本発明は、走行用駆動力源として燃料の燃焼で動力を発生するエンジンのみを備えているエンジン駆動車両に好適に適用されるが、エンジンの他に電動モータなどの他の動力源を備えているハイブリッド車両にも適用され得る。エンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で、減速時フューエルカット制御によって燃料供給を自動的に停止できる燃料噴射装置等を備えて構成される。減速時フューエルカット制御は、例えばエンジン回転数が所定のフューエルカット許可回転数以上であることを条件としてフューエルカットを行い、許可回転数よりも低い所定のフューエルカット復帰回転数以下になった場合にフューエルカットから復帰して燃料供給を再開するように実施される。フューエルカット復帰回転数は、燃料供給が再開されることにより直ちにエンジンを始動(自力回転)できる回転数で、例えばエンジン水温や車速、減速度、補機類の負荷、ロックアップクラッチの作動状態等の車両状態をパラメータとして定められる。復帰制御の際のエンジンのトルクダウン制御は、点火時期の遅角制御が適当であるが、吸入空気量を制限するなど他の手段を採用することもできる。
動力伝達経路の動力伝達を接続遮断する断接装置は、例えばトルクコンバータ等の流体式伝動装置に設けられたロックアップクラッチ(直結クラッチ)が適当であるが、流体式伝動装置とは関係無く設けられた摩擦係合式や同期噛合い式等のクラッチやブレーキであっても良い。ロックアップクラッチは、例えば減速時フューエルカット制御実行中の車両減速時に、エンジン回転数の低下を抑制してフューエルカット領域(車速範囲)を拡大するためにスリップ係合状態とされる。このスリップ係合状態とする減速時フレックス制御は、例えば目標スリップ量(差回転)となるように係合トルク、例えば係合側および解放側の差圧などがフィードバック制御される。ロックアップクラッチを完全係合させた状態で、減速時フューエルカット制御が行なわれても良い。
動力伝達経路には、変速比(=入力回転数/出力回転数)を段階的或いは連続的に変化させる有段式や無段式の変速機が必要に応じて設けられるが、減速時フューエルカット制御の実行時に補機類の負荷が大きいとエンジンの連れ回りによる抵抗(エンジンブレーキ)が大きいため、変速比が大きい低速ギヤ段(または変速比)になると減速Gが強くなり過ぎる可能性がある。このため、高負荷時には、低負荷時に復帰制御が行なわれるギヤ段よりも変速比が小さい高速側の所定のギヤ段(または変速比)であることを含む所定の実施条件を満たす場合に、断接装置を接続状態に保持したままエンジンのトルクダウン制御を伴う復帰制御が行なわれることが望ましい。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や形状、角度等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両10の駆動装置の一例を説明する概略構成図で、制御系統の要部を併せて示した図である。車両10の駆動装置は、エンジン12を走行用駆動力源として備えており、そのエンジン12の出力は、トルクコンバータ(T/C)14、自動変速機16、差動歯車装置18等の動力伝達経路を経て左右の駆動輪(実施例では後輪)20へ伝達される。エンジン12は、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジン等の内燃機関で、燃料噴射量を制御する燃料噴射装置22、吸入空気量Qを制御する電子スロットル弁24、および点火時期を制御する点火時期制御装置26を備えている。燃料噴射装置22は、電子制御装置70から供給される燃料噴射制御信号Se1に従って燃料噴射量を制御する。電子スロットル弁24は、電子制御装置70から供給されるスロットル制御信号Se2に従ってスロットル弁開度θthを制御し、このスロットル弁開度θthに応じて吸入空気量Qが制御される。点火時期制御装置26は、電子制御装置70から供給される点火時期制御信号Se3に従ってイグナイタ(点火装置)28(図2参照)の点火時期を制御する。エンジン12には、エンジン12の動力によって駆動される補機類として、例えばエアコンのコンプレッサ40やオルタネータ42がベルトやチェーン等を介して機械的に常時接続されている。
