異なる実施形態において、CRFR1受容体の新規なアロステリックアンタゴニストが提供される。アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストが、アルツハイマー病(AD)モデルにおいてp-タウ濃度を調節するうえで有効であることが期せずして発見された。特定の理論に束縛されるものではないが、本明細書に述べられる化合物は、アロステリックCRFR1アンタゴニストであることからCRFR1受容体に対してより高い選択性を有し、したがって、直接CRFR1受容体アンタゴニストと比較してより高い安全性プロファイルを有するものと考えられる。
本明細書において想到される異なる実施形態は、これらに限定される必要はないが、以下のものの1つ以上を含み得る。すなわち、
実施形態1:CRFR1受容体である化合物であって、式:
に基づく化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグ
[式中、X及びYは、独立して、Me、H、CF3、重水素化メチル、及びハロゲンからなる群から選択され、
R1は、直鎖または置換アミノアルキル、置換フェノキシド、非置換フェノキシド、置換アルコキシド、非置換アルコキシド、置換アミノアリール、非置換アミノアリール、置換アミノヘテロアリール、及び非置換アミノヘテロアリールからなる群から選択される部分であるか、またはかかる部分を含み、
R2は、直鎖または置換アルコキシド、フェノキシド、置換アミノアルキル、非置換アミノアルキル、及びピランからなる群から選択される部分であるか、またはかかる部分を含む]。
実施形態2:アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストである、実施形態1の化合物。
実施形態3:Xが、CH3である、実施形態1~2のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態4:Yが、CH3である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の化合物。
[式中、R3は、O、NH、及びNCH3からなる群から選択され、
R4は、OCH3、CH3、CH2OHからなる群から選択され、
R5は、CH3、及びOCH3からなる群から選択される]である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態6:R
2が、
である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態7:R4が、OCH3である、実施形態6の化合物。
実施形態8:R4が、CH3である、実施形態6の化合物。
実施形態9:R4が、CH2OHである、実施形態6の化合物。
実施形態10:R5が、CH3である、実施形態6~9のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態11:R5が、OCH3である、実施形態6~9のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態12:R
2が、
からなる群から選択される、実施形態6の化合物。
実施形態13:R
2が、
である、実施形態6の化合物。
実施形態14:R
2が、
である、実施形態5の化合物。
実施形態15:R3が、Oである、実施形態5~14のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態16:R3が、NHである、実施形態5~14のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態17:R3が、NCH3である、実施形態5~14のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態18:R1が、置換または非置換フェニルを含む、実施形態1~17のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態19:R1が、置換フェニルを含む、実施形態18の化合物。
[式中、
R10が、NHまたはOであり、R11が、H、CH3、OCH3、ハロゲン、CH2NH2、CN、及びCR8
3(ただしR8はハロゲンである)からなる群から選択され、
R12が、H、CH3、またはハロゲンからなる群から選択され、
R13が、CH3、ハロゲン、及びCR9
3(ただしR9はハロゲンである)からなる群から選択される]である、実施形態19の化合物。
実施形態21:R11が、Hである、実施形態20の化合物。
実施形態22:R11が、CH3である、実施形態20の化合物。
実施形態23:R11が、OCH3である、実施形態20の化合物。
実施形態24:R11が、ハロゲンである、実施形態20の化合物。
実施形態25:R11が、Clである、実施形態24の化合物。
実施形態26:R11が、Fである、実施形態24の化合物。
実施形態27:R11が、CH2NH2である、実施形態24の化合物。
実施形態28:R11が、CNである、実施形態24の化合物。
実施形態29:R11が、CF3である、実施形態24の化合物。
実施形態30:R12が、Hである、実施形態20~29のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態31:R12が、ハロゲンである、実施形態20~29のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態32:R12が、Fである、実施形態31の化合物。
実施形態33:R12が、Clである、実施形態31の化合物。
実施形態34:R12が、CH3である、実施形態20~29のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態35:R
1が、
からなる群から選択される、実施形態20の化合物。
実施形態36:R
1が、
である、実施形態20の化合物。
実施形態37:R
1が、
(式中、R
10はNHまたはOである)である、実施形態1~17のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態38:R
1が、
(式中、R
10はNHまたはOであり、R
10はNHまたはOである)である、実施形態1~17のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態39:R14が、NHである、実施形態38の化合物。
実施形態40:R14が、Oである、実施形態38の化合物。
実施形態41:R
1が、
(式中、R
10はNHまたはOである)からなる群から選択される、実施形態1~17のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態42:R10が、NHである、実施形態20~41のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態43:R10が、Oである、実施形態20~41のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態44:R
1が、
である、実施形態1~17のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態45:T41、T33、T34、T35、T36、T37、T38、T39、T42、T43、T44、T45、T46、T47、T48、T49、T50、T51、T52、T55、T56、及びT57からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである、実施形態1、5、6、12、及び20のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態46:T41、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグを含む、実施形態45の化合物。
実施形態47:T53、及びT54からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである、実施形態1、5、6、12、13、及び41のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態48:T58、及びT59からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである、実施形態1、5、6、12、13、及び38のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態49:T60、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである、実施形態1、5、6、12、13、及び44のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態50:T61、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである、実施形態1、5、14、35、及び36のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態51:CRFR1受容体アンタゴニストである化合物であって、式:
に基づく化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、またはプロドラッグ
[式中、X及びYは、独立して、Me、H、CF3、重水素化メチル、及びハロゲンからなる群から選択され、
R1は、直鎖または置換アミノアルキル、置換または非置換アミノアリール、アミノヘテロアリール、置換アミノヘテロアリールからなる群から選択され、
R2は、直鎖または置換アルコキシドまたはフェノキシドからなる群から選択される]。
実施形態52:アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストである、実施形態51の化合物。
実施形態53:Xが、CH3である、実施形態51~52のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態54:Yが、CH3である、実施形態51~53のいずれか1つに記載の化合物。
[式中、R3は、O、NH、及びNCH3からなる群から選択され、
R4は、OCH3、CH3、CH2OHからなる群から選択され、
R5は、CH3、及びOCH3からなる群から選択される]である、実施形態51~54のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態56:R4が、OCH3である、実施形態55の化合物。
実施形態57:R4が、CH3である、実施形態55の化合物。
実施形態58:R4が、CH2OHである、実施形態55の化合物。
実施形態59:R5が、CH3である、実施形態55~58のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態60:R5が、OCH3である、実施形態55~58のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態61:R
2が、
からなる群から選択される、実施形態55の化合物。
実施形態62:R
2が、
である、実施形態55の化合物。
[式中、R6は、CH3、ハロゲン、及びCR9
3(ただしR9はハロゲンである)からなる群から選択され、
R7は、ハロゲンであり、
R8は、H、及びハロゲンからなる群から選択される]である、実施形態51~54のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態64:R6が、CH3である、実施形態63の化合物。
実施形態65:R6が、ハロゲンである、実施形態63の化合物。
実施形態66:R6が、ClまたはFである、実施形態65の化合物。
実施形態67:R6が、Fである、実施形態65の化合物。
実施形態68:R6が、CR9
3である、実施形態63の化合物。
実施形態69:R9が、ClまたはFである、実施形態68の化合物。
実施形態70:R9が、Fである、実施形態68の化合物。
実施形態71:R7が、ClまたはFである、実施形態63~70のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態72:R7が、Fである、実施形態63~70のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態73:R8が、Hである、実施形態63~72のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態74:R8が、ハロゲンである、実施形態63~72のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態75:R8が、ClまたはFである、実施形態74の化合物。
実施形態76:R8が、Fである、実施形態74の化合物。
実施形態77:R
2が、
からなる群から選択される、実施形態63の化合物。
実施形態78:R3が、Oである、実施形態55~77のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態79:R3が、NHである、実施形態55~77のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態80:R3が、NCH3である、実施形態55~77のいずれか1つに記載の化合物。
[式中、R10は、NHまたはOであり、
R11は、CH3、OCH3、ハロゲン、CH2NH2からなる群から選択され、
R12は、HまたはCH3である]である、実施形態51~80のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態82:R11が、CH3である、実施形態81の化合物。
実施形態83:R11が、OCH3である、実施形態81の化合物。
実施形態84:R11が、ハロゲンである、実施形態81の化合物。
実施形態85:R11が、ClまたはFである、実施形態84の化合物。
実施形態86:R11が、Fである、実施形態84の化合物。
実施形態87:R12が、Hである、実施形態81~86のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態88:R12が、CH3である、実施形態81~86のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態89:R
1が、
(式中、R
10は、NHまたはOである)である、実施形態51~80のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態90:R
1が、
(式中、R
10は、NHまたはOである)からなる群から選択される、実施形態51~80のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態91:R10が、NHである、実施形態33~43のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態92:R10が、Oである、実施形態33~43のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態93:
からなる群から選択される、実施形態51、55、61、62、及び81のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態94:
及び/またはT55からなる群から選択される、実施形態51、55、61、及び62のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態95:
からなる群から選択される、実施形態51、55、61、及び81のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態96:
からなる群から選択される、実施形態51、55、61、及び81のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態97:
からなる群から選択される、実施形態51、63、及び89のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態98:
からなる群から選択される化合物を含む、実施形態1の化合物。
実施形態99:図2に示される式に基づく化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグを含む、実施形態1または51の化合物。
実施形態100:実質的に純粋な「R」エナンチオマーである、実施形態1~99のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態101:実質的に純粋な「S」エナンチオマーである、実施形態1~99のいずれか1つに記載の化合物。
実施形態102:実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物と、薬学的に許容される担体または賦形剤と、を含む、医薬製剤。
実施形態103:経口投与、経鼻投与、吸入による投与、経口投与、直腸投与、腹腔内注射、静脈内注射、皮下注射、経皮投与、及び筋肉内注射からなる群から選択される経路によって投与するために製剤化されている、実施形態102の製剤。
実施形態104:単位用量製剤である、実施形態102~103のいずれか1つに記載の製剤。
実施形態105:前記製剤が無菌である、実施形態102~104のいずれか1つに記載の製剤。
実施形態106:哺乳動物において脳内のアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患に伴う1つ以上の症状を軽減するか、または前記症状の発症を遅延もしくは予防する方法であって、
前記哺乳動物に、実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を投与するか、または投与させることを含み、前記投与することが、前記1つ以上の症状を軽減するうえで充分な量で行われる、方法。
実施形態107:哺乳動物の脳内のベータアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患のリスクを低減し、疾患の重症度を低くし、または疾患の進行もしくは発症を遅延させる方法であって、
前記哺乳動物に、実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を投与するか、または投与させることを含み、前記投与することが、前記疾患のリスクを低減し、疾患の重症度を低くし、または疾患の進行もしくは発症を遅延させるうえで充分な量で行われる、方法。
実施形態108:前記疾患が、アルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、脳アミロイドアンギオパチー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、外傷性脳損傷(TBI)、及び脳卒中からなる群から選択される疾患である、実施形態106~107のいずれか1つに記載の方法。
実施形態109:哺乳動物の前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の発症を予防もしくは遅延させ、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の1つ以上の症状を改善し、または前アルツハイマー状態もしくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防もしくは遅延させる方法であって、
前記哺乳動物に、実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を投与するか、または投与させることを含み、前記投与することが、非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進するうえで充分な量で行われる、方法。
実施形態110:哺乳動物においてsAPPα及び/またはsAPPα/Aβ42比の増大によって特徴づけられる非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進する方法であって、前記哺乳動物に、実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を投与するか、または投与させることを含み、前記投与することが、非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進するうえで充分な量で行われる、方法。
実施形態111:前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態106~110のいずれか1つに記載の方法。
実施形態112:前記哺乳動物が、軽度認知障害(MCI)を有するものと診断されている、実施形態106~111のいずれか1つに記載の方法。
実施形態113:前記化合物の投与が、MCIのアルツハイマー病への進行を遅延または予防する、実施形態106~112のいずれか1つに記載の方法。
実施形態114:前記疾患が、アルツハイマー病である、実施形態106~104、及び実施形態110~111のいずれか1つに記載の方法。
実施形態115:前記哺乳動物が、アルツハイマー病を有するものと診断されている、実施形態114の方法。
実施形態116:前記哺乳動物が、アルツハイマー病を発症するリスクを有する、実施形態106~114のいずれか1つに記載の方法。
実施形態117:前記哺乳動物が、アルツハイマー病を有する家族性リスクを有する、実施形態116の方法。
実施形態118:前記哺乳動物が、家族性アルツハイマー病(FAD)の変異を有する、実施形態116の方法。
実施形態119:前記哺乳動物が、APOEε4対立遺伝子を有する、実施形態116の方法。
実施形態120:前記哺乳動物が、ベータアミロイドプラークの形成に関連しておらず、またはベータアミロイドプラークの形成によって特徴づけられない神経疾患の遺伝子リスク因子がなく、かかる遺伝子リスク因子を有さない、実施形態106~119のいずれか1つに記載の方法。
実施形態121:前記哺乳動物が、統合失調症または他の神経精神疾患を有するかまたはそのリスクがあるものとして診断されていない、実施形態106~119のいずれか1つに記載の方法。
実施形態122:前記哺乳動物が、神経疾患またはアルツハイマー病以外の疾患を有さない、実施形態106~121のいずれか1つに記載の方法。
実施形態123:前記哺乳動物が、神経疾患またはアルツハイマー病以外の疾患を有するかまたはそのリスクがあるものとして診断されていない、実施形態106~121のいずれか1つに記載の方法。
実施形態124:前記軽減が、タウ、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Aβ40、及び可溶性Aβ42からなる群から選択される1つ以上の成分のCSF中の濃度の低下を含む、実施形態106~123のいずれか1つに記載の方法。
実施形態125:前記軽減が、前記哺乳動物の脳内のプラーク負荷の低下を含む、実施形態106~123のいずれか1つに記載の方法。
実施形態126:前記軽減が、前記哺乳動物の脳内のプラーク負荷の速度の低下を含む、実施形態106~123のいずれか1つに記載の方法。
