(第1実施形態)
以下、本発明に係る制御装置を車載主機として回転電機を備える電気自動車等の車両に搭載した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、モータ制御システムは、モータジェネレータ10、直流交流変換器としてのインバータ20、及び制御装置30を備えている。モータジェネレータ10は、車載主機であり、駆動輪40と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータジェネレータ10として、3相のものを用いている。また本実施形態では、モータジェネレータ10として、IPMSMやSPMSMである永久磁石同期機を用いている。
モータジェネレータ10は、電力変換器としてのインバータ20を介して直流電源としてのバッテリ21に接続されている。バッテリ21の出力電圧は、例えば百V以上である。なお、バッテリ21及びインバータ20の間には、インバータ20の入力電圧を平滑化する平滑コンデンサ22が設けられている。
インバータ20は、各スイッチ部を備えている。詳しくは、インバータ20は、U相上アームスイッチ部20UHとU相下アームスイッチ部20ULとの直列接続体を備えている。U相上アームスイッチ部20UHは、U相第1上アームスイッチング素子SUHAと、U相第2上アームスイッチング素子SUHBとの並列接続体を備えている。U相下アームスイッチ部20ULは、U相第1下アームスイッチング素子SULAと、U相第2下アームスイッチング素子SULBとの並列接続体を備えている。U相第1上アームスイッチング素子SUHA及びU相第2上アームスイッチング素子SUHBのそれぞれの低電位側端子には、U相第1下アームスイッチング素子SULA及びU相第2下アームスイッチング素子SULBのそれぞれの高電位側端子が接続されている。
インバータ20は、V相上アームスイッチ部20VHとV相下アームスイッチ部20VLとの直列接続体を備えている。V相上アームスイッチ部20VHは、V相第1上アームスイッチング素子SVHAと、V相第2上アームスイッチング素子SVHBとの並列接続体を備えている。V相下アームスイッチ部20VLは、V相第1下アームスイッチング素子SVLAと、V相第2下アームスイッチング素子SVLBとの並列接続体を備えている。
インバータ20は、W相上アームスイッチ部20WHとW相下アームスイッチ部20WLとの直列接続体を備えている。W相上アームスイッチ部20WHは、W相第1上アームスイッチング素子SWHAと、W相第2上アームスイッチング素子SWHBとの並列接続体を備えている。W相下アームスイッチ部20WLは、W相第1下アームスイッチング素子SWLAと、W相第2下アームスイッチング素子SWLBとの並列接続体を備えている。
本実施形態では、各第1スイッチング素子SUHA,SULA,SVHA,SVLA,SWHA,SWLAとして、SiデバイスとしてのIGBTを用いている。このため、各第1スイッチング素子において、低電位側端子はエミッタであり、高電位側端子はコレクタである。また本実施形態では、各第2スイッチング素子SUHB,SULB,SVHB,SVLB,SWHB,SWLBとして、SiCデバイスとしてのNチャネルMOSFETを用いている。このため、各第2スイッチング素子において、低電位側端子はソースであり、高電位側端子はドレインである。
なお、各第1スイッチング素子SUHA,SULA,SVHA,SVLA,SWHA,SWLAには、フリーホイールダイオードが逆並列に接続されている。また、各第2スイッチング素子SUHB,SULB,SVHB,SVLB,SWHB,SWLBには、寄生ダイオードが形成されている。ちなみに、各第2スイッチング素子にフリーホイールダイオードを逆並列に接続してもよい。また、互いに並列接続されたIGBT及びMOSFETは、同一パッケージにて構成されていてもよいし、それぞれ別のパッケージにて構成されていてもよい。
本実施形態において、各スイッチ部をIGBT及びMOSFETの並列接続体にて構成している理由は、低電流領域においてオン抵抗が低いMOSFETに電流を流通させることにより、低電流領域における損失を低減するためである。つまり、図2に示すように、電流が所定電流Ithよりも小さい低電流領域においては、MOSFETのオン抵抗がIGBTのオン抵抗よりも小さい。このため、低電流領域においては、互いに並列接続されたMOSFET及びIGBTのうち、MOSFETの方に電流が多く流れる。一方、電流が所定電流Ithよりも大きい大電流領域においては、IGBTのオン抵抗がMOSFETのオン抵抗よりも小さい。このため、大電流領域においては、互いに並列接続されたMOSFET及びIGBTのうち、IGBTの方に電流が多く流れる。なお、低電流領域においては、IGBT及びMOSFETのうち、MOSFETのみを駆動してもよい。
また本実施形態において、各第1スイッチング素子SUHA,SULA,SVHA,SVLA,SWHA,SWLAに流通可能なコレクタ電流Icの最大値は、各第2スイッチング素子SUHB,SULB,SVHB,SVLB,SWHB,SWLBに流通可能なドレイン電流Idの最大値よりも大きく設定されている。
先の図1の説明に戻り、U相上アームスイッチ部20UHとU相下アームスイッチ部20ULとの接続点には、モータジェネレータ10のU相が接続されている。V相上アームスイッチ部20VHとV相下アームスイッチ部20VLとの接続点には、モータジェネレータ10のV相が接続されている。W相上アームスイッチ部20WHとW相下アームスイッチ部20WLとの接続点には、モータジェネレータ10のW相が接続されている。
制御システムは、電圧検出部23、相電流検出部24及び角度検出部25を備えている。電圧検出部23は、インバータ20の入力電圧を検出する。相電流検出部24は、モータジェネレータ10に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。角度検出部25は、モータジェネレータ10の電気角θeを検出する。なお角度検出部25としては、例えばレゾルバを用いることができる。
電圧検出部23、相電流検出部24及び角度検出部25の検出値は、制御装置30に入力される。制御装置30は、マイコンを主体として構成され、モータジェネレータ10の制御量をその指令値に制御すべく、インバータ20を駆動する。本実施形態において、制御量はトルクであり、その指令値はトルク指令値Trq*である。詳しくは、制御装置30は、インバータ20を構成する各スイッチング素子SUHA,SUHB,SULA,SULB,SVHA,SVHB,SVLA,SVLB,SWHA,SWHB,SWLA,SWLBをオンオフ駆動すべく、電圧検出部23、相電流検出部24及び角度検出部25の検出値に基づいて、各駆動信号GUHA,GUHB,GULA,GULB,GVHA,GVHB,GVLA,GVLB,GWHA,GWHB,GWLA,GWLBを生成し、生成した各駆動信号を対応する各スイッチング素子のゲート駆動回路に対して出力する。ここで、上アーム側の駆動信号GUHA,GUHB,GVHA,GVHB,GWHA,GWHBと、対応する下アーム側の駆動信号GULA,GULB,GVLA,GVLB,GWLA,GWLBとは、互いに相補的な信号となっている。すなわち、上アームスイッチング素子と、対応する下アームスイッチング素子とは、交互にオン状態とされる。
