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JP6515281B2 - 冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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JP6515281B2 JP2015079101A JP2015079101A JP6515281B2 JP 6515281 B2 JP6515281 B2 JP 6515281B2 JP 2015079101 A JP2015079101 A JP 2015079101A JP 2015079101 A JP2015079101 A JP 2015079101A JP 6515281 B2 JP6515281 B2 JP 6515281B2
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Description

本発明は、冷延鋼板およびその製造方法に係り、特に、高い強度を有しながら加工性に優れる冷延鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境保護の観点から、省エネルギー化に寄与する鋼材の開発が求められている。自動車用鋼板および建築構造用鋼板等の分野においては、特に軽量な高強度鋼板の需要が高まっている。これらの分野で用いられる鋼板は、プレス成形等により加工され製品となることが多いため、強度特性だけでなく、優れた加工性が要求されている。
特許文献1には、フェライトを主相とするとともに、板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径および700℃における該平均結晶粒径の増加速度を調整することによって、溶接や溶融めっき工程の熱に耐えることができる熱的安定性と機械特性に優れた熱延鋼板及び冷延鋼板が得られることが開示されている。
特許文献2には、フェライトの方位をヤング率に有利な方位へ集積させ、かつ、オーステナイト粒を微細化することで、冷却時に生成するフェライトを微細化させ、TSが590MPa以上、YRが0.65以上で、かつヤング率が225GPa以上である剛性に優れた高強度薄鋼板が得られることが開示されている。
特許文献3には、低温変態相であるマルテンサイトおよびベイナイトの1種または2種を主相とする複合組織とするとともに、特定の集合組織の発達を抑制することによって、高強度でありながら、延性および伸びフランジ性にも優れている冷延鋼板が得られることが示されている。
また、特許文献4にはフェライトおよびセメンタイト相からなる組織を有し、セメンタイト相の平均粒径を制御した、高い伸び、伸びフランジ性を有する高強度高延性冷延鋼板が開示されている。
国際公開第2007/015541号 特開2007−92131号公報 国際公開第2013/125399号 特開2003−183775号公報
特許文献1に開示された方法によれば、素材である熱延鋼板の組織を微細化することによって、析出元素を多量に含有させずとも組織の微細化を図ることができ、優れた延性を有する冷延鋼板を製造することが可能である。得られた冷延鋼板は、その素材である熱延鋼板が微細な組織を有することから、冷間圧延および再結晶後の組織も微細なものとなり、そこから生じるオーステナイトも微細なものとなるため、微細な組織を有するものとなる。
しかし、フェライトの再結晶粒の成長によって、熱延鋼板に存在する粒界、微細な炭化物粒子および低温変態相といったオーステナイト変態の優先核生成サイトの大部分が焼鈍時の加熱中に消失してしまった後に、再結晶後の組織の粒界を核生成サイトとして、オーステナイト変態が生じる。
したがって、特許文献1に開示された方法により得られる冷延鋼板は、微細な組織を有するものの、焼鈍過程におけるオーステナイト粒の微細化は再結晶後の組織を前提とする点において制約を受けるため、熱延鋼板の持つ微細な組織を冷間圧延および焼鈍後の組織の微細化に十分に活用できているとは言い難い。特に、オーステナイト単相域で焼鈍を行う場合において、熱延鋼板の微細な組織を冷間圧延および焼鈍後の組織の微細化に活用することは難しい。
特許文献2に開示された方法では、熱間圧延後の巻き取りを高温で行っているため、セメンタイトの粒子径は微細になっていないものと考えられる。また、特許文献3に開示された方法は、未再結晶フェライトから微細なオーステナイトを変態させる方法であるが、オーステナイトの核生成を大きく左右する熱延鋼板の炭化物の状態について、十分に考慮されておらず検討の余地が残されている。
さらに、特許文献4に開示された製造方法では、熱延鋼板を冷間圧延前に焼鈍することを特徴としているが、このような焼鈍を行った場合、セメンタイトへMnなどの合金元素の濃縮が起こるため、焼鈍工程におけるセメンタイトの溶解に時間を要する。そのため、焼鈍中のオーステナイトの粒径が粗大化する。
以上のように、特許文献1〜4においては、熱延鋼板における炭化物の状態の制御方法、または、焼鈍の加熱過程での再結晶の制御方法のいずれかが十分ではなく、鋼板の延性を向上させる効果が十分に得られていない。このことから、鋼板の組織を微細化させるために適した初期組織制御と焼鈍の加熱方法との組み合わせを選択することで、加工性を改善する余地が残されている。
本発明は、高い強度と優れた加工性とを兼ね備えた冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、高い強度を有しながら、延性および伸びフランジ性に優れる冷延鋼板を得る方法について鋭意検討を重ねた。その結果、以下の知見を得るに至った。
(a)冷延鋼板の金属組織として、均質な硬度分布を得やすいベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトを主相とすることで、伸びフランジ性を向上させることができる。
(b)また、残留オーステナイトを含む第2相を含有させることで延性を向上させることが可能となる。そして、第2相を微細化させることで伸びフランジ性の低下を極力抑制する。
(c)さらに、冷延鋼板の金属組織を、結晶方位が互いに異なる残留オーステナイト同士が近い距離に存在するようにすることによって、鋼板の加工性を大幅に向上させることが可能となる。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の冷延鋼板およびその製造方法を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.05〜0.30%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.5〜3.5%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
sol.Al:0〜1.0%、
Ti:0〜0.050%、
Nb:0〜0.030%、
Cr:0〜1.0%、
Mo:0〜0.3%、
V:0〜0.3%、
B:0〜0.005%、
Ca:0〜0.003%、
REM:0〜0.003%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
面積率で、ベイナイトと焼き戻しマルテンサイトとを合計で50%以上、残留オーステナイトを3.0%以上含有し、
前記残留オーステナイトのうち、最近接距離が1μm以下の範囲に結晶方位が10°以上異なる別の残留オーステナイト粒が存在するものの割合が50%以上である金属組織を有する、冷延鋼板。
0≦Ti+Nb≦0.070 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
(2)前記金属組織が、面積率で、フェライトを5.0%以上含有し、かつ、該フェライトの平均結晶粒径が4.0μm以下である、上記(1)に記載の冷延鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、
