<ガスバリア樹脂組成物>
本発明のガスバリア樹脂組成物は、一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物(エチレン-ビニルアルコール共重合体;以下、「EVOH」ともいう。)、ポリアミド(C)(以下、「PA(C)」ともいう。)並びにマグネシウム、カルシウム及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子(D)(以下、「金属原子(D)」ともいう)を含み、上記一種又は二種以上のEVOHの原料(原料モノマー)であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、上記原料(原料モノマー)であるエチレン及びビニルエステルの残部が化石燃料由来であり、上記一種又は二種以上のEVOHに対するPA(C)の質量比(PA(C)/EVOH)が5/95以上40/60以下であり、金属原子(D)の含有量が1ppm以上500ppm以下である、ガスバリア樹脂組成物である。当該ガスバリア樹脂組成物は、バイオマス由来の原料が一部に用いられていることで、環境負荷が低い。また、当該ガスバリア樹脂組成物は、ガスバリア樹脂としてEVOHを選択して用いており、EVOHはバイオマス由来の原料を用いて合成された場合であっても、化石燃料由来の原料のみから合成された同一構造のEVOHと同等の高いガスバリア性及び耐レトルト性を発揮できる。なお、同一構造のEVOHとは、重合度、各構造単位の含有比率、変性の有無、ケン化度等が同じであるEVOHをいう。さらに、当該ガスバリア樹脂組成物においては、EVOHに化石燃料由来の原料も併用されていることで、ロングラン性も十分なものとなる。なお、本発明がこのような効果を奏する理由は定かではないが、バイオマス由来の原料を用いてEVOHを合成した場合、ガスバリア性には影響を与えないもののロングラン性には影響を与える微量且つ不可避的な不純物が生成又は混入することなどが推測される。また、当該ガスバリア樹脂組成物は、PA(C)を含むことで耐レトルト性が良好となるが、化石燃料由来の原料のみから合成された同一構造のEVOHと同等の耐レトルト性を発揮できる。さらに当該ガスバリア樹脂組成物は、所定量の金属原子(D)を含むことにより、溶融成形時のロングラン性が良好になる。
ここで、本明細書におけるロングラン性とは、実施例に記載の方法で評価することができ、ガスバリア樹脂組成物を連続成膜した際の欠点、ストリーク及び着色の度合いによって総合的に評価できる。但し、用途等によっては、着色は特に問題にならない場合もあることなどから、例えば1時間の連続製膜した際の欠点及びストリークが少なければロングラン性は十分であると評価する。
原料として用いられたエチレン及びビニルエステルがバイオマス由来と化石燃料由来の双方を含むことは、バイオベース度の測定により確認することができる。バイオベース度とは、バイオマス由来原料の割合を表す指標であり、本明細書においては、加速器質量分析器(AMS)による放射性炭素(14C)の濃度測定により求められるバイオベース炭素含有率である。バイオベース度は、具体的にはASTM D6866-18に記載の方法に沿って測定することができる。すなわち、通常、EVOHのバイオベース度が0%超100%未満である場合、原料として用いられたエチレン及びビニルエステルがバイオマス由来と化石燃料由来の双方を含むといえる。
「バイオマス」とは、動植物に由来する有機物である資源であって、化石燃料(化石資源)を除いたものをいう。バイオマスは、植物に由来する有機物である資源であってよい。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、放射性炭素(14C)の濃度を利用して自社製品を追跡することも可能である。生物はその活動中に、大気中の放射性炭素(14C)を取り込み一定量含有するが、活動を停止すると新しい14Cの取り込みが止まり、全炭素に対する14Cの比が低下する。また、植物が炭素を固定する際に同位体選別と呼ばれる現象が生じ、植物の種毎に全炭素に対する14Cの比が異なることが知られている。全炭素に対する14Cの比は、産地、年代によっても異なることが知られており、原料とするバイオマスにより、異なる全炭素に対する14Cの比の原料を得ることができる。化石燃料由来の原料には14Cが殆ど残っていないため、例えば、バイオマス由来と化石燃料由来の原料の比を変化させることにより、特定の全炭素に対する14Cの比のEVOHを得ることが可能となり、この全炭素に対する14Cの比を調べることにより、自社製EVOH(ガスバリア樹脂組成物)の追跡が可能となる。
EVOHは幅広い用途で使用されており、高品質の製品を市場へ供給することはサプライヤーの責務である。また、ブランディングのために自社製品と他社製品を識別する方法が求められている。例えば、市販の包装容器のガスバリア層に用いられているEVOHは、熱成形により包装容器に成形されるが、熱成形時に受ける熱履歴によりエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物は溶媒に不溶なゲルを形成することがある。そのため、包装容器を回収し、使用されているEVOHを溶媒で抽出して、その分子量を測定しようとしても、分子量を正確に測定することが困難な場合が多い。そのため、成形体を分析しただけでは自社のEVOHであるか否かを判別することができない。熱成形容器以外の成形体等においても同様のことが懸念される。
EVOHは、多くの流通経路を経て、食品、医薬品、工業薬品、農薬等の包装材料として、フィルム、シート、容器等に利用されている。また、そのバリア性、保温性、耐汚染性等を活かして、自動車等車両の燃料タンク、タイヤ用チューブ材、農業用フィルム、ジオメンブレン、靴用クッション材等の用途にも使用されている。これらのEVOHが使用された材料がさらに廃棄された場合、かかる樹脂やその使用後の包装容器がどの工場、どの製造ラインから製造されたかの判別が困難である。また、使用時あるいは使用後の自社製品の品質調査や廃棄後の環境への影響や地中への分解性などの追跡も困難である。
自社製品の追跡方法の一つとして、例えば、EVOHにトレーサー物質を添加する方法が考えられる。しかしながら、トレーサーの添加はコスト上昇やEVOHの性能低下を起こす場合がある。このような背景において、放射性炭素(14C)の濃度を利用して自社製品を追跡することができることは、非常に有用な効果であると言える。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、気体の透過を抑制する機能を有する樹脂組成物である。20℃-65%RH条件下で、JIS K 7126-2(等圧法;2006年)に記載の方法に準じて測定した本発明のガスバリア樹脂組成物の酸素透過速度の上限は、100mL・20μm/(m2・day・atm)が好ましく、50mL・20μm/(m2・day・atm)がより好ましく、10mL・20μm/(m2・day・atm)、1mL・20μm/(m2・day・atm)、又は0.7mL・20μm/(m2・day・atm)がさらに好ましい。
(EVOH)
本発明のガスバリア樹脂組成物に含まれる一種又は二種以上のEVOHの形態としては、以下の(I)及び(II)の形態が挙げられる。
(I)原料であるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるEVOH(A)と、化石燃料由来であるEVOH(B)とを含む形態
(II)原料であるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるEVOH(A’)を含む形態
一種又は二種以上のEVOHは、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来であるものであってよい。すなわち、EVOH(A)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の少なくとも一部がバイオマス由来のEVOHであってよい。EVOH(B)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の全てが化石燃料由来のEVOHであってよい。EVOH(A’)は、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の一部がバイオマス由来であり、残部が化石燃料由来のEVOHであってよい。
(EVOH(A))
EVOH(A)は、原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であるEVOHである。EVOH(A)がバイオマス由来の原料を含むことで、本発明のガスバリア樹脂組成物のバイオベース度を高め、環境負荷を低減できる。
EVOH(A)は、少なくとも一部がバイオマス由来であるエチレン及びビニルエステルの共重合体のケン化により得られる。EVOH(A)の前駆体となるエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は、従来の化石燃料由来のエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化と同様の公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルを用いることができ、酢酸ビニルが好ましい。
バイオマス由来のエチレンは、例えばバイオマス原料からバイオエタノールを精製し、脱水反応を行うなど、公知の方法で製造することができる。バイオマス原料としては、廃棄物系、未利用系、資源作物系等を用いることができ、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油など)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシなど)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油など)、パルプ黒液、植物油カスなどを用いることができる。
バイオエタノールを製造する方法は特に限定されず、例えば、バイオマス原料を必要に応じて前処理(加圧熱水処理、酸処理、アルカリ処理、糖化酵素を用いた糖化処理)した上で、酵母発酵させバイオエタノールを製造した後、蒸留工程及び脱水工程を経てバイオエタノールを精製することができる。バイオエタノール製造の際に、糖化処理を行う場合、糖化と発酵を段階的に行う逐次糖化発酵を用いてもよいし、糖化と発酵を同時に行う並行糖化発酵を用いてもよいが、製造効率の観点から並行糖化発酵にてバイオエタノールを製造することが好ましい。
市販のバイオマス由来のエチレンを使用してもよく、例えばBraskem S.A.製のサトウキビ由来バイオエチレン等を使用できる。
バイオマス由来のビニルエステルとしては、バイオマス由来のエチレンを用いて製造したビニルエステルが挙げられる。バイオマス由来のビニルエステルの製造方法としては、例えば一般的な工業製法であるパラジウム触媒を用いてエチレンと酢酸と酸素分子とを反応させる方法等が挙げられる。また、バイオマス由来のビニルエステルは、バイオマス由来のカルボン酸を用いて製造されたビニルエステルであってもよい。EVOH(A)のケン化度が100モル%では無い場合、バイオマス由来のアシル基が残存することとなる。
