以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。図1は本発明の実施形態としての燃料電池搭載車両20を概略的に平面視して示す説明図である。
図示するように、この燃料電池搭載車両20は、車体22に、燃料電池システム30を搭載する。この燃料電池システム30は、燃料電池スタック100と、水素ガスタンク110を含む水素ガス供給系120と、モーター駆動のコンプレッサ130を含む空気供給系140と、ラジエータ150およびファン152を含む冷却系160と、2次電池172と、DC/DCコンバーター174とを備える。燃料電池システム30は、燃料電池スタック100の発電電力、或いは2次電池172の充電電力を、前輪駆動用のモーター170を始めとする負荷に供給する。
燃料電池スタック100は、電池セルを備え、この電池セルは、図1の拡大模式図に示すように、電解質膜101の両側にアノード102とカソード103の両電極を備える。アノード102とカソード103は、電解質膜101の両膜面に接合され電解質膜101と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、電池セルは、上記のMEAを両側から挟持するアノード側ガス拡散層104とカソード側ガス拡散層105とを備え(図1参照)、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。
電解質膜101は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード102およびカソード103は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。アノード側ガス拡散層104とカソード側ガス拡散層105は、ガス透過性を有する導電性で多孔質な部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスを多孔質基材として形成される。
燃料電池スタック100は、上記した電池セルを積層して構成されたスタック構造とされ、前輪FWと後輪RWの間において車両床下に位置する。そして、燃料電池スタック100は、後述の水素ガス供給系120と空気供給系140から供給された水素ガス中の水素と空気中の酸素との電気化学反応を各電池セルユニットにて起こして発電し、その発電電力にてモーター170等の負荷を駆動する。燃料電池スタック100の発電状態は電流センサー106にて計測され、その計測結果は電流センサー106から後述の制御装置200に出力される。この場合、電池セルユニットの積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
水素ガス供給系120は、水素ガスタンク110から燃料電池スタック100に到る水素供給経路121と、未消費の水素ガス(アノードオフガス)を水素供給経路121に循環させる循環経路122と、アノードオフガスを大気放出するための放出経路123を備える。そして、この水素ガス供給系120は、水素供給経路121の開閉バルブ124の経路開閉と、減圧バルブ125での減圧を経て、水素ガスタンク110の水素ガスを燃料電池スタック100(詳しくは、各電池セルのアノード102)に供給する。この際、水素ガス供給系120は、減圧バルブ125の下流の水素供給機器126にて調整した流量と、循環経路122の循環ポンプ127にて調整した循環流量との合算した流量の水素ガスを、燃料電池スタック100のアノードに供給する。また、水素ガス供給系120は、減圧バルブ125での減圧程度を変えることで、種々のガス圧力で水素ガスを燃料電池スタック100のアノードに供給する。燃料電池スタック100に水素ガスを供給する際の水素ガス流量とガス圧力は、アクセル180の操作に基づいて、後述の制御装置200にて定められ、燃料電池スタック100に求められる負荷に応じたものとなる。そして、本実施形態の燃料電池スタック100では、制御装置200による減圧バルブ125での減圧調整と水素供給機器126での流量調整とにより、水素ガス供給の際の水素ガスのガス流量とガス圧力とを個別に調整可能とされている。なお、水素ガス供給系120は、循環経路122から分岐した放出経路123の開閉バルブ129の開閉調整を経て、適宜、アノードオフガスを放出経路142を経て大気放出する。
空気供給系140は、コンプレッサ130を経て燃料電池スタック100に到る酸素供給経路141と、未消費の空気(カソードオフガス)を大気放出する放出経路142とを備える。そして、この空気供給系140は、酸素供給経路141の開口端から取り込んだ空気を、コンプレッサ130での流量調整とその下流の圧力調整バルブ145での圧力調整を経た上で、燃料電池スタック100(詳しくは、各電池セルのカソード103)に、通常は酸素供給経路141を経て供給しつつ、放出経路142の排出流量調整バルブ143で調整された流量でカソードオフガスを放出経路142を経て大気放出する。このように空気供給系140にて空気供給とカソードオフガス排出とを行う場合、空気供給系140は、酸素供給経路141の排出流量調整バルブ143を所定開度にした上で、コンプレッサ130にて空気を供給する。この際の空気供給量にあっても、水素ガスと同様に、アクセル180の操作に基づいて制御装置200にて定められ、燃料電池スタック100に求められる負荷に応じた供給量となる。そして、本実施形態の燃料電池スタック100では、制御装置200によるコンプレッサ130での流量調整と圧力調整バルブ145での圧力調整とにより、空気供給の際の空気のガス流量とガス圧力とを個別に調整可能とされている。なお、排出流量調整バルブ143は、制御装置200による流量調整を経て、カソード側の背圧についてもこれを調整する。
冷却系160は、ラジエータ150から燃料電池スタック100への冷却媒体の循環を図る循環経路161と、バイパス経路162と、経路合流点の三方流量調整弁163と、循環ポンプ164と、温度センサー166を備える。そして、この冷却系160は、ラジエータ150にて熱交換した冷却媒体を循環経路161を経て燃料電池スタック100の図示しないセル内循環経路に導き、燃料電池スタック100を所定温度に冷却する。この場合、循環ポンプ164の駆動量、即ち冷却媒体の循環供給量や、三方流量調整弁163による調整流量は、温度センサー166の検出温度たる燃料電池温度(セル温度)や電流センサー106の検出した発電状態に基づいて、制御装置200にて定められる。
2次電池172は、DC/DCコンバーター174を介して燃料電池スタック100に接続されており、燃料電池スタック100とは別の電力源として機能し、モーター170等に供給する電力源として燃料電池スタック100と併用される。本実施例では、後述するように燃料電池スタック100をアクセル180の踏込に応じた発電状態下で運転制御(通常制御)することを前提とするので、燃料電池スタック100の運転停止状態において、2次電池172は、その充電電力をモーター170に供給する。2次電池172としては、例えば、鉛充電池や、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを採用することができる。2次電池172には、容量検出センサー176が接続され、当該センサーは、2次電池172の充電状態を検出し、その検出充電量(電池容量)を制御装置200に出力する。