sol.Al:0.1〜1.0%
を含有する、上記(1)または(2)に記載の冷延鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.005〜0.050%および
Nb:0.003〜0.030%
から選択される1種または2種を含有する、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の冷延鋼板。
(5)前記化学組成が、質量%で、
Cr:0.03〜1.0%、
Mo:0.01〜0.3%および
V:0.01〜0.3%
から選択される1種以上を含有する、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の冷延鋼板。
(6)前記化学組成が、質量%で、
B:0.0003〜0.005%
を含有する、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の冷延鋼板。
(7)前記化学組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.003%および
REM:0.0005〜0.003%
から選択される1種または2種を含有する、上記(1)から(6)までのいずれかに記載の冷延鋼板。
(8)鋼板表面にめっき層を有する、上記(1)から(7)までのいずれかに記載の冷延鋼板。
(9)上記(1)または(3)から(7)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼素材を、
圧延完了温度がAr3点以上であり、最終圧延における圧下率が20%以上である熱間圧延を施した後に冷却し、
その後、冷間圧延を施し、
続いて、500℃からAc1点+10℃の間の平均加熱速度が15℃/s以上となるように加熱し、Ac3点からAc3点+100℃の温度域で10s以上均熱保持する熱処理を施した後、
650℃から500℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となるように冷却し、500℃から300℃の温度域で10s以上保持する、冷延鋼板の製造方法。
(10)前記熱処理を施した後、650℃から500℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となるように冷却し、その後、Ms点以下で、かつ、Ms点−100℃を超える温度域で1s以上保持した後、Ms点を超え、かつ、300℃から500℃の温度域まで加熱し、その温度域で10s以上保持する、上記(9)に記載の冷延鋼板の製造方法。
(11)前記熱間圧延後の冷却において、750℃から550℃の温度域における滞留時間を15s未満とし、その後、550℃以下の温度で巻取りを行う、上記(9)または(10)に記載の冷延鋼板の製造方法。
(12)前記熱間圧延後の冷却において、熱間完了温度から750℃まで冷却するのに要する時間が0.4s以下である、上記(9)から(11)までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
(13)前記熱処理における均熱保持時間が30s未満である、上記(9)から(12)までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
(14)前記熱処理後の冷却途中において、鋼板表面にめっき処理を施す、上記(9)から(13)までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
本発明によれば、Ti、Nb等の析出元素を多量に含有させなくても、冷間圧延および焼鈍後の組織を効果的に微細化することが可能となり、延性および伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る冷延鋼板は、自動車用鋼板および建築構造用鋼板等として用いるのに好適である。
実施例における、互いに方位差が異なる残留オーステナイト粒間の最近接距離と残留オーステナイト粒の個数分率との関係を示した図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.05〜0.30%
Cは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。また、オーステナイト中に濃縮することによってオーステナイトを安定化させ、冷延鋼板中の残留オーステナイトの体積率を高め、延性を向上させる作用を有する。さらに、Cは変態点を低下させる作用を有し、その結果、熱間圧延工程においては熱間圧延がより低温域で完了し、熱延鋼板のミクロ組織を微細化させることが可能となる。焼鈍工程においては、Cによる昇温過程におけるフェライトの再結晶抑制作用と相俟って、急速加熱によってフェライトの未再結晶率が高い状態を保ったままAc1点+10℃以上の温度域に到達させることが容易となり、これにより、冷延鋼板の焼鈍中のオーステナイト粒を微細化させることが可能となる。
C含有量が0.05%未満では、上記の効果を得ることができなくなる。一方、C含有量が0.30%を超えると、冷延鋼板の加工性および溶接性の低下が著しくなる。したがって、C含有量は0.05〜0.30%とする。C含有量は0.08%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。また、C含有量は0.25%以下であるのが好ましい。
Si:0.5〜2.5%
Siは、本発明に係る冷延鋼板の主相をなすベイナイト、マルテンサイトおよび焼戻しマルテンサイトの生成を促進することによって、鋼を高強度化させる作用を有する元素である。さらには、残留オーステナイトの生成も促進し、鋼の延性を向上させる作用を有するため、本発明では一定量以上含有させる必要がある。Si含有量が0.5%未満では、上記の効果を得ることができない。一方、Si含有量が2.5%を超えると、延性の低下が著しくなるだけでなく、めっき性も損なわれる。したがって、Si含有量は0.5〜2.5%とする。Si含有量は0.8%以上であるのが好ましく、1.0%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は2.0%以下であるのが好ましい。
Mn:0.5〜3.5%
Mnは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。また、オーステナイト化温度を低下させる作用を有するので、焼鈍工程において均熱温度を低温化させることができ、粒成長が抑制されることによって組織を微細に保つことができる。これにより、冷延鋼板のミクロ組織を微細化することが可能となる。また、鋼の焼入れ性を向上させる作用があるため、焼鈍後の冷却において必要なベイナイト、マルテンサイトおよび焼戻しマルテンサイトの面積率を確保する効果もある。
Mn含有量が0.5%未満では上記の効果を得ることができない。一方、Mn含有量が3.5%を超えると、鋼が過度に高強度化され、延性が著しく損なわれる。したがって、Mn含有量は0.5〜3.5%とする。Mn含有量は1.0%以上であるのが好ましく、3.0%以下であるのが好ましい。
P:0.1%以下
Pは、不純物として含有され、粒界に偏析して材料を脆化させる元素である。P含有量が0.1%を超えると、上記作用による脆化が著しくなる。したがって、P含有量は0.1%以下とする。P含有量は0.06%以下であるのが好ましい。P含有量は低い程好ましいため下限は特に限定する必要はないが、コストの観点からは0.001%以上とすることが好ましい。
S:0.05%以下
Sは、不純物として含有され、鋼中に硫化物系介在物を形成して鋼の延性を低下させる元素である。S含有量が0.05%を超えると、上記作用による延性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.05%以下とする。S含有量は0.008%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。S含有量は低い程好ましいので下限を限定する必要はない。
