本発明は窒化物半導体の結晶成長技術に関し、より詳細には、表面状態と光学特性に優れた高品質の窒化物半導体を得るための結晶成長技術に関する。
青色発光素子や紫外線発光素子は、適切な波長変換材料との組み合わせにより白色光源とすることができる。このような白色光源は、液晶ディスプレイなどのバックライト、発光ダイオードイルミネーション、自動車用照明、あるいは蛍光灯に替わる一般照明などとしての応用が盛んに研究されてきており、その一部は既に実用化されている。現在では、このような青色発光素子や紫外線発光素子は主として、有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)などの手法により窒化ガリウム系半導体結晶の薄膜を成長させることにより作製され、それらは窒化ガリウム系発光ダイオードまたはGaN系LEDと総称されている。
従来、GaN系LEDの基板として使用されているものはサファイア基板がほとんどである。サファイアとGaNとは格子定数が大きく異なるため、サファイア基板上にエピタキシャル成長させて得られたGaN結晶では、109個/cm2程度の相当数の転位が導入されることは避けられないが、サファイア基板はSiC基板やGaN基板に対して安価であり、しかも、GaN系LEDの量子井戸層として通常用いられる、青色発光する領域のInGaNは、その発光効率が転位密度に対してあまり敏感でないことから、依然としてサファイア基板が主要な基板とされているのが現状である。
しかし、窒化ガリウム系半導体結晶をキャリア密度の大きい状況で使用されるデバイスの材料としてみた場合には、上述のような高密度の転位はデバイス特性を顕著に低下させる結果を招く。例えば、高出力LEDやレーザといったデバイスでは、転位密度が高いと素子寿命が著しく短くなる。また、また、AlGaN層を活性層として用いるようなInを活性層構造に全く含まない場合や、In組成が小さく(たとえば0.1以下程度)で近紫外領域程度以下の短波長発光を実現するInGaN層やInAlGaN層を活性層構造に含む場合には、青色以上の長い発光波長を有するInGaN層を活性層構造に含む場合とは異なり、内部量子効率が転位密度に対して強く依存するようになり、転位密度が高いと発光強度そのものが低化する。このような場合には、GaN基板をエピタキシャル成長用基板として用いることが有効であり、これにより、エピタキシャル層内に見られる転位密度を108個/cm2以下、或いは107個/cm2以下にすることが期待される。また、更には基板等の転位等も低減されれば、106個/cm2以下とすることも期待される。つまり、サファイア基板を用いた場合に比較して、2桁から3桁以上もの転位密度の低減が期待される。このような事情から、GaN自立基板やAlN自立基板は、窒化ガリウム系半導体結晶のエピタキシャル成長用基板として好適である。
窒化物基板であるGaN基板上に窒化ガリウム系半導体結晶をエピタキシャル成長させる試みとしては、例えば、特許文献1(特開2005−347494号公報)、特許文献2(特開2005−311072号公報)、特許文献3(特開2007−67454号公報)などがある。
特許文献1には、GaN層をエピタキシャル成長させるための基板として窒化物基板((0001)面のGaN基板)を用い、炉内圧力を30キロパスカルにしてGaN基板のクリーニングを行なった後、基板温度を1050℃、炉内圧力を30キロパスカルに保持したまま厚さ1μmの第1のn型GaNバッファ層を成長させ、その後、一旦原料の供給を停止し、次いで炉内圧力を30キロパスカルに保持したまま1100℃の基板温度になるまで加熱して更に厚さ1μmの第2のn型GaNバッファ層を形成するという手法が開示されており、このような結晶成長方法により、表面平坦性に優れた良好な結晶品質のバッファ層を有する半導体装置が提供されるとされている。
また、特許文献2には、水素ガスと窒素ガスとアンモニアガスとを流しながらGaN基板の表面に付着している有機物等の汚れや水分を取り除くと同時に基板の表面の結晶性を向上させる工程の後に、窒素ガスと水素ガスを流しながらGaN基板上にGaN層とInGaN層からなる多層構造の中間層を形成し、この中間層上に反射層、活性層、および窒化ガリウム系半導体層を備えた発光素子の発明が開示されている。
さらに、特許文献3の実施例26には、GaN基板上に形成された厚み3μmのSiドープのn型GaNバッファ層を設け、このn型GaNバッファ層上に積層構造を造り込んだレーザ素子の発明が開示されている。なお、上記n型GaNバッファ層とGaN基板との間に、500℃程度の低温で形成した300Å以下のバッファ層を設けてもよい旨が記載されている。
特開2005−347494号公報
特開2005−311072号公報
特開2007−67454号公報
しかしながら、本発明者らの検討したところによれば、これら特許文献1乃至3に記載されている結晶成長方法では、表面平坦性に優れた窒化物半導体を再現性よく得ることは比較的難しく、得られた膜の光学特性も充分とは言えないことが確認された。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、表面モフォロジと光学特性がともに良好であって、低転位密度化も図られているため、発光素子とした場合の発光効率が高い、高品質の窒化物半導体を得るための結晶成長方法を提供することにある。
本発明に係る第1の態様の結晶成長方法は、GaN自立基板の窒化物主面上に窒化物半導体を結晶成長させる方法であって、前記GaN自立基板を、有機金属気相成長装置内にて、室温から700℃以上で1350℃以下である所定の昇温到達温度TAまで昇温する工程であって、前記窒化物主面をアンモニアを含み水素ガスを含まない雰囲気に暴露した状態で該基体を550℃以下の温度から前記昇温到達温度TAまで昇温する期間tAを含む昇温工程と、前記有機金属気相成長装置内にて、前記GaN自立基板の窒化物主面をアンモニアを含む雰囲気に暴露した状態で該GaN自立基板の窒化物主面上にシリコン(Si)原料を意図的に供給することなく第1の窒化物半導体層を700℃以上で1350℃以下であるエピタキシャル成長温度Tg1でエピタキシャル成長させる第1の成長工程と、前記有機金属気相成長装置内にて、前記第1の窒化物半導体層表面をアンモニアを含む雰囲気に暴露した状態で該第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる第2の成長工程とを備えている。
また、本発明に係る第2の態様の結晶成長方法は、GaN自立基板の窒化物主面上に窒化物半導体を結晶成長させる方法であって、前記GaN自立基板を、有機金属気相成長装置内にて、室温から700℃以上で1350℃以下である所定の昇温到達温度TAまで昇温する工程であって、アンモニアを含み水素ガスを含まないメインフローを構成した雰囲気中で前記基体を550℃以下の温度から前記昇温到達温度TAまで昇温する期間tAを含む昇温工程と、前記有機金属気相成長装置内にて、アンモニアを含んでメインフローを構成した雰囲気中で前記GaN自立基板の窒化物主面上にシリコン(Si)原料を意図的に供給することなく第1の窒化物半導体層を700℃以上で1350℃以下であるエピタキシャル成長温度Tg1でエピタキシャル成長させる第1の成長工程と、前記有機金属気相成長装置内にて、アンモニアを含んでメインフローを構成した雰囲気中で前記第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる第2の成長工程とを備えている。
上記第1および第2の態様において、好ましくは、前記昇温工程における全ガスに対する不活性ガスの成分比は流量比で0.5以上1.0以下である。
また、好ましくは、前記第1の成長工程における全ガスに対する活性ガスの成分比は流量比で0.5以上1.0以下である。
また、好ましくは、前記昇温工程における全ガスに対する不活性ガスの成分比は流量比で0.5以上1.0以下であり、前記第1の成長工程における全ガスに対する活性ガスの成分比は流量比で0.5以上1.0以下である。
好ましくは、前記GaN自立基板の窒化物主面は(0001)面(c+面)±5度以下の結晶面である。
また、好ましくは、前記第2の成長工程におけるn型ドーパント原料の供給は前記第2の窒化物半導体層中のシリコン濃度が1×1017cm-3以上で6×1019cm-3以下となるように実行される。
さらに、好ましくは、前記第2の窒化物半導体層の上に活性層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させる第3の工程を更に備えている。
本発明に係る発光素子の製造方法は、上述の結晶成長方法を用いて窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む。
本発明では、窒化物半導体層を成長させる前の比較的高温領域での昇温過程におけるメインフローを構成するガス(基体の窒化物主面が暴露される雰囲気)を、窒化物に対してエッチング効果のないものを主とし、かつ、窒化物半導体層の成長開始時にはSi源を意図的には供給しないこととした。このため、エピタキシャル基体の窒化物表面近傍からの窒素原子の脱離が生じにくく、エピタキシャル膜への欠陥導入が抑制される。また、平坦性に優れた表面モフォロジを有するエピタキシャル成長が可能となる。
また、本発明では、窒化物半導体の結晶成長の初期層である第1の窒化物半導体層(意図的にはSiをドーピングしていない層)の厚みの適正化が図られた。これにより、その上にエピタキシャル成長させる窒化物半導体の結晶性の向上が可能となる。
これらの効果の結果として、本発明によれば、表面モフォロジと光学特性がともに良好であって、低転位密度化も図られているため、発光素子とした場合の発光効率が高い、高品質の窒化物半導体が提供されることとなる。
エピタキシャル成長方法には各種成長方法があるが、本発明は、主に気相成長法に適応可能であって、その中でも特にH−VPE法(ハイドライド気相成長法)とMOCVD法に好ましく適応可能であって、最も好ましくはMOCVD法に適応可能である。
例えば、MOCVD法においては、さまざまな構成の装置形態を適応可能であって、それぞれの装置形態によって、昇温時/降温時の主たる雰囲気を構成するガス、成長時の主たる雰囲気を構成するガス、原料ガス、有機金属や一部ドーパントの供給を実現するためのキャリアとして使用するガス、原料を希釈するためのガス、原料ガスの取り込みや雰囲気を構成するガスの基体上への接触や供給を効率化するための補助的なガス、ガスの流れ全体を層流化するなどのフローを整えるガス、ヒータや各種ポート等の構成部材の安定化/長寿命化のためのガス、反応炉を開放するために導入するガス等が、適宜導入される。
本発明においては、この中で、原料ガス/雰囲気を構成するガスの基体への取り込みや基体上への接触や供給を効率化するための補助的なガスによって構成される流れや、ガスの流れ全体を層流化するなどのフローを整えるガスの流れを便宜上、「サブフロー」と記載する。また、ヒータや各種ビューポート等の構成部材の安定化/長寿命化のためのガス、反応炉を開放するために導入するガス等、エピタキシャル成長には直接寄与しないガスによって構成される流れを、便宜上、「成長外フロー」と記載する。
これに対して、本発明においては、結晶成長装置内に供給されるサブフローと成長外フロー以外のすべてのガスの流れを、便宜上、「メインフロー」と記載する。よって、メインフローは、主として、昇温時/降温時の主たる雰囲気を構成するガス、成長時の主たる雰囲気を構成するガス、原料ガス、有機金属や一部ドーパントの供給を実現するためのキャリアとして使用するガス、原料を希釈するためのガスなど流れの総称である。このメインフローは、実質的に、窒化物半導体をエピタキシャル成長させるための基体の表面或いはエピタキシャル成長中の窒化物半導体の結晶表面が暴露される雰囲気そのものである。従って、メインフローは気相成長に必須である一方、サブブローや成長外フローは任意的なものである。
図1(A)及び図1(B)はそれぞれ、横型および縦型のMOCVD反応炉の一例を示したもので、メインフローの流れを概念的に示したものである。例えば、横型の反応炉(図1(A))では、石英反応管1の内部に収容されたサセプタ2上に載置された基体3の表面がメインフローMFに暴露され、このメインフローMFが基体3にとっての事実上の「雰囲気」となる構成の装置である。このメインフローMFはサブフローSFによって基体3の表面に押し付けられ、原料ガス/雰囲気を構成するガスの基体3への取り込みや基体3上への接触や供給が効率化されるとともに、ガスの流れ全体も層流化する。
一方、縦型の反応炉の一例として示した図1(B)の構成においては、サブフロー用のガス供給はなされず、石英反応管1の内部を流れるガスはメインフローMFによるもののみである。なお、横型の反応炉(図1(A))と縦型の反応炉(図1(B))の何れにおいても、ヒーターパージやビューポートのパージなどとして、ガス供給によって成長外フローOFによるガスの流れが生じている。
さらに、本明細書においては、昇温時/降温時を含んで、窒化物半導体をエピタキシャル成長させる際に、主に窒素原料となるガスを含むフロー、或いは、基体/エピタキシャル層表面からの窒素抜けを抑制するための雰囲気形成をするためのフローを、便宜上、「第1メインフロー」と記載する場合もある。この場合には、主にそれ以外の原料供給や雰囲気形成のためのガスの流れを、便宜上、「第2メインフロー」と記載することがある。更に、メインフローを構成するガスの一部は有機金属原料を供給するためのキャリアガスとしても使用可能であることから、メインフローを構成するガスの一部をキャリアガスと記載することもある。
ここで、本発明で用いられる「活性ガス」とは、昇温、降温、待機、成長工程などの一連のエピタキシャル結晶成長工程において、温度と圧力条件の下で分解または反応し、原子状あるいは分子状の水素ラジカルや、原子状あるいは分子状の水素イオンや、原子状水素などといった水素の活性種を発生させうるガスであって、かつ、メインフローを構成するガスのうちの主要なガスとして導入されるものであり、その量は、少なくともエピタキシャル成長工程のいずれかの時期において、メインフローの中の構成ガス種の流量比で1%を越えるものである。
よって、主要な活性ガスとしては、水素(H2)ガスまたはアンモニア(NH3)ガス(これらの混合ガスを含む)が例示される。このようなガスは窒化物結晶に対するエッチング効果があり、特にH2ガスはその効果が非常に大きい。よって、これらのガス(特にH2ガス)に、不適切な条件下で窒化物結晶の表面が暴露された場合には、当該窒化物表面からの窒素脱離が生じ易く、原子レベルの欠陥が導入され易い。
一方、「不活性ガス」とは、昇温、降温、待機、成長工程などの一連のエピタキシャル結晶成長工程において、水素の活性種を発生させることのないガスであって、かつ、メインフローを構成するガスのうち主要構成ガスとして導入されるものであり、その量は、少なくともエピタキシャル成長工程のいずれかの時期において、メインフローの中の構成ガス種の流量比で1%を越えるものである。
このような不活性ガスとしては、窒素(N2)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)が主要なものとして例示される。また、アセトニトリル、アゾイソブタン、ヒドラジン化合物である1,1-ジメチルヒドラジン、アミン系化合物であるジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリアリルアミン、トリイソブチルアミン、アジド系化合物であるメチルアジド、エチルアジド、フェニルアジド、ジエチルアルミニウムアジド、ジエチルガリウムアジド、トリスジメチルアミノアンチモンなども不活性ガスとしての上記条件を満足するものであり、これらの混合ガスも不活性ガスに含まれる。
なお、上述のとおり、水素ガスは窒化物に対してエッチング効果をもつことから、本発明では、昇温工程にある基体の表面に活性ガスとしての水素ガスが過剰に暴露されないように雰囲気制御がなされる。
図2(A)は、本発明の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図で、ここでは、(0001)面を主面とするGaN自立基板上にGaN膜をエピタキシャル成長させる例が図示されている。なお、エピタキシャル成長用反応炉は、例えば、有機金属気相成長装置であって、常圧成長を通常の条件とする横型3層流石英製反応炉、減圧成長を通常の条件とする自公転型反応炉(プラネタリーリアクタ)、減圧成長を通常の条件とする縦型SUS製反応炉などを例示することができる。
先ず、エピタキシャル成長用の基体として、少なくとも一方の主面が窒化物である基体を準備し、この基体を、エピタキシャル成長用反応炉内のサセプタ上に載置して所定の温度まで昇温する(工程A)。この基体主面の窒化物は、GaN、AlN、InN、BN、若しくはこれらの混晶である自立基板の主面であるか、あるいは、サファイア基板、SiC基板、ZnO基板、Si基板、GaN基板、AlN基板、InN基板、BN基板若しくはこれらの混晶である自立基板の何れかの基板上に結晶成長されたGaN膜、AlN膜、InN膜、BN膜、若しくはこれらの混晶膜などである。