図2は、エンジン12の吸排気系統の一例を説明する断面図で、吸気通路100には前記燃料噴射装置22、電子スロットル弁24の他、吸入空気量Qを検出する吸入空気量センサ54、エアクリーナ102、バキュームセンサ106等が設けられている。電子スロットル弁24は、弁体108およびスロットルモータ110等を有するとともに、弁体108の開度(スロットル弁開度)θthを検出するスロットル弁開度センサ56を備えている。排気通路120には触媒122、124、空燃比センサ126、酸素センサ128等が設けられているとともに、吸気通路100との間にEGR(Exhaust-Gas Recirculation)通路130が設けられている。EGR通路130は、排気の一部を吸気通路100へ戻して再燃焼させるためのもので、EGR通路130にはEGRクーラ132およびEGRバルブ134が設けられている。また、エンジン12のシリンダ部140には、クランク軸142の回転すなわちエンジン回転数Ne を検出するエンジン回転数センサ58、エンジン冷却水の温度であるエンジン水温Tw を検出するエンジン水温センサ64、およびノックセンサ144が設けられており、シリンダヘッド部には吸排気弁と共にイグナイタ28が設けられている。
図1に戻って、トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸142に連結されているポンプ翼車と、自動変速機16の入力軸に連結されているタービン翼車と、ステータとを備えており、ポンプ翼車とタービン翼車との間で流体を介して動力伝達を行うとともに、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結するロックアップ(L/U)クラッチ30を備えている。ロックアップクラッチ30は、係合側油室内の油圧と開放側油室内の油圧との油圧差であるロックアップ差圧ΔPluに応じて摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチで、相対回転不能に完全係合させられることにより、ポンプ翼車とタービン翼車とが一体回転させられ、クランク軸142の回転が自動変速機16へ直接伝達される。開放側油室の油圧が高くされることにより、ポンプ翼車およびタービン翼車の相対回転が許容される開放状態となり、専ら流体を介して動力伝達が行なわれる。また、所定のスリップ状態で係合するようにロックアップ差圧ΔPluがフィードバック制御されることにより、例えば50rpm等の所定のスリップ量(差回転)ΔNluでタービン翼車およびポンプ翼車を回転させるフレックス制御が可能である。ロックアップ差圧ΔPluは、電子制御装置70から出力されるロックアップ制御信号Sluに従って油圧制御回路32の電磁調圧弁や電磁切替弁等が制御されることにより調圧され、ロックアップクラッチ30が完全係合状態、スリップ係合状態、開放状態の何れかの状態に切り替えられる。完全係合状態およびスリップ係合状態をまとめてロックアップON(L/UON)とも言い、動力伝達経路は接続状態となり、開放状態をロックアップOFF(L/UOFF)とも言い、動力伝達経路は遮断状態となる。トルクコンバータ14は流体式伝動装置で、ロックアップクラッチ30は動力伝達を接続遮断する断接装置である。
自動変速機16は、変速比(=入力回転数/出力回転数)が異なる複数のギヤ段を成立させることができる遊星歯車式の有段変速機で、複数のクラッチおよびブレーキの係合状態に応じて例えば前進5段および後進1段のギヤ段が成立させられる。複数のクラッチおよびブレーキは、シフトレバー等によるPRND等の選択レンジに応じて油圧制御回路32のマニュアルバルブが切り替えられるとともに、電子制御装置70から出力される変速制御信号Satに従って油圧制御回路32の電磁調圧弁や電磁切替弁等が制御されることにより、係合開放状態が切り替えられる。
車両10は、エンジン12や自動変速機16などを制御するための制御装置として電子制御装置70を備えている。電子制御装置70は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や自動変速機16の変速制御、ロックアップクラッチ30の係合開放制御などを実行する。電子制御装置70は、機能的にエンジン制御部72、変速制御部80、ロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)制御部90を備えている。電子制御装置70は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用、ロックアップクラッチ制御用等に分けて別々に設けられても良い。