EVOH(A)のエチレン単位含有量の下限は20モル%が好ましく、23モル%がより好ましく、25モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量が20モル%以上であると、ロングラン性が高まる傾向となる。EVOH(A)のエチレン単位含有量の上限は60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、50モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量が60モル%以下であると、ガスバリア性がより良好となる傾向となる。EVOHのエチレン単位含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
EVOH(A)のケン化度の下限は90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であると、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるガスバリア性及びロングラン性がより良好となる傾向がある。また、EVOH(A)のケン化度の上限は100モル%であってよく、99.97モル%又は99.94モル%であってもよい。EVOHのケン化度は、1H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
EVOH(A)の原料として用いられるエチレン及びビニルエステルは、その少なくとも一部がバイオマス由来であり、ビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましく、ビニルエステルの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A)の原料であるエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることも好ましく、エチレンの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A)の原料であるビニルエステルの少なくとも一部及びエチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましい場合もあり、ビニルエステル及びエチレンの全てがバイオマス由来であってもよい。
EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位(ビニルエステル単位のケン化物)におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がよりさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全てのビニルアルコール単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位における化石燃料由来のビニルアルコール単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位中に化石燃料由来のビニルアルコール単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A)を構成する全ビニルアルコール単位におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合が高くなると、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物を提供する観点からは、バイオマス由来のビニルアルコール単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
EVOH(A)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がよりさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全てのエチレン単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A)を構成する全エチレン単位における化石燃料由来のエチレン単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A)を構成する全エチレン単位中に化石燃料由来のエチレン単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合が高くなると、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物を提供する観点からは、バイオマス由来のエチレン単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
EVOH(A)のバイオベース度の下限は、本発明のガスバリア樹脂組成物の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。さらにEVOH(A)のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%又は95%であってもよい。また、EVOH(A)のバイオベース度の上限は、100%であってもよいが、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%又は65%がさらに好ましい場合もある。
EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、上記他の単量体由来の単位のEVOH(A)の全構造単位に対する含有量の上限は30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、5モル%がよりさらに好ましく、1モル%がよりさらに好ましいこともある。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量の下限は0.05モル%であってもよく、0.10モル%であってもよい。上記他の単量体は、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法の後変性がされていてもよい。
EVOH(A)がその他単量体単位等の変性基を有する場合、EVOH(A)が下記式(I)で表される構造を持っていてもよい。
[式(I)中、Xは水素原子、メチル基又はR2-OHで表される基を表す。R1及びR2は、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、上記アルキレン基及び上記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
Xは、好ましくは水素原子又はR2-OHで表される基であり、より好ましくはR2-OHで表される基である。
R1及びR2として用いられるアルキレン基及びアルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。R1及びR2は、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基又はアルキレンオキシ基である。
式(I)で表される構造(変性基)の具体例としては、例えば、下記の式(II)、式(III)、及び式(IV)で表される構造単位(変性基)が挙げられる。
[式(II)中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
[式(III)中、R5は式(I)中のXと同義である。R6は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
[式(IV)中、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基または水酸基を表す。また、上記アルキル基、上記シクロアルキル基が有する水素原子の一部または全部は、水酸基、アルコキシ基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。]
本発明において、式(I)中のR1が単結合で、Xがヒドロキシメチル基(式(II)中のR3、R4が水素原子)であってもよい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.4モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、8モル%がさらに好ましく、5モル%が特に好ましい。
本発明において、式(I)中のR1がヒドロキシメチレン基、Xが水素原子(式(III)中のR5、R6が水素原子)であってもよい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.4モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、8モル%がさらに好ましく、5モル%が特に好ましい。
本発明において、式(I)中のR1がメチルメチレンオキシ基、Xが水素原子であってもよい。この変性基を有するEVOH(A)を用いることで、ガスバリア性を著しく悪化させることなく延伸性、熱成形性等の二次加工性を高められる傾向となる。また、上記メチルメチレンオキシ基は、酸素原子が主鎖の炭素原子に結合している。すなわち、式(IV)中、R7、R8の一方がメチル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。EVOH(A)が上記変性基を含有する場合、その含有量の下限は0.1モル%が好ましく、0.5モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましく、2.0モル%が特に好ましい。一方、上記変性基の含有量の上限は、ガスバリア性を良好とする観点から20モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。
EVOH(A)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
JIS K7210:1999に準拠して測定した、EVOH(A)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)の下限は、0.1g/10分が好ましく、0.5g/10分がより好ましく、1.0g/10分がさらに好ましい。一方、EVOH(A)のMFRの上限は、30g/10分が好ましく、20g/10分がより好ましく、15g/10分がさらに好ましい。EVOH(A)の190℃、2160g荷重におけるMFRが上記範囲であると、溶融成形性が高まり、結果としてロングラン性が高まる傾向となる。