sol.Al:0〜1.0%
Alは、延性を高める作用を有する元素である。したがって、必要に応じてAlを含有させても良い。しかし、Alは変態点を上昇させる作用を有するので、sol.Al含有量が1.0%を超えると、熱間圧延をより高温域で完了させざるを得なくなる。その結果、熱延鋼板の組織を微細化することが困難となり、そのため、冷延鋼板の組織を微細化することも困難となる。したがって、sol.Al含有量は1.0%以下とする。sol.Al含有量は0.7%以下であるのが好ましい。上記の効果を得たい場合は、sol.Al含有量を0.1%以上とすることが好ましく、0.2%以上とすることがより好ましい。
Ti:0〜0.050%
Nb:0〜0.030%
0≦Ti+Nb≦0.070 ・・・(i)
但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
TiおよびNbは、炭化物および/または窒化物として鋼中に析出し、焼鈍工程におけるオーステナイトの粒成長を抑制することによって、鋼の組織の微細化を促進させる作用を有する元素である。したがって、TiおよびNbの1種または2種を含有させても良い。
しかし、各元素の含有量が上記上限値を超える場合、または、上記(i)式を満足しない場合、延性の低下が著しくなる。したがって、各元素の含有量および合計含有量は上記の通りとする。Ti含有量は0.030%以下とすることが好ましく、Nb含有量は0.020%以下とすることが好ましい。また、TiおよびNbの合計含有量は、0.030%以下とすることが好ましい。上記の効果を得たい場合は、Ti:0.005%以上およびNb:0.003%以上から選択される1種または2種を含有させることが好ましい。
Cr:0〜1.0%、
Mo:0〜0.3%、
V:0〜0.3%、
Cr、MoおよびVは、いずれも鋼の強度を高める作用を有する元素である。また、Moは結晶粒の粒成長を抑制し、組織を細粒化する作用も有する。したがって、必要に応じて、Cr、MoおよびVから選択される1種以上を含有させても良い。
しかし、Cr含有量が1.0%を超えると、フェライト変態が過度に抑制されてしまい、目的とする組織を確保できない。また、MoおよびVの含有量が0.3%を超えると、熱間圧延工程の加熱段階において析出物が多量に生成し、延性を著しく低下させる。したがって、各元素の含有量は上記の通りとする。Mo含有量は0.25%以下とすることが好ましい。上記の効果を得たい場合は、Cr:0.03%以上、Mo:0.01%以上およびV:0.01%以上から選択される1種以上を含有させることが好ましい。なお、上記の元素のうちの2種以上を複合的に含有させる場合、その合計含有量を1.2%以下とすることが好ましい。
B:0〜0.005%
Bは、鋼の焼入れ性を高め、低温変態相の生成を促進させることによって、鋼の強度を高める作用を有する元素である。したがって、必要に応じて、Bを含有させても良い。しかし、B含有量が0.005%を超えると、鋼が過度に硬質化してしまい、延性の低下が著しくなる。したがって、B含有量は0.005%以下とする。上記の効果を得たい場合は、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
Ca:0〜0.003%
REM:0〜0.003%
CaおよびREMは、溶鋼の凝固過程において析出する酸化物および/または窒化物を微細化させて、鋳片の健全性を高める作用を有する元素である。したがって、必要に応じて、これらの元素の1種または2種を含有させても良い。しかし、いずれの元素も高価であるため、それぞれの元素の含有量は0.003%以下とする。上記の効果を得たい場合は、Ca:0.0005%以上およびREM:0.0005%以上から選択される1種または2種を含有させることが好ましい。なお、上記の元素の2種を複合的に含有させる場合、その合計含有量を0.005%以下とすることが好ましい。
ここで、REMとは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で含有されるのが一般的である。本発明におけるREMの含有量は、これらの元素の合計含有量を指す。
本発明の鋼板は、上記のCからREMまでの元素と、残部Feおよび不純物とからなる化学組成を有する。
ここで「不純物」とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
2.金属組織
本発明の鋼板は、面積率で、ベイナイトと焼戻しマルテンサイトとを合計で50%以上、残留オーステナイトを3.0%以上含有し、前記残留オーステナイトのうち、最近接距離が1μm以下の範囲に結晶方位が10°以上異なる別の残留オーステナイト粒が存在するものの割合が50%以上である金属組織を有する。
ベイナイトと焼戻しマルテンサイトとの合計面積率:50%以上
本発明に係る冷延鋼板の金属組織は、ベイナイトまたはベイナイトと焼戻しマルテンサイトとからなる混合組織を主相とする。ベイナイトと焼戻しマルテンサイトとの面積率を増加させ、ミクロ組織を均質なものとすることによって、鋼板を加工した際の微小なボイドの生成を抑制することができる。また、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトは比較的硬質な組織であるため、鋼板の強度を増加させる効果も有する。そのため、ベイナイトと焼戻しマルテンサイトとの合計面積率を50%以上とする必要があり、60%以上とするのが好ましい。
本発明に係る冷延鋼板に含まれるベイナイトは、焼鈍均熱からの冷却後の過時効処理中、または、Ms点以下の温度に冷却後、再加熱した際の過時効処理中に生成する。このベイナイトは、焼戻しマルテンサイトよりも硬度が低い組織であるが、一定の伸びは確保される。この組織を含むことで、良好な加工性を確保しつつ、高強度を得ることができる。上記の効果を得るために、主相としてミクロ組織中に含まれるベイナイトの面積率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、ベイナイト変態が進行する際、未変態のオーステナイトへ炭素が濃縮し、冷延鋼板の組織に残留オーステナイトを含ませることができ、これによって、冷延鋼板の伸びを向上させることができる。上記の効果は、鋼に前記した量のSiを含有させることで安定して得られる。
また、本発明に係る冷延鋼板に含まれる焼戻しマルテンサイトは、焼鈍後の冷却過程においてMs点以下で、かつ、Ms点−100℃を超える温度域まで冷却された際に生成したマルテンサイトが、その後に、Ms点を超え、かつ、300〜500℃の温度域まで再加熱され、保持されることによって焼戻された組織である。焼戻しマルテンサイトは、炭素がセメンタイトとして析出しているため、マルテンサイトに比べて軟質、かつ、ベイナイトに比べて硬質であるため、均質なミクロ組織を得つつ、鋼板の強度を高めることができる。さらに、熱処理中に一旦マルテンサイトが生成させることによって、再加熱後に起こるベイナイト変態を促進する効果が得られる。この結果、ベイナイト変態に伴い生成する残留オーステナイトへのCの濃縮が促進されるため、残留オーステナイトの安定性を増すことができる。この結果、鋼板の加工性、特に穴広げ性が向上する。主相としてミクロ組織中に含まれる焼戻しマルテンサイトの面積率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
残留オーステナイトの面積率:3.0%以上
本発明に係る冷延鋼板の金属組織は、第2相として、残留オーステナイトを含有する。残留オーステナイトは鋼板の伸びを向上させる作用を有するため、残留オーステナイト面積率を高めることにより、一層優れた伸びを確保することが可能となる。そのため、残留オーステナイト面積率を3.0%以上とする必要がある。残留オーステナイトの面積率は、5.0%以上であるのが好ましい。
最近接距離が1μm以下の範囲に結晶方位が異なる残留オーステナイト粒が存在する割合:50%以上