DC/DCコンバーター174は、2次電池172の充・放電を制御する充放電制御機能を有しており、制御装置200の制御信号を受けて2次電池172の充・放電を制御する。この他、DC/DCコンバーター174は、燃料電池スタック100の発電電力および2次電池172の蓄電電力の引出とモーター170への電圧印加とを、制御装置200の制御下で行い、電力引出状態とモーター170に掛かる電圧レベルを可変に調整する。
制御装置200は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成され、アクセル180等のセンサー入力を受けて燃料電池搭載車両20の種々の制御を司る。例えば、制御装置200は、アクセル180の操作状態に応じたモーター170への要求電力(要求負荷)を求め、その要求電力が燃料電池スタック100の発電で得られるよう、或いは、2次電池172の充電電力、もしくはこの両者で賄うよう、燃料電池スタック100を発電制御して当該スタックからの発電電力の出力を制御しつつ、モーター170に電力を供給する。モーター170への要求負荷を燃料電池スタック100の発電で得る場合には、制御装置200は、その要求負荷に見合うよう水素ガス供給系120や空気供給系140でのガス供給量(ガス流量)やガス圧力を制御(通常制御)する。また、制御装置200は、モーター170への要求電力に応じて、DC/DCコンバーター174を制御する。
この他、制御装置200は、車速センサー182の検出した車速や、外気温センサー184の検出した外気温、水素ガス供給系120において流量センサー128が検出した水素ガス流量、空気供給系140において流量センサー147の検出したエアー流量、容量検出センサー176が検出した2次電池172の電池容量(以下、SOC)等を、上記した制御を行う上での制御パラメータとして入力する。
次に、上記した構成を有する燃料電池搭載車両20の制御装置200が要求負荷変動の過渡状況において行う燃料電池スタック100の発電制御について説明する。要求負荷変動の過渡状況は、要求負荷の増大過渡の状況と低減過渡の状況に分けられるので、まず、要求負荷の増大過渡の状況下での制御について説明する。図2は要求負荷の変動過渡の状況下における燃料電池スタック100の発電制御のうち要求負荷の増大過渡の状況下での制御手順を示すフローチャートである。要求負荷の低減過渡の状況下での制御については、図11以降の図を用いて後述する。
制御装置200は、燃料電池システム30が起動すると、ドライバーからの燃料電池搭載車両20に対する駆動要求(要求負荷)に基づいて燃料電池スタック100を発電制御する通常運転制御を、通常、常時実行している。この際の燃料電池搭載車両20に対するドライバーからの駆動要求は、ドライバーによるアクセル180の踏込操作量やその踏込速度等から要求電力Pt(要求負荷)として取得される。そして、この要求電力Ptが得られるよう、制御装置200は、既述したように水素ガスおよび空気のガス流量・ガス圧力を、燃料電池のI−V特性、I−P特性等を参照して算出し、その算出したガス流量・ガス圧力で、水素ガスおよび空気を燃料電池スタック100に供給する。こうした通常の発電制御を行いつつ、制御装置200は、図2に示す要求負荷の変動過渡の状況下における燃料電池スタック100の発電制御を繰り返し実行する。この図2の発電制御では、まず、制御装置200は、アクセル180(図1参照)の踏込操作量やその踏込速度等の踏込操作状況を図示しないアクセルセンサーから読み取り、そのセンサー出力に基づいて、要求負荷を取得する(ステップS100)。
次いで、制御装置200は、取得した要求負荷の推移から、現状の負荷の要求状況が負荷増減の過渡の状況にあるか否かを判断し(ステップS110)、ここで、負荷増減の過渡状況に無いと判定すると、一旦処理を終了する。よって、この場合は、図2の制御の影響を受けること無く、通常の発電制御がなされる。
負荷変動の過渡の状況は、負荷増大の過渡状況或いは負荷低減の過渡状況のいずれかであることから、制御装置200は、ステップS110で負荷の増減変動の状況にあると判断すると、負荷過渡の種別に応じて、図2のステップS120以降の処理、或いは後述する図11のステップS200以降の処理を行う。ステップS110で負荷増大の過渡状況であると判断すると、制御装置200は、ステップS120において、温度センサー166(図1参照)から燃料電池スタック100を経路に含む冷却系160の冷却水温度を取得し、その取得した冷却水温度を基準温度αと対比する(ステップS130)。冷却水温度は、燃料電池スタック100の温度、即ちMEA(図1参照)における電解質膜101の温度と相関があるので、ステップS130では、MEAの温度が基準温度αと対比されることになる。本実施形態では、この基準温度αを、燃料電池スタック100の暖気前の温度であってMEAが適正な湿潤状態にある場合を想定したMEA適正温度(例えば80℃)より低い温度とし、MEAが過湿潤にある時に発現しがちな温度(例えば40℃)とした。よって、ステップS130で肯定判定すると、冷却水温度が低い故にMEAの過湿潤が起き得ていると想定されることから、この過湿潤の適正化を図るべく、制御装置200は、ステップS140の過湿潤回復第1処理に移行する。この過湿潤回復第1処理は、燃料電池スタック100のMEAにおけるアノード102とカソード103とで、それぞれ過湿潤の適正化に有益なガス供給状況をもたらす処理であり、その詳細は後述する。
一方、ステップS130で否定判定すると、制御装置200は、ステップS120で取得済みの冷却水温度を基準温度βと対比する(ステップS150)。本実施形態では、この基準温度βを、MEAが適正な湿潤状態にある場合を想定したMEA適正温度(例えば80℃)とし、冷却水温度、即ちMEAの温度がこの基準温度βを超えるほど高ければ、MEAが過乾燥にあると想定される。そして、ステップS150で否定判定すれば、ステップS130での否定判定と相まって、冷却水温度はMEAが適正な湿潤状態にある場合を想定した温度範囲内であるので、過湿潤・過乾燥の適正化は無用であるとして、一旦処理を終了する。そして、ステップS150で肯定判定すると、冷却水温度が高い故にMEAの過乾燥が起き得ていると想定されることから、この過乾燥の適正化を図るべく、制御装置200は、ステップS160の過乾燥回復第1処理に移行する。この過乾燥回復第1処理は、燃料電池スタック100のMEAにおけるアノード102とカソード103とで、それぞれ過乾燥の適正化に有益なガス供給状況をもたらす処理であり、その詳細は後述する。
