以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態の車両制御システムを示すブロック図である。図1に示す車両制御システム100は、車両に搭載され、車両の走行を制御するシステムである。車両制御システム100は、車両の自動運転を実行可能に構成されている。自動運転とは、運転者が操作することなく車両を目的地まで走行させる車両制御である。自動運転を実行するための構成については、周知の構成を採用することができる。また、車両制御システム100は、自動運転と運転者が車両を運転する手動運転とを切り換え可能である。本実施形態の車両制御システム100は、自車両を走行車線から隣接車線へ車線変更させる車線変更制御を実行する。車両制御システム100の車線変更制御は、自動運転の一部又は手動運転中の運転者の運転支援として実行される。
図1に示すように、車両制御システム100は、ECU[Electronic Control Unit]10を含んで構成されている。
ECU10には、GPS受信部1、外部センサ2、内部センサ3、地図データベース4、運転操作検出部5及びアクチュエータ6が接続されている。
GPS受信部1は、3個以上のGPS衛星から信号を受信することにより、車両の位置(例えば車両の緯度及び経度)を測定する。GPS受信部1は、測定した車両の位置情報をECU10へ送信する。
外部センサ2は、車両の周辺環境を検出する検出機器である。外部センサ2は、カメラ、レーダー[Radar]又はライダー[LIDAR:LaserImaging Detection and Ranging]を含む。カメラは、例えば、車両のフロントガラスの裏側に設けられ、車両の前方を撮像する。カメラは、車両の背面及び側面に設けられていてもよい。カメラは、車両周囲の撮像情報をECU10へ送信する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された二つの撮像部を有している。
レーダーは、電波(例えばミリ波)を利用して車両の外部の障害物を検出する。レーダーは、電波を車両の周囲に送信し、障害物で反射された電波を受信することで障害物を検出する。レーダーは、検出した障害物情報をECU10へ送信する。ライダーは、電波に代えて光を用いて障害物を検出する。ライダーは、検出した障害物情報をECU10へ送信する。
内部センサ3は、車両の走行状態を検出する検出機器である。内部センサ3は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサを含む。車速センサは、車両の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、車両の車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフト等に対して設けられ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが用いられる。車速センサは、検出した車速情報(車輪速情報)をECU10に送信する。
加速度センサは、車両の加速度を検出する検出器である。加速度センサは、例えば、車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサと、車両の横加速度を検出する横加速度センサとを含んでいる。加速度センサは、例えば、車両の加速度情報をECU10に送信する。ヨーレートセンサは、車両の重心の鉛直軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出する検出器である。ヨーレートセンサとしては、例えばジャイロセンサを用いることができる。ヨーレートセンサは、検出した車両のヨーレート情報をECU10へ送信する。
地図データベース4は、地図情報を備えたデータベースである。地図データベースは、例えば、車両に搭載されたHDD[Hard Disk Drive]内に形成されている。地図情報には、例えば、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報が含まれる。
運転操作検出部5は、車両の運転者による車両への操作を検出する機器である。運転操作検出部5は、車両に車線変更制御の開始ボタンが設けられている場合、車線変更制御の開始ボタンのオン操作及びオフ操作を検出する。なお、車線変更制御の開始を指示するための操作は、ボタンにより検出される必要はなく、開始レバーにより検出されてもよい。
