以下、図面及び表を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
[分極処理装置の構成]
本実施の形態に係る分極処理装置の構成について図4乃至図8を用いて説明する。
分極処理装置100は、コロナ電極(ワイヤ電極)101と、グリッド電極102と、ステージ103と、コロナ電源104と、グリッド電源105と、ステージ電源106と、ステージ電極107を含む。ステージ103上には、圧電素子108が載置される。圧電素子108のレイアウトは、任意に設定することが可能である。又、圧電素子108の構造は、特に限定されず、例えば、バイモルフ構造、ユニモルフ構造等であっても良い。
コロナ電極101は、ステージ103(ステージ電極107)と対向し、間にグリッド電極102を介して形成される。
グリッド電極102は、ステージ表面(圧電素子が形成される面)と対向して形成される。又、グリッド電極102は、コロナ電極101とステージ電極107との間に形成される。
コロナ電極101には、コロナ電源104からコロナ電圧が供給される。又、グリッド電極102には、グリッド電源105からグリッド電圧が供給される。又、ステージ電極107には、ステージ電源106からステージ電圧が供給される。
コロナ電極101と、ステージ電極107には、逆極性の電圧が供給されることが好ましい。逆極性とすることで、コロナ電極101で発生するイオンの状態(コロナ放電の状態)を変化させずに、圧電素子108に生じる内部電圧差を大きくできる。その結果、分極処理時間を短縮することもできる。
コロナ電極101におけるコロナ放電の強弱は、コロナ電圧及びグリッド電圧の大きさ、ステージ103とコロナ電極101との間の距離、ステージ103とグリッド電極102との間の距離、等により適宜制御することが可能である。
グリッド電極102は、メッシュ加工が施されている。このため、コロナ放電するコロナ電極101の周りに発生するイオンを、効率良く且つ均一に分散させて、圧電素子108(ステージ103)に対して降り注ぐことができる。
ステージ103は、絶縁体で構成され、貫通孔を複数含む。電流密度を増加させ、分極処理時間を短縮するため、貫通孔における開口部の形状は、六角形であることが好ましい。具体的には、図5(A)に示す様に、上面の形状が、正六角形を、隣接させた形状を有し、図5(B)に示す様に、断面の形状が、長方形を、隣接させた形状を有していることが好ましい。
又、貫通孔における開口部の形状は、正六角形に限定されるものではない。例えば、六角形、円形、楕円形、四角形、長方形、三角形、等であっても良い。
ステージ103には、温度調節機能が付加されていることが好ましい。温度調節機能により、設定される温度は、50℃以上150℃以下であることが好ましい。昇温させたステージ103上で、分極処理を行うことで、分極処理時間を短縮し、分極処理の効率を高められる。
ステージ電極107は、ステージ103の貫通孔を利用して形成される。例えば、ステージ電極107は、図6に例示する様に形成されても良い。図6(A)は、ステージ電極107の上面図、図6(B)はステージ電極107の断面図である。圧電素子108のレイアウトに合わせて、貫通孔に、取り外し可能なロッド電極107aを、複数挿入し、ロッド電極107aの下面と、共通電極107bを接触させることにより、ステージ電極107とする。挿入するロッド電極107aの数や位置を任意に選択することで、ステージ電極107のレイアウト変更を容易に行うことができる。
又、例えば、ステージ電極107は、図7に例示する様に形成されても良い。図7(A)は、ステージ電極107の上面図、図7(B)は、ステージ電極107の断面図である。圧電素子108のレイアウトに合わせて、電極板107cを配設し、貫通孔に、取り外し可能なロッド電極107aを、複数挿入する。電極板107cとロッド電極107aとは、導電性ペースト等により接着しても良いし、貫通孔を介して、真空密着させても良い。ロッド電極107aの下面と、共通電極107bを接触させることにより、ステージ電極107とする。配設する電極板107cの位置や形状を任意に選択することで、ステージ電極107のレイアウト変更を容易に行うことができる。図7の場合、図6の場合と比べて、挿入するロッド電極107aの数を減らすことができる。
又、例えば、図8(A)及び図8(B)に例示する様に、ロッド電極107aを挿入していない貫通孔に、絶縁体ロッド110を挿入しても良い。絶縁体ロッド110を挿入することで、ロッド電極107a間、電極板107c間の絶縁性を高めることができるため、ステージ電極107を、高密度に形成することが可能になる。又、共通電極107bから圧電素子108に、不要な電圧が印加される可能性を低減できる。
なお、貫通孔間の間隔が大きすぎると分極状態に差が生じる。そのため、貫通孔間の間隔は、50μm以上1mm以下であることが好ましい。
ロッド電極107a及び電極板107cの材料としては、金属等の導電性材料を用いることが好ましい。例えば、銅、プラチナ、タングステン、ステンレス、アルミニウム合金、イリジウム合金、金、グラファイト等が挙げられる。
導電性ペーストしては、金ペースト、銀ペースト等が挙げられる。なお、導電性ペーストは、ロッド電極と電極板との接着に用いるだけでなく、導電性ペースト自体を、貫通孔に充填し、ステージ電極を形成しても良い。導電性ペーストをステージ電極として用いることで、貫通孔における開口部の形状を細かくできるため、ステージ電極を高密度に形成できる。
ステージ電極107が、ステージ103の貫通孔を利用して形成されることで、圧電素子のレイアウト変更に合わせて、容易にステージ電極107のレイアウト変更をすることができる。即ち、レイアウト変更の度に、新たなステージを製造する、新たなステージに合わせて、電極等を繋ぎ直す等というコストや手間を省くことができる。又、圧電素子108に、的確にステージ電圧を印加することができるため、適切な分極処理を施し、圧電素子108の性能を高めることができる。
[分極処理の原理]
分極処理装置100による分極処理の原理の一例について図9を用いて説明する。分極処理装置100は、コロナ放電及びステージ電圧により、圧電素子に分極処理を施す。
