以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
図1は、電圧と誘電正接との関係を示す図である。図1の横軸は、電圧であり、その縦軸は、誘電正接である。図2は、布設された電力ケーブルに対する測定回路およびその等価回路を示す回路図である。図2(A)は、測定回路を示し、図2(B)は、等価回路を示す。図3は、図2に示す測定回路のベクトル図である。図4は、図2に示す測定回路を近似した等価回路を示す回路図である。図5は、第1比較例における測定回路およびその等価回路を示す回路図である。図6は、第2比較例における測定回路およびその等価回路を示す回路図である。図7は、第3比較例における測定回路およびその等価回路を示す回路図である。図5(A)、図6(A)および図7(A)それぞれは、測定回路を示し、図5(B)、図6(B)および図7(B)それぞれは、等価回路を示す。
まず、本願発明者は、電圧と誘電正接との関係について、検討および実験を行った。実験では、三宝電機株式会社堺技術研究所の受電ケーブルが用いられた。この受電ケーブル(電力ケーブル)は、6.6kV用の三芯のCVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)であり、断面積38mm2、ケーブル長20m、1984年製であった。この受電ケーブルに対し、2014年7月に、交流60Hzにおいて200V、1kV、3kVの各電圧をそれぞれ印加して、低圧測定では総研電気株式会社製のDAC−MD−1の測定装置によって、高圧測定では株式会社双興電機製作所製のTA−1020の測定装置によって、三芯一括測定で誘電正接が測定された。その結果が図1に示されている。なお、図1には、測定値(●)に加えて、低圧測定では測定装置のカタログより求められた低圧側測定精度範囲および光圧測定では測定装置の校正データより求められた高圧側測定範囲も図示されている。図1から分かるように、低圧200Vでの誘電正接は、0.30であり、高圧1kVでの誘電正接は、0.3であり、高圧3kVでの誘電正接は、0.3であった。このように電力ケーブルの誘電正接は、印加電圧の電圧値にほとんど依存しない。したがって、電力ケーブルの誘電正接は、高圧交流で測定した場合と、低圧交流で測定した場合とで略同等である。このため、電力ケーブルに対する誘電正接の測定は、高圧交流に代え、低圧交流で実施されてもよい。
次に、解結線の点が検討された。電力ケーブルの劣化を誘電正接で診断する場合、従来、布設された電力ケーブルの端部に取り付けられている、例えば通称「はご板」と呼ばれる金属板状の接続用品(端子部品)から電力ケーブルが外され、前記電力ケーブルの端部が測定器に取り付けられ、前記電力ケーブルのみの状態で誘電正接が測定される。このため、従来では、解結線(取り外しおよび取り付け)が必要となり、例えば、3相交流の電力ケーブルを測定しようとすると、6箇所の解結線が必要となる。特に、取り付けがボルト締め等で施工されているだけでなく、テープで被覆されていると、解結線により手間がかかる。この解結線を不要とするためには、系統に布設された状態のままで電力ケーブルを前記系統から電気的に分離する必要がある。例えば送電系統や配電系統等の電力系統(系統)には、通常、例えば点検、修理の際の全停電や事故の波及等を防止するために断路器(DS(Disconnecting Swicth))、開閉器(PAS(Pole mounted Air Switch)、UGS(Underground Gas Switch)、LBS(Load Break Switch)等)および遮断器(VCB(Vacuum Circuit Breaker)等)等が設けられている。このような断路器、開閉器および遮断器等の装置(以下、「分離装置」と呼称する。)を利用することによって、電力ケーブルは、系統から電気的に分離され得る。そこで、この分離装置を利用した測定回路が種々検討された。これら検討された各態様の各測定回路が図2、図5、図6および図7にそれぞれ示されている。これら各測定回路を比較、検討すると、図2に示す測定回路は、図5ないし図7に示す各測定回路に対し、第1に、シースが接地されているので、誘導ノイズに対し耐性があり、測定誤差が低減できること(より高精度に測定できること)、第2に、シースの切り離しが不要であり、測定時間(診断時間)の短縮化が図れること(より短い時間で測定できること)、第3に、等価回路のパラメータが少ないこと(測定項目が少なく、有効桁数を揃え易いこと)、という利点を持つ。このため、図2に示す測定回路が誘電正接の測定回路として採用された。すなわち、本実施形態における測定回路は、図2(A)に示すように、シースを接地した電力ケーブルSPであって系統に布設された状態のままでその両端部側に配設された分離装置SW1、SW2によって前記系統から電気的に分離された前記電力ケーブルSPに対し、シース(接地)と線心(線芯)の導体との間に測定器を接続する回路である。
