本明細書中に示す周期表の族番号は、1989年国際純正応用化学連合会(International Union of Pure Applied Chemistry:IUPAC)による無機化学命名法改訂版による1〜18の族番号表示によるものであり、13族とはアルミニウム(Al)・ガリウム(Ga)・インジウム(In)等を指し、15族とは窒素(N)・リン(P)・ヒ素(As)・アンチモン(Sb)等を指す。
<第1の実施の形態>
<発光素子の概要>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る発光素子10の構成を概略的に示す図である。発光素子10は、いわゆる横型構造を有し、かつ、発光波長の相異なる複数の光を発する多波長発光素子である。
発光素子10は、基板1の一方主面上に、下地層2と、n型導電層3と、複数の活性層を積層してなる活性層群4と、p型導電層5とをこの順に隣接形成させた積層構造を有する。
さらに、p型導電層5の上には、アノード電極層6aとアノード電極パッド6bとからなるアノード電極部6が設けられてなる。また、n型導電層3の一部は露出しており、その露出部分にカソード電極7が設けられてなる。なお、カソード電極7のことをカソード電極パッド7とも称する。
発光素子10は、カソード電極パッド7とアノード電極パッド6bとの間に所定の電圧を印加することで生じる、活性層群4におけるキャリアの再結合による励起発光を、素子外部に向けて出射するものである。
基板1は、サファイア、GaN、SiC、ZnOなどの単結晶基材からなる。基板1のサイズに特段の制限はないが、取り扱いの容易さという点からは、厚みが数百μm〜数mm程度のものが好適である。
このような基板1の上に、MOCVD法などの公知のエピタキシャル成長法によって所定の13族窒化物からなる複数の層を順次にエピタキシャル成長させることで、上述の積層構造を構成する各層が形成されてなる。
下地層2は、その上にエピタキシャル形成されるn型導電層3、活性層群4、p型導電層5の結晶品質を良好なものとするために設けられる層である。下地層2としては、GaNからなる、いわゆる低温バッファ層を、10nm〜50nm程度の厚みに設けるのが、好適な一例である。
n型導電層3は、例えばSiなどのn型のドーパントがドープされた、GaNからなる層である。n型導電層3は、2μm〜5μm程度の厚みに形成されてなるのが好適である。また、Siがn型のドーパントとされる場合、n型導電層3におけるSiの原子濃度は、1×1018/cm3〜1×1019/cm3程度であるのが好適である。
活性層群4は、発光素子10において発光を担う複数の活性層を積層してなる部位である。活性層群4は、2以上の井戸層と2以上の障壁層とを交互に(周期的に)積層してなる多重量子井戸(MQW)構造を有してなるが、本実施の形態においては、活性層群4が、図1に示すように、第1井戸層4a1と障壁層4bとからなる第1活性層Aと、第2井戸層4a2と障壁層4bとからなる第2活性層Bとを交互に(周期的に)積層した構成を有するものとなっており、かつ、第1井戸層4a1と第2井戸層4a2とが、組成の相異なる13族窒化物にて形成されてなる。活性層群4の詳細については後述する。換言すれば、発光素子10においては、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるものとなっている。なお、隣り合う井戸層の組成が異なると言うことは、それぞれの活性層からの発光の発光波長が異なるということである。以下においては、第1活性層Aのことを単にAと表し、第2活性層Bのことを単にBと表すことがある。
p型導電層5は、例えばMgなどのp型のドーパントがドープされた、GaNからなる層である。p型導電層5は、100nm〜300nm程度の厚みに形成されてなるのが好適である。また、Mgがp型のドーパントとされる場合、p型導電層5におけるMgの原子濃度は、1×1019/cm3〜1×1020/cm3程度であるのが好適である。
アノード電極層6aは、p型導電層5の上面に透光性を有するように形成される。アノード電極層6aは、Ni/Au積層膜として形成されてなるのが好適な一例である。アノード電極パッド6bは、係るアノード電極層6aの上面の一部領域にNi/Au積層膜として形成されてなるのが好適な一例である。係る場合においては、アノード電極層6aとなるNi/Au積層膜を構成するNi膜、Au膜の厚みはそれぞれ、5nm〜10nm、10nm〜30nm程度であるのが好ましく、アノード電極パッド6bを構成するNi/Au積層膜を構成するNi膜、Au膜の厚みはそれぞれ、5nm〜10nm、50nm〜200nm程度であるのが好ましい。
カソード電極7は、Ti/Al/Ni/Au多層膜として形成するのが好適である。係る多層膜を構成するTi膜、Al膜、Ni膜、Au膜の厚みは、それぞれ、5nm〜20nm、50nm〜100nm、5nm〜20nm、50nm〜200nm程度であるのが好ましい。
<活性層群の詳細>
本実施の形態に係る発光素子10が備える活性層群4は、上述のように、第1井戸層4a1と障壁層4bとからなる第1活性層Aと、第2井戸層4a2と障壁層4bとからなる第2活性層Bとを交互に積層した構成を有するものとなっている。換言すれば、活性層群4は、障壁層4bを挟んで隣り合う第1井戸層4a1と第2井戸層4a2とが、相異なる発光波長を有する13族窒化物にて形成された構成を有するものとなっている。あるいは、井戸層だけに着目すれば、活性層群4においては、第1井戸層4a1と第2井戸層4a2とが交互に配置されているともいえる。なお、活性層群4の最下層と最上層とはいずれも、障壁層4bとされてなる。
