本発明のキシリレンジイソシアネートの製造方法では、まず、キシリレンジカルバメートを熱分解する(熱分解工程)。
キシリレンジカルバメートは、特に制限されず、公知の方法により製造することができ、具体的には、例えば、キシリレンジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとの反応により製造することができる。
キシリレンジアミンとしては、例えば、1,3−キシリレンジアミン、1,4−キシリレンジアミンなどが挙げられ、これらを単独使用または併用することができる。
N−無置換カルバミン酸エステルは、カルバモイル基における窒素原子が官能基により置換されていない(すなわち、窒素原子が、2つの水素原子と、1つの炭素原子とに結合する)カルバミン酸エステルであって、例えば、下記一般式(1)で示される。
R1O−CO−NH2 (1)
(式中、R1は、アルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
上記式(1)中、R1において、アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、iso−オクチル、2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜8の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、例えば、シクロヘキシル、シクロドデシルなどの炭素数5〜10の脂環式飽和炭化水素基などが挙げられる。
R1において、アルキル基として、好ましくは、炭素数1〜8の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、より好ましくは、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、さらに好ましくは、炭素数2〜6の直鎖状の飽和炭化水素基が挙げられる。
上記式(1)において、R1がアルキル基であるN−無置換カルバミン酸エステルとしては、例えば、カルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、カルバミン酸n−プロピル、カルバミン酸iso−プロピル、カルバミン酸n−ブチル、カルバミン酸iso−ブチル、カルバミン酸sec−ブチル、カルバミン酸tert−ブチル、カルバミン酸ペンチル、カルバミン酸ヘキシル、カルバミン酸ヘプチル、カルバミン酸オクチル、カルバミン酸iso−オクチル、カルバミン酸2−エチルヘキシルなどの飽和炭化水素系N−無置換カルバミン酸エステル、例えば、カルバミン酸シクロヘキシル、カルバミン酸シクロドデシルなどの脂環式飽和炭化水素系N−無置換カルバミン酸エステルなどが挙げられる。
上記式(1)中、R1において、置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなどの炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。また、その置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば、塩素、フッ素、臭素およびヨウ素など)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどの炭素数1〜4のアルコキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオなどの炭素数1〜4のアルキルチオ基など)およびアリールチオ基(例えば、フェニルチオ基など)などが挙げられる。また、置換基がアリール基に複数置換する場合には、各置換基は、互いに同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。
上記式(1)において、R1が置換基を有していてもよいアリール基であるN−無置換カルバミン酸エステルとしては、例えば、カルバミン酸フェニル、カルバミン酸トリル、カルバミン酸キシリル、カルバミン酸ビフェニル、カルバミン酸ナフチル、カルバミン酸アントリル、カルバミン酸フェナントリルなどの芳香族炭化水素系N−無置換カルバミン酸エステルなどが挙げられる。
これらN−無置換カルバミン酸エステルは、単独使用または2種類以上併用することができる。
N−無置換カルバミン酸エステルとして、好ましくは、上記式(1)において、R1がアルキル基であるN−無置換カルバミン酸エステルが挙げられる。
また、カルバメート化反応の原料成分として用いられるN−無置換カルバミン酸エステルには、詳しくは後述するが、好ましくは、カルバメート化反応後に分離された低沸点成分(後述)から、さらに分離して得られるN−無置換カルバミン酸エステルが含まれる。
アルコールは、例えば、1〜3級の1価のアルコールであって、例えば、下記一般式(2)で示される。
R1−OH (2)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を示す。)
上記式(2)中、R1は、上記式(1)のR1と同意義、すなわち、アルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基を示す。
上記式(2)において、R1が上記したアルキル基であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール(1−ブタノール)、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、iso−オクタノール、2−エチルヘキサノールなどの直鎖状または分岐状の飽和炭化水素系アルコール、例えば、シクロヘキサノール、シクロドデカノールなどの脂環式飽和炭化水素系アルコールなどが挙げられる。
また、上記式(2)において、R1が上記した置換基を有していてもよいアリール基であるアルコールとしては、例えば、フェノール、ヒドロキシトルエン、ヒドロキシキシレン、ビフェニルアルコール、ナフタレノール、アントラセノール、フェナントレノールなどが挙げられる。
これらアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
アルコールとして、好ましくは、上記式(2)において、R1がアルキル基であるアルコールが挙げられ、より好ましくは、R1が炭素数1〜8のアルキル基であるアルコールが挙げられ、さらに好ましくは、R1が炭素数2〜6のアルキル基であるアルコールが挙げられる。
さらに、カルバメート化反応の原料成分として用いられるアルコールには、好ましくは、カルバメート化反応においてN−無置換カルバミン酸エステルを原料成分として用いた場合に副生するアルコール(後述)、および、キシリレンジカルバメートの熱分解反応により得られる分解液から分離されるアルコール(後述)が含まれる。
そして、この方法では、上記したキシリレンジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとを配合し、好ましくは、液相で反応させる。
キシリレンジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとの配合割合は、特に制限はなく、比較的広範囲において適宜選択することができる。
