<第1実施形態>
(1)エンジンの全体構成
図1および図2は、本発明の第1実施形態にかかるターボ過給機付多気筒エンジンを示している。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの火花点火式多気筒エンジンである。具体的に、当実施形態のエンジンは、列状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路10と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路30と、排気ガスのエネルギーにより駆動されるターボ過給機20とを備えている。
エンジン本体1の各気筒2A〜2Dには、それぞれピストン(図示省略)が往復摺動可能に挿入されており、各ピストンの上方に燃焼室3が区画形成されている。燃焼室3では、後述するインジェクタ9から噴射される燃料と空気との混合気が燃焼し、その燃焼による膨張エネルギーがピストンを往復運動させる。そして、このピストンの往復運動が、図外のクランク機構を介してクランク軸(出力軸)の回転運動に変換される。クランク軸の一端側には、クランク軸の回転速度(つまりエンジン回転速度)を検出するためのエンジン速度センサSN1が設けられている。
エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、吸気通路10から供給される空気を各気筒2A〜2Dの燃焼室に導入するための吸気ポート4と、吸気ポート4を開閉する吸気弁6と、各気筒2A〜2Dの燃焼室で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート5と、排気ポート5を開閉する排気弁7とが設けられている。
吸気弁6および排気弁7は、それぞれ、カムシャフトやカム等を含む動弁機構(図示省略)により、エンジン本体1のクランク軸の回転に連動して開閉駆動される。吸気弁6および排気弁7用の各動弁機構には、それぞれバルブ可変機構16が組み込まれており、これら両バルブ可変機構16により、吸気弁6および排気弁7の双方の開閉タイミングが変更可能とされている。
ここで、バルブ(吸気弁または排気弁)の「開閉タイミングを変更する」とは、バルブの開弁時期と閉弁時期の少なくとも一方を変更することをいう。したがって、バルブ可変機構16は、カムの位相を変化させることでバブルの開弁時期および閉弁時期の両方を同時に変更するタイプであってもよいし、開弁時期を固定したまま閉弁時期を変更する(そのためにバルブのリフト量を変更する)タイプであってもよいし、その逆の(閉弁時期を固定したまま開弁時期を変更する)タイプであってもよい。ただし、当実施形態では、後述するように、吸気弁6および排気弁7の双方が開くオーバーラップ期間を変更する制御が必須であるので、少なくともこのオーバーラップ期間を柔軟に変更し得るように、バルブ可変機構16としては、吸気弁6の開弁時期および排気弁7の閉弁時期を少なくとも変更できるものが採用される。
さらに、本明細書において、バルブ(吸気弁または排気弁)の「開弁時期」とは、バルブのリフト量が1mmまで上昇した時点をいい、バルブの「閉弁時期」とは、バルブのリフト量が1mmまで減少した時点をいう。これは、バルブのリフトカーブのランプ部(バルブの挙動が乱れるのを防ぐために設けられた緩衝区間)を除く趣旨である。
エンジン本体1の上部(シリンダヘッド)には、燃焼室3に向けて燃料(ガソリンを含有する燃料)を噴射するインジェクタ9と、インジェクタ9から噴射された燃料と空気との混合気に火花放電による着火エネルギーを供給する点火プラグ8とが、各気筒2A〜2Dにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。
点火プラグ8は、図外の点火回路からの給電に応じて各気筒2A〜2Dの混合気に対し順に着火エネルギーを供給する。当実施形態のような直列4気筒エンジンでは、第1気筒2A→第3気筒2C→第4気筒2D→第2気筒2Bの順に、180°CAずつずれたタイミングで点火が行われて、この順に排気行程等が実施される(後述する図7も参照)。なお、「°CA」とは、エンジン本体1のクランク軸の回転角(クランク角)を表す。
吸気通路10は、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4と連通する4つの独立吸気通路11と、各独立吸気通路11の上流側(吸気の流れ方向の上流側)に共通に設けられたサージタンク12と、サージタンク12の上流側に設けられた単管状の吸気管13とを有している。
吸気管13には、その内部を通過する吸気の流量(吸気量)を調節するための開閉可能なスロットル弁14と、ターボ過給機20により圧縮された空気を冷却するためのインタークーラ15とが設けられている。また、サージタンク12には、上記吸気量を検出するためのエアフローセンサSN2が設けられており、第4気筒2D用の独立吸気通路11には、その内部を通過する吸気の圧力を検出するための吸気圧センサSN3が設けられている。
排気通路30は、図1〜図3に示すように、各気筒2A〜2Dの排気ポート5と連通する複数の独立排気通路31,32,33と、各独立排気通路31,32,33の下流端部(排気ガスの流れ方向下流側の端部)が集合した排気集合部34と、排気集合部34の下流側に設けられた単管状の排気管35とを有している。
排気管35には、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ36やサイレンサー(図示省略)等が設けられる。また、第4気筒2D用の独立排気通路33には、その内部を通過する排気ガスの圧力(排気圧)を検出するための排気圧センサSN4が設けられている。
