以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程(ステップ)、工程の順序等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
(実施の形態1)
以下、実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1及びその製造方法について、図面を用いて説明する。
[1−1.薄膜トランジスタの構成]
まず、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の断面図である。
図1に示すように、薄膜トランジスタ1は、酸化物半導体膜をチャネルとして用いる酸化物半導体TFTであって、基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁層30と、プラズマ処理層31と、酸化物半導体層40と、絶縁層50と、ソース電極60S及びドレイン電極60Dとを備える。本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1は、チャネル保護型でボトムゲート型のTFTであり、また、サイドコンタクト構造を有している。
以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の各構成要素について詳述する。
基板10は、絶縁材料からなる絶縁基板であり、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス又は高耐熱性ガラス等のガラス材料で構成されるガラス基板である。
なお、基板10は、ガラス基板に限らず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の樹脂材料からなる樹脂基板等であってもよい。また、基板10は、リジッド基板ではなく、フレキシブルガラス基板又はフレキシブル樹脂基板等のシート状又はフィルム状の可撓性を有するフレキシブル基板であってもよい。フレキシブル樹脂基板としては、例えば、ポリイミドやポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム材料の単層又は積層で構成された基板を用いることができる。なお、基板10の表面にアンダーコート層を形成してもよい。
ゲート電極20は、金属等の導電性材料又はその合金等からなる所定形状の導電膜の単層構造又は多層構造の電極であり、基板10の上方に配置される。ゲート電極20の膜厚は、例えば、20nm〜500nmである。
ゲート電極20の材料としては、例えば、モリブデン、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、マンガン、クロム、タンタル、ニオブ、銀、金、プラチナ、パラジウム、インジウム、ニッケル、ネオジム等の金属、又は、これらの中から選ばれる金属の合金(モリブデンタングステン等)が用いられる。
なお、ゲート電極20の材料は、これらに限るものではなく、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物、又は、ポリチオフェンやポリアセチレン等の導電性高分子材料等を用いることもできる。
ゲート絶縁層30は、ゲート電極20と酸化物半導体層40との間に配置される層である。本実施の形態において、ゲート絶縁層30は、ゲート電極20の上方に位置するように配置される。例えば、ゲート絶縁層30は、ゲート電極20が形成された基板10上の全面にゲート電極20を覆うように成膜される。ゲート絶縁層30の膜厚は、例えば、50nm〜500nmである。
ゲート絶縁層30は、電気絶縁性を有する材料から構成され、一例として、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、シリコン酸窒化膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜又は酸化ハフニウム膜等の単層膜、あるいは、これらの膜を複数積層した積層膜である。
プラズマ処理層31は、ゲート絶縁層30の上方の面にアンモニアプラズマ処理を施すことにより形成された窒化された絶縁層である。プラズマ処理層31は、アンモニアプラズマ処理により窒化された緻密な構造を有する。これにより、プラズマ処理層31上に酸化物半導体膜を成膜する際の、プラズマ処理層31へのスパッタダメージが軽減される。したがって、酸化物半導体膜を高パワーでスパッタリングすることが可能となる。これにより、酸化物半導体膜を高パワースパッタリングによって緻密に成膜できるため、酸化物半導体膜の欠陥を減少させることができる。すなわち、薄膜トランジスタ1の閾値シフトを抑制できる。なお、アンモニアプラズマ処理については、後述する。
酸化物半導体層40は、酸化物半導体から構成される所定形状の層であり、薄膜トランジスタ1のチャネルとして用いられる。酸化物半導体層40は、ゲート電極20の上方であって、プラズマ処理層31上に配置される。例えば、酸化物半導体層40は、プラズマ処理層31上に島状に形成される。本実施の形態において、酸化物半導体層40は、薄膜トランジスタ1のチャネル層である。つまり、酸化物半導体層40は、ゲート絶縁層30(及びプラズマ処理層31)を挟んでゲート電極20と対向するチャネル領域を含む半導体層である。本実施の形態では、酸化物半導体層40の膜厚は、50nm〜120nmである。なお、当該膜厚については後述する。
酸化物半導体層40は、少なくともインジウム(In)を含み、移動度が10cm2/Vsより高い酸化物半導体から構成される。本実施の形態においては、酸化物半導体層40の材料には、透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)が用いられており、酸化物半導体層40を構成する金属元素には、インジウム(In)及びタングステン(W)が含まれている。つまり、本実施の形態に係る酸化物半導体層40は、In及びWを含む酸化物半導体(In−W−O)からなるIWO膜である。
絶縁層50は、酸化物半導体層40上に配置される。具体的には、絶縁層50は、酸化物半導体層40上に島状に形成される。絶縁層50の膜厚は、例えば、50nm〜500nmである。
本実施の形態において、絶縁層50は、酸化物半導体層40のチャネル領域を保護する保護膜(チャネル保護層)として機能する。具体的には、絶縁層50は、酸化物半導体層40の上方に形成するソース電極60S及びドレイン電極60Dをエッチングによってパターニングする際に、酸化物半導体層40がエッチングされることを防止するエッチストッパ層として機能する。これにより、ボトムゲート型TFTにおいて、酸化物半導体層40のバックチャネル側のプロセスダメージを低減することができる。