本発明者らの検討によれば、本発明の結晶成長方法は、特に、主面の結晶面方位が(0001)面、(1−102)面、(11−20)面、(1−100)面、或いはこれらと等価な面またはこれらの中間の面である基体上のエピタキシャル成長に適する。各面からのいわゆるオフ角度は、±5.0°以下、望ましくは±3.0°以下、より望ましくは±1.0°以下、最も望ましくは±0.5°以下であれば、本発明によって、基体上に良質の窒化物半導体をエピタキシャル結晶成長させるのに有効である。
本発明の結晶成長方法はとりわけ、極性面であるc面(特に、ガリウム面である(0001)面(c+面))を主面とする窒化物の面上に良質の窒化物半導体をエピタキシャル結晶成長させるのに有効であり、例えば、主面が(0001)面のGaN自立基板を用いてGaN系窒化物半導体を結晶成長させると良質のエピタキシャル成長膜が得られる。
なお、c+面の基体を用いる場合にも、その主面が、ジャストc+面からの傾斜角がm方向、a方向の双方において±5.0°以下、望ましくは±3.0°以下、より望ましくは±1.0°以下、最も望ましくは±0.5°以下の結晶面であることが好ましい。
工程Aにおける昇温は、基体の温度を後述の第1の窒化物半導体層の成長温度である700℃〜1350℃とするためのもので、この昇温は、例えば、反応炉内の圧力が35キロパスカル〜120キロパスカルとなるようにメインフローを構成するガスを供給して実行される。なお、後述するような積層構造を窒化物半導体層上に形成する場合、光学素子特性を支配する当該積層構造の光学特性を良好なものとするためには、工程Aの好ましい昇温到達温度TAは、700℃〜1350℃となり、より好ましくは750℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは900℃〜1100℃の範囲、最も好ましくは940℃〜1080℃の範囲である。なお、工程Aの昇温到達温度範囲と、これに続く窒化物半導体層の成膜温度範囲とは一致することが好ましく、例えば940℃〜1080℃の範囲で窒化物半導体層を成膜する場合には、工程Aの昇温到達温度も940℃〜1080℃の範囲のものとなる。また、昇温到達温度と後述する成膜温度は同じであることが最も好ましい。
図2(A)に例示した昇温工程は、水素ガス以外の活性ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で基体を所定の温度まで昇温する期間tAの昇温段階(高温段階)と、この昇温期間tAの前の相対的に低温の領域において、当該昇温期間tAのメインフローとは異なる組成のガスでメインフローを構成した雰囲気中で基体を昇温する期間tBの昇温段階(低温段階)の2段階からなる。以降においては、上述の期間tBの昇温段階(低温段階)を便宜上「第1の昇温工程」といい、上述の期間tAの昇温段階(高温段階)を便宜上「第2の昇温工程」と言うことがある。
なお、図2(A)に例示したガスのうち、NH3ガスは窒化物半導体層を構成する窒素の原料供給ガスであり得る。従って、後述の第1及び第2の成長工程におけるメインフローは、主として窒素原料供給ガス(図2(A)の例ではNH3ガス)を含む第1のメインフローと、主として窒化物半導体層を構成する窒素以外の元素を原料供給するガス(図2(A)の例ではNH3以外のガス)を含む第2のメインフローを少なくとも含むこととなる。
相対的に低温の領域での期間tBの昇温段階は、基体主面を構成する窒化物からの窒素脱離を積極的には抑制する必要のない温度領域における昇温段階である。一方、相対的に高温の領域での期間tAの昇温段階は、基体主面を構成する窒化物からの窒素脱離を積極的に抑制する必要のある温度領域における昇温段階である。
基体の置かれている反応炉内圧力にも依存するが、概ね550℃程度以上の温度領域では窒化物表面からの窒素脱離を積極的に抑制する必要が生じるものと考えられる。従って、この温度よりも低温の領域では、メインフローを構成するガスとして、活性ガスと不活性ガスの何れのガスをどのような割合で含んでいてもよい。例えば、メインフローのすべてを不活性ガスであるN2ガスで構成してもよく、活性ガスであるNH3ガスのみで構成してもよい。図2(A)に示した例では、メインフローのすべてを不活性ガスであるN2ガスで構成している。
水素ガス以外の活性ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で基体を所定の温度まで昇温する期間tAの昇温段階(高温段階)は窒化物表面からの窒素脱離を積極的に抑制するために極めて重要である。なお、昇温工程全体を通じて上記の雰囲気中で基体の昇温を行うこととしてもよい。この場合には期間tAは昇温工程期間に一致することとなる。
期間tAの昇温段階(高温段階)におけるメインフローは、水素以外の活性ガスを含むガスで構成される。従って、基体の昇温は、基体の窒化物主面が水素ガス以外の活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で進行することとなる。
なお、この昇温段階における反応炉内の圧力は、35キロパスカル〜120キロパスカルとなるように調整されることが好ましい。反応炉内の圧力の下限を35キロパスカルとしているのは、基体表面が暴露している雰囲気が過度の減圧状態である場合、光学特性が大幅に劣化するためである。この点については後述する。また、図2(A)に図示したように、この昇温段階においては、メインフローを構成する活性ガスとしてNH3ガスを供給するとともに、不活性ガス(ここではN2)も同時供給することが好ましい。
なお、後述するような積層構造を窒化物半導体層上に形成する場合、光学素子特性を支配する当該積層構造の光学特性を良好なものとするためには、第1および第2の窒化物半導体層の成膜温度は700℃〜1350℃の範囲にある事が好ましいが、より好ましくは750℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは900℃〜1100℃の範囲、最も好ましくは940℃〜1080℃の範囲である。従って、940℃〜1080℃の範囲で窒化物半導体層を成膜する場合には、工程Aの昇温到達温度も940℃〜1080℃の範囲のものとなる。また、昇温到達温度と成膜温度は同じであることが最も好ましい。
図2(A)に示したシーケンス例では、反応炉内に第2のメインフローを構成するガスとして不活性ガスである窒素ガスを供給しながら第1の昇温工程を開始し、基体温度が500℃になった時点で第1のメインフローを構成するガスとして活性ガスであるNH3ガスの供給を追加して第2の昇温工程を開始し、この混合ガス中で更に到達温度である1000℃まで昇温させている。なお、この第2の昇温工程におけるNH3ガスの供給は、当該昇温工程中に基体の表面から窒素が抜けてエピタキシャル成長面の結晶性が低下することを抑制するためのものである。
この第2の昇温工程において、メインフローを構成する全ガス(この場合は第1のメインフローと第2のメインフローの和)に対する不活性ガス成分(窒素ガス)の流量比(Fp)は0.5以上1.0以下であることが好ましく、0.7以上1.0以下とする事がさらに好ましく、0.8以上1.0以下とする事が最も好ましい。このような混合ガス成分とするのは、比較的高温の領域での基体昇温の際に、基体表面が暴露されることとなる雰囲気中に活性ガスが過剰に多く含まれていると、基体表面の窒化物結晶中に欠陥が導入され易いためである。
このような昇温工程(工程A)に続いて、第1の窒化物半導体層の成長工程(工程B)に移行するが、本発明では、従来の結晶成長法では採用されているような、基体の窒化物主面を熱的にクリーニングする工程を設けずに窒化物半導体層をエピタキシャル成長させても、良質の窒化物半導体層を得ることが可能である。特に、基体の窒化物主面が極性面、特にC+面においては、かかるクリーニング工程を設けない場合に、結晶モルフォロジ性が良いため好ましい。
工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3ガスの供給を続けながら、第2のメインフローを構成するガスを窒素から水素に変更し、反応炉内の雰囲気が安定化した後に、第2のメインフローを構成するガスの一部をIII族元素の原料およびドーパント原料を供給するためのキャリアガスとして使用し、エピタキシャル成長原料を反応炉内に供給させて窒化物半導体層の結晶成長を開始する。
図2(A)に示したシーケンス例では、第1のメインフローを構成するガスとしてGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、第2のメインフローを構成するガスの一部をキャリアガスとして使用して、ガリウム源としてトリメチルガリウム(TMGa)原料を供給している。なお、この第1の窒化物半導体層は多結晶成分を含まない結晶であることが好ましく、さらに単結晶そのものにより構成されていることがより好ましい。この第1の窒化物半導体層の上に、更に第2の窒化物半導体層が形成される。勿論、第2の窒化物半導体層の上に更に窒化物半導体層を設けることもできる。
工程Bでは、基体の窒化物主面上にシリコン(Si)原料が意図的には供給されない環境下で第1の窒化物半導体層がエピタキシャル成長される。つまり、基体の窒化物主面を活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該基体の窒化物主面上にSi原料を意図的には供給することなく第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる。図2(A)に示したシーケンスの場合、活性ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で基体の窒化物主面上にSi原料を意図的に供給することなく第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることを意味する。
これによって得られる代表的な膜は一般にはi−GaN層である。ここでいうi−GaN層とは、Siなどのドーパントが意図的には原料供給されない状態でエピタキシャル成長したGaN層との意味であって、実際には原料ガスから不純物として混入したSi等や反応炉中あるいはその近傍中に存在する石英部材等から混入するSi等を含んでしまうのが通常である。さらには、たとえばGaN基板やAlN基板のような自立基板の表面研磨工程等で使用されるSi系研磨剤が、残留物として基体表面に付着している場合には、エピタキシャル成長時の基板表面にSiが滞留していることとなり、これが不純物としてi−GaN層に混入する可能性もある。加えて、GaN基板やAlN基板のような自立基板作成時に意図的にSiがドーピングされた基板をエピタキシャル成長用基体として用いる場合には、エピタキシャル成長初期に、基体表面にSiが偏析してしまう可能性もあり、このSiをi−GaN層が取り込んでしまう可能性もある。
このような意図しない不純物の濃度は、Siの場合、3×1017cm-3以下に抑えることが好ましい。なお、上述のような不可避的混入不純物が例えばパイルアップ現象等により当該GaN層近傍に偏在し、その結果、当該不純物が上記の3×1017cm-3を超える濃度でGaN層内に取り込まれることもあり得る。しかし、本発明者らが行なった検討では、後述する実施例と比較例で示すとおり、意図的に原料供給されてGaN層内に取り込まれたものでない限り、GaN層の膜質の顕著な劣化は確認されなかった。従って、本明細書において「窒化物半導体層のSi濃度」を問題とする場合には、特に断る場合を除き、たとえばSiH4やSi2H6の供給のような意図的な原料供給により層内に取り込まれたものを対象とする。
なお、上述のようなパイルアップ現象等によりGaN層中に不可避的にSiが混入する場合においても、第1の窒化物半導体層中の当該不純物Si濃度は、そのピーク値として1×1021cm-3以下に抑制することが好ましい。さらには、当該不純物Si濃度は1×1020cm-3以下に抑制する事がより好ましく、8×1019cm-3以下に抑制することがさらに好ましく、6×1019cm-3以下に抑制することが最も好ましい。薄膜層においては顕著ではないものの、6×1019cm-3を超えるSi濃度を有する厚膜GaN層はその表面平坦性に問題が発生する場合もあるので、薄膜層においてもSi濃度は6×1019cm-3以下に抑制することが最も好ましい。
また、第1の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度は、第2の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度よりも低いことが好ましい。これは、上記の各種理由によるSiの混入があったとしても、その影響は界面数百nm程度が極端であると考えられることから、この厚みよりも十分に厚い第1の窒化物半導体層を形成した場合には、Siなどのドーパントを意図的には原料供給せずにエピタキシャル成長した第1の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度は、n型ドーパントをSiとして、これを意図的に供給し成長する第2の窒化物半導体層のSi濃度よりも低くなると考えられるからである。
しかし、エピタキシャル成長をする基体に対して、数百nm程度以下の第1の窒化物半導体層を形成する場合には、たとえSiなどのドーパントを意図的には原料供給せずにエピタキシャル成長した場合であっても、第1の窒化物半導体層の成長膜厚方向の平均的Si濃度は、n型ドーパントをSiとして、これを意図的に供給し成長する第2の窒化物半導体層のSi濃度よりも高くなる場合もある。
この場合は、第2の窒化物半導体層のSi濃度は、パイルアップ現象がないと仮定される場合の第1の窒化物半導体層のSi濃度の推定値よりも低いと考えることもできる。かかる観点から、第2の窒化物半導体層のSi濃度は1×1017cm-3以上であることが好ましい。
なお、この工程Bの反応炉内圧力も、例えば、35キロパスカル〜120キロパスカル程度に設定され、メインフローを構成する全ガス中に占める活性ガス成分比(図2(A)のシーケンス例では第1メインフローであるNH3ガス成分と第2メインフローである水素ガス、TMGa成分の総和に対する活性ガス成分の流量比、Fa)が0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましく、0.8以上1.0以下となるようにガス供給することがより好ましい。
TMGa量は、H2ガス、NH3ガスに比較して極微量であるので、活性ガス成分の流量比Faは図2(A)の例ではほぼ1.0である。この流量比Faが0.5未満であると、平坦な結晶成長が困難となって窒化物半導体層の表面が凹凸を持ったものとなり易い。また、反応炉内圧力が35キロパスカル未満の減圧状態でエピタキシャル成長させた場合には、結晶性が低下し、フォトルミネッセンス(PL)特性が劣化する。さらに、120キロパスカル以上の圧力では反応炉内の気相反応が増加してしまい、エピタキシャル成長中に窒化物半導体層内に炭素が取り込まれて結晶性が低下する。
工程Bでの基体温度は700℃〜1350℃の温度範囲の所定の温度に設定されるが、下限を700℃としているのは良質の窒化物半導体を結晶成長させるために必要とされる熱エネルギを考慮したためであり、上限を1350℃としているのは反応炉の構成部材の劣化等の制約からである。700℃未満の温度で成膜すると多結晶成分が混在し易く、その結果として発光特性も低下する。
このような条件下で得られる第1の窒化物半導体層は、その厚みL1が0.1nm〜150nmの範囲の比較的薄い層であることが好ましい。第1の窒化物半導体層の厚みの下限を0.1nmとするのは、基体表面(窒化物表面)をエピタキシャル層で被覆するためには少なくとも0.1nmを要するためである。本発明者らの検討によれば、このような第1の窒化物半導体層の上に第2の窒化物半導体層をホモエピタキシャル成長させると、当該第2の窒化物半導体層を低欠陥のものとすることができる。
この第1の窒化物半導体層(第1のGaN層)の上に、n型ドーパント原料を意図的に供給しながら、比較的厚い層である第2の窒化物半導体層(第2のGaN層)をエピタキシャル成長させる(工程C)。この工程では、第1の窒化物半導体層表面を活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を意図的に供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることとなる。図2(A)に示したシーケンスの場合、H2とNH3ガスを含んでメインフローを構成した雰囲気中で第1の窒化物半導体層上にn型ドーパント原料を意図的に供給しながら第2の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることとなる。ここで、窒化物半導体層に対するn型ドーパントとしては、Si、O、C、Ge、Se、S、Teなどを例示することが可能であって、特にSi、Se、Oが好ましく、さらに、Siが最も好ましく利用可能である。
