以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。本発明に係る液体供給装置及び液体噴射装置は、液体を噴射する各種用途の装置に適用できる。例えば、本発明に係る装置を、水、薬液、水溶液、燃料などの噴射、噴霧などを行う装置に適用することができるが、とりわけインクジェット式プリンターに好適に適用することができる。従って、本実施形態では、インクジェット式のインク噴射ヘッドにインクを供給する液体供給装置及びこれを用いた液体噴射装置を例示する。
[液体噴射装置の外観構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る液体噴射装置1の全体構成を示す斜視図である。液体噴射装置1は、各種サイズの紙シートや樹脂シート、或いは布生地などの各種ワークに対してインク(液体)を噴射するヘッドユニット2(液体噴射ヘッド)と、インクカートリッジICからヘッドユニット2へインクを供給する液体供給ユニット3(液体供給装置)とを備えている。ヘッドユニット2及び液体供給ユニット3は図略のキャリッジに搭載され、前記ワークの主走査方向に移動する。1台のヘッドユニット2当たり、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各インクを供給するために、4台の液体供給ユニット3が装備される。図1では、図示簡略化のため、4台のうちの1台の液体供給ユニット3だけを示している。
液体供給ユニット3は、ユニット本体31、パージポンプ32(第2ポンプ装置)及び空気抜きポンプ33(減圧手段/第1ポンプ装置)を含む。また、液体供給ユニット3は、インクの流通用の管路として、ユニット本体31のインク供給方向の上流側に配置される上流管11と、下流側に配置される下流管12と、パージポンプ32を経由してインクをヘッドユニット2へ供給するバイパス管13(バイパス供給路)と、ヘッドユニット2側から液体供給ユニット3側へインクを戻す経路となる戻し管14(戻し通路)とを備える。さらに、液体供給ユニット3は、空気抜きポンプ33によりユニット本体31から空気を抜き出すための空気抜き管15(空気抜き通路)及び排気管16を備えている。
ユニット本体31は、インクカートリッジICから供給されるインクを一時的に貯留する空間を備え、負圧ダンパー機構によってインクをヘッドユニット2に供給する。パージポンプ32は、ヘッドユニット2(インク吐出部21)の清浄化のための加圧パージ処理の際に稼働されるポンプである。なお、パージポンプ32は、ユニット本体31の負圧化のための減圧処理の際、並びに、ヘッドユニット2とユニット本体31との間でインクを循環させる循環処理の際にも稼働される。空気抜きポンプ33は、ユニット本体31内に溜まることがある空気を外部に排出する空気抜き処理の際に稼働されるポンプである。本実施形態では、パージポンプ32としてチューブポンプを用い、空気抜きポンプ33としてダイヤフラムポンプを用いる例を示している。これらポンプとしては、所要の機能を果たす限りにおいて他のポンプに代替可能であり、例えば空気抜きポンプ33としてチューブポンプを用いても良い。
上流管11は、ユニット本体31(第1室41)とインクカートリッジIC(液体収容容器)とを連通する供給管である。上流管11の上流端111は、インクカートリッジICに接続され、下流端112はユニット本体31の入口部分に接続されている。水頭差によりインク供給を行う場合は、インクカートリッジICがヘッドユニット2よりも高い位置に配置される(図20参照)。一方、インクカートリッジICをヘッドユニット2よりも低い位置に配置する場合には、上流管11に供給ポンプ30が組み入れられる(図2参照)。
下流管12は、ユニット本体31(第2室42)とヘッドユニット2とを連通する供給管である。下流管12の上流端121は、後述する逆流防止機構部35を介してユニット本体31の出口部分に接続され、下流端122はヘッドユニット2に接続されている。バイパス管13は、ユニット本体31の負圧環境領域(第2室42)を経由せずに、インクを下流管12に送るための管路である。バイパス管13は、パージポンプ32の上流側に配置されたバイパス上流管BP1と、下流側に配置されたバイパス下流管BP2とを含む。バイパス管13の上流端131はユニット本体31(第1室41)に連通され、下流端132は上記の逆流防止機構部35よりも下流側において下流管12に合流している。
戻し管14は、ヘッドユニット2とユニット本体31(第1室41)とを連通する管である。戻し管14の上流端141はヘッドユニット2に、下流端142はユニット本体31(第1室41)に各々接続されている。戻し管14を開閉するための循環電磁弁143が、当該戻し管14に装着されている。
空気抜き管15は、ユニット本体31と空気抜きポンプ33とを連通する管である。空気抜き管15の上流端151は、ユニット本体31(第2室42)に、下流端152は空気抜きポンプ33の吸気側に各々接続されている。空気抜きポンプ33の排気側には、排気管16が接続されている。空気抜きポンプ33はダイヤフラムポンプであるので、空気抜き管15及びユニット本体31の気密性を確保するため、排気管16には逆止弁161が取り付けられている。なお、空気抜きポンプ33としてチューブポンプを用いる場合は、逆止弁161を省くことができる。
ヘッドユニット2は、インク吐出部21、制御ユニット部22、エンドチューブ23及び回収チューブ24を含む。インク吐出部21は、インク滴をワークに向けて吐出するノズル部分である。インク吐出部21におけるインク滴の吐出方式としては、ピエゾ素子を用いたピエゾ方式、加熱素子を用いたサーマル方式などを適用することができる。制御ユニット部22は、インク吐出部21が備える前記ピエゾ素子又は前記加熱素子を制御する制御基板を備え、インク吐出部21からのインク滴の吐出動作を制御する。
エンドチューブ23は、下流管12の下流端122とインク吐出部21とを繋ぐチューブである。下流端122はキャップ式ソケットであり、エンドチューブ23の上端嵌合部にワンタッチ装着が可能である。回収チューブ24は、インク吐出部21と戻し管14の上流端141とを繋ぐチューブである。
[液体噴射装置の内部構成及び動作の概要]
図2は、液体噴射装置1の内部構成を簡略的に示したブロック図である。まず、ヘッドユニット2及びユニット本体31の内部構成について説明する。ヘッドユニット2のインク吐出部21は、インクをワークに向けて吐出する複数のインク吐出孔21Hを備える。ヘッドユニット2の内部には、インク吐出孔21Hへ個別にインクを供給する個別通路25と、これら個別通路25にインクを供給する共通通路26とが備えられている。
共通通路26は、水平方向に延びるインク通路である。各個別通路25の上流端は、共通通路26に連通している。下流管12は、その下流端122がエンドチューブ23を介して、共通通路26の上流側に連通している。戻し管14は、その上流端141が回収チューブ24を介して、共通通路26の下流側に連通している。
図2では、上流管11に供給ポンプ30が組み入れられている例を示している。供給ポンプ30は、インクカートリッジICに貯留されているインクをユニット本体31へ圧送する。このようなポンプ加圧方式、或いは供給ポンプ30を用いない水頭差方式で、加圧したインクをユニット本体31へ供給する場合、インク吐出孔21Hからインクが漏れ出さないよう、インク吐出部21を適度な負圧とすることが望ましい。この場合、インクの供給経路中に負圧環境を作る負圧形成部を介在させる必要がある。ユニット本体31は、上記の負圧形成部として機能する。
ユニット本体31は、第1室41と、第1室41に対してインク供給方向の下流側に配置された第2室42とを備える。第1室41は、上流管11を介してインクカートリッジICと連通し、当該インクカートリッジICからインクが供給される室である。第1室41の室内は、供給ポンプ30からのインクの圧送を受けて(或いは水頭差の圧力によって)、大気圧よりも高い圧力(所定の第1圧力)となる。第2室42は、第1室41からインクが供給される一方で、ヘッドユニット2に対してインクを供給するための室である。第2室42の室内は、負圧(第1圧力よりも減圧された第2圧力)に設定される。第2室42は、下流管12を介してヘッドユニット2と連通している。
第1室41と第2室42とは、壁部(ベース板311)によって区画されている。この壁部には、第1室41と第2室42とを連通させる連通路(連通口43)が備えられ、当該連通路には押圧部材5に連結された開閉バルブ6(弁機構)が配置されている。開閉バルブ6は、第2室42の第1室41に対する減圧度合いが所定値以上に大きくなると、前記連通路を開放するよう姿勢変更するバルブである。また、第2室42を区画する壁部の一部は、大気圧検知フィルム7によって構成されている。第2室42内が所定の閾値を超える負圧になると、大気圧検知フィルム7が大気圧を検知して変位する。この変位力が押圧部材5に与えられ、連結されている開閉バルブ6が閉姿勢から開姿勢に姿勢変更し、第1室41と第2室42とが連通状態とされる。通常の印刷モードの実行時におけるインク供給ルートは、上流管11、第1室41、第2室42及び下流管12を通過するルートとなる。
