以下、本発明の経血吸収用の吸収性物品を、その好ましい一実施形態である生理用ナプキン1(以下、「ナプキン1」とも言う。)に基づき図面を参照して説明する。経血吸収用の吸収性物品は、生理用品に含まれる。
ナプキン1は、図1及び図2に示すように、肌対向面側に配された液透過性の表面シート2、非肌対向面側に配された液不透過性の裏面シート3及びこれら両シート2,3間に配された液保持性の吸収体4を備えている。表面シート2、吸収体4及び裏面シート3は、一体化されて吸収性本体5を構成している。吸収性本体5の長手方向両側部の表面シート2側には、サイド防漏シート6が配されている。サイド防漏シート6は、表面シート2に接合されていない自由端61と、表面シート2に接合された固定端62とを有しており、使用時には、固定端62と自由端61との間が表面シート2から離間し、側方への横漏れを防止する防漏ポケット(図示せず)を形成する。吸収性本体5の非肌対向面にはショーツのクロッチ部への固定に用いられる本体粘着部(図示略)が設けられている。また、ナプキン1は、着用者の前後方向に対応する縦方向Xにおける両側部に、一対のウイング部7を有している。一対のウイング部7の裏面シート3側の面には、ショーツのクロッチ部の非肌対向面への固定に用いられるウイング部粘着部(図示略)が設けられている。また、図示しないが、ナプキン1等の吸収性物品の全周縁に、熱シール部が設けられていてもよい。
ナプキン1は、図1に示すように、着用時に着用者の排泄部(膣口等)に対向配置される排泄部対向部Bと、該排泄部対向部Bよりも着用者の腹側(前側)寄りに配される前方部Aと、該排泄部対向部Bよりも着用者の背側(後側)寄りに配される後方部Cとを有している。ナプキン1は、着用者の前後方向に対応する縦方向X及び該縦方向Xに直交する横方向Yを有する。即ち、ナプキン1は、縦方向Xに、前方部A、排泄部対向部B及び後方部Cにこの順番に区分される。
また、本明細書において、肌対向面は、ナプキン1又はその構成部材(例えば表面シート2,吸収性コア41)における、ナプキン1の着用時に着用者の肌側に向けられる面であり、非肌対向面は、ナプキン1又はその構成部材における、ナプキン1の着用時に肌側とは反対側(通常着衣側)に向けられる面である。
尚、本発明の吸収性物品(生理用品)において、排泄部対向部Bとは、本実施形態のナプキン1のように、所謂ウイング部を有する場合には、吸収性物品の縦方向Xにおける、左右両側に一対のウイング部を有する領域であり、より詳細には、一方のウイング部の縦方向Xに沿う付け根と他方のウイング部の縦方向Xに沿う付け根とに挟まれた領域を意味する。また、吸収性物品が、ウイング部を有しない場合には、吸収性物品が3つ折りの個装形態に折り畳まれた際に生じる、該吸収性物品を横方向Yに横断する2本の折曲線(図示せず)について、該吸収性物品の縦方向Xの前端から数えて第1折曲線と第2折曲線とに囲まれた領域を意味する。
ナプキン1においては、表面シート2は、吸収体4の肌対向面の全域を被覆し、裏面シート3は、吸収体4の非肌対向面の全域を被覆している。表面シート2及び裏面シート3は、吸収体4の縦方向Xの両端縁からの延出部分が互いに接合されている。また裏面シート3及びサイド防漏シート6は、吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁から横方向Yの外方に延出した部分が互いに接合されている。このようにして、吸収体4が表面シート2と裏面シート3とで挟持されている。ナプキン1を構成するシート間の接合には、接着剤、ヒートシール、超音波シール等の任意の接合手段が用いられる。
ナプキン1は、図1及び図2に示すように、表面シート2及び吸収体4が裏面シート3側に向かって一体的に凹陥されてなる線状の防漏溝8を備えている。したがって、防漏溝8においては、表面シート2及び吸収体4に関して、構成部材である各々の繊維の密度が、防漏溝8の周囲部の密度よりも高くなっている。線状の防漏溝8における「線状」とは、凹陥部である防漏溝8の形状が平面視において直線に限られず、曲線を含んでいることを意味する。尚、各線は、連続線でも破線等のような不連続線でもよい。例えば、防漏溝8は、不連続な多数の点エンボスのなす列から構成されていてもよい。
ナプキン1の吸収体4は、パルプ繊維を含む吸収性コア41と該吸収性コア41を被覆するコアラップシート42とを有している。
本実施形態におけるコアラップシート42は、吸収性コア41の肌対向面側を被覆する肌側部分42a(以下、肌側コアラップシートとも言う)と、吸収性コア41の非肌対向面側に巻き下げられて、該吸収性コア41の非肌対向面側を被覆する非肌側部分42b(非肌側コアラップシートとも言う)とを有している。また、コアラップシート42は、非肌側部分42bにシートどうしの重なり部42cを有している。
なお、本発明におけるコアラップシートは、一枚のシートで吸収性コアの全体を包んでいても良いし、2枚以上のシートで吸収性コアの全体を包んでいても良い。例えば、吸収性コア41の肌対向面側と非肌対向面側とを別々のシートで被覆していても良い。
本実施形態のコアラップシート42は、水溶性の血球凝集剤を含有している。より詳細には、本実施形態のコアラップシート42は、肌側コアラップシート42aが、血球凝集剤を含有する血球凝集剤配置部となっている。更に、本実施形態のコアラップシート42おいては、肌側コアラップシート42aを血球凝集剤を含有する血球凝集剤配置部とするのに加え、非肌側コアラップシート42bを血球凝集剤を含有する血球凝集剤配置部としてもよく、更に、血球凝集剤配置部が、肌側コアラップシート42a、吸収性コア41及び非肌側コアラップシート42bに亘るように形成されていてもよい。なお、本発明の吸収性物品においては、肌側コアラップシート42aが血球凝集剤を含有する血球凝集剤配置部を有していれば良く、非肌側コアラップシート42bには、血球凝集剤配置部が存在しなくてもよい。
従来、コアラップシートは、単独では保形性が不十分な吸収性コアの保形性を高めたり、吸収性コアの構成材料の漏れだしを防止する目的で使用されるものであり、薄紙や不織布等の繊維シートが使用されている。
本実施形態のコアラップシート42は、血球凝集剤が配されていない状態で、肌対向面、非肌対向面及びその間に位置する厚み方向の領域において、繊維間に空孔部を有しており、空孔部が厚み方向に連通した構造を有している。言い換えれば、その連通した空孔部により繊維間の空隙が3次元的に複雑に連なった繊維間空隙のネットワーク構造を形成している。
本発明における吸収性物品は、そのような空孔部を水溶性の血球凝集剤で埋めた状態に保持したコアラップシート42を備えたものである。
本実施形態のナプキン1では、血球凝集剤が肌側コアラップシート42aの肌対向面側の空孔部を埋めている。また、コアラップシート42として、血球凝集剤が、肌側コアラップシート42aの非肌対向面側422(吸収性コア41に接する面の側)の空孔部を埋めた状態に保持させたものを用いてもよく、肌側コアラップシート42aの肌対向面側421及び吸収性コア41に接する非肌対向面側422の空孔部を埋めた状態に保持させたものを用いてもよい。さらに、水溶性の血球凝集剤をコアラップシート42の空孔部を3次元的に埋めた状態に保持させたものを用いることがより好ましい。コアラップシート42(肌側コアラップシート42a)の肌対向面側は、コアラップシート42(肌側コアラップシート42a)を厚み方向に3分割して3区分したときに、着用時に着用者の肌に最も近い層であることが好ましい。また、コアラップシート42(肌側コアラップシート42a)の非肌対向面側は、コアラップシート42(肌側コアラップシート42a)を厚み方向に3分割して3区分したときに、着用時に着用者の肌から最も遠い層であることが好ましい。また、空孔部を有する他の素材として、エアスルー不織布やスパンボンド不織布、ウレタンフォームシートなどのシートもコアラップシート42として用いることもできる。
図3(a)は、血球凝集剤がコアラップシート42の空孔部を埋めた状態に保持されているコアラップシートの電子顕微鏡(SEM)写真であり、図3(b)は、そのコアラップシート42に、血球凝集剤を保持させる前の状態を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3(a)と図3(b)の対比から判るように、コアラップシート42が繊維シートである場合、血球凝集剤がコアラップシート42の空孔部を埋めた状態に保持されているとは、血球凝集剤を、後述の方法で付着させることで、繊維間空隙が狭くなった状態をいい、コアラップシート42の全ての空孔部が、血球凝集剤で満たされていることは要しない。面方向においては、血球凝集剤配置面における空孔部において、少なくとも空孔部の総面積を100%としたときの血球凝集剤で埋められた面積の比率(閉塞率)は、経血等の水分がコアラップシートを通過する速度と、血球凝集剤の溶解度のバランスを考慮して、コアラップシートや血球凝集剤の種類に応じた適宜最適な閉塞率を定めることが好ましい。即ち、コアラップシート42における、血球凝集剤による閉塞率は、経血等の水分が、コアラップシートを通過する際に血球凝集剤を十分に溶解させる観点から、閉塞率は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。また、血球凝集剤を効率良く溶解させる観点から、閉塞率は、100%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。
また、厚み方向での3次元的に連なったネットワーク構造を形成している空孔部における、血球凝集剤で埋められた体積の比率(体積閉塞率)は、経血等の水分がコアラップシートを透過速度と血球凝集剤の溶解度のバランスを考慮して、コアラップシートや血球凝集剤の種類に応じた適宜最適な体積閉塞率を定めることが好ましい。即ち、コアラップシート42における、血球凝集剤による閉塞率は、空孔部全体の体積を100%とした場合、経血がコアラップシートを通過する際に血球凝集剤を十分に溶解させる観点から、体積閉塞率は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。また、血球凝集剤を効率良く溶解させる観点から、閉塞率は、90%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。この場合、断面を観察するためにコアラップシート42を切断し、その切断面をSEMで観察した際、空孔部の占める面積と埋められた血球凝集剤の面積の両方を画像解析等の手段で定量化することにより空孔部体積閉塞率を測定できる。
より確実に多くの血球凝集剤を効果的に溶解させ、凝集及び分離を発現させる観点から、血球凝集剤は、肌側コアラップシート42aの肌対向面側421の空孔部内において繊維と繊維の間で膜を張るように空孔部を埋めていることが好ましい。膜を張るように埋められているとは、コアラップシート42において、空孔部に面している複数の繊維間に跨って、血球凝集剤が存在している状態となっていることを意味する。
さらには、経血等の水分との接触によって血球凝集剤の溶解を効率的に生じさせる観点からコアラップシート42の空孔部が、血球凝集剤により、厚み方向に3次元的に連通していない状態に埋められている空孔部があることがより好ましい。血球凝集剤によって厚み方向に3次元的に連通していない状態においては、繊維シートの厚み方向における肌対向面側から非肌対向面側に向かって経血がコアラップシート42を透過する際に、必ず血球凝集剤の溶解が伴う点で好ましい。
本発明における、コアラップシート42としては、前述したように、繊維間に空孔部を有しており、その空孔部が厚み方向に連通した構造を有しており、その連通した空孔部により繊維間の空隙が3次元的に複雑に連なった繊維間空隙のネットワーク構造を形成している繊維シートが用いられる。また厚み方向に連通する連通空孔部を有する樹脂フィルムを用いることもできる。なお、本明細書では「コアラップシート」とは、血球凝集剤が含有される以前の状態のシートを指す。コアラップシート42は、セルロース系繊維から構成されたシートであることが、血球凝集剤が、効率的に空孔を埋める点より好ましい。
本実施形態のコアラップシート42としては、セルロース系繊維から構成されたシートであることが好ましく、通液性、硬さ、空孔の大きさの観点から、坪量が、好ましくは10g/m2以上、更に好ましくは13g/m2以上であり、また好ましくは30g/m2以下、更に好ましくは20g/m2以下である。本実施形態のコアラップシート42としては、主に湿式抄紙法により製造されるが、エアレイドのような乾式法により製造されたものでもよい。
本実施形態のコアラップシート42を構成するセルロース系繊維としては、木材パルプ繊維、レーヨン繊維、コットン繊維、酢酸セルロース繊維等が挙げられる。セルロース系繊維の原料パルプとしては、針葉樹クラフトパルプ或いは広葉樹クラフトパルプのような木材パルプ、木綿パルプ或いはワラパルプ等の非木材パルプが挙げられる。これらのセルロース系繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また強度向上の観点から、非セルロース系繊維を少量混合することもできる。非セルロース系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系繊維等が挙げられる。薄紙の構成繊維中、セルロース系繊維の割合は、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは100質量%である。
