以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
本発明の車両用合わせガラスは、互いに同形、同寸の主面を有する1対のガラス基板と、前記ガラス基板の間に設けられた前記ガラス基板の主面と同形、同寸の主面を有する1対の中間接着層と、前記中間接着層の間に設けられた、一方の主面上に赤外線吸収膜が形成されてなる赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムであって、前記ガラス基板の主面と略同寸の主面を有し、かつ開口領域を備える赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムと、を備える。
本発明の車両用合わせガラスは、赤外線反射フィルム上に赤外線吸収膜が形成された赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムを用いることで高い遮熱性を有するとともに、赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムが開口領域を有することから、該領域において赤外線通信性を十分に確保できる。さらに、本発明においては、赤外線反射フィルム上に赤外線吸収膜が形成された赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムを用いることで、赤外線吸収性の部材と赤外線反射性の部材がコンパクトに一体化されており、両方の部材に別々に開口領域を設ける等の工程数の増加や位置合わせ等の製造上の煩雑な作業が少なく、すなわち製造時に良好な作業性を維持しながら、高い遮熱性と赤外線通信性の両方が確保された車両用合わせガラスが製造可能である。すなわち、本発明の車両用合わせガラスは生産性がよい。
本発明の車両用合わせガラスにおける赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムの開口領域に相当する領域は、赤外線通信用の領域として好適である。
本明細書において、車両用合わせガラスの、赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムの開口領域に相当する領域を、必要に応じて赤外線透過領域という。車両用合わせガラスの、赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムの配設領域における上記赤外線透過領域以外の領域を赤外線遮蔽領域という。なお、赤外線透過領域の具体的な態様については、後述の赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムの開口領域の態様に示すとおりである。
本発明の車両用合わせガラスについては、その車両における適用箇所にもよるが、例えば、フロントガラスに適用する場合、車両用合わせガラスの赤外線遮蔽領域における日射透過率(Te)は45%以下であり、かつ、可視光透過率(Tv)は70%以上であることが好ましい。日射透過率(Te)は40%以下がより好ましく、38%以下が特に好ましい。可視光透過率(Tv)は72%以上がより好ましく、73%以上が特に好ましい。また、フロントガラスに適用する場合、車両用合わせガラスの赤外線遮蔽領域におけるヘイズ値は1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下が特に好ましい。
本発明の車両用合わせガラスがフロントガラス以外の箇所、例えば、ルーフウインド、サイドウインド、リヤウインド等に適用される場合、車両用合わせガラスの赤外線遮蔽領域における日射透過率(Te)は40%以下であり、かつ、可視光透過率(Tv)は10%以上であることが好ましい。日射透過率(Te)は38%以下がより好ましく、35%以下が特に好ましい。可視光透過率(Tv)は15%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。また、ルーフウインド、サイドウインド、リヤウインド等に適用される場合、車両用合わせガラスの赤外線遮蔽領域におけるヘイズ値は5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下がより好ましく、3.0%以下が特に好ましい。
なお、日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)は、分光光度計等により、少なくとも300〜2100nmが含まれる波長域の透過率、反射率を測定し、それぞれJIS R3106(1998年)およびJIS R3212(1998年)で規定される計算式から算出される値である。本明細書において、特に断りのない限り、日射透過率および可視光透過率は、上記の方法で測定、算出される日射透過率(Te)および可視光透過率(Tv)をいう。
また、本発明の車両用合わせガラスの赤外線透過領域においては、赤外線透過率、具体的には、分光光度計等により測定される600〜1100nmにおける平均透過率が30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましい。可視光透過率(Tv)やヘイズ値は特に制限されないが、上記各適用箇所による赤外線遮蔽領域の可視光透過率(Tv)やヘイズ値と同等の値であることが好ましい。
以下、本発明の車両用合わせガラスの実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1に本発明の車両用合わせガラスの実施形態の一例における正面図を示す。図2に、図1に示す車両用合わせガラスのZ−Z線における断面図を示す。図1および図2に示す車両用合わせガラスは、本発明の車両用合わせガラスをフロントガラスとして適用した場合の一例である。
図1に示す正面図の上はフロントガラスの上に一致する。図2の断面図は、左側がフロントガラスの上となる断面図である。ここで、以下の説明に用いる「上」および「下」の表記は、フロントガラスを車両に搭載した際のそれぞれ上および下を示す。また、本発明の車両用合わせガラスを車両に搭載する際の赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムの位置関係については、該フィルムの赤外線吸収膜側が車内側となるように搭載される。
なお、本発明の車両用合わせガラスは、適用がフロントガラスに限定されるものではない。フロントガラスの他にルーフウインド、サイドウインド、リヤウインドのいずれに適用されてもよい。
本明細書において、車両用合わせガラスの周縁部とは、車両用合わせガラスの端部から主面の中央部に向かって、ある一定の幅を有する領域を意味する。また、本発明においては、車両用合わせガラスの主面において中央部から端部に向かう方向を外周方向、端部から中央部に向かう方向を内周方向という。また、中央部から見て端部側を外側、端部からみて中央部側を内側という。
図1および図2において、フロントガラスとして使用される車両用合わせガラス10A(以下、「フロントガラス10A」という。)は、互いに同形、同寸の主面を有する1対のガラス基板1A、1Bを有する。フロントガラス10Aにおいてガラス基板1Aが車内側、ガラス基板1Bが車外側に配置される。フロントガラス10Aは、ガラス基板1Aの車外側およびガラス基板1Bの車内側にそれぞれがガラス基板1A、1Bの主面と同形、同寸の主面を有する1対の中間接着層2Aおよび中間接着層2Bを有する。フロントガラス10Aは、さらにこの1対の中間接着層2A、2Bの間に、赤外線反射フィルム31の一方の主面上に赤外線吸収膜32が形成されてなる赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルム3であって、ガラス基板1A、1Bの主面と略同寸の主面を有し、かつ開口領域として切欠き部33を備える赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルム3を有する。
