ところで、ノズルからインクが噴射されない場合、時間の経過と共にインクの水分が徐々に蒸発し、ノズル近傍のインクの粘度が増加していた。ノズル近傍(特に、メニスカス周辺)のインクの粘度が増粘すると、フラッシング動作において、ノズルから安定して気泡や増粘したインクを噴射できない不具合があった。この不具合は、インク噴射後の残留振動において、メニスカス周辺のインクが増粘している場合に気泡がメニスカスに混入し易くなっていることが原因であることが分かった。これについて、図9を用いて説明する。
図9は、フラッシング動作においてインクが噴射される様子を説明したノズル97の周辺の断面図である。また、図9では、外気に曝されているメニスカス周辺のインクが増粘インク(高粘度のインク)Ihになり、これより圧力室98側のインクが通常インク(低粘度のインク)Inになっている。フラッシング動作において、まず、圧力室98を膨張させてメニスカスを圧力室98側に引き込んだ後、圧力室98を急激に収縮させると、メニスカスが圧力室98とは反対側(ノズル97の噴射側)に移動すると共に、ノズル97の内壁側よりも流路抵抗の影響を受けにくい中央の部分が外方に向けて棒状に伸びる。この棒状部分の先端が分離して、図9(a)に示すようにインク滴Idとなる。そして、このインク滴Idの噴射後に、これに起因する残留振動が生じる。具体的には、インクの噴射後、図9(b)に示すように、メニスカスが再び圧力室98側に移動する。メニスカスが圧力室98側の最大位置まで移動すると、図9(c)に示すように、メニスカスが再び圧力室98とは反対側に移動する。この時、図9(c)に示すように、メニスカス周辺のインク内に気泡Bが混入する場合がある。具体的には、メニスカスが圧力室98とは反対側に移動する際に、圧力室98側からノズル97の噴射側に移動してくるインクInと比べてメニスカス周辺に留まっている増粘インクIhの流動性が悪いため、空気の一部が当該インクに巻き込まれ、この巻き込まれた空気が気泡Bとしてインク内に取り残される。この気泡Bが浮力等によって圧力室98側に入り込んで、流路内に残留すると、インクの噴射不良の原因となっていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、メンテナンス時において、ノズル内の液体が増粘していた場合であっても、安定して液体を噴射することができる液体噴射装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルに連通する圧力室、及び、該圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の作動によって前記ノズルから液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、
メンテナンス時において、前記ノズルから液体を噴射させるメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生させる駆動信号発生手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記メンテナンスパルスは、圧力室を膨張させる膨張要素と、該膨張要素によって膨張された圧力室を収縮させる収縮要素と、該収縮要素によって収縮された圧力室を更に収縮させる再収縮要素と、を含み、
前記収縮要素によって前記ノズルから液体を噴射させた後、メニスカスが圧力室側へ移動し終わる前に、前記再収縮要素による前記圧力室の収縮が開始されることを特徴とする。
この構成によれば、収縮要素によってノズルから液体を噴射させた後、メニスカスが圧力室側へ移動し終わる前に、再収縮要素による圧力室の収縮が開始されるため、メニスカスの圧力室側への移動を抑えることができる。すなわち、残留振動によるメニスカスの変位量を抑えることができる。これにより、その後、圧力室側からノズルの噴射側に移動するメニスカスの動きを抑えることができる。その結果、メニスカス周辺の液体が増粘したとしても、液体内に気泡が混入することを抑制できる。
上記構成において、前記収縮要素の後端から前記再収縮要素の始端までの時間をT1、前記圧力室内の液体に生じる固有振動周期をTcとしたとき、
(1/5)×Tc≦T1≦(1/3)×Tc…(1)
を満たすことが望ましい。
この構成によれば、収縮要素によってノズルから液体を噴射させた後、メニスカスが圧力室側へ移動し終わる前に、再収縮要素を印加することができる。
また、上記構成において、前記再収縮要素の始端から後端までの時間をT2、前記収縮要素の電圧変化をVh1、前記再収縮要素の電圧変化をVh2としたとき、
(1/5)×Tc≦T2≦(1/3)×Tc…(2)
かつ
(1/4)×Vh1≦Vh2≦(1/2)×Vh1…(3)
を満たすことが望ましい。
