以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る平型導体用電気コネクタ1(以下「コネクタ1」という)の斜視図であり、(A)は可動部材30が閉位置にある状態、(B)は可動部材30が開位置にある状態を示している。また、図2は、図1のコネクタ1を分解した状態を平型導体Cとともに示した斜視図である。この図2では、端子20については、端子配列範囲の両端に位置する端子20のみが示されており、その他の端子20の図示は省略されている。図3は、平型導体Cの挿入前におけるコネクタ1の端子配列方向に対して直角な面での断面図であり、(A)は、端子20の位置での断面、(B)は可動部材30の係止部36の位置での断面、(C)はシェル40の係合部41Bおよび可動部材30の対応係合部35の位置での断面を示している。
コネクタ1は、回路基板(図示せず)の実装面上に配され、平型導体Cが接続されることにより、上記回路基板と平型導体Cとを電気的に導通させる。ここで、「回路基板」とは、コネクタの端子に接続される回路部が形成された板状の実装部材を意味し、剛性が高い板状の部材だけでなく、剛性が低い柔軟なシート状の部材も含まれる。
また、本実施形態において、「端子配列範囲」とは、複数の端子が所定間隔で連続的に配列された範囲をいう。本実施形態に係るコネクタ1では、図1,2によく見られるように、全ての端子が等間隔に配列されており、一つの端子配列範囲が形成されている。
図2に見られるように、平型導体Cは、前後方向に延びる帯状をなし、前後方向に延びる複数の回路部(図示せず)が幅方向(前後方向に対して直角な方向)に配列され形成されている。該回路部は、平型導体Cの絶縁層内で埋設されて前後方向に延びており、平型導体Cの前端位置まで達している。また、上記回路部は、その前端側部分だけが平型導体Cの下面に露呈しており、後述するコネクタ1の端子20と接触可能となっている。また、平型導体Cは、上記前端側部分の両側縁に切欠部C1が形成されており、該切欠部C1の前方に位置する耳部C2の後端縁は、後述するコネクタ1の可動部材30の係止部36と係止する被係止部C2Aとして機能する。
コネクタ1は、略直方体外形をなす電気絶縁材製のハウジング10と、該ハウジング10の長手方向を端子配列方向として該ハウジング10に配列保持される金属製の複数の端子20と、後述する閉位置と開位置との間で切換移動(回動)可能にハウジング10に支持される電気絶縁材製の可動部材30と、ハウジング10に取り付けられる付設部材としての金具であるシェル40とを備えている。該コネクタ1は、図1にて、平型導体C(図2参照)が後方(図1にて左方)から挿入接続されるようになっている。
コネクタ1の詳細な構成の説明に先立って、まず、コネクタ1に対する平型導体Cの挿入および抜出の動作の概要について説明しておく。コネクタ1への平型導体Cの挿入時においては、コネクタ1の可動部材30は、閉位置(図3(A)〜(C)参照)から若干開位置側へ向けて回動した位置で、平型導体Cの挿入を許容する(図4(A)〜(C)参照)。また、平型導体Cが挿入接続された後においても、コネクタ1の使用状態では、可動部材30は閉位置に維持されており、後述するように、可動部材30の係止部36と平型導体Cの被係止部C2Aとが係止可能に位置することにより、平型導体Cの後方への抜出が阻止される(図5(B)参照)。また、コネクタ1の不使用時となる平型導体Cの抜出時には、図6(A)〜(C)に示されるように、可動部材30が回動して開位置に切り換えられることにより、平型導体Cの被係止部C2Aに対する可動部材30の係止部36の係止状態が解除されて、平型導体Cの後方への抜出が許容される(図6(B)参照)。
コネクタ1の構成の説明に戻る。ハウジング10は、図1,2に見られるように、回路基板(図示せず)の実装面に対して平行な一方向を長手方向として延びており、平型導体Cを受け入れるための受入部11が、後方へ向けて開放された空間として形成されている。該ハウジング10は、上記実装面に対向して平行に延びる底壁12と、該底壁12に対向して上記長手方向、すなわち端子配列方向で端子配列範囲にわたって延びる上壁13と、端子配列方向での底壁12の両端位置で上方に起立する側壁14と、端子配列方向での端子配列範囲を含む範囲にわたって延び底壁12と上壁13の前端同士を連結する前壁15と、端子配列方向での両端寄り位置で底壁12の後端から起立し該端子配列方向で側壁14と前壁15の後端同士を連結する後壁16とを有している。