フロントガラス10Aにおいて、赤外線吸収・反射フィルム3は赤外線吸収膜32側が車内側となるように、すなわち赤外線吸収・反射フィルム3の赤外線吸収膜32が中間接着層2Aと接する形に配設されている。以下、赤外線吸収膜付き赤外線反射フィルムを「赤外線吸収・反射フィルム」ということもある。
ここで、本発明の車両用合わせガラスにおいては、赤外線吸収・反射フィルムは開口領域を有する。赤外線吸収・反射フィルムにおける開口領域は、例えば、島状の領域とされてもよく、赤外線吸収・反射フィルムの外周を切欠くように形成された切欠き部とされてもよい。赤外線吸収・反射フィルムにおける開口領域の大きさや形状、位置、さらには車両用合わせガラスとした際の該開口領域に相当する領域の位置等は、車両用合わせガラスとした際に赤外線通信が十分に行え、かつ赤外線吸収・反射フィルムが開口領域を含む全体として赤外線遮蔽能を十分に発揮できる範囲であれば特に制限されない。このような開口領域の具体的な態様は後述のとおりである。
赤外線吸収・反射フィルムがガラス基板の主面と「略同寸」の主面を有するとは、例えば、上記開口領域を除いた部分は一致するというように部分的に欠けていてもよいが概ね一致する主面を有することをいう。また、図1に示すように赤外線吸収・反射フィルムの主面が車両用合わせガラスの周縁部を除く形に切欠き部以外は相似形状である場合も、赤外線反射フィルムがガラス基板の主面と「略同寸」の主面を有する範疇である。
具体的には、赤外線吸収・反射フィルムの主面が、開口領域を有するとともに、少なくともガラス基板の主面の外側に位置する領域を有さず、該主面の面積がガラス基板の主面の面積の概ね75%以上である場合、赤外線吸収・反射フィルムがガラス基板の主面と「略同寸」の主面を有するという。
以下、フロントガラス10Aを構成する各要素について説明する。
[ガラス基板]
本発明の実施形態のフロントガラス10Aに用いるガラス基板1A、1Bの材質としては、透明な無機ガラスや有機ガラス(樹脂)が挙げられる。無機ガラスとしては通常のソーダライムガラス(ソーダライムシリケートガラスともいう)、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。成形法についても特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたフロート板ガラスが好ましい。
有機ガラス(樹脂)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。これらのなかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、ガラス基板は、上記のような樹脂を2種以上含んで構成されてもよい。
上記ガラスとしては、着色成分を添加しない無色透明な材質を用いてもよく、あるいは、本発明の効果を損なわない範囲で着色された着色透明な材質を用いてもよい。さらには、これらのガラスは1種類もしくは2種類以上を組合せて用いてもよく、例えば、2層以上に積層された積層基板であってもよい。車両の適用箇所にもよるがガラスとしては、無機ガラスが好ましい。
フロントガラス10Aに用いる1対のガラス基板1A、1Bは、互いに異なった種類の材質から構成されてもよいが、同一であることが好ましい。ガラス基板1A、1Bの形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。ガラス基板1A、1Bの厚みはフロントガラス10Aの用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであることが好ましい。さらに、ガラス基板1A、1Bには、外側に表出している面に、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されていてもよい。
[中間接着層]
フロントガラス10Aにおける1対の中間接着層2A、2Bは、ガラス基板1A、1Bの主面と同形、同寸の主面を有し、厚みが後述のとおりの平膜状の層である。この1対の中間接着層2A、2Bは、赤外線吸収・反射フィルム3を挟持しつつ1対のガラス基板1A、1Bの間に挿入されこれらを接着してフロントガラス10Aとして一体化する機能を有する。
中間接着層2A、2Bの構成材料としては、通常、車両用合わせガラスに用いられる従来公知の中間膜を構成する材料と同様の材料が特に制限なく使用できる。中間接着層2A、2Bとして、具体的には、以下の熱可塑性樹脂を主成分として含む組成物を、ガラス基板1A、1Bの主面と同形、同寸の主面を有するシート状に製膜したものが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、これを主成分とする組成物をシート状に製膜して1対の中間接着層2A、2Bとし、赤外線吸収・反射フィルム3を挟持したかたちで1対のガラス基板1A、1Bの間に挿入してフロントガラス10Aを成形した際に、一体化できるものであれば特に限定されない。また、車両用合わせガラスとした際に視認性が十分に確保されるものが好ましく、車両用合わせガラスとしての可視光透過率が70%以上を達成できるものが特に好ましい。熱可塑性樹脂として、具体的には、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来から中間膜用として用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。
なかでも、優れた透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性および遮音性等の諸性能のバランスに優れる中間接着層2A、2Bが得られることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、なかでも、優れた透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性および遮音性等の諸性能のバランスにより優れる中間接着層2A、2Bが得られることから、PVBが好適に用いられる。これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
上記ポリビニルアセタール系樹脂の合成に用いられるPVAは、特に限定されるものではないが、平均重合度が200〜5000のものが好ましく、より好ましくは500〜3000のものである。上記ポリビニルアセタール系樹脂は、特に限定されるものではないが、アセタール化度が40〜85モル%であるものが好ましく、より好ましくは50〜75モル%のものである。上記ポリビニルアセタール系樹脂は、残存アセチル基量が30モル% 以下であるものが好ましく、より好ましくは0.5〜24モル%のものである。
上記可塑化樹脂、好ましくは可塑化ポリビニルアセタール系樹脂を得るために、具体的には、ポリビニルアセタール系樹脂を可塑化するために用いられる可塑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、一塩基性有機酸エステル系、多塩基性有機酸エステル系などの有機酸エステル系可塑剤や、有機リン酸系、有機亜リン酸系などのリン酸系可塑剤等が挙げられる。
