モノクローナル完全長抗体の重鎖中の残基1〜23、145〜174、180〜197および軽鎖中の残基55〜83(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)を含む領域が、完全長抗体とヒト新生児型Fc受容体(FcRn)の相互作用に関与することが判明している。
したがって、本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、完全長抗体を選択するための方法である:
(a)重鎖可変ドメイン中の1〜23位の残基(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位の残基(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位の残基(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位の残基(EU指標による番号付与)からなるアミノ酸残基の群より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって、複数の変種完全長抗体を親完全長抗体から作製する段階、
(b)複数の抗体からの各完全長抗体の、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合強度を測定する段階、ならびに
(c)FcRnに対する結合強度が親完全長抗体と異なる完全長抗体を複数の変種完全長抗体より選択する段階。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜73位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、アミノ酸残基は、重鎖中のアミノ酸残基6、162、164、165、191、194、195、および196ならびに軽鎖中のアミノ酸残基57および60(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)を含むアミノ酸残基の群より選択される。
1つの態様において、重鎖可変ドメインの6位のアミノ酸残基がQにランダム化される。
1つの態様において、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数におけるアミノ酸残基は互いに独立して酸性アミノ酸残基にランダム化される。
1つの態様において、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60の一方または両方におけるアミノ酸残基は互いに独立して塩基性アミノ酸残基にランダム化される。
本明細書において報告されるすべての局面の1つの態様において、複数の抗体からの各完全長抗体の、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合強度を測定する段階は、それらの抗体の各抗原の非存在下で行われる。
本明細書において報告されるすべての局面の1つの態様において、複数の抗体からの各完全長抗体の、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合強度を測定する段階は、遊離の抗体、すなわち、抗原と複合体を形成していない抗体について実施される。
1つの態様において、抗体は完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
完全長抗体は、4本の抗体鎖、すなわち2本の軽鎖(第1の軽鎖および第2の軽鎖)ならびに2本の重鎖(第1の重鎖および第2の重鎖)を含む。第1の重鎖および第2の重鎖、ならびにそれらと独立して、第1の軽鎖および第2の軽鎖は、アミノ酸配列に関して同一でもよいかまたは異なっていてもよい。
1つの態様において、抗体は一アームの抗体である。
一アームの抗体は、(i)1本の完全長軽鎖、(ii)完全長軽鎖と対になる1本の完全長重鎖、ならびに(iii)ヒンジ領域の少なくとも一部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、完全長重鎖と対になる1本の短縮された重鎖を含む。
1つの態様において、抗体は二重特異性抗体である。
1つの態様において、以下のアミノ酸位置のうちの1つまたは複数が、互いに独立して、荷電アミノ酸残基を中性アミノ酸残基で置換することによって、または中性アミノ酸残基を荷電アミノ酸残基で置換することによって、変更される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):重鎖位置6、16、19、57、66、83、162、164、165、191、194、195、196、軽鎖位置57、60。
1つの態様において、以下のアミノ酸位置のうちの1つまたは複数が、互いに独立して、荷電アミノ酸残基を中性アミノ酸残基で置換することによって、または中性アミノ酸残基を荷電アミノ酸残基で置換することによって、変更される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):重鎖位置6、16、19、162、164、165、191、194、195、196、軽鎖位置57、60。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異(ランダム化)のうちの1つまたは複数が、互いに独立して導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖E6Q。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖T164E。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖A162DおよびS165D。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖G194E。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖S191DおよびQ196D。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)軽鎖G57R。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)軽鎖G57KおよびS60K。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖T164E、ならびに
(ii)重鎖A162DおよびS165D、ならびに
(iii)重鎖G194E、ならびに
(iv)重鎖S191DおよびQ196D。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖E6Q、ならびに
(ii)重鎖T164E、ならびに
(iii)重鎖A162DおよびS165D、ならびに
(iv)重鎖G194E、S191D、およびQ196D、ならびに
(v)軽鎖G57KおよびS60K。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)重鎖E6Q、ならびに/または
(ii)重鎖T164E、ならびに/または
(iii)重鎖A162DおよびS165D、ならびに/または
(iv)重鎖G194E、ならびに/または
(v)重鎖T164E、A162D、およびS165D、ならびに/または
(vi)重鎖G194E、S191D、およびQ196D、ならびに/または
(vii)軽鎖G57R、ならびに/または
(viii)軽鎖G57KおよびS60K。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異が導入される(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与):
(i)第1の重鎖および/もしくは第2の重鎖中のE6Q、ならびに/または
(ii)(a)第1の重鎖中のT164E、ならびに(b)第2の重鎖中のA162DおよびS165D、ならびに/または
(iii)(a)第1の重鎖中のG194E、ならびに(b)第2の重鎖中のS191DおよびQ196D、ならびに/または
(iv)(a)第1の重鎖中のT164E、A162D、およびS165D、ならびに(b)第2の重鎖中のG194Q、S191D、およびQ196D、ならびに/または
(v)(a)第1の重鎖および/もしくは第2の重鎖中のE6Q、(b)第1の重鎖中のT164E、A162D、およびS165D、(c)第2の重鎖中のG194E、S191D、およびQ196D、ならびに(d)第1の軽鎖および/もしくは第2の軽鎖中のG57KおよびS60K。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、同じアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、別のアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、1〜15個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜10個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜5個のアミノ酸残基がランダム化される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が増加している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が減少している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、結合強度はKD値である。
1つの態様において、結合強度は、正のpH直線勾配での溶離を用いるFcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムにおける保持時間である。
1つの態様において、結合強度はインビボ半減期である。
本明細書において報告される1つの局面は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含むアミノ酸残基の群より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって、単一の親完全長抗体から作製される、複数の変種完全長抗体である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜73位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、アミノ酸残基は、重鎖中のアミノ酸残基6、162、164、165、191、194、195、および196ならびに軽鎖中のアミノ酸残基57および60(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)を含むアミノ酸残基の群より選択される。
1つの態様において、重鎖可変ドメインの6位のアミノ酸残基がQにランダム化される。
1つの態様において、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数におけるアミノ酸残基は、酸性アミノ酸残基にランダム化される。
1つの態様において、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60の一方または両方におけるアミノ酸残基は、塩基性アミノ酸残基にランダム化される。
1つの態様において、以下のアミノ酸ランダム化のうちの1つまたは複数が、互いに独立して導入される:
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
1つの態様において、抗体は、完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、同じアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、別のアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、1〜15個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜10個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜5個のアミノ酸残基がランダム化される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が増加している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が減少している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、結合強度はKD値である。
1つの態様において、結合強度は、正のpH直線勾配での溶離を用いるFcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムにおける保持時間である。
1つの態様において、結合強度はインビボ半減期である。
本明細書において報告される別の局面は、完全長抗体のインビボ半減期を変更するための、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される位置における1つまたは複数のアミノ酸変異の使用である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜73位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、アミノ酸残基は、重鎖中のアミノ酸残基6、162、164、165、191、194、195、および196ならびに軽鎖中のアミノ酸残基57および60(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)を含むアミノ酸残基の群より選択される。
1つの態様において、重鎖可変ドメインの6位のアミノ酸残基をQに変異させる。
1つの態様において、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数におけるアミノ酸残基を互いに独立して酸性アミノ酸残基に変異させる。
1つの態様において、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60の一方または両方におけるアミノ酸残基を互いに独立して塩基性アミノ酸残基に変異させる。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異のうちの1つまたは複数が、互いに独立して導入される:
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
1つの態様において、抗体は完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、同じアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、別のアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、1〜15個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜10個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜5個のアミノ酸残基がランダム化される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が増加している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が減少している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、結合強度はKD値である。
1つの態様において、結合強度は、正のpH直線勾配での溶離を用いるFcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムにおける保持時間である。
1つの態様において、結合強度はインビボ半減期である。