上述のように、冷延鋼板の金属組織中に、結晶方位が互いに異なる残留オーステナイト同士を局所的な領域に多数配置すると、鋼板を加工した際に、様々な方位の残留オーステナイト粒が加工誘起変態する。そして、それに伴い、ベイナイトおよびフェライトも様々な方向の圧縮を受けて変形するため、ミクロ組織の変形がより均一かつ等方的に進行し、局所的な変形が抑制され、ミクロ組織中のボイドおよび微小クラックが生じにくくなる。その結果、良好な加工性が得られるようになる。
一方、冷延鋼板に含まれる残留オーステナイトが広範囲で同一の結晶方位を有する場合、局所的に同一の方位の残留オーステナイトが多量に加工誘起変態するため、加工誘起変態に伴う歪の異方性が大きくなり、ミクロ組織の変形が不均一さを増す。この結果、局所的に歪および応力の集中が生じ早期の破断に至るため、良好な延性が得られなくなる。したがって、本発明では、残留オーステナイトのうち、最近接距離が1μm以下の範囲に結晶方位が10°以上異なる別の残留オーステナイト粒が存在するものの割合を50%以上とする必要がある。上記残留オーステナイト粒の割合は、55%以上であるのが好ましい。
平均結晶粒径が4.0μm以下のフェライトの面積率:5.0%以上
本発明に係る冷延鋼板の金属組織は、第2相として、微細なフェライトをさらに含有しても良い。フェライトは、鋼板の伸びを顕著に向上させる効果があり、さらにその組織を微細にすることによって、穴広げ加工時の微細なクラックの進展が抑制される効果も得られる。この結果、伸びを顕著に向上させつつ、穴広げ率の低下を小さく留め、鋼板に優れた伸びと穴広げ率とのバランスを付与することができる。そのため、平均結晶粒径が4.0μm以下の微細なフェライトを、面積率で、5.0%以上含有することが好ましい。
なお、金属組織には、パーライトおよび/またはセメンタイトが混入する場合があるが、これらの合計面積率が10%以下であれば許容される。
ベイナイト、焼戻しマルテンサイトおよびフェライトの面積率はSEM−EBSDを利用した組織解析により測定できる。また、主相に含まれる焼戻しマルテンサイトとベイナイトとの割合は、該当の鋼板を同じ焼鈍条件で熱処理し、焼鈍の冷却中の熱膨張を測定し、Ms点以下での膨張量と、Ms点を超えて500℃以下での膨張量との割合を求め、上述の合計面積率にそれぞれの割合を掛けることで求めることができる。さらに、残留オーステナイトの面積率は、X線回折法により求めた体積分率をそのまま面積率とする。残留オーステナイト同士の距離および方位差は、上記のSEM−EBSDの組織解析結果から結晶粒の方位と座標の情報を得ることによって求めることができる。
さらに、第2相として含有されるフェライトの平均結晶粒径は、SEM−EBSDを用いて、傾角15°以上の大角粒界で囲まれるフェライトを対象にその結晶粒径を求めることで得られる。SEM−EBSDとは、走査電子顕微鏡(SEM)の中で電子線後方散乱回折(EBSD)により微小領域の方位測定を行う方法である。得られた方位マップを解析することにより結晶粒径を算出することができる。なお、本発明におけるフェライトの平均結晶粒径は、下式により求めた円相当直径の平均値を意味する。但し、下式中のAiはi番目のフェライト粒の面積を表し、diはi番目のフェライト粒の円相当直径を表す。
Figure 0006515281
なお、本発明では、面積率および平均結晶粒径の値について、鋼板の板厚1/4深さにおける測定値を採用する。
3.めっき層
冷延鋼板の表面に耐食性の向上等を目的としてめっき層を設けて表面処理鋼板としても良い。めっき層は電気めっき層であっても良く溶融めっき層であっても良い。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。
めっき付着量は特に制限されず、従来と同様で良い。また、めっき表面に適当な化成処理皮膜を形成して(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥とにより)、耐食性をさらに高めることも可能である。さらに、有機樹脂皮膜で被覆することもできる。
4.製造方法
本発明に係る冷延鋼板の製造方法について特に制限はないが、例えば、上記の化学組成を有する鋼素材に対して、以下に示す熱間圧延を施した後に冷却して熱延鋼板を作製した後、冷間圧延を施し、さらに焼鈍等の熱処理を施すことにより製造することができる。以下では、熱処理を焼鈍として説明する。
4−1 熱間圧延および圧延後の冷却
本発明では、冷間圧延前の母材となる熱延鋼板の組織を微細化する。特に、オーステナイト粒界、ベイナイトおよびマルテンサイトのブロック境界、ならびにフェライトの粒界を多量に含む微細な組織とすることが好ましい。また、セメンタイトは粒界および境界上に存在することで、核生成サイトとして、より有効に機能するようになる。したがって、熱延鋼板の組織はセメンタイトが微細に分散した組織であることが好ましい。
このような微細組織の熱延鋼板は、以下に示す熱間圧延およびその後の冷却によって作製することができる。連続鋳造により、前述した化学組成を有するスラブを作製し、これを熱間圧延に供する。このとき、スラブは連続鋳造時の高温を維持したまま用いても良いし、一旦室温まで冷却した後、再加熱してから用いても良い。
熱間圧延に供するスラブの温度は1000℃以上とすることが好ましい。スラブの加熱温度が1000℃より低いと、圧延機に過大な負荷を与えるのに加え、圧延中にフェライト変態温度まで温度が低下し、組織中に変態したフェライトを含んだ状態で圧延してしまうおそれがある。このことから、加熱温度はオーステナイト温度域で熱間圧延が完了できるように、十分に高温とすることが好ましい。圧延中の温度低下が起こる場合には、粗圧延と仕上げ圧延との間で鋼板を再度加熱しても良い。
熱間圧延は、レバースミルまたはタンデムミルを用いて行う。工業生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いることが好ましい。圧延中は鋼板をオーステナイト温度域に維持する必要があるため、圧延完了温度はAr3点以上とすることが好ましい。
また、最終圧延の圧下量を大きくすることにより、オーステナイト組織はより微細なものとなる。そのため、熱間圧延において、最終圧延における圧下率を20%以上とするのが好ましく、25%以上とするのがより好ましい。このオーステナイトの粒界は、熱延鋼板を冷却した後のベイナイトおよびマルテンサイトの組織に旧オーステナイト粒界として残存するため、熱延板のミクロ組織において、より密に旧オーステナイト粒界を分布させることになる。この旧オーステナイト粒界は、焼鈍中の核生成サイトとなるため、焼鈍の加熱過程におけるオーステナイト核生成数を顕著に増加させることができる。
熱延鋼板の全体の圧下量も、被圧延材の温度がAr3点からAr3点+150℃の温度範囲にあるときの板厚減少率を40%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましい。圧延は1パスで行う必要はなく、連続した複数パスの圧延であっても良い。より多くの歪みエネルギーがオーステナイトへ導入され、フェライトまたはベイナイト等への変態駆動力を増大させることができ、熱延鋼板をより微細粒化することができる。しかし、圧延設備への負荷を増加させることにもなるため、1パスあたりの圧下量の上限は60%とすることが好ましい。
圧延終了後の冷却は、以下の方法により行うことが好ましい。熱間圧延後の冷却において、圧延終了後、熱間完了温度から750℃まで冷却するのに要する時間を0.4s以下とするのが好ましく、0.2s以下とするのがより好ましい。この冷却によって、750℃以下の温度まで冷却させることが好ましく、700℃以下の温度まで冷却させることがより好ましい。冷却方法は、水冷が望ましい。