この構成によれば、収縮要素によってノズルから液体を噴射させた後、残留振動によるメニスカスの変位量を液体内に気泡が混入しない程度に抑制しつつ、メニスカスが急激に噴射側へ引っ張られることによるメニスカスの乱れを抑制できる。その結果、液体内に気泡が混入することを一層抑制できる。
さらに、メンテナンスにおいて、少なくとも最初のメンテナンスパルスが前記条件(1)〜(3)の範囲内に設定され、メンテナンス開始時からの経過時間に応じてメンテナンスパルスの前記時間T2を短くすることが望ましい。
この構成によれば、メンテナンスにおいて、少なくとも最初のメンテナンスパルスの時間T2が条件(1)〜(3)の範囲内に設定されるため、液体内に気泡が混入することを抑制できる。また、メンテナンス開始時からの経過時間に応じてメンテナンスパルスの時間T2を短くするため、液体噴射の時間間隔を短くすることができ、ひいては、メンテナンス時間を短縮することができる。
また、上記構成において、メンテナンス開始時からの経過時間に応じて、メンテナンスパルス同士の時間間隔を短くすることが望ましい。
この構成によれば、液体噴射の時間間隔をより短くすることができ、ひいては、メンテナンス時間をより短縮することができる。
さらに、上記各構成において、前記メンテナンス駆動信号は、ノズルにおけるメニスカスを振動させる副振動パルスを含み、
該副振動パルスは、少なくとも1つの前記メンテナンスパルスの前に発生させることが望ましい。
この構成によれば、副振動パルスによってメニスカス周辺の液体を攪拌することができる。これにより、メニスカス周辺の液体が増粘していたとしても、この液体の粘度を下げることができる。その結果、メンテナンスパルスによって液体を噴射する際に液体内に気泡が混入することを更に抑制できる。
また、上記構成において、前記副振動パルスは、圧力室を膨張させる副膨張要素と、該副膨張要素によって膨張された圧力室を収縮させる副収縮要素とを含み、
前記副収縮要素を印加したことによって振動させられたメニスカスが圧力室側へ移動し終わる前に、前記メンテナンスパルスの膨張要素による前記圧力室の膨張が開始されることが望ましい。
この構成によれば、メンテナンスパルスの膨張要素によってメニスカスをより大きく圧力室側へ移動させることができ、その後の収縮要素によってより多くの液体を噴射することができる。このため、メニスカス周辺の液体が増粘していたとしても、安定して液体を噴射することができる。
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明では、本発明の液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンター)を例に挙げる。
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対して液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3(後述するホルダ14)に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
記録動作時の記録ヘッド3の下方には、プラテン11が配置されている。このプラテン11は、記録動作を行う際の記録ヘッド3のノズル形成面(ノズルプレート21:図2参照)に対して間隔を空けて配置され、記録媒体2を支持する。また、プラテン11の主走査方向の端部、詳しくは、プラテン11に配置された記録媒体2に対してインクが噴射される領域(記録領域)から外れた領域に、フラッシングボックス12(本発明における液体捕集領域に相当)が設けられている。このフラッシングボックス12は、メンテナンス動作の一種であるフラッシング動作において、記録ヘッド3から噴射されたインクを捕集する部材である。本実施形態のフラッシングボックス12は、上方(記録ヘッド3側)に向けて開口した箱体状に形成されている。そして、フラッシングボックス12の内部の底面には、例えばウレタンスポンジ等で作製されたインク吸収材が配設されている。なお、このフラッシングボックス12は、プラテン11の主走査方向両側に設けることが望ましいが、少なくとも一方に設けられていればよい。
図2は、上記記録ヘッド3の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド3は、ケース13と、このケース13内に収納される振動子ユニット14と、ケース13の底面(先端面)に接合される流路ユニット15等を備えて構成されている。上記のケース13は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット14を収納するための収納空部16が形成されている。振動子ユニット14は、圧力発生手段の一種として機能する圧電素子17と、この圧電素子17が接合される固定板18と、圧電素子17に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル19とを備えている。圧電素子17は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向に直交する方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電素子である。