ヘッドユニット2が作動し、インク吐出部21がインク滴を吐出すると、第2室42内のインクが消費され、これに伴い第2室42の負圧の程度が進行してゆく。つまり、インク吐出部21は、インク滴の吐出の度に、大気と隔離された状態にある第2室42からインクを吸い取る動作を行い、第2室42の負圧度を高めて行く。そして、第2室42内のインクの減少に伴い、当該第2室42が所定の閾値を超える負圧となると、大気圧検知フィルム7が大気圧を検知して変位する。この変位力によって、押圧部材5を通して開閉バルブ6が閉姿勢から開姿勢に姿勢変更し、第1室41と第2室42とが連通状態となる。従って、両室の圧力差によって、第1室41から第2室42へインクが流入する。
第2室42へのインクの流入に伴い、当該第2室42の負圧度は徐々に緩和され、大気圧に近づいてゆく。同時に、大気圧検知フィルム7から押圧部材5へ与えられる変位力も徐々に小さくなってゆく。そして、第2室42が前記所定の閾値を下回る負圧となると、開閉バルブ6は閉姿勢に復帰し、第1室41と第2室42とは再び隔離された状態となる。この際、第1室41から第2室42へ流入した分だけ、インクカートリッジICから第1室41へインクが補充される。印刷モードでは、このような動作が繰り返されることになる。
バイパス管13は、第2室42を経由せずに第1室41と下流管12とを短絡させる管路である。バイパス管13の上流端は、第1室41を介して上流管11と接続され、下流端は下流管12に合流している(合流部a)。インク吐出孔21Hの詰まりを除去するパージモードの実行の際には、バイパス管13に配置されたパージポンプ32が駆動され、上流管11、第1室41及び下流管12を経由するルートで、加圧されたインクがヘッドユニット2へ供給される。なお、パージポンプ32はチューブポンプであり、パージポンプ32の停止時にはバイパス管13は閉止状態となる。このため、上記の印刷モード時には、下流管12及びインク吐出部21も、負圧に維持された状態となる。
逆流防止機構部35は、前記パージモードの実行の際、加圧されたインクが下流管12を通して第2室42へ逆流することを防止するために配置されている。逆流防止機構部35は、下流管12とバイパス管13の下流端との合流部aよりも上流側において、下流管12に配置されている。逆流防止機構部35により、下流管12の合流部aよりも上流側が閉止されるので、バイパス管13において生成される高圧インクは、全てインク吐出部21に向かう。従って、第2室42を区画している大気圧検知フィルム7の破損が防止される。
戻し管14は、ヘッドユニット2から第1室41へインクを戻すための管路である。後記で詳述するが、ヘッドユニット2内の個別通路25及び共通通路26に抱き込まれている空気をユニット本体31に回収するために、インクをヘッドユニット2とユニット本体31との間で循環させる循環モード(空気抜きモード)の実行の際に、この戻し管14が利用される。記述の通り、戻し管14には、当該戻し管14を開閉する循環電磁弁143が配置されている。また、循環電磁弁143の配置位置よりも上流側において、戻し管14から排出管14Aが分岐されている。排出管14Aは、不要となったインクや、初期使用時にユニット本体31に充填されている保存液を排出するための管路である。排出管14Aには、当該排出管14Aを開閉する排出電磁弁144が配置されている。
循環電磁弁143及び排出電磁弁144が閉とされている状態で、下流管12からインクがヘッドユニット2に供給されると、当該インクは、共通通路26及び各個別通路25を経て、インク吐出孔21Hから吐出される。一方、循環電磁弁143が開(排出電磁弁は閉)とされている状態で、下流管12からインクがヘッドユニット2に供給されると、当該インクは、回収チューブ24及び戻し管14を通って第1室41に戻ることになる。この場合、戻し管14が負圧化されると、インク吐出孔21Hからインクが漏出することはない。
第2室42へのインク充填をスムースに行わせるため、第2室42には空気抜き機構AVが付設されている。イニシャルの使用時やメンテナンス後などにおいて、第2室42に所定量のインクを初期充填する必要がある。空気抜き機構AVは、負圧環境に設定される第2室42を一時的に大気と連通させて(第2室42の空気を抜いて)、前記初期充填を促進させる。また、第2室42に収容されたインクが、高熱化によって気泡を発生する場合がある。空気抜き機構AVは、前記気泡に基づく空気を第2室42から除去する際にも用いられる。
空気抜き機構AVは、上述の空気抜き構造部34と、空気抜き管15及び排気管16と、空気抜きポンプ33と、逆止弁161とを含む。空気抜き構造部34は、空気を通過させる一方で液体(インク)を実質的に通過させないフィルター部材427を備える。空気抜きポンプ33が動作すると、第2室42に連通する空気抜き管15を介して、第2室42が減圧される。フィルター部材427は、第2室42の減圧によって当該第2室42から空気抜き管15を通して抜き出される空気が通過する箇所に配置されている。このため、第2室42が減圧されても、空気だけが空気抜き管15から抜き出され、インクが第2室42から抜き出されることはない。
空気抜きポンプ33は、開閉バルブ6が前記連通路を開放する減圧度合いに、第2室42内を減圧させることが可能である。従って、第2室42の空気抜きが実行される際には、開閉バルブ6が開状態となり、第1室41からインクが第2室42に流入する。つまり、空気抜きポンプ33が第2室42内を減圧したとき、その減圧分を埋めるようにヘッドユニット2(下流管12)からインクが戻って第2室42内に流入するのではなく、第1室41側からの流入によって補填される。従って、ヘッドユニット2は前記空気抜きによって負圧化せず、インク吐出孔21Hからの空気の吸引を未然に防止できる。
[ユニット本体の詳細構造]
続いて、上述した液体噴射装置1の動作を可能とする、本実施形態に係る液体供給ユニット3(ユニット本体31)の構造について詳述する。図3は、ユニット本体31の側面図、図4は、ユニット本体31の斜視図、図5は、ユニット本体31の第1室42側から見た分解斜視図、図6は、第2室42側から見た分解斜視図である。図7は、図3のVII-VII線断面図である。
ユニット本体31は、樹脂成型品からなる本体フレーム310を備える。本体フレーム310は、平板状のベース板311(壁部)と、ベース板311の後方側に連設された受け入れハウジング312とを含む。ベース板311の左面側に第1室41が配置され、右面側に第2室42が配置されている。第1室41及び第2室42は、インクを貯留可能な空間である。ベース板311には、第1室41と第2室42とを連通させる連通口43(図5)が穿孔されている。この連通口43に、上述の開閉バルブ6が配置されている。受け入れハウジング312は、第1室41に連通する角筒型のハウジングである。
受け入れハウジング312の後端側上面には、インクカートリッジICから供給されるインクを受け入れるINポート361が設けられている。INポート361には、上流管11の下流端112が接続される(図1参照)。ベース板311の下方には、OUTポート362、バイパスINポート371及びバイパスOUTポート372が配置されている。OUTポート362は、第2室42からインクをヘッドユニット2へ送り出すポートである。OUTポート362は、実質的には逆流防止機構部35の出口ポートであって、下流管12の上流端121が接続される。バイパスINポート371、バイパスOUTポート372には、それぞれ、バイパス管13の上流端131、下流端132が接続される。さらに、ベース板311の前方下方には、戻しポート38が設けられている。戻しポート38には、戻し管14の下流端142が接続される。
図5に示されているように、第1室41は、大略的に左方からの平面視でU字型の形状を有する幅狭の空間からなる。この第1室41は、ベース板311から左方に突設された第1区画壁411によって区画されている。第1区画壁411は、所定距離を置いて対向する、一対の壁片によって構成されている。第1室41の上流端である流入部412は、受け入れハウジング312で区画されるフィルター室44に連通している。上流管11からユニット本体31に供給されるインクは、フィルター室44を経由し、流入部412から第1室41内へ入る。
