JP6029572B2 - 車両のスリップ判定装置 - Google Patents

Description

本発明は、発電可能な電動機によって駆動又は制動される車輪における超過スリップの発生を判定する車両のスリップ判定装置に関する。

従来、発電可能な電動機によって駆動又は制動される車輪を有する車両の制御装置として、例えば特許文献１に記載されたものが知られている。この制御装置は、電動のモータで車輪を制駆動する電気自動車に適用されたものである。この制御装置では、検出されたアクセル開度及びモータの回転数に基づいて、モータの正（駆動側）又は負（制動側）の目標トルクを算出し、さらに目標トルクにディレイ処理を施すことで、モータへの正又は負の指令トルクを算出する。

そして、算出された指令トルクの符号が正負の一方から他方に切り替わったときに、その後の所定時間、モータに出力する指令トルクを０に設定する。これにより、モータによる車輪の駆動／制動状態が切り替わるときの、車輪とモータの間の動力伝達系に存在するバックラッシュの詰まりに起因するトルクショックの発生を防止し、ドライバビリティを向上させるようにしている。

特開平１０−３０４５０９号公報

しかし、上述した従来の制御装置では、モータによる車輪の駆動／制動状態が切り替わるときに、所定時間、モータへの指示トルクが０に維持され、モータのトルクが車輪に伝達されないため、モータの応答性を十分に発揮できず、ドライバビリティに悪影響を及ぼすおそれがある。

また、モータの駆動／制動状態の切替時には、上述したバックラッシュの詰まりが終了するまでの間、モータと車輪との機械的な連結が解かれることで、モータ及び車輪の回転数が一時的に変動する。このため、例えば、モータ又は車輪の回転数をそのしきい値と比較することによって、車輪の超過スリップが判定される場合には、変動したモータ又は車輪の回転数がしきい値に達することによって、実際には車輪に超過スリップが発生していないにもかかわらず、発生したと誤判定するおそれがある。

本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電動機による車輪の駆動／制動状態の切替時における車輪の超過スリップの誤判定を回避することによって、超過スリップの判定精度を向上させることができる車両のスリップ判定装置を提供することを目的とする。

上記の目的を達成するために、請求項１に係る発明は、電動機（実施形態における（以下、本項において同じ）第１リヤモータ４１、第２リヤモータ６１）にバックラッシュが存在する動力伝達系を介して機械的に連結され、電動機によって駆動又は制動される車輪（左後輪ＷＲＬ、右後輪ＷＲＲ）に、所定以上のスリップである超過スリップが発生しているか否かを判定する車両（ハイブリッド車両Ｖ）のスリップ判定装置であって、車輪及び電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータ（第１モータ回転数ＮＭＯＴ１、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２）を取得する車輪速パラメータ取得手段（第１モータ回転数センサ１０２ａ、第２モータ回転数センサ１０２ｂ）と、車両の速度を表す基本速度パラメータ（車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲ）を取得する基本速度パラメータ取得手段（車輪回転数センサ１０１ａ〜１０１ｄ）と、取得された基本速度パラメータに基づき、超過スリップの判定の基準となるしきい値（基準回転数ＮＭＲＥＦ）を設定するしきい値設定手段（ＥＣＵ２、図８のステップ２５、２６）と、取得された車輪速パラメータが設定されたしきい値に達したときに、車輪に超過スリップが発生したと判定するスリップ判定手段（ＥＣＵ２、図９）と、車輪を駆動又は制動する電動機の制駆動力（第１及び第２リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪ）を取得する制駆動力取得手段（ＥＣＵ２、図７のステップ１１）と、取得された電動機の制駆動力の符号が反転するときに、しきい値を、しきい値よりも車輪速パラメータが達しにくくなるような制駆動力反転時用の第２しきい値に変更するしきい値変更手段（ＥＣＵ２、図８のステップ２８、２９）と、を備えることを特徴とする。

この車両では、バックラッシュが存在する動力伝達系を介して車輪に電動機が機械的に連結されており、この車輪は、電動機の力行又は回生によって駆動又は制動（制駆動）される。このスリップ判定装置では、車輪と電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータを取得する。また、車両の速度を表す基本速度パラメータを取得するとともに、取得された基本速度パラメータに基づき、車輪における所定以上のスリップである超過スリップの判定の基準となるしきい値を設定する。そして、上記のように取得された車輪速パラメータがしきい値に達したときに、車輪に超過スリップが発生したと判定する。

また、本発明によれば、電動機の制駆動力を取得するとともに、取得された電動機の制駆動力の符号が反転するとき、すなわち、電動機による車輪の駆動／制動状態が切り替わるときに、上記のしきい値を、このしきい値よりも車輪速パラメータが達しにくくなるような制駆動力反転時用の第２しきい値に変更する。これにより、電動機による車輪の駆動／制動状態の切替時に、電動機と車輪の間の動力伝達系に存在するバックラッシュの詰まりなどに起因して、車輪及び電動機の速度が一時的に変動しても、車輪速パラメータが変更された第２しきい値に達しにくくなることで、超過スリップの誤判定を回避でき、超過スリップの判定精度を向上させることができる。

また、前記目的を達成するために、請求項２に係る発明は、電動機（実施形態における（以下、本項において同じ）第１リヤモータ４１、第２リヤモータ６１）にバックラッシュが存在する動力伝達系を介して機械的に連結され、電動機によって駆動又は制動される車輪（左後輪ＷＲＬ、右後輪ＷＲＲ）に、所定以上のスリップである超過スリップが発生しているか否かを判定する車両（ハイブリッド車両Ｖ）のスリップ判定装置であって、車輪及び電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータ（第１モータ回転数ＮＭＯＴ１、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２）を取得する車輪速パラメータ取得手段（第１モータ回転数センサ１０２ａ、第２モータ回転数センサ１０２ｂ）と、車両の速度を表す基本速度パラメータ（車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲ）を取得する基本速度パラメータ取得手段（車輪回転数センサ１０１ａ〜１０１ｄ）と、取得された基本速度パラメータに基づき、超過スリップの判定の基準となるしきい値（基準回転数ＮＭＲＥＦ）を設定するしきい値設定手段（ＥＣＵ２、図１１のステップ２５、２６）と、取得された車輪速パラメータが設定されたしきい値に達したときに、車輪に超過スリップが発生したと判定するスリップ判定手段（ＥＣＵ２、図１２のステップ３２〜４２）と、車輪を駆動又は制動する電動機の制駆動力（第１及び第２リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪ）を取得する制駆動力取得手段（ＥＣＵ２、図７のステップ１１）と、取得された電動機の制駆動力の符号が反転するときに、スリップ判定手段による超過スリップの判定を禁止する判定禁止手段（ＥＣＵ２、図１２のステップ５１）と、を備えることを特徴とする。