流路ユニット15は、流路形成基板20の一方の面にノズルプレート21を、流路形成基板20の他方の面に弾性板22をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット15には、リザーバー23と、インク供給口24と、圧力室25と、ノズル連通口26と、ノズル27とが設けられている。そして、インク供給口24から圧力室25及びノズル連通口26を経てノズル27に至る一連のインク流路が、ノズル27毎に対応して形成されている。
上記ノズルプレート21は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル27が列状に穿設されたステンレス鋼(SUS)又はシリコン単結晶等からなる薄いプレートである。このノズルプレート21には、ノズル27の列(ノズル列)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル27によって構成される。そして、本実施形態における記録ヘッド3では、それぞれ異なる色のインクを貯留するインクカートリッジ3が装着可能に構成されており、これらの色に対応させて複数のノズル列がノズルプレート21に形成されている。
上記弾性板22は、支持板28の表面に弾性体膜29を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板28とし、この支持板28の表面に樹脂フィルムを弾性体膜29としてラミネートした複合板材を用いて弾性板22を作製している。この弾性板22には、圧力室25の容積を変化させるダイヤフラム部30が設けられている。また、この弾性板22には、リザーバー23の一部を封止するコンプライアンス部31が設けられている。
上記のダイヤフラム部30は、エッチング加工等によって支持板28を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部30は、圧電素子17の先端面が接合される島部32と、この島部32を囲う薄肉弾性部33とからなる。上記のコンプライアンス部31は、リザーバー23の開口面に対向する領域の支持板28を、ダイヤフラム部30と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー23に貯留されたインクの圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
そして、上記の島部32には圧電素子17の先端面が接合されているので、この圧電素子17の自由端部を伸縮させることで圧力室25の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室25内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド3は、この圧力変動を利用してノズル27からインク滴を吐出(噴射)させる。
図3はプリンター1の電気的な構成を示すブロック図である。このプリンター1は、プリンターコントローラー35とプリントエンジン36とで概略構成されている。プリンターコントローラー35は、ホストコンピュータ等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インターフェース(外部I/F)37と、各種データ等を記憶するRAM38と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM39と、各部の制御を行う制御部41と、クロック信号を発生する発振回路42と、記録ヘッド3へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路43(本発明における駆動信号発生手段の一種)と、印刷データをドット毎に展開することで得られる画素データや駆動信号等を記録ヘッド3に出力するための内部インターフェース(内部I/F)45と、を備えている。
制御部41は、記録ヘッド3の動作を制御するためのヘッド制御信号を記録ヘッド3に出力したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号生成回路43に出力したりする。ヘッド制御信号は、例えば、転送クロックCLK、画素データSI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CHである。これらのラッチ信号やチェンジ信号は、駆動信号COMを構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