実施形態127:前記軽減が、前記哺乳動物の認知能力の改善を含む、実施形態106~123のいずれか1つに記載の方法。
実施形態128:前記哺乳動物がヒトであり、前記軽減が、前記ヒトにより知覚される生活の質の改善を含む、実施形態106~123のいずれか1つに記載の方法。
実施形態129:前記化合物が経口投与される、実施形態106~128のいずれか1つに記載の方法。
実施形態130:前記投与することが、少なくとも3週間の期間にわたる、実施形態106~128のいずれか1つに記載の方法。
実施形態131:前記投与することが、少なくとも6ヶ月の期間にわたる、実施形態106~128のいずれか1つに記載の方法。
実施形態132:前記化合物が、イソフォレティック送達、経皮送達、エアゾール投与、吸入による投与、経口投与、静脈内投与、及び直腸投与からなる群から選択される経路によって投与するために製剤化される、実施形態106~131のいずれか1つに記載の方法。
実施形態133:前記化合物が、イソフォレティック送達、経皮送達、エアゾール投与、吸入による投与、経口投与、静脈内投与、及び直腸投与からなる群から選択される経路によって投与される、実施形態106~132のいずれか1つに記載の方法。
実施形態134:前記化合物が、トロピセトロン、トロピセトロン類似体、ジスルフィラム、ジスルフィラム類似体、ホノキオール、ホノキオール類似体、ニメタゼパム、ニメタゼパム類似体、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン、メマンチン、ソラネズマブ、バピネオズマブ、アルゼメド、フルリザン、ELND005、バルプロ酸塩、セマガセスタット、ロシグリタゾン、フェンセリン、セルネズマブ(cernezumab)、ジメボン、egcg、ガンマガード、PBT2、PF04360365、NIC5-15、ブリオスタチン-1、AL-108、ニコチンアミド、EHT-0202、BMS708163、NP12、リチウム、ACC001、AN1792、ABT089、NGF、CAD106、AZD3480、SB742457、AD02、フペルジン-A、EVP6124、PRX03140、PUFA、HF02、MEM3454、TTP448、PF-04447943、GSK933776、MABT5102A、タルサクリジン、UB311、ベガセスタット、R1450、PF3084014、V950、E2609、MK0752、CTS21166、AZD-3839、LY2886721、CHF5074、抗炎症剤、ダプソン、抗TNF抗体、スタチン、及びBACE阻害剤からなる群から選択される薬剤と共に投与される、実施形態106~133のいずれか1つに記載の方法。
実施形態135:
実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を含む容器と、
脳内のアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患に伴う1つ以上の症状を軽減するための前記組成物の使用、及び/または1つ以上の前記症状の発症を遅延もしくは予防する前記組成物の使用について説明した使用説明書と、を含む、キット。
実施形態136:前記疾患が、MCI、アルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、脳アミロイドアンギオパチー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、外傷性脳損傷(TBI)、及び脳卒中からなる群から選択される疾患である、実施形態135のキット。
実施形態137:前記疾患が、アルツハイマー病である、実施形態135のキット。
実施形態138:前記疾患が、MCIである、実施形態135のキット。
実施形態139:哺乳動物の加齢黄斑変性症(AMD)を治療または予防するための方法であって、
治療または予防を要する哺乳動物に、実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を、AMDの1つ以上の症状を改善する、及び/またはAMDの進行を遅らせる、及び/またはAMDの作用を逆転させるうえで充分な量で投与するか、または投与させることを含む、方法。
実施形態140:前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態139に記載の方法。
実施形態141:前記哺乳動物が、AMDを有するかまたはそのリスクがあると診断されたヒトである、実施形態139に記載の方法。
実施形態142:哺乳動物の病変を治療または予防するための方法であって、前記病変が、精神疾患(鬱病、不安関連疾患及び摂食障害)、パーキンソン病、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、及び筋萎縮性側索硬化症、クッシング病、高血圧、脳卒中、過敏性腸症候群、ストレス誘発性胃潰瘍、月経前症候群、性的機能不全、早産、炎症性疾患、アレルギー、多発性硬化症、内臓痛、睡眠障害、脳下垂体腫瘍または異所性下垂体由来腫瘍、慢性疲労症候群、及び線維筋痛症からなる群から選択され、前記方法が、
治療または予防を要する哺乳動物に、有効量の実施形態1~101のいずれか1つに記載の化合物、または実施形態102~105のいずれか1つに記載の医薬製剤を投与するかまたは投与させることを含む、方法。
定義
受容体アンタゴニストとは、受容体に結合する際にそれ自体で生物学的反応を誘発するのではなく、アゴニストによって媒介される反応を阻害または減弱するある種の受容体リガンドまたは薬物である。受容体アンタゴニストはブロッカーと呼ばれる場合もあり、その例としては、αブロッカー、βブロッカー、及びカルシウムチャンネルブロッカーが挙げられる。異なる実施形態において、受容体アンタゴニストは、直接受容体アンタゴニスト、またはアロステリック受容体アンタゴニストを含み得る。一般的に、直接アンタゴニストは、その同族受容体に対して親和性を有するが有効性はほとんどまたはまったく示さず、その結合は一般的に相互作用を妨げ、それらの同族受容体におけるアゴニストまたはインバースアゴニストの機能を阻害する。直接アンタゴニストは、受容体の活性オルソステリック(すなわち正しい位置)部位(例えばその受容体の同族リガンドの結合部位)に結合することによってその作用を媒介する。
「アロステリックアンタゴニスト」は、一般的に受容体の(天然リガンド(例えばアゴニスト)部位以外の)他の部位に結合するか、または受容体の活性の生物学的調節に通常は関与していない固有の結合部位と相互作用することができる。
「アロステリックCRFR1アンタゴニスト」または「アロステリックCRFR1受容体アンタゴニスト」または「アロステリックCRFR1Rアンタゴニスト」なる用語は、互換可能に用いられ、CRFR1受容体においてアロステリックアンタゴニスト活性を有する化合物を指す。
「対象」、「個人」、及び「患者」なる用語は、互換可能に用いられ、一般的には哺乳動物、特定の実施形態では、ヒトまたは非ヒト霊長類を指す。本明細書では組成物及び方法をヒトにおける使用に関連して説明するが、これらは例えば獣医学用途などの動物にも適している。ここで、特定の例示的な生物としては、これらに限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ウマ、ネコ、ブタ、有蹄動物、及びウサギなどが挙げられる。したがって、特定の実施形態では、家庭飼育哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ)、実験用哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット)、及び家畜哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ)などで使用するための本明細書に述べられる組成物及び方法を検討する。「対象」なる用語は、病院、クリニック、または研究施設に関していずれの特定の立場(例えば、入院患者、実験参加者などとして)にあることも必要としない。したがって、異なる実施形態において、対象は、外来患者として病院、精神科医療施設において、または他の臨床状況において、医師または他の医療従事者の介護下にあるヒト(例えば、成人男性、成人女性、若年男性、若年女性、男子、女子)であり得る。特定の実施形態では、対象は、医師または他の医療従事者の介護または処方下にない場合もある。特定の実施形態では、対象は、医師または他の医療従事者の介護下にない場合もあり、特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物を自己処方及び自己投与する場合もある。
本明細書で使用するところの「必要とする対象」なる語句は、下記に述べるように、本明細書に示される疾患または状態を罹患しているかまたは罹患するリスクのある(例えば、遺伝的素因などの素因を有する)対象を指す。
「予防有効量」なる用語は、所望の予防結果を得るうえで必要な用量および期間で有効な量のことを指す。必ずしもではないが、通常は、予防的用量は、疾患の初期の段階よりも前に、または初期の段階で対象に使用されることから、予防有効量は治療有効量よりも少ない。
本明細書で使用するところの「治療」、「治療的な」、または「治療する」なる用語は、疾患または状態の症状または病態に対して所望の効果を生じる行為を指し、特に、本明細書に述べられる多成分製剤(複数可)を用いて行うことが可能なものを指し、治療される疾患または状態の1つ以上の測定可能なマーカーにおけるわずかな変化または改善さえも含み得る(ただしこれらに限定されない)。治療は、この用語が適用される疾患もしくは状態、またはかかる疾患もしくは状態の1つ以上の症状の発症を遅延させるか、その進行を遅らせるかもしくは逆転させるか、その重症度を低減させるか、またはかかる疾患もしくは状態を緩和もしくは予防することも指す。「治療」、「治療的な」、または「治療する」は、疾患もしくは状態、またはそれらに伴う症状の完全な根絶または治癒を必ずしも示すものではない。一実施形態では、治療は、治療される疾患の少なくとも1つの症状の改善を含む。改善は部分的でも完全なものでもよい。かかる治療を受ける対象は、治療を要する任意の対象である。臨床的改善の例示的なマーカーは当業者には明らかであろう。
「有効量」なる用語は、所望の治療または予防結果を得るうえで必要な用量および期間で有効な量のことを指す。本明細書に述べられる化合物(例えば、CRFR1アンタゴニスト)またはその製剤の「治療有効量」は、疾患の状態、個人の年齢、性別、及び体重、ならびに対象に所望の反応を引き起こす治療の能力などの要因によって異なり得る。有効量とは、治療のあらゆる毒性または有害作用が実質的に存在しないかまたはかかる作用を治療的に有用な作用が上回る量でもある。「治療有効量」なる用語は、哺乳動物(例えば患者)の疾患または障害を「治療する」うえで有効な、本明細書に述べられる1つ以上の活性剤(例えば、CRFR1受容体アンタゴニスト)またはかかる活性剤を含む組成物の量のことを指す。一実施形態では、治療有効量は、神経疾患に伴う少なくとも1つの症状を改善するか、神経機能を改善するか、認知機能を改善するか、または神経疾患の1つ以上のマーカーを改善するか、または神経変性病変を治療もしくは予防するために投与される1つ以上の医薬品の有効性を高めるうえで充分な量である。特定の実施形態では、有効量は、疾患の進展を妨げるか、疾患の進行を遅延させるか、もしくは疾患の退行を引き起こすうえで、単独で、もしくは医薬品と組み合わせて充分な量、またはかかる疾患により引き起こされる症状を低減することが可能な量である。
「軽減する」なる用語は、その病変または疾患の1つ以上の症状の低減もしくは消失、及び/またはその病変または疾患の1つ以上の症状の速度の低減もしくは発症の遅延もしくは重症度の低減、及び/またはその病変または疾患の予防のことを指す。
本明細書で使用するところの「少なくとも1つの症状の改善」または「1つ以上の症状の改善」またはこれらに相当する語句は、病変または疾患の1つ以上の症状の低減、消失、または予防のことを指す。本明細書に述べられる組成物(活性剤)(例えば、アロステリックCRFR1受容体アンタゴニスト、またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)によって治療、改善、または予防される病変の例示的な症状としては、これらに限定されるものではないが、病変または疾患に特徴的な1つ以上のマーカー(例えば、全タウ(tタウ)、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Αβ40、pタウ/Ap42比及びt-タウ/Ap42比、及び/または、Αβ42/Αβ40比、Αβ42/Αβ38比、sAPPα、βΑΡΡα/βΑΡΡβ比、βΑΡΡα/Αβ40比、βΑΡΡα/Αβ42比からなる群から選択される1つ以上の成分のCSF中の濃度の上昇など)の低減、消失、もしくは予防、及び/または1つ以上の診断基準(例えば、臨床的認知症評価(CDR))の低減、安定化、もしくは逆転が挙げられる。神経機能の改善の例示的な尺度としては、これらに限定されるものではないが、ミニメンタルステート検査(MMSE)またはフォルスタイン検査(認知機能障害をスクリーニングするために用いられる質問セット)、Brodaty et al.,(2002)Geriatrics Society 50(3):530-534に記載される認知機能障害の簡単なスクリーニング検査であるGeneral Practitioner Assessment of Cognition(GPCOG)の使用が挙げられる。
本明細書で使用するところの「投与」または「投与する」とは、対象に化合物または組成物を導入するなど、導入することを意味する。この用語は、いずれの投与様式にも限定されるものではなく、例えば、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、嚢内投与、注入法による投与、経皮投与、経口投与、経鼻投与、及び直腸投与を含み得る。更に、投与様式に応じて、投与は例えば医療従事者(例えば、医師、看護師など)、薬剤師、または対象(すなわち自己投与)を含むさまざまな個人によって行うことができる。
「投与させる」なる語句は、医療従事者(例えば医師)、対象の医療ケアを処方及び/または管理する人員によって行われる、対象となる薬剤(複数可)/化合物(複数可)の対象への投与を管理及び/または決定及び/または許可する行為のことを指す。投与させることには、適当な治療または予防レジメンの診断及び/または決定、及び/または対象に特定の薬剤(複数可)/化合物を処方することとが含まれ得る。かかる「処方すること」には、例えば、処方箋を出すこと、病歴を記録すること、などが含まれ得る。
ある化合物の「誘導体」とは、その化合物の1つ以上の官能基において化学修飾が行われている化学的に修飾された化合物を意味する。しかしながら、誘導体は、誘導体が誘導された化合物の薬理活性を維持または増大させ、及び/または哺乳動物に投与される際の化合物の望ましくない副作用を低減することが期待される。
一般的に、水素またはHのように特定の元素への言及は、その元素のすべての同位体を含むことを意味する。例えば、R基が水素またはHを有するものとして定義される場合、重水素及び三重水素も含まれる。したがって、同位体標識された化合物は本発明の範囲に含まれる。
本明細書で使用するところの「置換された」なる用語は、指定部分の1つ以上の水素の、指名される置換基(複数可)による置換のことを指し、置換が安定した、または化学的に可能な化合物を生じる限りにおいて、特に断らない限りは多重置換が可能である。安定した化合物または化学的に可能な化合物とは、水分または他の化学的に反応性を有する条件の非存在下で約-80℃~約+40℃の温度に維持される場合に、少なくとも1週間にわたって化学構造が大きく変化しない化合物、または患者への治療的もしくは予防的投与に有用であるだけ充分に長期間にわたってその完全性を維持する化合物である。本明細書で使用するところの「1つ以上の~で置換された」または「~で1回以上置換された」なる語句は、上記の安定性及び化学的可能性の条件が満たされているものとして、1個~利用可能な結合部位の数に基づいて可能な置換基の最大数に等しい置換基の数のことを指す。
「アルキル」なる用語は、分枝鎖及び直鎖アルキル基の両方を含む。一般的なアルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル(iPr)、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、及びエイコシルなどである。
本明細書で使用するところの例えば「C0~6アルキル」とは、0~6個の炭素を有する、すなわち、直鎖または分枝鎖の形態の0、1、2、3、4、5、または6個の炭素を有するアルキルを意味するように用いられる。アルキルが末端基である場合、炭素を有さないアルキルは水素である。アルキル基が架橋(連結)基である場合、炭素を有さないアルキルは直接結合である。アルキル基の非限定的な例としては、0~1個の炭素、0~2個の炭素、0~3個の炭素、0~4個の炭素、0~5個の炭素、0~6個の炭素、1~2個の炭素、1~3個の炭素、1~4個の炭素、1~5個の炭素、1~6個の炭素、2~3個の炭素、2~4個の炭素、2~5個の炭素、2~6個の炭素、3~4個の炭素、3~5個の炭素、3~6個の炭素、4~5個の炭素、4~6個の炭素、5~6個の炭素、5個の炭素、または6個の炭素を有するものが挙げられる。これらの例は、それぞれ、C0~1アルキル、C0~2アルキル、C0~3アルキル、といった具合に呼ぶことができる。
「アルコキシ」なる用語は、架橋酸素原子に結合した分枝鎖及び直鎖の末端アルキル基を含む。一般的なアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、及びtert-ブトキシなどが挙げられる。
「アミノアルキル」なる用語は、アルキルラジカルのアミノ誘導体を指す。
「ハロ」または「ハロゲン」なる用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨードを指す。
「アリール」なる用語は、置換されてもよいフェニルまたはナフチルを指す。一般的なアリール基としては、これらに限定されるものではないが、フェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、4-ブロモフェニル、3-クロロフェニル、3-フルオロフェニル、3-ニトロフェニル、3-(トリフルオロメチル)フェニル、2-メトキシフェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、4-エチルフェニル、2-メチル-3メトキシフェニル、2,4-ジブロモフェニル、3,5-ジフルオロフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,4,6-トリクロロフェニル、4-メトキシフェニル、ナフチル、2-クロロナフチル、2,4-ジメトキシフェニル、4-(トリフルオロメチル)フェニル、及び2-ヨード-4-メチルフェニルなどが挙げられる。
「ヘテロアリール」または「ヘタリール」なる用語は、酸素、窒素及び硫黄から独立して選択される1、2、3、もしくは4個のヘテロ原子、好ましくは1個もしくは2個のヘテロ原子を含む置換もしくは非置換の3~10員の不飽和環、または酸素、窒素及び硫黄から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む10個以下の原子を有する二環式不飽和環系のことを指す。ヘテロアリールの例としては、これらに限定されるものではないが、2-ピリジニル(同義語:2-ピリジル)、3-ピリジニル(同義語:3-ピリジル)または4-ピリジニル(同義語:4-ピリジル)、ピラジニル、2-、4-、または5-ピリミジニル、ピリダジニル、トリアゾリル、テトラゾリル、イミダゾリル、2-または3-チエニル(同義語:チオフェニル)、2-または3-フリル(同義語:フラニル)、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、キノリル、イソキノリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾフラニル、及びベンゾチエニルが挙げられる。特定の実施形態では、複素環式環は2個以下の置換基で置換されてもよい。
「アミノアリール」なる用語は、アミノ置換されたヘテロアリールを指す。
「フェノキシド」なる用語は、フェノールの共役塩基であり、フェノールを塩基(例えば水素化ナトリウム、水酸化ナトリウムなど)と混合することにより合成することができる。
エナンチオマーに関して使用される場合、「実質的に純粋」なる用語は、特定の1つのエナンチオマー(例えばSエナンチオマーまたはRエナンチオマー)がその立体異性体を実質的に含まないことを示す。異なる実施形態において、実質的に純粋とは、特定のエナンチオマーが、精製された化合物の少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%、または少なくとも99%であることを示す。実質的に純粋なエナンチオマーを製造する方法は、当業者には周知のものである。例えば、その立体異性体を実質的に含まない1つの立体異性体、例えばエナンチオマーは、光学活性を有する分割剤を使用したジアステレオマーの生成などの方法を用いてラセミ混合物の分割によって得ることができる(例えば、Stereochemistry of Carbon Compounds,(1962)by E.L.Eliel,McGraw Hill;Lochmuller(1975)J.Chromatogr.,113(3):283-302を参照)。キラル化合物のラセミ混合物は、これらに限定されるものではないが、(1)キラル化合物とイオン性のジアステレオマー塩を形成させ、分別結晶化または他の方法により分離すること、(2)キラル誘導化剤とジアステレオマー化合物を形成させ、ジアステレオマーを分離し、純粋な立体異性体に変換すること、及び(3)実質的に純粋なまたは濃縮された立体異性体をキラル条件下で直接分離すること、を含む任意の適当な方法によって分離及び単離することができる。エナンチオマーを分離するための別の方法は、例えばChiral Technologies(www.chiraltech.com)によってフィーフォーサービス方式で行われているように、ダイセルキラルカラム及び有機移動相を使用した溶出を用いることである。
異なる実施形態において、CRFR1受容体の新規なアロステリックアンタゴニストが提供される。アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストが、アルツハイマー病(AD)モデルにおいてp-タウ濃度を調節するうえで有効であることが期せずして発見された。特定の理論に束縛されるものではないが、本明細書に述べられる化合物は、アロステリックCRFR1アンタゴニストであることからCRFR1受容体に対してより高い選択性を有し、したがって、直接CRFR1受容体アンタゴニストと比較してより高い安全性プロファイルを有するものと考えられる。
AD動物モデルにおけるp-タウ濃度を調節する能力によって示されるように、本明細書に述べられる化合物は、とりわけ、アミロイド形成プロセスによって特徴づけられる病変の予防及び/または治療において有用性を有するものと考えられる。