第1室41は、流入部412から前方へ水平方向に延び、続いて下方へ湾曲する形状を有している。第1室41の下流端には、バイパス連通室413及び戻し連通室414がY分岐状に連なっている。バイパス連通室413は、第1室41とバイパス上流管BP1とを繋ぐための区画である。バイパス連通室413の下端付近を区画する壁部に、バイパス上流管BP1の上流端が接続されている。戻し連通室414は、第1室41と戻し管14とを繋ぐための区画である。戻し連通室414の前端付近を区画する壁部に、上記の戻しポート38が突設されている。なお、図2では、戻し連通室414を戻し管14の一部として扱っている。
フィルター室44、第1室41、バイパス連通室413及び戻し連通室414は一体的な空間であって左面側に開口しており、その開口縁は面一である。前記左面側の開口は、図5に示す封止フィルム7Aによって封止される。封止フィルム7Aは樹脂製のフィルムからなり、前記左面側の開口に沿った外形形状を有する。封止フィルム7Aは、前記開口縁に溶着又は接着される。
第1室41の上下方向の中央付近には、円筒状のキャビティからなるバネ座415が左方へ突設されている。バネ座415は、付勢バネ45(図7)を収容するキャビティであり、第2室42側に開口している。第1室41は、このバネ座415の外周壁をほぼ半周回するように設定されている。バネ座415の後方側にはスペーサ室416が設けられている。スペーサ室416は、第1室41の容積を可及的に小さくするために設けられている。第1室41の容積が大きくなると、貯留するインク量が多くなる。液体供給ユニット3には、図略のキャリッジの移動の際に揺動力が加わるが、インクの重量が大きくなると慣性力により封止フィルム7Aが剥離乃至は破損する懸念がある。
連通口43は、バネ座415の上方位置において、第1室41内に配置されている。第1室41内においてベース板311から左方に円筒型のボス部417が突設されている。このボス部417を左右方向に貫通するように、連通口43が設けられている。第1室41は減圧処理等が行われず、大気圧に加えて供給ポンプ30によるインクの供給圧(又は水頭差)が加わる部屋である。流入部412から第1室41内にインクが流入すると、バイパス連通室413、戻し連通室414から順次インクが溜まり始める。インクの液位が連通口43を超過すると、当該連通口43を通してインクを第2室42へ供給可能な状態となる。また、パージポンプ32が稼働されると、バイパス上流管BP1を通して、第1室41に貯留されたインクが吸引され、バイパス下流管BP2及び下流管12を通して、高圧化されたインクがヘッドユニット2に向けて供給される。
図6を参照して、第2室42は、右方からの平面視で円形の形状を有している。この第2室42に対して、上述の押圧部材5及び開閉バルブ6と、付勢バネ45とが組み付けられ、且つ、空気抜き構造部34が付設されている。第2室42は、ベース板311から右方に突設された第2区画壁421によって区画されている。第2区画壁421は、円筒型の形状を有する壁である。第2室42は、左方側に位置する第1室41と、ベース板311を挟んで対向する位置関係にある。上述のバネ座415は、円筒型の第2区画壁421で囲まれる領域の中心位置、つまり第2区画壁421と同心となる位置において、ベース板311に凹設されている。付勢バネ45は、このバネ座415の窪み内に収容されている。連通口43は、バネ座415の中心点を通る鉛直線上において、バネ座415の上に配置されている。
第2室42の上端部422側は、第2室42の空気抜きを行わせるための空気抜き構造部34が配置されている。下端部423(第2室42の最下部)において、第2区画壁421には供給孔42Hが穿孔されている。この供給孔42Hに、逆流防止機構部35を介して下流管12の上流端121が連通する。供給孔42Hに対応して、第2室42の下方に逆流防止機構部35が位置し、逆流防止機構部35の下方に下流管12とバイパス管13の下流端132との合流部aが位置するよう、第2室42、逆流防止機構部35及び下流管12が上下方向に配置されている。第2室42に貯留されたインクは、インク吐出部21に吸引される態様で、供給孔42H及び逆流防止機構部35を通して、下流管12に供給される。逆流防止機構部35については、後記で詳述する。
第2室42の下端部423付近において、ベース板311から前後一対の支持板424が右方へ突設されている。一対の支持板424は、後述の押圧部材5を軸支する軸支部425を各々備えている。
空気抜き構造部34は、上端部422側に配置されたボス部426、フィルター部材427及び蓋部材428を含む。ボス部426は、上端部422にアーチ状に跨るように第2区画壁421から上方に突設された部分からなり、第2室42に連通する空気抜き開口部42Aを備える。空気抜き開口部42Aは、上面視で前後方向に長い矩形の開口であって、その開口縁も面一の矩形形状を有している。
フィルター部材427は、インクジェット式プリンターのインクのような水溶性液体を通過させない一方で、空気を通過させるシート状部材からなる。フィルター部材427としては、例えばPTFE、PET、ポリプロピレンなどの高分子樹脂により形成された多孔質フィルムシートを用いることができる。フィルター部材427は、矩形形状を有し、空気抜き開口部42Aを完全に塞ぐサイズを有している。フィルター部材427は、ボス部426の上端開口縁に載置される。
蓋部材428は、ボス部426の上端に上方から外嵌され、フィルター部材427を間に挟んだ状態で空気抜き開口部42Aを塞ぐ部材である。蓋部材428には、空気抜き管15が接続される空気抜きポート429が設けられている。つまり、空気抜き管15の上流端151が空気抜き開口部42Aに接続されるものであって、フィルター部材427は、上流端151と空気抜き開口部42Aとの間に介在されている。蓋部材428の内周壁は、ボス部426の上端の外周壁に溶着によって固定(シール)される。これにより、空気抜きポンプ33の動作によって、第2室42から空気抜き管15に向かう流体はすべてフィルター部材427を通ることになり、第2室42内のインクが空気抜き管15へ流入することが確実に防止される。従って、インク液面センサー等を配置することなく、第2室42から空気抜きを実行させることができる。
第2室42の右面側の開口は、可撓性を有する樹脂製のフィルム部材からなる大気圧検知フィルム7によって封止される。大気圧検知フィルム7は、第2室42の第2区画壁421の、右方からの平面視の壁形状に合致した円形の外形形状を有している。大気圧検知フィルム7は、その周縁部が第2区画壁421の開口端面に溶着又は接着され、第2室42の開口を封止する。なお、大気圧検知フィルム7は、特段テンションが付与されない状態で、溶着又は接着される。
図5を参照して、フィルター室44は、上流管11と共に、インクカートリッジICから第1室41へインクを供給する経路を構成している。フィルター室44は、左右方向の断面形状が矩形であってインク供給方向へ角筒状に延びる空間である。フィルター室44は、インク中の異物を除去するフィルター部材441、このフィルター部材441を保持する保持部材442、フィルター部材441を固定するコイルバネ443を収容している。インクは、INポート361を通してフィルター室44内に流入し、フィルター部材441で異物が除去された後に、流入部412を通して第1室41へ流入する。
[負圧供給機構の詳細]
続いて、第2室42内のインクの減少に応じて、第1室41から第2室42へインクが供給される負圧供給機構について詳述する。負圧供給機構は、先に図2に基づいて動作の概要を説明した押圧部材5、開閉バルブ6及び大気圧検知フィルム7と、付勢バネ45とを備えている。開閉バルブ6は連通口43に配置され、連通口43を閉じる閉姿勢と、連通口43を開く開姿勢との間で姿勢変更する。付勢バネ45は、開閉バルブ6を前記閉姿勢に向かう方向に付勢する。押圧部材5は、開閉バルブ6を前記開姿勢に向かう方向に押圧可能である。大気圧検知フィルム7は、第2室42内のインクの減少に伴って発生する負圧に基づいて変位し、その変位力を押圧部材5に伝達する。
<押圧部材>
図7(A)及び図7(B)は、互いに斜視方向を異ならせた押圧部材5の斜視図であって、開閉バルブ6も付記されている。押圧部材5は、第2室42内に回動可能に配置される部材である。押圧部材5は、円形の平板からなる円板部51と、円板部51の下端側5Cから下方へ延出された一対のアーム部52と、各アーム部52の延出先端部に設けられた支点部53と、円板部51の上端側5Dに配置された一対のリンクボス54とを備えている。一対の支点部53は、第2室42に配置されている一対の支持板424の軸支部425(図6)で軸支される。これにより、円板部51は、支点部53の軸回りに回動可能である。