上記のように、当実施形態では4つの気筒2A,2B,2C,2Dに対し3つの独立排気通路31,32,33が用意されているが、これは、中央の独立排気通路32が、2番気筒2Bおよび3番気筒2Cに対し共通に使用可能なようにY字状に分岐した形状とされているからである。すなわち、独立排気通路32は、2番気筒2Bおよび3番気筒2Cの各排気ポート5から延びる2つの分岐通路部32a,32bと、各分岐通路部32a,32bが合流することで形成された単一の共通通路部32cとを有している。一方、1番気筒2Aおよび4番気筒2Dの各排気ポート5に接続される独立排気通路31,33については、分岐のない単管状に形成されている。以下では、単管状の独立排気通路31,33を、それぞれ「第1独立排気通路31」および「第3独立排気通路33」といい、二股状に分岐した独立排気通路32を「第2独立排気通路32」ということがある。
ここで、当実施形態のような4サイクル4気筒エンジンでは、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に点火が行われるので、二股状に形成された第2独立排気通路32の上流端部が接続される2番気筒2Bおよび3番気筒2Cは、排気順序(排気行程が実施される順序)が連続しない関係にある。このため、上記のように2番気筒2Bおよび3番気筒2Cに共通の独立排気通路32を接続した場合でも、これら両気筒2B,2Cからの排気ガスが同時に第2独立排気通路32に流れることはない。
単管状に形成された第1、第3独立排気通路31,33は、その間に位置する第2独立排気通路32の共通通路部32cに徐々に近接するように、気筒列方向の中央側を指向して延びている。そして、第1、第3独立排気通路31,33の各下流端部と第2独立排気通路32の下流端部(共通通路部32cの下流端部)とが、所定の角度(比較的浅い角度が望ましい)をもって合流することにより、各独立排気通路31〜33の下流側に上記排気集合部34が形成されている。
図2および図3に示すように、第1、第3独立排気通路31,33の各下流部と、第2独立排気通路32の下流部(共通通路部32c)とは、排気ガスの流れ方向に沿って延びる隔壁37によってそれぞれ2分されている。すなわち、第1、第3独立排気通路31,33の下流部、および第2独立排気通路32の共通通路部32cは、それぞれ、隔壁37によって区画された2つの流路38,39を有している。なお、上述した排気圧センサSN4は、第3独立排気通路33のうち隔壁37の設置部(流路38,39に2分されている部分)よりも上流側に設けられている。
第1〜第3独立排気通路31,32,33内の各隔壁37は、独立排気通路31,32,33の途中部から下流端部(排気集合部34との接続部)までの範囲に亘って設けられている。言い換えると、各独立排気通路31,32,33は、流路38,39に2分された状態のまま(途中でその分割状態が解消されることなく)、排気集合部34に接続されている。
排気通路30には、その第1〜第3独立排気通路31,32,33内を通る排気ガスの流通面積を変更するための排気絞り弁40が設けられている。この排気絞り弁40は、第1〜第3独立排気通路31,32,33の各下流部に備わる上記流路38,39のうちの一方(当実施形態では図3の下側に位置する流路39)を開閉可能に遮断することにより、各独立排気通路31,32,33内の流通面積を変更する。なお、以下では、排気絞り弁40により開閉される流路39を「可変流路39」といい、もう一方の流路38を「常用流路38」という。
排気絞り弁40は、その詳細な図示は省略するが、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39を遮断するように設けられた3つの弁体と、各弁体どうしを連結するシャフトと、シャフトを回転駆動する駆動源(例えば電気モータ)を有している。このような構造の排気絞り弁40は、上記駆動源によるシャフトおよび弁体の回転駆動に伴って、各独立排気通路31,32,33内の可変流路39を同時に開閉することが可能である。
ターボ過給機20は、エンジン本体1から排出される排気ガスのエネルギーにより駆動される過給機であり、排気通路30の排気集合部34の直下流(排気集合部34と排気管35との間)に設けられたタービンハウジング21と、タービンハウジング21内に配設されたタービン22と、吸気管13内に配設されたコンプレッサ23と、これらタービン22およびコンプレッサ23を互いに連結する連結軸24とを有している。エンジンの運転中、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dから排気ガスが排出されると、その排気ガスが排気通路30を通じてターボ過給機20のタービンハウジング21に流入することにより、タービン22が排気ガスのエネルギーを受けて高速で回転する。また、タービン22と連結軸24を介して連結されたコンプレッサ23がタービン22と同じ回転速度で駆動されることにより、吸気管13を通過する吸気が加圧されて、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dへと圧送される。
排気管35には、ターボ過給機20のタービン22をバイパスするためのバイパス通路42が、タービンハウジング21とその下流側の排気管35とを互いに連結するように設けられており、このバイパス通路42の途中部には、ウェストゲート弁43が開閉可能に設けられている。ウェストゲート弁43が開弁されると、排気通路30から排出された排気ガスの少なくとも一部がバイパス通路42を通過するので、タービン22に流入する排気ガスの量が減り、タービン22の駆動力が抑制される。
排気通路30と吸気通路10とは、EGR通路45を介して互いに連結されている。このEGR通路45は、エンジン本体1から排出された排気ガスの一部を吸気系に戻す、いわゆる排気還流(Exhaust Gas Recirculation)を行うための通路である。EGR通路45の一端部は、タービン22より下流側の排気通路30、より具体的にはタービンハウジング21と触媒コンバータ36との間の排気管35に接続され、EGR通路45の他端部は、コンプレッサ23より上流側の吸気通路10(吸気管13)に接続されている。