既述した受入部11は、図1,2に見られるように、底壁12、上壁13および二つの後壁16で囲まれて後方に開口する開口部を有し、前後方向で該開口部から前壁15の後面にまでわたる空間で、平型導体C(図2参照)の前部を受け入れるようになっている(図5(A),(B)をも参照)。
また、ハウジング10には、図1,2に見られるように、複数の端子20をそれぞれ収容して保持するための端子収容部17が端子配列方向で配列形成されている。該端子収容部17は、図3(A)に見られるように、端子配列方向に対して直角に拡がるスリット状をなし、後述する端子20の下腕部21、上腕部22および連結部23を収容する収容溝部17Aと、該端子20の被保持部24を圧入保持する端子保持孔部17Bとを有している。上記収容溝部17Aは、底壁12の上面から没入して前後方向に延びる下溝部17A−1、上壁13の下面から没入して前後方向に延びる上溝部17A−2と、前壁15の後面から没入して上下方向に延びる前溝部17A−3とが互いに連通して、全体として、後方へ向けて開口した略横U字状をなしている。また、端子保持孔部17Bは下溝部17A−1から前方へ延び前壁15の下部を貫通して形成されている。
底壁12は、端子配列方向での端子配列範囲の外側位置で、図3(B)に見られるように、底壁12の前端の下半部が切り欠かれて段部が形成されており、該段部に、シェル40の下側被保持部41Cを圧入保持するための下側シェル保持孔部12Aが、前方へ向けて開口する孔部として形成されている。
上壁13は、図2によく見られるように、端子配列方向での全域にわたって該上壁13の後端縁から上方へ起立するフランジ部13Aが形成されており、該フランジ部13Aには、端子配列方向での端子配列範囲の両方の外側位置および端子配列範囲の中央位置の合計三箇所に、シェル40の上側被保持部42Aを圧入保持するための上側シェル保持孔部13Bがフランジ部13Aを前後方向に貫通して形成されている。また、該上壁13の上面には、端子配列方向での各上側シェル保持孔部13Bと同位置で前後方向に延びて該上側シェル保持孔部13Bに連通する案内溝部13Cが没入形成されている。該案内溝部13Cは、ハウジング10へのシェル40の取付けの際に、上側被保持部42Aを上側シェル保持孔部13Bへ向けて案内するようになっている。
側壁14は、図1,2に見られるように、後述するシェル40の側方被保持部44Aを圧入保持するための側方シェル保持突部14Aが、側壁14の外側面(端子配列方向に対して直角な面)の後端寄り位置で端子配列方向外方へ向けて突出して形成されている。また、側壁14は、図2に見られるように、前後方向での側方シェル保持突部14Aと同位置で上方そして端子配列方向内方へ向けて開口する外側支持凹部14Bが形成されている。該外側支持凹部14Bは、可動部材30の後述の回動軸部33を収容し回動可能に支持する。
図2に見られるように、側壁14と前壁15との間には間隙18が形成されており、ハウジング10へシェル40を前方から取り付ける際に、該シェル40の後述の弾性片41Aのハウジング10内への進入を、上記間隙18によって許容している。また、図3(C)に見られるように、後壁16は、可動部材30の後述の回動被支持部34を回動可能に支持する内側支持凹部16Aが、後壁16の上部の前面に没入形成されている。
端子20は、図2によく見られるように、金属板部材の平坦な板面を維持して打ち抜いて作られており、ハウジング10の端子収容部17にそれぞれ収容されることにより、全ての端子20の板面同士が平行をなすようにしてハウジング10に等間隔で配列保持されている。
図3(A)に見られるように、端子20は、ハウジング10の端子収容部17の下溝部17A−1内で前後方向に延びる下腕部21と、上溝部17A−2内で前後方向に延びる上腕部22と、前溝部17A−3内で上下方向に延び下腕部21と上腕部22の前端同士を連結する連結部23と、下腕部21から前端から前方へ突出する被保持部24と、下腕部21の後端から下方そして後方へ延出する接続部25とを有している。
下腕部21は、その下半部が下溝部17A−1の溝底に沿って前後方向で該下溝部17A−1のほぼ全域にわたって直状に延びる基腕部21Aと、該基腕部21Aより上方で下腕部21の前端から後方へ向けて延びる可撓な前方弾性腕部21Bと、該基腕部21Aより上方で下腕部21の後端から前方へ向けて延びる可撓な後方弾性腕部21Cとを有している。