続いて、図3を用いて、制御装置30により実行されるモータジェネレータ10のトルク制御について説明する。本実施形態では、電流フィードバック制御により、モータジェネレータ10のトルクをトルク指令値Trq*に制御する。
2相変換部30aは、相電流検出部24により検出された相電流と、角度検出部25により検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相電流を2相回転座標系(dq座標系)におけるd軸電流Idr及びq軸電流Iqrに変換する。
第1ローパスフィルタ30bは、2相変換部30aにより算出されたd軸電流Idrから高周波成分を除去する。第2ローパスフィルタ30cは、2相変換部30aにより算出されたq軸電流Iqrから高周波成分を除去する。
速度算出部30dは、角度検出部25により検出された電気角θeに基づいて、モータジェネレータ10の電気角速度ωを算出する。
制御演算部30eは、制御装置30の外部から入力される車両情報と、電圧検出部23により検出された入力電圧VINVとに基づいて、モータジェネレータ10のトルク指令値Trq*を算出する。なお、上記車両情報には、例えば、車両の走行速度及びユーザのアクセル操作量等の情報が含まれる。
制御演算部30eは、算出したトルク指令値Trq*が制御量制限値としてのトルク制限値Tlimを超えると判定した場合、トルク指令値Trq*をトルク制限値Tlimで制限する。本実施形態において、トルク制限値Tlimは、図4に示すように、電気角速度ωが所定角速度以下となる場合において一定値をとり、電気角速度ωが所定角速度以上となる場合において、電気角速度ωが高いほど小さく設定される。
指令電流算出部30fは、制御演算部30eから出力されたトルク指令値Trq*と、電気角速度ωとに基づいて、2相回転座標系における電流指令値であるd軸指令電流Id*と、q軸指令電流Iq*とを算出する。なお、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*は、例えば、トルク指令値Trq*及び電気角速度ωと、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*とが関係付けられたマップを用いて算出されればよい。
d軸偏差算出部30gは、d軸指令電流Id*から第1ローパスフィルタ30bの出力値を減算することにより、d軸電流偏差ΔIdを算出する。q軸偏差算出部30hは、q軸指令電流Iq*から第2ローパスフィルタ30cの出力値を減算することにより、q軸電流偏差ΔIqを算出する。
d軸指令電圧算出部30iは、第1ローパスフィルタ30bの出力値をd軸指令電流Id*にフィードバック制御するための操作量として、d軸指令電圧Vd*を算出する。q軸指令電圧算出部30jは、第2ローパスフィルタ30cの出力値をq軸指令電流Iq*にフィードバック制御するための操作量として、q軸指令電圧Vq*を算出する。本実施形態では、上記フィードバック制御として、比例積分制御を用いている。
振幅位相算出部30kは、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*に基づいて、インバータ20の電圧ベクトルVrの大きさである電圧振幅Vnと、電圧ベクトルVrの位相である電圧位相δを算出する。なお本実施形態において、電圧位相δは、q軸の正方向を基準とし、この基準から反時計回りの方向が正方向として定義されている。
INV信号生成部30mは、電圧振幅Vn、電圧位相δ及び入力電圧VINVに基づいて、各駆動信号GUHA,GUHB,GULA,GULB,GVHA,GVHB,GVLA,GVLB,GWHA,GWHB,GWLA,GWLBを生成する。本実施形態では、以下に説明する手法で各駆動信号を生成する。
INV信号生成部30mは、まず、入力電圧VINVで電圧振幅Vnを規格化した値である変調率Mを算出する。詳しくは、入力電圧VINVの「1/2」で電圧振幅Vnを除算することで変調率Mを算出する。そして、INV信号生成部30mは、変調率M毎に、電気角1周期における駆動信号の波形(パルスパターン)をマップデータとして記憶している。INV信号生成部30mは、算出した変調率Mに該当するパルスパターンを選択する。INV信号生成部30mは、選択したパルスパターンの出力タイミングを電圧位相δに基づいて設定することにより、駆動信号を生成する。
なお本実施形態において、各スイッチ部を構成する2つのスイッチング素子は、基本的には同時にオン駆動又はオフ駆動される。このため、各スイッチ部を構成する2つのスイッチング素子に対応する駆動信号は、基本的には同時にオン駆動指令又はオフ駆動指令とされる。例えば、U相第1上アームスイッチング素子SUHAの駆動信号GUHAと、U相第2上アームスイッチング素子SUHBの駆動信号GUHBとは、同じ駆動指令とされる。
故障判定部30nは、INV信号生成部30mにより生成された駆動信号と、相電流検出部24により検出された相電流とに基づいて、インバータ20を構成する各スイッチング素子に故障が生じているか否かを判定する。
図5に、本実施形態に係る故障判定処理の手順を示す。この処理は、故障判定部30nにより、所定の実行条件が成立したと判定された場合に実行される。なお、所定の実行条件とは、例えば、制御システムの起動時であるとの条件、個別フェール条件、又は一括フェール条件である。ここで、個別フェール条件とは、インバータ20を構成するスイッチング素子に対応して制御装置30まで個別に信号伝達経路が備えられる構成において、いずれかのスイッチング素子に故障が生じている旨の情報が個別の信号伝達経路を介して取得されたとの条件である。また、一括フェール条件とは、インバータ20を構成するスイッチング素子に対応して制御装置30まで共通の信号伝達経路が備えられる構成において、いずれかのスイッチング素子に故障が生じている旨の情報が共通の信号伝達経路を介して取得されたとの条件である。
この一連の処理では、まずステップS10において、インバータ20を構成する上アームスイッチング素子SUHA,SUHB,SVHA,SVHB,SWHA,SWHBのうちいずれか1つと、インバータ20を構成する下アームスイッチング素子SULA,SULB,SVLA,SVLB,SWLA,SWLBのうちいずれか1つとを選択する。そして、選択した2つのスイッチング素子に対する駆動信号として、INV信号生成部30mからオン駆動指令を出力させる。ここでは、2つのスイッチング素子の組み合わせとして、例えばU相第1上アームスイッチング素子SUHA及びU相第2下アームスイッチング素子SULB等、同相の上,下アームスイッチング素子をオン駆動対象から除外する。これは、スイッチング素子に短絡電流が流れるのを回避するためである。