ここで、ステップS130での肯定判定に続くステップS140の過湿潤回復第1処理について説明する。図3は要求負荷の増大過渡の状況下における過湿潤回復第1処理の詳細を示すフローチャート、図4は過湿潤回復第1処理における判定処理の内容を説明する説明図である。図3に示すように、過湿潤回復第1処理では、制御装置200は、改めて冷却水温度を基準温度αと対比する(ステップS142)。この温度対比は、冷却水温度がどの程度、基準温度αから低温側に逸脱しているのかを判定するためのものである。
このステップS142で、図4に示すように、冷却水温度は基準温度αより所定温度幅α0以上に低い低温度側に逸脱していると判定した場合は、冷却水温度が基準温度αより大きく低いためにMEAの過湿潤も顕著であると想定される。よって、制御装置200は、MEAの過湿潤をより高い実効性で湿潤適正の側に推移すべく、MEAにおけるアノード102へのガス供給とカソード103へのガス供給を、共に過湿潤適正化に有益なガス供給となるよう同時並行的に制御する(ステップS144)。図5は要求負荷の増大過渡の状況下における過湿潤回復第1処理でもたらされるガス供給の状況を概略的に説明する説明図、図6は要求負荷の増大過渡の状況下における過湿潤回復第1処理で得られる過湿潤適正化の様子を概略的に示す説明図である。図5は、ある時刻(以下、開始時刻ts)において要求負荷が急増し、所定時間経過後の時刻(以下、終了時刻tm)において要求負荷に対応するガス流量およびガス圧力でのガス供給に達するガス供給状況と、開始時刻tsから終了時刻tmまでの負荷要求の増大過渡状況下におけるカソード側・アノード側でのガス流量推移およびガス圧力推移を示している。
MEAの過湿潤の湿潤適正推移には、カソード103においては、生成水の水分持ち去りの増大が有益であり、アノード102においては、電気化学反応の進行が活発なカソードでの空気の入口側への水分搬送を抑制する水分保持が有益である。そして、カソード103における水分持ち去りの増大は、空気のガス流量の増大による直接的な水分持ち去りの増大化と、空気供給時のガス圧力の増大回避、換言すれば、要求負荷の増大過渡以前の低ガス圧力維持による体積流量増加により、起きる。アノード102における水分保持は、水素ガスのガス流量の増大回避、換言すれば、要求負荷の増大過渡以前の低ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの低減化と、水素ガス供給時のガス圧力の増大による体積流量低減により、起きる。
こうしたことから、ステップS144では、図5に示すように、要求負荷の増大に伴うカソード103への空気供給の際のガス流量の増大変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の増大に伴うガス圧力の増大変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、カソード103への空気供給に当たり、ガス流量の増大制御をガス圧力の増大制御に先行して実施する。こうしたガス流量の増大制御は、制御装置200によるコンプレッサ130(図1参照)の駆動制御でもたらされ、ガス圧力の増大の遅延およびその後の増大制御は、制御装置200による圧力調整バルブ145の駆動制御でもたらされる。こうしたカソード側での機器制御は、後述の回復処理でも同様である。そして、カソード103では、図6に示すように、ガス流量の増大による直接的な水分持ち去りの増大化と、要求負荷の増大過渡の以前(開始時刻ts以前)の低ガス圧力維持による体積流量増加により、水分持ち去りの増量化が起きる。
また、このステップS144では、図5に示すように、要求負荷の増大に伴うアノード102への水素ガス供給の際のガス圧力の増大変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の増大に伴うガス流量の増大変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、アノード102への水素ガス供給に当たり、ガス圧力の増大制御をガス流量増大制御に先行して実施する。こうしたガス圧力の増大制御は、制御装置200による減圧バルブ125(図1参照)の駆動制御でもたらされ、ガス流量の増大の遅延およびその後の増大制御は、制御装置200による水素供給機器126の駆動制御でもたらされる。こうしたアノード側での機器制御は、後述の回復処理でも同様である。そして、アノード102では、図6に示すように、水素ガスのガス圧力の増大による体積流量低減と、要求負荷の増大過渡の以前の低ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの低減化により、カソードの空気入口への水の搬送が低減化して、水分保持が起きる。しかも、ステップS144では、上記した過湿潤の適正側推移に有益なガス供給状況がアノード102とカソード103とにおいて同時にもたらされ、その後、本ルーチンを終了する。
上記したステップS142で、図4に示すように、冷却水温度は基準温度αより低温度側に逸脱しているもののその隔たりは小さいと判定した場合は、MEAは過湿潤ではあるものの過湿潤の程度はそれほど大きくないと想定される。よって、制御装置200は、こうしたMEAの過湿潤を湿潤適正の側に推移すべく、上記した過湿潤適正化に有益なガス供給を、アノード102とカソード103のいずれかを選択して実行し(ステップS146)、本ルーチンを一旦終了する。本実施形態では、カソード103における水分持ち去りの増量化を優先して、カソード103での既述したガス供給を実行する。
上記したようにMEAの加湿潤の湿潤適正推移のための空気供給時のガス流量の増大制御を行うに当たり、制御装置200は、図5に示すように、カソード103における開始時刻tsからのガス流量増大を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の増大に伴って行うガス流量増大よりも大きな流量増大となるようにする。こうしたガス流量の増大調整は、カソード103では、ガス流量増大による直接的な水分持ち去りがより顕著となり、MEAの過湿潤の湿潤適正推移に有益である。また、MEAの加湿潤の湿潤適正推移のための水素ガス供給時のガス圧力の増大制御を行うに当たり、制御装置200は、図5に示すように、アノード102における開始時刻tsからのガス圧力増大を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の増大に伴って行うガス圧力増大よりも大きな圧力増大となるようにする。こうしたガス圧力の増大調整は、アノード102では、ガス圧力増大による体積流量低減がより顕著となり、MEAの過湿潤の湿潤適正推移に有益である。つまり、制御装置200は、MEAの過湿潤を湿潤適正の側に推移させ得る適正化調整として、カソード103に供給する空気については、ガス流量増大調整をし、アノード102に供給する水素ガスについては、ガス圧力増大調整を図る。