EGR通路45には、EGRガス(吸気系に戻される排気ガス)を冷却するためのEGRクーラ46と、EGR通路45を通るEGRガスの流量を制御するための開閉可能なEGR弁47とが設けられている。
(2)制御系
次に、図4を用いて、エンジンの制御系について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当するものである。
ECU50には、各種センサからの情報が逐次入力される。具体的に、ECU50は、エンジンの各部に設けられた上記エンジン速度センサSN1、エアフローセンサSN2、吸気圧センサSN3、および排気圧センサSN4と電気的に接続されている。また、当実施形態の車両には、ドライバーにより操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するためのアクセル開度センサSN5が設けられており、ECU50は、このアクセル開度センサSN5とも電気的に接続されている。ECU50は、これらセンサSN1〜SN5からの入力信号に基づいて、エンジン回転速度、吸気量、過給圧(コンプレッサ23下流の吸気の圧力)、排気圧(タービン22上流の排気ガスの圧力)、アクセル開度といった種々の情報を取得する。
ECU50は、上記各センサ(SN1〜SN5等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、点火プラグ8、インジェクタ9、バルブ可変機構16、スロットル弁14、排気絞り弁40、ウェストゲート弁43、およびEGR弁47と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
(3)運転領域に応じた制御
次に、ECU50が行うエンジン制御の具体例について、図5のマップを参照しつつ説明する。
図5において、WOTは、エンジンの全負荷ライン(アクセル全開のときのエンジントルク)を表している。また、全負荷ラインWOT上に存在するポイントICは、いわゆるインターセプトポイントである。このインターセプトポイントICを含むライン、より具体的にはインターセプトポイントICから高速かつ低負荷側に延びるラインL1は、ターボ過給機20のコンプレッサ23による過給圧が予め定められた上限値(エンジンおよびターボ過給機を保護するために設定された上限の圧力)に達するラインである。図5では、このラインL1よりも高速(または高負荷)側の領域を第3領域R3としている。
また、ラインL1と交差するように延びるラインL2は、コンプレッサ23下流の吸気圧である過給圧が、タービン22上流の排気圧と等しくなるラインである。図5では、このラインL2よりも低速(または高負荷)側の領域を第2領域R2としている。さらに、第2領域R2と上述した第3領域R3の除く残余の領域を第1領域R1としている。
第3領域R3は、最も高速かつ高負荷側の運転領域であり、各気筒2A〜2Dから排出される排気ガスの流量が最も多くなる運転領域である。一方、第3領域R3より低速側または低負荷側に位置する第1領域R1および第2領域R2は、第3領域R3に比べれば排気ガスの流量が少ないといえる。当実施形態では、これら第1領域R1および第2領域R2が、本発明にかかる「排気ガスの流量が所定値以下となる運転領域」に相当し、当該領域の中でも高負荷側の第2領域R2が、本発明にかかる「特定過給領域」に相当する。
エンジンの運転中、ECU50は、エンジンが図5の制御マップにおけるどの領域で運転されているかを逐次判断し、その結果に応じて、それぞれ次のような制御を実行する。
(i)第1領域R1
まず、第1領域R1でエンジンが運転されているときの制御について説明する。この第1領域R1では、過給圧が上限値よりも低く、かつ排気圧よりも低くなる。ECU50は、このことを、吸気圧センサSN3および排気圧センサSN4から入力される情報(過給圧および排気圧の実測値)に基づき検知する。そして、次のような制御を実行する。
・EGR弁47を開く。
・排気絞り弁40を開く。
・ウェストゲート弁43を閉じる。
すなわち、第1領域R1では、EGR弁47が開かれて、EGR通路45を通じた排気ガスの還流操作が実行される。すなわち、タービン22を通過することで圧力が低下した排気ガスの一部が、EGRガスとして、コンプレッサ23上流の吸気通路10(吸気管13)に戻される。吸気通路10に戻されたEGRガスは、吸気とともにコンプレッサ23で加圧された後、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dへと導入されることになる。以下では、このようにタービン22通過後の低圧の排気ガスをコンプレッサ23上流の吸気通路10に戻す操作を指して、特に「低圧EGR」ということがある。
また、第1領域R1では、排気絞り弁40が開かれて、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39が開放される。これにより、各独立排気通路31,32,33内では、常用流路38および可変流路39の双方を排気ガスが流通し得るようになり、排気ガスの流通抵抗が低減される。
さらに、第1領域R1では、ウェストゲート弁43が閉じられる。これにより、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、全てターボ過給機20のタービン22に流入する。ただし、第1領域R1の中でも特に低負荷域では、過給を行う必要がないので、例外的にウェストゲート弁43を開いてもよい。
(ii)第2領域R2