本発明における車両及びスリップ判定装置の基本的な構成は、前述した請求項１に係る発明のそれと同じである。すなわち、この車両では、車輪は、バックラッシュが存在する動力伝達系を介して電動機に機械的に連結され、電動機の力行又は回生によって駆動又は制動（制駆動）される。スリップ判定装置では、車輪及び電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータを取得する。また、車両の速度を表す基本速度パラメータを取得するとともに、取得された基本速度パラメータに基づき、車輪における所定以上のスリップである超過スリップの判定の基準となるしきい値を設定する。そして、上記のように取得された車輪速パラメータがしきい値に達したときに、車輪に超過スリップが発生したと判定する。

また、本発明によれば、電動機の制駆動力を取得するとともに、取得された電動機の制駆動力の符号が反転するときには、超過スリップの判定が禁止される。これにより、電動機による車輪の駆動／制動状態の切替時に、電動機と車輪の間の動力伝達系に存在するバックラッシュの詰まりなどに起因して、一時的に変動した車輪速パラメータがしきい値に達することによる誤判定を確実に回避でき、超過スリップの判定精度を向上させることができる。

実施形態によるスリップ判定装置を適用した車両を概略的に示す図である。 後輪駆動装置を概略的に示すスケルトン図である。 スリップ判定装置を示すブロック図である。 後輪駆動装置が駆動モードのときの各種の回転要素及び左右の後輪の間の回転数の関係とトルクの釣合関係を示す共線図である。 後輪駆動装置が回生モードのときの各種の回転要素及び左右の後輪の間の回転数の関係とトルクの釣合関係を示す共線図である。 超過スリップの判定処理のメインフローを示すフローチャートである。 モータトルクの判定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。 第１実施形態による基準回転数の算出処理のサブルーチンを示すフローチャートである。 第１実施形態によるスリップ判定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。 図６〜図９の処理によって得られる動作例を示すタイミングチャートである。 第２実施形態による基準回転数の算出処理のサブルーチンを示すフローチャートである。 第２実施形態によるスリップ判定処理のサブルーチンを示すフローチャートである。

以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図１に示すハイブリッド車両（以下、単に「車両」という）Ｖは、４つの車輪Ｗ（左右の前輪ＷＦＬ、ＷＦＲ及び左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲ）を有する四輪車両である。車両Ｖには、前輪ＷＦＬ、ＷＦＲを駆動するための前輪駆動装置ＤＦＳと、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを駆動するための後輪駆動装置ＤＲＳが搭載されている。

前輪駆動装置ＤＦＳは、例えば、本出願人による特許第５３６２７９２号に開示されたものと同じものであるので、以下、その構成及び動作について簡単に説明する。前輪駆動装置ＤＦＳは、動力源としての内燃機関（以下「エンジン」という）３と、発電可能な電動機で構成されたフロントモータ４と、エンジン３及びフロントモータ４の動力を変速し、前輪ＷＦＬ、ＷＦＲに伝達する変速装置５を有している。

エンジン３は、例えばガソリンエンジンであり、その吸入空気量、燃料噴射量及び点火時期などを後述するＥＣＵ２（図３参照）で制御することによって、エンジン３の動力が制御される。

フロントモータ４は、例えばブラシレスＤＣモータで構成され、ステータ及びロータ（いずれも図示せず）を有している。ステータは、パワードライブユニット（以下「ＰＤＵ」という）６を介して、充放電可能なバッテリ７に電気的に接続されている。ＰＤＵ６は、インバータなどの電気回路で構成されており、ＰＤＵ６をＥＣＵ２で制御することによって、フロントモータ４の動作が制御される。

具体的には、ＥＣＵ２によるＰＤＵ６の制御により、バッテリ７からフロントモータ４のステータに電力が供給されると、その電力が動力に変換され、ロータが回転する（力行）。また、ステータへの電力供給が停止され、動力の入力によりロータが回転した状態で、その動力が電力に変換され、発電が行われる（回生）。発電した電力は、バッテリ７に充電されるか、又は後輪駆動装置ＤＲＳの後述する第１及び第２リヤモータ４１、６１に供給され、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを駆動するのに用いられる。

また、車両Ｖには、エアコンのコンプレッサなどから成る補機８と、１２Ｖバッテリ（図示せず）が搭載されており、補機８はＰＤＵ６を介して、１２ＶバッテリはＤＣ／ＤＣコンバータ（図示せず）を介して、バッテリ７に電気的に接続されている。

変速装置５は、いわゆるデュアル・クラッチ・トランスミッション（ＤＣＴ）で構成されている。図示しないが、変速装置５は、第１クラッチを介してエンジン３に接続された第１入力軸と、フロントモータ４と第１入力軸の間に配置された遊星歯車装置と、第２クラッチを介してエンジン３に接続された第２入力軸と、第１及び第２入力軸と平行な出力軸と、第１及び第２入力軸に回転自在に設けられた複数の入力ギヤと、出力軸に一体に設けられ、複数の入力ギヤに噛み合う複数の出力ギヤと、複数の入力ギヤの１つを第１又は第２入力軸に選択的に連結し、その入力ギヤとそれに噛み合う出力ギヤによるギヤ段を設定するシンクロ装置などを有している。

以上の構成により、第１及び第２クラッチ及びシンクロ装置などをＥＣＵ２で制御することによって、第１及び第２クラッチの接続／遮断状態に応じて、エンジン３の動力及び／又はフロントモータ４の動力が第１入力軸に、又はエンジン３の動力が第２入力軸に、選択的に入力される。入力された動力は、シンクロ装置によって設定されたギヤ段による所定の変速比で変速された状態で、出力軸に出力され、さらに、ディファレンシャル９及び左右の前駆動軸ＳＦＬ、ＳＦＲを介して、左右の前輪ＷＦＬ、ＷＦＲに伝達される。

図２に示すように、後輪駆動装置ＤＲＳは、第１リヤモータ４１、第１遊星歯車装置５１、第２リヤモータ６１及び第２遊星歯車装置７１を有している。これらの構成要素は、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの間に、４１、５１、７１及び６１の順に並んで配置され、左右の後駆動軸ＳＲＬ、ＳＲＲと同軸状に設けられている。後駆動軸ＳＲＬ、ＳＲＲの一端部は、それぞれ左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲに連結されている。

