以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両の制御装置が適用された車両1の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る車両1は、一対の前輪12Fと、一対の後輪12Rと、駆動源としてのエンジン14と、エンジン14の駆動力を前輪12Fに伝達するためのトランスミッション16と、トランスミッション16からの駆動力を車軸18を介して前輪12Fに伝達する前輪用デフ20と、一対の後輪12Rを繋ぐ車軸24と、前輪12Fの輪速を検出する車輪速センサ43と、車両1を制御するコントローラ100とを備えている。車輪速センサ43によって検出される前輪12Fの輪速は、コントローラ100に入力される。
更に、車両1は、乗員が車両1を操舵する際に回転させるステアリング40と、ステアリング40の操舵角度を検出する操舵角センサ41とを備える。操舵角センサ41によって検出された操舵角はコントローラ100に入力される。
図2は、本発明の実施の形態1に係る車両1の制御装置10の電気的構成を示すブロック図である。制御装置10は、図1に示す操舵角センサ41、車輪速センサ43、及びコントローラ100の他、アクセル開度センサ42、スロットル弁44、点火プラグ45、可変動弁機構46、及び燃料噴射装置47を備える。また、車両1は、車両1の走行空気抵抗(cd値)を状態に応じて変化させる車両装備である、グリルシャッター48、ルーフ装置49、ウインドウ50、及びスポイラー51を備える。
図3は、車両装備の外観の一例を示す図である。図3(A)は、ルーフ装置49及びウインドウ50を示している。ルーフ装置49は、リトラクタブルハードトップで構成され、車室の天井を構成する天井部491と車室の後方に設けられた後方部材492とを備える。例えば、車室内に設けられた開閉ボタンが開側に押されると、天井部491及び後方部材492は車両1のボディの後方で折り畳まれ、車室が開放状態になる。一方、開閉ボタンが閉側に押されると、天井部491及び後方部材492は折り畳まれた状態から車室を閉塞する状態に切り替わる。ルーフ装置49が開放状態にある場合、閉塞状態にある場合に比べて、車両1の走行空気抵抗は増大する。
ウインドウ50は、車室の側面に設けられ、車外の空気を車室内に取り込む車両装備である。ウインドウ50は、全閉状態と全開状態との間で開度が調整可能であり、車室内に設けられた開閉ボタンが開側に押されると開度が増大し、開閉ボタンが閉側に押されると、開度が減少する。ウインドウ50の開度が増大するにつれて、車室内に侵入する外気の量が増大するので、車両1の走行空気抵抗は増大する。
図3(B)はグリルシャッター48を示している。グリルシャッター48は、車両1のエンジンルーム内に外気を取り込む車両装備であり、全閉状態と全開状態との間で開度が調整可能であり、開度が増大するにつれて取り込む外気の量が増大する。ここで、グリルシャッター48は、車両の走行状態に応じてコントローラ100によって開度が自動調整されてもよいし、車室内に設けられた開閉ボタンの操作量に応じて開度が調節されてもよい。グリルシャッター48の開度が増大するにつれて、エンジンルーム内に侵入する外気の量が増大するので、車両1の走行空気抵抗は増大する。
図3(C)はスポイラー51を示している。スポイラー51は、車両1のボディーの後方側に立設され、車幅方向に延びる主翼511と、主翼511を支える一対の脚部512とを備える。主翼511は、傾倒可能に構成されており、水平方向に対する傾倒量が増大するにつれて車両1の走行空気抵抗は増大する。ここで、スポイラー51は、車両の走行状態に応じてコントローラ100によって開度が自動調整されてもよいし、車室内に設けられた調整ボタンの操作量に応じて傾倒量が調節されてもよい。
図2に参照を戻す。コントローラ100には、エンジン14のトルク、変速段、及びトランスミッション16の出力軸の回転速度等の各種情報が入力される。
操舵角センサ41は、例えば、ステアリングシャフトに取り付けられ、操舵の向き、中立位置、及び転舵角に応じた信号をコントローラ100に出力する。操舵角センサ41は、例えば、ステアリングホイールと連動して回転する円盤状のスリット板と、スリット板を挟んで配置されたフォトインタラプタとで構成されている。
アクセル開度センサ42は、例えば、抵抗体の上を接点が摺動するポテンショ式の角度センサで構成され、アクセルペダルの変位量を検知して電気信号に変換してコントローラ100に出力する。
車輪速センサ43は、例えば、ブレーキドラムなどの回転部分に設けられた歯車状のロータと、ロータに対して一定の隙間を設けて配置され、コイル及び磁極等で構成されたセンシング部とを備え、ロータの回転により、コイルに発生する交流電圧に基づいて、車輪の回転速度を検出する。