第2領域R2では、過給圧が排気圧以上でかつ上限値未満の値になる。ECU50は、このことを、吸気圧センサSN3および排気圧センサSN4から入力される情報(過給圧および排気圧の実測値)に基づき検知する。なお、過給圧が「排気圧以上の値」であるとは、ある気筒(2A〜2Dのいずれか)の排気上死点(排気行程と吸気行程との間の上死点)近傍における特定の時点で、吸気圧センサSN3により検出される吸気の圧力(過給圧)と、排気圧センサSN4により検出される排気ガスの圧力とを比較し、前者の圧力が後者の圧力以上であることをいう。すなわち、第2領域R2では、後述するように、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4から排気ポート5に吸気が吹き抜ける吹き抜け流を排気上死点の前後につくり出したいので、それが可能な状況にあるか否かを、排気上死点の近傍での過給圧と排気圧との比較によって確認する。
上記のようにして、上限値>過給圧≧排気圧であることが確認されると、ECU50は、次のような制御を実行する。
・EGR弁47を開く。
・排気絞り弁40を閉じる(独立排気絞り制御)。
・吸排気弁6,7のオーバーラップ期間を拡大する(バルブオーバーラップ制御)。
・ウェストゲート弁43を閉じる。
すなわち、第2領域R2では、第1領域R1のときと同様にEGR弁47が開かれて、低圧EGR(タービン22通過後の排気ガスをコンプレッサ23上流に戻す操作)が継続される。
さらに、このような低圧EGRに加えて、第2領域R2では、排気絞り弁40を閉弁して可変流路39を遮断する制御、つまり独立排気絞り制御が実行されて、第1〜第3独立排気通路31,32,33内の流通面積が縮小される。これにより、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、各独立排気通路31,32,33内の常用流路38のみを通って、高い流速を保ったままタービンハウジング21へと流入するようになる。
また、第2領域R2では、ウェストゲート弁43が閉じられる。これにより、各気筒2A〜2Dから排出された排気ガスは、全てターボ過給機20のタービン22に流入し、コンプレッサ23による過給が最大限行われる。
さらに、第2領域R2では、吸気弁6および排気弁7の双方が開くオーバーラップ期間を第1領域R1のときよりも拡大すべくバルブ可変機構16を駆動する制御、つまりバルブオーバーラップ制御が実行される。すなわち、このバルブオーバーラップ制御では、図6および図7に示すように、各気筒2A〜2Dの排気上死点の前後にわたる(排気行程の後半から吸気行程の前半にかけた)比較的長い期間OLに亘って吸気弁6および排気弁7の双方が開くように、吸気弁6および排気弁7用の各バルブ可変機構16が駆動される。なお、図7では、排気弁7のリフトカーブをEX、吸気弁6のリフトカーブをINとして表記している。
このように、過給圧が排気圧以上に高まる第2運転領域R2でバルブオーバーラップ制御が実行され、吸排気弁6,7のオーバーラップ期間が拡大されることにより、このオーバーラップ期間の間、燃焼室3を介して吸気ポート4から排気ポート5へと吹き抜ける吸気の流れ、つまり吸気の吹き抜け流が形成される(図2の矢印Wi,We参照)。この吹き抜け流は、燃焼室3に残っている既燃ガス(残留ガス)を排気ポート5へと押し出す、つまり掃気を促進する役割を果たす。
(iii)第3領域R3
第3領域R3では、過給圧が上限値以上になる。ECU50は、このことを、吸気圧センサSN3から入力される情報(過給圧の実測値)に基づき検知する。そして、次のような制御を実行する。
・EGR弁47を閉じる。
・排気絞り弁40を開く。
・ウェストゲート弁43を開く。
第3領域R3は、排気ガスの流量が最も多くなる運転領域であり、過給圧が過大になり易い。そこで、第3領域R3では、ウェストゲート弁43を開く過給圧制御が実行される。ウェストゲート弁43が開かれることで、排気ガスの一部がバイパス通路42を通り、タービン22をバイパスするので、タービン22の駆動に利用される排気ガスの量が減らされ、それによって過給圧が上限値を超えないように(上限値で一定になるように)制御される。
また、第3領域R3では、EGR弁47が閉じられる(つまり低圧EGRが停止される)。これにより、コンプレッサ23の上流側に戻されるEGRガスがなくなるので、コンプレッサ23は新気のみを加圧することになる。
さらに、第3領域R3では、エンジン回転速度が比較的高く排気ガスの流量が多いため、これに対応すべく排気絞り弁40が開かれて、第1〜第3独立排気通路31,32,33内のそれぞれの可変流路39が開放される。これにより、各気筒2A〜2Dからの排気ガスは、各独立排気通路31,32,33内の常用流路38および可変流路39の双方を通ってスムーズに下流側へと排出される。
(4)作用等
以上説明したように、本発明の第1実施形態のエンジンは、タービン22およびコンプレッサ23を含むターボ過給機20と、タービン22より下流側の排気通路30(排気管35)とコンプレッサ23より上流側の吸気通路10(吸気管13)とを連通するEGR通路45と、EGR通路45に設けられた開閉可能なEGR弁47と、各気筒2A〜2Dの吸気弁6および排気弁7の開閉タイミングを変更可能なバルブ可変機構16と、EGR弁47およびバルブ可変機構16を含むエンジンの各部を制御する制御手段としてのECU50を備えている。ECU50は、排気ガスの流量が所定値以下となる運転領域である第1領域R1および第2領域R2でEGR弁47を開く制御を実行し、特に、当該運転領域の中でも高負荷側に位置する第2領域R2(特定過給領域)では、吸気弁6および排気弁7の双方が開くオーバーラップ期間が排気上死点の前後にわたって所定量以上確保されるようにバルブ可変機構16を駆動するバルブオーバーラップ制御を実行する。
このような構成によれば、掃気効果が得られる運転領域を拡大してエンジンの燃費を充分に改善できる等の利点が得られる。