通常は、尿素およびN−無置換カルバミン酸エステルの配合量、および、アルコールの配合量が、キシリレンジアミンのアミノ基に対して等モル以上あればよく、そのため、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルや、アルコールそのものを、この反応における反応溶媒として用いることもできる。
なお、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルや、アルコールを反応溶媒として兼用する場合には、必要に応じて過剰量の尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルやアルコールが用いられるが、過剰量が多いと、反応後の分離工程での消費エネルギーが増大するので、工業生産上、不適となる。
そのため、尿素および/または上記したN−無置換カルバミン酸エステルの配合量は、キシリレンジカルバメートの収率を向上させる観点から、キシリレンジアミンのアミノ基1つに対して、0.5〜20倍モル、好ましくは、1〜10倍モル、さらに好ましくは、1〜5倍モル程度であり、アルコールの配合量は、キシリレンジアミンのアミノ基1つに対して、0.5〜100倍モル、好ましくは、1〜20倍モル、さらに好ましくは、1〜10倍モル程度である。
また、この反応において、反応溶媒は必ずしも必要ではないが、例えば、反応原料が固体の場合や反応生成物が析出する場合には、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、脂肪族ハロゲン化炭化水素類、アミド類、ニトロ化合物類や、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどの反応溶媒を配合することにより、操作性を向上させることができる。
また、反応溶媒の配合量は、目的生成物のキシリレンジカルバメートが溶解する程度の量であれば特に制限されるものではないが、工業的には、反応液から反応溶媒を回収する必要があるため、その回収に消費されるエネルギーをできる限り低減し、かつ、配合量が多いと、反応基質濃度が低下して反応速度が遅くなるため、できるだけ少ない方が好ましい。より具体的には、キシリレンジアミン1質量部に対して、通常、0〜500質量部、好ましくは、0〜100質量部の範囲で用いられる。
また、この反応においては、反応温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上であり、例えば、350℃以下、好ましくは、300℃以下の範囲において適宜選択される。反応温度がこれより低いと、反応速度が低下する場合があり、一方、これより高いと、副反応が増大してキシリレンジカルバメートの収率が低下する場合がある。
また、反応圧力は、通常、大気圧であるが、反応液中の成分の沸点が反応温度よりも低い場合には加圧してもよく、さらには、必要により減圧してもよい。
また、反応時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。反応時間がこれより短いと、キシリレンジカルバメートの収率が低下する場合がある。一方、これより長いと、工業生産上、不適となる。
また、この方法においては、触媒を用いることもできる。
触媒としては、特に制限されないが、例えば、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸鉛、リン酸鉛、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウム−イソブチラート、三塩化アルミニウム、塩化ビスマス(III)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、ビス−(トリフェニル−ホスフィンオキシド)−塩化銅(II)、モリブデン酸銅、酢酸銀、酢酸金、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛アセトニルアセタート、オクタン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、ヘキシル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、ウンデシル酸亜鉛、酸化セリウム(IV)、酢酸ウラニル、チタンテトライソプロパノラート、チタンテトラブタノラート、四塩化チタン、チタンテトラフェノラート、ナフテン酸チタン、塩化バナジウム(III)、バナジウムアセチルアセトナート、塩化クロム(III)、酸化モリブデン(VI)、モリブデンアセチルアセトナート、酸化タングステン(VI)、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、リン酸鉄、シュウ酸鉄、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、酢酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト、ナフテン酸コバルト、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ナフテン酸ニッケルなどが挙げられる。
さらに、触媒としては、例えば、Zn(OSO2CF3)2(別表記:Zn(OTf)2、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛)、Zn(OSO2C2F5)2、Zn(OSO2C3F7)2、Zn(OSO2C4F9)2、Zn(OSO2C6H4CH3)2(p−トルエンスルホン酸亜鉛)、Zn(OSO2C6H5)2、Zn(BF4)2、Zn(PF6)2、Hf(OTf)4(トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム)、Sn(OTf)2、Al(OTf)3、Cu(OTf)2なども挙げられる。
これら触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
また、触媒の配合量は、キシリレンジアミン1モルに対して、例えば、0.000001〜0.1モル、好ましくは、0.00005〜0.05モルである。触媒の配合量がこれより多くても、それ以上の顕著な反応促進効果が見られない反面、配合量の増大によりコストが上昇する場合がある。一方、配合量がこれより少ないと、反応促進効果が得られない場合がある。
なお、触媒の添加方法は、一括添加、連続添加および複数回の断続分割添加のいずれの添加方法でも、反応活性に影響を与えることがなく、特に制限されることはない。
そして、この反応は、上記した条件で、例えば、反応容器内に、キシリレンジアミン、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、アルコール、および、必要により触媒、反応溶媒を仕込み、攪拌あるいは混合すればよい。
これにより、主生成物として、キシリレンジカルバメートが生成する。
また、この反応においては、アンモニアが副生される。
また、この反応において、N−無置換カルバミン酸エステルを配合する場合には、例えば、下記一般式(3)で示されるアルコールが副生される。
R1−OH (3)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を示す。)
また、この反応においては、例えば、下記一般式(4)で示されるN−無置換カルバミン酸エステルが副生される。