スロットル弁44は、エンジン14への吸気量を調節する。点火プラグ45は、エンジン14のシリンダー内で火花を飛ばし燃料を点火させる。可変動弁機構46は、例えば、油圧式の可変動弁機構又は電動式の可変動弁機構で構成され、吸気バルブ及び排気バルブのそれぞれの開閉タイミングを調整する機構である。燃料噴射装置47は、エンジン14の吸気ポートに対して燃料を噴射する。
コントローラ100は、姿勢制御部101及びエンジン制御部102を備える。本実施の形態では、姿勢制御部101及びエンジン制御部102は、それぞれ独立したコンピュータで構成されてもよいし、一つのコンピュータにおいて実行される別のプログラムモジュールで構成されてもよい。姿勢制御部101及びエンジン制御部102を独立したコンピュータで構成する場合は、各コンピュータは相互に通信可能に接続されている。なお、エンジン制御部102は変更部の一例に相当する。
姿勢制御部101は、操舵装置の操舵角に関連する操舵角関連値が増大したときに、エンジン14で生成された駆動力(トルク)を低下させることにより車両に減速度を発生させて車両姿勢を制御する。
詳細には、姿勢制御部101は、操舵角センサ41が検出した操舵角を微分することで操舵速度を算出し、算出した操舵速度の増大に伴って姿勢制御開始条件が成立した場合、操舵速度に基づいてエンジン14で生成されるトルクを低下させるための付加減速度を算出する。操舵速度は、操舵角関連値の一例である。姿勢制御開始条件としては、例えば、操舵速度が所定の閾値Th1以上という条件が採用できる。閾値Th1としては、0又は0に一定のマージンを加えた値が採用できる。
また、姿勢制御部101は、操舵速度が減少し、姿勢制御終了条件を下回った場合、、車両姿勢の制御を終了する。ここで、姿勢制御終了条件としては、操舵速度が閾値Th1未満という条件が採用できる。
例えば、姿勢制御部101は、操舵速度と付加減速度との関係が予め登録された付加減速度マップをメモリーに記憶しており、この付加減速度マップを参照して、現在の操舵速度に対応する付加減速度を算出すればよい。なお、付加加減速度マップでは、操舵速度の絶対値が増大するにつれて付加減速度が増大するように、両者の関係が規定されている。
図4は、本発明の実施形態1における制御装置10を搭載した車両1が右旋回を行う場合の姿勢制御を説明するための波形図である。
図4(A)は、右旋回を行う車両1を概略的に示す平面図である。ここでは、車両1が右旋回するシーンにおいて、位置Aから位置Bを経由して位置Cを通過するまでのシーンが示されている。
図4(B)は、図4(A)に示す右旋回を行う車両1の操舵角の時間的推移を示す波形図である。図4(B)において横軸は時間を示し、縦軸は操舵角(deg)を示す。また、図4(B)において、操舵角が0であるステアリング40の中立位置に対して右向きの操舵角が正、左向きの操舵角が負で示されている。
図4(B)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始され、ステアリング40に対する右向きの操作量が増大されることにより右向きの操舵角が徐々に増大し、位置Bにおいて右向きの操舵角が最大となる。その後、ステアリング40の操作量が維持され、最大の操舵角が維持され、位置Cまで推移している。
図4(C)は、図4(B)に示す右旋回を行う車両1の操舵速度の時間的推移を示す波形図である。図4(C)において、横軸は時間を示し、縦軸は操舵速度(deg/s)を示す。なお、図4(C)において、操舵速度は、0を基準に、右向きの操舵速度が正、左向きの操舵速度が負で示されている。ここでは、説明の便宜上、右向きの操舵速度を正、左向きの操舵速度を負で示しているが、本明細書では、右向きの操舵速度が増大する場合、及び左向きの操舵速度が増大する場合の両方の場合を合わせて、「操舵速度が増大する」と記述する。
車両1の操舵速度は、操舵角の時間微分により表される。すなわち、図4(C)において、位置Aに対応する時刻t0から時刻t1までの期間において操舵速度がリニアに増大している。これは、この期間では操舵角が下に凸の二次関数に従って増大しているからである。
時刻t1から時刻t2までの期間において操舵速度は一定の値を維持している。これは、この期間では、操舵角がリニアに増大しているからである。
時刻t2から位置Bに対応する時刻t3までの期間において操舵速度はリニアに減少している。これは、この期間では操舵角が上に凸の二次関数に従って増大しているからである。