また、コアラップシート42として不織布を用いることもできる。不織布の種類としては、繊維間に空孔部を有しており、その空孔部が厚み方向に連通した構造を有しており、その連通した空孔部により繊維間の空隙が3次元的に複雑に連なった繊維間空隙のネットワーク構造を形成していれば、各種製法による不織布を用いることができ、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、高速水流処理により繊維ウエブの構成繊維同士を交絡させて得られる不織布であるスパンレース不織布、熱風処理により繊維ウエブの構成繊維同士を熱融着させて得られる不織布であるエアスルー不織布、接着剤で繊維ウエブの構成繊維同士を接着させて得られる不織布であるレジンボンド不織布等が挙げられる。スパンレース不織布やエアスルー不織布、レジンボンド不織布の繊維ウエブは、カード機や空気中で繊維を積繊してなるエアレイド法等によって製造することができる。
不織布の原料繊維は、木材パルプ繊維、レーヨン繊維、コットン繊維、酢酸セルロース等のセルロース系の親水性繊維や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド等の合成樹脂からなる合成繊維が挙げられる。合成繊維は、芯鞘型やサイドバイサイド型の複合繊維を用いることもできる。これらの中でも、薄紙を用いるのと同様の理由から、各種製法の不織布の場合も原料繊維がセルロース系繊維であるものが好ましい。不織布の構成繊維中、セルロース系繊維の割合は、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは100質量%である。不織布の原料繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態のコアラップシート42として用いる「厚み方向に連通する連通空孔部を有する樹脂フィルム」としては、例えば、貫通孔を有する樹脂フィルムを用いることができる。貫通孔の直径は、0.2mm以上4.0mm以下が好ましく、0.5mm以上2.5mm以下がより好ましい。また、貫通孔の数は、1cm四方当り10〜50個程度であることが好ましい。
本実施形態のコアラップシート42へ、血球凝集剤を保持させる方法は、空孔部を埋めるように保持させ得る限り特に制限されないが、適宜の溶媒に溶解させ、粘度等の諸物性を適宜調整した溶液としてコアラップシート42に付着又は浸漬させた後、乾燥して溶媒を除去することが、コアラップシート42の空孔部に血球凝集剤を埋めた状態に保持されやすい観点から好ましい。
溶媒としては、血球凝集剤を溶解させられるものであればその種類に特に制限はなく、例えば簡便には水を用いることができる。前記溶液をシートに塗布して血球凝集性シートを製造するときに、該溶液の乾燥時間を短縮化させ、それによって血球凝集性を塗布面側に偏在させる観点からは、溶媒は揮発性の高い溶媒を用いることが好ましい。この観点から、溶媒は、血球凝集剤を溶解し得る有機溶媒であることが好ましい。そのような有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸及びギ酸などが挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。あるいはこれらの有機溶媒のうちの1種以上と水とを組み合わせて用いることもできる。安全性や揮発性の高さ、及び経済性の点から、エタノールを用いることが好ましい。
血球凝集剤を含む溶液をコアラップシート42に付着させる方法は、溶液の浸漬、スプレー塗工法、ディッピング法、転写法、ダイ塗工、グラビア塗工、インクジェット法、スクリーン印刷法、印刷に準じた塗工等の公知の液体塗工装置を用いた吸収体4の所定箇所への液体の塗工等が挙げられ、これらを自由に用いることができる。これらのうち、スプレー塗工法が、粘度等の諸物性を適宜調整した血球凝集剤を含む溶液を、スプレー用ノズルの形状、その塗布量等を適宜調整することで、効率的に空孔を埋める状態に保持できる点から好ましい。
また、乾燥は、加熱による乾燥、減圧による乾燥、加熱と減圧とを組み合わせた乾燥の何れでも良いが、強制乾燥に代えて自然乾燥でも良い。加熱による乾燥、コアラップシート42の空孔部を埋めた状態に固定する観点から、血球凝集剤やコアラップシートが損傷しない範囲において、より高温に加熱し、溶媒を急激に除去することにより乾燥することが、より好ましい。
また、本実施形態のナプキン1におけるコアラップシート42は、空孔部を埋めた状態に固定する観点から、JIS法(JIS P8133−1:2013)によって測定された水抽出液のpHが、好ましくは3.5以上、更に好ましくは6.0以上であり、また好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下であり、また好ましくは3.5以上9.0以下、さらに好ましくは6.0以上8.0以下である。
また本実施形態のナプキン1におけるコアラップシート42は、コアラップシート42を水分が透過する際に、血球凝集剤が溶解して、コアラップシート42空孔部内の空隙が増大するようになされている。これは、血球凝集剤が空孔部を埋めた状態に保持されており、水分がその空孔部を通過する際に血球凝集剤が溶解し空孔部から消失することによって生じる。つまり、血球凝集剤が空孔部を完全に埋めて閉塞している場合は、血球凝集剤の溶解により空隙が無い状態から空隙が生じる。また、血球凝集剤が埋める形で存在する空孔部の一部に多少の空隙が存在している場合には、その血球凝集剤の溶解により空隙の容積が拡大する。
本実施形態のナプキン1においては、吸収性コア41を被覆するコアラップシート42に、水溶性時の血球凝集剤が保持されていることによって、使用時に、経血がコアラップシート42を通過したときに、空孔部内に保持されていた経血に血球凝集剤が溶解し、コアラップシート42と吸収性コア41との境界や吸収性コア41内において、血球凝集剤の作用により赤血球が凝集する。その結果、経血が、赤血球の凝集物と赤血球以外の部分とに分離し、赤血球の凝集物は、赤血球以外の部分に比して移動が抑制されるのに対して、赤血球以外の部分は、吸収性コア内を良好に拡散する。これにより、経血は、赤血球以外の部分が優先的に吸収体4に吸収される。特に、高吸収性ポリマーを用いた場合には、その表面に赤血球が堆積することによる吸収阻害が防止される。これにより、経血は、赤血球以外の部分が、一層確実に赤血球の凝集物と分離した状態となって高吸収性ポリマーに吸収されるため、高吸収性ポリマーの表面に赤血球が堆積することによる吸収阻害が一層生じにくくなる。
本実施形態のナプキンにおいては、このような作用により、吸収性コアが有する潜在的な吸収性能が充分に発現され、吸収性能に優れたナプキンとなる。
上述した効果が一層確実に奏されるようにする観点から、コアラップシート42は、血球凝集剤が、層全体に均一に存在している状態と比べて、肌対向面側に多く存在している状態が、空孔部をより効果的に埋める観点で好ましい。「肌対向面側に多く存在している」とは、血球凝集剤が非肌対向面側よりも肌対向面側に多く存在している態様と、血球凝集剤が肌対向面側に存在するが非肌対向面側には存在していない態様を含む。
血球凝集剤が肌側コアラップシート42aの空孔部のうち肌対向面側の空孔部を埋めている場合には、血球凝集剤は、経血の水分と接触することによって溶解し、非肌対向面側へと流出していく。しかも、経血が空孔部からコアラップ内部へと侵入しにくくなっているので、経血が肌対向面上で拡がり、経血中の水分と血球凝集剤との接触効率が高くなる。この状態から、血球凝集剤が水分に溶解されて肌側コアラップシート42aの肌対向面から非肌対向面側へと移動する力が強く働くので凝集塊が種々の厚み位置で形成されながら、一部はコアラップシート内で捕捉され、一部は吸収性コアで捕捉されていく。このため、繊維間空隙のネットワークは部分的に遮断されるが、その他の部分では繊維間空隙は拡張されるので、経血の繰り返し吸収における液透過性の阻害が生じ難い。また、コアラップシートが3次元的な繊維間空隙のネットワーク構造を有しているため、血球凝集剤を溶解した経血の水分が厚み方向のみならず、平面方向へと拡散していく。コアラップ内では、凝集塊で空隙部が塞がれた部分と、血球凝集剤が保持された空隙部分とが共存することとなる。このため、初期の経血吸収から一定時間経過後にコアラップに到達した経血は、増大した肌対向面側の空孔部からコアラップ内に進入し、3次元的ネットワーク構造の空隙部を介してコアラップ内を移動できる。そして、空隙部分に保持された血球凝集剤と経血が接触し、更に厚み方向及び面方向に経血と血球凝集剤は移動しながら、凝集塊と血球凝集剤が溶解した主に水分で構成される液性成分が生じる。このような現象を繰り返すことによって、長時間にわたり、経血を吸収しうるナプキンを実現することができる。なお、本実施形態のナプキン1のように、防漏溝8を備える場合、防漏溝8と血球凝集剤配置部とが平面視して重なるように配置されていると、経血中の水分が防漏溝8に集中し易くなり、上述した効果が一層高まる。
これに対して、血球凝集剤がコアラップシート42の空孔部のうち、非肌対向面側の空孔部を埋めている場合も本発明は包含している。この場合も、上述した、血球凝集剤がコアラップの肌対向面側の空孔部を埋めた形態と同じようなメカニズムによって経血を効果的に吸収しうる生理用吸収性物品を得ることができる。しかしながら、排泄初期から長時間にわたって経血を安定的に吸収しうるという有利な効果を得るには、血球凝集剤がコアラップの肌対向面側の空孔部を埋める形態の方が望ましい。また、少なくとも肌対向面側の表面積全体における空孔部の面積の10%以上が血球凝集剤で埋められた状態であることが、この効果を一層確実にするために好ましい。また、本メカニズムは、必ずしも排泄部対向部Bに血球凝集剤を含有する血球凝集剤配置部を有している必要はなく、上述のメカニズムによって経血を効果的に吸収しうる生理用吸収性物品を得ることができる。
血球凝集剤がコアラップシートにおける一方側の面の空孔部を優先的に埋めるようにするためには、血球凝集剤を含み、且つ塗布時等のコアラップシートへ加える時の粘度が好ましくは1mPa・s以上である溶液を、コアラップシートの少なくとも一面に加える方法を採用することが簡便である。この場合、前記溶液は、コアラップシートの一面にのみ加えることができる。ただし、この方法によれば、前記溶液の加える量が一方の面よりも他方の面の方が少なくなるように両面に塗布することもできるので好適である。特に、粘度が上述の値以上である高粘性の溶液を、コアラップシートの片面、すなわち肌対向面となる面にのみ加えることで、該溶液がコアラップシートの厚み方向全域に均一に浸透することが抑制されて、加えた面側に該溶液が相対的に多く残存するようになる。その状態で該溶液の乾燥が進行して、結果的に加えた面側に血球凝集剤が相対的に多く存在することになる。この観点から、前記溶液の粘度は、塗布時において1mPa・s以上であることが更に好ましく、3mPa・s以上であることが一層好ましい。前記溶液の塗布性の観点から、その粘度の上限値は、1000mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることが一層好ましい。
血球凝集剤を含む前記溶液の粘度は次の方法で測定される。東機産業株式会社製のB型粘度計TVB−10を用いて、ローターNo.19、30rpm、25℃、60秒間の測定条件で測定することができる。
また、空隙部分に保持された血球凝集剤と経血の接触と溶解を繰り返すことによって、排泄初期から長時間にわたって経血を安定的に吸収しうるという効果を得る観点から、コアラップシート42は、初回透水速度より2回目透水速度が速いことが好ましい。
初回透水速度及び2回目透水速度は、それぞれ以下のようにして測定される。
〔初回透水速度及び2回目透水速度の測定方法〕
初回透水速度および2回目透水速度の測定は図のようにして行った。先ず、液通過層を縦50mm、横50mmにカットした試料片を作成し、次いで、この試料片を内径35mmのガラス管で上下両側から挟持固定した。この時、測定中に液が横から滲み出さないように、シリコンゴムを介してクリップで両側から固定する。測定液として生理食塩水を10mlビーカーに3g取り、前記ガラス管に静かに注入する。生理食塩水を注入した後、透水量(試料片を透過した液量)が2.3gに到達するまでに要する時間を測定しこれを初回液通過時間(単位:秒)とし、透水量2.3gを初回液通過時間で除することで初回透水速度(単位:g/秒)とした。そのまま3分静置させたのち、さらに前記の3gの測定液を静かに注入し、同様に2回目液通過時間(単位:秒)を求め、2.3gを2回目液通過時間で除することで2回目透水速度(単位:g/秒)とした。以上について電子天秤上で測定を行った。
本発明の効果が一層確実に奏されるようにする観点から、前述した方法により測定した初回透水速度及び2回目透水速度は、2回目透水速度と初回透水速度との比(2回目透水速度/1回目透水速度)が、好ましくは1.05倍以上、更に好ましくは1.5倍以上であり、また好ましくは150倍以下、更に好ましくは30倍以下であり、また好ましくは1.05倍以上150倍以下、更に好ましくは1.5倍以上30倍以下である。
