以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
また、以下の説明において、n+、n、n-及び、p+、p、p-の表記は、各導電型における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわちn+はnよりもn型の不純物濃度が相対的に高く、n-はnよりもn型の不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p+はpよりもp型の不純物濃度が相対的に高く、p-はpよりもp型の不純物濃度が相対的に低いことを示す。なお、n+型、n-型を単にn型、p+型、p-型を単にp型と記載する場合もある。
不純物濃度は、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定することが可能である。また、不純物濃度の相対的な高低は、例えば、SCM(Scanning Capacitance Microscopy)で求められるキャリア濃度の高低から判断することも可能である。また、不純物領域の深さ等の距離は、例えば、SIMSで求めることが可能である。また。不純物領域の深さ等の距離は、例えば、SCM像とAFM(Atomic Force Microscope)像との合成画像から求めることが可能である。
(第1の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第1の電極と、第2の電極と、少なくとも一部が第1の電極と第2の電極との間に設けられた炭化珪素層と、炭化珪素層内に設けられたn型の第1の炭化珪素領域と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、第1の方向に伸長する複数のp型の第2の炭化珪素領域と、炭化珪素層内に設けられ、p型の第2の炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域よりもn型不純物濃度が高く、第1の電極に電気的に接続された複数のn型の第3の炭化珪素領域と、複数のp型の第2の炭化珪素領域内の隣り合う2つのp型の第2の炭化珪素領域の間に設けられたn型の第1の炭化珪素領域に接し、第1の方向に伸長し、第1の周期で設けられ、第1の電極に電気的に接続された複数の第1の導電層と、複数の第1の導電層の内の隣り合う2本の第1の導電層の間に設けられ、第1の方向に伸長するn(n=2、3、4、5)本の第1のゲート電極と、n本の第1のゲート電極とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられた複数の第1のゲート絶縁層と、を備える。
図1は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。本実施形態の半導体装置は、炭化珪素を用いた電子をキャリアとするn型の縦型MOSFET100である。本実施形態のMOSFET100は、チップ内にショットキーバリアダイオード(SBD)を備える。
MOSFET100は、規則的に配置されるMOSFETセル(MC)とSBDセル(SC)を備える。以下、n=3の場合を例に説明する。
MOSFET100は、炭化珪素層10、ソース電極(第1の電極)12、ドレイン電極(第2の電極)14、アノード電極(第1の導電層)16、SBD領域17、ゲート電極(第1のゲート電極)18、ゲート絶縁膜(第1のゲート絶縁層)20、層間絶縁膜22、ゲート接続層(ゲート層)34を備える。
炭化珪素層10内には、n+型のドレイン領域24、n-型のドリフト領域(n型の第1の炭化珪素領域)26、p型のベース領域(p型の第2の炭化珪素領域)28、n+型のソース領域(n型の第3の炭化珪素領域)30、p+型のコンタクト領域(p型の第4の炭化珪素領域)32を備える。
炭化珪素層10は、単結晶のSiCである。炭化珪素層10は、例えば、4H-SiCである。炭化珪素層10の少なくとも一部は、ソース電極12、ドレイン電極14との間に設けられる。
炭化珪素層10は、第1の面(図1中“P1”)と第2の面(図1中“P2”)とを備える。以下、第1の面を表面、第2の面を裏面とも称する。なお、以下、「深さ」とは、第1の面を基準とする深さを意味する。
第1の面は、例えば、(0001)面に対し0度以上8度以下傾斜した面である。また、第2の面は、例えば、(000-1)面に対し0度以上8度以下傾斜した面である。(0001)面はシリコン面と称される。(000-1)面はカーボン面と称される。
n+型のドレイン領域24は、炭化珪素層10の裏面側に設けられる。ドレイン領域24は、例えば、窒素(N)をn型不純物として含む。ドレイン領域24のn型不純物の不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。
n-型のドリフト領域26は、ドレイン領域24上に設けられる。ドリフト領域26は、例えば、窒素(N)をn型不純物として含む。ドリフト領域26のn型不純物の不純物濃度は、ドレイン領域24のn型不純物の不純物濃度よりも低い。
ドリフト領域26のn型不純物の不純物濃度は、例えば、4×1014cm-3以上6×1016cm-3以下である。ドリフト領域26の厚さは、例えば、5μm以上150μm以下である。
p型のベース領域28は、ドリフト領域26とソース電極12との間に設けられる。ベース領域28は、ドリフト領域26と炭化珪素層10の表面との間に設けられる。ベース領域28は、MOSFET100のチャネル領域として機能する。
p型のベース領域28は、例えば、第2の方向に所定の第2の周期で設けられる。第2の周期は、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられるゲート電極18の本数をn本とした場合に、後述する第1の周期の1/(n+1)の第2の周期で設けられる。本実施形態では、ゲート電極18の本数が3本であるため、第2の周期は第1の周期の1/4である。
ベース領域28は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。ベース領域28のp型不純物の不純物濃度は、例えば、1×1017cm-3以上5×1017cm-3以下である。ベース領域28の深さは、例えば、0.2μm以上0.6μm以下である。
n+型のソース領域30は、ベース領域28とソース電極12との間に設けられる。ソース領域30はベース領域28と炭化珪素層10の表面との間に設けられる。
ソース領域30は、例えば、リン(P)をn型不純物として含む。ソース領域30のn型不純物の不純物濃度は、ドリフト領域26のn型不純物の不純物濃度よりも高い。
ソース領域30のn型不純物の不純物濃度は、例えば、1×1019cm-3以上1×1021cm-3以下である。ソース領域30の深さはベース領域28の深さよりも浅く、例えば、0.1μm以上0.3μm以下である。
p+型のコンタクト領域32は、ベース領域28とソース電極12との間に設けられる。コンタクト領域32は、ソース領域30の間に設けられる。コンタクト領域32のp型不純物の不純物濃度は、ベース領域28のp型不純物の不純物濃度よりも高い。
コンタクト領域32は、ソース電極12のコンタクト抵抗を低減する機能を備える。
コンタクト領域32は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。