続くステップS11,S12では、相電流検出部24による相電流の検出結果に基づいて、選択したスイッチング素子が正常であるか、又は選択したスイッチング素子にオープン故障若しくはショート故障が生じているかを判定する。
詳しくは、オン駆動した2相に電流が流れたと判定した場合、選択した2つのスイッチング素子が正常であると判定する。図6(a)に、U相第1上アームスイッチング素子SUHAとW相第1下アームスイッチング素子SWLAとがオン駆動対象として選択された例を示す。この例では、相電流検出部24の検出値に基づいてU,W相に電流が流れたと判定され、U相第1上アームスイッチング素子SUHAとW相第1下アームスイッチング素子SWLAとが正常であると判定される。なお図6では、スイッチング素子を簡略化して示している。また図6では、一部の構成のみに符号を付している。
一方、オン駆動した2相に電流が流れないと判定した場合、選択した2つのスイッチング素子のうちいずれかにオープン故障が生じていると判定する。図6(b)に、U相第1上アームスイッチング素子SUHAとW相第1下アームスイッチング素子SWLAとがオン駆動対象として選択された場合において、W相第1下アームスイッチング素子SWLAにオープン故障が生じている例を示す。この例では、いずれの相にも電流が流れていないと判定され、U相第1上アームスイッチング素子SUHAとW相第1下アームスイッチング素子SWLAとのうちいずれかにオープン故障が生じていると判定される。
他方、オン駆動した2相以外の相にも電流が流れたと判定した場合、オン駆動していない相を構成するいずれかのスイッチング素子にショート故障が生じていると判定する。図6(c)に、U相第1上アームスイッチング素子SUHAとV相第1下アームスイッチング素子SVLAとがオン駆動対象として選択された場合において、W相第1下アームスイッチング素子SWLAにショート故障が生じている例を示す。この例では、オン駆動したU,V相以外のW相にも電流が流れたと判定され、W相を構成するスイッチング素子のいずれかにショート故障が生じていると判定される。
先の図5の説明に戻り、ステップS13では、上,下アームスイッチング素子の全ての組み合わせのうち同相の上,下アームスイッチング素子の組み合わせ以外のものについて、ステップS10〜S12までの処理が終了したか否かを判定する。ステップS13において肯定判定されるまで、オン駆動される上,下アームスイッチング素子が切り替えられる。これにより、インバータ20を構成するスイッチング素子のうち、いずれにオープン故障が生じているかを判定することができる。
続いて、制御演算部30eにより実行されるトルク制限処理について説明する。この処理は、インバータ20を構成するスイッチング素子にオープン故障が生じた場合であっても、モータジェネレータ10の制御性を、オープン故障が生じていない正常時の制御性と同等にするためになされる。
つまり、従来、インバータ20を構成するスイッチング素子にオープン故障が生じた場合において、例えば、同じアーム側の3相のスイッチング素子をオンさせる3相オン制御や、2相分のスイッチング素子を駆動させる2相駆動制御をフェールセーフ動作として行うものもある。しかしながら、3相オン制御を行う場合には、モータジェネレータ10のトルク制御を行うことができないといった問題が生じる。また、2相駆動制御を行う場合には、モータジェネレータ10のトルクリプルが増加したり、トルク応答性が悪化したりするといった問題が生じる。このように、従来の技術では、モータジェネレータ10の制御性が低下することとなり、車両の退避走行に支障がでる懸念がある。オープン故障時に発生するこうした問題を解決して車両を安全に退避走行させるべく、本実施形態では、上記トルク制限処理を行う。
図7に、トルク制限処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS20において、故障判定部30nから取得した判定結果に基づいて、インバータ20を構成する各スイッチング素子の中にショート故障又はオープン故障が生じているものがあるか否かを判定する。
ステップS20においてショート故障又はオープン故障が生じているスイッチング素子がないと判定した場合には、ステップS21に進み、トルク制限値Tlimを先の図4に示した態様で設定する処理と、インバータ20の通常の駆動制御処理とを含む正常走行処理を行う。
一方、ステップS20においてショート故障又はオープン故障が生じているスイッチング素子があると判定した場合には、ステップS22に進む。ステップS22では、故障したスイッチング素子の故障モードがショート故障であるか否かを判定する。ステップS22において故障モードがショート故障でないと判定した場合には、ステップS23に進み、第1条件及び第2条件の論理積が真であるか否かを判定する。ここで第1条件は、インバータ20を構成する各スイッチ部20UH,20VH,20WH,20UL,20VL,20WLのうち、オープン故障が生じたスイッチング素子を含むスイッチ部が1つだけであるとの条件である。第2条件は、オープン故障が生じたスイッチング素子を含むスイッチ部において、オープン故障したスイッチング素子が、第1スイッチング素子(IGBT)又は第2スイッチング素子(MOSFET)のいずれか一方であるとの条件である。
ステップS22において故障モードがショート故障であると判定した場合、又はステップS23において否定判定した場合には、ステップS24に進み、インバータ20の動作を停止させて車両の走行を停止させる処理を行う。
一方、ステップS23において肯定判定した場合には、ステップS25に進み、オープン故障が生じたスイッチング素子を含むスイッチ部において、オープン故障したスイッチング素子が第1スイッチング素子(IGBT)であるか否かを判定する。
ステップS25において否定判定した場合には、オープン故障したスイッチング素子が第2スイッチング素子(MOSFET)と判定し、ステップS26に進む。ステップS26では、図8(a)に示すように、電気角速度ω及び入力電圧VINVに基づいて、トルク制限値Tlimを設定する。詳しくは、ステップS26で設定されるトルク制限値Tlimは、先の図4に示したトルク制限値Tlimよりも小さくなる。ここでは、トルク制限値Tlimが一定値とされる電気角速度ωの上限値である上記所定角速度は、入力電圧VINVが低いほど低くされる。
ステップS26の処理の完了後、第2スイッチング素子に対応する駆動信号をオフ駆動指令とし、第1スイッチング素子を駆動させる旨の指令をINV信号生成部30mに対して出力する。これにより、オープン故障が生じた第2スイッチング素子を含むスイッチ部において、オープン故障が生じていない方の第1スイッチング素子のオンオフ駆動を継続できる。