R1O−CO−NH2 (4)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を示す。)
また、この反応において、反応型式としては、回分式、連続式いずれの型式も採用することができる。
次いで、この方法では、得られた反応液から、公知の方法により、キシリレンジカルバメートを分離するとともに、例えば、過剰(未反応)の尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステル、過剰(未反応)のアルコール、副生するアルコール(上記式(3))、N−無置換カルバミン酸エステル(上記式(4))などを、低沸点成分(軽沸分)として、分離する。
なお、好ましくは、低沸点成分(軽沸分)から粗分離したアルコール(過剰(未反応)のアルコールおよび副生するアルコール)を、カルバメート化反応の原料成分として用いる。
これにより、低沸点成分(軽沸分)から粗分離したアルコールを、工業的に有効利用することができる。
また、好ましくは、低沸点成分(軽沸分)から粗分離したN−無置換カルバミン酸エステルを、カルバメート化反応の原料成分として用いる。
これにより、低沸点成分(軽沸分)から粗分離したN−無置換カルバミン酸エステルを、工業的に有効利用することができる。
そして、この方法では、上記のようにして得られたキシリレンジカルバメートを熱分解することにより、キシリレンジイソシアネート(1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート)、および、副生物である下記一般式(5)で示されるアルコールを生成させる。
R1−OH (5)
(式中、R1は、上記式(1)のR1と同意義を示す。)
この熱分解は、特に限定されず、例えば、液相法、気相法などの公知の分解法を用いることができる。
気相法では、熱分解により生成するキシリレンジイソシアネートおよびアルコールは、気体状の生成混合物から、分別凝縮によって分離することができる。また、液相法では、熱分解により生成するキシリレンジイソシアネートおよびアルコールは、例えば、蒸留や、担持物質としての溶剤および/または不活性ガスを用いて、分離することができる。
熱分解として、好ましくは、作業性の観点から、液相法が挙げられる。
このような方法において、キシリレンジカルバメートは、好ましくは、不活性溶媒の存在下において、熱分解される。
不活性溶媒は、少なくとも、キシリレンジカルバメートを溶解し、キシリレンジカルバメートおよびキシリレンジイソシアネートに対して不活性であり、かつ、熱分解時に反応しなければ(すなわち、安定であれば)、特に制限されないが、熱分解反応を効率よく実施するには、生成するキシリレンジイソシアネートよりも高沸点であることが好ましい。
このような不活性溶媒としては、圧力条件などに応じて適宜選択されるが、例えば、芳香族系炭化水素類などが挙げられる。
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン(沸点:80℃)、トルエン(沸点:111℃)、o−キシレン(沸点:144℃)、m−キシレン(沸点:139℃)、p−キシレン(沸点:138℃)、エチルベンゼン(沸点:136℃)、イソプロピルベンゼン(沸点:152℃)、ブチルベンゼン(沸点:185℃)、シクロヘキシルベンゼン(沸点:237〜340℃)、テトラリン(沸点:208℃)、クロロベンゼン(沸点:132℃)、o−ジクロロベンゼン(沸点:180℃)、1−メチルナフタレン(沸点:245℃)、2−メチルナフタレン(沸点:241℃)、1−クロロナフタレン(沸点:263℃)、2−クロロナフタレン(沸点:264〜266℃)、トリフェニルメタン(沸点:358〜359℃(754mmHg))、1−フェニルナフタレン(沸点:324〜325℃)、2−フェニルナフタレン(沸点:357〜358℃)、ビフェニル(沸点:255℃)、ジベンジルトルエン(沸点:391℃)などが挙げられる。
また、このような溶媒は、市販品としても入手可能であり、例えば、バーレルプロセス油B−01(芳香族炭化水素類、沸点:176℃)、バーレルプロセス油B−03(芳香族炭化水素類、沸点:280℃)、バーレルプロセス油B−04AB(芳香族炭化水素類、沸点:294℃)、バーレルプロセス油B−05(芳香族炭化水素類、沸点:302℃)、バーレルプロセス油B−27(芳香族炭化水素類、沸点:380℃)、バーレルプロセス油B−28AN(芳香族炭化水素類、沸点:430℃)、バーレルプロセス油B−30(芳香族炭化水素類、沸点:380℃)、バーレルサーム200(芳香族炭化水素類、沸点:382℃)、バーレルサーム300(芳香族炭化水素類、沸点:344℃)、バーレルサーム400(芳香族炭化水素類、沸点:390℃)、バーレルサーム1H(芳香族炭化水素類、沸点:215℃)、バーレルサーム2H(芳香族炭化水素類、沸点:294℃)、バーレルサーム350(芳香族炭化水素類、沸点:302℃)、バーレルサーム470(芳香族炭化水素類、沸点:310℃)、バーレルサームPA(芳香族炭化水素類、沸点:176℃)、バーレルサーム330(芳香族炭化水素類、沸点:257℃)、バーレルサーム430(芳香族炭化水素類、沸点:291℃)、(以上、松村石油社製)、NeoSK−OIL1400(芳香族炭化水素類、沸点:391℃)、NeoSK−OIL1300(芳香族炭化水素類、沸点:291℃)、NeoSK−OIL330(芳香族炭化水素類、沸点:331℃)、NeoSK−OIL170(芳香族炭化水素類、沸点:176℃)、NeoSK−OIL240(芳香族炭化水素類、沸点:244℃)、KSK−OIL260(芳香族炭化水素類、沸点:266℃)、KSK−OIL280(芳香族炭化水素類、沸点:303℃)、(以上、綜研テクニックス社製)などが挙げられる。
また、不活性溶媒としては、さらに、エステル類(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジドデシルなど)、熱媒体として常用される脂肪族系炭化水素類なども挙げられる。
このような不活性溶媒は、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
不活性溶媒の配合量は、キシリレンジカルバメート1質量部に対して0.001〜100質量部、好ましくは、0.01〜80質量部、より好ましくは、0.1〜50質量部の範囲である。
また、熱分解においては、例えば、不活性溶媒をキシリレンジカルバメートに配合し、キシリレンジカルバメートを熱分解した後、その不活性溶媒を分離および回収し、再度、熱分解においてキシリレンジカルバメートに配合することができる。
熱分解反応の反応条件は、適宜設定されるが、熱分解温度が、通常、350℃以下であり、好ましくは、80〜350℃、より好ましくは、100〜300℃である。80℃よりも低いと、実用的な反応速度が得られない場合があり、また、350℃を超えると、キシリレンジイソシアネートの重合など、好ましくない副反応を生じる場合がある。また、熱分解反応時の圧力は、上記の熱分解反応温度に対して、生成するアルコールが気化し得る圧力であることが好ましく、設備面および用役面から実用的には、0.133〜90kPaであることが好ましい。
さらに、この方法では、必要により、触媒を添加することもできる。
