JPH08243680A - 管のアプセット加工方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】少ない加工数で大きな増肉比の所定の増肉部長
さを座屈やシワ疵などの欠陥を生ずることなく得ること
のできる管のアプセット加工方法の提供。 【構成】管端部分を加熱し、管端の被加熱部分の外面を
ダイス４によって挟持し、内面にマンドレル２を押し込
んで複数回の加工を行う管のアプセット加工方法であっ
て、ダイス４の内面のテーパ部４ａと平行部４ｂ₃ の交
差する部分にリング状の凹み５を有するダイスを用いて
初期加工を行い、その後の加工は凹みの無いダイスを用
いて行って、被加工部を軸方向に一様な肉厚に仕上げる
ことを特徴とする管のアプセット加工方法。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、管のアプセット加工方
法に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】管は通常、継手により複数本を接続し長
尺の状態で使用されるため、管端にネジ切り加工を施す
必要がある。しかし素管のままネジ切りしたのでは応力
集中のためネジ部が脆くなるので、一般には素管の管端
を加熱した後、図１に示すような管端の肉厚を増大させ
る熱間鍛造加工（以下、アプセット加工という）を行っ
てネジ部の強度を確保することが行われる。

【０００３】このアプセット加工には図２に示す３通り
の方法がある。同図において（ａ）は内径側のみを増肉
するＩＵＥタイプ、（ｂ）は外径側のみを増肉するＥＵ
Ｅタイプであり、（ｃ）は内径側と外径側とを同時に増
肉するＩ＆ＥＵＥタイプを示している。

【０００４】アプセット加工後の管端形状としては、肉
厚が軸方向（長さ方向）に一様であることが要求される
ため、大きな増肉を行うことが必要な場合には、上記図
２の（ａ）から（ｃ）のアプセット加工方法のいずれか
またはそれらを組み合わせて複数回の加工（多段加工）
が施される。

【０００５】ところで、アプセット加工は薄肉円管の据
え込み鍛造であり、１回の加工における増肉厚さ比（加
工後の肉厚／加工前の肉厚、以下、増肉厚さ比を単に増
肉比という）を大きく設定した場合には、加工初期での
素管３の被増肉部と工具（ダイス１とマンドレル２）と
の空隙が大きくなって変形が不安定となるため、図３に
模式的に示したような座屈やシワ疵などの欠陥発生につ
ながる。従って、アプセット加工１回当たりの増肉比に
は自ずと限界がある。

【０００６】そのため従来は、大きな増肉を行って管端
を軸方向に一様な肉厚に仕上げるためには、マンドレル
の抜け勾配はあるものの、各加工毎に被増肉部全体を軸
方向に一様に僅かずつ増肉させるような多段加工が施さ
れてきた。しかしこうした多段加工では工具費や加工費
が嵩むことに加え、生産性の点でも問題があった。

【０００７】これに対し、例えば特開昭６１−２７６７
３２号公報には、管端中間部の加熱温度分布を管端厚肉
部側から管端定常部へ向けて次第に低減させてアプセッ
ト加工を行う方法が提案されているが、この方法によっ
ても管端仕上げ形状の安定化は図れるものの、多段アプ
セット加工における１加工当たりの増肉比を増加させる
ことには至っていない。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、座屈
やシワ疵などの欠陥を生ずることなく少ない加工数で大
きな増肉比の管端増肉部を得ることのできる管の多段ア
プセット加工方法を提供することにある。

【０００９】

【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題
を解決するため、管端を均一加熱した後にアプセット加
工する従来方法での増肉変形過程を解析および実験によ
って詳細に調査した結果、下記の知見を得た。

【００１０】Ｉ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工にお
いては、図４（ａ）〜（ｆ）に示すように、素管３は先
ずダイス１のダイステーパ部１ａと接触を開始する。す
なわち、素管３は先ず管の外面テーパ部となる部分がダ
イス１と接触し、次いで素管３が外側へ膨らんでダイス
平行部１ｂでも接触するようになり、更にダイス１と全
面にわたって接触し、この後に素管３は管端から順に増
肉し、順次マンドレル２と接触して行く。

【００１１】ＩＵＥタイプのアプセット加工において
は、素管３とダイス１は加工初期から全面にわたって接
触しているため、上記の途中段階がなく、素管３は加
工開始後直ちに管端から順にマンドレル２と接触して行
く。

【００１２】ＥＵＥタイプのアプセット加工において
も、変形初期には素管３がダイス１側へ膨らみマンドレ
ル２との接触がほとんどなく、従って、これはＩ＆ＥＵ
Ｅタイプのアプセット加工の１種と見なせる。