本明細書に述べられる化合物のTシリーズ(例えば、T33、T34、T35、T36、T37、T38、T39、T40、T41、T42、T43、T44、T45、T46、T47、T48、T49、T50、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57、T58、T59、T60、T61)は、CRF1受容体(CRFR1)上のアロステリック部位と相互作用する副腎皮質刺激ホルモン放出因子1(CRF1)アンタゴニストである(例えば図1を参照)。慢性的なストレスは、微小管安定化タンパク質であるタウのリン酸化を増大させ、このタウの過剰リン酸化(pタウ)が、アルツハイマー病(AD)の特徴の1つである神経原線維変化の形成と関連している。多くの研究が、神経原線維変化負荷が、アミロイドプラーク負荷よりもADにおける認知機能低下と密接に関連していることを示している。AD以外に、pタウ及び線維変化の形成の増大が、ADとは異なる神経変性疾患であるタウオパチーで生じる。
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンまたは因子(CRH、CRF)はストレスに応じて放出されてCRFR1受容体と結合し、最終的にタウのリン酸化の増大を誘発する。直接リガンド部位アンタゴニストが存在し、pタウを低下させることが示されている。アロステリックアンタゴニストは、リガンド結合部位には結合せず、代わりにそこから離れた部位に結合し、コンフォメーション変化を引き起こすかまたはシグナル伝達を妨げることによって有効なリガンド結合を防止または低下させることができる。この種のアンタゴニズムは受容体のタイプ及び/またはリガンドにより特異的であり、この特異性/選択性がアンタゴニストのオフターゲット効果を低減させ得る。
他のCRFR1受容体アンタゴニストと同様、本明細書に述べられる化合物(例えば「Tシリーズ」化合物)もまた、鬱病、不安関連疾患及び摂食障害をはじめとするさまざまな精神疾患及び神経学的疾患の治療において、ならびに、パーキンソン病、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、及び筋萎縮性側索硬化症の病因及び病態生理において有用性を有するものと考えられる。更に、本明細書に述べられる化合物は、クッシング病、高血圧、脳卒中、過敏性腸症候群、ストレス誘発性胃潰瘍、月経前症候群、性的機能不全、早産、炎症性疾患、アレルギー、多発性硬化症、内臓痛、睡眠障害、脳下垂体腫瘍または異所性下垂体由来腫瘍、慢性疲労症候群、及び線維筋痛症などの状態の予防及び治療に使用することができると考えられる。
アルツハイマー病(及びアミロイド形成MCI)などのアミロイド形成病変に関し、アルツハイマー病(AD)の一般的な見方は、アミロイドベータペプチドが、金属結合、ROS生成、及び膜損傷などの化学的及び物理的機構を通じて毒性を引き起こすというものであることに留意されたい。本発明者らのデータは、APPによって媒介される生理学的なシグナリングの不均衡としてのADの別の見方を示唆している。このモデルでは、Aβは抗トロフィンとして生理学的に機能し、APPへのAβの結合が神経突起退縮及び細胞死を媒介するペプチドの形成を誘導する(例えば、Lu et al.,(2000)Nat.Med.,6:397-404を参照のこと)。この生理学的シグナリングにおける不均衡が、アミロイド形成経路によるAPPのプロセシングの増大及び非アミロイド形成経路によるAPPのプロセシングの減少につながり得る。
アミロイド形成経路はβ-セクレターゼがAβのアミノ末端のAPPを切断する場合に開始され、これによりAPPsβエクトドメイン(「sAPPβ」)を放出する。これに対して、非アミロイド形成経路では、APPは最初にα-セクレターゼによりAβ配列内で切断され、APPsαエクトドメイン(「sAPPα」)を放出する。非アミロイド形成経路及びアミロイド形成経路によるAPPのプロセシングは、当該技術分野では周知のものであり、例えば、Xu(2009)J.Alzheimer’s Dis.,16(2):211-224及びDe Strooper et al.,(2010)Nat Rev Neurol.,6(2):99-107に概説されている。
特定の理論に束縛されるものではないが、本明細書に述べられる化合物を使用することで、特に、非アミロイド形成経路によるAPPのプロセシングを促進し、及び/またはアミロイド形成経路によるAPPのプロセシングを低減もしくは阻害することができると考えられる。
したがって、異なる実施形態において、哺乳動物において、脳内のアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患(例えば、アルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、脳アミロイドアンギオパチーなど)に伴う1つ以上の症状を軽減するか、または症状の発症を遅延もしくは予防するための組成物及び方法が提供される。哺乳動物の脳内のベータアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患(例えば、アルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、脳アミロイドアンギオパチーなど)のリスクを低減し、疾患の重症度を低くし、または疾患の進行もしくは発症を遅延させるための組成物及び方法も提供される。特定の実施形態では、哺乳動物の前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の発症を予防もしくは遅延させ、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の1つ以上の症状を改善し、または前アルツハイマー状態もしくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防もしくは遅延させるための組成物及び方法が提供される。特定の実施形態では、哺乳動物においてsAPPα及び/またはsAPPα/Aβ42比の増大によって特徴づけられる非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進するための組成物及び化合物が提供される。
したがって、異なる実施形態において、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(例えば、式I、図2、表5などを参照)またはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、及び/またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、及び/またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、及び/またはそれらの誘導体の、アミロイド形成病変(例えば、MCI、アルツハイマー病、加齢黄斑変性(AMD)、脳血管性認知症、パーキンソン病など)の調節における、特にその低減における使用が提供される。特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物及び/または製剤は、前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の発症を予防もしくは遅延させ、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の1つ以上の症状を改善し、及び/または前アルツハイマー状態もしくは認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防もしくは遅延させるために使用される。特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物及び製剤は、哺乳動物において脳内のアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患に伴う1つ以上の症状を軽減するか、または前記症状の発症を遅延もしくは予防する方法で使用される。特定の実施形態では、哺乳動物の脳内のベータアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患のリスクを低減し、疾患の重症度を低くし、または疾患の進行もしくは発症を遅延させる方法も提供される。更に、哺乳動物の非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進する方法が提供される。
一般的に、これらの方法のそれぞれは、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)化合物またはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、及び/またはそれらのエナンチオマーの混合物、及び/またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、及び/またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、及び/またはそれらの誘導体を、所望の活性(例えば、脳内のアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患に伴う1つ以上の症状を軽減するか、または前記症状の発症を遅延もしくは予防するか、及び/または哺乳動物の脳内のベータアミロイド沈着によって特徴づけられる疾患のリスクを低減し、疾患の重症度を低くし、または疾患の進行もしくは発症を遅延させるか、及び/または非アミロイド形成経路によるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングを促進する)を生じ得るうえで充分な量で投与することを含む。
本明細書に述べられる方法を、主に軽度認知障害(MCI)及びアルツハイマー病(AD)との関連で詳細に述べたが、かかる方法はアミロイドーシスによって特徴づけられる他の病変にも同様に適用することができるものと考えられる。アミロイドプラーク形成によって特徴づけられる状態の例示的であるが非限定的なリストを表1に示す。
表1.アミロイド形成/沈着によって特徴づけられる例示的な(ただし非限定的な)病変
アロステリックCRFR1受容体アンタゴニスト
上記で説明したように、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト、詳細には、アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストが、アルツハイマー病(AD)モデルにおいてp-タウ濃度を調節するうえで有効であることが期せずして発見された。特定の実施形態では、CRFR1受容体アンタゴニストは、式I:
に基づく化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、またはプロドラッグ[式中、X及びYは、独立して、Me(CH
3)、H、CF
3、重水素化メチル、及びハロゲンからなる群から選択され、R
1は、直鎖または置換アミノアルキル、置換フェノキシド、非置換フェノキシド、置換アルコキシド、非置換アルコキシド、置換アミノアリール、非置換アミノアリール、非置換アミノヘテロアリール、及び置換アミノヘテロアリールからなる群から選択される部分であるか、またはかかる部分を含み、R
2は、直鎖または置換アルコキシド、フェノキシド、置換アミノアルキル、非置換アミノアルキル、及びピラン(例えば、テトラヒドロ-2H-4-オキシド)からなる群から選択される部分であるか、またはかかる部分を含む]である。特定の実施形態では、R
1は、直鎖または置換アミノアルキル、置換または非置換アミノアリール、アミノヘテロアリール、置換アミノヘテロアリールからなる群から選択され、R
2は、直鎖または置換アルコキシドまたはフェノキシドからなる群から選択される。特定の実施形態では、XはCH
3であるか、またはYはCH
3であるか、またはX及びYは両方ともCH
3である。異なる実施形態において、化合物は、アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストである。
特定の実施形態では、XはCH
3であり、及び/またはYはCH
3である。特定の実施形態では、R
2は、
[式中、R
3は、O、NH、及びNCH
3からなる群から選択され、R
4は、OCH
3、CH
3、CH
2OHからなる群から選択され、R
5は、CH
3、及びOCH
3からなる群から選択される]である。特定の実施形態では、R
2は、
である。
特定の実施形態では、R
4はOCH
3であり、特定の実施形態では、R
4はCH
3であり、特定の実施形態では、R
4はCH
2OHである。特定の実施形態では、R
5はCH
3であり、特定の実施形態では、R
5はOCH
3である。特定の実施形態では、R
2は、
からなる群から選択される。
特定の実施形態では、R
2は、
であり、他の実施形態では、R
2は、
である。
上記の実施形態のうちの特定の実施形態では、R3はOであり、他の実施形態では、R3はNHであり、他の実施形態R3はNCH3である。
特定の実施形態では、R
1は、
[式中、R
10は、NHまたはOであり、R
11は、H、CH
3、OCH
3、ハロゲン、CH
2NH
2、CN、及びCR
8
3(ただしR
8はハロゲン(例えば、ClまたはF)である)からなる群から選択され、R
12は、H、CH
3、またはハロゲンからなる群から選択され、R
13は、CH
3、ハロゲン、及びCR
9
3(ただしR
9はハロゲン(例えば、ClまたはF)である)からなる群から選択される]である。特定の実施形態では、R
11はHであり、または特定の実施形態では、R
11はCH
3であり、または特定の実施形態では、R
11はOCH
3であり、または特定の実施形態では、R
11はハロゲン(例えば、ClまたはF)であり、または特定の実施形態では、R
11はCH
2NH
2であり、または特定の実施形態では、R
11はCNであり、または特定の実施形態では、R
11はCF
3である。
特定の実施形態では、R
12はHであり、または特定の実施形態では、R
12はハロゲンであり、または特定の実施形態では、R
12はCH
3である。特定の実施形態では、R
1は、
である。特定の実施形態では、
R
1は、
であり、特定の他の実施形態では、R
1は、
(式中、R
10はNHまたはOである)であり、特定の他の実施形態では、R
1は、
(式中、R
10はNHまたはOであり、R
14はNHまたはOである)である。特定の実施形態では、R
1は、
(式中、R
10は、NHまたはOである)からなる群から選択される。特定の実施形態では、R
10は、NHである。特定の実施形態では、R
10はOである。特定の実施形態では、
R
1は、
である。
特定の実施形態では、化合物は、T41、T33、T34、T35、T36、T37、T38、T39、T42、T43、T44、T45、T46、T47、T48、T49、T50、T51、T52、T55、T56、及びT57からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである。特定の実施形態では、化合物は、T41、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグを含む。特定の実施形態では、化合物は、T53、及びT54からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである。特定の実施形態では、化合物は、T58、及びT59からなる群から選択されるか、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである。特定の実施形態では、化合物は、T60、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである。特定の実施形態では、化合物は、T61、またはその薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグである。特定の実施形態では、化合物は、図2に示される式に基づく化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、もしくはプロドラッグを含む。特定の実施形態では、化合物は、実質的に純粋な「R」エナンチオマーである。特定の実施形態では、化合物は、実質的に純粋な「S」エナンチオマーである。
本明細書に述べられる化合物を製造する方法は、本明細書で与えられる実施例に示される。本明細書で与えられる教示を用いることで、本明細書に述べられる化合物の多くの変異体及び/または誘導体が当業者により容易に合成されるであろう。
本明細書で与えられる組成物及び方法の範囲内には、本明細書に示される式(例えば、式(I))により表される化合物の個々のエナンチオマー、またはそれらの薬学的に許容される塩、及びそれらのあらゆる全体的または部分的なラセミ混合物も含まれる。組成物及び方法はまた、本明細書に記載される式により表される化合物の個々のエナンチオマー、またはそれらの薬学的に許容される塩、及び1個以上の立体中心が反転されたそれらのジアステレオマーとの混合物も包含する。特に断らない限り、本明細書に示される構造は、1つ以上の同位体濃縮された原子の存在においてのみ異なる化合物を含むことも意図する。例えば、水素原子の重水素もしくは三重水素による置換、または炭素原子の13Cもしくは14C濃縮炭素による置換以外は本発明の構造を有する化合物は本発明の範囲内に含まれる。式(I)に含まれる化合物の互変異性体は化学式によって明確に示されていない場合もあるが、式(I)はこれらの形態も暗黙のうちに含むものである。
本発明の方法から利することができる対象
本明細書に述べられる方法を用いた治療に適した対象/患者には、疾患のリスクを有する(例えば、アミロイドプラーク形成を特徴とする病変)が症状は示していない個人、及び現時点において症状を示している対象が含まれる。したがって、特定の対象には、前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害(例えばMCI)の発症のリスクの高い対象、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害(例えばMCI)を有するものと診断された対象が含まれる。
したがって、異なる実施形態において、CRFR1受容体アンタゴニスト(またはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)を使用した治療及び/または予防方法が提供される。一般的には、かかる方法は、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト及び/またはその製剤を対象(例えばそれらを必要とするヒト)に所望の治療または予防的結果を実現するうえで充分な/有効な量で投与することを含む。
予防
特定の実施形態では、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体、及び/またはこれらのいずれかを含む製剤)はさまざまな予防的状況で使用される。したがって、例えば、特定の実施形態では、CRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を使用して前アルツハイマー認知機能障害の発症を予防もしくは遅延させ、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害の1つ以上の症状を改善し、及び/または前アルツハイマー状態及び/または認知機能障害のアルツハイマー病への進行を予防もしくは遅延させることができる。
したがって、特定の実施形態では、本明細書に述べられる予防方法は、初期MCI及び/または早期のアルツハイマー病(AD)の病理的変化の「リスクを有する」か、及び/またはそのエビデンスを有するとして特定されているが、MCIまたは認知症の臨床基準を満たさない対象について検討される。特定の理論に束縛されるものではないが、疾患のこのような「前臨床」段階であっても、AD認知症への進行のリスクのあるAD病態生理学的プロセス(複数可)(AD-Pと略記される。例えばSperling et al.,(2011) Alzheimer’s & Dementia,1-13を参照のこと)を示唆するバイオマーカーエビデンスを有する完全に無症状の個人から、きわめてわずかな認知機能の低下を既に示しているがMCIの標準的基準はまだ満たしていないバイオマーカー陽性の個人(例えば、Albert et al.,(2011)Alzheimer’s and Dementia,1-10(doi:10.1016/j.jalz.2011.03.008)を参照のこと)までの連続性を示すものと考えられる。
この後者の個人の群は、「正常ではないがMCIでもない」として分類され得るが、「発症前」または「前臨床」または「無症状」または「症状発現前」として指定することができる。異なる実施形態において、前臨床ADのこのような連続性には、(1)AD-Pバイオマーカー陽性である時点でAD認知症を発症する高いリスクを有することが知られているかまたは有すると考えられている1つ以上のアポリポタンパク質E(APOE)のε4対立遺伝子を有する個人、及び(2)病気の発症前バイオマーカー陽性段階にあり、臨床症状をほぼ確実に発症して認知症に進行するであろう常染色体優性突然変異のキャリアも含まれる。
最も広く検証されているAD-Pの各バイオマーカーが異常となり、同様に秩序だった形で最大値に達するバイオマーカーモデルが提唱されている(例えば、Jack et al.,(2010)Lancet Neurol.,9:119-128を参照のこと)。このバイオマーカーモデルは、提唱されている(前AD/AD)の病態生理学的順序と平行しており、ADの前臨床(無症状)段階の追跡に適切である(例えば、Sperling et al.,(2011)Alzheimer’s & Dementia,1-13の図3を参照のこと)。脳アミロイドーシスのバイオマーカーとしては、これらに限定されるものではないが、CSFのAβ42の低下、及びポジトロン断層(PET)法でのアミロイドトレーサーの保持量の増大が挙げられる。CSFのタウの上昇はADに特異的なものではなく、ニューロン損傷のバイオマーカーであると考えられる。代謝低下の側頭頭頂パターンを有するPETでのフルオロデキシグルコース18F(FDG)の取り込みの減少は、AD関連シナプス機能障害のバイオマーカーである。内側側頭葉、傍辺縁系及び側頭頭頂皮質を含む特徴的パターンにおける構造的磁気共鳴画像法(MRI)上での脳萎縮は、AD関連神経変性のバイオマーカーである。他のマーカーとしては、これらに限定されるものではないが、容積測定MRI、FDG-PET、または血漿バイオマーカーが挙げられる(例えば、Vemuri et al.,(2009)Neurology,73:294-301;Yaffe et al.,(2011)JAMA 305:261-266を参照のこと)。
特定の実施形態では、本明細書で想到される予防方法に適した対象としては、これらに限定されるものではないが、無症状脳アミロイドーシスを有することで特徴づけられる対象が挙げられる。異なる実施形態において、これらの個人は、PETアミロイド画像法におけるトレーサー保持量の上昇及び/またはCSFアッセイにおける低いAβ42を伴うAβ蓄積のバイオマーカーエビデンスを有するが、神経変性またはわずかな認知的及び/または行動的症状を示唆する更なる脳変性の検出可能なエビデンスは通常は有してない。