また、制御部41は、上記印刷データに基づき、RGB表色系からCMY表色系への色変換処理、多階調のデータを所定階調まで減少させるハーフトーン処理、ハーフトーニングされたデータを、インク種類毎(ノズル列毎)に所定の配列で並べてドットパターンデータに展開するドットパターン展開処理等を経て、記録ヘッド3の吐出制御に用いる画素データSIを生成する。この画素データSIは、印刷される画像の画素に関するデータであり、吐出制御情報の一種である。ここで、画素とは、着弾対象物である記録紙等の記録媒体上に仮想的に定められたドット形成領域を示す。
駆動信号発生回路43は、制御部41によって制御され、駆動信号COMや各種の駆動信号を発生する。駆動信号COMは、記録動作時やフラッシング動作時の記録ヘッド3の圧電素子17に印加されるアナログの電圧信号であり、単位記録周期(液体噴射周期)内に複数のパルス波形を有する一連の信号である。なお、フラッシング動作とは、気泡や増粘したインクを排出することを目的として、強制的にノズル27からインクを噴射させる動作のことである。このフラッシング動作時における駆動信号COM(メンテナンス駆動信号)については、後で詳しく説明する。
次に、プリントエンジン36側の構成について説明する。プリントエンジン36は、記録ヘッド3と、キャリッジ移動機構5と、紙送り機構6と、リニアエンコーダー40と、から構成されている。記録ヘッド3は、シフトレジスター(SR)48、ラッチ49、デコーダー50、レベルシフター(LS)51、スイッチ52、及び圧電素子17を、各ノズル27に対応させて複数備えている。プリンターコントローラー35からの画素データSIは、発振回路42からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター48にシリアル伝送される。
シフトレジスター48には、ラッチ49が電気的に接続されており、プリンターコントローラー35からのラッチ信号LATがラッチ49に入力されると、シフトレジスター48の画素データをラッチする。このラッチ49にラッチされた画素データは、デコーダー50に入力される。このデコーダー50は、2ビットの画素データを翻訳してパルス選択データを生成する。また、デコーダー50は、ラッチ信号LAT又はチャンネル信号CHの受信を契機にパルス選択データをレベルシフター51に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター51に入力される。このレベルシフター51は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ52を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター51で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ52に供給される。このスイッチ52の入力側には、駆動信号発生回路43からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ52の出力側には、圧電素子17が接続されている。
そして、パルス選択データは、スイッチ52の作動、つまり、駆動信号中の吐出パルスの圧電素子17への供給を制御する。例えば、スイッチ52に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ52が接続状態になって、対応する吐出パルスが圧電素子17に供給され、この吐出パルスの波形に倣って圧電素子17の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター51からはスイッチ52を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ52は切断状態となり、圧電素子17へは吐出パルスが供給されない。