図2は、本実施形態の半導体装置の模式平面図である。図2は、アノード電極16とゲート電極18との配置を示す。
アノード電極16は、隣り合う2つのベース領域28の間のドリフト領域26に接して設けられる。アノード電極16は、図2に示すように第1の方向に伸長する。アノード電極16は、第1の方向と直交する第2の方向に、第1の周期で繰り返し設けられる。
アノード電極16は、SBDのアノード電極として機能する。
アノード電極16は、p型不純物を含むp型の多結晶シリコンである。アノード電極16は、例えば、ゲート電極18と同一の材料で形成される。アノード電極16は、例えば、ゲート電極18と同時に形成される。なお、アノード電極16は、n型不純物を含むn型の多結晶シリコンであっても構わない。
アノード電極16は、ゲート絶縁膜20に設けられた開口部で、ドリフト領域26に接する。アノード電極16とドリフト領域26とが接する部分が、SBD領域17である。
アノード電極16と、ドリフト領域26との間の接合は、ヘテロ接合である。p型の多結晶シリコンとSiCとの間の接合は、約1.5eVのヘテロ接合障壁により、ショットキー接合と同様の電流・電圧特性を実現する。
アノード電極16は、ソース電極12に電気的に接続される。アノード電極16は、層間絶縁膜22に設けられた開口部(図2中の破線の四角)36でソース電極12と接する。
ゲート電極18は、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられる。本実施形態では、3本のゲート電極18が、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられる。なお、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられるゲート電極18の本数は、2本、4本、又は、5本であっても構わない。
図2に示すように、ゲート電極18は、アノード電極16同様、第1の方向に伸長する。ゲート電極18の端部は、第2の方向に伸長するゲート接続層34に接続される。なお、アノード電極16はゲート接続層34と分離され、ゲート電極18と独立に電位が印加される。
本実施形態のゲート電極18は、p型不純物を含むp型の多結晶シリコンである。ゲート電極18は、n型不純物を含むn型の多結晶シリコンであっても構わない。
ゲート絶縁膜20は、ゲート電極18と、隣り合う2つのベース領域28の間のドリフト領域26との間に設けられる。また、ゲート絶縁膜20は、ゲート電極18と、上記隣り合う2つのベース領域28との間に設けられる。
ゲート絶縁膜20は、例えば、シリコン酸化膜である。ゲート絶縁膜20には、例えば、High-k絶縁膜(高誘電率絶縁膜)が適用可能である。
層間絶縁膜22は、ゲート電極18上に設けられる。層間絶縁膜22は、例えば、シリコン酸化膜である。
ソース電極12は、炭化珪素層10の表面上に設けられる。ソース電極12は、ソース領域30、及び、コンタクト領域32に接する。
ソース電極12は、金属を含む。ソース電極12を形成する金属は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ソース電極12は、炭化珪素層10に接する金属シリサイドや金属カーバイドを含んでも構わない。
ドレイン電極14は、炭化珪素層10の裏面上に設けられる。ドレイン電極14は、ドレイン領域24に接する。
ドレイン電極14は、例えば、金属又は金属半導体化合物である。ドレイン電極14は、例えば、ニッケルシリサイド(NiSi)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、及び、金(Au)から成る群から選ばれる材料を含む。
本実施形態のMOSFET100では、MOSFETセル(MC)とSBDセル(SC)とが、第2の方向に周期的に配置される。MOSFETセルは1本のゲート電極18を含み、SBDセルは、1本のアノード電極16を含む。
本実施形態では、MOSFETセル3個に対し、SBDセル1個が配置される。例えば、各セルの第2の方向の長さを4μmとすると、全体で16μmの周期で、MOSFETセル3個とSBDセル1個がチップ全体に配置されることになる。この場合、MOSFET100の第1の周期は16μmとなる。
以下、実施形態の半導体装置の作用及び効果について説明する。図3~図8は、本実施形態の作用及び効果の説明図である。
まず、SBDセル(SC)を有しないMOSFET900の動作について説明する。図3は、MOSFET900の模式断面図である。MOSFET900は、SBDセルを有しないこと以外は、MOSFET100と同様の構成を備える。
ドレイン電極14がソース電極12に対して正にバイアスされた時に、ドレイン電極14とソース電極12間の電流のオン・オフを制御することが、MOSFET900の主要動作である。
ゲート電極18とソース電極12の間に正の電圧を印加し、ベース領域28とゲート絶縁膜20の界面に電子を誘起すると、ソース領域30とドリフト領域26の間に電子チャネルが形成される。したがって、ドレイン電極14とソース電極12間に電流が流れ、MOSFET900はオン状態となる。
一方、ゲート電極18とソース電極12の間の電圧を下げ、ベース領域28とゲート絶縁膜20の界面に誘起された電子の濃度を減じると、ソース領域30とドリフト領域26の間の導通は遮断される、したがって、MOSFET900はオフ状態となる。
電流が遮断されると、空乏層がベース領域28からドリフト領域26へ延び、ドレイン電極14とソース電極12間の電圧差を支える。ドリフト領域26の不純物濃度と厚みは所望の絶縁耐圧を保てるように設定されている。
以上がMOSFET900の主要動作であるが、主要動作の他に逆導通状態と称される動作モードがある。逆導通状態は、ドレイン電極14がソース電極12に対して負にバイアスされた時の動作である。
ドレイン電極14がソース電極12に対して負にバイアスされると、p型のベース領域28がn型のドリフト領域26に対して正にバイアスされたことになる。このため、p型のベース領域28とn型のドリフト領域26の間のpn接合ダイオードの立ち上がり電圧を超えると、ソース電極12からドレイン電極14に向かって電流が流れる。これが逆導通状態である。
p型のベース領域28とn型のドリフト領域26の間に形成されるダイオードは内蔵ダイオードと称される。逆導通状態では、ベース領域28から正孔が、n+型のドレイン領域24から電子がそれぞれドリフト領域26に注入され、ドリフト領域26内で再結合する。
内蔵ダイオードの通電劣化は、逆導通状態の時に発生する。ドリフト領域26中、乃至はその近傍領域にSiCの(0001)面に沿った転位が存在すると、再結合エネルギーを得た転位が分解し、(0001)面内に積層欠陥が成長・拡大する。
通常、SiC基板は<0001>方向から低オフ角(例えば4°)で切り出されている。したがって、積層欠陥は通電方向に対しほぼ垂直な方位を持って拡張する。
積層欠陥の存在する部分では積層周期が乱れる。このため、禁止帯幅が変化し伝導電子に対する電位障壁が発生する。したがって、電流の経路に対し垂直な面状の電位障壁が出現するため、内蔵ダイオードへの通電と共に、抵抗が増加して行く。
この積層欠陥は、逆導通状態ばかりでなく、電流がドレインからソースへ流れる順方向状態においても電位障壁として働く。このため、順方向のオン抵抗も増加して行く。