コロナ電極101に、コロナ電圧が印加されると、コロナ放電により、大気中の分子109がイオン化され、陽イオン109a及び陰イオン109bが発生する。これらのイオンが、メッシュ加工が施され、グリッド電圧が印加されたグリッド電極102を介して、ステージ103に降り注ぐ。
陽イオン109aが、圧電素子108の共通電極PAD及び個別電極PAD(図示せず)を介して、圧電素子108に注入されることで、逆極性の電荷が圧電素子108の上部電極及び下部電極に蓄積する。又、貫通孔を介して、ステージ電極107から、圧電素子108に、ステージ電圧が印加されると、圧電素子108の上部電極と下部電極との間に、更に大きな内部電圧差が生じ、圧電素子は分極する。
圧電素子108に、分極処理を施すために必要な電圧は、上部電極又は下部電極に蓄積する電荷の量(電荷量Q[C])に比例する。電荷量Q[C]は、1E−8[C]以上であることが好ましく、4E−8[C]以上であることがより好ましい。電荷量Q[C]が、1E−8[C]未満である場合は、圧電素子に、十分な分極処理を施すことができない。
図10(A)は、圧電素子108に対して、分極処理を施す前の状態を示すP−Eヒステリシスループである。又、図10(B)は、圧電素子108に対して、分極処理を施した後の状態を示すP−Eヒステリシスループである。横軸は、印加電圧E(単位:[kV/cm])、縦軸は、分極P(単位:[μC/cm2])である。
最初に、印加電圧E=0[kV/cm]とした場合の分極をPindとする。又、印加電圧E=150[kV/cm]とし、更に、印加電圧E=0[kV/cm]とした場合の分極をPrとする。
分極Prと分極Pindとの差を、分極率(Pr−Pind)とする。P−Eヒステリシスループから読み取れる、分極率から、分極処理の状態を判断することができる。
分極率(Pr−Pind)は、10以下であることが好ましく、5以下であることが、より好ましい。分極率が、10より大きい場合、圧電素子108を連続駆動させた後の変位量劣化が大きくなってしまう。
〈第2の実施の形態〉
本実施の形態では、第1の実施の形態に係る分極処理装置により分極処理が施された圧電素子を搭載する液滴吐出ヘッドについて説明する。圧電素子は、インクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドの構成部品として用いられる。
図11は、電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッド1を例示する断面図である。
図12は、液滴吐出ヘッド1の構成部品である圧電素子108を例示する図である。図8(A)は、圧電素子108の断面図であり、図8(B)は、圧電素子108の上面図である。
図11及び図12に示す様に、液滴吐出ヘッド1は、ノズル板10と、圧力室基板20と、振動板30と、基板31と、電気機械変換素子44とを有する。
ノズル板10には、インク滴を吐出するノズル11が形成されている。ノズル板10、圧力室基板20、及び振動板30により、ノズル11に連通する圧力室21(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。振動板30は、インク流路の壁面の一部を形成している。
電気機械変換素子44は、上部電極41、電気機械変換膜42、下部電極43、密着層等を含んで構成され、圧力室21内のインクを加圧する機能を有する。密着層は、例えばTi、TiO2、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等からなる層であり、下部電極43と振動板30との密着性を向上する機能を有する。但し、密着層は、圧電素子に必須の構成要素ではない。
電気機械変換素子44において、下部電極43と上部電極41との間に電圧が印加されると、電気機械変換膜42が機械的に変位する。電気機械変換膜42の機械的変位にともなって、振動板30が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室21内のインクを加圧する。これにより、ノズル11からインク滴を吐出させることができる。
圧電素子108は、基板31と、振動板30と、電気機械変換素子44と、第1の絶縁保護膜51、第1の電極52、第2の電極53、第2の絶縁保護膜54、共通電極PAD57、個別電極PAD58、図示しない引き出し配線、共通電極配線、個別電極配線等を含んで構成される。
第1の絶縁保護膜51は、コンタクトホール55を有しており、コンタクトホール55を介して、下部電極43と第1の電極52とは電気的に接続され、又、上部電極41と第2の電極53とは電気的に接続されている。第2の絶縁保護膜54は、コンタクトホール56を有しており、コンタクトホール56を介して、第1の電極52と共通電極PADとは電気的に接続され、又、第2の電極53と個別電極PADとは電気的に接続されている。第2の絶縁保護膜54は、共通電極配線、及び個別電極配線を被覆し、保護層としての機能を有する。電極及び配線が、保護層に被覆されるため、電極材料として、安価なAl、Alを主成分とする合金材料等を選択することができる。共通電極PAD57は、共通電極配線用に作製され、個別電極PAD58は、個別電極配線用に作製される。
コンタクトホール56は、圧電素子108の周囲に形成される。コンタクトホール55、56は、フォトリソグラフィ及びドライエッチングを、組み合わせて形成することができる。電気機械変換素子44は、第1の絶縁保護膜51及び第2の絶縁保護膜54により保護されているため、コンタクトホール56が形成されても、電気機械変換素子44にダメージは、ほぼ生じない。
共通電極PAD57、及び個別電極PAD58の面積は、50μm×50μm以上であることが好ましく、100μm×300μm以上であることがより好ましい。PADの面積を広くする程、配線の機能を向上させ、適切な分極処理を行うことができる。
なお、図13に示すように、液滴吐出ヘッド1を複数個並設し、液滴吐出ヘッド2を構成することもできる。