次に、図2のステップS150での肯定判定に続くステップS160の過乾燥回復第1処理について説明する。図7は要求負荷の増大過渡の状況下における過乾燥回復第1処理の詳細を示すフローチャート、図8は過乾燥回復第1処理における判定処理の内容を説明する説明図である。図7に示すように、過乾燥回復第1処理では、制御装置200は、改めて冷却水温度を基準温度βと対比する(ステップS162)。この温度対比は、冷却水温度がどの程度、基準温度βから高温側に逸脱しているのかを判定するためのものである。
このステップS162で、図8に示すように、冷却水温度は基準温度βより所定温度幅β0以上に高い高温度側に逸脱していると判定した場合は、冷却水温度が基準温度βより大きく高いためにMEAの過乾燥も顕著であると想定される。よって、制御装置200は、MEAの過乾燥をより高い実効性で湿潤適正の側に推移すべく、MEAにおけるアノード102へのガス供給とカソード103へのガス供給を、共に過乾燥適正化に有益なガス供給となるよう同時並行的に制御する(ステップS164)。図9は要求負荷の増大過渡の状況下における過乾燥回復第1処理でもたらされるガス供給の状況を概略的に説明する説明図、図10は要求負荷の増大過渡の状況下における過乾燥回復第1処理で得られる過乾燥適正化の様子を概略的に示す説明図である。図8にあっても、図5と同様、開始時刻tsにおいて要求負荷が急増し、終了時刻tmにおいて要求負荷に対応するガス流量およびガス圧力でのガス供給に達するガス供給状況と、開始時刻tsから終了時刻tmまでの負荷要求の増加過渡状況下におけるカソード側・アノード側でのガス流量推移およびガス圧力推移を示している。
MEAの過乾燥の湿潤適正推移には、カソード103においては、生成水の水分持ち去りの低減が有益であり、アノード102においては、電気化学反応の進行が活発なカソードでの空気の入口側への水搬送の増量とこれに伴うアノード側からカソード側への水移動が有益である。そして、カソード103における水分持ち去りの低減は、空気供給時のガス流量の増大回避、換言すれば、要求負荷の増大過渡以前の低ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの低減化と、空気供給時のガス圧力の増大による体積流量低減により、起きる。アノード102における上記した水搬送と水移動の増量は、水素ガス供給のガス流量の増大による直接的な水分持ち去りの増大化と、ガス圧力の増大回避、換言すれば、要求負荷の増大過渡以前の低ガス圧力維持による体積流量増加により、起きる。
こうしたことから、ステップS164では、図9に示すように、要求負荷の増大に伴うカソード103への空気供給の際のガス圧力の増大変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の増大に伴うガス流量の増大変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、カソード103への空気供給に当たり、ガス圧力の増大制御をガス流量の増大制御に先行して実施する。そして、カソード103では、図10に示すように、要求負荷の増大過渡の以前(開始時刻ts以前)の低ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの低減化と、ガス圧力の増大による体積流量低減により、水分持ち去りの低減化が起きる。
また、このステップS164では、図9に示すように、要求負荷の増大に伴うアノード102への水素ガス供給の際のガス流量の増大変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の増大に伴うガス圧力の増大変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、アノード102への水素ガス供給に当たり、ガス流量の増大制御をガス圧力増大制御に先行して実施する。そして、アノード102では、図10に示すように、ガス流量の増大による水搬送の増大化と、要求負荷の増大過渡の以前(開始時刻ts以前)の低ガス圧力維持による体積流量増加により、アノード側からカソード側への水移動の増量化が起きる。しかも、ステップS164では、上記した過乾燥の適正側推移に有益なガス供給状況がアノード102とカソード103とにおいて同時にたらされ、その後、本ルーチンを終了する。
上記したステップS162で、図8に示すように、冷却水温度は基準温度βより高温度側に逸脱しているもののその隔たりは小さいと判定した場合は、MEAは過乾燥ではあるものの過乾燥の程度はそれほど大きくないと想定される。よって、制御装置200は、こうしたMEAの過乾燥を湿潤適正の側に推移すべく、上記した過乾燥適正化に有益なガス供給を、アノード102とカソード103のいずれかを選択して実行し(ステップS166)、本ルーチンを一旦終了する。本実施形態では、カソード103における水分持ち去りの低減化を優先して、カソード103での既述したガス供給を実行する。
上記したようにMEAの加乾燥の湿潤適正推移のための空気供給時のガス圧力の増大制御を行うに当たり、制御装置200は、図9に示すように、カソード103における開始時刻tsからのガス圧力増大を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の増大に伴って行うガス圧力増大よりも大きなガス圧力となるようにする。こうしたガス圧力の増大調整は、カソード103では、負荷変動以前の低ガス流量でのガス供給と相まって、水分持ち去りがより抑制され、MEAの過乾燥の湿潤適正推移に有益である。また、MEAの加乾燥の湿潤適正推移のための水素ガス供給時のガス流量の増大制御を行うに当たり、制御装置200は、図9に示すように、アノード102における開始時刻tsからのガス流量増大を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の増大に伴って行うガス流量増大よりも大きなガス流量となるようにする。こうしたガス流量の増大調整は、アノード102では、ガス流量増大による水搬送とこれに伴うカソード側への水移動がより顕著となり、MEAの過乾燥の湿潤適正推移に有益である。つまり、制御装置200は、MEAの過乾燥を湿潤適正の側に推移させ得る適正化調整として、カソード103に供給する空気については、ガス圧力増大調整をし、アノード102に供給する水素ガスについては、ガス流量増大調整を図る。
次に、図2のステップS110において負荷低減の過渡状況であると判断した場合の制御について説明する。図11は要求負荷の低減過渡の状況下における燃料電池スタック100の発電制御の制御手順を示すフローチャートである。制御装置200は、ステップS110での要求負荷の低減過渡状況の判断に続き、既述したステップS120〜130と同様、冷却水温度の取得(ステップS200)と、取得した冷却水温度の対比(ステップS2100)とを行う。制御装置200は、ステップS210で肯定判定すると、冷却水温度が低い故にMEAの過湿潤が起き得ていると想定されることから、この過湿潤の適正化を図るべく、ステップS220の過湿潤回復第2処理に移行する。この過湿潤回復第2処理は、既述した第1処理と同様、燃料電池スタック100のMEAにおけるアノード102とカソード103とで、それぞれ過湿潤の適正化に有益なガス供給状況をもたらす処理である。
