従来の油入変圧器では、タンク内の絶縁紙は、絶縁油中に水分が存在すると、主成分のセルロースが加水分解され、経年劣化を起こす。セルロースは、経年劣化による分解により水を生成する。このため、タンク内の水分を除去することが望まれている。
本発明による油入変圧器と水分除去装置は、油入変圧器の絶縁油中の水分を除去することで、油入変圧器のタンク内の水分の総量を減らすことができ、油入変圧器の絶縁材料として使用される絶縁体(特に、絶縁紙)と絶縁油(特に、エステル油)の経年劣化を抑制することができる。
本発明による油入変圧器と水分除去装置は、油入変圧器の運転中に、水分を除去するための吸着剤を再生することができ、この吸着剤が交換不要であるため、油入変圧器の運転を停止せずに効率良く、油入変圧器が運用される長期間にわたって、絶縁油中の水分を除去できる。
図1は、本発明の実施例による油入変圧器の構成を示す模式図である。本実施例による油入変圧器は、タンク1と、鉄心2と、鉄心2に巻かれた巻線である内側巻線3及び外側巻線4と、絶縁筒5と、絶縁油6と、窒素ガス7と、冷却器8と、本発明の実施例による水分除去装置とを備える。本実施例による水分除去装置については、後述する。
タンク1は、鉄心2と内側巻線3と外側巻線4と絶縁筒5と絶縁油6と窒素ガス7を収容している。
鉄心2は、その上部と下部にそれぞれ取り付けられた締付金具10a、10bによって締め付けられて保持されている。鉄心2は、その中心部に、絶縁油6が流入して鉄心2を冷却するための空洞部である油導入部15を備える。
内側巻線3と外側巻線4は、絶縁体で被覆された電線で構成されている。鉄心2と内側巻線3との間、内側巻線3と外側巻線4との間、及び外側巻線4とタンク1との間には、絶縁体で構成された絶縁筒5が設けられている。また、内側巻線3と外側巻線4には、巻線3、4を構成する電線の間に挟まって絶縁体が設置されている。内側巻線3と外側巻線4に設けられたこれらの絶縁体や絶縁筒5を構成する絶縁体は、絶縁紙(例えば、クラフト紙、クレープ紙、及びプレスボード)、絶縁木、及びプラスチックのいずれか1つまたは複数を用いて構成することができる。以下では、内側巻線3と外側巻線4に設けられた絶縁体と絶縁筒5を構成する絶縁体は、絶縁紙で構成されているものとする。
絶縁油6は、鉄心2と内側巻線3と外側巻線4を絶縁し冷却する。絶縁油6には、油入変圧器で広く用いられている鉱油の他に、シリコーン液やエステル油などを用いることができる。
窒素ガス7は、タンク1の内部で絶縁油6の上方に存在する。
冷却器8は、タンク1の外部に設置され、タンク1の上部と下部にそれぞれ設置された配管9a、9bによってタンク1に接続されている。冷却器8は、フィンやファンを用いた空冷方式、または水冷方式により、タンク1の内部に収容されている絶縁油6を冷却する。配管9aは、タンク1の絶縁油6を冷却器8に流す。配管9bは、冷却器8で冷却された絶縁油6をタンク1に流す。
絶縁油6は、タンク1の内部に備えられた鉄心2と内側巻線3と外側巻線4から発生するジュール熱を奪って鉄心2と内側巻線3と外側巻線4を冷却し、図1の矢印で示すように、上部の配管9aを通ってタンク1の内部から冷却器8の内部に流れる。冷却器8に流入した絶縁油6は、冷却器8で冷却された後に、冷却器8からタンク1に流れる。絶縁油6は、対流により、またはポンプに駆動されて、タンク1と冷却器8とを循環する。
内側巻線3と外側巻線4の上方には、絶縁体11、12が設置されており、内側巻線3と外側巻線4の下方には、絶縁体13、14が設置されている。絶縁体11、12、13、14は、絶縁紙(例えば、クラフト紙、クレープ紙、及びプレスボード)、絶縁木、及びプラスチックで構成することができる。以下では、絶縁体11、12、13、14は、絶縁紙で構成されているものとする。
本実施例による油入変圧器は、水吸着部19と、吸着剤再生装置21を備える。水吸着部19と吸着剤再生装置21は、本実施例による水分除去装置を構成する。
水吸着部19は、水の吸着剤17と、加熱装置18と、これらを収容する容器を備え、冷却器8で冷却された絶縁油6に含まれる水を除去する。
水の吸着剤17は、絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。水の吸着剤17には、水との親和性が高い絶縁紙(例えば、クラフト紙、及びアラミド紙)を用いることができる。
加熱装置18は、水の吸着剤17を加熱できる位置に設置され、水の吸着剤17を加熱して、水の吸着剤17に吸着した水を水吸着部19の中の絶縁油に溶出させる。加熱装置18には、水の吸着剤17を加熱できれば、任意のものを用いることができる。