円板部51は、第2室42を区画する円筒型の第2区画壁421の内径に対して、1/2程度のサイズの直径を有する円板である。第2区画壁421と軸支部425で軸支された状態における円板部51との配置関係は、概ね同心状である。円板部51は、大気圧検知フィルム7と対向する第1面51Aと、開閉バルブ6と対向する(ベース板311と対向する)第2面51Bとを備えている。円板部51の径方向中央には、バネ嵌合突起511が第2面51B側から突出するように設けられている。このバネ嵌合突起511の第2面51B側には、コイルバネからなる付勢バネ45の右端部が嵌合される。なお、第1面51A側においては、バネ嵌合突起511の領域は円柱状の凹部となっている。
円板部51は、大気圧検知フィルム7から変位力を受ける受圧部5Aと、付勢バネ45から付勢力を受ける被付勢部5Bとを備える。受圧部5Aは、円板部51の第1面51Aの所定位置に設定される。本実施形態では受圧部5Aは、第1面51Aにおけるバネ嵌合突起511の周縁部の領域である。被付勢部5Bは、第2面51B側であって、付勢バネ45が嵌合されるバネ嵌合突起511の領域である。すなわち、被付勢部5Bは、受圧部5Aに対応する位置に設定されている。
受圧部5Aが大気圧検知フィルム7から変位力を受けない場合、円板部51は、直立に近い状態となる(図7参照)。但し、付勢バネ45の右端が被付勢部5Bに当接しており、その付勢力により大気圧検知フィルム7の内面に第1面51Aが接する状態となる。一方、受圧部5Aが大気圧検知フィルム7から付勢バネ45の付勢力以上の変位力を受けると、円板部51は、支点部53の軸回りに左方へ回動し、直立状態から左方へ傾いた状態となる。
一対のアーム部52は、円板部51の下端側5Cに前後方向に互いに離間して配置されている。一対のアーム部52の各上端部521は、円板部51の下端側5Cよりも上方に延び、バネ嵌合突起511の両側部下方に各々位置している。一対のアーム部52の先端部522は、下端側5Cからそれぞれ下方へ直線状に延出している。先端部522からは、各々支点部53が前後方向に突設されている。詳しくは、前側の先端部522の前側面から支点部53が前方に、後側の先端部523の後側面から支点部53が後方にというように、互いに離間する方向に突設されている。支点部53は、支持板424の軸支部425に嵌め込まれる。アーム部52の先端部522に支点部53を設けることは、押圧部材5の支点部53回りの回動時に、円板部51の上端側5Dの揺動幅を大きくすることに貢献する。
一対の支点部53は、前後方向に延びる回動軸5AX上に並んでいる。前側の支点部53と、後側の支点部53とは、所定の間隔Dを置いて配置されている。つまり、一対の支点部53は、円板部51の平面方向の中央領域に相当する部分を挟んで互いに離間して配置されている。間隔Dは、例えば円板部51の直径の40%~90%程度のサイズに設定することができる。これにより、一対の支点部53が作る回動支点は、円板部51の中央領域を挟む程度に離間した幅広の回動支点となる。このため、前記回動支点回りに回動する円板部51は、回動軸5AXと直交する軸回りに捻転し難くなる。従って、円板部51の回動動作を安定化させることができる。
一対のリンクボス54は、円板部51の上端側5D付近において、第2面51Bから左方に向けて突設されている。詳しくは、円板部51には、上端側5Dを開口縁とし径方向内側へ延びる切り欠き部512が設けられており、切り欠き部512の空間に臨む前後の側端縁から、矩形の平板からなるリンクボス54が各々立設されている。各リンクボス54は、リンク孔541を備えている。このリンク孔541は、押圧部材5と開閉バルブ6とのリンク結合に用いられる。このリンク結合により、押圧部材5の回動動作に開閉バルブ6の開閉動作が連動するようになる。
換言すると、リンクボス54が、支点部53の軸回りに回動する押圧部材5の回動動作に応じて、開閉バルブ6を左右方向に移動するよう押圧する押圧部となる。一対のリンクボス54は、下端側5Cに配置された一対の支点部53に対して、所定距離だけ離間した上端側5Dに配置されている。つまり、押圧部となるリンクボス54は、回動支点を作る支点部53に対して、円板部51において対極位置に配置される。このため、押圧部材5の回動時におけるリンクボス54の移動量、及び該リンクボス54にリンク結合された開閉バルブ6の移動量を大きくすることができる。
受圧部5A又は被付勢部5B(力点)と支点部53(支点)との関係において、リンクボス54(作用点)は、支点部53に対して受圧部5A及び被付勢部5Bよりも遠い位置に配置されている。換言すると、リンクボス54は、受圧部5A及び被付勢部5Bを間に挟んで支点部53と対向するように、円板部51の上端側5Dに配置されている。このような配置とすることで、受圧部5A又は被付勢部5Bが受けた移動力を、これらに対する離間分だけ増幅して、リンクボス54に与えることができる。
<開閉バルブ>
続いて、開閉バルブ6について説明する。開閉バルブ6は、第1室41と第2室42とを区画するベース板311に穿孔された連通口43に配置される。そして、開閉バルブ6は、押圧部材5の支点部53回りの回動動作に従動して連通口43内で左右方向に移動することで、連通口43を開閉する。前記回動動作への従動のため、開閉バルブ6は円板部51のリンクボス54とリンク結合されている。
図9(A)は、開閉バルブ6の斜視図、図9(B)は、開閉バルブ6の分解斜視図である。図10は、図7に示した断面図の要部拡大図である。開閉バルブ6は、バルブホルダー61と、このバルブホルダー61によって保持されるアンブレラバルブ66との組立体からなる。連通口43は、ベース板311及びボス部417を貫通する円筒型の孔であって、大径部43Aと、該大径部43Aより内径が小さい小径部43Bと、両者の径差に基づく段部43Cとを有している。
バルブホルダー61は、連通口43に組み付けられた状態において、第1室41側(左側)に位置する第1端部611と、第2室42側(右側)に位置する第2端部612とを備える、半筒形の部材である。バルブホルダー61は、第1端部611側の筒部62と、第2端部612側の平板部63と、筒部62と平板部63との間に位置する中間部64と、平板部63に配設されたリンクピン65とを含む。アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61の第1端部611側において保持されている。
筒部62は、バルブホルダー61において最も外径の大きい筒状部分である。筒部62は、筒部62の外周面であるガイド面62Sと、筒部62の一部が周方向に切り欠かれてなる流路切り欠き621と、筒部62の内周側に環状に凹設された保持溝622と、を含む。筒部62は、連通口43の大径部43Aに収容され、開閉バルブ6が左右方向に移動する際に、ガイド面62Sが大径部43Aの内面でガイドされる。流路切り欠き621は、開閉バルブ6が開姿勢の時にインクが流れる流路となる。保持溝622は、アンブレラバルブ66の係止球部663を係止するための溝である。
中間部64は、筒部62よりも外径が小さい筒状部分である。中間部64には、流路切り欠き621に連なる開放部分である開放部641と、アンブレラバルブ66のピン部662を収容するピン収容部642とを含む。中間部64は、連通口43の小径部43Bに収容され、その外周面も小径部43Bの内面でガイドされる。筒部62と中間部64との境界部には、両者の外径差に基づく段差によって形成された環状当接部62Aが存在する。環状当接部62Aは、連通口43の段部43Cと対向し、当接する。
平板部63は、開閉バルブ6が連通口43に組み付けられた状態において、連通口43から右方に突出する部分である。平板部63は、左右方向に延びる表裏一対の平面を有している。リンクピン65は、前記一対の平面から各々突設されている。このリンクピン65は、図8(B)に示すように、押圧部材5のリンクボス54に備えられているリンク孔541に嵌合される。この嵌合により、押圧部材5と開閉バルブ6とはリンク結合され、押圧部材5の支点部53回りの回動運動を、開閉バルブ6の直線運動に変換することができる。
アンブレラバルブ66は、ゴム製の物品であって、傘部661、傘部661から右方に延出するピン部662、及びピン部662に一体的に設けられた係止球部663を備えている。傘部661は、連通口43の大径部43Aの内径よりも大きい傘直径を有している。傘部661の内側(右面側)の周縁部は、シール面67である。シール面67は、連通口43の周囲の壁面であってボス部419の突出端面であるシール壁面43Sと当接することによって、連通口43を封止状態とすることが可能である(閉姿勢)。反面、シール面67がシール壁面43Sから離間すると、前記封止状態は解除される(開姿勢)。なお、傘部661は、右面側に所定の圧力が加わると、その傘形状が反転する(図15)。
