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JP6716130B2 - 抗アレルギー剤 - Google Patents

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Description

本発明はアレルギー抑制・治療の分野に属する。詳しくは、本発明は抗アレルギー剤及びその用途に関する。
メラニンはあらゆる生物体内に広く分布する天然色素の一種である。アミノ酸のチロシンからチロシナーゼの働きにより生合成され、システインが存在しない場合にはユーメラニン、システインが存在する場合にはフェオメラニンとなる。ユーメラニンはインドール骨格を持つ5,6-Dihydroxyindole(DHI)およびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone(IQ)、もしくは5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acidおよびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(IQCA)がランダムに重合した高分子と報告されている(非特許文献1)。化学合成したメラニンの研究では、インドールユニットの2,4,7位で単結合し、ユニットが11個以内のシート状の重合体を形成する。さらにこのシート状構造は4〜5層重なり、厚さ6〜10nm程度の基本構造単位(protomolecule)を形成していると報告されている(非特許文献2)。動物体内では、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の中で重合し生成する。皮膚では紫外線の暴露によりメラノサイトが活性化し、メラニンを合成してメラノソームとして細胞外へ放出し、ケラチノサイトに受け渡し、ここでメラニンが現れる。ケラチノサイトに留まったメラニンはそこで紫外線を吸収し、紫外線傷害から深部の細胞を保護している(非特許文献3)。また、眼の脈絡膜や網膜色素上皮にもメラノサイトは存在し、眼における光量調節に寄与していることも知られる。さらに、内耳にも存在しているが、その意義については不明な部分が多い。
通常、メラノサイトから分泌されるメラニンは、ターンオーバーによって体外へ排出される仕組みとなっている。メラニンの生合成経路は明らかとなっており、工業的に化学合成も可能である。しかしながら、人工合成したメラニンや生物から抽出したメラニンを生命科学や医療分野へ利用した例は稀有である。特に、培養系細胞や動物個体に処理することで、その働きを人工的に調節した報告はない。これは、生物が持つ天然のメラニンにせよ市販の合成メラニンにせよ、分子量が不均一な重合体であること、またあらゆる溶媒に溶解しにくいという物性的問題があったため、メラニンの生物活性を試験的に測定することが難しいからであると考えられる。
尚、合成可溶性メラニンにヒト免疫不全ウィルスの複製を阻害酢作用(特許文献1)、サイトカイン産生を抑制する作用(特許文献2)及び抗炎症作用(特許文献3)が報告されている。
米国特許第5057325号 特表2001−512446号公報 特表2003−509529号公報
Swift, J. A. 2009. Speculations on the molecular structure of eumelanin. Int J Cosmet Sci 31: 143-150. Littrell, K. C., J. M. Gallas, G. W. Zajac, and P. Thiyagarajan. 2003. Structural studies of bleached melanin by synchrotron small-angle X-ray scattering. Photochem Photobiol 77: 115-120. Ham, W. T., Jr., J. J. Ruffolo, Jr., H. A. Mueller, and D. Guerry, 3rd. 1980. The nature of retinal radiation damage: dependence on wavelength, power level and exposure time. Vision Res 20: 1105-1111.
メラニンの新たな作用を見出し、当該作用の応用(用途の提供)を図ることを課題とする。
本発明者らはメラニンの新たな作用を見出すべく、メラニンの溶解性に注目した検討を行うとともに、メラニンのアレルギー疾患の予防・治療への応用の可能性を探った。具体的には、まず、レーザーアブレーションによって微粒子化することで均一性の高いメラニン分散溶液(分散化メラニン)の調製に成功し、当該分散化メラニンの作用・効果を検討した。その結果、分散化メラニンが肥満細胞の脱顆粒を濃度依存的に抑制した。一方、メラニンの可溶化を試み、様々な溶媒を用いた実験を行ったところ、メラニンがHepesバッファーに高い溶解性を示すことが明らかとなった。即ち、可溶化メラニンを調製することに成功した。可溶化メラニンも、肥満細胞の脱顆粒を濃度依存的に抑制した。さらに、特許文献1に記載された方法を参考にして合成したメラニン(L-Dopaを初期物質とした)とメラニン様物質(L-Dopamineを初期物質とした)はいずれも、500mMのHepesまたはH2Oに溶解し、肥満細胞の脱顆粒を前処理濃度依存的に抑制した。
以上の結果を受け、メラニンの抗アレルギー剤として有用性を検証すべく、既存の抗アレルギー薬を用いた比較実験を行ったところ、分散化メラニン/可溶化メラニンは既存の抗アレルギー薬と同等の濃度で抗アレルギー活性を示した。更なる検討によって、メラニンの細胞毒性は低いこと、タンパク質結合型のメラニン(メラノプロテイン)には抗アレルギー活性がないこと、抗アレルギー活性とメラニンの分子量の関係など、メラニンの実用化を図る上で重要且つ興味深い知見が得られた。
ところで、花粉症などのアレルギーでは、IgE抗体が肥満細胞などのIgE受容体に結合し、ここにIgE特異的な抗原(花粉)が結合すると、ヒスタミンやセロトニン、ロイコトリエンなどの化学メディエーターが産生される。ヒスタミンは神経受容体(H1受容体)と結合し、血管拡張や血管透過性亢進、腺分泌促進などの薬理作用を示し、くしゃみや鼻汁を発生させ、アレルギー症状が現れる。薬ヒスタミン薬(塩基性抗アレルギー薬)はH1受容体の作用を抑制し、ヒスタミンによる各種アレルギー症状を抑える。また、抗ヒスタミン効果のない酸性抗アレルギー剤は、化学メディエーターの遊離を抑制し、抗アレルギー作用を示す。ステロイドは免疫系に強く作用し、非常に強力な症状改善効果がある。これらの塩基性又は酸性抗アレルギー薬は眠気やめまい、頭痛、倦怠感などを惹起し、ステロイドには感染症、胃潰瘍、骨粗鬆症、抑鬱などの副作用があり、容量・用法に注意が必要である。こうした現状から、より安全性の高いアレルギー抑制・治療剤の開発が国内外で強く求められている。本発明者らの検討によって得られた上記知見、即ち、可溶化メラニン又は分散化メラニンが抗アレルギー剤として有用であることは、当該要望に応える新たな手段の提供を可能にするものであり、医療の発展に多大な貢献をし得る。
以下の発明は上記の知見ないし成果、及び考察に基づく。
[1]可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、抗アレルギー剤。
[2]可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、[1]に記載の抗アレルギー剤。
[3]可溶化メラニンの分子量が50kDa以上である、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤。
[4]可溶化メラニンの分子量が50kDa〜100kDaである、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤。
[5]分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、[1]に記載の抗アレルギー剤。
[6]分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、[5]に記載の抗アレルギー剤。
[7]肥満細胞の活性化の抑制を介して薬効を発揮する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤。