絶縁層50は、電気絶縁性を有する材料から構成され、一例として、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜又は酸化アルミニウム膜等の単層膜、あるいは、これらの積層膜である。
シリコン酸化膜は、シリコン窒化膜と比べて成膜時における水素の発生が少ない。したがって、絶縁層50としてシリコン酸化膜を用いることによって、水素還元による酸化物半導体層40の性能劣化を抑制できる。さらに、絶縁層50として酸化アルミニウム膜を形成することによって、上層で発生する水素や酸素を酸化アルミニウム膜によってブロックすることができる。これらのことから、絶縁層50としては、例えば、シリコン酸化膜、酸化アルミニウム膜及びシリコン酸化膜の3層構造の積層膜を用いるとよい。
なお、絶縁層50の材料としては、上記のような無機物に限るものではなく、有機物を主成分とする材料を用いてもよい。
ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、絶縁層50の上方に少なくとも一部が位置し、かつ、酸化物半導体層40と接続されるように所定形状で形成される。具体的には、ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、絶縁層50上においては基板10に水平な方向(基板水平方向)に離間して互いに対向して配置されており、かつ、酸化物半導体層40の上面及び側面に接続されている。酸化物半導体層40上におけるソース電極60S及びドレイン電極60Dの膜厚は、例えば、100nm〜500nmである。
ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、導電性材料又はその合金等からなる導電膜の単層構造又は多層構造の電極である。ソース電極60S及びドレイン電極60Dの材料には、例えば、アルミニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、銀、銅、チタン又はクロム等が用いられる。一例として、ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、下から順に、モリブデン膜(Mo膜)、銅膜(Cu膜)及び銅マンガン合金膜(CuMn膜)が形成された3層構造の電極である。
保護層70は、ソース電極60S及びドレイン電極60D上に配置される絶縁膜である。具体的には、保護層70は、絶縁層50、ソース電極60S及びドレイン電極60Dを覆うようにソース電極60S及びドレイン電極60Dの上に成膜される。保護層70の膜厚は、例えば、50nm〜500nmである。
保護層70は、電気絶縁性を有する材料から構成され、一例として、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜又は酸化アルミニウム膜等の単層膜、あるいは、これらの積層膜である。
[1−2.薄膜トランジスタの製造方法]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法について、図面を用いて説明する。以下では、まず、当該製造方法の全工程の概要について説明した後、薄膜トランジスタ1の閾値シフトを抑制するための工程及び閾値シフトに与える影響の大きい工程における、閾値シフトを抑制するための諸条件について詳細に説明する。
[1−2−1.製造方法の全工程の概要]
まず、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法の全工程の概要について、図2A及び図2Bを用いて説明する。図2A及び図2Bは、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法における各工程の断面図である。
まず、図2Aの断面図(a)に示すように、基板10を準備し、基板10の上方に所定形状のゲート電極20を形成する。例えば、基板10上に金属膜をスパッタ法によって成膜し、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いて金属膜を加工することにより、所定形状のゲート電極20を形成する。なお、ゲート電極20を形成する前に、基板10の表面にシリコン酸化膜等のアンダーコート層を形成してもよい。
次に、図2Aの断面図(b)に示すように、基板の上方にゲート絶縁層30を成膜する。本実施の形態では、ゲート電極20を覆うように基板10上の全面にゲート絶縁層30を成膜する。なお、基板10の表面にアンダーコート層が形成されている場合には、アンダーコート層上にゲート絶縁層30を成膜する。
ゲート絶縁層30は、例えば、シリコン酸化膜である。この場合、シランガス(SiH4)及び亜酸化窒素ガス(N2O)を導入ガスに用いて、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によってシリコン酸化膜を成膜することができる。
ゲート絶縁層30は、単層膜でもよいが、積層膜としてもよい。例えば、ゲート絶縁層30として、シリコン窒化膜とシリコン酸化膜とを順に成膜した積層膜を用いることができる。シリコン窒化膜は、例えば、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)及び窒素ガス(N2)を導入ガスに用いて、プラズマCVD法によって成膜することができる。
次に、図2Aの断面図(c)に示すように、ゲート絶縁層30上にアンモニアプラズマ200を照射して、プラズマ処理層31を形成する。当該処理は、ゲート絶縁層30の酸化物半導体層40との界面を窒化することによって、当該界面の構造を緻密化するための処理である。当該処理により、酸化物半導体膜40aをスパッタリングによって成膜する際の、当該界面に対するスパッタダメージを軽減することができる。したがって、酸化物半導体膜40aを高パワーで成膜することが可能となり、より緻密で欠陥の少ない酸化物半導体膜40aを成膜することができる。すなわち、薄膜トランジスタ1の閾値シフトを抑制することができる。
プラズマ処理時の基板温度は、200℃以上、400℃以下とする。また、当該基板温度は、ゲート絶縁層30の成膜温度と同程度でもよい。これにより、ゲート絶縁層30の成膜、及び、アンモニアプラズマ処理を、同一のチャンバ内で連続的に行うことができる。また、基板温度の変更に要する時間も必要ないので、プロセス時間を短くすることができる。なお、その他の処理条件などについては後述する。
次に、図2Aの断面図(d)に示すように、基板10の上方に、少なくともインジウムを含み、移動度が10cm2/Vsより高い酸化物半導体膜40aをスパッタリングにより成膜する。本実施の形態では、プラズマ処理層31の上に、In及びWを含む酸化物半導体(In−W−O)からなるTAOSで構成された酸化物半導体膜40a(IWO膜)をスパッタリングによって成膜する。
