本発明はここで、本発明の好ましい実施態様が示される付随する図面に関して説明される。しかしながら、本発明は異なる形態で実現され得て、本明細書中に示される実施態様に制限されると解釈されるべきでない。むしろ、これらの実施態様は、本開示が徹底的かつ完全であるように、そして、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
別段の定義がされない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者の一人によって一般に理解されるのと同一の意味を持つ。本明細書において、本発明の説明において用いられる専門用語は、特定の実施態様を説明する目的のためのみであり、本発明の制限を意図しない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体で参照により援用される。
ヌクレオチド配列は、別段の明確な指示がない限り、本明細書において、一本鎖のみによって、5’から3’の方向で、左から右に示される。ヌクレオチドおよびアミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される様式で、または、(アミノ酸については)一文字コードまたは三文字コードのいずれかによって、どちらも37 CFR §1.822および確立された使用に従って表される。例えば、PatentIn User Manual,99−102(Nov.1990)(米国特許商標庁)を参照。
別段の指示がされる場合を除き、当業者に公知の標準的な方法が、組み換えパルボウイルスおよびAAV(rAAV)構築物、パルボウイルスRepおよび/またはCap配列を発現しているパッケージングベクター、および、一時的および安定的にトランスフェクトされたパッケージング細胞の構築のために、用いられ得る。そのような技術は当業者に公知である。例えば、SAMBROOK et al.,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL 2nd Ed.(Cold Spring Harbor,NY,1989);AUSUBEL et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing Associates,Inc.and John Wiley&Sons,Inc.,New York)を参照。
さらに、本発明は、本発明の一部の実施態様では、本明細書中に示される任意の特徴または特徴の組み合わせは、除外または省略され得ることも検討する。
さらに説明すると、仮に、例えば、本明細書が、特定のアミノ酸は、A、G、I、Lおよび/またはVから選択され得ることを示す場合、この言い回しは、あたかもそれぞれのそのようなサブコンビネーションが本明細書中に明示的に示されるかのように、アミノ酸は、これらのアミノ酸(単数または複数)の任意のサブセット、例えばA、G、IまたはL;A、G、IまたはV;AまたはG;Lのみ;などから選択され得ることも示す。さらに、そのような言い回しは、規定のアミノ酸の1つまたは複数が否認され得ることも示す。例えば、特定の実施態様では、アミノ酸は、あたかもそれぞれのそのようなあり得る否認が本明細書中に明示的に示されるかのように、A、GまたはIではなく;Aではなく;GまたはVではない;などである。
定義
以下の用語は、本明細書中の説明および添付される特許請求の範囲において用いられる。
単数形「a」および「an」は、文脈が明確に別段の提示をしない限り、複数形も同様に含むことが意図される。
さらに、本明細書において用いられる用語「約」は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さ、投与量、時間、温度などの量のような測定可能な値を指す場合は、規定の量の20%、10%、5%、1%、0.5%、または実に0.1%の変動を包含することを意味する。
また、本明細書において用いられる「および/または」は、関係がある挙げられた項目の1つまたは複数の任意および全てのあり得る組み合わせ、ならびに、代替(「または」)と解釈された場合は組み合わせの欠失を指し、および包含する。
本明細書において用いられる用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)は、制限されないが、AAVタイプ1(AAV1)、AAVタイプ2(AAV2)、AAVタイプ3(AAV3、タイプ3Aおよび3Bを含む)、AAVタイプ4(AAV4)、AAVタイプ5(AAV5)、AAVタイプ6(AAV6)、AAVタイプ7(AAV7)、AAVタイプ8(AAV8)、AAVタイプ9(AAV9)、AAVタイプ10(AAV10)、AAVタイプ11(AAV11)、AAVタイプ12(AAV12)、AAVタイプ13(AAV13)、鳥類AAV ATCCVR−865、鳥類AAV株DA−1、Bb1、Bb2、Ch5、Cy2、Cy3、Cy4、Cy5、Cy6、Hu1、Hu10、Hu11、Hu13、Hu15、Hu16、Hu17、Hu18、Hu19、Hu2、Hu20、Hu21、Hu22、Hu23、Hu24、Hu25、Hu26、Hu27、Hu28、Hu29、Hu3、Hu31、Hu32、Hu34、Hu35、Hu37、Hu39、Hu4、Hu40、Hu41、Hu42、Hu43、Hu44、Hu45、Hu46、Hu47、Hu48、Hu49、Hu51、Hu52、Hu53、Hu54、Hu55、Hu56、Hu57、Hu58、Hu6、Hu60、Hu61、Hu63、Hu64、Hu66、Hu67、Hu7、Hu9、HuLG15、HuS17、HuT17、HuT32、HuT40、HuT41、HuT70、HuT71、HuT88、Pi1、Pi2、Pi3、Rh1、Rh10、Rh13、Rh2、Rh25、Rh32、Rh33、Rh34、Rh35、Rh36、Rh37、Rh38、Rh40、Rh43、Rh48、Rh49、Rh50、Rh51、Rh52、Rh53、Rh54、Rh55、Rh57、Rh58、Rh61、Rh62、Rh64、Rh74、Rh8、ヘビAAV、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、AAV1.1、AAV2.5、AAV6.1、AAV6.3.1、AAV9.45、RHM4−1(WO2015/013313の配列番号5)、AAV2−TT、AAV2−TT−S312N、AAV3B−S312N、AAV−LK03、および、現在知られまたは後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、Fields et al.,VIROLOGY,第2巻、第69章(第4版,Lippincott−Raven Publishers)を参照。キャプシドは、米国特許第7,906,111号;Gao et al.,2004,J.Virol.78:6381;Moris et al.,2004,Virol.33:375;WO2013/063379;WO2014/194132に開示される多くのAAV血清型に由来してよく;WO2015/121501に開示される真正タイプAAV(AAV−TT)変異体、および、WO2015/013313に開示されるRHM4−1、RHM15−1からRHM15−6、およびそれらの変異体を含み、当業者は、同一または同様の機能を発揮する未だ同定されていない他の変異体が存在するかもしれないことを知っていて、または2以上のAAVキャプシド由来の構成要素を含んでよい。AAV capタンパク質の完全相補は、VP1、VP2、およびVP3を含む。AAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むオープンリーディングフレームは、完全未満の相補AAV capタンパク質を含んでよく、または、AAV capタンパク質の完全相補が提供されてよい。
および、現在知られまたは後に発見される任意の他のAAV。例えば、Fields et al.,VIROLOGY,第2巻、第69章(第4版,Lippincott−Raven Publishers)を参照。多くの相対的に新しいAAV血清型およびクレードが同定されている(例えば、Gao et al.,(2004)J.Virol.78:6381;Moris et al.,(2004)Virol.33−:375を参照)。
AAVは、直径が約20〜30nmの二十面体のキャプシドを有する小さな非エンベロープウイルスである。AAVは、他のウイルス(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよびヒト乳頭腫ウイルス)からの、いわゆるヘルパータンパク質の寄与がないと複製することができず、したがって、パルボウイルスのファミリー内のディペンドウイルスと呼ばれる特別な属に入れられた(それらは複製のために他のウイルスに依存するので)。多くの異なる血清型のAAVが発見されていて、多くのヒトが1つまたは複数のAAV血清型に対する抗体を産生するが(AAV感染の広範な履歴を示す)、AAVに起因することが知られる疾患は存在せず、AAVがヒトにおいて非病原であることを示唆する
多くの異なるAAV血清型が発見されているが、最も特徴付けられているものはAAV2であり、以下のAAV生物学の議論は、AAV2に関して習得されているものの一部に焦点を当てる。他のAAV血清型のライフサイクルは、細部は異なり得るが同様であると考えられる。AAV2または任意の他のAAV血清型が細胞の内側で感染および複製する特定の詳細は、単に、本明細書に開示される発明を理解するのを助けるために提供されるだけであり、それらの範囲をいかなる方法においても制限することを意図しない。仮に、この情報の一部が正しくないまたは完全でないことが後に分かったとしても、本明細書において開示されて特許請求の範囲に記載される発明の有用性または実施可能性を減じると解釈されるべきでない。AAVライフサイクルに関するさらなる情報は、M.Goncalves,Virol J 2:43(2005),MD Weitzman and RM Linden,Adeno−Associated Virus Biology,Ch.1,pp.1−23,Adeno−Associated Virus Methods and Protocols,Ed.RO Snyder and P Moullier,Humana Press(2011),GE Berry and A Asokan,Curr Opin Virol 21:54−60(2016)、およびその中で引用される参考文献に見ることができる。
AAV2の野生型ゲノムは、線状DNAであり、およそ4.7キロ塩基の長さである。ほとんどが一本鎖であるが、ゲノムの5’および3’末は、いわゆる逆位末端配列(ITR)からなり、それぞれ145塩基対の長さであり、古典的なワトソンクリック塩基対合を通して自己アニールする回文配列を含み、T型ヘアピン構造を形成する。これらの構造の1つは、細胞のDNAポリメラーゼに依拠して自己プライミングの鎖置換メカニズムを通したウイルスDNA複製の開始を可能にするフリーの3’ヒドロキシル基を含む。例えば、M.Goncalves,Adeno−associated virus:from defective virus to effective vector,Virology J 2:43(2005)を参照。一本鎖ウイルスゲノムが複製されて、それから感染細胞においてキャプシド中にパッケージされるメカニズムに起因して、プラス(センスまたはコード)およびマイナス(アンチセンスまたは非コード)鎖が、別個の粒子中に等しい効率でパッケージされる。
隣接するITRに加えて、野生型AAV2ゲノムは、代替のプロモーターおよびスプライシングの効率的な使用を通して、4つの複製タンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40)および3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2、およびVP3)をそれぞれコードする、2つの遺伝子、repおよびcapを含む。大きい複製タンパク質である、Rep78および68は多機能であり、AAV転写、ウイルスDNA複製、および、ヒト染色体19へのウイルスゲノムの部位特異的な組込みに関与する。より小さなRepタンパク質は、感染された細胞核において、ウイルスゲノムをウイルスキャプシド中にパッケージングすることに関与している。3つのキャプシドタンパク質は、3つのタンパク質が全てそれらのカルボキシ末端に向かって配列を共有するが、VP2はVP3には存在しないさらなるアミノ末端配列を含み、VP1はVP2およびVP3の両方に存在しないさらなるアミノ末端配列を含むように、選択的スプライシングおよび選択的翻訳開始部位の使用の組み合わせを通して生産される。キャプシドは、およそ1:1:10のVP1:VP2:VP3化学量論で合計60個のキャプシドタンパク質を含むと推定されるが、これらの比は明らかに変化し得る。
その相対的に小さなサイズ、したがって異種遺伝子を保有する能力にもかかわらず、AAVは、遺伝子治療のための主要なウイルスベクターとして同定されている。遺伝子治療ベクターとして提唱されている他のウイルスと比較してAAVを用いる利点は、形質導入細胞における長期の遺伝子発現をサポートするAAVの能力、分裂および非分裂細胞の両方を形質導入する能力、血清型に応じて多種多様の異なるタイプの細胞を形質導入する能力、ヘルパーウイルスが無いと複製することができないこと、および、野生型感染と関連する病原性が明らかにないことを含む。
それらの小さなサイズのため、AAVキャプシドは、せいぜい約4.7〜5.0キロ塩基の長さである一本鎖DNAゲノムを物理的に蓄積することができる。ゲノムを改変しなければ、治療的タンパク質に関するコード配列のような異種遺伝子、および、プロモーターおよび任意選択でエンハンサーのような遺伝子調節エレメントを含む十分な余地がないであろう。より多くの余地を作るためには、隣接するITRが維持される限り、repおよびcap遺伝子は除去され得て、所望の異種配列によって置き換えられ得る。repおよびcap遺伝子の機能は、DNAの異なる断片上にトランスで提供され得る。対照的に、ITRは、異種配列とシスで維持しなければならない唯一のAAVウイルスエレメントである。ITRが無い異なるプラスミドに対して、ITRと異種遺伝子を組み合わせ、repおよびcap遺伝子を除去することもまた、遺伝子治療のためのAAVベクターが生産されるのと同時に、感染性野生型AAVの生産を防止する。repおよびcapを除去することは、遺伝子治療のためのAAVベクターが、それらが形質導入する細胞において複製することができないことも意味する。
一部の実施態様では、AAVベクターのゲノムは、AAV ITRが隣接した線状の一本鎖DNAである。異種遺伝子の転写および翻訳をサポートすることができる前に、一本鎖DNAゲノムは、二本鎖合成を開始するために自己プライミングITRの1つのフリーの3’−OHを利用する細胞DNAポリメラーゼによって、二本鎖形態に変換されなければならない。代替の実施態様では、逆の極性の全長一本鎖ゲノムがアニールして全長二本鎖ゲノムを生産することができて、逆の極性のゲノムを保有する複数のAAVベクターが同一の細胞を同時に形質導入する場合に生じることができる。何らかのメカニズムによって二本鎖ベクターゲノムが形成した後に、細胞の遺伝子転写機構が二本鎖DNAに対して作用して、異種遺伝子を発現することができる。
他の実施態様では、ベクターゲノムは、自己相補(scAAV)であるように設計され得て、両末端に野生型ITRおよび中央に突然変異したITRを有する。例えば、McCarty、DM,et al.,Adeno−associated virus terminal repeat(TR)mutant generates self−complementary vectors to overcome the rate−limiting step to transduction in vivo.Gene Ther.10:2112−18(2003)を参照。細胞に侵入した後に、自己相補AAVゲノムは、中央のITRで始まる自己アニールをして、デノボDNA複製を必要とせずに二本鎖ゲノムを形成することができると提唱されている。この手法は、より効率的な形質導入および異種遺伝子のより迅速な発現をもたらすことが示されたが、用いられ得る異種遺伝子のサイズを約半分減少させる。
遺伝子治療のためのAAVベクターを生産するための異なるストラテジーが開発されているが、最も一般的なものは三重トランスフェクション技術であり、それは、3つの異なるプラスミドがプロデューサー細胞中にトランスフェクトされる。例えば、N.Clement and J.Grieger,Mol Ther Methds Clin Dev,3:16002(2016),Grieger,JC,et al.,Mol Ther 24(2):287−97(2016)、およびその中で引用される参考文献を参照。この技術では、左右のITRによって隣接された、所望のRNAまたはタンパク質を発現するために、例えば異種プロモーターおよび任意選択でエンハンサー、および異種遺伝子を含む、ベクターゲノムの配列を含むプラスミドが作成される。ベクタープラスミドは、repおよびcap遺伝子を含む第二のプラスミド、および、ベクターゲノムをAAVキャプシド中に複製およびパッケージするために必要なアデノウイルス(または他のウイルス)ヘルパー遺伝子を含む第三のプラスミドとともに、HEK293細胞のようなプロデューサー細胞中に共トランスフェクトされる。この技術の代替の実施態様では、rep、capおよびアデノウイルスヘルパー遺伝子は、全て同一のプラスミド上に存在して、2つのプラスミドがプロデューサー細胞中に共トランスフェクトされる。アデノウイルスヘルパー遺伝子の例は、E1a、E1b、E2a、E4orf6、およびVA RNA遺伝子を含む。多くのAAV血清型に関して、AAV2 ITRは、ベクターゲノムが非AAV2キャプシド内で複製およびパッケージされる能力を著しく損なわずに、ネイティブのITRに関して置換され得る。この手法は、シュードタイピングとして知られ、他の血清型由来のrepおよびcap遺伝子を含むrep/capプラスミドを使用することを必要とするだけである。したがって、例えば、AAV遺伝子治療ベクターは、AAV9キャプシド、および異種遺伝子、例えばミニ−ジストロフィンに隣接しているAAV2 ITR(「AAV2/9」と指定され得る)を含む、ベクターゲノムを用いることができる。AAV粒子が細胞によって生産された後に、それらは集められ得て、CsClグラジエントにおける超遠心分離のような当技術分野で知られている標準的な技術を用いて、または、様々なタイプのクロマトグラフィーカラムを用いて精製され得る。
本発明のパルボウイルス粒子およびゲノムは、限定されないがAAV由来であってよい。様々な血清型のAAVおよび自律的パルボウイルスのゲノム配列、ならびに、ネイティブのITR、Repタンパク質、およびキャプシドサブユニットの配列は、当技術分野で知られている。そのような配列は、文献またはGenBankのような公共データベースにおいて見られ得る。例えば、GenBankアクセッションナンバーNC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、AY631966、AX753250、EU285562、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852およびAY530579を参照;それらの開示は、パルボウイルスおよびAAV核酸およびアミノ酸配列を教示するために本明細書において参照により援用される。また、例えば、Bantel−Schaal et al.,(1999)J.Virol.73:939;Chiorini et al.,(1997)J.Virol.71:6823;Chiorini et al.,(1999)J.Virol.73:1309;Gao et al.,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;Moris et al.,(2004)Virol.33−:375−383;Mori et al.,(2004)Virol.330:375;Muramatsu et al.,(1996)Virol.221:208;Ruffing et al.,(1994)J.Gen.Virol.75:3385;Rutledge et al.,(1998)J.Virol.72:309;Schmidt et al.,(2008)J.Virol.82:8911;Shade et al.,(1986)J.Virol.58:921;Srivastava et al.,(1983)J.Virol.45:555;Xiao et al.,(1999)J.Virol.73:3994;国際特許公報WO00/28061、WO99/61601、WO98/11244;および米国特許第6,156,303号も参照;それらの開示は、パルボウイルスおよびAAV核酸およびアミノ酸配列を教示するために本明細書において参照により援用される。AAV1、AAV2およびAAV3由来のITR配列は、Xiao,X.,(1996)「Characterization of Adeno−associated virus(AAV)DNA replication and integration」Ph.D.Dissertation,University of Pittsburgh,Pittsburgh,PAによって提供される(その全体で本明細書中に援用される)。
本明細書において用いられる、AAVによる細胞の「形質導入」は、AAVが介在した、細胞への遺伝物質の移行を指す。例えば、Fields et al.,VIROLOGY,第2巻、第69章(第3版、Lippincott−Raven Publishers)を参照。
用語「5’部分」および「3’部分」は、2以上のエレメント間の空間的関係を定義するための相対的用語である。したがって、例えば、ポリヌクレオチドの「3’部分」は、別のセグメントの下流であるポリヌクレオチドのセグメントを示す。用語「3’部分」は、セグメントが必ずしもポリヌクレオチドの3’末にあることを示すことを意図せず、または、必ずしもポリヌクレオチドの3’の半分にあることさえ意図しないが、そうであってよい。同様に、ポリヌクレオチドの「5’部分」は、別のセグメントの上流であるポリヌクレオチドのセグメントを示す。用語「5’部分」は、セグメントが必ずしもポリヌクレオチドの5’末にあることを示すことを意図せず、または、必ずしもポリヌクレオチドの5’の半分にあることさえ意図しないが、そうであってよい。
本明細書において用いられる用語「ポリペプチド」は、別段の指示がない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
「ポリヌクレオチド」は、それぞれの単量体ユニットの3’位が隣の単量体ユニットの5’位にリン酸基を介して連結されているヌクレオチドの線状配列である。ポリヌクレオチドは、RNA(RNAヌクレオチドのみを含む)、DNA(DNAヌクレオチドのみを含む)、RNAおよびDNAハイブリダイズ(RNAおよびDNAヌクレオチドを含む)、ならびに、天然起源および/または非天然起源ヌクレオチドを含む他のハイブリダイズであってよい。ポリヌクレオチド内のヌクレオチドの塩基の線状の順番は、ポリヌクレオチドの、「ヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸塩基配列」、または時には、単に「配列」と呼ばれる。典型的に、塩基の順番は、ポリヌクレオチドの5’末から始まってポリヌクレオチドの3’末で終わって提供される。当技術分野で知られるように、ポリヌクレオチドは、自己相補の領域のような二次構造を採用することができる。ポリヌクレオチドは、古典的なワトソンクリック塩基対合、または当業者に馴染みのある他のメカニズムを通して完全または部分的に相補のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることもできる。
本明細書において用いられる「遺伝子」は、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド、必ずしもではないが典型的にDNAの部分である。一部の実施態様では、遺伝子は、イントロンによって中断され得る。一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは、選択的スプライシングのようなメカニズム、選択的開始コドンの使用、または当業者に馴染みのある他の生物学的メカニズムに起因して、1よりも多いポリペプチドまたはタンパク質をコードすることができる。用語「オープンリーディングフレーム」は、「ORF」と省略されて、ポリペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドの部分を指す。
本明細書において用いられる用語「コドン最適化」は、コード配列(例えば、ジストロフィンまたはミニ−ジストロフィンに関するコード配列などを含む野生型配列)に通常存在する1つまたは複数のコドンを、同一(同義)アミノ酸に関するコドンで置換することによって、発現を増大させるように最適化されている遺伝子コード配列を指す。この様式において、遺伝子によってコードされるタンパク質は同一であるが、根底となる遺伝子の核酸塩基配列または対応するmRNAは異なる。一部の実施態様では、最適化は、1つまたは複数のレアコドン(すなわち、特定の種由来の細胞において相対的に稀に生じるtRNAに関するコドン)を、翻訳の効率を改善するために、より頻繁に生じる同義コドンによって置換する。例えば、ヒトコドン最適化では、コード配列内の1つまたは複数のコドンは、同一アミノ酸に関してヒト細胞においてより頻繁に生じるコドンによって置換される。コドン最適化は、転写および/または翻訳の効率を改善し得る他のメカニズムを通して遺伝子発現を増大することもできる。ストラテジーは、制限されずに、合計GC含有量(すなわち、コード配列全体におけるグアニンおよびシトシンのパーセント)の増大、CpG含有量(すなわち、コード配列におけるCGまたはGCジヌクレオチドの数)の低減、潜在性のスプライスのドナーまたはアクセプター部位の除去、および/または、コザック配列のようなリボソーム侵入部位の付加または除去を含む。望ましくは、コドン最適化遺伝子は、改善されたタンパク質発現を示し、例えば、それによってコードされるタンパク質は、他の点で同様の細胞において野生型遺伝子によって提供されるタンパク質の発現レベルと比較して、細胞において、検出可能により大きなレベルで発現される。
本明細書において用いられる用語「配列同一性」は、当技術分野における標準的な意味を有する。当技術分野で知られているように、多くの異なるプログラムを用いて、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが公知配列と配列同一性または類似性を有するかどうか同定することができる。配列同一性または類似性は、制限されないが、Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所配列同一性アルゴリズムを含む当技術分野で知られている標準的な技術を用いて、Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の配列同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson&Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:2444(1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,WIにおける、GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)のコンピューター化された実行によって、Devereux et al.,Nucl.Acid Res.12:387(1984)により記載されるBest Fit配列プログラムによって、好ましくはデフォルト設定を用いて、または調査によって、判定され得る。
有用なアルゴリズムの例は、PILEUPである。PILEUPは、プログレッシブ、ペアワイズアライメントを用いて、関連のある配列のグループから多数の配列アライメントを作る。また、アライメントを作るために用いられるクラスタリング関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng&Doolittle,J.Mol.Evol.35:351(1987)のプログレッシブ・アライメント法の簡易化を用いて;その方法は、Higgins&Sharp,CABIOS 5:151(1989)により記載される方法に似ている。
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)およびKarlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873(1993)に記載の、BLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、WU−BLAST−2プログラムであり、Altschul et al.,Meth.Enzymol.,266:460(1996);blast.wustl/edu/blast/README.htmlから取得した。WU−BLAST−2は、いくつかの検索パラメーターを用いて、それらは好ましくは、デフォルト値に設定されている。パラメーターは、動的な値であり、特定の配列の構成、および、目的の配列が検索されている特定のデータベースの構成に応じて、プログラム自体によって確立されるが;感度を増大させるために値を調節してよい。
さらなる有用なアルゴリズムは、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389(1997)により報告されるギャップ化BLASTである。
アミノ酸配列同一性パーセンテージの値は、一致する同一残基の数を、並べられた領域内の「より長い」配列の残基の合計数で割って決定される。「より長い」配列は、並べられた領域内に最も現実の残基を有するものである(アライメントスコアを最大化するためにWU−Blast−2により導入されるギャップは無視する)。
同様の様式で、核酸配列同一性パーセントは、本明細書において具体的に開示されるポリヌクレオチド内のヌクレオチドと同一である候補配列内のヌクレオチド残基のパーセンテージとして定義される。
アライメントは、並べられる配列内のギャップの導入を含み得る。加えて、本明細書において具体的に開示されるポリヌクレオチドよりも多いまたは少ないヌクレオチドを含む配列に関して、一実施態様では、配列同一性のパーセンテージは、ヌクレオチドの合計数に対する、同一のヌクレオチドの数に基づいて決定されることが理解される。したがって、例えば、本明細書に具体的に開示される配列よりも短い配列の配列同一性は、一実施態様では、より短い配列におけるヌクレオチドの数を用いて決定される。同一性パーセントの計算においては、相対的重量は、配列変動、例えば挿入、欠失、置換などの様々な兆候に割り当てられない。
一実施態様では、同一性のみが正にスコアされて(+1)、ギャップを含む全ての形態の配列変動は「0」の値に割り当てられて、配列類似性計算のための、以下に記載される加重したスケールまたはパラメーターの必要性を取り除く。配列同一性パーセントは、例えば、一致する同一残基の数を、並べられた領域内の「より短い」配列の残基の合計数で割って、100を掛けることにより、計算され得る。「より長い」配列は、並べられた領域内に最も現実の残基を有するものである。