次に、この図2(A)に示す測定回路で測定される電力ケーブルの誘電正接が検討された。図2(A)に示す測定回路には、上述から分かるように、電力ケーブルSPの他に、電力ケーブルSPの布設箇所から、分離装置SW1、SW2それぞれまでの間に、前記電力ケーブルSPを除く他のものも含まれる。より具体的には、前記電力ケーブルSPを除く前記他のものとして、例えば、電力ケーブルSPの一方端部から分離装置SW1までの間に、他の電力ケーブルや当該分離装置SW1等があり、そして、電力ケーブルSPの他方端部から分離装置SW2までの間に、他の電力ケーブルや当該分離装置SW2等がある。このため、図2(A)に示す測定回路では、例えば市販されているような誘電正接を測定する一般的な誘電正接測定器が前記測定器として接続され、前記誘電正接測定器で誘電正接が測定された場合、その測定値には、前記電力ケーブルの成分の他に前記電力ケーブルを除く前記他のものの成分も含まれる。したがって、この誘電正接測定器による測定結果を、前記他のものの成分を考慮して補正することによって、電力ケーブルSPのみの誘電正接がより正確に求められる。
この観点から、まず、図2(A)に示す測定回路の等価回路を考える。電力ケーブルSPは、静電容量C1の第1コンデンサ11と抵抗値R1の第1抵抗素子21とを並列に接続した第1並列回路で等価的に表すことができ、第1および第2分離装置SW1、SW2等の当該測定回路における電力ケーブルSPを除く他のもの(以下、「開閉器類」と呼称する。)は、対地静電容量C2の第2コンデンサ12と抵抗値R2の第2抵抗素子22とを並列に接続した第2並列回路で等価的に表すことができる。したがって、図2(A)に示す測定回路は、図2(B)に示すように、これら第1並列回路と第2並列回路とを並列に接続した第3並列回路で等価的に表すことができる。すなわち、測定回路の等価回路は、第1コンデンサ11と、第1抵抗素子21と、第2コンデンサ12と、第2抵抗素子22とを備え、これら第1コンデンサ11、第1抵抗素子21、第2コンデンサ12および第2抵抗素子22は、互いに並列に接続されている。
図2に示す測定回路における電圧Vに対する電流Iは、ベクトル図で図3に示すように表される。すなわち、図2および図3において、第1コンデンサ11、第1抵抗素子21、第2コンデンサ12および第2抵抗素子22それぞれに流れる各電流をiC1、iR1、iC2、iR2とすると、測定回路の電流ベクトルIは、測定回路の電圧ベクトルVを基準に、(iR1、iC1)のベクトルi1に(iR2、iC2)のベクトルi2を加えた(iR1+iR2、iC1+iC2)となる。
ここで、電力ケーブルSPの静電容量C1と開閉器類の静電容量C2とを比較すると、一般に、電力ケーブルSPの静電容量C1がナノファラッドオーダー(nFオーダー)である一方で開閉器類の静電容量C2がピコファラッドオーダー(pFオーダー)であり、C1≫C2であるから、静電容量C1に対し静電容量C2は、無視可能である。したがって、図2(B)に示す測定回路の等価回路は、図4に示す回路で近似できる。すなわち、図4に示す回路(以下、「近似回路」と呼称する。)は、第1コンデンサ11と、第1抵抗素子21と、第2抵抗素子22とを備え、これら第1コンデンサ11、第1抵抗素子21および第2抵抗素子22は、互いに並列に接続されている。
そして、例えば、静電容量が100nFであって誘電正接が0.01%である新品の電力ケーブルにおける等価抵抗は、100/(ω×C×tanδ)≒265MΩと計算され、新品の電力ケーブルにおける絶縁抵抗(直流測定での抵抗値)が数百MΩとは考え難いので、電力ケーブルSPの抵抗値R1は、誘電分極によるインピーダンスであると考えられる。一方、開閉器類の抵抗値R2は、直流測定でも交流測定でも略同一な値を示す純然たる抵抗(実抵抗)である。したがって、直流による抵抗測定では、抵抗値R1は、測定されず、すなわち、抵抗値R2が測定されると考えられる。
以上から、直流による抵抗測定の測定結果をR2とすれば、図4に示す近似回路から、開閉器類の誘電正接は、100/(ω×C1×R2)[%]と求められる。したがって、図2に示す測定回路における誘電正接測定器の測定結果をtanδmとし、その測定における周波数をfとする場合に、角周波数ω=2πfであり、電力ケーブルの誘電正接tanδSPは、tanδm−100/(ω×C1×R2)[%]として求められる(tanδSP=tanδm−100/(ω×C1×R2)[%])。
以上の検討から、本実施形態における誘電正接測定装置およびこれに実装された誘電正接測定方法、ならびに、前記誘電正接測定装置および該方法を用いた電力ケーブル診断装置および該方法は、次のように構成された。
図8は、実施形態における電力ケーブル診断装置の構成を示すブロック図である。図9は、実施形態の電力ケーブル診断装置における誘電正接と診断との関係を示す図である。図10は、実施形態における電力ケーブル診断装置の動作を示すフローチャートである。
図8において、本実施形態における電力ケーブル診断装置Dは、誘電正接測定装置Mと、処理部4の劣化演算部43とを備える。誘電正接測定装置Mは、抵抗測定部1と、静電容量測定部2と、誘電正接測定部3と、処理部4の誘電正接演算部42とを備え、図8に示す例では、さらに処理部4の制御部41、入力部5と、出力部6と、インターフェース部(以下、「IF部」と略記する。)7とを備える。なお、制御部41、誘電正接演算部42および劣化演算部43は、処理部4に機能的に構成されている。