水吸着部19は、配管16aによって冷却器8に接続され、冷却器8で冷却された絶縁油6が冷却器8から流入する。また、水吸着部19は、配管16bによってタンク1に接続され、水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6が矢印で示すようにタンク1に流出する。配管16aは、冷却器8で冷却された絶縁油6を水吸着部19に流す。配管16bは、タンク1の下部に接続し、水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6をタンク1に流す。絶縁油6は、対流により、またはポンプに駆動されて、冷却器8と水吸着部19とタンク1とを循環する。
吸着剤再生装置21は、水の吸着剤22と、水の吸着剤22を収容する容器を備え、水吸着部19から流入した絶縁油6に含まれる水を除去する。
水の吸着剤22は、絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。水の吸着剤22には、例えばゼオライトやシリカを用いることができる。
吸着剤再生装置21は、配管20aと配管20bによって水吸着部19に接続されている。吸着剤再生装置21には、加熱装置18で水の吸着剤17が加熱されて水が溶出した絶縁油6が、配管20aによって水吸着部19から流入する。また、吸着剤再生装置21は、水の吸着剤22で水が除去された絶縁油6が、配管20bによって水吸着部19に流出する。配管20aは、水吸着部19で水が溶出した絶縁油6を吸着剤再生装置21に流す。配管20bは、吸着剤再生装置21で水が除去された絶縁油6を水吸着部19に流して戻す。絶縁油6は、ポンプに駆動されて、水吸着部19と吸着剤再生装置21とを循環する。
以下、本実施例による油入変圧器において、絶縁油6の流れを制御して、絶縁油6に含まれる水分を除去する手順を説明する。なお、配管9a、9b、16a、16b、20a、20bに設けられたバルブは、作業員または制御装置により開閉が操作される。
通常の運転時には、油入変圧器は、配管9a、9bに設けられたバルブが開いており、配管16a、16bと配管20a、20bに設けられたバルブが閉じている。これにより、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管9bを通ってタンク1に流れる。
絶縁油6に含まれる水分を除去する場合には、油入変圧器は、配管9bに設けられたバルブが閉じられ、配管16a、16bに設けられたバルブが開かれる。配管9aに設けられたバルブは、開いたままであり、配管20a、20bに設けられたバルブは、閉じたままである。これにより、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管16aを通って水吸着部19に流れる。
水吸着部19に備えられている水の吸着剤17は、水吸着部19に流入した絶縁油6に含まれる水を吸着して除去する。冷却器8で冷却され水の吸着剤17で水が除去された絶縁油6は、水吸着部19から配管16bを通ってタンク1に流れ、内側巻線3と外側巻線4を冷却する。
このようにして、内側巻線3と外側巻線4を冷却して温度が上昇した絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却され、冷却器8から配管16aを通って水吸着部19に流れ、水吸着部19で水分が除去される。水吸着部19で絶縁油6から水分を除去するのは、水の吸着剤17の種類と量で決まる一定時間にわたって行う。
この一定時間の間に水吸着部19で絶縁油6から水分を除去したら、配管9bに設けられたバルブが開かれ、配管16a、16bに設けられたバルブが閉じられる。配管9aに設けられたバルブは、開いたままであり、配管20a、20bに設けられたバルブは、閉じたままである。配管9bに設けられたバルブが開かれるので、絶縁油6は、タンク1から配管9aを通って冷却器8に流れ、冷却器8で冷却された後、冷却器8から配管9bを通ってタンク1に流れる。絶縁油6は、冷却器8から水吸着部19に流入せず、水吸着部19からタンク1に流出しない。水吸着部19の内部には、タンク1に流れなかった絶縁油6が存在する。
この状態で(すなわち、絶縁油6が、冷却器8から水吸着部19に流入せず、水吸着部19からタンク1に流出しないときに)、加熱装置18は、水の吸着剤17を加熱する。水の吸着剤17は、加熱されると、吸着している水を水吸着部19の中の絶縁油6に放出する。水の吸着剤17から放出された水は、絶縁油6に溶出する。加熱装置18は、水の吸着剤17と絶縁油6が劣化しないような温度と時間で、水の吸着剤17を加熱する。
