本発明の一態様にかかる磁気テープ装置は、磁気テープと、読取素子ユニットと、抽出部と、を含む。
磁気テープからのデータの読み取りに関して、図21に示す従来例では、長尺状の読取ヘッド200が、長手方向に沿って複数の読取素子202を備えている。磁気テープ204には、複数のトラック206が形成されている。読取ヘッド200は、長手方向が磁気テープ204の幅方向に一致するように配置されている。また、複数の読取素子202の各々は、複数のトラック206の各々に対して1対1の関係で割り当てられており、対向する位置のトラック206からデータを読み取る。
しかし、磁気テープ204は、通常、経時、環境、およびテンションの変動等に起因して伸縮する。磁気テープ204の幅方向に磁気テープが伸縮すると、読取ヘッド200において、長手方向の両端に配置された読取素子202の中心は、トラック206の中心からずれてしまう。磁気テープ204が幅方向に伸縮することにより変形すると、特に、複数の読取素子202のうち、読取ヘッド200の両端に近い読取素子202ほど、オフトラックの影響を大きく受けてしまう。オフトラックの影響を小さくするためには、例えば、トラック206の幅に余裕を持たせるという方法が考えられる。しかし、トラック206の幅を広げるほど、磁気テープ204の記録容量は小さくなってしまう。
また、一例として図22に示す従来例のように、読取ヘッド200には、通常、サーボ素子208が設けられている。磁気テープ204に対して、磁気テープ204の走行方向に沿って予め付与されたサーボパターンは、サーボ素子208によって読み取られる。そして、サーボ素子208によってサーボパターンが読み取られて得られたサーボ信号から、制御装置(図示省略)によって、例えば、一定の時間間隔で、読取素子202が磁気テープ204上のどの位置を走行しているかが特定される。これにより、磁気テープ204の幅方向のPES(Position Error Signal)が制御装置によって検出される。
このように、制御装置により読取素子202の走行位置が特定されると、特定された走行位置に基づいて、制御装置により、読取ヘッド用のアクチュエータ(図示省略)に対して帰還制御が行われることにより、磁気テープ204の幅方向のトラッキングが実現される。
しかし、トラッキングが行われたとしても、急峻な振動およびジッタの高周波成分等は、PESが増大する要因となり、読取対象トラックから読み取られたデータの再生品質の低下に繋がってしまう。
これに対し、本発明の一態様にかかる磁気テープ装置において、読取素子ユニットは、磁気テープに含まれるトラック領域のうちの読取対象トラックを含む特定トラック領域からデータをリニアスキャン方式で各々読み取る複数の読取素子を有し、上記抽出部は、上記読取素子毎の読取結果の各々に対して、上記磁気テープと上記読取素子ユニットとの位置のずれ量に応じた波形等化処理を施すことにより、上記読取結果から、上記読取対象トラックに由来するデータを抽出する。これにより、上記磁気テープ装置によれば、読取対象トラックからリニアスキャン方式で単一の読取素子のみによってデータが読み取られる場合に比べ、読取対象トラックから読み取られるデータの再生品質を高めることができる。その結果、良好な再生品質を確保できるずれ量(トラックオフセット量)の許容量を大きくすることができる。
また、上記のずれ量は、サーボパターンの読み取りにより検出される。しかしサーボパターンの読み取りにより検出されるずれ量と実際に生じているずれ量との誤差が大きいと、磁気テープの各箇所で読み取られた読取結果に対して、上記のずれ量に応じた波形等化処理が、必ずしも最適な波形等化処理とは言えない場合がある。これに対し、サーボパターンの読み取りにより検出されるずれ量と実際に生じているずれ量との誤差を小さくすることができれば、各箇所で読み取られた読取結果に対して、より適した波形等化処理を施すことが可能となる。その結果、上記の波形等化処理によって良好な再生品質を確保できるずれ量の許容量を大きくすることができる。
以上のように、良好な再生品質を確保できるずれ量の許容量を大きくできることは、トラックマージン(記録トラック幅−再生素子幅)を小さくしても高い再生品質(例えば高SNR、低エラーレート等)での再生を可能にすることに寄与し得る。そしてトラックマージンを小さくできることは、記録トラック幅を小さくして磁気テープの幅方向に配置可能な記録トラック数を増すこと、即ち高容量化に寄与し得る。
以上の点に関して、上記磁気テープ装置においてデータの読み取りが行われる磁気テープのXRD強度比が0.5以上4.0以下であり、かつ垂直方向角型比を0.65以上1.00以下であることは、サーボパターンを読み取って読取素子の位置を特定する精度を高めることに寄与すると考えられる。このことが、サーボパターンの読み取りにより検出されるずれ量と実際に生じているずれ量との誤差を小さくすることにつながると推察される。この点については更に後述する。
以下、上記磁気テープ装置について、更に詳細に説明する。以下では、上記磁気テープ装置について図面を参照して説明することがある。ただし上記磁気テープ装置は、図面に示す態様に限定されるものではない。
[磁気テープ装置の構成および磁気テープ読取処理]
一例として図1に示すように、磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ12、搬送装置14、読取ヘッド16、および制御装置18を備えている。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ12から磁気テープMTを引き出し、引き出した磁気テープMTから読取ヘッド16を用いてデータをリニアスキャン方式で読み取る装置である。データの読み取りとは、データの再生とも言うことができる。
制御装置18は、磁気テープ装置10の全体を制御する。一態様では、制御装置18により行われる制御は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現され得る。また、一態様では、制御装置18により行われる制御は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)によって実現され得る。また、制御装置18により行われる制御は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)を含むコンピュータによって実現されてもよい。また、AISC、FPGA、およびコンピュータのうちの2つ以上の組み合わせにより、上記制御が実現されてもよい。
搬送装置14は、磁気テープMTを順方向および逆方向に選択的に搬送する装置であり、送出モータ20、巻取リール22、巻取モータ24、複数のガイドローラGR、および制御装置18を備えている。
磁気テープカートリッジ12内には、カートリッジリールCRが設けられている。カートリッジリールCRには磁気テープMTが巻き掛けられている。送出モータ20は、制御装置18の制御下で、磁気テープカートリッジ12内のカートリッジリールCRを回転駆動させる。制御装置18は、送出モータ20を制御することで、カートリッジリールCRの回転方向、回転速度、および回転トルク等を制御する。
磁気テープMTが巻取リール22によって巻き取られる場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを順方向に走行させるように送出モータ20を回転させる。送出モータ20の回転速度および回転トルク等は、巻取リール22によって巻き取られる磁気テープMTの速度に応じて調整される。
巻取モータ24は、制御装置18の制御下で、巻取リール22を回転駆動させる。制御装置18は、巻取モータ24を制御することで、巻取リール22の回転方向、回転速度、および回転トルク等を制御する。
磁気テープMTが巻取リール22によって巻き取られる場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを順方向に走行させるように巻取モータ24を回転させる。巻取モータ24の回転速度および回転トルク等は、巻取リール22によって巻き取られる磁気テープMTの速度に応じて調整される。
このようにして送出モータ20および巻取モータ24の各々の回転速度および回転トルク等が調整されることで、磁気テープMTに既定範囲内の張力が付与される。ここで、既定範囲内とは、例えば、磁気テープMTから読取ヘッド16によってデータが読取可能な張力の範囲として、コンピュータシミュレーションおよび/または実機試験等により得られた張力の範囲を指す。
磁気テープMTをカートリッジリールCRに巻き戻す場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを逆方向に走行させるように送出モータ20および巻取モータ24を回転させる。
一態様では、送出モータ20および巻取モータ24の回転速度および回転トルク等が制御されることにより磁気テープMTの張力が制御されている。また、一態様では、磁気テープMTの張力は、ダンサローラを用いて制御されてもよいし、バキュームチャンバに磁気テープMTを引き込むことによって制御されてもよい。
複数のガイドローラGRの各々は、磁気テープMTを案内するローラである。磁気テープMTの走行経路は、複数のガイドローラGRが磁気テープカートリッジ12と巻取リール22との間において読取ヘッド16を跨ぐ位置に分けて配置されることによって定められている。
読取ヘッド16は、読取部26およびホルダ28を備えている。読取部26は、走行中の磁気テープMTに接触するようにホルダ28によって保持されている。
一例として図2に示すように、磁気テープMTは、トラック領域30およびサーボパターン32を備えている。サーボパターン32は、磁気テープMTに対する読取ヘッド16の位置の検出に用いられるパターンである。サーボパターン32は、テープ幅方向の両端部に、第1既定角度(例えば、95度)の第1斜線32Aと、第2既定角度(例えば、85度)の第2斜線32Bとが磁気テープMTの走行方向に沿って一定のピッチ(周期)で交互に配置されたパターンである。ここで言う「テープ幅方向」とは、磁気テープMTの幅方向を指す。
トラック領域30は、読取対象とされるデータが書き込まれた領域であり、磁気テープMTのテープ幅方向の中央部に形成されている。ここで言う「テープ幅方向の中央部」とは、例えば、磁気テープMTのテープ幅方向の一端部のサーボパターン32と他端部のサーボパターン32との間の領域を指す。以下では、説明の便宜上、「磁気テープMTの走行方向」を単に「走行方向」と称する。
読取部26は、サーボ素子対36および複数の読取素子ユニット38を備えている。ホルダ28は、テープ幅方向に長尺状に形成されており、ホルダ28の長手方向の全長は、磁気テープMTの幅よりも長い。サーボ素子対36は、ホルダ28の長手方向の両端部に配置されており、複数の読取素子ユニット38は、ホルダ28の長手方向の中央部に配置されている。
サーボ素子対36は、サーボ素子36Aおよび36Bを備えている。サーボ素子36Aは、磁気テープMTのテープ幅方向の一端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されており、サーボ素子36Bは、磁気テープMTのテープ幅方向の他端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されている。
ホルダ28において、サーボ素子36Aとサーボ素子36Bとの間には、複数の読取素子ユニット38がテープ幅方向に沿って配置されている。トラック領域30は、複数のトラックをテープ幅方向に等間隔に備えており、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、複数の読取素子ユニット38の各々がトラック領域30内の各トラックに対向して配置されている。
よって、読取部26と磁気テープMTとが磁気テープMTの長手方向に沿って直線状に相対移動することにより、トラック領域30内の各トラックのデータは、複数の読取素子ユニット38のうちの位置が対応する読取素子ユニット38の各々によってリニアスキャン方式で読み取られる。また、リニアスキャン方式では、読取素子ユニット38の読取動作と同期して、サーボ素子対36によってサーボパターン32が読み取られる。すなわち、リニアスキャン方式の一態様では、複数の読取素子ユニット38とサーボ素子対36によって磁気テープMTに対する読み取りが並行して行われる。
ここで、上記の「トラック領域30内の各トラック」とは、「磁気テープに含まれるトラック領域のうちの読取対象トラックを各々含む複数の特定トラック領域の各々」に含まれるトラックを指す。
上記の「磁気テープ装置10がデフォルトの状態」とは、磁気テープMTが変形することなく、かつ、磁気テープMTと読取ヘッド16との位置関係が正しい位置関係にある状態を指す。ここで、「正しい位置関係」とは、例えば、磁気テープMTのテープ幅方向の中心と読取ヘッド16の長手方向の中心とが一致する位置関係を指す。
一態様において、複数の読取素子ユニット38の各々は同じ構成である。以下では、説明の便宜上、複数の読取素子ユニット38のうちの1つを例に挙げて説明する。一例として図3に示すように、読取素子ユニット38は、一対の読取素子を備えている。図3に示す例において、「一対の読取素子」とは、第1読取素子40および第2読取素子42を指す。第1読取素子40および第2読取素子42の各々は、トラック領域30のうち読取対象トラック30Aを含む特定トラック領域31からデータを読み取る。
図3に示す例では、説明の便宜上、1つの特定トラック領域31を示している。実際には、通常、トラック領域30には、複数の特定トラック領域31が存在し、各々の特定トラック領域31に読取対象トラック30Aが含まれている。そして、複数の特定トラック領域31の各々に対して読取素子ユニット38が1つずつ割り当てられている。具体的には、複数の特定トラック領域31の各々の読取対象トラック30Aに対して読取素子ユニット38が1つずつ割り当てられている。
特定トラック領域31とは、隣接する3つのトラックを指す。隣接する3つのトラックのうちの1つ目のトラックは、トラック領域30のうちの読取対象トラック30Aである。隣接する3つのトラックのうちの2つ目のトラックは、読取対象トラック30Aに隣接する隣接トラックの1つである第1のノイズ混入源トラック30Bである。隣接する3つのトラックのうちの3つ目のトラックは、読取対象トラック30Aに隣接する隣接トラックの1つである第2のノイズ混入源トラック30Cである。読取対象トラック30Aは、トラック領域30において読取素子ユニット38に対向する位置のトラックである。すなわち、読取対象トラック30Aとは、換言すると、読取素子ユニット38のデータの読取対象とされたトラックを指す。