上記可塑化樹脂、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂を得るために用いる可塑剤の量は、ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度やアセタール化度および残存アセチル基量等によっても異なり、特に限定されるものではないが、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対し、可塑剤10〜80質量部であることが好ましい。ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対する可塑剤の添加量が10質量部未満であると、ポリビニルアセタール系樹脂の可塑化が不十分となって、成形(製膜)が困難となることがあり、逆にポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対する可塑剤の添加量が80質量部を超えると、得られる樹脂膜の強度が、中間接着層2A、2Bとして不十分となることがある。
中間接着層2A、2Bの作製に用いる熱可塑性樹脂含有組成物は、上記熱可塑性樹脂、好ましくは可塑化ポリビニルアセタール系樹脂を主成分として含有するものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で各種目的に応じて、例えば、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有していてもよい。これらの添加剤は中間接着層2A、2Bの全体に均一に含有される。なお、1対の中間接着層2A、2Bはともに赤外線吸収剤を含有しないことが好ましい。
フロントガラス10Aに用いる1対の中間接着層2A、2Bは、互いに異なった種類の材質から構成されてもよいが、同一であることが好ましい。
中間接着層2A、2Bの膜厚は、赤外線吸収・反射フィルム3を挟持したものをガラス基板1A、1Bに挿入して、通常の処理によりフロントガラス10Aとして一体化できる膜厚であれば特に限定されるものではない。
中間接着層2A、2Bの膜厚は、具体的には、車両用合わせガラス用等に通常用いられる中間膜の各1層の膜厚と同様に、それぞれ0.3〜0.8mmであることが好ましく、中間接着層2A、2Bの合計膜厚として0.7〜1.5mmであることが好ましい。中間接着層2A、2Bの各膜厚が0.3mm未満であったり、両者の合計膜厚が0.7mm未満であったりすると、中間接着層2A、2Bを併せた中間接着層の強度が不十分となることがあり、逆に中間接着層2A、2Bの各膜厚が0.8mmを超えたり、両者の合計膜厚が1.5mmを超えたりすると、後述するフロントガラス10A作製時のオートクレーブによる本接着(本圧着)工程において、これが挟み込まれる1対のガラス基板1A、1Bのずれが生じる現象、いわゆる板ずれ現象が発生することがある。
中間接着層2A、2Bはそれぞれ単層構造に限定されない。例えば、特開2000−272936号公報等に開示された遮音性能の向上を目的として用いられる、性質の異なる(損失正接の異なる)樹脂膜を積層した多層樹脂膜を中間接着層2A、2Bとして使用してもよい。さらに、フロントガラス10Aにおいて、中間接着層2A、2Bを上下方向の断面形状が楔形状となるように設計してもよい。楔形状としては、中間接着層2A、2Bの厚みが上辺から下辺へ向けて単調に減少していてもよいし、上辺の厚みが下辺の厚みより大きい限りにおいて、部分的に厚みが均一な部分を有する設計でもよい。なお、中間接着層2A、2Bの両方を多層樹脂膜としてもよく、一方を単層とし他方を多層樹脂膜としてもよい。同様に、両方を楔形状としてもよく、一方を厚みが均一な平膜形状とし他方を楔形状としてもよい。
[赤外線吸収・反射フィルム]
図1、2に示すフロントガラス10Aにおける赤外線吸収・反射フィルム3は、赤外線反射フィルム31の車内側、すなわちフロントガラス10Aにおける車内側のガラス基板1Aおよび中間接着層2Aの側の主面の全面に赤外線吸収膜32が形成された構成である。赤外線吸収・反射フィルム3の主面は、開口領域として上辺に沿って設けられた切欠き部33を有し、それ以外の部分については、ガラス基板1A、1Bの上下左右の4辺からそれぞれc1、c2、c3、c4ずつ内側に4辺が位置するように縮小された外周形状を有するものであって、赤外線吸収・反射フィルム3の主面とガラス基板1A、1Bの主面とは略同寸である。
フロントガラス10Aにおいて、赤外線吸収・反射フィルム3は、1対の中間接着層2A、2Bの間に挟持され、さらにその状態で1対のガラス基板1A、1Bの間に挿入された構成である。上記のとおりフロントガラス10Aにおいて、赤外線吸収・反射フィルム3は赤外線反射フィルム31が車外側、赤外線吸収膜32が車内側に位置するように配設される。これにより、車外から入射する赤外線を赤外線反射フィルム31が反射し、反射に供しなかった赤外線を赤外線吸収膜32において吸収することで効率よく赤外線遮蔽を行うことができる。
フロントガラス10Aのように、赤外線吸収・反射フィルム3の4辺がすべてガラス基板1A、1Bの4辺から内側に位置するように赤外線吸収・反射フィルム3を配設することで、後述するフロントガラス10A作製時のオートクレーブによる本接着(本圧着)工程において、赤外線吸収・反射フィルム3にシワ等が発生するのが抑えられ好ましい。赤外線吸収・反射フィルム3の上下左右の4辺と、ガラス基板1A、1Bの上下左右の4辺との差c1、c2、c3、c4は、それぞれ5〜170mmの範囲が好ましく、20〜150mmの範囲がより好ましい。c1、c2、c3、c4は、同じであっても異なってもよい。c1〜c4が上記範囲にあれば、製造時における赤外線吸収・反射フィルム3に係るシワ等の発生が抑制でき、かつ赤外線吸収・反射フィルム3が存在しない部分との境界については視認性に影響を与えることがほとんどない。なお、赤外線吸収・反射フィルム3は、必要に応じて、切欠き部33を除く外周がガラス基板1A、1Bの外周と一致するように作製されてもよい。
フロントガラス10Aにおいては、赤外線吸収・反射フィルム3が有する開口領域は、切欠き部33として設けられている。本発明の車両用合わせガラスにおいて、赤外線吸収・反射フィルムの開口領域はこのように切欠き部の形で設けられてもよいが、必要に応じて、例えば、フロントガラスにおいては、運転者の視認性に影響のない領域等に、赤外線吸収・反射フィルムの一部を島状にくり抜く形で開口領域を形成してもよい。
本発明の車両用合わせガラスにおいて赤外線吸収・反射フィルムの開口領域は、車外側と車内側で車両用合わせガラスを介して赤外線通信が可能となるように設けられる領域であって、その大きさおよび位置さらに個数は、赤外線通信が必要とされる機器の種類や数により適宜調整される。
図1、2に示すフロントガラス10Aにおける赤外線吸収・反射フィルム3は、その上辺の中央近傍をコの字型に切欠くように形成された切欠き部33を有する。フロントガラスの場合、赤外線吸収・反射フィルム3の切欠き部33は、通常、車内側に設けられる赤外線通信機器における受信のし易さの観点から、好ましくはフロントガラスの上辺の中央近傍に設けられる。
切欠き部33における、赤外線吸収・反射フィルム3の上辺に平行する底辺の長さをy1で示し、それに直交する側辺の長さをx1で示す。赤外線通信が必要とされる機器の種類によるが、y1およびx1はそれぞれ、20〜300mm程度であり、より好ましくは30〜200mm程度である。切欠き部33の底辺の位置は、フロントガラス10Aの上辺から距離aの位置にあり、上記距離c1+x1と等しい。切欠き部33の底辺からフロントガラス10Aの下辺までの距離をbとすると、a+bがフロントガラス10Aの上下方向の長さである。ここで、切欠き部33の底辺の位置は、a:bが1:3〜1:5となる範囲で設けられることが好ましい。
ここで、赤外線吸収・反射フィルム3において開口領域は切欠き部33として設けられているが、切欠き部33の代わりに赤外線吸収・反射フィルム3の一部を島状にくり抜く形の開口領域を設けてもよい。その場合、開口領域は上記同様に矩形状であってもよく円形状に設けられてもよい。開口領域を円形状に設ける場合、その半径は20〜80mmが好ましく、また30〜50mmがより好ましい。開口領域が極端に小さく、例えば、半径20mm未満となった場合、合せガラス製造時に開口領域における中間膜2A、2Bが十分に密着できず、内部に空気が残り、十分な透明性が得られないことがある。