ピン部662は、左右方向に延びる棒状部分であり、傘部661の支柱となる部分である。ピン部662は、バルブホルダー61の筒部62及び中間部64のピン収容部642に入り込む。つまり、傘部661はバルブホルダー61の第1端部611に当接する一方で、ピン部662はバルブホルダー61の内側筒部内に嵌り込むことが可能である。係止球部663は、ピン部662の左端寄りの部分が球状に膨設されてなり、保持溝622に嵌り込む部分である。係止球部663が保持溝622に嵌合されることで、アンブレラバルブ66は、左右方向の移動が規制された状態でバルブホルダー61に保持される。すなわち、アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61と一体的に左右方向へ移動する。
<付勢バネ>
付勢バネ45は、円板部51の第2面51Bとベース板311との間に介在され、第2面51Bを支持(付勢)するコイルバネである。詳しくは、図10に示されているように、付勢バネ45の右端側は円板部51のバネ嵌合突起511に嵌め込まれ、左端側はベース板311に凹設されているバネ座415に収容されている。円板部51の受圧部5Aが、付勢バネ45の右方向の付勢力に抗する左方向の変位力を受けたとき、円板部51は支点部53の軸回りに、左方へ回動することになる。前記変位力を受けない場合は、前記付勢力によって円板部51は直立した姿勢を維持することになる。
<開閉バルブの動作>
続いて、開閉バルブ6の開閉動作について説明する。図10は、開閉バルブ6が閉姿勢の状態を示している。この状態は、大気圧検知フィルム7が押圧部材5(円板部51)を回動させるほど変位力を発生していない状態、すなわち、付勢バネ45のバネ圧(付勢力)と第2室42の内圧との合計が、大気圧よりも勝っている状態である。第2室42は負圧ではあるが、付勢バネ45は、前記負圧による大気圧検知フィルム7の変位力に打ち勝つ付勢力で、円板部51の被付勢部5Bを右方へ付勢している。このため、円板部51は、支点部53の軸回りに回動せず、上述の直立した姿勢を維持する。
この場合、リンクボス54において押圧部材5とリンク結合されている開閉バルブ6は、最も右方側に位置する閉姿勢を取る。すなわち、付勢バネ45の付勢力によって、リンクボス54を介してバルブホルダー61が右方に牽引されている状態となる。このため、バルブホルダー61の環状当接部62Aが連通口43の段部43Cに突き当たると共に、アンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面43Sに当接した状態となる。従って、連通口43がアンブレラバルブ66によって封止される。付勢バネ45は、円板部51を右方に付勢することで、間接的に開閉バルブ6を閉姿勢に向かう方向に付勢していると言うことができる。
図11は、図7に示した断面図の要部拡大図であって、開閉バルブ6が開姿勢の状態を示す断面図である。図10の状態から、インク吐出部21がインク滴の吐出動作を継続してゆくと、密閉空間である第2室42は、インクの減少に伴い、徐々に負圧度が高まってゆく。やがて、第2室42が所定の閾値を超える負圧となると、大気圧検知フィルム7は付勢バネ45の付勢力に抗する押圧力を円板部51の受圧部5Aへ与えるようになる。すなわち、付勢バネ45のバネ圧と第2室42の内圧との合計が、大気圧に劣る状態となる。
この場合、円板部51は、付勢バネ45の付勢力に抗して支点部53の軸回りに左方へ回動する。そして、この回動によって、リンクボス54は開閉バルブ6を左方に向かわせる押圧力PFを発生し、開閉バルブ6を開姿勢に姿勢変更させる。つまり、リンクボス54のリンク孔541からバルブホルダー61のリンクピン65に押圧力が伝達され、ガイド面62Sが連通口43の内面でガイドされつつ、バルブホルダー61が左方へ直線移動する。この移動に伴ってアンブレラバルブ66も左方へ移動し、そのシール面67がシール壁面43Sから離間する。つまり、シール面67とシール壁面43Sとの間にギャップGが形成された状態となる。従って、アンブレラバルブ66による連通口43の封止が解除される。
開閉バルブ6が開姿勢となると、図11に矢印Fで示すように、大気圧+インク供給圧の圧力の第1室41と負圧度が進行した第2室42との圧力差により、第1室41から第2室42へインクが流入する。具体的には、アンブレラバルブ66のシール面67とシール壁面43SとのギャップGと、バルブホルダー61の筒部62に用意された流路切り欠き621と、中間部64に用意された開放部641とからなる流路を通して、インクは第2室42へ流入する。
第2室42へのインク流入が進行すると、第2室42の負圧度は徐々に緩和されてゆく。やがて、付勢バネ45のバネ圧と第2室42の内圧との合計が、大気圧よりも優勢になると、付勢バネ45の付勢力によって円板部51は右方に押し戻されてゆく。すなわち、第2室42が所定の閾値を下回る負圧となると、円板部51は、付勢バネ45の付勢力に押圧されて支点部53の軸回りに右方へ回動する。これにより開閉バルブ6も、リンクボス54に牽引されて右方に直線移動する。いずれ、バルブホルダー61の環状当接部62Aが連通口43の段部43Cに突き当たり、アンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面43Sに当接する。従って、開閉バルブ6は閉姿勢に復帰する。
[逆流防止機構部]
次に、ヘッドユニット2を清浄化するパージモードの実行の際に、パージポンプ32にて加圧されたインクが第2室42へ逆流することを防止する逆流防止機構部35の構成について、図7及び図12~図14を参照して説明する。図12は、逆流防止機構部35の分解斜視図、図13(A)~(C)は、逆流防止機構部35の斜視図である。図14(A)は印刷モードにおける逆流防止機構部35の状態を、図14(B)は、パージモードにおける逆流防止機構部35の状態を各々示す断面図である。
逆流防止機構部35は、バルブ管路81、分岐ヘッド部82、球体83、シール部材84、コイルスプリング85及びOリング86を含む。バルブ管路81は、第2室42の下端部423と一体の部材であり、他の部品はバルブ管路81に対して組み付けられている。図13(A)及び図13(B)は、バルブ管路81を除く逆流防止機構部35の斜視図、図13(C)は、分岐ヘッド部82の下方視の斜視図である。
バルブ管路81は、第2室42の下端部423(最下端部)に穿孔されている供給孔42Hから鉛直下方に延び出す管路であって、第2区画壁421に一体化された部分である。バルブ管路81は、第2室42と下流管12とを繋ぐインク流路を提供するものであって、第2室42からインク吐出部21に至るインク供給路の一部を構成している。分岐ヘッド部82を係止するために、バルブ管路81の外周面には係止片811が、内周面には嵌合環状突起812が、各々突設されている。
分岐ヘッド部82は、図2に示した合流部aを形成する部材である。分岐ヘッド部82は、第1入口ポート821、第2入口ポート822、出口ポート823、胴部824、係止窓825、切り欠き部826及び嵌合爪827を含む。第1入口ポート821は、第2室42に接続されるポートであって、本実施形態ではバルブ管路81を経由して、第2室42と連通している。第2入口ポート822は、バイパス管13(バイパス下流管BP2)の下流端が接続されるポートである。出口ポート823は、下流管12の上流端121が接続されるポートである。出口ポート823は、図3他に示すOUTポート362に相当するポートである。
分岐ヘッド部82は、バルブ管路81の下端側から鉛直下方に延び出す鉛直部82Aと、鉛直部82Aの中間に水平方向から合流する態様の水平部82Bとを備えるT字管である。鉛直部82Aの上端が第1入口ポート821、下端側が出口ポート823である。水平部82Bの先端が第2入口ポート822である。第2入口ポート822は、図3他に示すバイパスOUTポート372に相当するポートである。印刷モードでは、インクは、第1入口ポート821を通して下流管34に供給される。一方、パージモードでは、第2入口ポート822を通して下流管34に供給される。
胴部824は、下方を向く第1入口ポート821の外側に、互いに対向するように配置された一対の円弧片からなる。バルブ管路81は、一対の胴部824と第1入口ポート821との間の隙間に入り込む。係止窓825は、一対の胴部824に設けられた開口であり、バルブ管路81の係止片811が係合する開口である。切り欠き部826は、筒状の第1入口ポート821の周壁の一部が切り欠かれた部分であり、インクの流路を確保するための部分である。嵌合爪827は、第1入口ポート821の上端から上方に突設されたフック形状を有する部分であり、バルブ管路81の嵌合環状突起812と係合する。つまり、分岐ヘッド部82は、バルブ管路81の内周において係止片811と係止窓825との係合により、外周において嵌合環状突起812と嵌合爪827との係合により、バルブ管路81に固定される。第1入口ポート821の上端縁828は、次述の球体83を受け止める球受部となる。