抵抗測定部1は、直流でメガオーム(MΩ)オーダー以上の抵抗値を測定できる装置である。抵抗測定部1の測定精度を設定するために、種々の静電容量の電力ケーブルに対し、測定した誘電正接を種々の補正割合で補正する場合について、開閉器類の抵抗値R2が見積もられた。その結果が表1に示されている。表1には、一例として、静電容量200、150、100、50、20、10、5[nF]の各電力ケーブルに対し、測定した誘電正接tanδmを0.01、0.05、0.1、0.2[%]だけ補正する各場合における開閉器類の各抵抗値R2[MΩ]が示されている。なお、表1には、各静電容量の電力ケーブルを断面積60sq[mm2]の電力ケーブルに換算した場合におけるケーブル長[m]も示されている。例えば、静電容量200[nF]の電力ケーブルは、断面積60sq[mm2]の電力ケーブルに換算した場合、ケーブル長が541[m]であり、この静電容量200[nF]の電力ケーブルに対し、誘電正接測定部3で測定された誘電正接tanδmを0.01[%]だけ補正すると仮定した場合、開閉器類の抵抗値R2は、抵抗測定部1によって133[MΩ]の測定値が得られると見積もられ、前記誘電正接tanδmを0.05[%]だけ補正すると仮定した場合、開閉器類の抵抗値R2は、抵抗測定部1によって27[MΩ]の測定値が得られると見積もられ、前記誘電正接tanδmを0.1[%]だけ補正すると仮定した場合、開閉器類の抵抗値R2は、抵抗測定部1によって13[MΩ]の測定値が得られると見積もられ、そして、前記誘電正接tanδmを0.2[%]だけ補正すると仮定した場合、開閉器類の抵抗値R2は、抵抗測定部1によって0.7[MΩ]の測定値が得られると見積もられる。また例えば、静電容量5[nF]の電力ケーブルは、断面積60sq[mm2]の電力ケーブルに換算した場合、ケーブル長が14[m]であり、この静電容量5[nF]の電力ケーブルに対し、誘電正接測定部3で測定された誘電正接tanδmを0.01、0.05、0.1および0.2[%]だけそれぞれ補正すると仮定した場合、開閉器類の抵抗値R2は、抵抗測定部1によって5305、1061、531および27[MΩ]の各測定値が得られると見積もられる。表1では、開閉器類の抵抗値R2は、0.7〜5305[MΩ]と見積もられ、したがって、抵抗測定部1は、数千メガオームオーダー以上の抵抗値を測定できればよい。このような抵抗測定部1として、例えば、測定対象に直流1000Vを印加することで前記測定対象の抵抗値を数千メガオームオーダー以上(数ギガオーム(GΩ)オーダー以上)で、好ましくは2千メガオームオーダー以上(2ギガオームオーダー以上)で測定できる市販のディジタル抵抗計(例えば日置電気株式会社製のIR−40051や三和電気計器製MG−1000等)が利用できる。抵抗測定部1は、処理部4に接続され、測定結果(第1測定結果)を処理部4へ出力する。
静電容量測定部2は、例えば200V等の低圧交流で静電容量を測定できる装置である。静電容量測定部2は、処理部4に接続され、測定結果(第2測定結果)を処理部4へ出力する。誘電正接測定部3は、例えば200V等の低圧交流で誘電正接を測定できる装置である。誘電正接測定部3は、処理部4に接続され、測定結果(第3測定結果)を処理部4へ出力する。これら静電容量測定部2および誘電正接測定部3は、個別の装置でそれぞれ構成されても良いが、誘電正接を測定する誘電正接測定器には、静電容量も測定する機能を備えている装置も市販されているので、静電容量測定部2および誘電正接測定部3は、一体の装置で構成されても良い。このような装置として、例えば総研電気株式会社製のDAC−ASM−5CやDAC−MD−1等が利用できる。
なお、抵抗測定部1、静電容量測定部2および誘電正接測定部3が一体の装置で構成されても良い。
そして、これら抵抗測定部1、静電容量測定部2および誘電正接測定部3それぞれは、シースを接地した電力ケーブルSPであって系統に布設された状態のままで前記系統から電気的に分離された前記電力ケーブルSPに対し、各測定を実施する。電力ケーブルSPは、線状の導体を絶縁体およびシースで覆うことによって構成されている。より具体的には、一例では、電力ケーブルSPは、絶縁体で導線を被覆した線心をさらにシースで覆ったものである。電力ケーブルSPは、単心であってよく、また、多心であってもよい。