EVOH(A)の融点の下限は135℃が好ましく、150℃がより好ましく、155℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が135℃以上であると、ガスバリア性に優れる傾向となる。またEVOH(A)の融点の上限は200℃が好ましく、190℃がより好ましく、185℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が200℃以下であると、溶融成形性が良好となり、結果としてロングラン性が高まる傾向となる。
(EVOH(B))
EVOH(B)は、化石燃料由来のEVOHである。ここで、化石燃料由来のEVOHとは、化石燃料由来の原料を用いて合成されたEVOHを意味する。すなわち、EVOH(B)は、原料モノマーであるエチレン、ビニルエステル及び必要に応じて用いられるその他の単量体の全てが化石燃料由来であるEVOHである。換言すれば、EVOH(B)は、バイオマス由来の原料を用いずに合成されたEVOHである。本発明のガスバリア樹脂組成物がEVOH(B)を含むことで、十分なロングラン性を発揮することができる。
EVOH(B)の具体的及び好適な態様は、原料が化石燃料由来であること、つまりバイオベース度が0%であること以外は、EVOH(A)と同様である。すなわち、EVOH(B)の具体的及び好適なエチレン単位含有量、ケン化度、他の単量体由来の種類及び含有量、MFR、融点等は、EVOH(A)と同様である。
EVOH(B)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
EVOH(A)とEVOH(B)とを併用する上記(I)の形態において、EVOH(A)とEVOH(B)との質量比(A/B)の下限は、1/99が好ましく、5/95がより好ましく、15/85がさらに好ましく、40/60が特に好ましい。質量比(A/B)を1/99以上とすることにより、本発明のガスバリア樹脂組成物のバイオベース度を高め、環境負荷を小さくすることができる。より環境負荷を低減する観点からは、上記質量比(A/B)の下限は、60/40が好ましい場合もあり、75/25が好ましい場合もある。また、質量比(A/B)の上限は99/1が好ましく、95/5がより好ましく、85/15がさらに好ましい場合もあり、60/40又は40/60がよりさらに好ましい場合もある。質量比(A/B)を99/1以下とすることでロングラン性を高めることができる。
EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。ロングラン性等の性能を高めることなどからは、EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点は、それぞれ同一であるか近い値であることが好ましい。EVOH(A)及びEVOH(B)のエチレン単位含有量の差は、6モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、0モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)のケン化度の差は2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましく、0モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)のMFRの差は2g/10分以下が好ましく、1g/10分以下がより好ましく、0g/10分がさらに好ましい。また、EVOH(A)及びEVOH(B)の融点の差は7℃以下が好ましく、3℃以下がより好ましく、0℃がさらに好ましい。
(EVOH(A’))
EVOH(A’)は、原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの一部がバイオマス由来であり、上記原料モノマーであるエチレン及びビニルエステルの残部が化石燃料由来であるEVOHである。EVOH(A’)の原料がバイオマス由来の原料を含むことで、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるバイオベース度を高め、環境負荷を低減できる傾向となる。また、EVOH(A’)の原料が化石燃料由来の原料を含むことで、本発明のガスバリア樹脂組成物のロングラン性を良好なものとすることができる。
EVOH(A’)は、一部がバイオマス由来であり残部が化石燃料由来であるエチレン及びビニルエステルの共重合体のケン化により得られる。EVOH(A’)の前駆体となるエチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は、原料の一部にバイオマス由来のものが用いられること以外は、従来公知の方法により行うことができる。
EVOH(A’)の合成に用いられるバイオマス由来のエチレン及びバイオマス由来のビニルエステルの例は、EVOH(A)の合成に用いられるものとして上記したものと同様である。
EVOH(A’)のエチレン単位含有量及びケン化度の具体的及び好適な条件は、前述したEVOH(A)と同様である。
EVOH(A’)の原料として用いられるエチレン及びビニルエステルにおいては、エチレンの少なくとも一部がバイオマス由来であることが好ましく、エチレンの全部がバイオマス由来であってもよい。また、EVOH(A’)の原料であるビニルエステルの少なくとも一部がバイオマス由来であることも好ましく、ビニルエステルの全部がバイオマス由来であってもよい。
EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位(ビニルエステル単位のケン化物)におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成するすべてのビニルアルコール単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位における化石燃料由来のビニルアルコール単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位中に化石燃料由来のビニルアルコール単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A’)を構成する全ビニルアルコール単位におけるバイオマス由来のビニルアルコール単位の割合が高くなると、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物を提供する観点からは、バイオマス由来のビニルアルコール単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
EVOH(A’)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレンの割合の下限は、1モル%が好ましく、5モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましく、25モル%又は45モル%がさらに好ましく、70モル%、90モル%又は99モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全てのエチレン単位がバイオマス由来であってもよい。EVOH(A’)を構成する全エチレン単位における化石燃料由来のエチレン単位の割合の上限は、99モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、90モル%がさらに好ましく、75モル%又は55モル%がよりさらに好ましく、30モル%、10モル%又は1モル%であってもよく、EVOH(A’)を構成する全エチレン単位中に化石燃料由来のエチレン単位が含まれていなくてもよい。EVOH(A’)を構成する全エチレン単位におけるバイオマス由来のエチレン単位の割合が高くなると、本発明のガスバリア樹脂組成物におけるバイオベース度が高まり、環境負荷を低減できる傾向となる。一方、バイオベース度及びロングラン性のバランスに優れるガスバリア樹脂組成物を提供する観点からは、バイオマス由来のエチレン単位の割合は5モル%以上95モル%以下が好ましく、15モル%以上85モル%以下がより好ましく、25モル%以上75モル%以下がさらに好ましく、35モル%以上65モル%以下が特に好ましい。
EVOH(A’)のバイオベース度の下限は、本発明のガスバリア樹脂組成物の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、EVOH(A’)のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、EVOH(A’)のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%又は65%がさらに好ましい場合もある。
EVOH(A’)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン、ビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよく、後変性されていてもよい。共重合成分や後変性の具体例としては、前述したEVOH(A)と同様である。
EVOH(A’)は、単独で用いても二種以上併用してもよい。
JIS K7210:1999に準拠して測定した、EVOH(A’)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)及び融点の好適な態様は、前述したEVOH(A)と同様である。
本発明のガスバリア樹脂組成物を構成する全ての樹脂における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の下限は、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、83質量%がさらに好ましく、87質量%が特に好ましい。上記全ての樹脂における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の上限は、例えば95質量%である。また、本発明のガスバリア樹脂組成物における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の下限は、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、83質量%がさらに好ましく、87質量%が特に好ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物における一種又は二種以上のEVOHが占める割合の上限は、例えば95質量%である。
本発明のガスバリア樹脂組成物に含まれる一種又は二種以上のEVOH全体のバイオベース度の下限は、本発明のガスバリア樹脂組成物の環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、上記EVOH全体のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、上記EVOH全体のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%、65%、55%、45%、35%又は25%がさらに好ましい場合もある。