基板31の材料としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、厚みは、約100μm〜600μmであることが好ましい。面方位が、(100)又は(111)であるシリコン単結晶基板を用いることがより好ましい。面方位は、シリコン単結晶基板を加工する際におけるエッチング(例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させる異方性エッチング)の速度等を考慮して、選択することが好ましい。又、基板の剛性を保ちつつ、結晶の配列密度を高くできる面方位を有するシリコン単結晶基板を選択することが好ましい。
振動板30の材料としては、ある程度の強度を有する材料を用いることが好ましく、例えば、シリコン(Si)、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si3N4)等が挙げられる。又、熱膨張係数を考慮して、選択しても良い。具体的には、熱膨張係数が5×10−6[1/K]〜10×10−6[1/K]の範囲を満たす材料を用いることが好ましく、7×10−6[1/K]〜9×10−6[1/K]の範囲を満たす材料を用いることがより好ましい。これらの材料として、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。
振動板30は、例えば、CVD法、スパッタ法、ゾルゲル法等の方法により形成できる。振動板30の膜厚は、約0.1μm〜10μmであることが好ましく、約0.5μm〜3μmであることが、より好ましい。なお、振動板30の表面を、例えば、厚さ約数百nm〜数μmのシリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜又はこれらの膜を積層した膜等によって、絶縁処理してもよい。
密着層は、Ti、Ta、Ir、Ru等の材料を、スパッタ成膜後、RTA装置を用いた熱酸化法等により形成することが好ましい。例えば、密着層として、Tiをスパッタ成膜後、RTA装置を用いて、成膜温度650℃〜800℃、成膜時間1分〜30分という条件下で、酸素雰囲気中でTi膜を熱酸化することにより、TiO2膜を成膜しても良い。密着層の膜厚は、約10nm〜50nmであることが好ましく、約15nm〜30nmであることが、より好ましい。
下部電極43は、金属膜と酸化物膜との積層膜から成ることが好ましい。
下部電極43の金属材料としては、高い耐熱性を有し、低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)等の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料等を用いることができる。金属膜は、スパッタ法や真空蒸着法等の真空成膜法を用いて形成することができる。金属膜の膜厚は、約80nm〜200nmであることが好ましく、約100nm〜150nmであることが、より好ましい。80nmより薄い場合、液滴吐出ヘッド2の吐出信頼性を低下させてしまう。又、200nmより厚い場合、コストが高くなる、金属膜の表面粗さが大きくなる、金属膜上に形成される酸化物膜及び電気機械変換膜の結晶配向性に悪影響を及ぼす等の不具合が生じる。
下部電極43の酸化物材料としては、導電性酸化物材料を用いることが好ましい。具体的には、化学式Sr(x)A(1−x)Ru(y(1−y))で記述され、A=Ba、Ca、 B=Co、Ni、 (y=0〜0.5)等の材料を用いることができる。又、化学式ABO3で記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuO3やCaRuO3、これらの固溶体である(Sr1−x Cax)O3のほか、LaNiO3やSrCoO3、更にはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Coy)O3 (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO2、RuO2も挙げられる。特に、SRO(ルテニウム酸ストロンチウム)を用いることが好ましい。
酸化物膜は、例えば、スパッタ法等を用いて形成することができる。成膜温度は、表面粗さや、結晶配向性を考慮して、適宜調整することが好ましい。成膜温度は、500℃以上700℃以下であることが好ましく、520℃以上600以下であることがより好ましい。又、表面粗さは、約4nm〜15nmであることが好ましく、約6nm〜10nmであることが、より好ましい。
酸化物膜の膜厚は、約40nm〜150nmであることが好ましく、約50nm〜80nmであることが、より好ましい。膜厚がこの範囲を満たす場合、連続駆動後の電気機械変換膜の変位量劣化を抑制でき、酸化物膜を、電気機械変換膜のオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層として十分に機能させることができる。
酸化物材料として、SROを用いる場合、成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ruが、0.82以上1.22以下であることが好ましい。Sr/Ruが、この範囲を満たさないと、SRO膜において、比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる。比抵抗は、5×10-3Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-3Ω・cm以下であることがより好ましい。又、SRO膜の結晶配向性としては、(111)面の配向率が高いことが好ましい。(111)面の配向率が高い場合、2θ=32°で固定したXRD(X−ray−diffraction)測定による測定結果において、Psi=35°付近で、回折強度のピークを確認できる(図14参照)。
電気機械変換膜42の材料としては、例えば、PZTを用いることができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体である。例えば、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。PbZrO3とPbTiO3の比率によって、PZTの特性が異なる。