「実質的な相同性」または「実質的な類似性」は、核酸またはそのフラグメントを指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)による適切なヌクレオチドの挿入または欠失と適切に並べられた場合に、配列の少なくとも約95〜99%においてヌクレオチド配列同一性が存在することを示すことを意味する。
本明細書において用いられる「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然起源の生物またはウイルスの他の構成要素の少なくとも一部、例えば、細胞またはウイルスの構造的構成要素、または、ポリヌクレオチドと関連して一般に見られる他のポリペプチドまたは核酸から、分離されたまたは実質的にフリーの、ポリヌクレオチドを意味する。
同様に、「単離された」ポリペプチドは、天然起源の生物またはウイルスの他の構成要素の少なくとも一部、例えば、細胞またはウイルスの構造的構成要素、または、ポリペプチドと関連して一般に見られる他のポリペプチドまたは核酸から、分離されたまたは実質的にフリーの、ポリペプチドを意味する。
「治療的ポリペプチド」は、細胞または対象におけるタンパク質の不存在または欠損に起因する症候を緩和または減少させ得るポリペプチドである。あるいは、「治療的ポリペプチド」は、他の方法で対象に利益、例えば、抗癌効果または移植残存可能性の改善を与えるものである。
ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に適用される、本明細書において用いられる用語「改変型」は、1つまたは複数の欠失、付加、置換、またはそれらの任意の組み合わせに起因して、野生型配列とは異なる配列を指す。
本明細書において用いられる、ウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(または文法的等価物)によって、ウイルスベクターが、出発原料における他の構成要素の少なくとも一部から、少なくとも部分的に分離されることを意味する。
用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」または「〜の治療(treatment of)」(およびその文法上の変形)によって、対象の状態の重度度が低減されること、少なくとも部分的に改善または安定化されること、および/または、少なくとも1つの臨床症候における何らかの軽減、緩和、低減または安定化が達成される、および/または、疾患または障害の進行に遅延があることを意味する。
用語「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」および「予防(prevention)」(およびその文法上の変形)は、本発明の方法の不存在下で生じるであろうものと比較した、対象における疾患、障害および/または臨床症候(単数または複数)の発症の予防および/または遅延、および/または、疾患、障害および/または臨床症候(単数または複数)の発症の重度度の減少を指す。予防は、疾患、障害および/または臨床症候(単数または複数)の全体的な不存在のような、完全であってよい。また、予防は、対象における疾患、障害および/または臨床症候(単数または複数)の発生および/または発症の重度度が、本発明の不存在下で生じるであろうものよりも少ないというような、部分的であってもよい。
本明細書において用いられる「治療効果的な」量は、対象に何らかの改善または利益を提供するのに十分な量である。別の言い方をすると、「治療効果的な」量は、対象における少なくとも1つの症候において何らかの軽減、緩和、低減、または安定化を提供する量である。当業者は、何らかの利益が対象に提供される限り、治療的効果は完全または治療的である必要はないことを理解している。
本明細書において用いられる「予防効果的な」量は、本発明の方法の不存在下で生じるであろうものと比較して、対象における疾患、障害および/または臨床症候の発症を予防および/または遅延するのに十分な、および/または、対象における疾患、障害および/または臨床症候の発症の重度度を低減および/または遅延するのに十分な、量である。当業者は、何らかの利益が対象に提供される限り、予防のレベルは完全である必要はないことを理解している。
用語「異種」または「外因性」ヌクレオチドまたは核酸配列は、本明細書において相互交換可能に用いられて、ウイルスまたは細胞において天然起源でない核酸配列を指す。一部の実施態様では、異種核酸は、目的の非翻訳RNAまたはポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む(例えば、細胞または対象への送達のため)。
本明細書において用いられる用語「ウイルスベクター(virus vector)」、「ウイルスベクター(viral vector)」、「遺伝子送達ベクター」または時には単に「ベクター」は、核酸送達ビヒクルとして機能するビリオンまたはウイルス粒子を指し、ビリオンまたはウイルス粒子内にパッケージされたベクターゲノムを含む。ベクターは、感染性または非感染性であってよい。非感染性ベクターは、外因的に加えられた因子がないとそれら自体を複製することができない。ベクターは、AAVベクターゲノムが中にパッケージされたAAVキャプシドを含むAAV粒子またはビリオンであってよい。これらのベクターは、本明細書において、「組み換えAAV」(「rAAV」と省略される)ベクター、粒子またはビリオンと呼ばれてもよい。
ベクターゲノムは、細胞への送達のために、ベクター粒子またはビリオン内にパッケージするための、ポリヌクレオチドである(その細胞は「標的細胞」と呼ばれ得る)。典型的に、ベクターゲノムは、標的細胞への送達のために、遺伝子のような異種核酸配列を含むように改変される。ベクターゲノムは、標的細胞における異種遺伝子の発現を制御するための調節エレメントとして機能する1つまたは複数の核酸配列を含んでもよい。ベクターゲノムは、ベクターの生産および/または機能、例えば、制限されずに、宿主におけるベクターゲノムの複製およびベクター粒子へのパッケージングに必要な野生型または改変型のウイルス核酸配列(単数または複数)を含んでもよい。一部の実施態様では、ベクターゲノムは、AAVキャプシド内にパッケージされることが可能な「AAVベクターゲノム」である。一部の実施態様では、AAVベクターゲノムは、複製およびパッケージングをサポートするために、異種遺伝子とシスで1つまたは2つの逆位末端配列(ITR)を含む。AAVベクター生産に必要な全ての他の構造および非構造タンパク質コード配列は、(例えば、プラスミドから、または、宿主細胞内に配列を安定して組み込むことによって)トランスで提供され得る。特定の実施態様では、AAVベクターゲノムは、少なくとも1つのITR(例えばAAV ITR)、任意選択で2つのITR(例えば、2つのAAV ITR)を含み、それは、典型的にベクターゲノムの5’および3’末にあり異種核酸配列と隣接するが、それに隣接する必要はない。ITRは、同一または互いに異なってよく、同一または異なるAAV血清型由来であってよい。
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養」は、相互交換可能に用いられて、外因性の核酸が中に導入されている細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」、「形質転換された細胞」および「形質導入細胞」を含み、一次の形質転換された細胞および継代培養数に関係なくそれから生じた子孫を含む。AAVベクターを生産する目的のために、特定の宿主細胞が、キャプシドおよびベクターゲノムを含む機能性ウイルス粒子を組み立てるのに必要な全ての遺伝子を含む、「プロデューサー」または「パッケージング」細胞として用いられ得る。当業者によって理解されるように、異なる宿主細胞は、プロデューサー細胞、例えば、HEK293細胞、またはPro10細胞株として有用に役割を果たし得るが、その他もあり得る。ビリオンの組み立てに必要な遺伝子は、本明細書中の他のどこかに記載のベクターゲノム、AAV repおよびcap遺伝子、および、制限されずにアデノウイルスを含む他のウイルス由来の特定のヘルパー遺伝子を含む。当業者によって理解されるように、AAV生産に必要な遺伝子は、制限されずに1つまたは複数のプラスミドのトランスフェクションを含む様々な方法でプロデューサー細胞中に導入され得るが、特定の遺伝子は、ゲノム内に組み込まれてまたはエピソーム上に保有されて、プロデューサー細胞内に既に存在し得る。
用語「逆位末端配列」または「ITR」は、ヘアピン構造を形成して、逆位末端配列として機能する(すなわち、特定のウイルス機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組込みおよび/またはプロウイルスレスキューなどを仲介する)、任意の回文ウイルス末端反復または合成配列を含む。ITRは、AAV ITRまたは非AAV ITRであってよい。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス、ウシパルボウイルス、マウスパルボウイルス、ブタパルボウイルス、ヒトパルボウイルスB−19)のもののような非AAV ITR配列、または、SV40複製起源としての役割を果たすSV40ヘアピンを、ITRとして用いることができ、それは、トランケーション、置換、欠失、挿入および/または付加によってさらに改変され得る。さらに、ITRは、部分的または完全に合成、例えば、Samulski et alの米国特許第5,478,745号に記載の「ダブル−D配列」であってよい。FIELDS et al.,VIROLOGY,第2巻、第69&70章(第4版,Lippincott−Raven Publishers)も参照。
「AAV逆位末端配列」または「AAV ITR」は、制限されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、または13、ヘビAAV、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、または、現在知られまたは後に発見される任意の他のAAVを含む、任意のAAV由来であってよい。AAV ITRは、末端反復が、所望の機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、存続、および/またはプロウイルスレスキューなどを仲介する限り、ネイティブの末端反復配列を有する必要はない(例えば、ネイティブのAAV ITR配列は、挿入、欠失、トランケーションおよび/またはミスセンス突然変異によって改変され得る)。AAV2 ITRの配列は145塩基対の長さであり、本明細書において、配列番号14および配列番号15として提供される。
「シス−モチーフ」は、ゲノム配列の末端またはその付近に見られる、複製開始に関して認識されるような、保存された配列;転写開始、スプライシング、または、終結に用いられる可能性のある内部の位置の潜在性なプロモーターまたは配列を含む。
他のエレメントによって隣接される配列に関して、「隣接される」とは、配列に対して、上流および/または下流、すなわち、5’および/または3’である、1つまたは複数の隣接するエレメントの存在を示す。用語「隣接される」は、その配列が必ずしも連続することを示すことを意図しない。例えば、導入遺伝子をコードする核酸と隣接するエレメントとの間に介在する配列があってよい。2つの他のエレメント(例えば、TR)によって「隣接される」配列(例えば、導入遺伝子)は、一方のエレメントが配列に対して5’に位置して、他方が配列に対して3’に位置することを示すが;その間に介在する配列があってもよい。
細胞の「トランスフェクション」は、細胞を遺伝学的に改変する目的のために遺伝物質が細胞内に導入されることを意味する。トランスフェクションは、リン酸カルシウム、ポリエチレンイミン、エレクトロポレーションなどのような当技術分野で知られている様々な手段によって達成され得る。
「遺伝子導入」または「遺伝子送達」は、外来DNAを宿主細胞内に確実に挿入するための方法またはシステムを指す。そのような方法は、組み込まれない移行されたDNAの一過性発現、移行されたレプリコン(例えばエピソーム)の染色体外複製および発現、または、宿主細胞のゲノムDNA中への移行された遺伝物質の組込みをもたらし得る。
「導入遺伝子」は、標的細胞(本明細書において「宿主細胞」とも呼ばれる)への送達(発現を含む)のための、ウイルスベクターを含むベクターに組み込まれた任意の異種ヌクレオチド配列、および関係がある発現制御配列、例えばプロモーターを意味するために用いられる。発現制御配列は、標的細胞において導入遺伝子の発現を促進する能力に基づいて選択されることが、当業者によって理解される。導入遺伝子の例は、治療的ポリペプチドをコードする核酸である。
本発明のウイルスベクターは、さらに、国際特許公報WO00/28004およびChao et al.,(2000)Mol.Therapy 2:619に記載される、「複合型」パルボウイルス(すなわち、ウイルスITRおよびウイルスキャプシドは、異なるパルボウイルス由来である)、および/または、「標的化」ウイルスベクター(例えば、定方向の向性を有する)であってよい。
さらに、ウイルスキャプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、欠失および/または置換を含む他の改変を含んでよい。
本明細書において用いられる、パルボウイルスまたはAAV「Repコード配列」は、ウイルス複製および新たなウイルス粒子の生産を仲介するパルボウイルスまたはAAVの非構造的タンパク質をコードする核酸配列を示す。パルボウイルスおよびAAVの複製遺伝子およびタンパク質は、例えば、FIELDS et al.,VIROLOGY、第2巻、第69&70章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)に記載されている。
「Repコード配列」は、パルボウイルスまたはAAV Repタンパク質の全てをコードする必要はない。例えば、AAVに関しては、Repコード配列は、4つのAAV Repタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52およびRep40)の全てをコードする必要はなく、実際に、AAV5は、スプライスされたRep68およびRep40タンパク質のみを発現すると考えられている。代表的な実施態様では、Repコード配列は、少なくともウイルスまたはベクターゲノムの複製および新たなビリオン中へのパッケージングに必要な複製タンパク質をコードする。Repコード配列は、一般に、少なくとも1つの大きなRepタンパク質(すなわち、Rep78/68)および1つの小さなRepタンパク質(すなわち、Rep52/40)をコードする。特定の実施態様では、Repコード配列は、AAV Rep78タンパク質およびAAV Rep52および/またはRep40タンパク質をコードする。他の実施態様では、Repコード配列は、Rep68およびRep52および/またはRep40タンパク質をコードする。さらに、さらなる実施態様では、Repコード配列は、Rep68およびRep52タンパク質、Rep68およびRep40タンパク質、Rep78およびRep52タンパク質、または、Rep78およびRep40タンパク質をコードする。
本明細書において用いられる用語「大きなRepタンパク質」は、Rep68および/またはRep78を指す。特許請求の範囲に記載される発明の大きなRepタンパク質は、野生型または合成のいずれかであってよい。野生型の大きなRepタンパク質は、制限されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、または13を含む任意のパルボウイルスまたはAAV、または、現在知られまたは後に発見される任意の他のAAV由来であってよい。合成の大きなRepタンパク質は、挿入、欠失、トランケーションおよび/またはミスセンス突然変異によって変更され得る。
ネイティブのAAVゲノムにおいて、異なるRepタンパク質は、2つの異なるプロモーターおよび選択的スプライシングの使用を通して、単一の遺伝子によってコードされる。AAVベクター生産の目的のために、Repタンパク質は、単一の遺伝子からまたは別個のポリヌクレオチドからプロデューサー細胞において発現され得るが、発現されるそれぞれのRepタンパク質に関して、1つの配列である。したがって、例えば、Repをコードする遺伝子は、Repタンパク質の小さい方のみまたは大きい方のみがそれぞれの改変された遺伝子によって発現されるように、p5またはp19プロモーターを不活化するように改変され得る。異なる遺伝子からの、大きなおよび小さなRepタンパク質の発現は、ウイルスプロモーターの1つが宿主細胞において不活性である場合(その場合、構造的に活性のプロモーターがその代わりに用いられ得る)、または、別個の転写および/または翻訳制御エレメントの制御下で、異なるレベルでRepタンパク質を発現することが所望の場合に、有利であり得る。例えば、一部の実施態様では、宿主細胞に対する毒性を避けるために、小さなRepタンパク質と比較して大きなRepタンパク質の発現(例えば、Rep78/68)を下方調節することが有利であり得る(例えば、Urabe et al.,(2002)Human Gene Therapy 13:1935を参照)。
本明細書において用いられる、パルボウイルスまたはAAV「capコード配列」は、機能性パルボウイルスまたはAAVキャプシドを形成する構造タンパク質をコードする(すなわち、DNAをパッケージして標的細胞を感染することができる)。典型的に、capコード配列は、パルボウイルスまたはAAVキャプシドサブユニットの全てをコードするが、機能性キャプシドが生産される限り、全てよりも少ないキャプシドサブユニットがコードされてよい。典型的に、必ずしもではないが、capコード配列は、単一の核酸分子上に存在する。
自律的パルボウイルスおよびAAVのキャプシド構造は、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY、第2巻、第69&70章(第4版、Lippincott−Raven Publishers)に、より詳細に説明される。
「マイクロ−ジストロフィン」または「ミニ−ジストロフィン」は、筋肉細胞において発現された場合に、全長の筋ジストロフィン、またはジストロフィンの機能性の少なくとも一部を保有するそのアイソフォーム内に存在する特定のサブドメインまたはサブドメインの部分を含む、改変されたタンパク質である。マイクロ−ジストロフィンおよびミニ−ジストロフィンは、全長の筋ジストロフィン(Dp427m)よりも小さい。全長の筋ジストロフィンと比較して、マイクロ−ジストロフィンおよびミニ−ジストロフィンは、N末端、C末端、内部、またはそれらの任意の組み合わせにおいて欠失を含んでよい。
本明細書において用いられる「ジストロフィン異常症」は、タンパク質ジストロフィンをコードする遺伝子であるDMDにおける病原変異に起因する筋肉疾患である。ジストロフィン異常症は、根底にある遺伝子病変の性質に応じた表現型の範囲として現れる。範囲の軽度の端は、制限されずに、クレアチンホスホキナーゼ(CK)の血清濃度の無症状の増加およびミオグロビン尿症を伴う筋痙攣の表現型を含む。範囲の重度の端は、制限されずに、進行性の筋肉疾患デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)およびベッカー型筋ジストロフィー(BMD)(骨格筋が主に影響を受けて、心臓はより低い程度である)、および、DMD関連の拡張型心筋症(DCM)(心臓が主に影響を受ける)を含む。
ミニ−ジストロフィンポリヌクレオチド、発現カセットおよびベクター
本開示は、コドン最適化ミニ−ジストロフィン遺伝子配列およびそれを含む発現カセットを提供する。そのような遺伝子および発現カセットは、他の適用の中でも、DMDのようなジストロフィン異常症を、それを必要とする対象において予防または治療するための遺伝子治療に有用である。形質導入された筋肉細胞におけるミニ−ジストロフィンタンパク質の発現は、細胞外マトリックスと細胞骨格との間の機械的に強力な連結をサポートするなど、通常は全長ジストロフィンに帰することができる機能の少なくとも一部を複製および置換することができる。
コドン最適化配列は、パルボウイルスベクター、例えば、AAVベクターのサイズ制限内に合うように設計されて、ならびに、非最適化配列と比較してミニ−ジストロフィンの高い発現を与える。一部の実施態様では、最適化ミニ−ジストロフィン配列は、非コドン最適化配列が、参照により援用されるNCBI参照配列NM_004006.2によって例示される野生型ヒト全長筋ジストロフィンをコードするmRNAに基づく場合、非コドン最適化ジストロフィン配列の発現よりも少なくとも約5%多い、例えば、少なくとも約5、10、20、30、40、50、75、100、200、300、400、または500%またはそれよりも多い、動物内の筋肉細胞または筋肉におけるミニ−ジストロフィンタンパク質の増大された発現を与える。
したがって、本発明の一態様は、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするポリヌクレオチドに関し、ポリヌクレオチドは、(a)配列番号1のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列;(b)配列番号2のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列;または(c)配列番号3のヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一の配列を含む、から本質的になる、またはからなる。一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号1〜3のうちの1つのヌクレオチド配列と、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。特定の実施態様では、ポリヌクレオチドは、ウイルスベクター、例えばパルボウイルスベクター、例えばAAVベクターの収容能力内の長さを有する。一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは、約5000、4900、4800、4700、4600、4500、4400、4300、4200、4100、または約4000ヌクレオチドであり、またはそれよりも少ない。
一部の実施態様では、ポリヌクレオチドによってコードされるミニ−ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンタンパク質の、N末端、ヒンジH1、ロッドR1およびR2、ヒンジH3、ロッドR22、R23、およびR24、ヒンジH4、システインリッチドメイン(CRドメイン)、および、一部の実施態様では、カルボキシ末端ドメイン(CTドメイン)の全てまたは一部を含む、から本質的になる、またはからなる。他の実施態様では、ポリヌクレオチドによってコードされるミニ−ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンタンパク質の、N末端、アクチン結合ドメイン(ABD)、ヒンジH1、ロッドR1およびR2、ロッドR22、R23、およびR24、ヒンジH4、CRドメイン、および、一部の実施態様では、CTドメインの全てまたは一部を含む、から本質的になる、またはからなる。さらなる実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンタンパク質(配列番号25)のC末端の最後の3つのアミノ酸を含まない。特定の実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列、または、配列番号7または配列番号8のヌクレオチド配列と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一の配列を、含む、から本質的になる、またはからなる、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする。
ジストロフィンのヌクレオチド配列は当技術分野で知られていて、GenBankのような配列データベースに見られ得る。例えば、ヒトジストロフィンmRNA配列は、GenBankアクセッションナンバーM18533またはNCBI参照配列NM_004006.2に見られ得て、それらの全体で本明細書中に参照により援用される。
一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは、ジストロフィンタンパク質の生産のための発現カセットの部分である。発現カセットは、ジストロフィンの発現を増大させるのに有用な発現エレメントをさらに含んでよい。
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結される。プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的または組織好適プロモーター、例えば、筋肉特異的または筋肉好適プロモーターであってよい。一部の実施態様では、プロモーターは、クレアチニンキナーゼプロモーター、例えば、配列番号4または配列番号5のヌクレオチド配列を含む、から本質的になる、またはからなるプロモーターである。
一部の実施態様では、本発明のポリヌクレオチドは、ポリアデニル化エレメントに動作可能に連結される。一部の実施態様では、ポリアデニル化エレメントは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。
一部の実施態様では、ポリヌクレオチドは、プロモーターおよびポリアデニル化エレメントに動作可能に連結されたポリヌクレオチドを含む、から本質的になる、またはからなる、発現カセットの部分である。特定の実施態様では、遺伝子発現カセットは、配列番号9〜12のいずれか1つのヌクレオチド配列またはそれと少なくとも約90%同一、例えば、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一の配列を含む、から本質的になる、またはからなる。
本発明の別の態様は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。適切なベクターは、限定されないが、プラスミド、ファージ、ファージミド、ウイルスベクター(例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルス、またはバキュロウイルスベクター)、細菌人工染色体(BAC)、または酵母人工染色体(YAC)を含む。例えば、核酸は、5’および/または3’末端反復(例えば、5’および/または3’AAV末端反復)を含むAAVベクターを含んでよい、からなってよい、またはから本質的になってよい。一部の実施態様では、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、パルボウイルスベクター、例えば、AAVベクター、例えば、AAV9ベクターである。ウイルスベクターは、組み換えウイルステンプレートを含む核酸をさらに含んでよく、ここで核酸は、パルボウイルスキャプシドによってカプセル化される。本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組み換えパルボウイルス粒子(例えば、組み換えAAV粒子)をさらに提供する。ウイルスベクターおよびウイルス粒子は、以下にさらに議論される。
特定の実施態様では、ウイルスベクターは、改変されたベクターが由来するベクターと比較して、改変された組織向性を示す。一実施態様では、パルボウイルスベクターは、骨格筋、心筋、および/または横隔膜筋に関する全身性向性を示す。他の実施態様では、パルボウイルスベクターは、野生型キャプシドタンパク質を含むウイルスベクターと比較して、肝臓に関する向性が低い。組織向性は、当業者の知識に従って、特定のウイルスキャプシドアミノ酸、例えば、AAVキャプシドVP1、VP2、および/またはVP3タンパク質内に存在するものを変更することによって改変され得る。
一部の実施態様では、ベクターゲノムは、自己相補または二重であり、そのようなベクターゲノムを含むAAVビリオンは、scAAVベクターとして知られる。scAAVベクターは、国際特許公報WO01/92551に記載される(その開示はその全体で参照により本明細書中に援用される)。ミニ−ジストロフィンを発現するためのscAAVの使用は、形質導入された細胞の数、形質導入細胞あたりのコピー数、または両方の増大を提供し得る。
本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはベクターを含む形質転換された細胞に関する。細胞は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボ細胞であってよい。
本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはベクターおよび/または形質転換された細胞を含む、非ヒトトランスジェニック動物に関する。一部の実施態様では、トランスジェニック動物は、実験動物、例えば疾患の動物モデル、例えば筋ジストロフィーの動物モデルである。
本発明の別の態様は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるミニ−ジストロフィンタンパク質に関する。ミニ−ジストロフィンタンパク質は、機能性ジストロフィンタンパク質に必要な全ての配列を含む。ジストロフィンのドメインは当技術分野でよく知られていて、配列は、GenBankのような配列データベースに見られ得る。例えば、ヒトジストロフィンアミノ酸配列は、NCBI参照配列:NP_003997.1およびGenBankアクセッションNo.AAA53189に見られ得て、それらは、それらの全体で本明細書中に参照により援用される。
一部の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、N末端、ヒンジH1、ロッドR1およびR2、ヒンジH3、ロッドR22、R23、およびR24、ヒンジH4、CRドメイン、および、一部の実施態様では、CTドメインの全てまたは一部を含み、から本質的になり、またはからなり、ここでミニ−ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンタンパク質(配列番号25)のC末端の最後の3つのアミノ酸を含まない。これらの実施態様の一部によれば、N末端アクチン結合ドメインは、配列番号25(全長ヒトジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列)由来のアミノ酸番号1〜240を含み、から本質的になり、またはからなり;H1は、配列番号25由来のアミノ酸番号253〜327を含み、から本質的になり、またはからなり;R1は、配列番号25由来のアミノ酸番号337〜447を含み、から本質的になり、またはからなり;R2は、配列番号25由来のアミノ酸番号448〜556を含み、から本質的になり、またはからなり;H3は、配列番号25由来のアミノ酸番号2424〜2470を含み、から本質的になり、またはからなり;R22は、配列番号25由来のアミノ酸番号2687〜2802を含み、から本質的になり、またはからなり;R23は、配列番号25由来のアミノ酸番号2803〜2931を含み、から本質的になり、またはからなり;R24は、配列番号25由来のアミノ酸番号2932〜3040を含み、から本質的になり、またはからなり;H4は、配列番号25由来のアミノ酸番号3041〜3112を含み、から本質的になり、またはからなり;CRドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3113〜3299を含み、から本質的になり、またはからなり;CTドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3300〜3408を含む、から本質的になる、またはからなる。特定の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列を含む、から本質的になる、またはからなる。この構築物および関連する構築物のさらなる説明は、本明細書において実施例1に含まれる。