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤を含有する、抗アレルギー用組成物。
[9]医薬、医薬部外品、化粧料又は食品である、[8]に記載の抗アレルギー用組成物。
イカ墨調製液による処理濃度依存的な脱顆粒抑制効果。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各濃度のイカ墨調製液をE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSA(Dinitrophenyl-human serum albumin)を処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、PBSのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 メラニンの溶解法。A. レーザーアブレーション技術による微粒子化分散溶液の作製。市販の合成メラニンを1mg/mlとなるようにPBSに加え、一定条件のレーザーを照射した。B. 微粒子分散化メラニンによる処理濃度依存的な脱顆粒抑制効果。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各濃度の微粒子分散化メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 A. 各種生化学的中性バッファー(0.5M)に溶解したメラニンの溶解性の検討。それぞれのバッファーに50mg/mlとなるよう合成メラニンを加えた後、10,000×gで30分遠心後、溶液10μlをろ紙に塗布した(a)。その後、溶液を激しく撹拌し、直ちに溶液10μlをろ紙に塗布した(b)。B. 可溶化メラニンによる処理濃度依存的な脱顆粒抑制効果。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各濃度のHepes溶解メラニン(可溶化メラニン)をE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 分散化又は可溶化メラニンと抗アレルギー剤(ケトチフェンフマル酸)脱顆粒抑制効果の比較。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種、各濃度のメラニン又はケトチフェンフマル酸をE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 合成可溶性メラニン、合成可溶性メラニン様物質による脱顆粒抑制効果。特許文献1記載の方法を元に、可溶性メラニン、可溶性メラニン様物質を合成し取得した。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞にL-Dopaの酸化により合成した各濃度の可溶性メラニン(A.Hepesに溶解、B.H2Oに溶解)、L-Dopamineの酸化により合成した各濃度の可溶性メラニン様物質(C.Hepesに溶解、D.H2Oに溶解)をE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 合成可溶性メラニン、合成可溶性メラニン様物質による脱顆粒抑制効果(図5の続き)。 脱顆粒を抑制するHepes溶解メラニンの処理濃度および前処理時間の検討。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種濃度のHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した(A)。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞にHepes溶解メラニンを、最終濃度0.5mg/mlとなるようにE-MEM培地に希釈して投与した。15分〜2時間の間の様々な前処理時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した(B)。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 細胞毒性試験。コンフルエント状態のRBL-2H3細胞に微粒子分散化メラニン、もしくはHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。24時間後、CCK-8試薬にて細胞生存率を計測した。細胞死を誘導する陽性対照としてスタウロスポリン(STPO)を投与した。Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)とした。 合成メラニンと精製イカ由来メラニンの脱顆粒抑制効果の比較。市販の合成メラニンはMP-Biomedicals、Sigma-Aldrichのメラニンを、セイヨウコウイカ由来メラニンはSigma-Aldrichのメラニンを用い、それぞれHepesバッファーに溶解した。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種、各濃度のHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、抗原DNP-HSAを処理して脱顆粒を誘導した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 (A)Hepes溶解メラニンによる処理濃度依存的なシグナル分子のリン酸化の抑制。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種濃度のHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、DNP-HSAで5分間刺激し、細胞溶解液処理を行い可溶性タンパク質を抽出した。タンパク質濃度を計測後、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングを行い、特異的抗体を用いてバンドを検出した。(B) Hepes溶解メラニンによるシグナル分子のリン酸化抑制の経時変化解析。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に0.5mg/mlのHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、DNP-HSAで5分間、15分間又は30分間刺激し、細胞溶解液処理を行い可溶性タンパク質を抽出した。タンパク質濃度を計測後、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングを行い、特異的抗体を用いてバンドを検出した。 微粒子分散化メラニンによる処理濃度依存的なシグナル分子のリン酸化の抑制。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種濃度の微粒子分散化メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、DNP-HSAで10分間刺激し、細胞溶解液処理を行い可溶性タンパク質を抽出した。タンパク質濃度を計測後、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングを行い、特異的抗体を用いてバンドを検出した。 微粒子分散化メラニンによるカルシウムリリース抑制。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各濃度(0.0625〜0.5mg/ml)の分散化微粒子メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。2時間後、Fura-2AMを細胞内に取り込ませ、抗原DNP-HSAで刺激を開始し、約5分間の蛍光量を経時的にモニターした。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。a; PC, b; 0.0625mg/ml, c; 0.125mg/ml, d; 0.25mg/ml, e; 0.5mg/ml, f; NC 可溶化メラニンによるNF-κBの核内移行抑制。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に各種濃度のHepes溶解メラニンをE-MEM培地に希釈して投与した。