後方へ向けて延びる前方弾性腕部21Bは、前後方向での基腕部21Aの略中央位置まで延びており、上下方向で弾性変位可能となっている。該前方弾性腕部21Bは、その後端(自由端)に上方へ向けて突出する前方接触部21B−1が形成されている。図3(A)に見られるように、前方弾性腕部21Bは、後方へ向かうにつれて上方へ傾斜するように延びており、該前方弾性腕部21Bの自由状態において前方接触部21B−1が下溝部17A−1から突出して受入部11内に位置している。
前方へ向けて延びる後方弾性腕部21Cは、前後方向での基腕部21Aの略中央位置まで、換言すると前方弾性腕部21Bの後端の近傍まで延びており、上下方向で弾性変位可能となっている。図3(A)に見られるように、該後方弾性腕部21Cは、前端側部分が前方へ向かうにつれて上方へ傾斜するように延びており、その前端(自由端)に後方接触部21C−1が形成されている。該後方接触部21C−1は、後方弾性腕部21Cの自由状態において下溝部17A−1から突出しており、受入部11内で前方接触部21B−1とほぼ同じ高さに位置している。
上腕部22は、図3(A)によく見られるように、前後方向で前方接触部21B−1と後方接触部21C−1の両方を含む範囲にわたる部分が、平型導体Cを上方から支持し前方接触部21B−1および後方接触部21C−1へ向けて下方へ押圧するための押圧部22Aとして形成されている(図5(A)参照)。該押圧部22Aは、上腕部22の他部よりも上下方向寸法が大きく形成されており、該押圧部22Aの下部が上溝部17A−2から下方へはみ出して受入部11内に位置している。該押圧部22Aの下縁と両接触部21B−1,21C−1の上端との上下方向での間隔は、平型導体Cの厚み寸法よりも小さくなっている。したがって、後述するように、平型導体Cが受入部11に挿入されると、押圧部22Aが平型導体Cを下方へ押圧することにより両弾性腕部21B,22Cが下方に弾性変位して、平型導体Cの下面の回路部と両接触部21B−1,21C−1とが接圧をもって接触するようになっている。
被保持部24は、上縁から上方へ向けて突出する圧入突部24Aが形成されており、該圧入突部24Aが前壁15の端子保持孔部17Bに圧入されて該端子保持孔部17Bの上側内壁面に喰い込むようになっている。また、接続部25は、下腕部21の後端から下方そして後方へ延びハウジング外に位置している。接続部25は、その下縁がハウジング10の底壁12の下面よりも若干下方に位置しており、回路基板(図示せず)の対応回路部と半田接続されるようになっている。
このような構成の端子20は、ハウジング10の端子収容部17内へ後方から圧入されて該ハウジング10に取り付けられる。端子20の取付けの際には、被保持部24が端子保持孔部17B内に圧入されて、被保持部24の圧入突部24Aが端子保持孔部17Bの上側内壁面に喰い込むとともに、下腕部21の下縁が下溝部17A−1の溝底(下側内壁面)にそして上腕部22の押圧部22Aの上縁が上溝部17A−2の溝底(上側内壁面)に接圧をもって当接することにより、端子20が端子収容部17内で保持される。
可動部材30は、図2に見られるように、端子配列方向を長手方向として延びる板状をなす操作板部31と、端子配列方向での操作板部31の両端に位置し端子配列方向に対して直角な板面をもつ端板部32と、該端板部32の外側面から端子配列方向外方へ突出する回動軸部33と、該端板部32よりも端子配列方向で内側に位置する回動被支持部34、対応係合部35(図3(C)参照)および係止部36とを有している。
操作板部31は、閉位置と開位置との間での可動部材30の回動操作を受ける。開位置にある可動部材30を閉位置へ移動させるとき、操作板部31は、該操作板部31の上面で閉位置へ向けた押圧操作力を受ける。また、閉位置における操作板部31の前端部(図3(A)〜(C)での右端部)は、閉位置にある可動部材を開位置へ回動させる際の操作を受ける解除操作部31Aとして形成されている。図3(A)ないし(C)に見られるように、解除操作部31Aの下面は、前方へ向かうにつれて上方に傾斜しており、該下面とシェル40の上面との間に形成された隙間の存在により、解除操作部31Aに指を引っ掛けて可動部材30を開位置へ回動させ、後述する係止部36と平型導体Cの被係止部C2Aとの係止状態を解除できるようになっている。