一部の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、N末端、ヒンジH1、ロッドR1およびR2、ロッドR22、R23、およびR24、ヒンジH4、CRドメイン、および一部の実施態様では、CTドメインの全てまたは一部を含む、から本質的になる、またはからなる。特定の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、野生型ジストロフィンタンパク質のC末端の最後の3つのアミノ酸を含まない。これらの実施態様の一部によれば、N末端アクチン結合ドメインは、配列番号25(全長ヒトジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列)由来のアミノ酸番号1〜240を含み、から本質的になり、またはからなり;H1は、配列番号25由来のアミノ酸番号253〜327を含み、から本質的になり、またはからなり;R1は、配列番号25由来のアミノ酸番号337〜447を含み、から本質的になり、またはからなり;R2は、配列番号25由来のアミノ酸番号448〜556を含み、から本質的になり、またはからなり;R22は、配列番号25由来のアミノ酸番号2687〜2802を含み、から本質的になり、またはからなり;R23は、配列番号25由来のアミノ酸番号2803〜2931を含み、から本質的になり、またはからなり;R24は、配列番号25由来のアミノ酸番号2932〜3040を含み、から本質的になり、またはからな;H4は、配列番号25由来のアミノ酸番号3041〜3112を含み、から本質的になり、またはからなり;システインリッチドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3113〜3299を含み、から本質的になり、またはからなり;カルボキシ末端ドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3300〜3408を含む、から本質的になる、またはからなる。特定の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、配列番号8のアミノ酸配列を含む、から本質的になる、またはからなる。
本発明のさらなる態様は、細胞においてミニ−ジストロフィンタンパク質を生産する方法に関し、細胞を、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターと接触させるステップを含み、それにより、細胞においてミニ−ジストロフィンを生産する。細胞は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボ細胞、例えば、細胞株または一次細胞であってよい。タンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入によって細胞においてタンパク質を生産する方法は、当技術分野でよく知られている。
本発明の別の態様は、対象においてミニ−ジストロフィンタンパク質を生産する方法に関し、対象に、本発明のポリヌクレオチド、ベクターおよび/または形質転換された細胞を送達するステップを含み、それにより、対象においてミニ−ジストロフィンタンパク質を生産する。
本発明のさらなる態様は、それを必要とする対象において筋ジストロフィーを治療する方法に関し、対象に、治療的に有効量の本発明のポリヌクレオチド、ベクター、および/または形質転換された細胞を送達するステップを含み、それにより、対象において筋ジストロフィーを治療する。筋ジストロフィーは、筋ジストロフィーの任意の形態、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーであってよい。
組み換えウイルスベクター
本発明のウイルスベクターは、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドを、インビトロ、エクスビボで、およびインビボで細胞へ送達するのに有用である。特に、ウイルスベクターは、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドを、哺乳類を含む動物の細胞へ送達または移行するために有利に用いられ得る。
ウイルスベクターは、宿主の染色体上の遺伝子座と相同性を共有してそれと組み換える異種核酸を含んでもよい。この手法は、例えば、宿主細胞における遺伝子欠陥を修正するために使用され得る。
さらなる代替として、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドは、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで細胞においてミニ−ジストロフィンタンパク質を生産するために用いられ得る。例えば、ウイルスベクターは、培養細胞内に導入され得て、発現されたミニ−ジストロフィンタンパク質は、それから単離される。
ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドは、適切な制御配列と動作可能に関連され得ることが当業者によって理解される。例えば、ポリヌクレオチドは、発現制御エレメント、例えば、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソームエントリー部位(IRES)、プロモーター、および/またはエンハンサーなどと動作可能に関連され得る。
当業者は、様々なプロモーターおよび任意選択でエンハンサーエレメントが、所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて用いられ得ることを理解する。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに応じて、構成的または誘導性であってよい。プロモーター/エンハンサーは、ネイティブまたは外来であってよく、天然または合成の配列であってよい。外来とは、転写開始領域が導入された野生型宿主には、転写開始領域が見られないことを意図する。エンハンサーは、用いられる場合は、プロモーターと同一の遺伝子および種から、プロモーターと異なる種内のオルソロガス遺伝子から、プロモーターと同一の種内の異なる遺伝子から、または、プロモーターと異なる種内の異なる遺伝子から、選択され得る。
特定の実施態様では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞または治療される対象にネイティブであってよい。代表的な実施態様では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にネイティブであってよい。プロモーター/エンハンサーエレメントは、一般に、目的の標的細胞(単数または複数)において機能するように選択される。さらに、特定の実施態様では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳類のプロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的または誘導性であってよい。
誘導性の発現制御エレメントは、異種核酸配列(単数または複数)の発現に対して制御を提供することが望ましい適用において典型的に有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的または好適プロモーター/エンハンサーエレメントであってよく、筋肉特異的または好適(心筋、骨格筋および/または平滑筋特異的または好適を含む)プロモーター/エンハンサーエレメントを含む。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、ホルモン誘導性および金属誘導性エレメントを含む。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、限定されないが、Tetオン/オフエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、および、メタロチオネインプロモーターを含む。
ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドが転写されて、それから標的細胞内で翻訳される実施態様において、特異的な開始シグナルは、一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために含まれる。これらの外因性の翻訳制御配列は、ATG開始コドンおよび隣接配列を含んでよく、天然および合成の両方の様々な起源であってよい。
本発明に係るウイルスベクターは、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドを、分裂および非分裂細胞を含む広範な細胞へ送達するための手段を提供する。ウイルスベクターは、例えば、ミニ−ジストロフィンをインビトロで生産するため、または、エクスビボでの遺伝子治療のために、ポリヌクレオチドを細胞にインビトロで送達するために用いられ得る。ウイルスベクターは、例えばミニ−ジストロフィンを発現するために、ポリヌクレオチドを、それを必要とする対象に送達する方法においてさらに有用である。この様式では、タンパク質は、対象においてインビボで生産され得る。対象は、機能性ジストロフィンが不足しているので、ミニ−ジストロフィンを必要とし得る。さらに、当該方法は、対象におけるミニ−ジストロフィンの生産が何らかの有益な効果を与え得るので実施され得る。
ウイルスベクターは、培養細胞または対象において、ミニ−ジストロフィンを生産するために用いられてもよい(例えば、タンパク質を生産するための、または、例えばスクリーニング方法と合わせて対象に対するタンパク質の効果を観察するための、バイオリアクターとして対象を用いる)。
一般に、本発明のウイルスベクターは、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドを送達して、ミニ−ジストロフィンを送達することが有益である任意の病状を治療および/または予防するために用いられ得る。例示的な病状は、限定されないが、DuchenneおよびBeckerを含む筋ジストロフィーを含む。
本発明に係るウイルスベクターは、診断およびスクリーニング方法における使用を見いだし、それによって、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドが、細胞培養系、またはあるいは、トランスジェニック動物モデルにおいて、一時的または安定的に発現される。
また、本発明のウイルスベクターは、制限されないが、当業者に明らかなように、遺伝子ターゲッティング、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコルでの使用を含む、様々な非治療的目的のためにも用いられ得る。また、ウイルスベクターは、安全性(拡散、毒性、免疫原性など)を評価する目的のためにも用いられ得る。そのようなデータは、例えば、臨床有効性の評価の前に規制上の承認プロセスの一部として米国食品医薬品局によって考慮される。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するためのAAVベクターまたは粒子の本開示の特定の実施態様によれば、本開示は、制限されずに、横隔膜を含む骨格筋を含む、横紋筋、および心筋に関して向性を有するAAV血清型由来のAAVキャプシドを含むAAVベクターまたは粒子を提供する。横紋筋に関する向性を有する天然起源のAAVキャプシドの非限定的な例は、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8、およびAAV9である。しかしながら、他の実施態様は、天然起源であるとは知られていないが、むしろ、他の組織と比較して横紋筋を優先的に形質導入する新規のAAVキャプシドを作製するために特に(for the express purpose of)改変されているAAVキャプシドを含む。そのような改変されたキャプシドは、当技術分野で知られているが、本開示は、未だ開発されていない新たな筋肉特異的AAVキャプシドを包含する。筋肉特異的な改変AAVキャプシドの非限定的な例は、Yu,CY,et al.,Gene Ther 16(8):953−62(2009),Asokan,A,et al.,Nat Biotech 28(1):79−82(2010(AAV2i8を記載)、Bowles,DE,et al.,Mol Therapy 20(2):443−455(2012)(AAV2.5を記載)、および、Asokan,A,et al.,Mol Ther 20(4):699−708(2012)において報告された。多くの天然および非天然起源AAV血清型に関する、VP1、VP2、およびVP3タンパク質を含むキャプシドタンパク質のアミノ酸配列は、当技術分野で知られている。非限定黄な例では、AAV9血清型に関するアミノ酸配列は、配列番号13のアミノ酸配列として提供される。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するための本開示のAAV粒子は、形質導入された筋肉細胞において、欠失した全長ジストロフィンタンパク質によって与えられる機能を少なくとも部分的に復元するために選択されるジストロフィンサブドメインを有するミニ−ジストロフィンタンパク質を発現するためのベクターゲノムを含む。一部の実施態様によれば、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、全長の野生型ヒトジストロフィンタンパク質由来のサブドメインから構築される。一部の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、N末端からC末端への以下の順番で、ヒトジストロフィンタンパク質由来の以下のサブドメインを含む:N末端アクチン結合ドメイン(ABD);H1ヒンジドメイン;R1およびR2スペクトリン様リピートドメイン;H3ヒンジドメイン;R22、R23およびR24スペクトリン様リピートドメイン;H4ヒンジドメイン;システインリッチ(CR)ドメイン;およびカルボキシ末端(CT)ドメイン。これらの実施態様の一部によれば、N末端アクチン結合ドメインは、配列番号25(全長ヒトジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列)由来のアミノ酸番号1〜240を含み、から本質的になり、またはからなり;H1は、配列番号25由来のアミノ酸番号253〜327を含み、から本質的になり、またはからなり;R1は、配列番号25由来のアミノ酸番号337〜447を含み、から本質的になり、またはからなり;R2は、配列番号25由来のアミノ酸番号448〜556を含み、から本質的になり、またはからなり;H3は、配列番号25由来のアミノ酸番号2424〜2470を含み、から本質的になり、またはからなり;R22は、配列番号25由来のアミノ酸番号2687〜2802を含み、から本質的になり、またはからなり;R23は、配列番号25由来のアミノ酸番号2803〜2931を含み、から本質的になり、またはからなり;R24は、配列番号25由来のアミノ酸番号2932〜3040を含み、から本質的になり、またはからなり;H4は、配列番号25由来のアミノ酸番号3041〜3112を含み、から本質的になり、またはからなり;CRドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3113〜3299を含み、から本質的になり、またはからなり;CTドメインは、配列番号25由来のアミノ酸番号3300〜3408を含む、から本質的になる、またはからなる。特定の実施態様によれば、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列を有する。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するための本開示のAAV粒子のベクターゲノムは、ミニ−ジストロフィンを発現するための遺伝子を含む。典型的に、ベクターゲノムは、ミニ−ジストロフィンを発現する遺伝子のための余地を提供するために、野生型AAV内に通常は存在するrepおよびcap遺伝子が欠失している。一部の実施態様では、遺伝子は、全長ヒトジストロフィンタンパク質由来の以下のサブドメインを含むミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする:ABD−H1−R1−R2−H3−R22−R23−R24−H4−CRD−CTD。一部の実施態様では、CTDは、野生型筋ジストロフィンに見られるCTDのほんの一部であり、一部の実施態様では、野生型筋ジストロフィン(配列番号25)に存在する最後の3つのアミノ酸を含まない。特定の実施態様では、遺伝子は、配列番号7のアミノ酸配列を有するヒトミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする。
一部の実施態様によれば、ヒトミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子は、遺伝子治療の効果をもたらすために、本開示のAAV粒子が投与される対象の種に関してコドン最適化される。理論によって拘束されることを望まずに、コドン最適化は、形質導入細胞が遺伝子をmRNAに転写および/またはmRNAをタンパク質に翻訳することが可能な効率を改善して、それにより、コドン最適化されていない遺伝子をコードするミニ−ジストロフィンの発現と比較して、生産されるミニ−ジストロフィンタンパク質の量を増大させると考えられる。一部の非限定的な実施態様では、コドン最適化はヒトコドン最適化であるが、コドン最適化は、イヌを含む他の種に関して行なわれ得る。
一部の実施態様では、コドン最適化は、ヒトのような種内に存在する相対的にレアなtRNAと対になる1つまたは複数のコドンを、同一アミノ酸に関するより普及しているtRNAと対になる同義コドンで置換する。この手法は、翻訳効率を高めることができる。他の実施態様では、コドン最適化は、転写または翻訳の効率に影響を及ぼし得る特定のシス作用性モチーフを除去する。コドン最適化の非限定的な例は、コード配列の意図されたスタートに強力なコザック配列を付加すること、または、意図された開始コドンの下流の内部リボソームエントリー部位を除去することを含む。コドン最適化を通して除去され得る他のシス作用性モチーフは、内部TATAボックス;chi−部位;ARE、INS、および/またはCRS配列エレメント;リピート配列および/またはRNA二次構造;潜在性のスプライスのドナーおよび/またはアクセプター部位、分岐点;およびSalI部位を含む。
特定の実施態様では、コドン最適化は、ミニ−ジストロフィン遺伝子が組み立てられた野生型配列と比較して、GC含有量(すなわち、核酸配列内に存在するGおよびC核酸塩基の数、通常はパーセンテージとして表される)を増大させる。一部の実施態様では、GC含有量は、対応する野生型遺伝子のGC含有量よりも、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、またはそれよりも多い。関連する実施態様では、コドン最適化遺伝子のGC含有量は、約または少なくとも45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、またはそれよりも多い。
一部の実施態様では、コドン最適化は、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子のコドン適合指標(CAI)を増大させる。CAIは、特定の種における同義コドンの使用傾向の尺度である。特定の種におけるCAI値(0〜1の範囲である)は、遺伝子発現レベルと正に相関する。例えば、Sharp,PM and W−H Lie,Nuc Acids Res 15(3):1281−95(1987)を参照。特定の実施態様によれば、コドン最適化は、高度に発現されたヒト遺伝子に関して、ミニ−ジストロフィン遺伝子のCAIを、少なくとも0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、または0.99である値まで増大させる。
他の実施態様では、コドン最適化は、ミニ−ジストロフィンのコード配列内のCpGジヌクレオチドの数を減少させる。操作の特定の理論によって拘束されることを望まずに、CpGジヌクレオチドにおけるメチル化は、遺伝子転写をサイレンシングすることができるので、遺伝子配列内のCpGジヌクレオチドの数の減少は、メチル化のレベルを減少させることができ、それにより、高い転写効率をもたらすと考えられる。したがって、コドン最適化ミニ−ジストロフィン遺伝子の一部の実施態様では、CpGジヌクレオチドの数は、ミニ−ジストロフィン遺伝子が組み立てられた野生型配列と比較して、約または少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、またはそれよりも多く、低減される。
ヒトコドン最適化ヒトミニ−ジストロフィン遺伝子の非限定的な例は、配列番号1のDNA配列によって提供される。3978核酸塩基の長さである(終止コドンを含む)このDNA配列は、本明細書において、Hopti−Dys3978と呼ばれるが、特定の専門用語が単に便利性のために用いられ、制限されることを意図しない。Dys3978と呼ばれる配列番号1によってコードされるミニ−ジストロフィンタンパク質配列は、配列番号7によって提供される。イヌコドン最適化ヒトミニ−ジストロフィン遺伝子の例は、配列番号3によって与えられて、それはDys3978もコードする。本明細書にさらに詳細に説明されるように、配列番号7のミニ−ジストロフィンに関するコード配列は、ジストロフィンタンパク質(配列番号25)内に存在する特定のサブドメインに対応する野生型全長ヒト筋ジストロフィン遺伝子(NCBI参照配列NM_004006.2に例示され、参照により援用される)のサブシーケンスから組み立てられた。生じる遺伝子配列は、本明細書において配列番号26として提供されて、それから、ヒトコドン最適化されて、配列番号1のDNA配列をもたらした。制限されずに、コドン最適化は、コドン最適化前の遺伝子配列と比較して、GC含有量を増大させて、稀なコドンの使用を低減させて(すなわち、コドン適合指標(CAI)を増大させた)、強力な翻訳開始部位(コザックコンセンサス配列など)を含んだ。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するための本開示のAAV粒子のベクターゲノムは、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするコドン最適化遺伝子に隣接するAAV逆位末端配列(ITR)をさらに含む。一部の実施態様では、ITRは、キャプシドと同一のAAV血清型由来であるが(例えば、制限されずに、AAV9 ITRはAAV9キャプシドとともに用いられる)、他の実施態様では、異なる血清型由来のAAV ITRが用いられ得る。例えば、AAV2血清型由来のITRは、異なる、AAV2血清型由来でないAAVキャプシドと組み合わせてベクターゲノムにおいて用いられ得る。非限定的な例は、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8、またはAAV9血清型または異なる天然または非天然起源AAV血清型由来のキャプシドとAAV2 ITRの使用を含む。特定の非限定的な例では、AAV2 ITRは、AAV9血清型由来のキャプシドと組み合わせて用いられ得る。ベクターゲノムのプラスまたはセンスDNA鎖の観点から、AAV2 ITRの左、5’、または上流の配列は、配列番号14のDNA配列として提供されて、AAV2 ITRの右、3’、または下流の配列は、配列番号15のDNA配列として提供される。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するための本開示のAAVベクターのベクターゲノムは、ベクターゲノムが、その二本鎖形態に転換された時点で、形質導入細胞においてミニ−ジストロフィン遺伝子を発現し得るように、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子と動作可能に連結された転写調節エレメントをさらに含む。転写調節エレメントは、典型的にプロモーターを含むが、任意選択で、プロモーターからの転写開始率を増大させるように作用することのできる1つまたは複数のエンハンサーエレメントを含む。
ミニ−ジストロフィンコード配列に関する、転写調節エレメントの動作可能な連結は、転写調節エレメントが、遺伝子の転写および発現を制御するように機能することができることを意味するが、任意の特定の構造的または空間的関係を必ずしも必要としない。本開示のベクターゲノムは、典型的に、AAVキャプシド内に一本鎖DNA分子としてパッケージされるので、動作可能な連結は、ベクターゲノムが二本鎖形態に転換されるまで、機能性でなくてよいことが理解されるべきである。通常、プロモーターは、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子配列の5’または上流に位置するが、エンハンサーのような他の転写調節エレメントが、遺伝子の5’または他のどこか、例えば3’に位置してよい。
一部の実施態様では、転写調節エレメントは、真核生物細胞に感染する特定のウイルスに見られるもののような、強力な構成的に活性のプロモーターであってよい。当該分野からよく知られた例は、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーターを含むが、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来のプロモーターのような他のものも同様に知られる。CMVまたはRSVのような強力なウイルスプロモーターは、典型的に組織特異的でないので、用いられる場合、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、筋肉細胞だけでなく、本開示のAAV粒子によって形質導入された任意の他の細胞型、例えば肝臓において発現される。それ故に、他の実施態様では、筋肉特異的な転写調節エレメントは、本開示のAAV粒子によって形質導入され得る肝臓細胞のような非筋肉細胞において発現されるミニ−ジストロフィンタンパク質の量を減少させるために用いられ得る。
筋肉特異的な転写調節エレメントは、制限せずにヒトまたはマウス筋肉遺伝子のような哺乳類の種を含む、任意の種由来の筋肉特異的遺伝子に由来し得る。筋肉特異的な転写調節エレメントは、最低でも、筋肉特異的遺伝子由来のプロモーターならびに同一または異なる筋肉特異的遺伝子由来の1つまたは複数のエンハンサーを典型的に含む。そのようなエンハンサーは、ネイティブの遺伝子の多くの部分、例えば、遺伝子の5’または3’に位置する、またはイントロン内にさえ存在するエンハンサー由来であってよい。筋肉特異的な転写調節エレメントは、筋肉特異的遺伝子から一体的に除去され得て、本開示のAAVベクターゲノムを生産するためにプラスミド内に挿入されて、または、それらの活性を適合させて、それらのサイズを出来るだけ減少させるように改変され得る。
筋肉特異的な転写調節エレメントが由来し得る筋肉特異的遺伝子の非限定的な例は、筋肉クレアチンキナーゼ遺伝子、ミオシン重鎖遺伝子、またはミオシン軽鎖遺伝子、または、骨格筋由来のα1アクチン遺伝子を含むが、他のものも可能である。これらの遺伝子は、ヒト、マウス、または他の種由来であってよい。
遺伝子治療適用での使用のために作られている筋肉特異的な転写調節エレメントは、当該分野において説明されて、筋ジストロフィーを治療するために本開示のAAVベクターにおいて用いられ得る。非限定的な例では、Hauserは、マウスクレアチンキナーゼ(MCK)遺伝子に由来するCK4、CK5、およびCK6として知られる筋肉特異的な転写調節エレメントを記載し(Hauser,MA,et al.,Mol Therapy 2(1):16−25(2000))、Salvaは、MCK遺伝子に由来するCK1およびCK7として知られる筋肉特異的な転写調節エレメント、および、マウスα−MHC遺伝子由来のエンハンサーを追加で含むMHCK1およびMHCK7を記載し(Salva,MZ,et al.,Mol Therapy 15(2):320−9(2007))、Wangは、enh358MCK、dMCKおよびtMCKとして知られる筋肉特異的な転写調節エレメントを記載した(Wang,B,et al.,Gene Therapy 15:1489−9(2008))。筋ジストロフィーを治療するための本開示のAAVベクターにおける他の筋肉特異的な転写調節エレメントの使用も可能である。
筋ジストロフィーを治療するための本開示のAAVベクターにおいて用いられ得る筋肉特異的な転写調節エレメントの非限定的な例は、CK4、CK5、CK6、CK1、CK7、MHCK1、MHCK7、enh358MCK、dMCKおよびtMCK(当該分野においてそれぞれ説明される)、または、配列番号4、配列番号5、および配列番号16のDNA配列を有する本明細書において開示されるものを含む。他の筋肉特異的な転写調節エレメントも同様に用いられ得る。
DMDのようなジストロフィン異常症を治療するための本開示のAAVベクターのベクターゲノムは、ミニ−ジストロフィン遺伝子に関するコード配列の3’に位置する転写終結配列をさらに含む。転写終結配列を含むことは、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするmRNA転写産物が、形質導入細胞によって適切にポリアデニル化されるのを確実にして、それにより、タンパク質へのメッセージの効率的な翻訳を確実にさせる。操作の任意の特定の理論によって制限されることを意図せずに、哺乳類の転写終結配列に対する研究は、転写の終結および伸長している転写産物のシグナルポリアデニル化の役割を果たす遺伝子の3’UTR内のコンセンサス配列を同定した。具体的には、これらの配列は、典型的に、モチーフAATAAA、その後に15〜30個のヌクレオチドが続き、それから、CAを含む。例えば、N.Proudfoot,Genes Dev25:1770−82(2011)を参照。他のモチーフ、例えば上流エレメント(USE)および下流エレメント(DSE)は、一部の遺伝子において転写終結に寄与し得る。多くの転写終結配列が当技術分野で知られていて、本開示のAAVベクターにおいて用いられ得る。非限定的な例は、SV40ウイルス早期または後期遺伝子由来のポリアデニル化シグナル(SV40早期または後期ポリA)またはウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリアデニル化シグナル(bGHポリA)を含む。任意の種の他の遺伝子由来の転写終結配列が、本開示のAAVベクターにおいて用いられ得る。あるいは、合成の転写終結配列が設計され得て、シグナル転写終結およびポリアデニル化に用いられ得る。本開示のAAVベクターにおいて使用され得る転写終結配列のさらなる非限定的な例は、配列番号6および配列番号17のDNA配列を有する本明細書において開示されるものを含む。