24時間後、抗原DNP-HSAで6時間処理して刺激した。DNP-HSAを含まないE-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)とした。細胞質タンパク質と核タンパク質を分離し、ウェスタンブロッティングにてNF-κBのバンドを検出した。 受動的全身性アナフィラキシー(PSA)誘導試験。抗DNP抗体(IgE)20μg/100μlをマウスの尻静脈から注射した。翌日、抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定後、イカ墨調製液もしくはPBSに希釈したDNP-HSA(抗原)1mg/100μlをマウスの尾静脈に注射し、10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。n=3〜5/群 能動的全身性アナフィラキシー(ASA)誘導試験。BSA 2mg/200μlをフロイント完全アジュバントと共にマウスの皮下に投与した。3週間後、追加免疫を行った。(A)抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定した。イカ墨調製液をマウスの尾静脈に注射した(メラニン相当2mg/ml)。BSA(抗原)2mg/200μlをマウスの腹腔に注射し、10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。n=4〜5/群。(B)BSA(抗原)10mg/500μlをマウスの腹腔に注射し、30分後、1mg/200μlのHepes溶解メラニンを腹腔内投与した。抗原投与24時間後のマウスの生死数を計測した。n=14〜15/群。 脱顆粒を抑制するHepes溶解メラニンの分子量の検討。Hepesに溶解したメラニンを限外ろ過膜(100kDa、50kDa、30kDa)でサイズ分画した。メラニン濃度をHepesバッファーで調整後、脱顆粒試験に用いた。E-MEM培地を投与したものをネガティブコントロール(NC)、Hepesのみを希釈したE-MEM培地を投与後、DNP-HSA処理をしたものをポジティブコントロール(PC)とした。 微粒子分散化メラニンを処理したRBL-2H3細胞の透過型電子顕微鏡像。微粒子分散化メラニンを0.5mg/mlで2時間処理し、洗浄、固定後、70nm厚の超薄切片を作製し電子顕微鏡観察を行った。細胞の全体像(左パネル)とメラニンが付着した領域の拡大像(右パネル)。細胞表面のメラニンは黒矢印、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれたメラニンは白矢印にて示した。各電子顕微鏡像の左下の数値は拡大倍率を表す。 ユーメラニンにおけるインドールユニットの単結合様式。5,6-Dihydroxyindole(DHI)とIndole-5,6-quinone(IQ)が関与する場合(F)と、5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acid(DHICA) とIndole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(IQCA)が関与する場合(G)。 ユーメラニンおよびメラニン様物質の合成経路。ユーメラニンはTyrosineを出発物質として生体内で合成される。試験管内では特許文献1記載の方法でメラニンの人工合成が可能である。出発物質をL-dopaにした場合はユーメラニン、L-dopamineにした場合はメラニン様物質が生成する。
1.抗アレルギー剤
本発明の第1の局面は抗アレルギー剤に関する。本発明の抗アレルギー剤の有効成分は分散化メラニン又は可溶化メラニンである。「分散化メラニン」とは、粒子径の均一性が高い粒子が溶媒中で分散した状態のメラニンをいう。分散化メラニンの平均粒子径は例えば70nm〜130nm、好ましくは90nm〜110nmである。本発明者らの検討によって、レーザーアブレーション技術を利用すると、均一性の高い粒子径で分散した状態のメラニンを調製できることが判明した。そこで、好ましくは、レーザーアブレーションによる処理によって分散化メラニンを調製する。例えば、生理的緩衝液(典型的にはPBSや生理的食塩水)、あるいは純水等にメラニンを懸濁した状態でレーザーアブレーション処理することにより、分散化したメラニンを含有する溶液(分散化メラニンの溶液)を調製することができる。
「可溶化メラニン」とは溶解状態のメラニンである。本発明者らの検討によって、疎水性、親水性の別を問わず、あらゆる溶媒に対して難解性を示すとされるメラニンが、Hepes緩衝液(検討には代表例として500mM Hepes(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)、pH 7.5を使用)には容易に溶解するという、驚くべき事実が明らかとなった。そこで、好ましくは、Hepes緩衝液に溶解することによって可溶化メラニンを調製する。Hepes緩衝液の一部の成分の含有量を変化させたり又は一部の成分を除外したり、或いは成分を追加したりすることによって、組成の部分的な修正を施したもの(修正Hepes緩衝液)に溶解し、可溶化メラニンを調製することにしてもよい。可溶化メラニンの分子量は特に限定されないが、好ましくは50kDa以上であり、更に好ましくは50kDa〜100kDaの範囲内である。分子量が小さすぎると抗アレルギー活性が低下する。同様に分子量が大きすぎても抗アレルギー活性が低下する。
用語「メラニン」は、構造の類似する各種メラニン(ユーメラニン、フェオメラニン、ニューロメラニン、アロメラニン、フィトメラニン等)を包括する用語として用いられる。メラニンは動物、植物、菌類、真正細菌等に認められる色素である。本発明におけるメラニンの由来は特に限定されない。メラニンは、化学合成(例えば特表2003−509529号公報を参照)、酵素合成(例えば特開平07−313155号公報を参照)、天然物(例えばイカスミ、タコスミ、キノコ、バナナ、アサガオ種子など)からの抽出/精製、メラニン産生細胞(マウスB16、B16F10、シリアンハムスターRPMI 1846、ヒトHMY-1、MNT-1、HM3KO、A375、SK-Mel-28など)からの抽出/精製によって調製することができる。また、各種メラニンが市販されており(例えばSigma-Aldrichが提供するチロシンの過酸化水素処理により酸化的に合成されたメラニン、MP-Biochemicalsが提供するチロシンの過硫酸処理により酸化的に合成されたメラニン)、このような市販品を用いることにしてもよい。メラニンの純度ないし精製度は特に限定されない。従って、期待される作用効果、即ち、抗アレルギー活性を示す限り、例えば、天然物由来の粗精製メラニンなど、精製度の比較的低いメラニンを用いることにしてもよい。
好ましい一態様では、ユーメラニン、すなわち5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)、インドール-5,6-キノン(IQ)、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸(DHICA)、インドール-5,6-キノン-2-カルボン酸(IQCA)、がモノマーとして含まれるポリマーが有効成分となる。構造及び/又は分子量の点で異なる、二種以上のメラニンが混在した状態のものを有効成分としてもよい。尚、本発明におけるメラニンはタンパク質成分を含むものではなく、即ち、いわゆるメラノプロテインから峻別される。
理論に拘泥する訳ではないが、本発明の抗アレルギー剤は、肥満細胞の活性化(脱顆粒)の抑制を介してその薬効(抗アレルギー活性)を発揮する。代表的な抗アレルギー薬として第2世代抗ヒスタミン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬が知られているが、本発明の抗アレルギー剤はこれらのいずれにも属さず、細胞膜受容体−リガンド相互作用、若しくは抗原抗体反応相互作用の抑制に寄与するメカニズムで肥満細胞の活性化を抑制するという、これまでにない機序により抗アレルギー活性を示すと考えられる。
2.抗アレルギー用組成物