第１リヤモータ４１は、フロントモータ４と同様、発電可能な電動機で構成されたブラシレスＤＣモータであり、ステータ４２と、回転自在のロータ４３を有している。ステータ４２は、ケーシングＣＡに固定されており、ＰＤＵ６を介して、フロントモータ４のステータ及びバッテリ７に電気的に接続されている。ロータ４３は、中空の回転軸４４に一体に設けられ、この回転軸４４は、左後駆動軸ＳＲＬの外側に相対的に回転自在に設けられている。

第１リヤモータ４１では、ＥＣＵ２によるＰＤＵ６の制御により、バッテリ７の電力や、フロントモータ４で発電した電力が、ステータ４２に供給されると、その電力が動力に変換され、ロータ４３が回転する（力行）。この場合、ロータ４３の動力は、ステータ４２に供給される電力に応じて制御される。また、ステータ４２への電力供給が停止され、動力の入力によりロータ４３が回転した状態で、その動力が電力に変換され、発電が行われる（回生）とともに、発電した電力がバッテリ７に充電される。

第１遊星歯車装置５１は、第１リヤモータ４１の動力を減速し、左後輪ＷＲＬに伝達するためのものであり、第１サンギヤ５２、第１リングギヤ５３、２連ピニオンギヤ５４及び第１キャリヤ５５を有している。第１サンギヤ５２は、上述した回転軸４４に一体に設けられており、第１リヤモータ４１のロータ４３と一体に回転する。第１リングギヤ５３は、中空の回転軸８１に一体に設けられている。２連ピニオンギヤ５４は、第１ピニオンギヤ５４ａ及び第２ピニオンギヤ５４ｂを一体に有しており、その数が３つ（２つのみ図示）である。また、２連ピニオンギヤ５４は、第１キャリヤ５５に回転自在に支持されており、その第１ピニオンギヤ５４ａが第１サンギヤ５２に、第２ピニオンギヤ５４ｂが第１リングギヤ５３に、それぞれ噛み合っている。第１キャリヤ５５は、左後駆動軸ＳＲＬの他端部に一体に設けられており、それと一体に回転する。

第２リヤモータ６１及び第２遊星歯車装置７１は、上述した第１リヤモータ４１及び第１遊星歯車装置５１と同様に構成されているので、以下、その構成について簡単に説明する。第２リヤモータ６１及び第２遊星歯車装置７１は、後述するワンウェイクラッチ８３を中心として、第１リヤモータ４１及び第１遊星歯車装置５１と対称に配置されている。第２リヤモータ６１のステータ６２は、ケーシングＣＡに固定されるとともに、ＰＤＵ６を介して、フロントモータ４のステータ、バッテリ７及び第１リヤモータ４１のステータ４２に電気的に接続されている。また、第２リヤモータ６１のロータ６３は、中空の回転軸６４に一体に設けられ、この回転軸６４は、右後駆動軸ＳＲＲの外側に相対的に回転自在に設けられている。

第２リヤモータ６１では、ＥＣＵ２によるＰＤＵ６の制御により、バッテリ７の電力や、フロントモータ４で発電した電力が、ステータ６２に供給されると、その電力が動力に変換され、ロータ６３が回転する（力行）。この場合、ロータ６３の動力は、ステータ６２に供給される電力に応じて制御される。また、ステータ６２への電力供給が停止され、動力の入力によりロータ６３が回転した状態で、その動力が電力に変換され、発電が行われる（回生）とともに、発電した電力がバッテリ７に充電される。

第２遊星歯車装置７１は、第２リヤモータ６１の動力を減速し、右後輪ＷＲＲに伝達するためのものであり、第２サンギヤ７２、第２リングギヤ７３、２連ピニオンギヤ７４及び第２キャリヤ７５を有している。第２サンギヤ７２、第２リングギヤ７３及び２連ピニオンギヤ７４の歯数は、第１サンギヤ５２、第１リングギヤ５３及び２連ピニオンギヤ５４の歯数とそれぞれ同じに設定されている。

第２サンギヤ７２は、上述した回転軸６４に一体に設けられており、第２リヤモータ６１のロータ６３と一体に回転する。第２リングギヤ７３は、中空の回転軸８２に一体に設けられている。回転軸８２は、前述した回転軸８１と若干の隙間を存した状態で軸線方向に対向している。２連ピニオンギヤ７４は、第２キャリヤ７５に回転自在に支持されており、その第１ピニオンギヤ７４ａが第２サンギヤ７２に、第２ピニオンギヤ７４ｂが第２リングギヤ７３に、それぞれ噛み合っている。第２キャリヤ７５は、右後駆動軸ＳＲＲの他端部に一体に設けられており、それと一体に回転する。

後輪駆動装置ＤＲＳはさらに、ワンウェイクラッチ８３及び油圧ブレーキ８４を有している。ワンウェイクラッチ８３は、インナーレース８３ａ及びアウターレース８３ｂを有しており、第１及び第２遊星歯車装置５１、７１の間に配置されている。なお、図２のスケルトン図では、図示の関係上、インナーレース８３ａとアウターレース８３ｂは、実際の配置とは内外逆に描かれている。インナーレース８３ａは、前述した回転軸８１、８２にスプライン結合されており、それにより、インナーレース８３ａ、回転軸８１、８２、第１及び第２リングギヤ５３、７３は、一体に回転する。また、アウターレース８３ｂは、ケースＣＡに固定されている。

以上の構成により、ワンウェイクラッチ８３は、回転軸８１、８２にそれらを逆転させる方向の動力が伝達されたときには、回転軸８１、８２をケースＣＡに接続することによって、回転軸８１、８２、第１及び第２リングギヤ５３、７３の逆転を阻止する一方、回転軸８１、８２にそれらを正転させる方向の動力が伝達されたときには、回転軸８１、８２とケースＣＡの間を遮断することによって、回転軸８１、８２、第１及び第２リングギヤ５３、７３の正転を許容する。

油圧ブレーキ８４は、多板式のクラッチで構成され、ケースＣＡ及び回転軸８１、８２に取り付けられており、第１及び第２遊星歯車装置５１、７１の径方向外側に配置されている。油圧ブレーキ８４は、ＥＣＵ２で制御されることにより、第１及び第２リングギヤ５３、７３を制動する制動動作と、第１及び第２リングギヤ５３、７３の回転を許容する回転許容動作とを、選択的に実行する。油圧ブレーキ８４の制動力は、ＥＣＵ２によって制御される。