先の図7の説明に戻り、ステップS25において肯定判定した場合には、オープン故障したスイッチング素子が第1スイッチング素子(IGBT)と判定し、ステップS27に進む。ステップS27では、図8(b)に示すように、電気角速度ω及び入力電圧VINVに基づいて、トルク制限値Tlimを設定する。詳しくは、ステップS27で設定されるトルク制限値Tlimは、ステップS26で設定されるトルク制限値Tlimよりも小さくなる。
ステップS27の処理の完了後、第1スイッチング素子に対応する駆動信号をオフ駆動指令とし、第2スイッチング素子を駆動させる旨の指令をINV信号生成部30mに対して出力する。これにより、オープン故障が生じた第1スイッチング素子を含むスイッチ部において、オープン故障が生じていない方の第2スイッチング素子のオンオフ駆動を継続できる。
ステップS21,S24,S26,S27の処理が完了した場合には、ステップS20に戻る。
なお、ステップS26,S27において、スイッチング素子の温度をさらに用いてトルク制限値Tlimを設定してもよい。詳しくは、図9に示すように、スイッチング素子の温度が高いほど、トルク制限値Tlimを低く設定すればよい。ここでスイッチング素子の温度は、例えば、感温ダイオード又はサーミスタ等の温度検出部により検出されればよい。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
各スイッチ部20UH〜20WLを構成する2つのスイッチング素子のそれぞれを個別に駆動可能とした。このため、2つのスイッチング素子のうち、一方にオープン故障が生じた場合であっても、他方のスイッチング素子をオンオフ駆動できる。これにより、インバータ20の動作を継続でき、車両の走行を継続できる。その結果、車両の退避走行を安全に行ったり、退避走行距離を伸ばしたりすることができる。
オープン故障が生じていると判定された場合、オープン故障が生じていないと判定された場合よりもトルク制限値Tlimを小さく設定した。このため、オープン故障が生じた場合にインバータ20を構成するスイッチング素子1つあたりが担う電流量を制限でき、インバータ20の動作を継続しつつ、スイッチング素子の信頼性の低下を回避できる。
トルク制限値Tlimを変更することにより、スイッチ部に流れる電流を制限した。このため、電流の制限を簡易に実施できる。また、オープン故障前後で制御装置30における電流フィードバック制御を変更することなく、オープン故障時に正常時と同等の制御性でモータジェネレータ10の駆動を継続できる。
電気角速度ω及び入力電圧VINVに基づいて、トルク制限値Tlimを設定した。このため、モータジェネレータ10の駆動状態に応じてトルク指令値Trq*を精度よく制限できる。
スイッチ部を構成する2つのスイッチング素子のうち、最大電流値が大きい第1スイッチング素子(IGBT)にオープン故障が生じたと判定された場合におけるトルク制限値Tlimを、最大電流値が小さい第2スイッチング素子(MOSFET)にオープン故障が生じたと判定された場合におけるトルク制限値Tlimよりも小さく設定した。これにより、スイッチング素子の仕様に基づいてトルク制限値Tlimを適正に設定でき、スイッチング素子に流れる電流を適正に制限できる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図10に示すように、制御演算部30eにより実行されるトルク制限処理を変更する。なお図10において、先の図7に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS22において否定判定した場合には、ステップS30に進む。ステップS30では、インバータ20を構成するいずれかのスイッチ部の第1スイッチング素子(IGBT)及び第2スイッチング素子(MOSFET)の双方がオープン故障しているか否かを判定する。この処理は、例えばU相第1上アームスイッチング素子SUHA及びU相第2上アームスイッチング素子SUHBの双方がオープン故障する等、いずれかのスイッチ部の第1,第2スイッチング素子の双方がオープン故障した場合以外は、車両の走行を継続させるためになされる。なお図11(a)には、ステップS30で肯定判定される場合の例として、U相第1,第2上アームスイッチング素子SUHA,SUHBがオープン故障している場合を示す。また図11(b)には、ステップS30で否定判定される場合の例として、U相第2上アームスイッチング素子SUHBとV相第2下アームスイッチング素子SVLBとがオープン故障している場合を示す。
ステップS30において肯定判定した場合には、いずれかのスイッチ部の第1,第2スイッチング素子の双方がオープン故障したと判定し、ステップS24に進む。
一方、ステップS30において否定判定した場合には、ステップS31に進み、オープン故障したスイッチング素子に第1スイッチング素子(IGBT)が含まれるか否かを判定する。ここで図11(c)には、ステップS31において肯定判定される例を示す。また図11(b)には、ステップS31において否定判定される例を示す。
ステップS31において否定判定した場合には、ステップS26に進む。一方、ステップS31において肯定判定した場合には、ステップS27に進む。ちなみに、ステップS26,S27において、上記第1実施形態で説明したように、スイッチング素子の温度を用いてトルク制限値Tlimを設定してもよい。
以上説明した本実施形態によれば、2つ以上のスイッチ部のそれぞれで第1,第2スイッチング素子のいずれかのオープン故障が生じたと判定された場合、第1スイッチング素子(IGBT)がオープン故障したと判定された場合におけるトルク制限値Tlimが、第2スイッチング素子(MOSFET)がオープン故障したと判定された場合におけるトルク制限値Tlimよりも小さく設定される。これにより、インバータ20の動作をより継続しつつ、スイッチング素子の信頼性の低下を回避できる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、インバータ20を構成するスイッチング素子のオープン故障の判定手法を変更する。詳しくは、スイッチング素子の高電位側端子及び低電位側端子の電位差に基づいて、オープン故障が生じているか否かを判定する。
図12に、オープン故障を判定する異常判定部26を示す。本実施形態において、異常判定部26は、各スイッチング素子に対応して個別に設けられている。各異常判定部26には、自身に対応する駆動信号がINV信号生成部30mから入力される。各異常判定部26の判定結果は、故障判定部30nに入力される。図12には、U相第1上アームスイッチング素子SUHAに対応する異常判定部26を例示した。図12に示す例では、異常判定部26は、U相第1上アームスイッチング素子SUHAのコレクタ及びエミッタ間電圧Vceを取得し、取得したコレクタ及びエミッタ間電圧Vceに基づいて、オープン故障の有無を判定する。