冷却開始時における冷却速度は、400℃/s以上とするのが好ましく、600℃/s以上とするのがより好ましく、800℃/s以上とするのがさらに好ましい。以上のように熱間圧延後の冷却方法を規定する理由は、熱延鋼板の組織を微細なものとし、焼鈍における核生成サイトの密度を増加させるためである。熱間圧延後の冷却を速やかに行うことによって、オーステナイトに導入された歪みの回復および再結晶による消費を極力抑制して、鋼中に蓄積させた歪みエネルギーをオーステナイトからフェライトまたはベイナイトへの変態駆動力として最大限に利用することができる。圧延完了温度からの冷却開始時における冷却速度を400℃/s以上とする理由も、上記と同様に変態駆動力を増大させるためである。これにより、フェライト等への変態核生成の数を増加させ、熱延鋼板の組織を微細化することができる。このようにして製造される微細組織を有する熱延鋼板を素材とすることにより、冷延鋼板の組織をより一層微細化することができる。
圧延完了後、750℃から550℃の温度域における滞留時間は15s未満にすることが好ましく、10s未満にすることがより好ましい。これは、熱延鋼板のミクロ組織に粗大なパーライトが生成するのを抑制するためである。パーライトが多量に生成すると、焼鈍中の核生成数が減少する。パーライトの面積率は10%未満とするのが好ましく、5%未満とするのがより好ましい。上記の温度範囲で長時間滞留すると、パーライトまたはセメンタイトへ鋼の合金元素が拡散し、セメンタイト中のMn等の濃度が増加する。この結果、焼鈍におけるセメンタイトの溶解が抑制され、長時間の焼鈍保持を要するため、組織の微細化の弊害となってしまう。
組織制御に適した温度および滞留時間として、例えば、680℃から630℃まで6s程度放冷を行うことができる。これによって、熱延板の組織に微細なフェライトを導入することができる。
その後、鋼板の巻取温度まで冷却する。この時の冷却方法は水冷、ミスト冷却およびガス冷却(空冷を含む)から選んだ方法により任意の冷却速度で冷却を行うことができる。鋼板の巻取温度は、熱延鋼板のミクロ組織における結晶粒とセメンタイトの微細にするため、550℃以下とすることが好ましい。なお、巻取温度が300℃以下になると熱延鋼板の強度が増加し、冷間圧延が困難になる場合がある。この場合、冷間圧延前に650℃以下の温度で焼鈍を施しても良い。
以上の熱延工程により作製された熱延鋼板は、マルテンサイトまたはセメンタイト等の第2相が微細に分散した組織となる。このように、セメンタイト等の第2相が微細に分散した熱延鋼板に冷間圧延および焼鈍を施すことが好適である。なぜなら、これらの大角粒界上に存在するセメンタイトがオーステナイト変態の優先核生成サイトであるため、後述の急速加熱焼鈍によってこれらの位置から多数のオーステナイトおよび再結晶フェライトを生成させて組織の微細化を図ることが可能となるからである。
また、熱延鋼板のミクロ組織に、十分に多量の大角粒界が導入され、傾角15°以上の大角粒界で規定される平均粒径が6μm以下とすることで、上記の優先核生成サイトを一層増加させることができる。
熱延鋼板の組織は、第2相としてパーライトを含むフェライト組織、ベイナイトおよびマルテンサイトからなる組織、または、それらを焼戻した組織、および、それらの混合した組織とすることができる。
4−2 冷間圧延
上記の熱間圧延で作製した熱延鋼板を、酸洗した後、冷間圧延を施す。冷間圧延は通常の方法を用いて行えば良く、圧下率は通常20%以上である。冷間圧延率を高めると、組織中の粒界の密度が高まるため、焼鈍の加熱中の核生成数を増加することができる。
4−3 焼鈍
上記の冷間圧延で得られた鋼板に対して以下の焼鈍を施す。まず、鋼板を500℃からAc1点+10℃の間の平均加熱速度が15℃/s以上となるように加熱する。加熱を急速に行うことによって、加熱途中の再結晶が抑制され、未再結晶組織を残したままAc1点+10℃まで加熱することができる。これによって、熱延鋼板の旧オーステナイト粒界、パケット・ブロック境界、フェライトの粒界といった大角粒界上に存在するセメンタイトを主な核生成サイトとしてオーステナイトを多数核生成させることができる。500℃からAc1点+10℃の間の平均加熱速度が15℃/s未満では再結晶が起こり、熱延鋼板の粒界が消滅してしまうため、上記の効果が得られない。
オーステナイトの核生成数を増加させることによって、焼鈍中のオーステナイト粒を顕著に細粒化させることができ、その結果、冷延鋼板のミクロ組織において、10°以上の結晶方位差がある残留オーステナイト同士の最近接距離を縮めることができる。また、ミクロ組織中のフェライトおよび残留オーステナイトを微細化させることもできる。
加熱速度を高めると、未再結晶率が増加するだけでなく、逆変態の駆動力も高まるため、オーステナイトの核生成を増加させる上で好ましい。したがって、500℃からAc1点+10℃の間の平均加熱速度は、30℃/s以上とするのがより好ましく、100℃/s以上とするのがさらに好ましい。平均加熱速度の上限は特に設けないが、温度制御が困難になることを考慮して1000℃/s以下とするのが好ましい。
c1点+10℃に到達した時点におけるオーステナイト変態していない領域に占める未再結晶率が30%未満では、再結晶完了後にオーステナイト変態が進行した領域が大部分を占めるようになる。その結果、再結晶粒の粒界からオーステナイト変態が進行するため、焼鈍中のオーステナイト粒は粗大になり、最終組織も粗大化する。したがって、Ac1点+10℃に到達した時点におけるオーステナイト変態していない領域に占める未再結晶率は、30%以上となることが好ましい。
上記の急速加熱を開始する温度は再結晶開始前であれば十分な効果を発揮する。急速加熱の開始温度は、10℃/sの加熱速度下で測定した軟化開始温度(再結晶開始温度)Tsに対して、Ts−30℃以下とすることが好ましい。例えば、500℃程度から急速加熱を開始しても、十分な細粒化効果が得られる。また、室温から急速加熱を開始することによって、セメンタイトを微細に保ったままオーステナイト変態を起こすことができるため、組織の微細化により好ましい。
加熱方法は十分に急速な加熱速度を得るため、通電加熱、誘導加熱または直火加熱を用いることが好ましいが、本発明の要件を満たす限りラジアントチューブによる加熱も可能である。さらに、これらの加熱装置の適用により、鋼板の加熱時間が大幅に短縮され、焼鈍設備をよりコンパクトにすることが可能となり、生産性の向上および設備投資費の低減の効果も期待できる。また、既存の連続焼鈍ラインおよび溶融めっきラインに、急速加熱装置を増設して上記加熱を実施することも可能である。
c1点+10℃まで加熱した後、さらにAc3点からAc3点+100℃の焼鈍温度(均熱温度)まで加熱する。このときの加熱速度は任意の速度とすることができる。加熱速度を低くすることによって、十分な時間をとり、フェライトの再結晶を促進することができる。また、最初の一部だけを記急速加熱と同じ急速加熱とし、その後をより低い加熱速度とするといったように、加熱速度を変化させることもできる。
焼鈍工程においては、オーステナイトへの変態を十分に進行させて、加工フェライト組織を消滅させるとともに、鋼板中の炭化物を溶解させる。このため、焼鈍温度はAc3点以上とする必要がある。これより低い温度で焼鈍した場合には、焼鈍中にオーステナイト単相状態にならなかったり、フェライトの再結晶が起こらなかったりするため、加工フェライト組織が残留する。そうなると、冷延鋼板の集合組織において{100}<011>から{211}<011>の方位群の配向が強まり、鋼板の加工性が低下する。一方、Ac3点+100℃を超える温度で焼鈍すると、オーステナイト粒の急激な粒成長が生じ、最終組織が粗粒化する。そのため、焼鈍温度はAc3点からAc3点+100℃の温度域とすることが好ましい。組織微細化のためには、焼鈍温度はAc3点+50℃以下とすることがより好ましい。
また、焼鈍の均熱保持時間は、10s以上とすることが好ましい。均熱保持時間が10s未満であると、パーライトまたはセメンタイトの溶解およびオーステナイトへの変態が十分に進行しないため、冷延鋼板の加工性が低下してしまう。また、焼鈍保持中の温度むらが生じ易く製造安定性に問題を生じる。したがって、焼鈍保持時間は10s以上とし、十分にオーステナイトへの変態を進行させることが好ましい。一方、過度に長時間の保持を行った場合、オーステナイト粒の成長により本発明が規定する残留オーステナイトの分散状態の条件を満足することができないおそれがある。そのため、均熱保持時間は10min未満とすることが好ましい。また、均熱保持時間は、短時間とするほど結晶方位が互いに異なる残留オーステナイトを近接して存在させることができる。したがって、均熱保持時間は30s未満とすることがより好ましい。