また、赤外線吸収・反射フィルム3の厚みについては、赤外線吸収膜32と赤外線反射フィルム31を合わせた厚みとして、フィルム取扱時の容易さならびに合せガラス製造時の脱気工程への適合性の観点から25〜200μmであることが好ましく、50〜120μmであることがより好ましい。
赤外線吸収・反射フィルム3は、赤外線反射フィルム31の一方の主面上に赤外線吸収膜32が形成されてなり、さらに開口領域としての上記切欠き部33を有するものである。赤外線吸収・反射フィルム3を構成する赤外線反射フィルム31としては、車両用合わせガラスに通常用いられる赤外線反射フィルム、例えば、支持フィルムの一方の主面に赤外線反射膜が配設された赤外線反射膜付きフィルム(i)、屈折率の異なる樹脂フィルムを積層した誘電多層フィルム(ii)等が挙げられる。
赤外線反射フィルム31を構成する赤外線反射フィルムのうち、赤外線反射膜付きフィルム(i)における支持フィルムとしては、表面に赤外線反射膜や必要に応じて後述の赤外線吸収膜の形成が可能であり、かつ1対の中間接着層の間に挟持され、これがさらに1対のガラス基板の間に挟持された構成の本発明の車両用合わせガラスが作製可能な材質のものであれば、特に制限されない。具体的には、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ナイロン、シクロオレフィンポリマー等の樹脂フィルムを挙げることができる。
ここで、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのように延伸法で作製されている樹脂フィルムは、比較的に高強度であり、後述する中間接着層との合わせ加工時の取扱などで発生するフィルムの折れなどの欠陥を抑制でき、また、加熱による球状結晶の生成も抑制できて白濁が抑制されることから、赤外線反射膜の支持フィルムとして好ましい。用いる支持フィルムの膜厚としては、赤外線吸収・反射フィルムとした際の厚みが25〜200μmの範囲となるように以下の赤外線反射膜および赤外線吸収膜の厚みを勘案して設定されることが好ましく、赤外線吸収・反射フィルムとした際の厚みが50〜120μmの範囲となるように設定されることがより好ましい。
支持フィルム上に形成される赤外線反射膜としては、誘電体多層膜、液晶配向膜、赤外線反射材含有コーティング膜、金属膜を含む単層または多層の赤外線反射膜等の従来公知の赤外線反射膜が挙げられる。赤外線反射膜の膜厚としては100〜500nmが好ましく、150〜450nmがより好ましい。また、赤外線反射膜と支持フィルムの合計の厚みについては、さらに以下の赤外線吸収膜の厚みを加えた状態で、25〜200μmが好ましく、50〜120μmがより好ましい。
上記赤外線反射フィルムにおいて、支持フィルム上に赤外線反射膜として形成される誘電体多層膜は、高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜を交互に積層した構成を有する。誘電体膜には、TiO2、Nb2O5、Ta2O5、SiO2、Al2O3、ZrO2、MgF2等の金属化合物から、適当な屈折率差を有する2種を組合せて選んで高屈折率誘電体および低屈折率誘電体として用いることが好ましい。
また、積層される誘電体膜の層数は、高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜の合計の層数として、3層以下であると赤外線域の反射が不十分であり、また、層数が12層を超えると製造コストが高くなり、また、層数を増やすことによって膜応力が増加し、支持フィルムとの密着性が低下したり支持フィルムをカールさせたりするので、積層される誘電体膜の層数は、4層以上11層以下であることが好適である。層数を増すほど赤外線領域における反射の極大値は大きくなり、かつ可視光域の色が無色に近くなり、好ましい赤外線反射膜となる。
このような誘電体多層膜からなる赤外線反射膜は、用いる誘電体の種類、各層の層厚および層数により、反射波長域や反射率の設計が可能である。したがって、誘電体多層膜からなる赤外線反射膜を本発明の車両用合わせガラスに適用させる場合には、組合せて用いる赤外線吸収膜の赤外線吸収能を勘案しながらより効果的な赤外線反射性能を有するように赤外線反射膜を設計すればよい。
支持フィルム上に誘電体多層膜を形成する方法としては、例えば、マグネトロンスパッタリング、電子線蒸着、真空蒸着、化学蒸着等の、既知の技術のいずれかを使用して、赤外線反射膜の被形成面である支持フィルムのいずれか一方の主面上に設ける方法が挙げられる。
上記赤外線反射フィルムにおいて、支持フィルム上に赤外線反射膜として形成される液晶配向膜は、具体的には、螺旋状構造または格子状構造に配向可能な液晶化合物を支持フィルム上で、螺旋構造または格子構造に配向させ、かかる配向状態を固定することによって得られる膜である。これらの構造を示す液晶相としては、コレステリック液晶相、強誘電性液晶相、反強誘電性液晶相、ブルー相があり、これらのいずれを利用することもできる。また、目的とする光の波長の大きさの半分から十分の一程度の大きさの周期構造があれば、上記の物質によらず、選択反射性を示すことが可能であるので、いわゆるストップバンドを光の波長領域に有するフォトニック結晶も使用できる。
支持フィルム上に液晶配向膜を形成する方法としては、例えば、液晶化合物およびその他任意成分を必要に応じて有機溶媒に溶解させて得られる液状組成物を塗工液として、支持フィルム上に形成された配向膜の上に塗布して、螺旋状構造または格子状構造に配向させ、該配向状態を固定する方法が挙げられる。また、配向膜を用いずに、磁場、電場配向、ずり応力操作により配向させることもできる。
加熱配向の温度は、一般的には、液晶性組成物の結晶相/ネマチック相転移温度以上、ネマチック相/等方相転移温度以下で行なう。加熱配向時間は、特に制限されないが、10秒〜3分程度の範囲が好ましい。配向固定は、加熱配向温度で行ってもよいし、それより低温で結晶が析出しない範囲の温度で行ってもよい。
赤外線反射フィルム31を構成する赤外線反射フィルムのうち、誘電多層フィルム(ii)は、少なくとも2つの樹脂層を含み、高屈折率を有する樹脂からなる層と低屈折率を有する樹脂からなる層を交互に積層した構成を有する誘電光学フィルムである。
樹脂層を構成する樹脂は等方性または複屈折性であってもよい。樹脂層は、好ましくは、複屈折性の樹脂からなり、より好ましくは、誘電多層フィルムは、ブルースター角(p偏光の反射率がゼロになる角度)が非常に大きいかまたは樹脂層境界面に対して存在しないように設計される。
高屈折率を有する樹脂からなる層と低屈折率を有する樹脂からなる層をそれぞれ構成する樹脂の組合せとしては、屈折率差がある透明樹脂であれば特に限定されない。具体的には、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、脂肪族ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド等から選ばれる屈折率の異なる2種の組合せが挙げられる。異なる2種のポリエステルの組合せ、ポリエステルと、アクリル樹脂、ポリスチレンおよびフッ素樹脂等から選ばれる1種の組合せが好ましい。なお、必要に応じて3種以上の樹脂を用いて誘電多層フィルム(ii)を作製してもよい。
ポリエステルとしては、各種ジオール、例えば、線状または枝分かれアルカンジオールまたはグリコール、エーテルグリコール、鎖−エステルジオール、シクロアルカングリコール、ビ−または多環状ジオール、芳香族グリコール、ジメチルまたはジエチルジオール、これらのジオールのより低級のアルキルエーテルまたはジエーテルおよび各種ジカルボン酸、例えば、置換芳香族ジカルボン酸、シクロアルカンジカルボン酸、ビ−または多環状ジカルボン酸、アルカンジカルボン酸、縮合環芳香族炭化水素の異性ジカルボン酸等とのエステル化物が挙げられる。