本発明の抗アレルギー剤はアレルギー疾患の予防又は治療に有用である。そこで本発明は別の局面として、本発明の抗アレルギー剤を含有する抗アレルギー用組成物を提供する。本発明の組成物はアレルギー疾患の予防又は治療目的で使用される。本発明の組成物はI型アレルギー(即時型アレルギー、アナフィラキシー型)、II型アレルギー(細胞傷害型)、III型アレルギー(免疫複合体型、Arthus型)、IV型アレルギー(遅延型アレルギー)等、様々なアレルギーに対して適用され得る。本発明の組成物を適用可能な疾患ないし病態の例として、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、アレルギー性膀胱炎、アレルギー性脳炎、口腔アレルギー、食品アレルギー、薬剤アレルギーを挙げることができる。
本発明の組成物の形態は特に限定されないが、好ましくは医薬、医薬部外品、化粧料又は食品である。即ち、本発明は好ましい態様として、本発明の抗アレルギー剤を含有する医薬組成物、医薬部外品組成物、化粧料組成物及び食品組成物を提供する。
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば点鼻剤、点眼剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物を提供できる。
本発明の医薬組成物には、期待される治療効果や予防効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。同様に本発明の医薬部外品組成物には、期待される改善効果や予防効果等を得るために必要な量の有効成分が含有される。本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物に含まれる有効成分量は一般に剤型や形態によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物はその剤型・形態に応じて経口又は非経口(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜、塗布など)で対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では、適用対象はヒトである。
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物の投与量・使用量は、期待される効果が得られるように設定される。有効な投与量の設定においては一般に適用対象の症状、年齢、性別、体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与・使用スケジュールの作成においては、適用対象の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
以上の記述から明らかな通り、本出願は、アレルギー疾患の患者に対して本発明の医薬組成物を治療上有効量投与することを特徴とする、アレルギー疾患の治療・予防法も提供する。
上記の通り、本発明の一態様は化粧料組成物である。本発明の化粧料組成物は抗アレルギー剤と、化粧料に通常使用される成分・基材(例えば、各種油脂、ミネラルオイル、ワセリン、スクワラン、ラノリン、ミツロウ、変性アルコール、パルミチン酸デキストリン、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール、パラベン、カンフル、メントール、各種ビタミン、酸化亜鉛、酸化チタン、安息香酸、エデト酸、カミツレ油、カラギーナン、キチン末、キトサン、香料、着色料など)を配合することによって得ることができる。
化粧料組成物の形態として、フェイス又はボディー用の乳液、化粧水、クリーム、ローション、エッセンス、オイル、パック、シート、洗浄料などを例示できる。化粧料組成物における有効成分の添加量は特に限定されない。例えば0.1重量%〜60重量%となるように有効成分を添加するとよい。
上記の通り、本発明の一態様は食品組成物である。本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類(飴、ガムなど)、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
本発明の食品組成物には治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
メラニンの新たな用途(特に医療等への応用)を見出すべく、以下の研究を行った。まず、メラニンの特性ないし活性を評価する上で障害となる難溶解性に注目し、メラニンを溶解又は分散化する方法の創出を目指した。
1.材料と方法
(1)細胞と培養条件
マスト細胞の培養系モデル細胞として、ラット好塩基球性白血病細胞株であるRBL-2H3を用いた。E-MEM培地(Wako Pure Chemical Industries)に10%FBS、100Uペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(nacalai tesque)を添加し培養した。
(2)試薬
メラニンは市販の合成メラニン(MP biomedicals、Sigma-Aldrich)を用いた。抗アレルギー剤の陽性対照化合物として、ケトチフェンフマル酸塩(Wako Pure Chemical Industries)を用いた。イカ由来メラニンはMelanin from Sepia officinalis (Sigma-Aldrich)を用いた。
(3)可溶性メラニンの調製
(i) レーザーアブレーション処理メラニン(微粒子分散化メラニン)
合成メラニンを0.1wt%となるよう滅菌済みPBS中に懸濁し、以下のレーザー照射条件にて分散メラニン溶液を取得した。
波長1064nm, FWHM 5ns, 1.2J/cm2・pulse, 10Hz, 2.5mmφ, 60分間
(ii) Hepes溶解メラニン
Hepes(Sigma-Aldrich)を超純水に溶解し、ポアサイズ0.22μmの親水性PVDF膜(Merck Millipore Corporation)を用いてフィルターろ過滅菌した(Hepesバッファー)。これに合成メラニンを50mg/mlとなるよう溶解し、室温にて保存した。
(iii) イカ墨調製メラニン
外科的にイカの墨袋を取り出し、内部のメラニン含有成分を採取した。重量を計測し、等重量のリン酸緩衝液に懸濁した。100℃、10分加熱し、10,000×gで10分間遠心後、上清を取得した。上記レーザーアブレーション法にて取得した分散メラニン溶液を、PBSを用いて段階希釈し、検量線サンプルを作成した。マイクロプレートリーダーを用いて405nmの波長を計測し、これにより、メラニン含量として2mg/mlのイカ墨調製メラニン溶液を作成した。
(iv) 本研究で使用した可溶性メラニン、もしくはメラニン様物質は次の方法で合成した。すなわち、1gのL-dopa、もしくはL-dopamine(WAKO)を0.025N NaOH 400mlで溶解し、1NのNaOH中の溶液を通過した一定の空気を送りながら室温で2日間インキュベートした。濃塩酸2mlを添加し、沈殿物を得、1,000×gで5分遠心後、沈殿物を超純水400mlに溶解した。ここに濃塩酸1mlを添加し、1,000×gで5分遠心して再び沈殿を得た。この操作を合計4回実施し、メラニンもしくはメラニン様物質を精製した。最後に0.025N NaOH 20ml(この時点でpHは中性であるが、中性になっていなければ1NのNaOHで中性にする)に溶解し、凍結乾燥した。
(4)脱顆粒試験(β−ヘキソサミニダーゼアッセイ)
RBL-2H3細胞を2×105個/ウェルとなるように96ウェル培養プレートに播種した。抗DNP(2,4-Dinitrophenyl)-モノクローナルマウスIgE抗体(Sigma-Aldrich)を最終濃度100ng/mlとなるよう投与し、37℃、5%CO2インキュベーターにて24時間培養し感作した。細胞を37℃に加温したPBSで洗浄後、E-MEM培地に希釈した種々の濃度(0.5〜0.03mg/ml)のメラニンを処理し、37℃、5%CO2インキュベーターにて2時間培養した。細胞を37℃に加温したTyrode’s buffer (140mM NaCl, 2.7mM KCl, 1.8mM CaCl2, 5.6mM glucose, 12mM NaHCO3, 0.37mM NaH2PO4・2H2O, 25mM Hepes, 0.49mM MgCl2, 0.1%BSA) で3回洗浄し、Tyrode’s buffer中で最終濃度200ng/mlとなるように50μlのDNP-HSA (2,4-Dinitrophenyl-Human Serum Albumin) を加え、37℃、5%CO2インキュベーターにて90分間培養を行い、脱顆粒誘導を行った。脱顆粒に伴い培養上清中に放出されるβ−ヘキソサミニダーゼ反応に関しては、培養上清50μlと反応基質液(0.44mg/ml p-ニトロフェニル N-アセチル-β-D-グルコサミニド, 0.08M クエン酸, 0.15M リン酸水素二ナトリウム)を加え、37℃で60分間反応させた後、反応停止液(0.2 M Glycine-NaOH溶液、pH10.7)を加え、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(BioRad)で測定した。なお、1% Triton-X 100入りのTyrode’s bufferを添加したサンプルを、細胞内の顆粒がすべて放出された陽性対照とし、DNP-HSAを含まないTyrode’s bufferを添加したサンプルを陰性対照とした。脱顆粒度は陽性対照の吸光度を100%とした各サンプルの相対値で表した。