現在利用可能なAβのCSF及びPET画像法のバイオマーカーは、アミロイド蓄積及びアミロイド線維の沈着のエビデンスを主として与えるものである点は注意を要する。データは、可溶性またはオリゴマー型のAβは、リザーバとして機能し得るプラークと平衡状態となる傾向を有することを示している。特定の実施形態では、可溶型のAβのみが存在する特定可能な前プラーク段階があることが考えられる。特定の実施形態では、オリゴマー型のアミロイドが病理学的カスケードにおいて重要であり、有用なマーカーを与え得ると考えられる。更に、早期のシナプス変化はアミロイド蓄積のエビデンスよりも前に存在し得る。
特定の実施形態では、本明細書で想到される予防方法に適した対象としては、これらに限定されるものではないが、シナプス機能障害及び/または早期神経変性のエビデンスを有するアミロイド陽性として特徴づけられる対象が挙げられる。異なる実施形態において、これらの対象はアミロイド陽性のエビデンス及び「下流」のAD-P関連ニューロン損傷の1つ以上のマーカーの存在を有する。例示的であるが非限定的なニューロン損傷のマーカーとしては、これらに限定されるものではないが、(1)CSFタウまたはリン酸化タウの上昇、(2)FDG-PET上のAD様パターンにおける代謝低下(すなわち後帯状、楔前部及び/または側頭頭頂皮質)、ならびに(3)容積測定MRIによる特定の解剖学的分布(例えば、頭頂葉外側部及び内側部、後帯状、及び外側側頭皮質)における皮質の薄化/灰白質損失及び/または海馬萎縮が挙げられる。他のマーカーとしては、これに限定されるものではないが、デフォルトネットワーク接続性のfMRI測定が挙げられる。特定の実施形態では、FDG-PET及びfMRIなどの機能的画像法により評価される早期シナプス機能障害は体積損失よりも前に検出可能である。特定の理論に束縛されるものではないが、早期神経変性のエビデンスを有するアミロイド陽性の個人は、軌跡を更に進んでいる(すなわち、前臨床(無症状)ADのより後の段階にある)可能性があると考えられる。
特定の実施形態では、本明細書で想到される予防方法に適した対象としては、これらに限定されるものではないが、神経変性及びわずかな認知機能低下のエビデンスを有するアミロイド陽性として特徴づけられる対象が挙げられる。特定の理論に束縛されるものではないが、アミロイド蓄積のバイオマーカーエビデンス、早期神経変性、及びわずかな認知機能低下のエビデンスを有する個人は、前臨床(無症状)ADの最終段階にあり、軽度認知障害(MCI)の臨床基準との境界領域に近づいていると考えられる。これらの個人は、標準的な認知機能指標の「正常」範囲内で依然機能している場合であっても、自身のベースラインからの認知機能低下のエビデンスを示す場合がある(特に、認知予備能のプロキシを考慮した場合)。特定の理論に束縛されるものではないが、より高感度の認知機能指標、詳細にはチャレンジングなエピソード記憶指標によれば、アミロイド陽性の個人におけるごくわずかな認知機能障害を検出できるものと考えられる。特定の実施形態では、基準として、これらに限定されるものではないが、記憶力低下または他のわずかな神経行動の変化の自己申告が挙げられる。
上記に述べたように、本明細書に述べられる予防方法に適した対象/患者としては、疾患(例えばMCIのような、アミロイドプラーク形成によって特徴づけられる病変)のリスクを有するが症状は示さない個人、及び現時点で特定の症状またはマーカーを示す対象が挙げられる。MCI及びその後のアルツハイマー病のリスクは、一般に加齢に伴って増大することが知られている。したがって、他の既知のリスク因子を有さない無症状の対象では、特定の実施形態において、予防的用途は、50才を超えた対象、または55才を超えた対象、または60才を超えた対象、または65才を超えた対象、または70才を超えた対象、または75才を超えた対象、または80才を超えた対象に対して、詳細には軽度認知障害(MCI)の発症もしくは最終的な重症度を予防もしくは遅延させ、及び/またはMCIから早期のアルツハイマー病(AD)への進行を遅延もしくは予防することが想到される。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる方法は、無症状であるかまたは疾患の症状を示しているかによらず、アルツハイマー病(または他のアミロイド形成性病変)の既知の遺伝的リスクを有する個人に特に有用な方法である。かかる個人としては、MCIまたはADを経験した親戚を有する個人(例えば、親、祖父母、きょうだい)、及び遺伝子または生化学的マーカーの分析によってリスクが決定されている個人が挙げられる。アルツハイマー病になるリスクの遺伝子マーカーとしては、例えば、APP遺伝子内の変異、特に717位における変異、ならびにそれぞれハーディ及びスウェーデン変異と呼ばれる670位及び671位における変異が挙げられる(例えば、Hardy(1997)Trends.Neurosci.,20:154-159を参照のこと)。他のリスクのマーカーとしては、プレセニリン遺伝子内の変異(PS1及びPS2)、家族性アルツハイマー病(FAD)変異を有するADの家族歴、APOEε4対立遺伝子、高コレステロール血症、またはアテローム性動脈硬化症が挙げられる。アルツハイマー病の発症に対する更なる感受性遺伝子については例えば、Sleegers,et al.,(2010)Trends Genet.26(2):84-93に概説されている。
一部の実施形態では、対象は無症状であるがMCIまたはアルツハイマー病を発症する家族性及び/または遺伝的リスクを有する。無症状の患者では任意の年齢(例えば、20、30、40、50才)で治療を開始することができる。しかしながら、通常は、患者が少なくとも約40、50、60、70、または80才に達するまで治療を開始する必要はない。
一部の実施形態では、対象は例えば軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病(AD)の症状を呈する対象である。現在アルツハイマー病を罹患している個人は、特徴的な認知症及び上記に述べたリスク因子の存在によって認識することができる。更に、ADを有する個人を特定するための数多くの診断検査法が利用可能である。これらの検査法としては、これらに限定されるものではないが、CSFタウ、リン酸化タウ(pタウ)、Aβ42濃度及びC末端切断APP断片(APPネオ)の測定が挙げられる。上昇した全タウ(tタウ)、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Aβ40、pタウ/Aβ42比及びtタウ/Aβ42比、ならびに減少したAβ42濃度、Aβ42/Aβ40比、Aβ42/Aβ38比、sAPPα濃度、sAPPα/sAPPβ比、sAPPα/Aβ40比、及びsAPPα/Aβ42比は、ADの存在を示す。一部の実施形態では、対象または患者はMCIを有するものとして臨床的に診断される。尿中の神経糸タンパク質(NTP)の濃度上昇及び/または血漿中のα2-マクログロブリン(α2M)及び/または補体因子H(CFH)の濃度上昇も、MCI及び/またはADのバイオマーカーである(例えば、Anoop et al.,(2010)Int.J.Alzheimer’s Dis.2010:606802を参照のこと)。
特定の実施形態では、治療に適した患者は加齢に伴う記憶障害(AAMI)、または軽度認知障害(MCI)を有してもよい。本明細書に述べられる方法は、MCIの予防及び/または治療、特にアミロイド形成反応によって特徴づけられるMCIに特によく適している。こうした例では、方法はMCIの発症を遅延させるかもしくは予防する、及び/またはMCIの1つ以上の特徴的な症状を低減させる、及び/またはMCIからアルツハイマー病の早期、中期、もしくは後期段階への進行を遅延させるかもしくは予防する、及び/または疾患の最終的な重症度を低減させることができる。
軽度認知障害(MCI)
異なる実施形態において本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)(例えば、またはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)を、加齢に関連した認知機能低下の治療及び/または予防及び/または軽度認知障害(MCI)の治療及び/または予防に使用することができる。軽度認知障害は、初期認知症または孤立性記憶障害としても知られ、その個人の年齢及び教育から予想されるものを超えているが、通常は日常活動の大きな妨げとはならない認知障害を有する個人に下される診断である(例えば、Petersen et al.,(1999)Arch.Neurol.56(3):303-308を参照のこと)。軽度認知障害は多くの場合で、正常な加齢と認知症との間の境界または移行段階と考えられている。MCIはさまざまな症状を呈し得るが、記憶喪失が主な症状である場合には「健忘型MCI」と呼ばれ、アルツハイマー病のリスク因子となり得る(例えば、Grundman et al.,(2004)Arch.Neurol.61(1):59-66;及びインターネット上のen.wikipedia.org/wiki/Mild_cognitive_impairment-cite_note-Grundman-1を参照のこと)。個人が記憶以外の領域における障害を有する場合には、MCIは非健忘型単一領域または多領域MCIとしてしばしば分類され、これらの個人はより高い確率で他の認知症(例えば、レビー小体型認知症)に転換すると考えられている。健忘型MCI患者はアルツハイマー病の神経病理学的基準を満たさない場合があるが、患者はアルツハイマー病の発症への移行段階にある可能性があり、この仮説的移行段階にある患者は新皮質の拡散アミロイドを示し、内側側頭葉に高頻度で神経原線維変化を示すことを示唆するエビデンスがある(例えば、Petersen et al.,(2006)Arch.Neurol.,63(5):665-72を参照のこと)。
MCIの診断では一般的に、臨床観察、神経画像診断、血液検査及び神経心理学検査を含む包括的臨床評価が行われる。特定の実施形態では、MCIの診断基準として、これに限定されるものではないが、Albert et al.,(2011)Alzheimer’s & Dementia.1-10に記載されるものが挙げられる。本明細書に述べられるように、診断基準には、(1)高度な画像法または脳脊髄液分析を利用することができない医療従事者が使用することが可能な主要な臨床基準、及び(2)臨床試験を含む臨床研究状況で使用することが可能な研究基準が含まれる。第2の基準群には、画像法及び脳脊髄液測定に基づいたバイオマーカーの使用が含まれる。ADによる軽度認知障害の最後の基準群は、バイオマーカーの存在及びその知見の性質に応じて決まる4段階の確実度を有する。
特定の実施形態では、MCIの臨床評価/診断には、(1)患者またはインフォーマントもしくは医師により報告される認知機能の変化(例えば、長期にわたる機能低下の履歴または観察されるエビデンス)を反映した懸念、(2)通常は記憶を含む、1つ以上の認知領域における障害の客観的エビデンス(例えば、複数領域における認知機能レベルを確立するための公式試験または臨床検査)、(3)機能的能力における独立性の保存、(4)認知症でない、更に、特定の実施形態では、(5)ADの病態生理学的プロセスに一致するMCIの病因、が含まれる。可能な場合、通常は認知機能低下の血管性、外傷性、医学的な原因は除外される。特定の実施形態では、可能な場合、認知機能の長期的な低下のエビデンスが特定される。関連のある場合、診断はADの遺伝的因子と一致する病歴によって支持される。
認知領域(複数可)における障害に関しては、本人の以前のレベルと比較した認知機能の変化に関する懸念のエビデンスがなければならない。患者の年齢及び教育的背景から予測されるものより大きい、1つ以上の認知領域における機能の低下のエビデンスがなければならない。反復評価が可能な場合、機能の低下が時間とともに明白とならなければならない。この変化は、記憶、実行機能、注意力、言語及び空間視覚能力を含むさまざまな認知領域において生じ得る。エピソード記憶(すなわち、新しい情報を学習して保持する能力)の障害は、後にAD認知症の診断へと進行するMCI患者でもっとも一般的に見られる。
機能的能力における独立性の保存に関しては、MCIを有する人は、買い物をする際に用いる複雑な機能的タスクを遂行するうえで軽度の問題を一般的に有している。そのような人はそうした活動を遂行するにあたり、過去に比べ、より時間がかかり、より効率が悪くなり、より多くの間違いをする可能性がある。それでもなお、そのような人は一般的には日常生活における機能の独立性は維持しており、わずかの支援または援助しか必要としない。
認知症に関しては、社会的または職業的機能に著しい支障をきたすエビデンスがみられない、充分に軽度の認知機能の変化でなければならない。個人が一度しか評価されていない場合には、変化は、病歴から、及び/またはその個人で予測される以上に認知機能が損なわれていることのエビデンスから推測される。
認知機能検査は、個人の認知機能障害の程度を客観的に評価するために最適である。MCIを有する個人の認知機能検査のスコアは一般的に、文化的に適切な標準的データ(例えば、データがある場合には障害領域(複数可)の)における、同等の年齢及び教育を有する者の平均を1~1.5標準偏差分、下回る。
エピソード記憶(すなわち、新しい情報を学習して保持する能力)は、後にAD認知症の診断へと進行するMCI患者で最も一般的に見られる。数年以内にAD認知症に進行する可能性が高いMCI患者を特定するうえで有用なさまざまなエピソード記憶検査が存在する。これらの検査は一般的に即時再生及び遅延再生の両者を評価するため、遅延にわたった保持を決定することが可能である。この点に関して有用であることが証明されている検査の(すべてではないが)多くは、複数回のトライアルによる単語リスト学習テストである。かかるテストは、経時的な学習速度及び学習トライアルで習得された最大量を示すものである。これらのテストは、その個人が実際に即時再生のタスクに注意を払っていることを実証するうえでも有用であり、これを遅延再生で保持された内容の相対量を評価するベースラインとして用いることができる。かかるテストの例としては、これらに限定されるものではないが、フリーアンドキュード選択連想テスト(Free and Cued Selective Reminding Test)、Rey聴覚言語学習テスト、及びカリフォルニア言語学習テストが挙げられる。他のエピソード記憶の評価基準としては、これらに限定されるものではないが、改定ウェクスラー式記憶検査法(または他のバージョン)の論理的記憶I及びIIなどのパラグラフの即時再生及び遅延再生、ならびに改定ウェクスラー式記憶検査法I及びIIの視覚再現サブテストなどの非言語素材の即時再生及び遅延再生が挙げられる。
MCIを有する個人では、他の認知領域も障害を受け得るため、記憶以外の領域も検査することが望ましい。他の認知領域としては、これらに限定されるものではないが、実行機能(例えば、セットシフティング、論理的思考、問題解決、計画立案)、言語(例えば、命名、流暢度、表現的発話、及び理解)、空間視覚能力、ならびに注意制御(例えば、単純及び分割注意)が挙げられる。トレイルメイキングテスト(実行機能)、ボストン呼称テスト、文字及びカテゴリー流暢性(言語)、図形の模写(空間能力)、及び数の順唱(注意)を含む(ただしこれらに限定されない)、これらの認知領域を評価するための多くの臨床神経心理学的な評価基準が存在する。
上記に述べたように、遺伝的因子をMCIの診断に取り入れることができる。ADの常染色体優性型が存在することが分かっている場合(すなわちAPP、PS1、PS2の変異)、MCIの発症はAD認知症への前兆である可能性が非常に高い。これらの場合の大多数ではADを早発する(例えば65歳未満での発症)。
更に、晩発性のAD認知症に対しても遺伝的影響がある。例えば、アポリタンパク質E(APOE)遺伝子における1つまたは2つのε4対立遺伝子の存在は、晩発性のAD認知症のリスクを高めることが広く受け容れられている遺伝子変異である。MCIの臨床的、認知機能的、及び病因的基準を満たし、かつAPOEε4陽性である個人は、数年内にAD認知症に進行する確率がこの遺伝的特徴を有さない個人と比較してより高いことを示すエビデンスがある。更なる遺伝子が、重要であるがAPOEよりは小さい役割を果たし、AD認知症への進行リスクに変化をもたらすと考えられている(例えば、Bertram et al.,(2010)Neuron,21:270-281を参照のこと)。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる予防方法(例えば、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体、及び/またはこれらのいずれかを含む製剤の投与)に適した対象としては、必ずしもこれらに限定されないが、上記に述べた主要な臨床基準の1つ以上を有することが特定された対象、及び/または例えば下記に述べるようなMCIの1つ以上の「研究基準」を有することが特定された対象が挙げられる。
MCIの特定/予後診断の「研究基準」としては、これらに限定されるものではないが、MCI症候群がADの病態生理学的プロセスによるものである確率を高めるバイオマーカーが挙げられる。特定の理論に束縛されるものではないが、臨床基準とバイオマーカーを同時に適用することによって、MCI症候群がADの病態生理学的プロセスによるものであることの異なる確実度が与えられると考えられる。特定の実施形態では、最も深く研究され、臨床転帰に適用されている2つのカテゴリーのバイオマーカーが検討される。これらのバイオマーカーとしては、「Aβ」(CSF中のAβ42、及び/またはPETによるアミロイド画像法を含む)及び「ニューロン損傷のバイオマーカー」(これらに限定されるものではないが、CSF中のタウ/p-タウ、MRIによる海馬または内側部側頭萎縮、及びPETまたはSPECTによる側頭頭頂/楔前部の代謝低下または低潅流を含む)が挙げられる。
特定の理論に束縛されるものではないが、Aβ及びニューロン損傷(タウ/p-タウの増加またはADに特徴的なトポグラフィカルパターンにおけるバイオマーカーのイメージング)のエビデンスは共に、ADの病態生理学的プロセスが非常に高い確率で存在することを示すと考えられる。逆に、これらのバイオマーカーが陰性である場合、これは別の診断の可能性に関する情報を与えることができる。バイオマーカーによる知見は矛盾する場合があることは認識されており、したがって、鑑別診断において使用される場合、いかなるバイオマーカーの組み合わせも指示的(指標)なものであり、それ自体確定的ではない。ある異常の異なる重症度は、異なる確率または予後をもたらす可能性があり、これを広範な用途について正確に定量することは困難であることは認識されるところである。
臨床的及び認知的MCI症候群が病因としてのADに一致する潜在的MCI対象では、バイオマーカー分析を加えることで、診断においてあるレベルの確実性をもたらす。エピソード記憶障害及び推定される変性性の病因のエビデンスを含む、MCIの臨床的及び認知的症候群が確立されている最も典型的な例では、最も可能性の高い病因はADの神経変性プロセスである。しかしながら、最終的な転帰は、なお異なる程度の確実性を有する。AD認知症に進行する確率は、認知機能低下の重症度及びADの病態生理が基礎となる原因であることを示唆するエビデンスの性質によって異なる。特定の理論に束縛されるものではないが、ニューロン損傷を反映した陽性のバイオマーカーは、認知症への進行が数年以内に起こる高い確率を示し、Ab蓄積及びニューロン損傷を反映した陽性の知見は共に、その診断が極めて高い確率でADによるMCIであることを示すものと考えられる。
陽性のAβバイオマーカー及びニューロン損傷の陽性のバイオマーカーは、MCI症候群がADのプロセスによるものであり、対象が、本明細書に述べられる方法(例えば、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニストによる治療)に適していることの示唆を与える。
ニューロン損傷のバイオマーカーが検査されていないかもしくは検査することができない状況での陽性のAβバイオマーカー、またはAβバイオマーカーが検査されていないかもしくは検査することができない状況でのニューロン損傷の陽性のバイオマーカーは、MCI症候群がADによるものである中度の確率を示す。かかる対象は本明細書に述べられる方法に適当であると考えられる。
Aβ及びニューロン損傷の両方についての陰性のバイオマーカーは、MCI症候群がADによるものではないことを示唆する。かかる場合では、患者は本明細書に述べられる方法に適さない可能性がある。
核磁気共鳴画像法が、軽度認知障害から本格的なアルツハイマー病に至る過程の脳の灰白質の進行性喪失などの劣化を観察できるというエビデンスがある(例えば、Whitwell et al.,(2008)Neurology 70(7):512-520を参照のこと)。PiB PET画像法として知られる技術が、ベータアミロイドの沈着と選択的に結合するC11トレーサーを使用して生体内のこのような沈着の部位及び形状を明確に示すために用いられている(例えば、Jack et al.,(2008)Brain 131(Pt3):665-680を参照のこと)。
特定の実施形態では、MCIは通常、1)記憶障害のエビデンス、2)一般的認知能力及び機能的能力の保存、ならびに3)診断される認知症の不在、がある場合に診断される。
特定の実施形態では、MCI及びアルツハイマー病のステージは、臨床的認知症評価(CDR)のスコアによって一部特定/分類することができる。CDRは、アルツハイマー病及び関連する認知症に適用可能な認知的及び機能的能力の6つの領域、すなわち、記憶、見当識、判断力及び問題解決能力、地域社会活動、家庭及び趣味、ならびに身の回りの世話を特徴づけるために用いられる5点のスケールである。各評価を行うための情報は、患者及び信頼できるインフォーマントまたは副次的な情報源(例えば、家族)の半構造化インタビューによって得られる。
CDR表は、インタビューデータ及び臨床判断に基づいて適当な評価をする際に臨床医の手引きとなる記述的アンカーを提供する。各ドメインの評価に加えて、アルゴリズムを用いることにより全体的なCDRスコアを計算することができる。このスコアは、患者の障害/認知症のレベルを特徴づけして、追跡するために有益である。すなわち、0=正常、0.5=ごく軽度の認知症、1=軽度認知症、2=中度認知症、及び3=重度認知症。例示的なCDR表を表2に示す。
約0.5または約0.5~1.0のCDR評価は、臨床的に有意なMCIとしばしばみなされる。より高いCDR評価は、アルツハイマー病への進行を示していると考えられる。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上の薬剤(例えば、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体、または上記のいずれかを含む製剤)の投与は、タウ、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Aβ40、可溶性Aβ42、及び/またはAβ42/Aβ40比からなる群から選択される1つ以上の成分のCSF中の濃度の低減がある場合、及び/または対象の脳内のプラーク負荷の低下がある場合、及び/または対象の脳内のプラーク形成速度の低下がある場合、及び/または対象の認知能力の改善がある場合、及び/または対象によって知覚される生活の質の改善がある場合、及び/または臨床的認知症評価(CDR)に有意な低下がある場合、及び/または臨床的認知症評価の増加速度が遅くなるかもしくは停止する場合、及び/またはMCIから早期ADへの進行が遅くなるかもしくは停止する場合に、有効であるとみなされる。
