半導体モジュールは、LSI、電波通信・光通信用半導体、パワー半導体、レーザ、LED、センサ等、様々な分野で広く用いられている。
半導体デバイスを搭載した半導体モジュールは、情報処理やエネルギー変換を行う高度な精密機器であり、様々な材料で構成されている。また、半導体デバイスの動作により生じる熱を半導体モジュールの外部に放出するために放熱基板が用いられる。
半導体モジュールの高性能化に伴い、該半導体モジュールに実装される半導体デバイスはSi半導体から、Siよりもバンドギャップの大きいGaN半導体やSiC半導体に移行しつつある。また、従来の半導体デバイスの最高動作温度は125℃であったが、近年では半導体デバイスの最高動作温度が150℃、175℃、225℃と徐々に高くなっており、最高温度250℃で動作する半導体デバイスも実用化され始めている。
半導体モジュールに実装する等の都合により放熱基板の大きさが制限されるため、発熱した半導体モジュールを放熱基板のみで完全に冷却することは難しい。そのため、半導体モジュールに実装された放熱基板に冷却器(フィン、冷却板、ラジュエター、ペルチェー素子等)を取り付け、半導体デバイスの熱を冷却器に伝達する構成の冷却システムが用いられている。こうした冷却システムは簡素で経済的であることから広く用いられている。一方、半導体デバイスと放熱基板の間、放熱基板と冷却器の間で熱による歪みの問題を生じさせないために半導体モジュールと放熱基板の線膨張係数を整合させることが重要である。また、半導体デバイスの熱を効率よく冷却器に伝達するためには、当然、放熱基板の熱伝導率が高いことも求められる。
半導体モジュールには、用途や求められる性能に応じて様々な大きさや構造のものが存在する。従来、放熱基板の線膨張係数は、セラミックの線膨張係数に近い6.5ppm/Kが好ましいとされてきたが、この制限の下で高い熱伝導率の放熱基板を得ることは困難であることから、近年、半導体パッケージ(PKG)や半導体モジュールの技術開発では10ppm/K程度まで許容されている。
このような状況から、室温(RT)から800℃における線膨張係数の最大値が10ppm/K以下であり、また表面に平行な面内(X-Y面内)と厚さ方向(Z軸方向)のいずれにおいても室温での熱伝導率が200W/m・K以上である放熱基板が求められている。現在、実用化されている、CuW、CuMo、CuMo系のクラッド構造(積層構造)の放熱基板やAlSiCからなる放熱基板等は、いずれもこれらの要件を満たしている。なお、800℃という温度は半導体パッケージの製造工程で達しうる最高温度である。半導体パッケージの製造工程にこうした高温下での処理工程が含まれる場合には、放熱基板が変形したり他の部材から剥離したりするといった問題を生じさせないために、室温(RT)から800℃における線膨張係数の最大値が10ppm/K以下であることが求められる。
こうしたなか、半導体モジュールの一態様であるパワー半導体モジュールでは、放熱基板上に載置された半導体デバイスにリード線が接続される。パワー半導体モジュールでも小型化が進められており、リード線により十分な通電容量を確保することが困難になっている。そこで、放熱基板と電極の機能を一体化した放熱基板電極の開発が進められている。
電気伝導率を統一的に評価する国際基準としてIACS(International Annealed Copper Standard)が知られている。これは、焼鈍標準軟銅(体積抵抗率: 1.7241×10-2 μΩm)の電気伝導率を100%IACSとして、各種材料の電気伝導率を焼鈍標準軟銅の電気伝導率に対する相対値として規定したものである。放熱基板を電極としても機能させる場合には、従来リード線として用いられているAl合金の電気伝導率と同等以上、即ち50%IACS以上の電気伝導率を有することが求められる。
また、半導体モジュールに実装される半導体デバイスには、絶縁を必要とするものとそうでないものがある。絶縁が必要な半導体デバイスの場合には、高温動作時でも絶縁を確保できるように、半導体デバイスに、セラミックス基板に回路層として導電性の優れたCuを接合したDBC(Direct Bonded Copper)基板(Cu/セラミック/Cu)やDBA(Direct Bonded Aluminum)基板(Al/セラミック/Al)といった絶縁回路基板をハンダ付けし、これに放熱基板をハンダ付けし、さらに熱伝導率の低い樹脂で冷却器を取り付けて冷却するシステムが採用されている。
しかし、絶縁回路基板は高価であり、また、放熱基板と同様に半導体モジュールに実装する都合や経済性から、大きさも限定される。さらに、絶縁回路基板で用いられるAlNやSi3N4といったセラミックス材料は、250〜300℃では熱伝導率が室温における熱伝導率の半分位にまで低下してしまう。そこで、半導体デバイスの動作時に発生する熱を速やかに放熱基板に伝達するために、強度を維持できる最低限の厚さまで薄くした絶縁回路基板が用いられている。しかし、パワー半導体モジュールに流れる電流量の増大に伴い、Cu層やAl層における通電容量が不足して発熱が生じる等の問題が生じている。また、高性能の半導体デバイスにCu放熱基板をハンダ付けしたものを安価な樹脂シートで絶縁するという方法も検討されたが、Cu放熱基板の線膨張係数が大きく半導体デバイスの線膨張係数と整合させることができない。CuMo系の放熱基板を用いると線膨張係数の整合性は改善されるが電気伝導度が不足する。また、主たる通電経路にMoやWが含まれる放熱基板を電極として用いると高周波の通電が不安定になるという問題もあった。さらに、放熱基板が薄くなるとデバイスからの熱が樹脂シートに伝わり加熱されて絶縁性が低下するという問題もあり、樹脂シートによる絶縁は実現していない。しかし、この構造が実現すると性能向上とコストダウンの効果が大きいことから、半導体デバイスを片面から冷却するだけでなく両面から冷却するなどの様々な方式により本格的な実現化が模索されている。
半導体モジュールに使用する放熱基板は、半導体モジュールの性能や構造に応じた(1)線膨張係数及び熱伝導率、並びに電気伝導率(電極としても機能させる場合)を有すること、(2)信頼性の高いメッキ処理を施すことが可能であること、(3)半導体モジュールへの実装後の動作信頼性を確保できること、等を考慮して選択される。信頼性の高いメッキ処理を施すことが可能であるか否かは、メッキ処理を施した後の放熱基板を半導体デバイスの最高動作温度(例えば250℃)あるいは400℃に保持するヒートテストにより判断される。また、半導体モジュールの各部材の信頼性は、半導体デバイスの最高動作温度(例えば250℃)での保持と-40℃での保持を繰り返し行うヒートサイクルテストにより判断される。放熱基板のヒートサイクルテストは非常に厳しく、各部材やその接合面等に欠陥や弱い箇所があるとその場所が破壊され不合格となる。特に、こうした問題は、半導体デバイスの最高動作温度が高くなるにつれて顕在化している。さらに半導体モジュールを冷却器に装着し、半導体デバイスの最高動作温度で通電をオン/オフして動作させることにより半導体モジュールの実装時の動作寿命が判断される。これらのテストで問題が生じた場合には、放熱基板の材料や構造を見直して新たな放熱基板を製造し、全てのテストにおいて問題が生じない放熱基板を製造して半導体モジュールを完成させる。
従来、放熱基板材料は、室温あるいは800℃における線膨張係数及び室温における熱伝導率の値を基準に選定されてきた。しかし、半導体モジュールのメーカーは、自身で開発した製品の放熱基板材料の特性に関する情報を必ずしも開示しないことが多く、特に半導体デバイスの最高動作温度における線膨張係数の値は開示されないことが多い。そのため、従来、室温における線膨張係数及び熱伝導率の値が選定の基準とされてきた。一方で、セラミックスパッケージのメーカーは製造時に必要とされる、800℃における線膨張係数の値を重視してきた。
半導体モジュールや半導体パッケージの設計者は、半導体モジュール毎に、その性能や構造に応じた放熱基板の材料を探索し、上記テストに合格する放熱基板を開発している。また、そうした放熱基板の開発が困難な場合には、開発可能な放熱基板を実装できるように半導体モジュールの設計を見直すこともある。
このように、半導体モジュール、半導体パッケージ、あるいは放熱基板等のメーカーでは、半導体モジュール、半導体パッケージ、放熱基板の設計、作製、シミュレーションや上述のテストなどを繰り返し、設計のノウハウを蓄積して製品の改良や新製品の開発を行っている。しかし、近年、半導体デバイスの最高動作温度は徐々に高くなっており、そうした動作温度の上昇に対応できる新しい放熱基板が求められている。
こうした中、AlSiCは温度の上昇に伴い熱伝導率が大きく低下するため、250℃等の高温で動作する高性能な半導体モジュールの放熱基板として使用すると熱伝導率が不十分になることから、放熱基板材料の候補として選択されなくなってきている。これに対し、CuW合金やCuMo合金では温度の上昇に伴う熱伝導率の低下が小さいため、高温で動作する半導体モジュールの放熱基板の材料として期待されている。特に、CuMo系の材料は軽量で安価なため期待が大きい。
しかし、CuMo合金の場合、CuとMoの濡れ性が悪く、Cuを溶解させてMoのスケルトンに含浸させる溶浸法や、CuとMoの粉末を焼結する焼結法により製造すると、表面や内部に巣(微小な空隙)が生じる。そこで、製造した合金を圧延することにより巣をつぶして放熱基板として用いていた。しかし、表面に露出したMoにNi系メッキ処理(NiあるいはNi合金によるメッキ処理)を施すためにその前処理を行うと、表層に存在するCuとMoの界面が浸食され安定したNi系メッキ処理を施すことが難しいという問題が生じていた。熱処理とNi系メッキ処理を繰り返すことによりNi系メッキ処理の安定性を改善することはできるものの、メッキ処理の工程が複雑になりコストが高くなってしまうという問題があった。
