旋盤などの工作機械では、従来、送り軸が非直交状態で交差する2つの送り機構を備え、この2つの送り機構による同調した送り動作によって、仮想の送り軸を創成するように構成された工作機械がある。このような工作機械の一例としての旋盤を図9に示す。尚、図9は、当該旋盤を、その主軸と対向する方向から視た側面図である。
図9に示すように、この旋盤100は、ベッド101、このベッド101上に配設された主軸台102,心押台104及び往復台120、この往復台120上に、矢示X軸方向に移動可能に配設されたサドル110、同様にサドル110上に、矢示Y’軸方向に移動可能に配設され刃物台111などを備えている。
前記主軸台102は主軸103を回転自在に保持し、また、同様に前記心押台104は心押軸105を回転自在に保持しており、これら主軸103及び心押軸105は、相互に対向するように同軸上に位置している。
前記往復台120は、Z軸送り機構130により駆動されて、前記主軸103の軸線と平行な方向であり、紙面に対して直交する方向の送り軸であるZ軸方向に沿って移動するように前記ベッド101上に配設され、前記サドル110は、X軸送り機構125により駆動されて、前記Z軸と直交する方向の送り軸であるX軸方向に沿って移動するように、前記往復台120上に設けられている。
また、前記刃物台111は、タレット112を、前記主軸103の軸線と平行な軸線を中心として回転自在に保持しており、Y’軸送り機構115により駆動されて、前記Z軸と直交し、且つ前記X軸とは非直交状態で交差する方向の送り軸であるY’軸方向に沿って移動するように、サドル110上に設けられている。
前記Z軸送り機構130は、前記ベッド101上に設けられて、前記往復台120のZ軸方向に沿った移動を案内するZ軸案内部132と、同じくベッド101上に設けられたZ軸サーボモータ131と、このZ軸サーボモータ131に接続されたZ軸ボールねじ(図示せず)と、このZ軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記往復台120に固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
また、前記X軸送り機構125は、前記往復台120に設けられて、前記サドル110のX軸方向に沿った移動を案内するX軸案内部121と、同じく往復台120に設けられたX軸サーボモータ126と、このX軸サーボモータ126に接続されたX軸ボールねじ(図示せず)と、このX軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記サドルに固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
同様に、前記Y’軸送り機構115は、前記サドル110に設けられて前記刃物台111のY’軸方向に沿った移動を案内するY’軸案内部113と、同じくサドル110に設けられたY’軸サーボモータ116と、Y’軸サーボモータ116に接続されたY’軸ボールねじ(図示せず)と、このY’軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記刃物台111に固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
そして、前記Z軸送り機構130のZ軸サーボモータ131、X軸送り機構125のX軸サーボモータ126及びY’軸送り機構115のY’軸サーボモータ116は、それぞれ適宜制御装置によってその作動が制御される。
以上の構成を備えた旋盤100では、前記制御装置による制御の下で、前記タレット112が、主軸103の軸線に沿ったZ軸方向、このZ軸に直交するX軸方向、並びにZ軸及びX軸の双方に直交するY軸方向(創成Y軸方向)に移動する。
即ち、タレット112は、前記制御装置による制御の下で、前記Z軸サーボモータ131が駆動されることによりZ軸に沿って移動し、前記X軸サーボモータ126が駆動されることによりX軸に沿って移動する。