電子制御装置70には、例えばアクセル操作量センサ52、吸入空気量センサ54、スロットル弁開度センサ56、エンジン回転数センサ58、タービン回転数センサ60、車速センサ62、エンジン水温センサ64等から、アクセルペダル50の操作量(アクセル操作量)Acc、エンジン12の吸入空気量Q、電子スロットル弁24の開度(スロットル弁開度)θth、クランク軸142の回転数であるエンジン回転数Ne 、トルクコンバータ14の出力回転数であるタービン回転数Nt 、車速V、エンジン冷却水の温度であるエンジン水温Tw など、制御に必要な各種の情報を表す信号が供給される。アクセル操作量Accは運転者の出力要求量に対応する。タービン回転数Nt は自動変速機16の入力軸の回転数(入力回転数)Ninに対応する。車速Vは自動変速機16の出力軸の回転数(出力回転数)Nout に対応する。電子制御装置70にはまた、補機類であるコンプレッサ40およびオルタネータ42から、それ等の作動の有無や作動状態(負荷)を表す信号が供給される。図2に記載のバキュームセンサ106、空燃比センサ126、酸素センサ128、ノックセンサ144からも、それぞれの検出信号が電子制御装置70に供給される。一方、電子制御装置70からは、エンジン12の作動を制御するためのエンジン制御信号として燃料噴射制御信号Se1、スロットル制御信号Se2、および点火時期制御信号Se3が出力されるとともに、自動変速機16の変速等に関する油圧制御のための変速制御信号Sat、ロックアップクラッチ30の係合開放状態を切り替えるためのロックアップ制御信号Slu等が出力される。
エンジン制御部72は、基本的にアクセル操作量Accおよび車速V等に基づいて燃料噴射制御信号Se1、スロットル制御信号Se2、および点火時期制御信号Se3を出力することにより、エンジン12の出力を制御する。また、エンジン制御部72は、減速時フューエルカット(F/C)制御部74を機能的に備えており、アクセル操作量Accが略0のアクセルOFFで惰性走行する前進走行のコースト減速時に、エンジン12に対する燃料供給を停止する減速時フューエルカット制御を行ない、エンジン12の自力回転を停止して燃費を向上させる。この減速時フューエルカット制御は、エンジン回転数Ne や車速V等に基づいて実施され、例えばエンジン回転数Ne が予め定められたフューエルカット許可回転数Nefcon 以上である場合に開始されるとともに、予め定められたフューエルカット復帰回転数Nefcoff以下になると、復帰制御部76によりエンジン12に対する燃料供給等を再開してエンジン12を始動する。
フューエルカット許可回転数Nefcon およびフューエルカット復帰回転数Nefcoffは同じでも良いが、Nefcon >Nefcoffとなるように所定のヒステリシスを設けることが望ましい。例えば図4に示すように、ロックアップクラッチ30がON(完全係合、スリップ係合)かOFF(開放)かに応じて、エンジン水温Tw をパラメータとして設定される。図4では、ロックアップクラッチ30がOFF(L/UOFF)の場合、フューエルカット許可回転数Nefcon はエンジン水温Tw に応じて2000rpm~3500rpm程度の範囲で可変設定され、フューエルカット復帰回転数Nefcoffはエンジン水温Tw に応じて1000rpm~2500rpm程度の範囲で可変設定される。また、ロックアップクラッチ30がON(L/UON)の場合、フューエルカット許可回転数Nefcon はエンジン水温Tw に拘らず1000rpm程度に設定され、フューエルカット復帰回転数Nefcoffはエンジン水温Tw に拘らず900rpm程度に設定される。
また、ロックアップクラッチ30がONの場合には、例えば図5に示すように車速Vをパラメータとして切り替えられ、フューエルカット許可回転数Nefcon については、予め定められた切替車速Vfcon(図5では約30km/h)よりも高車速では1000rpm程度で、切替車速Vfcon以下になると2500rpm程度とされる。フューエルカット復帰回転数Nefcoffについては、補機負荷Faux の大小に応じて切替車速Vfcoff が変更される。すなわち、補機負荷Faux が大の場合は、図5に実線で示すように切替車速Vfcoff ≒30km/hで切り替えられ、その切替車速Vfcoff よりも高車速では900rpm程度で、切替車速Vfcoff 以下になると1400rpm程度とされる。また、補機負荷Faux が小の場合は、図5に一点鎖線で示すように切替車速Vfcoff ≒20km/hで切り替えられ、その切替車速Vfcoff よりも高車速では900rpm程度で、切替車速Vfcoff 以下になると1400rpm程度とされる。