特にチップ内に積層欠陥の元となるSiCの(0001)面に沿った転位が高密度に存在すると、内蔵ダイオードの通電と共にチップ内に占める積層欠陥の面積割合が増加して行く。このような状態になるとオン抵抗が非常に大きくなるため、最終的には回路が誤動作したり、素子の発熱量が大きくなって破壊したりするような重大な問題を引き起こしてしまう。
内蔵ダイオードの通電劣化の問題を解決する一つの方法として、SiCの結晶性を改善し、積層欠陥の元となる(0001)面に沿った転位を排除することが考えられる。また、別の方法として、フォトルミネッセンス法などにより、積層欠陥の元となる(0001)面に沿った転位の有無を確認し、有転位のチップを選別し、除去することが考えられる。いずれの方法も十分な解決には至っていない。
内蔵ダイオードの通電劣化の問題を解決する更に別の方法として、図4に示すように、SiC-MOSFETのドレイン-ソース間にSiC-MOSFETと並列に外付けのダイオードを接続することが考えられる。図4には、内蔵ダイオードも示す。
外付けダイオードとしては、例えば、SiC製のショットキー障壁ダイオード(SBD)を用いる。SiCのpn接合ダイオードのオン電圧は約2.5Vであるのに対し、ショットキー障壁ダイオードのオン電圧は約1Vと低くなっている。このため、逆導通電流は主に外付けSBDを流れることになる。このような回路で、内蔵ダイオードに流れる電流を抑制できれば、ドリフト領域26に正孔の注入は起こらず積層欠陥の拡張を防ぐことができる。
もっとも、内蔵ダイオードに流れる電流を十分抑制するためには、外付けSBDのチップ面積が大きくなり、SiC-MOSFET単独で使用する場合に比べてコストが増大する恐れがある。また、外付けSBDのチップ面積が大きくなり、スイッチング損失が増大する恐れがある。
本実施形態のMOSFET100は、SiC-MOSFETと同一チップ内に逆導通電流を流すためのSBDセルを設けている。以下、本実施形態のMOSFET100の動作について説明する。
本実施形態のアノード電極16は、p型の多結晶シリコンである。p型の多結晶シリコンと、n-型のドリフト領域26のヘテロ接合ダイオードの立ち上がり電圧は約1.2Vである。これに対し、p型のベース領域28とn-型のドリフト領域26のpn接合ダイオードの立ち上がり電圧は約2.5Vである。
ヘテロ接合ダイオードとpn接合ダイオードのアノード電位は、いずれもソース電極12に接続され等しくなる。したがって、逆導通方向に電流を流した場合、先ず立ち上がり電圧が小さいSBDセルのヘテロ接合ダイオードから電流が流れ始める。
ヘテロ接合ダイオードは、電子のみをキャリアとするユニポーラデバイスである。したがって、ヘテロ接合ダイオードに逆導通電流が流れても、バイポーラデバイスであるpn接合ダイオードと異なり、キャリアの再結合エネルギーに起因する積層欠陥の成長・拡大は生じない。
図5は、本実施形態のMOSFET100の逆導通状態の電流分布と電圧分布のシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションで想定したMOSFETの構造では、MOSFETセル3個に対し、SBDセル1個が配置される。各セルの第1の方向の長さ(長辺)が1.6mm、第2の方向の長さ(短辺)が4μmである。第2の方向のベース領域28の幅は2.5μm、第2の方向のベース領域28の間隔は1.5μmである。このセルを、例えば、1360個配置し、6×6mm2のチップが構成される。チップの順方向の定格電流は、例えば、120A(アンペア)である。
図5では、図1の一点鎖線で囲まれた、第2の方向の長さが8μmの領域の分布を示す。図5では、チップに定格電流と等しい120Aの逆方向電流が流れた時のドリフト領域26内の電流分布と電圧分布を示している。
図5では、電位の基準はソース電極12においている。したがって、ドリフト領域26内の電位は負の値を取っている。SBD直下の電位はSBDの立ち上がり電圧に等しい-1.2Vとなっている。
一方、ベース領域28と接するドリフト領域26の電圧は、SBD中心から7.25μm離れた点において最小値を取り、その値は-2.23Vである。したがって、pn接合ダイオードの立ち上がり電圧(-2.5V)を越えないため、全電流がSBDを流れることになる。したがって、ベース領域28から正孔が、ドリフト領域26に注入されることはない。
更に、電流を増して行き逆方向電流が150Aに達すると、ベース領域28と接するnドリフト領域26の電位がpn接合の立ち上がり電圧2.5Vを超えpn接合に電流が流れるようになる。
図6は、上記のMOSFETセルとSBDセルを有するチップサイズ6×6mm2のSiC-MOSFETの175℃における逆方向電流電圧特性を示す。このMOSFETの定格電流は120Aである。
逆方向電流はソース・ドレイン間電圧が1.2Vを超えると立ち上がり、電流が150Aに達すると変曲し更に急激に電流が増加して行くような特性を示す。変曲点の電位は3.4Vである。
ソース・ドレイン間電圧が3.4V以上になると内蔵ダイオードのpn接合に電流が流れる。このため、伝導度変調によってドリフト領域26の抵抗が下がり、急激に電流が増加する。
本実施形態のMOSFET100では、MOSFETセルの内蔵ダイオードの立ち上がり電圧2.5Vを大きく超える電圧が、ソース電極12とドレイン電極14間に印加されても、並列接続されたSBDセルの影響により、内蔵ダイオードのpn接合に電流が流れない。言い換えれば、MOSFET100の定格電流の範囲以下では、内蔵ダイオードのpn接合に電流が流れることが抑制される。したがって、通電劣化が抑制される。よって、MOSFET100の信頼性が向上する。
また、本実施形態では、MOSFETセル3個に対し、SBDセル1個の割合である。このため、SBDセルを設けることによるチップ面積の増大割合は約30%と小さい。したがって、MOSFET100の製造コストの増大が抑制される。
また、本実施形態のMOSFET100は、通常のMOSFETの製造プロセスに対し、追加するプロセスが、ゲート絶縁膜20にアノード電極16を形成のための開口部をあけるのみである。したがって、この観点からも、MOSFET100の製造コストの増大が抑制される。
また、本実施形態のMOSFET100は、SBDセルとMOSFETセルが同一のセルサイズを備える。また、すべてのベース領域28が同一周期で配列できる。したがって、リソグラフィーやエッチング時の加工が安定し、微細化に適したMOSFET100が実現できる。
また、本実施形態のMOSFET100は、ベース領域28に、すべてソース電極12と低抵抗で接続するコンタクト領域32が設けられている。このため、MOSFET100に印加される電圧が増加して、アバランシェ降伏した際に正孔が流入しても、ベース領域28の電位上昇は抑えられる。したがって、二次降伏に入ることが防止でき、アバランシェ耐量に優れたMOSFET100が実現できる。
また、本実施形態のMOSFET100では、ドレイン・ソース間電圧が増すと、n+型のドレイン領域24からSBDセルのアノード電極16へ向かう電気力線密度も増す。しかし、数V以上の電圧が印加されると、ベース領域28からドリフト領域26に延びた空乏層幅が、ベース領域28の離間距離、例えば、1.5μmに達し、電気力線の終端先はベース領域28へ向かうようになる。この結果、SBDセルのアノード電極16下部の電界強度の増加は緩やかになり、ドレイン・ソース間に高電圧が印加されても、SBDセル領域のリーク電流増加が抑えられる。