均熱保持後は、650℃から500℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となるように冷却するのが好ましい。上記温度域における平均冷却速度を10℃/s以上とすることによって、冷延鋼板組織における低温変態相の面積率を増加させることができる。一方、上記温度域における平均冷却速度が10℃/s未満の場合、冷却中にフェライトが多量に生成し、伸びフランジ性を劣化させる。
上記の冷却過程において、500℃から300℃の温度域で冷却を停止し、その温度域で過時効処理を行うことができる。過時効処理では、均熱保持温度および保持時間等の制御により、冷延鋼板中に適切な面積率のベイナイトを生成させるとともに、未変態オーステナイトへのCの濃縮を促進することによって、残留オーステナイトを生成させる。このため、500℃から300℃までの温度域で10s以上保持することが好ましい。より好ましい熱処理条件は、温度が350℃から450℃の範囲内であって、保持時間が100sから600sの範囲内である。
上記の冷却後においては、Ms点以下で、かつ、Ms点−100℃を超える温度域で冷却を停止した後、再加熱によりMs点を超え、かつ、300℃から500℃の温度域へ昇温し、その温度域で過時効処理を行うことがより好ましい。
過時効処理の前に、冷却停止温度をMs点以下で、かつ、Ms点−100℃を超える温度とし、ミクロ組織の一部をマルテンサイトに変態させた後、Ms点を超え、かつ、300℃から500℃の温度域まで再加熱することによって、冷延鋼板の組織を、焼戻しマルテンサイトを含む組織とすることができる。
冷却停止温度がMs点−100℃以下となると、最終組織におけるベイナイトおよび残留オーステナイトの面積率が過度に減少してしまい、良好な加工性が得られなくなる。なお、上記冷却の停止温度は、Ms点以下で、かつ、Ms点−80℃を超える温度とすることがより好ましい。また、再加熱温度が500℃を超えると、未変態のオーステナイトが炭化物に分解するため、良好な加工性を得ることができないおそれがある。
なお、上記の過時効処理、または、再加熱後の過時効処理を行った後は、そのまま放冷または水冷等の方法で常温まで冷却し、その後さらに、例えば、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきのような、溶融めっき処理を行うことができる。また、上記の再加熱と保持に連続して、上記の溶融めっき処理を行うこともできる。
冷却速度が過度に低く、または、高温長時間の均熱保持を行うと、所望の組織分率が得られなくなるだけでなく、残留オーステナイトが炭化物へ変態すること等により、鋼板の加工性を劣化させる原因となる。このため、冷却途中の500℃から300℃の温度域における保持時間(めっきおよび/または過時効を含む。)は、2000s未満とすることが望ましい。冷却方法は任意の方法で行うことができるが、例えばガス、ミスト、水による冷却が可能である。
なお、本発明において、Ar3点は、真空誘導炉で溶製した鋼塊を直径8mm、高さ12mmの円柱試料に加工し、これを900℃まで加熱した後、2℃/sで冷却し、その間の熱膨張測定結果から求める。また、Ac1点およびAc3点は、冷間圧延を行った鋼板を、2℃/sの加熱速度で1100℃まで昇温した時に測定した熱膨張曲線から求める。さらに、Ac1点+10℃に到達した時点でのフェライトにおけるオーステナイト変態していない領域に占める未再結晶率は、冷間圧延までを行った鋼板をAc1点+10℃まで昇温した後、直ちに水冷し、その組織をSEMにより撮影し、組織写真上で再結晶組織と加工組織の分率を測定することにより、求めることができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼種A〜Hの鋼塊を真空誘導炉で溶製し、熱間鍛造した後、熱間圧延に供するため、スラブ状の鋼片に切断した。得られた各スラブを1000℃以上の温度で約1h加熱した後、試験用小型ミルを用いて、表2に示す熱間圧延完了温度と最終圧延圧下率で熱間圧延を行った。圧延完了後、表2に示す条件で、板厚2.0〜2.6mmの熱延鋼板を作製した。鋼種A〜HのAr3点も表2に併せて示す。
Figure 0006515281
Figure 0006515281
圧延完了直後、または、圧延完了温度(FT)で所定時間放冷した後、水冷による冷却を実施した。水冷による冷却は2回に分けて実施し、1回目の冷却により750℃以下まで冷却した後、3〜15sの放冷を行い、2回目の冷却として、30〜100℃/sの冷却速度で水冷を行い巻取温度まで冷却した。表2に、1回目の冷却の冷却速度と750℃まで冷却するのに要した時間、750℃から550℃の温度域における滞留時間および巻取温度を示す。巻取りは鋼板を炉に入れ、巻取りを模擬した徐冷を施すことで実施した。
以上の熱間圧延によって得た熱延鋼板の平均結晶粒径を表2に併せて示す。熱延鋼板の結晶粒径の測定は、鋼板の板厚1/4深さ位置における圧延方向断面の組織をSEM−EBSD装置(日本電子株式会社製、JSM−7001F)を用いて、フェライト、マルテンサイト、ベイナイトからなるBCC相について、傾角15°以上の大角粒界からなる粒径を解析して求めた。
このようにして得られた熱延鋼板に対して、塩酸で酸洗した後、表3に示す圧下率での冷間圧延を施して、鋼板の板厚を1.0〜1.3mmとした。その後、実験室規模の焼鈍設備を利用して、表3に示す平均加熱速度で室温から750℃の温度範囲を加熱し、その後、表3に示す焼鈍温度(均熱温度)および均熱保持時間で焼鈍を行い、650℃から500℃の温度域を表3に示す平均冷却速度で冷却して、冷延鋼板を得た。均熱後の冷却は窒素ガスにより行った。鋼種A〜HのAc1点およびAc3点も表3に併せて示す。
Figure 0006515281
さらに、表3のめっき処理無しの鋼板には、冷却過程において、表3に示す条件で過時効処理を行った。さらに、めっき処理有りの鋼板には、400℃で60s保持後、460℃まで加熱して溶融亜鉛めっき浴浸漬を模擬し、さらに500℃まで加熱して合金化処理を模擬する熱処理を施した。これらの過時効処理、またはめっき処理の後、常温まで冷却して冷延鋼板、または溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
こうして製造された冷延鋼板の金属組織および機械特性を次のように調べた。
ベイナイト、焼戻しマルテンサイトおよびフェライトの面積率は、上述のSEM−EBSD装置を用いて、鋼板の板厚1/4深さにおける圧延方向断面組織おける組織解析により求めた。なお、本実施例においては、焼きなまし後の冷却停止温度が高いため、焼戻しマルテンサイトは全ての鋼板において組織中には含まれない。また、残留オーステナイト相の体積率をX線回折法により求め、これを残留オーステナイト(残留γ)の面積率とした。フェライトの粒径は、上述の熱延鋼板の場合と同様に、冷延鋼板の幅方向からの断面の組織をSEM−EBSD装置(日本電子株式会社製、JSM−7001F)を用いて、傾角15°以上の大角粒界で規定される平均結晶粒径として求めた。
さらに、10°以上結晶方位の異なる残留オーステナイトの最近接距離は、上記のSEM−EBSDの解析結果から、オーステナイトの結晶粒のオイラー角と位置座標を得て、それを計算処理することにより求めた。本測定では、約0.13μm以上の残留オーステナイトを対象とし、1つのミクロ組織を解析するにあたり、2000個以上の残留オーステナイトを測定対象とした。