本明細書において報告されるさらなる局面は、2本の軽鎖ポリペプチドおよび2本の重鎖ポリペプチドを含む変種完全長抗体であり、この変種抗体は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される1つまたは複数の位置におけるアミノ酸変異を導入することによって親完全長抗体から得られ、かつこの変種抗体は、ヒト新生児型Fc受容体に対して、親完全長抗体とは異なる親和性を有している。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の55〜73位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、アミノ酸残基は、重鎖中のアミノ酸残基6、162、164、165、191、194、195、および196ならびに軽鎖中のアミノ酸残基57および60(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)を含むアミノ酸残基の群より選択される。
1つの態様において、重鎖可変ドメインの6位のアミノ酸残基をQに変異させる。
1つの態様において、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数におけるアミノ酸残基を互いに独立して酸性アミノ酸残基に変異させる。
1つの態様において、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60の一方または両方におけるアミノ酸残基を互いに独立して塩基性アミノ酸残基に変異させる。
1つの態様において、以下のアミノ酸変異のうちの1つまたは複数が、互いに独立して導入される:
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
1つの態様において、抗体は完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、同じアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、ランダム化する段階は、アミノ酸残基を、別のアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基に変異させることによって行われる。
1つの態様において、1〜15個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜10個のアミノ酸残基がランダム化される。1つの態様において、1〜5個のアミノ酸残基がランダム化される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が増加している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、完全長抗体は、FcRnに対する結合強度が減少している複数の完全長抗体より選択される。
1つの態様において、結合強度はKD値である。
1つの態様において、結合強度は、正のpH直線勾配での溶離を用いるFcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムにおける保持時間である。
1つの態様において、結合強度はインビボ半減期である。
本明細書において報告される1つの局面は、その親抗体と比べて、以下のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において変異を有している変種抗体である:
-重鎖中の残基6、162、164、165、191、194、195、および196
-軽鎖中の残基57および60
(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)による番号付与)。
1つの態様において、その親抗体と比べて、以下のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において変異を有している変種抗体:
-重鎖中の残基162、164、165、191、194、195、および196
-軽鎖中の残基57および60
(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)による番号付与)。
1つの態様において、その親抗体と比べて、以下のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において変異を有している変種抗体:
-重鎖中の残基162、164、165、191、194、195、および196
(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)による番号付与)。
1つの態様において、抗体は完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、抗体は二重特異性抗体である。
1つの態様において、抗体は、重鎖可変ドメイン中にアミノ酸変異E6Qを有している。
1つの態様において、抗体は、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数において、酸性アミノ酸を有している。1つの態様において、酸性アミノ酸は、DまたはEである。1つの態様において、抗体は、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの2つまたはそれ以上において、酸性アミノ酸残基を有しており、それらの酸性アミノ酸残基は互いに独立して選択される。
1つの態様において、抗体は、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60のうちの一方または両方において、塩基性アミノ酸残基を有している。1つの態様において、塩基性アミノ酸残基は、KまたはRである。1つの態様において、抗体は、軽鎖可変ドメインの57位および60位の両方において、塩基性アミノ酸残基を有しており、それらの塩基性アミノ酸残基は互いに独立して選択される。
1つの態様において、抗体は、互いに独立して以下のアミノ酸変異のうちの1つまたは複数を有している:
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
[本発明1001]
以下の段階を含む、完全長抗体を選択するための方法:
(a)重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および該第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって、複数の完全長抗体を親完全長抗体から作製する段階、
(b)該複数の抗体からの各該完全長抗体の、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合強度を測定する段階、ならびに
(c)該FcRnに対する結合強度が該親完全長抗体と異なる完全長抗体を、該複数の完全長抗体より選択する段階。
[本発明1002]
重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および該第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって単一の完全長抗体から作製された、複数の完全長抗体。
[本発明1003]
完全長抗体のインビボ半減期を変更するための、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および該第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される位置における1つまたは複数のアミノ酸変異の使用。
[本発明1004]
2本の軽鎖ポリペプチドおよび2本の重鎖ポリペプチドを含む変種完全長抗体であって、該変種抗体が、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および該第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される1つまたは複数の位置におけるアミノ酸変異を導入することによって親完全長抗体から得られ、かつ該変種抗体が、ヒト新生児型Fc受容体に対して、該親完全長抗体とは異なる親和性を有している、変種完全長抗体。
[本発明1005]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004の抗体。
[本発明1006]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004の抗体。
[本発明1007]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004または1006の抗体。
[本発明1008]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004の抗体。
[本発明1009]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004または1008の抗体。
[本発明1010]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004の抗体。
[本発明1011]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記軽鎖可変ドメイン中の55〜73位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004または1010の抗体。
[本発明1012]
前記1つまたは複数のアミノ酸残基が、前記軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)のアミノ酸残基より選択される、本発明1004および1010および1011の抗体。
[本発明1013]
完全長IgG抗体である、本発明1004〜1012のいずれかの抗体。
[本発明1014]
完全長IgG1抗体または完全長IgG4抗体である、本発明1013の抗体。
[本発明1015]
前記変異が、前記アミノ酸残基から、同じアミノ酸残基グループ由来の別のアミノ酸残基への変異である、本発明1004〜1014のいずれかの抗体。
[本発明1016]
以下の変異のうちの1つまたは複数が導入されている(それぞれ、Kabat可変ドメイン番号付与およびKabat EU指標番号付与体系による番号付与)、本発明1004〜1015のいずれかの抗体:
-重鎖E6Q、
-重鎖A162D、
-重鎖A162E、
-重鎖T164D、
-重鎖T164E、
-重鎖S165D、
-重鎖S165E、
-重鎖S191D、
-重鎖S191E、
-重鎖G194D、
-重鎖G194E、
-重鎖T195D、
-重鎖T195E、
-重鎖Q196D、
-重鎖Q196E、
-軽鎖G57K、
-軽鎖G57R、
-軽鎖S60K、
-軽鎖S60R。
発明の態様の詳細な説明
本発明は、Fc領域とFab断片の両方におけるモノクローナル抗体のいくつかの領域が、FcRnに結合すると重水素取り込みの減少を示す(図1および2を参照されたい)という知見に少なくとも部分的に基づいている。これらの領域は、重鎖中の残基1〜23、残基145〜174(アミノ酸配列
、SEQ ID NO:11)、残基180〜197(アミノ酸配列
、SEQ ID NO:13)、ならびに軽鎖中の残基55〜83を含む(それぞれKabat(可変領域)ならびにEU指標(定常領域)番号付与)。
I.定義
本明細書において使用される場合、重鎖および軽鎖のすべての定常領域およびドメインのアミノ酸位置は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)において説明されているKabat番号付与システムによって番号を付けられ、本明細書において「Kabatによる番号付与」と呼ばれる。具体的には、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のKabat番号付与システム(647〜660頁を参照されたい)が、κアイソタイプおよびλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLのために使用され、Kabat EU指標番号付与システム(661〜723頁を参照されたい)が、定常重鎖ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、およびCH3)のために使用される。
「約」という用語は、その後に続く数値の+/-20%の範囲を意味する。1つの態様において、約という用語は、その後に続く数値の+/-10%の範囲を意味する。1つの態様において、約という用語は、その後に続く数値の+/-5%の範囲を意味する。
本明細書の目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークから得られた軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワークまたは重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「から得られた」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでもよいか、またはアミノ酸配列改変を含んでもよい。いくつかの態様において、アミノ酸改変の数は、10個もしくはそれ未満、9個もしくはそれ未満、8個もしくはそれ未満、7個もしくはそれ未満、6個もしくはそれ未満、5個もしくはそれ未満、4個もしくはそれ未満、3個もしくはそれ未満、または2個もしくはそれ未満である。いくつかの態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
「親和性成熟」抗体とは、抗原に対する抗体の親和性を向上させるような改変を有していない親抗体と比べて、1つまたは複数の超可変領域(HVR)に1つまたは複数の改変を有する抗体を意味する。
「改変」という用語は、修飾された抗体または融合ポリペプチドを得るための、親抗体または融合ポリペプチド、例えば、Fc領域の少なくとも1つのFcRn結合部分を含む融合ポリペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸残基の変異(置換)、挿入(付加)、または欠失を意味する。「変異」という用語は、特定のアミノ酸残基が、別のアミノ酸残基で置換されることを意味する。例えば、変異L234Aは、抗体Fc領域(ポリペプチド)中の234位のアミノ酸残基リジンがアミノ酸残基アラニンによって置換されていること(アラニンによるリジンの置換)(Kabat EU指標番号付与システムによる番号付与)を意味する。
「天然に存在するアミノ酸残基」は、アラニン(3文字記号:Ala、1文字記号:A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、およびバリン(Val、V)からなる群からのアミノ酸残基を意味する。
「アミノ酸変異」という用語は、少なくとも1つの既存のアミノ酸残基を別の異なるアミノ酸残基(=置換アミノ酸残基)で置換することを意味する。置換アミノ酸残基は、「天然に存在するアミノ酸残基」であってよく、アラニン(3文字記号:ala、1文字記号:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)からなる群より選択され得る。置換アミノ酸残基は、「天然に存在しないアミノ酸残基」であってよい。例えば、US 6,586,207、WO 98/48032、WO 03/073238、US 2004/0214988、WO 2005/35727、WO 2005/74524、Chin, J.W., et al., J. Am. Chem. Soc. 124 (2002) 9026-9027; Chin, J.W. and Schultz, P.G., ChemBioChem 11 (2002) 1135-1137; Chin, J.W., et al., PICAS United States of America 99 (2002) 11020-11024;および Wang, L. and Schultz, P.G., Chem. (2002) 1-10(すべて、参照により全体が本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
「アミノ酸挿入」という用語は、アミノ酸配列中の所定の位置に少なくとも1つのアミノ酸残基を(付加的に)組み入れることを意味する。1つの態様において、挿入は、1つまたは2つのアミノ酸残基の挿入である。挿入されるアミノ酸残基は、任意の天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基であることができる。