より具体的には、スパッタリングターゲットとして、酸化インジウム(In2O3)に酸化タングステン(WO3)を添加した酸化物半導体(In−W−O)を用いて、真空チャンバ内に不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを流入するとともに反応性ガスとして酸素(O2)を含むガスを流入し、所定のパワー密度の電圧をターゲット材に印加する。これにより、プラズマ処理層31の上にIWO膜からなる酸化物半導体膜40aを成膜することができる。なお、ターゲット材(In−W−O)に含まれる酸化タングステン(WO3)の添加量は、0.1wt%〜10wt%である。ここで、酸化物半導体膜40aは、薄膜トランジスタ1の閾値シフトを抑制するために、欠陥の少ない緻密な構造となるように成膜される。なお、酸化物半導体膜40aのその他の成膜条件などについては後述する。
次に、図2Aの断面図(e)に示すように、酸化物半導体膜40aを所定の形状に加工することで、所定形状の酸化物半導体層40を形成する。
例えば、酸化物半導体膜40aは、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いて所定形状の酸化物半導体層40に加工することができる。具体的には、まず、酸化物半導体膜40a上にレジストを形成して、少なくともゲート電極20に対向する位置にレジストを残すように当該レジストを加工する。そして、レジストが形成されていない領域の酸化物半導体膜40aをエッチングによって除去する。これにより、ゲート電極20に対向する位置を含むように島状の酸化物半導体層40を形成することができる。
なお、酸化物半導体膜40aがIWO膜である場合、エッチング液としては、例えば、リン酸(H3PO4)、硝酸(HNO3)、酢酸(CH3COOH)及び水を混合した薬液を用いればよい。
次に、図2Bの断面図(a)に示すように、酸化物半導体層40の少なくとも一部の上に絶縁膜50aを成膜する。本実施の形態では、酸化物半導体層40を覆うようにしてプラズマ処理層31上の全面に絶縁膜50aを成膜する。
絶縁膜50aは、例えば、シリコン酸化膜である。この場合、シランガス(SiH4)及び亜酸化窒素ガス(N2O)を導入ガスに用いて、プラズマCVD法によってシリコン酸化膜を成膜することができる。ここで、絶縁膜50aと酸化物半導体層40との界面、及び、絶縁膜50a内における欠陥によって、薄膜トランジスタ1の閾値シフトが促進されるため、絶縁膜50aは、欠陥が少ない緻密な構造となるような温度で成膜される。当該温度については後述する。
次に、図2Bの断面図(b)に示すように、酸化物半導体層40の一部を露出させるように、絶縁膜50aを所定の形状に加工することによって、所定形状の絶縁層50を形成する。本実施の形態では、絶縁膜50aのうち、酸化物半導体層40の上方の一部以外を除去することによって酸化物半導体層40の一部を露出させる。具体的には、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によって絶縁膜50aの一部をエッチング除去することによって、酸化物半導体層40のソースコンタクト領域及びドレインコンタクト領域となる領域を露出させる。
例えば、絶縁膜50aがシリコン酸化膜である場合、反応性イオンエッチング(RIE)法によるドライエッチング法によってシリコン酸化膜の一部を除去することができる。この場合、エッチングガスとしては、例えば、四フッ化炭素(CF4)及び酸素ガス(O2)を用いることができる。
次に、図2Bの断面図(c)に示すように、絶縁層50上に導電膜60aを成膜する。本実施の形態では、Mo膜とCu膜とCuMn膜との三層構造の導電膜60aを絶縁層50上に成膜する。この場合、絶縁層50及び酸化物半導体層40を覆うように、Mo膜とCu膜とCuMn膜とをスパッタ法によって順に成膜する。
次に、図2Bの断面図(d)に示すように、導電膜60aを加工して、所定形状のソース電極60S及びドレイン電極60Dを形成する。本実施の形態では、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法によって、Mo膜、Cu膜及びCuMn膜の積層膜をパターニングする。これにより、所定形状のソース電極60S及びドレイン電極60Dを形成することができる。
なお、Mo膜、Cu膜及びCuMn膜の積層膜のエッチング液としては、例えば、過酸化水素水(H2O2)及び有機酸を混合した薬液を用いることができる。
次に、図2Bの断面図(e)に示すように、ソース電極60S及びドレイン電極60Dの上に保護層70を形成する。本実施の形態では、絶縁層50、ソース電極60S及びドレイン電極60Dを覆うようにしてソース電極60S及びドレイン電極60Dの上の全面に保護層70を成膜する。
保護層70は、例えば、シリコン酸化膜である。この場合、シランガス(SiH4)及び亜酸化窒素ガス(N2O)を導入ガスに用いて、プラズマCVD法によってシリコン酸化膜を成膜することができる。
以上のようにして、図1に示す構成の薄膜トランジスタ1を製造することができる。
[1−2−2.アンモニアプラズマ処理条件]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法におけるアンモニアプラズマ処理条件について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、ゲートに正バイアスを与えた場合の閾値シフト(ΔVth)と各処理条件との関係を、実験計画法によって求めた結果を示す要因効果図である。ここで、図3には、図1に示す薄膜トランジスタ1と同様の薄膜トランジスタのゲート絶縁層30の上面に対するアンモニアプラズマ処理の各処理条件(要因)を変えて実験を繰り返した場合の閾値シフトを示す。また、図3において、一点鎖線によって、全実験結果の平均閾値シフトを表す。なお、当該実験においては、酸化物半導体層がIGZOから構成される(すなわち、IGZOをチャネルとして用いる)薄膜トランジスタを用いた。これは、発明者らが、インジウムを含む酸化物半導体をチャネルとして用いる薄膜トランジスタにおいては、アンモニアプラズマ処理等と閾値シフトとの関係に関して、添加されるインジウム以外の金属元素に依存せず、ほぼ同様の傾向を示すことを見出したためである。したがって、IGZOをチャネルとして用いる薄膜トランジスタのみならず、IWO及びその他のインジウムを含む酸化物半導体をチャネルとして用いる薄膜トランジスタにおいても図3に示す関係と同様の関係が得られると推測される。
図3に示す要因効果図では、要因として、アンモニアプラズマ処理の時間(処理時間)、処理を行うチャンバ内の処理中の圧力、基板10の単位面積当たりのパワー密度及びNH3流量を選択している。以下、各処理条件の好適な範囲について説明する。