なお、残留オーステナイト相を含む組織のEBSD解析においては、試料の表面状態の影響を受けやすいため、本実施例では、解析精度の指標としてEBSD解析により得られる残留オーステナイトの面積率(γEBSD)が、後述のX線回折により得られる残留オーステナイトの体積率(γXRD)に対して、(γEBSD/γXRD)>0.7を満たすことを評価の前提とした。
焼鈍後の冷延鋼板の機械特性は、引張試験と穴広げ試験とにより調査した。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いて行い、引張強度(TS)および破断伸び(全伸び、El)を求めた。穴広げ試験は、JIS Z 2256(2010)に準じて行い、穴広げ率λ(%)を求めた。強度および延性のバランスの指標としてTS×Elの値を用い、強度および延びフランジ性のバランスの指標としてTS×λの値を用いた。これらの結果について、それぞれ表4に示す。なお、本発明においては、TS×ElとTS×λのバランスが下記(ii)式を満たすものを、強度および加工性が良好であると判断した。(ii)式の右辺の値は196000であることがより好ましい。
6.2×TS×El+TS×λ>190000 ・・・(ii)
Figure 0006515281
鋼種Aを用いて製造した試験番号1〜11のうち、比較例である試験番号3は焼鈍時の加熱速度が低く、試験番号4は熱延後の750〜550℃の滞留時間が長く、試験番号6は熱延の最終圧下率が20%に達さず、また、試験番号10は750〜550℃の滞留時間が過度に長いとともに、巻取温度が600℃を超えており、それぞれ製造条件が不適切であった。そのことに起因して、熱延鋼板の組織が粗大となり、その結果、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなった。さらに試験番号5は、焼鈍の均熱温度がAc3点よりも低く、試験番号9は焼鈍後の冷却速度が低かった。そのため、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなるだけでなく、ベイナイト面積率が低くなるとともに、フェライトの粒径が粗大化した。また、試験番号5は、加工状態のフェライトが焼鈍後も残存した。この結果、機械特性が不十分となった。
一方、本発明例である試験番号1、2、7、8および11は、製造条件が適切であったため、金属組織が本発明の規定を満足し、強度および加工性に優れる結果となった。そのなかでも、試験番号2は焼鈍における均熱保持時間を30s以下としており、また、試験番号7および8は、熱間圧延における圧下率を33%とし、冷却を急速に行うとともに焼鈍における均熱保持時間を30s以下としており、さらに、試験番号11は、熱間圧延における圧下率を40%とし、冷却を急速に行ったため、試験番号1と比べ、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が高く、より良好な機械特性を発揮した。
なお、10°以上結晶方位の異なる残留オーステナイト同士の最近接距離を計算した結果の一例として、本発明例である試験番号2と比較例である試験番号3との結果を図1に示す。図1の縦軸は残留オーステナイトの個数分率を示している。図1から、試験番号2では、最近接距離が1μm以下の残留オーステナイト粒が多く、その割合は50%を超えており、一方、試験番号3では、最近接距離が1μmを超える残留オーステナイトの割合が多いことが分かる。このように、本発明例である鋼板の金属組織では、10°以上の方位差を持つ残留オーステナイトが近接して存在しており、これがミクロ組織における変形を均一なものとし、鋼板の加工性を向上させる。
他の鋼種の結果においても同様に、比較例である試験番号16は焼鈍の均熱温度が高く、試験番号19、33、36および38は焼鈍時の加熱速度が低く、試験番号22は熱延後の750〜550℃の滞留時間が過度に長いとともに、巻取温度が600℃を超えており、試験番号23および27は熱延の最終圧下率が20%に達さず、さらに、試験番号26および29は熱延後の750〜550℃の滞留時間が長く、それぞれ製造条件が不適切であった。その結果、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなり、機械特性が不十分となった。
また、試験番号39および40は、Si含有量が低く、試験番号41はCおよびSi含有量が低いため、ベイナイトの面積率が低いとともに、残留オーステナイトがほとんど生成しなかったため、延性が著しく劣る結果となった。
これらに対して、本発明例である試験番号12〜15、17、18、20、21、24、25、28、30〜32、34、35および37は、化学組成および金属組織が本発明の規定を満足しているため、強度および加工性に優れる結果となった。
表5に示す化学組成を有する鋼種K〜Sの鋼塊を真空誘導炉で溶製し、熱間鍛造した後、熱間圧延に供するため、スラブ状の鋼片に切断した。得られた各スラブを、実施例1における方法と同様に、表6に示す条件で熱間圧延と冷却を行い、板厚2.0〜2.6mmの熱延鋼板を作製した。鋼種K〜SのAr3点も表6に併せて示す。
Figure 0006515281
Figure 0006515281
以上の熱間圧延によって得た熱延鋼板の平均結晶粒径を表6に併せて示す。熱延鋼板の結晶粒径の測定は、実施例1に記載の方法と同様に行った。
このようにして得られた熱延鋼板に対して、塩酸で酸洗した後、表7に示す圧下率での冷間圧延を施して、鋼板の板厚を1.0〜1.3mmとした。その後、実験室規模の焼鈍設備を利用して、表7に示す平均加熱速度、均熱温度(焼鈍温度)、均熱時間(保持時間)で焼鈍した後、表7に記載の「平均冷却速度」で同表に「冷却停止温度」と記載した温度まで冷却した。さらに表7のめっき処理無しの鋼板には、該冷却停止温度から再加熱して400℃へ昇温させ、その温度で、330sの均熱保持を行う過時効処理を行った。めっき処理有りの鋼板には、該冷却停止温度から再加熱して、400℃へ昇温させ、その温度で60s保持後、460℃まで加熱して溶融亜鉛めっき浴浸漬を模擬し、さらに500℃まで加熱して合金化処理を模擬する熱処理を施した。その後、めっき処理無しの鋼板、および、めっき処理有りの鋼板を、2℃/sの平均冷却速度で常温まで冷却して、冷延鋼板を得た。均熱後の冷却は窒素ガスにより行った。鋼種K〜SのAc1点、Ac3点およびMs点も表7に併せて示す。
Figure 0006515281
なお、Ms点は、焼鈍温度や冷却中に生成したフェライトの生成量等によって異なる値をとる。このため、表7には、冷間圧延を行った鋼板を所定の焼鈍温度から冷却した時に測定した熱膨張曲線から求めたMs点を記載した。
こうして製造された冷延鋼板の金属組織において、ベイナイト、焼戻しマルテンサイトおよびフェライトの面積率を、上述のSEM−EBSD装置を用いて、鋼板の板厚1/4深さにおける圧延方向断面組織おける組織解析により求めた。さらに、主相であるベイナイトと焼戻しマルテンサイトとの割合は、該当の鋼板を同じ焼鈍条件で熱処理し、焼鈍の冷却中の熱膨張を測定し、Ms点以下での膨張量と、Ms点を超えて500℃以下での膨張量との割合を求め、上述の合計面積率にそれぞれの割合を掛けることで求めた。また、残留オーステナイト相の面積率、および、フェライトの粒径、10°以上結晶方位の異なる残留オーステナイトの最近接距離は、上述の実施例1と同様の方法で求めた。
また、冷延鋼板の機械特性についても、実施例1と同様の方法で求めた。
機械特性の調査結果を表8に示す。なお、本発明においては、実施例1と同様に、TS×ElとTS×λのバランスが下記(ii)式を満たすものを、強度および加工性が良好であると判断した。(ii)式の右辺の値は196000であることがより好ましい。
6.2×TS×El+TS×λ>190000 ・・・(ii)
Figure 0006515281