電気機械変換膜42としてPZTを使用する場合、出発材料に酢酸鉛三水和物、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を使用しても良い。これらの出発材料を、共通溶媒に溶解させることで、PZT前駆体ゾルゲル溶液を作製する。酢酸鉛三水和物、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物の混合量は、所望のPZTの組成(PbZrO3とPbTiO3の比率)に応じて、当業者が適宜選択できるものである。なお、金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に分解する。そのため、PZT前駆体ゾルゲル溶液に、安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を添加してもよい。
電気機械変換膜42の材料として、例えば、チタン酸バリウム等を用いても構わない。この場合は、バリウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体ゾルゲル溶液を作製することが可能である。又、例えば、チタン酸バリウムとビスマスペロブスカイトの固溶体等を用いても構わない。
これら材料は一般式ABO3で記述され、A=Pb、Ba、Sr、Bi B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、Ba)(Zr、Ti)O3、(Pb1−x、Sr)(Zr、Ti)O3、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
電気機械変換膜42は、例えば、スパッタ法、ゾルゲル法等の溶液塗布法を用いて、前駆体塗膜を下部電極上に形成し、該前駆体塗膜に対して、溶媒乾燥、熱分解、結晶化等の熱処理を施すことで形成することができる。一般的に、前駆体塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るためには一度の工程で、100nm以下の膜厚となるように、前駆体ゾルゲル溶液の濃度調整を行うことが好ましい。
電気機械変換膜42の膜厚は、約0.5μm〜5μmであることが好ましく、約1μm〜2μmであることが、より好ましい。この範囲より小さいと十分な変位量を得られない。この範囲より大きいと工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
電気機械変換膜42の比誘電率は、600以上2000以下であることが好ましく、200以上1600以下であることが、より好ましい。
上部電極41は、下部電極43と同様に、金属膜と酸化物膜との積層膜から成ることが好ましい。金属材料及び酸化物材料としては、下部電極43と同様の材料を用いることができる。金属膜の膜厚は、約30nm〜200nmであることが好ましく、約50nm〜120nmであることが、より好ましい。酸化物膜の膜厚は、約20nm〜80nmであることが好ましく、約40nm〜60nmであることが、より好ましい。
第1の絶縁保護膜51の材料としては、大気中の水分が透過し難い緻密な無機材料等を用いることが好ましい。このような材料を用いることで、成膜工程、及びエッチング工程中における、電気機械変換素子44へのダメージを防ぐことができる。又、第1の絶縁保護膜51の材料としては、薄膜で高い保護性能を有する材料を用いることが好ましい。具体的には、酸化物、窒化物、炭化物、等が挙げられる。又、第1の絶縁保護膜51の材料としては、電極、電気機械変換膜、基板、振動板、等と密着性が高い材料を用いることが好ましい。具体的には、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2等の酸化物材料が挙げられる。これらの酸化物材料を用いることで、ALD(Atomic Layer Deposition)法によるプロセス中のダメージを抑制し、膜密度の非常に高い第1の絶縁保護膜51を作製することができる。
第1の絶縁保護膜51は、例えば、蒸着法、ALD法等の方法により形成することができる。
第1の絶縁保護膜51の膜厚は、圧電素子108の保護層としての機能を、十分に確保できる程度に厚くする必要があり、且つ振動板30の機械的変位を阻害しない程度に薄くする必要がある。このため、膜厚は、約20nm〜100nmであることが好ましい。なお、膜厚が100nmより厚い場合、振動板30の機械的変位は阻害され、液滴吐出ヘッド1の吐出効率は悪化する。一方、膜厚が20nmより薄い場合、圧電素子108の性能が悪化する。
第1の絶縁保護膜51は、2層の積層構造であっても良い。この場合、1層目の絶縁保護膜の膜厚を、2層目の絶縁保護膜の膜厚と比較して厚くすることが好ましい。1層目の絶縁保護膜の膜厚は、約20nm以上であることが好ましい。又、2層目の絶縁保護膜の膜厚は、下部電極43、個別電極PAD58等に印加される電界によって、絶縁破壊されない程度に厚くすることが好ましい。即ち、2層目の絶縁保護膜の膜厚は、約200nm以上であることが好ましく、約500nm以上であることが、より好ましい。
2層目の絶縁保護膜の材料としては、酸化物、窒化物、炭化物、又はこれらの複合化合物等を用いることができる。特に、酸化シリコンを用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜は、公知の成膜方法を用いることができ、例えば、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。電極が形成される部分に生じる段差を考慮した場合、等方的な成膜が可能であるCVD法を用いることが、より好ましい。
第2の絶縁保護膜54の材料としては、透湿性の低い、無機材料又は有機材料を用いることができる。膜厚が薄い場合であっても、十分な配線保護機能を有する無機材料を用いることが、より好ましい。無機材料として、具体的には、酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。特に、Si3N4を用いることが好ましい。有機材料として、具体的には、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