(5)カルシウム濃度変化測定
RBL-2H3細胞を2×105個/ウェルとなるようにガラスボトムのブラック96ウェル培養プレートに播種した。抗DNP-IgE抗体を最終濃度100ng/mlとなるよう投与し、37℃、5%CO2インキュベーターにて24時間培養し感作した。PBSにて3回洗浄後、E-MEM培地に希釈した種々の濃度(0.5〜0.0625mg/ml)のメラニンを処理し、37℃、5%CO2インキュベーターにて2時間培養した。細胞を37℃のPBSで3回洗浄した後、市販のキット(Dojindo)を用いてマニュアルに従い、内部カルシウムの放出を測定した。すなわち、ローディングメディウム(Fura 2-AM + 0.04% Pluronic(登録商標)F-127 + 1.25mM Probenecid)を加え、37℃で1時間インキュベートした。ローディングメディウムを除去し、50μlのレコーディングメディウム(1.25mM Probenecid)を添加し、InCyt Im2 Dual-Wavelength Fluorescence Imaging System (INTRACELLULAR IMAGING)を用いて、蛍光データのモニタリングを開始した(励起波長:340 nm / 380 nm, 蛍光波長:510 nm)。開始10秒後、50μlのDNP-HSAを最終濃度200ng/mlになるように投与し、以後約5分間蛍光データを経時的に取得した。
(6)ウェスタンブロッティング
2×106/ml (E-MEM培地)のRBL-2H3細胞を24ウェルプレートに0.5ml播種し、100ng/ml DNP-IgEで24時間感作した。培地を取り除き、37℃のE-MEM培地に希釈した種々の濃度のメラニンを細胞へ2時間処理後、37℃のTyrode’s bufferで3回洗浄し、DNP-HSAを最終濃度200ng/mlになるように種々の時間(5分〜30分間)投与した。投与後、20mM Tris-HCl (pH7.5), 150mM NaCl, 1mM EDTA, 1% Triton X-100, 1mM PMSF, プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)およびホスファターゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)を含む細胞溶解緩衝液100μl中で溶解し、15,000×gの遠心で清澄化させた。上清(細胞溶解液)を回収し、タンパク質濃度測定後、4×SDSサンプル緩衝液とともに煮沸した。タンパク質量として10〜20μgの試料をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写後、特異的抗体で目的のタンパク質バンドを検出した。核タンパク質および細胞質タンパク質の分離はExtraction Kit (Invent Biotechnologies)を用い、製造業者のプロトコルに従って操作した。分離後のサンプルをウェスタンブロッティングに供した。
(7)受動的全身性アナフィラキシーPassive Systemic Anaphylaxis (PSA)誘導試験
PBSに希釈した抗DNP抗体(20μg/100μl)をBALB/cマウスの尾静脈に注射した。24時間後、抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定した。DNP-HSA(抗原)1mg/100μlをマウスの尾静脈に注射した。10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。
(8)能動的全身性アナフィラキシーActive Systemic Anaphylaxis (ASA)誘導試験
BSA(抗原)4mg/200μlをフロイント完全アジュバントと共にマウスの皮下に投与した。3週間後、追加免疫を行った。抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定した。スルメイカ由来メラニンをPBSで2倍希釈し、マウスの尾静脈に注射した。BSA(抗原)4mg/200μlをマウスの腹腔に注射し、10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。
(9)可溶化メラニンの分子量分画
メラニンを50mg/mlとなるように500mMのHepesバッファーに溶解後、100kDa、50kDa、30kDaの各サイズ分画が可能な遠心式限外ろ過デバイス(Amicon Ultra, Merck Millipore)を用いて、製造業者のプロトコルに従って処理した。このようにして分子量による分画を行った後、405nmの吸光度を測定し、メラニン濃度を一定(50mg/ml)になるようにHepesバッファーにて調整した。
(10)電子顕微鏡観察
RBL-2H3細胞を微粒子分散化メラニン(0.5mg/ml)で処理し、PBSにて洗浄後、0.1MのPBSにて調整した2%パラホルムアルデヒド(PFA)、2%グルタルアルデヒド(GA)溶液にて固定した。続いて2% GA (0.1M PBS)、2% osmium tetroxide(0.1M PBS)に順次処理し、固定を完了した。Quetol-812にて包埋し、樹脂包埋超薄切片法にて70nm厚のスライドを作成した。電子染色はuranyl acetate・Lead satin solutionを用い、透過型電子顕微鏡(JEM-1400Plus)にて撮影した。
2.結果
(1)イカ墨調製液によるRBL-2H3細胞の脱顆粒抑制
イカ墨は、含有リゾチームによる防腐作用や、イカ墨メラニンによる抗潰瘍作用(参考文献4)などを持つことが知られているが、抗アレルギー作用については報告がない。そこで、新鮮イカ(スルメイカ)の墨袋より採取したイカ墨液を調製し、ラット好塩基球性白血病細胞株のRBL-2H3を用い、抗原抗体反応による脱顆粒応答を抑制できるかどうか試みた。その結果、イカ墨調製液の前処理の濃度依存性に、脱顆粒応答が抑制された(図1)。イカ墨調製液は粗精製(Crude)であり、様々な生体由来成分が含まれているが、多量のメラニン(ユーメラニン)が含まれている。実験の結果、脱顆粒を抑制するCrudeのイカ墨調製液に含まれるメラニン量はおよそ0.1mg/ml以上の濃度であることが推定された。
(2)微粒子分散化および完全可溶化メラニン溶液の創製
脱顆粒を抑制する本体がメラニンである可能性が考えられたため、市販の合成された精製メラニンをRBL-2H3細胞に投与する実験を創案した。しかしながら、市販の合成メラニンは水のほか、様々な有機溶媒に不溶であり、顔料的な性質をもつ色素であることが知られている(参考文献5)。そこで、レーザーアブレーション技術により、均一な分散溶液を得た。得られた微粒子分散化メラニン溶液は、電子顕微鏡観察によれば粒子径が70〜130nmであることが判明した(図2A)。一方、様々な生化学的中性バッファーへの溶解を試みたところ、市販の合成メラニンは500mM、pH7.5のHepesバッファーに50mg/mlの濃度でほぼ完全に溶解することを始めて見出した(図3A)。このようにして得られた均一性の高い2種類のメラニン溶液を、以後の実験に用いた。
(3)微粒子分散化又は可溶化メラニンによる脱顆粒抑制効果