球体83は、バルブ管路81内に、インク供給方向へ移動可能に収容され、弁の働きをする。球体83の外径は、バルブ管路81の内径よりも小さく、さらにコイルスプリング85の内径よりも小さい。球体83を形成する素材としては、種々の材料を用いることができるが、好ましくはインクの比重に対して2倍以下の比重を有する材料、特にインクの比重に対して1.1倍~1.5倍の範囲の材料で形成することが望ましい。この範囲の材料であれば、球体83の比重がインクの比重よりも大きいので、バルブ管路81内において球体83を自重で容易に下降させ得る一方で、球体83の比重がインクの比重に近い関係となるので、加圧パージ時のバルブ管路81内における球体83の上昇を速やかに行わせることができる。
一般に、インクジェット式プリンターに用いられるインクは、水溶性液体であって、比重=1若しくはその近傍の比重を有する。従って、球体83の材料としては、比重<2の材料を選択することが望ましい。また、前記材料は、インクと常時接触しても劣化しない耐薬品性、耐摩耗性の性質を備えていることが望ましい。これらの観点から、球体83の材料としては、ポリアセタール(比重=1.42)、ポリブチレンテレフタレート(比重=1.31~1.38)、ポリ塩化ビニル(比重=1.35~1.45)、ポリエチレンテレフタレート(比重=1.34~1.39)を用いることが特に好ましい。
シール部材84は、図14(A)及び(B)に示されているように、球体83の上方であって、バルブ管路81の上端側に設けられた座部813に着座するリング形状を有するシール部品である。シール部材84のリング内径(貫通孔)は、球体83の外径よりも小径に設定されている。図14(A)に示すように、シール部材84から球体83が下方へ離間したときには、バルブ管路81は開となる。一方、図14(B)に示すように、シール部材84に球体83が接したときには、バルブ管路81は閉となる。
コイルスプリング85は、その上端部がシール部材84に当接し、下端部が分岐ヘッド部82の第1入口ポート821の上端縁828に当接するように、バルブ管路81に内装される圧縮バネである。コイルスプリング85は、シール部材84を座部813に向けて付勢しており、これによりシール部材84は座部813に常時圧接されている。また、コイルスプリング85の内側には球体83が収容されており、コイルスプリング85は球体83のインク供給方向への移動をガイドする役目も果たす。従って、バルブ管路81内における球体83の遊動が規制され、シール部材84に対する球体83の離接により成立する弁構造を安定化させることができる。
Oリング86は、バルブ管路81と分岐ヘッド部82との突き合わせ部をシールしている。Oリング86は、第1入口ポート821の外周面に嵌め込まれ、第1入口ポート821の突設基部829に当接している。
続いて、逆流防止機構部35の動作について説明する。印刷モードではインクは、第2室42から、逆流防止機構部35及び下流管12を通る供給ルートでヘッドユニット2に供給される。このような印刷モードにおいては、図14(A)に示す通り、球体83はシール部材84から下方へ離間し、分岐ヘッド部82の上端縁828に着床した状態となる。これは、球体83の比重がインクの比重よりも大きく、球体83が自重で下降することに依る。また、第2室42から下流管12へ至る供給ルートが印刷モードでは負圧に維持され、ヘッドユニット2のインク吐出部21がインク滴を吐出する度に、前記供給ルート内に存在するインクを吸引することも、球体83の上端縁828への着床状態の維持に寄与する。
球体83がシール部材84から離間した状態となることから、供給孔42Hは開放された状態となる。また、球体83が着床する第1入口ポート821の上端縁828には切り欠き部826が具備されているので、インクの通路は確保されている。従って、第2室42内のインクは、図中に矢印F1で示すように、第2室42から分岐ヘッド部82へ通り抜け、下流管12へ向かうことができる。
図14(B)は、パージモードにおける逆流防止機構部35の状態を示す断面図である。加圧パージモードでは、パージポンプ32の駆動によって、バイパス管13を通して加圧されたインクが、分岐ヘッド部82の第2入口ポート822(合流部a)に供給される。このため、バイパス管13と、合流部aよりも下流側に位置する下流管12との内部には、加圧されたインクが存在することになる。この場合、インクは100kPaを超過するような高圧に加圧される。このような高圧が仮に第2室42に加わった場合、第2室42の一部を区画している大気圧検知フィルム7は、破裂したり、第2区画壁421に対する取り付け部が剥がれたりすることがある。
しかし、本実施形態では、合流部aに加わる加圧力によって、球体83は上昇するように押圧され、球体83がシール部材84に接するようになる。すなわち、前記押圧によって、球体83が上方へ浮き上がった状態となり、シール部材84のリング内に嵌り込む。コイルスプリング85により座部813へ押し付けられているシール部材84に球体83が接することで、供給孔42Hは塞がれた状態となる。すなわち、印刷モードにおけるインク供給経路のうち、合流部aよりも上流側に位置するインク供給経路及び第2室42が加圧インクによる加圧から遮断される。従って、大気圧検知フィルム7の破損等を未然に防止することができる。
また、本実施形態では、ヘッドユニット2へ空気を抱き込んだインクが供給され難くなるという利点もある。インク中に溶け込んでいる空気や、液体供給ユニット3へのインク液の充填時に混入した空気が、インクに抱き込まれた状態でヘッドユニット2に進入し、個別通路25や共通通路26(図2)に一旦入り込んでしまうと、当該空気がなかなか抜けず、加圧パージを実行しても排除されない場合がある。この場合、インク吐出孔21Hからのインクの吐出が阻害される。しかし、本実施形態では、上方から下方へ向けて、第2室42、逆流防止機構部35及び下流管12の順で配置されている。このため、第2室42に貯留されたインクから発生する空気若しくは第2室42内に混入した空気は、下方の逆流防止機構部35及び下流管12に向かうことはない。従って、ヘッドユニット2へ空気を抱き込んだインクが向かわないようにすることができ、ヘッドユニット2の吐出不良を未然に防止することができる。
また、分岐ヘッド部82又は下流管12に空気が混入したとしても、気泡の浮き上がり作用によって、鉛直部82Aからバルブ管路81、供給孔42Hを通して当該空気を第2室42内へ逃がすことができる。なお、上記の空気は、空気抜き機構AVにより、第2室42から排出することが可能である。従って、前記空気によって第2室42内の容積が過度に占有されないようにすることができる。
[アンブレラバルブによる二重保護機構]
上記の通り、本実施形態においては、逆流防止機構部35を設けることで、加圧パージモードにおいて加圧されたインクが第2室42に逆流することを防止している。しかし、逆流防止機構部35の何らかの不具合により、例えば球体83の動作不良により、加圧力が第2室42に作用することが起こり得る。この点に鑑み、本実施形態では二重の保護機構、開閉バルブ6に圧力を開放させる機構を具備させている。つまり、正常時には第2室42が負圧で第1室41が大気圧+インク供給圧であるという圧力関係が逆転し、第2室42が第1室41よりも高圧になった場合に、第2室42から第1室41へ圧力を開放させる圧力解放機構を、開閉バルブ6は具備している。
上記の圧力解放機構を担うのは、開閉バルブ6のアンブレラバルブ66である。図10及び図11に基づいて説明した通り、アンブレラバルブ66は、第2室42が所定の閾値を下回る負圧(所定の供給負圧の範囲内である第1状態)である場合には、シール面67がシール壁面43Sに当接して連通口43を封止する。これにより、第1室41から第2室42へのインクの流入を禁止する。一方、第2室42が所定の閾値を超える負圧(前記供給負圧よりも低圧となる第2状態)になると、押圧部材5とリンク結合されたバルブホルダー61と共にアンブレラバルブ66は左方へ移動し、シール面67がシール壁面43Sから離間して連通口43を開放する(封止の解除)。これにより、第1室41から第2室42へのインクの流入を許容する。
これに加えてアンブレラバルブ66は、加圧パージモードの際に加圧インクの圧力が第2室42加わる等の要因で、第2室42と第1室41との圧力関係が逆転した場合に、アンブレラバルブ66単体で連通口43を開放する。つまり、押圧部材5の押圧アシストを受けることなく、アンブレラバルブ66は連通口43の封止状態を解除し、第2室42の圧力を第1室41へ解放する。すなわち、アンブレラバルブ66の傘部661(シール面67)は、その右面側に所定の圧力が印加されると、その傘形状が反転する。