一方、CuMo合金等の単一組成の材料に代えて、Cu/CuMo/Cuクラッド構造、Cu/Mo/Cuクラッド構造、あるいはCu/Mo/Cu/…/Cu多層クラッド構造(以下、これらをまとめて「CuMo系クラッド構造」と呼ぶ。)の放熱基板の開発が進められてきた。これらの放熱基板では、その線膨張係数がCuMo合金等からなる放熱基板の線膨張係数と同程度であればCuMo系クラッド構造の熱伝導率の方がCuMo合金等の放熱基板の熱伝導率よりも高いことから、放熱基板の材料としての可能性が高く期待され開発が進められてきた。また、クラッド構造の放熱基板では、表面に熱伝導率が高いCu層が設けられるため、X-Y面内での熱伝導率が高いという利点がある。さらに、放熱基板の表面のCu層には安定したNi系メッキ処理を容易に施すことができるため、上述した熱処理等の工程が不要であり、CuMo合金等よりも安価に製造することができることから期待されている。
しかし、Cu/CuMo/Cuクラッド構造やCu/Mo/Cuクラッド構造の放熱基板において熱伝導率を高くするために表面のCu層を厚くすると、極表層(表層のうち最も外側に位置する部分)のCuの線膨張係数を芯材のCuMoやMoにより抑制する効果が十分に得られなくなり、極表層の線膨張係数が大きくなるという問題や、Z軸方向の熱伝導率が低いという問題がある。また、半導体デバイスの最高動作温度が高くなるにつれ、その温度に対応したヒートサイクルテストにおいて不具合が生じることが多くなっている。また、250℃で動作する半導体デバイスを搭載した半導体モジュールで動作寿命をテストすると、所期の熱伝導率が得られないことも判明した。
CuMo系クラッド構造の放熱基板は、圧延法、蝋付法、固相拡散接合法(HP法、加熱加圧接合法、熱間一軸加工法、熱圧着等)により製造される。これらの放熱基板では、上述のとおり、放熱基板の製造時に所期の熱伝導率が得られていても、250℃で動作する半導体デバイスを備えた半導体モジュールに実装して動作寿命テストを行うと所期の熱伝導率が得られないことがある。これは、半導体モジュールに実装して繰り返し動作させると、放熱基板内部のCuとMoの接合部(界面)における接合強度が低下して剥離が生じたり、もしくは該接合部におけるボイドや欠陥を起点とする亀裂や剥離が生じたりし、これらによって特にZ軸方向の熱伝導率が低下したものと考えられる。クラッド構造の放熱基板の接合部の小さな亀裂や剥離を外観から判断することは難しい。
一方、Z軸方向の熱伝導率を高めるという課題を解決する放熱基板として、厚さ方向に貫通する孔(ビア)を形成したMoの板状部材(芯基材。「ビアMo」とも呼ぶ。)のビア内部にCuを導入した、Cu/ビアMo/Cuの3層構造の放熱基板(以下、これを「ハイブリッド構造」と呼ぶ。)が提案されている。こうしたハイブリッド構造の放熱基板は、例えばCuを溶解してビア内に流入させて接合(全溶解接合)したり、あるいはビアMoとその内部に導入したCuの界面を局所的に溶融させて接合(局所溶解接合)したりするという方法で製造される。ハイブリッド構造の放熱基板では、Mo等の線膨張係数が小さい金属からなる芯基材を用いることにより、高温下でもビア内部のCu及び芯基材の表裏面に位置するCu層がビアMo層に拘束され、膨張伸縮が抑制されるため、線膨張係数を低く抑えつつ高い熱伝導率が得られる、と期待された。
(従来技術)
以下、上記の各種放熱基板や関連技術について本発明者が調査した先行技術文献における開示の内容を説明する。
特許文献1は、クラッド構造の放熱基板に関する文献であり、Mo板の片面又は両面に銅、金、銀あるいはそれらの合金の被覆薄層を形成し、該被覆薄層に銅、ニッケル、金、銀金属板あるいはそれらの合金板を重ねて加熱及び加圧することにより接合することが記載されている。
特許文献2は、クラッド構造の放熱基板、特にCu/Mo/Cuクラッド構造やCu/W/Cuクラッド構造の放熱基板に関する文献であり、従来の圧延法に代えてホットプレス装置や熱間静水圧プレス装置を用いた熱間一軸加工法により各層を加熱加圧接合することが記載されている。具体的には、Cu材とMo材を直接重ね合わせたもの、あるいはMo材の表面にCu又はNiあるいはそれらの組み合わせの材料を用いてメッキ処理を施した後、Cu材とMo材を重ね合わせたものを加熱加圧接合することが記載されている。
特許文献3もクラッド構造の放熱基板に関する文献であり、それまで用いられていたCu/Mo/Cuクラッド構造やCu/W/Cuクラッド構造の放熱基板のMoやWに代えてCuMo合金やCuW合金を使用した、Cu/CuMo/Cuクラッド構造やCu/CuW/Cuクラッド構造の放熱基板が記載されている。これらの放熱基板では従来の放熱基板に比べてZ軸方向の熱伝導率が高く、また線膨張係数が低くなる、と記載されている。また、溶浸法又は焼結法により形成されたCuMo合金又はCuW合金にNiメッキを施してCuを重ね合わせ、熱間圧延あるいは熱間一軸加圧するという製造方法が記載されている。
特許文献4はCuMo複合合金の製造方法に関する文献であり、Cu粉末とMo粉末からなる圧粉体を作成し、これを焼結したあと圧延加工することによりCuMo複合圧延板を製造することが記載されている。
特許文献5には、Cuやその合金からなる層とMoやWからなる層を交互に積層してなる構造体を熱間一軸加工法により接合することにより製造された、多層クラッド構造の放熱基板が記載されている。多層クラッド構造の放熱基板ではクラッド構造に比べて線膨張係数が低くなる、と記載されている。
特許文献6には、インバーもしくはMoなどの線膨張係数が小さい材料からなる板状部材に、その厚さ方向に貫通する貫通孔(ビア)を形成した芯基材を作製し、その内部に貫通孔の内径よりも小さい外径を有するCuからなる熱伝導部材を挿入するとともに、芯基材の表裏面にもCu層を形成して、各部材を固相拡散接合してなるハイブリッド型の放熱基板が記載されている。この文献には、貫通孔の内壁との間に空隙が形成されているため、貫通孔内部のCuが熱によって伸縮しても芯基材の線膨張係数がそのまま維持される、と記載されている。
特許文献7は本件と本発明者による文献であり、ハイブリッド型の放熱基板が記載されている。この放熱基板は、特許文献6と同様に線膨張係数が小さいMoからなる板状の芯基材に形成された貫通孔にCuからなる伝熱部材を導入したハイブリッド型の放熱基板であるが、特許文献6とは異なり、ビア内部のMoとCuの界面を局所的に溶解させることにより、あるいはビアに溶融したCuを流入させることにより、それらを接合している。
本発明者が特許文献7で提案した方法で製造することにより、X-Y方向だけでなくZ軸方向にも高い熱伝導率を有するハイブリッド構造の放熱基板が得られることが分かった。しかし、複数の放熱基板を製造し、それらを半導体モジュールに実装して動作寿命をテストすると、必ずしも所期の熱伝導率が得られない場合があることが新たに分かった。
多くの場合、まず大型で薄い放熱基板を作製しておき、そこから所定の大きさで切り出すことにより個々の放熱基板が製造される。ハイブリッド構造の放熱基板における上記の問題は、ハイブリッド構造の放熱基板では内部構造が複雑であり、特に大型の放熱基板では、ビア内部で溶解したCuから放出されたガスが放熱基板の内部に残留してボイドになりやすく、これが個々の放熱基板の内部構造にバラツキを生じさせたためであると推測される。
上述のとおり、放熱基板のテストの1つに半導体モジュールへの実装時の動作寿命テストがあるが、このテストには冷却器に装着して動作させる等の工程が必要であり費用と時間がかかる。そのため、これまでは、まず、複数の放熱基板について、室温で放熱基板単体の線膨張係数や熱伝導率を測定し、それらのうち所期の値が得られたもののみを使い半導体パッケージや半導体モジュールを製作してヒートサイクルテストを行い、さらにそのテストに合格した放熱基板についてのみ動作寿命テストを行ってきた。従って、放熱基板の設計や試作の段階では、まず、放熱基板単体としての特性(線膨張係数、熱伝導率及び電気伝導率など)の要件、及び半導体パッケージや半導体モジュールに装着した状態でのヒートサイクルテストに合格する特性を有することが求められる。また、他の評価方法に比べて費用と時間がかかる半導体モジュールへの実装時の動作寿命テストまでに合否の見極めができる簡易的なテスト方法も求められている。
今回、通常、放熱基板単体では行わない、半導体デバイスの動作温度を250℃に想定したヒートサイクルテスト(250℃への加熱と-40℃への冷却を繰り返し行うテスト)をクラッド構造の放熱基板及びハイブリッド構造の放熱基板のそれぞれについて行い、ヒートサイクルテスト前後の特性の変化を外観の変化と照合した。しかし、CuとMoの接合界面の剥離を外観から判断することは難しく、また端部で接合面がめくれあがっている様子も確認することはできなかった。しかし、ヒートサイクルテストの前後でZ軸方向における熱伝導率の値が大きく低下しており、これはCuとMoの接合界面で剥離が生じていることを強く示唆していた。
CuとWの濡れ性に比べてCuとMoの濡れ性が悪く、これらの接合が難しいことは従来知られている。それにもかかわらずCuMo系のクラッド構造やバイブリッド構造の放熱基板がCuW系の放熱基板に先行して開発されているのは、MoがWに比べて軽量かつ安価なためである。しかし、上述の溶浸法や焼結法では表面や内部に巣ができるため、良好な放熱基板を製造することが困難であった。そこで、Ni、Cr、Co、Fe、Ti、Ag等金属を添加して濡れ性を向上することが試みられたが、添加した金属がCuに溶解して熱伝導率が大幅に低下するという別の問題が生じ、実用化には至らなかった。特に、0.05〜2wt%のNiを添加すると良好な複合合金を作製することができたが、熱伝導率が大幅に低下したため実用化には至らず、続いて蝋付法によるクラッド構造の放熱基板や、ホットプレス法を用いた固相拡散接合による多層クラッド構造の放熱基板の開発、あるいは圧延法によるCu/CuMo/Cuクラッド構造の放熱基板やCuW放熱基板の開発へとシフトしていった。
このように、従来、種々の材料や構造からなる放熱基板が提案されているが、半導体モジュールの高性能化に伴う最高動作温度の上昇に確実に対応できる放熱基板は依然として見出されていない。また、従来のCuMo系のクラッド構造やハイブリッド構造の放熱基板における、CuとMoの界面が剥離するという問題を解決した放熱基板も提案されていない。