図３に示すように、ＥＣＵ２には、車輪回転数センサ１０１ａ〜１０１ｄから、左右の前輪ＷＦＬ、ＷＦＲ及び後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの各回転数である車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ及びＮＷＲＲを表す検出信号が入力される。ＥＣＵ２は、これらの検出信号と車輪Ｗの径に基づいて、車両Ｖの速度（車速）ＶＰを算出する。

また、ＥＣＵ２には、第１及び第２モータ回転数センサ１０２ａ、１０２ｂから、第１及び第２リヤモータ４１、６１のロータ４３、６３の回転数である第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２を表す検出信号が入力される。さらに、ＥＣＵ２には、アクセル開度センサ１０３から、車両Ｖのアクセルペダル（図示せず）の踏み込み量であるアクセル開度ＡＰを表す検出信号が入力される。

ＥＣＵ２は、Ｉ／Ｏインターフェース、ＣＰＵ、ＲＡＭ及びＲＯＭなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ＥＣＵ２は、上述した各種のセンサ１０１〜１０３からの検出信号などに応じ、車両Ｖに要求される要求制駆動力を算出し、この要求制駆動力などに基づき、前輪駆動装置ＤＦＳ及び後輪駆動装置ＤＲＳの動作モードを決定するとともに、各車輪Ｗに要求される要求トルクを算出する。そして、この要求トルクに基づき、エンジン３、フロントモータ４、第１及び第２リヤモータ４１、６１の各目標トルクを設定し、設定された目標トルクに基づき、これらの構成要素の動作を制御することによって、車輪Ｗを駆動又は制動し、車両Ｖの動作を制御する。なお、本実施形態では、ＥＣＵ２が、しきい値設定手段、スリップ判定手段、制駆動力取得手段、及びしきい値変更手段に相当する。

上記の前輪駆動装置ＤＦＳの動作モードには、エンジン３のみを車両Ｖの動力源として用いるＥＮＧ走行モードと、フロントモータ４のみを動力源として用いるＥＶ走行モードと、エンジン３をフロントモータ４でアシストするアシスト走行モードと、エンジン３の動力の一部を用いてフロントモータ４でバッテリ７を充電する充電走行モードと、車両Ｖの減速走行中の走行エネルギを用いてフロントモータ４でバッテリ７を充電する減速回生モードなどが含まれる。

また、後輪駆動装置ＤＲＳの動作モードには、駆動モード及び回生（制動）モードなどが含まれる。以下、これらの動作モードについて順に説明する。

［駆動モード］
この駆動モードは、車両Ｖの加速走行中などに、バッテリ７の電力を用いて第１及び第２リヤモータ４１、６１で力行を行い、それらの動力で左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを駆動する動作モードである。この駆動モードでは、基本的に、第１及び第２リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが互いに同じ正値に設定される。そして、目標トルクＴＲＯＢＪに応じた電力を第１及び第２リヤモータ４１、６１に供給し、ロータ４３、６３を正転させるとともに、油圧ブレーキ８４で第１及び第２リングギヤ５３、７３を制動する。

前述した後輪駆動装置ＤＲＳにおける各種の回転要素の間の連結関係から明らかなように、第１サンギヤ５２の回転数は、第１リヤモータ４１（ロータ４３）の回転数と等しく、第１キャリヤ５５の回転数は、左後輪ＷＲＬの回転数と、第１リングギヤ５３の回転数は、第２リングギヤ７３の回転数と、それぞれ等しい。また、第２サンギヤ７２の回転数は、第２リヤモータ６１（ロータ６３）の回転数と等しく、第２キャリヤ７５の回転数は、右後輪ＷＲＲの回転数と等しい。また、周知のように、第１サンギヤ５２の回転数、第１キャリヤ５５の回転数及び第１リングギヤ５３の回転数は、共線図において、１つの直線上に位置する共線関係にあり、第１サンギヤ５２及び第１リングギヤ５３は、第１キャリヤ５５の両側に位置する。以上の関係は、第２サンギヤ７２、第２キャリヤ７５及び第２リングギヤ７３についても、同様に当てはまる。

以上から、各種の回転要素の間の回転数の関係は、図４に示す共線図のように表される。なお、同図および後述する他の共線図では、値０を示す横軸から縦軸上の白丸までの距離が、各回転要素の回転数に相当する。また、図４において、ＴＭ１は、力行に伴って発生する第１リヤモータ４１の出力トルク（以下「第１リヤモータ力行トルク」という）であり、ＴＭ２は、力行に伴って発生する第２リヤモータ６１の出力トルク（以下「第２リヤモータ力行トルク」という）である。また、ＲＲＬは、左後輪の反力トルクであり、ＲＲＲは、右後輪ＷＲＲの反力トルク、ＲＯＷは、ワンウェイクラッチ８３の反力トルクである。

前述したように、ワンウェイクラッチ８３は、第１及び第２リングギヤ５３、７３の逆転を阻止するように構成されている。また、図４から明らかなように、第１リヤモータ力行トルクＴＭ１は、第１サンギヤ５２を正転させるとともに、第１リングギヤ５３を逆転させるように作用する。以上により、第１リヤモータ力行トルクＴＭ１は、第１リングギヤ５３に作用するワンウェイクラッチ８３の反力トルクＲＯＷを反力とし、第１キャリヤ５５及び左後駆動軸ＳＲＬを介して、左後輪ＷＲＬに伝達され、その結果、左後輪ＷＲＬが駆動される。同様に、第２リヤモータ力行トルクＴＭ２は、第２リングギヤ７３に作用するワンウェイクラッチ８３の反力トルクＲＯＷを反力とし、第２キャリヤ７５及び右後駆動軸ＳＲＲを介して、右後輪ＷＲＲに伝達され、その結果、右後輪ＷＲＲが正転する。

［回生モード］
この回生モードは、車両Ｖの減速走行中などに、車両Ｖの走行エネルギを用いて、第１及び第２リヤモータ４１、６１で、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを制動しながら回生を行い、発電した電力をバッテリ７に充電する動作モードである。この回生モードでは、基本的に、第１及び第２リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが互いに同じ負値に設定され、その値に応じて、第１及び第２リヤモータ４１、６１で回生される電力を制御するとともに、油圧ブレーキ８４で第１及び第２リングギヤ５３、７３を制動する。