図15(A)は、アンブレラバルブ66が連通口43を封止している状態を、図15(B)は、アンブレラバルブ66が連通口43を開放している状態を各々示す断面図である。図15(A)の状態は、先に説明した図10の状態に等しい。傘部661は、左方に向けて凸の傘形状を有している。また、バルブホルダー61は、付勢バネ45の付勢力によって最も右方に位置しており、その環状当接部62Aが連通口43の段部43Cに当止している。従って、シール面67はシール壁面43Sに接する状態となる。
図15(B)の状態は、アンブレラバルブ66の傘部661の傘形状が、第2室42側から与えられる圧力によって反転した状態を示している。つまり傘部661は、右方に向けて凸の傘形状に変形している。この反転状態は、第2室42が第1室41よりも所定値だけ高圧となった場合(第3状態)に形成される。本実施形態では、加圧パージによる高い正圧が第2室42に加わり、結果として大気圧+供給圧の第1室41よりも第2室42が高圧となる場合を想定している。前記所定値は、傘部661の反転圧力に依存する。この反転圧力は、大気圧検知フィルム7の破裂強度乃至は大気圧検知フィルム7の第2区画壁421に対する取り付け強度よりも低い値に設定される。
第2室42が加圧された場合、押圧部材5は左方へ回動しない。つまり、押圧部材5は、開閉バルブ6を左方に押圧する押圧力を発生しない。大気圧検知フィルム7が、第2室42の高圧化によって右方に膨らむ側に変位し、受圧部5Aに変位力を与えないからである。従って、付勢バネ45の付勢力によって、バルブホルダー61は最も右方に位置する状態が維持される。
しかし、バルブホルダー61が移動せずとも、傘部661の傘形状が反転することで、シール面67はシール壁面43Sから離間し、両者間にはギャップgが生じることとなる。このため、連通口43は開放された状態となる。これにより、第2室42内の加圧インク(圧力)は、連通口43を通して第1室41側へ逃がされる(解放される)。従って、大気圧検知フィルム7自体、若しくはその取付部に、過度の力が作用しないようにすることができ、破損を防止することができる。
[液体噴射装置の制御例]
図16は、液体噴射装置1の電気的構成を示すブロック図である。液体噴射装置1は、当該液体噴射装置1の動作を統括的に制御する制御部9を備える。制御部9は、供給ポンプ30、パージポンプ32及び空気抜きポンプ33の駆動(ON)及びその停止(OFF)の制御と、循環電磁弁143及び排出電磁弁144の開閉の制御とを行う。
制御部9は、少なくとも液体噴射装置1を、印刷モード、パージモード及び空気抜きモードにて動作させる。印刷モードは、ヘッドユニット2のインク吐出部21からインクを吐出させ、所定のワークに印刷処理を施すモードである。パージモードは、インク吐出部21におけるインク詰まりを解除若しくは予防するため、高圧のインクをインク吐出部21に供給し、吐出させるモードである。空気抜きモードは、第2室42に滞留する空気を抜くためのモードである。ここではインクのイニシャル充填時ではなく、液体供給ユニット3に使用時において、戻し管14を用いてインクを循環させ、ヘッドユニット2内のインク通路(個別通路25、共通通路26)に抱き込まれている空気を除去する空気抜きモードを示す。
図16には、各モードにおける、供給ポンプ30、パージポンプ32及び空気抜きポンプ33の「ON」又は「OFF」状態、並びに、循環電磁弁143及び排出電磁弁144の「開」又は「閉」状態が付記されている。以下、各モードにおけるインクの流れについて説明する。図17は印刷モード、図18は加圧パージモード、図19は空気抜きモードにおける、各々インクの流れを示す斜視図である。なお、図16に示す空気抜きモードにおいて、パージポンプ32、空気抜きポンプ33の状態が各々「ON/OFF」、「OFF/ON」とされているのは、空気抜きモードの実行途中でONとOFFが入れ替わることを示している。
<印刷モード>
印刷モードでは、制御部9は、3つのポンプの内、供給ポンプ30だけを駆動状態(ON)とする。戻し管14を用いたインクの循環、並びに排出管14Aを用いたインクの廃棄は行わないため、制御部9は、循環電磁弁143及び排出電磁弁144を「閉」とする。なお、上掲の3つのモードでは、排出電磁弁144は常時「閉」とされる。
図17に示すように、インクカートリッジICに貯留されているインクは、矢印F11で示すように、供給ポンプ30の駆動によってインクカートリッジICから吐出される。そして、矢印F12で示すように、上流管11に送り出され、ユニット本体31の第1室41に入る。詳しくは、インクは、上流管11を通してフィルター室44(図5)に入り、当該フィルター室44においてフィルター部材441を通過する際に、インクに含まれる固形の異物が除去される。その後、インクは第1室41に進入する。
上述の負圧供給機構の動作、直接的には押圧部材5の動作によって開閉バルブ6が開くと、矢印F13で示すようにインクは、第1室41から連通口43を通って、第2室42へ貯留される。インク吐出部21でのインク吐出動作によって、第2室42のインクは吸引され、供給孔42H、逆流防止機構部35を順次通過して下流管12に入る。その後、矢印F14で示すようにインクは、エンドチューブ23を経て、ヘッドユニット2の共通通路26に入る(矢印F15)。そして、個別通路25を通して、インクは各インク吐出孔21Hから吐出される(矢印F16)。
<パージモード>
パージモードでは、制御部9は、3つのポンプの内、供給ポンプ30及びパージポンプ32を駆動状態(ON)とする。パージモードにおいても戻し管14を用いたインクの循環は行わないため、制御部9は、循環電磁弁143を「閉」とする。パージモードでは、パージポンプ32の駆動によって、負圧環境の第2室42を経由することなく、加圧されたインクが強制的にヘッドユニット2へ供給される。
図18に示すように、パージポンプ32の動作により第1室41内のインクが消費されるので、供給ポンプ30の駆動によってインクカートリッジICからインクが吐出され(矢印F21)、当該インクは上流管11を通してユニット本体31の第1室41に入る(矢印F22)。そして、矢印F23で示すようにインクは、第2室42に向かうことなく、バイパス管13に入る。詳しくは、バイパス連通室413(図5)を経てバイパス上流管BP1に入る(矢印F24)。
チューブポンプであるパージポンプ32のしごき動作によってインクは高圧化されると共に、下流側に送り出される。すなわち、矢印F25で示すようにインクは、バイパス下流管BP2から下流管12へ送り出される。上述の通り、バイパス下流管BP2と下流管12との合流部aの上流側には逆流防止機構部35が備えられているので、インクが第2室42側へ逆流することはない(矢印F26)。従って、第2室42を区画している大気圧検知フィルム7の破損が防止される。しかる後、矢印F27で示すようにインクは、エンドチューブ23を経て、ヘッドユニット2の共通通路26に入る。そして、個別通路25を通して、インクは各インク吐出孔21Hから高圧で吐出される(矢印F28)。これにより、インク吐出孔21Hを目詰まりさせている異物や、個別通路25に滞留した空気等が除去される。
<空気抜きモード>
空気抜きモードにおいては、制御部9は、先ずはパージポンプ32を動作させて、第1室41、バイパス管13、下流管12、ヘッドユニット2及び戻し管14を通してインクを循環させることにより、第1室41に空気を回収する。続いて制御部9は、パージポンプ32を停止させた後、空気抜きポンプ33を動作させて、第2室42から空気抜き管15及び排気管16を通して空気を排出させる制御を実行する。空気抜きポンプ33の動作によって第2室42は負圧化され、開閉バルブ6が連通口43を開放するので、第1室41に回収された空気は連通口43を通して第2室42へ流入する。従って、一旦はヘッドユニット2に入り込んだ空気を、第2室42から排出させることができる。なお、空気抜きモードでは、パージモードのようにインクを高圧化する必要はないので、制御部9は、パージポンプ32を低速で駆動させる。
このため制御部9は、空気抜きモードでは、先ずはパージポンプ32を「ON」とし、空気抜きポンプ33を「OFF」とすると共に、前記インクの循環のため循環電磁弁143を「開」とする。なお、上流管11に設けられた図略の開閉弁は「閉」とされ、上流管11は閉じられた状態とされる。これにより、バイパス管13、下流管12、ヘッドユニット2の共通通路26、戻し管14、戻し連通室414(図5)及びバイパス連通室413からなる、閉じたインク循環経路が形成される。