次に、フラッシング動作時における駆動信号COM(メンテナンス駆動信号)について説明する。図4は、メンテナンス駆動信号に含まれるメンテナンスパルスFPの構成の一例を示す波形図である。なお、図4において、縦軸は電位であり、横軸は時間である。また、図4に示すように、本実施形態のメンテナンスパルスFPは平均するとプラスの極性である。メンテナンスパルスFPは、膨張要素p1、膨張維持要素p2、収縮要素p3、収縮維持要素p4、再収縮要素p5、再収縮維持要素p6、および、再膨張要素p7を含んでいる。膨張要素p1は、基準電位(第1の中間電位)Vbから最大電位(最大電圧)Vmaxまでプラス側に電位が変化して、圧力室25を基準容積(膨張・収縮の起点となる容積)から膨張させる要素である。膨張維持要素p2は、最大電位Vmaxを一定時間維持する要素である。収縮要素p3は、最大電位Vmaxから第2の中間電位Vmまでマイナス側に電位が変化して膨張された圧力室25を急激に収縮させる要素である。収縮維持要素p4は、第2の中間電位Vmを一定時間維持する要素である。再収縮要素p5は、第2の中間電位Vmから最小電位(最小電圧)Vminまでマイナス側に電位が変化して収縮された圧力室を更に収縮させる要素である。再収縮維持要素p6は、最小電位Vminを一定時間維持する要素である。再膨張要素p7は、最小電位Vminから基準電位Vbまでプラス側に電位が変化して収縮された圧力室を基準容積まで再び膨張させる要素である。なお、本実施形態では、第2の中間電位Vmを基準電位Vbよりも低い電位に設定しているが、これには限られない。例えば、第2の中間電位Vmを基準電位(第1の中間電位)Vbより高い電位や、基準電位(第1の中間電位)Vbと同じ電位にすることもできる。
ここで、再収縮要素p5による圧力室25の収縮は、収縮要素p3によってノズル27からインクを噴射させた後、メニスカスが圧力室25側へ移動し終わる前に開始されるように設定されている。具体的には、収縮要素p3の後端から再収縮要素p5の始端までの時間(収縮維持要素p4の始端から後端までの時間)をT1、圧力室25内のインクに生じる固有振動周期(ヘルムホルツ周期)をTcとしたとき、
(1/5)×Tc≦T1≦(1/3)×Tc…(1)
を満たすように設定されている。
また、本実施形態のメンテナンスパルスFPは、再収縮要素p5の始端から後端までの時間をT2、収縮要素p3の電圧変化をVh1、再収縮要素p5の電圧変化をVh2としたとき、
(1/5)×Tc≦T2≦(1/3)×Tc…(2)
かつ
(1/4)×Vh1≦Vh2≦(1/2)×Vh1…(3)
を満たすように設定されている。ここで、メニスカスが圧力室25側へ移動し終わる前とは、メニスカスがノズル内に引き込まれた後、圧力室25とは反対側(図における下側)に再度移動し始める前のことを意味する。
なお、固有振動周期Tcは、ノズル27、圧力室25、インク供給口24、及び圧電素子17等の各構成部材の形状、寸法、及び剛性などにより固有に定まる。この固有の振動周期Tcは、例えば、次式(4)で表すことができる。
Tc=2π√[〔(Mn×Ms)/(Mn+Ms)〕×Cc]…(4)
但し、式(4)において、Mnはノズル27におけるイナータンス、Msはインク供給口24におけるイナータンス、Ccは圧力室25のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)である。また、上記式(4)において、イナータンスMとは、ノズル27等の流路における液体の移動し易さを示し、換言すると、単位断面積あたりの液体の質量である。そして、流体の密度をρ、流路の流体の流下方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(5)で近似して表すことができる。
M=(ρ×L)/S…(5)
なお、Tcは、上記式(4)で規定されるものに限られず、記録ヘッド3の圧力室25が有している振動周期であればよい。
上記のように構成されたメンテナンスパルスFPが含まれるメンテナンス駆動信号は、フラッシング動作時に圧電素子17に供給される。ここで、フラッシング動作は、インクカートリッジ7を交換した時の初期充填を行った後や、記録動作中において所定の時間が経過する毎(或いは、所定回数のパス(記録ヘッド3の走査)を行う毎、または、所定のページ数を印刷する毎)等に行われる。本実施形態のフラッシング動作では、キャリッジ移動機構5を駆動させて、記録ヘッド3がフラッシングボックス12の上方に移動した状態で行われる。このようなフラッシング動作において、メニスカス周辺のインクが増粘していた場合、従来のメンテナンス駆動信号では、気泡が混入することにより安定してインクの噴射が行えない不具合があった。すなわち、気泡が混入すると、この気泡によりインクの噴射が阻害されて増粘インクが排出されにくい等の不具合があった。このため、従来では増粘インクを排出するためにより多くのインクを消費することとなっていた。これに対し、本発明のメンテナンスパルスFPを有するメンテナンス駆動信号を用いることで、メニスカス周辺のインクが増粘していたとしても、気泡の混入を抑制して安定してインクの噴射が行えるようになる。この点について、以下で説明する。