まず、処理時間について、図3に示すように、ゲート絶縁層30の表面の構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、処理時間は30秒以上であればよい。ただし、処理時間が長過ぎる場合には、ゲート絶縁層30へのダメージが発生する場合がある。さらに、製造におけるタクトタイムを抑制することも考慮してもよい。以上の点を考慮すると、処理時間は150秒以下であればよい。したがって、処理時間は、30秒以上、150秒以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、処理時間を、40秒以上としてもよい。
次に、圧力について、図3に示すように、ゲート絶縁層30の表面の構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、圧力は133Pa以下であればよい。ただし、圧力が低過ぎる場合には、プラズマ放電を維持できないため、圧力は40Pa以上である必要がある。したがって、圧力は、40Pa以上、133Pa以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、圧力を117Pa以下としてもよい。
次に、基板の単位面積当たりの投入電力であるパワー密度について、図3に示すように、ゲート絶縁層30の表面の構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、パワー密度は0.145W/cm2以上であればよい。ただし、パワー密度が高過ぎる場合には、異常放電が発生し得るため、パワー密度は0.364W/cm2以下である必要がある。したがって、パワー密度は、0.145W/cm2以上、0.364W/cm2以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、パワー密度を0.154W/cm2以上としてもよい。
次に、基板の単位面積当たりのNH3流量について、図3に示すように、ゲート絶縁層30の表面の構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、NH3流量は0.273sccm/cm2以下であればよい。ただし、NH3流量が低過ぎる場合には、プラズマ放電を維持できないため、NH3流量は0.091sccm/cm2以上である必要がある。したがって、NH3流量は、0.091sccm/cm2以上、0.273sccm/cm2以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、NH3流量を0.211sccm/cm2以下としてもよい。
[1−2−3.酸化物半導体膜の成膜条件]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法における酸化物半導体膜40aの成膜条件について、図4を用いて詳細に説明する。図4は、ゲートに正バイアスを与えた場合の閾値シフト(ΔVth)と各成膜条件との関係を、実験計画法によって求めた結果を示す要因効果図である。ここで、図4には、図1に示す薄膜トランジスタ1と同様の薄膜トランジスタの酸化物半導体膜の各成膜条件(要因)を変えて実験を繰り返した場合の閾値シフトを示す。また、図4において、一点鎖線によって、全実験結果の平均閾値シフトを表す。なお、当該実験においても、上記図3と同様に、酸化物半導体層がIGZOから構成される薄膜トランジスタを用いた。
図4に示す要因効果図では、要因として、酸化物半導体膜の膜厚(半導体膜厚)、成膜時の導入ガス中の酸素分圧、成膜圧力及びパワー密度を選択している。なお、ここで、成膜圧力とは、成膜処理を行うチャンバ内の成膜処理中の圧力である。以下、各処理条件の好適な範囲について説明する。
まず、酸化物半導体膜40aの膜厚について、図4に示すように、酸化物半導体膜40aの構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、膜厚は50nm以上であればよい。ただし、膜厚が大き過ぎる場合には、酸化物半導体膜の結晶化が発生し得るため、膜厚は、120nm以下である必要がある。したがって、膜厚は、50nm以上、120nm以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、膜厚を65nm以上としてもよい。
次に、導入ガス中の酸素分圧について、図4に示すように、酸化物半導体膜40aの構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、酸素分圧は10%以下であればよい。ただし、酸素分圧が小さ過ぎる場合には、キャリア濃度が大きくなり過ぎて、半導体としての動作に支障を来たすため、酸素分圧は、1%以上である必要がある。したがって、酸素分圧は、1%以上、10%以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、酸素分圧を7%以下としてもよい。
次に、成膜圧力について、図4に示すように、酸化物半導体膜40aの構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、成膜圧力は0.45Pa以下であればよい。ただし、成膜圧力が小さ過ぎる場合には、放電限界を超えることから、成膜圧力は、0.2Pa以上である必要がある。したがって、成膜圧力は、0.2Pa以上、0.45Pa以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、成膜圧力を0.42Pa以下としてもよい。
次に、パワー密度について、図4に示すように、酸化物半導体膜40aの構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、パワー密度は0.09W/cm2以上であればよい。ただし、パワー密度が大き過ぎる場合には、異常放電が発生し得るため、パワー密度は、0.364W/cm2以下である必要がある。したがって、パワー密度は0.09W/cm2以上、0.364W/cm2以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、パワー密度を0.145W/cm2以上としてもよい。
[1−2−4.絶縁層の成膜条件]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法における絶縁層50の成膜条件について、図5を用いて詳細に説明する。図5は、ゲートに正バイアスを与えた場合の閾値シフト(ΔVth)と成膜温度との関係を、実験計画法によって求めた結果を示す要因効果図である。ここで、図5には、図1に示す薄膜トランジスタ1と同様の薄膜トランジスタの絶縁層の各成膜条件(要因)を変えて実験を繰り返した場合の閾値シフトを示す。また、図5において、一点鎖線によって、全実験結果の平均閾値シフトを表す。なお、当該実験においても、上記図3と同様に、酸化物半導体層がIGZOから構成される薄膜トランジスタを用いた。