すなわち、本発明の第1実施形態では、排気ガスの流量が所定値以下となる運転領域(第1、第2領域R1,R2)でEGR弁47が開かれ、タービン22を通過した後の排気ガスの一部が、EGRガスとしてコンプレッサ23上流の吸気通路10に戻される。すると、コンプレッサ23には、EGRガスと新気との混合ガスが吸気として流入するので、コンプレッサ23が圧送する吸気の流量が増大する。このことは、コンプレッサ23の圧力比の上昇、つまり過給圧の上昇につながるので、ある程度まで負荷が高くなれば、過給圧を排気圧以上の値にまで上昇させることが可能になる。
そして、上記第1実施形態では、このような条件が得られる高負荷側の運転領域(第2領域R2)で吸排気弁6,7のオーバーラップ期間が拡大されるので、過給圧が排気圧以上に高まっていることとの相乗効果により、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4から排気ポート5へと吸気が吹き抜ける吹き抜け流が充分な強さで生成される(図2の矢印Wi,We参照)。このような吹き抜け流は、各気筒2A〜2D内の残留ガスを取り除く掃気効果を発揮するので、各気筒2A〜2Dでは、高負荷域での運転であるにもかかわらず、ノッキングが起きにくい環境がつくり出される。このことは、点火時期を進角することを可能にするので、相対的に少ない燃料でも充分な出力が得られるようになり、燃費の改善につながる。
図8は、コンプレッサの特性を示す性能曲線を模式化したグラフであり、その縦軸はコンプレッサの圧力比、横軸はコンプレッサの吐出流量である。この図8のグラフにおいて、各ラインSL、RL、CLは、それぞれ、サージライン、回転限界ライン、チョークラインを表しており、これらのラインで囲まれた領域がコンプレッサの運転可能領域である。また、この運転可能領域内に図示された等高線のような曲線群は、コンプレッサの効率が等しい運転ポイントを結んだ等効率線であり、領域の中央側に位置する曲線ほど効率が高くなることを表している。
図8では、ある特定の条件でエンジンを運転したときのコンプレッサ23の運転ポイントの変化を作動ラインYとして表している。この作動ラインY上の折曲点Xiは、過給圧が上限値に達するポイントに対応しており、このよりも流量の高い側では、ウェストゲート弁43を開く過給圧制御が行われるので、コンプレッサ23の圧力比が横ばいとなっている。また、上記折曲点Xiより低流量側の作動ラインY上に設定されたポイントX1は、エンジンが第1領域R1で運転されているときに、仮に、上記第1実施形態で示したような低圧EGR(タービン22通過後の低圧の排気ガスをコンプレッサ23の上流に戻す操作)を実行しなかった場合のコンプレッサ23の運転ポイントを示している。
図8において、低圧EGR非実行のポイントX1の状態から、低圧EGRを開始したとすると、コンプレッサ23上流の吸気通路10内にEGRガスが導入されるので、コンプレッサ23に流入するトータルの吸気量(新気およびEGRガスの各流量の和)が増大し、コンプレッサ23の運転ポイントX1が、高流量側のポイントX2へとスライドする。すると、このような運転ポイントのスライドにより、コンプレッサ23の効率がアップし、より高い圧力比が得られるようになる。しかも、低圧EGRでは、タービン22を通過した後の排気ガスがEGRガスとして取り出される(つまりタービン22に流入する排気ガスの流量は減らない)ので、タービン22の駆動力が落ちることもない。以上のことから、過給圧が上限値に達しない(排気ガスの流量が比較的少ない)条件下においては、低圧EGRを実行した方が、より高い過給圧が得られるということが理解できる。
上記低圧EGRの実行により、少ない排気流量でも高い過給圧が得られるようになれば、全負荷ラインWOTから低負荷側に充分に離れた運転領域であっても、過給圧≧排気圧となる条件がつくり出されるようになる。このことは、吸気の吹き抜け流を形成するためにバルブオーバーラップ期間を拡大する運転領域である図5の第2領域R2がより低負荷側まで拡大することを意味するので、より幅広い運転領域で残留ガスの掃気を図ることが可能になる。なお、図5では、仮に低圧EGRを実行しなかった場合における第2領域R2の仮想の下限ラインを破線で示している。第2領域R2の実際の下限ラインはこの破線のラインよりも下側(低負荷側)に存在していることから、低圧EGRを実行することで、第2領域R2が低負荷側に拡大していることが理解できる。
要するに、上記第1実施形態では、残留ガスの掃気を図ることのできる第2領域R2が低負荷側まで拡大するので、ノッキングが起きにくい環境をより幅広い運転領域でつくり出すことができ、点火時期の進角による燃費改善効果をより幅広い運転領域で得ることができる。
特に、上記第1実施形態では、エンジンの排気通路30が、1つの気筒(2Aまたは2D)の排気ポート5に上流端部が接続された第1、第3独立排気通路31,33と、排気順序が連続しない複数の気筒(2Bおよび2C)の各排気ポート5に上流端部が接続された第2独立排気通路32と、これら各独立排気通路31,32,33の下流端部どうしが1つに集合した排気集合部34と、独立排気通路31,32,33内を通る排気ガスの流通面積を変更するための開閉可能な排気絞り弁40とを有している。そして、ECU50は、第2領域R2での運転時に、上述したバルブオーバーラップ制御(吸排気弁6,7のオーバーラップ期間を拡大する制御)に加えて、排気絞り弁40を閉じて独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる独立排気絞り制御を実行する。このような構成によれば、排気ガスのブローダウン(排気弁7の開弁直後に生じる高圧・高速の排気流れ)に伴い生じるいわゆるエゼクタ効果により、より確実に残留ガスの掃気を図ることができる。なお、エゼクタ効果とは、高速の噴流の周囲に発生する負圧を利用して被駆動流体を吸引する作用のことである。
