以下、複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
(第1実施形態)
図1に示すように、本開示の第1実施形態による虚像表示装置は、車両1のインストルメントパネル2に搭載されるように構成されているヘッドアップディスプレイ(以下、HUD)となっている。HUD10は、画像を、視認領域EBから視認可能な虚像VRIとして表示する。この表示にあたっては、スクリーン13から射出された画像の表示光が導光部LGによって視認領域EBへ導光されている。特に本実施形態の導光部LGには、車両1のウインドシールド3と、HUD10の導光部材15とが含まれる。そして、乗員は、ウインドシールド3越しに、車両1外の風景と重畳するような虚像VRIを視認することができる。すなわち、HUD10による虚像VRIは、例えば路面又は建物等の重畳する表示コンテンツにより、現実を拡張する拡張現実(Augmented Reality;AR)表示を含んでいる。
以下において、特に断り書きがない限り、前、後、上、下、左及び右が示す各方向は、水平面上の車両1を基準として記載される。
車両1のウインドシールド3は、例えばガラスないし合成樹脂により透光性の板状に形成された透明部材であり、インストルメントパネル2よりも上方に配置されている。ウインドシールド3は、前方から後方へ向かう程、インストルメントパネル2とは離間するように傾斜している。車両1のウインドシールド3においてインストルメントパネル2と対向する投影面3aは、滑らかな凹面状であって、車両1の用途及びデザインに合わせた自由曲面状に形成されている。HUD10から投影面3aへ画像の表示光が投影されると、当該表示光が投影面3aに反射されて視認領域EBへと指向される。
視認領域EBは、HUD10により表示される虚像VRIが所定の規格を満たすように(例えば虚像VRI全体が所定の輝度以上となるように)視認可能となる空間領域であって、アイボックスとも称される。視認領域EBは、典型的には、車両1に設定されたアイリプスと重なるように設定される。アイリプスは、両眼それぞれに対して設定され、乗員のアイポイントの空間分布を統計的に表したアイレンジに基づいて、楕円体状の仮想的な空間として設定されている(JISD0021:1998も参照)。例えばアイリプスは、座席のヘッドレスト近傍に位置する。
また車両1には、図2に示す画像生成ECU(Electric Control Unit)4が搭載されている。画像生成ECU4は、いわゆるコンピュータであり、少なくとも1つのプロセッサ、メモリ装置、入出力インターフェースを含む電子回路を主体として構成されている。プロセッサは、メモリ装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行する演算回路である。メモリ装置は、例えば半導体メモリないし磁気ディスクによって提供され、プロセッサによって読み取り可能なコンピュータプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記録媒体である。
画像生成ECU4は、車両1等から各種情報を取得し、当該情報に基づいて、HUD10によって表示される画像データを生成する。画像生成ECU4は、生成した画像データの映像信号をHUD10へ向けて逐次出力する。
HUD10は、レーザ走査モジュール21、スクリーン13、導光部LGのうちウインドシールド3を除く導光部材15等により構成されている。図1に示すように、こうしたレーザ走査モジュール21、スクリーン13及び導光部材15は、中空形状を呈したハウジング11に収容されている。ハウジング11は、ウインドシールド3と対向する上面部に、光学的に開口する窓部を有している。窓部は、機械的に開口していてもよく、例えば画像の表示に寄与する光を透過可能な防塵シート11aで覆われていてもよい。
レーザ走査モジュール21は、スクリーン13に投影される画像を、光ビームとしてのレーザビームを走査することによって構成する描画デバイスとなっている。