また、初回透水速度は、好ましくは0.01g/秒以上、更に好ましくは0.05g/秒以上であり、また好ましくは1.50g/秒以下、更に好ましくは0.70g/秒以下であり、また好ましくは0.01g/秒以上1.50g/秒以下、更に好ましくは0.05g/秒以上0.70g/秒以下である。また、2回目透水速度は、好ましくは0.25g/秒以上、更に好ましくは0.75g/秒以上であり、また好ましくは2.0g/秒以下、更に好ましくは1.5g/秒以下であり、また好ましくは0.25g/秒以上2.0g/秒以下、更に好ましくは0.5g/秒以上1.5g/秒以下である。
コアラップシート42が、初回透水速度より2回目透水速度が速くするためには、少なくとも血球凝集剤が測定対象液と接触した時点から3分以内で溶解を開始する物性を有していなければならず、溶解速度が速いことが好ましい。加えて、肌側コアラップシート42aは、肌対向面側421に非肌対向面側422よりも多く血球凝集剤が存在することが好ましい。特に、肌側コアラップシート42aの肌対向面側421のみに血球凝集剤が存在することが好ましい。このようにすることで、前述したメカニズムが一層効果的に機能し、凝集塊存在部が肌側コアラップシート42aの非肌対向面側へ移行し、かつ、肌側コアラップシート42aの肌対向面側に形成された、増大した繊維間空隙が経血の取込みを促進し、肌側コアラップシート42a内部の血球凝集剤で分離された血漿成分が吸収性コア41へと到達し易くなっている。
本実施形態のナプキン1の吸収性コア41は、パルプ繊維と高吸収性ポリマーとの混合積繊体からなる。混合積繊体は、周面に集積用凹部を有する積繊ドラムを備えた公知のドラム式積繊装置により製造されたものであり、集積用凹部の底面から吸引しつつ、積繊ドラムの周面に、吸収性コアの形成材料としてのパルプ繊維及び高吸収性ポリマーを飛散状態にて供給し、吸収性コアの形成材料を集積用凹部内に堆積させた後、集積用凹部から離型して得られるものである。本実施形態のナプキン1の吸収性コア41は、高吸収性ポリマーを含まないパルプ繊維の単独積繊体であっても良い。
吸収性コア41を構成するパルプ繊維としては、木材パルプ繊維、レーヨン繊維、コットン繊維、酢酸セルロース等のセルロース系の親水性繊維が挙げられる。これらの繊維は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。パルプ繊維の原料パルプとしては、針葉樹クラフトパルプ或いは広葉樹クラフトパルプのような木材パルプ、木綿パルプ或いはワラパルプ等の非木材パルプが挙げられる。また強度向上の観点から、吸収性コア41には、セルロース系の親水性繊維からなるパルプ繊維の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系繊維等の合成繊維を少量混ぜても良い。なお、本発明における吸収性コアは、パルプ繊維(セルロース系繊維)、特に木材パルプ繊維の割合が、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは100質量%である。
また、吸収性コア41には吸水性ポリマーが含有されていてもよい。高吸収性ポリマーとしては、一般に粒子状のものが用いられるが、繊維状のものでもよい。粒子状の高吸収性ポリマーを用いる場合、その形状は球状、塊状、俵状又は不定形のいずれでもよい。高吸収性ポリマーとしては、一般に、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合物又は共重合物を用いることができる。その例としては、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリメタクリル酸及びその塩が挙げられる。ポリアクリル酸塩やポリメタクリル酸塩としては、ナトリウム塩を好ましく用いることができる。また、アクリル酸又はメタクリル酸にマレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はスチレンスルホン酸等のコモノマーを高吸収性ポリマーの性能を低下させない範囲で共重合させた共重合物も用いることができる。吸水性ポリマーが含有されることで、より安定的に大量の血液などの排泄液を素早く吸収し、保持することができる。
また、吸収性コア41には、消臭剤や抗菌剤等を必要に応じて配合しても良い。
ナプキン1の備える血球凝集剤とは、血液中の赤血球を凝集させて凝集塊を形成し、血漿成分と分離するよう作用するものである。好ましい血球凝集剤としては、擬似血液に、1000ppm添加した際に、血液の流動性が維持された状態で、少なくとも2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成するものである。ここで、「血液の流動性が維持された状態」は、測定サンプルが1000ppm添加された血液10gをスクリュー管瓶(マルエム社製 品番「スクリュー管No.4」,口内径14.5mm,胴径27mm,全長55mm)に入れ、該擬似血液を入れたスクリュー管瓶を180度反転した際に、5秒以内で80%以上の該経血擬似血液が流れ落ちる状態を意味する。擬似血液とは、B型粘度計(東機産業株式会社製 型番TVB−10M、測定条件:ローターNo.19、30rpm、25℃、60秒間)を用いて測定した粘度が8mPa・sになるように脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)の血球・血漿比率を調製したものである。また、「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」しているか否かは、次のようにして判断される。すなわち、測定サンプルが、1000ppm添加された前記擬似血液を、生理食塩水で4000倍に希釈し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製 型番:LA−950V2,測定条件:フロー式セル測定,循環速度1,超音波なし)を用いたレーザー回折散乱法によって、温度25℃にて測定した体積粒径平均のメジアン径が、2個以上の赤血球が凝集した凝集塊のサイズに相当する10μm以上である場合に、「2個以上の赤血球が凝集して凝集塊を形成」していると判断する。
コアラップシート42に保持させる血球凝集剤は、カチオン性ポリマーを含んでいることが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、例えばカチオン化セルロースや、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン等のカチオン化デンプンなどが挙げられる。また、血球凝集剤は、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含むこともできる。また、血球凝集剤は、カチオン性ポリマーとして、ポリリジン等の低分子天然ホモポリマーを含むこともできる。本発明において「第4級アンモニウム塩」とは、窒素原子の位置にプラス一価の電荷を有している化合物、又は中和によって窒素原子の位置にプラス一価の電荷を生じさせる化合物を包含し、その具体例としては、第4級アンモニウムカチオンの塩、第3級アミンの中和塩、及び水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンが挙げられる。以下に述べる「第4級アンモニウム部位」も同様の意味で用いられ、水中で正に帯電する部位である。また、本発明において「共重合物」とは、2種以上の重合性単量体の共重合によって得られた重合物のことであり、二元系共重合物及び三元系以上の共重合物の双方を包含する。本発明において「重縮合物」とは、2種以上の単量体からなる縮合物を重合することで得られた重縮合物である。血球凝集剤が、カチオン性ポリマーとして、第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び/又は第4級アンモニウム塩共重合物及び/又は第4級アンモニウム塩重縮合物を含む場合、該血球凝集剤は、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物のうちのいずれか1種を含んでいてもよく、あるいは任意の2種以上の組み合わせを含んでいてもよい。また第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。同様に、第4級アンモニウム塩共重合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に同様に、第4級アンモニウム塩重縮合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このように、本明細書において「血球凝集剤」とは、血液の赤血球を凝集させることができる単一の化合物若しくは又はその単一の化合物の組合せ、又は、複数の化合物の組み合わせによって赤血球の凝集を発現する剤のことである。つまり、血球凝集剤とは、あくまで赤血球凝集作用があるものに限定した剤のことである。したがって、血球凝集剤に第三成分を含む場合には、それを血球凝集剤組成物と表現し、血球凝集剤と区別する。なお、ここでいう「単一の化合物」とは、同じ組成式を有するが、繰り返し単位数が異なることにより、分子量が異なる化合物を含める概念である。
上述した各種のカチオン性ポリマーのうち、特に、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物を用いることが、赤血球への吸着性の点から好ましい。以下の説明においては、簡便のため、第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物及び第4級アンモニウム塩重縮合物を総称して「第4級アンモニウム塩ポリマー」と言う。
第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種用い、これを重合することで得られたものである。一方、第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を少なくとも1種用い、必要に応じ第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を少なくとも1種用い、これらを共重合することで得られたものである。すなわち第4級アンモニウム塩共重合物は、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を2種以上用い、これらを共重合させて得られたものであるか、又は第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い、これらを共重合させて得られたものである。第4級アンモニウム塩共重合物は、ランダム共重合物でもよく、交互共重合物でもよく、ブロック共重合物でもよく、あるいはグラフト共重合物でもよい。第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それら縮合物を重合することで得られたものである。すなわち第4級アンモニウム塩重縮合物は、第4級アンモニウム部位を有する単量体2種以上の縮合物を用い、これを重合させて得られたものであるか、又は、第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない単量体1種以上からなる縮合物を用い、これを縮重合させて得られたものである。
第4級アンモニウム塩ポリマーは、第4級アンモニウム部位を有するカチオン性のポリマーである。第4級アンモニウム部位は、アルキル化剤を用いた第3級アミンの第4級アンモニウム化によって生成させることができる。あるいは第3級アミンを酸若しくは水に溶解させ、中和で生じさせることができる。あるいは縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化によって生成させることができる。アルキル化剤としては、例えばハロゲン化アルキルや、硫酸ジメチル及び硫酸ジメチルなどの硫酸ジアルキルが挙げられる。これらのアルキル化剤のうち、硫酸ジアルキルを用いると、ハロゲン化アルキルを用いた場合に起こり得る腐食の問題が生じないので好ましい。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、リン酸、フルオロスルホン酸、ホウ酸、クロム酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、ギ酸、アスコルビン酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。特に、アルキル化剤によって第3級アミン部位を第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ポリマーを用いると、赤血球の電気二重層を確実に中和できるので好ましい。縮合反応を含む求核反応による第4級アンモニウム化は、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンの開環重縮合反応、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンの環化反応のようにして生じさせることができる。