第1のノイズ混入源トラック30Bは、読取対象トラック30Aに対してテープ幅方向の一側方に隣接しており、読取対象トラック30Aから読み取られたデータに混入するノイズの混入源となるトラックである。第2のノイズ混入源トラック30Cは、読取対象トラック30Aに対してテープ幅方向の他側方に隣接しており、読取対象トラック30Aから読み取られたデータに混入するノイズの混入源となるトラックである。以下では、説明の便宜上、第1のノイズ混入源トラック30Bと第2のノイズ混入源トラック30Cとを区別して説明する必要がない場合、符号を付さずに「隣接トラック」と称する。
一態様では、トラック領域30内において、テープ幅方向に一定の間隔で複数の特定トラック領域31が配置されている。例えば、トラック領域30内において、テープ幅方向に一定の間隔で32個の特定トラック領域31が配置されており、各特定トラック領域31に対して読取素子ユニット38が1つずつ割り当てられている。
第1読取素子40と第2読取素子42とは、走行方向で近接した状態で、かつ、走行方向で一部が重なる位置に配置されている。磁気テープ装置10のデフォルトの状態で、第1読取素子40は、読取対象トラック30Aと第1のノイズ混入源トラック30Bとを跨ぐ位置に配置されている。磁気テープ装置10のデフォルトの状態で、第2読取素子42は、読取対象トラック30Aと第1のノイズ混入源トラック30Bとを跨ぐ位置に配置されている。
磁気テープ装置10のデフォルトの状態で、平面視において、第1読取素子40のうちの読取対象トラック30Aと対向している部分の面積は、第1読取素子40のうちの第1のノイズ混入源トラック30Bと対向している部分の面積よりも大きい。一方、磁気テープ装置10のデフォルトの状態で、平面視において、第2読取素子42のうちの第1のノイズ混入源トラック30Bと対向している部分の面積は、第1読取素子40のうちの読取対象トラック30Aと対向している部分の面積よりも大きい。
第1読取素子40によって読み取られたデータに対しては後述の第1等化器70(図7参照)によって波形等化処理が施される。第2読取素子42によって読み取られたデータに対しては後述の第2等化器72(図7参照)によって波形等化処理が施される。第1等化器70および第2等化器72の各々によって波形等化処理が施されて得られた各データは、加算器44によって加算されることで合成される。
図3では、読取素子ユニット38が第1読取素子40および第2読取素子42を有する態様を例に説明している。ただし、例えば、一対の読取素子のうちの1つの読取素子のみ(以下、単一読取素子とも称する)を用いても、読取素子ユニット38から得られる再生信号に相当する信号が得られる。
この場合、例えば、一例として図8に示すように、単一読取素子から得られる再生信号を、再生信号と同期してサーボ素子対36によって取得されたサーボ信号から算出されるトラック上の平面位置に割り当てる。そして、これをテープ幅方向に単一読取素子を移動させながら繰り返すことで、再生信号の2次元像(以下、単に「2次元像」と称する)を得る。ここで、2次元像、または、2次元像の一部を構成する再生信号(例えば、複数のトラックの位置に相当する再生信号)は、読取素子ユニット38から得られる再生信号に相当する信号である。
図23には、ループ状にした磁気テープMT(以下、「ループテープ」とも称する)を、ループテスタを用いて得た再生信号の2次元像の一例が示されている。ここで、ループテスタとは、例えば、ループテープを単一読取素子に対して繰り返し接触させた状態で搬送させる装置を指す。ループテスタと同様に2次元像を得るためには、リールテスタを用いてもよいし、実際のテープドライブを用いてもよい。ここで言う「リールテスタ」とは、例えば、磁気テープMTをリール形態で搬送させる装置を指す。
このように、近接した位置に複数の読取素子を搭載した読取素子ユニットを有しない従来型の磁気テープ用ヘッドを用いたとしても、本明細書に記載の技術に係る効果を定量的に評価することができる。本明細書に記載の技術に係る効果を定量的に評価するための指標の一例として、SNR、エラーレート等が挙げられる。
図4〜図6には、本発明者らが実験して得られた結果が示されている。一例として図4に示すように、トラック領域49上には読取素子対50が配置されている。トラック領域49は、テープ幅方向に隣接する第1トラック49A、第2トラック49B、および第3トラック49Cを含む。読取素子対50は、第1読取素子50Aおよび第2読取素子50Bからなる。第1読取素子50Aと第2読取素子50Bとは、テープ幅方向で近接する位置に配置されている。また、第1読取素子50Aは、読取対象トラックである第2トラック49Bに対向し、かつ、第2トラック49Bに収まるように配置されている。また、第2読取素子50Bは、第2トラック49Bの一側方に隣接する第1トラック49Aに対向し、かつ、第1トラック49Aに収まるように配置されている。
図5には、単一読取素子データと第1条件下での第1合成データとの各々に関するSNRとトラックオフセットとの相関の一例が示されている。また、図6には、単一読取素子データと第2条件下での第2合成データとの各々に関するSNRとトラックオフセットとの相関の一例が示されている。
ここで、単一読取素子データとは、図3に示す第1読取素子40と同様に、第1読取素子50Aによって読み取られたデータに対して波形等化処理が施されて得られたデータを指す。第1条件とは、読取素子ピッチが700nm(ナノメートル)との条件を指す。第2条件とは、読取素子ピッチが500nmとの条件を指す。読取素子ピッチとは、一例として図4に示すように、第1読取素子50Aと第2読取素子50Bとのテープ幅方向のピッチを指す。トラックオフセットとは、一例として図4に示すように、第2トラック49Bのテープ幅方向の中心と第1読取素子50Aのトラック幅方向の中心とのずれ量を指す。
第1合成データとは、第1条件下で各々得られた第1波形等化処理済みデータと第2波形等化処理済みデータとが加算されることで合成されたデータを指す。第1波形等化処理済みデータとは、図3に示す第1読取素子40と同様に、第1読取素子50Aによって読み取られたデータに対して波形等化処理が施されて得られたデータを指す。第2波形等化処理済みデータとは、図3に示す第2読取素子42と同様に、第2読取素子50Bによって読み取られたデータに対して波形等化処理が施されて得られたデータを指す。第2合成データとは、第2条件下で各々得られた第1波形等化処理済みデータと第2波形等化処理済みデータとが加算されることで合成されたデータを指す。
図5に示す第1合成データのSNRと図6に示す第2合成データのSNRとを比較すると、第1合成データのSNRは、トラックオフセットが−0.4μm(マイクロメートル)〜0.2μm辺りで急激に下落してグラフの途中で溝が生じているのに対し、第2合成データのSNRは、第1合成データのSNRのグラフのように途中で急激に下落することはない。第1合成データのSNRおよび第2合成データのSNRの各々は、単一読取素子データのSNRよりも高く、特に、第2合成データのSNRは、トラックオフセットの全範囲において、単一読取素子データのSNRよりも高い。
本発明者らは、図5および図6に示す実験結果から、第1読取素子50Aのみによりデータの読み取りが行われる場合に比べ、第1読取素子50Aと第2読取素子50Bとをテープ幅方向に近接させた状態でデータの読み取りを行わせることが好ましいことを知見した。ここで言う「近接させた状態」とは、例えば、第1読取素子50Aと第2読取素子50Bとが、接触することなく、トラックオフセットの全範囲において、単一読取素子データのSNRよりもSNRが高くなるようにテープ幅方向に並べて配置された状態を指す。
一態様では、一例として図3に示すように、読取素子ユニット38において、第1読取素子40と第2読取素子42とが走行方向に対して互いの一部をオーバーラップさせることで磁気テープMTに含まれるトラックの高密度化を実現している。
一例として図7に示すように、磁気テープ装置10は、アクチュエータ60、抽出部62、A/D(Analog/Digital)変換器64、66、68、復号部69、およびコンピュータ73を備えている。
制御装置18は、サーボ素子対36に対してA/D(Analog−to−digital)変換器68を介して接続されている。A/D変換器68は、サーボ素子対36に含まれるサーボ素子36Aおよび36Bによってサーボパターン32が読み取られて得られたアナログ信号をデジタル信号に変換することで得たサーボ信号を制御装置18に出力する。
制御装置18は、アクチュエータ60に接続されている。アクチュエータ60は、読取ヘッド16に取り付けられており、制御装置18の制御下で、動力を読取ヘッド16に付与することにより、読取ヘッド16をテープ幅方向に変動させる。アクチュエータ60は、例えば、ボイスコイルモータを含んでおり、読取ヘッド16に付与される動力は、磁石のエネルギーを媒体として、コイルに流れる電流に基づく電気エネルギーが運動エネルギーに変換されることによって得られる動力である。
ここでは、アクチュエータ60にボイスコイルモータが搭載されている態様を挙げている。ただし、上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されず、例えば、ボイスコイルモータに代えて圧電素子を採用することも可能である。また、ボイスコイルモータおよび圧電素子を併用することも可能である。
磁気テープMTと読取素子ユニット38との位置のずれ量は、サーボパターン32をサーボ素子対36が読み取って得た結果であるサーボ信号に応じて定められる。制御装置18は、アクチュエータ60を制御することにより、磁気テープMTと読取素子ユニット38との位置のずれ量に応じた動力を読取ヘッド16に付与することによって、読取ヘッド16をテープ幅方向に変動させ、読取ヘッド16の位置を正常な位置に調整する。ここで、正常な位置とは、例えば、図3に示すように、磁気テープ装置10がデフォルトの状態での読取ヘッド16の位置を指す。
以下では、説明の便宜上、磁気テープMTと読取素子ユニット38との位置のずれ量を単に「ずれ量」と称する。ずれ量は、例えば、図8に示すように、距離Bに対する距離Aの割合に基づいて算出される。距離Aとは、隣接する第1斜線32Aと第2斜線32Bとがサーボ素子36Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。距離Bとは、隣接する2つの第1斜線32Aがサーボ素子36Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。
抽出部62は、制御装置18および2次元FIRフィルタ71を備えている。2次元FIRフィルタ71は、加算器44、第1等化器70、および第2等化器72を備えている。
第1等化器70は、A/D変換器64を介して第1読取素子40に接続されている。また、第1等化器70は、制御装置18および加算器44の各々に接続されている。第1読取素子40によって特定トラック領域31から読み取られたデータはアナログ信号であり、A/D変換器64は、第1読取素子40によって特定トラック領域31から読み取られたデータをデジタル信号に変換することで得た第1読取信号を第1等化器70に出力する。
第2等化器72は、A/D変換器66を介して第2読取素子42に接続されている。また、第2等化器72は、制御装置18および加算器44の各々に接続されている。第2読取素子42によって特定トラック領域31から読み取られたデータはアナログ信号であり、A/D変換器66は、第2読取素子42によって特定トラック領域31から読み取られたデータをデジタル信号に変換することで得た第2読取信号を第2等化器72に出力する。なお、第1読取信号および第2読取信号は、「読取素子毎の読取結果」の一例である。
第1等化器70は、入力された第1読取信号に対して、波形等化処理を施す。例えば、第1等化器70は、入力された第1読取信号に対して、タップ係数を畳み込み演算し、演算処理後の信号である第1の演算処理済み信号を出力する。
第2等化器72は、入力された第2読取信号に対して、波形等化処理を施す。例えば、第2等化器72は、入力された第2読取信号に対して、タップ係数を畳み込み演算し、演算処理後の信号である第2の演算処理済み信号を出力する。
第1等化器70および第2等化器72の各々は、第1の演算処理済み信号および第2の演算処理済み信号を加算器44に出力する。加算器44は、第1等化器70から入力された第1の演算処理済み信号と、第2等化器72から入力された第2の演算処理済み信号とを加算することで合成し、合成して得た合成データを復号部69に出力する。
第1等化器70および第2等化器72の各々は、1次元FIRフィルタである。
一態様では、FIRフィルタ自体は、正負を含む実数値の系列であり、系列の行数はタップ数と称され、数値自体はタップ係数と称される。また、一態様では、波形等化とは、読取信号に対して、上記の実数値の系列、すなわち、タップ係数を畳み込み演算(積和算)する処理を指す。ここで言う「読取信号」とは、第1読取信号および第2読取信号の総称を指す。また、一態様では、等化器とは、読取信号またはその他の入力信号に対し、タップ係数を畳み込み演算し、演算処理後の信号を出力する処理を実行する回路を指す。また、一態様では、加算器とは、単純に2つの系列を加算する回路を指す。2つの系列の重み付けは、第1等化器70および第2等化器72で用いられるFIRフィルタの数値、すなわち、タップ係数に反映される。
制御装置18は、第1等化器70および第2等化器72の各々のFIRフィルタに対して、ずれ量に応じたタップ係数を設定することにより、第1等化器70および第2等化器72の各々に対して、ずれ量に応じた波形等化処理を実行させる。
制御装置18は、対応テーブル18Aを備えている。対応テーブル18Aでは、第1等化器70および第2等化器72の各々について、タップ係数とずれ量とが対応付けられている。タップ係数とずれ量との組み合わせは、例えば、実機の試験およびシミュレーションのうちの少なくとも一方が実施された結果に基づいて、加算器44によって最良の合成データが得られるタップ係数とずれ量との組み合わせとして予め得られた組み合わせである。ここで言う「最良の合成データ」とは、読取対象トラックデータに相当するデータを指す。
ここで、「読取対象トラックデータ」とは、「読取対象トラック30Aに由来するデータ」を指す。「読取対象トラック30Aに由来するデータ」とは、換言すると、読取対象トラック30Aに書き込まれているデータに相当するデータを指す。読取対象トラック30Aに書き込まれているデータに相当するデータの一例としては、読取対象トラック30Aから読み出されたデータであって、隣接トラックからのノイズ成分が混入されていないデータが挙げられる。
上記では、対応テーブル18Aを例示している。他の態様では、対応テーブル18Aに代えて、演算式を採用してもよい。ここで言う「演算式」とは、例えば、独立変数をずれ量とし、従属変数をタップ係数とした演算式を指す。