また、前記制御装置による制御の下で、前記X軸サーボモータ126及びY’軸サーボモータ116が同調して駆動されることにより、タレット112は前記Z軸及びX軸の双方に直交する前記創成Y軸方向に沿って移動する。具体的には、X軸送り機構125によりサドル110がX軸マイナス方向に移動すると同時に、これに同調して、Y’軸送り機構115により刃物台111がY’軸プラス方向に移動することで、タレット112がY軸プラス方向に移動する。これとは逆に、X軸送り機構125によりサドル110がX軸プラス方向に移動すると同時に、これに同調して、Y’軸送り機構115により刃物台111がY’軸マイナス方向に移動することで、タレット112がY軸マイナス方向に移動する。
斯くして、この旋盤100によれば、前記主軸103にワークを適宜保持させ、前記タレット112に工具を適宜保持させるとともに、前記ワークを回転させた状態で、前記工具をX−Z平面で移動させることにより、当該ワークを旋削加工することができ、また、前記ワークの回転を停止、又は当該ワークをゆっくりと回転させながら、前記タレット112に保持された回転工具を、X軸,Y軸及びZ軸の3次元空間内で移動させることによって、所謂ミーリング加工を行うことができる。
ところで、従来、工作機械の分野では、その良好な加工精度を保証すべく、当該工作機械を構成する各送り機構について、その位置決め精度を補償するようにしている。例えば、各送り機構において、制御対象を所定ピッチ間隔で移動させながらその実際の移動位置を測定して、指令位置と制御対象の実移動位置との誤差(ピッチ誤差)を算出しておき、各送り機構を駆動,制御する際に、算出されたピッチ誤差に基づいて、その制御位置を補正するようにしている。尚、ピッチ誤差を測定する測定装置の一例としては、下記特許文献1に記載されるものがある。
そして、このような補正は、当然のことながら、上述した構成の旋盤100においても必要であり、当該旋盤100では、従来、X軸送り機構125、Y’軸送り機構115及びZ軸送り機構130について、それぞれピッチ誤差を測定し、X軸送り機構125、Y’軸送り機構115及びZ軸送り機構130を駆動して位置決めする際に、それぞれのピッチ誤差を補正するようにしている。
尚、この旋盤100では、X軸送り機構125及びY’軸送り機構115によって創成される前記創成Y軸方向のピッチ誤差を補正する必要があるが、これについては、従来、X軸送り機構125及びY’軸送り機構115の各ピッチ誤差を補正することで、創成Y軸方向のピッチ誤差が補正されるものと考えられていた。
ところで、上記旋盤100では、上述したように、X軸を送り軸とするX軸送り機構125と、このX軸に交差するY’軸を送り軸とするY’軸送り機構115との同調した送り動作によって、仮想の送り軸であるY軸を創成するようにしているので、理論上、Y軸方向における位置決め誤差には、X軸及びY’軸を含む平面(この平面にはY軸も含まれる)内におけるX軸の真直度、及びY’軸の真直度に起因した誤差が含まれることになる。
そして、前記Y’軸の真直度は、サドル110に設けられるY’軸案内部113に依存するものであるが、サドル110が往復台120上に配設され、しかもかなりの剛性を有する構造体とすることができることを考慮すると、結局のところ前記Y’軸の真直度は、サドル110に形成されるY’軸案内部113の加工精度に集約され、この加工精度は十分に高精度に実現し得るので、結論としては、前記Y’軸の真直度が前記創成Y軸方向の位置決め誤差に与える影響は、極めて小さいと言える。
一方、前記X軸送り機構125が設けられる往復台120は、一般的に、図9に示すように、ベッド101からオーバハングした状態で設けられることが多く、サドル110の位置によって、この往復台120が大きく変形するため、前記X−Y’平面内におけるX軸の真直度は、Y’軸の真直度に比べて悪く、前記創成Y軸のピッチ誤差に大きく影響する。
このような問題を避けるべく、往復台120がベッド101からオーバハングしないように、その両端部を支持することも考えられるが、このような支持態様を採用しても、サドル110が往復台120の中間部に位置する場合には、往復台120が凹状に弾性変形するため、結局のところ前記X軸の真直度を改善することはできない。