鋼種Kを用いて製造した試験番号42〜49のうち、比較例である試験番号44は焼鈍時の加熱速度が低く、試験番号45は熱延後の750〜550℃の滞留時間が過度に長いとともに、巻取温度が600℃を超え、それぞれ製造条件が不適切であった。そのことに起因して、冷延鋼板の組織が粗大なものとなり、その結果、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなった。試験番号48は焼鈍の均熱後の冷却停止温度がMs点−100℃より低かったため、焼戻しマルテンサイトの面積率が増加したことによって、残留オーステナイト面積率が低くなった。また、試験番号49は焼鈍の均熱後の500〜650℃間の冷却速度が低かった。そのため、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなるだけでなく、ベイナイトと焼戻しマルテンサイトの合計の面積率が低くなるとともに、フェライトの粒径が粗大化した。この結果、機械特性が不十分となった。
一方、本発明例である試験番号42、43、46、47は、製造条件が適切であったため、金属組織が本発明の規定を満足し、かつ、ミクロ組織に適量の焼戻しマルテンサイトが含まれたため、強度と加工性、特に穴広げ性とに優れる機械特性が得られた。そのなかでも、熱間圧延後の冷却を急速に行った試験番号43、および、熱間圧延における圧下率を33%以上として急冷を行い、焼鈍において保持温度を30s以下とした試験番号46は、試験番号42と比べ、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が高く、より良好な機械特性を発揮した。
他の鋼種の結果においても同様に、比較例である試験番号52および60は焼鈍時の加熱速度が低く、試験番号62は焼鈍の均熱温度が高く、試験番号66は熱延後の750〜550℃の滞留時間が過度に長いとともに、巻取温度が600℃を超えており、さらに、それぞれ製造条件が不適切であった。その結果、結晶方位の異なる残留オーステナイト粒の最近接距離が小さいものの割合が低くなり、機械特性が不十分となった。また、試験番号53は、焼鈍の均熱温度がAc3点よりも低く、焼鈍後もミクロ組織に加工フェライト組織が残存したため、機械特性が劣る結果となった。
また、試験番号67および68は、Si含有量が低く、試験番号69はC含有量が低いため、ベイナイトと焼戻しマルテンサイトとの合計面積率が低いとともに、残留オーステナイトがほとんど生成しなかったため、強度と延性とのバランスが劣る結果となった。
これらに対して、本発明例である試験番号50、51、54〜59、61および63〜65は、化学組成および金属組織が本発明の規定を満足しているため、強度および加工性に優れる結果となった。
本発明によれば、Ti、Nb等の析出元素を多量に含有させなくても、冷間圧延および焼鈍後の組織を効果的に微細化することが可能となり、延性および伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る冷延鋼板は、自動車用鋼板および建築構造用鋼板等として用いるのに好適である。

Claims (13)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.05〜0.30%、
    Si:0.5〜2.5%、
    Mn:0.5〜3.5%、
    P:0.1%以下、
    S:0.05%以下、
    sol.Al:0〜1.0%、
    Ti:0〜0.050%、
    Nb:0〜0.030%、
    Cr:0〜1.0%、
    Mo:0〜0.3%、
    V:0〜0.3%、
    B:0〜0.005%、
    Ca:0〜0.003%、
    REM:0〜0.003%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式を満足し、
    面積率で、ベイナイトを20%以上と焼き戻しマルテンサイトを10%以上とを含有し、かつ合計で50%以上であり、残留オーステナイトを3.0%以上含有し、フェライトを5.0%以上24%以下含有し、残部が合計で10%以下のパーライトおよび/またはセメンタイトであり、
    フェライトの平均結晶粒径が4.0μm以下であり、
    前記残留オーステナイトのうち、最近接距離が1μm以下の範囲に結晶方位が10°以上異なる別の残留オーステナイト粒が存在するものの割合が50%以上である金属組織を有する、冷延鋼板。
    0≦Ti+Nb≦0.070 ・・・(i)
    但し、式中の各元素記号は、鋼板中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    sol.Al:0.1〜1.0%
    を含有する、請求項1に記載の冷延鋼板。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Ti:0.005〜0.050%および
    Nb:0.003〜0.030%
    から選択される1種または2種を含有する、請求項1または請求項2に記載の冷延鋼板。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Cr:0.03〜1.0%、
    Mo:0.01〜0.3%および
    V:0.01〜0.3%
    から選択される1種以上を含有する、請求項1から請求項までのいずれかに記載の冷延鋼板。
  5. 前記化学組成が、質量%で、
    B:0.0003〜0.005%
    を含有する、請求項1から請求項までのいずれかに記載の冷延鋼板。
  6. 前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.003%および
    REM:0.0005〜0.003%
    から選択される1種または2種を含有する、請求項1から請求項までのいずれかに記載の冷延鋼板。
  7. 鋼板表面にめっき層を有する、請求項1から請求項までのいずれかに記載の冷延鋼板。
  8. 請求項1から請求項7までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法であって、
    請求項1から請求項までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼素材を、
    圧延完了温度がAr3点以上であり、最終圧延における圧下率が20%以上である熱間圧延を施した後に冷却し、
    その後、冷間圧延を施し、
    続いて、500℃からAc1点+10℃の間の平均加熱速度が15℃/s以上となるように加熱し、Ac3点からAc3点+100℃の温度域で10s以上均熱保持する熱処理を施した後、
    650℃から500℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となるように冷却し、500℃から300℃の温度域で10s以上保持する、冷延鋼板の製造方法。
  9. 前記熱処理を施した後、650℃から500℃の間の平均冷却速度が10℃/s以上となるように冷却し、その後、Ms点以下で、かつ、Ms点−100℃を超える温度域で1s以上保持した後、Ms点を超え、かつ、300℃から500℃の温度域まで加熱し、その温度域で10s以上保持する、請求項に記載の冷延鋼板の製造方法。
  10. 前記熱間圧延後の冷却において、750℃から550℃の温度域における滞留時間を15s未満とし、その後、550℃以下の温度で巻取りを行う、請求項または請求項に記載の冷延鋼板の製造方法。
  11. 前記熱間圧延後の冷却において、熱間完了温度から750℃まで冷却するのに要する時間が0.4s以下である、請求項から請求項10までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
  12. 前記熱処理における均熱保持時間が30s未満である、請求項から請求項11までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
  13. 前記熱処理後の冷却途中において、鋼板表面にめっき処理を施す、請求項から請求項12までのいずれかに記載の冷延鋼板の製造方法。
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