「アミノ酸欠失」という用語は、アミノ酸配列中の所定の位置において少なくとも1つのアミノ酸残基が取り除かれることを意味する。
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体)、ならびに所望の抗原結合活性および/またはプロテインA結合活性および/またはFcRn結合活性を示す限りにおいて抗体断片を含む、様々な抗体構造体を包含する。
「ヘテロ二量体Fc領域」という用語は、対応位置に異なるアミノ酸残基を有する2つのポリペプチド鎖からなるFc領域を意味し、これらの位置はKabat EU指標番号付与システムによって決定され、それらの異なる位置は、ヘテロ二量体の形成に影響を及ぼす。このような差異の例は、いわゆる「ノブイントゥーホール」置換である(例えば、US 7,695,936およびUS 2003/0078385を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖における以下のノブアンドホール(knobs and holes)置換は、ヘテロ二量体形成を増大させることが判明している:(1)一方の鎖におけるY407Tおよび他方の鎖におけるT366Y;(2)一方の鎖におけるY407Aおよび他方の鎖におけるT366W;(3)一方の鎖におけるF405Aおよび他方の鎖におけるT394W;(4)一方の鎖におけるF405Wおよび他方の鎖におけるT394S;(5)一方の鎖におけるY407Tおよび他方の鎖におけるT366Y;(6)一方の鎖におけるT366YおよびF405A、ならびに他方の鎖におけるT394WおよびY407T;(7)一方の鎖におけるT366WおよびF405W、ならびに他方の鎖におけるT394SおよびY407A;(8)一方の鎖におけるF405WおよびY407A、ならびに他方の鎖におけるT366WおよびT394S;ならびに(9)一方の鎖におけるT366W、ならびに他方の鎖におけるT366S、L368A、およびY407V;ここで、最後に挙げたものが特に適している。さらに、2つのFc領域ポリペプチド鎖の間に新しいジスルフィド架橋を生成する変更も、ヘテロ二量体形成を促進する(例えば、US 2003/0078385を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖に新しい鎖内ジスルフィド結合を形成させるための適切な間隔を空けて離れたシステイン残基をもたらす以下の置換は、ヘテロ二量体形成を増大させることが判明している:一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるS354C;一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるE356C;一方の鎖におけるY349Cおよび他方の鎖におけるE357C;一方の鎖におけるL351Cおよび他方の鎖におけるS354C;一方の鎖におけるT394Cおよび他方の鎖におけるE397C;または一方の鎖におけるD399Cおよび他方の鎖におけるK392C。ヘテロ二量体化を促進するアミノ酸変更のさらに別の例は、いわゆる「電荷対置換」である(例えば、WO 2009/089004を参照されたい)。サブクラスIgG1のIgG抗体のFc領域の各ポリペプチド鎖における以下の電荷対置換は、ヘテロ二量体形成を増大させることが判明している:(1)一方の鎖におけるK409DまたはK409Eおよび他方の鎖におけるD399KまたはD399R;(2)一方の鎖におけるK392DまたはK392Eおよび他方の鎖におけるD399KまたはD399R;(3)一方の鎖におけるK439DまたはK439Eおよび他方の鎖におけるE356KまたはE356R;(4)一方の鎖におけるK370DまたはK370Eおよび他方の鎖におけるE357KまたはE357R;(5)一方の鎖におけるK409DおよびK360Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびE356K;(6)一方の鎖におけるK409DおよびK370Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびE357K;(7)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399K、E356K、およびE357K;(8)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399K;(9)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびE356K;(10)一方の鎖におけるK409DおよびK392Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびD357K;(11)一方の鎖におけるK409DおよびK370Dならびに他方の鎖におけるD399KおよびD357K;(12)一方の鎖におけるD399Kならびに他方の鎖におけるK409DおよびK360D;ならびに(13)一方の鎖におけるK409DおよびK439Dならびに他方におけるD399KおよびE356K。
「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部分は、ある特定の供給源または種に由来するが、重鎖および/または軽鎖の残りの部分は、異なる供給源または種に由来する、抗体を意味する。
抗体の「クラス」という用語は、その重鎖が有する定常ドメインまたは定常領域のタイプを意味する。抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ、およびμとそれぞれ呼ばれる。
「同程度の長さ」という用語は、2つのポリペプチドが、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1つもしくは複数の最大10個までのアミノ酸残基分だけ長さが異なり得ることを意味する。1つの態様において、(Fc領域)ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜10個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。1つの態様において、(Fc領域)ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜5個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。1つの態様において、(Fc領域)ポリペプチドは、同じ数のアミノ酸残基を含むか、または1〜3個の数のアミノ酸残基分だけ異なる。
「エフェクター機能」とは、抗体クラスによって異なる、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例には、C1q結合および補体依存性細胞障害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方調節;ならびにB細胞活性化が含まれる。
作用物質、例えば薬学的製剤の「有効量」とは、必要な投与量および期間で、所望の治療的結果または予防的結果を実現するのに有効な量を意味する。
「ヒト起源のFc領域」という用語は、ヒンジ領域の少なくとも一部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、ヒト起源の免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。1つの態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、重鎖のCys226またはPro230からカルボキシル末端にまでわたる。1つの態様において、Fc領域は、SEQ ID NO:02のアミノ酸配列を有する。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合もあれば存在しない場合もある。
「FcRn」という用語は、ヒト新生児型Fc受容体を意味する。FcRnは、リソソーム分解経路からIgGを救助する機能を果たし、その結果、クリアランスの減少および半減期の増加をもたらす。FcRnは、2つのポリペプチド:50kDaのクラスI主要組織適合性複合体様タンパク質(α-FcRn)および15kDaのβ2-ミクログロブリン(β2m)からなるヘテロ二量体タンパク質である。FcRnは、IgGのFc領域のCH2-CH3部分に高い親和性で結合する。IgGとFcRnの相互作用は、pHに厳密に依存しており、1:2の化学量論比で起こり、1つのIgGが、2つの重鎖を介して2つのFcRn分子に結合する(Huber, A.H., et al., J. Mol. Biol. 230 (1993) 1077-1083)。酸性pH(pH<6.5)ではFcRn結合がエンドソーム中で起こり、中性の細胞表面(pH約7.4)ではIgGは遊離する。相互作用のpH感受性の性質のおかげで、エンドソームの酸性環境内での受容体への結合によって、細胞中へ飲作用されるIgGを細胞内分解からFcRnを介して保護することが容易になる。次いで、FcRnは、FcRn-IgG複合体が細胞外の中性pH環境に曝露された際に、細胞表面にIgGを再循環させ、続いて血流中に放出するのを促進する。
「Fc領域のFcRn結合部分」という用語は、おおよそEU位置243位からEU位置261位、ならびにおおよそEU位置275位からEU位置293位、ならびにおおよそEU位置302位からEU位置319位、ならびにおおよそEU位置336位からEU位置348位、ならびにおおよそEU位置367位からEU位置393位およびEU位置408位、ならびにおおよそEU位置424位からEU位置440位にまでわたる、抗体重鎖ポリペプチドの部分を意味する。1つの態様において、KabatのEU番号付与による以下のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数が改変される:
。
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を意味する。一般に、可変ドメインのFRは、4つのFRドメイン、すなわちFR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。したがって、一般に、HVR配列およびFR配列は、VH(またはVL)における以下の配列中に現われる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
「完全長抗体」という用語は、4つのポリペプチドを含むネイティブ抗体の構造に実質的に同様の構造を有するか、または本明細書において定義するFc領域を含む重鎖を有する、抗体を意味する。完全長抗体は、例えば、完全長抗体の鎖のうちの1つまたは複数にコンジュゲートされたscFvまたはscFabなどのさらなるドメインを含んでよい。これらのコンジュゲートもまた、完全長抗体という用語に包含される。
「二量体ポリペプチド」という用語は、共有結合的に会合している少なくとも2つのポリペプチドを含む複合体を意味する。この複合体は、他のポリペプチドとも共有結合的または非共有結合的に会合しているポリペプチドもさらに含んでもよい。1つの態様において、二量体ポリペプチドは、2つまたは4つのポリペプチドを含む。
「ヘテロ二量体」または「ヘテロ二量体の」という用語は、(例えば、同程度の長さの)2つのポリペプチドを含む分子を意味し、これら2つのポリペプチドは、Kabat EU指標番号付与システムによって決定される対応位置において少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有するアミノ酸配列を有する。
「ホモ二量体」および「ホモ二量体の」という用語は、同程度の長さの2つのポリペプチドを含む分子を意味し、これら2つのポリペプチドは、Kabat EU指標番号付与システムによって決定される対応位置において同一であるアミノ酸配列を有する。
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」という用語は同義的に使用され、外来性核酸が導入された細胞を、そのような細胞の子孫を含めて意味する。宿主細胞には、「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、初代形質転換細胞およびそれに由来する子孫が継代の回数に関わらず含まれる。子孫の核酸内容は親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたのと同じ機能または生物活性を有する変異子孫は、本明細書に含まれる。
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生されるか、またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を使用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的には除く。
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンのVLまたはVHのフレームワーク配列の選抜物(selection)において最も多く存在するアミノ酸残基に相当するフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVL配列またはVH配列の選抜物は、可変ドメイン配列のサブグループに由来する。通常、配列のサブグループは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD (1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3に記載されているようなサブグループである。1つの態様において、VLについて、サブグループは、前記Kabat et al.に記載されているようなサブグループκIである。1つの態様において、VHについて、サブグループは、前記Kabat et al.に記載されているようなサブグループIIIである。
「〜から得られる」という用語は、あるアミノ酸配列が、少なくとも1つの位置に改変を導入することによって親アミノ酸配列から得られることを意味する。したがって、得られたアミノ酸配列は、少なくとも1つの対応位置(抗体Fc領域に対するKabat EU指標による番号付与)において、対応する親アミノ酸配列と異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、対応位置において、1〜15個のアミノ酸残基が異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、対応位置において、1〜10個のアミノ酸残基が異なる。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、対応位置において、1〜6個のアミノ酸残基が異なる。同様に、得られたアミノ酸配列は、その親アミノ酸配列に対して高いアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、80%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、90%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。1つの態様において、親アミノ酸配列から得られるアミノ酸配列は、95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。
「ヒトFc領域ポリペプチド」という用語は、「ネイティブ」または「野生型」のヒトFc領域ポリペプチドと同一であるアミノ酸配列を意味する。「変種(ヒト)Fc領域ポリペプチド」という用語は、少なくとも1つの「アミノ酸改変」によって「ネイティブ」または「野生型」のヒトFc領域ポリペプチドから得られるアミノ酸配列を意味する。「ヒトFc領域」は、2つのヒトFc領域ポリペプチドからなる。「変種(ヒト)Fc領域」は、2つのFc領域ポリペプチドからなり、両方が変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドであってもよいか、または一方がヒトFc領域ポリペプチドであり、他方が変種(ヒト)Fc領域ポリペプチドである。