図6は、ある特定の気筒(ここでは第4気筒2D)のクランク角を横軸にとり、当該特定気筒の独立排気通路(ここでは第3独立排気通路33)を通過する排気ガスの圧力(排気圧センサSN4による測定値)を縦軸にとったグラフである。実線の波形は、上記特定気筒の独立排気通路内の排気圧を表しており、破線の波形は、他の気筒の独立排気通路内の排気圧を表している。このグラフにおいて、横軸のBDC,TDC,BDC‥は、それぞれ上記特定気筒の下死点および上死点を示しており、BDCからTDC、またはTDCからBDCまでの間隔はクランク角にして180°CAである。当実施形態のエンジンは4気筒エンジンであり、気筒2A〜2D間の点火間隔が180°CAであるため、これに合わせて、各気筒2A〜2Dの排気弁7を開いた直後に発生する排気ガスのブローダウンも180°CAごとに発生する。このため、上記特定気筒のBDC,TDC,BDC‥と上記ブローダウンの発生位置とは、概ね一致している。
上記特定気筒が排気上死点(TDC)の近傍にあるとき、この特定気筒の次に排気行程を迎える後続気筒からは、ブローダウンによって高速の排気ガスが噴出される(図2の矢印We0参照)。このブローダウンガスは、排気集合部34に流入したときにその周囲に強い負圧を発生させる。特に、第2領域R2では、独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる独立排気絞り制御が実行されるので、各気筒2A〜2Dから排出されるブローダウンガスの流速がより速められ、より強い負圧が生成される。この強い負圧は、独立排気通路(ここでは第3独立排気通路33)を遡って上記特定気筒の排気ポート5に作用し、排気ポート5の圧力を低い値に維持するので(図6におけるTDC付近の実線波形を参照)、その排気ポート5を通じて排気ガスを吸い出そうとする(エゼクタ効果)。
上記第2領域R2では、このような強いエゼクタ効果が得られる上に、上述したバルブオーバーラップ制御によって吸排気弁6,7のオーバーラップ期間が拡大されているので、各気筒2A〜2Dのオーバーラップ期間中、吸気ポート4の圧力(つまり過給圧)と排気ポート5の圧力との間には、図6に示すような大きな落差ΔH1が生まれる。この圧力差ΔH1は、吸気ポート4から排気ポート5へと吸気が吹き抜ける吹き抜け流(図2の矢印Wi,We参照)を強め、残留ガスの掃気をより一層促進させる。
さらに、上記第2領域R2では、独立排気絞り制御に伴い、ブローダウンによる排気圧のピーク値(ブローダウンピーク)がより高められる。これは、独立排気絞り制御を実行することで、各独立排気通通路31,32,33内の可変流路39が遮断されて排気ガスの流通面積が縮小し、排気ガスが短期間に集中的に流れるようになったからである。これにより、いわゆる動圧過給効果が発揮され、より高い過給圧が得られるようになる。
ここで、1回の排気行程当たりの有効な排気時間(ブローダウン期間)は、排気弁7の開弁直後に現れる排気圧のピーク値(ブローダウンピーク)が高いほど、短くなる。一方で、動圧過給による効果は、ブローダウンピークに対して二次曲線的な特性を有することが知られている。そのため、上記第1実施形態のように独立排気絞り制御によってブローダウンピークを高めた場合には、独立排気絞り制御を実行しなかった場合と比べて、ブローダウン期間の短縮による目減り分を差引いても、タービン22が排気ガスから受け取る平均的な駆動力が増大することになる。上記第1実施形態では、このような動圧過給効果によってターボ過給機20の過給能力をより高めることができるので、負荷の高い第2領域R2で低圧EGRを実行しながらも、高い過給圧により充分な新気量を確保して、エンジントルクを高めることができる。
また、上記第1実施形態では、排気ガスの流量が所定値を超える運転領域である第3領域R3で、EGR弁47が閉じられる(つまり低圧EGRが停止される)。このような構成によれば、排気流量が多くなる高速かつ高負荷側の運転領域で、低圧EGRが停止されて各気筒2A〜2Dへの新気の導入量が増量されるので、要求に見合った充分なエンジントルクを確保することができる。
なお、上記第1実施形態では、2番気筒2Bおよび3番気筒2Cに二股状に分岐した第2独立排気通路32を接続するとともに、1番気筒2Aまたは4番気筒2Dに単管状の第1、第3独立排気通路31,33を接続することにより、4つの気筒2A〜2Dに対し3つの独立排気通路31,32,33を設けるようにしたが、第1、第3独立排気通路31,33と同様の単管状の排気通路を全ての気筒2A〜2Dに接続することにより、気筒2A〜2Dと同数の(4つの)独立排気通路を設けるようにしてもよい。
また、上記第1実施形態では、吸気弁6および排気弁7用の各動弁機構に、開閉タイミングを変更するためのバルブ可変機構16をそれぞれ設けたが、バルブオーバーラップ期間を運転条件に応じて変更できればよく、吸気弁6および排気弁7のいずれか一方の動弁機構にのみバルブ可変機構16を設けてもよい。
また、上記第1実施形態では、第4気筒2Dの独立吸気通路11に吸気圧センサSN3を設けるとともに、同じく第4気筒2Dの独立排気通路33に排気圧センサNS4を設けたが、これら各センサSN3,SN4が設けられる対象は、同一気筒の独立吸気通路および独立排気通路であればよく、例えば、第1〜第3気筒のいずれかの独立吸気通路および独立排気通路に各センサSN3,SN4を設けてもよい。
また、上記第1実施形態では、排気ガスの流量が所定値以下となる運転領域の中でも高負荷側に位置する特定過給領域、より具体的には、過給圧が排気圧以上の値にまで上昇する第2領域R2において、吸排気弁6,7のオーバーラップ期間を拡大する制御(バルブオーバーラップ制御)を実行することにより、吸気の吹き抜け流を生成して残留ガスの掃気を促進し、さらにその上で、掃気効果をより高めるべく、排気絞り弁40を閉方向に駆動して独立排気通路31,32,33内の流通面積を減少させる制御(独立排気絞り制御)を実行するようにした。しかしながら、掃気効果を高めるための方法は上記独立排気絞り制御に限られない。以下では、掃気効果を高めるために採用し得る他の形態を第2、第3実施形態として説明する。