このような構成を有する活性層群4からは、カソード電極パッド7とアノード電極パッド6bとの間に所定の電圧が印加されることによって発光素子10に通電がなされると、第1井戸層4a1から発せられる光と第2井戸層4a2から発せられる光とが放出される。
例えば、第1井戸層4a1が、Inx1Ga1−x1N(0.2≦x1≦0.3)なる組成の13族窒化物にて形成されてなり、第2井戸層4a2が、Inx2Ga1−x2N(0.34≦x2≦0.44)なる組成の13族窒化物にて形成されてなり、障壁層4bが、GaNにて形成されてなるのが、活性層群4の好適な一例である。係る場合、第1井戸層4a1においては波長が435nm以上480nm以下の青色光が発光し、第2井戸層4a2においては波長が500nm以上560nm以下の緑色光が発光する。その結果として、活性層群4全体からは(ひいては発光素子10からは)、それら青色光と緑色光とが合成された光が放出される。
より詳細には、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2はそれぞれ、1nm〜4nm程度の厚みに形成される。係る要件をみたす場合、通電量の違いによらず色度が一定に保たれた発光素子10が、実現される。なお、障壁層4bは5nm〜15nm程度の厚みに形成されるのが好適である。
さらには、第1活性層Aと第2活性層Bとは、第1活性層Aにおける第1井戸層4a1の総厚と第2活性層Bにおける第2井戸層4a2の総厚とがいずれも4nm以上となるように形成される。係る要件をみたす場合、通電量の違いによらず色度が一定に保たれ、かつ、発光効率の優れた発光素子10が、実現される。また、これらの要件は、第1井戸層4a1と第2井戸層4a2の厚みが薄い場合でも、積層数を多くすることで発光効率の優れた発光素子10を実現出来ることを意味している。
ここで、通電量の違いによらず色度が一定に保たれるというのは、発光素子10への通電量を増減させたとしても、第1活性層Aからの発光と第2活性層Bからの発光との光強度バランスがほとんど変化しないために、発光素子10から放出される光の色度が通電量によって変化することがないということである。
一般に、発光素子において通電量を多くした場合、発熱が生じ、キャリアの再結合が活性層のp型層寄りの領域で生じやすくなる。その原因は、発光素子が熱せられることで、p型層側から活性層に注入される正孔の寿命が短くなり、ほとんどの正孔が、活性層のp型層の近傍で電子と再結合してしまうためと考えられる。そのため、仮に、p型層の近傍とn型層の近傍とで活性層を構成する井戸層の組成が異なっており、それゆえ発光波長が異なっている場合、通電量が大きくなると、p型層の近傍に存在する井戸層からの発光が支配的となって、通電量が小さい場合に発光される光からの色度のズレが生じてしまうことがある(図4および図5参照)。
これに対し、本実施の形態に係る発光素子10においては、第1活性層Aと第2活性層Bとを上述のような要件の下で交互に積層してなることで、p型導電層5の近傍のみならず活性層群4のどの領域においても、第1活性層Aと第2活性層Bとが併存している。それゆえに、発光素子10においては、第1活性層Aでの発光と第2活性層Bでの発光とが活性層群4において均等に生じる。これにより、発光素子10においては、通電量が大きく、キャリアの再結合がp型導電層5の近傍で生じやすくなっている場合でも、第1活性層Aからの発光と第2活性層Bからの発光との光強度バランスが、通電量が小さい場合と同じに保たれる。すなわち、通電量が小さい場合と同じ色度の発光が得られる。
なお、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の総厚の上限には特段の制限はないが、実際上は、光出力の飽和や活性層の抵抗値増大や活性層の形成時間増大などの観点から、それらの上限は40nm程度とされるのが好ましい。
<発光素子の作製方法>
次に、本実施の形態に係る発光素子10の作製方法の一例を示す。なお、以下においては、13族窒化物からなる各層を、MOCVD法によって形成するものとする。係る場合においては、Ga原料にはTMG(トリメチルガリウム)を用い、In原料にはTMI(トリメチルインジウム)を用い、N原料にはアンモニアガスを用い、Siドーパント原料にはシランガスを用い、Mgドーパント原料にはCp2Mg(ビズ(シクロペンタジエニル)マグネシウム)ガスを用いるものとする。なお、以下に示す作製方法はあくまで例示であって、発光素子10の作製方法は、必ずしもこれに限られるわけではない。
まず、厚みが数百μm程度の単結晶基材である基板1を用意し、その上に、下地層2として、GaN低温バッファ層を500℃〜600℃の形成温度で形成する。
続いて、下地層2の上に、1000℃〜1100℃の形成温度で、GaNに1×1018/cm3程度〜1×1019/cm3なる原子濃度でSiをドーピングしつつ、n型導電層3をエピタキシャル形成する。
続いて、n型導電層3の上に、650℃〜800℃の形成温度で、活性層群4を形成する。具体的には、それぞれに所望の発光波長に応じた組成を有する13族窒化物からなる第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の形成と、GaNからなる障壁層4bの形成とを、障壁層4b、第1井戸層4a1、障壁層4b、第2井戸層4a2、障壁層4b・・(中略)・・第2井戸層4a1、障壁層4bの順で繰り返すことにより行う。