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基およびヒトFRに由来するアミノ酸残基を含むキメラ抗体を意味する。特定の態様において、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のものに相当し、FRのすべてまたは実質的にすべてがヒト抗体のものに相当する、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を任意で含んでよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」とは、ヒト化を受けた抗体を意味する。
本明細書において使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列が超可変性であり(「相補性決定領域」もしくは「CDR」)、かつ特徴的な構造の(structurally defined)ループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原接触部分(contact)」)を含む、抗体可変ドメインの各領域を意味する。一般に、抗体は6個のHVRを含む。3個はVH中にあり(H1、H2、H3)、3個はVL中にある(L1、L2、L3)。本明細書において示すHVRは、
(a)アミノ酸残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、91〜96(L3)、26〜32(H1)、53〜55(H2)、および96〜101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917);
(b)アミノ酸残基24〜34( L1)、50〜56(L2)、89〜97(L3)、31〜35b (H1)、50〜65(H2)、および95〜102(H3)に存在するCDR(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242.);
(c)アミノ酸残基27c〜36(L1)、46〜55(L2)、89〜96(L3)、30〜35b(H1)、47〜58(H2)、および93〜101(H3)に存在する抗原接触部分(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46〜56(L2)、47〜56(L2)、48〜56(L2)、49〜56(L2)、26〜35(H1)、26〜35b(H1)、49〜65(H2)、93〜102(H3)、および94〜102(H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ
を含む。
別段の定めが無い限り、本明細書において、可変ドメイン中のHVR残基および他の残基(例えばFR残基)は、Kabat EU指標番号付与システム(Kabat et al.、前記)に従って番号を付与する。
「単離された」抗体とは、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換HPLCもしくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体純度を評価するための方法に関する概要については、例えば、Flatman, S. et al., J. Chrom. B 848 (2007) 79-87を参照されたい。
「単離された」核酸とは、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、その核酸分子は、染色体外に存在するか、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、存在し得る変種抗体を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。例えば、天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体調製物を作製する間に発生するこのような変種は通常、少量で存在する。様々な決定基(エピトープ)を対象とする様々な抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られたものであるという抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の作製を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用するためのモノクローナル抗体は、限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含むトランスジェニック動物を使用する方法を含む、様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法および他の例示的な方法は、本明細書において説明される。
「ネイティブ抗体」とは、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を意味する。例えば、ネイティブIgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)とそれに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てることができる。
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」とは、配列を整列させ、かつ必要な場合にはギャップを導入して、最大の配列同一性パーセントを実現した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部分とみなさない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当技術分野の技能の範囲内である様々な方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなど公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて、実現することができる。当業者は、比較される配列の全長に渡って最大限のアライメントを実現するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメーターを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的のためには、配列比較コンピュータープログラムALIGN-2を用いて、アミノ酸配列同一性%の値を得る。配列比較コンピュータープログラムALIGN-2は、Genentech, Inc.の著作物であり、ソースコードはユーザー向け文書と共にU.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559に提出され、米国著作権登録番号(U.S. Copyright Registration No.)TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc., South San Francisco, Californiaから公的に入手可能であるか、またはソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティング・システムにおける使用向けにコンパイルされるべきである。配列比較パラメーターはすべて、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために使用される状況において、所与のアミノ酸配列Bに対する、該配列Bとの、または該配列Bと比較しての所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bに対する、該配列Bとの、または該配列Bと比較してのある特定のアミノ酸配列同一性%を有するか、または含む所与のアミノ酸配列Aと表現することもできる)は、以下のとおりに算出される。
100×比X/Y
式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムによるAおよびBのアラインメントにおいて同一のマッチとして採点されたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくならないが認識されると考えられる。別段の記載が特に無い限り、本明細書において使用されるアミノ酸配列同一性%の値はすべて、すぐ前の節で説明したとおりに、ALIGN-2コンピュータープログラムを用いて得られる。
本明細書において使用される「組換え抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されるあらゆる抗体(キメラ、ヒト化、およびヒト)を意味する。これは、NS0細胞もしくはCHO細胞などの宿主細胞またはヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体を含む。このような組換え抗体は、可変領域および定常領域を再配列された形態で有する。組換え抗体は、インビボの体細胞超変異に供されてよい。したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に由来しかつ関連してはいるものの、インビボにおいてヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在し得ない配列である。
本出願内で使用される「価」という用語は、(抗体)分子中に特定の数の結合部位が存在することを意味する。したがって、「二価」、「四価」、および「六価」という用語は、(抗体)分子中に2個の結合部位、4個の結合部位、および6個の結合部位が存在することをそれぞれ意味する。本明細書において報告される二重特異性抗体は、1つの好ましい態様において「二価」である。
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体がその抗原に結合するのに関与している抗体重鎖または抗体軽鎖のドメインを意味する。一般に、抗体の重鎖および軽鎖(それぞれVHおよびVL)の可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を各ドメインが含む、類似した構造を有する。(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照されたい)。1つのVHドメインまたはVLドメインは、抗原結合特異性を与えるのに十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、その抗原に結合する抗体に由来するVHドメインまたはVLドメインを用いて、相補的なVLドメインまたはVHドメインのライブラリーをそれぞれスクリーニングして、単離することができる(例えば、Portolano, S., et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照されたい)。
本明細書において使用される「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製する核酸構造体としてのベクター、ならびに導入された先の宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。ある種のベクターは、機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
II.本発明
新生児型Fc受容体(FcRn)は、IgGクラスの抗体のインビボでの代謝運命にとって重要である。FcRnは、リソソーム分解経路から野生型IgGを救助する機能を果たし、その結果、クリアランスを減らし、半減期を長くする。これは、2つのポリペプチド:50kDaのクラスI主要組織適合性複合体様タンパク質(α-FcRn)および15kDaのβ2-ミクログロブリン(β2m)からなるヘテロ二量体タンパク質である。FcRnは、クラスIgGの抗体のFc領域のCH2-CH3部分に高い親和性で結合する。クラスIgGの抗体とFcRnとの相互作用は、pHに依存しており、1:2の化学量論比で起こる。すなわち、1つのIgG抗体分子が、その2つの重鎖Fc領域ポリペプチドを介して、2つのFcRn分子と相互作用することができる(例えば、Huber, A.H., et al., J. Mol. Biol. 230 (1993) 1077-1083を参照されたい)。
したがって、IgGのインビトロでのFcRn結合特性/特徴は、血液循環におけるインビボでのその薬物動態学的特性を示している。
FcRnとIgGクラスの抗体のFc領域との相互作用には、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの異なるアミノ酸残基が関与している。FcRnと相互作用するアミノ酸残基は、おおよそEU位置243〜EU位置261の間、おおよそEU位置275〜EU位置293の間、おおよそEU位置302〜EU位置319の間、おおよそEU位置336〜EU位置348の間、おおよそEU位置367〜EU位置393の間、EU位置408、およびおおよそEU位置424〜EU位置440の間に位置している。より具体的には、KabatのEU番号付与による以下のアミノ酸残基が、Fc領域とFcRnの相互作用に関与している:
。
部位特異的変異誘発研究により、FcRnに対するIgGのFc領域中の不可欠な結合部位は、ヒスチジン310、ヒスチジン435、およびイソロイシン253、ならびに程度は落ちるが、ヒスチジン433およびチロシン436であることが判明した(例えば、Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2819-2825; Raghavan, M., et al., Biochem. 34 (1995) 14649-14657; Medesan, C., et al., J. Immunol. 158 (1997) 2211-2217を参照されたい)。
FcRnへのIgG結合を増大させるための方法は、IgGの様々なアミノ酸残基:トレオニン250、メチオニン252、セリン254、トレオニン256、トレオニン307、グルタミン酸380、メチオニン428、ヒスチジン433、およびアスパラギン434を変異させることによって実施されてきた(Kuo, T.T., et al., J. Clin. Immunol. 30 (2010) 777-789を参照されたい)。
一部の場合において、血液循環における半減期が短縮された抗体が望まれる。例えば、硝子体内に適用するための薬物は、眼において長い半減期を有し、患者の血液循環において短い半減期を有するべきである。このような抗体はまた、例えば眼の中の疾患部位への曝露が増大するという利点を有している。
FcRn結合およびそれに加えて血液循環における半減期に影響を及ぼす異なる変異は公知である。マウスFc領域-マウスFcRn相互作用に決定的に重要なFc領域残基は、部位特異的変異誘発によって同定されている(例えば、Dall'Acqua, W.F., et al. J. Immunol 169 (2002) 5171-5180を参照されたい)。残基I253、H310、H433、N434、およびH435(KabatによるEU番号付与)が、相互作用に関与している(Medesan, C., et al., Eur. J. Immunol. 26 (1996) 2533-2536; Firan, M., et al., Int. Immunol. 13 (2001) 993-1002; Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 24 (1994) 542-548)。残基I253、H310、およびH435が、ヒト FcとマウスFcRnの相互作用に決定的に重要であることが判明した(Kim, J.K., et al., Eur. J. Immunol. 29 (1999) 2819-2855)。タンパク質間の相互作用研究によってFcRn結合を改良するために、残基M252Y、S254T、T256EがDall'Acquaらによって説明されている(Dall'Acqua, W.F., et al. J. Biol. Chem. 281 (2006) 23514-23524)。ヒトFc-ヒトFcRn複合体の研究により、残基I253、S254、H435、およびY436が相互作用に決定的に重要であることが示された(Firan, M., et al., Int. Immunol. 13 (2001) 993-1002; Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604)。Yeung, Y.A., et al. (J. Immunol. 182 (2009) 7667-7671)において、残基248〜259位および301〜317位および376〜382位および424〜437位の様々な変異体が報告および調査されている。