本発明のガスバリア樹脂組成物に含まれる一種又は二種以上のEVOH全体のエチレン単位含有量、ケン化度、MFR及び融点の具体的及び好適範囲は、上述したEVOH(A)の範囲と同様である。
(ポリアミド(C))
本発明のガスバリア樹脂組成物は、PA(C)を含む。当該ガスバリア樹脂組成物がPA(C)を含むことで、耐レトルト性が良好となる。
PA(C)は、アミド結合を含む樹脂である。ポリアミド(C)としては、例えば3員環以上のラクタムの開環重合、重合可能なω-アミノ酸の重縮合、二塩基酸とジアミンとの重縮合等によって得られる。ポリアミド(C)としては、例えばポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)等が挙げられる。
またPA(C)は、化石燃料由来の原料のみを用いて製造されたものであっても良いし、バイオマス由来の原料を用いて製造されたものであっても良い。例えばArkema S.A.社は、バイオマス由来の原料のみを用いたポリアミド(C)として、ヒマシ油を原料としたポリウンデカンアミド(ナイロン11)(「Rilsan PA11」)、並びにバイオマス由来の原料及び化石燃料由来の原料を用いて製造されたポリアミド(C)として、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)(「Rilsan S」)を製造及び販売している。
また、ジアミンとして2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の置換基を導入した脂肪族ジアミン;メチルベンジルアミン、メタキシリレンジアミン等の芳香族アミン等を使用してもよく、またこれらを用いてポリアミドへの変性を行っても構わない。さらに、ジカルボン酸として2,2,4-トリメチルアジピン酸及び2,4,4-トリメチルアジピン酸等の置換基を導入した脂肪族カルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、キシリレンジカルボン酸、アルキル置換テレフタル酸、アルキル置換イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を使用してもよく、またこれらを用いてポリアミドへの変性を行っても構わない。
中でも、ポリカプラミド(ナイロン6)が好ましい。その他にも、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)も好ましい。この場合、ナイロン6単位とナイロン12単位の含有比は特に限定されないが、ナイロン12単位の含有量の下限としては、5質量%が好ましい。一方、ナイロン12単位の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。
本発明のガスバリア樹脂組成物における上記一種又は二種以上のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物に対するPA(C)の質量比(PA(C)/EVOH)の下限は、5/95であり、8/92が好ましく、13/87がより好ましい。また、質量比(PA(C)/EVOH)の上限は40/60であり、35/65が好ましく、30/70がより好ましく、25/75がさらに好ましい。質量比(PA(C)/EVOH)が5/95未満であると、耐レトルト性が不十分となり、当該ガスバリア樹脂組成物から成形される成形体等に対する熱水又は水蒸気による加熱処理後の外観が悪化する。また、質量比(PA(C)/EVOH)が40/60超であると、ガスバリア性が低下し、かつ、ロングラン性が不十分となる。
本発明のガスバリア樹脂組成物におけるPA(C)の含有量の下限は、耐レトルト性を高める観点から、5質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。また、PA(C)の含有量の上限は、ガスバリア性及びロングラン性を高める観点から40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、25質量%がさらに好ましく、15質量%特に好ましい。
(金属原子(D))
本発明のガスバリア樹脂組成物は、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子(D)を含む。当該ガスバリア樹脂組成物が金属原子(D)を含むことで、溶融成形時のロングラン性が良好となる。特に、一般的にEVOHに対してPAを含有させた樹脂組成物はロングラン性が低下する傾向にあるが、本発明のガスバリア樹脂組成物によれば、金属原子(D)をさらに含むことで、十分なロングラン性を発揮することができる。
本発明のガスバリア樹脂組成物における、金属原子(D)の含有量の下限は、1ppmであり、10ppmが好ましく、50ppmがより好ましい。また、金属原子(D)の含有量の上限は、500ppmであり、350ppmが好ましく、300ppmがより好ましく、250ppmがさらに好ましい。金属原子(D)の含有量が上記範囲であると、欠点、ストリーク及び着色をバランスよく改善できる傾向となる。金属原子(D)は、溶融成形時のロングラン性がより良好となる観点から、マグネシウムがより好ましい。
金属原子(D)は、金属原子単体又は化合物中の構成原子として存在していてもよく、遊離した金属イオンの状態で存在していてもよい。金属原子(D)は、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ケトジカルボン酸、アミノ酸等の有機酸の塩;硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の塩;水酸化物等として含まれていてもよい。中でも、脂肪族カルボン酸金属塩、又は水酸化物として含まれることが好ましく、EVOHとの相溶性の観点から炭素数6以下の脂肪族カルボン酸金属塩、又は水酸化物として含まれることがより好ましい。脂肪族カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸等の飽和脂肪族カルボン酸;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸が挙げられる。中でも、EVOH等との相溶性の観点等から、炭素数1~3の飽和脂肪族カルボン酸の塩または水酸化物が好ましく、酢酸塩または水酸化物がより好ましい。
本発明のガスバリア樹脂組成物において、金属原子(D)は、上記のように有機酸又は無機酸と塩を形成していても良いし、一種又は二種以上のEVOHのアルコキシドのカウンターカチオンとして塩を形成していても良い。
本発明のガスバリア樹脂組成物において、金属原子(D)は樹脂組成物全体に均一に分散していることが好ましい。また、金属原子(D)は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、硫黄化合物を硫黄原子換算で0ppm超100ppm以下含んでいることが、自社製品を追跡する観点からより好ましい。また、硫黄原子換算で100ppm以下の硫黄化合物は、ガスバリア樹脂組成物の性能に実質的に影響を与えないことを発明者らは知見しており、硫黄化合物はトレーサー物質として好適である。硫黄化合物の含有量の上限は50ppmがより好ましく、5ppmがさらに好ましく、3ppmがよりさらに好ましく、0.3ppmが特に好ましい。硫黄化合物の含有量の下限は、0.0001ppmであっても、0.001ppmであっても、0.01ppmであっても、0.05ppmであっても、0.1ppmであってもよい。バイオマス由来の原料を用いた場合、バイオマス原料に含まれる有機系硫黄化合物を含むEVOHが得られることがある。一方、化石燃料由来のEVOHは、ナフサのクラッキング時に脱硫していることから、バイオマス由来のEVOHに比して硫黄化合物が少なくなる。そのため、このようなバイオマス由来のEVOHを用いた場合、硫黄化合物の含有量を比較することでバイオマス由来のEVOHの追跡がより容易となる。特に、本発明のガスバリア樹脂組成物が、硫黄化合物として、有機系硫黄化合物、中でもジメチルスルフィドまたはジメチルスルホキシドを含むとき、さらに追跡が容易となる。また、自社製品を追跡する観点などからは、EVOHの製造の際に、原料となるバイオマス由来のエチレン及びバイオマス由来のビニルエステル、並びに得られるEVOHに対して、硫黄化合物の含有量が検出限界値以下となるような過剰な精製を行わないことが好ましい場合がある。
(その他成分)
本発明のガスバリア樹脂組成物はカルボン酸をさらに含有することが好ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物がカルボン酸を含有すると、溶融成形性や高温下での着色耐性を改善できる。特に、ガスバリア樹脂組成物のpH緩衝能力が高まり、酸性物質や塩基性物質に対する着色耐性を改善できる場合がある点から、カルボン酸のpKaが3.5~5.5の範囲にあることがより好ましい。
本発明のガスバリア樹脂組成物がカルボン酸を含有する場合、その含有量の下限はカルボン酸根換算で30ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限は1000ppmが好ましく、600ppmがより好ましい。カルボン酸の含有量が30ppm以上であると、高温による着色耐性が良好になる傾向となる。一方、カルボン酸の含有量が1000ppm以下であると、溶融成形性が良好となる傾向となる。カルボン酸の含有量は、樹脂組成物10gを純水50mlで95℃にて8時間抽出して得られる抽出液を滴定することで算出する。ここで、樹脂組成物中のカルボン酸の含有量として、上記抽出液中に存在するカルボン酸塩の含有量は考慮しない。また、カルボン酸はカルボン酸イオンとして存在していてもよい。
カルボン酸としては、1価カルボン酸及び多価カルボン酸が挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。カルボン酸として1価カルボン酸と多価カルボン酸との両方を含む場合、ガスバリア樹脂組成物の溶融成形性や高温下での着色耐性をより改善できる場合がある。また、多価カルボン酸は、3個以上のカルボキシ基を有してもよい。この場合、本発明のガスバリア樹脂組成物の着色耐性をさらに向上できる場合がある。
1価カルボン酸とは、分子内に1つのカルボキシ基を有する化合物である。1価のカルボン酸のpKaが3.5~5.5の範囲にあることが好ましい。このような1価カルボン酸としては、例えばギ酸(pKa=3.77)、酢酸(pKa=4.76)、プロピオン酸(pKa=4.85)、酪酸(pKa=4.82)、カプロン酸(pKa=4.88)、カプリン酸(pKa=4.90)、乳酸(pKa=3.86)、アクリル酸(pKa=4.25)、メタクリル酸(pKa=4.65)、安息香酸(pKa=4.20)、2-ナフトエ酸(pKa=4.17)が挙げられる。これらのカルボン酸は、pKaが3.5~5.5の範囲にある限り、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子といった置換基を有してもよい。中でも、安全性が高く、取扱いが容易であることから酢酸が好ましい。