一方、ステップS210で否定判定すると、制御装置200は、ステップS200で取得済みの冷却水温度を基準温度βと対比し(ステップS230)、このステップS230で否定判定すれば、ステップS210での否定判定と相まって、冷却水温度はMEAが適正な湿潤状態にある場合を想定した温度範囲内であるので、過湿潤・過乾燥の適正化は無用であるとして、一旦処理を終了する。そして、ステップS230で肯定判定すると、冷却水温度が高い故にMEAの過乾燥が起き得ていると想定されることから、この過乾燥の適正化を図るべく、制御装置200は、ステップS240の過乾燥回復第2処理に移行する。この過乾燥回復第2処理は、既述した第1処理と同様、燃料電池スタック100のMEAにおけるアノード102とカソード103とで、それぞれ過乾燥の適正化に有益なガス供給状況をもたらす処理である。
ここで、ステップS210での肯定判定に続くステップS220の過湿潤回復第2処理について説明する。図12は要求負荷の低減過渡の状況下における過湿潤回復第2処理の詳細を示すフローチャートである。図12に示すように、過湿潤適正化第2処理では、制御装置200は、既述したステップS142と同様、改めて冷却水温度を基準温度αと対比し(ステップS222)、基準温度αから低温側への冷却水温度の逸脱程度を判定する。
このステップS222で、図4に示すように、冷却水温度は基準温度αより所定温度幅α0以上に低い低温度側に逸脱していると判定した場合は、冷却水温度が基準温度αより大きく低いためにMEAの過湿潤も顕著であると想定される。よって、制御装置200は、MEAの過湿潤をより高い実効性で湿潤適正の側に推移すべく、MEAにおけるアノード102へのガス供給とカソード103へのガス供給を、共に過湿潤適正化に有益なガス供給となるよう同時並行的に制御する(ステップS224)。図13は要求負荷の低減過渡の状況下における過湿潤回復第2処理でもたらされるガス供給の状況を概略的に説明する説明図、図14は要求負荷の低減過渡の状況下における過湿潤回復第2処理で得られる過湿潤適正化の様子を概略的に示す説明図である。図13にあっては、開始時刻tsにおいて要求負荷が急減し、終了時刻tmにおいて要求負荷に対応するガス流量およびガス圧力でのガス供給に達するガス供給状況と、開始時刻tsから終了時刻tmまでの負荷要求の低減過渡状況下におけるカソード側・アノード側でのガス流量推移およびガス圧力推移を示している。
MEAの過湿潤の湿潤適正推移には、カソード103においては、既述したように生成水の水分持ち去りの増大が有益であり、アノード102においては、電気化学反応の進行が活発なカソードでの空気の入口側への水分搬送を抑制する水分保持が有益である。そして、要求負荷の低減過渡におけるカソード103での水分持ち去りの増大は、空気供給時のガス流量の低減回避、換言すれば、要求負荷の低減過渡以前の高ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの増大化と、空気のガス圧力の低減による体積流量増加により、起きる。要求負荷の低減過渡におけるアノード102での水分保持は、水素ガスのガス流量の低減による直接的な水分持ち去りの低減化と、水素ガス供給時のガス圧力の低減回避、換言すれば、要求負荷の低減過渡以前の高ガス圧力維持による体積流量低減により、起きる。
こうしたことから、ステップS224では、図13に示すように、要求負荷の低減に伴うカソード103への空気供給の際のガス圧力の低減変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の低減に伴うガス流量の低減変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、カソード103への空気供給に当たり、ガス圧力の低減制御をガス流量の低減制御に先行して実施する。そして、カソード103では、図14に示すように、ガス圧力の低減による体積流量増加と、要求負荷の低減過渡の以前(開始時刻ts以前)の高ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの増大化により、水分持ち去りの増量化が起きる。
また、このステップS224では、図13に示すように、要求負荷の低減に伴うアノード102への水素ガス供給の際のガス流量の低減変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の低減に伴うガス圧力の低減変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、アノード102への水素ガス供給に当たり、ガス流量の低減制御をガス圧力低減制御に先行して実施する。そして、アノード102では、図14に示すように、水素ガスのガス流量の低減による直接的な水分持ち去りの低減化と、要求負荷の低減過渡の以前の高ガス圧力維持による体積流量低減により、カソードの空気入口への水の搬送が低減化して、水分保持が起きる。しかも、ステップS224では、上記した過湿潤の適正側推移に有益なガス供給状況がアノード102とカソード103とにおいて同時にもたらされ、その後、本ルーチンを終了する。
上記したステップS222で、図4に示すように、冷却水温度は基準温度αより低温度側に逸脱しているもののその隔たりは小さいと判定した場合は、MEAは過湿潤ではあるものの過湿潤の程度はそれほど大きくないと想定される。よって、制御装置200は、こうしたMEAの過湿潤を湿潤適正の側に推移すべく、上記した過湿潤適正化に有益なガス供給を、アノード102とカソード103のいずれかを選択して実行し(ステップS226)、本ルーチンを一旦終了する。本実施形態では、カソード103における水分持ち去りの増量化を優先して、カソード103での既述したガス供給を実行する。
上記したようにMEAの加湿潤の湿潤適正推移のための空気供給時のガス圧力の低減制御を行うに当たり、制御装置200は、図13に示すように、カソード103における開始時刻tsからのガス圧力低減を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の低減に伴って行うガス圧力低減よりも大きな圧力低減となるようにする。こうしたガス圧力の低減調整は、カソード103では、ガス圧力低減による体積流量増大による水分持ち去りがより顕著となり、MEAの過湿潤の湿潤適正推移に有益である。また、MEAの加湿潤の湿潤適正推移のための水素ガス供給時のガス流量の低減制御を行うに当たり、制御装置200は、図13に示すように、アノード102における開始時刻tsからのガス流量低減を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の低減に伴って行うガス流量低減よりも大きな流量低減となるようにする。こうしたガス流量の低減調整は、アノード102では、ガス流量低減による水分持ち去りの低減がより顕著となり、MEAの過湿潤の湿潤適正推移に有益である。つまり、制御装置200は、MEAの過湿潤を湿潤適正の側に推移させ得る適正化調整として、カソード103に供給する空気については、ガス圧力低減調整をし、アノード102に供給する水素ガスについては、ガス流量低減調整を図る。