続いて、活性層群4の上に、950℃〜1050℃の形成温度で、GaNに1×1019/cm3程度〜1×1020/cm3なる原子濃度でMgをドーピングしつつ、p型導電層5を形成する。
このようにして得られた積層構造体に対し、フォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用いて、n型導電層3の一部を露出させる。
続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型導電層3の露出部分に、カソード電極パッド7となるTi/Al/Ni/Au膜を適宜の厚みにパターニングする。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での900℃以上の温度での熱処理を、好ましくは1000℃での熱処理を数十秒間施す。
さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型導電層5の上面に、アノード電極層6aとなるNi/Au膜をパターニングする。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中での600℃の熱処理を数分間施す。
さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、アノード電極層6aの上面の一部領域に、アノード電極パッド6bとなるNi/Au膜をパターニングする。
以上のプロセスを経ることで、発光素子10は作製される。なお実際の製造プロセスは、単結晶基材のウェハを、いわゆる母基板の状態にある基板1として用いることにより、多数の発光素子10を同時に作製する、多数個取りの手法を適用してなされるのが好適である。すなわち、単結晶基材のウェハに、上述の手順にて、各層の形成や、単位パターンが個々の素子の電極をなす電極パターンの形成を行った後、該ウェハをダイサーなどによって所定の素子サイズに個片化(チップ化)することにより、多数個の発光素子10を得ることが出来る。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、n型導電層とp型導電層の間に、2以上の井戸層と2以上の障壁層とからなる活性層を複数積層してなる多重量子井戸構造(活性層群)を設けた発光素子において、それぞれの井戸層の厚みをそれぞれ4nm以下とするとともに、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるように活性層を周期的に積層することで、該発光素子から外部へと放出される、第1活性層から発せられる光と第2活性層から発せられる光との合成光の色度が、通電量によらずに一定に保たれた発光素子が、実現される。
特に、各活性層における井戸層の総厚を4nm以上とすることで、該発光素子から放出される、第1活性層から発せられる光と第2活性層から発せられる光との合成光の色度が、通電量によらずに一定に保たれるとともに、発光効率の優れた発光素子が、実現される。
<第2の実施の形態>
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子110の構成を概略的に示す図である。発光素子110は、いわゆる縦型構造を有し、かつ、発光波長の相異なる複数の光を発する多波長発光素子である。
本実施の形態に係る発光素子110は、基板101の一方主面上に、n型導電層103と、複数の活性層を積層してなる活性層群104と、p型導電層105とをこの順に隣接形成させた積層構造を有する。
さらに、p型導電層5の上には、アノード反射電極106が設けられてなる。また、基板1の、n型導電層103、活性層群104、および、p型導電層105の形成面とは反対側の主面上には、櫛歯状のカソード電極107が設けられてなる。
発光素子110は、カソード電極107とアノード反射電極106との間に所定の電圧を印加することで生じる、活性層群104におけるキャリアの再結合による励起発光を、素子外部に向けて、特に、活性層群104からカソード電極107の設けられた側に向かう向きに、出射するものである。
基板101は、活性層群104から発せられる光に対する吸収能を実質的に有していない材質の単結晶基材からなるのが好適である。例えば、GaN自立基板を用いるのが好適な一例である。基板1のサイズに特段の制限はないが、取り扱いの容易さという点からは、厚みが数百μm〜数mm程度のものが好適である。
このような基板101の上に、MOCVD法などの公知のエピタキシャル成長法によって所定の13族窒化物からなる複数の層を順次にエピタキシャル成長させることで、上述の積層構造を構成する各層が形成されてなる。
n型導電層103、活性層群104、および、p型導電層105の詳細な構成および形成態様(各層の組成や厚み、積層の繰り返しパターンなど)は、それぞれ、第1の実施の形態に係る発光素子10のn型導電層3、活性層群4、および、p型導電層5の形成態様と同じである。それゆえ、詳細な説明は省略する。活性層群104の構成について概略的にいえば、第1井戸層104a1と障壁層104bとが第1活性層Aを構成し、第2井戸層104a2と障壁層104bとが第2活性層Bを構成し、最下層と最上層とは障壁層104bとなっている。