時刻t3から位置Cに対応する時刻t4までの期間では、操舵速度は0を維持している。これは、この期間では、操舵角が一定の値で推移しているからである。
図4(D)は、図4(C)に示す操舵速度に基づいて算出される付加減速度の時間的推移を示す波形図である。図4(D)において、横軸は時間を示し、縦軸は付加減速度(m/s2)を示している。なお、図4(C)において、付加減速度は、例えば0を基準に、加速側が正、減速側が負で表されている。本実施の形態では、姿勢制御部101は、操舵速度が増大するにつれて付加減速度が負の方向に増大し、操舵速度が減少するにつれて付加減速度が0の方向に減少するように付加減速度を算出する。
時刻t0から時刻t1までの期間において、付加減速度はは負の方向にリニアに減少している。これは、この期間において、操舵速度がリニアに増大しているからである。
時刻t1から時刻t2までの期間において、付加減速度は負の一定の値で推移している。これは、この期間において、操舵速度が一定の値で推移しているからである。
時刻t2から時刻t3までの期間において、付加減速度は0に向けてリニアに増大している。これは、この期間において操舵速度がリニアに減少しているからである。
時刻t3から時刻t4までの期間において、付加減速度は、0で推移している。これは、この期間において操舵速度が0で推移しているからである。
図4(E)は、図4(D)の付加減速度に基づいて算出されるトルク低下量の時間的推移を示す波形図である。図4(E)において、横軸は時間を示し、縦軸はトルク低下量(N・m)を示している。図4(E)では、トルク低下量は、負で表されている。トルク低下量の波形は、付加減速度と相似な形状を有している。
図4(F)は、図4(E)に示すトルク低下量に基づいて算出される最終目標トルクの時間的推移を示す波形図である。図4(F)において、横軸は時間を示し、縦軸は最終目標トルク(N・m)を示している。最終目標トルクは、目標Gに対応する目標トルク、すなわち、車両姿勢制御を実行しない場合の目標トルクから、図4(E)に示すトルク減少量を減じた値を有する。したがって、図4(F)においては、最終目標トルクは、目標Gに対応する目標トルクを基準として、トルク低下量と同じ波形を有している。
図4(G)は、図4(F)に示す最終目標トルクで車両1を走行させたときの実ヨーレートの時間的推移を示す波形図である。図4(G)において、横軸は時間を示し、縦軸は実ヨーレート(rad/s)を示している。CWは時計回りの実ヨーレートを示し、CCWは反時計回りの実ヨーレートを示している。実ヨーレートは、実際に計測されたヨーレートである。実ヨーレートは、操舵切り込み中及び操舵保持中とも、操舵角に連動して推移していることが分かる。
位置Aにおいて右向きの操舵が開始され、操舵速度が増大するにつれて図4(E)に示したようにトルク低下量が負の方向に増大すると、車両1に制動作用が発生して、車両1は前傾し、前輪12Fの荷重が増加する。その結果、前輪12Fと路面との間の摩擦力が増加するため、車両1の回頭性が向上する。その結果、車両姿勢制御は、コーナリング時の操作性の向上を図ることができる。
図2に参照を戻す。エンジン制御部102は、車両装備の状態に基づいて、車両姿勢の制御により低下させる駆動力(トルク)の低下の度合いを小さくする。本実施の形態では、エンジン制御部102は、車両装備の状態が走行空気抵抗を増大させる状態になるにつれて、付加減速度が低下する度合いを小さくすることによって、トルクの低下の度合いを小さくする。これにより、後輪12Rへのトルクの配分比の増大中に車両姿勢制御を実施したとしても、前輪12Fへの荷重の不足が抑制され、車両姿勢が不安定になることを抑制できる。
なお、本実施の形態では、付加減速度が低下する度合いの変更方法として、付加減速度のボトム値の絶対値を小さくする第1変更方法と、付加減速度を負の方向に増大させるに際しての変更速度を小さくする第2変更方法との少なくとも一方が採用できる。
これにより、狙い通りに車両姿勢制御が実施される。
また、エンジン制御部102は、姿勢制御部101が設定した付加減速度又は車両装備の状態に応じて変更した付加減速度からトルク低下量を算出する。ここで、トルク低下量とは、エンジン14の目標トルクに対して差し引くべきトルクの目標値を示す。これにより、車両1に減速度が発生し、車両1の姿勢が前傾し、前輪12Fの荷重が増大する結果、コーナリング時の操作性の向上を図ることができる。
また、エンジン制御部102は、車両姿勢制御が実行される場合、車輪速センサ43で検出された輪速(以下、車速と称する。)とアクセル開度センサ42により検出されたアクセル開度とから目標Gを算出する。ここで、目標Gとは、加速度と減速度とを含む概念である。
