JP6716130B2 - 抗アレルギー剤 - Google Patents
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Description
尚、合成可溶性メラニンにヒト免疫不全ウィルスの複製を阻害酢作用(特許文献1)、サイトカイン産生を抑制する作用(特許文献2)及び抗炎症作用(特許文献3)が報告されている。
[1]可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、抗アレルギー剤。
[2]可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、[1]に記載の抗アレルギー剤。
[3]可溶化メラニンの分子量が50kDa以上である、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤。
[4]可溶化メラニンの分子量が50kDa〜100kDaである、[1]又は[2]に記載の抗アレルギー剤。
[5]分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、[1]に記載の抗アレルギー剤。
[6]分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、[5]に記載の抗アレルギー剤。
[7]肥満細胞の活性化の抑制を介して薬効を発揮する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤。
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤を含有する、抗アレルギー用組成物。
[9]医薬、医薬部外品、化粧料又は食品である、[8]に記載の抗アレルギー用組成物。
本発明の第1の局面は抗アレルギー剤に関する。本発明の抗アレルギー剤の有効成分は分散化メラニン又は可溶化メラニンである。「分散化メラニン」とは、粒子径の均一性が高い粒子が溶媒中で分散した状態のメラニンをいう。分散化メラニンの平均粒子径は例えば70nm〜130nm、好ましくは90nm〜110nmである。本発明者らの検討によって、レーザーアブレーション技術を利用すると、均一性の高い粒子径で分散した状態のメラニンを調製できることが判明した。そこで、好ましくは、レーザーアブレーションによる処理によって分散化メラニンを調製する。例えば、生理的緩衝液(典型的にはPBSや生理的食塩水)、あるいは純水等にメラニンを懸濁した状態でレーザーアブレーション処理することにより、分散化したメラニンを含有する溶液(分散化メラニンの溶液)を調製することができる。
本発明の抗アレルギー剤はアレルギー疾患の予防又は治療に有用である。そこで本発明は別の局面として、本発明の抗アレルギー剤を含有する抗アレルギー用組成物を提供する。本発明の組成物はアレルギー疾患の予防又は治療目的で使用される。本発明の組成物はI型アレルギー(即時型アレルギー、アナフィラキシー型)、II型アレルギー(細胞傷害型)、III型アレルギー(免疫複合体型、Arthus型)、IV型アレルギー(遅延型アレルギー)等、様々なアレルギーに対して適用され得る。本発明の組成物を適用可能な疾患ないし病態の例として、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、アレルギー性膀胱炎、アレルギー性脳炎、口腔アレルギー、食品アレルギー、薬剤アレルギーを挙げることができる。
(1)細胞と培養条件
マスト細胞の培養系モデル細胞として、ラット好塩基球性白血病細胞株であるRBL-2H3を用いた。E-MEM培地(Wako Pure Chemical Industries)に10%FBS、100Uペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(nacalai tesque)を添加し培養した。
メラニンは市販の合成メラニン(MP biomedicals、Sigma-Aldrich)を用いた。抗アレルギー剤の陽性対照化合物として、ケトチフェンフマル酸塩(Wako Pure Chemical Industries)を用いた。イカ由来メラニンはMelanin from Sepia officinalis (Sigma-Aldrich)を用いた。
(i) レーザーアブレーション処理メラニン(微粒子分散化メラニン)
合成メラニンを0.1wt%となるよう滅菌済みPBS中に懸濁し、以下のレーザー照射条件にて分散メラニン溶液を取得した。
波長1064nm, FWHM 5ns, 1.2J/cm2・pulse, 10Hz, 2.5mmφ, 60分間
Hepes(Sigma-Aldrich)を超純水に溶解し、ポアサイズ0.22μmの親水性PVDF膜(Merck Millipore Corporation)を用いてフィルターろ過滅菌した(Hepesバッファー)。これに合成メラニンを50mg/mlとなるよう溶解し、室温にて保存した。