経血中に赤血球の凝集塊を生成させるためには、カチオン性ポリマーを用いることが特に有効であることが本発明者の検討の結果判明した。この理由は次のとおりである。赤血球はその表面に赤血球膜を有する。赤血球膜は、2層構造を有している。この2層構造は、下層である赤血球膜骨格と上層である脂質皮膜からなる。赤血球の表面に露出している脂質皮膜には、グリコホリンと呼ばれるタンパク質が含まれている。グリコホリンはその末端にシアル酸と呼ばれるアニオン電荷を帯びた糖が結合した糖鎖を有している。その結果、赤血球はアニオン電荷を帯びたコロイド粒子として扱うことができる。コロイド粒子の凝集には一般に凝集剤が用いられる。赤血球がアニオン性のコロイド粒子であることを考慮すると、凝集剤としてはカチオン性の物質を用いることが、赤血球の電気二重層を中和する点から有利である。また凝集剤が高分子鎖を有していると、赤血球の表面に吸着した凝集剤の高分子鎖どうしの絡み合いが生じやすくなり、そのことに起因して赤血球の凝集が促進される。更に、凝集剤が官能基を有している場合には、該官能基間の相互作用によっても赤血球の凝集が促進されるので好ましい。
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは、その分子量が2000以上であることが好ましく、1万以上であることが更に好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以上であることによって、赤血球間でのカチオン性ポリマーどうしの絡み合いや、赤血球間でのカチオン性ポリマーの架橋が十分に生じる。分子量の上限値は3000万以下であることが好ましく、2200万以下であることが更に好ましい。カチオン性ポリマーの分子量がこれらの値以下であることによって、カチオン性ポリマーが経血中へ良好に溶解する。カチオン性ポリマーの分子量は、2000以上3000万以下であることが好ましく、血液が凝集剤配置部を越えて移動することを抑制する効果を高める観点から、1万以上2200万以下であることが更に好ましい。更には、カチオン性ポリマーの分子量が1万以上15万以下、特に1万以上12万以下であると経血の凝集塊が過度に肥大化せず適正な大きさに生成するため、吸収性コアに含まれるパルプ繊維空隙やコアラップシートの空孔部内の空隙を凝集塊が塞ぐことが抑制され、カチオン性ポリマーが経血中へ良好に溶解した後でも、吸収性コア及びコアラップシートにおける経血の透過性が高く維持される点から好ましい。なお、本発明に言う分子量とは、重量平均分子量のことである。また、上述の分子量範囲内で、異なる分子量のカチオン性ポリマーを2種以上組合せても良い。カチオン性ポリマーの分子量は、その重合条件を適切に選択することで制御することができる。カチオン性ポリマーの分子量は、東ソー株式会社製のHLC−8320GPCを用いて測定することができる。具体的な測定条件は次のとおりである。カラムとしては、東ソー株式会社製のガードカラムαと分析カラムα−Mを直列でつないだものを、カラム温度:40℃で用いる。検出器は、RI(屈折率)を用いる。測定サンプルとしては、溶離液1mLに対して1mgの測定対象の処理剤(第4級アンモニウム塩ポリマー)を溶解させる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は、水に150mmol/Lの硫酸ナトリウムと1質量%の酢酸を溶解させた溶離液を用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は、溶離液10mLに対して、分子量5900のプルラン、分子量47300のプルラン、分子量21.2万のプルラン、分子量78.8万のプルラン、各2.5mg溶解させたプルラン混合物を、分子量標準として用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体は流速:1.0mL/min、注入量:100μLで測定する。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は、エタノール:水=3:7(体積比)に50mmol/Lの臭化リチウムと1質量%の酢酸を溶解させた溶離液を用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は、溶離液20mLに対して、分子量106のポリエチレングリコール(PEG)、分子量400のPEG、分子量1470のPEG、分子量6450のPEG、分子量5万のポリエチレンオキシド(PEO)、分子量23.5万のPEO、分子量87.5万のPEO、各10mg溶解させたPEG−PEO混合物を、分子量標準として用いる。ヒドロキシエチルメタクリレートなどの水溶性重合性単量体を含む共重合体以外は流速:0.6mL/min、注入量:100μLで測定する。
赤血球の凝集塊を一層効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーとして第4級アンモニウム塩ポリマーを用いる場合、該第4級アンモニウム塩ポリマーは、その流動電位が1500μeq/L以上であることが好ましく、2000μeq/L以上であることが更に好ましく、3000μeq/L以上であることが一層好ましく、4000μeq/L以上であることが更に一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以上であることによって、赤血球の電気二重層を十分に中和することができる。流動電位の上限値は13000μeq/L以下であることが好ましく、8000μeq/L以下であることが更に好ましく、6000μeq/L以下であることが一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位がこれらの値以下であることによって、赤血球に吸着した第4級アンモニウム塩ポリマーどうしの電気的反発を効果的に防止することができる。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、1500μeq/L以上13000μeq/L以下であることが好ましく、2000μeq/L以上13000μeq/L以下であることが更に好ましく、3000μeq/L以上8000μeq/L以下であることが一層好ましく、4000μeq/L以上6000μeq/L以下であることが更に一層好ましい。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、例えば構成しているカチオン性モノマー自体の分子量、共重合体を構成しているカチオン性モノマーとアニオン性モノマー又はノニオン性モノマーの共重合モル比を調整することで制御することができる。第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位は、スペクトリス株式会社製の流動電位測定器(PCD04)を用いて測定することができる。具体的な測定条件は次のとおりである。まず市販のナプキンに対して、ドライヤーなどを用いて各部材を接着しているホットメルトを無効化し、表面シート、吸収体、裏面シートなどの部材に分解する。分解した各部材に対して、非極性溶媒から極性溶媒までの多段階溶媒抽出法を行い、各部材に用いられている処理剤を分離し、単一の組成物を含んだ溶液を得る。得られた溶液を乾燥・固化させ、1H−NMR(核磁気共鳴法)、IR(赤外分光法)、LC(液体クロマトグラフィ)、GC(ガスクロマトグラフィ)、MS(質量分析法)、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)、蛍光X線などを複合して、処理剤の構造を同定する。測定対象の処理剤(第4級アンモニウム塩ポリマー)0.001gを生理食塩水10gに溶解させた測定サンプルに対して、0.001Nのポリエチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(測定サンプルが負電荷を有する場合は、0.001Nのポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液)を滴定し、電極間の電位差がなくなるまでに要した滴定量XmLを測定する。その後、式1により第4級アンモニウム塩ポリマーの流動電位を算出する。
流動電位 = (X+0.190※)×1000 ・・・ 式1
(※ 溶媒の生理食塩水に要した滴定量)
カチオン性ポリマーが、赤血球の表面に首尾よく吸着するためには、該カチオン性ポリマーが、赤血球の表面に存在しているシアル酸と相互作用しやすいことが有利である。この観点から本発明者が検討を推し進めたところ、物質の無機性値と有機性値との比率である無機性値/有機性値の値(以下「IOB(Inorganic Organic Balance)値」という。)を尺度として、シアル酸結合物とカチオン性ポリマーとの相互作用の程度を評価できることが判明した。詳細には、カチオン性ポリマーとして、シアル酸結合物のIOB値と同じか、それに近似した値のIOB値を有するものを用いることが有利であることが判明した。シアル酸結合物とは、生体内でシアル酸が存在し得る形態となっている化合物のことであり、例えばガラクト脂質などの糖脂質の末端にシアル酸が結合している化合物などが挙げられる。
一般に、物質の性状は、分子間の各種分子間力に大きく支配され、この分子間力は主に分子質量によるVan Der Waals力と、分子の極性による電気的親和力からなっている。物質の性質の変化に対して大きな影響を与えるVan Der Waals力と、電気的親和力のそれぞれを個別に把握することができれば、その組み合わせから未知の物質、あるいはそれらの混合物についてもその性状を予測することができる。この考え方は、「有機概念図論」として良く知られている理論である。有機概念図論は、例えば藤田穆著の「有機分析」(カニヤ書店、昭和5年)、藤田穆著の「有機定性分析:系統的.純粋物編」(共立出版、1953年)、藤田穆著の「改編 化学実験学−有機化学編」(河出書房、1971年)、藤田穆・赤塚政実著の「系統的有機定性分析(混合物編)」(風間書房、1974年)、及び甲田善生・佐藤四郎・本間善夫著の「新版 有機概念図 基礎と応用」(三共出版、2008年)等に詳述されている。有機概念図論では、物質の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」と呼び、また主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と呼び、物質の物性を「有機性」と「無機性」の組み合わせでとらえている。そして、炭素(C)1個を有機性20と定義し、それに対して各種極性基の無機性及び有機性の値を、以下の表1に記載のとおり定め、無機性値の和と有機性値の和を求め、両者の比をIOB値と定義している。本発明においては、これらの有機性値及び無機性値に基づき、上述したシアル酸結合物のIOB値を決定し、その値に基づきカチオン性ポリマーのIOB値を決定する。
具体的には、カチオン性ポリマーがホモポリマーである場合、該ホモポリマーの繰り返し単位に基づき無機性値及び有機性値を決定し、IOB値を算出する。例えば後述する実施例1で用いているカチオン性ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの場合、−C−×8=160の有機性値と、Ammo and NH4 salt×1=400の無機性値と、Ring(non−aromatic single ring)×1=10の無機性値と、−Cl×1=40の有機性値及び10の無機性値とを有することから、無機性値の合計は400+10+10=420となり、有機性値の合計は160+40=200となる。したがってIOB値は420/200=2.10となる。
一方、カチオン性ポリマーが共重合物である場合には、共重合に用いられるモノマーのモル比に応じて以下の手順でIOB値を算出する。すなわち、共重合物がモノマーAとモノマーBとから得られ、モノマーAの有機性値がORAで、無機性値がINAであり、モノマーBの有機性値がORBで、無機性値がINBであり、モノマーA/モノマーBのモル比がMA/MBである場合、共重合物のIOB値は以下の式から算出される。
このようにして決定されたカチオン性ポリマーのIOB値は、0.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、2.1以上であることが更に好ましく、2.2以上であることが一層好ましい。また、カチオン性ポリマーのIOB値は、4.6以下であることが好ましく、3.6以下であることが更に好ましく、3.0以下であることが一層好ましい。具体的には、カチオン性ポリマーのIOB値は、0.6以上4.6以下であることが好ましく、1.8以上3.6以下であることがより好ましく、2.1以上3.6以下であることが更に好ましく、2.2以上3.0以下であることが一層好ましい。なお、シアル酸のIOB値は、シアル酸単体で4.25であり、シアル酸結合体で3.89である。前記シアル酸結合物とは、糖脂質における糖鎖とシアル酸が結合したものであり、シアル酸結合体は、シアル酸単体よりも有機性値の割合が高くなり、IOB値は低くなる。
カチオン性ポリマーのIOB値は上述のとおりであるところ、有機性値そのものは40以上であることが好ましく、100以上であることが更に好ましく、130以上であることが一層好ましい。また、310以下であることが好ましく、250以下であることがより好ましく、240以下であることが更に好ましく、190以下であることが一層好ましい。例えば有機性値は、40以上310以下であることが好ましく、40以上250以下であることがより好ましく、100以上240以下であることが更に好ましく、130以上190以下であることが一層好ましい。カチオン性ポリマーの有機性値をこの範囲に設定することで、該カチオン性ポリマーが赤血球に一層首尾よく吸着するようになる。