上記では、タップ係数とずれ量との組み合わせが規定された対応テーブル18Aからタップ係数が導出される態様が挙げられている。他の態様では、例えば、タップ係数と比との組み合わせが規定された対応テーブルまたは演算式からタップ係数が導出されてもよい。ここで言う「比」とは、第1読取素子40および第2読取素子42の各々についての、読取対象トラック30Aとの重複領域と隣接トラックとの重複領域との比を指す。比は、制御装置18により、ずれ量から算出されることで特定され、特定された比に応じて、タップ係数が定められる。
復号部69は、加算器44から入力された合成データを復号し、復号して得た復号信号をコンピュータ73に出力する。コンピュータ73は、復号部69から入力された復号信号に対して各種処理を施す。
次に、抽出部62によって実行される磁気テープ読取処理について、図9を参照して説明する。以下では、説明の便宜上、サンプリングの時期が到来すると、サーボ信号が制御装置18に入力されることを前提として説明する。ここで、サンプリングとは、サーボ信号のサンプリングに限らず、読取信号のサンプリングも意味する。すなわち、一態様では、トラック領域30が走行方向に沿ってサーボパターン32と並行して形成されているので、サーボ素子対36の読取動作に同期して読取素子ユニット38の読取動作が行われる。
図9に示す処理では、先ず、ステップ100で、制御装置18は、サンプリングの時期が到来したか否かを判定する。ステップ100において、サンプリングの時期が到来した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップ102へ移行する。ステップ100において、サンプリングの時期が到来していない場合は、判定が否定されて、ステップ100の判定が再び行われる。
ステップ102で、第1等化器70は、第1読取信号を取得し、第2等化器72は、第2読取信号を取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップ104へ移行する。
ステップ104で、制御装置18は、サーボ信号を取得し、取得したサーボ信号からずれ量を算出し、その後、磁気テープ読取処理はステップ106へ移行する。
ステップ106で、制御装置18は、第1等化器70および第2等化器72の各々の第1〜第3タップについて、ステップ104の処理で算出したずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18Aから導出する。すなわち、本ステップ106の処理が実行されることで、第1等化器70の一例である1次元FIRフィルタと第2等化器72の一例である1次元フィルタとの組み合わせとして最適な組み合わせが定められる。ここで言う「最適な組み合わせ」とは、例えば、後述のステップ112の処理が実行されることで出力される合成データを、読取対象トラックデータに相当するデータにする組み合わせを指す。
次のステップ108で、制御装置18は、ステップ106の処理で導出したタップ係数を第1等化器70および第2等化器72の各々に対して設定し、その後、磁気テープ読取処理はステップ110へ移行する。
ステップ110で、第1等化器70は、ステップ102の処理で取得した第1読取信号に対して波形等化処理を施すことで、第1の演算処理済み信号を生成する。第1等化器70は、生成した第1の演算処理済み信号を加算器44に出力する。第2等化器72は、ステップ102の処理で取得した第2読取信号に対して波形等化処理を施すことで、第2の演算処理済み信号を生成する。第2等化器72は、生成した第2の演算処理済み信号を加算器44に出力する。
次のステップ112で、加算器44は、一例として図10に示すように、第1等化器70から入力された第1の演算処理済み信号と、第2等化器72から入力された第2の演算処理済み信号とを加算することで合成する。そして、加算器44は、合成して得た合成データを復号部69に出力する。
図3に示す例のように読取素子ユニット38が特定トラック領域31上に配置されている場合、本ステップ112の処理が実行されることにより、合成データとして、第1のノイズ混入源トラック30Bからのノイズ成分が除去された読取対象トラックデータに相当するデータが出力される。つまり、ステップ102〜ステップ112の処理が実行されることにより、抽出部62によって、読取対象トラック30Aに由来するデータのみが抽出される。
磁気テープMTのテープ幅方向が伸縮したり、磁気テープMTおよび読取ヘッド16の少なくとも一方に対して振動が付与されたりした場合に、読取素子ユニット38が、一例として図3に示す位置から図11に示す位置に変位することがある。図11に示す例では、第1読取素子40と第2読取素子42とが、読取対象トラック30Aと第2のノイズ混入源トラック30Cとの双方に対して、共に跨る位置に配置される。この場合、ステップ102〜ステップ112の処理が実行されることで、第2のノイズ混入源トラック30Cからのノイズ成分が除去された読取対象トラックデータに相当するデータが合成データとして復号部69に出力される。
次のステップ114で、制御装置18は、磁気テープ読取処理を終了する条件(以下、「終了条件」と称する)を満たしたか否かを判定する。終了条件とは、例えば、磁気テープMTの全てが巻取リール22によって巻き取られたとの条件、磁気テープ読取処理を強制終了する指示が外部から与えられたとの条件等を指す。
ステップ114において、終了条件を満たしていない場合は、判定が否定されて、磁気テープ読取処理はステップ100へ移行する。ステップ114において、終了条件を満たした場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理が終了する。
以上説明したように、磁気テープ装置10の一態様では、近接した状態で配置された第1読取素子40および第2読取素子42により、特定トラック領域31からデータが各々読み取られる。そして、抽出部62により、第1読取素子40および第2読取素子42の各々に対して、ずれ量に応じた波形等化処理が施されることで、第1読取信号および第2読取信号から、読取対象トラック30Aに由来するデータが抽出される。従って、磁気テープ装置10は、読取対象トラック30Aからリニアスキャン方式で単一の読取素子のみによってデータが読み取られる場合に比べ、読取対象トラック30Aからリニアスキャン方式で読み取られるデータの再生品質の低下を抑制することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、第1読取素子40および第2読取素子42の互いの一部が走行方向で重なっている。従って、磁気テープ装置10は、複数の読取素子の互いの全体が走行方向で重なっている場合に比べ、読取対象トラック30Aからリニアスキャン方式で読み取られるデータの再生品質を高めることができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、特定トラック領域31は、読取対象トラック30A、第1のノイズ混入源トラック30B、および第2のノイズ混入源トラック30Cを含み、第1読取素子40および第2読取素子42の各々は、磁気テープMTとの位置関係が変化した場合に、読取対象トラック30Aおよび隣接トラックの双方に対して、共に跨っている。従って、磁気テープ装置10は、読取対象トラック30Aからリニアスキャン方式で単一の読取素子のみによってデータが読み取られる場合に比べ、テープ幅方向において読取対象トラック30Aから隣接トラックに入り込むことにより第1読取素子40および第2読取素子42のうちの一方の読取素子で生じるノイズ成分を、テープ幅方向において読取対象トラック30Aから隣接トラックに入り込んでいる他方の読取素子の読取結果を利用して低減することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、波形等化処理で用いられるタップ係数はずれ量に応じて定められる。従って、磁気テープ装置10は、タップ係数がずれ量とは関連性のないパラメータに応じて定められる場合に比べ、テープ幅方向において隣接トラックから読取対象トラック30Aに入り込むことで生じるノイズ成分を、磁気テープMTと読取素子ユニット38との位置関係の変化に追従して即時的に低減することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、第1読取素子40および第2読取素子42の各々について、読取対象トラック30Aとの重複領域と隣接トラックとの重複領域との比がずれ量から特定され、特定された比に応じてタップ係数が定められる。これにより、磁気テープ装置10は、複数の読取素子の各々についての読取対象トラック30Aとの重複領域と隣接トラックとの重複領域との比とは関連性のないパラメータに応じてタップ係数が定められる場合に比べ、磁気テープMTと読取素子ユニット38との位置関係が変化したとしても、ノイズ成分を正確に低減することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、ずれ量は、サーボパターン32をサーボ素子対36が読み取ることで得た結果に応じて定められる。これにより、磁気テープ装置10は、磁気テープMTにサーボパターン32が付与されていない場合に比べ、容易にずれ量を定めることができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、サーボ素子対36の読取動作に同期して読取素子ユニット38の読取動作が行われる。これにより、磁気テープ装置10は、サーボパターンとデータとを同期して読み取ることができない磁気ディスクおよびヘリカルスキャン方式の磁気テープに比べ、磁気テープの幅方向において隣接トラックから読取対象トラックに入り込むことで生じるノイズ成分を即時的に低減することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、抽出部62が2次元FIRフィルタ71を有している。そして、2次元FIRフィルタ71により、第1読取信号および第2読取信号の各々に対して波形等化処理が施されることで得られた各結果を合成することで、第1読取信号および第2読取信号から読取対象トラック30Aに由来するデータが抽出される。これにより、磁気テープ装置10は、1次元FIRフィルタのみを用いる場合に比べ、第1読取信号および第2読取信号から読取対象トラック30Aに由来するデータを迅速に抽出することができる。また、磁気テープ装置10は、行列演算を行う場合に比べ、より少ない演算量での演算を実現することができる。
また、磁気テープ装置10の一態様では、一対の読取素子として第1読取素子40および第2読取素子42が採用されている。これにより、磁気テープ装置10は、3つ以上の読取素子を用いる場合に比べ、読取素子ユニット38の小型化に寄与することができる。読取素子ユニット38が小型化されることにより、読取部26および読取ヘッド16も小型化可能となる。また、磁気テープ装置10は、隣接する読取素子ユニット38同士で接触するという事態の発生も抑制することができる。
更に、磁気テープ装置10の一態様では、複数の読取素子ユニット38の各々により、複数の特定トラック領域31の各々に含まれる対応する読取対象トラック30Aからリニアスキャン方式でデータが読み取られる。これにより、磁気テープ装置10は、複数の読取対象トラック30Aの各々から単一の読取素子ユニット38のみによってデータが読み取られる場合に比べ、複数の読取対象トラック30Aからのデータの読み取りを迅速に完遂することができる。
上記の態様では、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第1読取素子40および第2読取素子42の各々が、読取対象トラック30Aおよび第1のノイズ混入源トラック30Bの双方に対して、共に跨るように設けられている、ただし、上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されない。図12に示す例では、上記で説明した読取素子ユニット38に代えて読取素子ユニット138が採用されている。読取素子ユニット138は、第1読取素子140および第2読取素子142を備えている。磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第1読取素子140のテープ幅方向の中心は、読取対象トラック30Aのテープ幅方向の中心CLと一致している。また、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第1読取素子140および第2読取素子142は、第1のノイズ混入源トラック30Bおよび第2のノイズ混入源トラック30Cに食み出すことなく、読取対象トラック30Aに収まっている。更に、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、上記実施形態で説明した第1読取素子40および第2読取素子42と同様に、第1読取素子140および第2読取素子142の各々は、走行方向で互いの一部が重なるように設けられている。
一例として図12に示すように第1読取素子140および第2読取素子142が読取対象トラック30Aから食み出ることなく読取対象トラック30Aに対面している状態であっても、読取素子ユニット138と磁気テープMTとの位置関係が変化することがある。すなわち、読取素子ユニット138が読取対象トラック30Aと第1のノイズ混入源トラック30Bとに跨る場合と読取素子ユニット138が読取対象トラック30Aと第2のノイズ混入源トラック30Cとに跨る場合とがある。これらの場合であっても、上述したステップ102〜ステップ112の処理が実行されることにより、第1のノイズ混入源トラック30Bまたは第2のノイズ混入源トラック30Cからのノイズ成分が除去された読取対象トラックデータに相当するデータを得ることが可能となる。
また、第1読取素子140および第2読取素子142が走行方向で互いの一部が重なる位置に配置されているので、読取対象トラック30Aのうち、第1読取素子140では読み取ることができない部分から第2読取素子142がデータを読み出すことができる。この結果、第1読取素子140が単一で読取対象トラック30Aからデータを読み取る場合に比べ、読取対象トラックデータの信頼性を高めることができる。
また、一例として図11に示すように、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第1読取素子40および第2読取素子42の各々が、読取対象トラック30Aおよび第2のノイズ混入源トラック30Cの双方に対して、共に跨る位置に配置されるようにしてもよい。