回動軸部33は、図2に見られるように、閉位置にある可動部材30の後端側に設けられており、端子配列方向で外方へ突出する円筒状の突起をなしている。該回動軸部33は、ハウジング10の外側支持凹部14B内に収容されてその軸線まわりに回動可能に支持される。なお、本実施形態では、可動部材30はハウジング10によって回動可能に支持されることとしたが、これに代えて、可動部材は端子によって回動可能に支持されてもよい。
回動被支持部34および対応係合部35は、端子配列方向で互いに同位置に形成されており、該端子配列方向で端板部32に隣接した位置で該端板部32の内側面に連結されている。図3(C)に見られるように、該回動被支持部34は、閉位置にある可動部材30の操作板部31の後端部(図3(C)にて左端部)に連結され、下方へ向かうにつれて後方へ徐々に突出している。該回動被支持部34の突出頂部の後縁は回動軸部33と同心で該回動軸部33の周縁と同じ曲率の円弧をなしていて、ハウジング10の内側支持凹部16Aによって回動可動に支持されており、回動軸部33とともに可動部材30の回動軸として機能する。
対応係合部35は、後述するように、シェル40の係合部41Bと係合して該係合部41Bから閉位置または開位置へ向けた付勢力を受けるようになっている。該対応係合部35は、図3(C)に見られるように、回動被支持部34の下部から前方へ延びてから下方そして後方へ延び、端子配列方向に対して直角な面(図3(C)の紙面に対して平行な面)での断面形状が、後方へ開口する略横U字状をなしている。該対応係合部35の上部の前面は、前方へ向かうにつれて下方へ傾斜する第一対応係合面としての上側対応係合面35Aとして形成され、下部の前面は、前方へ向かうにつれて上方へ傾斜する第二対応係合面としての下側対応係合面35Bとして形成されている。
また、対応係合部35の前面で前方へ向けて突出する角部35Cは、上側対応係合面35Aと下側対応係合面35Bとの境界に位置する稜線(端子配列方向に延びる線)を有しており、該稜線は上側対応係合面35Aと下側対応係合面35Bとの交差線をなしている。上側対応係合面35Aおよび下側対応係合面35Bは、後述するように、シェル40の係合部41Bの下側係合面41B−1および上側係合面41B−2とそれぞれ係合するようになっている。
係止部36は、平型導体Cの被係止部C2A(図2参照)に対して平型導体Cの抜出方向(後方)に係止して、該平型導体Cの不用意な抜けを防止する(図5(B)参照)。係止部36は、図2に見られるように、回動被支持部34の内側面に連結されており、図3(B)によく見られるように、閉位置にある可動部材30の操作板部31の下面から下方へ突出して設けられている。図3(B)に見られる係止部36の前面は、上方へ向かうにつれて後方へ若干傾斜しており、平型導体Cの被係止部C2Aに対して係止可能な係止面36Aとして形成されている。また、係止部36の後面は、前方へ向かうにつれて下方へ傾斜する傾斜面をなし平型導体Cの挿入過程にて該平型導体Cを前方へ案内する案内面36Bとして形成されている。なお、係止面36Aが傾斜していることは必須ではなく、例えば、前後方向(図3(B)にて左右方向)に対して直角な平坦面で形成されていてもよい。
シェル40は、金属板部材を板厚方向に屈曲して作られている。該シェル40は、回路基板の実装面に対面する底板部41と、該底板部41に対向する上板部42と、上下方向に延び底板部41および上板部42の前端同士を連結する前板部43と、上板部42の両方の側縁(前後方向に延びる縁部)で下方に向けて屈曲された側板部44と、該側板部44の下縁で端子配列方向での外方へ向けて屈曲された固定部45とを有している。後述するように、底板部41、上板部42および前板部43は、端子配列方向での端子配列範囲を含む範囲で、ハウジング10の底壁12、上壁13および前壁15をそれぞれ下方、上方そして前方から覆って上記端子配列範囲を遮蔽するための覆板部として機能する。
底板部41は、端子配列方向での端子配列範囲の外側位置に、可動部材30の対応係合部35と係合する弾性腕部としての弾性片41Aと、ハウジング10へシェル40の取付けのための下側被保持部41Cとを有している。