工程Cでの基体温度も700℃〜1350℃に設定されるが、反応炉内の圧力は5キロパスカル以上であって且つ第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以下とする。第1の窒化物半導体層上に第2の窒化物半導体層を積層させる過程では点欠陥の発生が抑制されるため、反応炉内の圧力を工程Aおよび工程Bよりも低く設定することが可能である。但し、5キロパスカル未満の圧力では成長過程の第2の窒化物半導体層の表面から窒素が抜け易いので、圧力下限は5キロパスカルとすることが好ましい。
図2(A)に示したシーケンス例では、メインフローを構成する第1メインフローとしてGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、メインフローを構成する第2メインフローとしてH2を用い、この一部をキャリアガスとしてTMGaを供給し、さらに、n型ドーパントであるSi源としてシラン(SiH4)ガスを供給している。
なお、工程Bと同様に、この工程Cにおけるメインフローを構成する全ガス中に占める活性ガス成分の流量比Fa(図2(A)のシーケンス例では第1メインフローであるNH3ガス成分と第2メインフローである水素ガス、TMGa、SiH4ガス成分の総和に対する活性ガス成分の流量比)が0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましく、0.8以上1.0以下となるようにガス供給することがより好ましい。NH3やH2に比較してTMGaやSiH4は極微量なので、図2(A)の工程CにおけるFaもほぼ1である。このFaが0.5未満であると、平坦な結晶成長が困難となって窒化物半導体層の表面が凹凸を持ったものとなり易い。
このようにして得られる第2の窒化物半導体層は、その厚みL2が0.4〜20μmの範囲の比較的厚い層で、シリコン濃度は通常1×1017cm-3以上、好ましくは、5×1017cm-3以上、さらに好ましくは1×1018cm-3以上、最も好ましくは3×1018cm-3以上である。また、通常6×1019cm-3程度以下、好ましくは4×1019cm-3以下、さらに好ましくは1×1019cm-3以下、最も好ましくは7×1018cm-3以下である。
ここで、第2の窒化物半導体層の厚みL2が0.4μm未満ではpn接合素子を作製した場合に良好なpn特性を得ることが困難であり、20μmを越える厚膜とすると表面荒れが生じ易い。
なお、厚みL2は、素子化した場合の電気特性を安定なものとし易くし、エピタキシャル成長開始界面に残存している僅かな格子欠陥が素子の活性層構造あるいは量子井戸活性層構造に悪影響を及ぼすことを抑制するという観点から、0.4μm(400nm)以上とすることが好ましい。また、ドーパント濃度が1×1017cm-3未満であるとpn接合素子を作製した場合に良好なpn特性を得ることが困難であり、ドーパント濃度が6×1019cm-3を超える高濃度ドープの窒化物半導体層では表面が荒れ易い。
本発明はこれら工程A、B、Cを備えているが、追加の工程を加えることとしてもよいことは言うまでもない。例えば、工程Bと工程Cの間(第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層の間)に、ドーピング濃度が異なる2種類以上の層を繰り返し積層した層構造や、異なる材料から構成される2種類以上の窒化物半導体層を繰り返し積層した層構造などを形成する工程を付加するようにしてもよい。
また、図2(A)に例示したように、第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体をさらにエピタキシャル成長させる工程(工程D)や、p型ドーパントを含有する窒化物半導体層を結晶成長させる工程(工程E)、降温工程(F)などを含む第3の工程を設けるようにすることもできる。
第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させる工程(工程D)においては、第2の窒化物半導体層表面を、不活性ガスを含む雰囲気に暴露した状態で当該第2の窒化物半導体層上にMQW層を含む積層構造体をエピタキシャル成長させることが好ましい。
図2(A)に示したシーケンスの場合、不活性ガスとしてN2を、また、窒素原料としては任意の要件として活性ガスであるNH3ガスを適切な量含んでメインフローを構成した雰囲気中で、第2の窒化物半導体層上にInGaN層とGaN層の積層構造からなる多重量子井戸活性層構造を形成している。
本発明における多重量子井戸活性層構造中の量子井戸層には、適宜発光波長を選択するために、In、Al等を含む事が好ましく、Inを含む事が最も好ましい。InGaNの量子井戸層のIn濃度は、組成比でたとえば、0.04〜0.10で、InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造は400±30nm(即ち、370nm以上430nm以下)の中心波長を有する光を発光する事が好ましい。
さらに好ましくはその中心波長は380nm以上420nm以下であって、InGaN量子井戸層のIn組成比では、0.05〜0.09程度に相当する。最も好ましくは、その中心波長は395nm以上415nm以下であって、InGaN量子井戸層のIn組成比では0.06〜0.08程度に相当する。この理由は以下の通りである。
一般に、c面サファイア基板上に形成されたInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造においては、格子定数の不整合等に起因する多数の転位がサファイア基板とGaN系エピタキシャル層の界面から、多重量子井戸活性層構造を含むエピタキシャル層全体に伝播してしまっているのが普通であり、その転位密度は1×109cm-2程度であることが知られている。また、サファイア基板上に凹凸加工をした基板を用いてエピタキシャル層を形成し、転位の一部を低減したとしても、3×108cm-2程度の転位密度までしか低減しないことも知られている。
ここにおいて、量子井戸層内においては、Inによる電子―正孔対の局在効果が作用し、結果として発光再結合の発生が局在化するので、多数の転位が存在しても、量子井戸層内に注入あるいは生成した電子―正孔対がこれらの転位等に捕獲されて非発光再結合することを抑制していると考えられている。一方、本発明では、好ましくは窒化物基板上のホモエピタキシャル成長を実施する。即ち、本発明の方法による窒化物半導体エピタキシャル層は、これまでのサファイア基板上などのヘテロエピタキシャル成長時の各種困難さを克服することに成功しているため、さらには、これまでのGaN基板上などのホモエピタキシャル成長時のモルフォロジの悪さ等も克服することに成功しているため、エピタキシャル層内における転位密度は非常に小さくなっている。
本発明者らの実験結果によれば、本発明におけるエピタキシャル層内に存在する転位密度は、好ましくは1.0×107(cm-2)以下であって、より好ましくは、6.5×106(cm-2)以下であって、さらに好ましくは3.0×106(cm-2)以下である。これにより、Inによる局在効果の少ない場合であっても本発明の発光特性が良好となる。具体的には、InGaNの量子井戸層のIn組成比でたとえば、0.04〜0.10と小さくとも、非常に良好な発光特性を示すことが確認されている。
このため、本発明における窒化物半導体エピタキシャル層が発光する光は、下限が370nm以上、好ましくは380nm以上であり、上限が430nm以下、好ましくは420nm以下の中心波長を有していることが好ましい。前記In組成の好ましい範囲の下限はGaN層とのバンドオフセットを形成するために必要な最低限度のInGaN層のIn組成で規定されており、一方、前記In組成の好ましい範囲の上限は、後述する本発明で好ましく利用可能なInGaN量子井戸層の厚みに照らして、その内在する応力が過度にならない範囲として規定される。
量子井戸活性層を形成する際の好ましい基体温度は、InGaN層を安定的に形成する目的で規定される。InGaN層中のInは、その蒸気圧が高いために、量子井戸活性層は、他の層よりも低温で形成されることが好ましい。特に、本発明者らの検討によれば、平坦な光学特性の優れた量子井戸活性層ほど、成長中の微視的なキンクサイトが少ないために、これらを契機にしたInの取り込みが少なく、比較的短波長化しやすい傾向にあることが明らかとなっている。その結果、本発明のような平坦な極性面上のエピタキシャル層上へInGaN層を含む量子井戸活性層構造を形成する場合には、その温度範囲は600℃〜850℃が好ましい。
ここで基体温度が600℃以下の場合には、窒素原料の分解効率が低下し、また、不純物の取り込みが増えるため、結晶性が劣化し好ましくない。また、850℃より高い場合には、インジウム原子の再蒸発が活発化するために、インジウム組成に依存する発光波長の制御や、面内均一性の確保が困難になる。よって、量子井戸活性層を形成する際の基体温度は、600℃〜850℃に設定されるのが好ましい。より不純物が少なく、より波長再現性が必要とされる場合には、基体温度を700℃〜800℃の間に設定することがより好ましい。最も好ましくは、720℃〜790℃の間に設定する事である。
量子井戸活性層を形成する際の、反応炉内の圧力は、第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以上とすることが好ましく、120kPa以下とする事が好ましい。
これは以下の理由による。第2の窒化物半導体層上に量子井戸活性層を積層させる工程では、蒸気圧の高い元素であるインジウムの存在下で欠陥の発生を抑制する必要がある。よって、反応炉内の圧力を工程Bよりも高く設定することが好ましい。これによって蒸気圧の高い元素であるInの過剰な再蒸発等を適切に抑制することが可能となる。但し、120キロパスカル以上の圧力では反応炉内の気相反応が増加してしまい、エピタキシャル成長中に窒化物半導体層内に炭素が取り込まれやすくなり、結晶性が低下することとなる。よって、反応炉内の圧力は、第1の窒化物半導体層のエピタキシャル成長時の圧力以上とすることが好ましく、120kPa以下とする事が好ましい。
図2(A)に示したシーケンス例では、メインフローを構成する第1メインフローとしてInGaNとGaNの窒素源となりうるNH3ガスを供給し、メインフローを構成する第2メインフローとしてN2を用い、この一部をキャリアガスとしてTMGa、TMInを供給している。なお、工程Dにおけるメインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比(図2(A)のシーケンス例では、活性層構造に含まれる量子井戸層においては、第1メインフローであるNH3ガスと第2メインフローである窒素ガス、TMIn、TMGaの総和に対する活性ガス成分比であって、一方、活性層構造に含まれる障壁層においては、第1メインフローであるNH3ガスと第2メインフローである窒素ガス、TMGaの総和に対する不活性ガス成分比)が流量比で0.5以上1.0以下となるようにガス供給することが好ましい。特に活性層構造に含まれる量子井戸層においては、H2を供給しないことが好ましい。
これは、過剰な活性ガスの導入、特にエッチング効果の大きいH2ガスの導入は、特にInNを含む材料、たとえばInGaN等の平坦度を極端に悪化させる。このため、本発明の第1の成長工程、第2の成長工程を経た、下地の良質な窒化物半導体層であっても、活性層の結晶性の低下につながり易いため、H2を供給することは好ましくない。
ただし、活性ガスである窒素原料が過剰に存在する条件下で成長をする場合には窒素脱離が抑制されるため、メインフローを構成する全ガス中に占める不活性ガス成分比は、本発明者らの検討によれば、0.4程度まで下げることが可能である。
第3の工程に含まれる、積層構造体のエピタキシャル成長工程中に作製しうる、活性層構造の厚み、特に量子井戸活性層構造における量子井戸層の厚みは、適宜選択が可能であるが、その厚みは0.5nmから5.0nm程度が好ましく、1.0nmから3.0nmである場合がより好ましく、1.5nmから2.5nmである場合がもっとも好ましい。これは極性面上に形成された多重量子井戸活性層構造中において、注入/生成された電子―正孔対が空間的に分離されるために、その分離を抑制するためには極薄の量子井戸層が適切と考えられるからである。
特に結晶品質の観点からの説明を補足すると、以下の通りである。本発明においては、前述の通り好ましくは窒化物基板上のホモエピタキシャル成長を実施する。さらに、第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層の形成において、高品質なエピタキシャル成長が可能となった。このため、サファイア基板上などのヘテロエピタキシャル成長時と比較して、本発明によるエピタキシャル層内の転位密度は非常に小さく、これによって、Inによる電子、正孔等の局在効果が少なくなっても、換言すると、前記の通りに、In組成が少ないInGaN層を量子井戸層に採用したとしても、良好な発光特性を実現する事が可能となっている。
ここでGaN基板上のホモエピタキシャル成長においては、In濃度の高いInGaN層がGaN層上に形成されると、InGaN層は成長面内方向に圧縮応力を受ける。このため、従来のサファイア基板上のエピタキシャル成長のように、モフォロジが悪く、平坦でなく、点欠陥等が多い構造しか形成できない方法で形成されるInGaN/GaN量子井戸活性層構造においては、In濃度を高め、その局在効果によって発光強度を高めることが必要になる。また、従来のGaN基板上のホモエピタキシャル成長のように、モフォロジが悪く、平坦でなく、点欠陥等が多い構造しか形成できない方法で形成されるInGaN/GaN量子井戸活性層構造においても、状況は類似である。
一方、本発明において好ましく利用される、InGaNの量子井戸層のIn組成が比較的低い0.04〜0.10の範囲においても、良好な発光が期待できる。さらに、本発明においては、前述の通り、第1の窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層の形成によってその平坦化が図られている。このために、その上に任意に形成される積層構造体の中に多重量子井戸活性層構造を含む場合には、その中の量子井戸層の層数は多くすることが可能である。
これは本発明で好ましい形態であるInGaN量子井戸層のIn組成が比較的低い0.04〜0.10の場合には、量子井戸層に内在する歪が比較的少ないため、特に積層化が容易であって、好ましい。本発明の方法では、多重量子井戸活性層構造中の井戸層の数は2層から100層が好ましく、より好ましくは4層から50層が好ましく、6層から25層がさらに好ましく、8層から15層が最も好ましい。
以上から第3の工程に含まれる、積層構造体のエピタキシャル成長工程中に作製しうる、量子井戸活性層構造における量子井戸数は通常よりも多数化を図ることが好ましい。これは本発明の成長方法によって、第1の窒化物半導体層上に第2の窒化物半導体層を高品質でかつ平坦に形成する事が可能であって、かつ、このましく利用されるIn組成が比較的低い0.04〜0.10のInGaNにおいて内在する圧縮応力が小さく、積層化が容易であるからである。
第2の窒化物半導体層の上であれば、p型ドーパントとなりうる材料を含む層はいずれの位置にあっても適宜選択可能ではあるが、第2の窒化物半導体層の上にMQW層を含む積層構造体を有し、さらにその上にp型ドーパントとなりうる材料を含む層をも有することは好ましい(工程E)。本工程においては、p型ドーパントとしてMgを用いることが好ましく、その濃度は1×1019cm-3から8×1019cm-3の範囲が好ましい。この理由は以下の通りである。
Mgは窒化物結晶中には取り込まれにくく、その濃度は取り込み律速となっている。ところが、その取り込まれ方は、表面の平坦性に大きく依存する。そのため、エピタキシャル層の表面平坦性が悪い場合には、基体表面ではMg濃度の制御が困難で、意図せず低濃度となってしまったり、逆に、非常に高い濃度の層が偶発的に形成されることもある。一方、本発明に示す表面状態の良好な構造ではMgの濃度を安定的、かつ再現性良く制御することができ、結果として、比較的Mg濃度の目標値を広い範囲で、狙い通りに適宜選択することが可能となる。
すなわち、従来の方法のように、偶発的に高い濃度の層となることをさけるために、Mg濃度の目標値を意図的に下げてエピタキシャル成長し、結果として極端な低濃度になってしまうなどのことがない。このため、表面平坦性に優れたエピタキシャル層上に形成されたp型ドーパントとなりうる材料を含む層におけるドーパント濃度は、AlGaN系窒化物半導体層に適切と考えられる範囲に設定することが可能である。その濃度は1×1019cm-3から8×1019cm-3の範囲が好ましく、さらに好ましくは2×1019cm-3から6×1019cm-3の範囲である。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層は、AlxGa1-xNを含む層(0≦x≦1)が用いられる事が好ましい。特に本発明で好適に利用される低In組成のInGaN/GaN量子井戸活性層構造によって発光する光の中心波長が370nmから430nmである場合においては、活性層構造から出射される光が、p型ドーパントとなりうる材料を含む層において吸収されるのを抑制するために、特にAlxGa1-xN(x≠0)である事が望ましい。