運転操作検出部5には、方向指示器検出部が含まれる。方向指示器検出部は、車両の方向指示器操作レバーに対して設けられ、運転者による方向指示器操作レバーの操作を検出する。方向指示器検出部は、検出した方向指示器操作レバーの操作をECU10へ送信する。本実施形態では、方向指示器操作レバーの操作が、車線変更のトリガの発生の契機とされてもよい。
アクチュエータ6は、車両の走行制御を実行する装置である。アクチュエータ6は、スロットルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ、及び操舵アクチュエータを少なくとも含む。スロットルアクチュエータは、ECU10からの制御信号に応じてエンジンに対する空気の供給量(スロットル開度)を制御し、車両の駆動力を制御する。なお、車両がハイブリッド車である場合には、エンジンに対する空気の供給量の他に、動力源としてのモータにECU10からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。車両が電気自動車である場合には、動力源としてのモータにECU10からの制御信号が入力されて当該駆動力が制御される。これらの場合における動力源としてのモータは、アクチュエータ6を構成する。
ブレーキアクチュエータは、ECU10からの制御信号に応じてブレーキシステムを制御し、車両の車輪へ付与する制動力を制御する。ブレーキシステムとしては、例えば、液圧ブレーキシステムを用いることができる。操舵アクチュエータは、電動パワーステアリングシステムのうち操舵トルクを制御するアシストモータの駆動を、ECU10からの制御信号に応じて制御する。これにより、操舵アクチュエータは、車両の操舵トルクを制御する。
ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU10では、例えば、CAN通信回路を介してROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。また、ECU10は、車両の自動運転を実行する機能を有している。ECU10は、自動運転を実行するため、周知の手法により車両の走行計画を予め生成する。走行計画は、車両の地図上の位置と車両の制御目標値(車速目標、操舵角度目標)とを対応付けたデータである。ECU10は、走行計画に沿って車両の自動運転を実行する。
次に、ECU10の機能的構成について説明する。ECU10は、車両位置認識部11、周辺環境認識部12、走行状態認識部13、車線変更トリガ部14、区間設定部15、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18を構成する。
車両位置認識部11は、GPS受信部1の位置情報及び地図データベース4の地図情報に基づいて、車両の地図上の位置を認識する。車両の地図上の位置は、車両制御システム100が自動運転時における車線変更制御の開始を判断するために用いられる。車両位置認識部11は、地図データベース4の地図情報に含まれた電柱等の固定障害物の位置情報及び外部センサ2の検出結果を利用して、SLAM[Simultaneous Localization and Mapping]技術により車両の位置を認識してもよい。
車両位置認識部11は、車載のカメラにより撮像された車両前方の撮像画像(白線の画像)に基づいて、周知の画像処理手法により、車両の横位置を認識する。車載のカメラは、車両における搭載位置が決まっており、この搭載位置から当該カメラが撮像する範囲も決まっている。また、カメラの搭載位置と車両の中心位置との位置関係(平面視における位置関係)は決まっている。このため、車両位置認識部11は、カメラの撮像画像上における左右二本の白線の位置から、車線幅方向における車両の中心位置(車両の横位置)を求めることができる。カメラに代えて、レーダー又はライダーにより白線を認識してもよい。
また、車両位置認識部11は、車線変更制御を実行する際に、走行車線が例えばインターチェンジ入口等の車線減少を伴う合流路であるか否かを認識できる。車両位置認識部11は、例えば、車載のカメラにより撮像された車両前方の撮像画像の解析に基づいて、走行車線が合流路であるか否かを認識できる。また、車両位置認識部11は、GPS受信部1の位置情報及び地図データベース4の地図情報に基づいて、車両の地図上の位置を認識し、走行車線が合流路であるか否かを認識できる。