図5に示す要因効果図では、要因として、成膜温度を選択している。以下、成膜温度の好適な範囲について説明する。
成膜温度について、図5に示すように、絶縁層50の酸化物半導体層40との界面の構造を緻密化することによって閾値シフトを抑制するためには、成膜温度は245℃以上であればよい。ただし、成膜温度が高過ぎる場合には、酸化物半導体層40の結晶化が発生し得るため、成膜温度は、300℃以下である必要がある。したがって、成膜温度は、245℃以上、300℃以下であればよい。さらに、閾値シフトが全実験結果の平均以下となるように、成膜温度を250℃以上としてもよい。
[1−3.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法は、酸化物半導体膜40aをチャネルとして用いる薄膜トランジスタ1の製造方法である。そして、当該製造方法では、基板10の上方に、少なくともインジウムを含み、移動度が10cm2/Vsより高い酸化物半導体膜40aを、スパッタリングにより成膜する工程を含む。ここで、酸化物半導体膜40aを成膜する工程において、成膜圧力が0.2Pa以上、0.45Pa以下であり、導入ガス中の酸素分圧が1%以上、10%以下であり、スパッタリングのパワー密度が0.09W/cm2以上、0.364W/cm2以下であり、酸化物半導体膜40aの膜厚が50nm以上、120nm以下となるように成膜する。
これにより、少なくともインジウムを含み、移動度が10cm2/Vsより高い酸化物半導体膜40aを緻密に成膜することができるため、薄膜トランジスタ1の閾値シフトが抑制される。すなわち、移動度が高い酸化物半導体をチャネルとして用い、かつ、信頼性が高い薄膜トランジスタ1の製造方法を提供することができる。また、上記の成膜条件によれば、酸化物半導体膜40aの結晶化が抑制されるため、特性ばらつきの増加、または移動度の低下、あるいはキャリア密度増加による半導体としての動作不良が発生を抑制することができる。
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法では、酸化物半導体膜40aの少なくとも一部の上に、245℃以上、300℃以下の成膜温度で絶縁膜50aを成膜する工程をさらに含む。
これにより、絶縁膜50aの酸化物半導体膜40aとの界面の構造が緻密化されて、欠陥が軽減されるため、薄膜トランジスタ1の閾値シフトがより一層抑制される。また、上記成膜温度で絶縁膜50aを成膜する場合、酸化物半導体膜40aの結晶化が抑制されるため、特性ばらつきの増加、または移動度の低下、あるいはキャリア密度増加による半導体としての動作不良の発生を抑制することができる。
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法では、酸化物半導体膜40aを成膜する前に、基板10の上方に、ゲート絶縁層30を成膜する工程と、ゲート絶縁層30にアンモニアプラズマ処理を行う工程をさらに含み、酸化物半導体膜40aを成膜する工程において、アンモニアプラズマ処理が行われたゲート絶縁層30(すなわち、プラズマ処理層31)上に酸化物半導体膜40aを成膜する。ここで、アンモニアプラズマ処理を行う工程において、処理時間は、30秒以上、150秒以下であり、圧力は、40Pa以上、133Pa以下であり、アンモニアプラズマ処理のパワー密度は、0.145W/cm2以上、0.364W/cm2以下であり、アンモニア流量は、0.091sccm/cm2以上、0.273sccm/cm2以下である。
これにより、ゲート絶縁層30の酸化物半導体膜40aとの界面の構造が緻密化されて、欠陥が軽減されるため、薄膜トランジスタ1の閾値シフトがより一層抑制される。また、上記処理条件でゲート絶縁層30を処理する場合、酸化物半導体膜40aの結晶化が抑制されるため、特性ばらつきの増加、または移動度の低下、あるいはキャリア密度増加による半導体としての動作不良の発生を抑制することができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る薄膜トランジスタ2及びその製造方法について、図面を用いて説明する。上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1では、チャネル保護型の構成が採用されたが、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2では、チャネルエッチ型の構成が採用される。
以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2及びその製造方法について、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1及びその製造方法との相違点を中心に説明し、共通する構成及び製造工程については、説明を省略する。
[2−1.薄膜トランジスタの構成]
まず、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の構成について、図6を用いて説明する。図6は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の断面図である。
図6に示すように、薄膜トランジスタ2は、酸化物半導体をチャネルとする酸化物半導体TFTであって、基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁層30と、プラズマ処理層31と、酸化物半導体層40と、ソース電極60S及びドレイン電極60Dとを備える。本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2は、チャネルエッチ型でボトムゲート型のTFTであり、また、サイドコンタクト構造を有している。
図6に示すように、薄膜トランジスタ2は、酸化物半導体層40とソース電極60S及びドレイン電極60Dとの間に絶縁層50を備えない点において、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1と相違し、その他の点において一致する。
薄膜トランジスタ2の各層の構成については、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1の各層の構成と同様であるため、説明を省略する。
[2−2.薄膜トランジスタの製造方法]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の製造方法における各工程の断面図である。
