するDNA を連結してあるHEF ベクターにそれぞれ別に挿
入した。ヒト型化WS-4抗体を作製するために、CDR 移植
法による遺伝子工学的手法を用いてマウスWS-4抗体のV
領域CDR をヒト抗体へ移植した。適切な抗原結合部位を
形成させるため、CDR を移植した抗体のV 領域のFRのア
ミノ酸を一部置換する為のDNA 配列の置換をおこなっ
た。
【0086】このようにして作製したヒト型化WS-4抗体
のL 鎖およびH 鎖のV 領域を、抗体として哺乳類細胞で
発現させるために、各々をコードするDNA をHEF ベクタ
ーに別々に挿入し、ヒト型化WS-4抗体のL 鎖またはH 鎖
を発現するベクターを作製した。これら二つの発現ベク
ターをCOS 細胞に同時に挿入することにより、ヒト型化
WS-4抗体を産生する細胞株を樹立した。この細胞株を培
養して得られたヒト型化WS-4抗体のIL-8への結合能およ
びIL-8中和能を、各々ELISA およびIL-8/ 好中球結合阻
害試験にて調べた。その結果、ヒト型化WS-4抗体は、マ
ウスWS-4抗体と同程度に、ヒトIL-8に結合してIL-8の好
中球への結合を阻害することが判明した。
【0087】なお、ヒト型化WS-4抗体のL 鎖およびH 鎖
を含むプラスミドを有する大腸菌は、各々Escherichia
coli DH5α(HEF-RVLa-gκ)およびEscherichia coli J
M109(HEF-RVHg-gγ1 )として、工業技術院生命工学工
業技術研究所(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)に、
平成6 年7 月12日に、各々FERM BP-4738およびFERM BP-
4741としてブダペスト条約に基づき国際寄託された。
【0088】実施例1.体重2.7 〜3.0kg のニュージー
ランド白色種の雌性ウサギ(三共ラボサービス)に硫酸
アトロピン(田辺製薬)0.5mg を筋肉内注射し、イソフ
ルラン(アボット)3%混合気にてマスク麻酔した。耳介
静脈にサーフロー留置針24G(テルモ)を固定して乳酸
リンゲル液(大塚製薬)を適量流入する事により点滴路
を確保した。手術台に仰臥位で固定して前頚部および右
大腿部を剃毛したのち、前頚部縦切開にて気管を露出、
気管切開により気管内挿管チューブを挿入固定し、人工
呼吸器(シナノ製作所)に接続した。
【0089】人工呼吸器が接続されると同時に臭化パン
クロニウム(オルガノンテクニカ)2mg を静脈内投与
し、イソフルラン濃度1.5%、酸素濃度30% 、1回換気量
15〜20ml/kg 、換気回数毎分20〜25回にて、動脈血二酸
化炭素分圧が32〜40mmHgとなるよう調節した。次に、右
大腿部を切開後、大腿動脈を剥離、サーフロー留置針24
G(テルモ)を留置して血圧モニター(日本光電)に接
続し血圧を実験終了まで連続的に測定した。その後、ウ
サギを伏臥位として頭部を定位用フレームに固定した。
補液は乳酸リンゲル液(大塚製薬)に濃度0.16mg/ml で
臭化パンクロニウムを添加し5ml/kg/hr でシリンジポン
プにて確保した耳介静脈より連続静注した。
【0090】麻酔下のウサギ右眼球の前後の頭皮を切
開、剥離し、眼球および眼窩内容物を止血を施しながら
摘出した。視神経管をドリルにて拡大して硬膜を開放
し、内頚動脈、中大脳動脈(MCA )、前大脳動脈を露出
させ剥離した。手術用顕微鏡下で内頚動脈、中大脳動脈
起始部、前大脳動脈起始部をZEN 式クリップを用いて閉
塞し、中大脳動脈閉塞モデルとした。側副血行路からの
流入を防ぐ目的で、虚血中はイソフルランの濃度を3%前
後に調節して平均血圧を50〜60mmHgに維持した。クリッ
プによる閉塞にて常温2.5 時間にわたる右脳局所虚血を
開始した。2.5 時間の虚血後、イソフルランの濃度を1%
前後に戻して正常血圧に回復させ、クリップを解除し再
灌流をおこなった。対照としてクリップにて脳虚血のみ
を行い再灌流を行わなかった永久閉塞群を設置した。各
実験の終了時点で2M塩化カリウム溶液2ml を急速静注し
てウサギを犠牲死させ、以下の点について評価した。
【0091】1)脳組織中のIL-8濃度 脳を摘出し、右中大脳動脈支配領域の脳組織を150mg 採
取し、300 μl のPBS中で十分ホモジナイズした。その
後、マイクロ遠心機で10,000回転、5 分間遠心し、上清
を回収してIL-8濃度測定まで-80 ℃にて保存した。IL-8