多価カルボン酸とは、分子内に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物である。この場合、少なくとも1つのカルボキシ基のpKaが3.5~5.5の範囲にあることが好ましい。このような多価カルボン酸として、例えばシュウ酸(pKa2=4.27)、コハク酸(pKa1=4.20)、フマル酸(pKa2=4.44)、リンゴ酸(pKa2=5.13)、グルタル酸(pKa1=4.30、pKa2=5.40)、アジピン酸(pKa1=4.43、pKa2=5.41)、ピメリン酸(pKa1=4.71)、フタル酸(pKa2=5.41)、イソフタル酸(pKa2=4.46)、テレフタル酸(pKa1=3.51、pKa2=4.82)、クエン酸(pKa2=4.75)、酒石酸(pKa2=4.40)、グルタミン酸(pKa2=4.07)、アスパラギン酸(pKa=3.90)が挙げられる。
本発明のガスバリア樹脂組成物はリン酸化合物をさらに含有することが好ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物がリン酸化合物を含有する場合、その含有量の下限はリン酸根換算で1ppmが好ましく、3ppmがより好ましい。一方、上記含有量の上限はリン酸根換算で200ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。この範囲でリン酸化合物を含有すると、本発明のガスバリア樹脂組成物の熱安定性を改善できる場合がある。特に、長時間に亘って溶融成形を行う際のゲル状ブツの発生や着色を抑制できる場合がある。リン酸化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩は第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形であってもよい。リン酸塩のカチオン種として、アルカリ金属、アルカリ土類金属が挙げられる。リン酸化合物として、具体的には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、ホウ素化合物をさらに含有することが好ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物がホウ素化合物を含有する場合、その含有量の下限はホウ素原子換算で5ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、上記含有量の上限はホウ素原子換算で5000ppmが好ましく、1000ppmがより好ましい。この範囲でホウ素化合物を含有すると、本発明のガスバリア樹脂組成物の溶融成形時の熱安定性を向上でき、ゲル状ブツの発生を抑制できる場合がある。また、得られる成形体の機械物性を向上できる場合もある。これらの効果は、EVOHとホウ素化合物との間にキレート相互作用が発生することに起因すると推測される。ホウ素化合物としては、例えばホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素が挙げられる。具体的には、ホウ酸としては、例えばオルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、四ホウ酸が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルが挙げられ、ホウ酸塩としては、例えば上記ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂が挙げられる。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、金属原子(D)以外の金属のイオン(金属イオン(E))をさらに含有することが好ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物が金属イオン(E)を含有すると、多層の成形体、すなわち多層構造体としたときの層間接着性が優れたものとなる。層間接着性が向上する理由は定かでないが、ガスバリア樹脂組成物からなる層と隣接する層中に、EVOHのヒドロキシ基と反応し得る官能基を有する分子が含まれる場合には、金属イオン(E)によって両者の結合生成反応が加速されると考えられる。また、金属イオン(E)と上記したカルボン酸との含有比率を制御すると、本発明のガスバリア樹脂組成物の溶融成形性や着色耐性も改善できる。
本発明のガスバリア樹脂組成物が金属イオン(E)を含有する場合、金属原子(D)及び金属イオン(E)の合計含有量の下限は5ppmが好ましく、100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。一方、金属原子(D)及び金属イオン(E)の合計含有量の上限は1500ppmが好ましく、800ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。金属原子(D)及び金属イオン(E)の合計含有量が5ppm以上であると、得られる多層構造体の層間接着性が良好となる傾向となる。一方、金属原子(D)及び金属イオン(E)の合計含有量が1500ppm以下であると、着色耐性が良好となる傾向となる。
金属イオン(E)としては、一価金属イオン、金属原子(D)以外の二価金属イオン、その他遷移金属イオンが挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。中でも一価金属イオン及び金属原子(D)以外の二価金属イオンが好ましく、一価金属イオンを含むことがより好ましい。
一価金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムのイオンが挙げられ、工業的な入手容易性の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。また、アルカリ金属イオンを与えるアルカリ金属塩としては、例えば脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩及びリン酸塩が入手容易である点から好ましく、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムが好ましい。
金属イオン(E)として金属原子(D)以外の二価金属イオンを含むことが好ましい場合もある。金属イオン(E)が金属原子(D)以外の二価金属イオンを含むと、例えばトリムを回収して再利用した際のEVOHの熱劣化が抑制され、得られる成形体のゲル及びブツの発生が抑制される場合がある。金属原子(D)以外の二価金属イオンとしては、例えばベリリウム、ストロンチウム及びバリウムのイオンが挙げられる。また、金属原子(D)以外の二価金属イオンを与える二価金属塩としては、例えばカルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、炭素数1~30のカルボン酸が好ましく、具体的には、酢酸、ステアリン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、オクチル酸、セバシン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、中でも、酢酸及びステアリン酸が好ましい。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば、ブロッキング防止剤、加工助剤、EVOH及びPA以外の樹脂、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、界面活性剤、乾燥剤、酸素吸収剤、架橋剤、各種繊維などの補強剤などのその他成分を含有してもよい。
ブロッキング防止剤としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、タングステン及びモリブデンなどから選ばれる元素の酸化物、窒化物、酸化窒化物等が挙げられ、これらの中でも入手容易性から酸化ケイ素が望ましい。本発明のガスバリア樹脂組成物がブロッキング防止剤を含むことで、耐ブロッキング性を高めることができる。
加工助剤としては、アルケマ社製Kynar(登録商標)、3M社製ダイナマー(登録商標)などのフッ素系加工助剤が挙げられる。本発明のガスバリア樹脂組成物が加工助剤を含むことで、ダイリップへの目やに付着を防止できる傾向となる。
EVOH及びPA以外の樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。
溶融安定性等を改善するための安定剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤等が挙げられる。本発明のガスバリア樹脂組成物が安定剤を含む場合、その含有量は0.001~1質量%が好ましい。
酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、エチレン-2-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
可塑剤としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。
帯電防止剤としては、ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等が挙げられる。
滑剤としては、エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。
充填剤としては、グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
乾燥剤としては、リン酸塩(上記リン酸塩を除く)、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、砂糖、シリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高吸水性樹脂等が挙げられる。
本発明のガスバリア樹脂組成物の含水量は、成形加工時のボイドの発生を防ぐ観点から、一種又は二種以上のEVOHの合計100質量部に対して、3.0質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましく、0.3質量部以下が特に好ましい。
本発明のガスバリア樹脂組成物は、EVOH(A)又はEVOH(A’)に起因する、バイオマス由来の不純物を含有する場合がある。様々な不純物を含有する可能性があるが、少なくとも鉄及びニッケル等の金属が多く含まれる場合が多い傾向にある。
本発明のガスバリア樹脂組成物を構成する全ての樹脂における一種又は二種以上のEVOH及びPA(C)が占める割合の下限は、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、98質量%が特に好ましく、99質量%であってもよい。本発明のガスバリア樹脂組成物を構成する樹脂は、実質的に一種又は二種以上のEVOH及びPA(C)のみであってもよく、一種又は二種以上のEVOH及びPA(C)のみであってもよい。また、本発明のガスバリア樹脂組成物における一種又は二種以上のEVOH及びPA(C)が占める割合の下限は、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましく、98質量%が特に好ましく、99質量%であってもよい。本発明のガスバリア樹脂組成物は、実質的に一種又は二種以上のEVOH、PA(C)及び金属原子(D)のみであってもよく、一種又は二種以上のEVOH、PA(C)及び金属原子(D)のみであってもよい。