このように、上記旋盤100では、X−Y’平面における前記X軸の真直度に起因した創成Y軸方向の位置決め誤差を生じるが、従来、このような創成Y軸方向の位置決め誤差については、これを補正しておらず、したがって、創成Y軸方向の位置決め精度は、必ずしも十分なものとは言えないものであった。
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、相互の送り軸が非直交状態で交差する2つの送り機構を備え、この2つの送り機構による同調した送り動作により、仮想の送り軸を創成するように構成された送り装置において、前記仮想の送り軸方向における位置決めを高精度に実行可能な位置決め制御方法の提供を、その目的とする。
上記課題を解決するための本発明は、第1送り軸を有し、該第1送り軸に沿って移動体を移動させる第1送り機構と、前記第1送り軸と非直交状態で交差する第2送り軸を有し、該第2送り軸に沿って前記第1送り機構を移動させる第2送り機構とを備えた送り装置の、前記第1送り機構及び第2送り機構の作動を制御する制御方法であって、
前記第1送り軸及び第2送り軸についてそれぞれ設定される位置決めデータに従い前記第1送り機構及び第2送り機構を同時に動作させて、前記移動体を前記第2送り軸と直交する仮想の送り軸方向に位置決めする位置決め制御方法において、
前記仮想送り軸方向における前記移動体の位置決め精度を予め取得した後、
取得した前記仮想送り軸方向の位置決め精度を基に、前記第2送り機構の第2送り軸について、該第2送り軸及び前記仮想送り軸を含む平面内での真直度を予め推定しておき、
前記移動体を前記仮想送り軸方向に移動させるべく、前記位置決めデータに従って前記第1送り機構及び第2送り機構を位置決め制御する際には、前記推定した第2送り機構の第2送り軸方向の真直度に基づいて得られる、前記第1送り機構の第1送り軸に沿った位置決め誤差量、及び第2送り機構の第2送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量をそれぞれ算出して、算出した補正量に従って前記各位置決めデータを補正するようにした位置決め制御方法に係る。
本発明によれば、まず、前記第1送り軸及び第2送り軸についてそれぞれ設定された位置決めデータに従って、前記第1送り機構及び第2送り機構を同時に動作させて、前記移動体を前記仮想送り軸方向に移動させ、レーザ測定装置などの適宜測定装置を用いて、前記仮想送り軸方向における前記移動体の位置決め精度を取得する。尚、この仮想送り軸方向の位置決め精度は、当該送り装置の性能を評価するために、標準的に評価される精度である。
次に、上記のようにして取得された前記仮想送り軸方向の位置決め精度を基に、前記第2送り機構の第2送り軸について、該第2送り軸及び前記仮想送り軸を含む平面内での真直度を推定する。
上述したように、仮想送り軸方向における位置決め誤差は、理論的には、第2送り軸及び仮想送り軸を含む平面(この平面には第1軸も含まれる)内における第2送り軸の真直度、及び第1送り軸の真直度に起因した誤差が含まれるが、前記第1送り軸の真直度が前記仮想送り軸方向の位置決め精度に与える影響は極わずかであり、仮想送り軸方向における位置決め精度は、第2送り軸の真直度に大きく依存している。
したがって、第1送り機構及び第2送り機構を動作させることによって実行される、仮想送り軸方向における位置決め精度は、第2送り軸における真直度がそのまま発現されていると見做すことができ、仮想送り軸方向の位置決め精度から、第2送り機構の第2送り軸についての真直度を推定することができる。
そして、前記移動体を前記仮想送り軸方向に移動させるべく、前記位置決めデータに従って前記第1送り機構及び第2送り機構を位置決め制御する際には、前記推定した第2送り機構の第2送り軸方向の真直度に基づいて、前記第1送り機構の第1送り軸に沿った位置決め誤差量と、第2送り機構の第2送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量をそれぞれ算出して、算出した補正量に従って前記各位置決めデータを補正する。これにより、仮想送り軸方向の位置決め誤差が補正される。