スクリーン13は、例えば合成樹脂ないしガラスからなる基材の表面に、アルミニウムの金属膜を蒸着させること等により、マイクロミラーアレイ状に形成された反射型のスクリーンである。スクリーン13は、光を反射する複数のミラー曲面を有する複数のマイクロミラーを、格子状に配列した板状に形成されている。こうしたスクリーン13にレーザビームが入射されると、当該スクリーン13は、当該ミラー曲面の近傍にレーザビームを実像又は虚像として結像させつつ、当該レーザビームの拡がり角を拡大させて、スクリーン13から射出させることができる。この結果、視認領域EBが拡大される。なお、スクリーン13としては、マイクロレンズアレイ状に形成された透過型のスクリーン、又は拡散板が代わりに採用されてもよい。
導光部材15は、スクリーン13から射出された表示光としてのレーザビームを順次反射することによって、当該レーザビームをウインドシールド3へ導光し、投影する。本実施形態では、導光部材15は、凸面鏡15a及び凹面鏡15bの2つ設けられている。ここで導光部材15の合成パワーが正となっていることにより、スクリーン13に投影された画像に対して、乗員に視認される虚像VRIを、拡大することができる。なお、図3においては、凸面鏡15a及び凹面鏡15bがレンズ形状にて表現されている。
以下、レーザ走査モジュール21の詳細を説明する。レーザ走査モジュール21は、図2に示すように、複数のレーザ発光部22a,22b,22c、レーザ案内部24、光走査部26、及び駆動制御部31等により構成されている。
図3に示すように、レーザ発光部22a~cは、画像を表示するためのレーザビームを発する光源部として機能している。レーザ発光部22a~cは、例えば3つ設けられ、それぞれレーザビームをパルス状に発光する。本実施形態において各レーザ発光部22a~cでは、例えばレーザダイオードが採用されている。
3つのレーザ発光部22a~cは、相互に異なる波長のレーザビームを発光するようになっている。レーザ発光部22aが発するレーザビームのピーク波長は、例えば500~560nmの範囲、好ましくは540nmである緑色波長となっている。レーザ発光部22bが発するレーザビームのピーク波長は、例えば430~470nmの範囲、好ましくは450nmである青色波長となっている。レーザ発光部22cが発するレーザビームのピーク波長は、例えば600~650nmの範囲、好ましくは640nmである赤色波長となっている。
各レーザ発光部22a~cは、その結晶に印加される電流値に応じた発光パワーにてレーザビームを発する。各レーザ発光部22a~cでは、その使用に伴って、結晶における欠陥が増加するため、印加される電流値に対する発光パワーの比が徐々に低下する劣化特性を有している。
3つのレーザ発光部22a~cは、駆動制御部31と電気的に接続されており、その電気信号によって、発光タイミング及び発光時の出力値を制御される。
レーザ案内部24は、各レーザ発光部22a~cから発光された各レーザビームが重ね合されるように、共通の光路に案内する。レーザ案内部24は、複数の集光レンズ24a,24b,24c、折り返しミラー24d、及びダイクロイックミラー24e,24f等により構成されている。集光レンズ24a~cは、レーザ発光部22a~cと同数(たとえば3つ)設けられている。ダイクロイックミラー24e,24fは、レーザ発光部22a~cよりも1つ少ない数(例えば2つ)設けられている。
3つの集光レンズ24a~cは、それぞれ対応するレーザ発光部22a~cに対して、各レーザビームの進行方向に所定の間隔を空けて配置されている。各集光レンズ24a~cは、例えば合成樹脂ないしガラスにより、透光性を有して形成されている。各集光レンズ24a~cは、対応するレーザ発光部22a~cからのレーザビームを屈折により集光して、各レーザビームのビームウエストが、スクリーン13の近傍ないしスクリーン13上に位置するように、調整する。
折り返しミラー24dは、集光レンズ24aに対して、レーザビームの進行方向に所定の間隔を空けて配置され、集光レンズ24aを透過した緑色波長のレーザビームを反射する。