周辺環境認識部12は、外部センサ2の検出結果に基づいて、車両の周辺環境を認識する。周辺環境には、車両に対する障害物の位置、車両に対する障害物の相対速度、車両に対する障害物の移動方向などが含まれる。周辺環境認識部12は、カメラの撮像画像、レーダーの障害物情報、又はライダーの障害物情報に基づいて、周知の手法により、車両の周辺環境を認識する。
走行状態認識部13は、内部センサ3からの検出結果に基づいて車両の走行状態を認識する。車両の走行状態には、車速、車両の加速度、車両の舵角などが含まれる。走行状態認識部13は、区間設定部15、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18に車両の走行状態に関する情報を送出する。
車線変更トリガ部14は、運転者の指示または自動運転により車線変更を開始する契機となるトリガを発生する。車線変更トリガ部14は、区間設定部15、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18にトリガを送出する。
車線変更トリガ部14は、例えば、運転操作検出部5が、運転者による車線変更のためのスイッチ入力を受け付けた場合にトリガを発生する。また、車線変更トリガ部14は、車両位置認識部11、周辺環境認識部12及び走行状態認識部13による認識結果に基づいて、車両の走行位置が所定の区間に到達したことを判断してトリガを発生したり、周辺に車両が存在しないことを検出してトリガを発生してもよい。
区間設定部15は、各々において所定の車線変更制御を実行する複数の区間を設定する。本実施形態では、区間設定部15は、走行車線内に設けられる第1区間、隣接車線内に設けられる第2区間、及び第1区間と第2区間との間の第3区間からなる車線変更区間を設定する。後述するように、第1区間は、車線変更制御において隣接車線の方向に車両を操舵する区間である。第2区間は、走行車線の方向に車両を操舵する区間である。第3区間は、車両の前後方向(車線の延在方向とは異なる)に直進するように車両を操舵する区間である。各区間の設定については、後に図3を参照して説明する。
操舵角度目標生成部16は、設定された車線変更区間に基づいて、操舵角度目標を出力する。図2は、操舵角度目標生成部16A(16)の機能構成の例を示すブロック図である。図2に示すように、操舵角度目標生成部16Aは、タイマ16A−1及び操舵パターン生成部16A−2を含む。操舵角度目標生成部16Aは、区間設定部15により設定された車線変更区間及び車線変更トリガに基づいて操舵角度目標を生成する。
タイマ16A−1は、車線変更トリガ部14により車線変更のトリガが発生させられてからの経過時間を操舵パターン生成部16A−2に送出する。なお、経過時間に車速を乗じて算出した走行距離または車線進行方向における走行位置が、操舵パターン生成部16A−2に送出されてもよい。
操舵パターン生成部16A−2は、経過時間(または走行距離若しくは走行位置)と操舵角度との対応関係を規定した操舵パターンを参照し、タイマ16A−1からの経過時間(または走行距離若しくは走行位置)に基づいて、操舵角度目標を出力する。操舵パターンは、例えば、ルックアップテーブルとして予め複数記憶されている。
次に、図3を参照して、本実施形態の区間設定部15による第1区間、第2区間及び第3区間の設定の例並びに操舵角度目標の生成の例を説明する。図3に示すように、区間設定部15は、走行車線内に設けられる第1区間p11、隣接車線内に設けられる第2区間p12、及び第1区間p11と第2区間p12との間に設けられる第3区間p13を設定する。
操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18は、パスP11に示すように、第1区間p11において隣接車線の方向に車両Cを操舵(図3では左操舵)し、第2区間p12において走行車線の方向に車両Cを操舵(図3では右操舵)し、第3区間p13において車両Cの前後方向に直進するように車両Cを操舵するように車線変更制御を実行する。