現在、モノクローナル抗体のFab断片中のいくつかの領域が、FcRnに結合した際に重水素取込みの減少を示すことが判明している(図1および2を参照されたい)。これらの領域には、重鎖中の残基1〜23、145〜174、180〜197ならびに軽鎖中の残基55〜83(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)が含まれる。
したがって、Fc領域アミノ酸残基だけでなく、CH1ドメインおよびVH/VLドメイン中に位置する残基も、抗体-FcRn相互作用の強度、およびそれと共に堅固さに寄与する。
この知見に基づいて、現在、抗体のインビボ半減期を特別な目的に合うようにするために、新規のアミノ酸変異およびアミノ酸変異の組合せを提供することが可能である。
HDX-MSを用いて、ヒトFcRnへの結合に関与している、完全長IgG1抗体についての部位をマッピングした。FcRnを伴う抗ジゴキシゲニン抗体のHDX-MSの有効な配列包括度は、HCおよびLCの両方について82%であった。これは、89個のペプチドの重水素取込みに関して報告している(図1を参照されたい)。
抗体のFcドメインおよびFabドメインの両方のいくつかの領域が、FcRnに結合した際に重水素取込みの減少を示す(図1および2を参照されたい)。これらの領域には、重鎖中の残基1〜23、145〜174、180〜197ならびに軽鎖中の残基55〜83(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)の番号付与)が含まれる。
領域1〜23において、オーバーラップペプチド5〜18、5〜22、および5〜23のHDX解析により、伸長されたペプチドのC末端(19〜23)について、追加の保護は観察されないことが示されている。十分に重水素化された試料の逆交換の差が15%超であるため、ペプチド1〜18と他のペプチド(4〜18、5〜18)の比較は、実施されない。したがって、HDX-MS実験において、ペプチドの最初の2つのN末端残基の重水素はMS検出前に失われることを考慮すると、FcRn結合による重水素取込みの減少は、原因が残基3〜18であると突き止められることができる。
抗体CH1ドメインにおける領域145〜174中のオーバーラップペプチド(145〜174、146〜174、156〜174、159〜174)におけるHDXを比較し、HDX-MS実験において、ペプチドの最初の2つのN末端残基の重水素はMS検出前に失われることを考慮することにより、FcRn結合によるHDXの保護は原因が残基161〜174であると突き止められることが示される。
領域180〜197の場合、オーバーラップペプチド186〜197は、FcRn結合の際に、ペプチド180〜197と比べて約半分の重水素取込み減少しか示さない。したがって、HDX-MS実験において、ペプチドの最初の2つのN末端残基の重水素はMS検出前に失われることを考慮すると、FcRnによるHDXの保護は、原因が残基182〜197であると突き止めることができる。
LCでは、フレームワーク領域3の領域55〜83中のいくつかのペプチドが、FcRn結合の際に重水素取込みの減少を示す。オーバーラップペプチド(55〜71、55〜73、55〜83、71〜82、71〜83)を解析し、HDX-MS実験において、ペプチドの最初の2つのN末端残基の重水素はMS検出前に失われることを考慮することによって、結合相互作用は、原因が主に残基57〜71であると突き止められる。
FcRn結合の際にFc領域から遠いこれらの領域のHD交換が減少することは、これらの領域が、抗体-FcRn相互作用に関与するアミノ酸残基を含むことを示している。
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、完全長抗体を選択するための方法である:
(a)重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって、複数の完全長抗体を親完全長抗体から作製する段階、
(b)複数の抗体からの各完全長抗体の、ヒト新生児型Fc受容体(FcRn)に対する結合強度を測定する段階、ならびに
(c)FcRnに対する結合強度が親完全長抗体と異なる完全長抗体を、複数の完全長抗体より選択する段階。
この理論に縛られるわけではないが、抗体のFc領域とFcRnとの第1の相互作用が確立された後、抗体のFab部分とFcRnとの第2の相互作用が生じると想定されている。この第2の相互作用は、本明細書において提示するデータによって示されるように、第1の相互作用の強度を変更する。
本明細書において提示するHD交換データにおいて、可変ドメイン中の比較的少量の正電荷に基づくFabとFcRnとの直接的相互作用が存在することが、判明している。
さらに本明細書において報告されるように、追加の正電荷が、ウステキヌマブのFab領域の特定の部分に加えられると、FcRn相互作用強度が顕著に向上した。この相互作用の増大は、FcRnアフィニティーカラムのpH勾配においてより遅れて溶出するため、pHに依存する結合挙動に従わないことが判明している。
多くのFcRnカラム保持時間解析において、IgGはどれも、それらのFab配列およびそれによるそれらの個々のFab荷電パターンによって左右される個々の保持時間プロファイルを示すことが判明している。この観察は、泳動用緩衝液の塩含有量を多くして、追加の電荷依存性相互作用を解明することによって、改良することができる。
各抗体に対する標的を定めたプレインキュベーションによってFabの影響を遮断することが、判明している。
したがって、各抗体が、FcRnへの抗体結合に影響し得る個々の荷電パターンをFab領域中に有していることが判明しており、本明細書において提示される。
抗体が、FcRnへの非常に強い結合、またはさらに強すぎる結合を既に有している(例えば、FcRnアフィニティーカラムでの溶出pH値がpH7.4に近いかもしくはさらにpH7.4を上回ることによって、または強力なFcRn結合にもかかわらずインビボ半減期が予想外に短くなっていることによって例示される)場合、抗体-FcRn相互作用は、抗体のFab領域中の電荷の数を減らすことによって、変更することができる。例えば、本特許出願の実施例において報告されるFcRnアフィニティークロマトグラフィーでは、溶出pHが7.4またはそれ以上である抗体は、FcRn相互作用が強すぎる抗体である。(Fab領域操作が十分ではない場合、最終的にはFc領域操作を共に用いて)Fab領域中の電荷の数を減らすことによって、保持時間を短くして、pH7.4より低い溶出pHをもたらすこともできる。このような抗体は、長くなったインビボ保持時間によって、FcRn相互作用から利益を得る。
抗体が、FcRnへの弱い結合を有している(例えば、FcRnアフィニティーカラムでの溶出pH値がpH7.4よりかなり小さいことによって例示される)場合、抗体-FcRn相互作用は、抗体のFab領域中の電荷の数を増やすことによって、変更することができる。例えば、本特許出願の実施例において報告されるFcRnアフィニティークロマトグラフィーでは、溶出pHが6.5である抗体は、FcRn相互作用が弱い抗体である。(Fab領域操作が十分ではない場合、最終的にはFc領域操作を共に用いて)Fab領域中の電荷の数を増やすことによって、保持時間を長くして、pH7.4に近い溶出pHをもたらすこともできる。このような抗体は、長くなったインビボ保持時間によって、FcRn相互作用から利益を得る。
通常、Fab領域の変更された電荷は、全体の正電荷に影響する、すなわち、正電荷の数が減少または増加するか、あるいは負電荷の数が増加または減少する。
Fab領域の全領域が、各抗体のFc領域に結合しているFcRnと相互作用できるとは限らないため、本明細書において概説する領域中の残基、すなわち、重鎖可変ドメインの1〜23位にまたがる領域中の残基(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメインの55〜83位にまたがる領域中の位置の残基(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン(EU指標による番号付与)の145〜174位にまたがる領域中の位置の残基、および第1の重鎖定常ドメイン(EU指標による番号付与)の180〜197位にまたがる領域中の位置の残基を改変することによって、抗体-FcRn相互作用を変更できることが判明している。
さらに、二重特異性抗体の場合、各Fab領域を個別に操作することができ、1つの抗体Fc領域は2つのFcRn分子と相互作用できるため、より多くの潜在的な相互作用部位および改変部位が得られる。
したがって、本明細書において報告される方法において、本明細書において定義される領域中に導入された変異は、正電荷部分(patch)を導入、除去、または改変する。(1文字のアミノ酸記号で)例えばEからQ(正電荷の導入)、TからE(正電荷の減少)、AからD(正電荷の減少)、SからD(正電荷の減少)、GからE(正電荷の減少)、GからR(正電荷の導入)、またはSからK(正電荷の導入)などのこのような変異は、当業者に公知である。生理学的pH値において、アミノ酸残基アルギニン(R)、リジン(K)、およびヒスチジン(H)は、たいていはプロトン化されており、したがって正電荷を持っているのに対し、アミノ酸残基アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)は、たいていは脱プロトン化されている(すなわち、負電荷を持っている)。
本発明は、抗ジゴキシゲニン抗体を用いて、以下に例示される。
以下の変異が、抗ジゴキシゲニン抗体に導入された:
-HC-E6Q(変種1)、
-HC-T164E(変種2)、
-HC-A162DおよびHC-S165D(変種3)、
-HC-G194E(変種4)、
-HC-S191DおよびHC-Q196D(変種5)、
-LC-G57R(変種6)、
-LC-G57RおよびLC-S60K(変種7)、
-HC164E、HC-A162D、HC-S165D、HC-G194E、HC-S191D、およびHC-Q196D(変種8)、
-HC-E6Q、HC-A162D、HC-T164E、HC-S165D、HC-S191D、HC-G194E、HC-Q196D、LC-G57K、およびLC-S60K(変種9)。
FcRnアフィニティーカラム上でのおよびSPRに基づく結合アッセイ法でのこれらの変異体の特性を、以下の表に示す(抗体-FcRn相互作用に対する影響)。
したがって、上記に提示したデータから、可変ドメインおよび/または第1の定常ドメイン(VH1およびCL)中の荷電パターンを変更することによって、FcRn結合の変更をもたらせることを確認することができる。
本明細書において報告される1つの局面は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される1つまたは複数のアミノ酸残基をランダム化することによって、単一の親完全長抗体から作製される、複数の変種完全長抗体である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
本明細書において報告される別の局面は、完全長抗体のインビボ半減期を変更するための、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される位置における1つまたは複数のアミノ酸変異の使用である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
本明細書において報告されるさらなる局面は、2本の軽鎖ポリペプチドおよび2本の重鎖ポリペプチドを含む変種完全長抗体であり、この変種抗体は、重鎖可変ドメイン中の1〜23位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の55〜83位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の145〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の180〜197位(EU指標による番号付与)を含む位置の群より選択される1つまたは複数の位置におけるアミノ酸変異を導入することによって親完全長抗体から得られ、かつこの変種抗体は、ヒト新生児型Fc受容体に対して、親完全長抗体とは異なる親和性を有している。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の3〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜71位(Kabatによる番号付与)、第1の重鎖定常ドメイン中の161〜174位(EU指標による番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の182〜197位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基は、重鎖可変ドメイン中の5〜18位(Kabatによる番号付与)、軽鎖可変ドメイン中の57〜70位(Kabatによる番号付与)、および第1の重鎖定常ドメイン中の181〜196位(EU指標による番号付与)のアミノ酸残基より選択される。
本明細書において報告される1つの局面は、以下のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数において変異を有している抗体である:
-重鎖中の残基6、162、164、165、191、194、195、および196
-軽鎖中の残基57および60
(それぞれ、Kabat(可変ドメイン)およびEU指標(定常領域)による番号付与)。
1つの態様において、抗体は完全長IgG抗体である。1つの態様において、抗体は完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、抗体は二重特異性抗体である。
アミノ酸残基3〜18を含む重鎖ペプチドストレッチを改変して、FcRn上の負の対応物と相互作用できる既存の正の表面電荷部分を大きくできることが判明している。E6Q変異のみが、エネルギー的に許容されるはずである。
1つの態様において、抗体は、重鎖可変ドメイン中にアミノ酸変異E6Qを有している。
アミノ酸残基159〜174を含む重鎖ペプチドストレッチは、CH2ドメインにおける正の部分の向い側にある2つの隣接した負電荷部分を分断していることが判明している。したがって、CH1-CH2相互作用が増大すると、FabがFcRnに近寄ることができ、その結果として、FcRn結合が容易になり得る。この部分は、アミノ酸残基182〜197を含む重鎖ペプチドストレッチと共に改変されるのが最も良い。両方とも、同じCH2ドメイン部分の近くに存在するためである。したがって、162および/もしくは164および/もしくは165ならびに/または191および/もしくは194および/もしくは195および/もしくは196位のアミノ酸残基のうちの1つまたは複数が、抗体-FcRn結合/相互作用を強化するために、酸性残基、1つの好ましい態様においてDまたはEに改変されるべきである。
1つの態様において、抗体は、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの1つまたは複数において、酸性アミノ酸を有している。1つの態様において、酸性アミノ酸は、DまたはEである。1つの態様において、抗体は、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)のアミノ酸位置162、164、165、191、194、195、および196のうちの2つまたはそれ以上において、酸性アミノ酸残基を有しており、それらの酸性アミノ酸残基は互いに独立して選択される。
軽鎖可変ドメインのアミノ酸残基57〜71を含むペプチドストレッチは、FcRn上の負の部分の向かい側の弱い正の部分を形成することが判明している。このストレッチ中の正の残基を負の残基、すなわち塩基性残基に変異させることにより、抗体-FcRn相互作用を強化することができる。1つの好ましい態様において、軽鎖可変ドメインの57位および/または60位のアミノ酸残基は互いに独立して塩基性アミノ酸残基である。1つの態様において、塩基性アミノ酸残基は、KおよびRより選択される。