ポリエステルとして好ましくは、PET、PEN、ポリブチレンナフタレート(BEN)や、これらポリエステルにおいて主原料とともに各種コモノマーを用いて製造される共重合体が挙げられる。以下、PETを主体とするこのような共重合体をcoPET、PENを主体とする共重合体をcoPENという。アクリル樹脂としてはPMMAが好ましく、フッ素樹脂としてはポリフッ化ビニリデンが好ましい。ポリスチレンとしては、シンジオタクチックポリスチレン(sPS)が好ましい。
具体的には、PENとPMMA、PETとPMMA、PENとsPS、PETとsPS、PENとcoPET、PENとPETG(第2グリコール(通常シクロヘキサンジメタノール)を使用するPETのコポリマー)の組合せ等が好ましい。
誘電多層フィルムは、交互に屈折率の異なる2種の樹脂層が積層された樹脂シートが得られるように上記樹脂を組み合わせて同時押出しし、得られた積層シートを必要に応じて延伸する等の、例えば、特表2002−509279号公報等に記載された従来公知の方法で作製できる。誘電多層フィルムの各樹脂層の厚みおよび層数は必要とされる反射特性に応じて適宜調整される。誘電多層フィルムの全体の厚みについては、これに以下の赤外線吸収膜の厚みを加えた厚みとして、25〜200μmが好ましく、50〜120μmがより好ましい。
赤外線吸収・反射フィルム3が赤外線反射フィルム31の一方の主面上に有する赤外線吸収膜32は、赤外線吸収能を有する薄膜であれば特に制限されないが、具体的には、透明樹脂中に赤外線吸収剤を分散させた薄膜が挙げられる。このような薄膜としては、例えば、透明樹脂と赤外線吸収剤とを溶剤中に分散および/または溶解させて塗工液を調製した後、この塗工液を赤外線反射フィルム31の被塗工面に塗工し、乾燥させることにより得られる被膜が好ましい。
赤外線反射フィルム31の赤外線吸収膜32が形成される主面は、赤外線反射フィルム31の設計による。赤外線反射フィルム31として支持フィルムの一方の主面に赤外線反射膜が配設された赤外線反射膜付きフィルム(i)を用いる場合には、通常、赤外線反射膜側から入射した赤外線を反射する設計とされることから、赤外線吸収膜32は赤外線反射膜付きフィルムの支持フィルム側に形成される。すなわち、得られる赤外線吸収・反射フィルム3は、支持フィルムの一方の主面に赤外線反射膜が配設され、他方の主面に赤外線吸収膜32が形成された構成となる。ただし、支持フィルムの一方の主面に赤外線反射膜が配設された赤外線反射膜付きフィルム(i)において、支持フィルム側から入射した赤外線を反射する設計である場合、赤外線吸収膜32は赤外線反射膜付きフィルムの赤外線反射膜上に形成される。
屈折率の異なる樹脂フィルムを積層した誘電多層フィルム(ii)上に赤外線吸収膜32を形成する場合、誘電多層フィルムにおける入射した赤外線を反射するように設計された側と反対側の主面上に赤外線吸収膜32は形成される。
赤外線吸収膜32の厚みは、赤外線吸収能や生産性等を考慮して適宜選択することができる。赤外線吸収膜32の厚みは、例えば、0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、2μm以上6μm以下が特に好ましい。膜厚が0.5μm未満の場合、必ずしも十分な赤外線吸収能を得られるとは言えず、50μmを超える場合、その形成時に溶剤が残留するおそれがある。
透明樹脂としては、耐久性等の観点から、ガラス転移温度が80℃以上180℃以下であるものが好ましく、120℃以上180℃以下であるものが特に好ましい。このような透明樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
透明樹脂としては、市販品を用いることもでき、例えばポリエステル系樹脂として鐘紡社製の商品名「O−PET」、ポリアクリル系樹脂として日本触媒社製の商品名「ハルスハイブリッドIR−G204」、ポリオレフィン系樹脂としてJSR社製の商品名「ARTON」、ポリシクロオレフィン系樹脂として日本ゼオン社製の商品名「ゼオネックス」、ポリカーボネート系樹脂として三菱エンジニアリングプラスチック社製の商品名「ユーピロン」等を用いることができる。
透明樹脂に分散させる赤外線吸収剤としては、赤外線を選択的に吸収する性質を有する材料であれば特に制限なく使用可能である。赤外線吸収剤として従来公知の無機系または有機系の赤外線吸収剤が使用可能である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
無機系赤外線吸収剤としては微粒子として、例えば、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、錫ドープ酸化インジウム(ITO)微粒子、アンチモンドープ酸化錫(ATO)微粒子、および複合タングステン酸化物微粒子等を用いることができる。
また、有機系赤外線吸収剤としては、例えば、ジイモニウム系色素、アンスラキノン系色素、アミニウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、アズレニウム系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ナフトラクタム系色素、アゾ系色素、縮合アゾ系色素、インジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、ピロール系色素、チオインジゴ系色素、金属錯体系色素、ジチオール系金属錯体系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素等を用いることができる。
これらのうちでも、経済性ならびに可視光線領域に対する赤外線領域の吸収率の高さの観点から、無機系赤外線吸収剤として、ITO微粒子、ATO微粒子、複合タングステン酸化物微粒子、有機系赤外線吸収剤としてフタロシアニン系色素が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。フタロシアニン系色素は、近赤外線波長領域に急峻な吸収を示す。したがって、より広範囲の赤外線吸収能が要求される場合には、フタロシアニン系色素と、ITO微粒子、ATO微粒子および複合タングステン酸化物微粒子から選ばれる少なくとも1種を組合せて使用することが好ましい。
複合タングステン酸化物として、具体的には、一般式:MxWyOz(ただし、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物が挙げられる。上記一般式で示される複合タングステン酸化物においては、十分な量の自由電子が生成されるため赤外線吸収剤として有効に機能する。
なお、上記一般式:MxWyOzで示される複合タングステン酸化物の微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましい。このような結晶構造において、添加されるM元素の量(x)は、タングステンの量(y)とのモル比、x/yの値で0.001以上、1.0以下であり、酸素の存在量(z)は、タングステンの量(y)とのモル比、z/yの値で2.2以上3.0以下である。
さらに、x/yの値は0.33程度であることが好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出されるx/yの値が0.33であり、x/yの値がこの前後の値となる量でM元素を含有することで、複合タングステン酸化物微粒子は好ましい光学特性を示すからである。このような複合タングステン酸化物として、具体的には、Cs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3などが挙げられる。ただし、本発明に用いられる複合タングステン酸化物は、これらに限定されず、x/yおよびz/yの値が上記範囲にあれば、有用な赤外線吸収特性を有するものである。