また、アノード反射電極106は、Ag膜にて100nm〜200nm程度の厚みに形成されてなるのが好適な一例である。カソード電極107は、Ti/Al/Ni/Au多層膜にて、かつ、係る多層膜を構成するTi膜、Al膜、Ni膜、Au膜がそれぞれ、5nm〜20nm、50nm〜100nm、5nm〜20nm、50nm〜200nm程度の厚みに形成されてなるのが好適な一例である。これらアノード反射電極106およびカソード電極107は、公知のフォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて形成が可能である。また、それぞれの電極の形成手法に応じて適宜の熱処理等がなされてもよい。
以上のような構成を有する発光素子110は、第1の実施の形態に係る発光素子10と同様、n型導電層103とp型導電層105の間に、井戸層の組成の相異なる第1活性層Aと第2活性層Bと交互に積層した構成を有してなる。それゆえ、発光素子110から放出される、第1活性層Aから発せられる光と第2活性層Bから発せられる光との合成光の色度は、通電量によらずに一定に保たれ、かつ、優れた発光効率が実現されるものとなっている。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様、外部へと放出される光の色度が通電量によらず一定に保たれるとともに、発光効率の優れた発光素子が、実現される。
<第3の実施の形態>
図3は、本発明の第3の実施の形態に係る発光素子210の構成を概略的に示す図である。発光素子210は、第1の実施の形態に係る発光素子10と同様、いわゆる横型構造を有し、かつ、発光波長の相異なる複数の光を発する多波長発光素子であるが、活性層群4の構成が第1の実施の形態に係る発光素子10とは異なっている。
具体的には、図3に示すように、本実施の形態に係る発光素子210の活性層は、第1井戸層4a1と障壁層4bとからなる第1活性層Aと、第2井戸層4a2と障壁層4bとからなる第2活性層Bと、第3井戸層4a3と障壁層4bとからなる第3活性層Cとをこの順に繰り返し積層した構成を有するものとなっている。すなわち、3つの活性層は周期的に積層されてなり、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるものとなっている。換言すれば、井戸層の組成が同じ活性層が隣り合わないようになっている。あるいは、井戸層だけに着目すれば、活性層群4においては、組成の相異なる第1井戸層4a1と第2井戸層4a2と第3井戸層4a3とがこの順に繰り返し配置されているともいえる。なお、活性層群4の最下層と最上層とはいずれも、障壁層4bとされてなる。また、以下においては、第1活性層Aのことを単にAと表し、第2活性層Bのことを単にBと表し、第3活性層Cのことを単にCと表すことがある。
このような構成を有する活性層群4全体からは、互いに波長が相異なる、第1井戸層4a1から発せられる光と第2井戸層4a2から発せられる光と第3井戸層4a3から発せられる光とが合成された光が、放出される。
例えば、第1井戸層4a1が、Inx1Ga1−x1N(0.20≦x1≦0.30)なる組成の13族窒化物にて形成されてなり、第2井戸層4a2が、Inx2Ga1−x2N(0.34≦x2≦0.44)なる組成の13族窒化物にて形成されてなり、第3井戸層4a3が、Inx3Ga1−x3N(0.51≦x3≦0.65)なる組成の13族窒化物にて形成されてなり、障壁層4bが、GaNにて形成されてなるのが、活性層群4の好適な一例である。係る場合、第1井戸層4a1においては波長が435nm以上480nm以下の青色光が発光し、第2井戸層4a2においては波長が500nm以上560nm以下の緑色光が発光する。第3井戸層4a3においては波長が610nm以上750nm以下の赤色光が発光する。その結果として、活性層群4全体からは(ひいては発光素子210からは)、それら青色光と緑色光と赤色光とが合成された白色光が放出される。
より詳細には、第1井戸層4a1、第2井戸層4a2、および、第3井戸層4a3はそれぞれ、1nm〜4nm程度の厚みに形成される。係る要件をみたす場合、通電量の違いによらず色度が一定に保たれた発光素子210が、実現される。なお、障壁層4bは5nm〜15nm程度の厚みに形成されるのが好適である。
さらには、第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとは、第1活性層Aにおける第1井戸層4a1の総厚と第2活性層Bにおける第2井戸層4a2の総厚と第3活性層Cにおける第3井戸層4a3の総厚とがいずれも4nm以上となるように形成される。係る要件をみたす場合、通電量の違いによらず色度が一定に保たれ、かつ、発光効率の優れた発光素子210が実現される。また、これらの要件は、第1井戸層4a1と第2井戸層4a2と第3井戸層4a3の厚みが薄い場合でも、積層数を多くすることで発光効率の優れた発光素子210を実現出来ることを意味している。
具体的にいえば、本実施の形態に係る発光素子210においては、第1活性層Aと第2活性層Bとを第3活性層Cとを上述のような要件の下でこの順に積層した場合、p型導電層5の近傍のみならず活性層群4のどの領域においても、第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとが併存することとなる。係る場合、発光素子210においては、第1活性層Aでの発光と第2活性層Bでの発光と第3活性層Cでの発光とが活性層群4において均等に生じる。これにより、発光素子210においては、通電量が大きく、キャリアの再結合がp型導電層5の近傍で生じやすくなっている場合でも、第1活性層Aからの発光と第2活性層Bからの発光と第3活性層Cからの発光との光強度バランスが、通電量が小さい場合と同じに保たれるようになる。すなわち、通電量が小さい場合と同じ色度の発光が得られる。