2つのダイクロイックミラー24e,24fは、それぞれ対応する集光レンズ24b,24cに対して、各レーザビームの進行方向に所定の間隔を空けて配置されている。各ダイクロイックミラー24e,24fは、集光レンズ24a~cを透過した各レーザビームのうち、特定波長のレーザビームを反射し、その他のレーザビームを透過させる。具体的には、集光レンズ24bに対応するダイクロイックミラー24eは、青色波長のレーザビームを反射し、緑色波長のレーザビームを透過させる。集光レンズ24cに対応するダイクロイックミラー24fは、赤色波長のレーザビームを反射し、緑色波長及び青色波長のレーザビームを透過させる。
ここで、折り返しミラー24dによる反射後の緑色波長のレーザビームの進行方向には、ダイクロイックミラー24eが所定の間隔を空けて配置されている。また、ダイクロイックミラー24eによる反射後の青色波長のレーザビームの進行方向には、ダイクロイックミラー24fが所定の間隔を空けて配置されている。これら配置形態により、折り返しミラー24dによる反射後の緑色波長のレーザビームが、ダイクロイックミラー24eを透過し、ダイクロイックミラー24eによる反射後の青色波長のレーザ光束と重ね合される。また、緑色波長及び青色波長のレーザビームが、ダイクロイックミラー24fを透過し、ダイクロイックミラー24fによる反射後の赤色波長のレーザビームと重ね合される。
また、各レーザ発光部22a~cは、駆動制御部31と電気的に接続されている。各レーザ発光部22a~cは、駆動制御部31からの電気信号に従って、レーザビームをパルス状に発光する。そして、各レーザ発光部22aから発光される3色のレーザビームを加色混合することで、画像において種々の色の再現が可能となる。こうして各レーザビームは、共通の光路上に重ね合された状態で、実質的に同一の方向から光走査部26へと入射することとなる。
光走査部26は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)を用い、レーザビームを時間的に走査(スキャン)可能に構成されたMEMSミラーである。光走査部26においてダイクロイックミラー24fと所定の間隔を空けて対向する面には、アルミニウムの金属膜の蒸着等により、反射面26aが形成されている。反射面26aは、例えば圧電素子を用いて、当該反射面26a中央の接平面に沿って、実質直交して配置された2つの回転軸Ax,Ayまわりに揺動可能となっている。
光走査部26は、駆動制御部31と電気的に接続されており、その電気信号によって反射面26aを揺動することで、当該反射面26aの向きを変更することができる。こうして光走査部26は、反射面26aの向きを制御されることで、レーザビームの反射面26aへの入射箇所を起点として、時間的にレーザビームの反射方向を偏向することができる。この偏向によってレーザビームは、スクリーン13上の矩形状の走査範囲SRに走査されていく。レーザビームは、スクリーン13上への照射位置Psを時間的に変更されながら、画像が描画されることとなる。
駆動制御部31は、複数のレーザ発光部22a~c及び光走査部26等の駆動を制御し、スクリーン13に構成される画像、延いてはHUD10が表示する虚像VRIを制御する制御部となっている。駆動制御部31は、コントローラ32、パワーモニタ33、補正処理部34、及び輝度ムラ補正テーブル35等により構成されている。
コントローラ32は、例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)によってハードウエア的に実現される電子回路を含んで構成される。FPGAは、いわゆるPLD(Programmable logic device)等の集積的な電子回路の一種であり、広義のプロセッサに含まれる。FPGAは、多数の論理ゲートを配列して複雑な処理を実現するものであるが、コンピュータプログラムの実行による処理よりも高速に、又は遅延を抑制しつつ、それを実行することができる。
コントローラ32は、例えばマイコン等の映像信号が入力されること及び当該映像信号を処理可能な装置(この装置は、補正処理部34と共通化されていてもよい。)を介して、画像生成ECU4と通信可能に接続されている。ここでいう通信としては、例えばCAN(登録商標)等の通信規格による通信が挙げられるが、有線通信、無線通信問わず各種の好適な通信方式が採用され得る。また、コントローラ32は、ドライバを介して各レーザ発光部22a~cと電気的に接続され、また他のドライバを介して光走査部26と電気的に接続されている。