弾性片41Aは、図2によく見られるように、端子配列方向で側板部44に寄った位置で、底板部41の一部を上方へ切り起こして形成された帯板状をなしており、その板厚方向に弾性変位可能となっている。図3(C)に見られるように、弾性片41Aは、後方へ向けて延びた帯状片を上方へ向けて屈曲して形成されており、可動部材30の操作板部31の下面近傍まで延びている。また、該弾性片41Aは、後方へ向けて若干傾斜しており、該弾性片41Aの上端側部分に可動部材30の対応係合部35に係合するための係合部41Bが形成されている。該係合部41Bは、該係合部41Bの上下方向での中間位置で前方側へ屈曲されており、後方へ向けて突出した屈曲部41B−3が形成されている。
本実施形態では、屈曲部41B−3の下方に位置する部分の後面は、可動部材30の上側対応係合面35A(第一対応係合面)に係合する第一係合面としての下側係合面41B−1として形成されている(図3(C)参照)。また、屈曲部41B−3の上方に位置する部分の後面は、可動部材30の下側対応係合面35B(第二対応係合面)に係合する第二係合面としての上側係合面41B−2として形成されている(図6(C)をも参照)。下側係合面41B−1は上側対応係合面35Aに係合することにより可動部材30を閉位置へ向けて付勢し(図3(C)参照)、上側係合面41B−2は下側対応係合面35Bに係合することにより可動部材30を開位置へ向けて付勢する(図6(C)参照)。
下側被保持部41Cは、図2に見られるように、弾性片41Aよりも端子配列方向で内側に位置しており、底板部41の前端寄り位置で底板部41の一部を上方へ切り起こして形成された帯板状をなしている。該下側被保持部41Cは、後方へ向けて延びた帯状片を上方そして後方へ向けてクランク状に屈曲して形成されており、後方へ向けて延びる自由端側部分に、下方へ向けて突出する圧入突部41C−1がプレス加工により形成されている。図3(B)に見られるように、下側被保持部41Cはハウジング10の下側シェル保持孔部12Aへ前方から圧入されて該下側シェル保持孔部12Aで保持される。
上板部42は、図2に見られるように、端子配列方向でのハウジング10の各上側シェル保持孔部13Bに対応する位置に、該上側シェル保持孔部13Bで圧入保持される上側被保持部42Aが、上板部42の後端側部分が切り起こされて形成されている。該上側被保持部42Aは、後方へ向けて延びた帯状片を下方そして後方へ向けてクランク状に屈曲して形成されており、後方へ向けて延びる自由端側部分に、下方へ向けて突出する圧入突部がプレス加工により形成されている。該上側被保持部42Aはハウジング10の上側シェル保持孔部13Bへ前方から圧入されて保持される。
側板部44は、図2に見られるように、ハウジング10へシェル40の取付けのための側方被保持部44Aが、側板部44の後半部で後方へ向けて開口した凹部として形成されている。側方被保持部44Aは、その下縁に上方へ向けて突出する圧入突部44A−1が形成されている。側方被保持部44Aは、図1(A),(B)に見られるように、ハウジング10の側方シェル保持突部14Aを後方から受け入れて、圧入突部44A−1が側方シェル保持突部14Aの下面に喰い込むことにより圧入保持される。
また、側板部44は、その上縁で端子配列方向内方へ向けて屈曲され上下方向に対して直角な板面をもつ板部が、ハウジング10からの可動部材30の不用意な抜けを防止するための規制部44Bとして形成されている。規制部44Bは、シェル40がハウジング10に取り付けられた状態で、可動部材30の回動軸部33を収容する外側支持凹部14Bの開口部を上方から閉塞するように位置して、該回動軸部33の上方への移動を規制することにより、ハウジング10からの可動部材30の不用意な抜けを防止するようになっている。
固定部45は、底板部41とほぼ同じ高さに位置しており、回路基板(図示せず)の対応部に半田付けされて固定されるようになっている。固定部45は板厚方向に貫通する固定孔部45Aが形成されており、固定孔部45A内に溶融した半田が流れ込むことにより、上記対応部に固定部45がより確実に固定されるようになっている。
このような構成のコネクタ1は、以下の要領で組み立てられる。まず、ハウジング10の端子収容部17へ端子20を後方から圧入して取り付ける。また、ハウジング10の外側支持凹部14B内に可動部材30の回動軸部33を上方から収容させて、該可動部材30をハウジングに取り付ける。この結果、回動軸部33は外側支持凹部14Bにて回動可能に支持され、また、これと同時に、可動部材30の回動被支持部34もハウジング10の内側支持凹部16Aに回動可能に支持される(図3(C)参照)。上述した端子20の取付工程および可動部材30の取付工程は、どちらが先に行われてもよく、また、同時に行われてもよい。