即ち、仮想送り軸方向の位置決めは、前記第1送り機構の第1送り軸方向の位置決め動作と、第2送り機構の第2送り軸方向の位置決め動作との同調した複合動作によって実現されるので、仮想送り軸方向の位置決め誤差を修正するには、その誤差に応じた第1送り軸方向の補正と、第2送り軸方向の補正とを行う必要があり、このような補正を行うことによって、仮想送り軸方向の位置決め誤差が補償される。
このように、本発明に係る位置決め制御方法によれば、従来実現されていなかった仮想送り軸方向の位置決め誤差を補償することができるので、当該仮想送り軸方向の位置決め精度を高精度なものとすることができる。
尚、本発明において、前記第1送り機構の第1送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量に、前記第1送り機構の第1送り軸に沿ったピッチ誤差を補償する補正量を含めるとともに、第2送り機構の第2送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量に、前記第2送り機構の第2送り軸に沿ったピッチ誤差を補償する補正量を含めるようにしても良い。
従来、一般的には、予め、前記第1送り機構の第1送り軸におけるピッチ誤差、及び前記第2送り機構の第2送り軸におけるピッチ誤差を測定しておき、第1送り機構の位置決め動作、及び第2送り機構の位置決め動作の際に、それぞれのピッチ誤差を補正するようにしている。したがって、前記第1送り機構の第1送り軸方向の位置決め動作と、第2送り機構の第2送り軸方向の位置決め動作との同調した複合動作によって、前記仮想送り軸方向の位置決めを行う際には、第1送り機構の第1送り軸方向の位置決めに際し、そのピッチ誤差を補正するとともに、第2送り機構の第2送り軸方向の位置決めに際して、そのピッチ誤差を補正するようにすれば、当該仮想送り軸方向の位置決めを、より高精度なものとすることができる。
更に、本発明において、前記第1送り機構の第1送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量に、前記第1送り機構の第1送り軸に沿ったバックラッシ誤差を補償する補正量を含めるとともに、第2送り機構の第2送り軸に沿った位置決め誤差量を補償する補正量に、前記第2送り機構の第2送り軸に沿ったバックラッシ誤差を補償する補正量を含めるようにしても良い。
従来、一般的に、上記ピッチ誤差補正に加えて、バックラッシ補正が行われている。したがって、前記仮想送り軸方向の位置決めにあたり、第1送り機構の第1送り軸方向の位置決めの際にバックラッシ補正を実行するとともに、第2送り機構の第2送り軸方向の位置決めの際にバックラッシ補正を実行するようにすれば、当該仮想送り軸方向の位置決めを、より高精度なものとすることができる。尚、バックラッシ補正は、前記第1送り機構の第1送り軸に沿った送り方向を反転する際に発現するバックラッシ量、及び前記第2送り機構の第2送り軸に沿った送り方向を反転する際に発現するバックラッシ量を、予め測定しておき、第1送り機構の送り方向を反転する際、及び第2送り機構の送り方向を反転する際に、それぞれのバックラッシ量を補正することによって実行される。
以上説明したように、本発明に係る位置決め制御方法によれば、従来実現されていなかった仮想送り軸方向の位置決め誤差を補償することができるので、当該仮想送り軸方向の位置決め精度を高精度なものとすることができる。
以下、本発明の具体的な実施形態に係る位置決め制御方法について、図面を参照しながら説明する。尚、本例の位置決め制御方法は、図9に示した旋盤100を制御する方法であり、図1に示した制御装置1によって実行される。
A.制御装置の構成について
まず、本例の制御装置1の構成について説明する。図1に示すように、本例の制御装置1は、NCプログラム記憶部2、プログラム解析部3、位置指令部4、位置補正部6、補正データ記憶部5、X軸位置制御部10、X軸速度制御部11、X軸電流制御部12、Y’軸位置制御部15、Y’軸速度制御部16、Y’軸電流制御部17、Z軸位置制御部20、Z軸速度制御部21及びZ軸電流制御部22など備えている。尚、図1には、X軸サーボモータ126、Y’軸サーボモータ116及びZ軸サーボモータ131を制御するための主要な構成のみを図示している。