加熱装置18が水の吸着剤17を加熱すると、配管20a、20bに設けられたバルブが開かれる。加熱により水の吸着剤17から放出された水が溶出した絶縁油6は、水吸着部19から配管20aを通って吸着剤再生装置21に流入する。吸着剤再生装置21に流入した絶縁油6は、含んでいる水が除去されて、配管20bを通って水吸着部19に流れて戻る。
吸着剤再生装置21は、水吸着部19から流入した絶縁油6に含まれている水を、水の吸着剤22によって除去する。絶縁油6が水吸着部19と吸着剤再生装置21とを循環することで、水の吸着剤17から放出された水は、水の吸着剤22に吸着されて除去される。
このようにして、水吸着部19の水の吸着剤17は、吸着した水を放出して水の吸着性能を回復し、再生することができる。水の吸着剤17の再生は、水の吸着剤17の種類と量と、吸着剤再生装置21の水の吸着剤22の種類と量と、水の吸着剤17の加熱時間とに応じて決まる一定時間にわたって行う。
水の吸着剤17の再生が終了したら、加熱装置18による水の吸着剤17の加熱が停止され、配管20a、20bに設けられたバルブが閉じられる。この後、油入変圧器は、配管9bに設けられたバルブが開き、配管16a、16bに設けられたバルブが閉じた状態で、通常の運転を行ってもよいし、配管9bに設けられたバルブが閉じられ、配管16a、16bに設けられたバルブが開かれて、絶縁油6に含まれる水を水吸着部19で除去してもよい。
絶縁油6に含まれる水分を水吸着部19で除去するのは、任意の時期に行うことができ、例えば、予め定めた時間の経過ごとに定期的に行うことができる。
水の吸着剤22は、配管20a、20bに設けられたバルブが閉じており、水の吸着剤17の再生を実施していないときに、必要に応じて交換することができる。
本実施例による油入変圧器は、このようにして、油入変圧器の運転中に、水吸着部19が備える水の吸着剤17で絶縁油6から水分を除去するとともに、吸着剤再生装置21で水の吸着剤17を再生することができる。水の吸着剤17が再生可能で交換不要であるため、本実施例による油入変圧器は、運転を停止せずに効率良く、油入変圧器が運用される長期間にわたって、絶縁油6中の水分を除去できる。
水の吸着剤17を構成する絶縁紙は、加熱装置18で加熱されるので、耐熱紙で構成されるのが好ましい。水の吸着剤17に耐熱紙を用いると、加熱装置18で繰り返し加熱されることによる劣化を抑制することができる。耐熱紙には、任意のものを用いることができ、例えば、アミン添加紙やアラミド紙などを用いることができる。
本実施例による油入変圧器を用いると、絶縁油6から除去した水の量、すなわち水の吸着剤17に吸着した水の量から、タンク1内の絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定できる。タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量は、例えば、次の方法で求めることができる。絶縁紙が経年劣化により生成する標準的な水の量を、実験により、または過去のデータを利用することにより、求めておく。次に、既存の方法を用いて、水の吸着剤22に吸着した水の量を求め、求めた水の量から水の吸着剤17に吸着した水の量を推定する。この推定した水の量と上記の標準的な水の量とから、タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量を推定することができる。
また、本実施例による油入変圧器を用いると、タンク1内の絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定することで、タンク1内の絶縁紙の劣化状態を正確に診断することができ、油入変圧器の劣化状態の診断精度を向上することができる。
タンク1内の絶縁紙の経年劣化で生成された水の量の推定と油入変圧器の劣化状態の診断は、コンピュータが実行してもよく、作業員が実行してもよい。
本実施例による油入変圧器が備える水分除去装置、すなわち水吸着部19と吸着剤再生装置21は、既存の油入変圧器(鉄心と巻線と絶縁油を収容したタンクと、絶縁油を冷却する冷却器とを備える油入変圧器)に設置することができる。本実施例による水分除去装置を用いると、既存の油入変圧器でも、油入変圧器の運転中に、水の吸着剤17で絶縁油6から水分を除去するとともに、水の吸着剤17を再生することができ、絶縁紙が経年劣化により分解して生成した水の量を推定でき、油入変圧器の劣化状態をより高精度に診断することができる。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。