特定の非限定的な実施態様によれば、本開示は、AAVキャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするベクターゲノムを含む、DMDのようなジストロフィン異常症を治療するためのAAVウイルス粒子またはベクターを提供する。一部の実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、全長ヒトジストロフィンタンパク質由来の以下のサブドメイン:ABD−H1−R1−R2−H3−R22−R23−R24−H4−CRD−CTDを含む。一部の実施態様では、CTDは、野生型筋ジストロフィンに見られるCTDのほんの一部であり、一部の実施態様では、野生型筋ジストロフィン(配列番号25)内に存在する最後の3つのアミノ酸を含まない。特定の実施態様によれば、配列番号7のミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子は、ヒトコドン最適化されて、配列番号1のDNA配列を有する。一部の実施態様では、AAVキャプシドは、AAV9血清型由来である。
本明細書中の他のどこかに示されるように、一本鎖AAVベクターゲノムは、ほぼ等しい比率でプラス鎖またはマイナス鎖としてキャプシド内にパッケージされる。その結果として、ベクターまたは粒子の実施態様は、ベクターゲノムがプラス鎖極性であるAAV粒子(すなわち、センスまたはコードDNA鎖の核酸塩基配列を有する)、ならびに、ベクターゲノムがマイナス鎖極性であるAAV粒子(すなわち、アンチセンスまたはテンプレートDNA鎖の核酸塩基配列を有する)を含む。プラス鎖の核酸塩基配列がその通常の5’から3’の順番で提供されれば、マイナス鎖のその5’から3’の順番での核酸塩基配列は、プラス鎖の核酸塩基配列の逆相補として決定され得る。
ベクターの一部の実施態様では、ベクターゲノムは、プラス極性である場合は、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子のDNA配列である配列番号1の5’に位置してそれと動作可能に連結された配列番号16のDNA配列を有するクレアチンキナーゼ遺伝子に由来する筋肉特異的な転写調節エレメントを含む。その5’末由来の核酸塩基の配列が前述のプラス鎖の配列の逆相補である場合、対応するマイナス鎖を含む粒子もあり得る。他の実施態様では、ベクターゲノムは、プラス極性である場合は、第一のAAV2 ITRの後に、配列番号1のDNA配列の5’に位置してそれと動作可能に連結された配列番号16のDNA配列、および、ミニ−ジストロフィン遺伝子の3’に位置する配列番号17のDNA配列を含む転写終結配列、その後に、第二のAAV2 ITRを含む。その5’末由来の核酸塩基の配列が前述のプラス鎖の配列の逆相補である場合、対応するマイナス鎖を含む粒子もあり得る。
ベクターの特定の他の実施態様では、ベクターゲノムは、プラス極性である場合、5’から3’の順番で、第一のAAV2 ITR、配列番号16のDNA配列によって定義される転写調節エレメント配列、ミニ−ジストロフィンを発現するためのヒトコドン最適化遺伝子配列、転写調節エレメントと動作可能に連結された配列番号1のDNA配列によって定義される遺伝子配列、配列番号17のDNA配列によって定義される転写終結配列、および、第二のAAV2 ITRを含む。その5’末由来の核酸塩基の配列が前述のプラス鎖の配列の逆相補である場合、対応するマイナス鎖を含む粒子もあり得る。
特定の非限定的な実施態様によれば、DMDのようなジストロフィン異常症を治療するためのAAVベクターは、本明細書においてAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと呼ばれてよく、AAV9血清型由来のキャプシド、および、ベクターゲノムを含み、そのベクターゲノムは、本明細書においてhCK.Hopti−Dys3978.spAと呼ばれてよく、ゲノムがプラス極性である場合、配列番号18のDNA配列を含み、から本質的になり、またはからなり、または、ゲノムがマイナス極性である場合は、配列番号18のDNA配列の逆相補を含む、から本質的になる、またはからなる(すなわち、ベクターゲノム配列が5’から3’に読まれる場合)。
ウイルスベクターを生産する方法
本開示は、AAVベクターを生産する方法をさらに提供する。1つの特定の実施態様では、本開示は、組み換えパルボウイルス粒子を生産する方法を提供し、AAV複製およびパッケージングを許容する細胞に、ミニ−ジストロフィン遺伝子、関係がある遺伝子制御エレメントおよび隣接するAAV ITRを含む組み換えAAVベクターゲノム、および、AAV repおよびcap遺伝子によって提供されるもののようなAAV複製およびパッケージング機能を、組み換えAAV粒子の複製およびパッケージングに十分な条件下で提供するステップを含み、それにより、rAAV粒子が細胞によって生産される。rAAV粒子の複製およびパッケージングに十分な条件は、制限されずに、ヘルパー機能、例えば、アデノウイルスおよび/またはヘルペスウイルス由来のものを含む。AAV複製およびパッケージングを許容する細胞は、パッケージング細胞またはプロデューサー細胞(より広範な用語「宿主細胞」によって包含される用語)として本明細書において知られている。rAAV粒子ベクターゲノム、複製およびパッケージング機能、および、必要な場合は、ヘルパー機能は、ウイルスまたは非ウイルスベクター、例えばプラスミドを介して提供され得て、エピソーム内または細胞のゲノム中に組み込まれてパッケージング細胞内に安定的または一時的に存在し得る。
本開示の組み換えAAVベクターは、当業者に公知のいくつかの方法によって作られ得る(例えば、WO2013/063379を参照)。例示的な方法は、Grieger,et al.2015,Molecular Therapy 24(2):287−297に記載されて、その内容は、参照により援用される。手短には、HEK293細胞の効率的なトランスフェクションは、開始点として用いられて、ここで、適した臨床マスター細胞バンク由来の接着性HEK293細胞株は、迅速かつスケーラブルなrAAV粒子の生産を可能にする振とうフラスコおよびWAVEバイオリアクター内において動物成分フリーの懸濁液状態で増殖するために用いられる。三重トランスフェクション方法を用いて(例えば、WO96/40240)、懸濁液HEK293細胞株は、一部の実施態様では、トランスフェクション後48時間に採取された場合、細胞あたり1×105ベクターゲノム(vg)よりも多くを含む粒子、または、1×1014vg/Lよりも多くの細胞培養を生じることが可能である。三重トランスフェクションは、パッケージング細胞が3つのプラスミドによってトランスフェクトされるという事実を指し:一方のプラスミドはAAV repおよびcap遺伝子をコードし、他方のプラスミドは、様々なヘルパー機能(例えば、アデノウイルスまたはHSVタンパク質、例えばE1a、E1b、E2a、E4、およびVA RNAをコードし、他方のプラスミドは、ベクターゲノム、すなわち、ミニ−ジストロフィン遺伝子およびAAV ITRが隣接するその様々な制御エレメントをコードする。所望の収率を達成するために、増殖およびトランスフェクションの両方をサポートする適合性の血清フリー懸濁液培地の選択、トランスフェクション試薬の選択、トランスフェクション条件および細胞密度のような多くの変数が最適化される。ベクターは、培地から、および/または、細胞を溶解させることによって集められ得て、それから、古典的な密度勾配超遠心分離技術を用いて、または、カラムクロマトグラフィーまたは他の技術を用いて精製される。
パッケージング機能は、ウイルスベクター複製およびパッケージングのための遺伝子を含む。したがって、例えば、パッケージング機能は、必要に応じて、ウイルス遺伝子発現、ウイルスベクター複製、組み込まれた状態からのウイルスベクターのレスキュー、ウイルス遺伝子発現、および、ウイルス粒子へのウイルスベクターのパッケージングに必要な機能を含んでよい。パッケージング機能は、プラスミドまたはアンプリコンのような遺伝子構築物、バキュロウイルス、またはHSVヘルパー構築物を用いて、パッケージング細胞に一緒にまたは別々に与えられ得る。パッケージング機能は、パッケージ細胞内の染色体外に存在してよいが、細胞の染色体DNAに組み込まれてもよい。例は、AAV RepおよびCapタンパク質をコードする遺伝子を含む。Repおよびcap遺伝子は、同一のウイルスまたは非ウイルスベクターの部分として一緒にパッケージング細胞に提供され得る。例えば、repおよびcap配列は、複合型アデノウイルスベクター(例えば、欠失されたアデノウイルスベクターのE1aまたはE3領域内に挿入される)、または、EBVベクターのようなヘルペスウイルスベクターによって提供され得る。あるいは、AAV repおよびcap遺伝子は、別々に提供され得る。Repおよびcap遺伝子は、パッケージング細胞のゲノムに安定的に組み込まれてもよく、または、エピソーム上に存在してもよい。典型的に、repおよびcap遺伝子は、rAAVベクター粒子中へのこれらの配列のパッケージングを避けるために、ITRによって隣接されない。
ヘルパー機能は、ウイルスベクターのパッケージングを開始するのに必要なパッケージング細胞の活性の感染を達成するために必要とされるヘルパーウイルスエレメントを含む。例は、ウイルスベクターのパッケージングをもたらすのに十分なアデノウイルス、バキュロウイルスおよび/またはヘルペスウイルスに由来する機能を含む。例えば、アデノウイルスヘルパー機能は、典型的に、アデノウイルス構成要素E1a、E1b、E2a、E4、およびVA RNAを含む。パッケージング機能は、必要なウイルスによるパッケージング細胞の感染によって供給され得る。あるいは、感染性ウイルスの使用を避けることができ、それによって、パッケージング機能は、プラスミドまたはアンプリコンのような非ウイルスベクターを用いてパッケージング細胞に一緒にまたは別々に供給され得る。例えば、Rabinowitz et al.,2002,J.Virol.76:791に記載のpXRヘルパープラスミド、および、Grimm et al.,1998,Human Gene Therapy 9:2745−2760に記載のpDGプラスミドを参照。パッケージング機能は、パッケージング細胞内の染色体外に存在してよいが、細胞の染色体DNAに組み込まれてもよい(例えば、HEK293細胞内のE1またはE3)。
ヘルパー機能を保有するヌクレオチド配列を複製およびパッケージングのために細胞宿主内に導入する任意の方法が用いられてよく、制限されないが、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、カチオン性またはアニオン性リポソーム、および、核局在化シグナルと組み合わせたリポソームを含む。ヘルパー機能が、ウイルスベクターを用いたトランスフェクションまたはヘルパーウイルスを用いた感染によって提供される実施態様では;ウイルス感染を生産する標準的な方法が用いられ得る。
当技術分野で知られている任意の適切な許容的またはパッケージング細胞が、パッケージされたウイルスベクターの生産において用いられ得る。哺乳類細胞または昆虫細胞が好ましい。本発明の実施におけるパッケージング細胞の生産に有用な細胞の例は、例えば、ヒト細胞株、例えばVERO、WI38、MRC5、A549、HEK293細胞(構成的プロモーターの制御下で機能性アデノウイルスE1を発現する)、B−50または任意の他のHeLa細胞、HepG2、Saos−2、HuH7、およびHT1080細胞株を含む。一態様では、パッケージング細胞は、懸濁液培養、特に血清フリーの増殖培地中での増殖が可能である。一実施態様では、パッケージング細胞は、血清フリー培地中の懸濁液中で増殖するHEK293である。別の実施態様では、パッケージング細胞は、米国特許第9,441,206号に記載されてATCC No.PTA 13274として寄託されるHEK293細胞である。非常に多くのrAAV粒子パッケージング細胞株が、当技術分野で知られていて、制限されないが、WO2002/46359に開示されるものを含む。
パッケージング細胞としての使用のための細胞株は、特に、本明細書に記載のrAAV粒子生産のために必要な遺伝子を導入するためにバキュロウイルスベクターが用いられる場合、昆虫細胞株を含む。AAVの複製を可能にして培地中に維持され得る任意の昆虫細胞は、本開示に従って用いられ得る。例は、スポドプテラ・フルギペルダ、例えば、Sf9またはSf21株、ショウジョウバエ属の細胞株、または蚊の細胞株、例えば、ヒトスジシマカ由来の細胞株を含む。
本開示のAAVベクター粒子が生産および精製された後に、それらは、筋ジストロフィーを有するヒト対象のような対象への投与のための組成物を調製するために滴定され得る。AAVベクターの滴定は、当技術分野で知られている方法を用いて達成され得る。特定の実施態様では、AAVベクター粒子は、ベクターゲノム内の配列、例えば、存在するならばAAV2 ITR配列、またはベクターゲノム内の他の配列に対するプライマーを用いた定量PCR(qPCR)を用いて滴定され得る。ベクターゲノムの配列を含むプラスミドのような公知濃度の標準の希釈と並行してqPCRを行なうことによって、AAVベクターの濃度がマイクロリットルまたはミリリットルのような単位容量あたりのベクターゲノムの数(vg)として計算されるのを可能にする検量線が生成され得る。あるいは、ゲノムを含むAAVベクター粒子の数は、ベクターゲノムに関して適切なプローブを用いたドットブロットを用いて決定され得る。これらの技術は、Gray,SJ,et al.,Production of recombinant adeno−associated viral vectors and use in invitro and invivo administration,Curr Protoc Neurosci(2011)、および、Werling NJ,et al.,Gene Ther Meth 26:82−92(2015)にさらに記載される。ストック内のAAVベクターゲノムの濃度が決定された時点で、対象への投与のための組成物を調製するのに用いるための適切なバッファー中に希釈され得て、またはそれに対して透析され得る。
治療方法
本開示は、ジストロフィン異常症のための治療を必要とする対象に、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクター、例えば制限されずに、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAとして知られるベクターを投与することにより、ジストロフィン異常症を治療するための方法を提供する。一部の実施態様では、ジストロフィン異常症は、制限されずに、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、DMD関連の拡張型心筋症(DCM)、および、女性での症候性キャリア状態を含む、筋ジストロフィーである。したがって、一部の実施態様では、本開示は、筋ジストロフィーのための治療を必要とする対象に、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクター、例えば制限されずに、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAとして知られるベクターを投与することにより、筋ジストロフィーを治療するための方法を提供する。関連する実施態様では、本開示は、したがって、治療を必要とする対象において、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、DMD関連の拡張型心筋症(DCM)、および女性での症候性キャリア状態を治療するための方法を提供する。
また、本明細書において開示される治療の方法での使用のための薬品の製造における、本開示のAAVベクターまたは医薬組成物の使用も提供される。加えて、本明細書において開示される治療の方法での使用のための本開示のAAVベクターまたは医薬組成物が提供される。
DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象の治療は、効果的であると考えられる治癒をもたらす必要はなく、ここで治癒とは、疾患進行を停止させる、または対象の筋肉機能を部分的または完全に回復させるものとして定義される。むしろ、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象の症候を減少または寛解させる、進行を遅延させる、または、生活の質を改善する役割を果たすものである。特定の非限定的な実施態様によれば、ジストロフィン異常症を有する対象の治療は、彼らの可動性を改善させることができ、彼らの歩行または他の可動性の喪失までの時間を遅らせることができ、DMDのような重度のジストロフィン異常症の場合は、障害を有する対象の寿命を延ばすことができる。
本開示の治療の方法は、DMDのようなジストロフィン異常症を有する男性または女性対象を治療するために用いられ得る。女性の場合は、治療は、症候性キャリアに、または末期の疾患を有する稀な女性対象に提供され得る。本開示の方法は、1才未満、または、約または少なくとも1才、または、約または少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30才またはそれよりも上の対象を含む、ジストロフィン異常症を有する任意の年齢の対象を治療するために用いられてもよい。対象は治療時に歩行可能であってよく、または歩行不可能であってよい。
本開示の治療の方法は、病変がネイティブのヒトジストロフィン遺伝子の機能の減少または喪失をもたらす限り、根底にある遺伝子病変(例えば、ジストロフィン遺伝子における欠失、重複、スプライス部位変異、またはナンセンス突然変異)にかかわらず、ジストロフィン異常症を有する対象を治療するために用いられ得る。
本開示の特定の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量のAAVミニ−ジストロフィンベクターによる対象の治療は、筋ジストロフィーの存在または進行と関連する1つまたは複数のバイオマーカーの組織濃度を減少させる。
特定の実施態様によれば、バイオマーカーは、損傷した骨格筋または心筋細胞から血液(血清または血漿を含む)へ放出される特定の酵素である。非限定的な例は、クレアチニンキナーゼ(CK)、トランスアミナーゼアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、および、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を含み、それらの平均レベルは、全て、DMDを有する対象において上昇することが知られている。
一部の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、DMD患者の血液中の上昇されたALTレベルを、同様の年齢および性別の健康な対象において典型的に見られるものよりも、約7−、6−、5−、4−、3−、または2倍以内大きく減少させるのに効果的である。他の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、DMD患者の血液中の上昇されたASTレベルを、同様の年齢および性別の健康な対象において典型的に見られるものよりも、約7−、6−、5−、4−、3−、または2倍以内大きく減少させるのに効果的である。一部の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、DMD患者の血液中の上昇されたLDHレベルを、同様の年齢および性別の健康な対象において典型的に見られるものよりも、約7−、6−、5−、4−、3−、または2倍以内大きく減少させるのに効果的である。一部の他の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、DMD患者の血液中の上昇された総CKレベルを、同様の年齢および性別の健康な対象において典型的に見られるものよりも、約50−、48−、46−、44−、42−、40−、38−、36、34−、32−、30−、28−、26−、24−、22−、20−、18−、16−、14−、12−、10−、9−、8−、7−、6−、5−、4−、3−、または2倍以内大きく減少させるのに効果的である。細胞外マトリックスの分解または再構築と関連する酵素であるマトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)は、DMD患者の血液中で上昇されることも見いだされている。例えば、Nadaraja,VD,et al.,Neuromusc.Disorders 21:569−578(2011)を参照。したがって、一部の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、DMD患者の血液中の上昇されたMMP−9レベルを、同様の年齢および性別の健康な対象において典型的に見られるものよりも、約15−、14−、13−、12−、11−、10−、9−、8−、7−、6−、5−、4−、3−、または2倍以内大きく減少させるのに効果的である。
他の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、上記のALT、AST、LDH、CKおよびMMP−9のレベルを単独またはこれらの同一または他のバイオマーカーの1つまたは複数と組み合わせて、変更するのに効果的である。したがって、例示的な非限定的な実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVミニ−ジストロフィンベクターは、ALTおよびAST、ALTおよびLDH、ASTおよびCK、またはASTおよびMMP−9などを減少させるのに効果的である。
本開示の一部の治療方法では、効果的な投与量または量のAAVベクターは、6分徒歩試験(6MWT)での平均的な対象の能力を改善するものである。6MWTは、筋ジストロフィー、特に、DMDを有するヒト対象の筋肉機能および可動性の再現可能かつ迅速な測定として確立されている。例えば、McDonald,CM,et al.,Muscle Nerve 41(4):500−10(2010);Henricson,E,et al.,PLOS Currents Musc Dys,8 July 2013;McDonald,CM,et al.,Muscle Nerve 48:343−56(2013)を参照。試験では、対象が、休憩から始めて、継続的かつ補助なしに6分の期間のあいだに歩くことができる距離(メートル)が記録される。この距離は、6分徒歩距離(6MWD)としても知られる。試験の一部の適用では、個々の対象は、数日の期間にわたって1回よりも多く試験されてよく、結果は平均される。その利点に起因して、6MWTは、歩行できるDMD患者に関する薬物試験における主な臨床エンドポイントとして採用されている。例えば、Bushby,K,et al.,Muscle Nerve 50:477−87(2014);Mendell,JR,et al.,Ann Neuro l79:257−71(2016);Campbell,C,et al.,Muscle Nerve 55(4):458−64(2017)を参照。通常、これらの試験では、治療群内のそれぞれの対象は、数ヶ月または数年の期間にわたる6MWTを用いて彼らの歩行試験がされて、治療効果が存在するかどうか決定する。
本開示の治療方法の一部の実施態様によれば、治療的有効性は、DMDを有する者のような治療された対象の、DMDのような同じタイプのジストロフィン異常症を有する未治療のコントロール対象の平均6MWT能力と比較した、平均6MWT能力に対する本開示のAAVベクターの治療効果を比較することによって統計的に決定される。そのようなコントロールは、本開示のAAVベクターの治療的有効性を評価するために用いられる同一の試験に含まれていてよく、または、DMDまたは他のジストロフィン異常症の進行の自然経過試験から引き出された同様の対象であってよい。コントロールは、同年齢であってよく(または、例えば制限されずに、一部の閾値年齢、例えば6、7、8、9、または10才よりも若いまたは高齢の対象に階層化される)、以前のコルチコステロイド治療の状態に関して一致していてよく(すなわち、イエスまたはノー、または、以前の治療の時間の長さ)、任意の治療前(コルチコステロイドによるものを除くかもしれない)の6MWTのベースライン能力に関して一致していてよく(または、例えば制限されずに、ベースライン能力が、一部の閾値、例えば200m、250m、300m、350m、400m、450m、または500mよりも下および上である対象に階層化される)、または、臨床的に関連のあると判定される一部の他の属性であってよい。
本開示の治療方法の特定の実施態様によれば、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象の平均6MWDを、ベクターの投与の3、6、9、12、15、18、21、24、27、30、33、または36ヶ月後、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、約または少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100メートルまたはそれよりも多く、増大させるのに効果的である。これらの実施態様の一部では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
本開示の治療方法の特定の実施態様によれば、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象の平均6MWDを、ベクターの投与の30、60、90、120、150、180、210、240、270、300、330、360、390、420、450、480、510、540、570、600、630、660、690または720日後、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、約または少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100メートルまたはそれよりも多く、増大させるのに効果的である。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
6MWTに対する代替として、治療的有効性は、対象が4つの標準的なサイズの階段を登るのにかかる時間の減少として表わすことができ、4階段上昇試験として知られる試験である。この試験は、DMD患者におけるコルチコステロイド治療の有効性を評価するために用いられている。Griggs,RC,et al.,Arch Neurol 48(4):383−8(1991)。したがって、本開示の治療方法の特定の実施態様によれば、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象が4階段上昇試験を行なうのにかかる平均時間を、ベクターの投与の3、6、9、12、15、18、21、24、27、30、33、または36ヶ月後、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、約または少なくとも0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、または4.0秒またはそれよりも多く、減少させるのに効果的である。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
本開示の治療方法の関連する実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象が4階段上昇試験を行なうのにかかる平均時間を、ベクターの投与の30、60、90、120、150、180、210、240、270、300、330、360、390、420、450、480、510、540、570、600、630、660、690または720日後、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、約または少なくとも0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、または4.0秒またはそれよりも多く、減少させるのに効果的である。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
治療的有効性は、コントロールと比較して、治療の規定時間後に歩行の喪失を経験する対象のパーセンテージにおける経時的な減少としても表わすことができる。歩行の喪失は、車椅子使用に対する連続的な依存の開始として定義される。したがって、本開示の治療方法のさらに他の実施態様によれば、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象への投与の3、6、9、12、15、18、21、24、27、30、33、または36ヶ月後、歩行ができなくなった対象の平均数を、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%またはそれよりも多く、減少させる。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
本開示の治療方法の一部の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象における1つまたは複数の症候の発症を遅らせるのに効果的である。症候の発症前の診断は、DMD遺伝子内の突然変異に関する出生前、出産前後期または出生後の遺伝子試験を通して達成され得る。特定の実施態様によれば、本開示のAAVベクターによる治療は、DMDの症候の1つまたは複数の発症を、同様の一致または階層化されたコントロールと比較して、少なくともまたは約3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、15、16、18、20、22、24、25、26、28、30、32、34、35、36、38、40、42、44、45、46、48、50、52、54、55、56、28、60、62、64、65、66、68、70、72、74、75、76、78、または80ヶ月、またはそれよりも多く、遅らせるのに効果的である。当業者によって理解されるように、DMDの初期症候は、制限されずに、歩行能力の遅延(DMDを有さない赤ちゃんでの平均12〜15ヶ月と比較して、約18か月の平均年齢まで);飛ぶこと、走ること、または階段を登ることの困難性;転びやすさ;近位筋の弱さ(例えば、床から起き上がるときのGowersの演習(maneuver)を示すことによって証明される);偽肥大に起因した拡大された腓腹;つま先および/または母指球での対象の歩行に起因したあひる歩行;腹を突きだして肩を後ろに引くことによりバランスを維持する傾向;および、認識機能障害、例えば、減少された受容言語、表出言語、視空間能力、優秀な運動能力、注意力、および記憶力を含む。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