こうしてコントローラ32は、画像生成ECU4から入力された映像信号を、各レーザ発光部22a~cを制御する信号、光走査部26を制御する信号へ分解及び変換して出力し、各レーザ発光部22a~cと光走査部26を連携させつつ制御する。この信号の変換の際には、補正処理部34から入力された信号に基づいて、レーザビームの出力値の補正が実施される。
ここで、コントローラ32は、光源出力制御部として機能し、各レーザビームの出力値を、照射位置Psに応じて個別に変更可能に制御可能となっている。
パワーモニタ33は、各レーザ発光部22a~cから発光されるレーザビームの発光パワーをモニタリングする。パワーモニタ33は、例えば発光パワーに対応する物理量としての照度を測定するフォトダイオード及び演算回路を有している。フォトダイオードは、例えば各レーザ発光部22a~cの周囲、反射面26aと対向する位置、スクリーン13の端部等、各レーザ発光部22a~cから出力されるレーザビームの発光パワーを測定可能に配置されている。演算回路は、フォトダイオードにより測定された発光パワーを、補正処理部34へ出力する。
補正処理部34は、いわゆるコンピュータであり、少なくとも1つのプロセッサ、メモリ装置、入出力インターフェースを含む電子回路を主体として構成されている。プロセッサは、メモリ装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行する演算回路である。メモリ装置は、例えば半導体メモリないし磁気ディスクによって提供され、プロセッサによって読み取り可能なコンピュータプログラムを非一時的に格納する非遷移的実体的記録媒体である。
補正処理部34は、各レーザ発光部22a~cのレーザビームの出力値を、補正する。補正処理部34は、レーザビームの出力値を、スクリーン13への照射位置Psに依らず全体的に補正する全体補正と、各照射位置Psに応じて個別に補正する個別補正と、を実施する。特に本実施形態では、補正処理部34は、処理上、出力値から換算可能な、各レーザ発光部22a~cに印加する電流値を、補正している。
全体補正において補正処理部34は、パワーモニタ33から入力された発光パワーを所定の換算係数にて電流値に換算した換算電流値と、コントローラ32を通じて各レーザ発光部へと印加された印加電流値とを比較する。例えばレーザ発光部22a~cが劣化すると、印加される印加電流値に対する発光パワーの比が低下するため、換算電流値が印加電流値よりも小さくなり得る。補正処理部34は、この換算電流値と印加電流値との差を低減するように、印加電流値を全体的に引き上げる。これと共に、上述の換算係数が更新される。
個別補正において補正処理部34は、レーザビームによりスクリーン13から射出された表示光が導光部LGを通ることによって生じる輝度分布のムラを低減するように、レーザビームの出力値を照射位置Psに応じた個別の補正値によって補正する。
厳密には、印加電流値が、照射位置Ps毎の個別の補正値によって補正され、補正処理部34から、補正後の電流値に係る信号がコントローラ32へと出力される。コントローラ32は、当該信号に従って、各レーザ発光部22a~cのレーザビームの出力値を制御する信号を補正することとなる。なお、本実施形態において個別の補正値は、各レーザ発光部22a~c間で共通の値となっている。
この個別の補正値は、輝度ムラ補正テーブル35に記憶されている。輝度ムラ補正テーブル35は、例えば、個別の補正値を、照射位置Psに対応したスクリーン13上の座標の関数f(x,y)で表したものである。あるいは、輝度ムラ補正テーブル35は、照射位置Psに対応したスクリーン13上の座標と、個別の補正値との対となるデータの集合であってもよい。こうした輝度ムラ補正テーブル35は、例えば補正処理部34のメモリ装置に記憶されている。補正処理部34は、個別補正の際、メモリ装置にアクセスして輝度ムラ補正テーブル35から個別の補正値を取得する。
本実施形態において、個別の補正値は、照射位置Ps間における両眼輝度平均値の差を低減させるように、設定されている。より詳細に、個別の補正値は、照射位置Ps間における両眼輝度平均値同士を走査範囲全域において実質的に一致させるように、設定されている。