一部の実施形態では、MCIの診断は、いくつかの臨床検査の結果を考慮することによって決定することができる。例えば、Grundman,et al.,(2004)Arch Neurol 61:59-66は、単純な記憶試験(パラグラフ再生)を用いて一般的な認知機能の1つの尺度である客観的記憶欠損(下記により詳細に述べるミニメンタルステート検査(MMSE))を確立することで記憶を越えたより広い認知機能低下を排除し、また、患者及び介護者との構造化臨床インタビュー(CDR)により患者の記憶愁訴及び記憶喪失を検証し、患者が認知症でないことを確認することによって、MCIの診断を臨床的に効率的に確立することができることを報告している。MCIを有する患者の成績は、バッテリーに含まれる記憶以外の認知機能の尺度で正常よりも平均で1標準偏差(SD)未満低い。学習、注意、知覚速度、カテゴリー流暢性、及び実行機能の試験はMCI患者で低下している可能性があるが、これらは記憶の欠損と比べて遙かに目立たない。
アルツハイマー病(AD)
特定の実施形態では、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)及び/またはそれらの製剤は、アルツハイマー病の予防または治療処置について検討される。かかる場合では、本明細書に述べられる方法は、アルツハイマー病(AD)の発症を予防もしくは遅延させ、対象が臨床的ADの診断に移行している場合にはADの重症度を低減し、及び/またはアルツハイマー病の1つ以上の症状を軽減するうえで有用である。
特に、アルツハイマー病が早期の場合には、本方法は、ADに特徴的な1つ以上の症状を低減もしくは消失させ、及び/またはMCIから初期もしくはより後期のアルツハイマー病への進行を遅延もしくは予防し、及び/または早期のアルツハイマー病からより後期のアルツハイマー病への進行を予防もしくは遅延させることができる。
現在アルツハイマー病を罹患している個人は、特徴的な認知症及び上記に述べたリスク因子の存在によって認識することができる。更に、ADを有する個人を識別するための数多くの診断検査法が利用可能である。現在アルツハイマー病を罹患している個人は、特徴的な認知症及び上記に述べたリスク因子の存在によって認識することができる。更に、ADを有する個人を識別するための数多くの診断検査法が利用可能である。これらには、CSF中のタウ、リン酸化タウ(pタウ)、sAPPα、sAPPβ、Aβ40、Aβ42濃度及び/またはC末端切断APPフラグメント(APPneo)が挙げられる。タウ、pタウ、sAPPβ及び/またはAPPneo濃度の上昇、及び/またはsAPPα、可溶性Aβ40及び/または可溶性Aβ42濃度の低下は、特に鑑別診断との関連においてADの存在を示すことができる。
特定の実施形態では、治療に適した対象は、アルツハイマー病を有し得る。アルツハイマー病に罹患した個人は、ADRDA(アルツハイマー病・関連障害協会)(Alzheimer’s disease and Related Disorders Association)診断基準によって診断することもできる。NINCDS-ADRDAのアルツハイマー病の診断基準は、アメリカ国立神経障害・脳卒中研究所(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)及びアルツハイマー病・関連障害協会(Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)(「アルツハイマー病協会」として現在知られる)によって1984年に提唱され、アルツハイマー病(AD)の診断において最も多く用いられているものの1つである。McKhann,et al.,(1984)Neurology 34(7):939-944.これらの基準によれば、認知機能障害及び疑わしい認知症症候群の存在は、疑いのある、またはほぼ確実なADの臨床診断についての神経心理学的検査によって確認されるべきである。しかしながら、確定診断には、組織病理学的確認(脳組織の顕微鏡検査)が一般に用いられている。NINCDS-ADRDAのアルツハイマー病の基準は、ADで損なわれる可能性のある8つの認知領域、すなわち、記憶、言語、知覚技能、注意、構成能力、見当識、問題解決、及び機能的能力を規定している。これらの基準は、高い信頼性及び妥当性を示している。
患者機能のベースライン評価は、例えばミニメンタルステート検査(MMSE)などの古典的な精神測定の尺度(Folstein et al.,(1975)J.Psychiatric Research 12(3):189-198)、ならびにアルツハイマー病の状態及び機能を有する患者を評価するための包括的スケールである「アルツハイマー病評価スケール」(Alzheimer’s Disease Assessment Scale)(ADAS)を用いて行うことができる(例えば、Rosen,et al.,(1984)Am.J.Psychiatr.,141:1356-1364を参照のこと)。これらの精神測定スケールは、アルツハイマー病の状態の進行の尺度を与えるものである。適当な定性的生活スケールを用いて治療を監視することもできる。疾患の進行の程度は、ミニメンタルステート検査(MMSE)を用いて判定することができる(例えば、前出のFolstein et al.,を参照のこと)。25点(30点満点)以上のすべてのスコアは、実質的に正常(健常)である。これより下では、スコアは重度(9点以下)、中度(10~20点)、または軽度(21~24点)のアルツハイマー病を示すことができる。
アルツハイマー病は、表3に示すように、以下を含む異なる段階に分類することができる。すなわち、1)中度の認知機能低下(軽度または早期のアルツハイマー病)、2)やや重度の認知機能低下(中度または中期のアルツハイマー病)、3)重度の認知機能低下(やや重度または中期のアルツハイマー病)、及び4)極めて重度の認知機能低下(重度または後期のアルツハイマー病)。
異なる実施形態において、アルツハイマー病と診断された対象への本明細書に述べられる1つ以上の薬剤の投与は、タウ、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Aβ40、可溶性Aβ42及び/またはAβ42/Aβ40比からなる群から選択される1つ以上の成分のCSF中の濃度の低下がある場合、及び/または対象の脳内のプラーク負荷の低下がある場合、及び/または対象の脳内のプラーク形成速度の低下がある場合、及び/または対象の認知能力の改善がある場合、及び/または対象によって知覚される生活の質の改善がある場合、及び/または対象の臨床的認知症評価(CDR)の有意な低下がある場合、及び/または臨床的認知症評価の増大速度が遅くなるか停止する場合、及び/またはADの進行が遅延もしくは停止する場合(例えば、表3に示される1つの段階から別の段階への移行が遅延するかまたは停止する場合)に有効とみなされる。
特定の実施形態では、本方法に適した対象は、アルツハイマー病以外の神経疾患または障害を一般に有さない。例えば、特定の実施形態では、対象は、ハンチントン病、及び/またはパーキンソン病、及び/または統合失調症、及び/または精神異常などの神経疾患または障害を有しておらず、かつこれらを発症するリスクがない。
異なる実施形態において、治療の有効性は、CRFR1受容体アンタゴニスト及び/またはそれらの製剤(複数可)の投与が開始される前の疾患のパラメータのベースライン測定値を、化合物/製剤が投与された後の1つ以上の時点の同じパラメータと比較することにより判定することができる。測定することが可能な1つの例示的な(ただし非限定的な)パラメータとして、APPのプロセシングのバイオマーカー(例えばペプチドオリゴマー)がある。かかるバイオマーカーとしては、これらに限定されるものではないが、sAPPα、p3(Αβ17-42またはΑβ17-40)、βΑΡΡβ、可溶性Αβ40、及び/または可溶性Αβ42の血液、血漿、血清、尿、粘液、または脳脊髄液(CSF)中の濃度の増大が挙げられる。sAPPα及び/またはp3の濃度の増大、ならびにβΑΡΡβ及び/またはAPPneoの濃度の減少の検出は、治療が有効であることの指標である。逆に、sAPPα及び/またはp3の濃度の減少、及び/またはβΑΡΡβ、APPneo、タウ、リン酸化タウ(pタウ)の濃度の増大は、治療が有効でないことの指標である。
治療の有効性を判定するための別のパラメータとして、脳内のアミロイドプラーク沈着のレベルがある。アミロイドプラークは、例えばCT、PET、PIB-PET及び/またはMRIによって測定されるように、当該技術分野では周知の任意の方法を用いて測定することができる。
異なる実施形態において、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)の投与は、プラーク形成速度の低下、及び更には脳内のプラーク沈着の退縮または低減につながり得る。治療の有効性は、対象の認知能力の安定化及び/または改善を観察することによって判定することもできる。認知能力は、例えば、臨床的認知症評価(CDR)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、またはフォルスタイン検査、DSM-IV(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版)もしくはDSM-Vに記載される評価基準などを含む、当該技術分野で受け容れられたいずれの方法を用いて評価することもできる。
特定の実施形態では、監視方法は、所定の用量の多成分製剤及び場合により1つ以上の医薬品を投与する前に対象の測定可能なバイオマーカーまたはパラメータ(例えば、アミロイドプラーク負荷または認知能力)のベースライン値を決定することと、このバイオマーカーまたはパラメータを治療後の同じ測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの値と比較することと、を含むことができる。
他の方法では、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータのコントロール値(例えば、平均及び標準偏差)をコントロール集団について決定する。特定の実施形態では、コントロール集団内の個人は過去に治療を受けておらず、AD、MCIも有さなければ、ADまたはMCIを発症するリスクも有さない。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効とみなされる。他の実施形態では、コントロール集団内の個人は過去に治療を受けておらず、ADまたはMCIを診断されている。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効でないとみなされる。
他の方法では、現時点で治療を受けていないが過去に一連の治療を行っている対象を、バイオマーカーまたは臨床的パラメータの1つ以上について監視して治療の再開が必要であるか否かを判定する。対象におけるバイオマーカーまたは臨床的パラメータの1つ以上の測定された値を、過去の一連の治療後にその対象において過去に得られた値と比較することができる。あるいは、対象において測定された値を、一連の治療を行った後に対象の集団で求めたコントロール値(平均及び標準偏差/ANOVA)と比較することもできる。あるいは、対象において測定された値を、疾患の症状を示していない予防処置を行った対象の集団、または疾患の特徴の改善を示す治療処置を行った対象の集団におけるコントロール値と比較することもできる。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効とみなされ、再開する必要はない。これらのすべての場合において、コントロールレベルに対する有意差(例えば標準偏差よりも大きい)は、対象において治療を再開するべきであることの指標である。
異なる実施形態において、分析を行うための組織試料は一般的には、対象からの血液、血漿、血清、尿、粘液、または脳脊髄液である。
医薬組成物
特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上のアロステリックCRFR1受容体アンタゴニスト、またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、もしくは2種以上のジアステレオマーの混合物、それらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、またはそれらの誘導体が、それらを必要とする哺乳動物、例えばこれに限定されるものではないが、アミロイド前駆体タンパク質の異常プロセシングを特徴とする病変(アミロイド形成性MCI、アルツハイマー病など)を含む神経変性病変のリスクを有するかまたはかかる病変に罹患した哺乳動物、発症前状態から発症状態(例えば、無症状状態からMCIに、無症状状態からADに、MCIからADに、など)に進行するリスクを有する哺乳動物に投与される。
本明細書に述べられるCRFR1Rアンタゴニストは、「天然」の形態で、または必要に応じて、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、または誘導体が薬理的に好ましいものである(例えば、本方法(複数可)において有効である)場合にかかる塩、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体などの形態で投与することができる。CRFR1Rアンタゴニストの塩、エステル、アミド、プロドラッグ及び他の誘導体は、合成有機化学の分野の当業者には周知であり、例えばMarch(1992)Advanced Organic Chemistry;Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.N.Y.Wiley-Interscienceに記載される標準的な方法を用いて調製することができる。
かかる誘導体を製剤化する方法は当業者には周知のものである。例えば、薬学的に許容される塩は、塩を形成することが可能な官能基を有する(例えば本明細書に述べられる化合物のカルボン酸官能基など)、本明細書に述べられるすべての化合物について調製することができる。薬学的に許容される塩とは、親化合物の活性を維持し、塩が投与される対象に対して、及び塩が投与される状況において、いっさいの有害作用も薬害反応も与えない任意の塩である。
本明細書に述べられる化合物を塩、エステル、アミド、プロドラッグなどとして医薬製剤化する方法は、当業者には周知のものである。例えば、塩は、通常は適当な酸との反応を行う従来の方法を用いて遊離塩基から調製することができる。一般的に、薬剤の塩基形態は、メタノールまたはエタノールのような極性有機溶媒に溶解され、これに酸が加えられる。得られた塩は沈殿するか、またはより極性の低い溶媒を加えることにより溶液から析出させることができる。酸付加塩を調製するための適当な酸としては、これらに限定されるものではないが、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びサリチル酸などの有機酸、ならびに例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸などの無機酸が挙げられる。酸付加塩は、適当な塩基で処理することにより遊離塩基に再変換することができる。本明細書に述べられる化合物の特定の特に好ましい酸付加塩としては、例えば塩酸または臭化水素酸を用いて調製することができるハロゲン塩を挙げることができる。逆に、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニストの塩基性塩の調製(例えば図4を参照)は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシム、またはトリメチルアミンなどの薬学的に許容される塩基を用いて同じ要領で調製することができる。特定の実施形態では、塩基性塩として、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、及び銅塩が挙げられる。
塩基性薬剤の塩形態を調製するには、対イオンのpKaは、薬剤のpKaより少なくとも約2pH単位低いことが好ましい。同様に、酸性薬剤の塩形態を調製するには、対イオンのpKaは、薬剤のpKaより少なくとも約2pH単位高いことが好ましい。これにより、対イオンが溶液のpHを最大pHよりも低い値とすることが可能となるため、塩の可溶性が遊離酸または遊離塩基の可溶性よりも優位となる塩プラトーに達する。医薬有効成分(API)中のイオン性基と酸または塩基中のイオン性基のpKa単位の差の一般化された法則は、プロトン移動をエネルギー的に有利にすることを意味するものである。APIと対イオンのpKaが大きく異ならない場合には水性環境中で固体複合体が形成され得るが、これは速やかに不均化し得る(例えば薬物と対イオンの個々の実体に分解する)。
異なる実施形態において、対イオンは薬学的に許容される対イオンである。適当な陰イオン塩形態としては、これらに限定されるものではないが、酢酸塩、安息香酸塩、ベンジル酸塩、酒石酸水素塩、臭化物、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硫酸メチル、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、リン酸塩及び二リン酸塩、サリチル酸塩及びジサリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシレート、トリエチオダイド、及び吉草酸塩などが挙げられ、適当な陽イオン形態としては、これらに限定されるものではないが、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リシン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、及び亜鉛などが挙げられる。
エステルの調製では通常、有効成分(例えばCRFR1受容体アンタゴニスト)の分子構造内に存在するヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基の官能化を行う。特定の実施形態では、エステルは一般的に、遊離アルコール基のアシル置換誘導体、例えば式RCOOH(式中、Rはアルキル、好ましくは低級アルキルである)のカルボン酸から誘導される部分である。必要に応じて、エステルは、従来の水素化分解または加水分解法を用いて遊離酸に再変換することができる。
アミドも当業者に周知の方法または関連文献に記載の方法を用いて調製することができる。例えば、アミドは適当なアミン反応物を使ってエステルから調製するか、またはアンモニアもしくは低級アルキルアミンとの反応によって無水物もしくは酸塩化物から調製することができる。
異なる実施形態において、本明細書で特定される化合物は、本明細書に述べられる1つ以上の病変/適応(例えば、アミロイド形成病変)の予防及び/または治療処置を行うために、非経口投与、局所投与、経口投与、経鼻投与(または他の形での吸引)、直腸投与、またはエアロゾールもしくは経皮的な局部投与に有用である。
本明細書に述べられる有効成分(複数可)(例えば、CRFR1受容体アンタゴニスト、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)は、薬学的に許容される担体(賦形剤)と合わせて薬理学的組成物を形成することもできる。薬学的に許容される担体は、例えば組成物を安定させるかまたはCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)の吸収を増大もしくは減少させる作用を有する1つ以上の生理学的に許容される化合物(複数可)を含むことができる。生理学的に許容される化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、またはデキストランのような炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンのような酸化防止剤、キレート剤、低分子量タンパク質、脂質のような保護及び吸収促進剤、CRFR1受容体アンタゴニストのクリアランスもしくは加水分解を低減する組成物、または賦形剤もしくは他の安定化剤及び/または緩衝剤を挙げることができる。
他の生理学的に許容される化合物、特に錠剤、カプセル剤、及びゲルカプセルなどの調製に有用なものとしては、これらに限定されるものではないが、結合剤、希釈剤/充填剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤などが挙げられる。
特定の実施形態では、経口剤形(例えば、錠剤)を製造するために、例えば、賦形剤(例えば、ラクトース、スクロース、デンプン、マンニトールなど)、任意成分の崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポヒドンなど)、結合剤(例えば、アルファデンプン、アラビアゴム、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリンなど)、及び任意成分の滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000など)を、有効成分(複数可)(例えば、本明細書に述べられる化合物(複数可)またはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)に加え、得られた組成物を圧縮する。必要に応じて、圧縮された製品を、例えば味をマスクするため、または腸溶性もしくは徐放性を与えるために周知の方法を用いてコーティングする。適切なコーティング材料としては、これらに限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びEudragit(Rohm & Haas,Germany、メタクリル酸/アクリル酸コポリマー)が挙げられる。
他の生理学的に許容される化合物としては、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または、微生物の増殖もしくは活動を防止するうえで特に有益である防腐剤が挙げられる。さまざまな防腐剤が周知であり、例えばフェノール及びアスコルビン酸が挙げられる。当業者であれば、生理学的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体(複数可)の選択は、例えば本明細書に述べられるCRFR1アンタゴニスト(複数可)の投与経路及びCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)の特定の物理化学的特性によって決まる点は認識されよう。
特定の実施形態では、賦形剤は無菌であり、望ましくない物質を一般的に含まない。これらの組成物は従来の周知の滅菌法によって滅菌することができる。錠剤及びカプセル剤などのさまざまな経口剤形の賦形剤で、無菌状態は要求されない。USP/NF規格が通常は充分である。
医薬組成物は投与方法に応じてさまざまな単位剤形で投与することができる。適切な単位剤形としては、これらに限定されるものではないが、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、パッチ、点鼻スプレー、注射式、埋め込み式の徐放製剤、粘膜付着性フィルム、局所ワニス、脂質複合体などが挙げられる。