外科的にイカの墨袋を取り出し、内部のメラニン含有成分を採取した。重量を計測し、等重量のリン酸緩衝液に懸濁した。100℃、10分加熱し、10,000×gで10分間遠心後、上清を取得した。上記レーザーアブレーション法にて取得した分散メラニン溶液を、PBSを用いて段階希釈し、検量線サンプルを作成した。マイクロプレートリーダーを用いて405nmの波長を計測し、これにより、メラニン含量として2mg/mlのイカ墨調製メラニン溶液を作成した。
RBL-2H3細胞を2×105個/ウェルとなるように96ウェル培養プレートに播種した。抗DNP(2,4-Dinitrophenyl)-モノクローナルマウスIgE抗体(Sigma-Aldrich)を最終濃度100ng/mlとなるよう投与し、37℃、5%CO2インキュベーターにて24時間培養し感作した。細胞を37℃に加温したPBSで洗浄後、E-MEM培地に希釈した種々の濃度(0.5〜0.03mg/ml)のメラニンを処理し、37℃、5%CO2インキュベーターにて2時間培養した。細胞を37℃に加温したTyrode’s buffer (140mM NaCl, 2.7mM KCl, 1.8mM CaCl2, 5.6mM glucose, 12mM NaHCO3, 0.37mM NaH2PO4・2H2O, 25mM Hepes, 0.49mM MgCl2, 0.1%BSA) で3回洗浄し、Tyrode’s buffer中で最終濃度200ng/mlとなるように50μlのDNP-HSA (2,4-Dinitrophenyl-Human Serum Albumin) を加え、37℃、5%CO2インキュベーターにて90分間培養を行い、脱顆粒誘導を行った。脱顆粒に伴い培養上清中に放出されるβ−ヘキソサミニダーゼ反応に関しては、培養上清50μlと反応基質液(0.44mg/ml p-ニトロフェニル N-アセチル-β-D-グルコサミニド, 0.08M クエン酸, 0.15M リン酸水素二ナトリウム)を加え、37℃で60分間反応させた後、反応停止液(0.2 M Glycine-NaOH溶液、pH10.7)を加え、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(BioRad)で測定した。なお、1% Triton-X 100入りのTyrode’s bufferを添加したサンプルを、細胞内の顆粒がすべて放出された陽性対照とし、DNP-HSAを含まないTyrode’s bufferを添加したサンプルを陰性対照とした。脱顆粒度は陽性対照の吸光度を100%とした各サンプルの相対値で表した。
RBL-2H3細胞を2×105個/ウェルとなるようにガラスボトムのブラック96ウェル培養プレートに播種した。抗DNP-IgE抗体を最終濃度100ng/mlとなるよう投与し、37℃、5%CO2インキュベーターにて24時間培養し感作した。PBSにて3回洗浄後、E-MEM培地に希釈した種々の濃度(0.5〜0.0625mg/ml)のメラニンを処理し、37℃、5%CO2インキュベーターにて2時間培養した。細胞を37℃のPBSで3回洗浄した後、市販のキット(Dojindo)を用いてマニュアルに従い、内部カルシウムの放出を測定した。すなわち、ローディングメディウム(Fura 2-AM + 0.04% Pluronic(登録商標)F-127 + 1.25mM Probenecid)を加え、37℃で1時間インキュベートした。ローディングメディウムを除去し、50μlのレコーディングメディウム(1.25mM Probenecid)を添加し、InCyt Im2 Dual-Wavelength Fluorescence Imaging System (INTRACELLULAR IMAGING)を用いて、蛍光データのモニタリングを開始した(励起波長:340 nm / 380 nm, 蛍光波長:510 nm)。開始10秒後、50μlのDNP-HSAを最終濃度200ng/mlになるように投与し、以後約5分間蛍光データを経時的に取得した。
2×106/ml (E-MEM培地)のRBL-2H3細胞を24ウェルプレートに0.5ml播種し、100ng/ml DNP-IgEで24時間感作した。培地を取り除き、37℃のE-MEM培地に希釈した種々の濃度のメラニンを細胞へ2時間処理後、37℃のTyrode’s bufferで3回洗浄し、DNP-HSAを最終濃度200ng/mlになるように種々の時間(5分〜30分間)投与した。投与後、20mM Tris-HCl (pH7.5), 150mM NaCl, 1mM EDTA, 1% Triton X-100, 1mM PMSF, プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)およびホスファターゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)を含む細胞溶解緩衝液100μl中で溶解し、15,000×gの遠心で清澄化させた。上清(細胞溶解液)を回収し、タンパク質濃度測定後、4×SDSサンプル緩衝液とともに煮沸した。タンパク質量として10〜20μgの試料をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写後、特異的抗体で目的のタンパク質バンドを検出した。核タンパク質および細胞質タンパク質の分離はExtraction Kit (Invent Biotechnologies)を用い、製造業者のプロトコルに従って操作した。分離後のサンプルをウェスタンブロッティングに供した。