前記NCプログラム記憶部2は、NCプログラムを記憶する機能部であり、NCプログラムは、例えば、外部から入力される。また、前記プログラム解析部3は、前記NCプログラム記憶部2に格納されたNCプログラムを読み出して実行する機能部であり、読み出したNCプログラムを解析して、各送り軸(X軸、創成Y軸及びZ軸)に関する移動位置及び送り速度などを認識して、前記位置指令部4に送信する処理を行う。
前記位置指令部4は、前記プログラム解析部3から受信した各送り軸についての移動位置及び送り速度を基に、各送り軸についての位置指令を生成して、生成した位置指令をそれぞれX軸位置制御部10,Y’軸位置制御部15及びZ軸位置制御部20に送信する。
例えば、前記位置指令部4は、X軸に関する移動位置及び送り速度に関する指令を受信すると、これに応じたX軸の位置指令を生成してX軸位置制御部10に送信し、また、Z軸に関する移動位置及び送り速度に関する指令を受信すると、これに応じたZ軸の位置指令を生成してZ軸位置制御部20に送信する。また、創成Y軸に関する移動位置及び送り速度に関する指令を受信すると、当該創成Y軸が前記X軸送り機構125と、Y’軸送り機構115との同調した送り動作によって生成されるものであるため、位置指令部4は、受信指令に応じたX軸の位置指令及びY’軸の位置指令を生成して、X軸の位置指令をX軸位置制御部10に送信するとともに、Y’軸の位置指令をY’軸位置制御部15に送信する。
そして、前記位置指令を受信したX軸位置制御部10は、受信した位置指令に従い速度指令を生成してX軸速度制御部11に送信し、X軸速度制御部11は受信した速度指令に従い電流指令を生成してX軸電流制御部12に送信し、X軸電流制御部12は受信した電流指令に従い駆動電流を生成してX軸サーボモータ126に供給する。
同様に、前記Y’軸位置制御部15は、受信した位置指令に従い速度指令を生成してY’軸速度制御部16に送信し、Y’軸速度制御部16は受信した速度指令に従い電流指令を生成してY’軸電流制御部17に送信し、Y’軸電流制御部17は受信した電流指令に従い駆動電流を生成してY’軸サーボモータ116に供給する。
また、前記Z軸位置制御部20は、受信した位置指令に従い速度指令を生成してZ軸速度制御部21に送信し、Z軸速度制御部21は受信した速度指令に従い電流指令を生成してZ軸電流制御部22に送信し、Z軸電流制御部22は受信した電流指令に従い駆動電流を生成してZ軸サーボモータ131に供給する。
斯くして、前記X軸サーボモータ126は前記X軸電流制御部12から供給される駆動電流によって駆動され、前記Y’軸サーボモータ116は前記Y’軸電流制御部17から供給される駆動電流によって駆動され、また、前記Z軸サーボモータ131は前記Z軸電流制御部22から供給される駆動電流によって駆動される。尚、X軸サーボモータ126,Y’軸サーボモータ116及びZ軸サーボモータ131にはそれぞれロータリエンコーダが付設されており、各ロータリエンコーダによって検出される実位置データが対応する各位置指令に対してフィードバックされる。
前記補正データ記憶部5は、X軸,Y’軸及びZ軸の各位置に対応した、ピッチ誤差等を補償するための補正量を含んだ位置補正量、並びにX軸,Y’軸及びZ軸におけるバックラッシ補正量を記憶する機能部であり、外部から入力されたこれら位置補正量及びバックラッシ補正量を記憶する。
また、前記位置補正部6は、前記位置指令部4によって生成された位置指令を当該位置指令部4から受信し、受信した位置指令に対する補正量を前記補正データ記憶部5から読み出して、X軸位置制御部10,Y’軸位置制御部15及びZ軸位置制御部20に入力される各位置指令に、加える処理を行う処理部である。
B.本例の位置決め制御方法について
次に、上記構成を備えた制御装置1によって実行される、本例の位置決め制御方法について説明する。
まず、X軸送り機構125のX軸方向の位置決め精度(ピッチ誤差を含む)及びバックラッシ量、Y’軸送り機構115のY’軸方向の位置決め精度(ピッチ誤差を含む)及びバックラッシ量、並びにZ軸送り機構130のZ軸方向の位置決め精度(ピッチ誤差を含む)及びバックラッシ量を測定し、測定された各ピッチ誤差及びバックラッシに係る誤差量を基に、これを補償するために必要な各補正量を算出して、前記補正データ記憶部5に格納する。