入力部5は、処理部4に接続され、例えば、測定開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば測定対象の電力ケーブルSPにおける識別子の入力等の測定する上で必要な各種データを電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)に入力する機器であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ等である。出力部6は、処理部4に接続され、処理部4の制御に従って、入力部5から入力されたコマンドやデータ、および、電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)によって診断や測定された各結果を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCDおよび有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
なお、入力部5および出力部6からタッチパネルが構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部5は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部6は、表示装置である。タッチパネルでは、表示装置の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置を触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)に入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)が提供される。
IF部7は、処理部4に接続され、処理部4の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS−232Cのインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。
なお、抵抗測定部1、静電容量測定部2および誘電正接測定部3それぞれは、IF部7を介して処理部4に接続されても良い。
処理部4は、電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)の各部を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、電力ケーブルSPの誘電正接を求め、この求めた誘電正接に基づいて絶縁性能に関する前記電力ケーブルSPの劣化の程度を診断するものである。処理部4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、このCPUによって実行される種々のプログラムやその実行に必要なデータ等を予め記憶するROM(Read Only Memory)やEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の不揮発性記憶素子、このCPUのいわゆるワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等の揮発性記憶素子およびその周辺回路等を備えたマイクロコンピュータによって構成される。なお、処理部4は、抵抗測定部1、静電容量測定部2および誘電正接測定部3それぞれから出力される第1ないし第3測定結果等を記憶するために、例えばハードディスク等の比較的大容量の記憶装置をさらに備えてもよい。そして、処理部4には、プログラムを実行することによって、機能的に、制御部41、誘電正接演算部42および劣化演算部43が構成される。
制御部41は、電力ケーブルSPの誘電正接および電力ケーブルSPの劣化の程度を求めるために、電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)の各部を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するものである。
誘電正接演算部42は、誘電正接測定部3の第3測定結果を、抵抗測定部1の第1測定結果および静電容量測定部2の第2測定結果に基づいて補正することによって、電力ケーブルSPの誘電正接を求めるものである。より具体的には、誘電正接演算部42は、例えば、第1ないし第3測定結果それぞれをR(=R2)、C(=C1)、tanδmとし、静電容量測定部2および誘電正接測定部3の測定で用いた低圧交流の周波数をfとし、ω=2πfとする場合に、tanδm−100/(ωCR)[%]を電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPとして求める(tanδSP=tanδm−100/(ωCR)[%])。