PBSに希釈した抗DNP抗体(20μg/100μl)をBALB/cマウスの尾静脈に注射した。24時間後、抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定した。DNP-HSA(抗原)1mg/100μlをマウスの尾静脈に注射した。10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。
BSA(抗原)4mg/200μlをフロイント完全アジュバントと共にマウスの皮下に投与した。3週間後、追加免疫を行った。抗原投与前のベースとなる直腸温度を測定した。スルメイカ由来メラニンをPBSで2倍希釈し、マウスの尾静脈に注射した。BSA(抗原)4mg/200μlをマウスの腹腔に注射し、10分ごとに直腸温度を測定した(最大90分)。
メラニンを50mg/mlとなるように500mMのHepesバッファーに溶解後、100kDa、50kDa、30kDaの各サイズ分画が可能な遠心式限外ろ過デバイス(Amicon Ultra, Merck Millipore)を用いて、製造業者のプロトコルに従って処理した。このようにして分子量による分画を行った後、405nmの吸光度を測定し、メラニン濃度を一定(50mg/ml)になるようにHepesバッファーにて調整した。
RBL-2H3細胞を微粒子分散化メラニン(0.5mg/ml)で処理し、PBSにて洗浄後、0.1MのPBSにて調整した2%パラホルムアルデヒド(PFA)、2%グルタルアルデヒド(GA)溶液にて固定した。続いて2% GA (0.1M PBS)、2% osmium tetroxide(0.1M PBS)に順次処理し、固定を完了した。Quetol-812にて包埋し、樹脂包埋超薄切片法にて70nm厚のスライドを作成した。電子染色はuranyl acetate・Lead satin solutionを用い、透過型電子顕微鏡(JEM-1400Plus)にて撮影した。
(1)イカ墨調製液によるRBL-2H3細胞の脱顆粒抑制
イカ墨は、含有リゾチームによる防腐作用や、イカ墨メラニンによる抗潰瘍作用(参考文献4)などを持つことが知られているが、抗アレルギー作用については報告がない。そこで、新鮮イカ(スルメイカ)の墨袋より採取したイカ墨液を調製し、ラット好塩基球性白血病細胞株のRBL-2H3を用い、抗原抗体反応による脱顆粒応答を抑制できるかどうか試みた。その結果、イカ墨調製液の前処理の濃度依存性に、脱顆粒応答が抑制された(図1)。イカ墨調製液は粗精製(Crude)であり、様々な生体由来成分が含まれているが、多量のメラニン(ユーメラニン)が含まれている。実験の結果、脱顆粒を抑制するCrudeのイカ墨調製液に含まれるメラニン量はおよそ0.1mg/ml以上の濃度であることが推定された。
脱顆粒を抑制する本体がメラニンである可能性が考えられたため、市販の合成された精製メラニンをRBL-2H3細胞に投与する実験を創案した。しかしながら、市販の合成メラニンは水のほか、様々な有機溶媒に不溶であり、顔料的な性質をもつ色素であることが知られている(参考文献5)。そこで、レーザーアブレーション技術により、均一な分散溶液を得た。得られた微粒子分散化メラニン溶液は、電子顕微鏡観察によれば粒子径が70〜130nmであることが判明した(図2A)。一方、様々な生化学的中性バッファーへの溶解を試みたところ、市販の合成メラニンは500mM、pH7.5のHepesバッファーに50mg/mlの濃度でほぼ完全に溶解することを始めて見出した(図3A)。このようにして得られた均一性の高い2種類のメラニン溶液を、以後の実験に用いた。
RBL-2H3細胞の脱顆粒抑制に寄与する成分がイカ墨に含まれるメラニンである可能性を調べるため、微粒子分散化又は可溶化したメラニンを脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。各メラニンで2時間前処理を行い、抗原刺激により脱顆粒応答を誘導した結果、処理濃度0.031mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3細胞の脱顆粒を有意に抑制した(図2B、3B)。市販の抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸と同じ処理濃度で比較した結果、ほぼ同程度の脱顆粒抑制効果が確認できた(図4)。