また、図3において、横軸を走行位置とし、隣接車線の方向(車線幅方向で隣接車線に向かう方向)を縦軸の正方向とする。図3に、走行車線の進行方向(走行車線の延在方向)の走行位置に応じた操舵角度D11及び横速度VS11を示す。操舵角度D11は、図3において車両Cの操舵制御の目標である操舵角度目標である。また、図3に、第3区間が設定されない場合(即ち第1区間p01及び第2区間p02のそれぞれにおいて所定の車線変更制御が実行された場合)のパスP12、操舵角度D12及び横速度VS12を比較のために示す。
操舵パターン生成部16A−2は、例えば操舵角度D11に示すような操舵角度目標を、第1区間、第3区間及び第2区間のそれぞれにおいて出力する。即ち、操舵角度D11に基づいて車線変更制御が実施されることにより、パスP11に沿って車両Cが走行する。一方、第3区間が設定されない場合には、操舵角度D12に基づいて車線変更制御が実施されることにより、パスP12に沿って車両Cが走行する。
パスP11に示すように、横速度V11が最大の状態で車両Cが直進する第3区間p13を設け、第3区間が設定されない場合に比べて、横速度VS11を上昇させる第1区間を短縮して横速度V11が最大となるまでの時間を短縮することにより、車両Cは、短時間で隣接車線に進入することが可能となる。また、横速度V11が最大の状態で走行する時間が長くなることにより、車線変更制御における横速度の最大値を低減できる。これにより、乗員の違和感を軽減し、安心感を与えることが可能となる。
次に、図4を参照して、操舵角度目標生成部16の第2の構成の例を説明する。図4は、操舵角度目標生成部16B(16)の機能構成の例を示すブロック図である。図4に示すように、操舵角度目標生成部16Bは、車線変更距離算出部16B−1、パス生成部16B−2及びパス追従制御部16B−3を含み、区間設定部15により設定された車線変更区間、車速及び車線変更トリガに基づいて操舵角度目標を生成する。
車線変更距離算出部16B−1は、区間設定部15により設定された各車線変更区間に車速を乗じることにより、車線変更に必要な距離である車線変更距離を算出する。車線変更距離算出部16B−1は、算出した車線変更距離をパス生成部16B−2に送出する。
パス生成部16B−2は、車線変更トリガが発生した時点において、各車線変更区間において車両Cが走行すべきパスを車線変更距離に応じて生成する。即ち、パスは、車線変更制御によって走行車線から隣接車線へ車線変更する車両Cが走行する目標とする軌跡である。パス生成部16B−2は、生成したパスの情報をパス追従制御部16B−3に送出する。
ここで、パス生成部16B−2で生成したパスの例として、再び図3を参照する。即ち、図3に示すパスP11は、パス生成部16B−2により生成されたパスの例とする。パスP11に示すように、車線変更制御のために生成されるパスは、車両Cが車線変更に要する車線変更区間(第1区間p11、第2区間p12及び第3区間p13の長さの和)だけ進行した時点において、車線変更に必要な横方向の移動距離だけ移動するような、滑らかな曲線として与えられる。
パス追従制御部16B−3は、パス生成部16B−2により生成されたパスに基づいて操舵角度目標を生成し、生成した操舵角度目標を出力する。図5は、パス追従制御部16B−3による操舵角度目標θの生成を示す図である。パス追従制御部16B−3は、車両CとパスPとの位置関係に基づいて、操舵角度目標θを生成する。具体的には、パス追従制御部16B−3は、パスPに対する車両Cのオフセット量δ、パスPに対する車両Cの姿勢角βに基づいて、以下の式(1)により操舵角度目標θを生成する。
θ=K1・δ+K2・β ・・・(1)
K1及びK2は、車両CをパスPに追従させるために、δ及びβのそれぞれに乗じるゲインである。即ち、ゲインは、σ及びβのそれぞれに重みを与える係数値であって、予め設定された所定の値であってもよい。また、ゲインは、車速に応じて変更される値であってもよい。
再び図1を参照して、ECU10の残りの機能的構成を説明する。車速目標生成部17は、各車線変更区間において車速目標を出力する。車速目標生成部17は、例えば、車線変更制御のトリガが発生して制御が開始されてからの経過時間(または走行距離若しくは走行位置)と車速との対応関係を予め規定した車速パターンを参照して車速目標を出力する。車速パターンは、例えば、ルックアップテーブルとして予め複数記憶されている。車速目標生成部17は、例えば、走行車線が例えばインターチェンジ入口等の車線減少を伴う合流路である場合、車線変更中に車両Cが加速する車速目標を出力する。