本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(例えば、CRFR1受容体アンタゴニストまたはそれらの製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)を含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、造粒、糖衣形成、粉末化、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥処理によって製造することができる。医薬組成物は、CRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を薬学的に使用可能な調製物に処理することを容易とする1つ以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤を使用して従来の要領で製剤化することができる。適当な製剤は選択される投与経路によって決まる。
局所投与を行うには、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を、当該技術分野では周知のように、溶液、ゲル、軟膏、クリーム、及び懸濁液などとして製剤化することができる。全身用製剤としては、これらに限定されるものではないが、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下、または腹腔内注射などの注射による投与を行うために設計されたもの、及び経皮、経粘膜口腔、または経肺投与による投与を行うために設計されたものが挙げられる。注射を行うには、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を、水溶液中で、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水バッファーなどの生理的適合性を有するバッファー中で、及び/または特定のエマルション製剤中で製剤化することができる。溶液は、懸濁化剤、安定化剤、及び/または分散剤などの製剤化剤を含んでもよい。特定の実施形態では、CRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)は、使用前に適当なビヒクル、例えば無菌パイロジェンフリー水で使用前に戻すための散剤の形態で与えることもできる。経粘膜投与を行うには、浸透させるバリアに対して適当な浸透剤を製剤中に用いることができる。かかる浸透剤は当該技術分野では一般的に周知のものである。
経口投与を行うには、CRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を当該技術分野では周知の薬学的に許容される担体と合わせることによって化合物を容易に製剤化することができる。かかる担体は、本明細書に述べられる化合物を、治療される患者によって経口摂取される、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー剤、及び懸濁液などとして製剤化することを可能とする。例えば散剤、カプセル剤及び錠剤などの経口固体製剤では、適当な賦形剤として、例えばラクトース、スクロース、マンニトール及びソルビトールなどの糖類;例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース調製物、及び/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの充填剤;造粒剤;ならびに結合剤が挙げられる。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムのようなその塩などの崩壊剤を加えることもできる。必要に応じて、固体剤形は、常法を用いて糖衣または腸溶性コーティングを施すことができる。
例えば懸濁液、エリキシル剤、及び溶液などの経口液体製剤では、適当な担体、賦形剤、または希釈剤として、水、グリコール、油、アルコールなどが挙げられる。更に、香味剤、防腐剤、及び着色剤などを加えることもできる。口腔内投与では、組成物は従来の方法で製剤化した、錠剤、トローチ剤などの形態とすることができる。
吸入による投与では、本明細書に述べられる化合物(複数可)は、加圧パックまたはネブライザーから、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適当なガスなどの適当な噴射剤を使用して、エアロゾールスプレーの形態で便宜よく送達される。加圧エアロゾールの場合では、投与単位は、計量された量を送達するバルブを設けることによって決定することができる。化合物の粉末混合物及びラクトースまたはデンプンなどの適当な粉末基剤を含む、例えば吸入器または注入器で使用されるゼラチンのカプセル及びカートリッジを製剤化することができる。
異なる実施形態において、本明細書に述べられる化合物(複数可)は、例えばカカオバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤の基剤を含む、坐剤または停留浣腸などの直腸または膣内組成物として製剤化することができる。
上記に述べた製剤以外に、化合物は、デポ製剤として製剤化することもできる。かかる長期作用製剤は、移植(例えば皮下または筋肉内)により、または筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、化合物は、適当なポリマーまたは疎水性材料(例えば許容される油中のエマルションとして)またはイオン交換樹脂とともに、または難溶性誘導体、例えば難溶性の塩として製剤化することができる。
また、他の医薬送達システムを用いることもできる。リポソーム及びエマルションは、薬学的な活性化合物を保護及び送達するために使用することができる送達ビヒクルの周知の例である。ジメチルスルホキシドなどの特定の有機溶媒を使用することもできるが、通常はより毒性が高い。更に、化合物は、治療剤を含む固体ポリマーの半透性マトリクスのような徐放システムを用いて送達することもできる。徐放性材料のさまざまな使用が確立されており、当業者に周知である。徐放性カプセルはその化学的性質に応じて数週間~100日以上にわたって化合物を放出することができる。治療薬の化学的性質及び生物学的安定性に応じて、更なるタンパク質安定化の手法を用いることもできる。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物(複数可)及び/または製剤は経口投与される。これは、錠剤、カプレット剤、トローチ剤、及び液剤などの使用により容易に実現される。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物(複数可)及び/または製剤は、当業者には周知の標準的な方法にしたがって全身投与(例えば経口投与、または注射剤として)される。他の実施形態では、薬剤は、本明細書に述べられる化合物(複数可)及び/または製剤が、皮膚に貼付される薬物送達デバイスとして機能する積層構造中に通常含まれる、例えば経皮「パッチ」のような従来の経皮薬物送達システムを使用して皮膚を通じて送達することもできる。かかる構造では、薬物組成物は、通常は、上側の支持層の下層となる層、すなわち「リザーバ」中に含有される。これに関連して「リザーバ」なる用語は、皮膚の表面へ送達させるために最終的に利用可能な「有効成分(複数可)」の量のことを指す。したがって、例えば「リザーバ」は、パッチの支持層上の接着剤中に、または当業者には周知のさまざまな異なるマトリクス製剤のいずれかに含まれる有効成分(複数可)を含み得る。パッチは単一のリザーバを含む場合もあり、または複数のリザーバを含む場合もある。
例示的な一実施形態では、リザーバは、薬物送達中、皮膚にシステムを貼付する機能を有する薬学的に許容される接触接着材料のポリマーマトリクスを含む。適当な皮膚接触接着材料の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、及びポリウレタンなどが挙げられる。また、薬物含有リザーバと皮膚接触接着剤とは、接着剤がリザーバの下層となる別々の異なる層として存在してもよく、その場合、リザーバは上記で述べたようなポリマーマトリクスであってよく、または液体もしくはヒドロゲルのリザーバであってもよく、または他の形態であってもよい。装置の上面として機能するこれらの積層体の支持層は、好ましくは「パッチ」の主要な構造的要素として機能し、装置にその可撓性の大半を与える。支持層に選択される材料は、CRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)及び存在する他の任意の物質に対して実質的に不透過性であることが好ましい。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上の化合物(複数可)は、例えば、いつでも希釈に使用できる(例えば予め測定された体積の)保管容器中で、または所定体積の水、アルコール、過酸化水素、もしくは他の希釈剤にいつでも加えることができる可溶性カプセル中で「濃縮物」として与えることができる。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物(複数可)は、経口投与に適したものであることが好ましい。異なる実施形態において、経口組成物中の化合物(複数可)は、コーティングされてもまたはコーティングされなくともよい。腸溶性コーティングされた粒子の調製については、例えば米国特許第4,786,505号、及び同第4,853,230号に開示されている。
異なる実施形態において、本明細書で想到される組成物は、一般的には、本明細書に述べられる異なるCRFR1受容体アンタゴニストまたはその製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、それらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体のうちの1つ以上を、不要な有害副作用を伴うことなく薬理学的作用または治療改善効果を実現する有効量で含む。治療的とみなされるさまざまな作用は上記に述べられている。例示的な薬理学的作用または治療改善効果としては、これらに限定されるものではないが、タウ、リン酸化タウ(pタウ)、APPneo、可溶性Aβ40及び可溶性Aβ42からなる群から選択される1つ以上の成分のCSF中の濃度の低下、及び/または対象の脳内のプラーク負荷の低下の場合、及び/または対象の脳内のプラーク形成速度の低下、及び/または対象の認知能力の改善、及び/または対象によって知覚される生活の質の改善、及び/または対象の臨床的認知症評価(CDR)の有意な低下、及び/または臨床的認知症評価の増大速度が遅くなる場合、及び/またはADの進行が遅延もしくは停止する場合(例えば、表3に示される1つの段階から別の段階への移行が遅延するかまたは停止する場合)が挙げられる。
異なる実施形態において、化合物(複数可)の典型的な1日用量は異なり、患者の個々の要求条件及び治療される疾患などのさまざまな因子によって決まる。一般的に、化合物の1日用量は、1~1000mg、または1~800mg、または1~600mg、または1~500mg、または1~400mgの範囲とすることができる。例示的な一実施形態では、組成物中に存在する上記に述べたCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)の標準的なおよその量は、通常約1~1000mg、より好ましくは約5~500mg、最も好ましくは約10~100mgとすることができ、1日1回投与されるか、特定の実施形態では2日に1回投与されるか、特定の実施形態では1日3回投与されるか、特定の実施形態では1日4回、または6回、または6回もしくは7回、または8回投与される。
有効成分は、すべての有効成分を含む単一の経口剤形として製剤化されることが好ましい。かかる経口製剤としては、固体及び液体の形態がある。固体製剤は一般的に、液体製剤と比較して高い安定性を与え、しばしばより良好な患者コンプライアンスを与えることができる。
例示的な一実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上の異なる化合物(複数可)は、単一層または多層錠剤、懸濁用錠剤、発泡性錠剤、散剤、ペレット剤、複数のビーズを含む粒剤またはカプセル剤、及びカプセル内カプセルすなわち二重室カプセルなどの単一の固体剤形として製剤化される。別の実施形態では、本明細書に述べられる化合物(複数可)は、すべての有効成分を含む懸濁液、または使用前に再構成される乾燥懸濁液などの単一の液体剤形として製剤化することができる。
特定の実施形態では、化合物(複数可)は、胃液との接触を避けるために、腸溶性コーティングされた遅延放出粒剤として、または非腸溶性時間依存型放出ポリマーでコーティングされた粒剤として製剤化される。適当なpH依存性腸溶性コーティングされたポリマーの非限定的な例としては、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、メタクリル酸コポリマー、セラック、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸トリメリット酸セルロース、及び上記のいずれかの混合物がある。適当な市販の腸溶性材料として、例えば、EUDRAGIT L100-55(登録商標)の商標で販売されるものがある。このコーティングは、基材上にスプレーコーティングすることができる。
例示的な腸溶性コーティングされない時間依存型放出ポリマーとしては、例えば胃液からの水分の吸収によって胃の中で膨潤することにより、粒子のサイズが増大して厚いコーティング層を形成する1つ以上のポリマーが挙げられる。時間依存型放出コーティングは一般的に、外部の水性媒質のpHとは独立した浸食及び/または分散特性を有している。したがって、有効成分は、分散によって、または胃の中で粒子が徐々に浸食された後に粒子から徐々に放出される。
例示的な非腸溶性時間依存型放出コーティングとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、及び/または、EUDRAGIT(登録商標)ブランドのポリマーの非腸溶型を含むアクリルポリマーなどのフィルム形成化合物がある。他のフィルム形成材料は、単独で、または互いに、もしくは上記に列記したものと組み合わせて使用することができる。これらの他のフィルム形成材料には一般的に例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、ゼイン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル)、及びエチルセルロース、ならびに他の薬学的に許容される親水性及び疎水性フィルム形成材料が含まれる。これらのフィルム形成材料は、ビヒクルとして水を、またはそれに代えて溶媒系を使用して基材コアに塗布することができる。水/アルコール系を用いてフィルム形成のビヒクルとして機能させることもできる。
本明細書に述べられる化合物の時間依存型放出コーティングを製造するのに適した他の材料としては、例として、また限定されることなく、カラギーナン、フコイダン、ガティガム、トラガカント、アラビノガラクタン、ペクチン、及びキサンタンなどの水溶性多糖ガム;アルギン酸ナトリウム、トラガカンチンナトリウム、及びガティガムナトリウムなどの多糖ガムの水溶性塩;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースなどの、アルキル構成員が炭素1~7個の直鎖または分枝鎖である水溶性ヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルメチルセルロースからなる群から選択される構成員などの、メチルセルロース及びそのヒドロキシアルキルメチルセルロースセルロース誘導体などの合成水溶性セルロース系の層形成材料;カルボキシメチルセルロースナトリウムなどの他のセルロースポリマー;ならびに当業者には周知の他の材料が挙げられる。この目的のために使用することができる他の層形成材料としては、これらに限定されるものではないが、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチンとポリビニルピロリドンとのブレンド、ゼラチン、グルコース、糖類、ポビドン、コポビドン、ポリ(ビニルピロリドン)-ポリ(酢酸ビニル)コポリマーが挙げられる。
本明細書では組成物及び方法をヒトにおける使用に関連して説明するが、これらは例えば獣医学用途などの動物にも適している。ここで、特定の例示的な生物としては、これらに限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ウマ、ネコ、ブタ、有蹄動物、及びウサギなどが挙げられる。
上記の製剤及び投与方法は、例示的なものであって限定的なものではない。本明細書に示される教示を用いることで、他の適当な製剤及び投与様式を容易に考案することが可能である点は認識されよう。
複合治療方法及び複合製剤
特定の場合では、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)(または製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、または2種以上のジアステレオマーの混合物、それらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)のうちの1つ以上は、アルツハイマー病、加齢に関連した認知機能障害、及びMCIなどを含むがこれらに限定されない神経変性疾患の治療における有用性を有することが知られているかまたは有用性を有すると考えられる1つ以上の更なる活性剤(複数可)と組み合わせて投与される。2つの薬剤(例えば、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト及び更なる薬剤)は同時に、または順次投与することができる。順次投与される場合、2つの薬剤は、いずれも生理学的に妥当な濃度及び/または作用を同様の時間にわたって実現するように(例えばこれにより両方の薬剤がある程度の共通の時間で活性であるように)通常は投与される。
特定の場合では、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)(または製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、及び/またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)のうちの1つ以上は、前記1つ以上の更なる活性剤(複数可)よりも前に投与されるか、または前記1つ以上の更なる活性剤(複数可)よりも後で投与される。特定の実施形態では、本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)(または製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、及び/またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)のうちの1つ以上は、前記1つ以上の更なる活性剤(複数可)と同時に投与され、その場合、複合製剤として製剤化することができる。
適当な更なる活性剤(複数可)としては、これらに限定されるものではないが、ドネペジル(例えば、アリセプト)、リバスチグミン(例えば、エクセロン(登録商標))、ガランタミン(例えば、ラザダイン(登録商標))、タクリン(例えば、コグネックス(登録商標))、メマンチン(例えば、ナメンダ(登録商標))、ソラネズマブ、バピネオズマブ、アルゼメド、フルリザン、ELND005、バルプロ酸塩、セマガセスタット、ロシグリタゾン、フェンセリン、クレネズマブ、ジメボン、EGCg、ガンマガード、PBT2、PF04360365、NIC5-15、ブリオスタチン-1、AL-108、ニコチンアミド、EHT-0202、BMS708163、NP12、リチウム、ACC001、AN1792、ABT089、NGF、CAD106、AZD3480、SB742457、AD02、フペルジン-A、EVP6124、PRX03140、PUFA、HF02、MEM3454、TTP448、PF-04447943、Ent、GSK933776、MABT5102A、タルサクリジン、UB311、ベガセスタット、R1450、PF3084014、V950、E2609、MK0752、CTS21166、AZD-3839、LY2886721、CHF5074、抗炎症剤(例えば、フルリザン(Myriad Genetics))、ダプソン、抗TNF抗体(例えば、エタネルセプト(Amgen/Pfizer)など)、スタチン類(例えば、アトルバスタチン(リピトール(登録商標))、シムバスタチン(ゾコール(登録商標))など)、及びBACE阻害剤などが挙げられる。特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)を上記の更なる活性剤(複数可)のいずれか1つと組み合わせて投与することを含む治療方法が想到される。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)(または製剤、及び/またはそれらのエナンチオマー、エナンチオマーの混合物、またはそれらの2種以上のジアステレオマーの混合物、及び/またはそれらの薬学的に許容される塩、エステル、アミド、溶媒和物、水和物、もしくはプロドラッグ、またはそれらの誘導体)を、ジスルフィラム及び/またはその類似体、ホノキオール及び/またはその類似体、トロピセトロン及び/またはその類似体、ニメタゼパム及び/またはその類似体(例えば、これらに記載される化合物について参照によって本明細書に援用するところのUSSN13/213,960(米国特許公開第US-2012-0071468-A1号)、及びPCT/US2011/048472(PCT公開第WO2012/024616号)に記載される)などの更なる治療剤と組み合わせて投与することを含む治療方法が想到される。特定の実施形態では、治療方法は、トロピセトロンを本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)と組み合わせて投与することを含む。
特定の実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニスト(複数可)などを、ジスルフィラム及び/またはその類似体、ホノキオール及び/またはその類似体、トロピセトロン及び/またはその類似体、ニメタゼパム及び/またはその類似体(例えば、これらに記載される化合物について参照によって本明細書に援用するところのUSSN13/213,960(米国特許公開第US-2012-0071468-A1号)、及びPCT/US2011/048472(PCT公開第WO2012/024616号)に記載される)などの更なる治療剤と組み合わせて含む複合製剤が想到される。特定の実施形態では、複合製剤は、CRFR1受容体アンタゴニストを、トロピセトロン及び/または1つ以上のトロピノールエステル、関連するエステル、それらの誘導体、それらの類似体、それらの多形体(例えば、PCT/US2012/049223に記載される)などと組み合わせて含む。
APPプロセシングを評価するためのアッセイシステム
特定の理論に束縛されるものではないが、特定の実施形態では、本明細書に述べられる化合物及び製剤は、非アミロイド形成経路によるAPPのプロセシングを促進し、及び/またはアミロイド形成経路によるAPPのプロセシングを低減もしくは阻害するものと考えられる。非アミロイド形成経路では、APPは最初にα-セクレターゼによりAβ配列内で切断され、sAPPαエクトドメイン(「sAPPα」)を放出する。これに対して、アミロイド形成経路は、β-セクレターゼがAβのアミノ末端のAPPを切断する場合に開始され、APPsβエクトドメイン(「sAPPβ」)を放出する。非アミロイド形成経路及びアミロイド形成経路によるAPPのプロセシングは、当該技術分野では周知のものであり、例えば、Xu(2009)J.Alzheimer’s Dis.,16(2):211-224及びDe Strooper et al.,(2010)Nat Rev Neurol.,6(2):99-107に概説されている。