(ガスバリア樹脂組成物のバイオベース度)
本発明のガスバリア樹脂組成物のバイオベース度の下限は、環境負荷を低減する観点から1%が好ましく、5%がより好ましく、20%がさらに好ましく、40%が特に好ましい。また、例えば特に優れたロングラン性が要求されない用途などにおいては、本発明のガスバリア樹脂組成物のバイオベース度の下限は、60%であってもよく、80%であってもよい。一方、本発明のガスバリア樹脂組成物のバイオベース度の上限は、ロングラン性を良好とする観点から99%が好ましく、95%がより好ましく、85%、75%、65%、55%、45%、35%又は25%がさらに好ましい場合もある。なお、このガスバリア樹脂組成物のバイオベース度とは、EVOH及びPA(C)以外の任意成分に含まれる他の樹脂等も考慮して測定される値をいう。
<ガスバリア樹脂組成物の製造方法>
本発明のガスバリア樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されない。例えばEVOH(A)とEVOH(B)とを含むガスバリア樹脂組成物の場合、
(1)EVOH(A)のペレットと、EVOH(B)のペレットと、PA(C)のペレットと、金属原子(D)を含む化合物と、必要に応じて上述したその他成分とを混合(ドライブレンド)し、混合されたペレットを溶融混練する方法
(2)EVOH(A)のペレット及び/又はEVOH(B)のペレットに、金属原子(D)及び必要に応じて上述したその他成分等が含まれる溶液に浸漬させた後、EVOH(A)のペレットとEVOH(B)のペレットとPA(C)のペレットとをドライブレンドし、これらを溶融混練する方法
(3)EVOH(A)のペレットとEVOH(B)のペレットとPA(C)のペレットとをドライブレンドし、これらを溶融混練する際に、押出機の途中で、金属原子(D)及び必要に応じて上述したその他成分を含む水溶液を液添する方法
(4)EVOH(A)の溶融樹脂とEVOH(B)の溶融樹脂とPA(C)の溶融樹脂とを溶融状態でブレンドする方法(金属原子(D)及びその他成分は、EVOH(A)及び/又はEVOH(B)に予め含ませておいても、押出機内で液添してもよい)
等が挙げられる。
上記(1)~(4)等の製造方法によれば、用途、性能等に応じて、EVOH(A)とEVOH(B)との混合比率を調整することで環境負荷の低減効果とロングラン性とのバランスを考慮しつつ、高いガスバリア性を有するガスバリア樹脂組成物を製造することができる。
本発明のガスバリア樹脂組成物の製造方法としては、一種又は二種以上のEVOHのペレットと、PA(C)のペレットと、マグネシウム、カルシウム及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子(D)を含む化合物とを混合し、溶融混練する方法が好ましい。この製造方法における混合の際の金属原子(D)を含む化合物の形態としては、固形状であってもよく、水溶液であってもよい。また、EVOHのペレットと、PA(C)のペレットと、金属原子(D)を含む化合物との混合は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。1段階で混合する場合、例えば上記(1)のように固形状の各成分をドライブレンドすることなどにより行うことができる。また、2段階で混合する場合、上記(3)のように、EVOHのペレットとPA(C)のペレットとをドライブレンドし、これらを溶融混練する際に、押出機の途中で、金属原子(D)を含む水溶液を液添することなどにより行うことができる。
これら中でも、(1)EVOH(A)のペレット、EVOH(B)のペレット、PA(C)のペレット及び金属原子(D)を含む化合物をドライブレンドして溶融混練する工程を含むことが好ましい。ペレット同士の混合やペレットと他の成分との混合には、例えばリボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサー等を用いることができる。
また、EVOH(A’)を含むガスバリア樹脂組成物の場合、公知の方法でEVOH(A’)を合成し、得られたEVOH(A’)に対して公知の方法でPA(C)及び金属原子(D)を混合し、必要に応じて公知の方法でその他の成分を混合することにより製造することができる。
<成形体>
本発明のガスバリア樹脂組成物を含む成形体は、本発明の好適な一実施態様である。本発明のガスバリア樹脂組成物は、単層構造の成形体とすることもできるし、他の各種基材等と共に2種以上の多層構造の成形体、すなわち多層構造体とすることもできる。成形方法としては、例えば押出成形、熱成形、異形成形、中空成形、回転成形、射出成形が挙げられる。本発明のガスバリア樹脂組成物を用いた成形体の用途は多岐に亘り、例えばフィルム、シート、容器、ボトル、タンク、パイプ、ホース等が挙げられる。
具体的な成形方法として、例えばフィルム、シート、パイプ、ホースは押出成形により、容器形状は射出成形により、ボトルやタンク等の中空容器は中空成形や回転成形により成形できる。中空成形としては、押出成形によりパリソンを成形し、これをブローして成形を行う押出中空成形と、射出成形によりプリフォームを成形し、これをブローして成形を行う射出中空成形が挙げられる。フレキシブル包装材や容器の製造には、押出成形によって多層フィルム等の包装材を成形する方法、押出成形によって成形した多層シートを熱成形して容器状の包装材にする方法が好適に用いられる。
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、本発明のガスバリア樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備える多層構造体である。当該多層構造体は、通常、本発明のガスバリア樹脂組成物からなる層と他の層とを積層して得られる。当該多層構造体の層数の下限としては、2であってよいが、3が好ましい。また、当該多層構造体の層数の上限としては、例えば1000であってよく、100であってもよく、20又は10であってもよい。
当該多層構造体の層構成としては、本発明のガスバリア樹脂組成物以外の樹脂または紙基材からなる層をx層、本発明のガスバリア樹脂組成物層をy層、接着性樹脂層をz層とすると、例えばx/y、x/y/x、x/z/y、x/z/y/z/x、x/y/x/y/x、x/z/y/z/x/z/y/z/x等が挙げられる。複数のx層、y層、z層を設ける場合は、その種類は同じでも異なってもよい。また、成形時に発生するトリム等のスクラップからなる回収樹脂を用いた層を別途設けてよいし、回収樹脂を他の樹脂からなる層に混合してもよい。多層構造体の各層の厚さ構成は、成形性及びコスト等の観点から、全層厚さに対するy層の厚さ比が通常2~20%である。当該多層構造体は、上記x層、y層及びz層以外の他の層を有していてもよい。
上記x層に使用される樹脂としては、加工性等の観点から熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂層は無延伸のものであってもよく、一軸又は二軸に延伸又は圧延されていてもよい。中でも、ポリオレフィンは耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性の点で、また、ポリアミドやポリエステルは機械的特性、耐熱性の点で好ましい。
また、上記x層に使用される紙基材としては、適用する紙容器の用途に応じて、種々の賦型性、耐屈曲性、剛性、腰、強度等を有する任意の紙を使用することができ、例えば、主強度材であり、強サイズ性の晒または未晒の紙、純白ロール紙、クラフト紙、板紙、加工紙、またはミルク原紙等の各種の紙を使用することができる。上記x層としての紙基材層は、これらの紙を複数層重ねてラミネートしたものであってもよい。紙基材層は、坪量80~600g/m2、好ましくは坪量100~450g/m2であり、厚さ110~860μm、好ましくは140~640μmの範囲である。紙基材層の厚さが上記範囲より薄いと、容器としての強度が不足し、また、紙基材層の厚さが上記範囲より厚いと、剛性が高くなりすぎて、加工が困難になり得る。なお、紙基材層には、例えば、文字、図形、記号、その他の所望の絵柄を通常の印刷方式にて任意に形成することができる。
上記z層に使用される接着性樹脂は各層間を接着できればよく、例えばポリウレタン系又はポリエステル系の一液型又は二液型硬化性接着剤、カルボン酸変性ポリオレフィンが好適である。ここで、カルボン酸変性ポリオレフィンとは、不飽和カルボン酸又はその無水物(無水マレイン酸等)を共重合成分として含むポリオレフィン系共重合体;又は不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィンにグラフトさせて得られるグラフト共重合体を意味する。
多層構造体を得る方法としては、例えば共押出成形、共押出中空成形、共射出成形、押出ラミネート、共押出ラミネート、ドライラミネート、溶液コート等が挙げられる。なお、このような方法で得られた多層構造体に対して、さらに真空圧空深絞成形、ブロー成形、プレス成形等の方法により、再加熱後に二次加工成形を行い、目的とする成形体構造にしてよい。また、多層構造体に対して、ロール延伸法、パンタグラフ延伸法、インフレーション延伸法等の方法により、EVOHの融点以下の範囲で再加熱後に一軸又は二軸延伸して、延伸された多層構造体を得ることもできる。
本発明のガスバリア樹脂組成物又は多層構造体を用いた成形体としては、容器(袋、カップ、チューブ、トレー、ボトル、紙カートン等)、燃料容器、パイプ、繊維、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、タイヤ用チューブ材、靴用クッション材、バッグインボックス用内袋材、有機液体貯蔵用タンク材、有機液体輸送用パイプ材、暖房用温水パイプ材(床暖房用温水パイプ材等)、化粧品用包装材、デンタルケア用包装材、医薬品用包装材、包材用子部品(キャップ、バッグインボックスのコック部分など)、農薬ボトル、農業用フィルム(温室用フィルム、土壌燻蒸用フィルム)、穀物保管用袋、ジオメンブレン、真空断熱板外袋、壁紙又は化粧板、水素、酸素等のガスタンク等を挙げることができ、良好な耐レトルト性を有していることから、包装材として用いることが好ましい。
<包装材>
本発明の包装材は、本発明の多層構造体を備える。本発明の包装材は、本発明の多層構造体からなる包装材であってよい。本発明の包装材は、環境負荷が低く、ガスバリア性、外観及び生産性も良好であり、耐レトルト性にも優れる。