本発明によって、第1の窒化物半導体層、その上に形成される第2の窒化物半導体層、さらにその上に形成しうる活性層構造が、高い平坦度を有するようにできる。このために、その上に好ましく形成されるp型ドーパントとなりうる材料を含む層においても、通常よりもAl組成が高く、また、通常よりも層厚が厚い場合においても、良好なAlxGa1-xN(x≠0)層が形成可能である。
一般には、GaN基板上のAlGaN層は、層中に引張応力を受ける。さらにこの応力は、Al組成が高いほど、また膜厚が厚いほど大きくなるために、クラック等が発生し、また、欠陥が導入されやすくなる。しかし、本発明で実現される平坦で欠陥の少ないエピタキシャル層上ではその程度が緩和される。結果として、相対的に高Al組成であって、相対的に膜厚が厚くとも、高品質なAlGaN層が成長可能となる。
本発明者らの検討によれば、好ましく利用可能なAl組成の範囲は、0.02から0.20であって、さらに好ましくは0.03から0.15である。膜厚は、0.05μmから0.25μmが好ましく0.10μmから0.20μmがより好ましく、0.12μmから0.18μmが最も好ましい。なお、本発明の半導体発光素子にp側電極を形成する観点では、電極との接触抵抗を下げるために、電極との界面層としてAl組成の小さい、たとえば、Al0.025Ga0.975Nのような低Al組成の薄膜を挿入し、かつ、量子井戸活性層構造側には、前述の通り光吸収抑制との観点で、Al0.10Ga0.90Nを形成して、p型ドーパントとなりうる材料を含む層を2層構造とすることは、光学特性、電気特性の両立をはかるために効果的であって好ましい。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層を形成する際の成長雰囲気は、適宜選択可能であるが、活性ガスである場合が好ましい。特に、炭素等の不純物混入を抑制するとの観点では、活性ガスであるH2を主体とする雰囲気で成長することが好ましい。一方、表面平坦性を重要視する場合には、N2を主体とする雰囲気で成長することが好ましい。
p型ドーパントとなりうる材料を含む層、たとえば、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層を形成する際の成長時の基体温度は、700℃〜1350℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは750℃〜1200℃の範囲、更に好ましくは800℃〜1150℃の範囲、最も好ましくは900℃〜1100℃の範囲である。
さらに、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層を形成する際の好ましい圧力は、Mg導入に伴う欠陥発生を抑制するという観点から、30kPa以上が好ましく、上述してきた気相反応の抑制から120kPa以下が好ましい。
上述のとおり、成長初期において、意図的なSi原料供給がされずに各層がエピタキシャル成長された後には、成長炉から窒化物半導体を取り出す必要がある。このための降温工程は任意の手順で実施することが可能であるが、降温条件としては以下のようにすることが好ましい。すなわち、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層部分をp型層とするための活性化プロセスを降温時に実施するようにする場合である(降温工程中活性化工程)。
この場合には、本発明者らの検討によれば、基体上にp型ドーパントとなりうる材料を含む平坦なエピタキシャル層が形成されている場合には、図2(A)に模式的に示される、以下の降温工程によって、p型ドーパントとなりうる材料の活性化が可能である。
具体的には、III族原料およびドーパント原料の供給を停止した直後に、基板温
度の自然放冷、あるいは、温度制御をしながらの除冷、供給ガスによる冷却等による基体温度の下降を開始させる。降温工程においてはN2を継続供給するか或いは不活性ガスを供給するか若しくはN2の継続供給に加えて他の不活性ガスも供給するかする。かつ、成長工程においてH2を供給していた場合には、これを十分に低減、もしくは遮断し、NH3流量を成長時よりは低減させ、その後適切な温度までNH3を供給する。その後は、N2ガスのみ、或いは不活性ガスのみ、或いはN2ガスと不活性ガスの混合ガスのみによって、さらに基板温度を低下させる。
本発明者らは、このような手順によって、平坦な表面を有する非極性面上に形成されたp型ドーパントとなりうる材料を含む層のp型化が可能であることを見出した。降温工程において、NH3流量を成長時よりは低減させ、その後適切な温度までNH3を供給した後に供給を停止するのは、表面からのエピタキシャル層の構成元素である窒素抜けを抑制するためである。これは、本発明の昇温工程時の技術思想と類似である。
さらに、本発明者らの検討によれば、最適なp型ドーパント活性化シーケンスは、最表面を構成する材料に依存する。
例えば、最表面がGaN層の場合には、結晶成長シーケンス終了後、すなわち、この場合にはTMGaやTEGa等のGa原料とCp2MgなどのMg原料の供給を停止し、降温工程に移行した後は、NH3の流量は、100(sccm)以上1(slm)以下の範囲にあることが好ましい。一方、最表面がAlGaN層の場合には、表面からのN抜けが生じにくいため、TMGaやTEGa、TMAl等のIII族原料とCp2MgなどのMg原料の供給を停止し、降温工程に移行した後は、NH3の流量は30(sccm)以上100(sccm)以下が好ましい。さらに、いずれの場合も降温工程においてNH3の導入を継続する温度は、少なくとも965℃までは継続することが好ましく、最長でも550℃までで遮断することが好ましい。降温工程においては、過度に高温でNH3供給をやめると、表面荒れの原因となり、一方、過度に低温までNH3供給を継続すると、NH3からのH原子が結晶中に固定されてしまい、Mgの活性化率が低下してしまう。よって、950℃から750℃の間でNH3供給をやめることが最も好ましい。
また、降温工程中の圧力範囲は任意に設定可能であるが、本発明者らの検討では、減圧下で実施することも、常圧下で実施することも、さらには、加圧下で実施することも可能であって、その圧力の好ましい範囲は、13kPaから203kPa程度の範囲で実施することが好ましい。特に、減圧化で実施する際には、H原子の脱離が促進され好ましく、一方、加圧化で実施するとp型ドーパントとなりうる材料を含む層のp型化が容易になり、かつ、表面の平坦性も確保されるために好ましい。なお、積層構造体のエピタキシャル成長時の圧力と類似している場合は、生産性等を考慮すると好ましい。
一方、降温工程の後に、さらに別の装置で、あるいは、結晶成長装置の温度を再度上げて熱的な降温工程後アニールを行う、あるいは、降温工程後に電子線照射等を実施して、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層部分をp型化する工程(降温工程後活性化工程)を別途行うことも可能である。
なお、本発明による降温工程中活性化工程を経たエピタキシャル層に、さらに降温工程後活性化工程を実施することは任意である。ここにおいて、本発明により実現される平坦度に優れた表面上に形成されたエピタキシャル層に対して、降温工程後活性化工程をいわゆる熱アニールで行う場合は、650℃から850℃の間で実施することが好ましく、680℃から780℃の間で実施することが最も好ましい。
また、その時間は1分から30分程度で実施することが好ましく、3分から10分の間で実施することが最も好ましい。また、雰囲気は酸素雰囲気、窒素雰囲気、あるいはこの混合雰囲気で実施することが好ましい。また、降温工程後活性化工程は電子線照射工程として実施することも可能である。
本発明における、第1の窒化物半導体層、その上に形成される第2の窒化物半導体層、さらにその上に形成しうる活性層構造が、特に好ましく利用される自立GaN基板上にホモエピタキシャル成長された層であって、さらに、その上に好ましく形成されるp型ドーパントとなりうる材料を含む層を有する場合には、総合的に見ると、p型ドーパントとなりうる材料を含むエピタキシャル層をp型化する工程は、降温工程後活性化工程を別途行うことよりも簡便であって、かつダメージも導入されにくいため、降温工程中活性化工程を行うことがより好ましい。
図3(A)は、このようにして得られた本発明の窒化物半導体例を説明するための断面概略図で、(0001)面を主面とする自立基板であるGaN基板10の主面上に、意図的にはSiをドーピングしていないGaN層11と意図的にSiドープされたn型GaN層12が積層されており、このn型GaN層12の上に、InGaNの量子井戸層とGaNの障壁層とが交互に積層されたInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13が設けられ、多重量子井戸活性層構造13の上にMgドープのAlGaN層14、および、GaN層15が形成されている。図3(A)に例示したInGaNの量子井戸層のIn濃度は組成比でたとえば、0.04〜0.18で、InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13は370〜470nmの波長の光を発光可能である。なお、本発明においては、好ましくは、In組成比でたとえば0.04〜0.10のInGaNを有するInGaN/GaN多重量子井戸活性層構造13とし、370〜430nmの中心波長を有する光を発光可能であるようにする事が好ましい。
図4は、本発明者らが、上述の第2の昇温工程のメインフローを構成するガス種による発光特性の変化を検討した際のPL発光測定結果を示す図で、図4(A)に示したPL発光特性は、第2の昇温時の雰囲気を構成するメインフローが窒素ガスとNH3ガスの混合ガスから構成された本発明の窒化物半導体を用いて作製したLED試料からのもの、図4(B)に示したPL発光特性は、第2の昇温時の雰囲気を構成するメインフローが水素ガスとNH3ガスの混合ガスから構成されて成長された窒化物半導体を用いて作製したLED試料からのものである。なお、何れのLED試料も、図3(A)に図示した積層構造の発光素子であり、エピタキシャル成長用基体として(0001)面GaN自立基板を用いている。
これら2つのLED試料は、昇温時のメインフローを構成するガス種が異なるだけで、それ以外の成長条件は同じである。にもかかわらず、第2の昇温工程の際のメインフローを構成するガスを、窒素ガスとNH3ガスの混合ガスとした本発明のLED試料の活性層構造(MQW構造)からのPL発光(図4(A))は、第2の昇温工程の際のメインフローを構成するガスを、水素ガスとNH3ガスの混合ガスとしたLED試料の活性層構造からのPL発光(図4(B))に比較して、著しく高い強度を示している。このPL強度の違いは、両LED試料の活性層構造の結晶性の違いなどに起因するが、活性層の結晶性はその下地である第1および第2の窒化物層の結晶性の違いを反映したものとなる。
つまり、本発明のように、第2の昇温工程における雰囲気を構成するメインフローを活性ガスであるNH3ガスと不活性ガスである窒素ガスとの混合ガスで構成し、第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させると、その上に高い結晶性の窒化物半導体層を積層させることが可能となり、素子としての特性も高いものとなることが確認できる。
図5および図6は、第2の昇温工程時及び第1の窒化物層(第1のGaN層)のエピタキシャル成長時(工程B)の圧力とドーピングの条件(表1参照)を検討した結果を説明するための図で、図5は5つの異なる条件で第1の窒化物層(第1のGaN層)を成長させて得られたLED試料のそれぞれの断面概略図、図6はこれらのLED試料の表面モルフォロジ(微分干渉顕微鏡像)とPLスペクトル(325nm波長のレーザで励起したときのLED構造からのPL発光特性)である。なお、これらの試料のエピタキシャル成長用基体は主面が(0001)面であるGaN自立基板であり、第2の昇温工程時のメインフローを構成するガスは窒素ガスとNH3ガスの混合ガスである。
第1の窒化物層に意図的にSiドープを行った試料Aでは、欠陥が表面に多く現れモフォロジが顕著に劣化していることが確認できる。一方、同じく意図的にSiドープ層を第1の窒化物層とした試料B(試料Bでは、MQW層13の下地となる窒化物半導体層は単一のGaN層であるので、第2のGaN層12が事実上の「第1のGaN層」となる)では、表面の一部に凹凸が認められるものの、その凹凸の程度は素子特性に影響を与えるほどの表面荒れを生じさせるものではなく、表面状態は一応、良好であった。しかし、試料BのPL特性をみると、殆ど発光が確認できない程度の微弱なものであり、活性層の特性が著しく阻害されていることがわかる。この結果は、第2の昇温工程および第1の窒化物層の成長工程における反応炉内圧力が過剰な減圧(13キロパスカル)状態にあることによって第1のGaN層のミクロな意味での結晶性が低下し、この結晶性の低下が活性層の特性を低くしていることを示唆している。
これに対して、意図的にはSiをドープせずに第1の窒化物層をエピタキシャル成長させた試料C、D、及びEでは、表面状態は概ね良好であり、しかも、活性層からも充分な強度のPL発光が確認される。つまり、反応炉内圧力を35キロパスカルとして昇温させ、この圧力下で意図的にはSiをドープさせずに第1の窒化物層をエピタキシャル成長させると、その上に積層させたGaN膜は、表面状態と発光特性に優れた膜となることがわかる。
試料C〜Eの中でも、第1の窒化物層の厚みが0.05μm(50nm)の試料Eは、その表面状態と発光特性に優れており、適切な第1のGaN層の厚みがあることを示唆している。本発明者らは、このような検討をもとに、表面状態と発光特性に優れた窒化物半導体膜を得るためには、意図的にはSiをドープしないでエピタキシャル成長させる第1の窒化物半導体層の厚みとして0.1nm〜150nmが好ましいと結論付けるに至った。
これらの実験結果について、本発明者らは次のように解釈している。単結晶基板表面、或は異種基板上に形成された窒化物表面等のエピタキシャル成長面となる表面にはSiが意図的に、あるいは意図せずにもドーピングされていることが多い。また、たとえ理想的な状況であってSiがドーピングされていなくても、SiはMOCVD炉の構成部材として使われるほか、メインフローを構成するガス、有機金属原料等にも残留不純物として含まれている。このため、エピタキシャル成長時の基体表面には常にSiが存在すると考えられる。
このような状況、すなわち、エピタキシャル成長初期の基体表面にSiが存在する状況において、成長初期の層、すなわち、第1の窒化物半導体層を意図的にSiドープ層とすると、Siの気相反応物による成長阻害の影響が顕著に現れると考えられる。その結果、ミクロ的には成長初期の第1の窒化物半導体層は、面内で局所的な結晶成長を始めてしまう。このような面内不均一な結晶成長が一旦始まってしまうと、その後は、表面モルフォロジが悪化した膜となると考えられる。
従って、窒化物半導体層のエピタキシャル成長の初期段階では、面内での不均一結晶成長の原因となる生成物を意図的に供給することは、徹底的に排除することが重要であり、一旦面内で均一な結晶成長が開始してしまえば、例えSiドープの窒化物半導体を結晶成長させたとしても、その表面モルフォロジが顕著に低下することはない。これが、本発明において、第1の窒化物半導体層を意図的にはSiドープせずに成長させる理由である。
勿論、反応炉内の圧力を下げることによっても、第2のメインフローを構成するH2ガスの一部をキャリアガスとして反応炉内に供給されるSiH4と、第1のメインフローを構成するNH3の間の気相反応を容易に抑制できるから、第1の窒化物半導体層を意図的にSiドープの膜とした試料Bでも、表面状態は一応良好なものとなっている。しかし、反応炉内の圧力が過度の減圧状態にあると、表面からの窒素脱離が誘発され、これによって欠陥が導入される結果、ミクロな結晶性は低下してしまうのである。従って、第1の窒化物半導体層への欠陥導入とSi供給源の気相反応に起因する成長阻害の双方を抑制するためには、反応炉内圧力を過度に減圧にしない状態、すなわち35キロパスカル以上とするとともに、Siをドープせずに第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることが望ましいのである。
よって、本発明における第1の窒化物半導体層は、成長阻害要因となる元素を含まなければよいと考えられる。従って、Siを意図的にドーピングしないGaNで構成する態様には種々のものがあり得ることとなり、Siを意図的にドーピングしなければ、第1の窒化物半導体層を、InN、AlN、BN、GaInN、GaAlN、GaBN、InAlN、InBN、AlBN、GaInAlN、GaInBN、InAlBN、GaInAlBN等のIII−V族窒化物半導体(以下、これらを総称してGaN系半導体ということもある)とすることも可能である。さらに、OやMg或はZn等のSi以外のドーパントとなりうる元素を供給して第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる態様も可能である。