治療的有効性は、未治療コントロールと比較して、細い筋組織を置き換える脂肪組織の量の増大を経験するベクター治療された対象のパーセンテージにおける経時的な減少としても表わすことができる。一部の実施態様では、脂肪症の増大に向かうこの進行は、DMD患者の足の筋肉のMRI分析を用いて判定することができ、Willcocks,RJ,et al.,Multicenter prospective longitudinal study of magnetic resonance biomarkers in a large Duchenne muscular dystrophy cohort,Ann Neurol 79:535−47(2016)においてさらに説明されるように、脂肪画分(FF)として表される。関連する実施態様では、本開示のAAVベクターによるDMD対象の治療は、一致したコントロールと比較して、治療の3、6、9、12、15、18、21、24、27、30、33、または36ヶ月後、MRIによって決定される彼らの下肢における平均FFを、約または少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれよりも多く、減少させるのに効果的である。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
一部の実施態様では、治療的に効果的な投与量または量の本開示のAAVベクターは、治療の3、6、9、12、15、18、21、24、27、30、33、または36ヶ月後、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、またはそれよりも多くのミニ−ジストロフィンタンパク質を発現している骨格筋線維をもたらすものである。ミニ−ジストロフィンタンパク質発現に関してポジティブである筋線維のパーセンテージは、ミニ−ジストロフィンタンパク質に特異的に結合することが可能な抗−ジストロフィン抗体によって、治療された対象由来の生検された筋肉の断面を免疫標識することによって決定され得る。適切な免疫標識技術は、実施例に記載されていて、当業者に馴染みがある。生検が取られ得る治療された対象の例示的な筋肉は、二頭筋、三角筋、および四頭筋を含むが、他の筋肉も同様に、生検され得る。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
一部の実施態様では、DMDのような筋ジストロフィーのようなジストロフィン異常症の治療に関する本開示のAAVベクターの投与量または量は、治療的に効果的であり、同時に、治療された対象において、またはそのような対象のほんの低いパーセンテージにおいて、ミニ−ジストロフィンタンパク質に関して特異的な細胞性(T細胞)免疫応答を引き起こさないように決定される。ミニ−ジストロフィンタンパク質に対するT細胞応答の存在または程度は、ミニ−ジストロフィンタンパク質アミノ酸配列をカバーする重複ペプチドライブラリーに対する曝露に応答してγインターフェロン(IFNγ)を産生する対象血液から単離された末梢血単核細胞(PBMC)を検出するためのELISPOTアッセイを用いて決定され得る。特定の実施態様では、ポジティブIFNγ応答に関する閾値は、試験された百万のPBMCあたり50スポットよりも多くを形成する細胞として設定され得る。制限されずに、ベクター治療された対象から得られたミニ−ジストロフィンタンパク質を発現している筋肉または他の組織の生検内のT細胞浸潤物の検出を含む、ミニ−ジストロフィンタンパク質に対するT細胞応答を検出するための他のアッセイの使用も可能である。対象は、ヒト対象または動物対象、例えばDMDの動物モデル、例えば、mdxマウス、mdxラット、またはGRMD犬モデルであってよい。他の実施態様では、DMDのような筋ジストロフィーのようなジストロフィン異常症の治療のための本開示のAAVベクターの投与量または量は、治療的に効果的であり、同時に、キャプシド、ベクターゲノム(またはその任意の構成要素)、または形質導入細胞によって発現されるミニ−ジストロフィンタンパク質に対して、または、そのような対象のほんの低いパーセンテージにおいて、炎症性応答を引き起こさないように決定される。操作の任意の特定の理論によって拘束されることを望まずに、AAVベクターに応答した炎症は、先天性の免疫応答に起因し得る。ベクター治療された対象の筋肉における炎症は、存在するならば、磁気共鳴イメージングを用いて検出され得る。、例えば、J Garcia,Skeletal Radiol 29:425−38(2000)およびSchulze,M,et al.,Am J Radiol 192:1708−16(2009)を参照。対象は、ヒト対象または動物対象、例えば、DMDの動物モデル、例えば、mdxマウス、mdxラット、またはGRMD犬モデルであってよい。上述の一部の実施態様では、細胞性免疫応答または炎症の存在または不存在は、治療の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36ヶ月後、または治療後の一部の他のときに決定される。関連する実施態様では、ミニ−ジストロフィンタンパク質に対して細胞性免疫応答を示す対象の低いパーセンテージは、ベクターが投与された対象の約0%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%または20%以下である。これらの一部の実施態様では、AAVベクターは、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含み、例えば制限されずに、ベクターはAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定される。
関連する実施態様では、DMDのような筋ジストロフィーのようなジストロフィン異常症の治療のための本開示のAAVベクターの投与量または量は、治療された対象における随伴性免疫抑制を必要とせずに治療的に効果的である。したがって、特定の実施態様では、DMDのようなジストロフィン異常症を有する対象の治療は、AAVベクターによる治療前、治療中、または治療後に、1つまたは複数の免疫抑制薬物を(現在の標準的な治療であるステロイド治療とは別に)対象へ投与することを必要とせずに、効果的である。例示的な免疫抑制薬物は、限定されないが、カルシニューリン阻害剤、例えばタクロリムスおよびシクロスポリン、抗増殖剤、例えば、ミコフェノール酸、レフルノミド、およびアザチオプリン、または、mTOR阻害剤、例えばシロリムスおよびエベロリムスを含む。
実施例においてより詳細に探求されるように、制限されずにAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定されるベクターを含む本開示のAAVベクターの有効性は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの動物モデルにおいて試験され得て、結果は、ヒトDMD患者におけるそのようなベクターの有効な投与量を予測するために用いられる。様々な動物モデルが当技術分野で知られていて、mdxマウスモデル、ゴールデンレトリバー筋ジストロフィーモデル、および最近では、実施例においてより詳細に説明されるDmdmdxラットモデルを含む。
Dmdmdxラットモデルに基づいて、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定されるベクターを含む効果的な投与量の本開示のAAVベクターは、様々な生物学的パラメーターおよびラットにおける疾患経過の態様に関して確立され得る。
したがって、本開示の特定の実施態様によれば、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、血清AST、ALT、LDH、または全クレアチンキナーゼレベルを減少させるのに効果的である。
他の実施態様では、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、大腿二頭筋、横隔膜、または心筋における線維症を減少させるのに効果的である。
さらに別の実施態様では、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、前肢把持力を増大させるのに効果的である。
他の実施態様によれば、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、前肢把持力を試験する5回の間隔が密接した試験にわたって測定される筋肉疲労を減少させるのに効果的である。
一部の他の実施態様では、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後6ヶ月において、心エコー検査を用いて測定される左心室駆出率を増大させるのに効果的である。
他の実施態様では、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、心エコー検査を用いて測定される後期に対する初期の左心室充満の速度比(すなわち、E/A比)を増大させるのに効果的である。
一部の実施態様によれば、少なくとも1×1014vg/kgまたは3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、コントロールと比較して、注入後3ヶ月または6ヶ月において、心エコー検査を用いて測定される等容弛緩時間(IVRT)またはピークE速度とそのベースライン復帰との間のミリ秒での時間(すなわち、E波の減速時間(DT))を低減させるのに効果的である。
前述の実施態様のそれぞれにおいて、コントロール動物と比較して、ベクターによって処置された動物における生理学の測定の増大または低減は、一部の実施態様では、統計的有意性に関して試験され得る。どの統計試験を用いるかの選択は、当業者の知識内である。統計的有意性を評価するための方法としてp値が採用される場合は、そのようなp値は、計算された時点で、事前に定義された有意水準と比較され得て、p値が有意水準よりも小さい場合は、治療効果は、統計的に有意であると判定され得る。一部の実施態様では、有意水準は、0.25、0.20、0.15、0.10、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、または一部の他の有意水準として事前に定義され得る。したがって、有意水準が0.05として事前に定義される例示的な非限定的な実施態様では、その結果、p値<0.05の計算は、ベクターによって治療された群とコントロール群との間の統計的有意差を表わすと解釈される。
前述の実施態様のそれぞれにおいて、コントロールは、未処置の、または、ビヒクルのみおよび非ベクターによって処置された、同一の性別および遺伝的背景の同年齢の動物であってよい。しかしながら、他のコントロールでも可能である。
一部の他の実施態様では、少なくとも3×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの投与量によるDmdmdxラットの処置は、大腿二頭筋、横隔膜、心筋、または他の横紋筋を形質転換して、注入後3ヶ月または6ヶ月までに、ミニ−ジストロフィンタンパク質に対して細胞性免疫応答を誘導せずに、opti−Dys3978遺伝子によってコードされるミニ−ジストロフィンタンパク質を発現するのに効果的である。ミニ−ジストロフィンタンパク質に対する細胞性免疫応答は、脾細胞、または血液リンパ球、例えば末梢血単核細胞(PBMC)を、試験動物から単離するステップ、プール(例えば、5プール)内のミニ−ジストロフィンタンパク質アミノ酸配列をカバーしている重複ペプチドライブラリー(例えば、それぞれ10アミノ酸によって重複する15アミノ酸長のペプチド)からのペプチドと細胞をインキュベートするステップ、および、ペプチドに曝露されるのに応答して細胞がγインターフェロン(IFNγ)を産生するかどうか判定するステップによって評価され得る。IFNγの産生は、当業者の知識に従ってELISPOTアッセイを用いて判定され得る。例えば、Smith,JG,et al.,Clin Vaccine Immunol 8(5):871−9(2001),Schmittel A,et al.,J Immunol Methods 247:17−24(2001)、および、Marino,AT,et al.,Measuring immune responses to recombinant AAV gene transfer,Ch.11,pp.259−72,Adeno−Associated Virus Methods and Protocols,Ed.RO Snyder and P Moullier,Humana Press(2011)を参照。特定の実施態様では、ポジティブのIFNγ応答に関する閾値は、試験された百万の細胞あたり50スポットよりも多くを形成する細胞として、または他の実施態様では、ネガティブの応答がこれらの閾値よりも下に考慮されるように、ネガティブコントロール(例えば、ペプチドを加えず培地のみ)を用いて検出されるスポット形成細胞の数の少なくとも3倍として設定され得る。
本開示の治療方法の一部の実施態様では、DMDのようなジストロフィン異常症を治療するためのAAVベクターは、DMDのようなジストロフィン異常症のための治療を必要とする対象に、DMDのようなジストロフィン異常症の治療に効果的であることが実証された、またはそのように考えられる、少なくとも第二の薬剤と共同して投与される。AAVベクターの共同投与は、第二の薬剤の治療の前、同時、または後に、対象を治療することを意味する。特定の実施態様によれば、AAVベクターは、例えばジストロフィン遺伝子のエクソン51、または、ジストロフィン遺伝子のいくつかの他のエクソンの、DMD遺伝子のエクソンスキッピングを引き起こすアンチセンスオリゴヌクレオチドと一緒に投与される。ジストロフィン遺伝子のエクソン51のスキッピングを引き起こす薬剤は、ドリサペルセンおよびエテプリルセンを含むが、他のものもあり得る。他の実施態様では、AAVベクターは、対象におけるミオスタチン機能を阻害する薬剤、例えば、抗−ミオスタチン抗体と一緒に投与されて、その例は、米国特許第7,888,486号、第8,992,913号、および第8,415,459号に提供される。他の実施態様では、対象のジストロフィン異常症がジストロフィン遺伝子内のナンセンス突然変異に起因し得る場合、AAVベクターは、ナンセンス突然変異のリボソームのリードスルーを促進する薬剤、例えばアタルレンと一緒に、または、未成熟終止コドンを抑制する薬剤、例えばアミノグリコシド、例えばゲンタマイシンと一緒に投与される。他の実施態様では、AAVベクターは、アナボリックステロイド、例えばオキサンドロロンと一緒に投与される。さらに他の実施態様では、AAVベクターは、コルチコステロイド、例えば制限されずに、プレドニゾン、デフラザコート、またはプレドニゾロンと一緒に投与される。これらの方法の一部の実施態様では、AAVベクターは、ミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含むAAV9ベクター、例えば制限されずに、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定されるベクターである。
医薬製剤および投与モード
本発明に係るウイルスベクターおよびキャプシドは、獣医およびヒト医療用途の両方において使用を見いだす。適切な対象は、鳥類および哺乳類の両方を含む。本明細書において用いられる用語「鳥類」は、制限されないが、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、ターキー、キジ、オウム、インコなどを含む。本明細書において用いられる用語「哺乳類」は、制限されないが、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどを含む。ヒト対象は、新生児、幼児、未成年および成人を含む。任意選択で、例えば対象が本明細書に記載されるものを含む障害を有するまたはそのリスクがあると考えられる、または本明細書に記載されるものを含むポリヌクレオチドの送達から恩恵を受けるため、対象は本発明の方法を「必要とする」。さらなる選択肢として、対象は、疾患の実験動物および/または動物モデルであってよい
特定の実施態様では、本発明は、薬学的に許容できる担体中に、本発明のウイルスベクター(例えばrAAV粒子)および/またはキャプシド、および任意選択で、他の医療薬剤、医薬品、安定化剤、バッファー、担体、アジュバント、希釈剤などを含む、医薬組成物を提供する。注入のために、担体は典型的に液体である。投与の他の方法のために、担体は、固体または液体のいずれかであってよい。吸入投与のために、担体は呼吸用であり、任意選択で、固体または液体微粒子形態であってよい。
「薬学的に許容できる」によって、毒性または他の方法で望ましくないようなものでない材料を意味し、すなわち、材料は、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさずに対象に投与され得る。
本発明の一態様は、ミニ−ジストロフィンをコードするポリヌクレオチドを細胞にインビトロで移行する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に適切である標準的な形質導入方法に従って、適切な感染多重度で細胞内に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞のタイプおよび数、および特定のウイルスベクターに応じて変化し得て、過度の実験をせずに当業者によって決定され得る。代表的な実施態様では、少なくとも約103感染単位、より好ましくは少なくとも約105感染単位が細胞に導入される。
ウイルスベクターが導入される細胞(単数または複数)は、制限されないが、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞および/または横隔膜筋細胞)、幹細胞、生殖細胞などを含む任意のタイプであってよい。代表的な実施態様では、細胞は、任意の前駆細胞であってよい。さらなる可能性として、細胞は、幹細胞(例えば、筋肉幹細胞)であってよい。さらに、細胞は、前記の任意の起源種由来であってよい。
ウイルスベクターは、改変された細胞を対象に投与する目的のために、インビトロで細胞内に導入され得る。特定の実施態様では、細胞は対象から取り出されていて、ウイルスベクターがその中に導入されて、それから、細胞は元の対象内に投与される。エクスビボでの操作のために対象から細胞を取り出して、その後に元の対象に導入する方法は、当技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,399,346号を参照)。あるいは、組み換えウイルスベクターは、ドナー対象から細胞内に、培養細胞内に、または、任意の他の適切な由来から細胞内に導入され得て、細胞は、それを必要とする対象(すなわち、「レシピエント」対象)に投与される。
エクスビボでの遺伝子送達に適切な細胞は、上述されるとおりである。対象へ投与する細胞の用量は、対象の年齢、症状および種、細胞のタイプ、細胞によって発現される核酸、投与モードなどによって変化する。典型的に、少なくとも約102〜約108細胞または少なくとも約103〜約106細胞が、薬学的に許容できる担体における投与量あたり投与される。特定の実施態様では、ウイルスベクターを用いて形質導入された細胞は、調剤担体と組み合わせて治療有効量または予防有効量で対象に投与される。
本発明のさらなる態様は、対象にウイルスベクターを投与する方法である。それを必要とするヒト対象または動物への本発明に係るウイルスベクターおよび/またはキャプシドの投与は、当技術分野で知られている任意の手段によるものであってよい。任意選択で、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、薬学的に許容できる担体において治療効果的または予防効果的な投与量で送達される。
対象に投与されるウイルスベクターおよび/またはキャプシドの用量は、投与モード、治療および/または予防されるべき疾患または症状、個々の対象の症状、特定のウイルスベクターまたはキャプシド、および、送達されるべき核酸などに依存し、日常的な様式で決定され得る。治療的効果を達成するための例示的な投与量は、少なくとも約105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015形質導入単位、任意選択で、約108〜1013形質導入単位の力価である。
特定の実施態様では、1よりも多い投与(例えば、2、3、4またはそれよりも多い投与)が、様々な間隔、例えば、毎日、毎週、毎月、毎年などの期間にわたって、所望のレベルの遺伝子発現を達成するために用いられ得る。
特定の実施態様では、本開示のAAVベクターまたは粒子は、同一または異なる血清型の空のAAVキャプシドを含む組成物において、対象に投与され得る。空のキャプシドは、典型的な配列および比率のVP1、VP2およびVP3キャプシドタンパク質を含むAAVキャプシドであるが、ベクターゲノムを含まない。操作の任意の特定の理論によって拘束されることを望まずに、空のキャプシドの存在は、AAVベクターのキャプシドに対する免疫応答を減少させることができ、それにより、形質導入効率を増大させると仮定される。空のキャプシドは、AAVベクターの調製において自然に生じることができ、または、AAVベクター(すなわち、ベクターゲノムを含むキャプシド)に対して公知の比率の空のキャプシドを得るために公知の量で加えられる。空のキャプシドの調製、精製および定量は、当業者の知識の範囲内である。空のキャプシドおよび本開示のAAVベクターを含む組成物は、AAVベクターと比較して過剰の空のキャプシド、または、空のキャプシドと比較して過剰のゲノム含有AAVベクターを用いて処方され得る。したがって、一部の実施態様では、本開示の組成物は、本開示のAAVベクターおよび同一または異なる血清型の空のキャプシドを含み、ここで、AAVベクターに対する空のキャプシドの比は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10対1、または一部の他の比である。
他の実施態様では、本開示は、DMDのような筋ジストロフィーのようなジストロフィン異常症を治療するためのAAVベクター粒子の例示的な有効な投与量を提供し、対象の体重(kg)のキログラムあたりベクターゲノム(vg)として定量化されて、vg/kgと省略される。特定の実施態様によれば、AAV9キャプシドおよびミニ−ジストロフィンタンパク質をコードするヒトコドン最適化遺伝子を含むゲノムを含むものを含む本開示のAAVベクター、例えば制限されずに、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAと指定されるベクターの、有効な投与量は、約1×1012vg/kg、2×1012vg/kg、3×1012vg/kg、4×1012vg/kg、5×1012vg/kg、6×1012vg/kg、7×1012vg/kg、8×1012vg/kg、9×1012vg/kg、1×1013vg/kg、2×1013vg/kg、3×1013vg/kg、4×1013vg/kg、5×1013vg/kg、6×1013vg/kg、7×1013vg/kg、8×1013vg/kg、9×1013vg/kg、1×1014vg/kg、1.5×1014vg/kg、2×1014vg/kg、2.5×1014vg/kg、3×1014vg/kg、3.5×1014vg/kg、4×1014vg/kg、5×1014vg/kg、6×1014vg/kg、7×1014vg/kg、8×1014vg/kg、または9×1014vg/kg、または一部の他の投与量である。任意のこれらの実施態様では、AAVベクターは、薬学的に許容できる組成物単独で、または、ベクターに対する空のペプチドの比が約0.5:1、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、または一部の他の比で同一のキャプシド血清型の空のキャプシドとともに、対象に投与され得る。
例示的な投与モードは、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介する)、口腔(例えば、舌下)、膣、髄腔内、眼球内、経皮、内皮内、子宮内(または胚内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、頭蓋内、筋肉内(骨格筋、横隔膜および/または心筋への投与を含む)、胸膜内、脳内、および関節内)、局所(例えば、気道表面を含む皮膚および粘膜表面の両方、および経皮投与)、リンパ内など、ならびに、直接的な組織または臓器注入(例えば、骨格筋、心筋、または横隔膜筋へ)を含む。
投与は、制限されずに、骨格筋、平滑筋、心臓、および横隔膜からなる群より選択される部位を含む対象内の任意の部位に対するものであってよい。
本発明に係る骨格筋への投与は、制限されないが、四肢(例えば、上腕、前腕、上肢、および/または下肢)、背中、首、頭部(例えば、舌)、胸部、腹部、骨盤/会陰、および/または指における骨格筋への投与を含む。適切な骨格筋は、限定されないが、小指外転筋小指外転筋(手)、小指外転筋小指外転筋(足)、母指外転筋、第五中足骨外転筋、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母趾内転、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘筋、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、烏口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、二腹筋、背側骨間筋(手)、背側骨間筋(足)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、短指伸筋、長指伸筋、短母指伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、短母指伸筋、長母指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手)、短小指屈筋(足)、短趾屈筋、長趾屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母趾屈筋、長母趾屈筋、短母指屈筋、長母指屈筋、前頭筋、腓腹筋、オトガイ舌骨筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、薄筋、頚腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋、横突間筋、外側翼突筋、外側直筋、広背筋、口角挙筋、眼窩下筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋、頭最長筋、頸最長筋、胸最長筋、頭長筋、頸長筋、虫様筋(手)、虫様筋(足)、咬筋、内側翼突筋、内側直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨筋、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第3腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頸筋、膝窩筋、後斜角筋、方形回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頚半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短回旋筋、ヒラメ筋、頭棘筋、頚棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頚板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸郭、甲状舌骨、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋、および小頬骨筋、および当技術分野で知られている任意の他の適切な骨格筋を含む。
ウイルスベクターは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、四肢灌流、(任意選択で、足および/または腕の単離された四肢灌流;例えばArruda et al.,(2005)Blood 105:3458−3464を参照)、および/または、直接的な筋肉内注入によって、骨格筋に送達され得る。特定の実施態様では、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、四肢灌流によって、任意選択で、単離された四肢灌流(例えば、静脈内または関節内投与によって、対象(例えば、DMDのような筋ジストロフィーを有する対象)の四肢(腕および/または足)に投与される。本発明の実施態様では、本発明のウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、「流体力学」技術を用いずに有利に投与され得る。従来技術ベクターの組織送達(例えば、筋肉への)は、血管系内の圧力を増大させてベクターが内皮細胞バリアを横切る能力を促進する流体力学技術(例えば、大量の静脈内/静脈内投与)によって、しばしば高められる。特定の実施態様では、本発明のウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、大量インフュージョンおよび/または高められた血管内圧力(例えば、正常の収縮期圧よりも高い、例えば、正常の収縮期圧よりも、血管内圧が5%、10%、15%、20%、25%以下の増加)のような流体力学技術の不存在下で投与され得る。そのような方法は、浮腫、神経損傷および/またはコンパートメント症候群のような、流体力学技術と関連する副作用を低減または防止し得る。
心筋への投与は、左心房、右心房、左心室、右心室および/または隔膜への投与を含む。ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、静脈内投与、動脈内投与、例えば、大動脈内投与、直接的な心臓注入(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室へ)、および/または冠動脈灌流によって、心筋に送達され得る。
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与、および/または腹膜内投与を含む任意の適切な方法によるものであってよい。
平滑筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与、および/または腹膜内投与を含む任意の適切な方法によるものであってよい。一実施態様では、投与は、平滑筋内、付近および/または上に存在する内皮細胞に対するものであってよい。
標的組織への送達は、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むデポーを送達することによっても達成され得る。代表的な実施態様では、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むデポーは、骨格筋、平滑筋、心筋および/または横隔膜筋組織へ移植されて、または、組織は、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触され得る。そのような移植可能なマトリックスまたは基材は、米国特許第7,201,898号に記載される。