本発明の包装材は、樹脂以外から形成される層、例えば紙層、金属層等を有していてもよい。本発明の包装材は、多層構造体そのままであってもよく、多層構造体が二次加工されたものであってもよい。二次加工することで得られる包装材としては例えば、(1)多層構造体を真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することにより得られるトレーカップ状容器、(2)多層構造体にストレッチブロー成形等を行って得られるボトル、カップ状容器、(3)多層構造体をヒートシールすることにより得られる袋状容器等が挙げられる。なお、二次加工法は、上記に例示した各方法に限定されることなく、例えば、ブロー成形等の上記以外の公知の二次加工法を適宜用いることができる。
本発明の包装材は、例えば食品、飲料物、農薬や医薬等の薬品、医療器材、機械部品、精密材料等の産業資材、衣料などを包装するために使用される。特に、本発明の包装材は、酸素に対するバリア性が必要となる用途、包装材の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好ましく使用される。また、本発明の包装材は耐レトルト性に優れるため、ボイル殺菌用またはレトルト殺菌用の包装材料として好ましく使用される。本発明の包装材は、用途に応じて種々の形態、例えば縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、容器用蓋材等に形成される。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[評価方法]
(1)EVOHのエチレン単位含有量及びケン化度
合成して得られたEVOHペレット並びに実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットについて、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)-d6に溶解し、500MHzの1H-NMR(日本電子株式会社製「JMTC-400/54/SS」)を用いて80℃で測定し、エチレン単位含有量及びケン化度を測定した。
上記測定のスペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
0.6~1.9ppm:エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、ビニルアルコール単位のメチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
1.9~2.0ppm:酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
3.1~4.2ppm:ビニルアルコール単位のメチンプロトン(1H)
(2)カルボン酸の定量
合成して得られたEVOHペレット又は実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット20gとイオン交換水100mLとを共栓付き200mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃で6時間攪拌抽出した。得られた抽出液にフェノールフタレインを指示薬としてN/50のNaOHで中和滴定し、カルボン酸のカルボン酸根換算の含有量を定量した。なお、リン化合物が含まれる態様においては、後述の評価方法で測定されるリン化合物の含有量を加味して、カルボン酸量を算出した。
(3)金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量
合成して得られたEVOHペレット又は実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後蓋をし、湿式分解装置(アクタック社の「MWS-2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社の「OPTIMA4300DV」)により元素分析を行い、EVOHペレット又はガスバリア樹脂組成物ペレットに含まれる、金属イオンの金属原子換算量、リン化合物のリン原子換算量及びホウ素化合物のホウ素原子換算量を求めた。この際、金属原子(D)として添加された金属原子の量も含めて金属イオンの金属原子換算量を求めた。
(4)バイオベース度
合成して得られたEVOHペレット並びに実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットについて、ASTM D6866-18に記載の方法に従い、加速器質量分析器(AMS)により放射性炭素(14C)の濃度を測定し、放射性炭素年代測定の原理に基づいて、バイオベース度を算出した。
(5)ロングラン性評価
(5-1)単層フィルム製膜欠点評価
単軸押出装置(株式会社東洋精機製作所の「D2020」;D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)を用い、実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットから平均厚み20μmの単層フィルムを作製した。このときの各条件は以下に示す通りである。
(単軸押出装置条件)
押出温度:230℃
スクリュー回転数:40rpm
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:3.1m/分
上記条件で連続運転して単層フィルムを作製し、運転開始1時間後及び5時間後に作製された各フィルムについて、フィルム長17cm当たりの欠点数をカウントした。上記欠点数のカウントは、フィルム欠点検査装置(フロンティアシステム社の「AI-10」)を用いて行った。なお、このフィルム欠点検査装置における検出カメラは、そのレンズ位置がフィルム面より195mmの距離となるように設置した。製膜欠点は、欠点数が50個未満の場合を「良好(A)」、50個以上200個未満の場合を「やや良好(B)」、200個以上の場合を「不良(C)」として判断した。
(5-2)単層フィルム外観性の評価
運転開始1時間後及び5時間後に作製されたフィルムについて、目視にて外観性(ストリーク)を下記評価基準により評価した。また、フィルム100mを紙管に巻き取ったロールを作製し、ロールの端部の黄変による外観性(着色)を目視で下記評価基準により評価した。
(ストリークの評価基準)
良好(A):ストリークは認められなかった
やや良好(B):ストリークが確認された
不良(C):多数のストリークが確認された
(ロール端部の着色の評価基準)
良好(A):無色
やや良好(B):黄変
不良(C):著しく黄変
(6)酸素透過度
実施例及び比較例で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットを用いて、下記条件で厚み20μmの単層フィルムを製膜し、20℃/65%RHの条件下で調湿した後、酸素透過度測定装置(ModernControlの「OX-Tran2/20」)を使用し、20℃/65%RHの条件下で酸素透過度を測定した。なお、本測定はJIS K 7126-2(等圧法;2006年)に準拠して実施した。
(単層フィルムの作製)
単軸押出装置(株式会社東洋精機製作所の「D2020」、D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)を用い、上記ガスバリア樹脂組成物ペレットから厚み20μmの単層フィルムを作製した。押出条件は以下に示すとおりである。
押出温度:230℃
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
スクリュー回転数:40rpm
引取りロール速度:3.1m/分
(7)耐レトルト性評価試験
上記評価方法(6)で得られた厚さ20μmの単層フィルム、二軸延伸ナイロン6フィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレム(登録商標)ON」、厚み15μm)及び無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、ト-セロCP、厚み60μm)をそれぞれA4サイズにカットし、単層フィルムの両面にドライラミネート用接着剤(「タケラック(登録商標)A-385」(三井化学株式会社製)を主剤、「タケネ-ト(登録商標)A-50」(三井化学株式会社製)を硬化剤、希釈液として酢酸エチルを用いたもの)を4.0g/mで塗布し、外層がナイロン6フィルム、内層が無延伸ポリプロピレンフィルムとなるようドライラミネ-トを実施し、得られたラミネートフィルムを80℃で3分間乾燥させて希釈液を蒸発させた。その後、40℃で3日間養生し、3層からなる透明な多層シートを得た。
得られた多層シートを用いて、内寸が12×12cmとなるように四方をシ-ルしたパウチを作製した。内容物は水とした。これをレトルト装置(株式会社日阪製作所製、高温高圧調理殺菌試験機、RCS-40RTGN)を使用して、120℃で20分のレトルト処理を実施した。レトルト処理後、表面水を拭き20℃、65%RHの高温高湿の部屋で1日静置してから、以下の基準で耐レトルト性を評価した。
(耐レトルト性の評価基準)
A(良好):透明性が確保されていた
B(不良):まだらに白化していた
[酢酸ビニル合成触媒の調製]
上海海源化工科技有限公司製シリカ球体担体HSV-I(球体直径5mm、比表面積160m2/g、吸水率0.75g/g)23g(吸水量19.7g)に、56質量%テトラクロロパラジウム酸ナトリウム水溶液1.5g及び17質量%テトラクロロ金酸四水和物水溶液1.5gを含む担体吸水量相当の水溶液を含浸させた後、メタケイ酸ナトリウム9水和物2.5gを含む水溶液40mLに浸漬し、20時間静置した。続いて、52質量%ヒドラジン水和物水溶液3.3mLを添加し、室温で4時間静置した後、水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗し、110℃で4時間乾燥した。得られたパラジウム/金/担体組成物を1.7質量%酢酸水溶液60mLに浸漬し、一晩静置した。次いで、一晩水洗し、110℃で4時間乾燥した。その後、2gの酢酸カリウムの担体吸水量相当水溶液に含浸し、110℃で4時間乾燥することで酢酸ビニル合成触媒を得た。
[酢酸ビニルの合成]
<VAM1の合成例>
上記酢酸ビニル合成触媒3mLをガラスビーズ75mLで希釈してSUS316L製反応管(内径22mm、長さ480mm)に充填し、温度150℃、圧力0.6MPaGでエチレン/酸素/水/酢酸/窒素=47.3/6.1/5.6/26.3/14.7(mol%)の割合に混合したガスを流量20NL/時で流通させ、反応を行い、酢酸ビニル(VAM1)を合成した。エチレンには、バイオマス由来のエチレン(Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン)を用い、このエチレンが充填されたガスボンベ(エチレン純度96.44%、内容積29.502L、内圧1.8234MPa)を使用した。また、酢酸には、バイオマス由来の酢酸(Godavari Biorefineries Ltd.製、サトウキビ由来のバイオ酢酸)を用い、220℃で気化させてから蒸気で反応系に導入した。
<VAM2~VAM4の合成>