一方、カチオン性ポリマーの無機性値に関しては、70以上であることが好ましく、90以上であることが更に好ましく、100以上であることが一層好ましく、120以上であることが更に一層好ましく、250以上であることが特に好ましい。また、790以下であることが好ましく、750以下であることが更に好ましく、700以下であることが一層好ましく、680以下であることが更に一層好ましく、490以下であることが特に好ましい。例えば無機性値は、70以上790以下であることが好ましく、90以上750以下であることが更に好ましく、90以上680以下であることが一層好ましく、120以上680以下であることが更に一層好ましく、250以上490以下であることが特に好ましい。カチオン性ポリマーの無機性値をこの範囲に設定することで、該カチオン性ポリマーが赤血球に一層首尾よく吸着するようになる。
カチオン性ポリマーを赤血球に更に一層首尾よく吸着させる観点から、該カチオン性ポリマーの有機性値をxとし、無機性値をyとしたとき、xとyが以下の式Aを満たすことが好ましい。
y=ax (A)
式中、aは0.66以上であることが好ましく、0.93以上であることが更に好ましく、1.96以上であることが一層好ましい。また、aは、4.56以下あることが好ましく、4.19以下であることが更に好ましく、3.5以下であることが一層好ましい。例えばaは、0.66以上4.56以下の数であることが好ましく、0.93以上4.19以下の数であることが更に好ましく、1.96以上3.5以下の数であることが一層好ましい。特に、カチオン性ポリマーの有機性値及び無機性値が上述の範囲内であることを条件として、該カチオン性ポリマーの有機性値及び無機性値が前記の式Aを満たす場合には、該カチオン性ポリマーがシアル酸結合体と相互作用しやすくなり、該カチオン性ポリマーが赤血球に更に一層吸着しやすくなる。
赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から、カチオン性ポリマーは水溶性であることが好ましい。本発明において「水溶性」とは、100mLのガラスビーカー(5mmΦ)に0.05gの1mm以下の粉末状または厚み0.5mm以下のフィルム状カチオン性ポリマーを25℃の50mLイオン交換水に添加混合したときに、長さ20mm、幅7mmのスターラーチップを入れ、アズワン株式会社製マグネチックスターラーHPS−100を用いて600rpm攪拌下、その全量が24時間以内に水に溶解する性質のことである。なお、本発明において、さらに好ましい溶解性としては、全量が3時間以内に水に溶解することが好ましく、全量が30分以内に水に溶解することがさらに好ましい。
カチオン性ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。特に第4級アンモニウム塩ポリマーは、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものであることが好ましい。第4級アンモニウム部位は側鎖に存在していることが好ましい。この場合、主鎖と側鎖とが1点で結合していると、側鎖の可撓性が阻害されにくくなり、側鎖に存在している第4級アンモニウム部位が赤血球の表面に円滑に吸着するようになる。尤も本発明において、カチオン性ポリマーの主鎖と側鎖とが2点又はそれ以上で結合していることは妨げられない。本発明において「1点で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの1個が、側鎖の末端に位置する1個の炭素原子と単結合していることをいう。「2点以上で結合している」とは、主鎖を構成する炭素原子のうちの2個以上が、側鎖の末端に位置する2個以上の炭素原子とそれぞれ単結合していることをいう。
カチオン性ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、例えば第4級アンモニウム塩ポリマーが、主鎖とそれに結合した複数の側鎖とを有する構造のものである場合、各側鎖の炭素数は4以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましく、6以上であることが一層好ましい。炭素数の上限値は、10以下であることが好ましく、9以下であることが更に好ましく、8以下であることが一層好ましい。例えば側鎖の炭素数は4以上10以下であることが好ましく、5以上9以下であることが更に好ましく、6以上8以下であることが一層好ましい。側鎖の炭素数とは、該側鎖における第4級アンモニウム部位(カチオン部位)の炭素数のことであり、対イオンであるアニオン中に炭素が含まれているとしても、その炭素は計数に含まない。特に、側鎖の炭素原子のうち、主鎖に結合している炭素原子から、第4級窒素に結合している炭素原子までの炭素数が上述の範囲であることが、第4級アンモニウム塩ポリマーが赤血球の表面に吸着するときの立体障害性が低くなるので好ましい。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩ホモポリマーである場合、該ホモポリマーとしては、例えば第4級アンモニウム部位又は第3級アミン部位を有するビニル系単量体の重合物が挙げられる。第3級アミン部位を有するビニル系単量体を重合する場合には、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位をアルキル化剤によって第4級アンモニウム化した第4級アンモニウム塩ホモポリマーとなるか、重合前に及び/又は重合後に、第3級アミン部位を酸によって中和した第3級アミン中和塩となるか、重合後に水溶液中でカチオンを帯びる第3級アミンとなる。アルキル化剤や酸の例は、先に述べたとおりである。
特に第4級アンモニウム塩ホモポリマーは、以下の式1で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
第4級アンモニウム塩ホモポリマーの具体例としては、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。また、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と1点で結合しているものであるポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩)、ポリ(2−メタクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムメチル硫酸塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルトリメチルアミン4級塩)、ポリ(2−アクリルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチル硫酸塩)、ポリ(3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級塩)、ポリメタクル酸ジメチルアミノエチル、ポリアリルアミン塩酸塩、カチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリアミジンなどが挙げられる。一方、第4級アンモニウム部位を有する側鎖が、主鎖と2点以上で結合しているホモポリマーの例としては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルアミン塩酸塩が挙げられる。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩共重合物である場合には、該共重合物として、上述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を2種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物として、上述した第4級アンモニウム塩ホモポリマーの重合に用いられる重合性単量体を1種以上と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体を1種以上用い共重合して得られた共重合物を用いることができる。更に、ビニル系重合性単量体に加えて、又はそれに代えて、他の重合性単量体、例えば−SO2−などを用いることもできる。第4級アンモニウム塩共重合物は、上述したとおり、二元系の共重合物又は三元系以上の共重合物であり得る。
特に、第4級アンモニウム塩共重合物は、前記の式1で表される繰り返し単位と、以下の式2で表される繰り返し単位とを有することが、赤血球の凝集塊を効果的に生成させる観点から好ましい。
また、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体としては、カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体を用いることができる。これらの重合性単量体中で、特にカチオン性重合性単量体又はノニオン性重合性単量体を用いることで、第4級アンモニウム塩共重合物内において第4級アンモニウム部位との電荷相殺が起こらないので、赤血球の凝集を効果的に生じさせることができる。カチオン性重合性単量体の例としては、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を有する環状化合物としてビニルピリジンなど、特定の条件下でカチオンを帯びる窒素原子を主鎖に有する直鎖状化合物としてジシアンジアミドとジエチレントリアミンの縮合化合物などが挙げられる。アニオン性重合性単量体の例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、及び、スチレンスルホン酸、並びに、これらの化合物の塩などが挙げられる。一方、ノニオン性重合性単量体の例としては、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどが挙げられる。これらカチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体、又はノニオン性重合性単量体は、それらのうちの一つを用いることができ、あるいは任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。またカチオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、アニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることができ、あるいはノニオン性重合性単量体を2種以上組み合わせて用いることもできる。カチオン性重合性単量体、アニオン性重合性単量体及び/又はノニオン性重合性単量体を重合性単量体として用いて共重合された第4級アンモニウム塩共重合物は、その分子量が、上述のとおり1000万以下であることが好ましく、特に500万以下、とりわけ300万以下であることが好ましい(以下に例示する第4級アンモニウム塩共重合物についても同様である。)。
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いること、それから得られる第4級アンモニウム塩共重合物を用いて赤血球を凝集させたときに、硬い凝集塊が生じやすくなり、高吸収性ポリマーの吸収性能が一層阻害されにくくなる。水素結合をすることが可能な官能基としては、例えば−OH、−NH2、−CHO、−COOH、−HF、−SHなどが挙げられる。水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ビニルアルコール、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートなどが挙げられる。特に、水素結合が強く働く、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジメチルアクリルアミドなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体として、疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いることもできる。このような重合性単量体を共重合に用いることで、上述した、水素結合をすることが可能な官能基を有する重合性単量体を用いる場合と同様の有利な効果、すなわち赤血球の硬い凝集塊が生じやすくなるという効果が奏される。疎水性相互作用をすることが可能な官能基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、アルキルナフタレン基、フッ化アルキル基などが挙げられる。疎水性相互作用をすることが可能な官能基を有する重合性単量体の例としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、プロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、スチレンなどが挙げられる。特に、疎水性相互作用が強く働き、第4級アンモニウム塩ポリマーの溶解性を大きく低下させない、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートなどは、第4級アンモニウム塩ポリマーの赤血球への吸着状態が安定化するので好ましい。これらの重合性単量体は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