特定の実施態様では、本発明に係るウイルスベクターは、骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与される(例えば、筋ジストロフィーを治療および/または予防するため)。
代表的な実施態様では、本発明は、骨格筋、心筋および/または横隔膜筋の障害を治療および/または予防するために用いられる。
代表的な実施態様では、本発明は、それを必要とする対象において筋ジストロフィーを治療および/または予防する方法を提供し、その方法は、治療的または予防的有効量の本発明のウイルスベクターを、哺乳類の対象に投与するステップを含み、ここで、ウイルスベクターは、ジストロフィン、ミニ−ジストロフィン、またはマイクロ−ジストロフィンをコードする異種核酸を含む。特定の実施態様では、ウイルスベクターは、本明細書中の他のどこかに記載されるように、骨格筋、横隔膜筋および/または心筋に投与され得る。
注入剤は、従来の形態で、液体の溶液または懸濁液として、注入前の液体中の溶液または懸濁液に適切な固体形態として、またはエマルションとして、調製され得る。あるいは、本発明のウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、全身性よりむしろ局所的に、例えば、デポーまたは徐放性製剤において投与し得る。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、外科的に移植可能なマトリックス(例えば、米国特許公報番号2004−0013645に記載)に付着されて送達され得る。
本発明を説明したので、同一のものが、以下の実施例においてより詳細に説明され、それは説明目的のみのために本明細書中に含められて、本発明に対する限定を意図しない。
実施例1
コドン最適化ヒトミニ−ジストロフィン遺伝子の合成
以前に我々は、ヒトジストロフィン遺伝子の多くのミニチュア版をヒト筋ジストロフィンcDNAのPCRクローニングによって生産して、ジストロフィンコード配列のC末領域のほぼ完全な欠失および中央ロッドドメインの大きな欠失を有するミニ−ジストロフィン遺伝子を作製した(Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 97:13714(2000);米国特許第7,001,761号および第7,510,867号)。これらのミニ−ジストロフィン遺伝子は、Dmd mdxマウスモデルにおいてインビボで非常に機能性であることが試験された(Watchko et al.,Human Gene Therapy 13:1451(2002))。これらのミニ−ジストロフィンタンパク質の1つはΔ3990と名付けられて、米国特許第7,510,867号に配列番号6で記載された。Δ3990のタンパク質配列およびそれをコードするDNAは、それぞれ配列番号27および配列番号28によって本明細書において提供される。
Δ3990ミニ−ジストロフィンの改変も設計して、コドン最適化して、活性について試験した。この新規のヒトミニ−ジストロフィンは、Dys3978と呼ばれ、1325アミノ酸の長さであり、野生型全長ヒト筋ジストロフィン(配列番号25)由来の以下の部分またはサブドメインを含む:N末端およびアクチン結合ドメイン(ABD)、ヒンジH1、ロッドR1およびR2、ヒンジH3、ロッドR22、R23およびR24、ヒンジH4、システインリッチドメイン(CRドメイン)、および、カルボキシ末端ドメインの部分(CTドメイン)。このタンパク質のアミノ酸配列は配列番号7によって提供されて、図1に模式的に示される。潜在的免疫原性を減少させるために、Δ3990タンパク質のC末端における最後の4つのアミノ酸を欠失させた。Δ3990の作製において、この配列は、ジストロフィンの最後の3つのアミノ酸(3683〜3685、またはDTM)とジストロフィンカルボキシ末端ドメインのアミノ末端(P3409で終わる)の部分を接合することによって形成されている。この一続きの4つのアミノ酸は公知の機能が無く、その配列は野生型ジストロフィンにおいて生じないので、新規のエピトープとして機能し得る。加えて、Δ3990内のアミノ酸2位のバリンは、野生型ジストロフィンには存在しないが、Δ3990の開始コドンの周りのコンセンサスコザック開始配列の作製から生じて、ジストロフィンに通常存在するロイシンに変更された。したがって、Δ3990とDys3978との間には5アミノ酸の違いが存在する。Δ3990とDys3978との間のアミノ酸配列アライメントを、図55A〜55Cに提供する。
Dys3978をコードする遺伝子を、上述のタンパク質サブドメインに対応する野生型ジストロフィンコード配列由来のサブシーケンスを組み合わせることによって構築した。生じた遺伝子は配列番号26によって提供される。Dys3978の発現を増大させるために、遺伝子配列は、ヒトコドンアルゴリズムを用いてコドン最適化された。生じたヒトコドン最適化遺伝子は、Hopti−Dys3978と呼ばれ、配列番号1として提供される。Copti−Dys3978と呼ばれる、Dys3978をコードするイヌコドン最適化遺伝子も生産されて、その配列は配列番号3として提供される。Δ3990をコードする非コドン最適化遺伝子およびHopti−Dys3978のDNA配列を比較するアライメントを図56A〜56Iに提供する。
他の変更の中でも、Dys3978をコードする遺伝子のコドン最適化は、合計GC含有量を非コドン最適化遺伝子での約46%から、ヒトコドン最適化遺伝子(すなわち、Hopti−Dys3978)での約61%まで増大させた。GC含有量の増大は、哺乳類の細胞におけるmRNAレベルの増大をもたらし得る。例えば、Grzegorz,K,et al.,PLoS Biol,4(6):e180(2006);およびNewman,ZR,et al.,PNAS,E1362−71(2016)を参照。コドン最適化は、コドン適合指標(CAI)も増大させて、コード配列の始めのコザックコンセンサス転写開始認識部位の付加を含んだ。
ヒトコドン最適化が遺伝子発現を高めることができるかどうか調べるために、Hopti−Dys3978遺伝子を、構成的に活性のCMVプロモーターおよび小さな合成ポリアデニル化(ポリA)シグナル配列(配列番号6)を含むAAVベクター発現カセット中にクローニングした。ヒトHEK293細胞へのトランスフェクション後に、Hopti−Dys3978遺伝子を含むベクタープラスミドは、ジストロフィンタンパク質に対するウエスタンブロットおよび免疫蛍光染色を用いて定量的に決定されるように、Dys3978をコードする非最適化遺伝子よりも、驚くほど多いタンパク質発現を示した(図2)。
ヒンジH3が存在しないことを除き構造がDys3978と似ている、ヒトミニ−ジストロフィンをコードする遺伝子も生産して、コドン最適化した。Hopti−Dys3837(配列番号2)と呼ばれるこの遺伝子は、Dys3837(配列番号8)と呼ばれる1278アミノ酸のヒトミニ−ジストロフィンタンパク質(図1にも模式的に示される)をコードする。
本明細書に記載される他の実験について、ヒトおよびイヌコドン最適化Dys3978遺伝子を、以下に特定される筋肉クレアチンキナーゼ遺伝子に由来する2つの異なる合成の筋肉特異的プロモーターおよびエンハンサーの組み合わせの1つの制御下に置いた:
1)合成の複合型筋肉特異的プロモーター(hCK)(配列番号4);および
2)合成の複合型筋肉特異的プロモータープラス(hCKplus)(配列番号5);
実験での使用のために、標準的な分子クローニング技術を用いて以下のベクターを構築した。規定のプロモーター、ミニ−ジストロフィン遺伝子およびポリA配列の遺伝子発現カセットを、発現カセットに隣接するAAV2逆位末端配列(ITR)を含むAAVベクタープラスミド主鎖にクローニングした。
1)AAV−CMV−Hopti−Dys3978
2)AAV−hCK−Hopti−Dys3978(配列番号9)
3)AAV−hCK−Hopti−Dys3837(配列番号10)
4)AAV−hCKplus−Hopti−Dys3837(配列番号11)
5)AAV−hCK−Copti−Dys3978(配列番号12)
実施例2
ジストロフィン/ユートロフィン二重ノックアウトマウスにおけるCMV−Hopti−Dys3978
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の患者におけるジストロフィンの喪失は、ひどい骨格筋変性および心筋症をもたらす。ジストロフィンのみを欠失しているMdxマウスは、よりいっそう軽度の表現型を有するが、一方で、ジストロフィンおよびそのホモログユートロフィンの両方を欠失している二重ノックアウト(dKO)マウスは、DMD患者に見られる同様に重度のジストロフィー臨床の症候を示す。AAV1−CMV−Δ3990(非コドン最適化)の3×1011vg/マウスによる、新生児ホモ接合型dKOマウスにおける腹腔内注入が、生育、機能を部分的に復元させて寿命を数ヶ月延長する(22週において50%生存率)ことが可能であることが以前に示された(Wang et al.,J.Orthop.Res,27:421(2009)による図6Bを参照)。ここで、ヒトコドン最適化Hopti−Dys3978遺伝子の全身性送達の治療的効果は、AAV9をキャプシドとして用いて評価された。結果は、1週齢新生児dKOマウスに対する約2×1013vg/kgでのAAV9−CMV−Hopti−Dys3978の単一の全身投与(IP)が、骨格筋において、および心筋全体において、ミニ−ジストロフィン遺伝子の広範な発現をもたらしたことを示す(図3)。AAV9によって処置されたdKOマウスは、ほぼ正常な生育曲線および体重(図4)を示し、把持力およびトレッドミル走試験によって評価される筋肉機能を有意に改善させた(図5)。処置されたdKOマウスは、ジストロフィー病理の寛解(図6A〜6B)および健康全般の大きな改善も示した。非コドン最適化Δ3990を発現しているAAV1ベクターによって処置されたdKOマウスと比較すると、Hopti−Dys3978遺伝子によって処置されたdKOマウスは、よりいっそう長い寿命を示した(50%生存率:22週、対、80週を超える)(図7)。予期せずに、雄および雌のdKOマウスの生殖能力は両方とも復元されて(表1)、全般的な機能改善と、おそらく平滑筋機能の改善も同様に示唆した。
未処置dKOマウスは、完全に生殖能力が無い。しかしながら、生殖能力は、処置されたdKO(T−dKO)マウスの雄および雌の両方において、AAV−CMV−Hopti−Dys3978によって復元された。
上述の結果は、コドン最適化Hopti−Dys3978遺伝子の全身性送達が、非コドン最適化Δ3990遺伝子よりも有効であったことを示す。
重要なことに、心機能の大きな改善も観察された。心臓における治療的効果は、Millar圧容積システムを用いて血行力学分析によって4月齢において評価された。未処置dKOマウスは、かろうじて4ヶ月にわたって生き延びた。非常に小さな体のサイズ、後弯症および重度の筋肉および心機能不全のせいで、dKOマウスは具合が悪化して血行力学分析の手順に耐えられなかった。したがって、AAV9によって処置されたdKOマウスを、無傷のユートロフィン遺伝子(このモデルにおいてジストロフィンの欠失を補うことが知られている)に起因してよりいっそう軽度の表現型を有する未処置の同年齢のmdxマウスと比較した。心エコー検査による測定は、C57/B10野生型マウスと比較した場合にベースライン条件下でmdxマウスが明らかな心臓の欠陥を有さないことを示したが、それらは、ベースラインにおいて、血行力学によって測定されるように明らかな欠陥を示した(図8、塗りつぶされていないバー)。本明細書における結果は、AAV9によって処置されたdKOマウスが、収縮終期圧、拡張終期容積、等容性収縮の最大速度(dp/dtmax)および等容性弛緩の最大速度(dp/dtmin)を含んで、mdxマウスのものに対して同様のベースラインの心臓の血行力学を示したことを示す。しかしながら、ドブタミンによる曝露後、処置されたdKOマウスは、収縮終期圧、拡張終期容積、等容性収縮の最大速度(dp/dtmaxおよびdp/dtmin)を含んで、mdxマウスのものに対して同様のベースラインの心臓の血行力学を示し、一方で、AAV9によって処置されたdKOマウスは、試験された全てのパラメーターにおいてmdxマウスよりも有意に良好に発揮した(図8、塗りつぶされたバー)。さらに、mdxマウスの50%よりも多くが、30分ドブタミン曝露ウインドウ内で死亡して、我々の以前の報告と一致した(Wu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105:14814(2008))。顕著な対照では、AAV9によって処置されたdKOマウスにおけるミニ−ジストロフィン導入遺伝子の心臓発現に起因して、ドブタミンによって誘導される心不全が大いに防止された。AAV9によって処置されたdKOマウスの90%よりも多くが、30分ウインドウ内でドブタミンストレス試験を生き延びた。最後に、心電図(ECG)に示される、一般にみられるPR間隔の不足も改善された(図9A〜9B)。PR間隔は、P波の発生からQRS群の始まりまでの時間である。合わせると、これらの結果は、重度のDMDマウスモデルにおける心筋症のためのAAV9−CMV−Hopti−Dys3978遺伝子治療の有効性を示す。
実施例3
mdxマウスにおけるhCK−Hopti−Dys3978
複合型の合成の筋肉特異的プロモーターhCKがDys3978遺伝子発現を効果的に駆動することが可能であったかどうか調べるために、強力な非特異的CMVプロモーターによって駆動される同一の構築物と比較した。それぞれのベクターの尾静脈注入後のmdxマウスにおけるミニ−ジストロフィン発現の免疫蛍光染色は、2つのプロモーター、すなわち、hCKおよびCMVが、筋肉および心臓において同等の発現レベルを送達することを示した(図10)。
実施例4
DMDイヌモデルゴールデンレトリバー筋ジストロフィー(GRMD)犬におけるCMV−Hopti−Dys3978
mdxマウスおよびジストロフィン/ユートロフィン二重KO(dKO)マウスにおける研究に基づいて、同一のベクター、AAV9−CMV−Hopti−Dys3978を、大きな動物DMDモデルであるゴールデンレトリバー筋ジストロフィー(GRMD)犬において試験した。具体的には、ベクターを2.5月齢GRMD犬「Jelly」に投与して、それから、注入後8年よりも長くフォローした。
実験手順:GRMD犬「Jelly」(2.5月齢の雌;6.3kg;血清CK:20262ユニット/L、処置前)に、右後肢を介してAAV9−CMV−Hopti−Dys3978ベクターを1×1013vg/kgの投与量で注入した。全身麻酔下で、ゴム止血帯を近位骨盤先端(鼠径部領域)に配置して、右後肢の筋肉の大部分をカバーした。AAV9ベクターを、注入速度1ml/secでHarvardポンプセットを用いて大伏在静脈を介して注入した。ベクター容量は、20ml/kg体重(130ml合計)であった。止血帯は、注入の開始から10分アカウンティング(accounting)後に取り外された。注入された肢の筋肉は、触診によって判明したように、より硬くなった。後肢に関するMRI画像が、注入の約1時間後に集められて、注入された肢におけるベクター流動性が確認された(図11)。ステロイドのような免疫抑制剤は、8年を超える観察全体を通じていかなる時点においても用いられなかった。筋肉生検手順は、ベクター注入後4年まで、5回の時点で行なわれた。最後の剖検は、8才4ヶ月に行なわれて、そのときに「Jelly」はまだ歩行可能であったが、以前よりもいっそう活動的でなかった。
結果:免疫蛍光(IF)染色は、最後の剖検までに試験された筋肉サンプルの大部分において、長期のミニ−ジストロフィン発現を示した。興味深いことに、注入された肢は、最初(注入後2ヶ月における生検)は、注入されていない肢よりも発現が低く、手順に関連する炎症およびCMVプロモーターの部分的不活性化を示唆した(図12)。それにもかかわらず、ヒトミニ−ジストロフィン発現は、注入された肢における最初の炎症にもかかわらず、「Jelly」において8年持続した。その後の時点(ベクター注入後7ヶ月、1年、2年、および4年)における筋肉生検およびヒトミニ−ジストロフィンの免疫蛍光染色およびウエスタンブロットは、持続的な遺伝子発現を示した(図13〜17)。ミニ−ジストロフィン陽性筋線維のパーセンテージは異なる筋肉の間で異なったが、特定の筋肉が、剖検の際に陽性である筋線維を90%よりも多く有した(図18)。ミニ−ジストロフィンおよび復帰突然変異体筋線維の共染色(抗−C末端抗体)は、両方の共存を示した(図19)。また、ミニ−ジストロフィンは、心筋細胞のおよそ20%においても観察された(図18)。全体的な遺伝子発現は、大部分が安定であった。例えば、頭蓋縫工筋内の陽性筋線維は、2および7ヶ月から1、4および8年までの6回の時点の全体を通じて同程度に残った(図12、13、14、17および18を比較)。ウエスタンブロットは、IF染色結果を確証した(図20)。
収縮力測定は、未処置のイヌと比較した場合に部分的改善を示した(図21)。「Jelly」は、観察の処置期間後8年よりも長く、全体を通じて歩行可能のままであり、最後の年に心筋症に起因して安楽死させた。病理学者による試験および剖検の際、いかなる組織においても腫瘍は見られなかった。DNAシーケンシングは、「Jelly」が、最近報告された2匹の表現型的に軽度のGRMD犬(Vieira et al.,Cell1 63:1204(2015))に見られる疾患改変のJagged 1突然変異を保有していないことを示した。
実施例5
GRMD犬におけるhCK−Copti−Dys3978
この試験では、AAV9−hCK−Copti−Dys3978ベクター(イヌコドン最適化ヒトミニ−ジストロフィン3978を駆動する改変されたクレアチンキナーゼプロモーター)を、「Dunkin」と名付けられたGRMD犬において用いた。遺伝子は、他の試験で用いられた同一のヒトミニ−ジストロフィンDys3978タンパク質をコードするが、イヌコドン最適化された。DNA配列は、ヒトコドン最適化遺伝子と94%同一である。CK−Copti−Dys3978(イヌコドン最適化)およびCK−Hopti−Dys3978(ヒトコドン最適化)を比較するヒトHEK293細胞におけるトランスフェクション実験は、本質的に同一レベルの発現を明らかにした。mdxマウスにおいて両方の構築物を比較する多数の実験もまた、本質的に同一の発現レベルを示した。
実験手順:GRMD犬「Dunkin」(雌、2.5m齢、6.5kg)に、大伏在静脈を介して4×1013vg/kgの投与量でAAV9−hCK−Copti−Dys3978ベクターを静脈内注入した。イヌは、注入中に鎮静されなかった。著しい有害反応または行動変容はなかった。筋肉生検は、ベクター注入後4ヶ月に行なわれて、剖検は、注入後14ヶ月に行なわれた。
結果:非常に高いレベルでほぼ均一なミニ−ジストロフィン発現が、注入後4ヶ月の生検(図22)から注入後14ヶ月の剖検まで、骨格筋サンプルに対するミニ−ジストロフィン3978の免疫蛍光染色によって観察された(剖検について図23〜26)。
有意に高いレベルの心筋におけるミニ−ジストロフィンもIF染色によって観察された(図27)。CKプロモーターからの発現は、CMVプロモーターからのものよりも強力で均一であるようだった。
ウエスタンブロット分析は、IF染色の結果を確証した。骨格筋では、ミニ−ジストロフィンレベルは、正常な犬コントロールからの野生型ジストロフィンの正常なレベルよりも、ほとんどが高かった(図28)。心臓におけるDys3978のレベルは、野生型ジストロフィンのレベルのだいたい半分だった(図29)。
イヌコドン最適化遺伝子Copti−Dys3978からのDys3978の発現は、γ−サルコグリカンを含む、ジストロフィンと関係があるタンパク質複合体を効果的に復元した(図30)。
ベクターDNAコピー数の定量PCRは、ミニ−ジストロフィンタンパク質発現レベルに対する一貫した傾向を示した(図31)。
試験された全てのサンプルにおいて、先天性または細胞性免疫応答は見られなかった。このことは、AAV9−CMV−opH−dys3978の結果とは非常に異なり、筋肉特異的hCKプロモーターが強力なだけでなくCMVプロモーターよりも安全であることを示唆した。
ジストロフィー病理学は、心筋(図32)、横隔膜筋(図33)および肢筋(図34)の組織学に関して、H&E染色によって示されるように大いに改善された。トリクロームマッソンブルー染色もまた、肢筋および横隔膜における線維症の有意な減少を示した(図35)。
実施例6
インビボ実験のためのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターの調製
実施例7、8および9にさらに記載されるDmdmdxラット試験において用いられるAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターは、全長ヒトDp427mジストロフィンタンパク質(配列番号25)由来の、N末端領域、ヒンジ1(H1)、ロッド1(R1)、ロッド2(R2)、ヒンジ3(H3)、ロッド22(R22)、ロッド23(R23)、ロッド24(R24)、ヒンジ4(H4)、システインリッチ(CR)ドメイン、および、カルボキシ末端(CT)ドメインの部分(それらは、機能のために最小限必要とされるドメインである)を含むヒトジストロフィンタンパク質のミニチュア版を発現するように設計された発現カセットおよびAAV9キャプシドを含む。ミニ−ジストロフィンタンパク質のタンパク質配列は、配列番号7のアミノ酸配列として提供されて、配列番号1の核酸配列として提供されるヒトコドン最適化DNA配列によってコードされる。AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターのベクターゲノムは、配列番号18の核酸配列として、または、一本鎖ゲノムがそのマイナス極性においてパッケージされる場合はその逆相補が提供される。
ベクターゲノムは、5’および3’隣接AAV2逆位末端配列(ITR)(それぞれ、配列番号14または配列番号15のDNA配列を有する)、筋肉特異的な転写調節エレメントとして作用するクレアチンキナーゼ(CK)遺伝子に由来する合成の複合型エンハンサーおよびプロモーター(hCK;配列番号16のDNA配列を有する)、上述のヒトミニ−ジストロフィンタンパク質をコードする3978塩基対の長さのヒトコドン最適化遺伝子(すなわち、Hopti−Dys3978遺伝子)、および、ポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む小さな合成の転写終結配列(spA;配列番号17のDNA配列を有する)を含む。
ベクターは、三重トランスフェクション技術およびHEK293細胞に由来する血清フリーの非接着細胞株を用いて製造された。用いられたプラスミドは、ベクターの効率的な複製およびパッケージングに必要なアデノウイルスヘルパータンパク質を発現するためのヘルパープラスミド、AAV2 rep遺伝子およびAAV9キャプシドタンパク質を発現しているパッケージングプラスミド、および、上述の発現カセットの配列を含む第三のプラスミドを含んだ。
細胞を、実際の細胞バンクサンプルから増殖させて拡大して、十分な容量および細胞密度が到達された時点で、細胞は、トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクトされた。トランスフェクトされた細胞からのベクター生産を可能にするためのインキュベーション後、ベクターを放出させるために細胞を溶解して、溶解物を浄化して、汚染している核酸を除去するためにヌクレアーゼ処理ステップを用いてベクターを精製して、その後に、イオジキサノールステップグラジエント遠心分離、アニオン交換クロマトグラフィー、製剤バッファーに対する透析、滅菌濾過を続けて、それから、2〜8℃で保管した。
実施例7
DMDのラットモデルにおけるAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの単回投与の効果
この実施例は、古典的なmdxマウスおよびGRMD犬モデルと比較して特定の利点を有する、最近開発されたDmdmdxラットモデルにおけるAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの試験を記載する。Larcher,T.,et al.,Characterization of dystrophin deficient rats:a new model for Duchenne muscular dystrophy.PLoS One.2014;9(10):e110371。具体的には、Dmdmdxラットモデルでは、骨格および心臓疾患の両方とも早期段階に存在して、ヒトで見られる疾患進行と似た様式で順々に進行する。
これらの試験では、雄Dmdmdxラット5〜6週齢は、PBS中に懸濁されたDys3978ベクターの単回投与(1×1014ベクターゲノム/キログラム体重、またはvg/kg)を尾静脈へIV注入によって全身性に投与された。コントロールとして、同一の遺伝的背景(Sprague Dawley)由来の野生型(「WT」)ラットも、この方法で処置した。全ての手順は、先入観を避けるために、ラット遺伝子型または処置コホートを隠して行なわれた。3匹のDmdmdxラットおよび4匹のWTラットは、ベクターによって処置されて、一方で、3匹のDmdmdxラットおよび2匹のWTラットは、ネガティブコントロールとしてPBSのみ投与された(モック処置)。注入後3ヶ月に、動物は安楽死されて、組織学による組織分析に関して剖検が行なわれて、ジストロフィンタンパク質発現に関して免疫細胞化学が行なわれた。
病理組織学的評価のために、組織サンプルを、10%中性緩衝化ホルマリン中で固定して、パラフィンワックス中に包埋して、ヘマトキシリンエオシンサフラン(HES)による染色の前に5μmの厚さに切片化した。ジストロフィン免疫標識のために、さらなるサンプル(肝臓、心臓、大腿二頭筋、胸筋および横隔膜筋)を凍らせて、8μmの厚さに切片化した。ジストロフィンに関するマウスモノクローナル抗体NCL−DYSB(Novocastra Laboratories,Newcastle on Tyne,UK)を、この抗体は、全長野生型ジストロフィンおよび改変されたミニ−ジストロフィンの間を区別しないので、ジストロフィンおよびミニ−ジストロフィンタンパク質検出の両方に用いた(1:50)。全ての剖検および組織学的観察は、盲検様式で行なわれた。
組織学的試験によって、PBSおよびベクターによって処置されたWTラットの骨格筋または心筋における病変は観察されなかった。全てのDmdmdxラットにおいて、個々の壊死を示す骨格筋線維病変、再生小線維のクラスター、散在する巨大ヒアリン線維、赤血球大小不同、中心核形成(centronucleation)、筋内膜線維症および孤発性脂肪症が存在して、DMD骨格筋の特徴であった。これらの病変の発生率および強度は、PBSのみで処置されたものと比較して、ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおいて、全体的に低減された。心臓においては、多巣性壊死、単核細胞の病巣浸潤および軽度の病巣の広範囲な線維症の病変は、PBSによって処置されたDmdmdxラットの1匹(ラット49)に存在した(DMD心筋の特徴である)。ベクターによって処置された全てのDmdmdxラットにおいて、心筋の表現は同様であり、PBSを受け取っているDmdmdxラットに見られるように軽度の単核細胞の病巣浸潤を示したが、対照的に、線維化病巣は、ベクター処置されたDmdmdxラットの心臓において観察されなかった。
免疫細胞化学を用いて、WTラットは、骨格筋、横隔膜筋および心筋線維において検出された筋細胞膜下のジストロフィンを示し、検出されたジストロフィンの局在は、PBSのみと比較してベクターによって処置されたラット間で異ならなかった。しかしながら、用いられた抗−ジストロフィン抗体は、野生型ジストロフィンおよびミニ−ジストロフィンタンパク質の間を区別することができないので、ベクター処置されたWTラットにおけるミニ−ジストロフィン検出は、このアッセイを用いて確証することができなかった。対照的に、Dmdmdxラットの1匹(ラット49)は、稀な骨格筋線維(約5%〜10%)を示し、筋細胞膜下のジストロフィンが検出可能であり、それは、約5%の頻度での、このモデルにおける散在した復帰突然変異体線維の存在の以前の説明(Larcher et al.,PlosOne,2014)と一致している。しかしながら、ジストロフィンは、このラット由来の横隔膜または心筋線維において検出されなかった。Dys3978ベクター処置されたDmdmdxラットの全てにおいて、筋細胞膜下のジストロフィンは、骨格筋線維の約80%〜95%、横隔膜筋線維の約30%〜50%、および、心筋線維の約70%〜80%においても観察されたが、体系的な集計は行なわれなかった。これらのラットでは、非常に稀な骨格筋線維(筋肉断面あたり1または2)が、少しの細胞質原線維間ジストロフィンを示した。ベクター処置されたWTおよびDmdmdxラットの両方において、ミニ−ジストロフィンの生産、または、ベクター形質導入によって細胞性免疫応答が刺激されたことを示し得る増大したネクローシスまたは炎症性細胞浸潤物の証拠は無かった。
要するに、1×1014vg/kgのAAV9.hCK.opti−Dys3978.spAベクターの全身投与の3ヶ月後に、筋組織の組織学的変更は、PBSと比較して、ベクターによって処置されたWTラットにおいて観察されず、ミニ−ジストロフィンタンパク質の発現が、健康な動物において十分の許容されることを示した。さらに、Dmdmdxラットのベクター処置は、WTラットの筋肉におけるものと同様の筋細胞膜下の局在のパターンでの、試験された全ての筋肉(大腿二頭筋、胸筋、横隔膜筋および心筋)の線維におけるミニ−ジストロフィンの有意かつ一般化された検出をもたらした。ベクターからのミニ−ジストロフィンDys3978の発現は、線維症および壊死の減少と関連した(図36A〜36D)。
実施例8
注入後3ヶ月および6ヶ月に判定された、Dmd mdx ラットにおける増加する量のAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAの効果
この実施例は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関する動物モデルであるDmdmdxラットの、増加する量のAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAによる処置、および、投与後3ヶ月および6ヶ月での効果の測定の結果を記載する。