本発明者は、上述した種々の放熱基板のうち、X-Y面内及びZ軸方向の熱伝導率、線膨張係数、及び電気伝導率について最も高い特性が得られることが期待されるハイブリッド構造の放熱基板に着目し、その課題を検証した。
本発明者による特許文献7に記載の発明では、Cu/ビアMo/Cuハイブリッド構造の放熱基板の製造時に、ビア内部でMoとCuを確実に接合するために上下面から加圧しつつ加熱して固相拡散接合を行った。しかしこの方法ではビア内部のMoとCuの界面を押す方向には圧力がかかりにくく、そのためにMoとCuの界面の接合強度が必ずしも十分でない可能性があると考えた。また、特許文献7において提案したような、ビア内部のCuを局部的に溶解してMoと接合する方法や、Cuを完全に溶解してビア内に流し込んでMoと接合する方法では、Cuの溶解時に発生するガスがビア内部、特にMoとの界面に残存してボイドが生じている可能性があると考えた。
本発明者は、解決すべき課題を整理し明確にするために、これまでに実用化された、あるいは実用化が検討されたCuMo系クラッド構造あるいはハイブリッド構造の代表的な放熱基板(比較例1〜5)を試作し、ヒートサイクル前後の特性等を評価した。
以下、比較例1〜5の特性評価の概要とその考察を述べる。
比較例1は圧延法で製造されたCu/CuMo/Cuクラッド構造(図1(a))の放熱基板である。比較例2は、蝋付法で作製したCu/Mo/Cuクラッド構造(図1(b))の放熱基板である。比較例3は、固相拡散接合法で作製したCu/Mo/Cuクラッド構造(図1(b))の放熱基板である。比較例4は、固相拡散接合法で作製したCu/ビアMo/Cuハイブリッド構造(図1(c))の放熱基板である。比較例4は局部溶解法で作製したCu/ビアMo/Cuハイブリッド構造(図1(c))の放熱基板である。いずれの放熱基板においてもCuの含有量は66vol%とした。各比較例について5枚の放熱基板を作製してヒートサイクルテスト前後での特性を評価した。また、それらの放熱基板をそれぞれ半導体パッケージに実装したものを準備してヒートサイクルテストを行った。さらに、半導体モジュールに実装したものを、比較例1〜5についてそれぞれ3個ずつ準備してヒートサイクルテストを行った。さらに、半導体モジュールに実装したもののうちの1つについて、動作寿命のテストを行った。
比較例1〜5の放熱基板のいずれも、ヒートサイクルテスト前の線膨張係数は10ppm/K以下であった。また、X-Y面内の熱伝導率及びZ軸方向の熱伝導率はいずれも200W/m・K以上であった。しかし、ヒートサイクルテスト後には、いずれの放熱基板でも、Z軸方向において大幅に熱伝導率が低下した。また、ヒートサイクルテスト後の電気伝導率は、比較例1〜5のいずれにおいても50%IACSを下回った。
上述のとおり、外観のみではCuとMoの界面の状態を確認することが難しいため、ヒートサイクルテスト後の放熱基板を切断し、内部の様子を観察した。すると、比較例1及び3ではCuとMoの界面が剥離していた。比較例2ではCuとMoの界面に大きなボイドが多数生じており、これを起点としてCuとMoの界面が剥離していた。比較例4ではビアの壁面とCuの間に空隙が存在し、これを起点としてCuがビアの壁面から剥離していた。比較例5ではビアの壁面とCuの間に微小なボイドが存在し、これを起点としてCuがビアの壁面から剥離していた。
半導体モジュールと半導体パッケージのヒートサイクルテストでは、比較例1については5個のうち1個で、比較例2〜4については5個のうち4個で放熱基板の剥離及び/又は半導体デバイスの損傷が確認され不合格(NG)となった。一方、比較例5については、5個の全てにおいて放熱基板の剥離や半導体デバイスの損傷は確認されなかった。また、半導体モジュールのヒートサイクルテストでは、比較例1及び5については3個のうち1個で、比較例2については3個のうち2個で、比較例3及び4については3個全てで放熱基板の剥離及び/又は半導体デバイスの損傷が確認され不合格(NG)となった。
上記の結果から、従来提案されている放熱基板ではいずれもヒートサイクルテスト後にZ軸方向で大幅に熱伝導率が低下し、また電気伝導率も50%IACSに満たないこと、さらに半導体パッケージやモジュールへの実装時の動作信頼性にも問題があることが分かった。比較例1〜5の中では、比較例5の放熱基板(局部溶解法で作製したハイブリッド構造の放熱基板)について比較的良好な結果が得られたものの、半導体モジュールのヒートサイクルテストや動作寿命テストの結果を踏まえると、実用化するためには信頼性をより一層高める必要がある。
上記の結果は、従来、CuMo系クラッド構造やハイブリッド構造の放熱基板について提案されている固相拡散接合法や蝋付け法では、250℃のヒートサイクルテストで問題が生じない、十分な接合強度を得ることは難しいことを示唆している。また、ハイブリッド構造の放熱基板については、ビア内部のCuとMoの界面で剥離が生じ、その結果、ビア内部に存在するCuの膨張収縮がMoにより十分に抑制されず、半導体デバイスをハンダ付けしている放熱基板の表面に凹凸が生じて、半導体モジュールのヒートサイクルテストで半導体デバイスの剥離や損傷が起こったものと考えられる。更に、ビア内部のCuの膨張収縮の繰り返し回数が多くなるほど放熱基板の剥離や半導体デバイスの破壊が進行すると思われる。
上述の特許文献6にもハイブリッド構造の放熱基板が記載されている。しかし、特許文献6の放熱基板では、貫通孔(ビア)の内壁との間に積極的に空隙を形成しているためビア内部のCuの膨張収縮が抑制されない。従って、特許文献6と同様に固相拡散接合で作製した比較例4よりも、半導体パッケージ及び半導体モジュールのヒートサイクルテストにおいてその空隙を基点とする亀裂が生じたり、表裏面のCu層に上述の凹凸が生じたりしやすいことは容易に予測できる。
本発明が解決しようとする課題は、ヒートサイクルテスト後の、厚さ方向(Z軸方向)における熱伝導率の低下が小さい放熱基板を提供することである。
上記比較例1〜5の放熱基板のヒートサイクルテスト前後の厚さ方向(Z軸方向)における熱伝導率の差を、半導体パッケージ及び半導体モジュールのヒートサイクルテストの結果と併せて考慮すると、半導体パッケージや半導体モジュールのヒートサイクルテストで放熱基板の接合界面が剥離したり半導体モジュールのヒートサイクルテストでの半導体デバイスが損傷したりするのは、放熱基板のCuとMoの接合強度の不足及びそれに起因して界面の剥離や欠陥が生じることによるものであると考えられる。また、本発明者は、これらの現象を評価するためのベンチマーク(指標)として、放熱基板の厚さ方向(Z軸方向)における熱伝導率の変化(低下)を好適に用いることができると考えた。そこで、本発明者は、放熱基板単体のヒートサイクルテスト前後でZ軸方向の熱伝導率の低下が比較的小さく、またCuとMoの接合界面に欠陥がなく接合強度が高い、安定したハイブリッド構造の放熱基板を作製することを検討した。
本発明者は、特許文献7に記載の発明(比較例5の放熱基板に相当)では、Moのビア内部に全溶融したCuを導入する、あるいはCuを導入した後に局所的に溶融させることによりMoとの接合性を高めることを考えた。しかし、その後の検討により、この場合には溶融したCuから発生する気泡によりビア内部にボイドが生じる可能性があることが分かった。
そこで、本発明では、固相拡散接合法等ではあまり使用しない、軟化したCuを塑性変形させることでMoのビア内部に圧力をかけMoとCuを接合するとともに、Mo及びCuに対する濡れ性が良いNiをインサート金属としてMoとCuの界面に介在させることにより接合性を高め安定させることを考えた。ただし、インサート金属を介在させる場合には、熱伝導率の低下を防ぐために、Cuが溶解してNiと合金化することを防ぐ必要がある。そこで、本発明ではCuの融点である1083℃よりも低い温度でこれらを接合する。
即ち、本発明に係る放熱基板は、
a) 第1金属からなる板状の芯基材を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面にインサート金属を被覆し、
b) 前記貫通孔に、該貫通孔の容積に対応する量以上の、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第2金属からなる挿入体を充填し、
c) 前記本体の表面及び裏面にそれぞれ、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第3金属からなる板状の熱伝導部材を配置して積層体を作製し、
d) 前記積層体を前記第1金属、前記第2金属、及び前記第3金属の融点未満の温度に加熱及び加圧し、該第2金属を軟化させて前記貫通孔の内部に圧入する
ことにより製造することができる。
上記の製造方法では、第1金属(Mo等)からなる芯基材の貫通孔(ビア)の内部にビアの容積に対応する量以上の第2金属(Cu等)を充填し、これを第2金属の融点未満の温度に加熱及び加圧して軟化させ、圧力をかけつつ貫通孔の内部に導入(圧入)する。これにより第1金属と第2金属の界面を加圧し、それらを隙間なく強固に接合することができる。あるいは、ビアを形成した第1金属からなる芯基材の表裏面に第2金属の板状部材を配し、これを軟化させてビア内部に第2金属を圧入することもできる。この場合には、第2金属及び第3金属として同じ金属を使用する。もしくは、ビアの容積よりも大きな体積の柱状体や粉末等をビア内部に入れ、これを軟化することにより、ビア内部に第2金属を圧入することもできる。また、これらの方法を併用することもできる。以下、第1金属がMo、第2金属及び第3金属がCuである場合を例に説明する。
これらの方法でCuをビア内部に圧入すると、製造後の放熱基板の外周において、余剰量のCuや導入したインサート金属の一部が接合時にCuとMoの界面から押し出され、接合余剰物として放出される。即ち、「接合余剰物」は、ビアの容積よりも多くのCuを導入したときに生じる、余剰量のCu及び/又は接合時にCuとMoの界面から押し出されたインサート金属であると定義づけることができる。