第4級アンモニウム塩共重合物中での、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体と、第4級アンモニウム部位を有さない重合性単量体とのモル比は、該第4級アンモニウム塩共重合物によって赤血球が十分に凝集するように適切に調整されることが好ましい。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物の流動電位が、上述した値となるように調整されることが好ましい。あるいは、第4級アンモニウム塩共重合物のIOBが、上述した値となるように調整されることが好ましい。特に、第4級アンモニウム塩共重合物における第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上であることが好ましく、22モル%以上であることが更に好ましく、32モル%以上であることが一層好ましく、38モル%以上であることが更に一層好ましい。また、100モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることが更に好ましく、65モル%以下であることが一層好ましく、56モル%以下であることが更に一層好ましい。具体的には、第4級アンモニウム部位を有する重合性単量体のモル比は10モル%以上100モル%以下であることが好ましく、22モル%以上80モル%以下であることが更に好ましく、32モル%以上65モル%以下であることが更に好ましく、38モル%以上56モル%以下であることが一層好ましい。
第4級アンモニウム塩ポリマーが、第4級アンモニウム塩重縮合物である場合には、該重縮合物として、上述した第4級アンモニウム部位を有する単量体1種以上からなる縮合物を用い、それらの縮合物を重合することで得られた重縮合物を用いることができる。具体例としては、ジシアンジアミド/ジエチレントリアミン重縮合物、ジメチルアミン/エピクロルヒドリン重縮合物などが挙げられる。
上述した第4級アンモニウム塩ホモポリマー及び第4級アンモニウム塩共重合物は、ビニル系重合性単量体の単独重合法又は共重合法によって得ることができる。重合方法としては、例えばラジカル重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、配位重合、開環重合、重縮合などを用いることができる。重合条件に特に制限はなく、目的とする分子量、流動電位、及び/又はIOB値を有する第4級アンモニウム塩ポリマーが得られる条件を適切に選択すればよい。
以上に詳述したカチオン性ポリマーは上述した「好ましい血球凝集剤」の例示であり、その効果は特願2015−239286号、当該出願の日本国公開公報である特開2016−107100号公報、及び当該出願を優先権の基礎とする国際出願の国際公開第2016/093233号パンフレットに記載の実施例1乃至45によって参照可能である。
また、コアラップシート42に保持させる血球凝集剤としては、カチオン性ポリマー以外に、例えば、溶媒、可塑剤、香料、抗菌・消臭剤、スキンケア剤等を含んだ組成物(血球凝集剤組成物)の形態で付与されていてもよい。また、この血球凝集剤に含まれ得るカチオン性ポリマー以外の成分は、1種又は2種以上混合することができる。溶媒としては、水、炭素数1ないし4の飽和脂肪族一価アルコール等の水溶性有機溶媒、又は該水溶性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブタンジオールなどを用いることができる。香料としては、特許第4776407号公報に記載されているグリーンハーバル様香気を有する香料、植物の抽出エキス、柑橘類の抽出エキスなどを用いることができる。抗菌・消臭剤としては、特許第4526271号公報に記載されている抗菌性を有する金属を含むカンクリナイト様鉱物、特許第4587928号公報に記載されているフェニル基を有する重合性モノマーから重合された多孔性ポリマー、特許第4651392号公報に記載されている第4級アンモニウム塩、活性炭、粘土鉱物などを用いることができる。スキンケア剤としては、特許第4084278号公報に記載されている植物エキス、コラーゲン、天然保湿成分、保湿剤、角質柔軟化剤、消炎剤などを用いることができる。
血球凝集性シートに含まれる血球凝集剤の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、1質量%以上であることが一層好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが更に好ましく、30質量%以下であることが一層好ましい。血球凝集性シートに含まれる血球凝集剤の割合は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上30質量%以下であることが一層好ましい。
血球凝集性シートに含まれる血球凝集剤の割合は、次の方法で測定される。血球凝集性シートを水に60min浸漬させ、血球凝集剤を溶出させる。その後、得られた血球凝集剤が溶出した水を乾燥固化させる。乾燥固化させたサンプルの質量から、血球凝集剤の割合を求める。血球凝集剤の化学構造は、1H−NMRや質量分析法(MS)などを単独、又は複合して同定する。
血球凝集剤に占めるカチオン性ポリマーの割合は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが一層好ましい。例えばカチオン性ポリマーの割合は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。血球凝集剤に占めるカチオン性ポリマーの割合をこの範囲内に設定することで、吸収性物品に有効量のカチオン性ポリマーを付与することができる。
コアラップシート42に保持させるカチオン性ポリマーの量は、1g/m2以上であることが好ましく、3g/m2以上であることが更に好ましく、5g/m2以上であることが一層好ましい。また20g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以下であることが更に好ましく、10g/m2以下であることが一層好ましい。例えばカチオン性ポリマーの量は、1g/m2以上20g/m2以下であることが好ましく、3g/m2以上15g/m2以下であることが更に好ましく、5g/m2以上10g/m2以下であることが一層好ましい。この範囲の量でカチオン性ポリマーを施すことで、排泄された経血中の赤血球を効果的に凝集させることができる。
本発明における吸収性コア41は、図4〜図6に示すように、高吸収性ポリマー43を含み、該高吸収性ポリマー43の配合量が、吸収性コア41の厚み方向において変化していることも好ましい。図4〜図6に示す吸収性コア41においては、吸収性コア41を被覆するコアラップシート42のうち、吸収性コア41の肌対向面側を被覆する肌側部分42aにのみ、空孔部を埋める状態で、血球凝集剤が保持されているが、吸収性コア41の非肌対向面側を被覆する非肌側部分42bにも同様に、コアラップシート42の空孔部を埋める状態で、血球凝集剤が保持されていても良い。
図4に示す吸収性コア41においては、パルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Aが、吸収性コア41の肌対向面41u側に存在しており、パルプ層41Aより非肌対向面41d側に、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー43を有する混合層41Bを有している。
図4に示すように、高吸収性ポリマー43を含まないパルプ層41Aが、吸収性コア41の肌対向面41u側に存在すると、血球凝集剤を保持するコアラップシート42と高吸収性ポリマー43との間の距離が長くなり、前述したタイムラグが長めになることによって、赤血球の凝集物から赤血球以外の部分が一層確実に分離した状態となって、高吸収性ポリマーに吸収され、吸収性物品の吸収性能が一層向上する。また、この構成によって、コアラップシートは、初回透水速度より2回目透水速度が速くなることに役立つ。
他方、図5に示す吸収性コア41においては、パルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Cが、吸収性コア41の非肌対向面41d側に存在しており、パルプ層41Cより肌対向面41u側に、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー43を有する混合層41Bを有している。
また、図6に示す吸収性コア41においても、パルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Cが、吸収性コア41の非肌対向面41d側に存在しており、パルプ層41Cより肌対向面41u側に、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー43を有する混合層41Bを有している。図6に示す吸収性コア41においては、更にパルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Aが、吸収性コア41の肌対向面41u側にも形成されている。
図5及び図6に示すように、高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Cが、吸収性コア41の非肌対向面41d側に存在する構成の場合、血液の吸収とともに直ちに混合層41Bの高吸収性ポリマー43に血液が到達しやすい構成のため、高吸収性ポリマー43の大部分が吸収性コアの吸収力向上に寄与しやすい構成であると言える。加えて、混合層41Bを通過した血液は、パルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層41Cで拡散した場合、使用者の動きによって製品が加圧された際に混合層41Bが液をブロックする効果を有するため、ウェットバック性に優れた構成と言える。
しかし、このような構成の場合、高吸収性ポリマー43が液排泄部から近い位置に存在するため、前述の血球凝集剤を単純に配合させた際の課題であった、作用発現前に高吸収性ポリマーに到達してしまい、血液の効果的な吸収を妨げるという現象がより顕著に発現してしまっていた。
一方、本構成では、コアラップシート42の肌側部分42aの血球凝集剤により、前述の課題である血球凝集剤効果の脆弱化を起こさせることなく、高吸収性ポリマー43の大部分を吸収に寄与させ、ウェットバック性に優れた構成であると言え、吸収性能に優れた吸収性物品が得られる。
上述のように、図4の構成、図5の構成とも、コアラップシート42の空孔部を埋める状態で血球凝集剤が保持されていることで、ウェットバック性などの吸収性能の向上効果が一層効果的に発現される。
図6に示す吸収体4によれば、図4に示す吸収体を用いた場合の効果と、図5に示す吸収体を用いた場合の効果の両者が奏される。
本発明の吸収性物品においては、コアラップシート42に加えて、吸収性コア41内にも、コアラップシートに保持された血球凝集剤と同様の血球凝集剤が配合されていることが好ましい。吸収性コアに血球凝集剤を配することで、凝集スピードを更に速めることができ、より強固に凝集を生じさせることが出来るからである。
吸収性コア41に血球凝集剤を配する場合の血球凝集剤の配置態様は、コアラップシート42の空孔部を埋める状態でなくても良い。また、吸収性コア41に配する場合、吸収性コア41の厚み方向の全域に亘って配しても良く、厚み方向の特定の部位に偏在するように配しても良い。例えば、図4に示す吸収体又は図5に示す吸収体の、パルプ層41Aに配合しても良いし、混合層41Bに配合しても良い。
また、吸収性コア41の平均空孔径が、コアラップシート42の平均空孔径より大きいことが、血球凝集剤を、コアラップシート42の空隙部を埋めた状態に保持されやすいという点から好ましい。この関係は、肌側コアラップシート42aについて満たしていれば良いが、非肌側コアラップシート42bが満たしていても良い。また、経血が肌側コアラップシート42aの血球凝集剤との接触で生じた凝集塊の一部が肌側コアラップシート42aの非肌側面を通過したとき、該コアラップシート42aと吸収性コア41との界面に残り難くなるので、経血を吸収体へと移動し易くする観点からも好ましい。コアラップシート42の平均空孔径は、血球凝集剤を保持していない又は含めない状態又は完全に血球凝集剤が溶解した状態で測定される平均空孔径である。
吸収性コアの平均空孔径及びコアラップシート42の平均空孔径の測定方法は以下の通りである。
〔吸収性コアの平均空孔径及びコアラップシート42の平均空孔径の測定方法〕
測定対象部位における空孔径とは、走査型電子顕微鏡(例えば日本電子製走査電子顕微鏡JCM−6000)により倍率100〜300倍で観察し、全観察領域におけるパルプ繊維やシート素材に接する最も直径の大きい内接円を幾何学的に空隙内に描画した際の内接円直径をいう。無作為に異なる10領域を観察し、それらで得られる10個の内接円直径の平均値を、当該測定対象部位における平均空孔径とする。