特許文献1記載の方法を元に、L-Dopaの酸化により可溶性メラニンを、L-Dopamineの酸化により可溶性メラニン様物質をそれぞれ合成した。合成可溶性メラニン粉末をHepesもしくはH2Oに溶解し、RBL-2H3細胞に対する脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。また、合成可溶性メラニン様粉末をHepesもしくはH2Oに溶解し、RBL-2H3細胞に対する脱顆粒応答刺激の前処理に用いた。実験の結果、HepesもしくはH2Oに溶解した合成可溶性メラニンは処理濃度0.031mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3の脱顆粒を有意に抑制した(図5A、B)。一方、合成可溶性メラニン様物質は、処理濃度0.062mg/ml以上で濃度依存性にRBL-2H3の脱顆粒を有意に抑制した(図6C、D)。
微粒子分散化メラニン、Hepes溶解メラニンともに、同じ処理時間、処理濃度でほぼ同程度の脱顆粒抑制効果が期待できると推定される。Hepesに溶解した可溶化メラニンを用い、RBL-2H3細胞の脱顆粒を抑制する処理濃度、および処理時間をさらに詳細に検討した。その結果、IgE感作されたRBL-2H3細胞の脱顆粒は、メラニンの処理濃度(図7A)、処理時間(図7B)依存性に抑制された。このことから、メラニンは細胞との間で一定の相互作用を示し、メラニンを受容したRBL-2H3細胞では何らかの仕組みで脱顆粒シグナル伝達が抑制される機序が存在することが示唆された。
微粒子分散化又は可溶化メラニンによる脱顆粒抑制が、細胞毒性による影響であるかどうか調べるため、WST-8と生細胞との反応産物を測定する方法にて、細胞毒性の有無を調べた。RBL-2H3細胞に、脱顆粒を抑制した最大濃度以下の種々の濃度のメラニン、もしくはアポトーシス誘導剤のスタウロスポリンを処理し、24時間後の影響を調べた。その結果、スタウロスポリンを処理したサンプルでは細胞死が誘導されたのに対し、微粒子分散化又は可溶化メラニン投与サンプルでは細胞死誘導は見られなかった(図8)。
粗精製イカ墨調製液はRBL-2H3の脱顆粒を抑制したが、精製イカ由来メラニンでも脱顆粒を抑制できるかどうかを調べるために、市販のセイヨウコウイカ由来精製メラニンを用いて評価した。セイヨウコウイカ由来メラニンは合成メラニン同様、ほぼ均一にHepesに溶解した。しかしながら、脱顆粒試験の結果、セイヨウコウイカ由来メラニン処理では、脱顆粒の抑制効果は認められなかった(図9)。
次に、メラニンによる脱顆粒抑制のメカニズム解析を行うため、シグナル伝達分子のリン酸化、カルシウムイオン濃度上昇、転写因子核内移行の解析を行った。抗原特異的IgEで感作した細胞が抗原によって刺激を受けると、FcεRIが凝集し、チロシンキナーゼSyk、PI3K、ホスホリパーゼC-γ(PLC-γ、プロテインキナーゼC(PKC)がリン酸化とともに活性化する。カルシウムイオン濃度の上昇を伴い、ERKを含む複数の中間シグナル伝達分子の介在を経て、NF-κBなどの転写因子の核内移行が起こり、関連する遺伝子発現調節が行われる。種々の濃度の可溶化メラニンを、DNP-IgE抗体で感作したRBL-2H3細胞に前処理し、抗原DNP-HSA処理5分後の細胞内可溶性タンパク質を抽出して、各種特異的抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。その結果、前処理濃度依存的なPLC-γ1、PLC-γ2、ERKのリン酸化抑制が認められた(図10A)。また、可溶化メラニンの処理条件を一定(0.5mg/ml, 2時間)として前処理を行った後、抗原刺激後の時間依存的なシグナル分子のリン酸化の変動を調べた結果、PKCα/βII、PKCδ/θ、そしてERKのリン酸化抑制が見出された(図10B)。微粒子分散化メラニン処理によってもほぼ同様の結果が得られた。すなわち、抗原DNP-HSA処理10分後におけるSyk、PI3K、PLC-γ1、PLC-γ2のリン酸化が、微粒子分散化メラニンの処理濃度依存性に顕著に抑制された(図11)。
メラニンがin vivoのマスト細胞において機能的な役割を果たすことができるかどうかを調べるため、FcεRIが介在する受動的全身性アナフィラキシー(PSA)誘導試験を行った。DNP特異的-IgE抗体をBalb/cマウスの尾静脈より導入して感作した後、抗原であるDNP-HSA単独、もしくはイカ墨調製液とともに、同マウスの尾静脈に注射し、直腸温度計測により体温低下を測定した。その結果、イカ墨調製液は、抗原処理による体温低下を顕著に抑制した(図14)。次に、能動的全身性アナフィラキシー(ASA)誘導試験を行った。ウシ血清アルブミン(BSA)をフロイントの完全アジュバントと共にマウスの皮下へ免疫し、追加免疫過程を経て感作誘導を行った後、BSA抗原液、もしくはイカ墨調製液を含んだBSA抗原液をマウスの腹腔内へ投与した。直腸温度を計測して体温低下をモニターした結果、イカ墨調製液を含んだ抗原液を注射したマウスの直腸温度低下は顕著に抑制された(図15A)。さらに、マウスを用いた同様のASA誘導法にて、Hepes溶解メラニンを用いて、アナフィラキシー誘導を行った後にメラニンを投与し、マウスの固体死が抑制できるかどうか調べた。その結果、メラニンを投与したマウスの固体死は有意に抑制された(図15B)。