触媒は、それらの種類により異なるが、上記反応時、反応後の蒸留分離の前後、キシリレンジカルバメートの分離の前後の、いずれかに添加すればよい。
熱分解に用いられる触媒としては、キシリレンジイソシアネートと水酸基とのウレタン化反応に用いられる、Sn、Sb、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Ti、Pb、Mo、Mnなどから選ばれる1種以上の金属単体またはその酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、リン酸塩、有機金属化合物などの金属化合物が用いられる。これらのうち、この熱分解においては、Fe、Sn、Co、Sb、Mnが副生成物を生じにくくする効果を発現するため、好ましく用いられる。
Snの金属触媒としては、例えば、酸化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、ギ酸スズ、酢酸スズ、シュウ酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、オレイン酸スズ、リン酸スズ、二塩化ジブチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジラウリルオキシジスタノキサンなどが挙げられる。
Fe、Co、Sb、Mnの金属触媒としては、例えば、それらの酢酸塩、安息香酸塩、ナフテン酸塩、アセチルアセトナート塩などが挙げられる。
なお、触媒の配合量は、金属単体またはその化合物として、反応液に対して0.0001〜5質量%の範囲、好ましくは、0.001〜1質量%の範囲である。
また、この熱分解反応では、必要により、安定剤を配合することもできる。
安定剤としては、例えば、o−トルエンスルホン酸アミド、p−トルエンスルホン酸アミドなどが挙げられ、単独使用または2種類以上併用することができる。
なお、安定剤の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
また、この熱分解反応は、キシリレンジカルバメート、触媒および不活性溶媒を一括で仕込む回分反応、また、触媒を含む不活性溶媒中に、減圧下でキシリレンジカルバメートを仕込んでいく連続反応のいずれでも実施することができる。
熱分解におけるキシリレンジカルバメートの転化率は、例えば、70モル%以上、好ましくは、90モル%以上である。なお、キシリレンジイソシアネートの転化率は、後述する実施例に準拠して求めることができる。
一方、上記の熱分解工程では、キシリレンジカルバメートの2つのカルバメート基が熱分解されることによって、キシリレンジイソシアネートが生成するが、その熱分解液には、さらに、例えば、キシリレンモノイソシアネート(キシリレンモノカルバメート)や、キシリレンジカルバメートが含有される場合がある。
そして、これらキシリレンジカルバメート、キシリレンモノイソシアネートなどのカルバメート基を有する化合物に、キシリレンジイソシアネートやキシリレンモノイソシアネートなどのイソシアネート基を有する化合物が反応することにより、アロファネート化、イソシアヌレート化などを惹起し、熱分解残渣(イソシアネート残渣(タール成分))を生じさせる場合がある。
そこで、この方法では、まず、熱分解残渣および不活性溶媒を含む高沸点成分と、上記の熱分解生成物(キシリレンジイソシアネートおよびアルコール)を含む低沸点成分とに分離する。
分離方法としては、特に制限されず、公知の蒸留塔などを用いることができる。
そして、高沸点成分からは、必要に応じて、不活性溶媒が分離され、熱分解残渣が得られる。得られた熱分解残渣は、貯留された後、廃棄される。また、必要により、公知の方法によって再利用することもできる。さらに、分離された不活性溶媒は、再び熱分解に使用することができる。
一方、熱分解生成物は、例えば、蒸留などにより、キシリレンジイソシアネートを含む液体成分と、アルコールとを含む気体成分とに分離された後、得られたキシリレンジイソシアネートが精製される。
しかし、このキシリレンジイソシアネートの精製において、キシリレンジイソシアネート中にアルコールが混在されると、それらキシリレンジイソシアネートとアルコールとの再結合により、キシリレンジカルバメートやキシリレンモノイソシアネートが生じる場合がある。そして、キシリレンジイソシアネートとともに、キシリレンジカルバメートやキシリレンモノイソシアネートが混在すると、上記と同様に、キシリレンジカルバメート、キシリレンモノイソシアネートなどのカルバメート基を有する化合物に、キシリレンジイソシアネートやキシリレンモノイソシアネートなどのイソシアネート基を有する化合物が反応することにより、アロファネート化、イソシアヌレート化などを惹起し、精製残渣(イソシアネート残渣(タール成分))を生じさせる場合がある。
そこで、この方法では、まず、上記の熱分解生成物から、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有するイソシアネート含有成分と、アルコールを主成分として含有し、キシリレンジイソシアネートを副成分として含有するアルコール含有成分とを分離させる(第1分離工程)。
より具体的には、この方法では、例えば、上記の熱分解生成物を、まず、精留塔などにより気化し、キシリレンジイソシアネートおよびアルコールの混合気体を得る。その後、例えば、凝縮器などの分離装置を用いて、混合気体中のキシリレンジイソシアネートを凝縮させ、液体成分として回収する一方、アルコールを気体成分として回収する。このとき、イソシアネート含有成分中にアルコールが混在されないよう、分離条件(温度、圧力など)が適宜設定される。
具体的には、キシリレンジイソシアネートおよびアルコールの混合気体を得るため、精留塔を用いる場合、その塔頂温度は、例えば、70℃以上、好ましくは、90℃以上、より好ましくは、110℃以上であり、例えば、250℃以下、好ましくは、230℃以下、より好ましくは、210℃以下である。また、塔底温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上であり、例えば、350℃以下、好ましくは、300℃以下である。また、塔底の滞留時間は、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。
また、混合気体中のキシリレンジイソシアネートを凝縮させるため、凝縮器を用いる場合、その凝縮液の温度は、例えば、20℃以上、好ましくは、40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下、より好ましくは160℃以下である。
また、これにより、アルコール含有成分中には、キシリレンジイソシアネートが副成分として混入される。
なお、このとき、キシリレンジイソシアネートとアルコールとが再結合し、キシリレンモノイソシアネートを生じるが、得られたキシリレンモノイソシアネートは、キシリレンジイソシアネートとともに、イソシアネート含有成分中に含有される。
イソシアネート含有成分中のキシリレンジイソシアネート(主成分)の含有量は、イソシアネート含有成分の溶媒を除いた総量に対して、例えば、70質量%以上、好ましくは、90質量%以上である。
また、イソシアネート含有成分中のキシリレンジイソシアネートの収率は、原料のキシリレンジカルバメートに対して、例えば、70モル%以上、好ましくは、90モル%以上である。