なお、このような第1の窒化物半導体層の上に新たに窒化物半導体層を成長させる際には、成長速度の増大などを目的として反応炉内を減圧状態としたりSiをドーピングしたとしても、当該窒化物半導体層の表面モルフォロジや光学的な特性の劣化は殆ど生じないことも確認された。
よって、本発明における第1の窒化物半導体層は、成長阻害要因となる元素を含まなければよいと考えられる。従って、Siを意図的にドーピングしないGaNで構成する態様には種々のものがあり得ることとなり、Siを意図的にドーピングしなければ、第1の窒化物半導体層を、InN、AlN、BN、GaInN、GaAlN、GaBN、InAlN、InBN、AlBN、GaInAlN、GaInBN、InAlBN、GaInAlBN等のIII−V族窒化物半導体(これらを総称してGaN系半導体ということもある)とすることも可能である。さらに、OやMg或はZn等のSi以外のドーパントとなりうる元素を供給して第1の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる態様も可能である。
後述する実施例で示すとおり、第1の窒化物半導体層にSiを意図的にドープしなければ、Mg等を意図的にドープしたとしても、第1の窒化物半導体層の上に新たに窒化物半導体層を成長させる際には、その後形成するエピタキシャル層全体としての表面モルフォロジや光学的な特性の劣化は殆ど生じないことは確認されている。特に、GaN系材料においては、Siドープ層よりも、また、アンドープ層よりもMgドープ層が、下地との密着性に関する耐熱性において優れた効果があることが本発明者らによって確認されている。
よって、Mgドープの層は、たとえ意図せず混入したSiが共ドープ状態となっていたとしても、第1の窒化物半導体層として、基体表面との密着性に関する耐熱性が求められる場合には好ましく利用可能である。例えば、テンプレート作製等に用いる事が好ましい。
一方、意図的なSiドープを行わない第1の窒化物半導体層は、発光素子、電子デバイス等の用途には好適に利用可能である。特に第1の窒化物半導体層が意図しないSiドープ層となったとしても、その不純物の濃度が、Siの場合、ピーク値として3×1017cm-3以上1×1021cm-3以下に抑制することができれば、発光素子等に好ましく利用可能である。
これらの結果として、本発明の方法によって形成される第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層を積層したエピタキシャル層の最表面、さらには、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との積層体上にさらなる積層構造を形成されたエピタキシャル層の最表面は、非常に平坦なモフォロジを実現可能である。
特に、この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる平均粗さとして中心線平均粗さ(Ra)を求めると、本発明の方法による窒化物半導体層の最表面は、Raが13.0nm以下であることが好ましく、より好ましくはRaが10.0nm以下であり、さらに好ましくはRaが8.0nm以下であって、最も好ましくはRaが5.5nm以下である。
なお、ここで記載したRaは、試料表面を針で直線状にスキャンして得られる粗さ曲線を中心線から折り返し、その折り返した粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、スキャンした長さで割った値である。
以下に、実施例と比較例により、本発明をより具体的に説明する。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(0001)面(c+面)配向し、n型でキャリア密度は2.4×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は64arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.11°、(11−20)方向へのオフ角度は0.36°、また、転位密度は4.9×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。まず、第1の昇温工程として、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程を開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を12.5L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ10L/分、30L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.625、成長温度到達時は0.75であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH310L/分を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(30L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた(工程B)。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99996であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(40L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を7μmの厚みで成長させた(工程C)。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99989であった。
次に、基体温度(基板温度)を740℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.15Ga0.85N(厚み1.8nm)の量子井戸層とGaN(厚み12nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、In0.15Ga0.85Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000015L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、GaN障壁層で0.61667、InGaN井戸層で0.6666であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMAl(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10-6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99998であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99996であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは8.1nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は469nm、その積分強度は相対値で60と、高い強度が得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものであり、また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては、c面サファイア上にアンドープGaN層を1μmと、n型GaN層(キャリア濃度5×1018cm-3)を3.5μm連続させて積層し、一旦炉内から取り出したテンプレート基板を用いた。この基体を、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
先ず、第1の昇温工程として、炉内にメインフローの窒素ガスを10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程を開始した。第2の昇温工程では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分を供給し、第2メインフローを構成するガスとして窒素を12.5L/分供給した。その後、NH3ガスの流量を10L/分に増加させながら、基体温度をさらに1000℃まで昇温させた。なお、サブフローはN2であって20L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の昇温工程におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時は0.625であり、成長温度到達時は0.55556であった。
この後、工程Bとして、第1のメインフローを構成するガスとしてNH310L/分は継続して供給し、第2のメインフローを構成するガスとして、水素を30L/分と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%)を0.0018L/分を炉内に供給し、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分であり、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは、0.99996であった。
次に、工程Cとして、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)を供給するとともに、メインフローの一部である水素(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、水素(0.06L/分)を希釈ガスとしたSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給した。このガス供給条件により、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を10μmの厚さで結晶成長させた。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分であり、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは、0.99989であった。
これに続く工程D、工程E、及び降温工程は、実施例1と全く同様に行った。
このようにして作製した基板の表面は極めて平坦で、表面を段差計で測定して得られたRaは5.4nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は465nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で25とやや低いものの、良好な値であった。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は1.5×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は90.4arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は−0.55°、(11−20)方向へのオフ角度は0.35°、また、転位密度は5.6×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内の石英製のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。基体の昇温は実施例1と全く同様に行った。従って、第2の昇温工程におけるFpは、工程開始時は0.625で、成長温度到達時は0.75であった。
続いて、工程Bとして、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)は継続して供給し、第2のメインフローを構成するガスとして、水素を30L/分と、メインフローの一部である水素0.5L/分をキャリアガスとしてTMGaを濃度100%として0.0018L/分を炉内に供給した。このようなガス供給条件により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を0.2nmの厚みで成長させた。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。よって、これらのガスを除いた第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99996であった。
次に、メインフローの一部である水素0.5L/分をキャリアガスとしてTMGaを濃度100%として0.0055L/分で供給するとともに、メインフローの一部である水素0.2L/分をキャリアガス、水素0.06L/分を希釈ガスとしてSiH4濃度100%として6×10-7L/分を供給した。これにより、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を5μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分とし、第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは、0.99989であった。
次に、基体温度(基板温度)を780℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.07Ga0.93N(厚み1.3nm)の量子井戸層とGaN(厚み13nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてはNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素18.5L/分と水素1.5L/分と、メインフローの一部である水素0.5L/分をキャリアガスとしてTMGaを濃度100%として0.000017L/分を供給した。
In0.07Ga0.93Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてはNH310L/分を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素20L/分と、メインフローの一部である窒素0.5L/分をキャリアガスとしてTMGaを0.000015L/分、同じくメインフローの一部である窒素0.5L/分をキャリアガスとしてTMInを0.00023L/分を供給した。
このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。よって、これらのガスを除いた多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、障壁層で0.61667、井戸層で0.6666であった。
工程Dに続く、工程Eおよび降温工程は、実施例1と全く同様に行った。
このようにして作製した基板の表面は、僅かな凹凸があるものの、きれいな表面であり、段差計で測定して得られたRaは12.2nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は387nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で69と高い強度のものが得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。基体としては、c面サファイア上にアンドープGaN層を1μm、n型GaN層(キャリア濃度5×1018cm-3)を3.5μm積層した後に一旦炉内から取り出したテンプレート基板を用いた。なお、第1の窒化物層の厚さを1nm、第2の窒化物層の厚さを7μmとした他は、成長条件は実施例3と全く同じである。
このようにして作製した基板の表面は極めて平坦で、段差計で測定して得られたRaは5.0nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は391nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で74と高い強度のものが得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また成長した層構成は図7に模式的に示した。基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は1.4×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は58.2arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.38°、(11−20)方向へのオフ角度は0.74°、また、転位密度は5.1×106cm-2であるc面GaN自立基板を用いた。