ここで、両眼輝度平均値とは、次のように定義される。まず、図3に示すように、視認領域EBに、右眼の基準位置EPR及び左眼の基準位置EPLが定義される。例えば、右眼の基準位置EPRは、上述の右眼のアイリプスにおけるアイリプス中心の位置とされ、左眼の基準位置EPLは、上述の左眼のアイリプスにおけるアイリプス中心の位置とされる。
そして、右眼の基準位置EPRから、虚像VRIにおいて特定の照射位置Psと光学的に共役な画素を視認した場合に想定される当該画素の右眼輝度が規定され得る。同様に、左眼の基準位置EPLから、虚像VRIにおいてこの特定の照射位置Psと光学的に共役な画素を視認した場合に想定される当該画素の左眼輝度が規定され得る。こうした右眼輝度及び左眼輝度は、例えば光線追跡等の光学シミュレーション、あるいは実験的に輝度を測定することによって、予め得られる。この右眼輝度と左眼輝度との平均値が、当該特定の照射位置Psに対応する両眼輝度平均値と定義される。
例えば、スクリーン13の照射位置Psaから、表示光が視認領域EBの全域へ到達する。このとき、視認領域EBのYe軸にずれた各位置から確認できる画素であって、照射位置Psaと共役な画素の輝度は、図4の上段に示すように、視認領域EBのうち左側が高く、右側へ向かう程低下する分布となる。この分布は、照射位置Psaから射出された表示光が視認領域EBの各位置に到達するまでの経路において、導光部LG内の経路が互いにずれていることに起因する。具体的に、視認領域EBの異なる位置に到達する表示光は、導光部材15及びウインドシールド3の互いに異なる部位に、互いに異なる入射角にて入射するので、反射率に差が生じる。照射位置Psaから視認領域EBの各位置に到達する光の間で、光の損失が異なるので、輝度の分布が発生するのである。
また、視認領域EBのYe軸にずれた各位置から確認できる画素であって、照射位置Psbと共役な画素の輝度は、図4の中段に示すように、視認領域EBのうち中心が高く、右側又は左側へ向かう程低下する分布である。
また、視認領域EBのYe軸にずれた各位置から確認できる画素であって、照射位置Pscと共役な画素の輝度は、図4の下段に示すように、視認領域EBのうち右側が高く、左側へ向かう程低下する分布となる。すなわち、照射位置Psa,Psb,Psc毎に、輝度分布自体が異なっている。
そして、照射位置Psaによる輝度分布を構成する表示光は、互いに同一の照射位置Psaから射出されている。したがって、照射位置Psaに照射されるレーザビームの出力値を上下させても、輝度分布形状自体を変化させることは基本的にできないが、輝度分布形状を保ったまま、輝度の値を上下させることができる。他の照射位置Psb,Pscについても同様である。
なお、図4の輝度分布は、画像の各画素を同じ明度及び同じ色度で描画した場合の輝度分布であって、実際の表示コンテンツを表示する場合には、当該表示コンテンツに合わせて暗い画素や非表示となる画素が混在することに注意されたい。
さて、照射位置Ps毎に輝度分布が異なることにより、右眼の基準位置EPRから見た各画素の輝度には、ムラが生じている。また、左眼の基準位置EPLから見た各画素の輝度にも、ムラが生じている。さらには、右眼の基準位置EPRからみた各画素の輝度のムラと、左眼の基準位置EPLからみた各画素の輝度のムラとが異なる。
照射位置Ps毎の個別の補正値によって、これらのムラを全て解消することは原理上できない。ただし、画素は、右眼と左眼との両眼視にて視認されるものであり、各画素に対する両眼輝度平均値を均一化することによって、乗員が知覚する輝度ムラを、低減することができるのである。
例えば本実施形態では、図5に示すように、走査範囲SRの中心に位置する照射位置Psbに対応する両眼輝度平均値が基準とされている。そして、照射位置Psaに対応する両眼輝度平均値及び照射位置Pscに対応する両眼輝度平均値が、照射位置Psbに対応する両眼輝度平均値と同じ値まで引き上げられるように、個別の補正値が設定されている。