後述するように、本発明者が行った検証によれば、例えば平面形状が矩形である場合、加熱及び加圧処理後の放熱基板を平面視したときの外周の一部の辺にあたる側面のみから接合余剰物が放出される程度の量のCuを圧入(即ちビアの容積と同程度、あるいはそれよりもわずか多い量のCuを圧入)するよりも、外周の四辺全てにおいて接合余剰物が放出される量のCuを圧入(即ちビアの容積よりも十分に多い量のCuを圧入)する方が、ヒートサイクルテスト後の熱伝導率の低下が小さくなることが分かった。これまで、放熱基板の製造では、接合面から接合余剰物等が放出される製法は、寸法精度の確保が難しく、また、治具の寿命が短くなる等の理由で敬遠されてきた。一般的に、接合の簡易評価として、摩擦圧接ではバリ、電気溶接ではバリやチリ、蝋付けやハンダ付けではメニスカス等の外観で評価する方法が知られており、本件の接合余剰物も、それらと同様に評価することができる。
上述のとおり、MoとCuの接合強度を高めるために、それら以外の金属をインサート金属として介在させることは従来知られていたが、インサート金属がCu内部に溶解して熱伝導率が低下する等の問題が生じるという知見から、現状、放熱基板の製造には用いられていない。しかし、インサート金属を介在させることにより、Cuの融点以下の温度でMoとCuを良好に接合できるという利点がある。
Cuは加熱により軟化し加圧により容易に変形する金属である。そこで、ビアへのCuの挿入は、例えば以下のような方法で行うことができる。
(1)熱間押し出しや鍛造で製造されるようなCuの柱状体であって、ビアの容積よりも大きな体積を有するものをMoのビア内部に導入することにより、MoとCuの界面を加圧する。
(2)ビアを形成した板状のMo芯基材の表裏に配置するCu板を加熱及び加圧することによりビア内部に軟化したCuを圧入して界面を加圧する。
(3)表裏に配置するCu板の表面に凸部を設け、該凸部をビアに挿入してビア内部の界面を加圧する。
(4)上記(1)から(3)の方法を組み合わせる。
上記製造方法では、Moからなる芯基材のビアの内壁面にNiを被膜しておくことでCuとMoの接合強度を高くし、また安定させる。この方法ではCuを溶融させないため、インサート金属であるNiがCuに溶解することはなく、また製造後の放熱基板のビア内部に空隙やボイドが発生する心配もない。即ち、Mo芯基材のビア内部でCuとMoが直接、あるいはNi層を挟んで隙間なく密着した状態で接合される。
また、上記同様の方法を用いて、ハイブリッド構造を拡張した多層のCu/ビアMo/Cu/…/Cu構造(これを、「多層ハイブリッド構造」と呼ぶ。)の放熱基板を製造することも検討した。この場合には、同じ厚さの放熱基板を製造する際に、ビアを形成したMoの芯基材(ビアMo層)を3層のハイブリッド構造の放熱基板のビアMo層よりも薄くすることができるため、ビア内部にCuを容易に圧入することができる。また、各ビアMo層に形成するビアの位置を上下層で重ならないように配置することにより、仮に該ビア内部のCuが膨張収縮した場合でも表層への影響を低減することができる。また、放熱基板の表裏面に位置するCu層を薄くすることができるため、ビアMo層によりCuの熱膨張を抑制する効果を高め、極表層における線膨張係数を低く抑えることができる。
放熱基板を構成するCuの線膨張係数は17ppm/Kであり、一方、Moは5.5ppm/Kであるため、半導体デバイスの動作の温度上昇時にCuとMoの膨張の程度が大きく異なり接合界面で大きな応力が生じる。ビア内部で生じるこのような応力は、ビアMo層が厚いほど顕著になる。多層ハイブリッド構造では複数のビアMo層を設けるため、上述のとおり、同一厚さの放熱基板を製造する場合には、1層のビアMo層のみを設けるよりも各ビアMo層が薄くなる。従って、ビア内部の界面で生じる応力が小さく抑えられる。
また、本発明に係る放熱基板は、
a) 厚さ方向に貫通する貫通孔が形成された、第1金属からなる板状の芯基材と、
b) 前記貫通孔の内部に充填された、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第2金属からなる挿入体と、
c) 前記貫通孔の内壁面と前記挿入体の間に連続的又は断続的に形成された、インサート金属からなる接合層と、
d) 前記本体の表裏面に形成された、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第3金属からなる熱伝導層と
を有することを特徴とする。
上記方法により製造された、本発明に係る放熱基板の特性を測定した結果、線膨張係数が10ppm/K以下であり、ヒートサイクルテスト後の厚さ方向の熱伝導率が200W/m・K以上であった。また、半導体パッケージ及び半導体モジュールに実装したヒートサイクルテストでも放熱基板の剥離や半導体デバイスの破損は見られなかった。
さらに、本発明に係る放熱基板の電気伝導率を測定すると、Al合金からなるリード線の電気伝導率に相当する、50%IACS以上の電気伝導率が得られることも分かった。従って、本発明に係る放熱基板は放熱基板電極としても好適に用いることができる。
さらに、本発明に係る半導体パッケージと半導体モジュールは、それぞれ前記放熱基板を備えることを特徴とする。
本発明に係る放熱基板の製造方法では、CuMo系のハイブリッド構造の放熱基板を、CuとMoの界面にインサート金属を導入することにより界面の接合性を高めることでヒートサイクルテストに合格する放熱基板の開発に成功した。また、Cuを固相のままで圧入することにより、Cu内部に異種金属が溶解して熱伝導率が低下するという課題も解決した。これらにより、線膨張係数が10ppm/K以下であり、ヒートサイクルテスト後でも厚さ方向において200W/m・K以上の熱伝導率を有する放熱基板が得られた。また、この放熱基板を半導体パッケージや半導体モジュールに実装したヒートサイクルテストにおいても、各部材の剥離や破損、半導体デバイスの破損等が生じないという良好な結果が得られた。
また、接合余剰物が生じる量のCuを圧入(即ち、ビアの容積以上の量のCuを圧入)することにより、ヒートサイクルテスト後の熱伝導率の低下を抑えた、信頼性の高い放熱基板を得ることができる。さらに、上記方法では接合余剰物を生じさせることにより、ビアの容積以上の量のCuが圧入されていること、つまりビアの内部に空隙がない状態が形成されていることを確認できるため、ビア内部へのCuの圧入量の過不足を外観から容易に判断することができる。従来、一般的には放熱基板の接合工程を外観の接合余剰物によって管理することはなかったが、例えば、多数の放熱基板を切り出すための大きく薄い放熱基板を製造する際には、適宜の位置に接合余剰物を確認するための窓を設けることで全体の接合品質を管理することができる。
本発明に係る放熱基板の製造方法の一実施形態は、
a) 第1金属からなる板状の芯基材を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面にインサート金属を被覆し、
b) 前記貫通孔に、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第2金属からなる挿入体を充填し、
c) 前記本体の表面及び裏面にそれぞれ、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第3金属からなる板状の熱伝導部材を配置して積層体を作製し、
d) 前記積層体を前記第1金属、前記第2金属、及び前記第3金属の全ての融点未満の温度に加熱及び加圧する
工程を有する。
上記製造方法において、第1金属、第2金属、及び第3金属、並びにインサート金属は、単体金属と合金のいずれであっても良い。また、第2金属と第3金属は同一金属とすることができる。その場合には、例えば貫通孔の位置に対応する箇所に凸部を形成した板状部材を用いて、貫通孔への挿入体の導入と、板状部材の配置を同時に行うことができる。
この実施形態の放熱基板の製造方法では、第1金属と第2金属の両方に対して濡れ性が良好なインサート金属を用いて貫通孔の内部を被覆しておく。これにより、貫通孔の内部での第2金属の接合性が向上する。また、前記積層体を第1金属、第2金属、及び第3金属の全ての融点未満の温度に加熱及び加圧する。そのため、インサート金属が第2金属の内部に溶解し、該第2金属の熱伝導率を低下させる心配がない。従って、この実施形態に係る方法を用いることにより、熱伝導率が高く、ヒートサイクル前後での熱伝導率の低下が小さい放熱基板が得られる。
上記方法で製造された放熱基板では、上述のとおり、貫通孔内部を被覆したインサート金属を第1金属や第2金属に溶解させない。従って、本発明者による先の出願のような、貫通孔内部の界面に第1金属と第2金属が合金化した溶融部は形成されず、貫通孔内部では、第1金属と第2金属の間に、連続的又は断続的にインサート金属の層が形成されることになる。
即ち、本発明に係る放熱基板の一実施形態は、
a) 厚さ方向に貫通する貫通孔が形成された、第1金属からなる板状の芯基材と、
b) 前記貫通孔の内部に充填された、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第2金属からなる挿入体と、
c) 前記貫通孔の内壁面と前記挿入体の間に連続的又は断続的に形成された、インサート金属からなる接合層と、
d) 前記本体の表裏面に形成された、前記第1金属よりも熱伝導率が大きい第3金属からなる熱伝導層と
を有する。
また、上記実施形態の放熱基板は、放熱基板電極としても好適に用いることができる。さらに、本発明に係る半導体パッケージと半導体モジュールの一実施形態は、それぞれ前記放熱基板を備える。
以下、本発明に係る放熱基板及びその製造方法の一実施例について詳しく説明する。まず、本実施例の放熱基板を構成する主たる構成要素である、芯基材、挿入体、熱伝導層、及び接合金属層について説明する。
(低線膨張係数材料である第1金属からなる芯基材)