また、本実施形態のMOSFET100では、逆導通方向に定格電流を大きく超えるような非常に大きなサージ電流が入った場合、図6に示したようにベース領域28から正孔がドリフト領域26に注入される。したがって、伝導度変調によりドリフト領域26の電位降下が抑えられ、MOSFET100の熱破壊の発生が抑制される。よって、逆方向サージ電流耐量の大きなMOSFET100が実現される。
なお、サージ電流印加時にベース領域28から正孔がドリフト領域26に注入されても、長時間注入されることは無い。したがって、積層欠陥の増殖によるオン抵抗の増加が起こることは無い。
本実施形態のMOSFET100では、定格電流と等しい逆方向電流をSBDセルで流すことが可能となる。その際、ソース・ドレイン間の電位降下は3.4Vと大きく発熱密度も高くなる。したがって、長時間逆方向電流をSBDに流すことは素子温度の上昇と言う点では好ましくはない。
このような問題に対しては、逆方向に通電している期間にMOSFET100のゲートをオンさせれば、ソース・ドレイン間の電位降下を抑えることができる。本実施形態のMOSFET100では、定格電流を流した時のソース・ドレイン間電圧は、素子温度が175℃の時に1.7Vである。したがって、発熱密度は43%に低減できる。
すなわち、本実施形態のMOSFET100では誘導性負荷のようにゲートがオン状態の時に一定の負荷電流がドレイン電極14からソース電極12方向へ流れている状態から、ゲートをオフして電流がソースからドレインへ方向を転換する瞬間のみSBDセルに電流を流す。そして、電流方向が転換した後は再びゲートをオンしてMOSFETセルに逆方向の電流を流す。このような同期整流モードを適用すると、素子の発熱も抑制でき信頼性の高い動作が可能となる。
次に、MOSFETセルとSBDセルとの適正な比率について考察する。言い換えれば、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられるゲート電極18の適正な本数nについて考察する。
まず、SiC-MOSFETを主に適用すると考えられる650Vから3.3kVまでの耐圧系における代表的なドリフト層の設計パラメータを表1に示す。
定格電流は、素子の熱抵抗や信頼性などを総合的に勘案して決定される。表1では、仮想的にドリフト領域26の発熱密度が360W/cm2以下であることを条件に、6×6mm2の大きさのチップの定格電流を記載している。
ここで、チップの全面積に対する有効面積割合は83%である。表1に示した定格電流密度J
0はチップ面積を基準にして、およそ式(1)のように近似的に表現できる
ここでBVは耐圧系をkV単位で表している。なお、この試算では素子温度は175℃とした。
図7は、MOSFETの内蔵ダイオードのpn接合に電流が流れない臨界電流を、nの関数として計算した結果である。表1で示した各耐圧系の素子パラメータを用いた。そして、図1に示すような構造で、4μm幅のMOSFETセルのゲート電極18の本数をn本に対し、4μm幅のSBDセルのアノード電極16の本数を1本配置した場合の臨界電流を計算した。
n=1すなわちMOSFETとSBDが1:1の割合で配されている場合は、pn接合が動作する臨界電流は非常に大きくなる。しかし、定格電流に対しては明らかに過剰で、製造コストの増大やスイッチング損失の増大の観点からは好ましくないことが分かる。
定格電流の設定やフィンガーサイズの設定は、個々の設計条件に応じて変化し得るが、概ね式(1)で示した値の上下50%の範囲が実用的と考えられる。したがって、図7に示した結果から、n=2以上からn=5以下とすることが望ましい。
nが上記範囲を下回ると、製造コストやスイッチング損失が増大する恐れがある。また、nが上記範囲を上回ると、通電劣化が生じる恐れがある。
以上、本実施形態によれば、通電劣化を抑制し信頼性の向上を可能とするMOSFET100が実現される。
(第2の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第1の導電層は第1の電極の一部である点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
図8は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。本実施形態の半導体装置は、炭化珪素を用いた電子をキャリアとするn型の縦型MOSFET200である。
図9は、本実施形態の半導体装置の模式平面図である。図9は、アノード電極16とゲート電極18との配置を示す。
アノード電極16は、隣り合う2つのベース領域28の間のドリフト領域26に接して設けられる。アノード電極16は、図9に示すように第1の方向に伸長する。アノード電極16は、第1の方向と直交する第2の方向に、第1の周期で繰り返し設けられる。
アノード電極16は、ソース電極12の一部である。したがって、アノード電極16は、ソース電極12と同一の材料で形成される。
アノード電極16は、金属を含む。アノード電極16を形成する金属は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。アノード電極16と、ドリフト領域26との間の接合は、ショットキー接合である。
本実施形態のアノード電極16は、ソース電極12と同時に形成される。例えば、アノード電極16が形成される領域には、ゲート電極18の形成時に、ゲート電極18の材料を除去しておく。そして、ソース電極12のコンタクトホール形成時に、アノード電極16用のコンタクトホールも形成する。
以上、本実施形態によれば、通電劣化を抑制し信頼性の向上を可能とするMOSFET200が実現される。
(第3の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第1の電極に電気的に接続された第3の電極と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、第1の方向に伸長する複数のp型の第5の炭化珪素領域と、炭化珪素層内に設けられ、p型の第5の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域よりもn型不純物濃度が高く、第3の電極に電気的に接続された複数のn型の第6の炭化珪素領域と、複数のp型の第5の炭化珪素領域の内の隣り合う2つのp型の第5の炭化珪素領域の間に設けられたn型の第1の炭化珪素領域に接し、第1の方向に伸長し、第1の周期で設けられ、第3の電極に電気的に接続された複数の第2の導電層と、複数の第2の導電層の内の隣り合う2本の第2の導電層の間に設けられ、第1の方向に伸長するn(n=2、3、4、5)本の第2のゲート電極と、n本の第2のゲート電極とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられた複数の第2のゲート絶縁層と、n本の第1のゲート電極とn本の第2のゲート電極との間に設けられ、n本の第1のゲート電極の端部と接続され、n本の第2のゲート電極の端部に接続され、n本の第1のゲート電極及びn本の第2のゲート電極よりも幅が広いゲート層と、ゲート層とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられ、第1のゲート絶縁層及び第2のゲート絶縁層よりも厚い絶縁層と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と絶縁層との間に設けられ、隣り合う2本の第1の導電層の間に設けられたp型の第2の炭化珪素領域と接続され、隣り合う2本の第2の導電層の間に設けられたp型の第5の炭化珪素領域と接続されたp型の第7の炭化珪素領域とを、更に備える。そして、p型の第7の炭化珪素領域の任意の位置と、隣り合う2本の第1の導電層のいずれか一方とn型の第1の炭化珪素領域とが接する部分との距離、又は、隣り合う2本の第2の導電層のいずれか一方とn型の第1の炭化珪素領域とが接する部分との距離が、第1の周期の6/(n+1)の半分未満である。特に、本実施形態では、p型の第7の炭化珪素領域の任意の位置と、隣り合う2本の第1の導電層のいずれか一方とn型の第1の炭化珪素領域とが接する部分との距離、又は、隣り合う2本の第2の導電層のいずれか一方とn型の第1の炭化珪素領域とが接する部分との距離が、第1の周期の半分未満である。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図10は、本実施形態の半導体装置の模式平面図である。本実施形態の半導体装置は、炭化珪素を用いた電子をキャリアとするn型の縦型MOSFET300である。図10は、MOSFET300のチップの全体図である。