濃度測定は以下の方法でELISA により行った。まず、マ
ウス抗IL-8抗体WS-4を50mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液
(pH9.6 )にて0.5 μg/mlの濃度に希釈し、96ウェルマ
イクロタイタープレート(Nunc)の各ウェルに100 μl
ずつ添加し4 ℃にて一晩インキュベートして固相化し
た。
【0092】0.05%Tween 20 添加PBS (Tween-PBS)にて
3 度洗浄した後、1% 仔牛血清アルブミン(BSA )添加
PBS150μl を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベ
ートした。Tween-PBS にて3 度洗浄した後、0.5%BSA 添
加Tween-PBS にて希釈されたサンプルを100 μl ずつ加
えた。またIL-8濃度の標準曲線用に、組換え型ウサギIL
-8を13.7〜10,000pg/ml の濃度に0.5%BSA 添加Tween-PB
S で希釈し、100 μlずつ別のウェルに播種した。その
後、プレートを4 ℃で一晩インキュベートした。Tween-
PBS にて5 度洗浄した後、一次抗体としてモルモット抗
ウサギIL-8抗体を3%PEG 6000添加Tween-PBS で1 μg/ml
に希釈し、100 μl ずつ各ウェルに加え37℃で2 時間イ
ンキュベートした。
【0093】Tween-PBS にて5 度洗浄した後、二次抗体
としてアルカリフォスファターゼ標識抗モルモットIgG
抗体(BioMakor)を0.5%BSA 添加Tween-PBS で5000倍に
希釈し、100 μl を各ウェルに加え37℃で2 時間インキ
ュベートした。Tween-PBS にて5 度洗浄した後、p-ニト
ロフェニルリン酸二ナトリウムを1Mジエタノールアミン
(pH 9.8)で1 mg/ml の濃度に溶解し、100 μl ずつ各
ウェルに加え室温で30分間インキュベートした。反応を
止めるために1N水酸化ナトリウム溶液を100μl ずつ
各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(東ソー)
にて405nm における吸光度を測定し、標準曲線をもとに
サンプル中のIL-8濃度を算出した。なお、100mg 組織/
100 μl PBSのIL-8濃度に換算した(図1)。
【0094】2.5 時間虚血、2.5 時間虚血3 時間再灌
流、2.5 時間虚血6 時間再灌流の各群のIL-8濃度はそれ
ぞれ75.0±41.4pg/ml ,69.2±41.0pg/ml ,461.5 ±7
7.1pg/ml であり、5.5 時間虚血、8.5 時間虚血の各群
においてはそれぞれ103.5 ±44.4pg/ml 、143.8 ±20.0
pg/ml であった(数値は平均±標準誤差を示す)。2.5
時間虚血6 時間再灌流群では2.5 時間虚血3 時間再灌流
群、8.5 時間虚血群に比べて有意に高値のIL-8が検出さ
れた(p<0.05)。このことから、虚血脳においてIL-8が
産生され、再灌流3 時間以後に著明に上昇することが判
明した。
【0095】2)脳梗塞時の血液脳関門の破綻に対する
WS-4抗体の効果 脳梗塞時の血液脳関門の破綻に対するWS-4抗体の効果を
検討する目的で、2.5時間虚血6 時間再灌流実験におい
て、クリップを解除して再灌流を開始した直後にWS-4抗
体を投与する群を設置した。10mgのWS-4抗体を3ml の生
理食塩水で希釈し、耳介静脈より注入した後、6 時間の
再灌流をおこなった。陰性対照群としてマウス抗体(P
3.6.2.8.1)10mgを同様に静注した。エバンスブルー
(ナカライテスク)を乳酸リンゲル液で溶解して3%の濃
度とし、6 時間の再灌流後に5ml を耳介静脈から注入、
その30分後に脳を摘出した。脳をウサギ脳スライサー
(ASI )を用いて2mm のスライスとし、視神経交叉から
前5mm 後5mm を含む6 スライスを写真撮影した。右脳の
面積とエバンスブルーで青染した領域の面積を測定し、
6スライス中の右脳における体積の割合を算出した(図
2)。
【0096】正常脳においては血液脳関門が機能してエ
バンスブルーが血管を透過する事はなく、従って、エバ
ンスブルーが脳実質を染色することはない。しかしなが
ら、2.5 時間虚血6 時間再灌流実験において、コントロ
ール抗体(P3.6.2.8.1) を再灌流開始直後に静注した群