低線膨張係数材料である第1金属からなる芯基材の役割は、該芯基材の表裏面に配置される第3金属からなる熱伝導層と、該芯基材に形成されるビアの内部に導入される第2金属からなる挿入体が半導体デバイス動作時に伸縮するのを抑制することである。この役割に適した芯基材として、例えば、線膨張係数が9.0ppm/K以下であるW, Mo, CuW, CuMo、In(インバー)、Kv(コバール)のうちのいずれかからなるものを好適に用いることができる。特に、特性とコストの両面のバランスからMoからなる芯基材を好適に用いることができる。
芯基材に形成するビアは、該芯基材を厚さ方向に貫通するものであれば良く、その断面形状は製造者が適宜に決めることができる。また、その断面形状が必ずしも厚さ方向で一定である必要はなく、例えばテーパー状等であってもよい。さらに、ビアの個数、大きさ、及び配置は、求められる線膨張係数と熱伝導率の値に応じて適宜に設定すればよい。このビアは、例えばパンチング、エッチング、放電加工、ドリル加工等、適宜の方法で形成することができる。また、これらを適宜に組み合わせてもよい。さらに、必ずしもビアを均等に配置する必要はなく、例えば半導体デバイスが加熱しやすい部位に対応する位置に集中的にビアを配置することもできる。
(高熱伝導率材料である第2金属の挿入体)
高熱伝導率材料である第2金属からなる挿入体の役割は、放熱基板の一方の表面(半導体デバイスが搭載される側)に位置する熱伝導層からの熱を他方の表面(金属フィン等の冷却器が設けられる側)に位置する熱伝導層に効率よく伝達することである。この役割に適した挿入体としては、例えば熱伝導率は390W/m・K以上である金属からなるものを好適に用いることができる。また、放熱基板を電極としても使用する場合(以下、この場合の放熱基板を「放熱基板電極」とも呼ぶ。)には、Al合金からなるリード線と同等以上である50%IACS以上の電気伝導率を有する金属からなるものを用いることが好ましい。これらの要件を満たす材料として、後述の実施例で使用するCuのほか、Ag、あるいはそれらの合金を用いることができる。
第2金属からなる挿入体は、後述する加熱及び加圧工程において、芯基材のビアの内壁面(第1金属との界面)を加圧するように芯基材のビアに挿入される。そのため、ビアの容積以上の体積の第2金属を挿入体として用いることが好ましい。ここで「好ましい」としたのは、仮にビアに挿入される第2金属の量がビアの容積よりも若干少ない場合でも、加熱及び加圧処理の際に、芯基材の表裏面に配置される熱伝導層を構成する第3金属(後述)が多少、ビア内部に押し込まれ、ビアの内部が加圧されるためである。挿入体としては、ビアの形状に対応する形状を有し、ビアの深さよりも高く成形したもの、外径が僅かにビアよりも大きいもの(この場合にはCuを加熱し軟化させて圧入)、あるいは粉末状や顆粒状のものを用いることができる。また、後記第3金属からなる熱伝導層の片面に貫通孔の内径よりも小さく高さがビアの深さの1/2より高い外径を有する凸部を形成し、これを上下からカップリングし、加熱により軟化させることにより、ビアの内部で2つの凸部を挿入体として一体化することもできる。あるいは、これらを適宜に組み合わせて併用(例えば粉末状のものと、熱伝導層を構成する板状部材の片面に形成した凸部を併用)することもできる。
第1金属(ここではMoとする。)の芯基材のビアへの第2金属(ここではCuとする。)の圧入は、例えば、以下のような方法で行うことができる。
(1)熱間押し出しや鍛造で製造されるようなCuの柱状体であって、ビアの容積よりも大きな体積を有するものをMoのビア内部に導入することにより、MoとCuの界面を加圧する。
(2)ビアを形成した板状のMo芯基材の表裏に配置する第3金属(ここではCuとする。)の板状部材(放熱基板の熱伝導層)を加熱及び加圧することによりビア内部に軟化したCuを圧入して界面を加圧する。
(3)表裏に配置するCu板状部材の表面に凸部を設け、該凸部をビアに挿入してビア内部の界面を加圧する。
(4)上記(1)から(3)の方法を適宜に組み合わせる。
(高熱伝導材料である第3金属の熱伝導層)
芯基材の表裏面に配置される、高熱伝導率材料である第3金属からなる熱伝導層の役割は、放熱基板の表面に平行な面内(X-Y面内)での熱伝導率を高めることである。また加熱加圧により軟化した状態でビアに圧入されビア内を加圧することである。また、上述のとおり、第3金属からなる熱伝導層の片面に貫通孔の内径よりも小さく高さがビアの深さの1/2より高い外径を有する凸部を形成し、これを上下からカップリングし、加熱により軟化させることによりビアの内部で2つの凸部を挿入体として一体化することもできる。多層ハイブリッド構造の放熱基板を製造する場合には、熱伝導層を構成する板状部材の表裏両面に凸部を形成すればよい。
熱伝導層を構成する部材としては、390W/m・K以上の熱伝導率を有するCuあるいはCu合金からなる板状部材を好適に用いることができる。あるいは、粉末状のものを用いたり溶射法により熱伝導層を形成したりすることもできる。また、これらを適宜組み合わせて併用することもできる。この第3金属がビアに圧入されたり、接合余剰物として外部に放出されたりした場合には熱伝導層が薄くなるが、熱伝導層の厚さは、SUS、Fe、Mo、In、Kv等からなるガイドを用いることによりコントロールできる。特に、多層クラッド構造の場合には各熱伝導層の厚さの制御に有効に働くのでこうしたガイドを使用することが望ましい。また、こうしたガイドを放熱基板の外周に配置する場合には、それも含めて放熱基板として取り扱うこともできる。なお、その場合にはガイドの表面にもインサート金属と同様にCu及びガイドを構成する部材の両方と濡れ性が良好な材料を塗布しておくことが望ましい。また、表層の面粗さを小さくする必要がある場合には、軽い圧延や研磨を行えばよい。
(インサート金属である第4金属からなる接合金属層)
インサート金属である第4金属からなる接合金属層の役割は、第1金属と第2及び第3金属の間に介在し接合強度を向上させるとともに安定化することである。但し、第1金属と第2金属及び第3金属の接合の完了後には必ずしも介在させたインサート金属のすべてが接合界面に残存していない場合もある。これは、軟化したCuが塑性変形する際にインサート金属を部分的に押し出すことがあるためである。
インサート金属(第4金属)として、例えば、Ni、Co、Cr、Ti、Zr、Hf、Nb、V、Ag、Cd、Sn、あるいはそれらの合金を好適に用いることができる。また、これらを複数使用し、接合金属層を多層にしてもよい。ただし、多くの場合、金属単体の方が合金よりも熱伝導率や電気伝導率が高いことから、接合金属層は金属単体からなるものとすることが好ましい。中でも純Niが好適である。第2金属よりも融点が低い金属を用いた場合には、第1金属と第2金属及び第3金属の接合時に溶融し、その一部が接合余剰物として外部に放出されるため、第1金属と第2金属及び第3金属の接合界面にはわずかな量しか残らない場合もあるが、第4金属が該接合界面に一部でも存在していれば第1金属と第2金属及び第3金属の接合強度が向上する。
上述のとおり、接合金属層は、第1金属と第2金属の接合性を高めるためのものであることから、放熱基板の製造時には第1金属からなる芯基材のビアの内壁面と第2金属からなる挿入体の外壁面のいずれか一方に形成しておけばよい。もちろん両方に形成してもよい。接合金属層は、例えばメッキ、蒸着、金属粉末の塗布、ナノ金属粉末の塗布、溶射等、適宜の方法により形成することができる。また、第1金属からなる芯基材の表裏面と第3金属からなる熱伝導層の表面(芯基材に接合される面)の一方又は両方にも接合金属層14を形成しておくことが好ましい。これにより、芯基材と熱伝導層の接合性も高め、接合界面をより安定させることができる。
なお、放熱基板の製造時に形成する接合金属層の厚さは0.003〜10μmの範囲内であることが好ましい。これは、接合金属層が0.003μmよりも薄いと第1金属と第2金属(及び第1金属と第3金属)を接合する効果が十分に得られない場合があり、逆に10μmよりも厚くすると、この接合金属層によって放熱基板の熱伝導率や電気伝導率が低下する可能性があるためである。
接合金属層の上記厚さは放熱基板の製造時に形成する厚さであり、後述する加熱及び加圧工程において、その一部は第2金属からなる挿入体の余剰量とともに接合余剰物としてビアから押し出される。また、放熱基板の製造時に均一厚さで接合金属層を形成したとしても、その一部が加熱及び加圧工程において第1金属と第2金属(及び第1金属と第3金属)の界面で移動することもある。従って、製造後の放熱基板では、接合合金層が必ずしも第1金属と第2金属の界面(及び第1金属と第3金属の界面)に連続的に形成されているとは限らず、該界面において接合合金層が断続的に存在する場合もある。
Cuの融点は1083℃であるが、上記製造方法では加圧するため、1083℃未満でもCu(第2金属、第3金属)とNi(第4金属)の一部が固溶体を形成する場合がある。仮にこうした固溶体が第1金属との界面の一部に形成されたとしても、固溶体の層が過度に厚いものでなければ熱伝導率を大幅に低下させる心配はない。とはいえ、第1金属と第2金属及び第3金属の接合界面には固溶体が存在しないことが好ましく、その観点から接合時の加熱温度は1000℃以下であることが望ましい。
典型的な一例として、第1金属がMoであり第2金属(及び第3金属)がCuである場合には、接合合金層として3μmm厚さのNi層を好適に用いることができる。これによりCuとMoの接合性を高め、かつ熱伝導率や電気伝導率に影響を与えることなく放熱基板を製造することができる。また、NiやNi合金は、従来、放熱基板に半導体デバイスをハンダ付けするためのNi系メッキ処理にも広く用いられており、400℃に加熱してもフクレや剥離が生じないことが知られている。従って、接合金属層としてNi層(あるいはNi合金層)を用いると、ヒートサイクルテストにおいて問題が生じる心配もない。さらに、純Niは軟らかく線膨張係数が8.3ppm/k(Cuの線膨張係数とMoの線膨張係数の中間値)であることからCuとMoの間に生じる応力を緩和してこれらの剥離を抑制するという効果も得られる。他に、CuとMoの接合面に軟らかいNiを配置することで、仮にCuとMoの界面に亀裂や剥離が生じても、その急激な進行を抑制することができる。