【００１３】前記〜より、いずれのアプセット加
工方法の場合でも、素管３は先ずその外径側へ膨らむこ
ととなる。従って、増肉比を大きくしたアプセット加工
を行うと、外径側への膨張過程で素管３に座屈が生じ、
アプセット加工後に座屈部位が疵となって残る。

【００１４】一方、ダイス形状やマンドレル外径を種々
変えて実験した結果、次に示す知見を得た。

【００１５】図１のダイス内面のテーパ部１ａと平行
部１ｂの交差する部分に素管に向けて小さなリング状の
凹み５を設け（図５参照）、この凹みの形状を適切なも
のとすれば、アプセット加工時の増肉比を大きくしても
素管はダイスと全面にわたって接触し、座屈を制御でき
る。

【００１６】マンドレルの外径は、外径側への膨張過
程での座屈には直接影響しない。

【００１７】上記知見に基づく本発明は下記に示す管の
アプセット加工方法を要旨とする。

【００１８】管端部分を加熱し、管端の被加熱部分の外
面をダイスによって挟持し、内面にマンドレルを押し込
んで複数回の加工を行う管のアプセット加工方法であっ
て、ダイス内面のテーパ部と平行部の交差する部分にリ
ング状の凹みを有するダイスを用いて初期加工を行い、
その後の加工は凹みの無いダイスを用いて行って、被加
工部を軸方向に一様な肉厚に仕上げることを特徴とする
管のアプセット加工方法。

【００１９】

【作用】本発明のアプセット加工方法では、多段加工に
おける初期の加工時のダイス４の内径形状に関して、ダ
イス内面のテーパ部４ａと平行部４ｂ₃ の交差する部分
に素管に向けて小さなリング状の凹み５を設ける（図５
参照）。これにより、管端被加工部の増肉量に軸方向分
布が生じて局部的に大きな増肉比となるアプセット加工
が行われ、結果として少ない加工数で大きな増肉比の管
端増肉部が得られることとなる。

【００２０】以下、本発明について、Ｉ＆ＥＵＥタイプ
のアプセット加工において従来３回の加工が必要とされ
ている増肉比の場合を例に、その作用効果を説明する。

【００２１】本発明方法において、１回目の加工に用い
る図５に示すダイス４は、ダイステーパー部４ａの近傍
にあるダイス最大径部４ｂ₁ の径が、従来法による３回
目の加工（仕上げ加工）用ダイスと同寸法、もしくはそ
れよりも若干小さい寸法のもので、且つ、ダイス最大径
部４ｂ₁ の長さＬが素管肉厚ｔの５〜９倍の範囲（５ｔ
≦Ｌ≦９ｔ）にあるものを用いる。このダイス最大径部
４ｂ₁ の長さＬが５ｔ未満ではダイス最大径部４ｂ₁ に
肉が充満せず断面が「く」の字状に折れ曲がってしま
う。一方、長さＬが９ｔを超えるとダイス最大径部４ｂ
₁ で座屈が生じてしまうからである。

【００２２】更に、管端部付近のダイス平行部４ｂ₃ で
はダイス最大径部４ｂ₁ よりもダイス内径を小径とす
る。この場合、ダイス平行部４ｂ₃ の内径は、座屈やシ
ワ疵などの欠陥を生ずることなく従来より少ない加工数
で大きな増肉比の管端増肉部を得るために、従来法で加
工した１回目の管端部増肉比の１．１〜１．４倍の範囲
の増肉比となるように、下記のマンドレルの外径との関
係で決めれば良い。これは次のとの理由による。
ダイス平行部４ｂ₃ での１回目の加工後の素材肉厚は、
２回目の加工で同平行部に座屈などの欠陥を生じないた
めにある程度大きくしておく必要があること。１回目
の加工で座屈なく増肉比に軸方向分布を与えてダイス最
大径部４ｂ₁ に肉を充満させるために、素材が外径側へ
膨らむ過程でのメタルフローを制御しダイス平行部４ｂ
₃ とダイス最大径部４ｂ₁ の増肉比に差を与える必要が
あること。上記のおよびを満足させるために、ダイ
ス平行部４ｂ₃ の内径は前記のように定める必要があ
る。

【００２３】ところで、管端部付近のダイス平行部４ｂ
₃ からダイス最大径部４ｂ₁ に至るダイステーパ部４ｂ
₂ のテーパ角θは１０度以下とする必要がある。テーパ
角θが１０度を超えるとダイステーパ部４ｂ₂ で欠肉
し、次の加工で疵になるからである。なおテーパ角θの
下限はダイス最大径部４ｂ₁ とダイス平行部４ｂ₃ の内
径を上に述べた条件を満足させることで自ずと決定され
る。