次に、図11のステップS230での肯定判定に続くステップS240の過乾燥回復第2処理について説明する。図15は要求負荷の低減過渡の状況下における過乾燥回復第2処理の詳細を示すフローチャートである。図15に示すように、過乾燥回復第2処理では、制御装置200は、改めて冷却水温度を基準温度βと対比する(ステップS242)。この温度対比は、冷却水温度がどの程度、基準温度βから高温側に逸脱しているのかを判定するためのものである。
このステップS242で、図8に示すように、冷却水温度は基準温度βより所定温度幅β0以上に高い高温度側に逸脱していると判定した場合は、冷却水温度が基準温度βより大きく高いためにMEAの過乾燥も顕著であると想定される。よって、制御装置200は、MEAの過乾燥をより高い実効性で湿潤適正の側に推移すべく、MEAにおけるアノード102へのガス供給とカソード103へのガス供給を、共に過乾燥適正化に有益なガス供給となるよう同時並行的に制御する(ステップS244)。図16は要求負荷の低減過渡の状況下における過乾燥回復第2処理でもたらされるガス供給の状況を概略的に説明する説明図、図17は要求負荷の増大過渡の状況下における過乾燥回復第2処理で得られる過乾燥適正化の様子を概略的に示す説明図である。図16にあっても、開始時刻tsにおいて要求負荷が急減し、終了時刻tmにおいて要求負荷に対応するガス流量およびガス圧力でのガス供給に達するガス供給状況と、開始時刻tsから終了時刻tmまでの負荷要求の低減過渡状況下におけるカソード側・アノード側でのガス流量推移およびガス圧力推移を示している。
MEAの過乾燥の湿潤適正推移には、カソード103においては、既述したように生成水の水分持ち去りの低減が有益であり、アノード102においては、電気化学反応の進行が活発なカソードでの空気の入口側への水搬送の増量とこれに伴うアノード側からカソード側への水移動が有益である。そして、カソード103における水分持ち去りの低減は、空気供給時のガス流量の低減による直接的な水分持ち去りの低減化と、空気供給時のガス圧力の低減回避、換言すれば、要求負荷の低減過渡以前の高ガス圧力維持による体積流量低減により、起きる。アノード102における上記した水搬送と水移動の増量は、水素ガス供給時のガス圧力の低減による体積流量増加と、ガス流量の低減回避、換言すれば、要求負荷の低減過渡以前の高ガス流量維持による直接的な水分持ち去りの増大化により、起きる。
こうしたことから、ステップS244では、図16に示すように、要求負荷の低減に伴うカソード103への空気供給の際のガス流量の低減変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の低減に伴うガス圧力の低減変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、カソード103への空気供給に当たり、ガス流量の低減制御をガス圧力の低減制御に先行して実施する。そして、カソード103では、図17に示すように、ガス流量の低減による直接的な水分持ち去りの低減化と、要求負荷の低減過渡の以前(開始時刻ts以前)の高ガス圧力維持による体積流量低減により、水分持ち去りの低減化が起きる。
また、このステップS244では、図16に示すように、要求負荷の低減に伴うアノード102への水素ガス供給の際のガス圧力の低減変更のタイミング(開始時刻ts)に対して、要求負荷の低減に伴うガス流量の低減変更のタイミングを遅延時刻taまで遅延側にずらす。こうすることで、制御装置200は、アノード102への水素ガス供給に当たり、ガス圧力の低減制御をガス流量低減制御に先行して実施する。そして、アノード102では、図17に示すように、ガス圧力の低減による体積流量増加と、要求負荷の低減過渡の以前(開始時刻ts以前)の高ガス流量維持による水搬送の増大化により、アノード側からカソード側への水移動の増量化が起きる。しかも、ステップS244では、上記した過乾燥の適正側推移に有益なガス供給状況がアノード102とカソード103とにおいて同時にもたらされ、その後、本ルーチンを終了する。
上記したステップS242で、図8に示すように、冷却水温度は基準温度βより高温度側に逸脱しているもののその隔たりは小さいと判定した場合は、MEAは過乾燥ではあるものの過乾燥の程度はそれほど大きくないと想定される。よって、制御装置200は、こうしたMEAの過乾燥を湿潤適正の側に推移すべく、上記した過乾燥適正化に有益なガス供給を、アノード102とカソード103のいずれかを選択して実行し(ステップS246)、本ルーチンを一旦終了する。本実施形態では、カソード103における水分持ち去りの低減化を優先して、カソード103での既述したガス供給を実行する。
上記したようにMEAの加乾燥の湿潤適正推移のための空気供給時のガス流量の低減制御を行うに当たり、制御装置200は、図16に示すように、カソード103における開始時刻tsからのガス流量低減を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の低減に伴って行うガス流量低減よりも小さなガス流量となるようにする。こうしたガス流量の低減調整は、カソード103では、負荷変動以前の高ガス圧力でのガス供給と相まって、水分持ち去りがより抑制され、MEAの過乾燥の湿潤適正推移に有益である。また、MEAの加乾燥の湿潤適正推移のための水素ガス供給時のガス圧力の低減制御を行うに当たり、制御装置200は、図16に示すように、アノード102における開始時刻tsからのガス圧力低減を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の低減に伴って行うガス圧力低減よりも小さなガス圧力となるようにする。こうしたガス圧力の低減調整は、アノード102では、負荷変動以前の高ガス流量でのガス供給と相まって、水搬送とこれに伴うカソード側への水移動をより顕著とし、MEAの過乾燥の湿潤適正推移に有益である。つまり、制御装置200は、MEAの過乾燥を湿潤適正の側に推移させ得る適正化調整として、カソード103に供給する空気については、ガス流量低減調整をし、アノード102に供給する水素ガスについては、ガス圧力低減調整を図る。