また、イソシアネート含有成分中のキシリレンモノイソシアネートの収率は、原料のキシリレンジカルバメートに対して、例えば、30モル%以下好ましくは、10モル%以下である。
また、イソシアネート含有成分におけるキシリレンジイソシアネートとキシリレンモノイソシアネートとの含有割合は、それらの総量に対して、キシリレンジイソシアネートが、例えば、80モル%以上、好ましくは、90モル%以上である。また、キシリレンモノイソシアネートが、例えば、20モル%以下好ましくは、10モル%以下である。
そして、第1分離工程において得られたキシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジイソシアネートの混合物(イソシアネート含有成分)は、公知の方法により精製される。精製されたキシリレンジイソシアネートは、公知の貯留槽などに貯留および保存される。一方、キシリレンモノイソシアネートを含有するイソシアネート残渣(精製残渣)が得られる場合には、例えば、貯留された後、廃棄される。また、必要により、公知の方法によって再利用することもできる。
そして、このようにアルコール含有成分中にキシリレンジイソシアネートが含有されるように分離すれば、イソシアネート含有成分中にアルコールが混入されることを抑制することができる。そのため、イソシアネート成分中におけるキシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジカルバメートの含有量を低減することができる。その結果、アロファネート化などの副反応を抑制することができ、イソシアネート残渣の低減を図ることができる。
すなわち、例えば、イソシアネート成分が、キシリレンジイソシアネートとともにアルコールを含有する場合には、そのキシリレンジイソシアネートおよびアルコールの再結合により、キシリレンジカルバメートやキシリレンモノイソシアネート(モノカルバメート)が生じる。そのため、イソシアネート成分中において、キシリレンジイソシアネート、キシリレンジカルバメートおよびキシリレンモノイソシアネート(モノカルバメート)が反応してアロファネート化し、また、得られたアロファネートがイソシアヌレート化してイソシアネート残渣を生じさせる場合がある。
これに対して、イソシアネート含有成分中にアルコールが混入されることが抑制されていれば、イソシアネート成分中におけるキシリレンジカルバメートやキシリレンモノイソシアネートの含有量を低減することができる。そのため、キシリレンジカルバメート、キシリレンモノイソシアネート(モノカルバメート)およびキシリレンジイソシアネートの反応を抑制することができ、その結果、イソシアネート残渣の低減を図ることができる。
一方、上記の第1分離工程においては、アルコール含有成分(気体成分)中には、主成分としてアルコールが含有されるとともに、副成分として、キシリレンジイソシアネートが含有される。
アルコール含有成分中のアルコール(主成分)の含有量は、アルコール含有成分の溶媒を除いた総量に対して、例えば、90質量%以上、好ましくは、95質量%以上であり、通常、99.99質量%以下である。
また、アルコール含有成分中のキシリレンジイソシアネート(副成分)の含有量は、アルコール含有成分の溶媒を除いた総量に対して、例えば、10質量%以下、好ましくは、5質量%以下であり、通常、0.01質量%以上である。
アルコール含有成分におけるアルコールおよびキシリレンジイソシアネートの含有量が上記範囲であれば、とりわけ良好に、イソシアネート含有成分中にアルコールが混入されることを抑制することができる。そのため、イソシアネート成分中におけるキシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジカルバメートの含有量を低減することができる。その結果、アロファネート化などの副反応を抑制することができ、イソシアネート残渣の低減を図ることができる。
このようなアルコール含有成分を冷却し、凝縮させる場合には、アルコール成分中に混在されるキシリレンジイソシアネートとアルコールとが再結合し、キシリレンジカルバメートを生じる。
そこで、この方法では、上記の第1分離工程において得られたアルコール含有成分から、キシリレンジカルバメートとアルコールとを、さらに分離させる(第2分離工程)。
第2分離工程では、例えば、凝縮器などの分離装置によって、上記の第1分離工程により得られたアルコール含有成分中のキシリレンジカルバメートを凝縮させ、液体成分として回収する一方、アルコールを気体成分として回収する。
これにより、第1分離工程において得られたアルコール含有成分から、キシリレンジカルバメートと、アルコールとを分離することができる。
次いで、この方法では、上記の第2分離工程において得られたキシリレンジカルバメートを、上記した熱分解工程に戻し、再度、熱分解させる(戻し工程)。
より具体的には、例えば、第2分離工程において得られたキシリレンジカルバメートを、必要により精製し、熱分解工程にキシリレンジカルバメートを供するための供給ラインに還流し、原料キシリレンジカルバメートに混合して用いる。
このように、第2分離工程において得られたキシリレンジカルバメートを熱分解工程に戻すことにより、キシリレンジカルバメートを効率よく使用することができ、キシリレンジイソシアネートの収率の向上を図ることができる。
また、第2分離工程において得られるアルコールは、分離および回収された後、例えば、キシリレンジカルバメートの製造における原料成分として用いることができる。
そして、このようなキシリレンジイソシアネートの製造方法では、上記したように、キシリレンジカルバメートが熱分解され、得られた熱分解生成物から、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有するイソシアネート含有成分と、アルコールを主成分として含有するアルコール含有成分とが分離される(第1分離)。
このようにアルコール含有成分中にキシリレンジイソシアネートが含有されるように分離すれば、イソシアネート含有成分中にアルコールが混入されることを抑制することができる。そのため、イソシアネート成分中におけるキシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジカルバメートの含有量を低減することができる。その結果、アロファネート化などの副反応を抑制することができ、イソシアネート残渣の低減を図ることができる。
また、このようなキシリレンジイソシアネートの製造方法では、上記したように、アルコール含有成分からキシリレンジカルバメートとアルコールとが分離され(第2分離)、得られたキシリレンジカルバメートが戻され、熱分解に供される。そのため、キシリレンジカルバメートを効率よく使用することができる。
その結果、このようなキシリレンジイソシアネートの製造方法では、キシリレンジイソシアネートの収率の向上を図ることができる。
以下において、上記したキシリレンジイソシアネートの製造方法が工業的に実施されるプラントの一実施形態について、図1を参照して説明する。
図1において、このプラント1は、キシリレンジカルバメートからキシリレンジイソシアネートを製造するキシリレンジイソシアネートの製造装置であって、熱分解装置2と、第1分離装置3と、第2分離装置4と、精製装置5と、溶媒回収装置6とを備えている。
熱分解装置2は、プラント1において、キシリレンジカルバメートをキシリレンジイソシアネートおよびアルコールに熱分解するために設備されている。