また、コアラップシート42の平均空孔径は、好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、また好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
さらに、空孔部を埋めた状態に保持させる点より、コアラップシート42の空隙率は、好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であり、好ましくは90%以下、更に好ましくは70%以下である。空隙率は、好ましくは20%以上90%以下、更に好ましくは30%以上70%以下である。
コアラップシート42の平均空孔径の、吸収性コアの平均空孔径に対する比が、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、また好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.5以下である。
上述したナプキン1の形成材料について説明すると、表面シート2、裏面シート3、サイド防漏シート6としては、それぞれ、通常、生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられるものを特に制限なく用いることができる。例えば、裏面シート3としては、液不透過性又は撥水性の樹脂フィルムや樹脂フィルムと不織布の積層体等を用いることができる。サイド防漏シート6としては、耐水圧の高い積層不織布、樹脂フィルムと不織布との積層体等を用いることができる。
また、表面シート2としては、単層又は多層構造の不織布や、開孔フィルム等を用いることができる。表面シート2は、液透過性を向上させるための各種の油剤、例えば各種の界面活性剤を塗布しておくことができる。表面シート2が多層構造のものである場合、該表面シート2として、着用者の肌に近い側に位置する第1繊維層と、着用者の肌から遠い側に位置する第2繊維層とを有し、両繊維層が、部分的に形成された多数の接合部によって厚さ方向に一体化されており、第1繊維層における、複数の該接合部どうし間に位置する部分が凸状に隆起して、前記凹凸形状の凸部を形成している凹凸シートを用いることができる。この凹凸シートにおける凸部は、その全体が繊維で満たされた中実構造のものであってもよく、あるいは内部に空間を有する中空構造のものであってもよい。凸部が中実構造である凹凸シートとしては、例えば特開2007−182662号公報や特開2002−187228号公報に記載のものを用いることができる。
また、ナプキン1の吸収性コア41は、その全体が一体成形により形成されているが、一体成形されていなくてもよい。例えば、各実施形態のナプキンにおいて、パルプ繊維を含み高吸収性ポリマーを含まないパルプ層と、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー43を有する混合層とが、それぞれ別々に構成されたものが積層された吸収性コアとなっているものが挙げられる。
本発明は、上記実施形態に制限されることなく適宜変更可能である。例えば、吸収性物品は、サイド防漏シート及びそれによる防漏機構を有しないものであっても良く、またウイング部を有しないものであっても良い。また、図1に示すナプキンは、肌対向面に、エンボス加工により形成した防漏溝8が形成されているが、防漏溝の形状は適宜変更でき、防漏溝自体を無くしても良い。
また、吸収性コアには、消臭剤や抗菌剤等を必要に応じて配合しても良い。吸収性コアにおける消臭剤及び抗菌剤の配合量には特に制限はなく、当該技術分野で通常配合されている量とすればよい。
また、ナプキン1の前後方向に沿う左右両側に、着用者側へ向かって起立可能な立体ガードを備えていてもよい。
また、ナプキン1は、後方部Cの横方向後方部に後方フラップ部を有していてもよい。
ナプキン1の裏面シート3の下着に接する部分には、粘着剤が部分的に施されていてもよい。
例えば、本発明の吸収性物品は、生理用ナプキンの他、パンティーライナー(おりものシート)等であってもよい。
前述した本発明の実施形態に関し、更に以下の吸収性物品を開示する。
<1>
肌対向面側に配された液透過性の表面シート、非肌対向面側に配された液不透過性の裏面シート及びこれら両シート間に配された吸収体を備えた経血吸収用の吸収性物品であって、前記吸収体は、パルプ繊維を含む吸収性コアと、空孔部を有し前記吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有し、前記吸収性コアの肌対向面側を被覆する前記コアラップシートに、水溶性の血球凝集剤が、該コアラップシートの前記空孔部を埋めた状態に保持されており、前記コアラップシートを水分が透過する際に、前記血球凝集剤が溶解して、前記空孔部内の空隙が増大するようになされている、吸収性物品。
<2>
前記血球凝集剤は、前記コアラップシートの肌対向面側に、非肌対向面側よりも多く存在している、前記<1>に記載の吸収性物品。
<3>
前記コアラップシートは初回透水速度より2回目透水速度が速い、前記<1>又は<2>に記載の吸収性物品。
<4>
前記吸収性コアは、高吸収性ポリマーを含み、該高吸収性ポリマーの配合量が、該吸収性コアの厚み方向において変化しており、前記パルプ繊維を含み前記高吸収性ポリマーを含まないパルプ層が、該吸収性コアの肌対向面側に存在している、前記<1>〜<3>の何れか1に記載の吸収性物品。
<5>
前記吸収性コアは高吸収性ポリマーを含み、該高吸収性ポリマーの配合量が該吸収性コアの厚み方向において変化しており、前記パルプ繊維を含み前記高吸収性ポリマーを含まないパルプ層が該吸収性コアの非肌対向面側に存在している、前記<1>〜<4>の何れかに記載の吸収性物品。
<6>
前記吸収性コア内にも前記血球凝集剤が配合されている、前記<1>〜<5>の何れか1に記載の吸収性物品。
<7>
前記吸収性コアの平均空孔径が前記コアラップシートの平均空孔径より大きい、前記<1>〜<6>の何れか1に記載の吸収性物品。
<8>
前記吸収性コアの平均繊維密度が前記コアラップシートの平均繊維密度より小さい、前記<1>〜<7>の何れか1に記載の吸収性物品。
<9>
前記コアラップシートの少なくとも肌対向面側の表面積全体における前記空孔部の面積の10%以上が前記血球凝集剤で埋められた状態である、前記<1>〜<8>の何れか1に記載の吸収性物品。
<10>
前記血球凝集剤が、前記コアラップシートの空隙全体の体積の10%以上が血球凝集剤で埋められた状態である、前記<1>〜<9>の何れか1に記載の吸収性物品。
<11>
前記コアラップシートがセルロース系繊維から構成されたシートである、前記<1>〜<10>の何れか1に記載の吸収性物品。
<12>
前記コアラップシートの空孔部が前記コアラップシートの厚み方向に連通した構造を有しており、その連通した空孔部により繊維間の空隙が3次元的に連なった繊維間空隙のネットワーク構造を有する、前記<1>〜<11>の何れか1に記載の吸収性物品。
<13>
前記コアラップシートの平均空孔径が10μm以上150μm以下である、前記<1>〜<12>の何れか1に記載の吸収性物品。
<14>
前記コアラップシートの表面積全体における空孔部の面積の10%以上100%以下が前記血球凝集剤で埋められた状態である、前記<1>〜<13>の何れか1に記載の吸収性物品。
<15>
前記コアラップシートの前記血球凝集剤で埋められた体積の比率が、10%以上90%以下の状態となっている、前記<1>〜<14>の何れか1に記載の吸収性物品。
<16>
前記コアラップシートは、JIS P8133−1:2013によって測定された水抽出液のpHが、3.5以上9.0以下である、前記<1>〜<15>の何れか1に記載の吸収性物品。
<17>
前記表面シートが、部分的に前記コアラップシートと接合された状態となっている、前記<1>〜<16>の何れか1に記載の吸収性物品。
<18>
着用者の排泄部に対向する排泄対向部の横方向の外側に、前記コアラップシートが前記表面シートとともに溝状に窪んでなる防漏溝を有する、前記<1>〜<17>の何れか1に記載の吸収性物品。
<19>
前記コアラップシートは、前記表面シート及び前記吸収性コアとともに一体化された防漏溝を縦方向に沿った側部及び横方向に沿った端部に有している前記<18>に記載の吸収性物品。
<20>
前記防漏溝が、その構成繊維が熱融着された状態となっている、前記<19>に記載の吸収性物品。
<21>
前記表面シートが、少なくとも肌対向面側に凹凸を有する凹凸不織布からなる、前記<1>〜<20>の何れか1に記載の吸収性物品。
<22>
前記吸収性コアは一体成形により形成されている、前記<1>〜<21>の何れか1に記載の吸収性物品。
<23>
前記吸収性コアは高吸収性ポリマーを含有する、前記<1>〜<22>の何れか1に記載の吸収性物品。
<24>
前記吸収性コアには消臭剤又は抗菌剤が配合されている、前記<1>〜<23>の何れか1に記載の吸収性物品。
<25>
着用者の前後方向に対応する縦方向における両側部に一対のウイング部を有している、<1>〜<24>の何れか1に記載の吸収性物品。
<26>
後方部の横方向後方部に後方フラップ部を有している、前記<1>〜<25>の何れか1に記載の吸収性物品。
<27>
前後方向に沿う左右両側に、着用者側へ向かって起立可能な立体ガードを備える、前記<1>〜<26>の何れか1に記載の吸収性物品。
<28>
前記吸収性物品の前記裏面シートの下着に接する部分には、粘着剤が部分的に施されている、前記<1>〜<27>の何れか1に記載の吸収性物品。
<29>
前記血球凝集剤が、生理食塩水と接触した時点から3分以内で溶解を開始する性質を有している、前記<1>〜<28>の何れか1に記載の吸収性物品。
<30>
肌対向面側に配された液透過性の表面シート、非肌対向面側に配された液不透過性の裏面シート及びこれら両シート間に配された吸収体を備えた経血吸収用の吸収性物品であって、前記吸収体は、パルプ繊維を含む吸収性コアと、空孔部を有し前記吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有し、前記吸収性コアの肌対向面側を被覆する前記コアラップシートに、水溶性のカチオン性ポリマーが、該コアラップシートの前記空孔部を埋めた状態に保持されており、前記コアラップシートを水分が透過する際に、前記カチオン性ポリマーが溶解して、前記空孔部内の空隙が増大するようになされている、吸収性物品。
<31>
前記カチオン性ポリマーが第4級アンモニウム塩ホモポリマー、第4級アンモニウム塩共重合物又は第4級アンモニウム塩重縮合物である、前記<30>に記載の吸収性物品。
<32>
前記カチオン性ポリマーは、分子量が1万以上2200万以下、流動電位が1500μeq/L以上13000μeq以下、及び無機性値/有機性値が0.6以上4.6以下である前記<30>又は<31>に記載の吸収性物品。
<33>
肌対向面側に配された液透過性の表面シート、非肌対向面側に配された液不透過性の裏面シート及びこれら両シート間に配された吸収体を備えた経血吸収用の吸収性物品であって、前記吸収体は、パルプ繊維を含む吸収性コアと、空孔部を有し前記吸収性コアを被覆するコアラップシートとを有し、前記吸収性コアの肌対向面側を被覆する前記コアラップシートには、水溶性の血球凝集剤が、前記コアラップシートの肌対向面側に、非肌対向面側よりも多く存在している吸収性物品。
以下、本発明の吸収性物品を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例によって何ら制限されるものではない。
<実施例1>
図1及び図2に示す形態の生理用ナプキンを作製し、これを実施例1のサンプルとした。生理用ナプキンの厚みは1.9mmとした。吸収体4は、図5に示すように、吸収性コア41を肌対向面側から非肌対向面側にわたるまでを1枚のコアラップシート42で包む構成とした。表面シート2としては、花王株式会社製ロリエ肌キレイガード(ふつうの日用羽つき)で用いられている不織布を用いた。裏面シート3としては、非透湿性の樹脂フィルムを用いた。吸収性コア41には、木材パルプ繊維と高吸収性ポリマーとを含む混合積繊体を肌対向面に、木材パルプ繊維のみからなる吸収性コアを非肌対向面に配置した積層型吸収性コアを用いた。混合積繊体は、木材パルプ繊維の坪量が100g/m2、高吸収性ポリマーの坪量が56g/m2であった。高吸収性ポリマーとしては、日本触媒社製の衛生用品向け汎用グレードの高吸収性ポリマーを用いた。
コアラップシート42としては、坪量が16g/m2、厚みが0.3mmの薄紙を用いた。下記処方の血球凝集剤5.00gを、100gのイオン交換水に溶解し、血球凝集剤を含有する溶液をコアラップシートへ120g/m2の坪量となるよう浸漬させた後、該コアラップシート42を乾燥機にて60℃環境下24時間放置することで乾燥させ、乾燥後のコアラップシートに含有する血球凝集剤が6g/m2となったものを用いた。血球凝集剤を含有する溶液の含浸時の粘度は4.0mPa・sであった。血球凝集剤に含有されるカチオン性ポリマーとしては、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(日本ルーブリゾール社製の商品名マーコート106(重量平均分子量:1.5万)を用いた。
〔血球凝集剤の処方〕