以下、第1実施形態のHUD10による処理、特に補正処理部34による補正処理を、図6のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS1では、補正処理部34は、パワーモニタ33から測定された発光パワーを取得する。ステップS1の処理後、ステップS2へ移る。
ステップS2では、補正処理部34は、取得された発光パワーに基づいて、照射位置Psに依らない全体的な出力値の補正を実施する。ステップS2の処理後、ステップS3へ移る。
ステップS3では、補正処理部34は、輝度ムラ補正テーブル35から個別の補正値を取得する。ステップS3の処理後、ステップS4へ移る。
ステップS4では、補正処理部34は、取得された個別の補正値に基づいて、照射位置Ps毎の出力値の補正を実施する。補正処理部34は、ステップS4を以って一連の補正処理を終了し、補正結果をコントローラ32へ出力する。
なお、個別補正の後、全体補正が実施されてもよく、全体補正と個別補正とが同時に実施されてもよい。
(作用効果)
以上説明した第1実施形態の作用効果を以下に改めて説明する。
第1実施形態によると、光源部としてのレーザ発光部22a~cによるレーザビームの出力値は、スクリーン13の照射位置Psに応じて個別に変更可能であり、当該照射位置Psに応じた個別の補正値によって補正される。これにより、表示光が導光部LGを通ることによって生じる輝度分布のムラが低減される。出力値が補正される本態様では、照射位置Ps毎の曲率半径の変更等の機械的変更を伴う必要性が抑制されているため、光ビームの走査中であっても光走査部26の駆動への影響を少なく、輝度分布のムラの改善を図ることができる。以上により、虚像VRIの視認性が良好な虚像表示装置を提供することができる。
また、第1実施形態によると、個別の補正値は、照射位置Ps間における両眼輝度平均値の差を低減させるように、設定されている。両眼輝度平均値は、右眼の基準位置EPRから特定の照射位置Psから当該照射位置Psと共役な画素を視認した場合に想定される右眼輝度と、左眼の基準位置EPRから特定の照射位置Psから当該照射位置Psと共役な画素を視認した場合に想定される左眼輝度との平均値である。したがって、特定の照射位置Psから視認領域EBへ到達する表示光の輝度分布形状を変更する必要性を抑制して、虚像VRIを両眼視したときに知覚される輝度分布のムラを低減することができる。
また、第1実施形態によると、個別の補正値は、照射位置Ps間における両眼輝度平均値同士を一致させるように、設定されている。こうした一致設定により、虚像VRIを両眼視したときに知覚される輝度分布のムラを低減効果は、格別なものとなる。
(第2実施形態)
図7,8に示すように、第2実施形態は第1実施形態の変形例である。第2実施形態について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
第2実施形態の輝度ムラ補正テーブル235における個別の補正値は、第1実施形態と同様、輝度ムラ補正テーブル35に記憶されている。ただし、第2実施形態の個別の補正値は、各照射位置Psのレーザビームのスポットサイズに対する、虚像VRIにおいて当該照射位置と共役な画素のサイズの拡大率に基づいて、設定されている。より詳細に、個別の補正値は、拡大率が大きな照射位置Psである程、出力値が大きくなるように設定されている。なお、ここでいう拡大率とは、横倍率に相当する。
すなわち、各照射位置Psから射出される表示光は、共役な画素として、虚像VRIにおいて結像されるまでの経路において、導光部LGによる集光作用及び発散作用の一方及び両方を受ける。これにより、各照射位置Psのレーザビームのスポットに対して、虚像VRIとして視認される当該照射位置Psと共役な画素は、拡大又は縮小する。照射位置Psaから射出された表示光が虚像VRIの共役な位置Pvaに結像されるまでの経路、照射位置Psaから射出された表示光が虚像VRIの共役な位置Pvbに結像されるまでの経路、及び照射位置Pscから射出された表示光が虚像VRIの共役な位置Pvcに結像されるまでの経路は、互いにずれている。各経路において表示光は、導光部材15及びウインドシールド3の互いに異なる部位に、互いに異なる入射角にて入射するのである。