本明細書に述べられる化合物の有効性を評価する1つの方法として、対象化合物(複数可)が、アミロイド形成経路によるAPPプロセシングのレベルの低下または消失(例えば、β-セクレターゼ切断によるAPPプロセシングのレベルの低下または消失)を生じるか否かを判定することがある。β-セクレターゼ切断部位におけるAPP切断の程度を測定するためのアッセイは、当該技術分野では周知のものである。例示的なアッセイが、例えば米国特許第5,744,346号、及び同第5,942,400号に記載されている。生物学的試料中のsAPPα及びsAPPβ、ならびにAPPneo及びAβの存在及び濃度を測定するためのキットは例えばPerkinElmerより市販されている。
無細胞アッセイ
本明細書に述べられる化合物の生物活性を評価するために使用可能な例示的なアッセイを、例えば、PCT公開第WO2000/017369号及び同第WO2000/003819号、ならびに米国特許第5,942,400号及び同第5,744,346号にみることができる。特定の実施形態では、かかるアッセイは無細胞インキュベーション、またはα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼを発現する細胞ならびにα-セクレターゼ及びβ-セクレターゼの切断部位を有するAPP基質を用いた細胞インキュベーションで行うことができる。
例示的なアッセイの1つでは、対象化合物(複数可)を、APPのα-セクレターゼ及びβ-セクレターゼによる切断部位を有するAPP基質、例えば、完全なAPPもしくは変異体、APPフラグメント、またはアミノ酸配列KM-DAもしくはNL-DAを有する組換えもしくは合成APP基質を使用し、これらの基質を、α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ酵素、そのフラグメント、またはα-セクレターゼもしくはβ-セクレターゼ活性を有し、APPのα-セクレターゼもしくはβ-セクレターゼ切断部位を切断するうえで有効な、合成もしくは組換えポリペプチドの存在下で、酵素の切断活性に適したインキュベーション条件下でインキュベーションすることによって試験する。適当な基質としては、場合により、基質ペプチド、及びペプチドまたはそのα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ切断産物の精製または検出を容易とするうえで有用な改変を有する融合タンパク質またはペプチドであってよい誘導体が含まれる。有用な改変としては、抗体結合用の既知の抗原エピトープの挿入、標識または検出可能な部分の連結、結合基質の連結などが挙げられる。
無細胞系インビトロアッセイに適したインキュベーション条件としては、例えば、水溶液中、約200nmol~10μmolの基質、約10~200pmolの酵素、及び約0.1nmol~10μmolの対象化合物(CRFR1アンタゴニスト)、pH約4~7、約37℃で、約10分~3時間が挙げられる。これらのインキュベーション条件はあくまで例示的なものであって、特定のアッセイ成分及び/または所望の測定システムの必要に応じて異なり得る。特定のアッセイ成分についてのインキュベーション条件の最適化は、使用される特定のα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ酵素、ならびにその最適pH、アッセイで使用することのできる任意の更なる酵素及び/またはマーカーなどからなるものとすることができる。かかる最適化はルーチンであり、過度の実験を必要としない。
有用なアッセイの1つでは、APP-SWのC末端の125個のアミノ酸と融合させたマルトース結合タンパク質(MBP)を有する融合ペプチドを用いる。MBP部分は、抗MBP捕捉抗体によってアッセイ基質上に捕捉される。捕捉された融合タンパク質をα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼの存在下でインキュベートすると、基質がα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ切断部位でそれぞれ切断される。切断活性の分析は例えば切断産物のイムノアッセイによって行うことができる。かかるイムノアッセイの1つでは、例えばSW192抗体を用いて切断された融合タンパク質のカルボキシ末端に露出した固有のエピトープを検出する。このアッセイについては、例えば米国特許第5,942,400号に記載されている。
細胞アッセイ
細胞に基づいた多くのアッセイを用いて、β-セクレターゼ活性に対するα-セクレターゼ活性の相対比に対する、及び/または非アミロイド形成性Aβオリゴマーに対してアミロイド形成性Aβオリゴマーを放出するAPPのプロセシングに対する本明細書に述べられる化合物の影響を評価することができる。細胞内で、対象化合物(複数可)の存在下または非存在下でα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼとAPP基質とを接触させることを利用して、化合物(複数可)のα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ阻害活性を実証することができる。化合物(複数可)の存在下でのアッセイが、阻害なしのコントロールと比較して酵素活性の少なくとも約30%、最も好ましくは少なくとも約50%の阻害を与えることが好ましい。
例示的な一実施形態では、天然にα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼを発現する細胞が用いられる。また、上記に述べたように、細胞を、組換えα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ、または合成変異体酵素を発現するように改変してもよい。特定の実施形態では、APP基質を培地に加えてもよく、また、特定の実施形態では、基質を細胞内で発現させることが好ましい。発現されたAPPを酵素と接触させることが可能であって、酵素の切断活性を分析することができるものであれば、APP、APPの変異型もしくは突然変異型を天然に発現する細胞、または、APPのアイソフォーム、突然変異型もしくは変異型APP、組換えもしくは合成APP、APPフラグメント、またはα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼのAPP切断部位を有する合成APPペプチドもしくは融合タンパク質を発現するように形質転換された細胞を使用することができる。
通常、APPからAβをプロセシングするヒト細胞株は、本明細書に述べられる化合物(複数可)の阻害活性をアッセイするための有用な手段を与える。Aβ及び/または他の切断産物の培地中での産生及び/または放出は、例えば、ウェスタンブロット、またはELISAなどの酵素結合イムノアッセイ(EIA)などのイムノアッセイによって測定することができる。
特定の実施形態では、APP基質及び活性α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼを発現する細胞を、試験する化合物(複数可)の存在下でインキュベートすることにより、コントロールと比較した場合のα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼの相対酵素活性に対する化合物(複数可)の効果を実証することができる。β-セクレターゼに対するα-セクレターゼの相対活性は、APP基質の1つ以上の切断産物の分析によって測定することができる。例えば、基質APPに対するβ-セクレターゼ活性の阻害は、Aβ、sAPPβ、及びAPPneoなどの特定のβ-セクレターゼ誘導APP切断産物の放出を減少させるものと予想される。基質APPに対するα-セクレターゼ活性の促進または増大は、sAPPα及びp3ペプチドなどの特定のα-セクレターゼ誘導APP切断産物の放出を増大させるものと予想される。
神経細胞及び非神経細胞はどちらもAβをプロセシングして放出するが、内因性のβ-セクレターゼ活性のレベルは低く、EIAによって検出することはしばしば困難である。このため、増大したβ-セクレターゼ活性、APPのAβへの増大したプロセシング、及び/またはAβの増大した産生を有することが知られている細胞型の使用が好ましい。例えば、細胞を、APPのSwedish変異型(APP-SW)、APP-KK(APPのC末端に付加されたER保持シグナル(-KKQN-(配列番号1)を有するAPP)、またはAPP-SW-KKでトランスフェクトすることにより、増大したβ-セクレターゼ活性を有し、容易に測定できる量のAβを産生する細胞が与えられる。
かかるアッセイでは、例えば、APP、α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼを発現する細胞を、APP基質上の切断部位におけるα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ酵素活性に適した条件下で培地中でインキュベートする。細胞を対象化合物(例えばCRFR1受容体アンタゴニスト)に曝露すると、培地中に放出されるAβの量及び/または細胞ライセート中のAPPのCTF99フラグメントの量がコントロールと比べて減少する。これらのAPPの切断産物を例えば上記に述べたような特異的抗体との免疫反応によって分析することができる。
特定の実施形態では、α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼの分析に好適な細胞として、初代ヒト神経細胞、導入遺伝子がAPPである初代形質転換動物神経細胞、及び、例えばAPP-SWなどの、APPを発現する安定的な293細胞株などの他の細胞が挙げられる。
インビボアッセイ:動物モデル
さまざまな動物モデルを用いて相対的なα-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼ活性、及び/またはAβを放出するAPPのプロセシングに対する本明細書に述べられる化合物の効果を分析することができる。例えば、APP基質、α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼを発現する形質転換動物を用いて化合物の活性を実証することができる。特定の形質転換動物については、例えば米国特許第5,877,399号、同第5,612,486号、同第5,387,742号、同第5,720,936号、同第5,850,003号、同第5,877,015号、及び同第5,811,633号、ならびにGames et al.,(1995)Nature 373:523-527に記載されている。ADの病態生理学に関連した特性を示す動物が好ましい。本明細書に述べられる形質転換マウスへ化合物を投与することによって、対象化合物(複数可)の阻害活性を実証するための別の方法が与えられる。特定の実施形態では、薬学的に有効な担体中で、適当な治療量で標的組織に到達する投与経路を介した化合物の投与が好ましい。
β-セクレターゼ切断部位におけるAPPのβ-セクレターゼによる切断及びAβの放出の阻害をこれらの動物において、例えば脳脊髄液のような動物の体液または組織中の切断フラグメントの測定によって分析することができる。同様に、α-セクレターゼ切断部位におけるAPPのα-セクレターゼによる切断及びsAPPαの放出の促進または増大をこれらの動物において、例えば脳脊髄液のような動物の体液または組織中の切断フラグメントの測定によって分析することができる。特定の実施形態では、Aβ沈着またはプラークについて脳組織を分析することが好ましい。
特定の例示的なアッセイでは、APP基質は、対象化合物の存在下、APPの酵素による切断及び/または基質からのAβの放出を可能とするうえで充分な条件下で、α-セクレターゼ及び/またはβ-セクレターゼと接触させられる。化合物は、APPのβ-セクレターゼ切断部位におけるβ-セクレターゼによる切断を低減させ、及び/または放出されるAβの量を低減させる場合に有効とみなされる。特定の実施形態では、関連する化合物もまた、α-セクレターゼ切断部位におけるAPPのα-セクレターゼによる切断を増大させ、放出されるsAPPαの量を増大させ、及び/または動物の脳組織中のAβ沈着を低減し、ベータアミロイドプラークの数及び/またはサイズを減少させる場合に有効と見なされる。
臨床的有効性を監視する方法
特定の実施形態では、臨床的有効性は、当該技術分野では周知の任意の方法によって監視することができる。有効性を監視するための測定可能なバイオマーカーとしては、これらに限定されるものではないが、sAPPα、sAPPβ、Aβ42、Aβ40、APPneo、及びp3の血液、血漿、血清、粘液、または脳脊髄液(CSF)中の濃度を監視することが挙げられる。sAPPα及び/またはp3の濃度の増大、ならびにsAPPβ及びAPPneoの濃度の低下の検出は、治療または予防レジメンが有効であることの指標である。逆に、sAPPα及び/またはp3、Aβ42の濃度の減少、ならびにsAPPβ及びAPPneoの濃度の増大の検出は、治療または予防レジメンが有効でないことの指標である。他のバイオマーカーとしては、タウ及びリン酸化タウ(pタウ)が挙げられる。タウ及びpタウの濃度の増大の検出は、治療または予防レジメンが有効であることの指標である。
有効性は、脳内のアミロイドプラーク負荷を測定することによって判定することもできる。治療または予防レジメンは、脳内のアミロイドプラーク負荷が増大も低下もしない場合に有効であるとみなされる。逆に、治療または予防レジメンは、脳内のアミロイドプラーク負荷が増大する場合に有効でないとみなされる。アミロイドプラーク負荷は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)などの当該技術分野では周知の任意の方法によって測定することができる。
有効性は、対象の認知能力を測定することによって判定することもできる。認知能力は、当該技術分野では周知の任意の方法によって測定することができる。1つの検査は、上記に述べた臨床的認知症評価(CDR)であり、別の検査はミニメンタルステート検査(MMSE)である(Folstein,et al.,J.Psychiatric Res.12(3):189-198)。特定の実施形態では、CDR及び/またはMMSEで同じスコアを維持する、またはより高いスコアを得る対象は、治療または予防レジメが有効であることを示す。逆に、CDR及び/またはMMSEでのスコアが低い対象は、治療または予防レジメが有効でなかったことを示す。
特定の実施形態では、監視方法は、所定の投与量の対象化合物(例えば本明細書に述べられるCRFR1受容体アンタゴニスト)を投与する前の対象中の測定可能なバイオマーカーまたはパラメータ(例えば、アミロイドプラーク負荷または認知能力)のベースライン値を決定することと、この値を治療後の同じ測定可能なバイオマーカーまたはパラメータの値と比較することとを含むことができる。
他の方法では、測定可能なバイオマーカーまたはパラメータのコントロール値(例えば、平均及び標準偏差)をコントロール集団について決定する。特定の実施形態では、コントロール集団内の個人は過去に治療を受けておらず、AD、MCIも有さなければ、ADまたはMCIを発症するリスクも有さない。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効とみなされる。他の実施形態では、コントロール集団内の個人は過去に治療を受けておらず、ADまたはMCIを診断されている。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効でないとみなされる。
他の方法では、現時点で治療を受けていないが過去に一連の治療を行っている対象を、バイオマーカーまたは臨床的パラメータの1つ以上について監視して治療の再開が必要であるか否かを判定する。対象におけるバイオマーカーまたは臨床的パラメータの1つ以上の測定された値を、過去の一連の治療後にその対象において過去に得られた値と比較することができる。あるいは、対象において測定された値を、一連の治療を行った後に対象の集団で求めたコントロール値(平均及び標準偏差)と比較することもできる。あるいは、対象において測定された値を、疾患の症状を示していない予防処置を行った対象の集団、または疾患の特徴の改善を示す治療処置を行った対象の集団におけるコントロール値と比較することもできる。かかる場合では、測定可能なバイオマーカーまたは臨床的パラメータの値がコントロール値に近づく場合、治療は有効とみなされ、治療を再開しないという判断を検討/評価することができる。これらのすべての場合において、コントロールレベルに対する有意差(例えば標準偏差よりも大きい)は、対象の再開を検討する必要があることの指標である。
特定の実施形態では、分析用の組織試料は、一般的に、対象からの血液、血漿、血清、粘液、または脳脊髄液である。
キット
異なる実施形態において、本明細書に述べられる活性剤(例えば、アロステリックCRFR1受容体アンタゴニストまたはそれらの類似体及び/または誘導体、またはそれらの互変異性体(複数可)、またはそれらの立体異性体(複数可)、または前記アンタゴニストもしくはそのプロドラッグの薬学的に許容される塩、溶媒和物、または包接体)はキット内で提供することができる。特定の実施形態では、キットは、複数または単一の用量容器内に封入された本明細書に述べられる活性剤(複数可)を含む。特定の実施形態では、キットは使用に際して組み立てることが可能な構成部品を含むことができる。例えば、凍結乾燥形態の活性剤と適当な希釈剤とを別々の構成要素として提供し、使用に先立って加え合わせることができる。キットは、同時投与するための活性剤と第2の治療剤とを含んでもよい。活性剤と第2の治療剤とは別々の構成部品として提供されてもよい。キットは、それぞれに1つ以上の単位容量の化合物が入った複数の容器を含んでもよい。各容器は、これらに限定されるものではないが、例えば本明細書に述べられるような、経口投与するための錠剤、ゲルカプセル、及び徐放性カプセルなど;非経口投与するためのデポ製品、予め充填された注射器、アンプル、及びバイアルなど;ならびに局所投与するためのパッチ、メディパッド、及びクリームなどを含む所望の投与様式に適合されることが好ましい。
特定の実施形態では、キットは、使用説明書/情報資料を更に含むことができる。特定の実施形態では、情報資料(複数可)は、組成物の投与が例えばアナフィラキシーなどのアレルギー反応を含む(ただしこれに限定されない)有害反応を生じる可能性があることを示す。情報資料は、アレルギー反応が軽度の痒みを伴う発疹として生じるだけの場合もあり、または重症化し、紅皮症、血管炎、アナフィラキシー、及びスティーブンス-ジョンソン症候群などを含み得ることを示すことができる。特定の実施形態では、情報資料(複数可)は、アナフィラキシーは致死的な場合があり、何らかの異物が体内に導入される場合に生じ得ることを示すことができる。特定の実施形態では、情報資料は、これらのアレルギー反応がそれ自体でじんま疹または発疹として現れ、致死性の全身反応に進行し得ること、及び曝露後、短時間、例えば10分以内に生じ得ることを示すことができる。情報資料は、アレルギー反応によって対象が、知覚障害、低血圧、喉頭水腫、精神状態の変化、顔面または咽頭の血管性水腫、気道閉塞、気管支けいれん、じんま疹及び痒み、血清病、関節炎、アレルギー性腎炎、糸球体腎炎、側頭動脈炎、好酸球増加症、またはこれらの組み合わせを経験する可能性があることを更に示すことができる。
情報資料は通常は文書または印刷物を含むが、これらに限定されない。かかる使用説明書を格納し、これをエンドユーザーに伝達することが可能な任意の媒体が本明細書では検討される。かかる媒体としては、これらに限定されるものではないが、電子的記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、及び光学媒体(例えばCD ROM)などが挙げられる。かかる媒体は、そのような使用説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスを含んでもよい。
一部の実施形態では、キットは、例えば、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、噴霧器、吸入器、静注(IV)バッグ、及び封筒などの1つ以上のパッケージング材と、本明細書に述べられる活性剤(複数可)とパッケージング材とを含む、薬剤の少なくとも一つの単位剤形と、を含むことができる。一部の実施形態では、キットは、対象疾患に対する予防的、治療的、または改善的な処置として組成物を使用するための使用説明書も含む。
一部の実施形態では、製造物品は、例えば、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、噴霧器、吸入器、静注(IV)バッグ、及び封筒などの1つ以上のパッケージング材と、パッケージング材内の本明細書に述べられる1つ以上のCRFR1受容体アンタゴニストを含む、薬剤の少なくとも一つの単位剤形を含む第1の組成物と、を含むことができる。
以下の実施例は、特許請求される発明を例示するために示されるものであるが、発明を限定するものではない。
実施例1
6-(4-メトキシ-2-メチルフェノキシ)-N-(1-メトキシブタン-2-イル)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T36)及び6-(4-クロロ-2-メチルフェノキシ)-N-(1-メトキシブタン-2-イル)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T37)の調製
T36及びT37の合成スキームを図3に示す。
4-クロロ-6-(4-メトキシ-2-メチルフェノキシ)-2,5-ジメチルピリミジン(1)。
ハロゲン化アリール(0.56mmol,1.0当量)をTHF-H
2O(2.5mL,3:2v/v)に加えた溶液と、フェノール(0.84mmol,1.5当量)及びNaOH(0.84mmol,1.5当量)をTHF-H
2O(2.5mL,3:2v/v)に加えた溶液の2つの溶液を調製してから、ポンプA及びBによりAsia微小流体リアクター内に導入した(例えば、図4を参照)。混合物を予備加熱した1mLのガラス製微小流体リアクターを通じて所定の流速で圧送して所望の滞留時間を得た。粗生成物をフラスコに回収し、酢酸エチルで抽出した。有機層を加え合わせ、MgSO
4で乾燥し、減圧下で濃縮した。単離した粗生成物を、Teledyne CombiFlash R
f200器具で予め充填されたシリカカートリッジを使用して精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して1を白色固体(135mg,87%)として得た。
1H NMR (CDC1
3) δ2.08 (s, 3H), 2.36 (s, 3H), 2.41 (s, 3H), 3.79 (s, 3H), 6.72-6.79 (m, 2H) 及び 6.94 (d, J= 8.4 Hz, 1H);
13C NMR (CDC1
3) δ11.6, 16.7, 25.5, 55.6, 111.9, 113.0, 116.2, 122.6, 131.3, 144.9, 157.1, 160.1, 165.2 及び168.1;質量分析(APCI), m/z C
14H
16C1N
20
2に対する計算値:(M+H)
+ 279.0895, 実測値:279.0888.