また、エンジン制御部102は、目標Gからエンジン14の目標トルクを算出し、目標トルクからトルク低下量を減じることで最終目標トルクを算出する。一方、エンジン制御部102は、車両姿勢制御が実行されない場合、目標Gから算出した目標トルクを最終目標トルクとして算出する。
また、エンジン制御部102は、最終目標トルクをエンジン14に生成させるためのスロットル弁44、点火プラグ45、可変動弁機構46、及び燃料噴射装置47の指令値をそれぞれ決定し、スロットル弁44、点火プラグ45、可変動弁機構46及び燃料噴射装置47のそれぞれを制御する。
図5は、本発明の実施の形態に係る車両1の制御装置10の処理を示すフローチャートである。なお、図5のフローチャートは、所定の演算周期で繰り返し実行される。また、以下のフローチャートでは、車両装備としてグリルシャッター48を採用した場合を例に挙げて説明する。S1では、コントローラ100は、各種センサ信号を読み込む。ここでは、例えば、操舵角センサ41からの操舵角、アクセル開度センサ42からのアクセル開度、及び車輪速センサ43からの車速がセンサ信号として読み込まれる。
S2では、エンジン制御部102は、S1で読み込んだ車速及びアクセル開度から目標Gを設定する。ここで、エンジン制御部102は、車速及びアクセル開度に応じた目標Gが予め登録された目標Gマップをメモリーに記憶しておき、この目標Gマップを参照することで、現在の車速とアクセル開度とに対応する目標Gを設定すればよい。
S3では、エンジン制御部102は、目標Gからエンジン14の目標トルクを設定する。ここで、エンジン制御部102は、S2で設定した目標Gに対して、現在設定されている変速比などを考慮した所定の演算を行うことで、目標トルクを算出すればよい。
S4では、姿勢制御部101は、S1で読み込んだ操舵角から操舵速度を算出し、操舵速度が閾値Th1以上であれば、姿勢制御開始条件が成立したと判定し(S4でYES)、処理をS5に進める。一方、姿勢制御部101は、操舵速度が閾値Th1未満であれば、姿勢制御開始条件が成立していないと判定し(S4でNO)、処理をS12に進める。
S5では、姿勢制御部101は、付加減速度マップを参照し、現在の操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
S6では、エンジン制御部102は、グリルシャッター48の開度に基づいて、上述した第1変更方法及び第2変更方法の少なくとも一方を用いて付加減速度を変更する。ここでは、エンジン制御部102は、S5で設定された付加減速度を開度に応じて変更されているが、本発明はこれに限定されず、エンジン制御部102は、操舵速度と開度とに対応する付加減速度が予め対応付けられた付加減速度マップをメモリーに記憶しておき、この付加減速度マップを参照して開度に応じて変更された付加減速度を設定してもよい。
S7では、エンジン制御部102は、付加減速度に連動してトルク低下量が変化するようにトルク低下量を算出する。例えば、エンジン制御部102は、付加減速度に対してトルクのディメンションに変換するための所定の係数を乗じることで、トルク低下量を算出すればよい。
S8では、エンジン制御部102は、S3で設定した目標トルクからS7で設定したトルク低下量を減じることで最終目標トルクを設定する。
S9では、エンジン制御部102は、S8で設定した最終目標トルクを実現するための目標吸気量と、目標燃料噴射量と、目標点火時期とをそれぞれ設定する。なお、最終目標トルクが決まると、目標吸気量、目標燃料噴射量、及び目標点火時期はそれぞれ一意に決定できる。そこで、エンジン制御部102は、最終目標トルクと、目標吸気量、目標燃料噴射量、及び目標点火時期との対応関係が予め登録された決定マップをメモリーに記憶しておき、この決定マップを参照することで、目標吸気量、目標燃料噴射量、及び目標点火時期をそれぞれ決定すればよい。
S10では、エンジン制御部102は、S9で設定した目標吸気量を実現するためのスロットル弁44の開度と可変動弁機構46の閉弁時期とを設定する。また、S10では、エンジン制御部102は、S9で設定した目標燃料噴射量を実現するための燃料噴射時間を設定する。
S11では、エンジン制御部102は、S10で設定した開度にするための指令値をスロットル弁44に出力する。また、S11では、エンジン制御部102は、S10で設定した閉弁時期で閉弁させるための指令値を可変動弁機構46に出力する。また、S11では、S10で設定した燃料噴射時間で燃料を噴射させるための指令値を燃料噴射装置47に出力する。また、S11では、S9で設定された目標点火時期で点火させるための指令値を点火プラグ45に出力する。