この結果、照射位置Ps間で拡大率が異なることとなる。仮に、レーザビームの出力値が照射位置Psに依らず等しいとすると、拡大率が大きな位置の画素では、画素の面積が大きくなるため、その分輝度が低くなる。一方、拡大率が小さな位置の画素では、画素の面積が比較的小さいため、輝度は相対的に高くなる。
故に、図8に示されるような輝度のムラが、虚像VRIに生じ得る。本実施形態では、ウインドシールド3の投影面3aの形状が左右非対称である。このため、投影面3aの形状の影響により、輝度のムラが左右非対称な分布となっている(図8の上段参照)。そして、この輝度の分布は、虚像VRIの各画素がスクリーン13の照射位置Psと個別に対応しているので、輝度ムラ補正テーブル235における照射位置Ps毎の個別の補正値の適用によって、均一化することができる(図8の下段参照)。
以上説明した第2実施形態によると、個別の補正値は、拡大率が大きな照射位置Psである程、出力値が大きくなるように設定されている。故に、虚像VRIにおける画素がこれと共役な照射位置Psでのレーザビームのスポットサイズに対して拡大されていても、当該レーザビームの出力値を補う補正によって、輝度の低下が抑制される。これを照射位置Ps毎に個別補正することで、虚像VRIの輝度分布のムラを低減することができる。
(第3実施形態)
図9~11に示すように、第3実施形態は第1実施形態の変形例である。第3実施形態について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
第3実施形態において、導光部材15のうち凸面鏡15aは、コールドミラー315aとなっている。コールドミラー315aは、例えば合成樹脂ないしガラスからなり、透光性を有する基材、及び当該基材の表面に形成された光学多層膜を有する多層膜ミラーとなっている。なお、図9では、図2と同様にコールドミラー315aがレンズ形状で表現されている。
光学多層膜は、2種類以上の互いに屈折率の異なる光学材料からなる薄膜状の光学膜を、基材の表面の法線方向に沿って積層して形成されている。光学膜としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)等を採用することが可能である。
各光学膜における各膜厚は、事前にコンピュータにより、光の干渉をシミュレートした最適化計算によって適宜設定される。したがって、コールドミラー315aにおける分光特性は、当該光学多層膜における光の干渉の結果に基づいて特徴づけられている。
具体的に、コールドミラー315aは、スクリーン13から射出された各レーザビームによる表示光を、光路におけるウインドシールド3側へ反射する。これと共に、コールドミラー315aは、各レーザビームの進行方向とは逆方向から入射する外光であって、各レーザビームの波長とは異なる波長を有する外光を透過して光路から分離する。ここで外光としては、例えばウインドシールド3及び防塵シート11aを透過してハウジング11内に入射する太陽光が挙げられる。
こうしたコールドミラー315aにおいては、互いに波長が異なるレーザビームによる各色の表示光において、反射率に差異が生じている。この結果、スクリーン13上に描画された画像のカラーバランスに対して、虚像VRIのカラーバランスが崩れる。すなわち、仮に各レーザビームの出力値を等しく設定しても、虚像VRIの輝度分布に波長間の差が生じ得る。
そこで、第3実施形態の個別の補正値は、レーザ発光部22a~c毎に用意されている。そして、補正処理部34は、輝度分布の波長間差を低減するように、レーザ発光部22a~c毎に異なる補正値を適用して、各レーザ発光部22a~cから発せられるレーザビームの出力値を補正する。
具体的に図10のように、各波長間にて、虚像VRI全体で均一に輝度の値が異なる場合(図10の上段参照)には、次のように補正値が設定される。基準となるレーザ発光部22a~cの個別の補正値に対し、他のレーザ発光部22a~cの個別の補正値は、照射位置Psに依らない定数を一律に加算又は減算した値に設定される。これにより、輝度の値の波長間差が低減される。特に図10の例では、緑色波長の輝度を基準とし、赤色波長の輝度が引き下げられる一方、青色波長の輝度が引き上げられる(図10の下段参照)。これにより、輝度の値の波長間差は、実質0となっている。