【００２４】マンドレルの外径としては、ダイス最大径
部４ｂ₁ の増肉比が、座屈やシワ疵などの欠陥を生ずる
ことなく従来より少ない加工数で大きな増肉比の管端増
肉部を得るために、従来法による１回の加工で増肉可能
な増肉比の限界値の１．３〜２．１倍となるように、従
来法での１回目の加工用マンドレルの寸法と３回目の加
工用マンドレルの寸法の間のものを採用すれば良い。

【００２５】上記の形状を有するダイスとマンドレルを
用いて素管に１回目の加工を施すと、図６（ａ）〜
（ｅ）に示すように、素管３はダイステーパ部４ａに接
触した後、ダイス平行部４ｂ₃ に接触し、次いで外側へ
膨らんでダイス最大径部４ｂ₁ に充満してダイス４と全
面にわたって接触する。この後で素管３は管端側から順
次マンドレル２と接触して行き、増肉を完了する。

【００２６】本発明にあってはダイス４を用いた１回目
の加工の後、ダイス最大径部４ｂ₁近傍の４ａから４ｂ
₂ の範囲での被加工部が最終加工での仕上げ形状にでき
るだけ近くなるようにするため、前記ダイス最大径部４
ｂ₁ 近傍の断面は図５に示すような台形状とするのが良
い。ここで、ダイス最大径部４ｂ₁ の断面線は必ずしも
直線でなくても良い。

【００２７】本発明によるアプセット加工方法では、１
回目の加工を終えた後、最終の仕上げ形状を有するダイ
スおよびマンドレルを用いて２回目の加工（仕上げ加
工）を行う。１回目の加工でダイス最大径部４ｂ₁ 近傍
（４ａから４ｂ₂ の範囲）は既に最終形状近くにまで加
工が完了しているので、２回目の仕上げ加工では主に管
端部の仕上げに注目すれば良いこととなる。

【００２８】仕上げ加工となる２回目の加工初期におい
て、ダイス最大径部４ｂ₁ 近傍（４ａから４ｂ₂ の範
囲）には直ちに素材（肉）が充満するため、軸方向への
肉流れに対する拘束力が十分に作用し、管端部の充満が
促進される。

【００２９】以上、Ｉ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工
において従来３回の加工が必要とされている増肉比の場
合を例に、本発明の作用効果を説明したが、本発明は従
来４回以上の加工が必要とされていた多段加工にも当然
適用できる。すなわち、初回の加工に限らず、２回目以
降の加工にもダイス内面のテーパ部と平行部の交差する
部分にリング状の凹みを有するダイスを用いて所謂「初
期加工」を行い、その後の加工には凹みの無いダイスを
用いて被加工部を軸方向に一様な肉厚に仕上げることで
加工回数の削減ができるからである。

【００３０】以上述べた方法により、材料流れが改善さ
れて加工１回当たりの増肉量が向上するので、加工回数
の削減ができ、更に従来見られた座屈やシワ疵など欠陥
の発生を見ることなくアプセット加工が行える。

【００３１】

【実施例】以下、本発明のアプセット加工方法を、代表
例としてＩ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工を用いた実
施例により説明する。

【００３２】［実施例１］外径φ７３ｍｍ、肉厚５．５
１ｍｍの中炭素鋼の素管を用いて、下記に示す条件の
（イ）本発明方法、（ロ）比較法および（ハ）従来方法
でＩ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工（図２（ｃ）参
照）を行い、設定増肉部長さ１４０ｍｍで増肉部厚さが
１５ｍｍの形状に仕上げた。

【００３３】（イ）本発明方法：各アプセット加工の前
に管端被加工部を１２００℃に加熱し、次に示す加工を
行った。

【００３４】１回目の加工：増肉長さ比（据え込み量／
素管外径）＝３．３、増肉部長さ＝１９０ｍｍ、ダイス
最大径部４ｂ₁ の増肉比＝２．６、管端の増肉比＝２．
１。

【００３５】なお、この１回目の加工において、ダイス
内部にリング状の凹み（ダイステーパ部４ｂ₂ の角度θ
が５度、ダイス最大径部４ｂ₁ の長さＬが３０ｍｍ）を
設けたダイスを使用した。

【００３６】２回目の加工（仕上げ加工）：増肉長さ比
＝０．５７、増肉部長さ＝１４０ｍｍ、１回目の加工で
ダイス最大径部４ｂ₁ に沿って増肉させた部位の増肉比
＝１．０５、管端の増肉比＝１．３。