この基体を、減圧成長を通常の条件とするSUS製縦型反応炉内のサセプタに載置した。この成長装置にはサブフローに対応する配管は設置されていない。まず第1の昇温工程として、圧力を40kPaとし、炉内にメインフローの窒素ガスを20L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程に移った。第2の昇温工程では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を5L/分で供給した。また、第2メインフローを構成するガスとして、窒素流量を15L/分で供給した。
このメインフロー条件下で、基体温度を1040℃まで昇温させた。なお、第2の昇温工程におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.75であった。
次に、炉内圧力を40kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を5L/分で供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(15L/ 分)、窒素(2.5L/分)、そしてメインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(濃度100%として0.0022L/分)を炉内に供給した。このメインフロー条件下で、アンドープのGaN層(第1の窒化物半導体層)を100nmの厚みで成長させた(工程B)。第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガス(成長外ガスは除く)に対する活性ガス成分の流量比Faは、0.8888であった。
次に、炉内圧力を8kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(9.8L/分)、窒素(2.7L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(濃度100%として0.0071L/分)、そして、メインフローの一部である窒素(0.2L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給した。このようなメインフロー条件下で、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を0.5μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。
なお、第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは、0.87972であった。
次に、炉内圧力を67kPaとし、基体温度720℃でIn0.15Ga0.85N(厚み1.8nm)の量子井戸層を、基体温度840℃でGaN(厚み12nm)の障壁層を、交互に5周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。
GaNの障壁層の成長時には、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(12L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素(9.5L/分)、水素(0.5L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000013L/分)を供給した。
In0.15Ga0.85Nの量子井戸層の成長時には、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(12L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素(10L/分)、メインフローの一部である窒素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.00009L/分)、同じくメインフローの一部である窒素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00022L/分)を供給した。
工程Dにおいては、多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、障壁層で0.43182、井戸層で0.45454であった。
続いて、基体温度を1000℃とし、炉内圧力を36kPaとして、MgドープのGaN層のエピタキシャル成長を行った(工程E)。このとき、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(5L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(15L/分)、TMGa、およびCp2Mgを供給した。このようなメインフロー条件下で、MgドープのGaN層を120nm形成した。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
図7はこのようにして得られた窒化物半導体の断面概略図である。この窒化物半導体基板の表面は僅かな凹凸があるもののきれいな表面であり、段差計で測定して得られたRaは9.7nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は462nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で165と非常に高い強度のものが得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。基体としては、c面サファイア上にアンドープGaN層を1μm、n型GaN層(キャリア濃度5×1018cm-3)を3.5μm積層して、一旦炉内から取り出したテンプレート基板を用いた。
このテンプレート基板を、減圧成長を通常の条件とする結晶成長用のSUS製縦型反応炉内のサセプタに載置した。この成長装置にはサブフローに対応する配管は設置されていない。
先ず、第1の昇温工程として、圧力を40kPaとし、炉内にメインフローの窒素ガスを20L/分の流量で供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程に移行した。第2の昇温工程では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を5L/分の流量で供給した。また、第2メインフローを構成するガスとして窒素を15L/分の流量で供給した。昇温到達温度は1040℃であった。なお、第2の昇温工程におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.75であった。
次に、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(5L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(15L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0022L/分)を供給した。このようなメインフロー条件下で、アンドープのGaN層(第1の窒化物半導体層)を100nmの厚みで成長させた(工程B)。なお、第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99989であった。
次に、炉内圧力を8kPaとし、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0071L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給し、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を15μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。この第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは、0.99965であった。
その後の工程C、工程D、及び降温工程は、実施例5と同様に行った。
このようにして作製した基板の表面は極めて平坦で、段差計で測定して得られたRaは5.5nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は471nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で128と非常に高い強度のものが得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また成長した層構成は図7に模式的に示した。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は2.0×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は76arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は3.14°、(11−20)方向へのオフ角度は0.22°、また、転位密度は5.6×106cm-2であるc面GaN自立基板を用いた。
この基体を、減圧成長を通常の条件とする結晶成長用の自公転型反応炉内のサセプタに載置した。先ず、第1の昇温工程として、炉内圧力を40kPaとし、炉内にメインフローの窒素ガスを30L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程を開始した。
第2の昇温工程では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分の流量で供給した。また、第2メインフローを構成するガスとして、窒素を37.5L/分の流量で供給した。その後、NH3と窒素をそれぞれ10L/分、90L/分に増加させながら、基体温度を1040℃まで昇温させた。なお、第2の昇温工程におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、昇温開始時は0.83333、成長温度到達時は0.90であった。
この後、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(48L/分)、窒素(12L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0081L/分)を供給した。このメインフロー条件下で、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を20nmの厚みで成長させた(工程B)。なお、第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.82848であった。
次に、工程Cとして、炉内圧力を12kPaとし、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(65L/分)、窒素(15L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.026L/分)、及び、メインフローの一部である水素(0.1L/分)を希釈ガスとし、かつ、水素(0.4L/分)をキャリアガスとしたSiH4(濃度100%として5×10-6L/分)を供給した。このメインフロー条件下で、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を7μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。なお、第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.83310であった。
次に、炉内圧力を40kPaとし、基体温度(基板温度)770℃でIn0.07Ga0.93N(厚み1.8nm)の量子井戸層を、基体温度(基板温度)840℃でGaN(厚み12nm)の障壁層を、交互に5周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてはNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素(59L/分)、水素(1L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000075L/分)を供給した。
In0.07Ga0.93Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、窒素(60L/分)、メインフローの一部である窒素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000045L/分)、同じくメインフローの一部である窒素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.001L/分)を供給した。
なお、上述の多重量子井戸活性層構造の成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、障壁層では0.84286、井戸層では0.85713であった。
続いて、炉内圧力を40kPa、基体温度を1000℃として工程Eに移行した。このとき、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(60L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0081L/分)、及び、同じくメインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(0.0001L/分)を供給した。このようなメインフロー条件下で、MgドープのGaN層を150nm形成した(工程E)。なお、MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99988であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は僅かな凹凸があるもののきれいな表面で、段差計で測定して得られたRaは9.8nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は405nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で45とやや低いが良好な値が得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて青色発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は1.4×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は89.8arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.88°、(11−20)方向へのオフ角度は0.04°、また、転位密度は5.6×106cm-2である2”径のc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内の石英製のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
まず、第1の昇温工程tBとして、炉内にメインフローとしてN2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程tAを開始した。そこでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を7.5L/分供給し、第2メインフローを構成するガスとしてN2を12.5L/分供給した。
その後、NH3とN2をそれぞれ10L/分、30L/分に増加させながら、基板温度をさらに1000℃まで昇温させた。このとき、サブフローはN2ガス20L/分で、パージ用など成長外ガスはN2で合計19L/分であった。第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、第2の昇温工程開始時では0.625、成長温度到達時は0.75であった。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を20L/分、H2を15L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、アンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.55553であった。
次の工程Cでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3を10L/分供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、N2を20L/分、H2を10L/分、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、SiドープGaN層(第2の窒化物半導体層)を7μmの厚みで成長させた。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガス(25.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第2の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0.55549であった。