なお、白色光における青色光、緑色光、赤色光のバランスをより揃えるという観点からは、図3に示した活性層群4の構成に代えて、第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとを、ACBCACBC・・・のような順序で積層することにより活性層群4を構成するのがより好ましい。これは、青色光と緑色光とに比して赤色光の強度が相対的に弱いという傾向があることを鑑み、第3活性層Cの配置頻度を高めることによって赤色光の強度を増やすことで、より3色の混色のバランスが良い白色光が得られるようにしたものである。係る場合も、3つの活性層の積層態様は周期的であり、かつ、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成は相異なるものとなる。
発光素子210の作製は、活性層群4の形成にあたって、それぞれに所望の発光波長に応じた組成を有する13族窒化物からなる第1井戸層4a1、第2井戸層4a2、第3井戸層4aの形成と、GaNからなる障壁層4bの形成とを、障壁層4b、第1井戸層4a1、障壁層4b、第2井戸層4a2、障壁層4b、第3井戸層4a3、障壁層4b・・(中略)・・第3井戸層4a3、障壁層4bの順で繰り返すことにより行う他は、第1の実施の形態に係る発光素子10と同様の手順および条件で行うことで可能である。
なお、第1井戸層4a1、第2井戸層4a2、および、第3井戸層4a3の総厚の上限には特段の制限はないが、実際上は、光出力の飽和や活性層の抵抗値増大や活性層の形成時間増大などの観点から、それらの上限は40nm程度とされるのが好ましい。
以上、説明したように、本実施の形態によれば、発光波長の異なる3種類の活性層を設ける場合にも、第1の実施の形態と同様、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるように活性層を周期的に積層すること、および、それぞれの井戸層の厚みをそれぞれ4nm以下とすることで、外部へと放出される光の色度が通電量によらず一定に保たれ、かつ、発光効率が優れた発光素子が、実現される。
特に、各活性層における井戸層の総厚を4nm以上とすることで、通電量が変化しても色度が保たれ、かつ、発光効率が優れた発光素子が実現される。
(実施例1)
本実施例では、活性層群4が第1活性層Aと第2活性層Bとからなる点では共通するものの、それぞれに備わる井戸層の厚みや、積層の繰り返しパターンは相異なる、全18種類の発光素子(試料1〜試料18)を作製し、通電量による色度の変化と、発光効率の評価とを行った。
いずれの試料の作製においても、基板1となる母基板として直径が2インチで厚みが430μmのサファイア基板を用意し、MOCVD法によって、下地層2、n型導電層3、活性層群4、p型導電層5となる13族窒化物の結晶層を順次にエピタキシャル形成した。
具体的には、まず、サファイア基板をMOCVD装置内のサセプタに載置したうえで、該サファイア基板を昇温加熱し、基板温度を530℃として、下地層2となるGaN層(GaN低温バッファ層)を40nmの厚みに形成した。次に、基板温度を1050℃として、Si原子濃度が5×1018/cm3になるようにSiをドープしつつGaN層を成長させることにより、n型導電層3となるn−GaN層を3μmの厚みに形成した。
続いて、基板温度を750℃として、活性層群4を構成する複数の13族窒化物層を形成した。係る場合においては、第1井戸層4a1となる結晶層を青色光を発光するIn0.25Ga0.75Nにて形成し、第2井戸層4a2となる結晶層を緑色光を発光するIn0.4Ga0.6Nにて形成し、障壁層4bとなる結晶層をGaNにて形成する点、障壁層4bとなるGaN層の厚みを10nmとする点、および、最下層と最上層とを障壁層4bとする点については全ての試料において共通とした。
その一方で、試料1〜試料8については、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みは試料3を除いて2nmと一定としつつ、第1活性層Aと第2活性層Bとを交互に積層する際の繰り返し回数をそれぞれに違えた。
具体的には、試料1では、第1活性層Aと第2活性層Bとをこの順に1回ずつ形成した。なお、以降、第1活性層Aと第2活性層Bとが交互にかつペアで積層されるという構成については、活性層群4における第1活性層Aと第2活性層Bの形成パターン(繰り返しパターン)を、当該ペアの個数k(kは自然数)を用いてAB×kと表すことや、単にkの値のみを用いて区別することがある。試料1は、k=1であるAB×1の場合に相当する。
また、試料2および試料3では、第1活性層Aのみ2回形成するABAなる構成とした。なお、試料2と試料3の相違は、第1活性層Aに備わる第1井戸層4a1の厚みを、前者は1nmとし、後者は2nmとしたという点である。
さらに、試料4〜8は、それぞれ、k=2、4、6、10、14となるようにパターンを形成した。第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みは全て2nmと一定とした。
試料9については、Aのみを4回積層した後、Bのみを4回積層する、AAAABBBBなる構成にて、活性層群4を形成した。