S12では、エンジン制御部102は、S3で設定した目標トルクを最終目標トルクとして設定し、処理をS9に進める。
図5のフローチャートを概観すると、姿勢制御開始条件が成立した場合(S4でYES)、グリルシャッター48の開度が増大するにつれて付加減速度が負の方向へ減少するように又は付加減速度の変更速度が小さくなるように変更され(S6)、変更後の付加減速度にしたがって、目標トルクが減少される。
図6は、付加減速度の第1変更方法を説明する波形図である。図6(A)〜(D)は、それぞれ、操舵速度、付加減速度、トルク低下量、及びグリルシャッターの開度の時間的推移を示している。図6(A)〜(D)において、縦軸はそれぞれ操舵速度、付加減速度、トルク低下量、及び開度を示し、横軸は時間を示している。また、図6(D)において、縦軸が上側に向かうにつれて開度が増大していく。
時刻t0では、全閉状態にあるグリルシャッター48は、開度の増大を開始している。この開度の増大は、操舵速度が0になった後の時刻t6まで継続され、時刻t6でグリルシャッター48は全開状態になっている。このように、開度の変更は操舵速度とは無関係に実行されている。
時刻t1では、車両1がカーブに侵入し、乗員によりステアリング40の操作が開始されている。そのため、操舵速度の増大が開始されている。
時刻t2では、操舵速度が閾値Th1より大きくなり、姿勢制御開始条件が成立したため、車両姿勢制御が開始されている。
図6(B)において、波形G61は、本件(第1変更方法)における付加減速度の時間的推移を示し、波形G62は、比較例の付加減速度の時間的推移を示している。
第1変更方法の基本的な考え方について説明する。第1変更方法を採用する場合、姿勢制御部101は、操舵速度v1が増大するにつれて絶対値が小さくなるようにボトム値B(v1)を決定し、予め定められた変更速度FV1(固定値)で決定したボトム値B(v1)に向けて付加減速度が負の方向に増大するように付加減速度の波形を設定する。
図6(B)に示す比較例の波形G62では、時刻t3で操舵速度の増大が終了しているため、時刻t3においてボトム値B(v1)が確定している。したがって、波形G62では、時刻t2〜t3の期間において付加減速度はボトム値B(v1)に向けて一定の変更速度FV1で減少している。比較例では、グリルシャッター48の開度に拘わらず、ボトム値B(v1)は変更されない。そのため、図6(C)の波形G64に示すように、トルク低下量も一定の変更速度でボトム値C(v1)に向けて減少していることがわかる。
これに対して、本件(第1変更方法)では、グリルシャッター48の開度が増大するにつれて絶対値が低下するようにボトム値B(v1)が補正され、補正されたボトム値B’(v1)に向けて一定の変更速度FV1で、付加減速度は負の方向に増大される。詳細には、エンジン制御部102は、姿勢制御部101により設定されたボトム値B(v1)に対して開度に応じて予め定められた補正係数αを乗じることで、ボトム値B’(v1)を算出すればよい。但し、αは0<α<1を満たす。この場合、エンジン制御部102は、開度が増大するにつれて補正係数αが減少するように開度と補正係数αとの対応関係を示す補正係数マップをメモリーに記憶させておき、この補正係数マップを参照することで、現在設定されている配分比に対応する補正係数αを設定すればよい。
これにより、図6(B)に示す波形G61では、時刻t3の少し手前の時刻t3’において、付加減速度がボトム値B’(v1)に到達している。ここで、波形G61では付加減速度が時刻t3ではなく時刻t3’にてボトム値B’(v1)に到達しているのは、波形G62と変更速度FV1が同じであり、且つ、ボトム値B’(v1)の絶対値がボトム値B(v1)の絶対値よりも小さいからである。これに伴って、図6(C)に示す本件の波形G63も時刻t3’においてボトム値C’(v1)に到達している。
波形G61では、時刻t3’以降において、付加減速度は緩やかな傾きを持つ変更速度FV2で正の方向に増大している。これは、操舵速度は一定にされているが、グリルシャッター48の開度の増大が継続されているからである。すなわち、ボトム値B’(v1)は、B(v1)×αの演算により決定されるが、グリルシャッター48の開度の増大に応じてαが減少するからである。これに伴って、図6(C)に示す本件の波形G63に示すように、トルク低下量も時刻t3’以降において緩やかな傾きで正の方向に増大している。
時刻t4に到達すると、操舵速度の減少が開始されるので、本件及び比較例とも付加減速度は0に向けて増大している。ここで、本件の方が比較例に比べて緩やかな傾きで0に向けて増大しているのは、時刻t4での付加減速度の絶対値は本件の方が比較例よりも小さく、且つ、操舵速度が0になる時刻t5において付加減速度を0に戻すためである。