尚、前記位置決め精度及びバックラッシ量は、例えば、レーザ測長器を用いて測定することができるが、他の機器を用いて測定しても良い。レーザ測長器は、例えば、レーザヘッド及び反射鏡から構成され、レーザヘッドは、レーザ光を照射するレーザ発振器、レーザ光を受光する受光素子、及び受光素子の前に設けられたレーザ干渉計から構成される。このレーザ測長器では、レーザ発振器から反射鏡に向けてレーザ光を照射し、反射鏡によって反射され、レーザ干渉計を通過したレーザ光が前記受光素子により受光されることによって、反射鏡と受光素子と間の距離が測定される。
そして、このレーザ測長器を用い、前記X軸送り機構125について、その位置決め精度等を測定する場合、具体的には、まず、レーザヘッドを前記タレット112に取り付けて、このレーザヘッドからX軸に沿ってレーザ光が照射されるようにするとともに、レーザ光の照射方向前方に反射鏡を設置して、この反射鏡によって反射されるレーザ光がレーザヘッドに受光されるようにする。そして、X軸サーボモータを駆動して、タレット112をX軸方向に、例えば1mmピッチで移動させるように制御して、その実移動距離を前記レーザ測長器で測定することにより、X軸方向のピッチ誤差量を測定する。また、バックラッシ量については、タレット112のX軸に沿った移動方向を反転させた際の位置決め誤差から算出する。
前記Y’軸送り機構115及びZ軸送り機構130についても同様であり、上述したX軸送り機構125と同様にして、Y’軸送り機構115のピッチ誤差量及びバックラッシ量、並びにZ軸送り機構130のピッチ誤差量及びバックラッシ量をそれぞれ算出する。
また、本例では、前記創成Y軸方向の位置決め精度についても同様に測定する。即ち、まず、前記レーザヘッドを前記タレット112に取り付けて、このレーザヘッドから創成Y軸に沿ってレーザ光が照射されるようにするとともに、レーザ光の照射方向前方に反射鏡を設置して、この反射鏡によって反射されるレーザ光がレーザヘッドに受光されるようにする。
そして、X軸送り機構125及びY’軸送り機構115を同時に駆動,制御して、タレット112を創成Y軸方向に、例えば1mmピッチで移動させるとともに、その実移動距離を前記レーザ測長器で測定して、創成Y軸方向の位置決め誤差を算出する。尚、タレット112のX軸方向の位置は、適宜位置に維持されるよう制御される。
次に、以上のようにして測定されたX軸送り機構125に係るX軸方向のピッチ誤差量及びバックラッシ量、Y’軸送り機構115に係るY’軸方向のピッチ誤差量及びバックラッシ量、並びにZ軸送り機構130に係るピッチ誤差量及びバックラッシ量を基に、これらを補償するための補正量、即ち、X軸方向のピッチ誤差補正量及びバックラッシ補正量、Y’軸方向のピッチ誤差補正量及びバックラッシ補正量、並びにZ軸方向のピッチ誤差補正量及びバックラッシ補正量をそれぞれ算出する。
また、測定された前記創成Y軸方向の位置決め誤差を基に、X−Y平面内における、前記X軸送り機構125の前記X軸方向に沿った真直度を推定し、推定した真直度を基に、その誤差を補償するための補正量を算出する。
上述したように、創成Y軸方向の位置決め誤差は、実質的には、X−Y平面内における、X軸送り機構125のX軸方向に沿った真直度に等しいと言えるものである。したがって、X−Y平面内における、X軸送り機構125のX軸方向に沿った真直度は、創成Y軸の位置決め誤差から推定することができる。この点について、少し詳しく説明する。図5は、補正を行わない状態で測定した創成Y軸の位置決め誤差を表したグラフであるが、その横軸は、創成Y軸方向の位置であり、縦軸は位置決め誤差量である。この横軸に当たる創成Y軸方向の位置は、その性質上、X軸送り機構125におけるX軸方向の位置と、Y’軸送り機構115におけるY’軸方向の位置とによって表わされるものである。よって、創成Y軸の各位置に対応したX軸方向の位置と、その位置決め誤差との対応を採ることで、X軸送り機構125のX軸方向に沿った真直度が表され、このような処理を行うことによって、当該真直度を推定することができる。