RBL-2H3細胞の脱顆粒抑制に寄与する成分がイカ墨に含まれるメラニンである可能性を調べるため、微粒子分散化又は可溶化したメラニンを脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。各メラニンで2時間前処理を行い、抗原刺激により脱顆粒応答を誘導した結果、処理濃度0.031mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3細胞の脱顆粒を有意に抑制した(図2B、3B)。市販の抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸と同じ処理濃度で比較した結果、ほぼ同程度の脱顆粒抑制効果が確認できた(図4)。
(4)合成可溶性メラニン又は合成可溶性メラニン様物質による脱顆粒抑制効果
特許文献1記載の方法を元に、L-Dopaの酸化により可溶性メラニンを、L-Dopamineの酸化により可溶性メラニン様物質をそれぞれ合成した。合成可溶性メラニン粉末をHepesもしくはH2Oに溶解し、RBL-2H3細胞に対する脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。また、合成可溶性メラニン様粉末をHepesもしくはH2Oに溶解し、RBL-2H3細胞に対する脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。実験の結果、HepesもしくはH2Oに溶解した合成可溶性メラニンは処理濃度0.031mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3の脱顆粒を有意に抑制した(図5A、B)。一方、合成可溶性メラニン様物質は、処理濃度0.062mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3の脱顆粒を有意に抑制した(図6C、D)。
(5)処理時間および処理濃度の検討
微粒子分散化メラニン、Hepes溶解メラニンともに、同じ処理時間、処理濃度でほぼ同程度の脱顆粒抑制効果が期待できると推定される。Hepesに溶解した可溶化メラニンを用い、RBL-2H3細胞の脱顆粒を抑制する処理濃度、および処理時間をさらに詳細に検討した。その結果、IgE感作されたRBL-2H3細胞の脱顆粒は、メラニンの処理濃度(図7A)、処理時間(図7B)依存性に抑制された。このことから、メラニンは細胞との間で一定の相互作用を示し、メラニンを受容したRBL-2H3細胞では何らかの仕組みで脱顆粒シグナル伝達が抑制される機序が存在することが示唆された。
(6)微粒子分散化又は可溶化メラニンの毒性試験
微粒子分散化又は可溶化メラニンによる脱顆粒抑制が、細胞毒性による影響であるかどうか調べるため、WST-8と生細胞との反応産物を測定する方法にて、細胞毒性の有無を調べた。RBL-2H3細胞に、脱顆粒を抑制した最大濃度以下の種々の濃度のメラニン、もしくはアポトーシス誘導剤のスタウロスポリンを処理し、24時間後の影響を調べた。その結果、スタウロスポリンを処理したサンプルでは細胞死が誘導されたのに対し、微粒子分散化又は可溶化メラニン投与サンプルでは細胞死誘導は見られなかった(図8)。
(7)脱顆粒抑制における合成メラニンとイカ由来精製メラニンとの比較
粗精製イカ墨調製液はRBL-2H3の脱顆粒を抑制したが、精製イカ由来メラニンでも脱顆粒を抑制できるかどうかを調べるために、市販のセイヨウコウイカ由来精製メラニンを用いて評価した。セイヨウコウイカ由来メラニンは合成メラニン同様、ほぼ均一にHepesに溶解した。しかしながら、脱顆粒試験の結果、セイヨウコウイカ由来メラニン処理では、脱顆粒の抑制効果は認められなかった(図9)。
(8)細胞内シグナル伝達解析
次に、メラニンによる脱顆粒抑制のメカニズム解析を行うため、シグナル伝達分子のリン酸化、カルシウムイオン濃度上昇、転写因子核内移行の解析を行った。抗原特異的IgEで感作した細胞が抗原によって刺激を受けると、FcεRIが凝集し、チロシンキナーゼSyk、PI3K、ホスホリパーゼC-γ(PLC-γ、プロテインキナーゼC(PKC)がリン酸化とともに活性化する。カルシウムイオン濃度の上昇を伴い、ERKを含む複数の中間シグナル伝達分子の介在を経て、NF-κBなどの転写因子の核内移行が起こり、関連する遺伝子発現調節が行われる。種々の濃度の可溶化メラニンを、DNP-IgE抗体で感作したRBL-2H3細胞に前処理し、抗原DNP-HSA処理5分後の細胞内可溶性タンパク質を抽出して、各種特異的抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。その結果、前処理濃度依存的なPLC-γ1、PLC-γ2、ERKのリン酸化抑制が認められた(図10A)。また、可溶化メラニンの処理条件を一定(0.5mg/ml, 2時間)として前処理を行った後、抗原刺激後の時間依存的なシグナル分子のリン酸化の変動を調べた結果、PKCα/βII、PKCδ/θ、そしてERKのリン酸化抑制が見出された(図10B)。微粒子分散化メラニン処理によってもほぼ同様の結果が得られた。すなわち、抗原DNP-HSA処理10分後におけるSyk、PI3K、PLC-γ1、PLC-γ2のリン酸化が、微粒子分散化メラニンの処理濃度依存性に顕著に抑制された(図11)。
次に、細胞内カルシウムイオン濃度変化への影響について調べた。Fura 2-AM試薬は細胞内に取り込まれてカルシウムイオンと結合でき、励起波長340nm/380nm、蛍光波長510nmの特性を持つカルシウム検出プローブである。DNP-IgE感作したRBL-2H3細胞に、微粒子分散化メラニンを前処理し、抗原DNP-HSA刺激後5分間のカルシウム結合蛍光物質量を測定した結果、微粒子分散化メラニンの処理濃度依存性にカルシウム濃度上昇が抑制された(図12)。
次に、転写因子の細胞核内への移行が抑制されるかどうか、代表的な転写因子であるNF-κBに注目して調べた。DNP-HSA抗体感作したRBL-2H3細胞に、各種濃度の可溶化メラニンを前処理後、抗原DNP-HSAで処理し、6時間後、細胞質タンパク質と各タンパク質を分離して抽出した。ウェスタンブロッティングを行った結果、NF-κB(p65)の核への移行は、メラニン処理濃度依存性に顕著に低下した(図13)。
以上の結果から、メラニンは抗原抗体反応の初期反応を抑制し、シグナル伝達タンパク質のリン酸化の抑制カルシウム濃度上昇の抑制、炎症性サイトカイン発現の抑制をもたらすものと考えられた。
(9)アナフィラキシー抑制解析
メラニンがin vivoのマスト細胞において機能的な役割を果たすことができるかどうかを調べるため、FcεRIが介在する受動的全身性アナフィラキシー(PSA)誘導試験を行った。DNP特異的-IgE抗体をBalb/cマウスの尾静脈より導入して感作した後、抗原であるDNP-HSA単独、もしくはイカ墨調製液とともに、同マウスの尾静脈に注射し、直腸温度計測により体温低下を測定した。その結果、イカ墨調製液は、抗原処理による体温低下を顕著に抑制した(図14)。次に、能動的全身性アナフィラキシー(ASA)誘導試験を行った。ウシ血清アルブミン(BSA)をフロイントの完全アジュバントと共にマウスの皮下へ免疫し、追加免疫過程を経て感作誘導を行った後、BSA抗原液、もしくはイカ墨調製液を含んだBSA抗原液をマウスの腹腔内へ投与した。直腸温度を計測して体温低下をモニターした結果、イカ墨調製液を含んだ抗原液を注射したマウスの直腸温度低下は顕著に抑制された(図15A)。さらに、マウスを用いた同様のASA誘導法にて、Hepes溶解メラニンを用いて、アナフィラキシー誘導を行った後にメラニンを投与し、マウスの固体死が抑制できるかどうか調べた。その結果、メラニンを投与したマウスの固体死は有意に抑制された(図15B)。
(10)RBL-2H3細胞の脱顆粒抑制をもたらすメラニンの分子量の検討
可溶化メラニンは重合度が様々なメラニンの混合物であると考えられる。RBL-2H3細胞の脱顆粒を効果的に抑制できるメラニンの分子量を調べるために、限外ろ過法による分子量分画を行った。用いた限外ろ過デバイスは分子量が100kDa、50kDa、30kDaそれぞれ分画できるものを用いた。Hepes溶解メラニンをこれらの限外ろ過膜によって100kDa以上、50kDa以上100kDa以下、30kDa以上50kDa以下それぞれに分画した。405nmの吸光度を測定後、メラニン最終濃度が0.125〜0.5mg/mlの分画サンプルを作成し、脱顆粒試験に用いた。実験の結果、図16に示すように、100kDa以上の分画メラニンは一定の濃度依存性の脱顆粒抑制効果が見られたが、分画前のメラニンに比較すると効果が減弱した。一方、50kDa以上100kDa未満の分画メラニンは、分画前とほぼ同じレベルの処理濃度依存的な脱顆粒抑制が見られた。しかしながら、分子量50kDa未満では処理濃度依存的な脱顆粒抑制効果が消失した。以上の結果から、RBL-2H3細胞の脱顆粒を効果的に抑制できる可溶化メラニンの分子量は少なくとも50kDa以上であると推定され、分子量分画法の工夫により、より効率的な脱顆粒抑制剤の創製が可能であることが示唆された。