図５は、回生モードにおける各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。同図において、ＢＭ１は、回生に伴って発生する第１リヤモータ４１の出力（制動）トルク（以下「第１リヤモータ回生トルク」という）であり、ＢＭ２は、回生に伴って発生する第２リヤモータ６１の出力（制動）トルク（以下「第２リヤモータ回生トルク」という）である。また、ＴＲＬは、左駆動輪ＷＲＬの慣性トルクであり、ＴＲＲは、右駆動輪ＷＲＲの慣性トルク、ＲＢＲは、油圧ブレーキ８４の反力トルクである。

図５から明らかなように、第１及び第２サンギヤ５２、５３にそれぞれ伝達された第１及び第２リヤモータ回生トルクＢＭ１、ＢＭ２は、油圧ブレーキ８４の反力トルクＲＢＲを反力として、第１及び第２キャリヤ５５、７５にそれぞれ伝達され、さらに、左右の後駆動軸ＳＲＬ、ＳＲＲを介して、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲに伝達される。その結果、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲが制動される。

次に、図６〜図９を参照しながら、本発明の第１実施形態による、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの超過スリップを判定するためのスリップ判定処理について説明する。本処理は、ＥＣＵ２により、所定の制御周期で繰り返し実行される。図６はそのメインフローを示す。まず、ステップ１（「Ｓ１」と図示。以下同じ）では、モータトルクの判定処理を実行する。この判定処理は、第１及び第２リヤモータ（以下、適宜「リヤモータ」という）４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転を判定するものである。

次に、基準回転数ＮＭＲＥＦの算出処理を実行する（ステップ２）。この基準回転数ＮＭＲＥＦは、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲにおける所定以上のスリップである超過スリップの発生を判定するためのしきい値として用いられる。次に、ステップ２で算出された基準回転数ＮＭＲＥＦを用いて、スリップ判定処理を実行し（ステップ３）、図６の処理を終了する。

図７は、上述したモータトルクの判定処理のサブルーチンを示す。本処理では、まずステップ１１において、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪを算出する。前述したように、この目標トルクＴＲＯＢＪは、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲに要求される要求トルクなどに基づき、後輪駆動装置ＤＲＳが駆動モードのときには正値に設定され、回生モードのときには負値に設定される。

次に、算出された今回の目標トルクＴＲＯＢＪとその前回値ＴＲＯＢＪＺとの積が、０未満（負値）であるか否かを判別する（ステップ１２）。この答えがＹＥＳで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号が前回と今回の間で反転したとき、すなわち、リヤモータ４１、６１が駆動状態と制動状態の間の切替時であるときには、そのことを表すために、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶを「１」にセットする（ステップ１３）。また、アップカウント式のトルク反転タイマの値ＴＭ＿ＩＮＶを０にリセットする（ステップ１４）とともに、目標トルクＴＲＯＢＪを前回値ＴＲＯＢＪＺとしてシフトし（ステップ１５）、本処理を終了する。

前記ステップ１２の答えがＮＯで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転時でないときには、前記ステップ１４でリセットしたトルク反転タイマの値ＴＭ＿ＩＮＶが所定時間ＴＲＥＦ以上であるか否かを判別する（ステップ１６）。この答えがＮＯのときには、そのまま前記ステップ１５に進み、本処理を終了する。

一方、前記ステップ１６の答えがＹＥＳで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転後、所定時間ＴＲＥＦが経過したときには、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶを「０」にリセットし（ステップ１７）、その後、前記ステップ１５を経て、本処理を終了する。以上のように、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶは、目標トルクＴＲＯＢＪの符号が反転してから所定時間ＴＲＥＦが経過するまでの間、「１」にセットされる。以下、この期間を、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の「反転期間」という。

次に、図６のステップ２で実行される基準回転数ＮＭＲＥＦの算出処理について説明する。図８は、そのサブルーチンを示す。本処理では、まずステップ２１において、車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥを算出する。この基本値ＮＷＢＡＳＥは、例えば、検出された４つの車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ及びＮＷＲＲの平均値として算出される。

次に、算出された車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥに、所定の変速比ＲＧを乗算することによって、モータ回転数の基本値ＮＭＢＡＳＥを算出する（ステップ２２）。この変速比ＲＧは、第１及び第２リヤモータ４１、６１から左右の後駆動軸ＳＲＬ、ＳＲＲまでの変速比、すなわち第１及び第２遊星歯車装置５１、７１の変速比に相当する。以上から明らかなように、モータ回転数の基本値ＮＭＢＡＳＥは、車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥを、リヤモータ４１、６１の回転数に相当する値に換算したものである。

次に、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶが「１」であるか否かを判別する（ステップ２３）。この答えがＮＯで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転期間でないときには、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが０よりも大きいか否かを判別する（ステップ２４）。この答えがＹＥＳのとき、すなわち、リヤモータ４１、６１による後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの通常の駆動状態のときには、ステップ２２で算出したモータ回転数の基本値ＮＭＢＡＳＥに基づき、リヤモータ４１、６１の基準回転数ＮＭＲＥＦを次式（１）によって算出し（ステップ２５）、本処理を終了する。
ＮＭＲＥＦ＝ＮＭＢＡＳＥ・（１＋ＫＤ） ・・・（１）

ここで、ＫＤは、通常の駆動時用の所定のマージン係数であり、値０と値１の間に設定される（０＜ＫＤ＜１）。このように、リヤモータ４１、６１の通常の駆動状態では、基準回転数ＮＭＲＥＦは、基本値ＮＭＢＡＳＥに対して、マージン係数ＫＤに相当する分だけ割増した、より大きな値に設定される。

一方、上記ステップ２４の答えがＮＯのとき、すなわち、リヤモータ４１、６１による後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの通常の制動状態のときには、リヤモータ４１、６１の基準回転数ＮＭＲＥＦを次式（２）によって算出し（ステップ２６）、本処理を終了する。
ＮＭＲＥＦ＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢ） ・・・（２）

ここで、ＫＢは、通常の制動時用の所定のマージン係数であり、値０と値１の間に設定される（０＜ＫＢ＜１）。このように、リヤモータ４１、６１の通常の制動状態では、基準回転数ＮＭＲＥＦは、基本値ＮＭＢＡＳＥに対して、マージン係数ＫＢに相当する分だけ割り引いた、より小さな値に設定される。