次に、本発明に係る放熱基板の製造方法の一実施例の手順を説明する。ここでは、100mm四方、厚さ1.5mmの3層のCu/Mo/Cuハイブリッド構造の放熱基板を製造する一例を説明する。
(積層体)
まず、第1金属であるMoからなる110mm四方、厚さ0.5mm板状部材の、中央近傍の100mm四方の領域において複数の貫通孔(ビア)を形成した芯基材を準備する。そして、ビアの内壁及び板状部材に、インサート金属(第4金属)であるNiのメッキ処理を施す。次に110mm四方で内部に103mm四方の穴があいた厚さ0.5mmのSUSからなる枠状部材であるガイドを2枚準備する。更に、第3金属であるCuからなり、それぞれが100mm四方、厚さ0.51mmの板状部材の片面に、第2金属であるCuからなり、ビアの径より少し小さな径を有し高さが0.27mmである円柱状の凸部を設けた2枚の板状部材を準備する。
次に、第3金属からなる板状部材の外周にガイドを置き、第1金属からなる芯基材のビアの位置を凸部の位置と一致させ、各凸部にビアを差し込む。続いて、第1金属からなる芯基材のビアの上方から、第3金属からなる板状部材の片面に形成した凸部を挿入する。そして、芯基材の上部に位置する板状部材の外周にもガイドを置き積層体を作成する。板状部材の外周に配置するガイドとして、製造後の放熱基板の熱伝導層と同じ厚さ(ここでは0.5mm)のものを用いる。
そして、カーボン治具の下パンチを上まで上げ、その上に積層体を置く。続いて下パンチと積層体の上から上パンチをセットして積層体を固定する。
なお、芯基材の表裏面に配置したCu板状部材の厚さ(製造後の放熱基板における熱伝導層の厚さ)については、上記例で用いたSUSガイド板の厚さを適宜に変更することにより調整することができる。特に、5〜11層(Cu層とビアMo層の層数の合計)の多層のハイブリッド構造では内部のCu層(放熱基板の表裏面以外のCu層)の厚さのコントロールにガイドは有効である。また、多層クラッド構造の放熱基板を製造する際には、Cu板状部材の表裏面に凸部を設けることにより、上述した3層のクラッド構造の放熱基板と同じように凸部から挿入体を作製することができる。
(接合)
次に、積層体を固定したカーボン治具を、加熱加圧装置(ホットプレス(HP)装置、通電焼結装置、熱間等方圧加圧(HIP)装置、加熱加圧炉等)にセットし、非酸化雰囲気(例えば還元性ガス雰囲気、Ar、N2等の不活性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気。還元性ガスと不活性ガスの組み合わせでも良い。)で加熱及び加圧する。加熱及び加圧の条件は放熱基板の大きさや使用する各金属の種類によって異なるが、例えば、30MPa(0.3tf/cm2)から500MPa(5tf/cm2)の範囲の圧力をかけ、600℃からCuの融点(1083℃以下)未満の温度に加熱すればよい。Cuを軟化させ、かつ溶融させないという観点から、加熱温度は600℃から1000℃の範囲内とすることが好ましい。本実施例の積層体は、加熱及び加圧後の厚さが約1.5mmであり、ビアの内部に挿入されたCuとMoがインサート金属(Ni)を介して接合される。積層体の作製時の条件としては、接合後にCu層とビアMo層の接合界面から接合余剰物が出る状態とすることが好ましい。上記のとおり加熱及び加圧装置としては種々のものを用いることができる。ただし、放電プラズマ焼結(SPS)装置のように、局部のCuが溶融してMoとの界面にボイドが形成される可能性がある加熱加圧装置は使用しない、もしくは、局部熔融の起こらない条件に限定して使用する。
上記温度の範囲の最低値が従来の固相拡散接合における加熱温度より高いのは、ビアに挿入したCu挿入体、及び芯基材の表裏面に配置したCu板状部材を軟化させてビア内部に圧入するためである。また、上記圧力範囲の最低値を従来の固相拡散接合における圧力より高くしているのも、同様に、ビアに挿入したCu挿入体、及び芯基材の表裏面に配置したCu板状部材を軟化させてビア内部に圧入するためである。加熱加圧処理において、上記実施例の温度範囲外あるいは圧力範囲未満であるとビア内部でのCuとMoの界面の接合強度が安定しない可能性がある。圧力については上記範囲よりも高い圧力としても問題はないが、圧力を高めるには大型の装置を使用する必要があり、製造コストが高くなってしまう。
一般に、加熱及び加圧装置で上記のような積層体を処理する場合、積層体の表面に対しては大きな圧力がかかるが、それに垂直な方向(即ちビア内部のCuとMoの界面を押す方向)には圧力がかかりにくい。本実施例では、ビアの深さよりも高いCu挿入体を使用してビアに圧入したり、芯基材の表裏面に配置した板状部材のCuを圧入したりすることで、ビア内部にCu挿入体を押し込み、これによってビア内部のCuとMoの接合界面を押す方向にも圧力をかけている。
積層体が加熱加圧されるとCu同士やCuとMoの接合が開始される。また、これと並行して軟化したCuが塑性変形し界面の空隙がなくなっていく。しかし、積層体作製時にビア内部に導入するCu量が少ないと界面に空隙が残ったままで接合が完了する。この場合にはビア内にかかる圧力が低く不安定になるため十分な接合強度が得られない可能性がある。上記製造方法では、Cu挿入体、あるいはCu挿入体とCu板状部材からビア内に圧入するCuの量をビアの容積よりも多くして、つまり余剰量のCuをビア内部に導入することで該余剰量に相当する接合余剰物を生じさせるため、ビア内部でも高い接合強度で安定した放熱基板が出来る。Cuの厚さはガイド材を使用することで適宜に制御することができる。ガイド材としては、上述したSUS製のもののほか、SUSと同様に加熱加圧しても厚さが変化しにくい、Mo, W, In, Kvからなるものを好適に用いることもできる。接合余剰物を除去することによりCuMo系のハイブリッド構造で欠陥がなく、CuとMoの接合強度が高い、安定した放熱基板が得られる。
本実施例の製造方法では、CuMo系のハイブリッド構造の放熱基板を、CuとMoの界面にインサート金属であるNiを導入することによりCuとMoの接合性を高めている。また、Cuを軟化し固相の状態で圧入することにより、Cu内部にインサート金属が溶解して熱伝導率が低下することもない。これらにより、後述するように、線膨張係数が10ppm/K以下であり、ヒートサイクルテスト後でも厚さ方向において200W/m・K以上の熱伝導率を有する放熱基板が得られた。また、この放熱基板を半導体パッケージや半導体モジュールに実装したヒートサイクル試験においても、放熱基板の剥離や半導体デバイスの破損等の問題は生じなかった。
また、接合余剰物が生じる量のCuを圧入(即ちビアの容積以上の量のCuを圧入)することにより、ヒートサイクルテスト後の熱伝導率の低下を抑えた、信頼性の高い放熱基板を得ることができる。接合余剰物を生じさせることにより、ビアの容積以上の量のCuが圧入されていること、つまりビアの内部に空隙がない状態が形成されていることを確認することができるため、ビア112内部へのCuの導入量の過不足を外観から容易に判断することができる。従来、一般的には放熱基板の接合工程を外観の接合余剰物によって管理することはなかったが、例えば、多数の放熱基板を切り出すための大きく薄い放熱基板を製造する際には、接合余剰物を確認するための窓を設けることで全体の接合品質を管理することができる。
上記製造方法は、例えば5〜11層の多層ハイブリッド構造(Cu/ビアMo/Cu/ビアMo/…/Cu)の放熱基板の製造にも用いることができる。つまり、上記例で作製した積層体に代えて、Cu板状部材と、ビア内部にCu挿入体を充填したMo板状部材(芯基材)を適宜の枚数、交互に配置してカーボン治具にセットすることにより適宜の数の層を有する多層ハイブリッド構造の放熱基板を製造することができる。同一厚さの放熱基板を製造する場合には、積層数を多くするほど芯基材を薄く(つまりビアを浅く)することができるため、ビア内部にCuを圧入させやすくなる。上述したMo等は厚さが変化にくいため、放熱基板の表裏面、及び中間のCu層の厚さは、Mo等からなるガイドを用いることによりコントロールすることができる。製造する放熱基板のCu層の厚さの公差が大きく(許容される誤差の範囲が広く)余裕がある場合にはガイドを必ずしも用いなくてもよい。
次に、上記のようにして作製した放熱基板の特性やその信頼性の評価方法を説明する。
従来、実用化される放熱基板の各種特性は、複数の放熱基板の試験品を測定した結果の平均値で示されてきた。しかし、このような特性の提示方法では、ヒートサイクルテスト後の特性が不明であるため、該特性が所定の基準を下回る放熱基板が含まれることになり、半導体パッケージや半導体モジュールに実装したときの信頼性に問題が生じる可能性が高い。この点を考慮し、上記実施例の方法により複数の放熱基板を製造し、それらについて測定した特性の最低値(線膨張係数は最大値、熱伝導率及び電気伝導率は最小値)を評価の対象とした。
(線膨張係数)
放熱基板の線膨張係数は半導体モジュールの製造や性能を左右する重要な特性であり、半導体モジュールの目的に応じた性能や構造ごとに最適値が存在する。
従来、CuMo系のクラッド構造の放熱基板では、熱伝導率を高めるためにCu層を厚くしてきたが、Cu層が厚くなるとMo層やCuMo層によってCu表層の極表層での熱膨張を抑制することができなくなり、Cu表層(即ち放熱基板の表層)が大きく膨張して半導体デバイスが剥離する等の問題が生じていた。従来、製造後の放熱基板の接合余剰物を除去するために面取りが行われていたため、線膨張係数を正確に測定することも難しかった。