原料のエチレン及び酢酸を表1に記載の通り、バイオマス由来及び/又は化石燃料由来のものに変更した以外は、VAM1と同様の方法でVAM2~VAM4の各酢酸ビニルを合成した。
なお、酢酸ビニルの合成に用いた原料としては、下記の原料を使用した。
・バイオマス由来のエチレン :Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン
・化石燃料由来のエチレン:エア・リキード工業ガス株式会社製、化石燃料由来のエチレン
・バイオマス由来の酢酸 :Godavari Biorefineries Ltd.製、サトウキビ由来のバイオ酢酸
・化石燃料由来の酢酸 :富士フィルム和光純薬株式会社製、化石燃料由来の酢酸
[EVOHの合成]
<EVOH(A1)ペレットの作製>
(エチレン-酢酸ビニル共重合体の重合)
ジャケット、攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に、VAM1を105kg、及びメタノール(以下、MeOHと称することもある)を45.7kg仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が2.87MPaとなるようにエチレンを昇圧して導入した。エチレンには、バイオマス由来のエチレン(Braskem S.A.製、サトウキビ由来のバイオエチレン)を用いた。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として34.7gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社の「V-65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を2.87MPaに、重合温度を60℃に維持した。3時間後にVAcの重合率が45%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、エチレン-酢酸ビニル共重合体にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。
(ケン化及び洗浄)
得られたエチレン-酢酸ビニル共重合体ジャケットの20質量%MeOH溶液250kgを、攪拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた500L反応槽に入れ、かかる溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウム4kgを濃度2規定のMeOH溶液として添加した。水酸化ナトリウムの添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間攪拌してケン化反応を進行させた。2時間経過した後に、再度、同様の方法で水酸化ナトリウムを4kg添加し、2時間加熱攪拌を継続した。その後、酢酸を14kg添加してケン化反応を停止し、イオン交換水50kgを添加した。加熱攪拌しながら反応槽外にMeOHと水を留出させ反応液を濃縮した。3時間経過した後、更にイオン交換水50kgを添加し、EVOHを析出させた。デカンテーションにより析出したEVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られたEVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:イオン交換水200Lに対し粉末10kgの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。これを60℃で16時間乾燥させることでEVOHの粗乾燥物を25kg得た。
(EVOH含水ペレットの製造)
得られたEVOHの粗乾燥物25kgを、ジャケット、攪拌機及び還流冷却器を備えた100L攪拌槽に入れ、さらに水20kg及びMeOH20gを加え、70℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径3mmのガラス管を通して5℃に冷却した重量比で水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。このEVOHの含水ペレットを濃度1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣とストランド析出時に使用したMeOHが除去された、EVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社のハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、110質量%であった。
(EVOH(A1)ペレットの製造)
得られたEVOHの含水ペレットを酢酸ナトリウム、酢酸、リン酸及びホウ酸が含まれる水溶液(浴比20)に投入し、定期的に攪拌しながら4時間浸漬させた。なお、各成分の濃度は、得られたEVOH(A1)ペレットにおける各成分の含有量が表2に記載の通りとなるように調整した。浸漬後に脱液し、空気下で80℃、3時間、及び空気下で130℃、7.5時間乾燥することにより、酢酸ナトリウム、酢酸、リン酸及びホウ酸を含むEVOH(A1)ペレットを得た。
<EVOH(A2)~EVOH(A9)、EVOH(B1)~EVOH(B4)の各ペレットの作製>
原料(原料モノマー)のエチレン及び酢酸ビニルの種類並びにリン酸化合物及びホウ素化合物の含有量を表2に記載の通り変更した以外は、EVOH(A1)ペレットと同様の方法で、EVOH(A2)ペレット~EVOH(A9)ペレット及びEVOH(B1)~EVOH(B4)ペレットを作製した。化石燃料由来のエチレンには、エア・リキード工業ガス株式会社製のエチレンを用いた。
EVOH(A1)ペレット~EVOH(A9)ペレット及びEVOH(B1)~EVOH(B4)ペレットのそれぞれについて、上記評価方法(1)~(4)に記載の方法に従い、エチレン単位含有量及びケン化度、カルボン酸の定量、金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量、並びにバイオベース度の測定を行った。結果を表2に示す。
ペレット(A1)~ペレット(A9)及びペレット(B1)~ペレット(B4)について、下記記載の方法に従って硫黄化合物の測定を行った。結果(硫黄化合物の硫黄原子換算の含有量及び種類)を表2に示す。
<硫黄化合物含有量の測定>
硫黄化合物の定量は三菱アナリテック製微量窒素硫黄分析装(TS-2100H型)を用いて行い、測定条件は以下の通りとした。
ヒーター温度:Inlet 900℃,Outlet 900℃
ガス流量:Ar,O2各300ml/min
[分析システム NSX-2100]
測定モード:TS
パラメータ:SD-210
測定時間(タイマー):540秒(9分)
PMT感度:高濃度
硫黄化合物の同定は、ガスクロマトグラフィー(GC)と、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて行った。GCの検出器としては、微量の硫黄化合物、リン化合物に対して高い感度を示すFPD(炎光光度検出器)を用いて行い、硫黄化合物が検出された保持時間で観測された質量成分を解析することで、同定を行った。
[実施例]
<実施例1>
EVOH(A1)ペレットを9質量部、EVOH(B1)ペレットを81質量部、ポリアミドペレット(宇部興産株式会社製「Ny1018A」(ナイロン6))(C)を10質量部、及び金属原子(D)を含む化合物として酢酸マグネシウムを金属原子換算で100ppm添加してドライブレンドした後、二軸押出機(株式会社東洋精機製作所の「2D25W」、25mmφ,ダイ温度230℃,スクリュー回転数100rpm)を用い、窒素雰囲気下で押出しペレット化を行い、実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットを得た。
得られた実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(1)~(7)に記載の方法に従って、エチレン単位含有量及びケン化度、カルボン酸の定量、金属イオン、リン酸化合物及びホウ素化合物の定量、バイオベース度、ロングラン性、酸素透過度並びに耐レトルト性の測定又は評価を行った。結果を表3、4に示す。
<実施例2~27、比較例1~8>
用いたEVOHの種類及び質量比(割合)、ポリアミド(C)の質量比、並びに金属原子(D)を含む化合物の種類及び金属原子換算の含有量を、表3に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~27及び比較例1~8の各ガスバリア樹脂組成物ペレットを作製し、評価した。結果を表3、4に示す。
表3、4に示されるように、実施例1~27の各ガスバリア樹脂組成物は、バイオマス由来の原料を一部に用いていながら、化石燃料由来のみのもの(比較例2のガスバリア樹脂組成物)と遜色のない高いガスバリア性を有していた。また、実施例1~27の各ガスバリア樹脂組成物は、運転開始1時間後に作製されたフィルムについての製膜欠点及びストリークの評価がA又はBであり、十分なロングラン性を有するものであった。
また、実施例及び比較例の結果から、EVOHを用いたガスバリア樹脂組成物において、ガスバリア性及び耐レトルト性はバイオベース度に依存しないのに対し、ロングラン性はバイオベース度が低くなるにつれて高まる傾向にあるという、特異的な性質があることが確認できた。例えば、バイオベース度が65%以下の実施例1~3、5~27の各ガスバリア樹脂組成物は、運転開始1時間後及び5時間後に作製されたフィルムについての製膜欠点及びストリークの評価がA又はBであり、高いロングラン性を有するものとなった。
また、比較例2と比較例4の結果から、耐レトルト性の発現にはポリアミド(C)がガスバリア樹脂組成物に含まれる必要はあること、比較例2と比較例3の結果から、ロングラン性の発現には金属原子(D)が必要であることが示唆された。
(トレーサビリティ性の評価)
実施例1で得られたガスバリア樹脂組成物ペレットの硫黄化合物含有量の測定、及びその同定を、EVOH(A)及びEVOH(B)ペレットを測定した手法と同様の方法で行った結果、硫黄化合物の含有量は硫黄原子換算で0.1ppmであり、硫黄化合物はジメチルスルフィドであった。実施例1の酸素透過度の評価で得られた単層フィルムを用いて、追跡可能性(トレーサビリティ性)の評価を行った。具体的には得られた単層フィルムの一部を切り出し、トレーサビリティ用試料とした。切り出した単層フィルムのバイオベース度を上記評価方法(4)に記載の方法に従って測定したところ9%であり、実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットで得られた値と一致し、トレーサビリティ性があることが確認された。また、切り出した単層フィルムの硫黄化合物含有量の測定、及びその同定を上記した方法と同様の方法で行った。単層フィルムに含まれる硫黄化合物は硫黄原子換算で0.1ppmであり、硫黄化合物はジメチルスルフィドであり、実施例1のガスバリア樹脂組成物ペレットで得られた値と一致し、トレーサビリティ性があることが確認された。