以下、各層の形成方法が、上記実施の形態1と同様であるものについては、詳細な形成方法の説明を省略する。
まず、図7の断面図(a)〜(e)に示すように、上記実施の形態1と同様に、基板10上に、順に、ゲート電極20、ゲート絶縁層30、プラズマ処理層31及び酸化物半導体層40(酸化物半導体膜40a)を形成する。なお、本実施の形態においても、実施の形態1と同様のアンモニアプラズマ処理の処理条件、及び、酸化物半導体膜40aの成膜条件を用いる。
次に、図7の断面図(f)に示すように、酸化物半導体層40上に導電膜60aを成膜する。本実施の形態では、酸化物半導体層40を覆うように、プラズマ処理層31上の全面に導電膜60aを成膜する。本実施の形態でも、上記実施の形態1と同様に、Mo膜とCu膜とCuMn膜との三層構造の導電膜60aを絶縁層50上に成膜する。
次に、図7の断面図(g)に示すように、導電膜60aを加工して、所定形状のソース電極60S及びドレイン電極60Dを形成する。導電膜60aの加工方法は、上記実施の形態1の導電膜60aの加工方法と同様である。
次に図7の断面図(h)に示すように、ソース電極60S及びドレイン電極60Dの上に保護層70を形成する。本実施の形態では、酸化物半導体層40、ソース電極60S及びドレイン電極60Dを覆うようにしてソース電極60S及びドレイン電極60Dの上の全面に保護層70を成膜する。保護層70の成膜方法は、上記実施の形態1の保護層70の成膜方法と同様である。ただし、保護層70は、酸化物半導体層40上に形成される層であるため、酸化物半導体層40との界面及び保護層70の内部の欠陥が少なく緻密な構造となるように、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1の絶縁膜50aと同様に245℃以上、300℃以下の温度で成膜される。さらに、上記実施の形態1と同様に、成膜温度を250℃以上としてもよい。
以上のようにして、図6に示す構成の薄膜トランジスタ2を製造することができる。
[2−3.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の製造方法は、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1の製造方法と同様のアンモニアプラズマ処理条件、酸化物半導体膜40aの成膜条件を用いる。また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の製造方法において、酸化物半導体膜40a上に成膜される保護層70の成膜温度は、上記実施の形態1に係る製造方法の絶縁層50の成膜温度と同じく、245℃以上、300℃以下である。
これにより、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ2の製造方法によっても、上記実施の形態1に係る製造方法と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3に係る薄膜トランジスタ3及びその製造方法について、図面を用いて説明する。上記実施の形態1及び2に係る薄膜トランジスタ1及び2では、ボトムゲート型の構成が採用されたが、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3では、トップゲート型の構成が採用される。
以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3及びその製造方法について、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1及びその製造方法との相違点を中心に説明し、共通する構成及び製造工程については、説明を省略する。
[3−1.薄膜トランジスタの構成]
まず、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の断面図である。
図8に示すように、薄膜トランジスタ3は、酸化物半導体をチャネルとする酸化物半導体TFTであって、基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁層30と、プラズマ処理層31と、酸化物半導体層40と、絶縁層50と、ソース電極60S及びドレイン電極60Dとを備える。本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3は、トップゲート型のTFTであり、また、トップコンタクト構造を有している。
以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の各構成要素について詳述する。なお、特記しない限り、各構成要素を構成する材料等は、上記実施の形態1の各構成要素と同様である。
薄膜トランジスタ3の構成要素のうち、基板10及び保護層70は、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1のそれらと同様である。
酸化物半導体層40は、基板10の上方に所定形状で形成される。例えば、酸化物半導体層40は、基板10上に島状に形成される。本実施の形態においても、酸化物半導体層40は、薄膜トランジスタ3のチャネル層である。つまり、酸化物半導体層40は、プラズマ処理層31及びゲート絶縁層30を挟んでゲート電極20と対向するチャネル領域を含む半導体層である。酸化物半導体層40の膜厚は、例えば、50nm〜120nmである。
プラズマ処理層31は、酸化物半導体層40の上方に所定形状で形成される。例えば、プラズマ処理層31は、酸化物半導体層40上に島状に形成される。プラズマ処理層31は、上記実施の形態1と同様に電気絶縁性の材料にアンモニアプラズマ処理を施すことによって形成される。プラズマ処理層31の膜厚は、3nm〜10nm程度である。
ゲート絶縁層30は、プラズマ処理層31の上方に所定形状で形成される。例えば、ゲート絶縁層30は、プラズマ処理層31上に、プラズマ処理層31と同様の形状に形成される。ゲート絶縁層30の膜厚は、例えば、50nm〜500nmである。
ゲート電極20は、ゲート絶縁層30の上方に所定形状で形成される。例えば、ゲート電極20は、ゲート絶縁層30上に、ゲート絶縁層30と同様の形状に形成される。ゲート電極20の膜厚は、例えば、20nm〜500nmである。
絶縁層50は、ゲート電極20の上方に形成される。例えば、絶縁層50は、ゲート電極20を覆うように、基板10上の全面に成膜される。絶縁層50の膜厚は、例えば、50nm〜500nmである。
また、絶縁層50には、その一部を貫通するように開口部(コンタクトホール)が形成されている。この絶縁層50の開口部を介して、酸化物半導体層40とソース電極60S及びドレイン電極60Dとが接続されている。
ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、絶縁層50の上方に少なくとも一部が位置し、かつ、酸化物半導体層40と接続されるように所定形状で形成される。具体的には、ソース電極60S及びドレイン電極60Dは、絶縁層50上においては基板10に水平な方向(基板水平方向)に離間して互いに対向して配置されており、かつ、絶縁層50に形成された開口部を介して酸化物半導体層40に接続されている。絶縁層50上におけるソース電極60S及びドレイン電極60Dの膜厚は、例えば、100nm〜500nmである。
[3−2.薄膜トランジスタの製造方法]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の製造方法について、図9A及び図9Bを用いて説明する。図9A及び図9Bは、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の製造方法における各工程の断面図である。
以下、各層の形成方法が、上記実施の形態1と同様であるものについては、詳細な形成方法の説明を省略する。
まず、図9Aの断面図(a)に示すように、基板10を準備し、基板10の上方に所定形状の酸化物半導体層40を形成する。なお、本実施の形態においても、上記実施の形態1と同様の成膜条件を用いて、酸化物半導体膜を成膜し、当該酸化物半導体膜を加工することによって、酸化物半導体層40を形成する。
次に、図9Aの断面図(b)に示すように、酸化物半導体層40の上方に、絶縁膜32aを形成する。本実施の形態では、酸化物半導体層40上に、膜厚3nm〜10nmのシリコン酸化膜を成膜する。絶縁膜32aの成膜方法は、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1のゲート絶縁層30と同様である。ただし、絶縁膜32aは、酸化物半導体層40上に形成される膜であるため、酸化物半導体層40との界面及び絶縁膜32aの内部の欠陥が少なく緻密な構造となるように、絶縁膜32aは上記実施の形態1に係る絶縁膜50aと同様に245℃以上、300℃以下の温度で成膜される。
次に、図9Aの断面図(c)に示すように、絶縁膜32a上にアンモニアプラズマ200を照射して、プラズマ処理膜31aを形成する。アンモニアプラズマ処理の処理条件は、上記実施の形態1に係る処理条件と同様である。
次に、図9Aの断面図(d)に示すように、プラズマ処理膜31aの上方に、ゲート絶縁膜30aを形成する。本実施の形態では、プラズマ処理膜31a上の全面にゲート絶縁膜30aを成膜する。ゲート絶縁膜30aの成膜方法は、上記実施の形態1に係るゲート絶縁層30の成膜方法と同様である。
次に、図9Aの断面図(e)に示すように、ゲート絶縁膜30aの上方に導電膜20aを形成する。本実施の形態では、ゲート絶縁膜30a上の全面に、金属膜から構成される導電膜20aをスパッタ法によって成膜する。
次に、図9Aの断面図(f)に示すように、導電膜20aを加工して、酸化物半導体層40と対向する位置に所定形状のゲート電極20を形成する。例えば、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いて金属膜を加工することにより、所定形状のゲート電極20を形成する。
次に、図9Aの断面図(g)に示すように、ゲート絶縁膜30a及びプラズマ処理膜31aのうち、ゲート電極20で覆われていない部分を除去して、それぞれゲート絶縁層30及びプラズマ処理層31を形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によってゲート絶縁膜30aのうちゲート電極20に覆われていない部分をエッチング除去することによって、ゲート絶縁層30を形成する。
例えば、ゲート絶縁膜30a及びプラズマ処理膜31aがシリコン酸化膜である場合、反応性イオンエッチング(RIE)法によるドライエッチング法によって、シリコン酸化膜のうちゲート電極20に覆われていない部分を除去することができる。この場合、エッチングガスとしては、例えば、四フッ化炭素(CF4)及び酸素ガス(O2)を用いることができる。
次に、図9Bの断面図(a)に示すように、ゲート電極20の上方に絶縁層50を形成する。本実施の形態では、ゲート電極20及び酸化物半導体層40を覆うようにして、基板10上の全面に絶縁層50を成膜する。
次に、図9Bの断面図(b)に示すように、酸化物半導体層40の一部を露出させるように、絶縁層50にコンタクトホールを形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によって絶縁層50の一部をエッチング除去することによって、酸化物半導体層40のソースコンタクト領域及びドレインコンタクト領域となる領域上にコンタクトホール(開口部)を形成する。
次に、図9Bの断面図(c)に示すように、絶縁層50上に導電膜60aを成膜する。本実施の形態では、Mo膜とCu膜とCuMn膜との三層構造の導電膜60aを絶縁層50に形成したコンタクトホールを埋めるようにして、絶縁層50上に成膜する。この場合、絶縁層50を覆うように、Mo膜とCu膜とCuMn膜とをスパッタ法によって順に成膜する。
次に、図9Bの断面図(d)に示すように、導電膜60aを加工して、所定形状のソース電極60S及びドレイン電極60Dを形成する。本実施の形態では、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法によって、Mo膜、Cu膜及びCuMn膜の積層膜をパターニングする。これにより、所定形状のソース電極60S及びドレイン電極60Dを形成することができる。
次に、図9Bの断面図(e)に示すように、ソース電極60S及びドレイン電極60Dの上に保護層70を形成する。本実施の形態では、ソース電極60S及びドレイン電極60Dを覆うようにして絶縁層50上の全面に保護層70を成膜する。
以上のようにして、図8に示す構成の薄膜トランジスタ3を製造することができる。
[3−3.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の製造方法は、上記実施の形態1に係る薄膜トランジスタ1の製造方法と同様の成膜条件で、酸化物半導体層40が成膜される。また、酸化物半導体層40上に成膜される絶縁膜32aの成膜温度は245℃以上、300℃以下である。
また、酸化物半導体層40上に成膜された膜厚3nm〜10nmの薄い絶縁膜32aに、上記実施の形態1と同様のアンモニアプラズマ処理が行われることにより、絶縁膜32aの酸化物半導体層40との界面の構造が緻密化されて、欠陥が軽減される。
これにより、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ3の製造方法によっても、上記実施の形態1に係る製造方法と同様の効果を得ることができる。