また、試料10〜14については、k=4とする一方で、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みをそれぞれ、0.5nm、1nm、4nm、6nm、8nmとした。
さらに、試料15〜18については、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みと、ABのペアの個数kの値とを違えつつも、活性層群4に存在する第1井戸層4a1の総厚と第2井戸層4a2の総厚がともに8nmで一定となるようにした。具体的には、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みを試料14から順に0.5nm、1nm、4nm、8nmとする一方、ペアの個数kの値については順に16、8、2、1とした。
以上のような態様での活性層群4となる複数の13族窒化物層群の積層形成に続いて、基板温度を950℃として、Mg原子濃度が1×1019/cm3になるようにMgをドープしつつGaN層を成長させることにより、p型導電層5となるp−GaN層を200nmの厚みに形成した。
その後、得られた積層構造体をMOCVD装置から取り出し、p−GaN層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
次に、フォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、n型導電層3となるn−GaNについて、カソード電極7の形成部分を露出した。
続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n−GaN層の露出部分に、カソード電極7となるTi/Al/Ni/Au多層膜をパターニングした。それぞれの金属膜の厚みは順に15nm、70nm、12nm、60nmとした。その後、カソード電極7のオーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。
さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型導電層5となるp−GaN層の上に、透光性のアノード電極層6aとしてNi/Au積層膜をパターニングした。それぞれの金属膜の厚みは順に6nm、12nmとした。その後、アノード電極層6aのオーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。
続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、アノード電極層6aの上面の一部領域に、アノード電極パッド6bとなるNi/Au積層膜をパターニングした。それぞれの金属膜の厚みは順に5nm、60nmとした。
最後に、積層構造体を切断してチップ化した。以上により、発光素子10が得られた。
得られた試料1〜18の発光素子について、アノード電極パッド6bとカソード電極パッド7との間に通電し、素子から外部に放出される光の色度(xy色度座標系における座標値)を測定した。通電量は10mAと100mAの2水準とした。それぞれの通電量での色度座標(x、y)を(x1、y1)、(x2、y2)と表すこととする。なお、試料9のみ、さらに50mAの場合についても測定を行った。色度は色彩照度計により測定した。また、色度測定により得られた2つ色度座標(x1、y1)、(x2、y2)の値から、両座標間の距離d={(x2−x1)2+(y2−y1)2}1/2を算出し、これを通電量が10mAから100mAに変化したときの色度変化の量とした。
さらには、100mA通電時の発光効率について測定を行った。発光効率は、フォトダイオードで測定した光出力を消費電力で割ることで算出した。
各試料についての、井戸層の厚みと、第1活性層Aと第2活性層Bとの繰り返しパターンと、各活性層についての井戸層の総厚と、色度座標(x1、y1)、(x2、y2)と、色度変化dと、100mA通電時の発光効率とを、表1に示す。なお、発光効率は、試料1の値を1.00として規格化して示している。
まず、通電量の違いによる色度の変化についてみると、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みと第1活性層Aと第2活性層Bの積層数が同じ(それゆえ第1井戸層4a1の総厚と第2井戸層4a2の総厚がともに同じ)で、第1活性層Aと第2活性層Bの積層順序が異なる試料5と試料9とを対比すると、発光効率ほぼ同程度であるものの、試料5では色度変化がなかったのに対して、試料9では大きな色度の変化が生じた。図4は、係る試料9の色度座標の変化をxy色度座標系において表す図である。図5は、試料9の発光強度プロファイルを、最大値をピークとして規格化した図である。
図4に示すように、試料9については、通電量を大きくすると、緑色の色味がより強くなるような色度の変化が生じた。
また、図5に示すように、試料9の発光強度プロファイルは、通電量が10mAの時には波長465nm付近のピークと波長520nm付近のピークとが同程度の強度を示していたのに対して、通電量が50mA、100mAと大きくなるにつれて、前者のピークが相対的に低下していた。前者のピークは、第1活性層Aからの発光に対応するものであることから、表1および図4に示す色度座標の変化をも併せ考えると、試料9の結果は、第1活性層Aを第2活性層Bよりもp型導電層5から遠い位置に設けることによって活性層群4を構成した場合には、通電量が大きくなるにつれ、p型導電層5から近い位置での発光が相対的に支配的となる、ということを意味している。