補機負荷Faux は、補機類であるコンプレッサ40およびオルタネータ42の負荷であり、エアコンがONでコンプレッサ40が作動状態の場合、或いはオルタネータ42の電気負荷が予め定められた判定値以上の場合には、補機負荷Faux が大とされる。図5では、補機負荷Faux の大小で切替車速Vfcoff が2段階で変更されるが、切替車速Vfcoff を補機負荷Faux の大きさに応じて3段階以上の多段階で変更したり連続的に変更したりしても良い。フューエルカット許可回転数Nefcon の切替車速Vfconについても、補機負荷Faux に応じて変更されるようにしても良い。また、フューエルカット許可回転数Nefcon やフューエルカット復帰回転数Nefcoffを、補機負荷Faux に応じて上下変化させることも可能である。
図1に戻って、変速制御部80は、例えば車速Vやアクセル操作量Acc等の車両状態をパラメータとして予め定められた変速マップ(変速条件)に従って変速判断を行い、必要に応じて変速制御信号Satを出力することにより、自動変速機16のギヤ段を自動的に切り換える。具体的には、複数の前進ギヤ段は、車速Vが低い程変速比が大きい低速側のギヤ段に変速され、アクセル操作量Accが略0のアクセルOFFのコースト減速時も、車速Vの低下に伴って高速側ギヤ段から低速側ギヤ段へ順次変速される。また、シフトレバー等による運転者の変速要求に従って変速制御信号Satを出力することにより、自動変速機16のギヤ段を切り換えるマニュアル変速を行なう。変速時には、必要に応じてエンジン12のトルクダウン指令等をエンジン制御部72に出力することにより、点火時期の遅角制御等によってエンジントルクを一時的に低下させる。
ロックアップクラッチ制御部90は、ロックアップクラッチ30の作動状態を切替制御するもので、ロックアップ制御信号Sluに従ってロックアップ差圧ΔPluを制御することにより、ロックアップクラッチ30を完全係合状態、スリップ係合状態、開放状態の何れかの状態に切り替える。例えば車速Vおよびスロットル弁開度θth等の車両状態をパラメータとして、ロックアップ完全係合領域、スリップ係合領域、ロックアップオフ領域を有する予め定められた関係(ロックアップ領域線図)を用いて、実際の車速Vおよびスロットル弁開度θth等に応じてロックアップ完全係合領域、スリップ係合領域、ロックアップオフ領域の何れの領域であるかを判断する。そして、ロックアップクラッチ30が、その判断した領域に対応する作動状態になるように、ロックアップ差圧ΔPluを制御するロックアップ制御信号Sluを油圧制御回路32に対して出力する。すなわち、ロックアップ完全係合領域では完全係合状態とし、スリップ係合領域ではスリップ係合状態とし、ロックアップオフ領域では開放状態とする。
ロックアップクラッチ制御部90は、減速時フレックス制御部92を機能的に備えており、アクセル操作量Accが略0で惰性走行する前進走行のコースト減速時に、ロックアップクラッチ30を所定のスリップ係合状態とするためのロックアップ制御信号Sluを出力する減速時フレックス制御を実行する。このようにコースト減速時にロックアップクラッチ30がスリップ係合させられると、駆動輪側からの逆入力がエンジン12側へ伝達され、エンジン回転数Ne がタービン回転数Nt 付近まで引き上げられるため、前記減速時フューエルカット制御部74による減速時フューエルカット制御の適用領域(車速範囲)が拡大されて燃費が向上する。この減速時フレックス制御は、減速時フューエルカット制御部74による減速時フューエルカット制御と協調して実行され、エンジン回転数Ne がフューエルカット復帰回転数Nefcoff付近に達した場合、或いは車両の急停止判定が為された場合には、エンジンストールを回避するために中止され、ロックアップクラッチ30を開放状態とする。
次に、前記エンジン制御部72に設けられた復帰制御部76による復帰制御を具体的に説明する。復帰制御部76による復帰制御は、図3のフローチャートのステップS1~S11(以下、ステップを省略して単にS1~S11という)に従って実行される。このフローチャートにおいて菱形で示す判断ステップのYESは肯定を意味し、NOは否定を意味する。
図3のS1では、予め定められた復帰制御実施条件を満たすか否かを判断し、復帰制御実施条件を満たす場合はS2以下の復帰制御を実行するが、満たさない場合はそのまま終了する。復帰制御実施条件は、例えばアクセル操作量Accが略0のアクセルOFFであること、減速時フレックス制御部92による減速時フレックス制御の実行中であること、減速時フューエルカット制御部74による減速時フューエルカット制御の実行中であること、の条件を総て満たす場合などである。