MOSFET300は、主要領域50、ゲートパッド領域52、ゲートフィンガー領域54、終端領域56を備える。
主要領域50は、MOSFETセル及びSBDセルが配置される領域である。ゲートパッド領域52は、MOSFETセルのゲート電極に与えるゲート電圧信号を印加する領域である。ゲートフィンガー領域54は、ゲート電圧信号をチップ全体のMOSFETセルのゲート電極に伝達するための領域である。終端領域56は、主要領域50の端部での電界集中を抑制するための領域である。ゲートパッド領域52、ゲートフィンガー領域54、終端領域56は、付帯領域である。
図11は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図10の枠線58の部分の拡大図である。図11は、ゲートフィンガー領域54における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。
ゲートフィンガー領域54は、ゲート接続層(ゲート層)34を間に挟んで、第1のセルブロックと第2のセルブロックとを有する。第1のセルブロックは、例えば、第1の実施形態の図1に示す構造を備える。
図12は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。図12は、図11のMM’断面である。図12は、第2のセルブロックの模式断面図である。第2のセルブロックも第1のセルブロックと同様の構造を備える。
第2のセルブロックは、規則的に配置されるMOSFETセル(MC)とSBDセル(SC)を備える。以下、n=3の場合を例に説明する。
第2のセルブロックは、炭化珪素層10、ソース電極(第3の電極)62、ドレイン電極(第2の電極)14、アノード電極(第2の導電層)66、SBD領域67、ゲート電極(第2のゲート電極)68、ゲート絶縁膜(第2のゲート絶縁層)70、層間絶縁膜22、ゲート接続層(ゲート層)34を備える。
炭化珪素層10内には、n+型のドレイン領域24、n-型のドリフト領域(n型の第1の炭化珪素領域)26、p型のベース領域(p型の第5の炭化珪素領域)78、n+型のソース領域(n型の第6の炭化珪素領域)80、p+型のコンタクト領域82を備える。
ゲート接続層34は、3本のゲート電極18と3本のゲート電極68との間に設けられる。ゲート接続層34には、3本のゲート電極18の端部が接続される。また、ゲート接続層34には、3本のゲート電極68の端部が接続される。ゲート接続層34は、第2の方向に分断されている。
ゲート接続層34は、例えば、p型不純物を含むp型の多結晶シリコンである。ゲート接続層34は、ゲート電極18、68と同一の材料で形成される。ゲート接続層34は、ゲート電極18、68と同時に形成される。ゲート接続層34は、ゲート電極18及びゲート電極68よりも幅が広い。
ゲート接続層34とドリフト領域26との間には、フィールド酸化膜(絶縁層)81が設けられる。フィールド酸化膜81は、第2の方向に分断されている。
フィールド酸化膜81は、ゲート絶縁膜20、70よりも膜厚が厚い。フィールド酸化膜81は、例えば、シリコン酸化膜である。
アノード電極16とアノード電極66とは接続されている。アノード電極16、66とドリフト領域26との間には、フィールド酸化膜81が設けられない。
図13は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図11と同じ領域を示している。図13は、ゲートフィンガー領域54における、p型の炭化珪素領域と、SBD領域のパターンを示す。
MOSFET300は、p型領域(p型の第7の炭化珪素領域)84を有する。p型領域84は、炭化珪素層10内に設けられる。p型領域84は、ドリフト領域26とフィールド酸化膜81との間に設けられる。
p型領域84は、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられた4本のベース領域28に接続される。また、p型領域84は、隣り合う2本のアノード電極66の間に設けられた4本のベース領域78に接続される。
p型領域84は、ベース領域28及びベース領域78と略同一のp型不純物濃度及び深さを有する。p型領域84は、ベース領域28及びベース領域78と同時に形成される。
p型領域84は、第2の方向に分断されている。SBD領域17とSBD領域67とは接続され、分断されたp型領域84の間に位置する。
p型領域84の任意の位置と、隣り合う2本のアノード電極16のいずれか一方とドリフト領域26とが接する部分との距離、又は、隣り合うアノード電極66のいずれか一方とドリフト領域26とが接する部分との距離が、第1の周期の6/(n+1)の半分未満である。言い換えれば、p型領域84の任意の位置と、SBD領域17又はSBD領域67との距離が、第1の周期の6/(n+1)の半分未満である。例えば、n=3の場合、p型領域84の任意の位置と、SBD領域17又はSBD領域67との距離が、第1の周期の3/2の半分未満である。
p型領域84の任意の位置と、SBD領域17又はSBD領域67との距離は、第1の周期の半分未満であることが望ましい。
図14は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式断面図である。図14は、図11及び図13のAA’断面である。
第2の方向に分断されているゲート接続層34は、ゲート金属配線86によって、電気的に接続されている。ゲート金属配線86は、例えば、ソース電極12、62と同一の材料で形成される。ゲート金属配線86は、例えば、ソース電極12、62と同時に形成される。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。図15~図20は、本実施形態の作用及び効果の説明図である。
最初に、SBDセルを有しない図3のMOSFET900を例に、ゲートフィンガー領域の構造及び機能について説明する。
図15、図16は、SBDセルを有しない場合のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図15は、ゲートフィンガー領域における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。図16は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域のパターンを示す。