図5および図6は、フラッシング動作においてインクが噴射される様子を説明したノズル27の周辺の断面図である。図5および図6では、メニスカス周辺のインクが増粘インク(高粘度のインク)Ihになり、これより圧力室側のインクが通常インク(低粘度のインク)Inになっている。上記したメンテナンスパルスFPが、圧電素子17に供給されると、まず、膨張要素p1によって圧電素子17は長手方向に収縮し、これに伴って圧力室25が基準電位Vbに対応する基準容積から最大電位Vmaxに対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、図5に示すように、メニスカス(メニスカス周辺の増粘インクIh)が圧力室25側(図における上側)に大きく引き込まれると共に、圧力室25内にはリザーバー23側からインク供給口24を通じてインクが供給される。そして、この圧力室25の膨張状態は、膨張維持要素p2によって維持(ホールド)される。
膨張維持要素p2によるホールドの後、収縮要素p3が供給されて圧電素子17が急激に伸長する。これに伴い、圧力室25は膨張容積から第2の中間電位Vmに対応する第1収縮容積まで急激に収縮される。これにより、圧力室25内のインクが加圧されて、メニスカスが下側に移動すると共に、メニスカスの中央部分が下側に押し出される。この押し出された部分が液柱(インク柱)のように伸び、その先端部分が途中で分離する。この分離した部分が、図6(a)に示すように、インク滴Idとしてノズル27から噴射されて飛翔する。なお、メニスカスの振動は、固有振動周期Tcの残留振動として、インク滴Id噴射後も残る。すなわち、圧力室25内が収縮し始める時点(収縮要素p3の始端)から、周期Tcでメニスカスが上下に振動する。
その後、収縮維持要素p4によって時間T1だけ収縮容積が維持される。このとき、メニスカスは、下側(噴射側)の最大位置まで移動した後、上側に向けて移動する。そして、収縮維持要素p4によって第1収縮容積が維持された後、再収縮要素p5が供給される。再収縮要素p5供給されると、圧電素子17がさらに伸長し、これに伴い、圧力室25が第1収縮容積から最小電位Vminに対応する第2収縮容積(最収縮容積)まで収縮される。ここで、収縮維持要素p4による電位の維持時間T1が上記条件(1)を満たすため、再収縮要素p5の始端を、メニスカスが上側へ移動し終わる前に印加することができる。すなわち、メニスカスが上側へ移動し終わる前に、再収縮要素p5による圧力室25の収縮が開始される。この圧力室25の収縮によってメニスカスを下側へ押そうとする力が働き、図6(b)に示すように、メニスカスが上側へ移動しようとする力の一部を相殺する。これにより、メニスカスの上側への移動が抑えられる。すなわち、残留振動によるメニスカスの変位量を抑えることができる。その結果、図6(c)に示すように、その後、上側から下側に移動するメニスカスの動きを抑えることができ、メニスカス周辺の増粘インクIh内に気泡が混入することを抑制できる。
また、本実施形態のメンテナンスパルスFPは、再収縮要素p5の始端から後端までの時間T2が上記条件(2)を満たすと共に、再収縮要素p5の電圧変化Vh2が上記条件(3)を満たすように設定されているため、残留振動によるメニスカスの変位量を増粘インクIh内に気泡が混入しない程度に抑制しつつ、メニスカスが急激に下側へ引っ張られることによるメニスカスの乱れを抑制できる。具体的には、再収縮要素p5を上記条件(2)の上限値および上記条件(3)の下限値によって規定することで、残留振動によるメニスカスの変位量を増粘インクIh内に気泡が混入しない程度に抑制している。また、再収縮要素p5を上記条件(2)の下限値および上記条件(3)の上限値によって規定することで、メニスカスが急激に下側へ引っ張られることによるメニスカスの乱れを抑制し、同時に再収縮要素p5によってノズル27からインクが噴射されることを抑制している。その結果、液体内に気泡が混入することを一層抑制できる。そして、再収縮要素p5によって第2収縮容積まで収縮した圧力室25は、再収縮維持要素p6によって一定時間維持され、その後、再膨張要素p7により、圧力室25が第2収縮容積(最収縮容積)から基準容積まで緩やかに膨張復帰する。
ところで、本実施形態のメンテナンス駆動信号は、図7に示すように、フラッシング動作(メンテナンス)開始時からの経過時間に応じて、メンテナンスパルスFPの周期Tpが短くなるように設定されている。具体的には、フラッシング動作を開始して、少なくとも最初のメンテナンスパルスFPを上記条件(1)〜(3)の範囲内に設定し、例えば、所定時間が経過した後や所定回数(例えば、10回)インク滴を噴射した後のメンテナンスパルスFP′の時間T2′を最初のメンテナンスパルスFPの時間T2より短くなるように設定している。これにより、インク滴Idを噴射する間隔を短くすることができ、ひいては、フラッシング動作時間を短縮することができる。また、最初(フラッシング開始時点)のメンテナンスパルスFPが上記条件(1)〜(3)の範囲内に設定されるため、ノズル内のインクが増粘していたとしても、インク内に気泡が混入することを抑制できる。なお、本実施形態では、メンテナンスパルスFP′の時間T2′を短くすることに伴って、メンテナンスパルスFP′の収縮要素p5の電圧変化Vh2′を小さくし、収縮要素p5の時間に対する電圧変化の割合が大きくならないようにしている。また、メンテナンスパルスFP′の時間T2′を短くするタイミングは、ノズル27内の増粘インクIhが確実に排出されるタイミングに合わせることが望ましい。ノズル27内の増粘インクIhが排出された後は、ノズル27内のインクへの空気の混入が抑制されるため、メンテナンスパルスFP′の時間T2′を上記条件(1)〜(3)の範囲を(不必要な振動を生じさせない程度に)超えてさらに短くすることができる。