図19に示すように、パージポンプ32が稼働すると、上記インク循環経路内でのインクの循環が始まる。すなわち、パージポンプ32の動作によって第1室41内に貯留されているインクは、矢印F31で示すようにバイパス上流管BP1に引き込まれ、続いて矢印F32で示すようにバイパス下流管BP2に送り出される。その後インクは、合流部a、下流管12及びエンドチューブ23を経て、ヘッドユニット2に流れ込み(矢印F33)、当該ヘッドユニット2内の共通通路26を通過し、回収チューブ24に入る(矢印F34)。その後インクは、回収チューブ24に入り(矢印F35)、戻し管14を経て第1室41に戻る(矢印F36)。このとき、上流管11は閉止状態にあるので、パージポンプ32にてインクが引かれる戻し管14及び共通通路26は負圧となる。従って、インク循環時においてインク吐出孔21Hからインクが漏洩することはない。
上記の通りインクを循環させることで、一旦ヘッドユニット2側に送り込まれたインクを、戻し管14を用いてユニット本体31側に戻すことが可能となる。このため、空気を含んだインクが送り込まれる等してヘッドユニット2側に空気が入り込んだとしても、前記循環によりユニット本体31側へ当該空気をインクと共に回収することができる。ユニット本体31側に回収された空気(気泡)は、浮上力によって戻し連通室414(図5)から上方の第1室41へ入り、第1室41の最も上方付近に配置されている連通口43の近傍に至る。
続いて、制御部9は、パージポンプ32を「OFF」とする一方、空気抜きポンプ33を「ON」とする。この際、上流管11に設けられた図略の開閉弁は「開」とされ、インクカートリッジICからインクが第1室41へインクが供給可能な状態とされる。空気抜きポンプ33の動作によって、第2室42は負圧化される。第1室41と第2室42との圧力差が所定値以上となると、開閉バルブ6が連通口43を開放するので、第1室41の空気を含むインクは第2室42に流入することが可能となる(矢印F37)。空気抜き管15を通して第1室41には空気抜きポンプ33の吸引力が作用するので、第1室41内のインク及び空気は空気抜き管15に向かおうとする。しかし、空気抜き構造部34には、空気を通過させる一方でインクを通過させないフィルター部材427が配置されるので、空気だけが空気抜き管15に入り込む(矢印F38)。その後、空気は、排気管16を通して外部に排出される(矢印F39)。
このような空気抜きモードによれば、空気抜き機構AVにより第2室42から空気だけを容易に抜き出すことができる。すなわち、第2室42から抜き出される空気が通過する箇所には、フィルター部材427が配置されているため、空気だけが抜き出され、第2室42内のインクまで抜き出されることはない。また、空気抜きポンプ33は、開閉バルブ6が連通口43を開放する減圧度合いに第2室42内を減圧させる。このため、空気抜きモードが実行される際には、連通口43が開放され、第1室41からインクを第2室42へ流入させることができる。つまり、空気抜きポンプ33が第2室42内を減圧したとき、その減圧分を埋めるようにヘッドユニット2(下流管12)側からインクが戻って第2室42内に流入するのではなく、インクカートリッジICと連通状態とされた第1室41側からの流入によって補填される。従って、ヘッドユニット2は空気抜きによって負圧化せず、インク吐出孔21Hからの空気の吸引を未然に防止できる。
上記の通り、空気抜きモードの実行により、ヘッドユニット2の個別通路25やインク吐出孔21H付近に空気を滞留させないようにすることができる。ヘッドユニット2側に入り込んだ空気は、パージモードによっても除去することは可能である。しかし、ヘッドユニット2内に一旦入り込んだ空気はなかなか抜けず、相当量のインクを吐出させる加圧パージの実行が必要となる場合がある。このため、ヘッドユニット2からの空気抜きのためだけにインクを大量に消費してしまうという問題がある。しかし、上記の空気抜きモードによれば、インクを循環させて空気をユニット本体31へ回収するので、インクを消費することはない。また、パージモードのようにインクを高圧化する必要はないので、パージポンプ32は低速運転で足りる。従って、大きな圧力負荷がユニット本体31に加わることを回避でき、大気圧検知フィルム7や封止フィルム7Aの破損を防止することができる。
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取り得る。
(1)上記実施形態では、供給ポンプ30を用いてインクカートリッジICからユニット本体31へインクを圧送する例を示した。これに代えて、供給ポンプ30を用いず、図20に示すブロック図のように、水頭差を利用する液体噴射装置としても良い。この変形例では、インクカートリッジICは、インク吐出孔21Hよりも高さhだけ高い位置に配置される。この高さhが水頭差となり、当該水頭差によって、インクカートリッジICのインクがヘッドユニット2に供給される。ユニット本体31の第1室41は、前記水頭差を受けて大気圧よりも高い圧力となる。その他の構成は、図2の例と同じである。
(2)押圧部材5及び開閉バルブ6(弁機構)としては、各種の変形態様を採用することができる。押圧部材5において、支点部53と受圧部5Aとの間にリンクボス54を配置し、支点部53を支点、受圧部5Aを力点、リンクボス54を作用点として、梃子の原理を用いて開閉バルブ6を押圧させる態様としても良い。また、アンブレラバルブ66を備えた開閉バルブ6を例示したが、これに代えて、各種の移動式バルブを開閉部材として用いてもよい。さらに、上記実施形態では、押圧部材5と開閉バルブ6とが、リンクボス54とリンクピン65とでリンク結合されている例を示したが、両者はリンク結合されていなくとも良い。例えば、押圧部材5の一部と開閉バルブ6の一部とがバネ等で常時接触する状態を形成し、その接触部を通して押圧部材5が開閉バルブ6を押圧する構造としても良い。
(3)上記実施形態では、球体83を利用した逆流防止機構部35を例示したが、これは一例であり、種々の逆流防止構造を採用することができる。例えば、復帰バネ付きの弁体を、バルブ管路81内において供給孔42Hに対向して配置し、加圧パージの圧力が加わったときに前記弁体が供給孔42Hを塞ぐ構成を採用することができる。
(4)上記実施形態では、弁機構として、図9(A)及び図9(B)に示した開閉バルブ6を例示したが、他の形態のバルブに変更しても良い。図21(A)は、変形例に係る開閉バルブ6Aの斜視図、図21(B)は、開閉バルブ6Aの分解斜視図である。開閉バルブ6Aは、バルブホルダー61Aと、このバルブホルダー61Aによって保持されるアンブレラバルブ66との組立体からなる。アンブレラバルブ66は、先に図9(B)に基づき説明したものと同一構造であるので、ここでは説明を省く。
バルブホルダー61Aは、連通口43に組み付けられた状態において、第1室41側に位置する第1端部1611と、第2室42側に位置する第2端部1612とを備える。バルブホルダー61Aは、第1端部1611側の筒部162と、第2端部1612側の平板部163と、筒部162と平板部163との間に位置する中間部164と、平板部163に配設されたリンクピン165とを含む。アンブレラバルブ66は、バルブホルダー61Aの第1端部1611側において保持されている。
筒部162は、径方向の中心にアンブレラバルブ66のピン部662を貫通させる貫通孔166を有する円筒状の部分である。貫通孔166の内径はアンブレラバルブ66の係止球部663よりも径小であるが、ゴム弾性を利用して係止球部663を押し込み通過させる態様で、第1端部1611側からピン部662が貫通孔166に挿通される。筒部162の外周面には、径方向に凹む流路溝167が、周方向に等ピッチで複数設けられている。流路溝167は、開閉バルブ6Aが開姿勢の時にインクが流れる流路となる。
中間部164は、筒部162の外径とほぼ同一の幅員を有し、平板部163よりも幅広の平板部分である。中間部164から平板部163に亘り、ピン部662を収容する切り欠きからなるピン収容部168が設けられている。筒部162及び中間部164が連通口43の大径部43Aに収容される。筒部162及び中間部164の外周面が、開閉バルブ6が左右方向に移動する際に、大径部43Aでガイドされるガイド面162Sとなる。平板部163と中間部164との境界部には、両者の幅員差に基づく段差によって形成された当接部164Aが存在する。当接部164Aは、連通口43の段部43C(図10)と対向し、当接する。平板部163に突設されたリンクピン165は、押圧部材5のリンクボス54に備えられているリンク孔541(図8(B))に嵌合される。
この開閉バルブ6Aにおいても、閉姿勢のときにはアンブレラバルブ66のシール面67がシール壁面43Sに当接することで(図10)、連通口43を封止する。一方、開姿勢のときには、シール面67がシール壁面43Sから離間し、流路溝167を通してインクが流れるようになる。また、過度の内圧が第2室42に作用した際には、傘部661の傘形状が反転する点は、図15(A)、(B)の説明と同様である。以上のような開閉バルブ6Aでも、弁機構としての作用を果たすことができる。