また図11のように、各波長間にて、輝度の分布形状が異なっている場合もある(図11の上段参照)。例えば、表示光を強く発散するために、大きく湾曲した基材の表面に光学多層膜を形成した場合等である。この場合には、虚像VRIにおける輝度の分布形状自体の波長間の差を低減するような輝度ムラ補正テーブル335を、レーザ発光部22a~c毎に用意する。これにより、個別の補正値は、レーザ発光部22a~c毎に、互いに全く異なる関数fr(x,y),fg(x,y),fb(x,y)となる。これにより、各波長間の差が低減される(図11の下段参照)。
以上説明した第3実施形態によると、各レーザビームの出力値を、独立して制御可能に構成されたコントローラ32に対応して、補正処理部34は、各レーザビームに対して異なる補正値を採用して、出力値を補正する。これにより、輝度分布の各波長間差が低減されるので、虚像VRIの発色を良好なものとすることができる。
また、第3実施形態によると、補正処理部34は、各レーザビームに対して異なる補正値を採用して、出力値を補正する。これにより、多層膜ミラーとしてのコールドミラー315aの光学多層膜での各レーザビームの屈折率差から生じる輝度分布の波長間差が低減される。故に、分光特性を有するコールドミラー315aを利用しても、虚像VRIの発色を良好に保つことができる。これと共に、コールドミラー315aが外光を透過して光路から分離するので、外光による虚像表示への悪影響を低減することができる。
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
具体的に変形例1としては、第1実施形態において、レーザ発光部22a~c毎に異なる輝度ムラ補正テーブル35が用意されていてもよい。すなわち、個別の補正値は、照射位置Ps間における両眼輝度平均値の差を低減させるように設定されると同時に、波長間における両眼輝度平均値の差を低減させるように設定されてもよい。
変形例2としては、第1実施形態における照射位置Ps間における両眼輝度平均値の差を低減と、第2実施形態における照射位置Ps間で拡大率が異なることによる虚像VRIの輝度のムラの低減とが、同時に実施されてもよい。例えば、第1実施形態における輝度ムラ補正テーブル35の個別の補正値と、第2実施形態における輝度ムラ補正テーブル235の個別の補正値とを、重視したい補正内容に合わせて重み付けした加重平均の値を、新たな個別の補正値として採用することができる。
変形例3としては、HUD10は、導光部材15のうち、例えば凹面鏡15bを車両1の左右方向に延伸する回転軸まわりに回転させ、虚像VRIの表示位置を上下に調整する機構を備えていてもよい。この場合に、凹面鏡15bの位相毎に、個別の輝度ムラ補正テーブル35が用意され、補正処理部34は、当該位相の値を取得して、当該位相の値に応じた輝度ムラ補正テーブル35を適用して個別補正を実施してもよい。
第3実施形態に関する変形例4としては、凸面鏡15aがコールドミラーではなく、凹面鏡15bがコールドミラーであってもよい。あるいは、導光部LGにコールドミラーが設けられていなくてもよい。コールドミラーが設けられていなくても、例えば防塵シート11a及びウインドシールド3の投影面3aの分光特性によって、輝度分布における波長間の差が発生する懸念があるからである。
変形例5としては、導光部LGとして、種々の構成を採用することができる。例えばHUD10側に設けられる導光部材15としては、1つの凹面鏡のみが設けられていてもよく、1つの平面鏡と1つの凹面鏡とが設けられていてもよい。また、ウインドシールド3の代わりに、車両1とは別体に設けられたコンバイナが導光部LGの構成要素としてインストルメントパネル2の上面部等に設置され、当該コンバイナの投影面に表示光が投影されるようにしてもよい。
変形例6としては、虚像表示装置は、航空機、船舶等の移動体、あるいはゲーム機等の移動しない非移動体等の各種の乗り物に搭載することができる。
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウエア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。