図13に、異常判定部26により実行される故障判定処理を示す。なお図13では、U相第1上アームスイッチング素子SUHAを例にして説明する。
この一連の処理では、まずステップS40において、駆動信号GUHAがオン駆動指令であるか否かを判定する。
ステップS40において肯定判定した場合には、ステップS41に進み、取得したコレクタ及びエミッタ間電圧Vceが、U相第1上アームスイッチング素子SUHAのオン電圧Vonよりも高いか否かを判定する。ここでオン電圧Vonは、U相第1上アームスイッチング素子SUHAがオン状態とされている場合に想定されるコレクタ及びエミッタ間電圧Vceの最大値に設定されればよい。
ステップS41において肯定判定した場合には、ステップS42に進み、U相第1上アームスイッチング素子SUHAがオープン故障していると判定する。
なお、故障判定部30nは、各異常判定部26から取得した判定結果に基づいて、いずれのスイッチング素子にオープン故障が生じているかを判定する。
以上説明した本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図14に示すように、制御システムとして、モータジェネレータ及びインバータを2組備えるものを用いる。なお図14において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
図示されるように、制御システムは、昇圧コンバータ50、第1インバータ20a、第1モータジェネレータ10a、第2インバータ20b、第2モータジェネレータ10b、及び車載主機としてのエンジン60を備えている。エンジン60、第1モータジェネレータ10a及び第2モータジェネレータ10bは、動力分割機構61で接続されており、第2モータジェネレータ10bの出力軸には駆動輪40が接続されている。本実施形態では、各モータジェネレータ10a,10bとして、上記第1実施形態のモータジェネレータ10と同じ永久磁石同期機を用いている。なお本実施形態において、昇圧コンバータ50、第1インバータ20a及び第2インバータ20bが電力変換器に相当する。また、第1インバータ20a及び第2インバータ20bが電気機器に相当する。
昇圧コンバータ50は、第1コンデンサ51、リアクトル52及び第2コンデンサ53を備えている。また、昇圧コンバータ50は、上アーム変圧スイッチ部50CHと、下アーム変圧スイッチ部50CLとを備えている。
上アーム変圧スイッチ部50CHは、第1上アーム変圧スイッチング素子SCHAと、第2上アーム変圧スイッチング素子SCHBとの並列接続体を備えている。下アーム変圧スイッチ部50CLは、第1下アーム変圧スイッチング素子SCLAと、第2下アーム変圧スイッチング素子SCLBとの並列接続体を備えている。第1上アーム変圧スイッチング素子SCHA及び第2上アーム変圧スイッチング素子SCHBのそれぞれの低電位側端子には、第1下アーム変圧スイッチング素子SCLA及び第2下アーム変圧スイッチング素子SCLBのそれぞれの高電位側端子が接続されている。
本実施形態では、第1上,下アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCLAとして、IGBTを用いており、第2上,下アーム変圧スイッチング素子SCHB,SCLBとして、NチャネルMOSFETを用いている。なお、第1上,下アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCLAには、フリーホイールダイオードDHA,DLAが逆並列に接続されている。また、第2上,下アーム変圧スイッチング素子SCHB,SCLBには、寄生ダイオードDHB,DLBが形成されている。ちなみに、第2上,下アーム変圧スイッチング素子SCHB,SCLBにフリーホイールダイオードを逆並列に接続してもよい。また、互いに並列接続されたIGBT及びMOSFETは、同一パッケージにて構成されていてもよいし、それぞれ別のパッケージにて構成されていてもよい。
本実施形態において、各スイッチ部50CH,50CLをIGBT及びMOSFETの並列接続体にて構成している理由は、上記第1実施形態と同様に、低電流領域における損失を低減するためである。
また本実施形態において、第1上,下アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCLAに流通可能なコレクタ電流Icの最大値は、第2上,下アーム変圧スイッチング素子SCHB,SCLBに流通可能なドレイン電流Idの最大値よりも大きく設定されている。
上アーム変圧スイッチ部50CHと下アーム変圧スイッチ部50CLとの直列接続体には、第2コンデンサ53が並列接続されている。上アーム変圧スイッチ部50CHと下アーム変圧スイッチ部50CLとの接続点には、リアクトル52の第1端が接続され、リアクトル52の第2端には、バッテリ21の正極端子が接続されている。バッテリ21の負極端子には、第1下アーム変圧スイッチング素子SCLAのエミッタと、第2下アーム変圧スイッチング素子SCLBのソースとが接続されている。バッテリ21には、第1コンデンサ51が並列接続されている。
昇圧コンバータ50の第2コンデンサ53側には、第1インバータ20a及び第2インバータ20bが接続されている。第1インバータ20aには、第1モータジェネレータ10aが接続されている。第1モータジェネレータ10aは、動力分割機構61を介してエンジン60と接続されており、発電機やエンジン60のスタータとしての役割を果たす。第2インバータ20bには、第2モータジェネレータ10bが接続されている。第2モータジェネレータ10bは、上記第1実施形態のモータジェネレータ10と同様に、車載主機等の役割を果たす。なお、各インバータ20a,20bの構成は、上記第1実施形態のインバータ20の構成と同様であるため、詳細な説明を省略する。
制御システムは、昇圧コンバータ50の入力電圧を検出する第1電圧検出部70と、各インバータ20a,20bの入力電圧を検出する第2電圧検出部71と、リアクトル52に流れる電流を検出するリアクトル電流検出部72とを備えている。また、制御システムは、第1相電流検出部24a、第2相電流検出部24b、第1角度検出部25a、及び第2角度検出部25bを備えている。第1,第2相電流検出部24a,24bは、第1,第2モータジェネレータ10a,10bに流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。第1,第2角度検出部25a,25bは、第1,第2モータジェネレータ10a,10bの電気角θe1,θe2を検出する。
各検出部の検出値は、制御装置30に入力される。制御装置30は、第1モータジェネレータ10aのトルクを第1トルク指令値に制御すべく、第1インバータ20aを駆動し、第2モータジェネレータ10bのトルクを第2トルク指令値に制御すべく、第2インバータ20bを駆動する。この際、昇圧コンバータ50も駆動される。昇圧コンバータ50では、第1,第2下アーム変圧スイッチング素子SCLA,SCLBと、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBとが交互にオン状態とされる。