第2の絶縁保護膜54の膜厚は、約200nm以上とすることが好ましく、約500nm以上とすることがより好ましい。
なお、第2の絶縁保護膜54の膜厚が、薄すぎると、保護層として十分に機能することができないため、配線材料の腐食による断線が発生し、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性が低下する。厚すぎると、振動板31の機械的変位を阻害してしまう。
第1の電極52及び第2の電極53の材料としては、金属等を用いることができる。具体的には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、プラチナ(Pt)、イリジウム(Ir)等の金属や、銀(Ag)を含む合金材料、アルミニウム(Al)を主成分とする合金材料等を用いることができる。
第1の電極52及び第2の電極53は、例えば、スパッタ法、スピンコート法等を用いて形成することができる。
第1の電極52及び第2の電極53の膜厚は、約0.1μm〜20μmであることが好ましく、約0.2μm〜10μmであることが、より好ましい。なお、膜厚が、薄すぎると第1の電極52及び第2の電極53の抵抗が大きくなり、十分な電流を流すことができなくなるため、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性が低下する。一方、膜厚が、厚すぎると成膜時間が長くなる。
第1の電極52の、コンタクトホール(例えば、10μm×10μm)56での接触抵抗は、10Ω以下であることが好ましく、5Ω以下であることがより好ましい。
第2の電極53の、コンタクトホール(例えば、10μm×10μm)56での接触抵抗は、1Ω以下であることが好ましく、0.5Ω以下であることがより好ましい。
液滴吐出ヘッド1及び液滴吐出ヘッド2に、分極処理装置100により分極処理が施された圧電素子108を用いることで、液滴吐出ヘッドの吐出信頼性を高められる。
〈第3の実施の形態〉
本実施の形態では、液滴吐出ヘッド1(図11参照)を搭載したインクジェット記録装置の例を示す。図15は、インクジェット記録装置を例示する斜視図である。図16は、インクジェット記録装置の機構部を例示する側面図である。
図15及び図16を参照するに、インクジェット記録装置4は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した液滴吐出ヘッド1の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94、インクジェット記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。
記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができる。又、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。又、キャリッジ93は、インクジェット記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。又、インクジェット記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドを用いてもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
又、インクジェット記録装置4は、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106、を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインクジェット記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。更に、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインクジェット記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェット記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。又、記録途中等に、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。又、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。更に、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、インクジェット記録装置4においては、薄膜製造装置3で製造した液滴吐出ヘッド1の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られるため、画像品質を向上できる。
〈実施例1〉
本実施例では、5種類の異なるステージ電極を作製した。各ステージ電極を、サンプル1〜サンプル5とした。ステージ電極の形状を変更しても、圧電素子に適切な分極処理が施されるか評価した。ステージ電極のレイアウトは、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせた。圧電素子とステージは、貫通孔に設置した位置決めピンで固定した。この場合、別途圧電素子固定機能を、ステージに設置する必要がないため、圧電素子をステージ上に、比較的自由に載置できる。
[サンプル1]
サンプル1を図18に示す。図18(A)は、上面図であり、図18(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、正六角形であるステージを利用した。
図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、貫通孔に、取り外し可能な金属ロッドAを、複数挿入し、金属ロッドAの下面と、一面に形成した共通電極Bとを接触させることにより、ステージ電極を形成した。金属ロッドAの材料としては、銅を用いた。共通電極Bの材料としては、銅を用いた。