ゲートフィンガー領域では、ゲート接続層(ゲート層)34を間に挟んで、第1のセルブロックと第2のセルブロックとを有する。第1のセルブロック及び第2のセルブロックは、例えば、図3に示すSBDセルを有しない構造を備える。
ゲートフィンガー領域は、ゲート接続層34の上に低抵抗の金属電極(図示せず)を配した構造を備える。ゲート電極18と同一の材料で形成されるゲート接続層34の面抵抗は通常数十オーム□程度と比較的大きい。このため、ゲート信号をゲート電極18からチップ全体に高速に伝達することは困難である。
このため、ゲート接続層34に接続される指状の金属配線をチップ全体に施し、ゲート信号を高速にチップ全体に伝達することが行われる。通常、この金属配線はソース電極12と同一の金属材料で形成される。
ソース電極12には大電流を流すために、MOSFETセル直上にボンディングなどで外部と接続する金属接合を形成する。このため、数μm以上の厚みを持つアルミニウム層などが用いられる。
このような厚い金属層のエッチング加工では、厚みと同等以上の大きさのサイドエッチングが避けられない。そのため製造マージンを加味すると、ゲートフィンガー領域の幅は、数十μm程度は確保することが望ましい。
例えば、図15に示すゲート接続層34の第1の方向の幅(図中“W1”)が、60μmである。ゲート接続層34の両側から、MOSFETセルが配置されている主要領域50に向けて、ゲート電極18が第1の方向に伸長している。
図16に示すように、幅の広いゲート接続層34の下部には、p型領域84が設けられる。p型領域84は、ドレイン電極14側から延びた高電界をゲート接続層34及びフィールド酸化膜81から遮蔽するために、設けられる。
したがって、ゲートフィンガー領域には、幅広のp型領域84とドリフト領域26からなるpn接合が存在する。例えば、図16に示すp型領域84の幅(図中“W2”)は、ゲート接続層34を完全に覆う観点から70μmである。
次に、図15、図16に示すゲートフィンガー領域の構造を、例えば、第1の実施形態のSBDセルを備えるMOSFET100に適用する場合の問題点について説明する。
図17、図18は、SBDセルを有する場合のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図17は、ゲートフィンガー領域における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。図18は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域、SBD領域のパターンを示す。
図17に示されるように、アノード電極16とアノード電極66は、ゲート接続層34を間に挟んで、分断される。このため、図18に示されるように、SBD領域17とSBD領域67も分断される。
例えば、W2=70μmであるとすると、SBD領域17、67からp型領域84の中央部の点Xまでの距離は、少なくとも35μm以上と極めて大きくなる。このため、p型領域84とドリフト領域26とで形成されるpn接合ダイオードは、並列接続されたSBDセルの影響をほとんど受けないことになる。
したがって、p型領域84とドリフト領域26とで形成されるpn接合ダイオードは、図19に点線で示すように、約2.5Vのオン電圧で電流が流れることになる。主要領域50では、図19に実線で示すように、ベース領域28からドリフト領域26への正孔の注入は、3.4Vまで起こらない設定となっている。しかしながら、図17、図18の構造では、ソース・ドレイン間電圧が2.5Vを超えるとゲートフィンガー領域のpn接合においてドリフト領域26への正孔の注入が始まってしまい、通電劣化が生じる恐れがある。
このため、主要領域50以外にゲートフィンガー領域54等の付帯領域のpn接合部にもSBD領域を所定の間隔で配置し、付帯領域のpn接合部からのドリフト領域26への正孔注入を抑えることが望ましい。
本実施形態では、p型領域84は、第2の方向に分断されている。SBD領域17とSBD領域67とは接続され、分断されたp型領域84の間に位置する。
このため、図20に示すように、SBD領域17、67から点Xまでの距離(図20中の“d”)が短くなる。例えば、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μmとすると、W2=70μmであったとしても、距離dは、7.25μm以下となる。したがって、p型領域84とドリフト領域26とで形成されるpn接合ダイオードに電流が流れることが抑制される。
主要領域50における、SBDセルとMOSFETセルの組み合わせの繰り返し周期が第1の周期である。主要領域50では、第1の周期に対し、SBD領域17からベース領域28までの最大距離は、第1の周期の半分未満である。
第1の実施形態で説明したように、SBDセル1個に対しMOSFETセルをn個配置する場合、通電劣化を抑制する観点からは、nが5以下であることが望ましい。主要領域50のnに関わらず、少なくとも、付帯領域では、SBD領域からpn接合までの距離がn=5の場合の主要領域50でのSBD領域からpn接合までの距離を超えないことが望ましい。
nを関数として、n=5に相当する第1の周期は、主要領域の第1の周期の6/(n+1)である。したがって、付帯領域のSBD領域からpn接合までの距離は、第1の周期の6/(n+1)の半分未満であることが望ましい。
また、SBD領域からpn接合までの距離を主要領域50と同等にする観点から、付帯領域のSBD領域からpn接合までの距離は、第1の周期の半分未満であることがより望ましい。
本実施形態では、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μmとすると、第1の周期の6/(n+1)の半分は、n=3であるため、12μmとなる。また、第1の周期の半分は、8μmとなる。距離dは7.25μm以下であるため、第1の周期の6/(n+1)の半分未満、第1の周期の半分未満のいずれも充足することになる。
本実施形態によれば、主要領域50に加え、付帯領域であるゲートフィンガー領域54のpn接合ダイオードに電流が流れることを抑制する。したがって、第1の実施形態よりも、更に、通電劣化を抑制し信頼性を向上させることが可能となる。
(第4の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、ゲートフィンガー領域の構造が第3の実施形態と異なる。第3の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
図21、図22は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図21は、ゲートフィンガー領域における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。図22は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域、SBD領域のパターンを示す。
本実施形態では、ゲート接続層34及びp型領域84は、第2の方向に対して分断せず、ゲート接続層34の第1の方向の幅(図21中の“W1”)及びp型領域84の第1の方向の幅(図22中の“W2”)を狭める。これにより、SBD領域17、67から点Xまでの距離(図22中の“d”)が短くなる。