上述した態様で各変圧スイッチング素子を駆動すべく、制御装置30は、昇圧コンバータ50を構成する各変圧スイッチング素子SCHA,SCHB,SCLA,SCLBの各駆動信号GCHA,GCHB,GCLA,GCLBを生成し、生成した各駆動信号を対応する各変圧スイッチング素子のゲート駆動回路に対して出力する。
ちなみに制御装置30は、第1相電流検出部24a及び第1角度検出部25aの検出値に基づいて第1インバータ20aを駆動し、第2相電流検出部24b及び第2角度検出部25bの検出値に基づいて第2インバータ20bを駆動する。また制御装置30は、第1インバータ20a及び第2インバータ20bのそれぞれにおいて、オープン故障が生じた場合に上記第1実施形態と同様のトルク制限処理を行う。ただし本実施形態では、これら処理の詳細な説明を省略する。
続いて、図15を用いて、昇圧コンバータ50の力行駆動時における昇圧処理について説明する。この処理は、制御装置30により実行される。
指令値算出部80aは、上記車両情報に基づいて、第1インバータ20a及び第2インバータ20bのそれぞれの指令出力電力の合計値である合計電力指令値P*を算出する。なお、第1インバータ20aの指令出力電力に基づいて第1トルク指令値が設定され、第2インバータ20bの指令出力電力に基づいて第2トルク指令値が設定される。ちなみに、各インバータ20a,20bや各モータジェネレータ10a,10bの損失分を考慮して合計電力指令値P*を算出してもよい。
指令値算出部80aは、算出した合計電力指令値P*に基づいて、図16(a)に示すように、昇圧コンバータ50の出力電圧の指令値である指令出力電圧VH*を算出する。本実施形態において、指令出力電圧VH*は、合計電力指令値P*が第1所定値P1以下となる場合において第1電圧VH1に設定され、合計電力指令値P*が第1所定値P1以上となる場合において、合計電力指令値P*が大きいほど高く設定される。また、指令出力電圧VH*は、合計電力指令値P*が第1所定値P1よりも大きい第2所定値P2以上となる場合において、第1電圧VH1よりも大きい第2電圧VH2に設定される。
また指令値算出部80aは、第1インバータ20a及び第2インバータ20bのそれぞれの実際の出力電力の合計値である実合計電力値Prを算出する。指令値算出部80aは、算出した実合計電力値Prが電力制限値Plimを超えると判定した場合、図16(b)に示すように、実合計電力値Prを電力制限値Plimで制限するように、第1インバータ20a及び第2インバータ20bを駆動する。なお、実合計電力値Prが制限された場合、制限後の実合計電力値Prに基づいて、第1トルク指令値及び第2トルク指令値が再度設定される。
電圧偏差算出部80bは、指令出力電圧VH*から、第2電圧検出部71により検出された入力電圧VHrを減算することにより、電圧偏差ΔVを算出する。
FB時比率設定部80cは、電圧偏差ΔVを入力とした比例積分制御に基づいて、1スイッチング周期Tswあたりのオン駆動期間Tonの比率である時比率(=Ton/Tsw)を算出する。以下、FB時比率設定部80cで設定された時比率をフィードバック時比率Dutyfbと称すこととする。
FF時比率設定部80dは、指令出力電圧VH*と、第1電圧検出部70により検出された入力電圧VLrとに基づいて、フィードフォワード操作量としてのフィードフォワード時比率Dutyffを算出する。本実施形態では、下式(1)を用いてフィードフォワード時比率Dutyffを算出する。
時比率加算部80eは、フィードフォワード時比率Dutyffとフィードバック時比率Dutyfbとの加算値として、指令時比率Dutyを算出する。
CNV信号生成部80fは、指令時比率Dutyに基づいて、各駆動信号GCHA,GCHB,GCLA,GCLBを生成する。本実施形態では、指令時比率Dutyと三角波等のキャリアとの大小比較に基づくPWM処理により、駆動信号GCHA,GCHB,GCLA,GCLBを生成する。
続いて、制御装置30を構成する故障判定部により実行される故障判定処理について説明する。この処理は、故障判定部により、上記所定の実行条件が成立したと判定された場合に実行される。
まず、図17を用いて、昇圧コンバータ50を構成する第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBの故障判定手法について説明する。
この一連の処理では、まずステップS50において、第1,第2インバータ20a,20b側から昇圧コンバータ50を介してバッテリ21側へと電力が供給される回生駆動を実施すべく、第1,第2インバータ20a,20bを制御する。
続くステップS51では、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBのいずれか一方に対応する駆動信号GCHA,GCHBをオン駆動指令とする。
続くステップS52では、オン駆動した変圧スイッチング素子に流れる電流を検出する。本実施形態では、変圧スイッチング素子に設けられたセンス端子から出力されるセンス電流を検出する。
続くステップS53では、電流の検出結果に基づいて、選択した変圧スイッチング素子が正常であるか、又は選択した変圧スイッチング素子にオープン故障が生じているかを判定する。詳しくは、オン駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れたと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子が正常であると判定する。一方、オン駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れないと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子にオープン故障が生じていると判定する。
続くステップS54では、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBのそれぞれについてステップS50〜S53までの処理が終了したか否かを判定する。
なお、本実施形態に係るショート故障の判定は、例えば以下に説明するように実施すればよい。詳しくは、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBのいずれか一方に対応する駆動信号GCHA,GCHBをオフ駆動指令とする。そして、オフ駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れたと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子にショート故障が生じていると判定する。