ラットは、7〜8週齢に、背側陰茎静脈へIV注入によって投与されて、それは、試験品目の全身投与をもたらした。4つの異なるベクター投与量が、10〜12匹のDmdmdxラットにおいて試験された:1×1013vg/kg(3ヶ月の時点で5匹のラット、および、6ヶ月の時点で6匹のラット)、3×1013vg/kg(3ヶ月の時点で6匹のラット、および、6ヶ月の時点で5匹のラット)、1×1014vg/kg(3ヶ月の時点で7匹のラット、および、6ヶ月の時点で6匹のラット)、および、3×1014vg/kg(3ヶ月の時点で5匹のラット、および、6ヶ月の時点で5匹のラット)。加えて、DmdmdxラットおよびWTラットは、それぞれ、ビヒクルのみ(1×PBS、215mM NaCl、1.25%ヒト血清アルブミン、5%(w/v)ソルビトール)を、ネガティブコントロールとして受け取った(3ヶ月の時点で6匹のDmdmdxラット、6ヶ月の時点で4匹のDmdmdxラット、3ヶ月の時点で5匹のWTラット、および、6ヶ月の時点で7匹のWTラット)。5匹の未処置(すなわち、ベクターなし、および、ビヒクルなしの、いずれか)Dmdmdxラットもまた、さらなるネガティブコントロールとして含められた。注入後3ヶ月および6ヶ月に、それぞれの試験アーム由来のラットを安楽死させて、さらなる分析のための組織サンプルを取るために剖検した。屠殺の前に、試験動物において心機能および握力試験を行なって、DMD疾患進行に対するベクター処置の効果を評価した。
ベクター投与量は、文字と図面において、2つの異なる、数値的には同等の方法で表され得ることに注意する。したがって、「1×1013」は「1E13」と同等であり、「3×1013」は「3E13」と同等であり、「1×1014」は「1E14」と同等であり、「3×1014」は「3E14」と同等である。
体重
処置後および屠殺前に、それぞれの処置アーム内のラットは、最初の週の間は毎日計量されて、その後は屠殺するまで毎週計量された。それぞれの処置アーム内の全てのラットの平均重量を表2(注入前から注入後9週まで)および表3(注入後10〜25週)に挙げて、図37において時間に対してグラフ化する。グラフでは、エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表わし、表においても報告される。全ての時点で、WTラットの平均重量は、ベクターによって処置されたものを含んでDmdmdxラットのものを超えた。Dmdmdxラット間の年齢の違いおよび体質量(body mass)の自然な可変性に起因して、注入後4週まで投与量と体重との間に一貫した相関は無かった(そのとき、最も高い投与量アームを除き、ベクターによって処置されたDmdmdxラット全ての重量は、未処置Dmdmdxラットよりも多いがWTラットよりも少なかった)。注入後12週までに、全ての処置アームにおける投与量効果が明らかであり、体重は、試験の終わりまで通して、試験された全ての投与量において、ベクター投与量に比例した。
AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターによって処置されたDmd mdx ラットにおける、ベクター形質導入およびRNAおよびタンパク質発現の定量化
材料および方法
標準的な分子生物学技術を用いて、導入遺伝子コピー数を定量PCR(qPCR)によって定量化して、ミニ−ジストロフィンmRNA転写の相対的発現レベルを逆転写酵素qPCR(RT−qPCR)によって定量化して、ミニ−ジストロフィンタンパク質発現の量をウエスタンブロット分析によって定性的に定量化した。
qPCRのために、ゲノムDNA(gDNA)を、Qiagen由来のGentra Puregeneキットを用いて組織から精製した。それから、50ngのgDNAを用いてデュプリケートで、StepOne Plus(商標)Real Time PCR System(Applied Biosystems(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)を用いてサンプルを分析した。全ての反応は、テンプレートDNA、Premix Ex taq(Ozyme)、0.3μLのROX参照色素(Ozyme)、0.2μmol/Lの各プライマーおよび0.1μmol/LのTaqman(登録商標)プローブを含む20μLの最終容量で、二重で行なわれた。
ベクターコピー数を、ミニ−ジストロフィン導入遺伝子の領域を増幅するように設計されたプライマーおよびプローブを用いて決定した:
フォワード:5’−CCAACAAAGTGCCCTACTACATC−3’ 配列番号19
リバース:5’−GGTTGTGCTGGTCCAGGGCGT−3’ 配列番号20
プローブ:5’−FAM−CCGAGCTGTATCAGAGCCTGGCC−TAMRA−3’ 配列番号21
内因性gDNAコピー数を、ラットHPRT1遺伝子を増幅するように設計されたプライマーおよびプローブを用いて決定した:
フォワード:5’−GCGAAAGTGGAAAAGCCAAGT−3’ 配列番号22
リバース:5’−GCCACATCAACAGGACTCTTGTAG−3’ 配列番号23
プローブ:5’−JOE−CAAAGCCTAAAAGACAGCGGCAAGTTGAAT−TAMRA−3’ 配列番号24
それぞれのサンプルについて、閾値サイクル(Ct)値を、異なる希釈の直線化された標準プラスミド(ミニ−ジストロフィン発現カセットまたはラットHPRT1遺伝子のいずれかを含む)によって得られたものと比較した。gDNA存在下でのqPCR阻害の不存在は、異なる希釈の標準プラスミドによってスパイクされた(spiked with)、コントロール動物由来の組織サンプルから抽出された50ngのgDNAを分析することによって確認された。二重のqPCR(同一の反応における2列の増幅)を用いて、結果を二倍体ゲノムあたりのベクターゲノムで表わした(vg/dg)。試験の感度は0.003vg/dgであった。
RT−qPCRのために、TRIzol(登録商標)試薬(Thermo Fisher Scientific)によって組織サンプルから全RNAを抽出して、それから、TURBO DNAフリーキット(Thermo Fischer Scientific)由来のRNAseフリーDNAseIを用いて処理した。全RNA(500ng)を、25μLの最終容量でランダムプライマー(Thermo Fisher Scientific)およびM−MLV逆転写酵素(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写した。それから、二重qPCR分析は、1/15希釈されたcDNAを、qPCRによって、導入遺伝子コピー数の定量化に関して、ラットHPRT1特異的なプライマーおよびプローブおよび同一のミニ−ジストロフィンを用いて行なった。cDNA存在下でのqPCR阻害の不存在は、異なる希釈の標準プラスミドによってスパイクされた、コントロール動物由来の組織サンプルから得られたcDNAを分析することによって確認された。各RNAサンプルについて、Ct値を、異なる希釈の標準プラスミド(ミニ−ジストロフィン発現カセットまたはラットHPRT1遺伝子のいずれかを含む)によって得られたものと比較した。結果を相対量(RQ)で表した:
RQ=2−ΔCt=2−(Ct標的−Ct内因性コントロール)
各RNAサンプルについて、DNA汚染の不存在もまた、反応ミックス中に逆転写酵素を追加せずに得られた「cDNA様サンプル」の分析によって確認された。
発現されたタンパク質レベルのウエスタンブロット分析のために、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich)を含むRIPAバッファーを用いて、全タンパク質が組織サンプルから抽出された。タンパク質抽出物(大腿二頭筋、心臓および横隔膜に関して50μg、または肝臓に関して100μg)を、NuPAGE(登録商標)Novex3〜8%トリス酢酸ゲル上にローディングして、NuPAGE(登録商標)巨大タンパク質ブロッティングキット(Thermo Fisher Scientific)を用いて分析した。200mM DTTの最終濃度を用いて、ローディング前にタンパク質を減少させた。膜をそれから、TBST(トリス緩衝化生理食塩水、0.1% Tween20)中の、5%スキムミルク、1% NP40(Sigma−Aldrich)においてブロッキングして、ジストロフィンタンパク質のエクソン10および11に特異的な抗−ジストロフィン抗体(1:100、MANEX 1011Cモノクローナル抗体)および二次抗−マウスIgG HRP−コンジュゲート抗体(1:2000、Dako)によってハイブリダイズさせた。タンパク質ローディングコントロールのために、同一の膜を、抗−ラットα−チューブリン抗体(1:10000、Sigma)および二次抗−マウスIgG HRP−コンジュゲート抗体(1:2000、Dako)によってもハイブリダイズさせた。免疫ブロットを、ECL化学発光分析システム(Thermo Fisher Scientific)によって可視化した。
注入後3ヶ月および6ヶ月における、ヒトミニ−ジストロフィン導入遺伝子コピー数
ベクターおよびビヒクルによって処置されたDmdmdxラット、および、ビヒクルのみを投与されたWTラットにおける、全血、脾臓、心臓、大腿二頭筋、胸筋、横隔膜、および肝臓内の導入遺伝子コピー数(ベクターゲノム/二倍体ゲノム(vg/dg)として)に関する試験の結果を、以下の表に記載する。注入後3ヶ月におけるデータを表4に提供し、注入後6ヶ月におけるデータを表5に提供する。データは、個々の試験動物からの結果の平均である。
ビヒクルのみを注入されたDmdmdxまたはWTラットにおいてqPCRシグナルは検出されず、これらの動物がいかなるベクターも受け取っていないことを確証して、qPCRシグナルは、注入後3ヶ月および6ヶ月において全血中に検出されなかった。
ミニ−ジストロフィンDNAは、注入後3ヶ月および6ヶ月の両方において、ベクターを注入されたDmdmdxラットにおいて検出された。試験された組織における導入遺伝子コピー数は、肝臓>心臓>大腿二頭筋≒横隔膜≒胸筋>脾臓の分布率パターンに従った。分析された組織のうち、肝臓は、群を抜いて最も効率的に形質導入して、ベクターコピー数は、3×1014vg/kgベクターを投与されたラットにおいて平均80〜110vg/dgまで到達した。肝臓におけるベクターコピー数は、心臓よりも7〜45倍高く、大腿二頭筋、横隔膜、または胸筋よりも40〜300倍高かった。心臓では、ベクターコピー数は、1×1014vg/kgベクターを投与されたラットにおいて約1.0vg/dg、および、3×1014vg/kgベクターを投与されたラットにおいて約5.0vg/dgの平均であった。1×1014vg/kgの投与量では、大腿二頭筋および胸筋における導入遺伝子コピー数は同様であり、約0.5vg/dgを決して越えなかった。ベクター投与量が3×1014vg/kgまで増加すると、平均導入遺伝子コピー数は、約1.2vg/dgまで増加した。データは、2つの最も高い投与量レベルのベクターを受け取った4動物の間で、特定の異常に高い結果に起因して、横隔膜に関して特に可変であり、そこでは、導入遺伝子コピー数は約9〜15vg/dgの範囲であった。これらの離れたデータポイントが除外される場合は、その結果、横隔膜の形質導入効率は3ヶ月および6ヶ月の両方の時点において相対的に低く、導入遺伝子コピー数は、1×1014vg/kgの投与量で約0.2〜0.4vg/dg、および、3×1014vg/kgの投与量で約1.05〜1.3vg/dgの平均である。
注入後3ヶ月および6ヶ月における、ヒトミニ−ジストロフィンmRNA発現
処置アームあたり2〜4匹の動物を、RT−qPCRによる分析のために無作為に選択して、屠殺の際に得られた大腿二頭筋、横隔膜、心臓、脾臓、および肝臓のサンプルにおけるヒトミニ−ジストロフィンmRNA転写のレベルを定量化した。注入後3ヶ月および6ヶ月において屠殺された試験動物から得られた結果をそれぞれ表6および表7に提供する。データは、ラットHPRT1遺伝子由来のmRNAと比較したミニ−ジストロフィンmRNAの相対量(RQ)で表される。
転写は、ネガティブコントロールアーム(ビヒクルによって処置されたWTラットおよびDmdmdxラット)における動物由来の任意の組織において、または、投与量にかかわらずベクターによって処置された動物の脾臓において、検出されなかった。試験された他の組織の全てにおいて、ベクター由来の転写が検出されて、そのレベルは、投与量に応答する様式で増大する傾向であったが、データには少しの変動があった。組織における転写レベルは、大腿二頭筋>心臓≒横隔膜>肝臓のパターンに従った。上述のように、肝臓は、サンプリングされたものの中で最も形質導入された組織であり、ベクターコピー数は、大腿二頭筋よりも約60〜130倍高く変化した。これにもかかわらず、肝臓におけるミニ−ジストロフィンmRNAのレベルは、大腿二頭筋よりも約5〜15倍低く、ベクターにおいて用いられたプロモーターの高い筋肉特異的な活性の証拠であった。
注入後3ヶ月および6ヶ月における、ヒトミニ−ジストロフィンタンパク質発現
ヒトミニ−ジストロフィンmRNAレベルを決定するための分析のために無作為に選択された同一動物も分析して、ウエスタンブロットを用いてミニ−ジストロフィンタンパク質レベルを決定した。ミニ−ジストロフィンタンパク質は、ネガティブコントロールアーム(ビヒクルによって処置されたWTラットおよびDmdmdxラット)における動物由来のいかなる組織においても検出されなかった。3ヶ月および6ヶ月の両方の時点において、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、ベクターを投与されたDmdmdxラットの大腿二頭筋、心臓および横隔膜において検出された。試験された最も少ない投与量では(1×1013vg/kg)、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、より高いレベルでベクターを投与されたラットと比較して、組織サンプルにおいては低頻度で検出された。これらの結果を表8において定性的に要約する。
ウエスタンブロットによって検出されたタンパク質の量および投与量、ならびに、同一組織サンプル中のミニ−ジストロフィンmRNAの量の間には、正の相関があった。およそ1.5のRQのミニ−ジストロフィンmRNAが、タンパク質の検出を可能にするのに必要であった。肝臓において測定されたミニ−ジストロフィン転写の低いレベルと一致して、ミニ−ジストロフィンタンパク質は、用いられた最も高いベクター投与量であっても、この組織において検出されなかった。
病理組織学的評価
WTおよびDmdmdxラットの屠殺の直後に、病理組織学的および免疫細胞化学的な分析のために組織サンプルを得た。
材料および方法
組織サンプル ビヒクルによって処置されたWTラット、ビヒクルおよびベクターによって処置されたDmdmdxラットは、注入後3ヶ月および6ヶ月において、全体的な剖検評価中に得られた。ベースライン比較としての役割を果たすために、サンプルは、7〜9週齢において屠殺された未処置Dmdmdxラットからも得られた。組織は、組織病理学のために直ちにホルマリン固定されて、または、免疫組織化学(免疫標識)のためにスナップ凍結(snap frozen)されて、処理まで保管された。組織病理学のために、組織サンプルを10%中性緩衝化ホルマリン中に固定して、パラフィンワックス内に包埋して、ヘマトキシリンエオシンサフラン(HES)染色による染色前に切片化した(5μm)。パラフィン包埋された心臓組織のさらなる断面を染色して、ピクロシリウスレッドF3B(Sigma−Aldrich Chimie SARL,Lyon,FR)を用いてコラーゲンを可視化した。免疫標識によってジストロフィンおよび結合組織を同定するために、サンプルを凍結させて、切片化した(8μm)。ラットジストロフィンならびにヒトミニ−ジストロフィンopti−Dys3978に特異的に結合する、マウスモノクローナル抗体、NCL−DYSB(1:50、Novocastra Laboratories,Newcastle on Tyne,UK)を免疫標識試験において用いて、ジストロフィンタンパク質を可視化した。Alexa Fluor 555小麦胚芽アグルチニン(WGA)コンジュゲート(1:500、Molecular Probes,Eugene,OR)を用いて結合組織を可視化した。DRAQ5(1:1000、BioStatus Ltd,Shepshed,UK)を用いて核を染色した。剖検および組織学的試験は、盲検で行なわれた。
心臓断面におけるピクロシリウス陽性領域の定量化を、Nikon Imaging Software(Nikon,Champigny sur Marne,France)を用いて行なった。DYSB陽性線維およびWGA陽性領域の定量化を、ImageJオープンソース画像処理ソフトウェア(v 2.0.0−rc−49/1.51a)を用いて行なった。
結果
注入後3ヶ月および6ヶ月における、筋肉におけるDMD病変の病理組織学的分析
組織学のために染色された組織サンプルを顕微鏡で試験して、DMD表現型と関連する病変を体系的に記録した。骨格筋および心筋における病変は、図38Aに示されるように半定量的にスコアされた。骨格筋(大腿二頭筋、胸筋および横隔膜)では、スコア0は、有意な病変の不存在に相当して;スコア1は、中心有核(centro−nucleated)線維および再生病巣によって証明される何らかの再生活性の存在に相当し;スコア2は、単離された、または小さなクラスターにおける、退行性線維に相当し;スコア3は、線維化または脂肪組織による線維置換および組織再構築に相当した。心臓では、スコアは線維症の強度(スコア1がより低く、スコア2がより高い)、および、退行性線維の存在(スコア3)に基づいた。それぞれのラットに関する合計の病変スコアは、大腿二頭筋、胸筋、横隔膜筋および心筋に関する動物のスコアの平均として計算された。それぞれの処置アーム内の個々のラットに関する病変スコアも平均された。
注入後3ヶ月における処置アームによってグループ化された平均および個々のラットの合計の病変スコアを図38Bに示し、ここで、WTモックは、ビヒクルによって処置されたWTラットを指し、それに関して、病変スコアは0であった。KOモックは、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットを指し、一方で、KO 1E13、3E13、および1E14は、指示された投与量(すなわち、それぞれ、1×1013、3×1013、および1×1014)のベクター(vg/kg)によって処置されたDmdmdxラットを指す。見られ得るように、Dmdmdxラットにおいて、ジストロフィー表現型と関連する筋肉病変の分布率は、投与量に応答する様式で、ベクター処置によって減少した。
病変スコアの統計分析(Dunnの検定を用いた多重対比較による)は、処置アーム間の以下の違いを明らかにした。注入後3ヶ月における大腿二頭筋のサンプルでは、ビヒクルによって処置されたWTラットおよび2つの最も高い投与量(1×1014および3×1014vg/kg)でベクターによって処置されたDmdmdxラットの間で病変スコアに有意差はなく、注入後6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたWTおよび試験された任意の4つの投与量でベクターによって処置されたDmdmdxラットの間に有意差はなかった。注入後3ヶ月における胸筋および横隔膜のサンプルでは、ビヒクルによって処置されたWTラットおよび試験された3つの最も高いベクター投与量(3×1013、1×1014および3×1014vg/kg)によって処置されたDmdmdxラットの間の病変スコアに有意差はなく、注入後6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたWTラットおよび全ての4つのベクター投与量によって処置されたDmdmdxラットの間のスコアに有意差はなかった。最後に、心筋では、両方の時点で、ビヒクルによって処置されたWTラットおよびベクターの4つ全ての投与量によって処置されたDmdmdxラットの間の病変スコアに有意差はなかった。
注入後3ヶ月および6ヶ月における、組織形態計測
ベクターから発現されるヒトミニ−ジストロフィンおよびラットジストロフィンの両方に特異的に結合するDYSB抗体で組織サンプルを標識した後に、それぞれのラット由来の3つの無作為に選択された顕微鏡的フィールドにおける陽性に染色された筋線維のパーセンテージを、大腿二頭筋、横隔膜、および心筋に関して計算した。加えて、WGAコンジュゲートによって陽性に染色した3つの無作為に選択された顕微鏡的フィールドにおける領域を計算して、大腿二頭筋および横隔膜由来の凍結組織サンプルにおける結合組織線維症の程度を決定した。関連した分析において、心臓の横断面における結合組織(コラーゲン)の量を、組織学的製剤内のピクロシリウスレッドによって陽性に染色する領域を定量化することによって決定した。これらの試験からの結果を、図39A〜39C、図40A〜40C、および図41A〜41Cに提供する。
図39Aは、ビヒクルによって処置されたWTラット(WT+バッファー)、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラット(DMD+バッファー)、および、増加する量の1×1013、3×1013、1×1014および3×1014vg/kgでベクターによって処置されたDmdmdxラット(それぞれ、DMD+1E13、3E13、1E14、および3E14)からの大腿二頭筋サンプル由来の染色された組織切片の代表的な顕微鏡写真を示す。写真の上パネルは、注入後3ヶ月に取られたサンプル由来であり、下パネルは、注入後6ヶ月において得られたサンプル由来である。図39Bは、3ヶ月および6ヶ月の時点における、ビヒクルによってそれぞれ処置されたWTラットおよびDmdmdxラット、および、増加する量のベクターによって処置されたDmdmdxラット由来の、大腿二頭筋サンプルにおけるジストロフィン陽性線維のパーセンテージを示すグラフである。未処置Dmdmdxラット7〜9週齢(「DMD病理学状態」)からの結果も含まれる。図39Cは、3ヶ月および6ヶ月の時点における同様に処置されたWTおよびDmdmdxラット、および、未処置Dmdmdxラット7〜9週齢由来の、大腿二頭筋サンプルにおける結合組織によって占められる領域パーセンテージ(線維症の尺度として)を示すグラフである。グラフにおいて、エラーバーの上の同一文字は、データの間に統計的に有意な違いがないことを示し、一方で、共通する文字がないことは、有意差があることを示す(例えば、2つのバーが両方ともそれらの上に「a」を有することは、互いに有意差がない)。
図40Aは、ビヒクルによって処置されたWTラット(WT+バッファー)、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラット(DMD+バッファー)、および、増加する量の1×1013、3×1013、1×1014および3×1014vg/kgでベクターによって処置されたDmdmdxラット(それぞれ、DMD+1E13、3E13、1E14、および3E14)からの横隔膜サンプル由来の染色された組織切片の代表的な顕微鏡写真を示し、全て注入後3ヶ月に得られた。図40Bは、3ヶ月および6ヶ月の時点における、それぞれビヒクルによって処置されたWTラットおよびDmdmdxラット、および、増加する量のベクターによって処置されたDmdmdxラット由来の、横隔膜サンプルにおけるジストロフィン陽性線維のパーセンテージを示すグラフである。未処置Dmdmdxラット7〜9週齢(「DMD病理学状態」)からの結果も含まれる。図40Cは、3ヶ月および6ヶ月の時点における同様に処置されたWTおよびDmdmdxラット、および、未処置Dmdmdxラット7〜9週齢由来の、横隔膜サンプルにおける結合組織によって占められる領域パーセンテージ(線維症の尺度として)を示すグラフである。グラフにおいて、エラーバーの上の同一文字は、データの間に統計的に有意な違いがないことを示し、一方で、共通する文字がないことは、有意差があることを示す(例えば、2つのバーが両方ともそれらの上に「a」を有することは、互いに有意差がない)。
図41Aは、ビヒクルによって処置されたWTラット(WT+バッファー)、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラット(DMD+バッファー)、および、増加する量の1×1013、3×1013、1×1014および3×1014vg/kgでベクターによって処置されたDmdmdxラット(それぞれ、DMD+1E13、3E13、1E14、および3E14)からの心筋サンプル由来の染色された組織切片の代表的な顕微鏡写真を示す。上および下パネルは、それぞれ、注入後3ヶ月および6ヶ月に屠殺された試験動物から得られた、組織学的に調製されてピクロシリウスレッドによって染色された、頂部の3番目(the third of the apex)由来の心臓の横断面を示す。黒いバーは、2mmの長さを示す。中央パネルは、3ヶ月の時点に得られた心筋サンプルにおける、抗−ジストロフィン抗体およびWGAコンジュゲートによる免疫標識を示す。図41Bは、3ヶ月および6ヶ月の時点における、それぞれビヒクルによって処置されたWTラットおよびDmdmdxラット、および、増加する量のベクターによって処置されたDmdmdxラット由来の、心筋サンプルにおけるジストロフィン陽性線維のパーセンテージを示すグラフである。未処置Dmdmdxラット7〜9週齢(「DMD病理学状態」)からの結果も含まれる。図41Cは、3ヶ月および6ヶ月の時点における同様に処置されたWTおよびDmdmdxラット、および、未処置Dmdmdxラット7〜9週齢由来の、心筋サンプルにおける結合組織によって占められる領域パーセンテージ(線維症の尺度として)を示すグラフである。グラフにおいて、エラーバーの上の同一文字は、データの間に統計的に有意な違いがないことを示し、一方で、共通する文字がないことは、有意差があることを示す(例えば、2つのバーが両方ともそれらの上に「a」を有することは、互いに有意差がない)。
データの統計分析(ANOVA分析およびFisherの事後両側検定)は、注入後3ヶ月および6ヶ月の両方において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットおよび全てのベクター投与量で処置されたDmdmdxラットの間に、大腿二頭筋および心臓におけるジストロフィン標識に有意差があることを示した。横隔膜では、注入後3ヶ月における違いは、試験された2つの最も高い投与量で有意であり、一方で、注入後6ヶ月における違いは、試験された3つの最も高い投与量で有意であった。ビヒクルによって処置されたWTラットおよび3×1014vg/kgによって処置されたDmdmdxラットの間の比較は、注入後3ヶ月における大腿二頭筋または注入後6ヶ月における心筋において、有意差を示さなかった。
ビヒクルによって処置されたWTラット由来の筋肉では、全ての筋線維は、DYSB抗体による強い均質な筋細胞膜下の標識を示した。ビヒクルによって処置されたDmdmdxラット由来の筋肉では、散在した復帰突然変異体線維のわずかなパーセンテージが同様の標識を示した(注入後3ヶ月および6ヶ月において、それぞれ:大腿二頭筋、3.7±2.4%および7.3±2.3%;横隔膜、0.7±1.5%および5.8±1.3%;心筋、0.0±0.0%および0.1±0.1%)。ベクターを投与されたDmdmdxラットでは、ジストロフィンに関して陽性に染色する線維のパーセンテージは、全ての観察された筋肉において増加して、線維は、弱〜強の筋細胞膜下の標識を示した。線維の3分の2の標識は、陽性であると考えられる必要があった。3ヶ月および6ヶ月の時点の両方において、ジストロフィン陽性線維のパーセンテージは、大腿二頭筋および心筋の間で同様であり、横隔膜よりも高かった。ベクターによって処置されたDmdmdxラットでは、結合組織によって占められる領域によって測定される線維化病巣の数およびサイズは骨格筋において減少して、線維症の強度は心筋において低減した。
7〜9週齢で屠殺された未処置Dmdmdxラットでは、大腿二頭筋または心筋において線維症は明らかでなかったが、横隔膜において重大な結合組織の拡大が既に存在した。WTラットと比較して、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、限局性または全身性の骨格筋における筋内膜および筋周囲スペースの肥大を示した(線維症の指標である)。心臓では、これらのラットは、心室および中隔心外膜下領域における散在および広範囲の線維化病巣を示した。重度の症例では、心臓の形状を変える壁内線維症が観察された。ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットと比較して、3×1013vg/kgベクターおよびそれよりも高い投与量によって処置されたDmdmdxラットの大腿二頭筋では注入後3ヶ月において、3×1014vg/kgベクターによって処置されたDmdmdxラットの横隔膜では注入後6ヶ月において、線維化病巣の数およびサイズに有意な減少があった。心臓では、線維症における有意差が、両方の時点において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットおよび全てのベクター投与量で処置されたDmdmdxラットの間に見られた。注入後3ヶ月において、ビヒクルによって処置されたWTラット、および、3×1013vg/kgおよびそれよりも高い投与量でベクターによって処置されたDmdmdxラットの間で、線維症における有意差は観察されなかった。観察された線維症の量およびベクター投与量は、負に相関した(大腿二頭筋に関してp=0.019;横隔膜に関してp=0.004;心筋に関してp=0.003、全て線形回帰による)。
Dmdmdxラットでは、ベクターによる処置は、分析された全ての筋肉(大腿二頭筋、横隔膜、および心筋)においてミニ−ジストロフィン発現を誘導して、ミニ−ジストロフィンを発現している線維のパーセンテージは、ベクター投与量と正に相関した(線形回帰によってp<0.001)。ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおけるミニ−ジストロフィン陽性線維の数は、横隔膜よりも大腿二頭筋および心臓において多く、生体内分布または発現有効性における少しの不均一性を示した。ミニ−ジストロフィン発現は、投与量にかかわらず、その筋細胞膜下の局在の観点から類似していて、異常な局在は、分析された最も高い投与量である3×1014vg/kgでさえも検出されなかった。一部の線維では、非連続的なジストロフィン染色が筋線維鞘に沿って検出されたが、この観察の頻度は、ベクター投与量の増加に伴って低減した。
注入後3ヶ月と6ヶ月との間の、ミニ−ジストロフィン陽性筋線維の数の比較は、大腿二頭筋に関して処置アーム間で有意差を示さなかった。横隔膜では、1×1014vg/kg投与量において、注入後3ヶ月と6ヶ月との間に有意な増大があったが、心筋では、投与量1×1013、3×1013、および1×1014vg/kgにおいて、2つの時点の間に有意な増大があった。
特定の古典的なDMD関連の筋肉病変の発生率および程度は、処置群の間で異なる。例えば、ビヒクルのみを受け取ったものと比較して、ベクターによって処置されたDmdmdxラットは、壊死性または退行性線維がより少なく、そして、新たに再生された線維が全てのDmdmdxラットにおいて観察されたが、それらの数は、ベクター投与量が増大するにつれて低減する傾向であった。
把持力および筋肉疲労の測定
ビヒクルまたは増加する量のベクターを注入されたDmdmdxラットの前肢把持力を、注入後3ヶ月および6ヶ月に試験した。ビヒクルが注入されたWTラットが、ネガティブコントロールとして含まれた。ラットは、約4.5および7.5月齢であるときに把持力テストが行なわれるように、7〜9週齢のときに注入された。最大把持力および疲労の示度としての繰り返し試験後の把持力の両方を測定した。
材料および方法