次に、シェル40の下側被保持部41C、上側被保持部42Aおよび側方被保持部44Aを、ハウジング10の下側シェル保持孔部12A、上側シェル保持孔部13Bおよび側方シェル保持突部14Aにそれぞれ前方から圧入することにより、ハウジング10にシェル40を取り付ける。シェル40がハウジング10に取り付けられる結果、該シェル40の規制部44Bがハウジング10の外側支持凹部14Bの開口部を上方から閉塞するように位置することにより、ハウジング10からの可動部材30の不用意な抜けが防止される。
また、シェル40がハウジング10に取り付けられた状態において、シェル40の底板部41、上板部42および前板部43が、端子配列方向での端子配列範囲を含む範囲で、ハウジング10の底壁12、上壁13および前壁15をそれぞれ下方、上方そして前方から覆うことにより良好なシールド効果が得られる。
次に、コネクタ1と平型導体Cとの接続動作を図3〜5に基づいて説明する。まず、コネクタ1の端子20の接続部25を回路基板の対応回路部に半田接続するとともに、シェル40の固定部45を回路基板の対応部に半田接続して固定する。
次に、可動部材30を閉位置にもたらすとともに(図3(A)〜(C)参照)、コネクタ1の後方に平型導体Cを回路基板(図示せず)の実装面に沿って前後方向に延びるように位置させる。次に、平型導体Cを前方へ向けてコネクタ1の受入部11に挿入する。受入部11への平型導体Cの挿入過程において、該平型導体Cは、端子20の下腕部21と上腕部22との間に進入し、上腕部22の押圧部22Aによって上方から押圧されることにより、まず、図4(A)に見られるように、下腕部21の後方弾性腕部21Cの後方接触部21C−1に、上方から接圧をもって接触し、後方弾性腕部21Cを下方へ向けて弾性変位させる。平型導体Cがさらに挿入されると、該平型導体Cは、前方弾性腕部21Bの前方接触部21B−1に上方から接圧をもって接触し、前方弾性腕部21Bを下方へ向けて弾性変位させる。
また、平型導体Cの両側端寄りに位置する耳部C2の前端が、可動部材30の係止部36の案内面36Bに当接して可動部材30を開位置側へ向けて回動させて、可動部材30を上記平型導体Cの挿入を許容する位置にもたらす。このとき、開位置側へ向けて回動した可動部材30は、図4(B)に見られるように、係止部36の案内面36Bが平型導体Cの耳部C2の上面と接面した時点で回動角度が最大となる。
一方、可動部材30は、図4(C)に見られるように、対応係合部35の角部35Cでシェル40の係合部41Bを押圧して該弾性片41Aを後方へ弾性変位させる。図4(C)に見られるように対応係合部35の角部35Cが係合部41Bの下側係合面41B−1を押圧しているのは、上述したように可動部材30の回動角度が最大となった状態である。したがって、平型導体Cの挿入過程にて、可動部材30がさらに開位置側へ向けて回動して上記角部35Cが係合部41Bの屈曲部41B−3を乗り越えることはない。つまり、係合部41Bの上側係合面41B−2が対応係合部35の下側対応係合面35Bに係合する状態、すなわち可動部材30を開位置へ向けて付勢する状態(図6(C)参照)に切り換わることはない。したがって、平型導体Cの挿入過程においては、下側係合面41B−1が可動部材30を閉位置へ向けて付勢する状態が常に維持される。
平型導体Cがさらに前方へ挿入されると、図5(A)〜(C)に見られるように、該平型導体Cの前端が前壁15の後面に当接して、挿入完了位置にもたらされる。図5(A)に見られるように、平型導体Cの挿入完了状態では、前方弾性腕部21Bおよび後方弾性腕部21Cの弾性変位状態が維持されており、平型導体Cの下面の回路部と前方接触部21B−1と後方接触部21C−1とが接圧をもって接触し電気的に導通した状態が維持され、平型導体Cの接続動作が完了する。
また、平型導体Cが挿入完了位置にもたらされると、図5(B)に見られるように、平型導体Cの耳部C2が係止部36の位置を通過して該係止部36よりも前方にもたらされる。したがって、可動部材30がシェル40の係合部41Bからの付勢力を受けて閉位置へ復帰することにより、係止部36は、図5(B)に見られるように、平型導体Cの切欠部C1内に上方から突入する。この結果、平型導体Cの被係止部C2Aが係止部36の係止面36Aに対して係止可能に位置するので、平型導体Cの後方への抜出が阻止される。