このような複合タングステン酸化物は、その微粒子を均一に分散した膜において、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、かつ波長700〜1800nmの間に極小値を持つことが知られている赤外線吸収剤である。
上記一般式:MxWyOzで示される複合タングステン酸化物の微粒子は、従来公知の方法で製造できる。例えば、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液と元素Mの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物等の水溶液を所定の割合で混合したタングステン化合物出発原料を用い、これらを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理することで、複合タングステン酸化物微粒子が得られる。
なお、上記複合タングステン酸化物微粒子の表面は、Si、Ti、Zr、Al等から選ばれる金属の酸化物で被覆されていることが、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
上記ATO微粒子およびITO微粒子は、従来公知の種々の調製方法、例えば、メカノケミカル法などによる金属粉を粉砕して得る物理的な方法;CVD法や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法と呼ばれる方法等で調製されたものを特に制限なく使用することができる。
また、これら微粒子の結晶系に関しては通常の立方晶に限られず、必要に応じて赤外線吸収能の比較的低い六方晶ITOも使用できる。
赤外線吸収剤の微粒子における平均一次粒子径は100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。平均一次粒子径を100nm以下とすれば、散乱による曇りの発生(曇価、ヘイズの上昇)を抑制でき、車両用合わせガラスの赤外線遮蔽領域における透明性維持の点で好ましい。なお、平均一次粒子径の下限については特に限定されないが、現在の技術において製造可能な2nm程度の赤外線吸収剤微粒子も使用可能である。ここで、微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものをいう。
赤外線吸収膜32における赤外線吸収剤の含有量は、用いる赤外線吸収剤の種類にもよるが、赤外線吸収膜32が機械的強度を維持しながら十分な赤外線吸収能を確保する点から、製膜原料の主たる成分である透明樹脂100質量部に対して0.01〜5.0質量部であることが好ましく、0.01〜3.0質量部であることがより好ましく、0.07〜1.0質量部であることが特に好ましい。
なお、赤外線吸収膜32は、透明樹脂および赤外線吸収剤の他に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有させることができる。
赤外線吸収膜32の形成は、通常、上記したような透明樹脂および赤外線吸収剤、必要に応じて、その他の成分を溶剤中に分散および/または溶解させて塗工液を調製した後、この塗工液を赤外線反射フィルム31の被塗工面に塗工し、乾燥させることで行う。
溶剤としては、有機溶剤を好適に用いることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロルエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族類またはn−ヘキサン、シクロヘキサノリグロイン等の脂肪族炭化水素類、テトラフルオロプロピルアルコールやペンタフルオロプロピルアルコール等のフッ素系溶剤等を用いることができる。
また、塗工は、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、またはコンマコーター法等により行うことができる。
乾燥の条件は、形成しようとする赤外線吸収膜32の厚みや、用いる塗工液における溶剤の含有量等により適宜選択される。このようにして得られる、赤外線吸収膜が赤外線反射フィルムの一方の主面に形成された赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルムを、以下のように加工して開口領域を有する赤外線吸収・反射フィルム3とする。
開口領域としての切欠き部33を有し、ガラス基板1A、1Bや中間接着層2A、2Bの上下左右の4辺からそれぞれc1、c2、c3、c4ずつ内側に4辺が位置するように縮小された外周形状を有する赤外線吸収・反射フィルム3は、上記のようにして得られる赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルムを、例えば、図3〜5に示すようにして、フロントガラス10Aにおいて車内側となる中間接着層2A上に積層し、赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルムのみを所望の形状に切りぬく、いわゆるハーフカット加工の手法を用いて作製できる。
図3は、中間接着層2A上に中間接着層2Aと外周が同寸、同形の赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pを積層した積層樹脂シート20pの断面図を示す。図4は、図3に示す積層樹脂シート20pの赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pを図1に示す車両用合わせガラス用に加工した後の積層体20の正面図であり図5は、図4に示す積層体20のZ−Z線における断面図である。
図3に示す積層樹脂シート20pに示す中間接着層2Aと外周が同寸、同形の赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pは、赤外線吸収膜32側の主面が中間接着層2Aと接するように配設される。
このような積層樹脂シート20pを用いて、赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pのみを上下左右の4辺が中間接着層2Aの上下左右の4辺よりそれぞれ距離c1、c2、c3、c4だけ内側に存在し、かつ上辺中央部に側辺がx1、底辺がy1のコの字型の切欠き部33を有するように切り取ることで、図4および図5に示すような切欠き部33を有する赤外線吸収・反射フィルム3が中間接着層2A上に積層された構成の積層体20が得られる。赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pのみを上記の形状に加工するハーフカット加工の方法としては、従来公知の方法が適用可能である。なお、開口領域が島状に形成される場合も、同様に従来公知のハーフカット加工の方法が適用できる。
本発明においては、このように赤外線吸収・反射フィルム3において開口領域を外周の一部を切欠く形状に形成すれば、例えば、開口領域を島状に設ける場合と比べて、赤外線吸収・反射フィルム3に開口領域を設ける工程の効率が上がり、車両用合わせガラスとしての生産性の向上に寄与できる。
なお、上記ハーフカット加工を行う際に、フロントガラス10Aにおいて車外側となる中間接着層2B上に赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pが積層された積層樹脂シートを用いてもよい。その場合、赤外線吸収膜付きの赤外線反射フィルム3pは、赤外線吸収膜32側が形成されていない側の主面が中間接着層2Bと接するように配設される。ハーフカット加工については、上記と同様に行うことができる。