<第2実施形態>
図9および図10は、本発明の第2実施形態を示している。なお、図9に示すエンジンの構成例において、図示が省略されている部分は全て上述した第1実施形態と同一である。このため、以下では、第1実施形態と共通する構成要素については同一の符号を用いて説明を進めることとする。
本図に示されるエンジンは、4つの気筒2A〜2Dを有するエンジン本体1と、各気筒2A〜2Dの排気ポート5から延びる独立した4つの独立排気通路131〜134と、各独立排気通路131〜134から流入する排気ガスのエネルギーにより駆動されるターボ過給機120とを有している。
ターボ過給機120は、各独立排気通路131〜134の下流端部に共通に接続されたタービンハウジング121と、タービンハウジング121に収容されたタービン122と、吸気通路10(より具体的には各気筒2A〜2Dに共通の吸気管13)に設けられたコンプレッサ123と、タービン122とコンプレッサ123とを連結する連結軸124とを有している。
エンジン本体1には、排気弁7の開閉タイミングを変更可能なバルブ可変機構116が設けられている。この第2実施形態のバルブ可変機構116は、図10に示すように、排気弁7の開閉タイミング(リフト特性)を2段階に切り替えるタイプのものである。より具体的に、バルブ可変機構116は、図10のリフトカーブEXが得られるように排気弁7を駆動するカムと、リフトカーブEX’が得られるように排気弁7を駆動するカムとを備えており、これら2種類のカムを切り替えることで、排気弁7の開閉タイミングを2段階に変更する。
リフトカーブEXは、膨張行程と排気行程との間の下死点(膨張下死点)の近傍で開き始め、排気行程と吸気行程との間の上死点(排気上死点)より僅かに遅角側で閉じるようなリフトカーブである。このため、リフトカーブEXのときの排気弁7の開弁期間(開弁開始から閉弁までの期間)は、約190°CAに設定されている。一方、リフトカーブEX’は、膨張下死点よりもかなり進角側から開き始め、排気上死点の近傍で閉じるようなリフトカーブである。このリフトカーブEX’のときの排気弁7の開弁期間は、リフトカーブEXのときよりも長く設定されている。バルブ可変機構116は、上述した2種類のカムを切り替えることにより、リフトカーブEX,EX’のいずれかの態様で排気弁7を駆動する。なお、以下では、開弁期間が短いリフトカーブEXが得られるように排気弁7を駆動するカムを小カム、開弁期間が長いリフトカーブEX’が得られるように排気弁7を駆動するカムを大カムという。
このように、第2実施形態のエンジンには、排気弁7用のバルブ可変機構116は設けられているが、吸気弁6用にはバルブ可変機構は設けられていない。このため、吸気弁6の開閉タイミングは常に同一とされる。吸気弁6のリフトカーブINは、排気上死点よりも進角側で開き始め、吸気下死点(吸気行程と圧縮行程との間の下死点)よりも遅角側で閉じるようなリフトカーブとなっている。
図10に示すように、排気弁7が上記小カムで駆動されているとき(つまりリフトカーブEXのとき)は、排気弁7の開閉タイミングが全体的に遅角側に移動するので、排気上死点の前後にわたって、吸気弁6および排気弁7の双方が開くオーバーラップ期間が比較的長く確保される(図10に示す期間OL)。これに対し、排気弁7が上記大カムで駆動されているとき(つまりリフトカーブEX’のとき)は、排気弁7の開閉タイミングが全体的に進角側に移動し、オーバーラップ期間は短縮される。
図5に示した第1領域R1でエンジンが運転されているとき、ECU50は、排気弁7を上記大カムで駆動するようにバルブ可変機構116を制御し、排気弁7のリフト特性をリフトカーブEX’に設定する。
一方、エンジンの運転ポイントが第2領域R2(特定過給領域)に移行すると、ECU50は、排気弁7を駆動するカムが上記大カムから小カムに切り替わるようにバルブ可変機構16を駆動することにより、排気弁7のリフト特性をリフトカーブEXに切り替える。これにより、吸排気弁6,7のオーバーラップ期間を拡大する制御(バルブオーバーラップ制御)が実現されるとともに、排気弁7の開弁期間が約190°CAに短縮される。また、これに伴い、排気弁7の開弁時期が膨張下死点の近傍にまで遅らされる。
すると、図10に示すように、各気筒2A〜2Dからの排気ガスのブローダウンが下死点を過ぎたあたりからようやく立上ることになるので、各気筒間の排気干渉、つまり、ある気筒が排気上死点の近傍にあるときに当該気筒の排気ポート5の圧力が後続気筒(排気順序が1つ後の気筒)のブローダウンの影響により上昇することが回避される。なお、図10に示す排気圧のグラフは、独立排気通路131〜134の各下流端部が集合した部分における排気圧を示している。
特に、上記第2実施形態では、図9に示したように、各気筒2A〜2Dから延びる独立排気通路131〜134が比較的大きな交差角度をもって1箇所に集合しているので、先の第1実施形態で説明したようなエゼクタ効果が得られない。このため、仮に上記のようなバルブタイミングの変更を行わなかった場合には、必然的に排気干渉が起きることになる。
これに対し、上記第2実施形態のように、排気弁7の開弁時期が遅くなるように排気弁7の開閉タイミングを変更した場合には、排気干渉が有効に回避されるので、各気筒2A〜2Dの排気上死点の前後にわたって、吸気ポート4の圧力(つまり過給圧)と排気ポート5の圧力との間に大きな落差ΔH2が生じるようになる。このような大きな圧力差ΔH2は、吸排気弁6,7のオーバーラップ期間が拡大されることと相俟って、吸気ポート4から排気ポート5へと流れる吸気の吹き抜け流を強める方向に作用するので、残留ガスの掃気効果をより高めることができる。