試料5では試料9とは異なり色度座標の変化が生じなかったのは、それぞれが含む井戸層の組成が異なる第1活性層Aと第2活性層Bとを交互に積層したことで、p型導電層5の近傍にも第1活性層Aが配置されたことの効果であるといえる。
また、第1活性層Aと第2活性層Bとを交互に積層する点で共通するものの第1活性層Aと第2活性層Bの積層数が異なる試料1〜試料8についてみると、いずれの試料においても通電量の違いによる色度変化は生じなかった。このことは、試料5のみならず、試料1〜試料8の全てにおいて、p型導電層5の近傍にも第1活性層Aが配置されたことの効果が現れているものと解される。
また、kの値をいずれも4とする一方で第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みを違えた試料5と試料10〜試料14とを対比すると、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みが4nm以下である試料5および試料10〜試料12では、通電量の違いによる色度の変化は生じなかった。一方で、厚みが6nm以上の試料13および試料14では色度が変化した。係る場合において、これら試料13および試料14における、通電量を大きくしたことによる色度の変化の傾向(xy色度座標系における色度変化の傾向)は、試料9の場合と概ね同様であった。
さらには、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みと、ABのペアの個数kの値とを違えつつも第1井戸層4a1の総厚と第2井戸層4a2の総厚とを8nmとした試料5と試料15〜試料18とを対比すると、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みが4nm以下である試料5および試料15〜試料17では、通電量の違いによる色度の変化は生じなかったが、厚みが8nmの試料18では色度が変化した。
以上の結果からは、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みが4nm以下の試料においてのみ、通電量によらず色度が一定に保たれることが確認された。
なお、試料13、試料14、および試料18において色度変化が生じたのは、p型導電層5に最も近い第2井戸層4a2の厚みが大きい場合、100mA通電時には当該層での発光再結合が支配的になり、第1活性層Aからの発光に比べて第2活性層Bからの発光が相対的に強くなったためであると考えられる。
次に、発光効率についてみると、井戸層の厚みを全て2nmとした試料1および試料3〜試料8の間では違いが生じた。具体的には、第1活性層Aと第2活性層Bのペアの個数kが1である試料1の発光効率が最も低く、kを2以上とすることにより第1井戸層4a1の総厚と第2井戸層4a2の総厚をそれぞれ4nm以上とした試料4〜試料8においては、試料1の2倍以上の高い発光効率が実現された。このような高い発光効率の実現は、多重量子井戸構造を採用した効果であると解される。特に、kが4〜6の時には、試料1の3倍以上の高い発光効率が実現された。
なお、kの値が4より大きくなると発光効率が低下する傾向があるが、これは、第1活性層Aと第2活性層Bの積層数を増やして発光再結合の領域を増やした効果が飽和するとともに、活性層群4の総厚が大きくなることで抵抗成分が増加したことが原因であると考えられる。
また、kの値が同じで第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みを違えた試料5と試料10〜試料14の発光効率は、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の総厚が2nmである試料10を除いて試料1の約2倍あるいはそれ以上となった。さらには、井戸層の厚みと、ABのペアの個数kの値とを違えつつも各活性層の井戸層の総厚を同じ8nmとした試料5と試料15〜試料18との発光効率は全て、試料1の2倍よりも大きかった。
ただし、値が最大となったのは、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みが2nmである試料5であった。これは、第1井戸層4a1および第2井戸層4a2の厚みが大きいほどそれぞれの総厚が増えて発光再結合の領域を増えるので発光効率が大きくなるという傾向がある一方で、当該厚みが大きくなりすぎると、InGaNからなる第1井戸層4a1および第2井戸層4a2とGaNからなる障壁層4bとの格子不整合による結晶性の低下が顕著となってしまうことが理由であると考えられる。このことは、キャリアの閉じ込めに最適な膜厚が2nmであったということを指し示している。
以上の試料1〜試料18の結果は、それぞれが井戸層と障壁層とで構成される複数の活性層が、2以上の井戸層と2以上の障壁層とが交互に配置されるように積層されることで、多重量子井戸構造を構成してなる発光素子において、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるように活性層を周期的に積層するという要件、および、それぞれの井戸層の厚みをそれぞれ4nm以下とするという要件がみたされる場合に、通電量が変化しても色度が保たれる発光素子が得られることを示すとともに、さらに各活性層における井戸層の総厚を4nm以上とするという要件がみたされる場合には、通電量が変化しても色度が保たれ、かつ、発光効率が優れた発光素子が得られることを示している。