[車両用合わせガラスの製造]
本発明の実施形態の車両用合わせガラスは、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。フロントガラス10Aにおいては、例えば、上記の通り車内側の中間接着層2A上に赤外線吸収・反射フィルム3を有する積層体20を作製し、その赤外線吸収・反射フィルム3上に車外側の中間接着層2Bを重ね合わせ、これを1対のガラス基板1A、1Bの間に挿入して、車内側からガラス基板1A、中間接着層2A、赤外線吸収・反射フィルム3、中間接着層2B、ガラス基板1Bの順に積層された圧着前の車両用合わせガラスである車両用合わせガラス前駆体を準備する。
この車両用合わせガラス前駆体をゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約−65〜−100kPaの減圧度(絶対圧力約36〜1kPa)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70〜110℃で予備接着(予備圧着)を行った後、この予備接着された車両用合わせガラス前駆体をオートクレーブの中に入れ、温度約120〜150℃、圧力約0.98〜1.47MPaの条件で加熱加圧して本接着(本圧着)を行うことにより、フロントガラス10Aを得ることができる。
以上、図1、2に示す本発明の車両用合わせガラスの一例であるフロントガラス10Aについて説明した。フロントガラス10Aにおいては、赤外線吸収・反射フィルム3が有する開口領域としての切欠き部33を赤外線透過領域として、車内、車外間で波長領域を選ばずに円滑な赤外線通信を行うことが可能である。それに加えて、赤外線吸収・反射フィルム3の開口領域である切欠き部33以外の領域は赤外線反射フィルムと赤外線吸収膜を積層した構成であることから、フロントガラス10Aの赤外線遮蔽領域において車外から入射しようとする赤外線を十分に遮蔽することが可能である。
また、赤外線吸収・反射フィルム3は、赤外線吸収性の部材と赤外線反射性の部材がコンパクトに一体化された赤外線遮蔽能が高いフィルムであり、開口領域を形成する際に、両方の部材に別々に開口領域を設ける等の工程数の増加や位置合わせ等の製造上の煩雑な作業が少なく、すなわち製造時において良好な作業性が維持された車両用合わせガラスである。さらに、フロントガラス10Aに示すように、赤外線通信が可能な領域を設けるために赤外線吸収・反射フィルム3に開口領域を設けるにあたって、その形状を切欠き形状とすれば、より良好な生産性をもって製造可能である。
[黒色セラミックス層を備える車両合わせガラス]
ここで、フロントガラス10Aのような構成の車両用合わせガラスにおいては、赤外線吸収・反射フィルム3の開口領域である切欠き部33の外縁近傍に歪が生じる場合がある。すなわち、切欠き部33には赤外線吸収・反射フィルムが存在しないため、中間接着層2Bまたは中間接着層2Aが撓む状態となり、該切欠き部33の外縁近傍が歪んで見える場合がある。このような歪を隠蔽する目的で、本発明の車両用合わせガラスは、上記1対のガラス基板の一方のいずれかの主面上に、赤外線吸収・反射フィルムの開口領域に相当する領域、すなわち、赤外線透過領域の中央部を残してその外縁近傍を隠蔽する黒色セラミックス層を備えることが好ましい。開口領域が赤外線吸収・反射フィルムの外周を切欠くように形成された切欠き部の場合、切欠き部の外縁とは、例えば、コの字型に切欠かれた切欠き部においては、底辺および側辺と切欠かれた辺を含む4辺で構成される矩形を外縁という。
なお、赤外線透過領域の外縁近傍とは赤外線透過領域の外縁を挟んで内側の領域と外側の領域の両領域を含む。黒色セラミックス層は、車両用合わせガラスの赤外線透過領域の外縁近傍を隠蔽するために該外縁近傍の領域のみに設けられてもよい。その場合、黒色セラミックス層は、赤外線透過領域の中央部を囲むようにして、赤外線透過領域の外縁近傍に枠状に形成される。このようにして赤外線透過領域の外縁近傍に枠状に形成される黒色セラミックス層は、全体に隙間なく形成されてもよいが、一部または全体がドットパターンで構成されるように形成されることが好ましい。
また、本発明の車両用合わせガラスにおいて黒色セラミックス層は、例えば、車両用合わせガラスの車体取り付け部分を隠蔽する目的でその周縁部の全部に帯状に、言い換えれば額縁状に設けられることがある。あるいは、黒色セラミックス層が形成される周縁部については、必ずしも周縁部の4辺全部である必要はなく、周縁部の一部に黒色セラミックス層が形成されることもある。
さらに、赤外線通信用の機器の取り付け部やフロントガラスにおいてはルームミラー取り付け部として上記額縁状の一部が幅広く、かつ赤外線透過領域を含む形に設計される場合もある。このような場合、黒色セラミックス層は赤外線透過領域の少なくとも中央部を残すようにして、かつ中央部との境界付近がドットパターンで構成されるように形成されることが好ましい。
このように車両用合わせガラスが、赤外線透過領域の中央部を囲むようにして黒色セラミックス層を有する場合には、赤外線透過領域の黒色セラミックス層形成部分は赤外線を透過しないが中央部は赤外線を透過する。よって、該中央部の存在によりこの車両用合わせガラスは赤外線通信が可能となる。本明細書において「赤外線透過領域」の用語は、上記のとおり、赤外線吸収・反射フィルムの開口領域に相当する領域を示す。赤外線透過領域には、少なくとも上記中央部のように赤外線を透過する領域が含まれていれば、上記黒色セラミックス層形成部分のように部分的に赤外線を透過しない領域が含まれていてもよい。
図1、2に示すのと略同様のフロントガラスにこのような黒色セラミックス層がさらに配設された本発明の車両用合わせガラス(フロントガラスとして適用される)の一例を図6〜8を参照しながら説明する。
図6および図7に示すフロントガラスとして使用される車両用合わせガラス10B(以下、「フロントガラス10B」という。)は、互いに同形、同寸の主面を有する1対のガラス基板1A、1Bを有する。フロントガラス10Bにおいてガラス基板1Aが車内側、ガラス基板1Bが車外側に配置される。
フロントガラス10Bは、ガラス基板1Aの車外側およびガラス基板1Bの車内側にそれぞれがガラス基板1A、1Bの主面と同形、同寸の主面を有する1対の中間接着層2Aおよび中間接着層2Bを有する。フロントガラス10Bは、さらにこの1対の中間接着層2A、2Bの間に、赤外線反射フィルム31の一方の主面上に赤外線吸収膜32が形成されてなる赤外線吸収・反射フィルム3であって、ガラス基板1A、1Bの主面と略同寸の主面を有し、かつ開口領域として切欠き部33を備える赤外線吸収・反射フィルム3を有する。フロントガラス10Bにおいて、赤外線吸収・反射フィルム3は赤外線吸収膜32側が車内側となるように、すなわち赤外線吸収・反射フィルム3の赤外線吸収膜32が中間接着層2Aと接する形に配設されている。
フロントガラス10Bはさらにガラス基板1Bの車内側の主面上に、その周縁部の4辺全部に額縁状に、かつ赤外線吸収・反射フィルム3の切欠き部33に相当する領域をその中央部4のみを残して額縁状のなかに組み込むように配設された黒色セラミックス層5を有する。
フロントガラス10Bにおいて、1対のガラス基板1A、1Bおよび中間接着層2A、2Bの構成はフロントガラス10Aと全く同様である。赤外線吸収・反射フィルム3については、切欠き部33の配設位置がフロントガラス10Aに比べて図6においてC−C線で示す中心線から左辺側に距離Lだけ離れており、赤外線吸収・反射フィルム3の全体のサイズすなわちフロントガラス10Bの外周からの4辺の距離(c1〜c4)および、切欠き部33のサイズ(x1、y1)が以下のとおり調整される以外はフロントガラス10Aと同様である。