車線変更制御部18は、操舵角度目標生成部16により生成された操舵角度目標及び車速目標生成部17により生成された車速目標に基づいて、車線変更制御を実行する。具体的には、車線変更制御部18は、操舵角度目標及び車速目標に基づいて、アクチュエータ6に、スロットル制御、ブレーキ制御及び操舵制御を実行させることにより、車線変更制御を実行する。なお、車線変更制御部18は、車速を一定として操舵角度目標のみに基づいて、車線変更制御を実行してもよい。
車線変更制御部18は、区間設定部15により設定された第1区間、第2区間、第3区間に応じた車両Cの操舵制御を行う。車線変更制御部18は、第1区間において隣接車線の方向に車両Cを操舵する。車線変更制御部18は、第2区間において走行車線の方向に車両Cを操舵する。また、車線変更制御部18は、第3区間において車両Cの前後方向に直進するように車両Cを操舵する。すなわち、車線変更制御部18は、第1区間の終点における車両Cの向きを維持するように第3区間において車両Cを操舵する。
次に、図6〜図8を参照して、区間設定部15による車線変更区間の設定及び車線変更制御部18等による車線変更制御の例を説明する。車線変更中に加速または減速が行われる場合に、区間設定部15は、加速度または減速度に基づいて、車線変更区間の全体に占める第1区間、第2区間及び第3区間の割合を変更する。
図6は、車線変更中に加速する場合の区間設定及び車線変更制御の例を示す図であって、第1区間p21、第2区間p22及び第3区間p23における、車線進行方向における走行位置に対する操舵角度D21、車速V21及び横加速度AS21を示している。また、図6に、車線変更中に加速しない場合の第1区間p21、第2区間p32及び第3区間p33における、操舵角度D22、車速V22及び横加速度AS22並びに車線変更中に加速し且つ加速しない場合と同様に操舵を行った場合に横加速度AS23を比較のために示す。
区間設定部15は、車線変更中に加速する場合に、加速を行わない場合と比べて、車線変更区間の全体において第2区間が占める割合を大きくする。即ち、図6に示すように、区間設定部15は、加速を行わない場合に設定される第2区間p32に比べて、加速を行う場合の第2区間p22を長く設定する。
加速しながら車線変更が行われることにより、第3区間における速度は、加速しない場合に比べて高くなる。このため、第2区間の長さが加速の有無によらず変わらない場合には、第2区間の通過に要する時間が短くなる。そして、通過時間が短くなった第2区間において、車線変更を完了させるために横速度を最大値からゼロに変化させると、横加速度AS23に示されるように、操舵に伴う横加速度が、加速を行わない場合に比べて大きくなり、乗員に違和感を与えることになる。これに対して、車線変更中に加速する場合に、加速を行わない場合と比べて第2区間p22が占める割合を大きくすることにより、横加速度AS21に示されるように、横加速度の上昇を防止できる。これにより、乗員の違和感を軽減できる。
また、区間設定部15は、車両位置認識部11により走行車線が車線減少を伴う合流路であることが認識された場合に、走行車線が合流路ではないと認識された場合に比べて、第2区間を長く設定してもよい。合流路では、加速を伴いながら車線変更を行う可能性が高いため、第2区間をより長く設定して車線変更制御を実行することにより横加速度の上昇を防止できる。
図7は、車線変更中に減速する場合の区間設定及び車線変更制御の例を示す図であって、第1区間p41、第2区間p42及び第3区間p43における、車線進行方向における走行位置に対する操舵角度D31及び車速V31を示している。また、図7に、車線変更中に減速しない場合の第1区間p41、第2区間p52及び第3区間p53における、操舵角度D32及び車速V32を比較のために示す。
区間設定部15は、車線変更中に減速する場合に、減速を行わない場合と比べて、車線変更区間の全体において第2区間が占める割合を小さくする。即ち、図7に示すように、区間設定部15は、減速を行わない場合に設定される第2区間p52に比べて、減速を行う場合の第2区間p42を短く設定する。
減速しながら車線変更が行われることにより、第2区間における速度は、減速しない場合と比べて低くなる。これにより、第2区間p42における操舵角度D31に示されるように、横加速度を上昇させることなく、減速しない場合よりも走行車線側への操舵角度を大きくして隣接車線に沿うように操舵できるので、第2区間p42の進行距離を短くすることができる。従って、乗員の乗り心地を損なうことなく、車線変更の短距離での完了が可能となる。