(表示装置)
次に、上記各実施の形態に係る薄膜トランジスタを表示装置に適用した例について、図10を用いて説明する。なお、本実施の形態では、有機EL表示装置への適用例について説明する。
図10は、実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。上記各実施の形態に係る薄膜トランジスタは、有機EL表示装置におけるアクティブマトリクス基板のスイッチング素子又は駆動素子として用いることができる。
図10に示すように、有機EL表示装置100は、複数個の薄膜トランジスタが配置されたTFT基板(TFTアレイ基板)110と、下部電極(反射電極)である陽極131、EL層(発光層)132及び上部電極(透明電極)である陰極133からなる有機EL素子(発光部)130との積層構造により構成される。
本実施の形態に係るTFT基板110には、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ1を用いている。TFT基板110には複数の画素120がマトリクス状に配置されており、各画素120には画素回路が設けられている。
有機EL素子130は、複数の画素120のそれぞれに対応して形成されており、各画素120に設けられた画素回路によって各有機EL素子130の発光の制御が行われる。有機EL素子130は、複数の薄膜トランジスタを覆うように形成された層間絶縁層(平坦化膜)の上に形成される。
また、有機EL素子130は、陽極131と陰極133との間にEL層132が配置された構成となっている。陽極131とEL層132との間にはさらに正孔輸送層が積層形成され、EL層132と陰極133との間にはさらに電子輸送層が積層形成されている。なお、陽極131と陰極133との間には、その他の機能層が設けられていてもよい。EL層132をはじめ陽極131と陰極133との間に形成される機能層は、有機材料によって構成された有機層である。
各画素120は、それぞれの画素回路によって駆動制御される。また、TFT基板110には、画素120の行方向に沿って配置される複数のゲート配線(走査線)140と、ゲート配線140と交差するように画素120の列方向に沿って配置される複数のソース配線(信号配線)150と、ソース配線150と平行に配置される複数の電源配線(図12では省略)とが形成されている。各画素120は、例えば直交するゲート配線140とソース配線150とによって区画されている。
ゲート配線140は、各画素回路に含まれるスイッチング素子として動作する第1薄膜トランジスタのゲート電極と行毎に接続されている。ソース配線150は、第1薄膜トランジスタのソース電極と列毎に接続されている。電源配線は、各画素回路に含まれる駆動素子として動作する第2薄膜トランジスタのドレイン電極と列毎に接続されている。
ここで、画素120における画素回路の一例について、図11を用いて説明する。図11は、実施の形態に係る有機EL表示装置における画素回路の一例の構成を示す電気回路図である。なお、画素回路は、図11に示す構成に限定されるものではない。
図11に示すように、画素回路は、スイッチング素子として動作する第1薄膜トランジスタSwTrと、駆動素子として動作する第2薄膜トランジスタDrTrと、対応する画素120に表示するためのデータを記憶するキャパシタCとで構成される。本実施の形態において、第1薄膜トランジスタSwTrは、画素120を選択するためのスイッチングトランジスタであり、第2薄膜トランジスタDrTrは、有機EL素子130を駆動するための駆動トランジスタである。
第1薄膜トランジスタSwTrは、ゲート配線140に接続されるゲート電極G1と、ソース配線150に接続されるソース電極S1と、キャパシタC及び第2薄膜トランジスタDrTrのゲート電極G2に接続されるドレイン電極D1と、酸化物半導体層(図示せず)とを備える。第1薄膜トランジスタSwTrは、接続されたゲート配線140及びソース配線150に所定の電圧が印加されると、当該ソース配線150に印加された電圧がデータ電圧としてキャパシタCに保存される。
第2薄膜トランジスタDrTrは、第1薄膜トランジスタSwTrのドレイン電極D1及びキャパシタCに接続されるゲート電極G2と、電源配線160及びキャパシタCに接続されるドレイン電極D2と、有機EL素子130の陽極131に接続されるソース電極S2と、酸化物半導体層(図示せず)とを備える。第2薄膜トランジスタDrTrは、キャパシタCが保持しているデータ電圧に対応する電流を電源配線160からソース電極S2を通じて有機EL素子130の陽極131に供給する。これにより、有機EL素子130では、陽極131から陰極133へと駆動電流が流れてEL層132が発光する。
なお、上記構成の有機EL表示装置100では、ゲート配線140とソース配線150との交点に位置する画素120毎に表示制御を行うアクティブマトリクス方式が採用されている。これにより、各画素120における第1薄膜トランジスタSwTr及び第2薄膜トランジスタDrTrによって、対応する有機EL素子130が選択的に発光し、所望の画像が表示される。
以上、本実施の形態に係るTFT基板110には、上記実施の形態に係る薄膜トランジスタ1が用いられているので、表示性能に優れた有機EL表示装置を実現できる。
(その他変形例等)
以上、薄膜トランジスタ及びその製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記各実施の形態に係る薄膜トランジスタでは、酸化物半導体膜40aを構成する酸化物半導体材料として、IWO(In−W−O)だけを例示したが、これに限定されない。少なくともインジウムを含み、移動度が10cm2/Vsより高い酸化物半導体材料であればよい。例えば、In−O、In−Ga−O、In−Sn−O、Ta−In−Zn−O、In−Al−O、In−Ge−O、In−Sn−Zn−O、Hf−In−Zn−O、Zr−In−Zn−O、In−W−Zn−O、In−Si−O、In−Zn−O、In−Ti−O、などを用いてもよい。
また、上記各実施の形態に係る薄膜トランジスタは、有機EL表示装置に適用する例について説明したが、上記実施の形態及び変形例における薄膜トランジスタは、液晶表示装置等の他の表示装置にも適用することもできる。
この場合、有機EL表示装置(有機ELパネル)や液晶表示装置等の表示装置は、フラットパネルディスプレイとして利用することができる。例えば、有機EL表示装置は、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ又は携帯電話等、あらゆる電子機器の表示パネルとして利用することができる。
その他、各実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。