S2では、エンジン回転数Ne がフューエルカット復帰回転数Nefcoff以下か否かを判断し、Ne ≦Nefcoffの場合はS3以下を実行するが、Ne >Nefcoffの場合はS11を実行し、減速時フレックス制御を伴う減速時フューエルカット制御を継続する。フューエルカット復帰回転数Nefcoffは、車速V、エンジン水温Tw 、ロックアップ条件等に基づいて前記図4、図5のデータマップ等に従って可変設定され、ここでは図5において実線で示すように補機負荷Faux が大の場合のフューエルカット復帰回転数Nefcoffが用いられる。
S2の判断がYESの場合に実行するS3では、補機負荷Faux が大の高負荷時か否かを判断し、補機負荷Faux が大の高負荷時、すなわちエアコンがONでコンプレッサ40が作動状態か、或いはオルタネータ42の電気負荷が予め定められた判定値以上の場合には、S4以下を実行する。また、補機負荷Faux が小の低負荷時、すなわちエアコンがOFFでコンプレッサ40が非作動状態であり、且つオルタネータ42の電気負荷が予め定められた判定値より低い場合には、S9を実行し、車速Vが予め定められたロックアップスリップ下限車速Vlu1 以下か否かを判断する。この時のロックアップスリップ下限車速Vlu1 は、例えば補機負荷Faux が小の時のフューエルカット復帰回転数Nefcoffの切替車速Vfcoff (図5では約20km/h)と同程度の車速が設定され、S9の判断がNOの場合すなわちV>Vlu1の場合は前記S11を実行して減速時フューエルカット制御を継続する。また、S9の判断がYESの場合すなわちV≦Vlu1の場合はS10を実行し、燃料供給等を再開してエンジン12を始動する復帰制御を行なうとともに、ロックアップクラッチ30を開放してエンジンストールを防止する。ロックアップスリップ下限車速Vlu1 は、低負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する復帰判定車速に相当し、低負荷時には自動変速機16が第2速ギヤ段等の低速ギヤ段でS10の復帰制御が行なわれる。ロックアップクラッチ30の開放は、前記ロックアップクラッチ制御部90に対して減速時フレックス制御部92による減速時フレックス制御を中止する指令等を出力することにより、そのロックアップクラッチ制御部90によって実行される。
S3の判断がYESの場合に実行するS4では、車速Vが予め定められたロックアップスリップ下限車速Vlu2 以下か否かを判断する。この時のロックアップスリップ下限車速Vlu2 は、例えば補機負荷Faux が大の時のフューエルカット復帰回転数Nefcoffの切替車速Vfcoff (図5では約30km/h)と同程度の車速が設定され、S4の判断がNOの場合すなわちV>Vlu2 の場合は前記S11を実行して減速時フューエルカット制御を継続する。また、S4の判断がYESの場合すなわちV≦Vlu2 の場合はS5を実行し、「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」の実施条件が成立するか否かを判断する。この実施条件は、例えば以下の(1) ~(5) の条件を総て満たす場合で、S5の実施条件が成立した場合はS6を実行するが、S5の実施条件が成立しない場合は前記S10を実行し、エンジン12を始動する復帰制御を行なうとともにロックアップクラッチ30を開放する。
(1) 車速Vがトルクダウン実施車速範囲内(例えば20km/h~40km/h)
(2) エンジン回転数Ne が所定回転数(例えば目標アイドル回転数+50rpm)以上
(3) 自動変速機16のギヤ段が所定ギヤ段(例えば第4速ギヤ段または第3速ギヤ段)
(4) エンジン回転数Ne が急低下中(例えば-20rpm/8ms以下)でない
(5) エンジン水温Tw が所定水温(例えば70℃)以上
S5の実施条件が成立した場合に実行するS6では、ロックアップクラッチ30の減速時フレックス制御を継続したまま燃料供給等を再開してエンジン12を始動する復帰制御を行なうとともに、点火時期の遅角制御によってエンジントルクを通常よりも低下させる、「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」を実施する。この時のトルクダウン量は、例えばエンジン12の連れ回りによって適度な減速感が得られるように、車速Vやギヤ段毎のISC(Idle Speed Control:アイドル回転数制御)要求トルク等に基づいて定められる。具体的には、例えば図10に示されるように適度な減速感が得られる車両前後Gと車速Vとの予め求められた関係に基づいて、適度な減速感が得られる車両前後Gとなるように、例えば車速Vが20km/h~30km/h程度の車速領域では車両前後Gが-0.2m/s2 ~-0.3m/s2 程度となるように、トルクダウン量が設定される。前記S4のロックアップスリップ下限車速Vlu2 は、高負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する復帰判定車速に相当し、S9の低負荷時のロックアップスリップ下限車速Vlu1 よりも高い車速が定められており、結果的に高負荷時には低負荷時に比較して変速比が小さい高速側ギヤ段、例えば第4速ギヤ段または第3速ギヤ段でS6の復帰制御が行なわれる。
次のS7では、「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」の実施条件が未成立か否かを判断する。この時の実施条件としては、例えばS5の実施条件をそのまま用いることができるが、異なる条件を定めることもできる。そして、実施条件が成立する場合すなわちS7の判断がNOの場合はS6の制御を繰り返し実行する一方、例えば車速Vが20km/hよりも低下するなど実施条件が未成立となりS7の判断がYESになった場合には、S8を実行する。S8では、エンジン12のトルクダウン制御を禁止し、通常の点火時期に戻すとともに、ロックアップクラッチ30を開放してエンジンストールを防止する。ロックアップクラッチ30の開放は、前記ロックアップクラッチ制御部90に対して減速時フレックス制御部92による減速時フレックス制御を中止する指令等を出力することにより、そのロックアップクラッチ制御部90によって実行される。
図6は、補機負荷Faux が大きい高負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する際の車速Vや車両前後G等の変化を示したタイムチャートの一例で、実線は図3のフローチャートに従って復帰制御が行なわれた本実施例の場合である。図6において、時間t1はS3、S4、S5の判断が何れもYESになり、S6の「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」による復帰制御が開始された時間であり、フューエルカット指示フラグが減速時フューエルカット制御からの復帰を表すOFFになる。これにより、ロックアップクラッチ30の減速時フレックス制御を継続したまま燃料供給等によりエンジン12が始動されるとともに、点火時期の遅角によるトルクダウン制御でエンジン12のトルクが通常よりも低下させられ、車両前後Gが-0.2m/s2 ~-0.3m/s2 程度に維持されて適度な減速感が得られる。図6では、エンジン12の始動時(時間t1の直後)に一時的に車両前後Gが上昇しているが、制振制御を追加することで抑制することも可能である。
これに対し、図6の車両前後Gの欄の一点鎖線は、補機負荷Faux の大きさに拘らず図3のS9~S11に従って復帰制御が実行される従来装置の場合で、車速Vがロックアップスリップ下限車速Vlu1 (例えば20km/h程度)以下になるまでS11の通常の減速時フューエルカット制御および減速時フレックス制御が継続される。この場合、補機負荷Faux が大きいことからエンジン12の連れ回りによる負荷(抵抗)が大きく、ダウンシフトと相まって車両前後Gが-0.6m/s2 程度以下まで低くなり、減速Gが強くなり過ぎて運転者に違和感を生じさせる可能性がある。
一方、図6の車速Vおよび車両前後Gの欄の破線は、減速Gが強くなり過ぎることを防止するため、S3で高負荷時か否かを判断するとともに、YESの場合にはS4を実施し、車速Vがロックアップスリップ下限車速Vlu2 (例えば30km/h程度)以下になったらS10の復帰制御を行なう場合である。この場合は、ロックアップクラッチ30が開放されてエンジン12が動力伝達経路から切り離されるため、エンジン12の連れ回りによる抵抗(エンジンブレーキ)が得られなくなって車両前後Gが上昇(減速Gが減少)し、減速Gの急減や空走感により運転者に違和感を生じさせる可能性がある。本実施例では、この車両前後Gの変化を抑制するため、S6の「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」による復帰制御を実施するようにしたのであり、車両前後Gが矢印α(例えば0.2m/s2 程度)だけ低下させられて適度な減速感が得られるようになる。