一方、前記ステップ２３の答えがＹＥＳで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転期間のときには、前記ステップ２４と同様、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが０よりも大きいか否かを判別する（ステップ２７）。この答えがＹＥＳのとき、すなわち、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の負から正への反転期間に相当し、リヤモータ４１、６１が制動状態から駆動状態に切り替わるときには、リヤモータ４１、６１の基準回転数ＮＭＲＥＦを次式（３）によって算出し（ステップ２８）、本処理を終了する。
ＮＭＲＥＦ＝ＮＭＢＡＳＥ・（１＋ＫＤＩＮＶ） ・・・（３）

ここで、ＫＤＩＮＶは、トルク反転・駆動時用の所定のマージン係数であり、値０と値１の間で、前述した通常の駆動時用のマージン係数ＫＤよりも大きな値に設定される（０＜ＫＤＩＮＶ＜１、ＫＤＩＮＶ＞ＫＤ）。以上から明らかなように、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の負から正への反転期間においては、基準回転数ＮＭＲＥＦは、通常の駆動時よりも大きな値に設定される。

また、前記ステップ２７の答えがＮＯのとき、すなわち、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の正から負への反転期間に相当し、リヤモータ４１、６１が駆動状態から制動状態に切り替わるときには、リヤモータ４１、６１の基準回転数ＮＭＲＥＦを次式（４）によって算出し（ステップ２９）、本処理を終了する。
ＮＭＲＥＦ＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢＩＮＶ） ・・・（４）

ここで、ＫＢＩＮＶは、トルク反転・制動時用の所定のマージン係数であり、値０と値１の間で、前述した通常の制動時用のマージン係数ＫＢよりも大きな値に設定される（０＜ＫＢＩＮＶ＜１、ＫＢＩＮＶ＞ＫＢ）。以上から明らかなように、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の正から負への反転期間においては、基準回転数ＮＭＲＥＦは、通常の制動時よりも小さな値に設定される。

次に、図６のステップ３で実行されるスリップ判定処理について説明する。図９は、そのサブルーチンを示す。本処理では、まずステップ３１において、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが０よりも大きいか否かを判別する。この答えがＹＥＳで、リヤモータ４１、６１が駆動状態のときには、検出された第１リヤモータ４１の回転数である第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が、図８のステップ２５又は２８で算出された基準回転数ＮＭＲＥＦ以上であるか否かを判別する（ステップ３２）。

このステップ３２の答えがＮＯで、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が基準回転数ＮＭＲＥＦに達していないときには、左後輪ＷＲＬに加速スリップ（加速時における所定以上の超過スリップ）が発生していないと判定し、そのことを表すために、左後輪ＷＲＬ用の加速スリップフラグＦ＿ＡＳＬ１を「０」にセットする（ステップ３３）。

一方、上記ステップ３２の答えがＹＥＳで、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が基準回転数ＮＭＲＥＦ以上のときには、左後輪ＷＲＬに加速スリップが発生していると判定し、そのことを表すために、左後輪ＷＲＬ用の加速スリップフラグＦ＿ＡＳＬ１を「１」にセットする（ステップ３４）。

上記ステップ３３又は３４に続くステップ３５〜３７では、上記と同様の手法で、右後輪ＷＲＲにおける加速スリップの発生を判定する。まず、ステップ３５では、検出された第２リヤモータ６１の回転数である第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が、基準回転数ＮＭＲＥＦ以上であるか否かを判別する。

このステップ３５の答えがＮＯで、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が基準回転数ＮＭＲＥＦに達していないときには、右後輪ＷＲＲに加速スリップが発生していないと判定し、右後輪ＷＲＲ用の加速スリップフラグＦ＿ＡＳＬ２を「０」にセットし（ステップ３６）、本処理を終了する。

上記ステップ３５の答えがＹＥＳで、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が基準回転数ＮＭＲＥＦ以上のときには、右後輪ＷＲＲに加速スリップが発生していると判定し、右後輪ＷＲＲ用の加速スリップフラグＦ＿ＡＳＬ２を「１」にセットし（ステップ３７）、本処理を終了する。

一方、前記ステップ３１の答えがＮＯで、リヤモータ４１、６１が制動状態のときには、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が、図８のステップ２６又は２９で算出された基準回転数ＮＭＲＥＦ以下であるか否かを判別する（ステップ３８）。

このステップ３８の答えがＮＯで、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が基準回転数ＮＭＲＥＦに達していないときには、左後輪ＷＲＬに減速スリップ（減速時における所定以上の超過スリップ）が発生していないと判定し、そのことを表すために、左後輪ＷＲＬ用の減速スリップフラグＦ＿ＤＳＬ１を「０」にセットする（ステップ３９）。

一方、上記ステップ３８の答えがＹＥＳで、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が基準回転数ＮＭＲＥＦ以下のときには、左後輪ＷＲＬに減速スリップが発生していると判定し、そのことを表すために、左後輪ＷＲＬ用の減速スリップフラグＦ＿ＤＳＬ１を「１」にセットする（ステップ４０）。

上記ステップ３９又は４０に続くステップ４１〜４３では、上記と同様の手法で、右後輪ＷＲＲにおける減速スリップの発生を判定する。まず、ステップ４１では、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が、基準回転数ＮＭＲＥＦ以下であるか否かを判別する。

このステップ４１の答えがＮＯで、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が基準回転数ＮＭＲＥＦに達していないときには、右後輪ＷＲＲに減速スリップが発生していないと判定し、右後輪ＷＲＲ用の減速スリップフラグＦ＿ＤＳＬ２を「０」にセットし（ステップ４２）、本処理を終了する。

一方、上記ステップ４１の答えがＹＥＳで、第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が基準回転数ＮＭＲＥＦ以下のときには、右後輪ＷＲＲに減速スリップが発生していると判定し、右後輪ＷＲＲ用の減速スリップフラグＦ＿ＤＳＬ２を「１」にセットし（ステップ４３）、本処理を終了する。

次に、図１０を参照しながら、これまでに説明した超過スリップの判定処理によって得られる動作例を説明する。同図は、車速ＶＰが一定の状態で、リヤモータ４１、６１が駆動状態から制動状態に切り替わり、さらに制動状態から駆動状態に切り替わる場合を示す。

同図のｔ１以前では、リヤモータ４１、６１は制動状態であり、目標トルクＴＲＯＢＪは負値に設定されている。このため、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶは「０」にセットされ、基準回転数ＮＭＲＥＦは、通常の制動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢ））に設定されている（図８のステップ２６）。