(N=9 )では脳の視神経交叉から前5mm 後5mm までの体
積に占めるエバンスブルーに染色した体積の割合は17.6
±3.2%であり、血液脳関門が破綻し、血管透過性が亢進
していることを示した。一方、WS-4抗体投与群(N=9 )
のエバンスブルーに染色した体積の割合は7.8 ±1.2%と
著明に低下した。この結果をマン・ホイットニのU 検定
で統計解析した結果、統計学的に有意差が認められた
(p<0.05)。したがって、虚血再灌流における血液脳関
門の破綻および血管透過性の亢進はWS-4抗体の静脈内投
与により抑制された。この事は、WS-4抗体の静脈内投与
により脳浮腫を抑制したと解釈できる。
【0097】3)脳梗塞巣の形成に対するWS-4抗体の効
果 脳梗塞時の梗塞巣形成に対するWS-4抗体の効果を検討す
る目的で、2.5 時間虚血12時間再灌流実験を試みた。梗
塞巣形成に対する効果をより明確にする目的で、梗塞巣
形成の増大を期待して、再灌流時間を前記の6 時間から
12時間に延長した。
【0098】尚、中大脳動脈の支配領域の血流量を脳表
面で測定するため、泉門点より1cm右の位置にドリルに
て直径約7mm の円状に窓を開け、硬膜を露出させた。非
接触型のレーザードップラー血流計(FLO-N1、オメガフ
ロー)のプローブ(ST-N、オメガフロー)を定位用フレ
ームに固定し、窓に照射して脳血流量を実験終了まで連
続測定した。正常時の脳血流量に比較して、クリップで
閉塞した後の血流量が70% 以下に低下し、クリップを解
除した後の血流量の回復幅が正常値の30% 以上変化した
個体を虚血再灌流群として採用した。結果的に採用され
たのは、WS-4抗体投与群およびコントロール抗体投与群
ともN=7 であった。
【0099】クリップを解除して再灌流を開始した直後
に10mgのWS-4抗体を耳介静脈より投与し、12時間の再灌
流をおこなった。陰性コントロール群としてマウス抗体
(P3.6.2.8.1)10mgを同様に静注した。12時間の再灌流
後、脳を摘出し、ウサギ脳スライサー(ASI )を用いて
2mm のスライスとし、視神経交叉から前5mm 後5mm を含
む6 スライスを濃度2%のTTC (和光純薬工業)を添加し
た生理食塩水(大塚製薬)に浸し、37℃で30分間インキ
ュベートした。この方法により、正常組織は赤色に染色
され梗塞巣は染色されず、梗塞巣の定量化が可能にな
る。それぞれのスライスを写真撮影し、右脳の面積とTT
C で染色されなかった領域の面積を測定し、視神経交叉
から前5mm 後5mm を含む6 スライスにおける右脳に占め
るTTC に染色した梗塞巣の体積の割合を算出した(図
3)。
【0100】その結果、コントロール抗体(P3.6.2.8.
1)投与群の視神経交叉から前5mm 後5mm までの梗塞巣
の体積は40.1±10.7% であった。一方、WS-4抗体投与群
の梗塞巣の体積は14.9±7.5%と著明に低下した。この結
果をマン・ホイットニのU 検定で統計解析した結果、統
計学的に有意差が認められた(p<0.05)。したがって、
脳虚血再灌流における梗塞巣の形成・進展はWS-4抗体の
静脈内投与により抑制された。これらの結果から、抗IL
-8抗体は脳梗塞時の血液脳関門の破綻ならびに脳梗塞巣
の形成・進展を抑制する作用を有した。また、永久梗塞
群ならびに再灌流群において、IL-8産生が時間経過とと
もに上昇することから、抗IL-8抗体は有効投与時間帯が
これまでの薬剤より長期的であることが期待できる、脳
梗塞の予防または治療剤であることが示された。
【0101】
【発明の効果】抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質の投与
により、脳虚血時の血管透過性亢進による血液脳関門の
破綻、ならびに梗塞巣の形成が抑制された。この事実
は、抗IL-8抗体等のIL-8結合阻害物質が脳卒中、脳浮腫
または脳虚血再灌流障害、脳血管透過性亢進の予防また
は治療剤として有用であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、中大脳動脈永久閉塞モデルと中大脳動
脈虚血再灌流モデルにおける脳組織中のIL-8産生量を経
時的に測定したグラフである。
【図2】図2は、中大脳動脈 2.5時間虚血6時間再灌流
モデルにおける血液脳関門の破綻に対するWS-4抗体の抑
制効果を、血管透過性亢進を指標に陰性対照のP3.6.2.