図8は、車線変更中に加速する場合の区間設定及び車線変更制御の例を示す図であって、第1区間p61、第2区間p62及び第3区間p63における、車線進行方向における走行位置に対する操舵角度D41及び車速V41を示している。また、図8に、車線変更中に加速しない場合の第1区間p71、第2区間p72及び第3区間p73における、操舵角度D42及び車速V42を比較のために示す。
区間設定部15は、車線変更中に加速する場合に、加速を行わない場合と比べて、第3区間の距離を長くする。即ち、図8に示すように、区間設定部15は、加速を行わない場合に設定される第3区間p73に比べて、加速を行う場合の第3区間p63を長く設定する。
車線変更中に、加速及び操舵が同時に行われると、前後方向及び左右方向の両方の加速度が同時に乗員に対して作用し、それらの加速度が合成された合成加速度のベクトルの向きが、乗員の体の前後方向及び左右方向に対して斜め方向となるため、乗員は自らの体を保持することが困難となり、乗員に違和感を与えることとなる。これに対して、車線変更中に加速する場合に、加速を行わない場合の第3区間p73と比べて、第3区間p63を長くすることにより、加速及び操舵が同時に行われる第1区間p61及び第2区間p62を短くすることができる。これにより、乗員の違和感を軽減し、乗り心地を向上することが可能となる。
また、区間設定部15は、車両位置認識部11により走行車線が車線減少を伴う合流路であることが認識された場合に、走行車線が合流路ではないと認識された場合に比べて、第3区間を長く設定してもよい。合流路では、加速を伴いながら車線変更を行う可能性が高いため、第3区間をより長く設定して車線変更制御を実行することにより、加速及び操舵が同時に行われる区間を短くすることができる。これにより、乗員の乗り心地を向上できる。
続いて、図9を参照して、車両制御システム100における制御処理を説明する。図9は、車両制御システム100により実施される、走行車線から隣接車線へ車線変更させる車線変更制御処理を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートは、車線変更のトリガが発生した場合に実施される処理を示す。
まず、ステップS1において、区間設定部15は、走行車線内に設けられる第1区間、隣接車線内に設けられる第2区間、及び第1区間と第2区間との間の第3区間からなる車線変更区間を設定する。このとき、操舵角度目標生成部16は、各区間における操舵角度目標を予め演算しておいてもよい。同様に、車速目標生成部17は、各区間における車速目標を予め演算しておいてもよい。
ステップS2において、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18は、第1区間において、隣接車線の方向へ車両Cを操舵する車線変更制御を実行する。車線変更制御部18は、操舵角度目標生成部16から出力された操舵角度目標、車速目標生成部17から出力された車速目標に基づいて、第1区間における車線変更制御を実行する。
ステップS3において、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18は、第3区間において、車両Cを前後方向へ直進させる車線変更制御を実行する。車線変更制御部18は、操舵角度目標、車速目標に基づいて、第3区間における車線変更制御を実行する。車線変更制御部18は、第1区間の終点における車両Cの向きを維持するように第3区間において車両Cを操舵する車線変更制御を実行する。
ステップS4において、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18は、第2区間において、走行車線の方向へ車両Cを操舵する車線変更制御を実行する。車線変更制御部18は、操舵角度目標、車速目標に基づいて、第2区間における車線変更制御を実行する。