なお、上記第2実施形態では、第2領域R2において吸排気弁6,7のオーバーラップ期間が拡大されたときの排気弁7の開弁期間(つまりリフトカーブEXが選択されているときの排気弁7の開弁期間)が約190°CAであるものとしたが、第2領域R2での排気弁7の開弁期間は、190°CAに限られない。すなわち、排気弁7は、吸気弁6とのオーバーラップ期間が排気上死点の前後にわたって確保され、かつ、排気弁7の開弁時期が膨張下死点の近傍またはそれ以降になるような態様で開閉されればよく、これを実現するための排気弁7の開弁期間としては、180±10°CAが好適である。
<第3実施形態>
図11および図12は、本発明の第3実施形態を示している。なお、図11に示すエンジンの構成例において、図示が省略されている部分は全て上述した第1実施形態と同一である。このため、以下では、第1実施形態と共通する構成要素については同一の符号を用いて説明を進めることとする。
本図に示されるエンジンは、4つの気筒2A〜2Dを有するエンジン本体1と、各気筒2A〜2Dの排気ポート5から延びる第1独立排気通路231および第2独立排気通路232と、各独立排気通路231,232から流入する排気ガスのエネルギーにより駆動されるターボ過給機220とを有している。
第1独立排気通路231は、排気順序が連続しない1番気筒2Aおよび4番気筒2Dからそれぞれ延びる分岐通路部231a,231bと、各分岐通路部231a,231bが合流することで形成された単一の共通通路部231cとを有している。
第2独立排気通路232は、排気順序が連続しない2番気筒2Bおよび3番気筒2Cからそれぞれ延びる分岐通路部232a,232bと、各分岐通路部232a,232bが合流することで形成された単一の共通通路部232cとを有している。
なお、以下では、第1独立排気通路231が接続される1番気筒2Aおよび4番気筒2Dを、特に「第1の気筒群」といい、第2独立排気通路232が接続される2番気筒2Bおよび3番気筒2Cを、特に「第2の気筒群」ということがある。
ターボ過給機120は、第1、第2独立排気通路231,232のそれぞれの共通通路部231c,232cの下流端部に共通に接続されたタービンハウジング221と、タービンハウジング221に収容されたタービン222と、吸気通路10(より具体的には各気筒2A〜2Dに共通の吸気管13)に設けられたコンプレッサ223と、タービン222とコンプレッサ223とを連結する連結軸224とを有している。
タービンハウジング221は、その内壁面に、タービン222の軸方向と直交する方向に張り出す仕切壁225を有しており、この仕切壁225によって、タービンハウジング221内の空間が第1スクロール室221Aおよび第2スクロール室221Bに分割されている。そして、第1の気筒群2A,2Dから延びる第1独立排気通路231の下流端部(共通通路部231cの下流端部)が第1スクロール室221Aに接続されるとともに、第2の気筒群2B,2Cから延びる第2独立排気通路232の下流端部(共通通路部232cの下流端部)が第2スクロール室221Bに接続されている。
このように、当実施形態のターボ過給機220は、タービンハウジング221の内部を2つのスクロール室221A,221Bに分割したいわゆるツインエントリー式のターボ過給機である。各スクロール室221A,221Bには、排気順序が連続しない気筒(第1の気筒群2A,2Dまたは第2の気筒群2B,2C)からの排気ガスが導入され、排気順序が連続する気筒からの排気ガスは別々のスクロール室に導入されるので、排気干渉が発生しにくい構造となっている。
図12は、上記2つのスクロール室221A,221Bのいずれかの圧力を示している。本図に示すように、ある1つのスクロール室(221Aまたは221B)では、排気順序が連続しない気筒群からの排気ガスのブローダウンにより、360°CAごとに高い圧力ピークが現れる。一方、各ブローダウンピークの間には、別のスクロール室に導入された排気ガスのブローダウンによる影響で、多少の圧力上昇が見られる。これは、2つのスクロール室221A,221Bのいずれか一方に導入された排気ガスのブローダウンが、仕切壁225とタービン222との隙間を通じて他のスクロール室に影響し、当該他のスクロール室の圧力を上昇させているためである。
ただし、上記のような圧力上昇は、仕切壁225が存在しない場合(タービンハウジング221が2分割されていない場合)に比べれば小さいといえる。すなわち、ある気筒が排気上死点の近傍にあるとき、後続気筒(排気順序が1つ後の気筒)のブローダウンによる影響が仕切壁225により低減されるので、各気筒2A〜2Dの吸気ポート4の圧力(つまり過給圧)と排気ポート5の圧力との間には、比較的大きな落差ΔH3が形成されるようになる。
図11に示すように、エンジン本体1には、吸気弁6および排気弁7の双方の開閉タイミングを変更可能なバルブ可変機構216が設けられている。この第2実施形態のバルブ可変機構216は、先の第1実施形態と同様、吸気弁6および排気弁7の双方が開くオーバーラップ期間を変更するためのものであり、吸気弁6の開弁時期および排気弁7の閉弁時期を少なくとも変更可能なものである。
図5に示した第2領域R2(特定過給領域)でエンジンが運転されているとき、ECU50は、吸排気弁6,7のオーバーラップ量が拡大される(低負荷側の第1領域R1のときよりも拡大される)ように各バルブ可変機構216を駆動する。これにより、図12に示すように、各気筒2A〜2Dでは、排気上死点の前後の比較的長い期間OLにわたって吸気弁6および排気弁7の双方が開弁する。このとき、上述したように、吸気ポート4の圧力と排気ポート5の圧力との間には、仕切壁225の作用により大きな落差ΔH3が生じているので、吸気ポート4から排気ポート5へと流れる吸気の吹き抜け流が比較的強く形成され、残留ガスの掃気が促進される。