(11)RBL-2H3細胞へ投与した微粒子分散化メラニンの所在観察
メラニンを細胞へ処理することで、メラニンが細胞全体を覆うことにより、抗原の細胞へのアクセスが阻害されている可能性が考えられる。そこで、脱顆粒を抑制する条件と同じ微粒子分散化メラニン処理をRBL-2H3細胞へ施し、透過型電子顕微鏡観察を実施した。観察の結果、図17に示すように、メラニンと考えられる微粒子は、少なくとも細胞膜全体を均一に覆っているのではなく、一部の領域に付着していることが判明した。さらに、一部のメラニンがエンドサイトーシスで細胞内へ取り込まれた小胞の存在も確認できた。この観察結果から、メラニンが抗原のアクセスを阻害している効果は限定的であり、むしろ細胞膜の流動性に影響を与えている可能性が考えられた。
3.考察
メラニンを医薬・生物学的に利用する試みは極めて少なく、人工合成メラニンによるHIV複製阻害(参考文献6)、サイトカイン調製能(参考文献7)、といった先行研究は存在するが、抗アレルギーを目的とした利用への発明報告は国内外を問わずなされていない。本研究により、イカ墨調製液、レーザーアブレーションによる微粒子分散化メラニン、Hepes溶解メラニンが肥満細胞の脱顆粒を抑制できることが示された。言い換えれば、生体投与による抗アレルギー剤としてメラニンを利用できることが判明した。イカ墨調製液はメラニン換算量として0.05mg/ml以下の処理条件では有意なRBL-2H3細胞の脱顆粒抑制効果は見られなかった。イカ墨にはメラニンのほか、多種多様な多糖類、アミノ酸、タンパク質成分が含まれることから、これらがメラニンのRBL-2H3細胞への相互作用を阻害したこと、及び/又はメラニンの一部はタンパク質結合型であり活性を示さないこと、がその理由と推定された。そこで、合成メラニンによる脱顆粒抑制試験を実施した結果、予想通り、イカ墨調製液よりも低いメラニン濃度(少なくとも0.031mg/ml)で、RBL-2H3細胞の脱顆粒が抑制され、脱顆粒抑制をもたらす本体はメラニンそのものであることが示された。
精製メラニンを細胞や生体に直接投与・作用させ、機能的な働きを調べる実験や研究はこれまでほとんど実施されなかった。この理由として、メラニンはメラノサイトが産生し、紫外線による体細胞障害を防ぎつつ、一定のターンオーバーで上皮組織の剥離とともに体外に排出されるという、基本的かつ主要な仕組みと機能が詳細に解明されていること、そしてメラニンは構造が一定でなく、水やアルコールの他の有機溶媒に不溶の性質を持っており、処理実験が極めて困難であったことが考えられる。本研究によって、メラニンの微粒子分散化に成功するとともに、メラニンがHepesバッファーに溶解するという、驚くべき知見が得られた。肥満細胞の脱顆粒抑制剤、アレルギー予防・治療剤、アナフィラキシー予防・治療剤、炎症性サイトカイン抑制剤の開発につながる成果である。
メラニンはin vitroの実験結果で市販薬とほぼ同等の脱顆粒効果を示した。その一方でメラニンには細胞死を誘導する毒性が見られず、安全性が高いであろうことがメラニンの特有且つ重要な特徴の一つである。イカ墨は、食材にも利用されているように、その安全性の高さは既知の事実である。特筆すべきは、イカ墨調製液がin vitroで肥満細胞の脱顆粒を抑制し、in vivoにおいて受動的全身性アナフィラキシーと能動的全身性アナフィラキシー反応を抑制したにも関わらず、精製されたヨーロッパコウイカ由来のメラニンは肥満細胞の脱顆粒を全く抑制しなかったことが挙げられる。この理由として、精製イカ由来メラニンはタンパク質結合型であることが考えられる。肥満細胞と結合し、脱顆粒を抑制するメラニンの一定構造が存在していると推定され、タンパク質結合型メラニンの場合には、メラニンがタンパク質に包含されていることで、肥満細胞と相互作用できるメラニンの構造が露出されていないことが可能性として考えられる。イカ墨調製液には前述のようにタンパク質結合型のメラニンが含まれるが、一部に遊離メラニンが存在し、肥満細胞へ結合することで脱顆粒を抑制できたと考えられる。従って、イカ墨由来のタンパク質結合型メラニンであっても、タンパク質を除去できれば、単独のメラニンと同等の効果が期待できると予想される。
メラニンによる脱顆粒抑制効果の機序について調べるため、関連するシグナル伝達分子の解析を行った。抗原刺激で惹起されるFcεRI凝集により起動する代表的なシグナル伝達分子のリン酸化をウェスタンブロッティングにより調べたところ、可溶化メラニンを前処理することにより、Syk、PI3K、PLC-γ1、PKC-γ2、PKCα/β、PKCδ/θ、ERKの各リン酸化のみならず、カルシウムイオン濃度の上昇、転写因子の核内移行が顕著に抑制された。この事実は、FcεRIに受容されたIgE抗体と、抗原の結合直後の応答イベントが阻害されていることを強く示唆している。その機序は不明であるが、細胞膜流動性の阻害、メラニンのエンドサイトーシスによる細胞表面上のIgE感作FcεRIの減少、IgE架橋阻害、未知のメラニンレセプターを介した活性化抑制性シグナルの発生等の仕組みが関与している可能性が考えられる。いずれにせよ、肥満細胞の脱顆粒自体の抑制のみならず、炎症性サイトカインの代表的な転写因子の核内移行を抑制したことは、抗炎症物質としての働きを持つことを同時に示すものであり、慢性、急性炎症の抑制剤としての機能も強く示唆するものである。
In vitroでのクリアな結果は、必ずしも動物個体で再現できるとは限らない。しかしながら本研究では、アレルギーモデルマウスを用いた検証においても、メラニンは有効な抑制効果を示した。IgE抗体を静脈注射することで人工的に感作させ、抗原とともにイカ墨調製液を静脈注射した例では、アナフィラキシー反応による体温低下が顕著に抑制された。また、抗原を皮下へ注射し、感作を成立させたマウスを用い、予めイカ墨調製液を静脈注射した場合において、抗原刺激による体温低下が効果的に抑制された。さらに、全身性のアナフィラキシー反応が起こったマウスに対して、事後的にHepes溶解メラニンを腹腔内へ投与することにより、アナフィラキシーショック死を免れたマウスが有意に増加した。この結果により、メラニンは肥満細胞の脱顆粒を抑制するばかりでなく、ヒスタミンや炎症性メディエーターが関わる細胞応答の抑制にも作用を及ぼしている可能性が考えられる。また、メラニンを静脈注射するなど、より効果的な治療方法を提案できる可能性が考えられる。以上をまとめると、アレルギーショック反応に対する予防的な利用のみならず、対症療法的な治療剤としてもメラニンを利用できる可能性が示された。
可溶化メラニンは様々な重合分子の混合物と考えられる。脱顆粒を抑制するメラニン分子のサイズに特徴があるのかどうか、限外ろ過法にてサイズ分画し、それぞれの分画に含まれる可溶化メラニンの脱顆粒抑制効果を調べた。その結果、50kDa以上100kDa以下の範囲にある分子量の可溶化メラニンが、サイズ分画を行う前の可溶化メラニンと同程度の脱顆粒抑制効果を示した。
メラニン(ユーメラニン)は基本骨格であるインドールユニット(図18A)がランダムに重合した高分子とされている(参考文献1)。モノマーとして5,6-Dihydroxyindole(図18B)およびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone(図18C)、もしくは5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acid(図18D)およびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(図18E)がプレカーサーとして重合していると考えられている。合成メラニンによる結晶学的解析から、これらインドールユニットが11個以内で重合したシート構造を形成し(図18F、G)、大きさは30〜40Å、そして層間はπ−π結合による4〜5層状程度が重なった厚さが6〜10nmの基本構造を形成することが報告されている(参考文献2)。本研究で用いたメラニンは単層分子量がおよそ1,780(C77H98O33N14S)とされ、4層〜5層から成る厚さ10nmの基本分子単位と考えると、単位あたりの分子量は7,120Da〜8,900Daとなる。透過型顕微鏡観察で測定した微粒子分散化メラニンのサイズはおよそ100nmであり、この考え方を適用すれば、基本単位が10個分、すなわち71,2kDa〜89kDaということになる。このことは、脱顆粒を抑制した可溶化メラニンが50kDa〜100kDaである事実と合致する。