劣化演算部43は、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに基づいて、絶縁性能に関する電力ケーブルSPの劣化の程度を求めるものである。より具体的には、例えば、電力ケーブルSPの劣化の程度は、誘電正接tanδを予め設定された1または複数の閾値Thによって複数に区分けした誘電正接tanδの各区分で表されており、劣化演算部43は、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを前記予め設定された1または複数の閾値Thと比較することによって、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに対応する区分を、電力ケーブルSPの劣化の程度として求める。一例では、例えば、図9に示すように、誘電正接tanδが3個の閾値Th1、Th2、Th3(Th1<Th2<Th3)で区分けされる。劣化演算部43は、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPとこれら3個の閾値Th1、Th2、Th3それぞれとを相互に比較する。そして、この比較の結果、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPが0以上Th1未満である場合(0≦tanδSP<Th1)には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度として、電力ケーブルSPに劣化が認められない「良好域」と判定する。前記比較の結果、前記誘電正接tanδSPがTh1以上Th2未満である場合(Th1≦tanδSP<Th2)には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度として、今後も劣化の程度を定期的に観察すべきである「経過観察域」と判定する。前記比較の結果、前記誘電正接tanδSPがTh2以上Th3未満である場合(Th2≦tanδSP<Th3)には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度として、電力ケーブルSPの取り替えを計画すべきである「取替計画域」と判定する。そして、前記比較の結果、前記誘電正接tanδSPがTh3以上である場合(Th3≦tanδSP)には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度として、電力ケーブルSPを速やかに取り替えるべきである「取替推奨域」と判定する。なお、図9に示す例では、Th1=0.2[%]、Th2=0.6[%]、Th3=2[%]である。
なお、上述では、3個の閾値Th1、Th2、Th3によって劣化の程度が「良好域」、「経過観察域」、「取替計画域」および「取替推奨域」の4段階に区分されたが、これに限定されるものではない。例えば、1個の閾値Th11によって劣化の程度が「良好域」および「不良域(取替推奨域)」の2段階に区分されて良く、また例えば、2個の閾値Th21、Th22によって劣化の程度が「良好域」、「要注意(経過観察域)」および不良域(取替推奨域)」の3段階に区分されて良い。さらに、例えば、4個以上の閾値によって劣化の程度が区分されても良い。
また、図9には、誘電正接の経年変化予測も3個(一点鎖線β1、破線β2、実線β3)図示されている。この一点鎖線で示す誘電正接の経年変化予測線β1は、10年の経過ごとに誘電正接が2倍劣化すると予測した場合の予測線であり、破線で示す誘電正接の経年変化予測線β2は、10年の経過ごとに誘電正接が3倍劣化すると予測した場合の予測線であり、実線で示す誘電正接の経年変化予測線β3は、これら経年変化予測線β1と経年変化予測線β2との中間線である。
このような電力ケーブル診断装置D(誘電正接測定装置M)は、次のように、電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPおよび電力ケーブルSPの劣化の程度を求める。
まず、診断対象(測定対象)の電力ケーブルSPに対し、診断(測定)の準備が実施される。より具体的には、図2に示すように、電力ケーブルSPにおける各端部側に配設されている分離装置SW1、SW2が開状態(オフ状態)とされ、電力ケーブルSPが系統に布設された状態のままで前記系統から電気的に分離される。なお、電力ケーブルSPは、そのシースが接地されているものとする。
そして、診断(測定)が開始されると、図10において、まず、診断対象(測定対象)の電力ケーブルSPに対し、抵抗が高圧の直流で測定される(S1)。より具体的には、例えば、図2に示すように、抵抗測定部1によって電力ケーブルSPにおける線心とシースとの間における抵抗値Rが高圧の直流で測定され、その測定結果(第1測定結果)Rが抵抗測定部1から処理部4へ出力される。より詳しくは、例えば、抵抗測定部1を電力ケーブルSPにおける線心の導体とシースとの間に電気的に接続するように促すメッセージが処理部4によって出力部6に表示される。このメッセージを参照したオペレータは、抵抗測定部1を電力ケーブルSPにおける線心の導体とシースとの間に電気的に接続し、接続の完了を入力部5から入力する。この接続の完了を入力部5から受け付けると、処理部4は、抵抗測定部1に測定を実行させ、第1測定結果Rを抵抗測定部1から取り込む。