続いて、図18を用いて、昇圧コンバータ50を構成する第1,第2下アーム変圧スイッチング素子SCLA,SCLBの故障判定手法について説明する。
この一連の処理では、まずステップS60において、バッテリ21側から昇圧コンバータ50を介して第1,第2インバータ20a,20b側へと電力が供給される力行駆動を実施すべく、第1,第2インバータ20a,20bを制御する。
続くステップS61では、第1,第2下アーム変圧スイッチング素子SCLA,SCLBのいずれか一方に対応する駆動信号GCLA,GCLBをオン駆動指令とする。
続くステップS62では、オン駆動した変圧スイッチング素子に流れる電流を検出する。本実施形態では、変圧スイッチング素子に設けられたセンス端子から出力されるセンス電流を検出する。
続くステップS63では、電流の検出結果に基づいて、選択した変圧スイッチング素子が正常であるか、又は選択した変圧スイッチング素子にオープン故障が生じているかを判定する。詳しくは、オン駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れたと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子が正常であると判定する。一方、オン駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れないと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子にオープン故障が生じていると判定する。
続くステップS64では、第1,第2下アーム変圧スイッチング素子SCLA,SCLBのそれぞれについてステップS60〜S63までの処理が終了したか否かを判定する。
なお、本実施形態に係るショート故障の判定は、例えば以下に説明するように実施すればよい。詳しくは、第1,第2下アーム変圧スイッチング素子SCLA,SCLBのいずれか一方に対応する駆動信号GCLA,GCLBをオフ駆動指令とする。そして、オフ駆動した変圧スイッチング素子に電流が流れたと判定した場合、選択した変圧スイッチング素子にショート故障が生じていると判定する。
続いて、図19を用いて、指令値算出部80aにより実行される電力制限処理について説明する。この処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS70において、故障判定部から取得した判定結果に基づいて、昇圧コンバータ50を構成する各変圧スイッチング素子の中にショート故障又はオープン故障が生じているものがあるか否かを判定する。
ステップS70においてショート故障又はオープン故障が生じている変圧スイッチング素子がないと判定した場合には、ステップS71に進み、指令出力電圧VH*を先の図16(a)で説明した態様で設定する処理と、昇圧コンバータ50の通常の駆動制御処理とを含む正常走行処理を行う。なおこの際、各インバータ20a,20bの通常の駆動制御処理も行われる。
一方、ステップS70においてショート故障又はオープン故障が生じている変圧スイッチング素子があると判定した場合には、ステップS72に進む。ステップS72では、故障した変圧スイッチング素子の故障モードがショート故障であるか否かを判定する。ステップS72において故障モードがショート故障でないと判定した場合には、ステップS73に進み、上アーム変圧スイッチ部50CH及び下アーム変圧スイッチ部50CLのいずれか一方において、オープン故障した変圧スイッチング素子が、第1変圧スイッチング素子(IGBT)又は第2変圧スイッチング素子(MOSFET)のいずれか一方であるか否かを判定する。
ステップS72において故障モードがショート故障であると判定した場合、又はステップS73において否定判定した場合には、ステップS74に進み、昇圧コンバータ50、各インバータ20a,20bの動作を停止させて車両の走行を停止させる処理を行う。
一方、ステップS73において肯定判定した場合には、ステップS75に進み、オープン故障が生じた変圧スイッチング素子を含むスイッチ部において、オープン故障した変圧スイッチング素子が第1スイッチング素子(IGBT)であるか否かを判定する。
ステップS75において否定判定した場合には、オープン故障した変圧スイッチング素子が第2スイッチング素子(MOSFET)と判定し、ステップS76に進む。ステップS76では、図20(a−1)に示すように、電力制限値Plimを先の図16(b)に示した値よりも小さくする。また、図20(a−2)に示すように、指令出力電圧VH*が上昇し始める合計電力指令値P*を、先の図16(b)に示した合計電力指令値Pよりも小さくする。
先の図19の説明に戻り、ステップS75において肯定判定した場合には、オープン故障した変圧スイッチング素子が第1スイッチング素子(IGBT)と判定し、ステップS77に進む。ステップS77では、図20(b−1)に示すように、電力制限値Plimを図20(a−1)に示した値よりも小さくする。また、図20(b−2)に示すように、指令出力電圧VH*が上昇し始める合計電力指令値P*を、図20(a−2)に示した合計電力指令値Pよりも小さくする。
なお、ステップS71,S74,S76,S77の処理が完了した場合には、ステップS70に戻る。
ちなみに、ステップS76,S77において、変圧スイッチング素子の温度をさらに用いて電力制限値Plim及び指令出力電圧VH*を設定してもよい。詳しくは、図21(a)に示すように、変圧スイッチング素子の温度が高いほど、電力制限値Plimを小さくすればよい。また、図21(b)に示すように、変圧スイッチング素子の温度が高いほど、指令出力電圧VH*が上昇し始める合計電力指令値P*を小さくすればよい。ここで変圧スイッチング素子の温度は、例えば、感温ダイオード又はサーミスタ等の温度検出部により検出されればよい。
以上説明したように、本実施形態では、電力制限値Plimを変更することにより、変圧スイッチ部に流れる電流を制限した。このため、変圧スイッチング素子のオープン故障前後で制御装置30における昇圧処理手法を変更することなく、オープン故障時に正常時と同等の制御性で昇圧コンバータ50の駆動を継続できる。これにより、変圧スイッチング素子にオープン故障が生じた場合に例えば昇圧コンバータ50の動作を停止させる従来の技術とは異なり、バッテリ21の出力電圧を昇圧して各インバータ20a,20bに供給したり、各インバータ20a,20b側からの回生電力でバッテリ21に充電したりすることを継続できる。その結果、退避走行時における車両の走行距離を伸ばすことができる。