以上説明したように、本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30は、負荷変動の過渡の状況において燃料電池スタック100の湿潤状態が湿潤適正の状態から逸脱しているかを判断する(ステップS110)。そして、湿潤状態を湿潤適正の側に推移させるのに有益な側のガス流量変更、或いはガス圧力変更を、負荷変動の増大過渡の状況と低減化との状況のいずれの過渡状況でも行う。その上で、湿潤状態を湿潤適正の側に推移させるのに有益な制御がガス流量変更制御であれば、負荷変動に伴うガス供給に際して、このガス流量変更を負荷変動の状況に合わせて行い、この変更に遅延して、ガス圧力を変更する(ステップS140、160、220、240、図5、図9、図13、図16)。湿潤状態を湿潤適正の側に推移させるのに有益な制御がガス圧力変更制御であれば、負荷変動に伴うガス供給に際して、このガス圧力変更を負荷変動の状況に合わせて行い、この変更に遅延して、ガス流量を変更する(ステップS140、160、220、240、図5、図9、図13、図16)。
こうした変更タイミングのズレにより(図5、図9、図13、図16)、変更遅延の間においては、ガス流量変更を負荷変動の状況に合わせて行った場合のガス圧力を、或いはガス圧力変更を負荷変動の状況に合わせて行った場合のガス流量を、負荷変動前の状況に維持する。こうして維持された負荷変動前のガス流量或いはガス圧力の状況は、負荷要求の変動に対応したガス流量或いはガス圧力に対して、ガス流量の低減や増大、ガス圧力の低減や増大の状況となる(図5、図9、図13、図16)。よって、湿潤状態を湿潤適正の側に推移させるのに有益なガス流量或いはガス圧力と、負荷変動前の状況が維持されたガス流量或いはガス圧力とでもたらされるガス供給状況は、例えば、湿潤状態が過乾燥であるためにこれを適正の側に推移させるのに有益な水分持ち去りの低減や水分保持をもたらすガス流量低減やガス圧力の増大の状況、或いは、適正推移に有益なガス流量増大やガス圧力の低減の状況といった種々のガス流量・圧力状況となり(図10、図17)、こうしたガス供給状況が、負荷変動の過渡において確実に実現される。湿潤状態が過湿潤であれば、これを適正の側に推移させるのに有益な水分持ち去りの増大をもたらすガス流量増大とガス圧力の低減の状況、或いは、適正推移に有益なガス流量低減とガス圧力の増大の状況といった種々のガス流量・圧力状況が(図6、図14)、負荷変動の過渡において確実に実現される。この結果、本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30によれば、負荷変動過渡期における燃料電池スタック100、詳しくはMEAの電解質膜101の過乾燥や過湿潤の抑制の実効性を高めて、確実に、出力の安定化を図ることができる。
本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30は、要求負荷の増大過渡状況において、加湿潤の湿潤適正推移のために、カソード側での空気供給時のガス流量の増大制御とアノード側での水素ガス供給時のガス圧力の増大制御とを行い(図5)、加乾燥の湿潤適正推移のために、カソード側での空気供給時のガス圧力の増大制御とアノード側での水素ガス供給時のガス流量の増大制御とを行う(図9)。そして、これらの増大制御を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の増大に伴って行うガス流量増大やガス圧力増大よりも大きな流量増大や圧力増大となるように調整する。こうすれば、燃料電池スタック100への空気および水素ガスのそれぞれのガス供給状況を、湿潤状態の適正に有益な水分持ち去りの低減や水分保持、或いは水分持ち去りの増大をより効果的にもたらすガス流量の増大またはガス圧力の増大の状況とでき(図6、図10)、こうした状況を確実に実現できる。この結果、本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30によれば、負荷の増大変動の過渡期における燃料電池スタック100、詳しくはMEAの電解質膜101の過乾燥や過湿潤の抑制の実効性をより高めて、増大負荷に対応した出力を確実に安定して得ることができる。
本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30は、要求負荷の低減過渡状況において、加湿潤の湿潤適正推移のために、カソード側での空気供給時のガス圧力の低減制御とアノード側での水素ガス供給時のガス流量の低減制御とを行い(図13)、加乾燥の湿潤適正推移のために、カソード側での空気供給時のガス流量の低減制御とアノード側での水素ガス供給時のガス圧力の低減制御とを行う(図16)。そして、これらの低減制御を、MEAの湿潤状態が適正な場合に要求負荷の低減に伴って行うガス流量低減やガス圧力低減よりも大きな流量低減や圧力低減となるように調整する。こうすれば、燃料電池スタック100への空気および水素ガスのそれぞれのガス供給状況を、湿潤状態の適正に有益な水分持ち去りの低減や水分保持、或いは水分持ち去りの増大をより効果的にもたらすガス流量の低減またはガス圧力の低減の状況とでき(図14、図17)、こうした状況を確実に実現できる。この結果、本実施例の燃料電池搭載車両20に搭載した燃料電池システム30によれば、負荷の低減変動の過渡期における燃料電池スタック100、詳しくはMEAの電解質膜101の過乾燥や過湿潤の抑制の実効性をより高めて、低減負荷に対応した出力を確実に安定して得ることができる。
次に、他の実施例について説明する。図18は第2実施例の燃料電池スタック100において要求負荷の増大過渡の状況下でなされる過湿潤回復第1処理でのガス供給状況を概略的に説明する説明図、図19は第2実施例の燃料電池スタック100において要求負荷の増大過渡の状況下でなされる過乾燥回復第1処理でのガス供給状況を概略的に説明する説明図である。この実施形態は、要求負荷の増大過渡の状況下でのMEAの過湿潤の湿潤適正推移には、カソード側でのガス流量の増大とアノード側でのガス圧力の増大とを、湿潤状態が適正な場合と同様に要求負荷の増大に合わせて行った上で、カソード側のガス圧力とアノード側のガス流量の増大変更について、その変更タイミングを遅延側にずらした(図18)。また、要求負荷の増大過渡の状況下でのMEAの過乾燥の湿潤適正推移には、カソード側でのガス圧力の増大とアノード側でのガス流量の増大とを、湿潤状態が適正な場合と同様に要求負荷の増大に合わせて行った上で、カソード側のガス流量とアノード側のガス圧力の増大変更について、その変更タイミングを遅延側にずらした(図19)。要求負荷の増大過渡の状況下でのMEAの過湿潤の湿潤適正推移には、既述したようにカソード側でのガス流量の増大とアノード側でのガス圧力の増大とが有益であり、要求負荷の増大過渡では、これらは通常、図示するように増大制御される。要求負荷の増大過渡の状況下でのMEAの過乾燥の湿潤適正推移には、既述したようにカソード側でのガス圧力の増大とアノード側でのガス流量の増大が有益であり、要求負荷の増大過渡では、これらは通常、図示するように増大制御される。そして、この実施形態では、図示するようなガス流量の増大変更タイミングやガス圧力の増大タイミングのずらしにより、要求負荷の増大前のカソード側での低ガス圧力維持、アノード側での停留ガス流量維持を図る。よって、この実施形態によっても、既述した効果に近似した効果を奏することができる。