これに伴って、図6(C)の波形G63に示すように、トルク低下量も波形G64よりも緩やかな傾きで0に向けて増大している。
次に、第1変更方法を採用した場合の図5のフローチャートについて補足する。図5のS5において、姿勢制御部101は、現在の操舵速度v1に対応するボトム値B(v1)を決定し、一定の変更速度FV1でボトム値B(v1)に向けて付加減速度が負の方向に増大するように付加減速度の波形を設定する。そして、姿勢制御部101は、現在の付加減速度がボトム値B(v1)に到達していなければ、変更速度FV1に演算周期Δtを乗じることで付加減速度の負の方向への増大量を算出し、その増大量を現在の付加減速度に負の方向に加えた値を、今回の付加減速度として設定すればよい。
また、S5において、姿勢制御部101は、現在の付加減速度がボトム値B(v1)に到達していれば、操舵速度の減少が開始されるまで、付加減速度をボトム値Bに維持する。これにより、付加減速度は変更速度FV1にしたがってボトム値B(v1)まで減少されることになる。
一方、図6のS6では、エンジン制御部102は、S5で設定されたボトム値B(v1)にグリルシャッター48の開度に応じた補正係数αを乗じたボトム値B’(v1)を算出し、一定の変更速度FV1でボトム値B’(v1)に向けて負の方向に増大するようにS5で設定された付加減速度の波形を変更する。そして、エンジン制御部102は、現在の付加減速度がボトム値B’(v1)に到達していなければ、変更速度FVに演算周期Δtを乗じることで付加減速度の負の方向への増大量を算出し、その増大量を現在の付加減速度に負の方向に加えた値を、今回の付加減速度として設定すればよい。これにより、付加減速度は変更速度FV1にしたがってボトム値B’(v1)まで減少されることになる。
また、S6において、姿勢制御部101は、現在の付加減速度がボトム値B’(v1)に到達していれば、操舵速度の減少が開始されるまで、ボトム値B’(v1)に対して補正係数αを乗じることで、付加減速度を決定する。これにより、付加減速度は変更速度FV2にしたがって緩やかに増大していく。
図7は、付加減速度の第2変更方法を説明する波形図である。なお、図7では、車両装備としてグリルシャッター48に代えて、ルーフ装置49が採用されている。図7(A)〜(D)は、それぞれ、操舵速度、付加減速度、トルク低下量、及びルーフ装置49の開度の時間的推移を示している。図7では図6と同じシーンの波形図が示されている。図7(D)に示すように、ルーフ装置49の開度は全閉している閉状態と全開している開状態との2つの状態があり、ここでは、常時開状態にされている。
第2変更方法の基本的な考え方について説明する。第2変更方法を採用する場合、姿勢制御部101は、操舵速度の微分である操舵加速度a1が増大するにつれて増大するように付加減速度の変更速度FV(a1)を決定し、決定した変更速度FV(a1)で予め定められたボトム値B(固定値)に向けて付加減速度が負の方向に増大するように付加減速度の波形を設定する。
なお、ここでは、変更速度FV(a1)が増大するとは、変更速度FV(a1)の絶対値が増大することを意味する、すなわち、付加減速度の傾きが急峻になることを意味する。
図7(B)に示す比較例の波形G72では、時刻t2〜t3の期間において、操舵速度が一定の割合で増大しており、操舵加速度a1が一定であるため、変更速度FV(a1)は一定の傾きでボトム値Bまで負の方向に増大している。比較例では、ルーフ装置49の開度に拘わらず、変更速度FV(a1)は変更されない。そのため、図7(C)の波形G74に示すように、トルク低下量も変更速度FV(a1)に応じた変更速度TV(a1)でボトム値Cに向けて負の方向に増大していることがわかる。
これに対して、本件(第2変更方法)では、ルーフ装置49が開状態の場合、閉状態の場合に比べて、変更速度FV(a1)は絶対値が減少するように補正され、補正された変更速度FV’(a1)にしたがって、付加減速度はボトム値Bに向けて減少される。詳細には、エンジン制御部102は、姿勢制御部101により設定された変更速度FV(a1)に対して予め定められた補正係数βを乗じることで、変更速度FV’(a1)を算出すればよい。但し、βは0<β<1の値を持つ。
これにより、図7(B)に示す波形G71では、時刻t2〜t3の期間における変更速度FV’(a1)は比較例の変更速度FV(a1)よりも小さな傾き(緩い傾き)に設定されている。なお、時刻t2〜t3の期間では、操舵加速度a1が一定であるため、変更速度FV’(a1)は一定の傾きを有している。
これに応じて、図7(C)の波形G73に示すように、トルク低下量も変更速度FV’(a1)に対応する変更速度TV’(a1)でボトム値Cに向けて負の方向に増大している。