4-クロロ-6-(4-クロロ-2-メチルフェノキシ)-2,5-ジメチルピリミジン(2)。
ハロゲン化アリール(0.56mmol,1.0当量)をTHF-H
2O(2.5mL,3:2v/v)に加えた溶液と、フェノール(0.84mmol,1.5当量)及びNaOH(0.84mmol,1.5当量)をTHF-H
2O(2.5mL,3:2v/v)に加えた溶液の2つの溶液を調製してから、ポンプA及びBによりAsia微小流体リアクター内に導入した(例えば、図4を参照)。混合物を予備加熱した1mLのガラス製微小流体リアクターを通じて所定の流速で圧送して所望の滞留時間を得た。粗生成物をフラスコに回収し、酢酸エチルで抽出した。有機層を加え合わせ、MgSO
4で乾燥し、減圧下で濃縮した。単離した粗生成物を、Teledyne CombiFlash R
f200器具で予め充填されたシリカカートリッジを使用して精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して2を白色粉末(131mg,83%)として得た。
1H NMR (CDC1
3) δ2.09 (s, 3H), 2.36 (s, 3H), 2.41 (s, 3H), 6.97 (d, J= 8.8 Hz, 1H)及び 7.15-7.23 (m, 2H);
13C NMR (CDC1
3) δ11.6, 16.4, 25.4, 113.2, 123.4, 127.0, 130.8, 131.1, 132.3, 149.9, 160.5, 165.3及び167.5;質量分析 (APCI), m/z C
13H
13C1
2N
2O に対する計算値 (M+H)
+ 283.0399, 実測値:283.0396.
6-(4-メトキシ-2-メチルフェノキシ)-N-(1-メトキシブタン-2-イル)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T36)
50mLの丸底フラスコに窒素下で、1、CuI、Me
4-フェナントロリン、Cs
2CO
3、及び4-メトキシ-2-メチルアニリンを乾燥DMF中で加えた。反応混合物を50℃で16時間攪拌した後、室温に冷却した。混合物を短いシリカプラグに通して濾過し、EtOAcで洗浄した。得られた粗生成物をNaHCO
3で洗浄し、EtOAC(2×10mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(MgSO
4)した後、30分にわたるヘキサン-EtOACの段階勾配(95:5→80:20)を用いることにより、Combiflash R
f200上でシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。
6-(4-クロロ-2-メチルフェノキシ)-N-(1-メトキシブタン-2-イル)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T37)。
50mLの丸底フラスコに窒素下で、2、Cu’、Me
4-フェナントロリン、Cs
2CO
3、及び4-メトキシ-2-メチルアニリンを乾燥DMF中で加えた。反応混合物を50℃で16時間攪拌した後、室温に冷却した。混合物を短いシリカプラグに通して濾過し、EtOAcで洗浄した。得られた粗生成物をNaHCO
3で洗浄し、EtOAC(2×10mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(MgSO
4)した後、30分にわたるヘキサン-EtOACの段階勾配(95:5→80:20)を用いることにより、Combiflash R
f200上でシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。
実施例2
N-(4-メトキシ-2-メチルフェニル)-641-メトキシブタン-2-イル)オキシ)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T38)の調製。
T38の合成スキームを図5に示す。
4-クロロ-6-((1-メトキシブタン-2-イル)オキシ)-2,5-ジメチルピリミジン(3)。
乾燥したフラスコに500mgの2,4-ジクロロ-3,5-ジメチルピリミジン、NaHを加え、乾燥THF中に懸濁した。混合物に1-メトキシ-2-ブタノールを滴下し、混合物を6時間還流下で攪拌した。得られた粗生成物をNaHCO
3で洗浄し、EtOAC(2×10mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(MgSO
4)した後、30分にわたるヘキサン-EtOACの段階勾配(100:0→90:10)を用いることにより、Combiflash R
f200上でシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。
N-(4-メトキシ-2-メチルフェニル)-6-((1-メトキシブタン-2-イル)オキシ)-2,5-ジメチルピリミジン-4-アミン(T38)。
60mLの丸底フラスコに窒素下で、2、CuI、Me
4-フェナントロリン、Cs
2CO
3、及び4-メトキシ-2-メチルアニリンを乾燥DMF中で加えた。反応混合物を50℃で16時間攪拌した後、室温に冷却した。混合物を短いシリカプラグに通して濾過し、EtOAcで洗浄した。得られた粗生成物をNaHCO
3で洗浄し、EtOAC(2×10mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(MgSO
4)した後、30分にわたるヘキサン-EtOACの段階勾配(95:5→80:20)を用いることにより、Combiflash R
f200上でシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。
実施例3
化合物T39、T41、T45、T46、T47、及びT48の調製。
T39、T41、T45、T46、T47、及びT48の調製の反応スキームを図6に示す。
一般的手順:
15mLのガラス製圧力チューブに窒素下で、3、Cs2CO3、キサントホス、Pd(OAC)2、及び対応するアミンをキシレン中で加えた。反応混合物を140℃で48時間攪拌した後、室温に冷却した。混合物を短いシリカプラグに通して濾過し、EtOAcで洗浄した。得られた粗生成物をNaHCO3で洗浄し、EtOAC(2×10mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(MgSO4)した後、30分にわたるヘキサン-EtOACの段階勾配(95:5→80:20)を用いることにより、Combiflash Rf200上でシリカゲルクロマトグラフィーを用いて精製した。生成物のピークに相当する画分を加え合わせ、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮して所望の化合物を得た。
ラジオリガンド-受容体結合アッセイ(アゴニストラジオリガンド)。
tCRFR1またはhCRFR1を発現する永久的にトランスフェクトしたHEK293細胞からの膜の単離及び50~100ngのタンパク質を用いたスキャッチャード分析を、50pM[125I]Tyr-ソーバジン(NEN)をラジオリガンドとして使用した以外は(3)と同様にして行った。[125I]Tyr-ソーバジンは、CRF-R1及びCRF-R2の両方に対して等しい高い親和性を有することからラジオリガンドとして選択された。非特異的結合は、1μMの非標識リガンドの存在下での残留[125I]Tyr-ソーバジン結合として常に定義した。解離定数KDはLigandプログラムにより計算した(Munson et al.(1980)Anal.Biochem.107:220)。
クローニングされた受容体のラジオリガンド受容体結合アッセイ(アンタゴニスト効果)。
COS-M6細胞に10~20ngのプラスミドDNAをトランスフェクトし、2日後に細胞をHDBで洗浄し、HDB中、21℃で15分間、0.5mMのEDTAとインキュベートして分離させた。細胞をHDBで2回洗浄し、5%スクロース中でホモジナイズした。ホモジネートを600×gで5分間遠心した後、上清を40,000×gで20分間遠心した。得られた膜のホモジネートP2を10%スクロース中に1~4mg/mlで再懸濁し、結合アッセイに使用した(Perrin et al.(1986)Endrocrinology,118:11715)。ALLFITプログラムを用いて相対力価から解離定数を計算し(DeLean et al.(1978)Am.J.Physiol.235:E97)、ラット/ヒトCRF(r/hCRF)を標準として用いて競合置換アッセイにより測定した。
受容体結合、阻害、及び並行人工膜透過性アッセイ(PAMPA)。
Agilent1260 Infinity高速液体クロマトグラフィーシステムを分析に使用した。使用した分析カラムは、Regis Technologies(Morton Grove,IL)より購入したIAM.PC.DD.2カラム(内径4.6mm×長さ10cm、粒径10pm、孔径300オングストローム)とした。移動相は、アセトニトリルと水の混合物(35:65v/v)とした。移動相の流速は25℃で1.0mL/分に維持し、紫外線吸収波長を254nmに設定した。各化合物の2mMストック溶液の5μLの注入を用いて分析を行った。本発明者らによるPAMPAアッセイにおいてkIAM値>1の化合物は高い脳透過性を示している。
受容体結合アッセイの最初の結果を表4に示す。試験した異なる化合物の構造を表5に示す。
表4.一次受容体結合スクリーニング及びPAMPAで評価した例示的化合物
試験した化合物のうち、T41は、Kd=約15nMと最良のCRFR1結合性を示した(上記の表4を参照)(CEREPにて行った)。T41は、CRF結合において1μMで70%のCRFR1 CAMPシグナリングの阻害を示し(「CRF1アンタゴニスト効果」)、KIは400nMであった。T41を並行人工膜透過性アッセイ(PAMPA)でその脳浸透能(血液脳関門(BBB)を通過する)についても試験したところ、この化合物は約4と比較的良好なKWを示した。
化合物による処理後のp-タウ及びタウの作用
図7Aは、タウ及びp-タウの濃度を示し、図7Bは、SH-SY5Y細胞内のp-タウ/タウ濃度を示す。ヒト神経芽腫SH-SY5Y細胞を、1μMの化合物で24時間処理した後、AlphaLISAによりタウ及びp-タウの濃度を測定した(図7A)。T41、ならびにJ32、T33、及びT39は、全タウ(左側の棒グラフ)及びp-タウ(右側の棒グラフ)をわずかに減少させた。図7Bに示されるように、リガンド部位阻害剤J03及びJ32による減少ほど顕著ではないものの、T39、T41(丸で囲んである)はp-タウ/タウ比を有意に減少させた。既知のCRF1アンタゴニストであるアンタラルミン(Ant)をコントロールとして使用した。
CRFチャレンジアッセイ
50nMの各対象化合物が入れられた96ウェルプレートにSH-SY5Y細胞を50,000細胞/ウェルで播いた。翌日、細胞を100nMのCRFで3日間処理した。次いで、細胞を、Halt阻害剤カクテルを補ったRIPAバッファーで溶解し、凍結/解凍を3回行った。細胞ライセートを、AlphaLISAタウキットAL271Cを使用してアッセイし、pタウの検出には、抗タウリン酸化pSer202+Thr205(「AT8」)及び抗タウリン酸化Ser404(「404」)の両方を比較した。
図8Aは、タウ及びp-タウの濃度を示し、図8Bは、CRFRチャレンジによるSH-SY5Y細胞内のp-タウ/タウ濃度を示す。図8Aに示されるように、1μMの化合物及び100nMのCRFの両方がSH-SY5Y細胞内に24時間にわたって存在する場合、T41はタウは低下させないがp-タウは顕著に低下させ、p-タウ/タウ比の有意な低下につながっている(図8B)。
図9は、CRF1の存在下及び非存在下で3日後のp-タウ/タウを示す。T41は、1μMの化合物及び(存在する場合)100nMのCRFの非存在下(上)または存在下(下)で3日間の処理後にpタウ/タウ比を低下させている。N数が小さいことによりCRFの非存在下で有意性は認められないが、CRFの存在下では有意性は顕著である。
図10は、T41のインビボ薬物動態を示す。上のパネルに示されるように、成体マウスに10または30mg/kgを経口または皮下(SQ)投与した1、2、4、及び8時間後に血漿及び脳を採取したところ、脳/血漿比は、30mg/kgの経口投与では約3:2であり、30mg/kgのSQ注射では約2:1であった。下のパネルは、脳内の濃度が、予想されたように30mg/kgでは10mg/kgよりも高く、SQ注射で経口投与よりも高かったことを示している。30mg/kgの経口投与後、脳内の濃度は1時間で328ng/gのピークに達した。
実施例4
T41の行動的及び生化学的作用
本実験の目的は、T41の行動的及び生化学的作用(下記及び図2に示される)ならびに「Goldstein」(GS)prnp-huAPPwt-YFPマウスモデルにおけるpタウのコルチコステロン(CTS)誘導増加を防止する能力を調べることにあった。コルチコステロンはCRFを増加させることが知られており、CRFは、長期のCTS注射により受容体に結合してpタウの増加を誘導するはずである。生化学検査は、内嗅皮質及び海馬を合わせたものからの全タウ、pタウ、及びsAPPaについて行った。sAPPβ、βCTF、ならびにAβ1-4及びAβ-42の濃度はこのモデルでは低すぎて検出できないと考えられる。
プロトコール及び実験パラメータを表6に示す。
表6.実験パラメータ。
図11に示されるように、実験前(上)または実験後(下)のいずれにおいても明らかな新規物体への嗜好性は認められず、試験の枠組みに変更が必要であることを示唆した。しかしながら、実験後のT41-CTSマウスでは新規物体への嗜好性のある程度の増加の有望な傾向が認められた。実験前のNTgビヒクル/ビヒクル、及び/またはNTgビヒクル/CTSマウスはいずれも非処理であり、同じ群とみなされる。同様に、すべてのGSマウスは実験前には1つの群である。
各群間でpタウに有意差は認められなかった(図12、上)が、NTgビヒクル、GSビヒクル、GS CTS、及びGS T41-CTSマウスにおける値は、NTgビヒクルマウスの値よりもいずれもわずかに高かった。各群間で全タウにも有意差は認められず(図12、中央)、個々のばらつきが大きかったが全体としてGS T41-CTSマウスは最も高い値を示した。pタウ/タウ比は各個別のマウスについて計算し、各群間で有意差は認められなかったが、CTS単独では比が大きくなる傾向があり、T41による前処理によってその増大が妨げられる傾向がみられた(図12、下)。この比のT41により誘導される減少は、CTS単独の群及びN数における大きなばらつきのために統計的有意性に達しなかった。
sAPPαを検出するために用いたアッセイはヒトsAPPαを認識するものであるため、シグナルはNTgマウスでは検出不能であると予想される。GSビヒクルマウスとGS CTSマウス間では差はほとんど、またはまったく認められなかった(図13)。T41で処理したマウスでは統計的に有意ではないsAPPαの増加の傾向がみられた。sAPPαの増大は認知機能の改善と相関している。
まとめと結果。
CTSの注射はpタウ/タウ比を大きくすることが期待され、T41による前処理はこの増加を妨げることが予想された。このような両者の傾向は有望なものであり、CTSのBID注射またはそれよりも多い投与量はCTSの効果を高め、T41によるこの効果のあらゆる改善がより容易に認められるようになるものと考えられる。行動試験の枠組みには、NTgマウスにコントロールとしての新規物体への嗜好性を誘発するように何らかの調整が必要である(GSビヒクルマウスが新規物体への嗜好性を示すことも予想される)が、G5 T41-CTSマウスでは実験の終了時にある程度の新規物体への嗜好性を示す有望な傾向が認められた。実験後のほとんどすべての運動及び探索活動の測定値における低下は、処置及びハンドリングのストレスが大きかったことを示唆するものであり、実験の目的はストレス経路誘発物質(CTS)の作用及びT41によるこの作用の改善を確かめることであることから、このストレスを軽減する必要がある。更なるストレスは個々の変動性を大きくする。
本明細書に述べられる実施例及び実施形態はあくまで例示的な目的のものに過ぎず、これらを考慮することでさまざまな改変または変更が当業者に示唆され、かかる改変及び変更は本出願の趣旨及び範囲、ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるものである点は理解されよう。本明細書に引用されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、あらゆる目的においてそれらの全容をここに参照によって援用するものである。