この熱分解装置2は、熱分解槽7と、熱分解槽7に接続されるカルバメート供給管8および熱分解生成物輸送管9を備えている。
熱分解槽7は、キシリレンジカルバメートを加熱して、キシリレンジイソシアネートおよびアルコールに熱分解する分解槽であって、温度・圧力制御可能な耐熱耐圧容器からなる。なお、熱分解槽7には、図示しないが、必要により、例えば、熱分解槽7に溶媒を供給する溶媒供給管などが備えられている。
具体的には、熱分解槽7は、下部が撹拌器を備える分解室として形成され、上部が蒸留カラムを備える留出室として形成されており、例えば、留出室の蒸留カラムの下端部が、分解室の上端部に接続されている。
カルバメート供給管8は、例えば、キシリレンジカルバメートおよび不活性溶媒を含む混合液を、熱分解槽7に輸送するためのカルバメート輸送ラインであって、その下流側端部が、熱分解槽7の上下方向途中の側部に接続されている。また、その上流側端部は、図示しないが、例えば、キシリレンジカルバメートを製造するためのカルバメート製造装置(図示せず)などに接続されている。なお、カルバメート製造装置(図示せず)では、例えば、上記したように、キシリレンジアミンと、尿素および/またはN−無置換カルバミン酸エステルと、アルコールとが、不活性溶媒の存在下において反応され、キシリレンジカルバメートが製造される(尿素法)。
熱分解生成物輸送管9は、キシリレンジカルバメートの熱分解により得られる混合物、具体的には、熱分解反応により生成するキシリレンジイソシアネートおよびアルコール、さらには、キシリレンモノイソシアネート、キシリレンジカルバメートなどを含む熱分解生成物を、第1分離装置3(後述)に輸送するための熱分解生成物輸送ラインであって、その下流側端部が、第1分離装置3の第1凝縮器12(後述)の上下方向途中の側部に接続されている。また、その上流側端部は、熱分解槽7の留出室(蒸留カラム)の頂部などに、接続されている。
第1分離装置3は、熱分解装置2において得られた熱分解生成物から、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有するイソシアネート含有成分と、アルコールを主成分として含有し、キシリレンジイソシアネートを副成分として含有するアルコール含有成分とを分離させるために設備されている。
具体的には、第1分離装置3は、第1凝縮器12と、第1凝縮器12に接続される第1凝縮液輸送管13および第1気化成分輸送管14とを備えている。
第1凝縮器12は、熱分解装置2において得られた上記の熱分解生成物を、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有する第1凝縮液(イソシアネート含有成分)と、アルコールを主成分として含有する第1気化成分(アルコール含有成分)とに分離するための分離器であって、温度・圧力制御可能な耐熱耐圧容器からなる。
また、第1凝縮器12には、図示しないが、第1凝縮器12内を減圧するための減圧手段(真空ポンプなど)や、第1凝縮器12内の温度を調節するための温度調節手段(例えば、ヒーターおよびクーラーなど)、第1凝縮器12内の温度を管理するための温度センサなどが備えられている。
このような第1凝縮器12は、熱分解装置2の下流側において、熱分解生成物輸送管9を介して、熱分解装置2に接続されている。
第1凝縮液輸送管13は、第1凝縮器12において得られた第1凝縮液を、精製装置5(後述)に輸送するための第1凝縮液輸送ラインであって、その上流側端部が、第1凝縮器12の底部に接続されている。また、その下流側端部が、精留塔16の上下方向途中の側部に接続されている。
第1気化成分輸送管14は、第1凝縮器12において得られた第1気化成分を、第2分離装置4に輸送するための第1気化成分輸送ラインであって、その上流側端部が、第1凝縮器12の頂部に接続されている。また、その下流側端部が、第2分離装置4の第2凝縮器22(後述)の上下方向途中の側部に接続されている。
第2分離装置4は、第1分離装置3において得られた第1気化成分から、キシリレンジカルバメートとアルコールとを分離させるために設備されている。
具体的には、第2分離装置4は、第2凝縮器22と、第2凝縮器22に接続される戻し装置としての第2凝縮液還流管23、および、第2気化成分取出管24とを備えている。
第2凝縮器22は、第1凝縮器12において得られた第1気化成分を、キシリレンジカルバメートを含む第2凝縮液と、アルコールを含む第2気化成分とに分離するための分離器であって、温度・圧力制御可能な耐熱耐圧容器からなる。
また、第2凝縮器22には、図示しないが、第2凝縮器22内を減圧するための減圧手段(真空ポンプなど)や、第2凝縮器22内の温度を調節するための温度調節手段(例えば、ヒーターおよびクーラーなど)、第2凝縮器22内の温度を管理するための温度センサなどが備えられている。
このような第2凝縮器22は、第1凝縮器12の下流側において、第1気化成分輸送管14を介して、第1凝縮器12に直列に接続されている。
第2凝縮液還流管23は、第2凝縮器22において得られた第2凝縮液(すなわち、キシリレンジカルバメート)を、熱分解装置2に戻すための第2凝縮液還流ラインであって、その上流側端部が、第2凝縮器22の底部に接続されている。また、その下流側端部が、熱分解装置2のカルバメート供給管8の途中部分に接続されている。
第2気化成分取出管24は、第2凝縮器22において得られた第2気化成分を、プラント1から取り出すための第2気化成分取出ラインであって、その上流側端部が、第2凝縮器22の頂部に接続されている。また、その下流側端部が、図示しないが、アルコール凝縮器などに接続されている。
精製装置5は、第1分離装置3において得られた第1凝縮液から、キシリレンジイソシアネートとキシリレンモノイソシアネートとを分離および精製するために、設備されている。
この精製装置5は、精留塔16と、精留塔16に接続されるモノイソシアネート含有残渣排出管17およびジイソシアネート排出管18とを備えている。
精留塔16は、第1分離装置3において得られた第1凝縮液から、キシリレンジイソシアネートとキシリレンモノイソシアネートとを分離および精製するための精製塔であって、公知の蒸留塔からなる。
モノイソシアネート含有残渣排出管17は、精留塔16においてキシリレンジイソシアネートが精製された後に残存する成分、具体的には、キシリレンモノイソシアネートを含有する精製残渣を排出するための精製残渣排出ラインであって、その上流側端部が、精留塔16の底部に接続されている。また、その下流側端部が、図示しないが、精製残渣が貯留される精製残渣貯留槽に接続されている。
ジイソシアネート排出管18は、精留塔16において分離および精製されたキシリレンジイソシアネートを、プラント1から排出させるためのジイソシアネート排出ラインであり、その上流側端部が精留塔16の頂部に接続されている。また、その下流側端部が、図示しないが、イソシアネート貯留タンクなどに接続されている。
溶媒回収装置6は、熱分解装置2において生成したイソシアネート残渣と不活性溶媒との混合液(1次残渣)から、不活性溶媒を分離および回収するために設備されている。
この溶媒回収装置6は、溶媒分離器19と、残渣輸送管20、溶媒還流管21および残渣排出管25とを備えている。
溶媒分離器19は、熱分解装置2において生成したイソシアネート残渣と不活性溶媒との混合液(1次残渣)から、不活性溶媒を分離するための分離器であって、例えば、薄膜蒸発器などの公知の蒸発器などからなる。