1つの態様において、抗体は、軽鎖可変ドメインのアミノ酸位置57および60のうちの一方または両方において、塩基性アミノ酸残基を有している。1つの態様において、塩基性アミノ酸残基は、KまたはRである。1つの態様において、抗体は、軽鎖可変ドメインの57位および60位の両方において、塩基性アミノ酸残基を有しており、それらの塩基性アミノ酸残基は互いに独立して選択される。
1つの態様において、抗体は、以下のアミノ酸変異のうちの1つまたは複数を有している:
-重鎖E6Q、および/もしくは
-重鎖A162D、および/もしくは
-重鎖A162E、および/もしくは
-重鎖T164D、および/もしくは
-重鎖T164E、および/もしくは
-重鎖S165D、および/もしくは
-重鎖S165E、および/もしくは
-重鎖S191D、および/もしくは
-重鎖S191E、および/もしくは
-重鎖G194D、および/もしくは
-重鎖G194E、および/もしくは
-重鎖T195D、および/もしくは
-重鎖T195E、および/もしくは
-重鎖Q196D、および/もしくは
-重鎖Q196E、ならびに/または
-軽鎖G57K、および/もしくは
-軽鎖G57R、および/もしくは
-軽鎖S60K、および/もしくは
-軽鎖S60R。
本明細書において報告される1つの局面において、抗体は、所望の抗体-FcRn相互作用を有している抗体についてランダムライブラリーをスクリーニングすることによって、選択されてよい。
例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、かつ所望の結合特徴を有する抗体についてそのようなライブラリーをスクリーニングするための様々な方法が、当技術分野において公知である。このような方法は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al., Methods in Molecular Biology 178 (2001) 1-37において概説されており、例えば、McCafferty, J. et al., Nature 348 (1990) 552-554; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628; Marks, J.D. et al., J. Mol. Biol. 222 (1992) 581-597; Marks, J.D. and Bradbury, A., Methods in Molecular Biology 248 (2003) 161-175; Sidhu, S.S. et al., J. Mol. Biol. 338 (2004) 299-310; Lee, C.V. et al., J. Mol. Biol. 340 (2004) 1073-1093; Fellouse, F.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 12467-12472;およびLee, C.V. et al., J. Immunol. Methods 284 (2004) 119-132においてさらに説明されている。
特定のファージディスプレイ法では、VH遺伝子のレパートリーおよびVL遺伝子のレパートリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングし、ファージライブラリーにおいて無作為に組み換え、次いで、Winter, G. et al., Ann. Rev. Immunol. 12 (1994) 433-455で説明されているとおりに、抗原結合ファージについてそれらをスクリーニングすることができる。典型的には、ファージは、単鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のいずれかとして抗体断片を提示する。ヒト抗体ファージライブラリーを説明している特許公報には、例えば、US5,750,373、およびUS2005/0079574、US2005/0119455、US2005/0266000、US2007/0117126、US2007/0160598、US2007/0237764、US2007/0292936、およびUS2009/0002360が含まれる。
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体または抗体断片は、本明細書においてヒト抗体またはヒト抗体断片とみなされる。
哺乳動物細胞における、ワクシニアウイルスを介した全長抗体の発現に基づくスクリーニングシステムが、US2002/0123057において報告されている。別のスクリーニングシステムは、哺乳動物細胞における抗体の細胞表面発現に基づいている(Ho, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006) 9637-9642)。
COS細胞における細胞ディスプレイがHiguchiらによって説明されている(J. Immunol. Meth. 202 (1997) 193-204)。Beerliらは、BHK細胞において抗原特異的B細胞から作製した、シンドビスウイルスに基づくscFv細胞表面ディスプレイライブラリーを報告している(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105 (2008) 14336-14341)。Ho およびPastanは、HEK293細胞を用いる方法(scFv)を報告している(Methods Mol. Biol. 562 (2009) 99-113)。リンパ球ディスプレイは、Alonso-Caminoらによって報告されている(PLoS One. 4 (2009) e7174)。Zhouらは、HEK293細胞を用いる方法を報告している(Acta Biochim. Biophys. Sin. 42 (2010) 575-584)。Zhouらは、Flp-Inシステムを報告している(MAbs. 2 (2010) 508-518)。
Taube, R.らは、ヒト細胞およびレンチウイルスのウイルス粒子の表面におけるヒト抗体の安定な発現を報告している(PLOS One 3 (2008) e3181)。
WO2007/047578において、抗体ライブラリーの細胞ディスプレイが報告されている。
真核細胞における抗体のディスプレイおよび/または分泌は、抗体を単離するための別の方法である。これらは、抗体をコードする核酸をレンチウイルスベクターにクローニングすることによって作製され、レンチウイルスベクターを用いて細胞に形質導入して、これらの細胞の表面での抗体の発現を可能にする。使用されるベクターは、抗体軽鎖、抗体重鎖、選択的にスプライシングされた膜アンカー、もしくはタグ、または蛍光標識タンパク質を有している。
Sasaki-Haraguchi, N.ら(Biochem. Biophys. Res. Commun. 423 (2012) 289-294)は、ヒトの極端に短いイントロンのヒトmRNA前駆体スプライシングに対する機構的洞察:潜在的な珍しいメカニズムがGに富むイントロンを特定すること(mechanistic insights into human pre-mRNA splicing of human ultra-short introns: potential unusual mechanism identifies G-rich introns)について報告している。
1つの態様において、可溶型および膜結合型の完全長抗体軽鎖および完全長抗体重鎖を発現させるためのEV71-IRES連結2シストロン性発現カセットを含むレンチウイルス発現ベクターと組み合わせたレンチウイルス発現ライブラリーを用いるWO2013/092720において報告されている方法/ディスプレイシステムが、本明細書において報告される方法において使用される。使用されるレンチウイルスベクターは、ウイルスの長い末端反復配列3'LTRおよび5'LTR、抗体軽鎖、EV71 IRES、抗体重鎖を含む。
1つの態様において、EP13178581.8において報告される方法/ディスプレイシステムが使用される。
特定の態様において、本明細書において提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位/抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。
多重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組み換え同時発現(Milstein, C. and Cuello, A.C., Nature 305 (1983) 537-540、WO93/08829、およびTraunecker, A., et al., EMBO J. 10 (1991) 3655-3659を参照されたい)および「ノブインホール(knob-in-hole)」操作(例えばUS5,731,168を参照されたい)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。また、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電気的操縦(electrostatic steering)効果を操作すること(WO2009/089004);2つまたはそれ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、US4,676,980およびBrennan, M. et al., Science 229 (1985) 81-83を参照されたい);二重特異性抗体を作製するためのロイシンジッパーを用いること(例えば、Kostelny, S.A., et al., J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553を参照されたい);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術を用いること(例えば、Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照されたい);および単鎖Fv(sFv)二量体を用いること(例えば、Gruber, M. et al., J. Immunol. 152 (1994) 5368-5374を参照されたい);ならびに例えばTutt, A. et al., J. Immunol. 147 (1991) 60-69で説明されているとおりに、三重特異性抗体を調製することによって、多重特異性抗体を作製することもできる。
「オクトパス抗体(Octopus antibody)」を含む、3つまたはそれ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体もまた、本明細書に含まれる(例えば、US2006/0025576を参照されたい)。
本明細書の抗体にはまた、「二重作用性Fab」または「DAF」が含まれる(例えば、US2008/0069820を参照されたい)。
本明細書の抗体にはまた、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792、およびWO2010/145793において説明されている多重特異性抗体も含まれる。
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸変異を有する抗体の変種/変異体が、提供される。保存的変異は、以下の表の「好ましい変異」という項目の下に示す。より実質的な変更は、以下の表の「例示的変異」という項目の下に提供し、アミノ酸側鎖のクラスに関してさらに後述する。アミノ酸変異を関心対象の抗体に導入して、その作製物を所望のFcRn結合についてスクリーニングすることができる。
アミノ酸は、側鎖の共通特性に基づいてグループ分けされ得る:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性で親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の向きに影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的変異は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
変異性変種の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つまたは複数の残基の変異を含む。一般に、その後の研究のために選択される得られた変種は、親抗体を基準としてFcRn結合特性の変化(例えば向上)を有すことになり、かつ親抗体の他の生物学的特性を実質的に保持することになる。
いくつかの態様において、様々な方法(例えば、誤りがちなPCR、チェーンシャッフリング、またはオリゴヌクレオチド指定変異誘発)のいずれかによって、コードしている核酸中に変異が導入される。次いで、ライブラリーが作製される。次いで、ライブラリーをスクリーニングして、所望のFcRn親和性を有する任意の抗体変種を同定する。多様性を導入するための別の方法は、いくつかのアミノ酸残基(例えば、同時に4〜6個の残基)がランダム化される、位置特異的アプローチを伴う。
1つの態様において、変異は、変異させるアミノ酸残基の、同じグループの別の残基への変化をもたらす。
1つの態様において、変異は、変異させるアミノ酸残基の、別のグループ由来の別の残基への変化をもたらす。
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸修飾を本明細書において提供される抗体のFc領域中に導入し、それによってFc領域変種を作製することができる。Fc領域変種は、1つまたは複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を含み得る。
特定の態様において、本発明は、すべてではないがいくつかのエフェクター機能を有する抗体変種を企図する。このことにより、その抗体は、インビボでの抗体の半減期が重要ではあるが、ある種のエフェクター機能(補体およびADCCなど)が不必要または有害である用途に対する望ましい候補となる。インビトロおよび/またはインビボの細胞障害性アッセイ法を行って、CDC活性および/またはADCC活性の減少/消失(depletion)を確認することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイ法を行って、抗体はFcγR結合を欠く(したがって、ADCC活性を欠く可能性が高い)がFcRn結合能を保持していることを確実にすることができる。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞は、Fc(RIIIのみを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464頁の表3に要約されている。関心対象の分子のADCC活性を評価するためのインビトロのアッセイ法の非限定的な例は、US5,500,362(例えば、Hellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;およびHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照されたい);US5,821,337(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照されたい)において説明されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTI(商標)非放射性細胞障害性アッセイ法(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);およびCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞障害性アッセイ法(Promega, Madison, WI)を参照されたい)。このようなアッセイ法に有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、またはさらに、関心対象の分子のADCC活性は、インビボで、例えば、Clynes, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656で開示されているもののような動物モデルにおいて評価してもよい。また、C1q結合アッセイ法を実施して、抗体はC1qに結合することができず、したがって、CDC活性を欠くことを確認することもできる。例えば、WO2006/029879およびWO2005/100402におけるC1qおよびC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ法を実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171; Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照されたい)。FcRn結合およびインビボのクリアランス/半減期の測定はまた、当技術分野において公知の方法を用いて実施することもできる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006) 1759-1769を参照されたい)。