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図22に示すように、指令値算出部80aにより実行される電力制限処理を変更する。なお図22において、先の図19に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS72において否定判定した場合には、ステップS80に進む。ステップS80では、上,下アーム変圧スイッチ部50CH,50CLのうちいずれか一方のスイッチ部において、第1スイッチング素子(IGBT)及び第2スイッチング素子(MOSFET)の双方がオープン故障しているか否かを判定する。この処理は、例えば第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBの双方がオープン故障する等、1つのスイッチ部を構成する第1,第2変圧スイッチング素子の双方がオープン故障した場合以外は、車両の走行を継続させるためになされる。
ステップS80において肯定判定した場合には、上,下アーム変圧スイッチ部50CH,50CLのいずれかにおいて第1,第2変圧スイッチング素子の双方がオープン故障したと判定し、ステップS74に進む。
一方、ステップS80において否定判定した場合には、ステップS81に進み、オープン故障したスイッチング素子に第1変圧スイッチング素子(IGBT)が含まれるか否かを判定する。そして、ステップS81において否定判定した場合には、ステップS76に進む。一方、ステップS81において肯定判定した場合には、ステップS77に進む。ちなみに、ステップS76,S77において、上記第4実施形態で説明したように、スイッチング素子の温度を用いて電力制限値Plimを設定してもよい。
以上説明した本実施形態によれば、昇圧コンバータ50の動作をより継続しつつ、変圧スイッチング素子の信頼性の低下を回避できる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第4,第5実施形態において、上記第3実施形態で説明したオープン故障の判定手法を用いてもよい。
・上記第1実施形態において、各スイッチ部のスイッチング素子の仕様が同じである場合、トルク制限値Tlimを変更する処理を、先の図7のステップS26,S27の処理のように分けることなく1つの処理とすればよい。例えば、各スイッチ部のスイッチング素子がIGBTである場合、ステップS25〜S27の処理を無くし、ステップS23において肯定判定された場合にステップS26の処理を実行すればよい。なお、上記第2〜第5実施形態についても同様である。
・上記第1実施形態では、図8に示す手法でトルク制限値Tlimを変更したがこれに限らない。例えば、下式(1)に示す数式を用いてトルク制限値Tlimを変更してもよい。
Tlim=K×φ×I … (1)
上式(1)において、Kは係数を示し、φはモータジェネレータのロータ部の磁束密度を示し、Iはモータジェネレータに流れる電流を示す。ここでは、電流Iを制限することにより、トルク制限値Tlimを制限すればよい。なお、上式(1)において、マグネットトルクに加えて、リラクタンストルクを含んだ数式を用いてトルク制限値Tlimを変更してもよい。
・上記第1実施形態の故障判定処理では、相電流検出部24の検出値を用いたがこれに限らない。例えば、インバータ20を構成するスイッチング素子に設けられたセンス端子から出力されるセンス電流を故障判定処理に用いてもよい。
・上記第1実施形態では、モータジェネレータに流れる電流の制限手法として、トルク指令値Trq*をトルク制限値Tlimで制限する手法を採用したがこれに限らない。例えば、相電流検出部により検出された相電流を、電流制限値で制限する手法を採用してもよい。この場合、電流制限値は、入力電圧VINVが低いほど小さく設定されればよい。
・上記第1実施形態において、電気角速度ω及び入力電圧VINVのいずれか一方に基づいて、トルク制限値Tlimを設定してもよい。
・上記第2実施形態の図10のステップS24において、3相オン制御や、2相駆動制御を行ってもよい。
・上記第4実施形態の図19のステップS74において、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBの双方がオープン故障したと判定された場合に車両の走行を継続させてもよい。これは、第1,第2上アーム変圧スイッチング素子SCHA,SCHBがオープン故障しているものの、ダイオードDHA,DHBを介して各インバータ20a,20bへとバッテリ21から電力を供給できるためである。
・各スイッチ部を構成するスイッチング素子としては、2つに限らず、3つ以上であってもよい。ここでスイッチング素子が3つ以上の場合、各スイッチ部を構成する複数のスイッチング素子のうちオープン故障が生じていないと判定されたスイッチング素子の全てをオンオフ駆動対象とする構成に限らず、一部のスイッチング素子をオンオフ駆動対象とする構成を採用してもよい。
・上記第4実施形態では、センス電流に基づいて変圧スイッチング素子の故障を判定したがこれに限らず、例えばリアクトル電流検出部72により検出されたリアクトル電流に基づいて故障を判定してもよい。
・上記第1実施形態の図3に示す構成において、第1,第2ローパスフィルタ30b,30cを備えなくてもよい。
・上記各実施形態では、電流の制限するためのスイッチング素子の温度として、温度検出部の検出値を用いたがこれに限らない。例えば、スイッチング素子を冷却する冷却流体の温度(水温)や、電力変換器としてのインバータのケース温度等から推定したスイッチング素子の温度を用いてもよい。
・各スイッチ部を構成するスイッチング素子としては、IGBT及びMOSFETの組み合わせに限らず、他の組み合わせであってもよい。
・モータジェネレータの制御量としては、トルクに限らず、例えば回転速度であってもよい。また、モータジェネレータとしては、3相のものに限らず、1相、2相、又は4相以上のものであってもよい。
・モータジェネレータの制御量をその指令値に制御する手法としては、電流フィードバック制御を用いたものに限らず、例えばトルクフィードバック制御を用いたものであってもよい。
・DCDCコンバータとしては、上記第4実施形態の図14に示した1つの上下アームスイッチ部を備えるものに限らず、例えば、複数の上下アームスイッチ部を備えるものであってもよい。またDCDCコンバータとしては、互いに直列接続された上下アームスイッチ部を備えるものに限らず、単一のスイッチ部を備えるものであってもよい。
・DCDCコンバータとしては、昇圧コンバータに限らず、例えば、入力される直流電圧を降圧して出力する降圧コンバータであってもよい。
・電力変換器としては、インバータやDCDCコンバータに限らず、例えば、入力される交流電圧を所定の交流電圧に変換して出力するACACコンバータ(マトリックスコンバータ)であってもよい。
・上記第4,第4実施形態において、モータジェネレータ及びインバータの組は、3つ以上であってもよい。
・モータジェネレータとしては、永久磁石同期機に限らず、例えば巻線界磁型同期機であってもよい。また、モータジェネレータとしては、同期機に限らず、例えば誘導機であってもよい。さらに、モータジェネレータとしては、車載主機として用いられるものに限らず、電動パワーステアリング装置や空調用電動コンプレッサを構成する電動機等、他の用途に用いられるものであってもよい。