溶媒分離器19には、図示しないが、溶媒分離器19内を撹拌するための撹拌手段、溶媒分離器19の温度を調節するための温度調節手段(例えば、ヒーターおよびクーラーなど)、溶媒分離器19内の温度を管理するための温度センサなどが備えられている。
残渣輸送管20は、熱分解装置2において生成したイソシアネート残渣および不活性溶媒の混合液(1次残渣)を、溶媒分離器19に輸送するための残渣輸送ラインであって、その上流側端部が、熱分解槽7の底部に接続されている。また、その下流側端部が、溶媒分離器19の上下方向途中の側部に接続されている。
溶媒還流管21は、溶媒分離器19において分離された不活性溶媒を、熱分解装置2に還流するための溶媒還流ラインであって、その上流側端部が、溶媒分離器19の頂部に接続されている。また、その下流側端部が、熱分解装置2のカルバメート供給管8の途中部分に接続されている。
残渣排出管25は、溶媒分離器19において1次残渣から不活性溶媒が分離された後に残存する成分(2次残渣)を排出するための2次残渣排出ラインであって、その上流側端部が溶媒分離器19の底部に接続されている。また、その下流側端部が、図示しないが、2次残渣が貯留される2次残渣貯留槽に接続されている。
次に、このプラント1によって、キシリレンジイソシアネートを製造する方法について、説明する。
この方法では、まず、キシリレンジカルバメートが、カルバメート供給管8を介して、熱分解装置2の熱分解槽7に圧力輸送される。そして、熱分解装置2が連続運転され、キシリレンジカルバメートが、熱分解槽7において上記条件で加熱および熱分解される。
熱分解条件としては、熱分解槽7における供給原料の滞留時間が、例えば、2時間以上、好ましくは、4時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。また、熱分解温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上であり、例えば、350℃以下、好ましくは、300℃以下である。また、圧力条件が、例えば、0.133kPa以上、90kPa以下である。
これにより、分解液として、キシリレンジイソシアネートおよびアルコールを含む熱分解生成物が得られる。また、これとともに、熱分解残渣が得られる。
熱分解槽7において得られた上記の熱分解生成物は、分解室から留出室に導入され、気体成分として、熱分解生成物輸送管9を介して、第1分離装置3の第1凝縮器12に導入される。
第1凝縮器12では、上記の熱分解生成物が、第1分離条件において、凝縮される。
第1分離条件、すなわち、第1凝縮器12における凝縮条件は、使用されるアルコールの種類や圧力条件などにより適宜設定される。例えば、n−ブタノールを使用する場合、温度条件(第1温度)が、例えば、2.6kPaのとき、50℃を超過、好ましくは、80℃以上である。
また、キシリレンジイソシアネートの収率の向上を図るためには、温度条件(第1温度)を100℃以下とすることが好ましく、一方、キシリレンジイソシアネートの純度の向上を図るためには、温度条件(第1温度)を100℃以上とすることが好ましい。
これにより、上記の熱分解により得られる混合物が、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有する第1凝縮液(イソシアネート含有成分)と、アルコールを主成分として含有し、キシリレンジイソシアネートを副成分として含有する第1気化成分(アルコール含有成分)とに分離される。なお、イソシアネート含有成分には、キシリレンジイソシアネートとアルコールとの再結合により得られるキシリレンモノイソシアネートが含有される。
そして、第1凝縮器12において得られた第1凝縮液は、第1凝縮液輸送管13を介して、精製装置5の精留塔16に輸送され、その精留塔16において、キシリレンジイソシアネートと、キシリレンモノイソシアネートとが、それぞれ、分離および精製される。
精製されたキシリレンジイソシアネートは、ジイソシアネート排出管18を介してプラント1から排出される。そして、図示しないイソシアネート貯留タンクに輸送され、そのイソシアネート貯留タンクにおいて貯留される。
一方、キシリレンジイソシアネートが精製された後に残留するキシリレンモノイソシアネートは、イソシアネート残渣(精製残渣)中に含有される。得られたイソシアネート残渣(精製残渣)は、モノイソシアネート含有残渣排出管17を介して排出され、例えば、貯留された後、廃棄される。また、必要により、公知の方法によって再利用することもできる。
また、第1凝縮器12において得られた第1気化成分は、第1気化成分輸送管14を介して、第2分離装置4の第2凝縮器22に輸送される。
第1凝縮器12では、第1気化成分が、第2分離条件において、凝縮される。
第2分離条件、すなわち、第2凝縮器22における凝縮条件は、使用されるアルコールの種類や圧力条件などにより適宜設定される。
第2凝縮器22では、キシリレンジイソシアネートとアルコールとが再結合することにより、キシリレンジカルバメートが生じ、得られたキシリレンジカルバメートが、凝縮液として得られる。一方、アルコールは、気化成分として脱離される。
これにより、第1気化成分が、キシリレンジカルバメートを含有する第2凝縮液と、アルコールを含有する第2気化成分とに分離される。
そして、第2凝縮器22において得られた第2凝縮液は、第2凝縮液還流管23を介して、カルバメート供給管8の途中部分に輸送され、原料のキシリレンジカルバメートと混合されて、再度、熱分解装置2に供給される。
一方、第2凝縮器22において得られた第2気化成分は、第2気化成分取出管24を介して取り出され、図示しないアルコール凝縮器などに導入された後、第2気化成分中のアルコールが凝縮および回収される。なお、回収されたアルコールは、例えば、キシリレンジカルバメートの製造原料などとして、再利用することができる。
また、このプラント1では、熱分解槽7においてキシリレンジカルバメートを熱分解することにより生成する熱分解残渣および不活性溶媒の混合液(1次残渣)は、残渣輸送管20を介して、溶媒分離器19に輸送される。
溶媒分離器19では、熱分解残渣および不活性溶媒の混合液が、加熱および蒸留され、不活性溶媒が分離される。分離された不活性溶媒は、溶媒還流管21を介して、カルバメート供給管8の途中部分に還流され、原料のキシリレンジカルバメートと混合されて、再度、熱分解装置2に供給される。なお、不活性溶媒を分離する分離条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
一方、1次残渣から不活性溶媒が分離された後に残存する成分(2次残渣)は、残渣排出管25を介して、プラント1から排出され、廃棄、または、貯留および再利用される。
そして、このようなプラント1では、上記したように、熱分解生成物から、キシリレンジイソシアネートを主成分として含有するイソシアネート含有成分と、アルコールを主成分として含有し、キシリレンジイソシアネートを副成分として含有するアルコール含有成分とが分離される(第1分離)。