[サンプル2]
サンプル2を図19に示す。図19(A)は、上面図であり、図19(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、正六角形であるステージを利用した。
貫通孔に、取り外し可能な金属ロッドAを複数挿入した。サンプル1と比べて、挿入する金属ロッドAの数を減らした。又、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、電極板Cを配設し、金属ロッドAと電極板Cとを導電性ペーストで接着した。又、金属ロッドAの下面と、一面に形成した共通電極Bとを接触させることにより、ステージ電極を形成した。電極板Cの材料としては、銅を用いた。
[サンプル3]
サンプル3を図20に示す。図20(A)は、上面図であり、図20(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、正六角形であるステージを利用した。
貫通孔に、取り外し可能な金属ロッドAを複数挿入した。サンプル1と比べて、挿入する金属ロッドAの数を減らした。又、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、電極板Cを配設し、金属ロッドAと電極板Cとを導電性ペーストで接着した。又、金属ロッドAの下面と、貫通孔の各列に対して個別に多列化して形成した共通電極B(図20(C)参照)とを接触させることにより、ステージ電極を形成した。
[サンプル4]
サンプル4を図21に示す。図21(A)は、上面図であり、図21(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、正六角形であるステージを利用した。
貫通孔に、金属ロッドを絶縁体で覆ったロッドDを複数挿入した。ロッドDの上端部には、正六角形の電極ケーブル(図示せず)を取り付け、ロッドDの下端部には、電極ケーブルEを取り付けた。又、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、電極板Cを配設し、正六角形の電極ケーブルと電極板Cとを導電性ペーストで接着することにより、ステージ電極を形成した。
[サンプル5]
サンプル5を図22に示す。図22(A)は、上面図であり、図22(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、円形であるステージを利用した。
貫通孔に、金属ロッドを絶縁体で覆ったロッドDを複数挿入した。ロッドDの上端部には、円形の電極ケーブル(図示せず)を取り付け、ロッドDの下端部には、電極ケーブルEを取り付けた。又、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、電極板Cを配設し、正六角形の電極ケーブルと電極板Cとを導電性ペーストで接着することにより、ステージ電極を形成した。
[圧電素子の作製]
次に、ステージに載置する圧電素子を作製した。
まず、6インチのシリコンウェハに、熱酸化膜(膜厚1μm)を形成した。本実施例では、主に(100)面の面方位を有する単結晶シリコンウェハを使用した。
次に、密着層として、チタン膜(膜厚30nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、350℃とした。なお、スパッタ装置は、1つのチャンバーに対して、複数のターゲットが備え付けられている。
次に、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて、750℃で、チタン膜に対して熱酸化を行った。
次に、第1の電極として、白金膜(膜厚100nm)を、SRO膜(膜厚50nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、550℃とした。
次に、PZT前駆体溶液を作製するための、出発材料を準備した。出発材料としては、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水を、メトキシエタノールに溶解した溶液を脱水した。
なお、これらの出発材料は、Pb(Zr0.53、Ti0.47)O3の化学両論組成に対し、鉛量が過剰になる組成となるように秤量した。これは、熱処理中の所謂、鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
次に、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解した溶液に対して、アルコール交換反応、及びエステル化反応を進行させた。
次に、これらの溶液を、混合し、PZT前駆体溶液を作製した。PZT前駆体溶液は、0.5mol/lとした。又、PZT前駆体溶液において、Pb、Zr、Ti、それぞれの組成比が、Pb:Zr:Ti=114:53:47となる様に調整した。
次に、電気機械変換膜として、PZT前駆体溶液を、スピンコート法により、成膜した。
次に、シリコンウェハを、ホットプレートに載せ、シリコンウェハ下面より第1の加熱処理を行った。昇温速度を、10℃/minとして、室温から120℃まで温度上昇させた。ホットプレートの温度が、120℃に到達した後も、溶液が乾燥するまで、加熱処理を行った。次に、第2の加熱処理を行った。500℃での加熱処理を行うことで、前駆体塗膜に含まれる有機物の熱分解処理を行った。次に、第3の加熱処理(結晶化処理)を行った。RTA装置を用いて、750℃の急速加熱処理を行うことで、加熱処理された前駆体塗膜を結晶化させた。結晶化処理された前駆体塗膜の膜厚は、240nmであった。
次に、PZT前駆体溶液の成膜、加熱処理、という工程を8回繰り返し行った。この結果、膜厚約2μmのPZT膜が得られた。
次に、第2の電極として、SRO膜(膜厚40nm)を、白金膜(膜厚125nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、550℃とした。