(実施例2)
本実施例では、第2の実施の形態に係る縦型構造の発光素子110を作製した。
具体的には、基板101として直径が2インチで厚みが400μmのGaN自立基板を用意し、MOCVD法により、n型導電層103と、活性層群104と、p型導電層105とを、実施例1の試料5と同じ条件で作製した。
さらに、基板101の反対面側(MOCVD法による結晶成長を行っていない側の面)に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、カソード電極107となるTi/Al/Ni/Au多層膜を櫛歯状にパターニングした。それぞれの金属膜の厚みは順に15nm、70nm、12nm、60nmとした。その後、カソード電極7のオーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。
さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型導電層5となるp−GaN層の上に、アノード反射電極106としてのAg電極を200nmの厚みに形成した。
最後に、得られた積層構造体を切断してチップ化した。以上により、発光素子110が得られた。
得られた発光素子110について、実施例1と同様に、色度を測定した。その結果、10mA通電時の色度座標(x1,y1)と100mA通電時の色度座標(x2,y2)はいずれも、(0.14,0.34)であった。当然ながら、色度変化dの値は0であった。すなわち、発光素子101においては、通電量を違えても色度に変化は生じなかった。
また、100mA通電時の発光効率についても実施例1と同様に測定した。その結果は、試料1の値を1.00として規格化した値で3.76となった。すなわち、実施例1のいずれの試料よりも高い発光効率が得られた。これは、GaN自立基板を用いた実施例2の発光素子では、サファイア基板というn型導電層、活性層、および、p型導電層とは組成および構造の異なる異種基板を用いて構成した発光素子に比して格子欠陥が低減されるからであると考えられる。
(実施例3)
本実施例では、活性層群4が第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとからなる点では共通するものの、それぞれに備わる井戸層の厚みや、積層の繰り返しパターンは相異なる、全4種類の発光素子(試料19〜試料22)を作製し、通電量による色度の変化と、発光効率の評価とを行った。活性層群4以外の構成要素については、実施例1と同様の手順にて形成した。
活性層群4の形成は、実施例1と同様、n型導電層3となるn−GaN層の形成に続いて、基板温度を750℃として、活性層群4を構成する複数の13族窒化物層を形成することにより行ったが、係る場合においては、第1井戸層4a1となる結晶層を青色光を発光するIn0.25Ga0.75Nにて形成し、第2井戸層4a2となる結晶層を緑色光を発光するIn0.4Ga0.6Nにて形成し、第3井戸層4a3となる結晶層を赤色光を発光するIn0.55Ga0.45Nにて形成し、障壁層4bとなる結晶層をGaNにて形成する点、全ての井戸層の厚みを2nmとする点、障壁層4bとなるGaN層の厚みを10nmとする点、および、最下層と最上層とを障壁層4bとする点については全ての試料において共通とした。
その一方で、試料19については、第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとをこの順に1回ずつのみ形成した。試料20については、係る順序での第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cの形成を3回繰り返した。
試料21については、Aのみを3回積層した後、Bのみを3回積層し、さらにCのみを3回積層する、AAABBBCCCなる構成にて、活性層群4を形成した。
最後に、試料22については、ACBCACBCACBCなる構成にて活性層群4を形成した。
得られた試料19〜22の発光素子について、実施例1と同様に、色度と発光効率とを測定した。
各試料についての、第1活性層Aと第2活性層Bと第3活性層Cとの繰り返しパターンと、各活性層についての井戸層の総厚と、色度座標(x1、y1)、(x2、y2)と、色度変化dと、100mA通電時の発光効率とを、表2に示す。なお、発光効率は、試料19の値を1.00として規格化して示している。
表2に示すように、試料20および試料22においては、通電量の違いによる色度の変化が生じず、かつ、試料19の2倍以上という高い発光効率が実現された。これに対して、試料9と同様に同一の活性層を連続して積層した試料21については、高い発光効率は同様に得られたものの、通電量によって色度が変化した。
試料20および試料22はともに、隣り合う活性層に存在する井戸層の組成が相異なるように活性層を周期的に積層すること、および、それぞれの井戸層の厚みをそれぞれ4nm以下とする一方で、各活性層における井戸層の総厚を4nm以上とすることという要件をみたしている。このことは、発光波長の異なる3種類の活性層を設ける場合にも、これらの要件をみたすようにすることで、通電量が変化しても色度が保たれ、かつ、発光効率が優れた発光素子が得られることを指し示している。
なお、試料20と試料22の色度座標を比較すると、試料22の色度座標の方が、白色を表す図4の点Eに近かった。このことは、試料22の方が、青色、緑色、および、赤色がよりバランスした白色発光が得られていることを意味している。