以下の説明では、室温(RT)から800℃の温度範囲での線膨張係数を評価するが、800℃での線膨張係数が10ppm/K以下であることが求められるのは半導体パッケージの製造時にセラミック基板を放熱基板に蝋付けする場合であり、セラミック基板を放熱基板に蝋付けする処理を行わない場合には、必ずしも800℃という高温において線膨張係数が低いという特性を満たす必要はない。半導体パッケージの製造時に半導体デバイスを放熱基板にハンダ付けする工程が含まれる場合には、該工程が行われる400℃で低い(例えば10ppm/K以下)の線膨張係数を有することが求められる。即ち、放熱基板の線膨張係数の評価では、想定される工程に応じて温度範囲の上限を800℃あるいは400℃とすればよい。一方、半導体デバイスの動作温度において適切な線膨張係数(即ち、放熱基板が取り付けられる各部材と同程度の線膨張係数)を有することは必須の要件である。
線膨張係数の測定は、後述する各条件で製造した放熱基板から、ワイヤー放電加工(WEDM)装置を用いて縦20mm×横10mm×厚さ1.5mmの試験片を切り出して行った。放熱基板の表層の線膨張係数を測定するため、切り出した試験片を接合余剰物の除去のみを行い、面取りはせず、線膨張係数測定装置(セイコーインスツル株式会社製)を用いてRT〜800℃の温度範囲で線膨張係数を測定し、その最大値を求めた。そして、5個の試験片について、表面に平行な一方向(X方向)と、該一方向に直交する方向(Y方向)の線膨張係数を測定し、それらの最大値を評価の対象とした。
(熱伝導率)
放熱基板は半導体デバイスの動作時に発生する熱を冷却するものであり、当然、熱伝導率が高いことが求められる。熱伝導率が低い場合は半導体デバイスを冷却することができず、半導体モジュールが破損、焼損する危険性がある。熱伝導率の基準としては、例えば、Cuの熱伝導率の値である400W/m・K、あるいはその半分の値である200W/m・Kが用いられている。
放熱基板は、その一方の表面に取り付けられた半導体デバイスの熱を該表面と反対側の面に取り付けられた冷却器に逃がす役割を担うことから、特に厚さ方向(Z軸方向)の熱伝導率が高いことが求められる。
そこで、各実施例の放熱基板から直径20mm×厚さ1.5mmの試験片を切り出し、室温でレーザーフラッシュ法による熱伝導率測定装置(アドバンス理工社製 FTC-RT)を用いZ軸方向の熱伝導率を3回測定した。また、各実施例の放熱基板をそのまま使用し、レーザーフラッシュ法の熱伝導率測定装置(アドバンス理工社製 TC-7000)を用いてX-Y面内の熱伝導率を3回測定した。そして、ヒートサイクルテスト前の最小値がZ軸方向で200W/m・K以上、X-Y面内で200W/m・K以上であり、かつ、ヒートサイクルテスト後のZ軸方向の熱伝導率の最小値が200W/m・K以下であることを評価の基準とした。
(電気伝導率)
放熱基板を電極としても機能させるには電気伝導率が高いことも求められる。上述のとおり、半導体モジュールの小型化に伴い半導体デバイスの寸法が小さくなり、さらに高性能化が進んでいることから、Alのリード線に代えて熱伝導率50%IACS以上であるAl合金が使われるようになっている。従って、放熱基板電極にも電気伝導率が50%IACSであることが求められる。また、主たる電路に発熱体のWやMoがあると通電が不安定になる場合があることから、放熱基板を電極としても機能させる場合には通電路にWやMoが存在しないことが好ましい。本実施例の放熱基板では芯基材としてMoを用いているが、主たる通電路は芯基材のビア内部に存在するCuであるため、通電が不安定になる心配はない。
電気伝導率は、各実施例の放熱基板からWEDMにより直径10mm×厚さ1.5mmの試験片を切り出し、その上下面に電流・電圧端子を溶接する四端子法の電気伝導率測定装置((株)ナプソン社製 RT70V)を用いて測定した。RTでの電気抵抗値を3回測定して、測定結果の最小値が、半導体デバイスで使用されるリード材料であるAl合金の電気伝導率(50%IACS)よりも高いことを評価の基準とした。なお、一般的な電気伝導率の測定方法として、渦電流をシグマテスタで測定する方法も知られているが、本実施例の放熱基板のように内部が複数の異なる構造体である場合の測定方法としては適さないと判断し、今回は四端子法を用いた。
(Niメッキ性評価)
CuW単体やCuMo単体の放熱基板自体では蝋付け特性やハンダ付けの特性が悪く、良好なNi系メッキ処理を施すことが難しい。Ni系メッキ処理に問題があると半導体パッケージや半導体モジュールのヒートサイクルテストで放熱基板が各種部材や半導体デバイスから剥離して実装動作テストを行うまでに至らない。一方、本実施例のようなCuMo系のハイブリッド構造の放熱基板ではその表層がCuであり、良好なNi系メッキ処理を施すことができるため、こうした問題は起こらない。
Ni系メッキ処理は、400℃に所定時間放置した後に、表面にフクレが生じないことを評価の基準とした。上記方法により製造した放熱基板からプレス機の打ち抜きや切断で試験片を切り出した、各実施例の放熱基板の表面にNi系メッキ処理を施した。これにより、後に半導体デバイスを取り付けて半導体パッケージや半導体モジュールを製造する際に行われる蝋付けやハンダ付けでボイド等の欠陥が生じる可能性を低減することができる。また、蝋付けやハンダ付けにより放熱基板のCuが侵食されるのを防止することもできる。
なお、放熱基板のNi系メッキ処理には、半導体モジュールのメーカーや半導体パッケージのメーカーの製造上のノウハウに基づく様々な手法がある。クラッド構造やハイブリッド構造の放熱基板の表層はCuであり単純なNiメッキ処理が可能である。また、Ni系メッキ処理に加え、その上にNi-PやNi-Bのメッキを行うという手法や熱処理を入れるという手法もある。さらに、ハンダ付の安定性を高めるためにAuメッキ処理を施す場合もある。
(放熱基板単体の接合強度や状態の評価)
本来、CuMo系のクラッド構造やハイブリッド構造の放熱基板では、CuとMoを接合しているため、放熱基板は開発時にヒートサイクルテスト前後の接合強度を測定する必要がある。しかし、ハイブリッド構造の放熱基板は、内部構造が複雑であるため超音波探傷でも内部の状態の合否を判断することができない。よって接合界面の調査はその断面について行うことになるが、これはあくまで一断面の状態の確認に過ぎない。
一般に、放熱基板は薄いため、ハイブリッド構造やクラッド構造の放熱基板の積層界面の接合強度の測定は困難である。特に、ハイブリッド構造の放熱基板の積層界面の接合強度を測定することは困難である。一般的な引っ張り強度の測定方法では測定治具(シャンク)の取り付け時にCuとMoの接合部を損傷する可能性がある。また、抗折力の測定についても試験片の作製が難しいため断念した。しかし、放熱基板単体のヒートサイクルテスト前後の熱伝導率を測定し、ヒートサイクルテスト後の厚さ方向の熱伝導率の変化(低下)の程度によって積層界面の接合強度を判断することが可能であることを見出した。このように、放熱基板単体のヒートサイクルテストによって、時間と費用が掛かる半導体パッケージや半導体モジュールのヒートサイクルテストを行う前にその合否を予測できる事は有意義である。
(半導体パッケージのヒートサイクル評価)
半導体パッケージは様々な目的で製造され、その構成も多種多様である。ここでは、代表的な半導体モジュールの構成として、20mm四方、厚さ1.5mmの放熱基板に5μmの厚さでNi系メッキ処理を施し、これに、外径が20mm四方、内径が15mm四方、厚さが0.5mmである、セラミックからなる枠状部材及び金属端子等の部材をAg蝋付け処理(Agの融点は780℃。800℃で蝋付け処理)により取り付けた。そして、250℃で動作する半導体デバイスを備えた半導体パッケージを想定して、作製した半導体パッケージを250℃に加熱して5分保持し、続いて-40℃まで冷却して5分保持する加熱冷却サイクルを100サイクル繰り返した後に、半導体パッケージに問題が生じてないかを目視で確認した。なお、半導体パッケージには、各種の部材を放熱基板にハンダ付けするもの、樹脂等からなる枠状部材などをインサートや接着剤で取り付けるものもある。また、プラスチックパッケージや金属パッケージ等も知られているが、セラミックパッケージのヒートサイクルテストが最も厳しく、これに合格する放熱基板であれば他の種類の半導体パッケージにおいても問題を生じないという知見がある。
(半導体モジュールのヒートサイクル評価)
半導体パッケージの放熱基板にAuメッキ処理を行い、さらにAuSiハンダ(融点380℃。400℃でハンダ付)で10mm四方、厚さ1.0mmのGaNのチップを取り付け、さらにリード線を取り付けた後、蓋をして半導体モジュールを作製した。作製した半導体モジュールを、250℃に加熱して5分保持し、続いて-40℃まで冷却して5分保持するという加熱冷却サイクルを100サイクル繰り返し、ヒートサイクルテスト後に蓋をはずし半導体モジュールに問題が生じていないかを目視で確認した。
(半導体モジュールの実装動作寿命テスト)
半導体モジュールを実用化するために、実装動作寿命テストが行われるが、このテストには費用と時間がかかる。このテストは半導体モジュールの動作の信頼性を担保するためのものであるため、先に行った放熱基板単体のヒートサイクルテストでZ軸方向の熱伝導率が最小値であった放熱基板材料でも、実装動作寿命テストに合格することを確認する必要がある。
半導体モジュールの動作寿命テストにおいても、半導体モジュールのヒートサイクルテストと同様に、半導体パッケージの放熱基板にAuメッキ処理を行い、さらにAuSiハンダ(融点380℃。400℃でハンダ付)で10mm四方、厚さ1.0mmのダミー発熱体であるGaNのチップを取り付け、さらにリード線を取り付けた後、蓋をして半導体モジュールを作製した。半導体モジュールの動作寿命テストでは、さらに、冷却器を取り付けた。そして、GaNのチップに通電し、250℃に加熱して5分保持し、続いて-40℃まで冷却して5分保持するという加熱冷却サイクルを100サイクル繰り返し、ヒートサイクルテスト後に蓋をはずし半導体モジュールに問題が生じていないかを目視で確認した。また、途中で熱破損が起こった場合には中止した。