このようにアルコール含有成分中にキシリレンジイソシアネートが含有されるように分離すれば、イソシアネート含有成分中にアルコールが混入されることを抑制することができる。そのため、イソシアネート成分中におけるキシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジカルバメートの含有量を低減することができる。その結果、アロファネート化などの副反応を抑制することができ、イソシアネート残渣の低減を図ることができる。
また、このようなプラント1では、上記したように、アルコール含有成分からキシリレンジカルバメートとアルコールとが分離され(第2分離)、得られたキシリレンジカルバメートが戻され、熱分解に供される。そのため、キシリレンジカルバメートを効率よく使用することができる。
その結果、このようなプラント1では、キシリレンジイソシアネートの収率の向上を図ることができる。
以上、キシリレンジイソシアネートの製造方法および製造装置について説明したが、このようなプラント1は、必要により、適宜の位置において、脱水工程などの前処理工程を実施するための前処理装置、中間工程、蒸留工程、濾過工程、精製工程および回収工程などの後処理工程を実施するための後処理装置などを備えることができる。
また、上記したプラント1では、熱分解装置2と第1凝縮装置3とを個別に説明したが、例えば、熱分解装置2および第1凝縮装置3、さらには、第2凝縮装置4を一体的に備える公知の精留塔(カラム)などを用いることができ、また、熱分解槽7から排出される熱分解残渣(塔底液)や、第1凝縮装置3における第1凝縮液の一部を、熱分解槽7に還流させることもできる。
また、上記したプラント1では、第2凝縮液還流管23および溶媒還流管21の下流側端部を、カルバメート供給管8の途中部分に接続したが、例えば、熱分解槽7に直接接続することもできる。
次に、参考実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は何ら参考実施例に限定されるものではない。なお、以下に示す参考実施例の数値は、実施形態において記載される対応する数値(すなわち、上限値または下限値)に代替することができる。
参考実施例1
キシリレンジカルバメートと、不活性溶媒としてのジベンジルトルエンとを、質量比1:1の割合で混合し、原料成分を得た。次いで、得られた原料成分には、安定剤としてのp−トルエンスルホン酸アミドを、キシリレンジカルバメートに対して100ppmとなるように添加した。
その後、攪拌装置、および、上部に還流管の付いた精留塔を備えた内容量500mLのガラス製4つ口フラスコに、上記の原料成分を、供給量が120g/hrとなるように連続的に供給し、255℃、3.33kPa(25torr)の条件で5時間滞留させた。これにより、キシリレンジカルバメートを熱分解し、キシリレンジイソシアネートおよびアルコールを含む生成物を得た。なお、生成物中には、キシリレンモノイソシアネートおよびキシリレンジカルバメートが含まれていた。
次いで、上記の熱分解により得られた生成物を、80℃に設定したコンデンサ(凝縮器)に供給し、一部を凝縮させ、凝縮液を得るとともに、残部を気化成分として脱離させた。
上記の熱分解反応において、キシリレンジカルバメートの転化率を、下記式により求めた結果、99モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンジイソシアネートの収率を、下記式により求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、93.7モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンモノイソシアネートの収率を、下記式により求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、3.2モル%であった。
また、気化成分中のキシリレンジカルバメートの収率を、下記式により求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、0.1モル%であった。
・キシリレンジカルバメート転化率=(供給キシリレンジカルバメート量−未反応キシリレンジカルバメート量)÷供給キシリレンジカルバメート量×100
・凝縮液中キシリレンジイソシアネート収率=イソシアネート含有成分中のキシリレンジイソシアネート量÷供給キシリレンジカルバメート量×100
・凝縮液中キシリレンモノイソシアネート収率=イソシアネート含有成分中のキシリレンモノイソシアネート量÷供給キシリレンジカルバメート量×100
・気化成分中のキシリレンジカルバメート収率=アルコール含有成分中のキシリレンジカルバメート量÷供給キシリレンジカルバメート量×100
参考実施例2
コンデンサの設定温度を100℃とした以外は、参考実施例1と同様にして、凝縮液および気化成分を得た。
上記の熱分解反応において、熱分解反応におけるキシリレンジカルバメートの転化率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、99モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンジイソシアネートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、94.3モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンモノイソシアネートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、1.6モル%であった。
また、気化成分中のキシリレンジカルバメートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、1.1モル%であった。
参考比較例1
コンデンサの設定温度を70℃とした以外は、参考実施例1と同様にして、凝縮液および気化成分を得た。
上記の熱分解反応において、熱分解反応におけるキシリレンジカルバメートの転化率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、99モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンジイソシアネートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、92.7モル%であった。
また、凝縮液中のキシリレンモノイソシアネートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、4.3モル%であった。
また、気化成分中のキシリレンジカルバメートの収率を、参考実施例1と同様にして求めた結果、原料のキシリレンジカルバメートに対して、0.0モル%であった。
参考実施例1〜2および参考比較例1における凝縮液中のキシリレンジイソシアネートの収率を、表1に示す。
なお、表中の略号の詳細を下記する。
XDC:キシリレンジカルバメート
XDI:キシリレンジイソシアネート
XMI:キシリレンモノイソシアネート
表1から、キシリレンジカルバメートを熱分解させた後、得られるキシリレンジイソシアネートおよびキシリレンモノイソシアネートを含む凝縮液と、キシリレンジカルバメートおよびアルコールを含む気化成分とを分離させることにより、凝縮液中のキシリレンジイソシアネートの収率が向上することが確認された。
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれる。