〔概要〕
本実施形態に係る診断装置10は、自動車製造工場等に設けられる車体等の搬送対象物である物品を搬送するコンベヤ等を含む物品搬送設備1の異常診断を行うものである。診断装置10が診断対象とする設備は、コンベヤ等を用いて物品を搬送する設備であれば、どのようなものであってもよい。
まず、図1および図2を参照して、本実施形態に係る診断装置10が診断対象とする物品搬送設備1の例を説明する。図1は、物品搬送設備1として、フリクション駆動式のコンベヤで物品を搬送する設備を示す。図2は、チェン駆動式のコンベヤで物品を搬送する設備を示す。
〔フリクション駆動式〕
上述したように、図1は、物品搬送設備1の例であり、フリクション駆動式の搬送設備511を示す。搬送設備511は、下部案内用レール514に沿って、各台車515(図6の台車23に相当)のロードバー(図示せず)に作用して台車515を走行させる複数の走行装置531が配置されている。なお、走行装置531の1台は必ず、下部案内用レール514に案内される台車515のロードバーに作用するように配置されている。各走行装置531は、ロードバーの被動側面を左右両側から挟む摩擦駆動輪532(図6のドライブローラ24に相当)とバックアップローラ533(図6のバックアップローラ21に相当)、および摩擦駆動輪532を駆動するモータ(図示せず)から構成され、摩擦駆動輪532とバックアップローラ533とは、ロードバーの移動経路、すなわち搬送ラインpに対し略直角水平方向に横動可能に支持されると共にバネ(図示せず)によりロードバー側へ付勢され、摩擦駆動輪532がロードバーの被動側面に確実に圧接するように構成されている。また走行装置531毎に、台車515の在席(有り無し)を、ロードバーの有無により検出する磁気センサからなる在席検出器536が設けられている。
〔チェン駆動式〕
上述したように、図2は、物品搬送設備1の例であり、チェン駆動式の搬送設備610の一例を示す。搬送設備610では、搬送用走行体(図示せず)の循環走行経路中に、駆動チェン624(図9のチェン30に相当)を備えたチェン駆動区間630と、摩擦駆動区間631とが設定されている。摩擦駆動区間631における駆動方式は上述した図1の搬送設備511と同様である。摩擦駆動区間631には、ロードバー(図示せず)の全長より長くない間隔で、摩擦駆動手段632が搬送用走行体の走行経路に沿って配設されている。摩擦駆動手段632は、摩擦駆動輪と、この摩擦駆動輪を回転駆動する減速機付きモータ、及び摩擦駆動輪を搬送用走行体のロードバーにおける摩擦駆動面の片側に圧接させるための付勢手段から構成されている。チェン駆動区間630に沿って回動するように掛張される駆動チェン624は、チェン駆動区間630の終端から始端に至る戻り経路部645において、駆動手段646(図9の駆動装置28に相当)によって駆動されると共に、適度な張力を維持するようにテークアップ手段647によって緊張される。又、チェン駆動区間630内には、定停止位置648a,648bが設定される。
〔診断装置10の要部構成〕
次に、図3を参照して、診断装置10について説明する。図3は、診断装置10の要部構成を示す機能ブロック図である。診断装置10は、物品搬送設備1に含まれる1または複数の診断対象2の異常診断を行う装置である。図3に示すように、診断装置10は、取得部11および診断部12を含む。
取得部11は、物品搬送設備1に含まれる診断対象2の異常診断に用いる複数種類の計測データを取得するものである。計測データの例としては、以下のものが挙げられる。なお、本明細書において、「近傍」とは「隣接位置」および「近接位置」の意味を含むものとする。
・振動データ:診断対象2または診断対象2の近傍の振動を示すデータ。
・電流データ:診断対象2に供給される電流を示すデータ。
・温度データ:診断対象2または診断対象2の近傍の温度を示すデータ。
・音データ:診断対象2の近傍で集音された音を示すデータ。
振動データは、診断対象2またはその近傍に振動計(例えば、加速度センサ)を設置することにより得ることができる。電流データは、診断対象2に供給される電流を電流計で計測することにより得ることができる。電流が供給される診断対象2の典型例はモータ25である。温度データは、診断対象2またはその近傍に温度計を設置することにより得ることができる。音データは、診断対象2またはその近傍に集音装置(マイク)を設置することにより得ることができる。以下では、振動計、電流計、温度計、集音装置を総称してセンサ3とも呼ぶ。
取得部11は、診断対象2またはその近傍に設置されたセンサ3により得られた各計測データを取得する。
診断部12は、診断テーブル121を用いて、診断対象2の異常診断を行う。具体的には、診断部12は、取得部11で取得した計測データのいずれかが当該計測データに応じた所定状態に到達したとき、当該計測データ、および、過去に所定状態に到達済みの計測データの各々の到達順番に基づいて、診断対象2の異常診断を行う。
なお、診断部12が診断する診断対象2は1つであってもよいし複数であってもよい。また、診断対象2が複数の場合、計測データの種類の組合せは診断対象2毎に異なっていてもよい。
ここで、図4および図5を参照して、診断テーブル121について説明する。図4および図5は、診断テーブル121の例を示す図である。詳細には、図4は、診断テーブル121に含まれる順番テーブル1211の例を示す図であり、図5は、診断テーブル121に含まれる基準テーブル1212の例を示す図である。
順番テーブル1211は、診断対象2ごとに、計測データが所定状態に到達する順番を規定するものである。計測データの各々が所定状態に到達した順番が、順番テーブル1211において予め定められた順番と一致するとき、診断部12は、診断対象2が異常である、または診断対象2に異常の可能性があると診断する。
具体的には、(1)診断対象2から得られる計測データの「全て」が所定状態に到達した状態において、それらの到達順番が順番テーブル1211において予め定められた順番と一致するとき、診断部12は、診断対象2が「異常である」と診断する。(2)診断対象2から得られる計測データのうち「一部」が所定状態に到達した状態において、それらの到達順番が順番テーブル1211において予め定められた順番と一致するとき、診断部12は、診断対象2が「異常の可能性がある」と診断する。この場合において「可能性がある」と診断する理由は、まだ全ての計測データが所定状態に至っていないためである。
順番テーブル1211に示す例では、診断対象2として、ガイドローラ33、レール22、台車23のホイール231、モータ25、減速機26、ドライブシャフト回転部27、チェン30のそれぞれについての計測データの順番が規定されている。なお、これらに加えて、診断対象2として、フロア、ベルト、物品搬送設備1への給電のそれぞれについての計測データの順番が規定されてもよい。ここで、フロアとは、搬送のための台車等が走行する床面のことである。この場合、台車がフロアを走行して物品を搬送するような物品搬送設備1を想定している。また、ベルトとは、台車23を移動させるための駆動系に用いられるものである。この場合、駆動系にベルトが用いられる場合を想定している。
順番テーブル1211に示す例では、ガイドローラ33については、1番目が音データ、2番目が振動データ、3番目が電流データであることが規定されている。レール22については、1番目が振動データ、2番目が電流データ、3番目が音データである場合(走行面に段差が生じた場合)と、1番目が電流データ、2番目が振動データ、3番目が音データである場合(変形その1)と、1番目が電流データ、2番目が音データ、3番目が温度データである場合(変形その2)と、1番目が電流データ、2番目が振動データ、3番目が音データである場合(異物の挟まった場合)とが規定されている。レール22については、異常の内容によって、影響が出る順序が異なるため、複数の順番が規定されている。ホイール231については、1番目が振動データ、2番目が音データ、3番目が電流データであることが規定されている。モータ25については、1番目が電流データ、2番目が音データ、3番目が温度データ、4番目が振動データであることが規定されている。なお、これは、モータ25の機械的な故障に対応する順番である。減速機26については、1番目が電流データ、2番目が音データ、3番目が温度データ、4番目が振動データであることが規定されている。ドライブシャフト回転部27については、1番目が音データ、2番目が振動データ、3番目が電流データ、4番目が温度データであることが規定されている。チェン30については、1番目が振動データ、2番目が電流データ、3番目が音データであることが規定されている場合(伸びが発生した場合)と、1番目が電流データ、2番目が振動データ、3番目が音データである場合(異物が挟まった場合)とが規定されている。チェン30については、異常の内容によって、影響が出る順序が異なるため、複数の順番が規定されている。
また、フロアについては、1番目が振動データ、2番目が電流データ、3番目が音データである場合(走行面に段差が生じた場合)と、1番目が電流データ、2番目が振動データ、3番目が音データである場合(異物が挟まった場合)とが規定されている。フロアについては、異常の内容によって、影響が出る順序が異なるため、複数の順番が規定されている。ベルトについては、1番目が電流データ、2番目が振動データ、3番目が音データであることが規定されている。物品搬送設備1への給電については、1番目が電流データであることのみが規定されている。
なお、上記は一例であり、異常の内容に応じて上記とは異なる順序が規定されていてもよい。
基準テーブル1212は、各診断対象2における計測データのそれぞれについて、判定基準を規定するものである。診断部12は、計測データが、以下に示す判定基準を満たしたとき、当該計測データが所定状態に到達したと判断する。また、以下に示すように、診断対象2毎に、診断に必要な計測データの組み合わせは異なる。図5に示す例では、判定基準は以下の通りである。なお、以下において「連続的に」とは、時間軸に沿って連続的であることを意味し、例えば1秒以上持続することを意味する。
ガイドローラ33は、不具合が生じると、ガイドローラ33またはガイドローラ33の近傍で、ガイドローラ33の回転に同期した音が発生する。それとともに振動が発生する。また、これに伴い、供給される電流も上昇する。これらを踏まえ、ガイドローラ33についての判定基準は、音データが「閾値を超えてサイクリックに発生」であり、振動データが「閾値を超えたサイクリックな波形」であり、電流データが「振動に同期し、閾値を超えてサイクリックに発生」とした。
レール22の走行面に剥離等の不具合が生じると、当該箇所を台車23が通るたびに、レール22またはレール22の近傍で振動が発生する。また、当該箇所が抵抗となり、当該箇所を移動するためにモータ25に供給される電流が増加する。さらに、上記箇所を台車23が通るたびに、レール22またはレール22の近傍で騒音が発生する。これらを踏まえ、レール22についての判定基準の1つは、振動データが「閾値を超えてパルスが発生」であり、電流データが「パルスが発生」であり、音データが「閾値を超えてパルスが発生」とした。なお、フロアの走行面に段差等の不具合が生じた場合は、上述したレール22の走行面に剥離等の不具合が生じた場合と同様に考えることができる。
また、レール22に変形が生じると、当該箇所が走行抵抗となり、当該箇所を移動するためにモータ25に供給される電流が増加する。そして、上記箇所を台車23が通るたびに、レール22またはレール22の近傍で振動が発生する。また、これに伴いレール22またはレール22の近傍で騒音も発生する。これらを踏まえ、レール22についての判定基準のもう1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」とした。
また、レール22に小さな変形が生じると、当該箇所を移動するためにモータ25に供給される電流が増加する。その後、変形が大きくなると、当該箇所を通るたびに、音が発生する。さらに、変形が大きくなると振動も発生する。これらを踏まえ、レール22についての判定基準のさらにもう1つは、電流データが「閾値を超えて上昇」であり、音データが「閾値を超えて上昇」であり、振動データが、「閾値を超えて上昇」とした。
また、レール22と台車23との間に異物が挟まると、当該箇所が走行抵抗となり、当該箇所を移動するためにモータ25に供給される電流が増加する。そして、上記箇所を台車23が通るたびに、レール22またはレール22の近傍で振動が発生する。また、これに伴いレール22またはレール22の近傍で騒音も発生する。これらを踏まえ、レール22についての判定基準のさらにもう1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」とした。なお、フロアと台車との間に異物が挟まる不具合が生じた場合、および、ベルトに異物が挟まる不具合が生じた場合は、上述したレール22と台車23との間に異物が挟まる不具合が生じた場合と同様に考えることができる。
ホイール231に剥離等の不具合が生じると、ホイール231またはホイール231の近傍で振動が発生する。また、ホイール231またはホイール231の近傍で騒音が発生する。また、剥離箇所が抵抗となり、モータ25に供給される電流が増加する。これらを踏まえ、ホイール231についての判定基準は、振動データが「閾値を超えて上昇」であり、音データが「閾値を超えて上昇」であり、電流データが「閾値を超えて上昇」とした。
モータ25に供給される電流は、モータ25の抵抗の大きくなるにつれて上昇する。また、モータ25またはモータ25の近傍の温度は、モータ25に供給される電流が上昇するにつれて上昇する。また、モータ25またはモータ25の近傍の音は、モータ25のオイルが減少して歯車が摩耗するにつれて大きくなる。また、モータ25またはモータ25の近傍の振動は、モータ25の歯車が摩耗するにつれて大きくなる。これらを踏まえ、モータ25についての判定基準は、電流データが「連続的に上昇」であり、音データが「連続的に上昇」であり、温度データが「連続的に上昇」であり、振動データが「連続的に上昇」とした。
減速機26に供給される電流は、減速機26内の抵抗の大きくなるにつれて上昇する。また、減速機26または減速機26の近傍の温度は、減速機26に供給される電流が上昇するにつれて上昇する。また、減速機26または減速機26の近傍の音は、減速機26内のオイルが減少して歯車が摩耗するにつれて大きくなる。また、減速機26または減速機26の近傍の振動は、減速機26の歯車が摩耗するにつれて大きくなる。これらを踏まえ、減速機26についての判定基準は、電流データが「連続的に上昇」であり、音データが「連続的に上昇」であり、温度データが「連続的に上昇」であり、振動データが「連続的に上昇」とした。
ドライブシャフト回転部27は、回転等に不具合が生じると、ドライブシャフト回転部27またはドライブシャフト回転部27の近傍で、騒音が発生し、時間とともに大きくなる。それとともに振動が発生する。また、これに伴い、供給される電流も上昇する。これらを踏まえ、ドライブシャフト回転部27の判定基準は、音データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、振動データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、電流データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、温度データが「閾値を超えて連続的に上昇」とした。
チェン30は、速度切り替わりのタイミングで、チェン30の伸び等により駆動装置28とのピッチがずれることがある。ピッチがずれると、チェン30またはチェン30の近傍で振動が発生する。また、ずれたピッチに合わせるために駆動装置28に供給される電流が大きくなる。また、チェン30と駆動装置28との接触に伴い騒音も発生する。これらを踏まえ、チェン30の判定基準の1つは、振動データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」であり、電流データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」であり、音データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」とした。ここで、速度切り替わりのタイミングとは、例えば、回生から力行への切り替わりのタイミングである。なお、音データは判定対象として用いられなくてもよい。
また、チェン30と駆動装置28との間に異物が挟まると、当該箇所が抵抗となり、チェン30を駆動させるためにモータ25に供給される電流が増加する。それとともに、チェン30またはチェン30の近傍で振動が発生する。また、騒音も発生する。これらを踏まえ、チェン30についての判定基準のもう1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」とした。
また、物品搬送設備1に供給される電圧に異常が発生し、供給電圧が低下した場合、物品搬送設備1に供給される電流が大きくなる。これを踏まえ、物品搬送設備1に供給される電圧についての判定基準は、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」とした。換言すれば、電流データが、設定された閾値を超える状況が、設定された所定時間だけ連続する状態である。
また、診断部12は、判定基準として、計測データの変動が所定時間連続する、計測データの変動率が所定値以上である、計測データの波形と予め定められた波形との一致度が所定値以上であることを用いてもよい。
また、上記では、計測データのそれぞれが所定状態に達した順番に基づいて異常診断を行う構成について説明した。本発明はこれに限られるものではなく、所定状態に達した計測データの組合せに基づいて異常診断を行う構成であってもよい。この異常診断には機械学習により構築された学習モデルを用いてもよい。この学習モデルは、物品搬送設備1の納入初期の正常状態において収集された計測データを教師データとして機械学習することにより構築されてもよい。このように機械学習された学習モデルに計測データを入力すれば、正常状態である確率を推定結果として出力することができる。
〔診断対象2の例〕
次に、図6~図10、および図29を参照して、診断対象2の例について説明する。上述したように、診断対象2としては、ガイドローラ33、レール22、ホイール231、モータ25、減速機26、ドライブシャフト回転部27、チェン30が挙げられる。
図6~図8に、レール22、ホイール231、モータ25、減速機26、ドライブシャフト回転部27の例を示す。
図6は、フリクション駆動式の物品搬送設備1を簡略化して示した図である。また、図7は図6の領域Aの詳細を示す図である。図8は、図6の領域Bに示す台車23に取り付けられたホイール231とレール22との関係を示す図である。
図6に示す物品搬送設備1では、台車23に備え付けられたロードバー232が、ドライブローラ24によって駆動されることにより、台車23がレール22上を移動する構成となっている。図7に示すように、ドライブローラ24は、モータ25の回転が減速機26に伝わり、減速機26の回転に伴いドライブシャフト回転部27が回転することにより、回転する。ドライブローラ24が回転することにより、摩擦力によりロードバー232が移動し、台車23が移動する。バックアップローラ21は、ドライブローラ24と対になって、ロードバー232を挟むように設置されており、ドライブローラ24とバックアップローラ21とでロードバー232を挟むことにより、台車23を安定して移動させることができるようになっている。
また、図7に示すように、モータ25またはモータ25の近傍にセンサ3が設置されていてよい。同様に、減速機26または減速機26の近傍にセンサ3が設置されていてよい。モータ25またはモータ25の近傍に設置されたセンサ3は、振動、電流、温度、音をそれぞれ検出する複数のセンサを含んでいてもよい。また、減速機26または減速機26の近傍に設置されたセンサ3は、振動、温度、音をそれぞれ検出する複数のセンサを含んでいてもよい。
また、図8に示すように、台車23のホイール231が、レール22上を走ることにより、台車23が移動可能になっている。台車23のホイール231とレール22とは、直接、接触しており、何れかに不具合があれば、後述するように、接触に伴う騒音等が発生する構造である。
図9、図10にチェン30の例を示す。図9は、チェン駆動式の物品搬送設備1を簡略化して示した図である。図10は、図9の領域Cの詳細を示す図である。図9に示す物品搬送設備1では、図10に示すように駆動装置28が回転することによりチェン30が駆動され、これにより、台車29が移動する構成になっている。
図29にガイドローラ33の例を示す。図29は、物品搬送設備1の別の例における台車31の構成を示す図である。図29の81は、台車31を上から見た状態を示し、82は、台車31を進行方向側、または進行方向と反対側から見た状態を示す。図29の81に示すように、本例では、台車31の両側に台車31を挟むように設けられた2つの壁状のサイドガイド32が設けられ、このサイドガイド32によって、台車31の搬送経路が形成される。そして、台車31は、ガイドローラ33および走行車輪34を備え、走行車輪34によって移動するとともに、図29の82に示すように、ガイドローラ33がサイドガイド32に接触することによって、搬送経路を正確に移動する。
なお、台車31は単体で運用されてもよく、複数の台車31が連結された状態で運用されてもよい。また、台車31は公知の手段で外部から駆動されてもよく、台車31自身が駆動源を備えてもよい。
〔異常の発生例〕
次に、図11~図15を参照して、診断対象2における異常の発生例について説明する。図11は、図8に示すレール22に異常がある例を示す図であり、図12は、図8に示すホイール231に異常がある例を示す図である。
図11に示すように、レール22に剥離等のキズ61がある場合、台車23のホイール231が当該キズ61の箇所を通過するごとに短時間の振動および衝撃的な騒音が発生し得る。そこで、上述したレール22の判定基準のうち、走行面の段差等の異常診断に用いる判定基準では、振動データが「閾値を超えたパルスが発生」、音データが「閾値を超えてパルスが発生」としている。
また、図12に示すようにホイール231のレール22との接触面に剥離等のキズ62がある場合、ホイール231が1回転するごとに連続的な微振動および連続的な騒音が発生し得る。そこで、上述したホイール231の判定基準では、振動データが「閾値を超えて上昇」、音データが「閾値を超えて上昇」としている。
図13は、図10における、駆動装置28とチェン30との接触位置を示す図である。図14は、図13の領域Dにおいてチェン30のピッチに伸びがある状態を示す図であり、図15は、図13の領域Eにおいてチェン30のピッチに縮みがある状態を示す図である。
図13に示す領域Dにおいて図14に示すようなチェン30のピッチに伸びがある場合、そのまま駆動装置28と噛み合うと、チェン30のピッチと駆動装置28の歯車のピッチとがずれることになる。このため、チェン30と駆動装置28の歯車とが噛合うときに衝撃的な騒音および短時間の振動が発生し得る。また、チェン30のピッチを歯車のピッチに合わせようとするために、駆動装置28に瞬間的に大きな力が加わるため、駆動装置28を駆動するモータの電流値に微妙なパルスが発生し得る。また、図13に示す領域Eにおいて図15に示すようにチェン30のピッチが縮む場合、衝撃的な騒音および短時間の振動が発生し得る。そこで、上述したチェン30の判定基準では、振動データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」、電流データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」、音データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」としている。
〔異常診断例〕
次に、図16~図25を参照して、診断部12が異常と診断する場合の計測データの変化の例を示す。図16は、ガイドローラ33またはガイドローラ33の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図17~図19は、レール22またはレール22の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図20は、レール22またはレール22の近傍、もしくはチェン30またはチェン30の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図21は、ホイール231またはホイール231の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図22は、減速機26または減速機26の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図23は、ドライブシャフト回転部27またはドライブシャフト回転部27の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図24は、チェン30またはチェン30の近傍から得られた、振動データ、電流データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。図25は、物品搬送設備1への給電に関する電流データ、および、給電部(図示せず)における振動データ、温度データ、および音データの変化の一例を示す。
〔ガイドローラ33〕
上述したように、ガイドローラ33についての判定基準は、音データが「閾値を超えたサイクリックに発生」であり、振動データが「閾値を超えたサイクリックな波形」であり、電流データが「振動に同期し、閾値を超えてサイクリックに発生」である。
図16に示す例では、(1)まず、時刻t1、t2、t3、t4に閾値v1を超えるサイクリックな音が発生している。(2)次に、時刻t1、t2、t3、t4における音の発生に引き続いて、閾値v2を超えるサイクリックな振動が発生している。(3)また、振動の直後に、電流が閾値v3を超えている。よって、音データ、振動データ、電流データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、音データ、振動データ、電流データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、到達順番が1番として規定されている音データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にガイドローラ33に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている振動データが、音データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にガイドローラ33に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている電流データが、音データおよび振動データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、ガイドローラ33に異常ありと診断する。
なお、図16に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12はガイドローラ33に異常無しと診断する。なお、図16に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔レール22(走行面の段差)〕
上述したように、レール22についての判定基準の1つは、振動データが「閾値を超えたパルス状の波形」であり、電流データが「パルス状で発生」であり、音データが「閾値を超えてパルスが発生」である。
図17に示す例では、(1)まず、時刻t5に閾値v4を超えるパルス状の振動が発生している。(2)そして、時刻t5に引き続いて時刻t6にパルス状の電流が発生している。(3)そして、時刻t6に引き続いて時刻t7に、閾値v5を超える音が発生している。よって、振動データ、電流データ、音データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、振動データ、電流データ、音データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、時刻t5の時点で、到達順番が1番として規定されている振動データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22の走行面に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている電流データが、振動データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22の走行面に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている音データが、振動データおよび電流データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、レール22の走行面に異常ありと診断する。
〔レール22(変形その1)〕
上述したように、レール22についての判定基準の別の1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」である。
図18に示す例では、(1)まず、時刻t8に閾値v6を超える電流が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v6を超える状態となっている。(2)時刻t8に引き続いて時刻t9に閾値v7を超える振動が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v7を超える状態となっている。(3)時刻t9に引き続いて時刻t10に、閾値v8を超える音が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v8を超える状態となっている。よって、電流データ、振動データ、音データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、振動データ、音データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、時刻t8の時点から一定時間経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22の変形異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている振動データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22に変形異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている音データが、電流データおよび振動データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、レール22に変形異常ありと診断する。
〔レール22(変形その2)〕
上述したように、レール22についての判定基準のさらに別の1つは、電流データが「閾値を超えて上昇」であり、振動データが「閾値を超えて上昇」であり、音データが、「閾値を超えて上昇」である。
図19に示す例では、(1)まず、時刻t11に閾値v9を超える電流が発生し、それ以降上昇している。(2)時刻t11に引き続いて時刻t12に閾値v10を超える音が発生し、それ以降上昇している。(3)時刻t12に引き続いて時刻t13に、閾値v11を超える振動が発生し、それ以降上昇している。よって、電流データ、音データ、振動データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、音データ、振動データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、時刻t11の時点から所定時間経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22の変形異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている音データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22に変形異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている振動データが、電流データおよび音データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、レール22に変形異常ありと診断する。
〔レール22(異物の挟まり)〕
上述したように、レール22についての判定基準のさらに別の1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」である。
図20に示す例では、(1)まず、時刻t14に閾値v12を超える電流が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v12を超える状態となっている。(2)時刻t14に引き続いて時刻t15に閾値v13を超える振動が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値v13を超える振動が発生している。(3)時刻t15に引き続いて時刻t16に、閾値v14を超える音が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v14を超える状態となっている。よって、電流データ、振動データ、音データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、振動データ、音データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、時刻t14の時点から一定時間経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22に異物が挟まるような異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている振動データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にレール22に異物が挟まるような異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている音データが、電流データおよび振動データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、レール22に異物が挟まるような異常ありと診断する。
なお、図20に示すグラフは、チェン30に異物が挟まるような異常についても当てはめることができる。
なお、図17~図20に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12はレール22に異常無しと診断する。なお、図17~図20に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔ホイール231〕
上述したように、ホイール231についての判定基準は、振動データが「閾値を超えて上昇」であり、音データが「閾値を超えて上昇」であり、電流データが「閾値を超えて上昇」である。
図21に示す例では、(1)まず、時刻t17から振動が閾値v15を超えて上昇している。(2)次に、時刻t17に続く時刻t18に、閾値v16を超える音が発生し、上昇している。(3)そして、時刻t18に続く時刻t19に電流が閾値v17を超えて上昇している。よって、振動データ、音データ、電流データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、振動データ、音データ、電流データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、まず、時刻t1から所定時間経過した時点で、到達順番が1番として規定されている振動データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にホイール231に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている音データが、振動データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にホイール231に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている電流データが、振動データおよび音データに続いて所定状態に到達したことから、この時点において、診断部12は、ホイール231に異常ありと診断する。
なお、図21に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12はホイール231に異常無しと診断する。なお、図21に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔減速機26〕
上述したように、減速機26についての判定基準は、電流データが「連続的に上昇」であり、音データが「連続的に上昇」であり、温度データが「連続的に上昇」であり、振動データが「連続的に上昇」である。
図22に示す例では、(1)まず、時刻t20から電流値が連続的に上昇し、(2)時刻t20より後の時刻t21から音が連続的に上昇し、(3)時刻t21より後の時刻t22から温度が連続的に上昇し、(4)温度が上昇し始めた後、時刻t22より後の時刻t23から振動が連続的に上昇している。よって、電流データ、音データ、温度データ、振動データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、音データ、温度データ、振動データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、まず、時刻t20から所定時間が経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的に減速機26に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、時刻t21から所定時間が経過した時点で、到達順番が2番として規定されている音データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的に減速機26に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、時刻t22から所定時間が経過した時点で、到達順番が3番として規定されている温度データが、電流データおよび音データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的に減速機26に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
最後に、時刻t23から所定時間が経過した時点で、到達順番が4番として規定されている振動データが、電流データ、音データ、および温度データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、最終的に、減速機26に異常ありと診断する。
なお、図22に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12は減速機26に異常無しと診断する。なお、図22に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔モータ25〕
モータ25の機械的故障については、計測データの傾向は、減速機26と同じである。よって、ここでは、図22に示す例を用いて説明する。上述したように、モータ25についての判定基準は、減速機26と同様に、電流データが「連続的に上昇」であり、音データが「連続的に上昇」であり、温度データが「連続的に上昇」であり、振動データが「連続的に上昇」である。
図22に示す例では、(1)まず、時刻t20から電流値が連続的に上昇し、(2)時刻t20より後の時刻t21から音が連続的に上昇し、(3)時刻t21より後の時刻t22から温度が連続的に上昇し、(4)温度が上昇し始めた後、時刻t22より後の時刻t23から振動が連続的に上昇している。よって、電流データ、音データ、温度データ、振動データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、音データ、温度データ、振動データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、まず、時刻t20から所定時間が経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にモータ25に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、時刻t21から所定時間が経過した時点で、到達順番が2番として規定されている音データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にモータ25に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、時刻t22から所定時間が経過した時点で、到達順番が3番として規定されている温度データが、電流データおよび音データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にモータ25に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
最後に、時刻t23から所定時間が経過した時点で、到達順番が4番として規定されている振動データが、電流データ、音データ、および温度データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、最終的に、モータ25に異常ありと診断する。
なお、図22に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12はモータ25に異常無しと診断する。なお、図22に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔ドライブシャフト回転部27〕
上述したように、ドライブシャフト回転部27についての判定基準は、音データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、振動データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、電流データが「閾値を超えて連続的に上昇」であり、温度データが「閾値を超えて連続的に上昇」である。
図23に示す例では、(1)まず、時刻t24の時点で音が閾値v18を超え、連続的に上昇している。(2)次に、時刻t24に続く時刻t25の時点で振動が閾値v19を超え、連続的に上昇している。(3)そして、時刻t25に続く時刻t26の時点で、電流値が閾値v20を超え、連続的に上昇している。(4)時刻t26に続く時刻t27の時点で、温度が閾値v21を超え、連続的に上昇している。よって、音データ、振動データ、電流データ、温度データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、音データ、振動データ、電流データ、温度データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、まず、時刻t24から所定時間が経過した時点で、到達順番が1番として規定されている音データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にドライブシャフト回転部27に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、時刻t25から所定時間が経過した時点で、到達順番が2番として規定されている振動データが、音データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にドライブシャフト回転部27に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、時刻t26から所定時間が経過した時点で、到達順番が3番として規定されている電流データが、音データおよび振動データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にドライブシャフト回転部27に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
最後に、時刻t27から所定時間が経過した時点で、到達順番が4番として規定されている温度データが、音データ、振動データ、および電流データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、最終的に、ドライブシャフト回転部27に異常ありと診断する。
なお、図23に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12はドライブシャフト回転部27に異常無しと診断する。なお、図23に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔チェン30(伸び)〕
また、上述したように、チェン30の判定基準は、振動データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」であり、電流データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」であり、音データが「速度切り替わりタイミングと同期して閾値を超える」である。
図24に示す例では、(1)まず、時刻t28において速度切り替わりタイミングに同期して閾値v22を超える振動が発生している。(2)その直後の時刻t29に、電流値が閾値v23を超えている。(3)そして、その直後の時刻t30に閾値v24を超える音が発生している。その間、温度は、略一定である。よって、振動データ、電流データ、音データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、振動データ、電流データ、音データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、まず、時刻t28の時点で、到達順番が1番として規定されている振動データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にチェン30に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、時刻t29の時点で、到達順番が2番として規定されている電流データが、振動データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にチェン30に異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
最後に、時刻t30の時点で、到達順番が3番として規定されている音データが、振動データおよび電流データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、最終的に、チェン30に異常ありと診断する。
なお、図24に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合は、その時点で、診断部12は、チェン30に異常無しと診断する。なお、図24に示す例と異なる順番以外で計測データのいずれが所定状態に到達した場合に、異常個所を特定はせずに、「何かがおかしい」というような警告を出力する構成であってもよい。
〔チェン30(異物の挟まり)〕
上述したように、チェン30についての判定基準のさらに別の1つは、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」であり、振動データが「一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値を超える」であり、音データが、「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」である。
上述したように、チェン30に異物が挟まった場合は、図20を用いて説明したレール22に異物が挟まった場合と同じである。
すなわち、図20に示すように、(1)まず、時刻t14に閾値v12を超える電流が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v12を超える状態となっている。(2)時刻t14に引き続いて時刻t15に閾値v13を超える振動が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上周期的に閾値v13を超える振動が発生している。(3)時刻t15に引き続いて時刻t16に、閾値v14を超える音が発生し、それ以降一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値v14を超える状態となっている。よって、電流データ、振動データ、音データのそれぞれが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。また、所定状態に到達した順番は、電流データ、振動データ、音データの順番であるから、順番テーブル1211において予め規定されている順番と一致している。
この場合、時刻t14の時点から一定時間経過した時点で、到達順番が1番として規定されている電流データが最初に所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にチェン30に異物が挟まるような異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。
続いて、到達順番が2番として規定されている振動データが、電流データに続いて所定状態に到達したことから、この時点においては、診断部12は、将来的にチェン30に異物が挟まるような異常の可能性ありと診断し、診断処理を続行する。このときに、「近い将来に故障の可能性あり」というような表示を行う構成であってもよい。
続いて、到達順番が3番として規定されている音データが、電流データおよび振動データに続いて所定状態に到達したことから、診断部12は、チェン30に異物が挟まるような異常ありと診断する。
〔物品搬送設備1への給電〕
上述したように、物品搬送設備1への給電に関する判定基準は、電流データが「一定時間(例えば1秒)以上連続的に閾値を超える」である。図25に示す例では、時刻t31において電流値が閾値v25を超え、超えた状態が一定時間(例えば1秒)以上、続いている。この間、振動データ、温度データ、音データは、略一定である。よって、電流データが基準テーブル1212において規定された所定状態に到達している。したがって、診断部12は、時刻t31から一定時間が経過した時点で、物品搬送設備1への給電に異常ありと診断する。
〔処理の流れ〕
次に、図26を参照して、診断装置10における処理の流れについて説明する。図26は、診断装置10の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図26に示すように、まず、診断装置10の取得部11は、物品搬送設備1またはその近傍に設置されたセンサ3から計測データを取得する(S101、取得ステップ)。次に、診断部12は、取得した計測データのうち、診断対象2の診断に必要な全ての計測データが所定状態に到達したか否かを判定する(S102)。診断に必要な全ての計測データが所定状態に到達していれば(S102でYES)、診断部12は、各計測データが所定状態に到達した順番は、予め定められた順番であるか否かを判定する(S103)。予め定められた順番で、各計測データが所定状態に到達していれば(S103でYES)、診断部12は、当該診断対象2が異常、または異常の可能性があると診断する(S104、診断ステップ)。
以上が、診断装置10における処理の流れである。
〔学習モデルを用いた処理〕
診断部12は、計測データと所定状態とを教師データとして機械学習された学習モデルに対して前記計測データを入力して得られる出力値に基づき、前記所定状態に到達したか否かを判定するものであってもよい。
図27に、機械学習された学習モデル181を用いて推定処理を行う処理の流れの一例を示す。学習工程191では、教師データ182を学習プログラム183に入力することにより学習モデル181を構築する。本実施形態では、教師データ182として、上述した計測データと所定状態との組を用いる。
推定工程192では、学習工程191で構築された学習モデル181に、取得部11が取得した計測データ186を入力することにより、推定結果187を得る。推定結果は、一例として、診断対象2の異常の確率(出力値)である。診断部12は、推定結果187を元に、所定状態に到達したか否かを判定する。
学習モデルを用いた診断処理を行うことにより、計測データが単に閾値を超えた等では判断できないような異常についても、判断することが可能となる。
なお、学習工程191および推定工程192の実行主体は限定されるものではなく、診断部12でもよいし、診断装置10でもよいし、診断装置10と異なる装置(不図示)でもよい。また、学習モデルの所在は限定されるものではない。
〔変形例〕
次に、図28を参照して、診断装置10の変形例について説明する。図28は、診断装置10の変形例である診断装置10’の要部構成を示す機能ブロック図である。
図28に示すように、診断装置10’は、上述した診断装置10と比較して、要因推定部13を備える点が異なる。
要因推定部13は、稼働データ収集装置5が収集した、物品搬送設備1または診断対象2の稼働に関する稼働データを用いて、診断部12による診断結果の要因となる事象および箇所を推定する。
稼働データ収集装置5は、物品搬送設備1および診断対象2から取得できる稼働データについては、これらから稼働データを取得する。また、作業者による入力が必要な稼働データについては、作業者の入力を受け付けることにより、稼働データを取得する。
なお、ここでは、稼働データ収集装置5が稼働データを収集する構成として記載しているが、診断装置10’が物品搬送設備1および診断対象2から直接、稼働データを取得する構成であってもよい。この場合、稼働データ収集装置5で入力を受け付けていた稼働データについては、診断装置10’で作業者の入力を受け付けることにより稼働データを取得すればよい。
ここで、稼働データとは、例えば、診断対象2としての各装置の動作時間、動作回数、通電時間、設備設置期間(経過年)、初期調整内容、メンテナンス情報、推奨寿命等が挙げられる。動作時間、動作回数、通電時間については、稼働データ収集装置5は、例えば、物品搬送設備1または診断対象2から取得してもよい。また、設備設置期間、初期調整内容、メンテナンス情報については、例えば、作業者が、稼働データ収集装置5に内容を入力すればよい。
また、要因推定部13が推定する事象としては、例えば、寿命、初期調整不足、経年劣化、突発不良などが挙げられる。また、推定する箇所としては以下の例が挙げられる。
例えば、稼働データとして動作時間を取得した場合、要因推定部13は、走行に関するものであれば、車輪摩耗、ベアリング摩耗、レール、インバータ劣化などを要因箇所として推定できる。また、昇降に関するものであれば、チェンまたはワイヤー摩耗、スプロケット摩耗、ベアリング摩耗、ガイドレール摩耗、ガイドローラ摩耗、インバータ劣化などを要因箇所として推定できる。また、移載機に関するものであれば、スプロケット、ベアリング、インバータなどを要因箇所として推定できる。ここで、移載機とは、例えば、物品保管等のために用いられる自動倉庫で使用されるスタッカークレーンを想定している。
また、稼働データとして動作回数を取得した場合、要因推定部13は、走行に関するものであれば、走行用電磁開閉器、インバータ、ブレーキパッドなどを要因箇所として推定できる。また、昇降に関するものであれば、昇降用電磁開閉器、インバータ、ブレーキパッドなどを要因箇所として推定できる。また、移載機に関するものであれば、各移載機用電磁開閉器インバータ、ブレーキパッドなどを要因箇所として推定できる。
また、稼働データとして通電時間を取得した場合、要因推定部13は、低電圧電源劣化、コントローラ劣化、照明およびランプ劣化、インバータ劣化、コンデンサ劣化などを要因箇所として推定できる。
また、稼働データとして設備設置期間を取得した場合、要因推定部13は、プラスチック部品、ゴム製部品、コントローラ部品、配線関係などを要因箇所として推定できる。
また、要因推定部13は、稼働データにおける設備設置期間の長短に応じて、以下の通り推定を行ってもよい。ここで、例えば、長期とは、推定の対象となる部品ごとに設定された目安となる期間(平均寿命)を超える期間のことをいう。この期間は、耐久試験、例えば、100万回以上、または壊れるまでの繰り返し動作を行う試験を行い、この結果、メーカー推奨の使用期間(回数)、および、これまでの故障実績などに基づいて設定することができる。なお、稼働開始後数週間以内に発生する不良は初期不良と判断してもよい。
例えば、ガイドローラ33に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、経年的なガイドローラ摩耗と推定し、設備設置期間が短期であれば、初期調整不足と推定する。
レール22の走行面に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、経年的な走行面劣化と推定し、設備設置期間が短期であれば、一時的な障害と推定する。
レール22に変形異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、時間経過によるボルト緩みまたは固定材の変形と推定し、設備設置期間が短期であれば、初期の工事障害と推定する。
レール22に異物の挟まりがある場合、設備設置期間が長期であれば、稼働中の異物による搬送障害と推定し、設備設置期間が短期であれば、初期の工事障害と推定する。
ホイール231に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、寿命による劣化と推定し、設備設置期間が短期であれば、突発的な表面剥離と推定する。
モータ25、減速機26に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、メンテナンス不足と推定し、設備設置期間が短期あれば、初期のオイル注入漏れと推定する。
ドライブシャフト回転部27に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、寿命による劣化と推定し、設備設置期間が短期であれば、初期調整不足と推定する。
物品搬送設備1への給電に異常がある場合、設備設置期間が長期であれば、インバータ内のコンデンサの時間的劣化と推定し、設備設置期間が短期であれば、インバータの異常と推定する。
また、上記の推定は、物品搬送設備1の開発時に耐久テストを行い、耐久テスト結果である耐用年数、耐用回数、劣化し易い箇所、劣化しやすい順番等を用いて、行ってもよい。
〔まとめ〕
以上のように、本実施形態に係る診断装置10、10’は、物品搬送設備1に含まれる診断対象2の異常診断に用いる複数種類の計測データを取得する取得部11と、計測データのいずれかが当該計測データに応じた所定状態に到達したとき、当該計測データ、および、過去に前記所定状態に到達済みの計測データの各々の到達順番に基づいて、診断対象2の異常診断を行う診断部12とを備える。
本願発明者らは、物品搬送設備1に含まれる機器や部品(モータ、減速機、レール等)である診断対象2が異常に至る過程において取得された複数種類の計測データ(振動、電流、温度、音、等)に所定の規則があることを見出した。具体的には、診断対象2毎に、複数種類の計測データの各々が計測データに応じた所定状態に到達する順番に、決まりがあることを見出した。前記の構成によれば、その到達順番に基づいて診断対象の異常診断を行う。よって、診断対象2の異常診断(異常状態にある、または、異常の可能性がある)を、簡易な構成で精度よく行うことができる。
また、計測データの全てが所定状態に到達するのを待ってから異常診断を行うのではなく、計測データのいずれかが所定状態に到達した時点で異常診断を行うため、その時点で分かる範囲で早期に異常診断を行うことができる。
また、上記のような構成によれば、エネルギー効率の改善につなげることができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
〔ソフトウェアによる実現例〕
診断装置10、10’(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(取得部11、診断部12、要因推定部13)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。