また、上記では、第1読取素子40および第2読取素子42を含む読取素子ユニット38を例示した。ただし上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されない。図13に示す例では、読取素子ユニット38に代えて読取素子ユニット238が採用されている。読取素子ユニット238は、読取素子ユニット38に比べ、第3読取素子244を有する点が異なる。磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第3読取素子244は、第1読取素子40との間で、走行方向で互いの一部が重なる位置に配置されている。また、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第3読取素子244は、読取対象トラック30Aおよび第2のノイズ混入源トラック30Cに跨る位置に配置されている。
この場合、第1読取素子40に対して第1等化器70を割り当て、第2読取素子42に第2等化器72を割り当てた場合と同様に、第3読取素子244に対しても第3等化器(図示省略)を割り当てる。第3等化器も、上記で説明した第1等化器および第2等化器と同様の機能を有しており、第3読取素子244によって読み取られて得られた第3読取信号に対して波形等化処理を施す。そして、第3等化器は、第3読取信号に対して、例えばタップ係数を畳み込み演算し、演算処理後の信号である第3の演算処理済み信号を出力する。加算器44は、第1読取信号に対応する第1の演算処理済み信号と、第2読取信号に対応する第2の演算処理済み信号と、第3読取信号に対応する第3の演算処理済み信号とを加算することで合成し、合成して得た合成データを復号部69に出力する。
図13に示す例では、磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第3読取素子244が読取対象トラック30Aと第2のノイズ混入源トラック30Cとに跨った位置に配置されているが、本開示の技術はこれに限定されない。磁気テープ装置10がデフォルトの状態で、第3読取素子244が読取対象トラック30Aから食み出すことなく読取対象トラック30Aに対面する位置に配置されるようにしてもよい。
また、上記では、読取素子ユニット38を例示した。ただし上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されない。例えば、読取素子ユニット38に代えて、図4に示す読取素子対50が採用されてもよい。この場合、第1読取素子50Aおよび第2読取素子50Bは、テープ幅方向で近接する位置に配置されるようにする。また、第1読取素子50Aと第2読取素子50Bとが、接触することなく、一例として図6に示すように、トラックオフセットの全範囲において、単一読取素子データのSNRよりもSNRが高くなるようにテープ幅方向に並べて配置されるようにする。
図4に示す例では、例えば、第1読取素子50Aが平面視で第2トラック49B内に納まっており、第2読取素子50Bが平面視で第1トラック49A内に収まっている。
また、上記では、サーボ素子対36を例示した。ただし上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されない。例えば、サーボ素子対36に代えて、サーボ素子36Aおよび36Bのうちの1つを採用してもよい。
また、上記では、トラック領域30内において、複数の特定トラック領域31がテープ幅方向に一定の間隔で配列されている態様について説明した。ただし上記磁気テープ装置は、かかる態様に限定されない。例えば、複数の特定トラック領域31のうち、隣接する2つの特定トラック領域31において、一方の特定トラック領域31と他方の特定トラック領域31とがテープ幅方向において1トラック分だけ重複するようにテープ幅方向に配列させるようにしてもよい。この場合、一方の特定トラック領域31に含まれる一方の隣接トラック(例えば、第1のノイズ混入源トラック30B)が他方の特定トラック領域31では読取対象トラック30Aになる。また、一方の特定トラック領域31に含まれる読取対象トラック30Aは、他方の特定トラック領域31では隣接トラック領域(例えば、第2のノイズ混入源トラック30C)になる。
以上説明した磁気テープ装置の構成および磁気テープ読取処理はあくまでも例示である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において、不要なステップの削除、新たなステップの追加、処理順序の入れ替え等が可能であることは言うまでもない。
また、上記磁気テープ装置は、磁気テープに記録されたデータの読み取り(再生)を行うことができ、更に、磁気テープへのデータの記録を行うための構成を有することもできる。
[磁気テープ]
次に、上記磁気テープ装置においてデータの読み取りが行われる磁気テープの詳細について説明する。
<XRD強度比、垂直方向角型比>
以下に、XRD強度比および垂直方向角型比について説明する。
上記磁気テープの磁性層に含まれる強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末である。磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末の中には、六方晶フェライト粉末(粒子の集合)の磁気特性に影響を及ぼす粒子(以下、「前者の粒子」ともいう。)と、影響を及ぼさないか影響が少ないと考えられる粒子(以下、「後者の粒子」ともいう。)とが含まれていると推察される。後者の粒子は、例えば磁性層形成用組成物の調製時に行われる分散処理により粒子が一部欠けること(チッピング(chipping))により発生した微細な粒子と考えられる。そして磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末を構成する粒子の中で、前者の粒子は、In−Plane法を用いたX線回折分析において回折ピークをもたらす粒子と考えられ、一方、後者の粒子は微細なため回折ピークをもたらさないか回折ピークへの影響は小さいと考えられる。そのため、In−Plane法を用いた磁性層のX線回折分析によってもたらされる回折ピークの強度に基づけば、六方晶フェライト粉末の磁気特性に影響を及ぼす粒子の磁性層における存在状態を制御することができると推察される。XRD強度比は、この点に関する指標と考えられる。
一方、垂直方向角型比とは、磁性層表面に対して垂直な方向で測定される飽和磁化に対する残留磁化の比であって、残留磁化が小さいほど値が小さくなる。上記の後者の粒子は微細であり磁化を保持し難いと考えられるため、磁性層において後者の粒子が多く含まれるほど、垂直方向角型比は小さくなる傾向があると推察される。そのため、垂直方向角型比は、磁性層における上記の後者の粒子(微細な粒子)の存在量の指標になり得ると考えられる。
サーボパターンを読み取って読取素子の位置を特定する精度が低下する原因は、サーボライトヘッドによって磁化(サーボパターンを形成)する時に磁性層上の意図しない箇所も磁化されてしまうことにあると考えられる。そして、上記の意図しない箇所の磁化は、磁性層に磁気的な歪が発生することによって生じやすくなると推察される。これに対し、XRD強度比を0.5以上4.0以下とすること、および垂直方向角型比を0.65以上1.00以下とすることは、それぞれ以下のように磁性層における磁気的な歪の発生を抑制することに寄与するのではないかと推察される。
XRD強度比が0.5以上4.0以下であることは、前者の粒子が磁性層において適度に整列していることを意味すると考えられ、このことが磁性層における磁気的な歪の発生の抑制に寄与すると推察される。また、後者の粒子は微細なため、磁化反転しやすいと考えられる。垂直方向角型比が0.65以上1.00以下であることは、磁化反転しやすい後者の粒子の存在量が少ないことを意味すると考えられ、このことも磁性層における磁気的な歪の発生の抑制に寄与すると推察される。
以上により、サーボパターンを読み取って読取素子の位置を特定する精度を高めることができれば、サーボパターンの読み取りにより検出されるずれ量と実際に生じているずれ量との誤差を小さくすることが可能になると推察される。ただし以上は推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
(XRD強度比)
上記磁気テープは、磁性層に六方晶フェライト粉末を含む。XRD強度比は、六方晶フェライト粉末を含む磁性層をIn−Plane法を用いてX線回折分析することによって求められる。以下において、In−Plane法を用いて行われるX線回折分析を、「In−Plane XRD」とも記載する。In−Plane XRDは、薄膜X線回折装置を用いて、以下の条件で、磁性層表面にX線を照射して行うものとする。測定方向は、磁気テープの長手方向とする。
Cu線源使用(出力45kV、200mA)
Scan条件:20〜40degreeの範囲を0.05degree/step、0.1degree/min
使用光学系:平行光学系
測定方法::2θχスキャン(X線入射角0.25°)
上記条件は、薄膜X線回折装置における設定値である。薄膜X線回折装置としては、公知の装置を用いることができる。薄膜X線回折装置の一例としては、リガク社製SmartLabを挙げることができる。In−Plane XRDの分析に付す試料は、測定対象の磁気テープから切り出したテープ試料であって、後述する回折ピークが確認できればよく、その大きさおよび形状は限定されるものではない。
X線回折分析の手法としては、薄膜X線回折と粉末X線回折が挙げられる。粉末X線回折は粉末試料のX線回折を測定するのに対し、薄膜X線回折によれば基板上に形成された層等のX線回折を測定することができる。薄膜X線回折は、In−Plane法とOut−Of−Plane法とに分類される。測定時のX線入射角は、Out−Of−Plane法では5.00〜90.00°の範囲であるのに対し、In−Plane法では通常0.20〜0.50°の範囲である。本発明および本明細書におけるIn−Plane XRDでは、上記の通りX線入射角は0.25°とする。In−Plane法は、Out−Of−Plane法と比べてX線入射角が小さいためX線の侵入深さが浅い。したがって、In−Plane法を用いるX線回折分析(In−Plane XRD)によれば、測定対象試料の表層部のX線回折分析を行うことができる。テープ試料については、In−Plane XRDによれば磁性層のX線回折分析を行うことができる。上記のXRD強度比とは、かかるIn−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルの中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))である。Intは、Intensity(強度)の略称として用いている。In−Plane XRDにより得られるX線回折スペクトル(縦軸:Intensity、横軸:回折角2θχ(degree))において、(114)面の回折ピークは、2θχが33〜36degreeの範囲で検出されるピークであり、(110)面の回折ピークは、2θχが29〜32degreeの範囲で検出されるピークである。
回折面の中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面は、六方晶フェライト粉末の粒子(六方晶フェライト粒子)の磁化容易軸方向(c軸方向)近くに位置する。また、六方晶フェライト結晶構造の(110)面は、磁化容易軸方向と直交する方向に位置する。
In−Plane XRDによって求められるX線回折スペクトルにおいて、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114);XRD強度比)が大きいほど、磁化容易軸方向と直交する方向が磁性層表面に対してより平行に近い状態で存在する前者の粒子が磁性層に多く存在することを意味すると考えられ、一方、XRD強度比が小さいほど、そのような状態で存在する前者の粒子が磁性層に少ないことを意味すると考えられる。そして、XRD強度比が0.5以上4.0以下である状態とは、前者の粒子が磁性層において適度に整列した状態にあることを意味すると考えられる。このことが、磁性層における磁気的な歪の発生の抑制に寄与すると推察される。サーボライトヘッドによって磁化(サーボパターンを形成)する時に磁性層上の意図しない箇所も磁化されてしまうことをより一層抑制する観点から、XRD強度比は、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、XRD強度比は、0.7以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。XRD強度比は、例えば、磁気テープの製造工程において行われる配向処理の処理条件によって制御することができる。配向処理としては、垂直配向処理を行うことが好ましい。垂直配向処理は、好ましくは、湿潤状態(未乾燥状態)の磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対して垂直に磁場を印加することにより行うことができる。配向条件を強化するほど、XRD強度比の値は大きくなる傾向がある。配向処理の処理条件としては、配向処理における磁場強度等が挙げられる。配向処理の処理条件は特に限定されるものではない。0.5以上4.0以下のXRD強度比が実現できるように配向処理の処理条件を設定すればよい。一例として、垂直配向処理における磁場強度は、0.10〜0.80Tとすることができ、または0.10〜0.60Tとすることもできる。磁性層形成用組成物における六方晶フェライト粉末の分散性を高めるほど、垂直配向処理によりXRD強度比の値は大きくなる傾向がある。
(垂直方向角型比)
垂直方向角型比とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。垂直方向角型比は、振動試料型磁束計を用いて測定される。詳しくは、本発明および本明細書における垂直方向角型比は、振動試料型磁束計において、23℃±1℃の測定温度において、磁気テープに外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して求められる値であって、反磁界補正後の値とする。測定値は、振動試料型磁束計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。