図7では、開度は開状態と閉状態との2つの状態しかなかったが、グリルシャッター48が用いられた場合、補正係数βは開度が増大するにつれて小さくなるように設定されればよい。
次に、第2変更方法を採用した場合の図6のフローチャートについて補足する。この補足説明では、車両装備としてグリルシャッター48を用いた場合を示す。図5のS5において、姿勢制御部101は、現在の操舵速度から操舵加速度a1を算出し、操舵加速度a1に対応する変更速度FV(a1)を決定し、変更速度FV(a1)でボトム値Bに向けて付加減速度が負の方向に増大するように付加減速度の波形を設定する。そして、姿勢制御部101は、現在の付加減速度がボトム値Bに到達していなければ、変更速度FV(a1)に演算周期Δtを乗じることで付加減速度の負の方向への増大量を算出し、その増大量を現在の付加減速度に負の方向に加えた値を、今回の付加減速度として設定すればよい。
また、S5において、姿勢制御部101は、現在の付加減速度がボトム値Bに到達していれば、操舵速度の減少が開始されるまで、付加減速度をボトム値Bに維持する。これにより、付加減速度は変更速度FV(a1)にしたがってボトム値Bまで減少されることになる。
一方、図5のS6では、エンジン制御部102は、S5で設定された変更速度FV(a1)に対して、グリルシャッター48の開度に応じた補正係数βを乗じた変更速度FV’(a1)を算出し、この変更速度FV’(a1)にしたがってボトム値Bに向けて負の方向に増大するようにS5で設定された付加減速度の波形を変更する。そして、エンジン制御部102は、現在の付加減速度がボトム値Bに到達していなければ、変更速度FV’(a1)に演算周期Δtを乗じることで付加減速度の負の方向への増大量を算出し、その増大量を現在の付加減速度に負の方向に加えた値を、今回の付加減速度として設定すればよい。
一方、S6において、現在の付加減速度がボトム値Bに到達していれば、操舵速度の減少が開始されるまで、付加減速度をボトム値Bに維持する。これにより、付加減速度は変更速度FV’(a1)にしたがってボトム値Bまで減少されることになる。
このように、本実施の形態によれば、車両姿勢の制御が実行された場合、車両装備の開度に応じてトルク低下量が負の方向に増大する度合いが減少される。そのため、車両装備の状態により走行空気抵抗が変動したとしても、狙い通りの車両姿勢の制御を実現できる。
(実施の形態2)
実施の形態2は、付加減速度から算出されたトルク低下量が非常に小さい場合、車両装備の状態を考慮に入れた車両姿勢制御を実施するものである。なお、実施の形態2において実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省く。図8は、本発明の実施の形態2に係る車両1の制御装置10の処理を示すフローチャートである。なお、図8のフローチャートは、所定の演算周期で繰り返し実行される。また、以下のフローチャートでは、車両装備としてグリルシャッター48を採用した場合を例に挙げて説明する。
図8において、図5との相違点は、S5の後にS81の処理が追加されている点にある。それ以外は、図8のフローチャートは図5と同じである。
S81では、エンジン制御部102は、S5で設定した付加減速度から現在のトルク低下量を算出し、そのトルク低下量の絶対値が閾値Th2以下であるか否かを判定する。ここで、閾値Th2(閾値の一例)としては、例えば、車両装備の状態を考慮せずに車両姿勢制御を実行しても問題がない程度に小さなトルク低下量の値が採用できる。
ここで、トルク低下量の絶対値に代えて、トルク低下速度の絶対値が採用されてもよい。ここで、トルク低下速度は、現在のトルク低下速度が採用でき、例えば、直前に設定されたトルク低下量と今回設定されたトルク低下量との差分を演算周期で除した値が採用できる。この場合、閾値Th2’(閾値の一例)としては、例えば、車両装備の状態を考慮せずに車両姿勢制御を実行したとしても、問題がない程度に小さなトルク低下速度の値が採用できる。
トルク低下量が閾値Th2以下である場合(S81でYES)、車両装備の状態(ここでは、グリルシャッター48の開度)を考慮せずに車両姿勢制御を実行するべく、S6の処理を実行せずに処理をS7に進める。一方、トルク低下量が閾値Th2より大きい場合(S81でNO)、車両装備の状態を考慮に入れて車両姿勢制御を実施するべく(ここでは、グリルシャッター48の開度)、処理をS6に進める。
このように、実施の形態2によれば、付加減速度から算出されるトルク低下量が閾値Th2より大きい場合に限って、車両装備の状態を考慮に入れた車両姿勢の制御が実施されるので、車両姿勢の制御における処理負担を軽減できる。