【００３７】（ロ）比較法：各アプセット加工の前に管
端被加工部を１２００℃に加熱し、次に示す加工を行っ
た。

【００３８】１回目の加工：増肉長さ比＝３．４、増肉
部長さ＝２０８ｍｍ、ダイス最大径部４ｂ₁ の増肉比＝
２．６、管端の増肉比＝２．１。なお、この１回目の加
工において、ダイス内部にリング状の凹み（ダイステー
パ部４ｂ₂ の角度θが１５度、ダイス最大径部４ｂ₁ の
長さＬが５０ｍｍ）を設けたダイスを使用した。

【００３９】２回目の加工（仕上げ加工）：増肉長さ比
＝０．４８、増肉部長さ＝１４０ｍｍ、１回目の加工で
ダイス最大径部４ｂ₁ に沿って増肉させた部位の増肉比
＝１．０５、管端の増肉比＝１．３。

【００４０】（ハ）従来方法：各アプセット加工の前に
管端被加工部を１２００℃に加熱し、次に示す加工を行
った。

【００４１】１回目の加工：増肉長さ比＝２．０、増肉
部長さ＝２９０ｍｍ、増肉比＝１．４。

【００４２】２回目の加工：増肉長さ比＝１．２、増肉
部長さ＝２００ｍｍ、増肉比＝１．４。

【００４３】３回目の加工（仕上げ加工）：増肉長さ比
＝０．７５、増肉部長さ＝１４０ｍｍ、増肉比＝１．
４。

【００４４】なお上記（イ）〜（ハ）の方法で加工した
本数はすべて５０本ずつである。

【００４５】アプセット加工の結果は、本発明の規定条
件から外れた比較法で加工した場合には、従来方法に比
べて加工の回数は１回減ったものの、シワ疵や座屈など
の欠陥が見られた。ところが本発明方法で加工した場
合、従来方法と比較して加工の回数が減ったにも拘らず
寸法精度は従来方法によるものと同じであり、疵や座屈
などの欠陥は認められなかった。

【００４６】以上から、本発明方法によれば、従来３回
の加工が必要であったアプセット加工が２回の加工だけ
で、それも従来法と同様に疵や座屈などの欠陥を生ずる
ことなく、所定の形状に仕上げられることが明らかであ
る。

【００４７】

【発明の効果】本発明方法によれば、少ない加工回数
で、それも管の外表面に疵や座屈などの欠陥を発生する
ことなく所定長さを増肉させる安定したアプセット加工
を行うことができるので、産業上の効果は極めて大き
い。

【図面の簡単な説明】

【図１】Ｉ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工の概要を示
す断面図である。（ａ）は加工直前の状態、（ｂ）は加
工直後の状態を示す。

【図２】各種のアプセット加工法を示す断面図である。
（ａ）はＩＵＥタイプ、（ｂ）はＥＵＥタイプ、（ｃ）
はＩ＆ＥＵＥタイプである。

【図３】座屈現象を模式的に示す断面図である。

【図４】Ｉ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工の従来法に
おける増肉過程の概略を示す断面図である。（ａ）〜
（ｆ）の順に加工が進行する。

【図５】実施例で用いたダイス内部にリング状の凹みを
設けたダイスの断面図である。

【図６】Ｉ＆ＥＵＥタイプのアプセット加工の本発明法
における初期の加工の増肉過程の概略を示す断面図であ
る。（ａ）〜（ｅ）の順に加工が進行する。

【符号の説明】

１：従来のダイス、１ａ：ダイステーパ部、１ｂ：ダイ
ス平行部、２：マンドレル、３：素管、３ａ：素管内面
テーパ部、４：ダイス内部にリング状の凹みを設けたダ
イス、４ａ：ダイステーパ部、４ｂ₁ ：ダイス最大径
部、Ｌ：ダイス最大径部長さ、４ｂ₂ ：ダイステーパ
部、４ｂ₃ ：ダイス平行部、θ：ダイステーパ角、５：
リング状の凹み

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】管端部分を加熱し、管端の被加熱部分の外
   面をダイスによって挟持し、内面にマンドレルを押し込
   んで複数回の加工を行う管のアプセット加工方法であっ
   て、ダイス内面のテーパ部と平行部の交差する部分にリ
   ング状の凹みを有するダイスを用いて初期加工を行い、
   その後の加工は凹みの無いダイスを用いて行って、被加
   工部を軸方向に一様な肉厚に仕上げることを特徴とする
   管のアプセット加工方法。