上記テープの垂直方向角型比は、0.65以上1.00以下である。磁気テープの垂直方向角型比は、先に記載した後者の粒子(微細な粒子)の存在量の指標になり得ると推察される。磁気テープの垂直方向角型比が0.65以上1.00以下である磁性層は、かかる微細な粒子の存在量が少ないと考えられる。このことが、磁性層における磁気的な歪の発生の抑制に寄与すると推察される。サーボライトヘッドによって磁化(サーボパターンを形成)する時に磁性層上の意図しない箇所も磁化されてしまうことをより一層抑制する観点から、上記垂直方向角型比は0.68以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.73以上であることが更に好ましく、0.75以上であることが一層好ましい。また、角型比は、原理上、最大で1.00である。したがって、上記磁気テープの垂直方向角型比は1.00以下である。上記垂直方向角型比は、例えば0.95以下、0.90以下、0.87以下または0.85以下であってもよい。垂直方向角型比の値が大きいほど、磁性層中に上記の後者の粒子(微細な粒子)が少なく、磁性層における磁気的な歪の発生を抑制する観点から好ましいと考えられる。したがって、上記垂直方向角型比は、上記例示した値を上回ってもよい。
上記垂直方向角型比を0.65以上1.00以下とするためには、磁性層形成用組成物の調製工程において、粒子が一部欠けること(チッピング)によって微細な粒子が発生することを抑制することが好ましいと考えられる。チッピングの発生を抑制するための具体的手段は後述する。
次に、上記磁気テープに含まれる磁性層等について、更に詳細に説明する。
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末である。六方晶フェライト粉末の粒子サイズの指標としては、磁化反転の単位である活性化体積を採用することができる。一態様では、上記磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末の活性化体積は、1600nm3以下であることができ、1500nm3以下または1400nm3以下であってもよい。一般に、活性化体積が小さいほど高密度記録化に適していると言うことができる。一方、磁化の安定性の観点からは、上記六方晶フェライト粉末の活性化体積は、800nm3以上であることが好ましく、1000nm3以上であることがより好ましく、1200nm3以上であることが更に好ましい。
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10−1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1−[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s−1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
以上記載した活性化体積は、粉末として存在する六方晶フェライト粉末については、粉末そのものを測定用試料として用いて求めることができる。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶フェライト粉末については、磁性層から粉末を採取し測定用試料を得ることができる。測定用試料の採取は、例えば以下の方法により行うことができる。
1.磁性層表面にヤマト科学製プラズマリアクターで1〜2分間表面処理を施し、磁性層表面の有機物成分(結合剤等)を灰化して取り除く。
2.シクロヘキサノン、アセトン等の有機溶媒を浸したろ紙を金属棒のエッジ部に貼り付け、その上で上記1.の処理後の磁性層表面をこすり、磁性層成分を磁気テープからろ紙へ転写し剥離する。
3.上記2.で剥離した成分をシクロヘキサノン、アセトン等の有機溶媒の中に振るい落とし(ろ紙ごと有機溶媒の中に入れ超音波分散機で振るい落とす)、有機溶媒を乾燥させ剥離成分を取り出す。
4.上記3.で振るい落とした成分を十分洗浄したガラス試験管に入れ、その中にn−ブチルアミンを、例えば20ml程度加えてガラス試験管を密閉する。(n−ブチルアミンは、灰化せず残留した有機物成分を分解できる量加える。)
5.ガラス試験管を内温170℃で20時間以上加熱し、有機物成分を分解する。
6.上記5.の分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄後乾燥させ、粉末を取り出す。
7.上記6.で採取した粉末にネオジム磁石を近づけ吸着した粉末(即ち六方晶フェライト粉末)を取り出す。
以上の工程により、磁性層から活性化体積を測定するための六方晶フェライト粉末を採取することができる。上記処理によって六方晶フェライト粉末が受けるダメージはほとんどないため、上記方法により、磁性層に含まれていた状態の六方晶フェライト粉末について活性化体積の測定が可能である。
本発明および本明細書において、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味するものとし、集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、非磁性粉末等の、本発明および本明細書における各種粉末についても同様とする。六方晶フェライト粉末を構成する粒子(六方晶フェライト粒子)を、「六方晶フェライト粒子」または単に「粒子」とも呼ぶ。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011−225417号公報の段落0012〜0030、特開2011−216149号公報の段落0134〜0136、特開2012−204726号公報の段落0013〜0030および特開2015−127985号公報の段落0029〜0084を参照できる。
六方晶フェライト粉末に関して、六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。上記磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。また、六方晶フェライトの結晶構造には、構成原子として、鉄原子および二価金属原子が含まれる。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、バリウム原子、ストロンチウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。例えば、二価金属原子としてバリウム原子を含む六方晶フェライトは、バリウムフェライトであり、ストロンチウム原子を含む六方晶フェライトは、ストロンチウムフェライトである。また、六方晶フェライトは、二種以上の六方晶フェライトの混晶であってもよい。混晶の一例としては、バリウムフェライトとストロンチウムフェライトの混晶を挙げることができる。
六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状は、六方晶フェライト粉末を透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして得た粒子写真において、デジタイザーで粒子(一次粒子)の輪郭をトレースして特定するものとする。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、加速電圧300kVで透過型電子顕微鏡を用いて直接法により行うものとする。透過型電子顕微鏡観察および測定は、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型およびカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状に関して、「板状」とは、対向する2つの板面を有する形状をいう。一方、そのような板面を持たない粒子形状の中で、長軸と短軸の区別のある形状が「楕円状」である。長軸とは、粒子の長さを最も長く取ることができる軸(直線)として決定する。一方、短軸とは、長軸と直交する直線で粒子長さを取ったときに長さが最も長くなる軸として決定する。長軸と短軸の区別がない形状、即ち長軸長=短軸長となる形状が「球状」である。形状から長軸および短軸が特定できない形状を不定形と呼ぶ。上記の粒子形状を特定するための透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、撮影対象粉末に配向処理を施さずに行う。磁性層形成用組成物の調製に用いる原料粉末および磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末の形状は、板状、楕円状、球状および不定形のいずれでもよい。
本発明および本明細書に記載の各種粉末に関する平均粒子サイズは、上記のように撮影された粒子写真を用いて、無作為に抽出した500個の粒子について求められた値の算術平均とする。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて得られた値である。
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5〜5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5〜5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5〜4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0〜4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5〜4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015−91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10〜20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0〜15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05〜5.0原子%の範囲であることができる。
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5〜10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0〜5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は少なくとも結合剤であり、任意に一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型磁気テープであって、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0029〜0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter(内径))×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁気テープの製造工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0〜80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で使用することができる。
(添加剤)
磁性層には、強磁性粉末および結合剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。また、非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。なお後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011−048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に使用され得る添加剤の一例としては、特開2013−131285号公報の段落0012〜0022に記載の分散剤を、研磨剤の分散性を向上するための分散剤として挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030〜0033、0035および0036を参照できる。非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030、0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061を参照できる。
また、添加剤の一例である分散剤としては、カルボキシ基含有化合物、含窒素化合物等の公知の分散剤を使用することができる。例えば、含窒素化合物は、NH2Rで表される第一級アミン、NHR2で表される第二級アミン、NR3で表される第三級アミンのいずれであってもよい。上記において、Rは含窒素化合物を構成する任意の構造を示し、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。含窒素化合物は、分子中に複数の繰り返し構造を有する化合物(ポリマー)であってもよい。含窒素化合物の含窒素部が六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、含窒素化合物が分散剤として働くことができる理由と考えられる。カルボキシ基含有化合物としては、例えばオレイン酸等の脂肪酸を挙げることができる。カルボキシ基含有化合物については、カルボキシ基が六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、カルボキシ基含有化合物が分散剤として働くことができる理由と考えられる。カルボキシ基含有化合物と含窒素化合物を併用することも、好ましい。
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報の段落0146〜0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010−24113号公報の段落0040〜0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
上記磁気テープの非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006−331625号公報の段落0018〜0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目〜第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0〜6.0μmである。
磁性層の厚みは、近年求められている高密度記録化の観点からは0.15μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。磁性層の厚みは、更に好ましくは0.01〜0.1μmの範囲である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜1.5μmであり、0.1〜1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1〜0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