8.1抗体と比較したグラフである。
【図3】図3は、中大脳動脈 2.5時間虚血12時間再灌
流モデルにおける梗塞巣の体積に対するWS-4抗体の抑制
効果を、陰性対照のP3.6.2.8.1抗体と比較したグラフで
ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12P 21/08 C12N 15/00 C

Claims (22)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 IL-8結合阻害物質を有効成分として含有
    する脳卒中の予防または治療剤。
  2. 【請求項2】 脳卒中が脳梗塞であることを特徴とす
    る、請求項1に記載の予防または治療剤。
  3. 【請求項3】 脳梗塞が脳血栓症であることを特徴とす
    る、請求項2に記載の予防または治療剤。
  4. 【請求項4】 脳梗塞が脳塞栓症であることを特徴とす
    る、請求項2に記載の予防または治療剤。
  5. 【請求項5】 脳梗塞が血行力学的梗塞であることを特
    徴とする、請求項2に記載の予防または治療剤。
  6. 【請求項6】 脳卒中が出血性脳血管障害であることを
    特徴とする、請求項1に記載の予防または治療剤。
  7. 【請求項7】 出血性脳血管障害が脳内出血であること
    を特徴とする、請求項6に記載の予防または治療剤。
  8. 【請求項8】 出血性脳血管障害がくも膜下出血である
    ことを特徴とする、請求項6に記載の予防または治療
    剤。
  9. 【請求項9】 IL-8結合阻害物質を有効成分として含有
    する脳浮腫の予防または治療剤。
  10. 【請求項10】 脳浮腫が虚血性脳浮腫であることを特
    徴とする、請求項9に記載の予防または治療剤。
  11. 【請求項11】 脳浮腫が頭部外傷に伴う脳浮腫である
    ことを特徴とする、請求項9に記載の予防または治療
    剤。
  12. 【請求項12】 IL-8結合阻害物質を有効成分として含
    有する脳虚血再灌流障害の予防または治療剤。
  13. 【請求項13】 脳虚血再灌流障害が手術時の一過性の
    脳血流遮断後の再灌流に伴う脳虚血再灌流障害であるこ
    とを特徴とする、請求項12に記載の予防または治療
    剤。
  14. 【請求項14】 脳虚血再灌流障害が血栓溶解療法に伴
    う脳虚血再灌流障害であることを特徴とする、請求項1
    2に記載の予防または治療剤。
  15. 【請求項15】 IL-8結合阻害物質を有効成分として含
    有する脳血管透過性亢進の予防または治療剤。
  16. 【請求項16】 IL-8結合阻害物質が抗IL-8抗体である
    ことを特徴とする、請求項1,9,12または15に記
    載の予防または治療剤。
  17. 【請求項17】 抗IL-8抗体がモノクローナル抗体であ
    ることを特徴とする、請求項16に記載の予防または治
    療剤。
  18. 【請求項18】 抗IL-8抗体が哺乳類のIL-8に対する抗
    体であることを特徴とする、請求項16に記載の予防ま
    たは治療剤。
  19. 【請求項19】 抗IL-8抗体がヒトIL-8に対する抗体で
    あることを特徴とする、請求項16に記載の予防または
    治療剤。
  20. 【請求項20】 抗IL-8抗体がWS-4抗体であることを特
    徴とする、請求項16に記載の予防または治療剤。
  21. 【請求項21】 抗IL-8抗体がヒト型化またはキメラ化
    された抗体であることを特徴とする、請求項16に記載
    の予防または治療剤。
  22. 【請求項22】 抗IL-8抗体がヒト型化WS-4抗体である
    ことを特徴とする、請求項16に記載の予防または治療
    剤。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2017222719A (ja) * 2006-05-25 2017-12-21 バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッドBiogen MA Inc. 脳卒中を処置する方法

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