図6および図7に示すフロントガラス10Bの周縁部全部に額縁状に配設された黒色セラミックス層5の幅は、隠蔽が必要とされる領域を隠蔽できる幅である。フロントガラス10Bにおいて、黒色セラミックス層5の幅は、下辺において例えばワイパーなどの収納部を隠蔽するために他の3辺よりも幅を広くW3に設定されている。また、上辺において例えば赤外線通信用の機器の取り付け部やルームミラー取り付け部を隠蔽するために中央付近を幅広くW1に、他の部分においては幅を狭くW2に設定している。フロントガラス10Bにおいては、上辺の幅広に形成された黒色セラミックス層5の領域内に、赤外線吸収・反射フィルム3の切欠き部33に相当する領域が位置し、その中央部4のみに黒色セラミックス層5を有しない構成である。さらに、黒色セラミックス層5の幅は赤外線吸収・反射フィルム3の外縁を隠蔽できる幅であることが好ましい。
黒色セラミックス層5の幅は、具体的には、下辺の幅W3および上辺の幅広く設定された部分の幅W1として50〜300mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは100〜200mmである。なお、これらの幅W3、W1は同じであっても異なってもよい。また、上辺の幅を狭くW2に設定した部分および左右の辺に沿って設けられた黒色セラミックス層5の幅として、それぞれ、5〜50mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは10〜30mmである。なお、これらの上、左、右の幅は同じであっても異なってもよい。
また、黒色セラミックス層5により赤外線吸収・反射フィルム3の外縁を隠蔽するためには、赤外線吸収・反射フィルム3の外縁のフロントガラス10Bの外縁からの距離c1、c2、c3、c4はそれぞれ、黒色セラミックス層の上下左右の各辺の幅より小さく設定する必要がある。この場合、赤外線吸収・反射フィルム3の外縁のフロントガラス10Bの外縁からの距離c1、c2、c3、c4は、フロントガラス10Aで示したc1、c2、c3、c4の値を適宜調整して、上記黒色セラミックス層の上下左右の幅より小さい範囲とする。
図6に示すフロントガラス10Bの正面図における、赤外線透過領域近傍部分Pを拡大して図8に示す。黒色セラミックス層5は、ガラス基板1Bの車内側の主面上に、赤外線透過領域の外縁近傍を覆い、かつ該領域の中央部4は赤外線通信用として覆わないように配設されている。また、黒色セラミックス層5は、黒色セラミックス層が形成されていない中央部4との境界付近においてドットパターンにより形成されている。なお、黒色セラミックス層がドットパターンにより形成された領域については、必要に応じて、その周辺領域と同様に黒色セラミックスが隙間なく形成された構成とされてもよい。
ここで、黒色セラミックス層の「黒色」は、例えば、色の三属性等で規定された黒を意味するものではなく、少なくとも隠蔽が求められる部分が隠蔽できる程度に可視光線を透過させないように調整された黒色と認識可能な範囲を含む。したがって、黒色セラミックス層においては、この機能が果たせる範囲内で、必要に応じて黒色に濃淡があってもよく、色味が色の三属性で規定された黒とは若干異なってもよい。同様の観点から、黒色セラミックス層は配設される箇所に応じて層全体が連続した一体膜となるように構成されてもよく、形状や配置等の設定で可視光透過の割合を容易に調整できるドットパターン等により構成されてもよい。
図8において黒色セラミックス層5は、中央部4との境界付近のドットパターンによる枠状の領域5aとその外側の層全体が連続した一体膜として構成される領域5bからなっている。ドットパターンは微細なドットの集合体であり、中央部4に近い程ドットサイズを小さくかつドット同士の間隔を大きくすることで、黒色セラミックス層を有しない透明部分の面積割合を大きくしている。
図8に示す、黒色セラミックス層5のドットパターンによる枠状の領域5aにおけるドットの形状は、円形に限定されず、楕円、長方形、多角形、星形等とすることもできる。また、ドットの部分を透明にして、他の部分を黒色セラミックス層であるドットパターンとすることもできる。黒色セラミックス層5のドットパターンによる枠状の領域5aの幅Waは概ね2〜20mmとすることができる。また、黒色セラミックス層5で囲まれた中央部4の大きさは、赤外線通信を行うのに十分な大きさであれば特に制限されないが、具体的には、フロントガラス10Bの上下方向に対応する辺の長さをx、左右方向に対応する辺の長さをyとして、それぞれ独立に20〜100mmが好ましく、30〜80mmがより好ましい。
また、中央部4の大きさは、赤外線吸収・反射フィルム3の切欠き部33に相当する領域、すなわち、赤外線透過領域の大きさとの関係として、該領域のフロントガラス10Bの上下方向に対応する辺の長さx1より上記中央部4の上下方向の辺の長さxが10〜20mm短いことが好ましい。同様に赤外線透過領域のフロントガラス10Bの左右方向に対応する辺の長さy1より上記中央部4の左右方向の辺の長さyは10〜20mm短いことが好ましい。この場合、赤外線透過領域のフロントガラス10Bの上下方向に対応する辺の長さx1、左右方向に対応する辺の長さy1は、それぞれ、フロントガラス10Aで示したx1、y1の値をそのまま適用するのではなく、中央部4の大きさが上記範囲となるように適宜調整されることが好ましい。
また、赤外線透過領域が円形状に設けられている場合には、赤外線透過領域の外縁近傍にドーナツ状にドットパターンを有する黒色セラミックス層を設けることが好ましい。その場合においても、黒色セラミックス層で囲まれた中央部の大きさは、赤外線通信を行うのに十分な大きさであれば特に制限されない。具体的には、中央部の半径は20〜80mmが好ましく、また30〜50mmがより好ましい。上記矩形状の場合と同様に、赤外線透過領域自体の大きさは中央部の大きさより、半径が5〜10mm大きくなるように設定されることが好ましい。
フロントガラス10Bが有する黒色セラミックス層5において、ドットパターンは中央部4を囲む枠状領域5aのみでなく、フロントガラス10Bの周縁部に額縁状に設けられた領域の額縁の内周から外周方向に向かって、例えば、上記枠状領域5aの幅Waと同様の幅にドットパターンが形成されていてもよい。
黒色セラミックス層5としては、従来公知の方法でガラス基板1B上に形成される黒色セラミックス層が特に制限なく適用できる。具体的には、耐熱性黒色顔料の粉末を低融点ガラス粉末とともに樹脂および溶剤に加えて混練した黒色セラミックスペーストを印刷等によってガラス基板1Bの車内側の主面の所望の領域に塗布し、加熱して焼き付けることで形成された黒色セラミックス層が挙げられる。また、黒色セラミックス層の形成に用いる黒色顔料には、複数の有色顔料の組み合わせにより黒色となる顔料の組み合わせも含まれる。
黒色セラミックス層5の厚みは、視認性に問題のない範囲であれば特に制限されない。黒色セラミックス層5は、8〜20μm程度の厚みで形成されることが好ましく、10〜15μmがより好ましい。
ここで、図7に示されるとおり黒色セラミックス層5は、赤外線吸収・反射フィルム3の赤外線反射フィルム31側に設けられたガラス基板1Bの中間接着層2B側の主面、すなわち車外側のガラス基板1Bの車内側の主面に形成されることが好ましい。ただし、これに限定されず、必要に応じて車外側面に設けられてもよく、さらに車内側のガラス基板1Aの車内側または車外側の主面に設けられてもよい。
フロントガラス10Bは、ガラス基板1Bとして、その中間接着層2B側の主面上に上記のような黒色セラミックス層5が形成されたものを用いる以外は上記フロントガラス10Aと同様の方法で製造可能である。
以上、図1、2に示されるフロントガラス10A、図6、7に示されるフロントガラス10Bについて説明したが、本発明の車両用合わせガラスはこれに限定されない。本発明の趣旨および範囲を逸脱することのない範囲で、設計を変更または変形することができる。