以上のように、本実施形態の車両制御システム100によれば、走行車線内に設けられる第1区間、隣接車線内に設けられる第2区間、及び第1区間と第2区間との間の第3区間からなる車線変更区間が設定され、第1区間において隣接車線の方向に車両Cを操舵し、第2区間において走行車線の方向に車両Cを操舵し、第3区間において車両の前後方向に直進するように車両Cを操舵することにより車線変更制御が実行される。これにより、第3区間が設定されない場合に比べて、車線変更に際しての横速度を上昇させる第1区間が短縮され横速度が最大となるまでの時間が短縮されることにより、短時間で車両Cを隣接車線に進入させることが可能となる。また、横速度が最大の状態で走行する時間が長くなることにより、車線変更制御における車両Cの横速度の最大値を低くすることができる。これにより、乗員の違和感を軽減し、安心感を与えることが可能となる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
区間設定部15は、進行距離を基準として第1〜第3区間を設定することとしているが、各区間の走行に要する時間を基準として各区間を設定することとしてもよい。
また、車線変更制御部18から操舵アクチュエータへの操舵指令は、操舵角度による指令に限定されず、例えば操舵トルクまたは操舵速度による指令であってもよい。
また、車線変更制御の実行中に加減速の状態が変化した場合には、加減速の状態変更時に車線変更区間が再設定されることとしてもよい。
次に、参考例として、第3区間が設定されない場合の車線変更制御の例を説明する。即ち、区間設定部15は、第3区間を設けずに、第1区間及び第2区間のみを設定してもよい。図10は、区間設定部15による第1区間及び第2区間の設定の例を示す図である。ここでは、図10のパスP02に示すように、第1区間及び第2区間の長さは同じ距離となるように各区間が設定されている。区間設定部15は、図10のパスP01に示すように、第1区間の走行距離より第2区間の走行距離の方が長くなるように、第1区間及び第2区間を設定する。操舵角度目標生成部16は、区間設定部15により設定された区間に基づいて操舵角度目標を生成し、車線変更制御部18は、生成された操舵角度目標に基づいて車線変更制御を実行する。第1区間では、走行車線において、左側に隣接する隣接車線の方向に車両Cが操舵される(図10では左操舵)。第2区間では、隣接車線において、走行車線の方向に車両Cが操舵される(図10では右操舵)。
また、図10では、横軸を走行位置とし、隣接車線の方向を縦軸の正方向として、操舵角度及び横速度が示されている。操舵角度D01及び横速度VS01は、第1区間の走行距離より第2区間の走行距離の方が長くなるように設定されたパスP01に対応する。また、操舵角度D02及び横速度VS02は、第1区間の走行距離と第2区間の走行距離が同じになるように設定されたパスP02に対応する。
図10に示すように、第1区間の走行距離より第2区間の走行距離の方が長くなるように車線変更制御が行われることにより、車両Cは、隣接車線の車線中心線に対して緩やかに漸近するような軌跡を通るため、車線変更時のオーバーシュートが防止される。これにより、乗員の安心感が得られる。
また、第1区間の走行距離より第2区間の走行距離の方が長くなるように車線変更制御が行われることにより、横速度が増加する区間が短くなるため、車線変更制御中の早期に横速度がピークに達することとなる。これにより、より短時間で走行車線を離脱することができる。例えば、走行車線において車両Cの前方に先行車が接近している場合には、早期の走行車線の離脱により先行車への接近が防止され、乗員に安心感を与えることができる。
図11は、操舵パターン生成部16A−2により出力される操舵パターンの例を示す図である。図11に示される操舵パターン例は、経過時間(または走行距離)を横軸とし、隣接車線の方向への操舵を正方向とする操舵角度を縦軸とするグラフとして示されている。例えば、操舵パターン生成部16A−2は、図11(a)に示すような、第1区間より第2区間が長く設定された三角波状の操舵パターンを参照して操舵角度目標を出力してもよい。また、操舵パターン生成部16A−2は、図11(b)に示すような第1区間より第2区間が長く設定された正弦波状の操舵パターンを参照して操舵角度目標を出力してもよい。
図12は、区間設定部15が第3区間を設定しない場合における、パス生成部16B−2によるパスの生成の例を示す図である。車線変更のためのパスは、図12に示すように、車両Cの進行方向をx軸とし、隣接車線方向(横方向)をy軸とすると、車両Cが走行する車線の中心線の横方向の位置をy=0の位置として、車両Cが車線変更距離Lだけ進行した時点において、車線幅Wだけ横方向に移動するような、滑らかな曲線として与えられる。なお、車線変更距離Lは、各車線変更区間の長さの和に等しい。