図20は先の実施形態における要求負荷の増大過渡の状況下での過乾燥回復第1処理の処理内容の変更とこれに伴うガス供給状況の推移を示す説明図である。この実施形態では、ステップS166において過乾燥回復第1処理を実行するに当たり、アノード102での湿潤適正化のためのガス流量増大制御の際に、その増大調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス流量増大の増大調整目標値に対して一時的に大きくした。例えば、湿潤状態適正の際のガス流量増大の増大調整目標値に対して例えば20〜30%程度大きな調整目標値となるよう、また、こうした大きな目標値とする期間を、要求負荷の増大に対応したガス流量増大期間における増大制御の終了時刻tmの間際で例えば1〜2sec程度、確保するようにした。図21は湿潤適正化のためのガス流量増大制御を一時的に大きな増大調整目標値となるようにした場合の利点を示す説明図である。図21における比較例は、要求負荷の増大過渡の状況下でMEAが過乾燥であった場合に、要求負荷の増大に伴ってその負荷増大に合致した増大ガス流量目標値となるようにガス供給を制御した。なお、ガス流量増加とガス圧力増加の変更タイミングについても、ズレを来していない。
図21は、燃料電池スタック100が低電流密度の発電状態にある場合に要求負荷の急増に伴って高電流密度の発電状態に推移した場合のセル電圧推移を示している。この図21から、本実施形態では、要求負荷の増大過渡状況における過乾燥からの湿潤適正化がより確実になされ、出力の向上が得ることができた。こうした事象は、次のように説明できる。燃料電池スタック100への水素ガス供給は、増大する負荷に対応してガス流量を増大させる際の増大調整目標値より大きい増大調整目標値に一時的になるようなガス流量でなされる。こうしたガス流量の更なる増大は、負荷の増大変動の過渡期において、アノード側での過乾燥の湿潤適正化に有益な既述した水分持ち去りの低減や水分保持が顕著となり、カソード側への水移動も活性化する。こうしたことから、要求負荷の増大過渡期における燃料電池スタック100、詳しくはMEAの電解質膜101の過乾燥の湿潤適正化が進み、増大負荷に対応した出力を安定して得ることができる。
図22は湿潤適正化のためのガス流量増大制御を一時的に大きな増大調整目標値となるようにする他の実施形態を示す説明図である。図示するように、この実施形態では、ステップS166において過乾燥回復第1処理を実行するに当たっての湿潤適正化のためのガス流量増大制御の増大調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス流量増大の増大調整目標値に対して、増大制御の終了時刻tmの手前の時期において、一時的に大きくした。こうしても、図21に示すような効果を得ることができる。
図23は先の実施形態における要求負荷の低減過渡の状況下での過乾燥回復第2処理の処理内容の変更とこれに伴うガス供給状況の推移を示す説明図である。この実施形態では、ステップS246において過乾燥回復第2処理を実行するに当たり、カソード103での湿潤適正化のためのガス流量低減制御の際に、その低減調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス流量低減の低減調整目標値に対して一時的に小さくした。例えば、湿潤状態適正の際のガス流量低減の低減調整目標値に対して例えば20〜30%程度小さな調整目標値となるよう、また、こうした小さな目標値とする期間を、要求負荷の低減に対応したガス流量低減期間における低減制御の終了時刻tmの手前で例えば1〜2sec程度、確保するようにした。なお、終了時刻tmの間際で確保するようにしてもよい。こうしても、ガス流量の更なる低減は、負荷の低減変動の過渡期において、カソード側での過乾燥の湿潤適正化に有益な水分持ち去りをより顕著に低減する。この結果、負荷低減の過渡期における燃料電池スタック100、詳しくはMEAの電解質膜101の過乾燥の湿潤適正化が進み、増大低減に対応した出力を安定して得ることができる。
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
例えば、図18や図19に示した要求負荷の増大過渡の状況下での過乾燥或いは過湿潤の湿潤適正化のガス流量増大・ガス圧力増大の変更タイミングのずらしに倣い、要求負荷の低減過渡の状況下での過乾燥或いは過湿潤の湿潤適正化のために、ガス流量低減・ガス圧力定点の変更タイミングをずらしてもよい。
また、図20や図22に示した要求負荷の増大過渡の状況下での過乾燥の湿潤適正化のためのガス流量増大制御の増大調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス流量増大の増大調整目標値に対して一時的に大きくすることに代え、或いはこうしたガス流量増大調整制御と並行して、要求負荷の増大過渡の状況下での湿潤適正化のためのガス圧力増大制御の増大調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス圧力増大の増大調整目標値に対して一時的に大きくするガス供給制御を行うようにしてもよい。また、要求負荷の低減過渡の状況下での湿潤適正化のためのガス低減調整やガス圧力低減調整制御の低減調整目標値を、湿潤状態適正の際のガス流量低減やガス圧力低減制御の低減調整目標値に対して一時的に小さくするようにしてもよい。
上記した各実施形態では、燃料電池スタック100におけるMEAの電解質膜101の湿潤状態を冷却水温度に基づき判断したが、燃料電池スタック100の抵抗値に基づいて湿潤状態を判断してもよい。この場合には、抵抗値が所定の上限基準抵抗値を超えれば過乾燥と判断し、抵抗値が所定の下限抵抗値を下回れば過湿潤と判断できる。抵抗値に限らず、他の手法にて湿潤状態を判断してもよい。
また、上記した各実施形態において要求負荷の変動過渡を判断するに当たり、2次電池172の蓄電電力を考慮して、燃料電池スタック100に求められる負荷要求の変動過渡を判断するようにしてもよい。
この他、最先の実施形態においては、MEAの過湿潤や過乾燥の有無を判定した後に、冷却水温度に応じて過湿潤や過乾燥のレベルを判別し(ステップS142:図4,ステップS162:図8)、湿潤状態適正化のためのガス流量・圧力の調整を行うようにしたが、これに限られない。例えば、冷却水温度によりMEAの過湿潤や過乾燥が起きていると判断すれば、レベル判定を行うことなく、湿潤状態適正化のためのガス流量・圧力の調整を行うにしてもよい。また、この際、アノード側とカソード側での湿潤状態適正化のためのガス流量・圧力の調整を並行調整と選択調整のいずれかの手法とするようにしてもよい。