力変換器に取り付けられたグリップメーター(Bio−GT3,BIOSEB,France)を用いて、ラットがそれらの前足をTバーの上に置かれて、それらがグリップを放すまで後方に優しく引っ張られたときに生じるピークの力を測定した。5回の試験をそれぞれの試験の間を短潜時(20〜40秒)にして順々に行ない、最初と最後の決定の間の強度の減少は、疲労の指標として取られた。結果はグラム(g)で表されて、体重(g/g BW)に標準化される。把持テストの測定は、遺伝子型および処置アームが見えない実験者によって行なわれた。データは、平均±SEMとして表されて、グループ間の違いを分析するためにノンパラメトリックのKruskal−Wallis検定を用いて統計的に評価される。有意な全体的効果が検出された場合は、Dunnの事後検定を用いてグループ間の違いを評価した。把持力の発達をFriedman検定の後にDunnの事後検定を用いて分析した。全てのデータ分析は、GraphPad Prism 5(GraphPad Software Inc.,La Jolla,CA)を用いて行なわれた。図において、95%、99%、および99.9%の信頼水準での有意差は、1つ、2つ、および3つの記号でそれぞれ表わされる。
結果
注入後3ヶ月に屠殺されたラットに関する把持力テストの結果を、表9および表10に提供する。表9に示されるように、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたWTラットと比較して、絶対握力(すなわち、体質量の違いに関して補正されない)の減少を示した(24±2%の低減)。対照的に、ベクターによって処置されたDmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットコントロールと比較した絶対握力の用量依存的な増大を示した。2つの最も低い投与量、1×1013および3×1013vg/kgでは、把持力は、それぞれ13±7%および24±8%増大したが、統計的有意性には届かず、一方で、2つの最も高い投与量、1×1014および3×1014vg/kgでは、把持力は、それぞれ40±9%および55±6%増大し、統計的有意性に到達した(それぞれ、p<0.01およびp<0.001)。また、表9に示されるように、前肢把持力を体質量の違いに関して補正すると、WTおよびDmdmdxラットの把持力の間には、両方ともビヒクルによって処置された場合、統計的有意差はなかった。しかしながら、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットと比較して、ベクターによって処置されたDmdmdxラットの相対的把持力において投与量応答性の増大があり、試験された2つの最も高い投与量、1×1014および3×1014vg/kgで統計的有意性に到達した(それぞれ、27±8%増大、p<0.05、および39±6%増大、p<0.001)。
また、前肢把持力も、5回の間隔が密接した繰り返し試験中に測定されて、ベクター処置が、Dmdmdxラットモデルにおいて生じることが知られる筋肉疲労に影響を及ぼす程度を決定した。図42Aに示されるように、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、1回目と5回目の試験の間で前肢強度の著しい低減を示したが(63±5%の減少)、一方で、ビヒクルによって処置されたWTラットは、5回目の試験後に、1回目の後とちょうど同じ強さであり、このモデルにおいて以前に見られた効果であった(Larcher,et al.,2014)。
対照的に、ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおいて、ビヒクルのみによって処置された同様のラットと比較して、用量依存的な改善が観察された。表10に前述したとおり、試験された2つの最も低い投与量(1×1013および3×1013vg/kg)では、明らかにされた握力における低減前に遅れがあり、少なくとも試験の初期における疲労の減少を示した。しかしながら、より低い投与量では、5回目の試験までに、ベクターによって処置されたDmdmdxラットとビヒクルのみによって処置されたDmdmdxラットとの間の握力の間に、統計的に有意な違いはまだなかった。それにもかかわらず、握力の漸減する減少に向かう強い傾向が、これらのより低い投与量でさえ明らかであった。2つの最も高い投与量、1×1014および3×1014vg/kgでは、Dmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたWTラットと比較して、疲労の程度に統計的に有意な違いを示さなかった。換言すれば、5回の試験の後に、これらのベクターによって処置されたDmdmdxラットは、野生型から区別できなかった。実際に、全ての試験において、最も高いベクター投与量によって処置されたDmdmdxラットの平均把持力は、WTコントロールのものよりも高かったが、違いは統計的に有意ではなかった。
注入後6ヶ月に屠殺されたラットに関する把持力テストの結果を、表11および表12に提供する。表11に示されるように、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたWTラットと比較して、握力の減少を示した(すなわち、体質量の違いに関して補正されない)(完全把持力で38±3%の低減)。この違いは、絶対的に測定した場合は統計的に有意であったが、相対的に測定した場合は有意でなかった。対照的に、ベクターによって処置されたDmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットコントロールと比較して、絶対握力の用量依存的な増大を示した。2つの最も低い投与量、1×1013および3×1013vg/kgでは、把持力は、それぞれ20±5%および21±6%増大したが、統計的有意性には到達せず、一方で、2つの最も高い投与量、1×1014および3×1014vg/kgでは、把持力は、それぞれ39±9%および41±5%増大し、統計的有意性に到達した(それぞれ、p<0.05およびp<0.01)。
注入後3ヶ月に屠殺されたDmdmdxラットと同様に、注入後6ヶ月に屠殺された、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットもまた、1回目と5回目の試験の間で前肢強度の実質的な低減を示したが(57±3%の減少)(図42B)、この違いは、ビヒクルによって処置されたWTラットで見られた5回の試験にわたる把持力のわずかな減少と比較して統計的に有意でなく、主に、これらの試験に関与する小さなサンプルサイズのせいであると考えられた。
対照的に、用量依存的な改善が、ビヒクルのみによって処置された同様のラットと比較して、ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおいて観察された。表12に示したように、2つの最も低い投与量(1×1013および3×1013vg/kg)は、多数の試験にわたって握力の減退に有意に影響を及ぼさなかったが、2つの最も高い投与量(1×1014および3×1014vg/kg)では、Dmdmdxラットは、ビヒクルによって処置されたWTラットと比較した疲労の程度において統計的に有意な違いを示さなかった。さらに、最も高い投与量では、ベクターによって処置されたDmdmdxラットの把持力は、全ての試験において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットよりも統計的に有意に高かった。換言すれば、5回の試験後、これらのベクターによって処置されたDmdmdxラットは、野生型から区別できなかった。実際に、全ての試験において、最も高いベクター投与量によって処置されたDmdmdxラットの平均把持力は、違いは統計的に有意でなかったがWTコントロールのものよりも高かった。
これらの試験に基づき、注入後3ヶ月および6ヶ月の両方において、1×1014vg/kgのベクター投与量は、Dmdmdxラットによって示された把持力の減少および多数の間隔が密接した把持力テストに起因する筋肉疲労を戻すのに十分であったことが明らかである。さらに、3×1014vg/kgのベクター投与量は実際に、Dmdmdxラットにおける把持力および疲労耐性を、同一の遺伝的背景のWTラットを超えるレベルまで改善させた。
心機能
DmdmdxラットおよびWTコントロールの心機能を、注入後3ヶ月および6ヶ月に試験して(それぞれ、約5月齢および8月齢)、ベクター処置が、ラットDMDモデルにおける筋ジストロフィー疾患の過程の心臓に対する構造上または機能上の効果を改善することができるかどうか決定した。二次元の心エコー検査を用いて、自由壁拡張期の厚さ、LV拡張終期の直径、LV駆出率、およびE/A比を、注入後3ヶ月および6ヶ月に測定した。
材料および方法
心エコー測定は、遺伝子型および処置アームが見えない実験者によって行われた。14−MHz変換器を備えるVivid 7 Dimension超音波(GE Healthcare)を用いて、二次元(2D)心エコー検査を試験動物に対して行なった。有り得る構造上の再構築を観察するために、左心室拡張終期の直径および自由壁拡張終期の厚さを、Mモード心エコー検査によって得られた長軸および短軸画像から、拡張期中に測定した。駆出率によって収縮機能を評価して、心尖部四腔断層方位でパルスドップラーを用いて、心室充満速度の経僧帽弁流量測定を得ることによって拡張機能を決定して、E/A比、等容弛緩時間、およびE波の減速時間(以下にさらに説明される拡張期機能障害の指標)を決定した。
E/A比は、心房排出および心室充満の2つのステージ中の左心房から左心室への血液の移動のピーク速度の比である。血液は、左心房から左心室へ2つのステップで移動される。最初に、左心房内の血液は、弛緩している心室によって作られる陰圧に起因して僧帽弁が開くときに下の心室へ受動的に移動する。この最初の作用の間に血液が移動する速度は、初期に関して、「E」、心室充満速度と呼ばれる。より後において、左心房は収縮して、心房内の任意の残っている血液を排出して、このステージにおいて血液が移動する速度は、心房に関して、「A」、心室充満速度と呼ばれる。E/A比は、後期(A)心室充満速度に対する初期(E)の比である。健康な心臓では、E/A比は、1よりも大きい。しかしながら、デュシェンヌ筋障害では、左心室壁は硬くなり心室弛緩を減少させて、心房血液を吸引して、それにより、初期(E)充填速度を遅くさせて、E/A比を下げる。等容弛緩時間(IVRT)は、大動脈弁の閉鎖から、僧帽弁の開放による心室充満の開始までの間の間隔、または、弛緩が始まった後に心室充満が開始するまでの時間である。正常よりも長いIVRTは、心室弛緩が少ないことを示し、ヒトDMD患者(RC Bahler et al.,J Am Soc Echocardiogr 18(6),666−73(2005);LW Markham et al.,J Am Soc Echocardiogr 19(7),865−71(2006))およびDMD犬モデル(V Chetboul et al.,Eur Heart J 25(21),1934−39(2004);V Chetboul et al.,Am J Vet Res 65(10),1335−41(2004))の両方において説明されていて、DMDと関連する拡張型心筋症に先行する。最後に、E波の減速時間(DT)は、ピークE速度とそのベースライン復帰との間のミリ秒での時間に相当し、その増大は、拡張期の機能障害を示す。
結果
注入後3ヶ月および6ヶ月の両方において、WTラットおよびDmdmdxラット(両方ともビヒクルによって処置された)の間で自由壁拡張期の厚さに有意差はなく、この測定が、試験された年齢においてこのモデルにおける疾患過程に関して情報を与えないことを示した。注入後3ヶ月ではないが6ヶ月においては、しかしながら、WTコントロールと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて左心室拡張終期の直径を増大させる傾向があったが(Dmdmdxラットがベクターによって処置された場合は戻る)、統計的有意性には到達しなかった(図43)。
収縮機能を評価するために、左心室(LV)駆出率を測定した。注入後3ヶ月には、Dmdmdxラットにおいて違いが見られず、しかしながら、注入後6ヶ月には、ビヒクルを投与されたDmdmdxラットのみがLV駆出率の減少を示したが(ベクターによる処置によって防止される)、違いは、より低い投与量の1つである3×1013vg/kgにおいてのみ統計的に有意であった(図44)。
拡張期機能障害を評価するために、ドップラー心エコー検査を用いて、初期(E)および後期拡張期(A)速度、E/A比、等容弛緩時間(IVRT)、および減速時間(DT)を測定した。注入後3ヶ月において、WTコントロールと比較して、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットに関してE/A比の統計的に有意な減少、および、最も高いベクター投与量である3×1014vg/kgによって処置されたDmdmdxラットにおいて正常なE/A比へ戻ることを示す傾向があったが、違いは、統計的有意性に到達しなかった(図45A)。注入後6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットのE/A比もまた、WTコントロールと比較して有意に減少して、より早い時点と同様に、ベクターの何らかの処置効果を示す傾向があったが、データはかなり変動があり、統計的有意性に到達しなかった(図45B)。
注入後3ヶ月において、IVRTは、WTコントロールと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて上昇して、ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおいてIVRTの投与量応答性の減少を示すわずかな傾向があったが、データにおける違いのいずれも統計的有意性に到達しなかった(図46A)。注入後6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、WTコントロールと比較して有意により高いIVRTを有したが、一方で、ベクター処置は、正常レベルにIVRTが戻るのを示唆する強い傾向をもたらし、最も低いベクター投与量である1×1013vg/kgで統計的有意性に到達した(図46B)。
最後に、DTは、麻酔プロトコルでの技術的困難性に起因して、より高齢のラットでのみ測定することができた。しかしながら、注入後6ヶ月において試験された場合、DTは、WTコントロールと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて有意に上昇して、試験された全ての投与量においてベクター処置後に正常値への復元に向かう強い傾向があった(図47)。
データの変動にもかかわらず、これらの試験の結果は、5月齢および8月齢Dmdmdxラットの心臓における拡張期機能障害の存在を強く示唆し、それは、AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターによる処置によって少なくとも部分的に戻され得る。
血液化学
処置の前および屠殺の時点に、ラット由来の血液サンプルを取って、最終的な分析のために保管した。尿素、クレアチニン、アルカリフォスファターゼ(ALK)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、クレアチンキナーゼ(CK)、トロポニンI、および、ミニ−ジストロフィンタンパク質およびAAV9キャプシドに対する抗体の血清濃度を決定するための試験を行なった。ALT、AST、CK、およびLDHは、全て、損傷した筋肉細胞から血中に放出される酵素であり、ヒトDMD患者において上昇することが知られている。
注入後3ヶ月および6ヶ月において、尿素、クレアチニン、ALK、全血清タンパク質、全ビリルビンおよびトロポニンIのレベルは、異なる実験グループ間で有意に異ならなかった。対照的に、AST、ALT、LDHおよび全CKレベルは全て、WTラットと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて上昇して、様々な程度でベクター処置に応答した。
注入後3ヶ月および6ヶ月の両方において、ASTレベルは、WTラットと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて上昇したが、データの変動に起因して、有意性は6ヶ月の時点においてのみ存在した。Dmdmdxラットがベクターによって処置された場合、より低いASTレベルに向かう傾向が(幅広い個体相互の変動があるにもかかわらず)、注入後3ヶ月において1×1014および3×1014vg/kg投与量のグループ、および、注入後6ヶ月において3×1014vg/kg投与量のグループにおいて観察された。再度、データの変動に起因して、これらの違いは統計的有意性に到達しなかった。これらの結果を図48Aおよび図48Bに示し、それぞれ、注入後3ヶ月および6ヶ月の時点に関するデータを報告する。
ALT、LDH、および全CKレベルのパターンは全て、同様の方法で年齢およびベクター処置に応答した。注入後3ヶ月において、ALT、LDHおよび全CKレベルは全て、WTラットと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて有意に上昇した。ミニ−ジストロフィンベクターによるDmdmdxラットの処置は、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットと比較してALT、LDHおよび全CKレベルにおける投与量応答性の減少を示唆する傾向をもたらし、場合によっては、統計的有意性を達成した。これらの結果を図49A、図50A、および図51Aにそれぞれ示す。注入後6ヶ月において、WTラットと比較してビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおけるALTおよびLDHの上昇したレベルを示唆する傾向がデータに存在し、それは、試験された最も高いベクター投与量において戻ったが、違いのいずれも統計的に有意でなかった。これらの結果を図49Bおよび図50Bにそれぞれ示す。対照的に、注入後3ヶ月に見られたパターンと同様に、全CKは、WTラットと比較して、注入後6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットにおいて有意に上昇して、ベクター処置は、減少したレベルに向かう傾向をもたらし、試験された最も高いベクター投与量において統計的有意性を達成した(図51B)。
処置アーム内の全CKレベルもまた、注入の日と、3ヶ月および6ヶ月後に比較された。図52Aおよび図52Bに示されるように、血中の全CKレベルは、ビヒクルを投与されたWTラットにおいて一貫して低かったが、一方で、CKレベルは、ビヒクルのみおよび最も低いベクター投与量によって処置されたものを含む全てのDmdmdxラットにおいて減退した。対照的に、3ヶ月および6ヶ月後のCKレベルの減少は、3つの最も高い投与量のベクターによって処置されたDmdmdxラットに関してよりいっそう大きかった。これらの観察は、ヒトにおけるDMDの自然な過程(CKレベルは、コントロールと比較して上昇するが、脂肪および線維化組織によって筋肉が置換されることに起因して、疾患が進行するにつれて減退する)と一致するが、試験されたより高いベクター投与量においては、投与量応答性の治療的効果も有する。
CKアイソザイムにおける違いも観察された。投与の前に、CK−MMアイソフォームがDmdmdxラットにおいて優位を占めて(平均>90%)、一方で、CK−MMおよびCK−BBアイソフォームは、WTラットにおいて同程度であり(平均40〜60%)、CK−MBレベルは、DmdmdxラットよりもWTにおいて高かった(4〜6%対、約1%)。注入後3ヶ月および6ヶ月において、1×1013vg/kgよりも多いベクター投与量によって処置されたDmdmdxラットは、CK−BBアイソフォームの比率におけるわずかな増大およびCK−MMアイソフォームの比率におけるわずかな低減を示し、投与量に関連する効果に向かう傾向があった。CK−MBアイソフォームの比率における明確な変更は、ベクターによって処置されたDmdmdxラットにおいて観察されなかった。
免疫学
AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターによって処置されたDmdmdxラットにおける体液性および細胞性免疫応答を、処置前と注入後3ヶ月および6ヶ月において測定して、ネガティブおよびポジティブコントロールに対して比較した。血清サンプルは、ビヒクルまたはベクターの注入前と、注入後3ヶ月の安楽死の際に得られた。T細胞応答の分析のための脾細胞は、注入後3ヶ月および6ヶ月の安楽死の際に採取された。
ミニ−ジストロフィンタンパク質の発現に対する体液性応答を、試験動物から得られて1:500に希釈された血清のウエスタンブロット分析によって定性的に評価した。WTまたはDmdmdxであろうと全てのラット由来の血清は、ビヒクルが投与された場合、またはベクターを受け取る前は、ミニ−ジストロフィンタンパク質に対する抗体に関してネガティブであった。対照的に、ベクターによって処置されたほとんどのDmdmdxラットは、1×1013vg/kgの最も低い投与量でさえ、ウエスタンブロットにおいてミニ−ジストロフィンと結合するIgG抗体を産生した。注入後3ヶ月において屠殺されたDmdmdxラットの80%〜100%、および、注入後6ヶ月において屠殺されたDmdmdxラットの60%〜100%は、投与量に応じてミニ−ジストロフィンタンパク質に特異的なIgGを産生した。
AAV9ベクターキャプシドに対する抗体の存在を、ELISAによって試験した。ビヒクルによって処置されたWTおよびDmdmdxラット由来の血清は、AAV9と反応する検出可能なIgGを含まなかった。対照的に、ベクターによって処置された全てのラットは、投与量にかかわらず、または、注入後3ヶ月または6ヶ月のいずれにおいて屠殺されたのかにもかかわらず、1:10240よりも高い力価で(試験された最も高い希釈)、抗−AAV9 IgGを生産した。AAV9に対する中和抗体もまた、ルミノメーターを用いて検出されるLacZレポーター遺伝子を発現する組み換えAAV9ベクターを用いた細胞形質導入阻害アッセイによって試験された。力価は、形質導入を>50%阻害する最も低い希釈として定義された。AAV9に対する中和抗体は、投与量にかかわらず、または、注入後3ヶ月または6ヶ月のいずれにおいて屠殺されたのかにもかかわらず、ベクターを受け取った全てのDmdmdxラット由来の血清において検出されたが、注入前の同一動物、またはビヒクルのみを受け取ったWTおよびDmdmdxラットにおいては、検出されなかった。力価は、1:5000〜≧1:500000の範囲であり、明らかな投与量効果はなかった。
ベクターに対する細胞性免疫応答の存在を、ビヒクルによって処置されたWTおよびDmdmdxラット、および、ベクターを受け取ったDmdmdxラットから単離された脾細胞に対するIFNγ ELISpotアッセイを用いて評価した。ベクターゲノムによって発現されたヒトミニ−ジストロフィンタンパク質に対するT細胞応答を、opti−dys3978タンパク質(15アミノ酸の長さ、10アミノ酸の重複、合計263ペプチド)の全配列をカバーする重複ペプチドバンクおよびラット特異的IFNγ−ELISpotBASICキット(Mabtech)を用いて試験した。ネガティブコントロールは、刺激されていない脾細胞から構成されて、ポジティブコントロールは、分裂促進因子コンカナバリンAによって刺激された細胞から構成された。IFNγ分泌物を、106細胞あたりのスポット形成細胞(SFC)の数として定量化して、ポジティブ応答を、>50SFC/106細胞またはネガティブオントロールに関して得られた値の少なくとも3倍として定義した。最も高いベクター投与量の3×1014vg/kgで処置されたDmdmdxラット由来を含み、注入後3ヶ月または6ヶ月のいずれにおいても、ミニ−ジストロフィンタンパク質に由来する任意のペプチド配列に対する特異的なT細胞応答は、任意の試験動物から得られた脾細胞において見られなかった。
また、AAV9キャプシドに対するT細胞応答も、AAV9に由来するペプチド配列に対してスクリーニングされたIFNγ ELISpotアッセイを用いて試験された(3つのプールに分けられた、10アミノ酸によって重複している15マー)。注入後3ヶ月に屠殺されたベクターによって処置されたDmdmdxラットの16%〜60%、および、注入後6ヶ月に屠殺されたベクターによって処置されたDmdmdxラットの16%〜66%において、ポジティブのIFNγ応答が存在し、それは、ベクター投与量と正に相関した。対照的に、ビヒクルによって処置された全てのWTおよびDmdmdxラットは、AAV9キャプシドに対するT細胞応答に関してネガティブであった。
実施例9
AAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAによって処置された、より高齢のDmd mdx ラットにおける握力
上記の実施例8に記載される試験は、若いラット7〜9週齢において開始された。この実施例は、それぞれ4月齢および6月齢だったときにAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターによって最初に処置された、より高齢のDmdmdxラットの筋肉機能分析を説明する。Sprague Dawleyラットの平均寿命は24〜36ヶ月である。これらの実験のゴールは、Dmdmdxラットの一生の後期にベクターによって処置することが効果的であるかどうか決定することであった。ポジティブな結果は、より高齢のヒトDMD患者、例えば、より年が上の子ども、青年、または若い成人でさえ、ベクターによる処置が、それらの筋肉機能を改善し得ることも示唆するであろう。
この実施例において記載される実験は、実施例8に記載されるものと同様の材料および方法を用いて行なわれた。より具体的には、4月齢および6月齢におけるDmdmdxラット(それぞれの年齢グループに関してn=6)は、1×1014vg/kgのAAV9.hCK.Hopti−Dys3978.spAベクターによって別個に処置された。ネガティブコントロールとして、4月齢および6月齢のWTラットおよびDmdmdxラット(それぞれの年齢グループに関してn=6)は、ビヒクルのみによって別個に処置された。注入後3ヶ月において、ラットは、以前に説明されるとおりに握力に関して試験された。より若いラットと同様に、最大前肢握力、および、各試験の間の待ち時間が短い多数の繰り返し試験にわたる握力を試験した。後者の試験は、筋肉疲労を測定することが意図された。
図53Aに示されるように、注入後3ヶ月において、4月齢においてビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの最大前肢握力は、平均して、ビヒクルによって処置された4月齢WTラットと比較してわずかにより低かったが、違いは統計的有意性に到達しなかった。対照的に、4月齢において、1×1014vg/kgベクターを注入されたDmdmdxラットは、同じ月齢における、ビヒクルのみによって処置されたDmdmdxラットよりも大きな平均最大前肢握力を有し、その違いは統計的有意性に到達した。ベクターによって処置されたラットの強度は、WTラットよりもさらに大きかったが、その違いは統計的に有意でなかった。結果は、図53Bに示されるように、データが体重に関して標準化された場合、同様であった。図53Aおよび図53Bでは、記号「□□」は、ベクター対ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の統計的に有意な違いを示す(p<0.01)。
筋肉疲労に関して、図53Cに示されるように、4ヶ月において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、2回目の把持テスト後に疲労を示したが、一方で、WTラットは、4回の試験後でさえも疲労を示さなかった。対照的に、ベクターによって処置された4月齢Dmdmdxラットは、1回目と5回目の把持テストの間に、あったとしても最小限の筋肉疲労示した。ベクターによって処置されたDmdmdxラットもまた、ビヒクルによって処置されたWTラットと比較して全体的により強いようであった。図53Cでは、記号「*」は、ベクターによって処置されたDmdmdxラットとビヒクルによって処置されたWTラットとの間の統計的に有意な違いを示し(p<0.05);「□□」は、ベクター対ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の統計的に有意な違いを示し(p<0.01);「§§」および「§§§」は、1回目の把持テストと比較して、それぞれ4回目および5回目の把持テストにおける、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の統計的に有意な違いを示す(それぞれ、p<0.01およびp<0.001)。
図54Aに示されるように、注入後3ヶ月において、6月齢においてビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの最大前肢握力は、ビヒクルによって処置された6月齢WTラットと比較して有意により低かった。この効果は、図54Bに示されるように、結果が体重に関して標準化された場合でさえも維持された。6月齢において、1×1014vg/kgベクターによるDmdmdxラットの処置は、ビヒクルのみによって処置されたDmdmdxラットと比較して平均最大前肢握力を増大させて、その違いは、体重に関して標準化された場合、統計的有意性に到達した(図54B)。図54Aおよび図54Bでは、記号「*」および「**」は、ビヒクルによって処置されたDmdmdxおよびWTラットの間の統計的に有意な違いを示し(それぞれ、p<0.05およびp<0.01);「□」は、ベクター対ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の統計的に有意な違いを示す(p<0.05)。
筋肉疲労に関して、図54Cに示されるように、6ヶ月において、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットは、2回目の把持テスト後に疲労を示したが、一方で、WTラットは、4回のテスト後でさえ疲労を示さなかった。対照的に、4ヶ月において、処置されたラットでは、ベクターによって処置された6月齢Dmdmdxラットは、多数の把持テストにわたって少し減少した強度を示したが、ビヒクルによって処置されたコントロールDmdmdxラットで見られるものと同程度ではなかった。また、4月齢において処置されたラットで行なわれた試験とは対照的に、WTラットの強度は、実験工程にわたって、6ヶ月においてベクターによって処置されたDmdmdxラットのものよりも大きいようであった。図54Cでは、記号「**」および「***」は、ベクターによって処置されたDmdmdxラットおよびビヒクルによって処置されたWTラットの間の統計的に有意な違いを示し(それぞれ、p<0.01およびp<0.001);「□」は、ベクター対ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の統計的に有意な違いを示し(p<0.05);「§§」は、ビヒクルによって処置されたDmdmdxラットの間の、1回目の把持テストと比較した5回目の把持テストにおける統計的に有意な違いを示す(p<0.01)。
前述は本発明の例示であり、その制限と解釈されるべきでない。本発明は以下の特許請求の範囲によって定義されて、特許請求の範囲の等価物は、その中に含まれるべきである。