エフェクター機能が低下している抗体には、Fc領域残基238位、265位、269位、270位、297位、327位、および329位のうちの1つまたは複数が置換されたものが含まれる(US6,737,056)。このようなFc変異体には、残基265位および297位がアラニンに置換された、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸265位、269位、270位、297位、および327位のうちの2つまたはそれ以上における置換を有するFc変異体が含まれる(US7,332,581)。
FcRへの結合が向上されているかまたは減弱している特定の抗体変種が説明されている(例えば、US6,737,056;WO2004/056312、およびShields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照されたい)。
特定の態様において、抗体変種は、ADCCを向上させる1つまたは複数のアミノ酸置換、例えばFc領域の298位、333位、および/または334位(残基のEU番号付与)の位置における置換を有するFc領域を含む。
例えば、US6,194,551、WO99/51642、およびIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184において説明されているように、いくつかの態様において、C1q結合および/または補体依存性細胞障害性(CDC)の変化(すなわち、向上または減弱のいずれか)をもたらす改変が、Fc領域中に施される。
胎児への母親のIgGの移行に関与する、半減期が長くなり新生児型Fc受容体(FcRn)への結合が向上した抗体(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593およびKim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)は、US2005/0014934において説明されている。これらの抗体はFcRnへのFc領域の結合を向上させる1つまたは複数の置換をその中に有するFc領域を含む。このようなFc変種には、Fc領域残基:238位、256位、265位、272位、286位、303位、305位、307位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、413位、424位、または434位のうちの1つまたは複数における置換、例えばFc領域残基434位の置換を有するものが含まれる(US7,371,826)。
Fc領域変種の他の例に関しては、Duncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;US5,648,260;US5,624,821;およびWO94/29351も参照されたい。
本発明の教示
本明細書において、抗体のVL/CH1ドメイン内の特定の残基の修飾を抗体-FcRn相互作用に影響を及ぼすために使用することができることが見出されている。
組換え方法
抗体は、例えば米国特許第4,816,567号において説明されているとおりに、組換え方法および組成物を用いて作製することができる。1つの態様において、本明細書において説明する抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードし得る。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。1つのこのような態様において、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターおよび抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターを含む(例えば、それらで形質転換されている)。1つの態様において、宿主細胞は、真核生物性、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞(例えば、Y0細胞、NS0細胞、Sp20細胞)である。1つの態様において、本明細書において報告される抗体を作製する方法が提供され、該方法は、抗体の発現に適した条件下で、上記に提供されるような抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養する段階、および任意で、宿主細胞(または宿主細胞培地)から抗体を回収する段階を含む。
抗体の組換えの場合、例えば前述したような抗体をコードする核酸は、単離され、宿主細胞におけるその後のクローニングおよび/または発現のために、1つまたは複数のベクター中に挿入される。このような核酸は、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)、容易に単離および配列決定され得る。
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に適した宿主細胞には、本明細書において説明する原核細胞または真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合には特に、細菌において産生させることができる。細菌における抗体断片および抗体ポリペプチドの発現については、例えば、US5,648,237、US5,789,199、およびUS5,840,523を参照されたい。(大腸菌における抗体断片の発現を説明するCharlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003), pp. 245-254)も参照されたい)。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離することができ、さらに精製することができる。
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物も、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング宿主または発現宿主であり、これらには、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、その結果、部分的または全面的にヒトグリコシル化パターンを有する抗体を産生する真菌株および酵母株が含まれる。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414;およびLi, H. et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照されたい。
グリコシル化抗体の発現のために適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞および昆虫細胞が含まれる。昆虫細胞と組み合わせて、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために使用され得る多数のバキュロウイルス株が同定されている。
植物細胞培養物もまた、宿主として使用することができる。例えば、US5,959,177、US6,040,498、US6,420,548、US7,125,978、およびUS6,417,429(トランスジェニック植物において抗体を産生させるためのPLANTIBODIES(商標)技術を説明している)を参照されたい。
脊椎動物細胞もまた、宿主として使用され得る。例えば、懸濁液中で増殖するように順応させた哺乳動物細胞株が、有用である場合がある。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胚性腎臓株(例えばGraham, F.L. et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74で説明されている293または293細胞);仔ハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252で説明されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(HepG2);マウス乳房腫瘍(MMT060562);例えば、Mather, J.P. et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68で説明されている、TRI細胞;MRC5細胞;およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR- CHO細胞(Urlaub, G., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220)を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生に適したいくつかの哺乳動物宿主細胞株の概要については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照されたい。
材料および方法
組換えDNA技術
Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。
遺伝子およびオリゴヌクレオチドの合成
所望の遺伝子セグメントは、Geneart GmbH(Regensburg, Germany)において化学合成によって調製された。合成された遺伝子断片を、増殖/増幅のために大腸菌(E. coli)プラスミド中にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列は、DNA配列決定によって確認した。あるいは、化学合成したオリゴヌクレオチドをアニールすることによって、またはPCRによって、短い合成DNA断片を組み立てた。個々のオリゴヌクレオチドは、metabion GmbH(Planegg-Martinsried, Germany)によって調製された。
試薬
市販の化学製品、抗体、およびキットはすべて、別段の記載が無い限り、製造業者のプロトコールに従って定められているように使用した。
実施例1
抗ジゴキシゲニン抗体のための組換え発現ベクターの作製
抗ジゴキシゲニン抗体重鎖を発現させるためのベクターの作製
ヒトIgG1定常領域(CH1、ヒンジ、CH2、CH3)および抗ジゴキシゲニン抗体重鎖可変ドメインを含む重鎖をコードする融合遺伝子は、各抗ジゴキシゲニン抗体重鎖可変ドメインをコードするDNA断片を、ヒトIgG1定常領域をコードする配列エレメントに融合することによって、組み立てられた。
抗ジゴキシゲニン抗体重鎖可変ドメインは、以下のアミノ酸配列を有している:
(SEQ ID NO:01)。
ヒトIgG1定常領域は、以下のアミノ酸配列を有している:
(SEQ ID NO:02)。
発現ベクターはまた、大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18由来の複製起点、および大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子も含んだ。
抗体重鎖の転写単位は、5'から3'の方向に、以下の機能エレメントを含む:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター(P-CMV)、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5'非翻訳領域(5'UTR)、
-マウス免疫グロブリンの重鎖シグナル配列、
-重鎖可変(VH)ドメインをコードする核酸、
-ヒトIgG1定常領域をコードする核酸、ならびに
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
抗ジゴキシゲニン抗体軽鎖を発現させるためのベクターの作製
各抗ジゴキシゲニン抗体軽鎖可変ドメインをコードするDNA断片を、ヒトIg-κ定常領域をコードする配列エレメントに融合することによって、ヒトIg-κ定常領域(CL-κ)およびκアイソタイプの抗ジゴキシゲニン抗体軽鎖可変ドメインを含むκ軽鎖をコードする融合遺伝子を組み立てた。
抗ジゴキシゲニン抗体軽鎖可変ドメインは、以下のアミノ酸配列を有している:
(SEQ ID NO:03)。
ヒトIg-κ定常領域は、以下のアミノ酸配列を有している:
(SEQ ID NO:04)。
発現ベクターはまた、大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18由来の複製起点、および大腸菌においてアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子も含んだ。
抗体κ軽鎖の転写単位は、5'から3'の方向に、以下の機能エレメントを含む:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター(P-CMV)、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5'非翻訳領域(5'UTR)、
-マウス免疫グロブリンの重鎖シグナル配列、
-軽鎖可変(VL)ドメインをコードする核酸、
-ヒトIg-κ定常領域をコードする核酸、ならびに
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
実施例2
抗ジゴキシゲニン抗体の組換え作製
F17培地(Invitrogen Corp.)中で培養し、一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞(ヒト胎児性腎臓細胞株293由来)において、抗体を産生させた。実施例1で説明した各ベクターのトランスフェクションには、「293-Free」トランスフェクション試薬(Novagen)を使用した。個々の発現プラスミドから抗体を発現させた。トランスフェクションは、製造業者の取扱い説明書で指定されたとおりに実施した。組換え抗体を含む細胞培養上清を、トランスフェクション後3〜7日目に回収した。精製するまで、上清を低温(例えば-80℃)で保存した。
例えばHEK293細胞におけるヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般的情報は、Meissner, P. et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203において与えられている。
実施例3
組換え抗ジゴキシゲニン抗体の精製
抗体を含む培養上清をろ過し、2回のクロマトグラフィー工程によって精製した。
PBS(1mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、137mM NaCl、2.7mM KCl)、pH7.4で平衡にしたHiTrap MabSelectSuRe(GE Healthcare)を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって、抗体を捕捉した。平衡緩衝液で洗浄することによって、未結合タンパク質を除去し、25mMクエン酸緩衝液、pH3.1を用いて抗体を回収し、溶離直後に、1M Tris塩基、pH9.0を用いてpH6.0に調整した。
Superdex 200(商標)(GE Healthcare)を用いるサイズ排除クロマトグラフィーを、2回目の精製工程として使用した。サイズ排除クロマトグラフィーは、20mMヒスチジン緩衝液、0.14M NaCl、pH6.0中で実施した。抗体を含む溶液を、Biomax-SK膜(Millipore, Billerica, MA, USA)が装備されたUltrafree-CL遠心式フィルターユニットを用いて濃縮し、-80℃で保存した。
実施例4
ウステキヌマブおよびブリアキヌマブのための組換え発現ベクターの作製
ウステキヌマブ:CNTO 1275、Stelara(商標)、CAS登録番号815610-63-0
ブリアキヌマブ:ABT 874、J 695、Ozespa(商標)、SEQ ID NO:36、WO2001/014162