ユーメラニンはDopachromeが脱炭酸で生成した5,6-Dihydroxyindole(DHI)からできるIndole-5,6-quinone(IQ)と、Indole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(DHICA)がランダムに重合したもので、重合体を構成するユニットのなかにカルボキシル基を含む。一方、メラニン様物質はドーパミンが出発物質のため、基本ユニットがIQのみであることから、重合体の中にカルボキシル基を含まない(図19)。本発明研究から、ユーメラニンであってもメラニン様物質であっても脱顆粒の抑制効果が確認でき、カルボキシル基の存在は必須ではないことが示唆された。しかしながら、カルボキシル基を含まないメラニン様物質よりも、カルボキシル基を含むメラニンの方がより低濃度で効果的に脱顆粒を抑制する傾向が見られた。
透過型電子顕微鏡観察の結果から、少なくともメラニンは細胞全体を覆っているわけではないことが明らかとなった。投与した微粒子分散化メラニンは細胞表面の一部の領域に付着しており、さらに一部は細胞内へ取り込まれている観察結果を得た。このことから、細胞へ処理したメラニンが抗原の細胞(FcεRI受容体に結合したIgE抗体)へのアクセスを単純に阻害しているというよりも、細胞表面に結合、又は内部に侵入したメラニンが、何らかの仕組みでシグナル伝達を阻害している可能性が考えられる。例えば、細胞膜流動性の鈍化とそれに伴う分子架橋阻害、あるいはメラニンのエンドサイトーシスに伴うFcεRI結合抗体のインターナリゼーションによる感度低下、脱顆粒シグナル阻害分子の活性化、といった可能性が考えられる。
以上、本研究によって、肥満細胞の活性化抑制を介する抗アレルギー剤としてメラニンを利用できることを初めて示した。元々ヒト自身の体内で合成される物質であり、またメラニンを含有するイカ墨も食材として利用されていることから、メラニンは安全性の高い物質であるといえる。化学構造が類似しているフェオメラニンや、ニューロメラニンにも同様の効果が期待されるが、ドーパミンを出発物質として、試験管内で酸化により重合させて作製したメラニン様物質(参考文献8)であっても、脱顆粒抑制効果を示したことから、側鎖のカルボキシル基は必ずしも必須でないことが伺える。しかしながら、カルボキシル基を含まないメラニン様物質よりも、カルボキシル基を含むメラニンの方がより低濃度で効果的に脱顆粒を抑制する傾向が見られたことから、天然体メラニンを用いた方がより望ましい抗アレルギー剤となり得ると考えられる。また、一定の分子サイズも重要と考えられ、50kDa未満の低分子の場合は、極めて高濃度処理が必要である可能性があり、100kDaを超える場合には低濃度での脱顆粒抑制効果が減少する。おそらく脱顆粒抑制のエフェクター構造部位が存在しており、分子量が小さくなるほどエフェクター部位の数が減少し、分子量が大きくなるほどエフェクター部位の数は増加するが、大きすぎると立体障害効果が現れ、細胞へ効果的にアクセスできないのではないかと推定される。詳細な機序は現時点では不明であるが、メラニンがリガンドとして機能し、カウンターパートとなる受容体(レセプター)が存在する可能性もある。この推測によれば、メラニン受容体は抗アレルギー剤開発の有効な標的となり得る。
<参考文献>
1.Swift, J. A. 2009. Speculations on the molecular structure of eumelanin. Int J Cosmet Sci 31: 143-150.
2.Littrell, K. C., J. M. Gallas, G. W. Zajac, and P. Thiyagarajan. 2003. Structural studies of bleached melanin by synchrotron small-angle X-ray scattering. Photochem Photobiol 77: 115-120.
3.Ham, W. T., Jr., J. J. Ruffolo, Jr., H. A. Mueller, and D. Guerry, 3rd. 1980. The nature of retinal radiation damage: dependence on wavelength, power level and exposure time. Vision Res 20: 1105-1111.
4.Mimura, T., K. Maeda, T. Terada, Y. Oda, K. Morishita, and S. Aonuma. 1985. Studies on biological activities of melanin from marine animals. III. Inhibitory effect of SM II (low molecular weight melanoprotein from squid) on phenylbutazone-induced ulceration in gastric mucosa in rats, and its mechanism of action. Chem Pharm Bull (Tokyo) 33: 2052-2060.
5.佐藤, 健. 1998. イカスミ色素の最近の応用 (特集 色素と健康−−食品活性成分の秘密). Food style 21 2: 80-81.
6. 特表2001-512437号公報
7. 特表2001-512446号公報
8.Ju, K. Y., Y. Lee, S. Lee, S. B. Park, and J. K. Lee. 2011. Bioinspired polymerization of dopamine to generate melanin-like nanoparticles having an excellent free-radical-scavenging property. Biomacromolecules 12: 625-632.
本発明の抗アレルギー剤は各種アレルギー疾患の予防や治療に利用され得る。代表的な抗アレルギー薬として第2世代抗ヒスタミン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬が知られているが、本発明の抗アレルギー剤はこれらのいずれにも属さず、これまでにない機序により特有の作用を発揮すると考えられる。従って、既存の抗アレルギー薬に代わる又は補完するものとして、本発明の利用価値は極めて高い。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (9)

  1. 可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、抗アレルギー剤。
  2. 可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、請求項1に記載の抗アレルギー剤。
  3. 可溶化メラニンの分子量が50kDa以上である、請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
  4. 可溶化メラニンの分子量が50kDa〜100kDaである、請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
  5. 分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、請求項1に記載の抗アレルギー剤。
  6. 分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、請求項5に記載の抗アレルギー剤。
  7. 肥満細胞の活性化の抑制を介して薬効を発揮する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤を含有する、抗アレルギー用組成物。
  9. 医薬、医薬部外品、化粧料又は食品である、請求項8に記載の抗アレルギー用組成物。
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