例えば、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μm、W1=3μmとすると、SBD領域17、67から点Xまでの距離dは、8.3μm以下となる。
本実施形態では、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μmとすると、第1の周期の6/(n+1)の半分は、n=3であるため、12μmとなる。また、第1の周期の半分は、8μmとなる。したがって、第1の周期の6/(n+1)の半分未満は充足するが、第1の周期の半分未満は充足しないことになる。
本実施形態によれば、第3の実施形態同様、主要領域50に加え、付帯領域であるゲートフィンガー領域54のpn接合ダイオードに電流が流れることを抑制する。したがって、第1の実施形態よりも、更に、通電劣化を抑制し信頼性を向上させることが可能となる。
(第5の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、ゲートフィンガー領域の構造が第3及び第4の実施形態と異なる。第3及び第4の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
図23、図24は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図23は、ゲートフィンガー領域における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。図24は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域、SBD領域のパターンを示す。
本実施形態では、第1のセルブロックと第2のセルブロックとの間で、アノード電極16とアノード電極66を半周期ずらして配置する。これにより、SBD領域17、67から点Xまでの距離(図24中の“d”)が短くなる。
例えば、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μm、W1=3μmとすると、SBD領域17、67から点Xまでの距離dは、7.6μm以下となる。
本実施形態では、ベース領域28の幅を2.5μm、間隔を1.5μmとすると、第1の周期の6/(n+1)の半分は、n=3であるため、12μmとなる。また、第1の周期の半分は、8μmとなる。したがって、第1の周期の6/(n+1)の半分未満、第1の周期の半分未満のいずれも充足することになる。
本実施形態によれば、第3及び第4の実施形態同様、主要領域50に加え、付帯領域であるゲートフィンガー領域54のpn接合ダイオードに電流が流れることを抑制する。したがって、第1の実施形態よりも、更に、通電劣化を抑制し信頼性を向上させることが可能となる。
(第6の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第1の実施形態に対し、第1の電極に電気的に接続された第3の電極と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、第1の方向に伸長する複数のp型の第5の炭化珪素領域と、炭化珪素層内に設けられ、p型の第5の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域よりもn型不純物濃度が高く、第3の電極に電気的に接続された複数のn型の第6の炭化珪素領域と、複数のp型の第5の炭化珪素領域の内の隣り合う2つのp型の第5の炭化珪素領域の間に設けられたn型の第1の炭化珪素領域に接し、第1の方向に伸長し、第1の周期で設けられ、第3の電極に電気的に接続された複数の第2の導電層と、複数の第2の導電層の内の隣り合う2本の第2の導電層の間に設けられ、第1の方向に伸長するn(n=2、3、4、5)本の第2のゲート電極と、第2のゲート電極とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられた複数の第2のゲート絶縁層と、n本の第1のゲート電極とn本の第2のゲート電極との間に設けられ、n本の第1のゲート電極の端部と接続され、n本の第2のゲート電極の端部に接続され、第1のゲート電極及び第2のゲート電極よりも幅が広いゲート層と、ゲート層とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられ、第1のゲート絶縁層及び第2のゲート絶縁層よりも厚い絶縁層と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と絶縁層との間に設けられ、隣り合う2本の第1の導電層の間に設けられたp型の第2の炭化珪素領域と接続され、隣り合う2本の第2の導電層の間に設けられたp型の第5の炭化珪素領域と接続され、p型の第2の炭化珪素領域及びp型の第5の炭化珪素領域よりもp型不純物濃度の低いp型の第8の炭化珪素領域と、を更に備える。第1及び第3の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図25、図26は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図25は、ゲートフィンガー領域における、フィールド酸化膜、アノード電極、ゲート電極、ゲート接続層のパターンを示す。図26は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域、SBD領域のパターンを示す。
ゲートフィンガー領域54では、ゲート接続層(ゲート層)34を間に挟んで、第1のセルブロックと第2のセルブロックとを有する。第1のセルブロックは、例えば、第1の実施形態の図1に示す構造を備える。第2のセルブロックは、例えば、第3の実施形態の図12に示す構造を備える。
なお、第1のセルブロック及び第2のセルブロックとして、例えば、第2の実施形態の図8に示す構造を適用することも可能である。
図27は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式断面図である。図27は、図25及び図26のBB’断面である。
本実施形態は、p-型領域(p型の第8の炭化珪素領域)88を備える。p-型領域88は、炭化珪素層10内に設けられる。p-型領域88は、ドリフト領域26とフィールド酸化膜81との間に設けられる。
p-型領域88は、隣り合う2本のアノード電極16の間に設けられた4本のベース領域28に接続される。また、p-型領域88は、隣り合う2本のアノード電極66の間に設けられた4本のベース領域78に接続される。
p-型領域88のp型不純物濃度は、ベース領域28及びベース領域78のp型不純物濃度よりも薄い。p-型領域88のp型不純物濃度は、ベース領域28及びベース領域78のp型不純物濃度よりも、例えば、一桁以上薄い。p-型領域88のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上5×1016cm-3以下である。
また、例えば、p-型領域88は、ベース領域28及びベース領域78よりも浅い。ベース領域28の深さは、例えば、0.1μm以上0.3μm以下である。
フィールド酸化膜81の下には、ベース領域28及びベース領域78は延伸されない。このため、ドレイン・ソース間の電位を増した時に、ゲートフィンガー領域54近傍のセルのベース領域28、78端部に電界が集中し、耐圧劣化が生じる恐れがある。