次に、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、公知のフォトリソグラフィ法により、レジストパターンを形成した(図○参照)。レジストパターンに基づき、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いてドライエッチングを行った。
次に、第1の絶縁保護膜として、ALD法により、Al2O3膜(膜厚50nm)を、成膜した。Alについては、TMA(シグマアルドリッチ社)と、Oについては、オゾンジェネレーターによって発生させたO3とを交互に積層させることで、Al2O3膜の成膜を行った。
次に、第1の絶縁保護膜に対して、エッチングを行い、コンタクトホールを形成した。
次に、第3の電極及び第4の電極として、Al膜(膜厚2μm)を、スパッタ装置にて成膜し、該Al膜に対して、エッチングを行った。
次に、第2の絶縁保護膜として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、Si3N4膜(膜厚500nm)を、成膜した。
次に、第2の絶縁保護膜に対して、エッチングを行い、コンタクトホールを形成した。
これにより、圧電素子が作製できた。圧電素子のレイアウトは、図17に示すレイアウトに合わせた。
[分極処理]
サンプル1〜サンプル5のステージ電極を用いて、分極処理装置により作製した圧電素子に対して、分極処理を施した。コロナ電極としては、線径50μmのタングステンのワイヤーを用いた。分極処理条件を表1に示す。
サンプル1、2、4、5においては、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧をフロートとし、サンプル3においては、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧を50Vとした。その他の分極処理条件は、全て等しくし、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、処理温度(ステージの基板加熱温度)は室温、圧電素子が載置されている部分のステージ電圧は−100V、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。サンプル1、2、4、5においては、分極処理時間は、20[sec]であり、サンプル3においては、分極処理時間は、15[sec]であった。
従って、圧電素子が載置されていない部分と、圧電素子が載置されている部分とに、それぞれ逆極性のステージ電圧を印加することで、分極処理時間を短縮できることがわかった。
図23は、サンプル1〜サンプル5におけるP−Eヒステリシス曲線である。残留分極は20[μC/cm2]、抗電圧は30[kV/cm]であり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持つことがわかった。又、電気機械変換能は、電圧印加(150kV/cm)による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。圧電定数d31は、150[pm/V]となった。従って、圧電定数も通常のセラミック焼結体と同等の値であることがわかった。この値は、液滴吐出ヘッドに用いられる圧電素子として十分設計できうる特性値である。圧電素子を1×1010回連続駆動させた後であっても、通常のセラミック焼結体と同等の特性値を維持していた。
従って、ステージ電極の形状を変更しても、圧電素子に、適切な分極処理を施すことができることがわかった。
又、粘度を5cpに調整した機能性インクを用いて、単純Pull波形により−10V〜−30Vの印可電圧を加えた時の、液滴吐出ヘッドからの吐出状況を確認した所、全てのノズル孔から、液滴(機能性インク)が安定して吐出されていることを確認できた。
従って、適切な分極処理が施された圧電素子を使用して形成された液滴吐出ヘッドは、高い吐出信頼性を有することがわかった。
〈実施例2〉
本実施例では、サンプル6を作製した。サンプル5のステージ電極と形状は同一とし、正六角形の電極ケーブルと電極板Cとの接着方法を変更した。
貫通孔に電極板吸着機能を持たせ、貫通孔を介して、六角形の電極ケーブルと電極板Cとを真空密着させ固定した。
又、圧電素子とステージも、貫通孔を介して、真空密着させ固定した。貫通孔に、圧電素子の吸着機能を持たせることで、圧電素子へのダメージを抑制できると共に、別途圧電素子固定機能を、ステージに設ける必要がないため、圧電素子のレイアウトの自由度を高めることができる。
分極処理条件を表2に示す。
サンプル5、6において、分極処理条件は、全て等しくし、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、処理温度は室温、圧電素子が載置されている部分のステージ電圧は−100V、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧はフロート、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。サンプル5、6において、分極処理時間は、20[sec]であった。
従って、六角形の電極ケーブルと電極板Cとを導電性ペーストを用いて接着しても、真空密着させ固定しても、圧電素子に適切な分極処理を施せることがわかった。
〈実施例3〉
本実施例では、サンプル7を作製した。サンプル5のステージ電極と形状は同一としたが、一部のステージ電極にステージ電圧を印加しなかった。ステージ電圧を印加しなかった部分に載置されている圧電素子と、ステージ電圧を印加した部分に載置されている圧電素子とで、圧電素子の分極状態を比較した。
図24に示す様に、ステージ電圧を印加しなかった部分に載置されている圧電素子を、モニター素子とした。
モニター素子では分極が発生せず、ステージ電圧を印加した部分に載置されている圧電素子では分極が発生した。従って、圧電素子が載置されている部分のステージ電極に、ステージ電圧を印加しないと、分極処理は、不十分となることがわかった。つまり、ステージ電圧は、圧電素子の分極状態に大きく寄与することが示唆される。
〈実施例4〉