そして、本例では、このようにして推定した、X軸送り機構125の前記X軸方向に沿った真直度を基に、その誤差を補償するためのX軸方向の補正量とY’軸方向の補正量とを、X軸についてピッチ誤差補正量を算出したのと同じ各位置について算出する。即ち、Y軸方向の誤差を補償するための補正量は、X軸方向の成分(補正量)と、Y’軸方向の成分(補正量)とに分配されるため、このような処理によって、X軸方向の補正量とY’軸方向の補正量とを算出する。尚、実データが無い場合には、補間処理によって算出する。
そして、以上のようにして算出した、X軸方向における1mmピッチ間隔の各位置における位置補正量、及びバックラッシ補正量、Y’軸方向における1mmピッチ間隔の各位置における位置補正量、及びバックラッシ補正量、並びにZ軸方向における1mmピッチ間隔の各位置における位置補正量、及びバックラッシ補正量を前記補正データ記憶部5内に格納する。
尚、X軸方向の各位置における位置補正量は、X軸方向のピッチ誤差補正量と、X軸の真直度を補償するための補正量とを合算した後、これを前記補正データ記憶部5内に格納する。図2は、このようにして補正データ記憶部5内に格納されるX軸の位置補正量に係るデータテーブルを示しており、テーブル中のX軸補正量は、X軸の真直度を補正する補正量とピッチ誤差補正量とを合算した値であり、Y’軸補正量はX軸の真直度を補正する補正量である。
また、図3には、同じく補正データ記憶部5内に格納されるY’軸の位置補正量(ピッチ誤差補正量)に係るデータテーブルを示し、図4には、同様に補正データ記憶部5内に格納されるZ軸の位置補正量(ピッチ誤差補正量)に係るデータテーブルを示している。
斯くして、以上のようにして、X軸、Y’軸及びZ軸に係る位置補正量及びバックラッシ補正量を補正データ記憶部5内に格納した後、前記制御装置1による制御の下で、旋盤100が制御される。
例えば、前記NCプログラム記憶部2に格納されたNCプログラムに従って加工を実行する場合、まず、プログラム解析部3によりNCプログラム記憶部2から適宜NCプログラムが読み出され、読み出されたNCプログラムがプログラム解析部3により解析されて、各送り軸(X軸、創成Y軸及びZ軸)に関する移動位置及び送り速度などの指令が認識され、認識された移動位置及び送り速度などの指令が位置指令部4に送信される。
前記プログラム解析部3から位置指令部4に、各送り軸に関する移動位置及び送り速度に係る指令が送信されると、当該位置指令部4では、該当する送り軸に関する位置指令を順次生成して、位置補正部6、並びに対応するX軸位置制御部10,Y’軸位置制御部15及びZ軸位置制御部20に送信する。
そして、例えば、位置指令部4においてX軸方向に係る位置指令が生成され、生成された位置指令が位置補正部6及びX軸位置制御部10に送信される場合には、位置補正部6により、その位置に応じたX軸補正量及びY’軸補正量が補正データ記憶部5から読み出され、読み出されたX軸補正量が、X軸位置制御部10に入力される位置指令に加算されるとともに、Y’軸補正量がY’軸位置制御部15に入力される。斯くして、かかる補正によって、X軸のピッチ誤差及び真直度が補正される。
また、位置指令部4において、創成Y軸方向への移動のために、X軸方向及びY’軸方向に係る位置指令が生成される場合には、生成されたX軸方向に係る位置指令が位置補正部6及びX軸位置制御部10に送信されるとともに、Y’軸方向に係る位置指令が位置補正部6及びY’軸位置制御部15に送信される。そして、位置補正部6は、入力されたX軸方向の位置指令に応じた位置のX軸補正量及びY’軸補正量を補正データ記憶部5から読み出して、読み出したX軸補正量を、X軸位置制御部10に入力される位置指令に加算し、Y’軸補正量をY’軸位置制御部15に入力される位置指令に加算するとともに、入力されたY’軸方向の位置指令に応じた位置のY’軸補正量を補正データ記憶部5から読み出して、Y’軸位置制御部15に入力される位置指令に加算する処理を行う。斯くして、かかる補正によって、X軸のピッチ誤差及び真直度が補正され、Y’軸のピッチ誤差が補正される。