次に、診断対象(測定対象)の電力ケーブルSPに対し、静電容量および誘電正接が低圧交流で測定される(S2)。より具体的には、例えば、図2に示すように、静電容量測定部2によって電力ケーブルSPにおける線心とシースとの間における静電容量Cが低圧交流で測定され、その測定結果(第2測定結果)Cが静電容量測定部2から処理部4へ出力され、誘電正接測定部3によって電力ケーブルSPにおける線心とシースとの間における誘電正接tanδmが低圧交流で測定され、その測定結果(第3測定結果)tanδmが誘電正接測定部3から処理部4へ出力される。より詳しくは、例えば、静電容量測定部2と誘電正接測定部3とは、一体で構成されており、この一体の装置2、3を電力ケーブルSPにおける線心の導体とシースとの間に電気的に接続するように促すメッセージが処理部4によって出力部6に表示される。このメッセージを参照したオペレータは、前記一体の装置2、3を電力ケーブルSPにおける線心の導体とシースとの間に電気的に接続し、接続の完了を入力部5から入力する。この接続の完了を入力部5から受け付けると、処理部4は、前記一体の装置2、3に測定を実行させ、その第2および第3測定結果C、tanδmを前記一体の装置2、3から取り込む。
なお、上述の処理S1と処理S2とは、逆の順番で実行されてよく、また、抵抗測定部1、静電容量測定部2および誘電正接測定部3が一体の装置で構成されている場合には、処理S1と処理S2とは、時分割で順次に実行されてよい。
次に、誘電正接演算部42によって、この測定された誘電正接tanδmが補正され、これによって電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPが求められる(S3)。より具体的には、誘電正接演算部42は、誘電正接測定部3の第3測定結果tanδmを、抵抗測定部1の第1測定結果Rおよび静電容量測定部2の第2測定結果Cに基づいて補正することによって、電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを求める。より詳しくは、誘電正接演算部42は、前記測定で用いた低圧交流の周波数をfとし、角周波数ω=2πfとする場合に、tanδm−100/(ωCR)[%]を電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPとして求める(tanδSP=tanδm−100/(ωCR)[%])。
次に、劣化演算部43によって、絶縁性能に関する電力ケーブルSPの劣化の程度が処理S3で求めた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに基づいて求められる(S4)。より具体的には、劣化演算部43は、処理S3で誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに基づいて、絶縁性能に関する電力ケーブルSPの劣化の程度(絶縁性能がどの程度低下しているか)を求める。より詳しくは、劣化演算部43は、上述の例では、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを予め設定された3個の閾値Th1、Th2、Th3と比較することによって、「良好域」、「経過観察域」、「取替計画域」および「取替推奨域」の複数4個の区分の中から、誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに対応する区分を、電力ケーブルSPの劣化の程度として求める。例えば、図9に示すように、処理S3で誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPがα1=約0.07[%]、α2=約0.11[%]、α4=約0.11[%]およびα5=約0.15[%]であった場合には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度が「良好域」であると判定し、また、処理S3で誘電正接演算部42によって求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPがα3=約0.38[%]、α6=約0.26[%]およびα7=約0.25[%]であった場合には、劣化演算部43は、電力ケーブルSPの劣化の程度が「経過観察域」であると判定する。
そして、このように処理S3で求められた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPおよび処理S4で求められた電力ケーブルSPの劣化の程度が処理部4によって出力部6に出力され(S5)、処理が終了される。また、必要に応じて、処理部4は、これら測定および診断の結果をIF部7から外部の機器へ出力する。