磁気テープの各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において厚み方向の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物は、先に説明した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体を製造するために一般に使用される各種有機溶媒を用いることができる。中でも、塗布型磁気記録媒体に通常使用される結合剤の溶解性の観点からは、各層形成用組成物には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン溶媒の一種以上が含まれることが好ましい。各層形成用組成物における溶媒量は特に限定されるものではなく、通常の塗布型磁気記録媒体の各層形成用組成物と同様にすることができる。また、各層形成用組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程、および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。磁気テープの製造のために、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報および特開平1−79274号公報に記載されている。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01〜3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
磁性層形成用組成物の分散処理に関しては、先に記載したように、チッピングの発生を抑制することが好ましい。そのためには、磁性層形成用組成物を調製する工程において、六方晶フェライト粉末の分散処理を二段階の分散処理により行い、第一の段階の分散処理により六方晶フェライト粉末の粗大な凝集物を解砕した後、分散ビーズとの衝突によって六方晶フェライト粉末の粒子に加わる衝突エネルギーが第一の分散処理より小さな第二の段階の分散処理を行うことが好ましい。かかる分散処理によれば、六方晶フェライト粉末の分散性向上とチッピングの発生の抑制とを両立することができる。
上記の二段階の分散処理の好ましい態様としては、六方晶フェライト粉末、結合剤および溶媒を、第一の分散ビーズの存在下で分散処理することにより分散液を得る第一の段階と、第一の段階で得られた分散液を、第一の分散ビーズよりビーズ径および密度が小さい第二の分散ビーズの存在下で分散処理する第二の段階と、を含む分散処理を挙げることができる。以下に、上記の好ましい態様の分散処理について、更に説明する。
六方晶フェライト粉末の分散性を高めるためには、上記の第一の段階および第二の段階は、六方晶フェライト粉末を他の粉末成分と混合する前の分散処理として行うことが好ましい。例えば、上記非磁性フィラーを含む磁性層を形成する場合、上記非磁性フィラーと混合する前に、六方晶フェライト粉末、結合剤、溶媒および任意に添加される添加剤を含む液(磁性液)の分散処理として、上記の第一の段階および第二の段階を行うことが好ましい。
第二の分散ビーズのビーズ径は、好ましくは、第一の分散ビーズのビーズ径の1/100以下であり、より好ましくは1/500以下である。また、第二の分散ビーズのビーズ径は、例えば第一の分散ビーズのビーズ径の1/10000以上であることができる。ただし、この範囲に限定されるものではない。例えば、第二の分散ビーズのビーズ径は、80〜1000nmの範囲であることが好ましい。一方、第一の分散ビーズのビーズ径は、例えば0.2〜1.0mmの範囲であることができる。
本発明および本明細書におけるビーズ径は、先に記載した粉末の平均粒子サイズの測定方法と同様の方法で測定される値とする。
上記の第二の段階は、質量基準で、第二の分散ビーズが、六方晶フェライト粉末の10倍以上の量で存在する条件下で行うことが好ましく、10倍〜30倍の量で存在する条件下で行うことがより好ましい。
一方、第一の段階における第一の分散ビーズ量も、上記範囲とすることが好ましい。
第二の分散ビーズは、第一の分散ビーズより密度が小さいビーズである。「密度」とは、分散ビーズの質量(単位:g)を体積(単位:cm3)で除して求められる。測定は、アルキメデス法によって行われる。第二の分散ビーズの密度は、好ましくは3.7g/cm3以下であり、より好ましくは3.5g/cm3以下である。第二の分散ビーズの密度は、例えば2.0g/cm3以上であってもよく、2.0g/cm3を下回ってもよい。密度の点から好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ等を挙げることができ、密度および硬度の点で好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズを挙げることができる。
一方、第一の分散ビーズとしては、密度が3.7g/cm3超の分散ビーズが好ましく、密度が3.8g/cm3以上の分散ビーズがより好ましく、4.0g/cm3以上の分散ビーズが更に好ましい。第一の分散ビーズの密度は、例えば7.0g/cm3以下であってもよく、7.0g/cm3超でもよい。第一の分散ビーズとしては、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等を用いることが好ましく、ジルコニアビーズを用いることがより好ましい。
分散時間は特に限定されるものではなく、用いる分散機の種類等に応じて設定すればよい。
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を非磁性支持体の表面に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)表面側とは反対の表面側に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−231843号公報の段落0066を参照できる。
(その他の工程)
磁気テープ製造のためのその他の各種工程については、特開2010−231843号公報の段落0067〜0070を参照できる。磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに配向処理を施すことが好ましい。配向処理については、特開2010−231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。先に記載したように、配向処理としては垂直配向処理を行うことが、XRD強度比を制御する観点から好ましい。配向処理については、先の記載も参照できる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気テープの搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
上記の磁気テープの製造方法は例示であって、XRD強度比および垂直方向角型比を調整可能な任意の手段によって、XRD強度比および垂直方向角型比をそれぞれ上記範囲に制御することができ、そのような態様も本発明に包含される。
上記磁気テープの磁性層には、サーボパターンが形成される。磁性層へのサーボパターンの形成は、サーボパターン記録ヘッド(「サーボライトヘッド(servo write head)」とも呼ばれる。)により、磁性層の特定の位置を磁化することにより行われる。トラッキングを可能とするためのサーボパターンの形状および磁性層における配置は公知であり、サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。上記磁気テープの磁性層が有するサーボパターンについては、公知技術を適用することができる。例えば、トラッキングの方式としては、タイミングベースサーボ方式と振幅ベースサーボ方式が知られている。上記磁気テープの磁性層に形成され得るサーボパターンは、いずれの方式のトラッキングを可能とするサーボパターンでもよい。また、タイミングベースサーボ方式でのトラッキングを可能とするサーボパターンと振幅ベースサーボ方式でのトラッキングを可能とするサーボパターンとが磁性層に形成されていてもよい。
磁気テープでは、通常、データは磁気テープのデータバンド上に記録される。これによりデータバンドにトラックが形成される。詳しくは、磁気テープには、通常、サーボパターンを有する領域(「サーボバンド」と呼ばれる。)が長手方向に沿って複数本存在する。データバンドは、2本のサーボバンドに挟まれた領域である。例えば、図2中のトラック領域30がデータバンドである。データの記録はデータバンド上で行われ、データバンドには複数のトラックが長手方向に沿って形成される。一例として、例えば、業界標準規格であるLTO(Linear−Tape−Open)Ultriumフォーマットテープには、タイミングベースサーボ方式でのトラッキングが可能なサーボパターンが形成される。タイミングベースサーボ方式でのトラッキングのためには、二種以上の異なる形状の複数のサーボパターンが磁性層に形成される。サーボヘッドが異なる形状の2つのサーボパターンを再生した(読み取った)時間間隔と、サーボヘッドが同種の形状の2つのサーボパターンを再生した時間間隔と、により、サーボヘッドの位置が認識される。こうして認識されたサーボヘッドの位置に基づき、トラッキングが行われる。詳しくは、LTO Ultriumフォーマットテープのテープ製造時に、図14に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。図14中、サーボバンド上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(図14中、符号A)およびBバースト(図14中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1〜A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1〜B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(図14中、符号C)およびDバースト(図14中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1〜C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1〜D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。図14には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のトラッキングが行われる磁気テープの磁性層では、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。図14中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。サーボ素子は、磁気テープ装置内で搬送される磁気テープの磁性層表面と接触し摺動しながら、複数のサーボフレームにおいて順次サーボパターンの読み取りを行う。以下、タイミングベースサーボ方式でのトラッキングが可能なサーボパターンを、「タイミングベースサーボパターン」という。
サーボライトヘッドによって磁化(サーボパターンを形成)する時に磁性層上の意図しない箇所も磁化されてしまうことが抑制されていることは、例えば、タイミングベースサーボパターンの磁気力顕微鏡観察により特定されるエッジ形状の磁気テープの長手方向における理想形状からの位置ずれ幅の累積分布関数99.9%の値L99.9と上記累積分布関数0.1%の値L0.1との差分(L99.9−L0.1)(以下、単に「差分(L99.9−L0.1)」とも記載する。)により評価することができる。タイミングベースサーボパターンは、磁性層に二種以上の異なる形状の複数のサーボパターンとして形成される。一例では、二種以上の異なる形状の複数のサーボパターンが、同種の形状の複数のサーボパターンごとに連続して一定の間隔をもって配置される。他の一例では、異なる種類のサーボパターンが交互に配置される。サーボパターンが同種の形状であることに関しては、サーボパターンのエッジ形状の位置ずれは不問とする。タイミングベースサーボ方式でのトラッキングが可能なサーボパターンの形状およびサーボバンド上での配置は公知であり、図14に示されているサーボパターンがその具体例である。本発明および本明細書において、タイミングベースサーボパターンの磁気力顕微鏡観察により特定されるエッジ形状は、磁気信号(データ)を記録する際の磁気テープ走行方向(以下、単に「走行方向」とも記載する。)に対して下流側に位置するエッジ(端辺)の形状とする。例えば図14中、矢印の進行方向側が上流側であり、反対側が下流側である。
以下に、タイミングベースサーボパターンの磁気力顕微鏡観察により特定されるエッジ形状、このエッジ形状の磁気テープの長手方向における理想形状からの位置ずれ幅の累積分布関数99.9%の値L99.9と上記累積分布関数0.1%の値L0.1との差分(L99.9−L0.1)、および理想形状について説明する。
以下では、磁気テープの幅方向の一方から他方に向かって連続的に延び、磁気テープの幅方向に対して角度αで傾斜した直線状サーボパターンを主に例に取り説明する。上記の角度αとは、磁気信号(データ)を記録する際の磁気テープの走行方向に対して下流側に位置するサーボパターンのエッジのテープ幅方向の端部2箇所を結ぶ線分と磁気テープの幅方向とのなす角度をいうものとする。この点を含め、以下に更に説明する。
図15および図16は、角度αの説明図である。図14に示すサーボパターンにおいて、サーボパターンA1〜A5、C1〜C4のように走行方向の上流側に向けて傾斜しているサーボパターンについては、下流側のエッジELの端部2箇所を結ぶ線分(図15中、破線L1)とテープ幅方向(図15中、破線L2)とのなす角度を角度αとする。一方、サーボパターンB1〜B5、D1〜D4のように走行方向の下流側に向けて傾斜しているサーボパターンについては、下流側のエッジELの端部2箇所を結ぶ線分(図16中、破線L1)とテープ幅方向(図16中、破線L2)とのなす角度を角度αとする。この角度αは、一般にアジマス角と呼ばれ、サーボバンド上に磁化領域(サーボパターン)を形成する際のサーボライトヘッドの設定により定められる。