この制動状態から、リヤモータ４１、６１が駆動状態に切り替わり、目標トルクＴＲＯＢＪの符号が０をまたいで負から正に反転すると（時点ｔ１）、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶが「１」にセットされ（図７のステップ１３）、それに応じて、基準回転数ＮＭＲＥＦは、より大きなトルク反転・駆動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１＋ＫＤＩＮＶ））に変更される（図８のステップ２８）。この状態は、反転期間が経過する（時点ｔ２）まで維持される。

このため、図１０に破線で示すように、この目標トルクＴＲＯＢＪの反転期間内に、例えば第１リヤモータ４１と左後駆動軸ＳＲＬの間に配置された第１遊星歯車装置５１の第１サンギヤ５２、２連ピニオンギヤ５４及び第１リングギヤ５３の噛み合い部分に存在するバックラッシュの詰まりなどに起因して、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が一時的に増加しても、変更されたより大きな基準回転数ＮＭＲＥＦには達しない。その結果、図９のステップ３２の答えが誤ってＹＥＳになることが回避される。

その後、反転期間が経過すると（ｔ２以降）、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶは「０」にリセットされ（図７のステップ１７）、それに応じて、基準回転数ＮＭＲＥＦは、より小さな通常の駆動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１＋ＫＤ））に戻される（図８のステップ２５）。

この駆動状態から、リヤモータ４１、６１が制動状態に切り替わり、目標トルクＴＲＯＢＪの符号が０をまたいで正から負に反転すると（時点ｔ３）、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶが再び「１」にセットされ（図７のステップ１３）、それに応じて、基準回転数ＮＭＲＥＦは、より小さなトルク反転・制動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢＩＮＶ））に変更される（図８のステップ２９）。この状態は、反転期間が経過する（時点ｔ４）まで維持される。

このため、図１０に破線で示すように、この目標トルクＴＲＯＢＪの反転期間内に、例えば第１リヤモータ４１と左後駆動軸ＳＲＬの間に存在するバックラッシュの詰まりなどに起因して、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１が一時的に減少しても、変更されたより小さな基準回転数ＮＭＲＥＦには達しない。その結果、図９のステップ３８の答えが誤ってＹＥＳになることが回避される。

その後、反転期間が経過すると（ｔ４以降）、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶは「０」にリセットされ、それに応じて、基準回転数ＮＭＲＥＦは、より大きな通常の制動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢ））に戻される（図８のステップ２６）。

以上のように、本実施形態によれば、リヤモータ４１、６１が制動状態から駆動状態に切り替わるのに伴い、それらの目標トルクＴＲＯＢＪの符号が負から正に反転したときには、加速スリップを判定するためのしきい値である基準回転数ＮＭＲＥＦを、通常の駆動時よりも大きなトルク反転・駆動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１＋ＫＤＩＮＶ））に変更する。逆に、リヤモータ４１、６１が駆動状態から制動状態に切り替わるのに伴い、目標トルクＴＲＯＢＪの符号が正から負に反転したときには、減速スリップを判定するためのしきい値である基準回転数ＮＭＲＥＦを、通常の制動時よりもより小さなトルク反転・制動時用の値（＝ＮＭＢＡＳＥ・（１−ＫＢＩＮＶ））に変更する。

以上のような基準回転数ＮＭＲＥＦの設定・変更により、リヤモータ４１、６１の駆動／制動状態の切替時に、第１モータ回転数ＮＭＯＴ１及び／又は第２モータ回転数ＮＭＯＴ２が、バックラッシュの詰まりなどに起因して一時的に増加又は減少しても、基準回転数ＮＭＲＥＦに達することがなくなる。その結果、加速スリップ及び減速スリップの誤判定を確実に回避でき、超過スリップの判定精度を向上させることができる。

次に、図１１及び図１２を参照しながら、本発明の第２実施形態にについて説明する。上述した第１実施形態では、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転時に、基準回転数ＴＭＲＥＦを変更するのに対し、第２実施形態は、同じ状況において、スリップ判定を禁止する点が異なる。

図１１及び図１２は、第１実施形態による図８及び図９の処理に代えてそれぞれ実行される基準回転数の算出処理及びスリップ判定処理のサブルーチンを示す。なお、図１１及び図１２では、図８及び図９の処理と同じ実行内容のステップに対して同一の番号が付されている。以下、異なる実行内容の部分を中心として説明を行うものとする。

図１１に示す基準回転数の算出処理では、まずステップ２１及び２２において、図８の処理と同様にして、車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥを算出するとともに、モータ回転数の基本値ＮＭＢＡＳＥを算出する。次に、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが０よりも大きいか否かを判別する（ステップ２４）。

そして、このステップ２４の答えがＹＥＳで、リヤモータ４１、６１が駆動状態のときには、基本値ＮＭＢＡＳＥを用い、前記式（１）によって、駆動時用の基準回転数ＮＭＲＥＦを算出する（ステップ２５）。また、ステップ２４の答えがＮＯで、リヤモータ４１、６１が制動状態のときには、前記式（２）によって、制動時用の基準回転数ＮＭＲＥＦを算出し（ステップ２６）、本処理を終了する。

図１２に示すスリップ判定処理では、まずステップ５１において、トルク反転フラグＦ＿ＩＮＶが「１」であるか否かを判別する。この答えがＹＥＳで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転期間のときには、そのまま本処理を終了する。すなわち、この場合には、基準回転数ＮＭＲＥＦを用いたスリップ判定が禁止され、スリップ判定は行われない。

一方、ステップ５１の答えがＮＯで、目標トルクＴＲＯＢＪの符号の反転期間でないときには、図９の処理とまったく同様、ステップ３１〜４２を実行することによって、目標トルクＴＲＯＢＪの正負に応じ、第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２を基準回転数ＮＭＲＥＦと比較することによって、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲのそれぞれについて、加速スリップ及び減速スリップの発生を判定する。

以上のように、本実施形態によれば、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪの符号が反転したときには、超過スリップの判定が禁止される。これにより、リヤモータ４１、６１の駆動／制動状態の切替時に、バックラッシュの詰まりなどに起因して、第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２が一時的に増加又は減少しても、その影響による誤判定を確実に回避でき、超過スリップの判定精度を向上させることができる。

なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明における車輪速パラメータとして、第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２を用い、基本速度パラメータとして、４つの車輪Ｗの車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲを用いるとともに、それらの平均値である車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥに基づき、モータ回転数に相当する値に換算した基準回転数ＮＭＲＥＦをしきい値とし、第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２を基準回転数ＮＭＲＥＦと比較することによって、超過スリップの判定を行っている。