また、位置指令部4においてZ軸方向に係る位置指令が生成され、生成された位置指令が位置補正部6及びZ軸位置制御部20に送信される場合には、位置補正部6により、その位置に応じたZ軸補正量が補正データ記憶部5から読み出され、読み出されたZ軸補正量が、Z軸位置制御部20に入力される位置指令に加算される。斯くして、かかる補正によって、Z軸のピッチ誤差が補正される。
尚、NCプログラムにおいて、X軸方向とZ軸方向の移動が同時に指令されている場合や、X軸方向の移動と創成Y軸方向の移動が同時に指令されている場合には、位置指令部4及び位置補正部6において、上述した各処理を複合した処理が実行される。
また、前記位置補正部6は、位置指令部4から入力された位置指令に対応した補正量が前記補正データ記憶部5に格納されていない場合には、補正データ記憶部5に格納されたデータを基に、補間処理によって位置指令に対応した補正量を算出し、算出した補正量をX軸位置制御部10,Y’軸位置制御部15及びZ軸位置制御部20に入力される位置指令の対応するものに加算する処理を行う。
また、前記位置指令部4から入力される位置指令が、その移動方向を反転するものである場合には、前記位置補正部6は、前記補正データ記憶部5から、対応する軸のバックラッシ補正量を読み出して、読み出したバックラッシ補正量を、X軸位置制御部10,Y’軸位置制御部15及びZ軸位置制御部20に入力される位置指令の対応するものに加算する処理を行う。斯くして、かかる補正によって、各軸におけるバックラッシが補正される。
以上詳述したように、本例によれば、X軸送り機構125のX軸方向の位置決めに当たり、タレット112を創成Y軸方向へ位置決めする場合を含めて、X軸送り機構125のX軸方向に沿った、X−Y平面内における真直度に起因した位置決め誤差を補正するようにしているので、従来に比べて、前記真直度を含めたタレット112のX軸方向の位置決め、並びに創成Y軸方向への位置決めを高精度なものとすることができる。
また、X軸、Y’軸及びZ軸の各軸について、ピッチ誤差及びバックラッシ補正を行うようにしているので、各送り軸についての位置決め精度を、より高精度なものとすることができ、また、創成Y軸方向の位置決めも高精度に行うことができる。
図6は、タレット112を、そのX軸の位置を適宜位置に固定した状態で、創成Y軸方向に移動させるべく、前記制御装置1によりX軸サーボモータ126及びY’軸サーボモータ116を駆動,制御して、創成Y軸方向の位置決め精度を測定した結果を表すグラフである。この図6と、前述した図5と比較することによって分かるように、X−Y平面内におけるX軸方向の真直度に係る誤差を補正するようにした本例の位置決め制御方法によれば、創成Y軸方向の位置決め精度を改善することができ、当該創成Y軸方向の位置決めを高精度に行うことができる。
また、図7は、X軸方向の真直度に係る誤差を補正しない場合の、X−Y平面における円弧補間精度(真円度)を測定した結果を示す線図であり、図8は、本例の位置決め制御方法に従って、X軸方向の真直度に係る誤差を補正した場合の、X−Y平面における円弧補間精度(真円度)を測定した結果を示す線図である。尚、円弧補間精度は、所謂ダブルボールバー(DBB)法によって測定した。図7及び図8において、基準円の半径は20μmであり、線図中の一目盛りは2μmである。
図7に示すように、X軸方向の真直度に係る誤差を補正しない場合の円弧補間精度に係る線図は歪みが大きく、当該円弧補間精度は良いものとは言えないが、図8に示すように、X軸方向の真直度に係る誤差を補正することで、円弧補間精度に係る線図は真円に近くなり、当該円弧補間精度が向上する。
このように、本例の制御装置1、並びに位置決め制御方法によれば、X軸送り機構125のX軸方向に沿った、X−Y平面内における真直度に起因した位置決め誤差を補正するようにしているので、前記タレット112のX軸方向の位置決め、並びに創成Y軸方向への位置決めを高精度なものとすることができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例のものに限られるものではない。