マーコート106を乾燥して得られたポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(重量平均分子量:1.5万、流動電位:6700μeq/L)
コアラップシート42は、初回透水速度が0.28g/秒であり、2回目透水速度が1.15g/秒であり、2回目透水速度と初回透水速度との比(2回目透水速度/初回透水速度)が4.1であった。コアラップシート42は、血球凝集剤が肌対向面側により多く存在していた。また、実施例1の生理用ナプキンにおいては、吸収性コアの平均空孔径が、前記コアラップシートの平均空孔径より大きかった。
<実施例2>
図4に示す構成として、実施例1のうち、吸収性コア41には木材パルプ繊維と高吸収性ポリマーとを含む混合積繊体を用いており、高吸収性ポリマーを含有しない繊維単独層を肌対向面側に有するものに変更した以外は、実施例1と同様とした処方とした。実施例2の生理用ナプキンにおいては、吸収性コアの平均空孔径が、前記コアラップシートの平均空孔径より大きかった。
<実施例3〜5>
血球凝集剤の処方を以下のように置き換えた以外は、実施例1と同様にして生理用ナプキンを作成した。
・実施例3:ニットーボーメディカル社製の商品名PAS−H−5Lを乾燥して得られたポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(重量平均分子量:3万、流動電位7447μeq/L、IOB2.1)
・実施例4:日本ルーブリゾール社製の商品名マーコート100を乾燥して得られたポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、(重量平均分子量15万、流動電位7488μeq/L、IOB2.1)
・実施例5:Aldrich社製のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)溶液を乾燥して得られた、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(重量平均分子量:40万〜50万、流動電位6827μeq/L、IOB2.1)
<比較例1>
コアラップシートとして、血球凝集剤を保持させないものを用いた以外は、実施例1と同様にして生理用ナプキンを作製し、これを比較例1のサンプルとした。生理用ナプキンの厚みは1.9mmである。
<比較例2>
コアラップシートとして、血球凝集剤を保持させないものを用い、吸収性コアに、木材パルプ繊維の坪量が300g/m2、高吸収性ポリマーの坪量が15g/m2である混合積繊体を用いた以外は、実施例1と同様にして、厚みが4.2mmの生理用ナプキンを作成し、これを比較例2のサンプルとした。
図7(a)に、血球凝集剤が塗工される前の実施例1及2で用いたコアラップシートの電子顕微鏡(SEM)写真を、図7(b)に、血球凝集剤が塗工された後の実施例1及2で用いたコアラップシートの電子顕微鏡(SEM)写真を、図7(c)に、血球凝集剤が空孔部を埋めた状態に保持されている、実施例1及2で用いたコアラップシートに透水した後(初回透水後)の電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
〔評価〕
実施例1〜5のサンプル(生理用ナプキン)及び比較例1、2のサンプル(生理用ナプキン)について、動的最大吸収量、ウェットバック量(液戻り量)、製品柔軟性(手触り官能評価)を、下記方法により評価した。その結果を下記表2に示した。
<動的最大吸収量>
生理用ナプキンのサンプルを生理用ショーツに固定し、人体の動的モデルに装着した。動的モデルの歩行動作を開始させ、歩行動作開始より1分後に、排泄部対向部より2gの擬似血液を注入した(1回目)。更に1回目の液注入終了より3分後に3gの擬似血液を注入した(2回目)。更に2回目の液注入終了より3分後に2gの擬似血液を注入した(3回目)。3回目以降の液注入は液注入後から3分後に2gの擬似血液を繰り返し注入し、生理用ナプキンのウイング部から液が染み出した時点で終了し、動的最大吸収量とした。
なお、擬似血液は、本明細書で説明した通り、B型粘度計(東機産業株式会社製 型番TVB−10M、測定条件:ローターNo.19、30rpm、25℃、60秒間)を用いて測定した粘度が8mPa・sになるように、脱繊維馬血(株式会社日本バイオテスト研究所製)の血球・血漿比率を調製したものである。
<ウェットバック量>
生理用ナプキンのサンプルを表面シートが表面側となるようにして水平に置き、底部に直径1cmの注入口が付いた円筒つきアクリル板を重ねて、注入口から擬似血液を6g注入し、注入後1分間その状態を保持した。次に、円筒つきアクリル板を取り除き、表面シートの表面上に、縦6cm×横9.5cmで坪量13g/m2の吸収紙(市販のティッシュペーパー)を16枚重ねて載せた。更にその上に圧力が20×98Pa(20gf/cm2)になるように重りを載せて5秒間加圧した。加圧後、吸収紙を取り出し、加圧後の吸収紙の重さを測定した。加圧後の吸収紙の重さから加圧前の吸収紙の重さを差し引くことで、紙に吸収された擬似血液の質量を算出し表面液戻り量とした。
<製品柔軟性官能評価>
実施例及び比較例で得られたナプキンが見えない状態(ボックスの中に入れる)で、10人のモニターに製品を触らせ柔軟性を評価させる。比較例2の製品を柔軟性の基準とし、比較例1よりも、非常に柔軟な場合を5、柔軟な場合を4、同じ場合を3、硬い場合を2、非常に硬くなっている場合を1として比較評価を行う。この10人分の平均値が、4.0以上となる場合を「A」、3.5以上4.0未満の範囲となる場合を「B」、2.5を超え3.5未満の範囲となる場合を「C」とした。
比較例2の製品についても、同一サンプルである比較例2と比較する形で官能評価を行った。
図7(a)〜(c)から明らかな通り、実施例1及び2で用いたコアラップシートは、血球凝集剤が空孔部を埋めた状態に保持されており、コアラップシートを水分が透過すると、空孔部を埋めた状態で保持されている血球凝集剤が溶解して、空孔部内の空隙が増大した。その結果、表2によれば、実施例1及び実施例2の生理用ナプキンは、比較例1の生理用ナプキンに比べて、動的最大吸収量が上昇しており、かつウェットバック量も低減しており、吸収性能が向上している。他方、実施例1及び実施例2の生理用ナプキンと、比較例2の生理用ナプキンとを比べると、実施例1の生理用ナプキンは、比較例2の生理用ナプキンに比して、製品としての厚みが4.2mmから1.9mmへと大幅に薄型化させたいわゆる「ウルトラスリムタイプ」であり、製品柔軟性官能評価においても差があると考えられる。このように材料を低減させているにも拘わらず、動的最大吸収量の差が僅かである。
また、実施例1と実施例2を比較すると、ウェットバック量が実施例2の方が少ない。これは、高吸収性ポリマーを含有しない繊維単独層を肌対向面側に配置したことによる、血球凝集剤による吸収性能に対する効果が、より高く発現していると考えられる。
このことから、本発明の吸収性物品によれば、血球凝集剤による吸収性能の向上効果が効果的に発現され、優れた吸収性能が奏されることが判る。また、薄さを変えずに吸収性能を飛躍的に向上させたり、吸収性能をある程度以上に維持しながら大幅な薄型化を図ることができることが判る。
<実施例6〜10>
実施例1〜5で使用した吸収性コアの混合積繊体を、木材パルプ繊維の坪量を280g/m2、高吸収性ポリマーの坪量を29g/m2に変更した以外は実施例1と同様の構成とし、厚み4.2mmの生理用ナプキンを作成した。動的最大吸収量及びウェットバック量を上述した方法により測定し、表3に示した。
<比較例3>
比較例1で使用した吸収性コアの混合積繊体を、木材パルプ繊維の坪量を280g/m2、高吸収性ポリマーの坪量を29g/m2に変更した以外は比較例1と同様の構成とし、厚み4.2mmの生理用ナプキンを作成した。動的最大吸収量及びウェットバック量を上述した方法により測定し、表3に示した。
表3に示すように、厚み4.2mmの「通常スリムタイプ」の生理用ナプキンであっても、動的最大吸収量及び液戻り量の抑制について、血球凝集剤を含まない生理用ナプキン(比較例3)に比べて、改善されていることが分かる。前述の実施例1〜5のように、本発明は吸収性物品を薄型化して着用感を向上させつつ吸液性能を良好にする点で非常に有効であるが、実施例6〜10のような厚型の吸収性物品において吸液性能を向上させる点でも有効である。
〔試験例1〕
坪量25g/m2のパルプ製の紙(パルプ:カリブ種、厚み:0.326mm(0.5g/cm2荷重時)、0.5g/cm2荷重時の嵩密度:0.08g/cm3)の一方の面に血球凝集剤を塗布した。血球凝集剤として、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(日本ルーブリゾール株式会社、商品名「マーコート100」、重量平均分子量15万)を用いた。10gの血球凝集剤を25gの水に溶解して、粘度15500mPa・sの溶液を調製した。この溶液を、前記の紙の非肌対向面の全域にわたり筆で以下の表4中にある坪量となるように塗布した。このようにして血球凝集性シートを得た。
〔試験例2〜9〕
血球凝集剤の塗布を以下の表4に示すとおりに行った。これ以外は試験例1と同様にして血球凝集性シートを得た。
〔試験例10〜12〕
血球凝集剤として、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ株式会社、商品名「ユニセンスFPA1002L」、重量平均分子量60万)を用いた。10gの血球凝集剤を55.6gの水に溶解して、粘度749mPa・sの溶液を調製した。この溶液を、試験例1で用いた紙と同様の紙に筆で以下の表5中にある坪量となるように塗布した。このようにして血球凝集性シートを得た。
〔試験例13及び14〕
血球凝集剤として、水溶性の第4級アンモニウム塩ホモポリマーであるポリメタクリル酸ジメチルアミノエチルジエチル硫酸塩(花王株式会社、商品名「カオーセラMD−P」、重量平均分子量5.6万)を用いた。10gの血球凝集剤を27.8gの水に溶解して、粘度189mPa・sの溶液を調製した。この溶液を、試験例1で用いた紙と同様の紙に筆で以下の表5中にある坪量となるように塗布した。このようにして血球凝集性シートを得た。
〔評価1〕
試験例で得られた血球凝集性シートを用いて血液の透過についてのモデル実験を行った。内径35mmの円筒を2つ用い、これら2つの円筒を鉛直方向に沿って直列配置し、その間に血球凝集性シートを挟んだ。このとき、血球凝集性シートにおける肌対向面側が鉛直上方を向くようにした。上側に位置する円筒内に3gの擬似血液を注ぎ入れ、20秒経過後に下側に位置する円筒内に溜まった擬似血液の量を測定した。この操作をあと2回繰り返し、そのたびに、下側に位置する円筒内に溜まった擬似血液の量を測定した。この量を尺度として血球凝集性シートの液透過性を評価した。なお、擬似血液は、本明細書で説明したとおり、B型粘度計(東機産業株式会社製、型番TVB−10M、測定条件:ローターNo.19、30rpm、25℃、60秒間)を用いて測定した粘度が8mPa・sになるように、脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)の血球・血漿比率を調整したものである。以下、「擬似血液」というときはこの意味で用いる。
〔評価2〕
前記の〔評価1〕で得られた、血球凝集性シートを透過した擬似血液を用いて高吸収性ポリマーを以下の手順で膨潤させて、体積膨潤倍率を以下の方法で測定した。直径約400μmの高吸収性ポリマー1粒をスライドガラス上に載置し、この高吸収性ポリマーに、回収された各血液を、パスツールピペットによって3滴滴下して、該高吸収性ポリマーに血液を吸収させて膨潤させた。高吸収性ポリマーとしては、架橋ポリアクリル酸ナトリウムを用いた。血液を滴下した後、水分の蒸散を防ぐために、小さなスクリュー蓋を用いて高吸収性ポリマーを密閉した。10分経過後に蓋を取り去り、更に吸収紙を用いて過剰量存在する擬似血液を吸収除去した。引き続き、高吸収性ポリマーの直径を光学顕微鏡観察で測定した。膨潤前の高吸収性ポリマーの直径をR1(μm)、膨潤後の直径をR2(μm)としたとき、体積膨潤倍率は(R2/R1)3で定義される。体積膨潤倍率の値が大きいほど、高吸収性ポリマーが多量の液を吸収したことを意味する。
表4及び表5に示す結果から明らかなとおり、各試験例で得られた血球凝集性シートは、高吸収性ポリマーの体積膨潤倍率が同等程度に高いものであった。なお、血球凝集剤を加えないで試験例1と同様に評価を行った場合の高吸収性ポリマーの体積膨潤倍率は12.2倍である。更に、非肌対向面側に血球凝集剤が偏在している血球凝集性シートは、肌対向面側に血球凝集剤が偏在しているシートに比べて、擬似血液の透過2回目以降、回数が増えても、20秒間の擬似血液の透過量が少なくならず、高吸収性ポリマーの体積膨潤倍率を両立できることが判る。また擬似血液の吸収量を維持したままで、液の透過量の低下の程度が小さいことが判る。
また、各試験例から明らかなように、血球凝集剤を肌対向面側に偏在させた血球凝集性シートは、擬似血液の透過量は回数を重ねると少なくなるものの、高吸収性ポリマーの体積膨潤倍率は血球凝集剤を非対向面側に偏在させた血球凝集性シートと同程度に良好である。すなわち、このような血球凝集性シートをナプキンに使用した場合でも、血漿成分は血球凝集性シートを通過して吸収性コアの高吸収性ポリマーに十分に吸収されうることを示唆している。