サーボバンド上に磁化領域(サーボパターン)を形成する際、サーボパターンが理想的に形成されたならば、上記の磁気テープの幅方向に対して角度αで傾斜したサーボパターンのエッジ形状は、上記のエッジ端部2箇所を結ぶ線分(図15および図16中、破線L1)の形状と一致する。即ち直線になる。したがって、エッジ上の各箇所において、磁気テープの長手方向における理想形状からの位置ずれ幅(以下、単に「位置ずれ幅」とも記載する。)はゼロになる。しかし、図17に一例を示すようにサーボパターンのエッジ形状が理想形状からずれてしまい、この位置ずれ幅が大きく、かつエッジ各箇所での位置ずれ幅の値のばらつきが大きいことは、サーボパターンを読み取って読取素子の位置を特定する精度を低下させる要因になると考えられる。これに対し、上記の差分(L99.9−L0.1)は、サーボパターンのエッジ各位置で理想形状からの位置ずれ幅が小さく、かつエッジ各箇所での位置ずれ幅の値のばらつきが小さいことの指標となり得る値である。
差分(L99.9−L0.1)は、以下の方法により求められる値である。
サーボパターンが形成された磁気テープの磁性層表面を磁気力顕微鏡(MFM;Magnetic Force Microscope)で観察する。測定範囲は、サーボパターンが5本含まれる範囲とする。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープでは、測定範囲を90μm×90μmとすることにより、AバーストまたはBバーストの5本のサーボパターンを観察することができる。測定範囲を100nmピッチで測定(粗測定)することによりサーボパターン(磁化領域)を抽出する。
その後、サーボパターンの、走行方向に対して下流側に位置するエッジにおいて磁化領域と非磁化領域との境界を検出するために、上記境界近傍において5nmピッチで測定を行い磁気プロファイルを得る。得られた磁気プロファイルが、磁気テープの幅方向に対して角度α傾斜している場合には、解析ソフトにより磁気テープ幅方向に沿うように(α=0°となるように)回転補正する。その後、解析ソフトにより、5nmピッチで測定された各プロファイルのピーク値の位置座標を算出する。このピーク値の位置座標は、磁化領域と非磁化領域との境界の位置を示している。位置座標は、例えば、走行方向をx座標、幅方向をy座標とするxy座標系により特定される。
理想形状が直線であって直線上のある位置の位置座標が(x,y)=(a,b)である場合を例に取ると、実際に求められたエッジ形状(上記境界の位置座標)が理想形状と一致していたならば、算出される位置座標は、(x,y)=(a,b)となる。この場合、位置ずれ幅はゼロである。これに対し、実際に求められたエッジ形状が理想形状からずれていたならば、上記境界のy=bの位置のx座標は、x=a+cまたはx=a―cとなる。x=a+cとは、例えば走行方向に対して上流側に幅cずれている場合であり、x=a−cとは、例えば走行方向に対して下流側に幅c(即ち上流側を基準にすると−c)ずれている場合である。ここでcが、位置ずれ幅である。即ち、理想形状からのx座標の位置ずれ幅の絶対値が、磁気テープの長手方向における理想形状からの位置ずれ幅である。こうして、5nmピッチでの測定により求められた走行方向の下流側のエッジ各箇所での位置ずれ幅を求める。
各サーボパターンについて得られた値から、解析ソフトにより累積分布関数を得る。得られた累積分布関数から、累積分布関数99.9%の値L99.9と0.1%の値L0.1とを求め、求められた値から各サーボパターンについて差分(L99.9−L0.1)を求める。
以上の測定を、異なる3箇所の測定範囲で行う(測定数N=3)。
各サーボパターンについて得られた差分(L99.9−L0.1)の算術平均を、磁気テープについての上記の差分(L99.9−L0.1)と定義する。
本明細書におけるサーボパターンのエッジ形状の「理想形状」とは、位置ずれなくサーボパターンが形成された場合のエッジ形状をいう。例えば、一態様では、上記サーボパターンは、磁気テープの幅方向の一方から他方に向かって連続的または不連続に延びる直線状サーボパターンである。サーボパターンについての「直線状」とは、エッジ形状の位置ずれは不問として、パターン形状として曲線部分を含まないことをいう。「連続的」とは、傾斜角度の変曲点なく、かつ途切れることなく、テープ幅方向の一方から他方に向かって延びることをいう。磁気テープの幅方向の一方から他方に向かって連続的に延びるサーボパターンの一例は、図14に示したサーボパターンである。これに対し、「不連続」とは、傾斜角度の変曲点が1つ以上あるか、および/または、1箇所以上で途切れて延びていることをいう。傾斜角度の変曲点はあるが途切れずに延びる形状は、いわゆる折れ線形状である。傾斜角度の変曲点が1つで途切れることなくテープ幅方向の一方から他方に向かって延びる不連続なサーボパターンの一例は、図18に示すサーボパターンである。一方、傾斜角度の変曲点なく1箇所で途切れてテープ幅方向の一方から他方に向かって延びる不連続なサーボパターンの一例は、図19に示すサーボパターンである。また、傾斜角度の変曲点が1つで、1箇所で途切れてテープ幅方向の一方から他方に向かって延びる不連続なサーボパターンの一例は、図20に示すサーボパターンである。
テープ幅方向の一方から他方に向かって連続的に延びる直線状サーボパターンについて、エッジ形状の「理想形状」とは、直線状のサーボパターンの走行方向の下流側のエッジの端部2箇所を結ぶ線分の形状(直線形状)である。例えば図14に示した直線状サーボパターンについては、図15または図16中のL1で示した直線の形状である。一方、不連続に延びる直線状サーボパターンについては、理想形状とは、傾斜角度の変曲点がある形状については、傾斜角度が同じ部分の一端から他端を結ぶ線分の形状(直線形状)である。また、1箇所以上で途切れて延びている形状については、連続的に延びている各部分のそれぞれの一端から他端を結ぶ線分の形状(直線形状)である。例えば、図18に示すサーボパターンについては、e1とe2とを結ぶ線分、およびe2とe3とを結ぶ線分である。図19に示すサーボパターンについては、e4とe5とを結ぶ線分、およびe6とe7とを結ぶ線分である。図20に示すサーボパターンについては、e8とe9とを結ぶ線分、およびe10とe11とを結ぶ線分である。
上記では、直線状サーボパターンを例に説明した。ただし、サーボパターンはエッジ形状の理想形状が曲線形状のサーボパターンであってもよい。例えば走行方向に対して下流側のエッジ形状が理想的には部分円弧形状のサーボパターンについては、この部分円弧の位置座標に対して、走行方向に対して下流側のエッジ形状の磁気力顕微鏡により求められる位置座標により求められる位置ずれ幅から、差分(L99.9−L0.1)を求めることができる。
以上の測定で用いる磁気力顕微鏡としては、市販の、または公知の構成の磁気力顕微鏡を周波数変調(FM:Frequency Modulation)モードで用いる。磁気力顕微鏡のプローブとしては、例えば、Nanoworld社製SSS−MFMR(公称曲率半径15nm)を用いることができる。磁気力顕微鏡観察時の磁性層表面とプローブ先端との間の距離は、20〜50nmの範囲とする。
また、上記解析ソフトとしては、市販の解析ソフト、または公知の演算式を組み込んだ解析ソフトを用いることができる。
上記の差分(L99.9−L0.1)は、180nm以下であることができ、170nm以下、160nm以下、150nm以下、140nm以下、130nm以下、120nm以下、110nm以下、または100nm以下であることができる。また、差分(L99.9−L0.1)は、例えば50nm以上、60nm以上、または70nm以上であることができる。差分(L99.9−L0.1)は、サーボパターンを形成するために用いるサーボライトヘッドの種類(具体的には漏れ磁界)により制御することができる。サーボライトヘッドとしては、例えば漏れ磁界が150〜400kA/m、好ましくは200〜400kA/mの範囲のサーボライトヘッドを用いることができる。ただし、磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末の活性化体積が小さくなるほど、サーボライトヘッドの能力を高めるのみでは、差分(L99.9−L0.1)を小さくすることが容易ではなくなる傾向がある。これは、活性化体積が小さいことに起因して、磁性層における六方晶フェライト粉末の粒子の配列が歪み易く、磁性層に磁気的な歪が生じやすいことが理由ではないかと推察される。ただし、推察に過ぎない。これに対し、上記範囲のXRD強度比および垂直方向角型比を有する磁気テープは、磁性層に含まれる六方晶フェライト粉末の活性化体積が小さいとしても、差分(L99.9−L0.1)を小さくすること、例えば180nm以下にすることが容易である。この点は、タイミングベースサーボパターン以外のサーボパターンについても当てはまり得る。即ち、XRD強度比および垂直方向角型比が先に記載した範囲であることは、サーボライトヘッドによって磁化(サーボパターンを形成)する時に磁性層上の意図しない箇所も磁化されてしまうことを抑制することに寄与し得る。
タイミングベースサーボシステムでは、例えば、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対のサーボパターン(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)がサーボ素子によって読み取られることにより、サーボ信号が得られる。
一態様では、特開2004−318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボパターンのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボパターンのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対のサーボパターン(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボパターンの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボパターンの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
サーボライトヘッドは、上記一対のサーボパターンに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。 各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1〜10μm、10μm以上等に設定可能である。
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012−53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いたパターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いたパターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
以上説明した磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気テープ装置に装着される。磁気テープカートリッジの構成は公知である。
一態様によれば、以下の磁気テープも提供される。
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、
磁性層は、サーボパターンを有し、
強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末であり、
In−Plane法を用いた上記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))は0.5以上4.0以下であり、磁気テープの垂直方向角型比は、0.65以上1.00以下である磁気テープ。
一態様によれば、以下の磁気テープも提供される。
データの記録および記録されたデータの読み取りのために使用される磁気テープであって、
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有し、
磁性層は、サーボパターンを有し、
強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末であり、
In−Plane法を用いた上記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))は0.5以上4.0以下であり、磁気テープの垂直方向角型比は、0.65以上1.00以下である磁気テープ。
一態様では、上記データの読み取りは、読取素子ユニットにより行われ得る。
一態様では、上記読取素子ユニットは、上記磁気テープに含まれるトラック領域のうちの読取対象トラックを含む特定トラック領域からデータをリニアスキャン方式で各々読み取る複数の読取素子を有することができる。
一態様では、上記読取素子毎の読取結果は、抽出部によって抽出され得る。
一態様では、上記抽出部は、上記読取素子毎の読取結果から、上記読取対象トラックに由来するデータを抽出することができる。
一態様では、上記抽出部は、上記読取素子毎の読取結果の各々に対して、上記磁気テープと上記読取素子ユニットとの位置のずれ量に応じた波形等化処理を施すことにより、上記読取結果から、上記読取対象トラックに由来するデータを抽出することができる。
上記磁気テープ、読取素子ユニットおよび抽出部が取り得る具体的態様については、先の記載を参照できる。
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。以下に記載の「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
1.磁気テープの作製
[実施例1]
各層形成用組成物の処方を、下記に示す。
<磁性層形成用組成物の処方>
(磁性液)
板状六方晶フェライト粉末(M型バリウムフェライト):100.0部
オレイン酸:2.0部
塩化ビニル共重合体(カネカ社製MR−104):10.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:4.0部
(重量平均分子量:70000、SO3Na基:0.07meq/g)
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK−102):6.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
(研磨剤液)
α−アルミナ:6.0部
(BET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積:19m2/g、モース硬度:9)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:0.6部
(重量平均分子量:70000、SO3Na基:0.1meq/g)
2,3−ジヒドロキシナフタレン:0.6部
シクロヘキサノン:23.0部