可動部材30が閉位置へ戻されると、図5(C)に見られるように、係合部41Bの下側係合面41B−1が対応係合部35の上側対応係合面35Aに付勢力をもって接面して係合するので、可動部材30は下側係合面41B−1からの付勢力により常に閉位置に維持される。したがって、仮に、コネクタ1と平型導体Cとの接続状態において、平型導体Cに後方へ向けた過大な抜出力が作用することにより、可動部材30が開位置側へ向けて若干もち上がってしまっても、該可動部材30は下側係合面41B−1からの付勢力により閉位置へ押し戻されるので、平型導体Cの不用意に抜けることはない。
次に、コネクタ1からの平型導体Cの抜出動作を図5および図6に基づいて説明する。まず、図5(A)〜(C)に見られるような平型導体Cとの接続状態にて、コネクタ1の可動部材30の解除操作部31Aに指を引っ掛けてもち上げて、上述した係合部41Bからの閉位置へ向けた付勢力に抗して、可動部材30を開位置へ向けて回動させる。このとき、係止部36は、上方へ、すなわち平型導体Cの切欠部C1から脱出する方向へ移動する。
可動部材30が開位置へ向けて回動する過程にて、可動部材30の対応係合部35の角部35Cはシェル40の弾性片41Aを前方へ向けて弾性変位させる。上記角部35Cが係合部41Bの屈曲部41B−3の位置に達するまでの間は、該係合部41Bの下側係合面41B−1が可動部材30を閉位置へ向けて付勢する。そして、さらに可動部材30を回動させて、上記角部35Cが係合部41Bの屈曲部41B−3の位置を乗り越えて、該角部35Cは係合部41Bの上側係合面41B−2の領域に達すると、弾性片41Aが弾性変位量を減ずる方向(後方)に戻るとともに、係合部41Bが上側係合面41B−2で可動部材30を開位置へ向けて付勢する。このようにして可動部材30が開位置に切り換えられると、図6(C)に見られるように、係合部41Bの上側係合面41B−2が対応係合部35の下側対応係合面35Bに付勢力をもって接面して係合する。この結果、上側係合面41B−2からの付勢力により閉位置へ向けた可動部材30の戻り移動が規制され、該可動部材30が開位置に維持される。
また、可動部材30が開位置に切り換えられると、図6(B)に見られるように、係止部36は、平型導体Cの切欠部C1から完全に脱出し、該平型導体Cの被係止部C2Aとの係止状態が解除される。また、このとき、図6(A)に見られるように、平型導体Cの下面の回路部と端子20の両接触部21B−1,21C−1との接圧をもった接触状態は維持されたままである。このように、可動部材30が開位置に維持された状態で、平型導体Cを後方へ向けて引くことにより、該平型導体Cがコネクタ1から難なく抜出され、抜出動作が完了する。
本実施形態では、シェル40の係合部41Bは、該係合部41Bの屈曲部41B−3が可動部材30の対応係合部35の角部35Cに対して上側にあるときには、該係合部41Bの下側係合面41B−1が該対応係合部35の上側対応係合面35Aと係合して可動部材30を閉位置へ向けて付勢し、該係合部41Bの屈曲部41B−3が対応係合部35の角部35Cに対して下側にあるときには、係合部41Bの上側係合面41B−2が該対応係合部35の下側対応係合面35Bと係合して可動部材30を開位置へ向けて付勢する。したがって、平型導体Cを抜出する際に、閉位置にあった可動部材30が一旦、開位置に切り換えられると、該可動部材30が係合部41Bからの付勢力により開位置に維持される。
したがって、従来のように作業者が可動部材を開位置に維持するために該可動部材30を押さえておく必要がなくなるので、本発明では、平型導体Cの抜出過程において、一方の手で可動部材30を開位置にもたらした後、該可動部材30から上記一方の手を放し、該一方の手で平型導体Cを把持して抜出することができる。つまり、可動部材30を開位置に移動させてから平型導体Cを抜出するという一連の作業を片手のみで簡単に行うことができる。また、本実施形態では、両手で抜出作業を行うための十分なスペースがコネクタ1の周囲に確保されていなくても、片手だけで抜出作業を行うことができる。