本実施形態では、これを防止するため、低濃度のp型にドーピングされたp-型領域88をゲートフィンガー領域54近傍のセルのベース領域28、78端部からフィールド酸化膜81の下まで延伸している。
このようにすることで、ドレイン・ソース間に印加される逆バイアスを増加した時に、ドレイン領域24からベース領域28、78に至る電気力線の終端先は、p-型領域88に分散し、セルのベース領域28、78端部に集中することが避けられる。
この低濃度のp-型領域88は、例えば、チップ周辺の終端領域56(図10)を形成する工程で同時に形成できる。したがって、チップ製造工程の増加を伴わずに実現可能である。
また、ドレイン・ソース間接合に順バイアスが印加された場合でも、この低濃度のp-型領域88は抵抗が非常に大きいので電流はほとんど流れない。したがって、ドリフト領域26への正孔注入もほとんど行われず、積層欠陥の拡張による信頼性問題を回避することができる。
本実施形態によれば、主要領域50に加え、付帯領域であるゲートフィンガー領域54のpn接合ダイオードに電流が流れることを抑制する。したがって、第1の実施形態よりも、更に、通電劣化を抑制し信頼性を向上させることが可能となる。
(第7の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第1の実施形態に対し、第1の電極に電気的に接続された第3の電極と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、第1の方向に伸長する複数のp型の第5の炭化珪素領域と、炭化珪素層内に設けられ、p型の第5の炭化珪素領域と第3の電極との間に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域よりもn型不純物濃度が高く、第3の電極に電気的に接続された複数のn型の第6の炭化珪素領域と、複数のp型の第5の炭化珪素領域の内の隣り合う2つのp型の第5の炭化珪素領域の間に設けられたn型の第1の炭化珪素領域に接し、第1の方向に伸長し、第1の周期で設けられ、第3の電極に電気的に接続された複数の第2の導電層と、複数の第2の導電層の内の隣り合う2本の第2の導電層の間に設けられ、第1の方向に伸長するn(n=2、3、4、5)本の第2のゲート電極と、第2のゲート電極とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられた複数の第2のゲート絶縁層と、n本の第1のゲート電極とn本の第2のゲート電極との間に設けられ、n本の第1のゲート電極の端部と接続され、n本の第2のゲート電極の端部に接続され、n本の第1のゲート電極及びn本の第2のゲート電極よりも幅が広いゲート層と、ゲート層とn型の第1の炭化珪素領域との間に設けられ、第1のゲート絶縁層及び第2のゲート絶縁層よりも厚い絶縁層と、炭化珪素層内に設けられ、n型の第1の炭化珪素領域と絶縁層との間に設けられ、p型の第2の炭化珪素領域とp型の第5の炭化珪素領域との間に設けられ、p型の第2の炭化珪素領域及びp型の第5の炭化珪素領域と離間するp型の第9の炭化珪素領域と、を更に備える。以下、第1及び第3の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図28は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式平面図である。図28は、ゲートフィンガー領域における、p型の炭化珪素領域、SBD領域のパターンを示す。
ゲートフィンガー領域54では、ゲート接続層(ゲート層)34を間に挟んで、第1のセルブロックと第2のセルブロックとを有する。第1のセルブロックは、例えば、第1の実施形態の図1に示す構造を備える。第2のセルブロックは、例えば、第3の実施形態の図12に示す構造を備える。
なお、第1のセルブロック及び第2のセルブロックとして、例えば、第2の実施形態の図8に示す構造を適用することも可能である。
図29は、本実施形態のゲートフィンガー領域の模式断面図である。図29は、図28のCC’断面である。
本実施形態は、p型領域(第9の炭化珪素領域)90を備える。p型領域90は、炭化珪素層10内に設けられる。p型領域90は、ドリフト領域26とフィールド酸化膜81との間に設けられる。
p型領域90は、ベース領域28とベース領域78との間に設けられる。また、p型領域90とベース領域28は離間している。また、p型領域90とベース領域78は離間している。
p型領域90は、ベース領域28及びベース領域78と略同一のp型不純物濃度及び深さを有する。p型領域90は、ベース領域28及びベース領域78と同時に形成される。
p型領域90は、ソース電極12、ソース電極62のいずれにも電気的に接続されない。p型領域90は、電位が固定されないフローティング状態である。
p型領域90は、ソース電極12、62との接続がされない。したがって、ドレイン・ソース間に順バイアスが印加されてもゲートフィンガー領域54の下部のドリフト領域26に正孔が注入されることはない。
一方、ドレイン・ソース間に逆バイアスが印加された時は、p型領域90とMOSFETのセル部のベース領域28、78と間の距離が小さければ、p型領域90の電位はMOSFETのセル部のベース領域28、78の電位と略等しくなる。したがって、電気力線の終端先はゲートフィンガー領域54の下部でも概略均一となり、電界集中による耐圧低下などの不具合発生を回避できる。
電界集中を緩和させる観点から、p型領域90とベース領域28の距離が、隣り合うベース領域28間の距離以下であり、p型領域90とベース領域78の距離が、隣り合うベース領域78間の距離以下であることが望ましい。
本実施形態によれば、主要領域50に加え、付帯領域であるゲートフィンガー領域54のpn接合ダイオードに電流が流れることを抑制する。したがって、第1の実施形態よりも、更に、通電劣化を抑制し信頼性を向上させることが可能となる。
第3乃至第7の実施形態では、付帯領域としてゲートフィンガー領域54を例に説明した。p型のベース領域28、78とn-型のドリフト領域26からなるpn接合を有する終端領域56やゲートパッド領域52等、その他の付帯領域においても、pn接合領域の分割又はpn接合領域に切れ込みを施し、そのpn接合領域の分割境界又は切れ込み領域にドリフト領域26との間でショットキー接合を形成する電極材料を配置し、そのショットキー接合材料をソース電極12、62に接続し、付帯領域のpn接合に並列に接続するショットキー接合を近接して設け、pn接合がオン状態に入る電流と電圧の閾値を上昇させることができる。また、必要に応じて、付帯領域上に絶縁膜を介してアルミニウム配線層を設け、必要に応じて絶縁膜に開口部を設けそのアルミニウム電極と付帯領域の所定部分の電気的接続を確保することで付帯領域の機能を保つことができる。
第1乃至第7の実施形態では、SiCの結晶構造として4H-SiCの場合を例に説明したが、本発明は6H-SiC、3C-SiC等、その他の結晶構造のSiCを用いたデバイスに適用することも可能である。また、炭化珪素層10の表面に(0001)面以外の面を適用することも可能である。
第1乃至第7の実施形態では、p型不純物としてアルミニウム(Al)を例示したが、ボロン(B)を用いることも可能である。また、n型不純物として窒素(N)及びリン(P)を例示したが、砒素(As)、アンチモン(Sb)等を適用することも可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。