本発明は、これに限らず、例えば、第１及び第２モータ回転数ＮＭＯＴ１、ＮＭＯＴ２を車輪回転数に相当する値に換算し、この換算値を、本実施形態の車輪回転数の基本値ＮＷＢＡＳＥなどに基づいて算出した、車輪回転数をベースとするしきい値と比較することで、超過スリップの判定を行ってもよい。

あるいは、車輪速パラメータとして、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの車輪回転数ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲを用いるとともに、基本速度パラメータとしての４つの車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲ、ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲに基づいてしきい値を算出し、車輪回転数ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲをこのしきい値と比較することも可能である。また、基本速度パラメータとして、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲの車輪回転数ＮＷＲＬ、ＮＷＲＲを除き、前輪ＷＦＬ、ＷＦＲの車輪回転数ＮＷＦＬ、ＮＷＦＲのみを用いてもよく、あるいは、これらに代えて又はこれらとともに、別個に算出された車両Ｖの速度（車速）を用いてもよい。

また、実施形態の車両Ｖは、左右の後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを左右のリヤモータ４１、６１でそれぞれ制駆動するように構成されているが、本発明は、これに限らず、車輪が電動機で制駆動される限り、適用でき、したがって、後輪ＷＲＬ、ＷＲＲを単一のモータで制駆動する場合にも適用可能である。

あるいは、実施形態とは前後逆の関係で、エンジン及びモータを後輪側に配置し、発電可能なモータを前輪側に配置した場合にも、本発明を適用できる。また、発電可能なモータを配置した以外の車輪を駆動する他の車両駆動装置の構成は任意であり、その駆動源がエンジンのみ又はモータのみで構成される車両でもよく、あるいは、他の車両駆動装置をもたない車両でもよい。前輪及び後輪がそれぞれのモータで制駆動される場合には、前輪及び後輪をそれぞれ対象として、本発明を適用することが可能である。

さらに、実施形態では、電動機の制駆動力を表すパラメータとして、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＬＯＢを用い、その符号の正負の反転時に、リヤモータ４１、６１の駆動／制動状態が切り替わると予測し、基準回転数の変更などを行っている。これに代えて、電動機の制駆動力を表すパラメータとして、他の適当なパラメータ、例えば、リヤモータ４１、６１のトルクを検出し、用いてもよく、その場合には、その符号の正負が反転したときに、リヤモータ４１、６１の駆動／制動状態が実際に切り替わったと判定し、それに応じて基準回転数の変更などを行ってもよい。

また、実施形態では、リヤモータ４１、６１の目標トルクＴＲＯＢＪが互いに同じ値に設定されているが、本発明は、これに限らず、リヤモータ４１、６１の間で異なる制駆動力が設定される場合にも、適用可能である。その場合には、リヤモータごとに、目標トルクなどの制駆動力の符号の反転を判別し、その結果に応じて基準回転数の変更などが行われる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。

２ ＥＣＵ（しきい値設定手段、スリップ判定手段、制駆動力取得手段、しき い値変更手段、判定禁止手段）
４１ 第１リヤモータ（電動機）
６１ 第２リヤモータ（電動機）
１０１ａ〜１０１ｄ
車輪回転数センサ（基本速度パラメータ取得手段）
１０２ａ 第１モータ回転数センサ（車輪速パラメータ取得手段）
１０２ｂ 第２モータ回転数センサ（車輪速パラメータ取得手段）
Ｖ ハイブリッド車両（車両）
ＷＲＬ 左後輪（車輪）
ＷＲＲ 右後輪（車輪）
ＷＦＬ 左前輪（他の車輪）
ＷＦＲ 右前輪（他の車輪）
ＮＭＯＴ１ 第１モータ回転数（車輪速パラメータ）
ＮＭＯＴ２ 第２モータ回転数（車輪速パラメータ）
ＮＷＦＬ 左前輪の車輪回転数（基本速度パラメータ）
ＮＷＦＲ 右前輪の車輪回転数（基本速度パラメータ）
ＮＷＲＬ 左後輪の車輪回転数（基本速度パラメータ）
ＮＷＲＲ 右後輪の車輪回転数（基本速度パラメータ）
ＮＭＲＥＦ 基準回転数（しきい値、第２しきい値）
ＴＲＯＢＪ リヤモータの目標トルク（電動機の制駆動力）

Claims (2)

1. 電動機にバックラッシュが存在する動力伝達系を介して機械的に連結され、該電動機によって駆動又は制動される車輪に、所定以上のスリップである超過スリップが発生しているか否かを判定する車両のスリップ判定装置であって、
   前記車輪及び前記電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータを取得する車輪速パラメータ取得手段と、
   前記車両の速度を表す基本速度パラメータを取得する基本速度パラメータ取得手段と、
   該取得された基本速度パラメータに基づき、前記超過スリップの判定の基準となるしきい値を設定するしきい値設定手段と、
   前記取得された車輪速パラメータが前記設定されたしきい値に達したときに、前記車輪に前記超過スリップが発生したと判定するスリップ判定手段と、
   前記車輪を駆動又は制動する前記電動機の制駆動力を取得する制駆動力取得手段と、
   該取得された電動機の制駆動力の符号が反転するときに、前記しきい値を、該しきい値よりも前記車輪速パラメータが達しにくくなるような制駆動力反転時用の第２しきい値に変更するしきい値変更手段と、
   を備えることを特徴とする車両のスリップ判定装置。
2. 電動機にバックラッシュが存在する動力伝達系を介して機械的に連結され、該電動機によって駆動又は制動される車輪に、所定以上のスリップである超過スリップが発生しているか否かを判定する車両のスリップ判定装置であって、
   前記車輪及び前記電動機の一方の速度を表す車輪速パラメータを取得する車輪速パラメータ取得手段と、
   前記車両の速度を表す基本速度パラメータを取得する基本速度パラメータ取得手段と、
   該取得された基本速度パラメータに基づき、前記超過スリップの判定の基準となるしきい値を設定するしきい値設定手段と、
   前記取得された車輪速パラメータが前記設定されたしきい値に達したときに、前記車輪に前記超過スリップが発生したと判定するスリップ判定手段と、
   前記車輪を駆動又は制動する前記電動機の制駆動力を取得する制駆動力取得手段と、
   該取得された電動機の制駆動力の符号が反転するときに、前記スリップ判定手段による前記超過スリップの判定を禁止する判定禁止手段と、
   を備えることを特徴とする車両のスリップ判定装置。

Images