可溶化メラニンは重合度が様々なメラニンの混合物であると考えられる。RBL-2H3細胞の脱顆粒を効果的に抑制できるメラニンの分子量を調べるために、限外ろ過法による分子量分画を行った。用いた限外ろ過デバイスは分子量が100kDa、50kDa、30kDaそれぞれ分画できるものを用いた。Hepes溶解メラニンをこれらの限外ろ過膜によって100kDa以上、50kDa以上100kDa以下、30kDa以上50kDa以下それぞれに分画した。405nmの吸光度を測定後、メラニン最終濃度が0.125〜0.5mg/mlの分画サンプルを作成し、脱顆粒試験に用いた。実験の結果、図16に示すように、100kDa以上の分画メラニンは一定の濃度依存性の脱顆粒抑制効果が見られたが、分画前のメラニンに比較すると効果が減弱した。一方、50kDa以上100kDa未満の分画メラニンは、分画前とほぼ同じレベルの処理濃度依存的な脱顆粒抑制が見られた。しかしながら、分子量50kDa未満では処理濃度依存的な脱顆粒抑制効果が消失した。以上の結果から、RBL-2H3細胞の脱顆粒を効果的に抑制できる可溶化メラニンの分子量は少なくとも50kDa以上であると推定され、分子量分画法の工夫により、より効率的な脱顆粒抑制剤の創製が可能であることが示唆された。
メラニンを細胞へ処理することで、メラニンが細胞全体を覆うことにより、抗原の細胞へのアクセスが阻害されている可能性が考えられる。そこで、脱顆粒を抑制する条件と同じ微粒子分散化メラニン処理をRBL-2H3細胞へ施し、透過型電子顕微鏡観察を実施した。観察の結果、図17に示すように、メラニンと考えられる微粒子は、少なくとも細胞膜全体を均一に覆っているのではなく、一部の領域に付着していることが判明した。さらに、一部のメラニンがエンドサイトーシスで細胞内へ取り込まれた小胞の存在も確認できた。この観察結果から、メラニンが抗原のアクセスを阻害している効果は限定的であり、むしろ細胞膜の流動性に影響を与えている可能性が考えられた。
メラニンを医薬・生物学的に利用する試みは極めて少なく、人工合成メラニンによるHIV複製阻害(参考文献6)、サイトカイン調製能(参考文献7)、といった先行研究は存在するが、抗アレルギーを目的とした利用への発明報告は国内外を問わずなされていない。本研究により、イカ墨調製液、レーザーアブレーションによる微粒子分散化メラニン、Hepes溶解メラニンが肥満細胞の脱顆粒を抑制できることが示された。言い換えれば、生体投与による抗アレルギー剤としてメラニンを利用できることが判明した。イカ墨調製液はメラニン換算量として0.05mg/ml以下の処理条件では有意なRBL-2H3細胞の脱顆粒抑制効果は見られなかった。イカ墨にはメラニンのほか、多種多様な多糖類、アミノ酸、タンパク質成分が含まれることから、これらがメラニンのRBL-2H3細胞への相互作用を阻害したこと、及び/又はメラニンの一部はタンパク質結合型であり活性を示さないこと、がその理由と推定された。そこで、合成メラニンによる脱顆粒抑制試験を実施した結果、予想通り、イカ墨調製液よりも低いメラニン濃度(少なくとも0.031mg/ml)で、RBL-2H3細胞の脱顆粒が抑制され、脱顆粒抑制をもたらす本体はメラニンそのものであることが示された。
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Claims (9)
- 可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、抗アレルギー剤。
- 可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、請求項1に記載の抗アレルギー剤。
- 可溶化メラニンの分子量が50kDa以上である、請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
- 可溶化メラニンの分子量が50kDa〜100kDaである、請求項1又は2に記載の抗アレルギー剤。
- 分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、請求項1に記載の抗アレルギー剤。
- 分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、請求項5に記載の抗アレルギー剤。
- 肥満細胞の活性化の抑制を介して薬効を発揮する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗アレルギー剤を含有する、抗アレルギー用組成物。
- 医薬、医薬部外品、化粧料又は食品である、請求項8に記載の抗アレルギー用組成物。
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