また、本実施形態では、可動部材30を閉位置または開位置へ付勢するための係合部41Bを金具であるシェル40に形成しているので、係合部41B自体の強度を大きくすることができる。したがって、該係合部41Bが破損しにくくなり、対応係合部35ひいては可動部材30を閉位置あるは開位置へ向けて確実に付勢することができる。なお、係合部の十分な強度を確保できる場合には、該係合部をハウジングの一部で形成してもよい。この場合、例えば、係合部をハウジング10の底壁12から起立する弾性変位可能な弾性片に形成することができる。
本発明では、既述した実施形態に限られず、以下に述べるような種々の変形例で実施することも可能である。
本実施形態では、シェル40に設けられた弾性片41の係合部41Bは、それぞれ可動部材30の切換移動中のみならず切換移動後、すなわち可動部材30が閉位置あるいは開位置に達した後においても、該可動部材30を付勢するが、これに代えて、切換移動中のみ可動部材30を付勢することとしてもよい。具体的には、可動部材30の切換移動後においては弾性片41が自由状態にあり可動部材30を付勢せず、切換移動の過程にて係合部41Bが対応係合部35に押圧されて弾性変位したときのみ、該係合部41Bが可動部材30を付勢して可動部材30が閉位置あるいは開位置にもたらす。そして、このような係合部41Bによる付勢の結果、可動部材30が閉位置あるいは開位置に維持される。
本実施形態では、可動部材30の対応係合部35の上側対応係合面35Aと下側対応係合面35Bとを隔てる境界部分が角部35Cの稜線であることとしたが、これに代えて、該境界部分は、例えば、凸湾曲面や平面等であってもよい。つまり、上側対応係合面と下側対応係合面が上記端子配列方向に延びる線上に交差線をもつような位置関係にあればよい。この場合、係合部は、上記交差線よりも上側にあるときには、上側対応係合面と係合して可動部材を閉位置へ向けて付勢し、上記交差線よりも下側にあるときには、下側対応係合面と係合して可動部材を開位置へ向けて付勢する。
本実施形態では、シェル40に設けられた弾性変位可能な係合部41Bが、可動部材30に設けられ弾性変位しない対応係合部35を付勢することとしたが、これに代えて、弾性変位可能な対応係合部を可動部材に設けるとともに、弾性変位しない係合部をシェルに設けて、該対応係合部が該係合部を付勢するようにしてもよい。この場合、対応係合部が係合部を付勢して該係合部から受ける反力により、可動部材が閉位置または開位置に維持される。また、本実施形態では、係合部および対応係合部は、いずれか一方が弾性変位可能であることとしたが、これに代えて、両方が弾性変位可能となっていてもよい。
本実施形態では、シェル40は、底板部41、上板部42および前板部43を有し、端子20の配列範囲を下方、上方そして前方から覆って遮蔽することとしたが、ある程度のシールド効果が得られれば済むような場合には、端子配列範囲に底板部41、上板部42および前板部43の全てを設けることは必須ではない。また、特にシールド効果が要求されない場合には、端子配列範囲に対応する位置に金具を設けることなく、端子配列方向での端子配列範囲外の位置にハウジング10に金具を取り付け、該金具に係合部を形成することとしてもよい。
本実施形態では、可動部材30の係止部36、対応係合部35およびシェル40の係合部41Bは、端子配列方向でのコネクタ1の両端側に設けられていることとしたが、例えば、端子配列範囲が複数形成されている場合には、コネクタの両端側位置とともにあるいは該両端側位置に代えて、互いに隣接する端子配列範囲同士間の位置に、係止部、対応係合部および係合部を設けることもできる。つまり、係止部、対応係合部および係合部は端子配列範囲外の位置に設けられていればよい。なお、係止部が端子配列範囲同士間の位置に設けられる場合、平型導体の被係止部は、上記係止部と対応する位置で、例えば平型導体の厚み方向に貫通する孔部として形成される。
また、可動部材の係止部と対応係合部は互いに対応して設けられることは必須ではない。したがって、例えば、係止部の数と対応係合部の数が異なっていてもよい。
本実施形態では、可動部材30が閉位置にある状態で平型導体Cを挿入することにより該平型導体Cをコネクタ1に接続することとしたが、これに代えて、可動部材30が開位置にある状態で平型導体Cを挿入してから該可動部材30を閉位置へもたらすことにより、平型導体Cをコネクタ1に接続することも可能である。