また、同様に、所定時間が経過した後や所定回数インク滴を噴射した後の隣接するメンテナンスパルスFP′同士の時間間隔T3′も最初のメンテナンスパルスFP同士の時間間隔T3より短くなるように設定している。これにより、インク滴Idを噴射する間隔をより短くすることができ、ひいては、フラッシング動作時間をより短縮することができる。なお、上記したT2およびT3は、経過時間に応じて、段階的に次第に短くなるように設定してもよい。
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。例えば、図8に示す第2実施形態のメンテナンス駆動信号では、メンテナンスパルスFPの他に副振動パルスSFPが含まれている。副振動パルスSFPは、メンテナンスパルスFPより前において、ノズル27におけるメニスカスを振動させるパルス波形である。本実施形態の副振動パルスSFPは、基準電位Vbから最大電位Vmaxまでプラス側に電位が変化して圧力室25を基準容積から膨張させる副膨張要素sp1と、最大電位Vmaxを一定時間維持する副膨張維持要素sp2と、最大電位Vmaxから基準電位Vbまでマイナス側に電位が変化して膨張された圧力室25を収縮させる副収縮要素sp3と、を含んでいる。このような副振動パルスSFPが、圧電素子17に供給されると、まず副膨張要素sp1によって、圧力室25が基準容積から最大電位Vmaxに対応する膨張容積まで膨張し、メニスカスが上側に引き込まれる。この圧力室25の膨張状態は、副膨張維持要素sp2によって維持(ホールド)される。その後、副収縮要素sp3によって、圧力室25が膨張容積から基準容積まで収縮し、メニスカスが下側に移動する。これにより、メニスカスが上下に振動する。そして、この振動によってメニスカス周辺の増粘インクIhを攪拌することができる。その結果、メニスカス周辺のインクの粘度を下げることができ、メンテナンスパルスFPによってインクを噴射する際にインク内に気泡が混入することを更に抑制できる。
また、本実施形態では、副収縮要素sp3の後、ノズル27におけるメニスカスが上側へ移動し終わる前に、メンテナンスパルスFPの膨張要素p1による圧力室25の膨張が開始されるように設定されている。具体的には、副収縮要素sp3の始端から膨張要素p1の始端までの時間T4がTc/2に揃えられている。これにより、メニスカスが下側の最大位置から上側へ移動し終わる前に膨張要素p1を印加することができる。このため、メンテナンスパルスFPの膨張要素p1によってメニスカスをより大きく上側へ移動させることができ、その後の収縮要素p3によってメニスカス周辺の増粘インクIhをより多く噴射することができる。その結果、安定してインクを噴射することができる。
なお、副膨張要素sp1は、基準電位Vbから最大電位Vmaxまで電位を変化させたが、これには限らず、基準電位Vbから最大電位Vmaxよりも低い電位まで変化するようにしてもよい。要は、副振動パルスSFPは、メニスカスを振動させることができれば、どのようなパルス波形であってもよい。また、メンテナンス駆動信号に含まれる複数のメンテナンスパルスFPのうち、少なくとも1つのメンテナンスパルスFPの前に副振動パルスSFPが発生するように構成すればよい。特に、フラッシング動作における最初のメンテナンスパルスFPの前に副振動パルスSFPが発生するように構成すれば、インクの粘度が高い状態のメニスカスを振動させることができる。
また、上記した実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電素子17を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電素子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
そして、上述した実施形態では、インクジェットプリンターに搭載されるインクジェット式記録ヘッドを例示したが、インク以外の液体を噴射するものにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。