前述の抗体を発現させるために、CMV-イントロンAプロモーターを含むもしくは含まないcDNA構成、またはCMVプロモーターを含むゲノム構成のいずれかに基づく、(例えばHEK293-Fにおける)一過性発現のための発現プラスミドを使用した。
抗体発現カセットのほかに、これらのプラスミドは以下を含んだ:
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする複製起点、
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子、および
-真核細胞における選択マーカーとしての、ハツカネズミ(Mus musculus)由来のジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子。
抗体遺伝子の転写単位は、以下のエレメントから構成された:
-5'末端の独特な制限部位、
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-続いて、cDNA構成の場合、イントロンA配列、
-ヒト抗体遺伝子の5'非翻訳領域、
-免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-cDNAまたは免疫グロブリンのエキソン-イントロン構成を有しているゲノム構成のいずれかとしての、ヒト抗体鎖、
-ポリアデニル化シグナル配列を有している3'非翻訳領域、ならびに
-3'末端の独特な制限部位。
抗体鎖を含む融合遺伝子をPCRおよび/または遺伝子合成によって作製し、公知の組換え法および組換え技術により、例えば、各プラスミド中の独特な制限部位を用いて、一致する核酸セグメントを連結することによって、組み立てた。サブクローニングした核酸配列は、DNA配列決定によって確認した。一過性トランスフェクションのために、形質転換された大腸菌培養物(Nucleobond AX, Macherey-Nagel)からのプラスミド調製によって、より多量のプラスミドを調製した。
実施例5
ウステキヌマブおよびブリアキヌマブの組換え作製
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J. and Yamada, K.M. (eds.), John Wiley & Sons, Inc.に説明されているように、標準的な細胞培養技術を使用した。
製造業者の取扱い説明書に従ってHEK293-F系(Invitrogen)を用いて、(例えば、重鎖、ならびに対応する軽鎖をコードする)各プラスミドで一過性トランスフェクションすることによって、抗体を作製した。簡単に説明すると、振盪フラスコまたは撹拌発酵槽のいずれかにおいて、無血清FreeStyle(商標)293発現培地(Invitrogen)に懸濁した状態で増殖するHEK293-F細胞(Invitrogen)を、各発現プラスミドおよび293フェクチン(商標)またはフェクチン(Invitrogen)の混合物を用いてトランスフェクトした。2L容振盪フラスコ(Corning)の場合、600mL中に1×106細胞/mLの密度でHEK293-F細胞を播種し、120rpm、8%CO2でインキュベートした。翌日、約1.5×106細胞/mLの細胞密度の細胞を、(A)それぞれ重鎖および等モル比の対応する軽鎖をコードする全プラスミドDNA(1μg/mL)600μgを含むOpti-MEM(Invitrogen)20mL、ならびに(B)Opti-MEM 20ml+293フェクチンまたはフェクチン(2μL/mL)1.2mLの混合物約42mLを用いてトランスフェクトした。グルコース消費に応じて、発酵の過程でグルコース溶液を添加した。分泌された抗体を含む上清を5〜10日後に回収し、抗体を上清から直接的に精製するか、または上清を凍結および保存した。
実施例6
組換えのウステキヌマブおよびブリアキヌマブの精製
MabSelectSure-Sepharose(商標) (GE Healthcare, Sweden)を用いるアフィニティークロマトグラフィー、ブチルセファロース(GE Healthcare, Sweden)を用いる疎水性相互作用クロマトグラフィー、およびSuperdex 200(GE Healthcare, Sweden)サイズ排除クロマトグラフィーによって、抗体を細胞培養上清から精製した。
簡単に説明すると、滅菌ろ過した細胞培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaCl、および2.7mM KCl、pH7.4)を用いて平衡化したMabSelectSuRe樹脂上に捕捉し、平衡化緩衝液で洗浄し、pH3.0の25mMクエン酸ナトリウムを用いて溶出させた。溶出された抗体画分を集め、2M Tris、pH9.0で中和した。1.6M硫酸アンモニウム溶液を最終濃度が0.8M硫酸アンモニウムとなるように添加することによって、抗体プールを疎水性相互作用クロマトグラフィーのために準備し、酢酸を用いてpHをpH5.0に調整した。ブチルセファロース樹脂を35mM酢酸ナトリウム、0.8M硫酸アンモニウム、pH5.0で平衡化した後、抗体を樹脂に添加し、平衡化緩衝液で洗浄し、35mM酢酸ナトリウムpH5.0までの直線勾配を用いて溶出させた。抗体を含む画分を集め、20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0で平衡化したSuperdex 200 26/60 GL(GE Healthcare, Sweden)カラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーによって、さらに精製した。抗体を含む画分を集め、Vivaspin限外ろ過器具(Sartorius Stedim Biotech S.A., France)を用いて必要とされる濃度まで濃縮し、-80℃で保存した。
純度および抗体の完全性を、各精製段階の後に、マイクロ流体Labchip技術(Caliper Life Science, USA)を用いるCE-SDSによって解析した。5μlのタンパク質溶液を、製造業者の取扱い説明書に従ってHTタンパク質発現試薬キットを用いるCE-SDS解析のために調製し、HTタンパク質発現チップを用いてLabChip GXIIシステムにおいて解析した。データは、LabChip GXソフトウェアを用いて解析した。
実施例7
HEK293細胞におけるFcRnの発現
FcRnのコード配列(SEQ ID NO:09)およびβ-2-ミクログロブリンのコード配列(SEQ ID NO:10)を含む2つのプラスミドを用いてHEK293細胞をトランスフェクションすることによって、FcRnを一過性に発現させた。トランスフェクトされた細胞を、36.5℃、120rpm(振盪機の振幅5cm)、湿度80%、および7%CO2で、振盪フラスコ中で培養した。2〜3日毎に、細胞を3〜4×105細胞/mlの密度に希釈した。
一過性発現のために、14l容のステンレス鋼バイオリアクターを、培養体積8l、36.5℃、pH7.0±0.2、pO2 35%(N2および空気をガス供給、合計ガス流量200ml/分)、および撹拌速度100〜400rpmにて開始した。細胞密度が20×105細胞/mlに達した場合、プラスミドDNA 10mg(等モル量の両方のプラスミド)をOpti-MEM(Invitrogen)400ml中で希釈した。293フェクチン(Invitrogen)20mlをこの混合物に添加し、次いで、室温で15分間インキュベートし、続いて、発酵槽に移した。翌日以降、これらの細胞に連続的に栄養素を供給した:供給溶液を500ml/日の速度で添加し、2g/lを上回るレベルを維持するように必要に応じてグルコースを添加した。トランスフェクション後7日目に、1l容バケツ付きスイングヘッド遠心分離機を4000rpmで90分間用いて、上清を回収した。Sartobran Pフィルター(0.45μm+0.2μm、Sartorius)によって上清(13L)を清澄化し、FcRnβ-2-ミクログロブリン複合体をそれから精製した。
実施例8
MSによるモノクローナル抗体およびFcRnの特徴決定
50μgのモノクローナル抗体またはFcRnに対して、還元インタクト質量分析を実施した。その際、4Mグアニジニウム塩酸塩溶液に溶かした0.5M TCEP(Perbio, Bonn, Germany)を37℃で30分間用いて、モノクローナル抗体またはFcRnを還元し変性させた。サイズ排除クロマトグラフィー(Sephadex G-25、2%ギ酸(v/v)を含む40%アセトニトリルを用いる定組成溶離)によって、試料を脱塩した。Triversa NanoMate(Advion, Ithaca, USA)を装備されたQ-TOF機器(MaXis, Bruker, Germany)を用いて、ESI質量スペクトルを記録した。データを評価するために、施設内で開発したソフトウェアを使用した。
0.4M Tris、8Mグアニジウム塩酸塩、pH8、および0.24M DTTを37℃で1時間添加して化合物を変性させ、0.6Mヨード酢酸水溶液を暗所、室温で15分間添加してアルキル化することによって、モノクローナル抗体およびFcRn(250μg)のペプチドマッピングを実施した。NAP 5 Sephadex G-25 DNAグレードカラム(GE Healthcare, Munich, Germany)を用いて、試料の緩衝液を50mM Tris/HCl、pH7.5に交換した。37℃で5時間、トリプシン(Promega, Mannheim, Germany)を用いて、消化を行った(酵素と基質の比は1:37)。得られたペプチド混合物を、逆相U-HPLC(NanoAcquity, Waters GmbH, Eschborn, Germany)を用いて、前処理せずに注入および分離した。Waters製のAcquity UPLC BEH C18カラム(1×150mm、粒子直径1.7μm、孔径300Å)を分離に使用した。溶媒は、水(A)およびアセトニトリル(B)に溶かした0.1%(v/v)ギ酸(Sigma Aldrich, Munich, Germany)であった。60μl/分の1%Bから40%Bまでの直線勾配を50℃で120分間にわたってかけた(run)。Triversa NanoMateインターフェース(Advion, Ithaca, USA)を介して、陽イオンモードで動作するLTQ Orbitrap XLタンデム型質量分析計(Thermo Fisher Scientific, Dreieich, Germany)にUPLCシステムを連結することによって、質量分析を実施した。
実施例9
水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)
以下の試料設定を用いて、HDX-MS実験を実施した。
FcRn(112pmol/μl)を伴うモノクローナル抗体(73pmol/μl)および伴わないモノクローナル抗体(73pmol/μl)を混合し、50mMリン酸ナトリウム、50mM NaClを含むD2O(99.9原子%重水素)、pH6.5中で希釈して、最終的に重水素含有量を90%とし、抗体濃度を1.2pmol/μlとし、FcRn濃度を8.96pmol/μlとした(84%の抗体が結合、IgG1:FcRn結合比は1:2)。
理論上の計算は、IgG1-FcRn相互作用についてのKDが0.6μMであること、およびD2Oを用いた希釈後の最終体積が25μlであることに基づいた。試料を15分間プレインキュベーションした後、様々な時間間隔:0分、1分、1時間、2.5時間、および5時間で、室温にて重水素標識を開始した。各時間間隔で、30pmolの目的タンパク質の一定分量(25μl)を標識混合物から取り出し、リン酸、pH2.3に溶かした25μlの50mMリン酸Na、50mM NaCl、pH6.5、および50μlの0.5M TCEP、6Mグアニジウム-塩酸塩の氷冷混合物中で急冷して最終pHを2.5にし、LC-MS解析するまで凍結して-80℃にした。6M重水素化グアニジウム塩酸塩(最終的な重水素含有量は90原子%)中で一晩インキュベーションすることによって、十分に重水素化された試料を調製した。
急冷した重水素化タンパク質(30pmol)を、ハイブリッドQ-TOF Synapt G2質量分析計(Waters, Milford, USA)と連結した冷却HDX-UPLCシステムに添加した。UPLCシステムは0℃で稼働させ、UPLCシステムには、アガロース上に固定されたペプシン(Thermo Scientific Pierce, Rockford, USA)を含み内容積が60μlである、施設内で充填したペプシンカラム(IDEX, Oak Harbor, USA)、トラップC18カラム(ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm VanGuardカラム(Waters, Milford, USA))、および分析用C18カラム(ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、1×100mmカラム(Waters, Milford, USA))が装備されている。タンパク質を温度20℃においてインラインで消化し、流速200μlの移動相A(0.23%FA)を用いて、トラップカラムによって脱塩した。消化性ペプチドを、トラップカラムから、40μl/分の流速および8%から40%までの移動相B(ACN、0.23%FA)の7分にわたる勾配で、分析カラムを通過させ、質量分析のための質量分析計中へと、溶出させた。ESI源は、機器がイオン移動度解析のために動作可能になる陽イオンモードで操作した。Glu-フィブリノペプチド(Sigma-Aldrich, St.Louis, USA)の基準ロックスプレーシグナルを、内部較正のために取得した。MSe、HDMSe、およびDDA MS/MSの組合せによって、ペプチドの同定を行った。ペプチド同定は、PLGSバージョン2.5におけるデータベース検索によって行い、HDX-MS データは、DynamXバージョン2.2.1で処理した。十分に重水素化された抗体ペプチドの逆交換が同様である場合(7%未満)にのみ、オーバーラップペプチドのHDX-MSデータを用いて、重水素取込みの原因が小さい方のセグメントにあると突き止めた(Sheff, J., et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom. 24 (2013) 1006-1015)。
実施例10
ETDを用いる水素/重水素交換質量分析
注入量を100pmol抗体に調整すること、および(最終的に80原子%重水素にする)D2O緩衝液中への5倍希釈を用いて、標識する間の抗体濃度を4pmol/μlにし、FcRn濃度を14pmol/μlにし、結合した抗体を85%にすること以外は先の実施例と同じ手順によって、重水素化試料を調製した。FcRnに結合した状態と未結合の状態とで重水素取込みが差次的である選択された抗体ペプチド断片に対して、標的を定めた様式でHDX-ETDを実施した。ESI源およびソースT-waveを、Rand, K.D., et al. (J. Am. Soc. Mass Spectrom. 22 (2011) 1784-1793)において説明されている最低限のH/Dスクランブリングのために最適化された設定で、以下のパラメーターを用いて稼働させた:キャピラリー電圧2.8kV、脱溶媒和ガス流量800L/時、コーンガス流量0L/時、ソース温度90℃、脱溶媒和ガス温度300℃、サンプリングコーン20V、エクストラクションコーン2V、T-wave トラップ波速度300m/秒、波高0.2V。1,4-ジシアノベンゼン(Sigma-Aldrich, St.Louis, USA)をETD試薬として用いて、トラップT-waveにおいてETDを実施した。1,4-ジシアノベンゼンは、密閉容器中に保存した試薬結晶の上を流れる20ml/分の窒素メイクアップフローを用いて、アニオン供給源中に導入した。40μAの電流および20ml/分のメイクアップガスフローを用いるグロー放電によって、ラジカルアニオンを生成させた。c型およびz型のETDフラグメントイオンの平均質量を測定することによって、ETDデータを解析した。重水素化試料の重水素含有量から、標識されていないプロダクトイオンの重水素含有量を引くことによって、重水素含有量を算出した。Rand, K.D., et al.(Anal. Chem. 82 (2010) 9755-9762)において説明されているように、十分に重水素化した抗体試料由来の消化性ペプチドについて記録されたETDスペクトルにおける、荷電還元型化学種からのアンモニアの減少をモニターすることによって、H/Dスクランブリングがないことを確認した。