本実施例では、サンプル8を作製した。サンプル8を図25に示す。図25(A)は、上面図であり、図25(B)は、断面図である。貫通孔の開口部の形状が、円形であるステージを利用した。
貫通孔に、金属ロッドを絶縁体で覆ったロッドDを複数挿入した。ロッドDの上端部には、円形の電極ケーブル(図示せず)を取り付け、ロッドDの下端部には、電極ケーブルEを取り付けた。又、図17に示す圧電素子のレイアウトに合わせて、電極板Cを配設し、円形の電極ケーブルと電極板Cとを導電性ペーストで接着した。又、圧電素子が載置されていない部分に、電極板Fを配設し、円形の電極ケーブルと電極板Cとを導電性ペーストで接着することにより、ステージ電極を形成した。分極処理条件を表3に示す。
サンプル5においては、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧をフロートとし、サンプル8においては、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧を50Vとした。その他の分極処理条件は、全て等しくし、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、処理温度は室温、圧電素子が載置されている部分のステージ電圧は−100V、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。サンプル5においては、分極処理時間は、20[sec]であり、サンプル3においては、分極処理時間は、15[sec]であった。
従って、圧電素子が載置されていない部分と、圧電素子が載置されている部分とに、それぞれ逆極性のステージ電圧を、電極板Fを介して印加することで、分極処理時間を短縮できることがわかった。
〈実施例5〉
本実施例では、サンプル1を利用して、分極処理条件を変えて、各圧電素子に分極処理を施した。分極処理条件を表4に示す。
処理温度を、それぞれ、室温、80℃とした。その他の分極処理条件は、全て等しくし、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、圧電素子が載置されている部分のステージ電圧は−100V、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧はフロート、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。処理温度が室温での分極処理時間は、20[sec]であり、処理温度が80℃での分極処理時間は、18[sec]であった。
従って、処理温度を高温にすることで、分極処理時間を短縮できることがわかった。圧電素子の機械的、電気的な変化を促進させ、分極処理の効率を向上させることができることが示唆される。
〈実施例6〉
本実施例では、圧電素子のレイアウトを変更した。レイアウト変更に合わせて、ステージ電極を変更し、サンプル9及びサンプル10を作製した。サンプル9及びサンプル10のステージ電極を用いて、各圧電素子に分極処理を施した。サンプル1とサンプル9とで、分極状態を比較した。図26(A)に、圧電素子のレイアウトXと、サンプル9の断面図を示す。図26(B)に、圧電素子のレイアウトYと、サンプル10の断面図を示す。
サンプル9及びサンプル10では、貫通孔の開口部の形状が、正六角形であるステージを利用した。
貫通孔に、取り外し可能な金属ロッドAを複数挿入した。圧電素子のレイアウトYは、圧電素子のレイアウトXと比べて、高密度であるため、サンプル10において挿入した金属ロッドAの数は、サンプル9において挿入した金属ロッドAの数と比べて多くした。
又、圧電素子のレイアウトX及びYに合わせて、電極板Cを、それぞれ配設し、金属ロッドAと電極板Cとを導電性ペーストで接着した。又、金属ロッドAの下面と、一面に形成した共通電極Bとを接触させることにより、サンプル9及びサンプル10を形成した。
分極処理条件を表5に示す。
分極処理条件は、全て等しくし、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、処理温度は室温、圧電素子が載置されている部分のステージ電圧は−100V、圧電素子が載置されていない部分のステージ電圧はフロート、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。分極処理時間は、20[sec]であり、等しかった。
従って、圧電素子のレイアウト変更に合わせて、ステージ電極のレイアウト変更を行っても、適切な分極処理を、各圧電素子に施せることがわかった。ステージが備える貫通孔を利用することで、比較的容易にステージ電極のレイアウト変更が可能であるため、低コストな分極処理装置を実現できることが示唆される。
〈比較例〉
比較例として、サンプル1において、ステージ電極に電圧を印加せずに、圧電素子に分極処理を施した。分極処理条件を表6に示す。
分極処理条件は、コロナ電圧は8.5kV、グリッド電圧は2.5kV、コロナ電極とグリッド電極との間の距離は4mm、グリッド電極とステージとの間の距離は4mm、処理温度は室温、ステージ電圧はGND(アース接地)、とした。
分極処理時間は、コロナ放電処理を実施したときの分極率(Pr-Pind)が3.0に到達するのに要した時間とした。分極処理時間は、30[sec]であり、実施例と比べて長かった。ステージ電極にステージ電圧を印加しないと、適切な分極処理が圧電素子に施されないことがわかった。つまり、コロナ電極及びグリッド電極に電圧を印加するだけでなく、ステージ電極にも適切なステージ電圧を印加する必要があることがわかった。
実施例及び比較例の結果から、分極処理装置において、ステージが備える貫通孔を利用して、ステージ電極のレイアウト変更を行っても、ステージ電極の形状を変更しても、圧電素子の分極状態に悪影響は出ないことがわかった。圧電素子のレイアウトに合わせて、圧電素子に対してステージ電極から、的確にステージ電圧を印加することで、ステージに載置される圧電素子に適切な分極処理を施せることがわかった。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。