なお、上述した、放熱基板単体、半導体パッケージ、及び半導体モジュールのヒートサイクルテストはいずれも破壊試験であり、テスト毎に別の試験片(放熱基板)を用いた。これらのヒートサイクルテストは放熱基板単体、半導体パッケージ、半導体モジュールの順に行い、先のヒートサイクルテストの結果を踏まえて次のテストで使用する試験片(放熱基板)を決定した。本例では、大判(100mm四方)の放熱基板の異なる位置で切り出した5枚の放熱基板単体を用いてヒートサイクルテストを行い、最も特性が低かった(熱伝導率が低かった)放熱基板の近傍位置で切り出した放熱基板を、次に行う半導体パッケージのヒートサイクルテストに使用した。半導体モジュールのヒートサイクルテストについても同様である。即ち、製造した大判の放熱基板の中で比較的特性が低い領域で切り出したものを用いて次のテストを行った。半導体モジュールの動作寿命テストでも、先に行った3種のヒートサイクルテストの結果を踏まえて、上記同様に使用する試験片(放熱基板)を決定した。このような厳しい条件でテストが行うことにより、テストに合格した放熱基板、及び該放熱基板を実装した半導体パッケージや半導体モジュールの信頼性が担保される。
あるいは、大判の放熱基板を多数作製しておき、放熱基板単体のヒートサイクルテストで最も特性が低かった放熱基板の切り出し位置と同一の箇所で別の大判の放熱基板から切り出した試験片(放熱基板)を、半導体パッケージのヒートサイクルテストと、半導体モジュールのヒートサイクルテスト及び動作寿命テストに用いてもよい。上記の枚数の放熱基板を用いて各テストを行う場合には、放熱基板単体のヒートサイクルテストに使用する5枚の放熱基板を切り出すための大判の放熱基板を1枚、さらに、それ以外のテストに使用する放熱基板を同一位置で切り出すための大判の放熱基板を9(=5+3+1)枚の、計10枚の大判の放熱基板を作製すればよい。
以下、上記の方法により3種類のCu/Mo/Cuハイブリッド構造又はCu/Mo/Cu/Mo/Cu多層(5層)ハイブリッド構造の放熱基板(実施例1〜3)を作製し、上記の方法により評価した結果を説明する。
実施例1及び2は3層のハイブリッド構造(図1(c))の放熱基板、実施例3は5層のハイブリッド構造(図1(d))の放熱基板であり、それぞれ5枚ずつ作製して線膨張係数と熱伝導率を測定した。実施例1及び3では、加熱及び加圧処理後に、放熱基板の外周の四辺のいずれにおいても接合余剰物が生じる量のCu挿入体及びCu板状部材を使用し(後掲の表では「全辺」と記載)、実施例3では放熱基板の外周の一部にのみ接合余剰物が生じる量のCu挿入体及びCu板状部材を使用した(後掲の表では「一部」と記載)。また、各実施例について5枚の放熱基板をそれぞれ半導体パッケージに実装して半導体パッケージのヒートサイクルテストを行った。さらに、各実施例について3枚の放熱基板を半導体モジュールに実装してヒートサイクルテストを行った。なお、実施例1〜3のCuの含有比は、上述した比較例と同じ、66vol%とした。
実施例1〜3の放熱基板の作製にあたり、まず、ハイブリッド構造体の積層体を準備した。第1金属(Mo)からなる110mm四方、厚さ0.5mm板状部材のうち、中央部の100mm四方の領域において、5mm四方の単位領域毎に3個ずつ、直径2.06mm(半径1.03mm)の貫通孔を形成した。即ち、板状部材の中央部の100mm四方の領域に、合計1,200個の貫通孔を形成した。前記100mm四方の領域において、板状部材の断面に占める貫通孔の割合は約40%である。
そして、ビアの内壁面及び板状部材の表裏面に、インサート金属である第4金属(Ni)のメッキ処理を3μm厚さで施した。次に、外径が110mm四方でありその内部に103mm四方の穴が形成された、厚さ0.5mmでSUS製の板状部材であるガイドを2枚準備した。更に、第3金属(Cu)からなる、100mm四方、厚さが0.53mmの2枚の板状部材の片面に、ビアの外径(φ2.06mm)よりも少し小さい、第2金属(Cu)からなる直径2.0mm、高さ0.27mmの凸部をエッチングにより形成した。
続いて、凸部を形成した側の面を上方に向けてCuの板状部材を載置し、その外周にガイドを置く。そして、それぞれの凸部の上方からMoの芯基材に形成されているビアを差し込む。さらに、Moの芯基材に形成されたビアに、上方からもう1枚のCu板状部材の片面に形成した凸部を差し込み、その外周にガイドを置いて積層体を作成する。
そして、各部材を接合するためカーボン治具の下パンチを上まで上げ、その上に積層体をセットし、下パンチを下げ、上パンチを入れた。次に、積層体を固定したカーボン治具を、HPの加熱加圧装置にセットし、真空雰囲気で100MPa(約1.0tf/cm2)の圧力をかけ、900℃に加熱した。その後30分間保持し、徐冷して100℃以下になった時点で取り出した。放熱基板の外周を確認して接合余剰物の状態を確認した。そして、厚さが設計値である1.5mmよりも厚い場合には研磨により1.5mm厚さに調整した。その後、所定の寸法にWEDMで切り出し加工し測定の試料とした。実施例1〜3の放熱基板を各5個ずつ作製して以下の評価を行った。
(評価)
実施例1〜3の放熱基板に関する特性評価の結果を、前述した比較例1〜5の特性評価の結果とともに下表に示す。なお、この表では、上述した本実施例の放熱基板の製造方法を「インサート金属加熱加圧接合法」と記載している。
以下、実施例1〜3の特性評価の結果を、上述した比較例1〜5の特性評価と比較しつつ考察する。
比較例1〜5と実施例1〜3の特性を測定した結果から分かるように、実施例1〜3では従来の放熱基板(比較例1〜5)に比べてヒートサイクルテスト後の厚さ方向(Z軸方向)の熱伝導率の低下が大幅に抑制されており、ヒートサイクルテスト後でも200W/m・K以上の熱伝導率を有している。
放熱基板単体のヒートサイクルテスト前後の熱伝導率の変化(低下の程度)から、接合強度の低下の程度が分かる。実施例1〜3の放熱基板では、ヒートサイクル前後の熱伝導率の低下が小さく、積層構造のCuとMoの界面、及びビア内部でのCuとMoの界面が強固に接合されていることが分かる。また、実施例1及び3のように加熱加圧工程で矩形状の放熱基板の四辺のいずれにおいても接合余剰物が生じるような余剰量を含むCu挿入体を用いると、余剰量が少ない実施例2に比べてヒートサイクルテストの前後での熱伝導率の低下がやや抑制された。
また、ヒートサイクルテスト後の放熱基板を切断し、ビア内部の様子を観察したところ、上述のとおり比較例1〜5ではいずれも内部にボイドが生じていたり、CuとMoの界面が剥離したりしていたが、実施例1〜3ではそのようなボイドや剥離は見られなかった。また、Ni系メッキ処理についてもフクレ等は見つからなかった。
さらに、半導体モジュールのヒートサイクルテストの結果から、ヒートサイクル中に生じる放熱基板の表面の凹凸による半導体デバイスの接合強度が低下を予測することでき、また、半導体モジュールの実装動作寿命テストの結果を予測することもできる。つまり、全ての試験片で問題が生じなかった実施例1〜3の放熱基板を用いると、半導体デバイスとの接合強度が低下する心配がなく、また高い動作信頼性を有する半導体モジュールを製造することができる。
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上述の通り、インサート金属を使用し、Cu層の厚さを制御するためのガイドを使用してCuの融点以下の温度に加熱及び加圧し接合余剰物を出す、放熱基板の製造方法は、上記実施例のように第1金属(芯基材)がMo、第3金属(熱伝導層)がCuであるもののほか、第1金属がCuMoであるCu/ビアCuMo/Cuのハイブリッド構造の放熱基板やCu/ビアCuMo/Cu/ビアCuMo/…/Cuである多層クラッド構造の放熱基板等にも用いることができる。また、上記実施例以外の放熱基板についても、放熱基板単体で上述の要件を満たし、電気伝導率が50%IACSであるものについては、放熱基板電極としても使用することができる。
Mo及びCuに対する濡れ性が良いNiをインサート金属としてMoとCuの界面に介在させるという上記の方法は、ビア内部のCuとMoの接合強度を高めるだけでなく、ビアMo層とその表裏面に位置するCu層の接合強度を高めるという点でも有効である。即ち、ハイブリッド構造の放熱基板に限らず、クラッド構造の放熱基板においても有効である。さらに、上記方法を使用して、ハイブリッド構造とクラッド構造を組み合わせた構造を有する放熱基板を製造することもできる。具体的には、表層部をハイブリッド構造として内部をクラッド構造としたり、逆に、表層部クラッド構造として内部をハイブリッド構造としたりすることができる。
また、使用可能な放熱基板の大きさは半導体モジュールの構成や経済的な制約によって制限されるため、絶縁を必要とする半導体デバイスに関しては、Z軸方向の熱伝導率が高い本実施例の放熱基板を半導体デバイスの一面に取り付けて冷却しても、縁樹脂シートの耐熱温度まで冷却することができない場合がある。こうした場合には、本実施例の放熱基板に大型のCu又はAlからなる冷却板をハンダ付けするとともに、これを半導体デバイスの二面(典型的には表裏両面)に取り付けて冷却することにより、半導体デバイスの熱を絶縁樹脂シートの耐熱温度まで冷却し、安価な樹脂シートで絶縁性を担保することができる。またコストダウントすることができる。
また、LEDでは、電極の構成が水平電極型から垂直電極型に移行しつつあるが、従来のCuWやMoの放熱電極では熱伝導率と電気伝導率が不足するという問題があり、高性能化に対応することができなかった。これに対し、大きな熱伝導率と電気伝導率を有する本実施例の放熱基板を使用することにより、LEDの高性能化に対応し、またコストダウンがすることができる。
上記の放熱基板を備えた半導体モジュールの用途はメモリ、IC、LSI、通信用、パワー半導体、センサ、LEDなど多種多様であり、将来的にはさらに広がることが想定されている。特にパワー半導体モジュールでは、放熱基板電極を半導体デバイスの上下もしくは一方に接合して用いると効率的に半導体デバイスを冷却することができ、また、通電断面積を大きくして大きな通電容量を確保することができる。さらに、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の半導体デバイスを両面冷却する構造の放熱基板電極に適している。