次に、基体温度(基板温度)を740℃とし、基板温度が充分に安定した後にIn0.14Ga0.86N(厚み1.8nm)の量子井戸層とGaN(厚み15nm)の障壁層を交互に8周期積層させた多重量子井戸活性層構造を形成した(工程D)。ここで、In0.14Ga0.86Nの量子井戸層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(20L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.000015L/分)、メインフローの一部であるN2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMIn(0.00023L/分)を供給した。
GaNの障壁層の成長では、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を用いた。また、第2のメインフローを構成するガスとして、N2(18.5L/分)と、H2(1.5L/分)と、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとするTMGa(0.000017L/分)を供給した。
また、工程Dでの、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(25L/分)の混合ガスで25.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。多重量子井戸活性層構造の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは、InGaN井戸層で0.66666、GaN障壁層で0.61667であった。
続いて、基板温度を1000℃としてMgドープのAl0.1Ga0.9N層を50nm形成した(工程E)。このときの第1のメインフローを構成するガスはNH3(10L/分)である。また、第2のメインフローを構成するガスは、H2(80L/分)、メインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMAl(0.0001L/分)、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(0.0018L/分)、及び、同じくメインフローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしたCp2Mg(4×10-6L/分)である。
このMgドープのAl0.1Ga0.9N層の上に、更にMgドープのGaN層を70nmの厚みでエピタキシャル成長させた(工程E)。このGaN層の成長は、上述のメインフロー中のガスのうちの、TMAlとH2(50L/分)の供給を断って実行した。
工程Eの中の、Al0.1Ga0.9N層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(50L/分)の混合ガスで50.5L/分、パージ用などの成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのAl0.1Ga0.9N層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
また、工程Eの中のMgドープのGaN層成長中のサブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガスで20.5L/分、パージ用など成長外ガスはN2(19L/分)であった。MgドープのGaN層の成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、わずかに凹凸が見られたものの、良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは11nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は466nm、その積分強度は相対値で20とやや低いものの、良好な値であった。
[比較例1]
本比較例は、近紫外発光LEDを作製した際の工程を、実施例3とほぼ同様のものとしたものであるが、第1の窒化物層と第2の窒化物層の厚さ及び第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層の成長工程での炉内の雰囲気の点において相違する。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は3.5×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は87arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は−0.24°、(11−20)方向へのオフ角度は5.25°、また、転位密度は8.3×106cm-2であるc面GaN自立基板を用いた。結晶成長装置、および、昇温工程は実施例3と同じである。
これに続く工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、窒素(29.5L/分)、水素(0.5L/分)、及び、メインフローを構成する水素をキャリアガスとして供給したTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を供給した。このメインフロー条件下でアンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を20nmの厚みで成長させた(工程B)。なお、第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.26249であった。
次に、工程Cに移行した。第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、窒素(39.3L/分)、水素(0.5L/分)、メインフローを構成する水素をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、及び、メインフローの一部を構成するH2(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、H2(0.06L/分)を希釈ガスとするSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給した。
このメインフロー条件下で、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を2μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。なお、第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.21518であった。
その後の工程は何れも、実施例3と同様に行った。
このようにして作製した基板の表面には激しい凹凸が認められ、段差計で測定して得られたRaは444.9nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は実施例3の387nmから415nmと長波化してしまっており、PLスペクトルの積分強度は相対値で1と極めて低かった。
[比較例2]
本比較例は、近紫外発光LEDを作製した際の工程を、実施例3とほぼ同様のものとしたものであるが、第2の昇温工程時の活性ガスの流量比Faを高くした点において相違している。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は3.2×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は92arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は−0.06°、(11−20)方向へのオフ角度は0.21°、また、転位密度は5.4×106cm-2であるc面GaN自立基板を用いた。
反応炉内の圧力は、全工程を通じて100±2kPaとした。先ず、第1の昇温工程として、炉内にメインフローとしてH2を10L/分供給しながら昇温させ、基体の温度が500℃になったところで第2の昇温工程を開始した。第1のメインフローを構成するガスとしてはNH3(7.5L/分)を供給した。また、第2メインフローを構成するガスとしては、H2(12.5L/分)の供給から始め、その後、NH3とH2をそれぞれ10L/分及び30L/分に増加させながら、最終的な到達温度1000℃まで昇温させた。なお、第2の昇温工程における、メインフローを構成する全ガスに対する不活性ガス成分の流量比Fpは0であった。
続いて、工程Bとして、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(30L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0018L/分)を供給した。このようなメインフロー条件下でアンドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を100nmの厚みで成長させた(工程B)。なお、第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99996であった。
次に、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0055L/分)、メインフローの一部である水素(0.2L/分)をキャリアガスとし、かつ、水素(0.06L/分)を希釈ガスとしたSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給し、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を5μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。この第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99989であった。
その後の工程は何れも、実施例3と同じとした。
このようにして作製した基板の表面は極めて平坦で、段差計で測定して得られたRaは5.5nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、そのPL積分強度は相対値で1と極めて低かった。
[比較例3]
本比較例では、青色LEDを作製した際の工程を実施例5とほぼ同様のものとしたが、第1の窒化物半導体層の成長時に、Si原料であるSiH4を導入した点において相違している。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は3.2×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は92arcsecであるc面GaN自立基板を用いた。なお、結晶成長装置および昇温工程は実施例5と同じである。
工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(5L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、水素(15L/分)、メインフローの一部を構成するTMGa(濃度100%として0.00022L/分)、及び、メインフローの一部である水素(0.2L/分)を希釈ガスとしたSiH4(濃度100%として6×10-8L/分)を供給した。このようなメインフロー条件下で、n型GaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた(工程B)。なお、第1の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99989であった。
次に、炉内圧力を8kPaとして工程Cに移行した。ここでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH3(10L/分)を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとして、水素(9.8L/分)、窒素(2.7L/分)、メインフローの一部である水素(0.5L/分)をキャリアガスとしたTMGa(濃度100%として0.0071L/分)、及び、メインフローの一部である窒素(0.2L/分)を希釈ガスとしたSiH4(濃度100%として6×10-7L/分)を供給した。
このようなメインフロー条件下で、n型のGaN層(第2の窒化物半導体層)を7μmの厚さで結晶成長させた(工程C)。この第2の窒化物半導体層成長時におけるメインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.87972であった。
その後の工程は何れも、実施例5と同じとした。
このようにして作製した基板の表面は凹凸が目立ち平坦性は良くなかった。表面を段差計で測定して得られたRaは20.9nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起したところ、PLスペクトルのピーク波長は460nm、PLスペクトルの積分強度は相対値で4と極めて低かった。
[参考例1]
前記各種実施例における第1の窒化物半導体層であるアンドープ(Si原料を意図的には供給していない)GaN層と第2の窒化物半導体層であるSiドープGaN層中に含まれるSi濃度を実測するために、また、比較例の各層のSi濃度も実測するために、SIMS法(2次イオン質量分析法)による分析を行った。
当該分析装置のSiのバックグランドは1×1016cm-3であって、これ以上のSiが含有されている状況は計測可能であった。しかし、積層された異なる窒化物層中のSi濃度を精度良く計測可能な厚みは、深さ方向にイオンミリングを実施してサンプルを分析する等の事情と、また、特にこの場合には、表面側に高濃度Siを含有する層に隣接している、低濃度Siを含有する層中のSi濃度計測も目的とする事情を合わせて考慮し、決定する必要がある。
実際には、低濃度層の厚みは約150nm程度以上とすることが、測定精度の観点から好ましい。そこで、各種SIMS分析用サンプルは、各実施例/比較例における昇温工程、第1の成長工程、第2の成長工程における各種成長条件の中で、第1の成長工程と第2の成長工程の成長時間を変更し、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層をSIMS測定が精度よく可能な厚みにし、かつ、第2の成長工程の途中で適切な降温過程を実施してサンプルを取り出した以外は、各実施例/比較例と同様にして、SIMS測定用サンプルを作製した。
表2はこれらのサンプルをSIMS測定した結果をまとめたもので、表中の数字は各層中のSi濃度であって、単位はcm-3である。
以上、実施例、比較例と参考例の説明を行ったが、これらの対比に基づいて、本発明者らは下記のように理解している。すなわち、比較例1では、第1の成長工程中のFaが低すぎたため、表面モフォロジが劣化した。また、比較例2では、第2の昇温工程でのFpが低すぎ、欠陥が導入されてしまい、PL特性が大幅に劣化した。さらに、比較例3では、工程Bで意図的にSiドープを行ってしまったために、成長阻害の影響が現れ、表面が極端に劣化した。
また、上掲の先行文献に開示された発明と本発明との相違に関し、本発明者らは下記のように理解している。
特許文献1に記載されている結晶成長方法(特許文献1発明)と本発明の結晶成長方法とは、主として、特許文献1発明では、(1)窒化物半導体層を成長させる前の昇温過程の雰囲気(メインフローを構成するガス)が水素である点、(2)窒化物半導体層の成長初期における反応炉内圧力が過度の減圧である点、(3)窒化物半導体層の成長開始時からSi原料(SiH4)が導入されている点において相違している。
しかし、水素ガスはそのエッチング効果により、表面近傍の窒素原子の脱離を誘発し、窒化物半導体の表面に欠陥を導入させ、結晶性に多大な劣化を誘発してしまう。また、窒化物半導体の結晶成長に適した炉内圧力は用いる反応炉の構成によっても若干異なるとはいえ、本発明者らの検討によれば30kPa程度の炉内圧力では低すぎ、やはり窒素原子の脱離を誘発してしまう。さらに、SiH4の一部は気相反応を生じ、その生成物が基板表面に付着した場合には結晶成長を阻害する要因となるが、その影響は結晶成長の初期段階において極めて顕著である。
また、特許文献2に記載されている結晶成長方法(特許文献2発明)も本発明と同様に、窒化物半導体層の成長開始層はSiを含まないアンドープ層であり、Si源による成長阻害効果の影響は受けにくくなっているが、その厚みは1μmと厚く(段落32参照)、本発明者らの検討によれば、そのような厚いアンドープ層の上に活性層を形成すると発光強度は低下してしまう。