図7は、補機負荷Faux が大きい高負荷時において図6の時間t1以後の復帰制御中、すなわち図3のフローチャートのS6の「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」の実行中に、アクセル操作された場合の車速V、エンジン回転数Ne 、および車両前後Gの変化を示したタイムチャートの一例である。図7の実線は、S6の「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」による復帰制御が行なわれる本実施例の場合で、破線は、図6の破線と同様に高負荷時に車速Vがロックアップスリップ下限車速Vlu2 (例えば30km/h程度)以下になったらS10の通常の復帰制御が行なわれる場合である。
図7の時間t2は、アクセルペダル50が踏込み操作された時間で、実線で示す本実施例ではロックアップクラッチ30が減速時フレックス制御によりスリップ係合させられていることから、エンジン12の吹きが抑制されるとともに車両前後Gが速やかに上昇し、優れた駆動力応答性が得られる。これに対し、破線で示す通常の復帰制御の場合には、ロックアップクラッチ30が開放されているためエンジン12が吹き上がるとともに車両前後Gの上昇が遅くなり、駆動力応答性が悪い。すなわち、本実施例によればエンジン回転数Ne の吹き上がりが矢印βで示すように抑制されるとともに、車両前後Gの立ち上がりが矢印γで示すように200ms程度早くなる。
図8は、補機負荷Faux が大きい高負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する際の車速Vの低下に伴う車両前後Gの変化を例示した図で、実線は図3のフローチャートに従って復帰制御が行なわれた本実施例の場合である。この場合、図3におけるS6の「減速時フレックス制御+トルクダウン制御」による復帰制御が行なわれることにより、図8の「F/C復帰+L/Uフレックス+トルクダウン」の領域に示すように車両前後Gが-0.2m/s2 ~-0.3m/s2 程度に維持され、適度な減速感が得られる。これに対し、図8の破線は、図6の破線と同様に車速Vがロックアップスリップ下限車速Vlu2 以下になったらS10の通常の復帰制御を行なう場合で、車両前後Gが急に上昇(減速Gが急減)して空走感が生じる。なお、図8における「F/C+L/Uフレックス」の領域は、図3のS11の減速時フューエルカット制御が行なわれた領域であり、「L/U開放+トルクダウン禁止」の領域は、図3のS8が実施された領域である。
図9は、補機負荷Faux が小さい低負荷時に図3のフローチャートに従って復帰制御が行なわれた場合の車速Vの低下に伴う車両前後Gの変化を例示した図で、従来と同様の復帰制御が行なわれる。すなわち、車速Vがロックアップスリップ下限車速Vlu1 以下になり、S9の判断がYESになったらS10の通常の復帰制御が行なわれるため、高負荷時に比較して低車速まで減速時フューエルカット制御が実行され、従来と同様の燃費向上効果が得られる。なお、図9における「F/C+L/Uフレックス」の領域は、図3のS11の減速時フューエルカット制御が行なわれた領域であり、「F/C復帰+L/U開放」の領域は、図3のS10の通常の復帰制御が行なわれた領域である。
このように、本実施例の車両10の電子制御装置70においては、補機負荷Faux が大きい高負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する際に、減速時フレックス制御を継続してロックアップクラッチ30をスリップ係合状態に保持したまま燃料供給等を再開してエンジン12を始動するとともにトルクダウン制御を実施する(S6)。このため、減速Gを適切に維持できるとともに、その後のアクセル操作時にはエンジン回転数Ne の吹き上がりを抑制しつつ駆動力を速やかに発生させることができるなど、フューエルカット復帰時のドライバビリティの悪化が抑制される。
また、上記高負荷時でない低負荷時に減速時フューエルカット制御から復帰する際には、従来と同様にロックアップクラッチ30を開放して動力伝達経路からエンジン12を切り離すとともに、トルクダウン制御を行なうことなく燃料供給等を再開してエンジン12を始動する(S10)。その場合に、この低負荷時の復帰制御は高負荷時の復帰制御に比較して低車速で実施されるため、従来と同様の燃費向上効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。