(突起形成剤液)
コロイダルシリカ:2.0部
(平均粒子サイズ:80nm)
メチルエチルケトン:8.0部
(潤滑剤および硬化剤液)
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:6.0部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L):3.0部
<非磁性層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α−酸化鉄:100.0部
(平均粒子サイズ:10nm、BET比表面積:75m2/g)
カーボンブラック:25.0部
(平均粒子サイズ:20nm)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:18.0部
(重量平均分子量:70000、SO3Na基含有量:0.2meq/g)
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
<バックコート層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α−酸化鉄:80.0部
(平均粒子サイズ:0.15μm、BET比表面積:52m2/g)
カーボンブラック:20.0部
(平均粒子サイズ:20nm)
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸ブチル:3.0部
ポリイソシアネート:5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
<磁性層形成用組成物の調製>
磁性層形成用組成物を、以下の方法によって調製した。
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.5mmのジルコニアビーズ(第一の分散ビーズ、密度6.0g/cm3)を使用して24時間分散し(第一の段階)、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより分散液Aを調製した。ジルコニアビーズは、六方晶バリウムフェライト粉末に対して、質量基準で10倍量用いた。
その後、分散液Aをバッチ式縦型サンドミルにより表1に示すビーズ径のダイヤモンドビーズ(第二の分散ビーズ、密度3.5g/cm3)を使用して1時間分散し(第二の段階)、遠心分離機を用いてダイヤモンドビーズを分離した分散液(分散液B)を調製した。下記磁性液は、こうして得られた分散液Bである。ダイヤモンドビーズは、六方晶バリウムフェライト粉末に対して、質量基準で10倍量の処方量で用いた。
研磨剤液は、上記の研磨剤液の各種成分を混合してビーズ径0.3mmのジルコニアビーズとともに横型ビーズミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液体積+ビーズ体積)が80%になるように調整し、120分間ビーズミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散ろ過装置を用いて、超音波分散ろ過処理を施した。こうして研磨剤液を調製した。
調製した磁性液および研磨剤液、ならびに残りの成分をディゾルバーに導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理した後に、孔径1μmのフィルタでろ過して磁性層形成用組成物を調製した。
<非磁性層形成用組成物の調製>
上記の非磁性層形成用組成物の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用して24時間分散し、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
<バックコート層形成用組成物の調製>
上記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち潤滑剤(ステアリン酸およびステアリン酸ブチル)、ポリイソシアネートならびにシクロヘキサノン200.0部を除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機によりビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理に供した。その後、上記の残りの成分を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、バックコート層形成用組成物を調製した。
<磁気テープの作製方法>
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが1.0μmになるように上記で調製した非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。形成した非磁性層の表面上に、乾燥後の厚みが0.1μmになるように上記で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、表1に示す強度の磁場を上記塗布層の表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を施した。その後、上記塗布層を乾燥させて磁性層を形成した。
その後、上記支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面上に乾燥後の厚みが0.4μmになるように上記で調製したバックコート層形成用組成物を塗布し、乾燥させた。
こうして得られた磁気テープを金属ロールのみから構成されるカレンダロールにより、速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、カレンダロールの表面温度90℃でカレンダ処理(表面平滑化処理)し、その後雰囲気温度70℃の環境で36時間加熱処理を施した。加熱処理後1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、磁気テープを作製した。 作製した磁気テープの磁性層を消磁した状態で、サーボライトヘッド(漏れ磁界:表1参照)によって、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを磁性層に形成した。これにより、磁性層に、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。
[実施例2〜5、比較例1〜8]
表1に示す各種項目を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープを作製した。
表1中、分散ビーズの欄および時間の欄に「なし」と記載されている比較例については、磁性液分散処理において第二の段階を実施せずに磁性層形成用組成物を調製した。
表1中、垂直配向処理磁場強度の欄に「なし」と記載されている比較例については、配向処理を行わずに磁性層を形成した。
サーボライトヘッドは、漏れ磁界の値が大きいほどサーボパターンを記録する能力は高いと言うことができる。実施例、比較例では、漏れ磁界の異なる2種のサーボライトヘッドを用いた。
[評価方法]
(1)活性化体積
実施例および比較例の各磁気テープの一部を切り出し、測定用試料の採取方法として先に例示した方法によって、磁性層から六方晶フェライト粉末を採取した。採取した六方晶フェライト粉末について、活性化体積を求めるための測定を行った。測定は、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで行い、先に記載した関係式から活性化体積を算出した。測定は23℃±1℃の環境で行った。測定された活性化体積は、いずれも1600nm3であった。
(2)XRD強度比
作製した磁気テープから、テープ試料を切り出した。
切り出したテープ試料について、薄膜X線回折装置(リガク社製SmartLab)を用いて磁性層表面にX線を入射させて、先に記載した方法によりIn−PlaneXRDを行った。
In−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルから、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)および(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)を求め、XRD強度比(Int(110)/Int(114))を算出した。
(3)垂直方向角型比
作製した磁気テープについて、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて先に記載した方法により垂直方向角型比を求めた。
(4)差分(L99.9−L0.1)の測定および算出
実施例および比較例の各磁気テープについて、以下の方法により差分(L99.9−L0.1)を求めた。
磁気力顕微鏡としてBruker製Dimension 3100を周波数変調モードで使用し、プローブとしてNanoworld社製SSS−MFMR(公称曲率半径15nm)を使用して、サーボパターンを形成した磁気テープの磁性層表面の90μm×90μmの測定範囲で、100nmピッチで粗測定を行いサーボパターン(磁化領域)を抽出した。磁気力顕微鏡観察時の磁性層表面とプローブ先端との間の距離は、20nmとした。上記測定範囲には、LTO Ultriumフォーマットにしたがい形成されたAバーストの5本のサーボパターンが含まれるため、これら5本のサーボパターンが抽出された。
上記磁気力顕微鏡およびプローブを用いて、各サーボパターンの走行方向に対して下流側のエッジについて、磁化領域と非磁化領域との境界近傍を5nmピッチで測定し磁気プロファイルを得た。得られた磁気プロファイルは、角度α=12°で傾斜していたため、解析ソフトにより角度α=0°となるように回転補正を行った。
測定は、磁性層表面の異なる3箇所で行った。各測定範囲には、それぞれAバーストの5本のサーボパターンが含まれていた。
その後、解析ソフトを用いて先に記載した方法により差分(L99.9−L0.1)を求めた。解析ソフトとしては、MathWorks製MATLABを使用した。こうして求められた差分(L99.9−L0.1)を、表2に示す。
(5)性能評価
(i)実施例および比較例の各磁気テープの磁性層に対して、IBM社製TS1155テープドライブに搭載されている記録再生ヘッドを用いて、速度:6m/s、線記録密度:600kbpi(255bitPRBS)およびトラックピッチ:2μmの記録条件にて、データの記録を行った。上記の単位kbpiは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。上記のPRBSは、Pseudo Random Bit Sequenceの略称である。
上記記録により、各磁気テープの磁性層に、2つの隣接トラックの間、即ち第1のノイズ混入源トラックと第2のノイズ混入源トラックとの間に、読取対象トラックが位置する特定トラック領域が形成される。
(ii)近接した状態で配置された2つの読取素子を有する読取素子ユニットを用いてデータ読取を行うモデル実験として、以下のデータ読取を行った。以下のモデル実験では、磁性層表面と読取素子とが接触し摺動することによってデータ読取が行われた。
単一の読取素子を有する磁気ヘッドを、読取対象トラックのテープ幅方向の中心と読取素子のトラック幅方向の中心とが一致するように配置した状態で読取を開始し、1回目のデータ読取を行った。この1回目のデータ読取中、サーボ素子によってサーボパターンを読み取り、タイミングベースサーボ方式のトラッキングも行った。また、サーボパターン読取動作に同期して読取素子によりデータ読取動作が行われた。
次いで同一の磁気ヘッドをテープ幅方向(一方の隣接トラック側)に500nmずらして、2回目のデータ読取を1回目のデータ読取と同様に行った。上記の2回のデータ読取は、それぞれ再生素子幅:0.2μm、速度:4m/s、サンプリングレート:ビットレートの1.25倍の読取条件で行った。
1回目のデータ読取で得られた読取信号を等化器に入力し、1回目のデータ読取における磁気テープと磁気ヘッド(読取素子)との位置のずれ量に応じた波形等化処理を施した。この波形等化処理は、次のように行われる処理である。一定周期で形成されているサーボパターンをサーボ素子によって読み取ることにより得られた位置のずれ量から、読取素子と読取対象トラックとの重複領域と、読取素子と隣接トラックとの重複領域との比を特定する。この特定された比から演算式を用いて導出されたタップ係数を読取信号に対して畳み込み演算することにより、波形等化処理を行う。上記演算式は、EPR4(Extended Partial Response class4)を基本波形(ターゲット)とする演算式である。2回目のデータ読取で得られた読取信号についても、同様に波形等化処理を施した。
上記の波形等化処理が施された2つの読取信号の位相合わせ処理(以下、「2次元信号処理」と記載する。)を行うことにより、近接した状態で配置された2つの読取素子(読取素子ピッチ=500nm)を有する読取素子ユニットにより得られるであろう読取信号を得た。こうして得られた読取信号について、信号検出点でのSNRを算出した。
(iii)上記の(ii)を、1回目のデータ読取開始時の読取素子の位置を、読取対象トラックのテープ幅方向の中心から0.1μm間隔で第1のノイズ混入源トラック側および第2のノイズ混入源トラック側にそれぞれトラックオフセットさせながら繰り返し、トラック位置に対するSNRのエンベローブを得た。
表2中、「2次元信号処理」の欄に「有」と記載されている実施例および比較例については、上記方法によりSNRのエンベローブを得た。
表2中、「2次元信号処理」の欄に「無」と記載されている比較例については、上記の2回目のデータ読取を行わずに1回目のデータ読取結果(即ち単一素子のみでのデータ読取結果)に関してSNRのエンベローブを得た。
(iv)比較例1のSNRのエンベローブを参照エンベローブとし、参照エンベローブにおけるトラックセンターのSNRからSNRが−3dB低下したところを、SNR下限値として設定した。各エンベローブにおいて、この下限値以上で最大のトラックオフセット量を、許容可能トラックオフセット量とした。実施例および比較例のそれぞれについて、比較例1の許容可能トラックオフセット量に対する許容可能トラックオフセット量の増加率を、「許容可能トラックオフセット量増加率」として求めた。
以上の結果を、表2に示す。
表2に示すように、実施例によれば、20%以上の許容可能トラックオフセット量増加率を実現することができた。
上記方法により求められる許容可能トラックオフセット量が大きいことは、トラックマージンを小さくしても高い再生品質での再生を可能にするうえで有利である。この点から、許容トラックオフセット量増加率が20%以上であることは好ましい。