図12(a)に示す例では、車両進行方向に移動距離Xだけ進行したときの横移動距離をYとして、車線変更距離をL、車線変更に必要な横移動距離である車線幅をWとすると、パスは、以下の式(2)により表されることとしてもよい。
Y=3W・(X/L)^2 (X≦L/3)
Y=W−(3W/2)・(1−X/L)^2 (X>L/3) ・・・(2)
なお、式(2)に示されるパスは、車線変更距離Lの長さの1/3を第1区間とし、車線変更距離Lの長さの2/3を第2区間とした場合の例である。
また、パスは、その他の高次の多項式で表されることとしてもよい。また、パス生成部16B−2は、車両進行方向の移動距離Xと横移動距離Yとの関係を予め記憶しているルックアップテーブルを参照してパスを生成することとしてもよい。
また、図12(b)に示す例のように、パス生成部16B−2は、車線変更前の車線中心線CL1(y=0)と、車線変更先の車線中心線CL2(y=W)に対して、車両進行方向の移動距離Xに応じた内分点を求めることにより、パスを生成してもよい。車両進行方向の移動距離Xに対応する車線中心線CL1,CL2上の点をそれぞれ点A(X0,Y0),点B(X1,Y1)として、点Aと点Bとの間を内分比Rで内分する内分点を点C(X2,Y2)とすると、x=Xのときの内分比Rは、以下の式(3)で表される。
R=3・(X/L)^2 (X≦L/3)
R=1−(3/2)・(1−X/L)^2 (X>L/3)・・・(3)
そして、パス生成部16B−2は、以下の式(4)により点Cの座標を求めることによりパスを生成する。
X2=(1−R)X0+R/X1
Y2=(1−R)Y0+R/Y1 ・・・(4)
なお、式(3)において、以下の関係が成立する。
X0=X1=X2=X
Y0=0
Y1=W
次に、図13、図14を参照して、区間設定部15による第1区間及び第2区間の設定の例を説明する。図13は、車両の走行位置に沿って設定される第1区間及び第2区間、並びに操舵角度の変化を示す図である。区間設定部15は、図13の例に示すように、第2区間における操舵角度の絶対値が第1区間における操舵角度の絶対値より小さくなるように、第1区間及び第2区間を設定する。
例えば、区間設定部15は、図13(a)に示すように、第1区間に比べて第2区間を長く設定することにより、第2区間における操舵角度の絶対値d1rが第1区間における操舵角度の絶対値d1lより小さくなるような制御を実現させる。車線変更の際に発生する横加速度は操舵角度とほぼ比例するため、このような制御が実行されることにより、第2区間において発生する横加速度が抑制されるので、乗員の乗り心地を向上できる。
また、図13(b)に示すように、区間設定部15が、第1区間に比べて第2区間を長く設定し、さらに、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18が、第2区間における最大の操舵角度d2rに至る時間を短縮して、操舵角度d2rに操舵した状態で一定時間走行するように制御を実行してもよい。このように制御されることにより、さらに乗員の乗り心地を向上できる。
図14は、車両の走行位置に沿って設定される第1区間及び第2区間、並びに操舵角度及び操舵速度の変化の例を示す図である。図14において、操舵角度D3に示される操舵制御を実行する場合において、第1区間における操舵速度の絶対値のうち最も大きい値を第1区間操舵速度最大値と定義する。即ち、第1区間操舵速度最大値は、操舵速度sv3A及びsv3Bのうち大きい方の値である。また、第2区間における操舵速度の絶対値のうち最も大きい値を第2区間操舵速度最大値と定義する。即ち、第2区間操舵速度最大値は、操舵速度sv3C及びsv3Dのうち大きい方の値である。
かかる場合に、区間設定部15が、第1区間に比べて第2区間を長く設定し、さらに、操舵角度目標生成部16、車速目標生成部17及び車線変更制御部18が、第2区間操舵速度最大値より第1区間操舵速度最大値の方が大きくなるように制御を実行してもよい。このように、第1区間での操舵速度を大きくして、より速く最大舵角に制御することにより、第1区間において発生する横加速度の最大値を低減できる。これにより、乗員の安心感を向上できる。