本発明は、以下の変形例が採用できる。
(1)図5及び図8のフローチャートでは、車両装備として、グリルシャッター48が採用されたが、本発明はこれに限定されず、ルーフ装置49、ウインドウ50、又はスポイラー51が採用されてもよい。
この場合、ウインドウ50は、開度が増大するにつれて、走行空気抵抗が増大する特性を持つ。そこで、エンジン制御部102は、ウインドウ50の開度が増大するにつれて、グリルシャッター48と同様、付加減速度のボトム値Bに補正係数αを乗じてボトム値B’を算出する、或いは、付加減速度の変更速度FV(a1)に補正係数βを乗じることで、付加減速度の低下の度合いを小さく設定すればよい。
また、スポイラー51は、水平方向からの傾倒量が増大するにつれて、走行空気抵抗が増大する特性を持つ。そこで、エンジン制御部102は、スポイラー51の傾倒量が増大するにつれて、グリルシャッター48と同様、付加減速度のボトム値Bに補正係数αを乗じてボトム値B’を算出する、或いは、付加減速度の変更速度FV(a1)に補正係数βを乗じることで、付加減速度の低下の度合いを小さく設定すればよい。
(2)ルーフ装置49として、リトラクタブルハードトップが採用されているが、本発明は、これに限定されず、車両1の天井に設けられた開閉可能なサンルーフで構成されてもよい。この場合、ルーフ装置49は、グリルシャッター48と同様、全閉状態から全開状態までの間で開度が変更可能に構成される。したがって、ルーフ装置49としてサンルーフが採用された場合、エンジン制御部102は、グリルシャッター48を採用した場合と同様、付加減速度のボトム値Bに補正係数αを乗じてボトム値B’を算出する、或いは、付加減速度の変更速度FV(a1)に補正係数βを乗じることで、開度が増大するにつれて付加減速度の低下の度合いを小さく設定すればよい。
(3)エンジン制御部102は、グリルシャッター48、ルーフ装置49、及びウインドウ50のそれぞれの開度と、及びスポイラー51の傾倒量とを組み合わせて、付加減速度の低下の度合いを変更してもよい。この場合、エンジン制御部102は、グリルシャッター48、ルーフ装置49、及びウインドウ50のそれぞれの開度と、スポイラー51の傾倒量との平均値を算出し、その平均値が増大するにつれて、付加減速度の低下の度合いが小さく設定すればよい。
(4)車両装備の状態が一定であっても、車速関連値(例えば、車速)が増大するにつれて走行空気抵抗は増大する。そこで、エンジン制御部102は、車速関連値が増大するにつれて、付加減速度の低下の度合いが小さくなるように付加減速度を設定してもよい。詳細には、エンジン制御部102は、車速関連値が増大するにつれて補正係数γが増大するように車速関連値と補正係数γ(但し、0<γ<1)との関係が定められた補正係数マップをメモリーに記憶させておき、その補正係数マップを参照することで、現在の車速関連値に対応する補正係数γを取得する。そして、エンジン制御部102は、ボトム値B’(v1)に取得した補正係数γを乗じる、或いは、変更速度FV’(a1)に取得した補正係数γを乗じることで付加減速度を補正すればよい。なお、車速関連値としては車速以外にも、例えば、エンジン14を構成するクランクの回転速度等の車両1のスピードが特定できる物理量であればどのような物理量が採用されてもよい。本変形例において、車輪速センサ43は、車速関連値検出部の一例である。
(5)車両姿勢の制御は、姿勢制御開始条件の成立直後の所定期間において実施することが有効である。そこで、エンジン制御部102は、姿勢制御開始条件が成立してから、所定期間において、車両装備の状態に基づく車両姿勢制御を実行してもよい。これにより、車両装備の状態に基づく車両姿勢制御を効果的に実施できる。所定期間としては、姿勢制御開始条件が成立してから付加減速度がボトム値B’(v1)に到達するまでの期間が採用されてもよいし、予め定められた一定の期間が採用されてもよい。この場合、エンジン制御部102は、所定期間が経過した後は、操舵速度を考慮した通常の車両姿勢制御を実施してもよいし、車両姿勢制御自体を停止させてもよい。
(6)実施の形態1、2では、操舵速度が操舵角関連情報として採用されたが、本発明はこれに限定されず、ヨーレート又は横方向の加速度(横G)が操舵角関連情報として採用されてもよい。この場合、車両1は、ヨーレートセンサ又は加速度センサを備えればよい。
(7)実施の形態1、2では、車両姿勢制御はエンジン14を制御することで実現されているが、本発明はこれに限定されず、特許文献1と同様、電動モータの回生電力を用いて実現されてもよい。
(8)上述した第1変更方法と第2変更方法とは組み合わされても良い。