本発明は、これらの従来方法の問題点を解決し、表面モフォロジと光学特性がともに良好で、しかも発光素子とした場合の発光効率が高い、高品質の窒化物半導体の提供を可能としている。
以上、実施例により本発明について説明したが、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例ではp型層をGaNとされているものを、AlNやInNあるいはBNとしたり、これらの混晶とすることもできる。また、成長温度や各原料の供給量あるいは各層の膜厚などは目的に応じて変更可能である。
基体としては、サファイア基板、ZnO基板、Si基板、SiC基板、GaAs基板、GaP基板、Ga2O3基板、Ge基板、MgO基板などの上に窒化物結晶を成膜したものでも良い。これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内にあり、更に本発明の範囲内において他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(B)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(B)に模式的に示した。
基体としては(0001)面(c+面)配向し、n型でキャリア密度は2.5×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は64arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.19°、(11−20)方向へのオフ角度は0.20°、また、転位密度は5.1×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
第1の昇温工程、および第2の昇温工程は実施例3と同様に行った。
次の工程Bでは、第1のメインフローを構成するガスとしてNH310L/分を供給した。また、第2のメインフローを構成するガスとしては、H2(30L/分)、メインフ ローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてTMGa(濃度100%として0.0018L/分)、及び、メインフ ローの一部であるH2(0.5L/分)をキャリアガスとしてCp2Mg(4×10-6L/分)を炉内に供給した。このようなメインフローのガス供給により、MgドープGaN層(第1の窒化物半導体層)を40nmの厚みで成長させた(工程B)。このとき、サブフローはNH3(0.5L/分)とN2(20L/分)の混合ガス(20.5L/分)、パージ用など成長外ガスはN2で19L/分であった。第1の窒化物半導体層成長時における、メインフローを構成する全ガスに対する活性ガス成分の流量比Faは0.99996であった。
続く工程Cから工程Eまでは実施例3と同様に行った。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは7.8nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は400nm、その積分強度は相対値で68と、高い強度が得られた。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させて近紫外発光LEDを作製した例で、一連の結晶成長プロセスの概略は既に図2(A)を用いて説明したものである。また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示した。
基体としては(0001)面(c+面)配向し、n型でキャリア密度は1.9×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は55arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.16°、(11−20)方向へのオフ角度は0.04°、また、転位密度は5.0×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内のトレー(サセプタ)に載置した。
昇温工程である工程Aは実施例3と同様に実施した。
次の工程Bは第1の窒化物半導体層の厚みを40nmとした以外は実施例3と同様に実施した。
次の工程Cから工程Eは実施例3と同様に実施した。
このような成長工程が終了した際、TMGa,Cp2Mg及びメインフロー中のH2を遮断し、N2を20slm導入した。同時に成長中のNH3流量は10slmであったが、降温工程初期には200sccmに低減させた。また、サブフロー中のNH3を遮断し、N2流量を10slmとした。成長外フローは変化させなかった。
これらのガスの切り替えを実施すると同時に、基板加熱ヒータ電源を遮断し、基体を導入するガスにより冷却した。基体の温度が930℃にまで下がったときにメインフロー中のNH3を遮断し、引き続き100℃以下になるまでN2雰囲気中で基体を冷却した。十分基体が冷えた後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは9.8nmであった。また、325nm波長のレーザ光により励起して評価したPL特性では、ピーク波長は408nm、その積分強度は相対値で56と、高い強度が得られた。
その後このような方法で準備した非極性面上のエピタキシャル層をプロセスしてLEDを作製した。その発光特性、電流電圧特性とも良好で、降温工程中活性化工程によって、良好な光学特性と十分なMg活性化が実現したことが確認された。
本実施例は、MOCVD法で窒化ガリウム系半導体薄膜を積層成長させた例で、一連の結晶成長プロセスの概略は図8を用いて説明する。また、成長した層構成は図9に模式的に示した。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は1.4×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は81.2arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は−0.25°、(11−20)方向へのオフ角度は0.09°、また、転位密度は5.2×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内の石英製のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程である工程Aは実施例3と同様に実施した。
工程Bは実施例3と同様に実施した。
工程Cは実施例3と同様に実施した。
工程Dと工程Eは実施しなかった。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは6.9nmであった。
GaN自立基板上のエピタキシャル層を以下に述べる手順でカソードルミネッセンス測定を実施し、そのダークスポット数を測定して転位密度を求めた。
カソードルミネッセンス(CL)とは、試料に電子線を照射した時のルミネッセンスを測定するものであり、走査型である場合、電子線の照射位置を2次元的に変化させることで、当該照射された視野内の面内において、ルミネッセンスの強度分布、波長分布などを評価することができる。電子線のエネルギーは試料のバンドギャップよりも十分大きいので、励起状態を局所的に発生させることが容易である。よって、試料中に結晶欠陥による非発光領域があった場合、ルミネッセンス強度の二次元像のコントラストにより明瞭に観察できる。GaN系材料では転位が点状の非発光領域すなわちダークスポットとして観察されることがわかっている。さらに、CL観察時には、電子線の加速電圧を変化させることによって、電子の試料への進入深さを調整し、異なる深さの部分の情報も取得可能である。
本実施例で作製した窒化物半導体のCL観察時には、電子の加速電圧を3kVとし、また、電流値は100pAとした。この加速電圧(3kV)では表面から約100nm程度までの領域に関する情報が得られ、それより深い位置の影響を切り離して評価することが可能である。本実施例で作製したサンプルは、GaN自立基板上に第1の半導体層と第2の半導体層を積層した構造の窒化物半導体であるが、第2の半導体層の表面より電子線を入射させ当該窒化物半導体を観察する場合には、そのサンプル厚みと電子線の進入深さから考えて、第2の半導体層表面の転位情報を観察する事になる。
また、CL観察時には、電子線励起された発光を分光することはせず、この発光を光電子倍増管で受けて強度情報にして観察した。すなわち、いわゆるパンクロマティック像を観察して転位密度を導出した。
CL測定時には倍率は2000倍とし、60μm×45μmの領域を、複数箇所観察位置を変えて、観察した。ここで、ダークスポット数をパンクロマティックCL像から求めたところ、観察領域によるダークスポットのばらつきがあった。その結果観察領域内のダークスポット数は、最大で265個、平均で164個、最も少ない部分で68個であった。
上記より、ダークスポットの密度は、場所によって異なるものの、最大で9.8×106cm-2、平均で6.1×106cm-2、最少で2.5×106cm-2であった。この値は第2の窒化物半導体層内の転位密度を示していた。
本実施例では、実施例3で作製した近紫外発光するLED構造について、超高圧透過型電子顕微鏡観察を実施し、c面GaN基板上に形成された活性層構造内の転位観察を行った。実施例11で実施したCL法では、特に活性層領域内の転位観察は、活性層からの発光そのもの強度変調により容易でないので、活性層構造内の転位観察は超高圧透過型電子顕微鏡観察を実施した。
まず、以下に超高圧透過型電子顕微鏡観察に関して説明を付記する。汎用的な透過型電子顕微鏡(TEM)観察においては、100〜400kV程度の加速電圧を有するが、この程度の加速電圧では電子の有効透過能が高々数百nm程度であり、想定されるGaN基板上のエピタキシャル層の結晶欠陥や転位を観察するには制約がある。
その理由は以下の通りである。GaN基板上のGaN系材料のホモエピタキシャル成長においては、十分に検討された良好なエピタキシャル成長を実現すれば、本質的には低転位化が可能と想定される。よって、結晶欠陥や転位の観察においては、たとえ低転位密度の試料であっても、観察視野内に転位を含み得るように、それなりの「厚み」を有するサンプルを作成する必要がある。このような厚みを有する試料をTEM観察するためには、観察時の電子加速電圧として1000kV以上が必要である。
このような電子加速電圧にすると、観察可能な試料厚みは1〜2μm程度ほどに厚膜化することができ、上述のような低転位密度化されたサンプルであっても、転位の観察が可能となる。また、このような厚みの試料を観察しても転位線を観察できなかった場合には、相当の低転位密度化が実現されていると言える。
具体的には、高々数百nm程度の厚みを有するサンプルで、1視野分を観察して転位が観察されなければ、それはおおよそ転位密度が108(cm-2)程度であることが示されるだけであるが、一方、1〜2μm程度ほどに厚膜化した試料を1視野観察をして転位が観察されない場合には、最大でも、107(cm-2)程度以下の低転位密度であることが示される。
さらに、転位は電子線入射方向によっては観察が不可能になる場合もあるので、c面基板上のGaN層を観察する際などは、入射電子線はm軸方向と平行になるように調整することが好ましい。
このようなことを踏まえて、本実施例におけるTEM観察は、有効透過能が1μmを超える超高圧TEMを用い、電子線の加速電圧を1000kVとして使用した。また、試料厚みは約1.0μm程度とし、かつ、入射電子線はm軸方向と平行とした。なお、用いた超高圧TEM装置は、日本電子社製のJEM-ARM1000であった。
さらに具体的には以下のようにした。観察する際には基板面に沿って12.6μmの領域を、また、観察視野の薄片の厚みは1.0μm程度とし、1000kVの電子線透過により、複数視野分の観察を行った。この結果の一例を図10に示す。図示されるとおり、c軸方向に伝播する転位は観察されなかった。
ただし、実施例11でCL法によって第2の半導体層の表面の転位密度を計測したところ、最大で9.8×106cm-2、平均で6.1×106cm-2、最少で2.5×106cm-2であったので、その上に積層した活性層部分の転位密度も、同程度となる場合が起こり得る。即ち、活性層内に存在する転位密度の上限は、第2の半導体層の表面の転位密度と同程度と見積もってもよいと考えられる。
よって、本発明における活性層内に存在する転位密度は、好ましくは1.0×107cm-2以下であって、より好ましくは6.5×106cm-2以下であって、3.0×106cm-2以下がさらに好ましい。
一方、超高圧透過型電子顕微鏡観察の結果をそのまま解釈すると、本発明における活性層内に存在する転位密度は100以下程度と、限りなく0に近いことが最も好ましい。
[参考例2]
参考例1では第1の窒化物半導体層である、Si原料を意図的には供給していないGaN層と、第2の窒化物半導体層であるSiドープGaN層中に含まれるSi濃度を比較的厚い層を作製して実測したが、本参考例では比較的薄い層におけるSi濃度をSIMS分析により評価した。
今回評価した基板は以下に示すLED構造を用いた。一連の結晶成長プロセスの概略は図2(A)を用いて説明したものであり、また、成長した層構成は図3(A)に模式的に示したものである。
基体としては、(0001)面(c+面)配向し、n型で、キャリア密度は1.8×1017cm-3、(10−12)反射におけるX線ロッキングカーブの半値幅は60.0arcsecで、(1−100)方向へのオフ角度は0.16°、(11−20)方向へのオフ角度は0.29°、また、転位密度は4.2×106cm-2であるc面GaN自立基板を用い、これを、常圧成長を通常の条件とする石英製横型反応炉内の石英製のトレー(サセプタ)に載置した。ここでの反応炉内の圧力は全工程で100±2kPaとした。
昇温工程である工程Aから工程Eまで実施例3と同様に実施した。
このような成長工程が終了した後、基板温度を下げ、反応炉内のガスを完全にN2ガスに置換した後、基板を取り出し、評価した。
このようにして作製した基板の表面は、極僅かな凹凸があるものの平坦性は良好であった。この表面を接触式段差計で測定し、凹凸の程度の指標となる中心線平均粗さ(Ra)を求めた。この結果、本実施例のもののRaは5.5nmであった。
本参考例の試料のSIMS分析を行い、Si濃度の深さ方向の分布を調べた。その結果、第2の窒化物半導体層中のSi濃度は5×1018cm-3と、設定値どおりであったが、第1の窒化物半導体層(厚さ40nm)の位置に相当する部分のSi濃度は3×1019cm-3のピークを持っていた。なんらかの原因でSiが基板と、意図的にはSiを導入しなかった第1の半導体層の間に、偏析したものと考えられた。
本発明により、表面モフォロジと光学特性がともに良好で、しかも発光素子とした場合の発光効率が高い、高品質の窒化物半導体の結晶成長方法が提供される。
図(A)及び図(B)はそれぞれ、横型および縦型のMOCVD反応炉中でのメインフローの流れを概念的に例示するための図である。
本発明の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例9の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
本発明の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例9の窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
工程A(昇温時)の混合ガス雰囲気依存性(メインフロー構成ガス種依存性)を検討した際のPL発光測定結果を示す図である。
昇温時(工程A)及び第1の窒化物層(第1のGaN層)のエピタキシャル成長時(工程B)の圧力とドーピングの条件を検討した結果を説明するための図で、5つの異なる条件で第1の窒化物層(第1のGaN層)を成長させて得られたLED試料のそれぞれの断面概略図である。
昇温時(工程A)及び第1の窒化物層(第1のGaN層)のエピタキシャル成長時(工程B)の圧力とドーピングの条件を検討した結果を説明するための図で、LED試料の表面モルフォロジ(微分干渉顕微鏡像)とPLスペクトル(325nm波長のレーザで励起したときのLEDからのPL発光特性)である。
本発明の窒化物半導体の他の例を説明するための断面概略図である。
実施例11の窒化物半導体の結晶成長方法を説明するためのシーケンス例を説明するための図である。
実施例11における窒化物半導体例を説明するための断面概略図である。
実施例12における窒化物半導体を観察した超高圧TEM観察像である。
1 石英反応管
2 サセプタ
3 基体
4 ステンレス製チャンバ
10 GaN基板 または、サファイア基板上GaNテンプレート
11 意図的にはSiをドーピングしていないGaN層
12 意図的にSiドープを実施したn型GaN層
13 InGaN/GaN多重量子井戸活性層構造
14 MgドープAlGaN層
15 MgドープGaN層