以上説明したように、本実施形態における誘電正接測定装置Mおよびこれに実装された誘電正接測定方法ならびに電力ケーブル診断装置Dおよびこれに実装された電力ケーブル診断方法は、上述の観点に基づき低圧交流で誘電正接tanδを測定するものである。そして、本実施形態は、系統に布設された状態のままの電力ケーブルSPを測定対象(診断対象)とするので、誘電正接tanδを測定するために、解結線を実施する必要がない。ここで、系統に布設された状態のままで電力ケーブルSPを測定すると、図2に示すように測定回路に電力ケーブルSPだけでなく、電力ケーブルSPを除く他のもの(開閉器類)も含まれるため、測定された誘電正接tanδmには電力ケーブルSPの成分の他に前記開閉器類の成分も含まれる。しかしながら、本実施形態は、第3測定結果、すなわち、測定された誘電正接tanδmを、第1および第2測定結果R(=R2)、C(=C1)に基づいて補正するので、この測定された誘電正接tanδmに含まれる前記開閉器類の成分を低減でき、系統に布設された状態のままでも、より正確に電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを測定できる。したがって、本実施形態は、低圧交流で測定でき、解結線が不要となる。この結果、装置の小型化が可能となり、測定および診断による電力ケーブルの破損が低減され、安全対策の簡素化や人員の省力化が可能となり、また、1日に測定および診断できる電力ケーブルの本数がより多くなる。このため、コストが低減できる(例えば1回線当たり数千円等)。本実施形態は、技術的にも商業的にも高い価値を持つ。
また、図2に示す測定回路の近似計算によれば、この測定された誘電正接tanδmに含まれる開閉器類の成分は、100/(ωCR)[%]と見積もれ得る。したがって、本実施形態は、この測定された誘電正接tanδmから100/(ωCR)[%]を減算することで、電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPをより正確に求めることができる。
また、本実施形態は、劣化の程度を複数の区分の中のいずれの区分であるかによって表すので、劣化の優劣を容易に判断できる。
なお、上述の実施形態では、誘電正接測定方法および電力ケーブル診断方法それぞれは、誘電正接測定装置Mおよび電力ケーブル診断装置Dに実装されて実施されたが、次のように、実施されても良い。まず、直流でメガオームオーダー以上の抵抗値を測定する抵抗測定器、および、静電容量を測定する機能を持つ、低圧交流で誘電正接を測定する誘電正接測定器が用意される。そして、オペレータは、シースを接地した電力ケーブルSPであって系統に布設された状態のままで分離装置SW1、SW2によって前記系統から電気的に分離された前記電力ケーブルSPにおける線心の導体およびシースそれぞれに、前記抵抗測定器の一対のプローブを当接して電気的に接続し、前記抵抗測定器によって抵抗値Rを測定し、その第1測定結果Rを記録紙に記録する。続いて、オペレータは、前記電力ケーブルSPにおける線心の導体およびシースそれぞれに、前記誘電正接測定器の一対のプローブを当接して電気的に接続し、前記誘電正接測定器によって静電容量Cおよび誘電正接tanδmを測定し、その第2および第3測定結果C、tanδmを前記記録紙に記録する。続いて、オペレータは、これら第1ないし第3測定結果R、C、tanδmを用いてtanδm−100/(ωCR)[%]を電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPとして求め、この求めた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを前記記録紙に記録する。そして、オペレータは、この求めた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPを3個の閾値Th1、Th2、Th3それぞれと比較し、この求めた電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに対応する区分を求め、電力ケーブルSPの劣化の程度を判定する。このように誘電正接測定方法および電力ケーブル診断方法が実施されても良い。
また、上述の実施形態では、劣化演算部43は、測定および補正された電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに対応する区分を電力ケーブルSPの劣化の程度として求めたが、経年年数に対応する誘電正接を予測した電力ケーブルの経年変化予測線が予め求められ、劣化演算部43は、前記測定および補正された電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPに対応する経年年数を、前記電力ケーブルの経年変化予測線に基づいて換算相当年数として求めてもよい。この換算相当年数は、電力ケーブルSPの実際の経年年数(経年実年数)ではなく、前記測定および補正された電力ケーブルSPの誘電正接tanδSPから想定される経年年数であり、電力ケーブルSPの劣化の程度を示す指標となる。この換算相当年数が経年実年数より小さければ(短ければ)、電力ケーブルSPにおける劣化の進行度合いは、通常(予測)よりも遅いと判定でき、逆に、この換算相当年数が経年実年数より大きければ(長ければ)、電力ケーブルSPにおける劣化の進行度合いは、通常(予測)よりも早いと判定できる。例えば、前記電力ケーブルの経年変化予測線として図9に示す実線β3が用いられる場合であって、前記測定および補正された電力ケーブルSPの誘電正接tanδSP0.5であった場合に、換算相当年数は、35年とされる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。